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特許7139511ペプチド化合物の製造方法、保護基形成用試薬、及び、縮合多環芳香族炭化水素化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】ペプチド化合物の製造方法、保護基形成用試薬、及び、縮合多環芳香族炭化水素化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/06 20060101AFI20220912BHJP
   C07C 271/22 20060101ALI20220912BHJP
   C07C 269/04 20060101ALI20220912BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
C07K1/06
C07C271/22
C07C269/04
C07C43/23 Z CSP
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021502269
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007477
(87)【国際公開番号】W WO2020175472
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2019035853
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】金子 和平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 基将
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真
(72)【発明者】
【氏名】今村 弥佳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛敬
(72)【発明者】
【氏名】大村 浩文
(72)【発明者】
【氏名】吉光 佑二
(72)【発明者】
【氏名】中川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓太
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】KAUCHER, M. S. et al.,Selective Transport of Water Mediated by Porous Dendritic Dipeptides,Journal of the American Chemical Society,2007年,Vol. 129,P. 11698-11699
【文献】REGISTRY(STN) [online],2020年05月07日,1993年1月27日 [検索日:2020年5月7日] CAS:145543-42-6
【文献】REGISTRY(STN) [online],2020年05月07日,1993年1月27日 [検索日:2020年5月7日] CAS:145543-43-7
【文献】REGISTRY(STN) [online],2020年05月07日,2013年9月18日 [検索日:2020年5月7日] CAS:1452164-35-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K C07C
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物によりアミノ酸化合物又はペプチド化合物のカルボキシ基又はアミド基を保護するC末端保護工程を含む
ペプチド化合物の製造方法。
【化1】

式(1)中、
環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、
はそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、
kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、
はそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、
少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、
環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【請求項2】
前記C末端保護工程におけるアミノ酸化合物又はペプチド化合物が、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物である請求項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記C末端保護工程で得られたN末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護するN末端脱保護工程、及び、
前記N末端脱保護工程で得られたC末端保護アミノ酸化合物又はC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させるペプチド鎖延長工程
を更に含む請求項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ペプチド鎖延長工程で得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿させる沈殿工程を更に含む請求項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記沈殿工程の後に、
得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護する工程、
得られたC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させる工程、及び、
得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿する工程
をこの順で1回以上更に含む請求項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項6】
C末端保護基を脱保護するC末端脱保護工程を更に含む請求項1~請求項のいずれか1項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項7】
前記環Aが、ナフタレン環である請求項1~請求項のいずれか1項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項8】
全てのRが有する全ての脂肪族炭化水素基の合計炭素数が、36~80である請求項1~請求項のいずれか1項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項9】
前記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物が、下記式(10)~式(30)のいずれかで表される化合物である請求項1~請求項のいずれか1項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【化2】

式(10)、式(20)及び式(30)中、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、Rはそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【請求項10】
前記式(10)、式(20)又は式(30)におけるRがそれぞれ独立に、下記式(f1)又は式(a1)で表される基である請求項に記載のペプチド化合物の製造方法。
【化3】

式(f1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m9は1~3の整数を表し、Xはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、Rはそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表し、Arは(m10+1)価の芳香族基、又は、(m10+1)価の複素芳香族基を表し、を表し、m10は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【化4】

式(a1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m20は、1~10の整数を表し、X20はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R20はそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表す。
【請求項11】
前記式(f1)で表される基が、下記式(f2)で表される基である請求項10に記載のペプチド化合物の製造方法。
【化5】

式(f2)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m10は、1~3の整数を表し、m11は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【請求項12】
前記式(a1)におけるナフタレン環と結合するX20が、-O-である請求項10に記載のペプチド化合物の製造方法。
【請求項13】
下記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を含む
保護基形成用試薬。
【化6】

式(1)中、
環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、
はそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、
kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、
はそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、
少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、
全てのR が有する全ての脂肪族炭化水素基の合計炭素数が、36~80であり、
環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【請求項14】
前記保護基形成用試薬が、カルボキシ基又はアミド基の保護基形成用試薬である請求項13に記載の保護基形成用試薬。
【請求項15】
前記保護基形成用試薬が、アミノ酸化合物又はペプチド化合物のC末端保護基形成用試薬である請求項13又は請求項14に記載の保護基形成用試薬。
【請求項16】
下記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【化7】

式(1a)中、
環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、
はそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、
kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、
はそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、
少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、
全てのR が有する全ての脂肪族炭化水素基の合計炭素数が、36~80であり、
環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【請求項17】
前記環Aが、ナフタレン環である請求項16に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【請求項18】
前記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物が、下記式(10a)~式(30a)のいずれかで表される化合物である請求項16又は請求項17に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【化8】

式(10a)、式(20a)及び式(30a)中、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、Rはそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【請求項19】
前記式(10a)、式(20a)又は式(30a)におけるRがそれぞれ独立に、下記式(f1)又は式(a1)で表される基である請求項18に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【化9】

式(f1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m9は1~3の整数を表し、Xはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、Rはそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表し、Arは(m10+1)価の芳香族基、又は、(m10+1)価の複素芳香族基を表し、を表し、m10は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【化10】

式(a1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m20は、1~10の整数を表し、X20はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R20はそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表す。
【請求項20】
前記式(f1)で表される基が、下記式(f2)で表される基である請求項19に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【化11】

式(f2)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m10は、1~3の整数を表し、m11は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【請求項21】
前記式(a1)におけるナフタレン環と結合するX20が、-O-である請求項19に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【請求項22】
下記式(10a)~式(30a)のいずれかで表される化合物である縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【化12】

式(10a)、式(20a)及び式(30a)中、Y はそれぞれ独立に、-CH OH、-CH NHR、-CH SH、又は、-CH を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、X はCl、Br又はIを表し、R はそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのR が有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、R はそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペプチド化合物の製造方法、保護基形成用試薬、及び、縮合多環芳香族炭化水素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドの製造方法としては、これまで概ね固相法と液相法に大別されてきた。
固相法は、反応後の単離及び精製をレジンの洗浄だけで行える点で有利ではある。しかし、固相法は、本質的に不均一相の反応であり、低い反応性を補うために反応試剤又は試薬を過剰量用いる必要があったり、反応の追跡、及び、担体に担持された状態での反応生成物の解析が困難であったりという問題点があった。
一方、液相法は、反応性も良好で、縮合反応の後に抽出洗浄、単離等により中間体ペプチドの精製を行えるという利点を有している。しかし、液相法は、カップリング反応及び脱保護の各工程において、残留試薬及び副生成物を除去するため、非極性有機溶媒、及び、酸性又は塩基性水溶液による抽出洗浄工程、又は、結晶化などの単離精製工程が必要であるなど、製造工程が複雑化する問題があった。
【0003】
また、従来の保護基形成用試薬としては、特許文献1に記載されたアルコキシ置換ベンジルアルコール化合物が知られている。
【0004】
特許文献1:国際公開第2007/034812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、収率に優れるペプチド化合物の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の一実施形態が解決しようとする課題は、収率に優れる保護基形成用試薬を提供することである。
また、本発明の更に他の一実施形態が解決しようとする課題は、新規な縮合多環芳香族炭化水素化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を用いる工程を含むペプチド化合物の製造方法。
【0007】
【化1】
【0008】
式(1)中、環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0009】
<2> 上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を用いる工程が、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物によりアミノ酸化合物又はペプチド化合物のカルボキシ基又はアミド基を保護するC末端保護工程である<1>に記載のペプチド化合物の製造方法。
<3> 上記C末端保護工程におけるアミノ酸化合物又はペプチド化合物が、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物である<2>に記載のペプチド化合物の製造方法。
<4> 上記C末端保護工程で得られたN末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護するN末端脱保護工程、及び、
上記N末端脱保護工程で得られたC末端保護アミノ酸化合物又はC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させるペプチド鎖延長工程
を更に含む<3>に記載のペプチド化合物の製造方法。
<5> 上記ペプチド鎖延長工程で得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿させる沈殿工程を更に含む<4>に記載のペプチド化合物の製造方法。
<6> 上記沈殿工程の後に、
得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護する工程、
得られたC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させる工程、及び、
得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿する工程
をこの順で1回以上更に含む<5>に記載のペプチド化合物の製造方法。
<7> C末端保護基を脱保護するC末端脱保護工程を更に含む<1>~<6>のいずれか1つに記載のペプチド化合物の製造方法。
<8> 上記環Aが、ナフタレン環である<1>~<7>のいずれか1つに記載のペプチド化合物の製造方法。
<9> 全てのRが有する全ての脂肪族炭化水素基の合計炭素数が、36~80である<1>~<8>のいずれか1つに記載のペプチド化合物の製造方法。
<10> 上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物が、下記式(10)~式(30)のいずれかで表される化合物である<1>~<9>のいずれか1つに記載のペプチド化合物の製造方法。
【0010】
【化2】
【0011】
式(10)、式(20)及び式(30)中、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、Rはそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【0012】
<11> 上記式(10)、式(20)又は式(30)におけるRがそれぞれ独立に、下記式(f1)又は式(a1)で表される基である<10>に記載のペプチド化合物の製造方法。
【0013】
【化3】
【0014】
式(f1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m9は1~3の整数を表し、Xはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、Rはそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表し、Arは(m10+1)価の芳香族基、又は、(m10+1)価の複素芳香族基を表し、を表し、m10は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0015】
【化4】
【0016】
式(a1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m20は、1~10の整数を表し、X20はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R20はそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0017】
<12> 上記式(f1)で表される基が、下記式(f2)で表される基である<11>に記載のペプチド化合物の製造方法。
【0018】
【化5】
【0019】
式(f2)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m10は、1~3の整数を表し、m11は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0020】
<13> 上記式(a1)におけるナフタレン環と結合するX20が、-O-である<11>に記載のペプチド化合物の製造方法。
<14> 下記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を含む保護基形成用試薬。
【0021】
【化6】
【0022】
式(1)中、環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0023】
<15> 上記保護基形成用試薬が、カルボキシ基又はアミド基の保護基形成用試薬である<14>に記載の保護基形成用試薬。
<16> 上記保護基形成用試薬が、アミノ酸化合物又はペプチド化合物のC末端保護基形成用試薬である<14>又は<15>に記載の保護基形成用試薬。
<17> 下記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【0024】
【化7】
【0025】
式(1a)中、環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0026】
<18> 上記環Aが、ナフタレン環である<17>に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
<19> 全てのRが有する全ての脂肪族炭化水素基の合計炭素数が、36~80である<17>又は<18>に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
<20> 上記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物が、下記式(10a)~式(30a)のいずれかで表される化合物である<17>~<19>のいずれか1つに記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【0027】
【化8】
【0028】
式(10a)、式(20a)及び式(30a)中、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、Rはそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【0029】
<21> 上記式(10a)、式(20a)又は式(30a)におけるRがそれぞれ独立に、下記式(f1)又は式(a1)で表される基である<20>に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【0030】
【化9】
【0031】
式(f1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m9は1~3の整数を表し、Xはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、Rはそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表し、Arは(m10+1)価の芳香族基、又は、(m10+1)価の複素芳香族基を表し、を表し、m10は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0032】
【化10】
【0033】
式(a1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m20は、1~10の整数を表し、X20はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R20はそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0034】
<22> 上記式(f1)で表される基が、下記式(f2)で表される基である<21>に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【0035】
【化11】
【0036】
式(f2)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m10は、1~3の整数を表し、m11は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0037】
<23> 上記式(a1)におけるナフタレン環と結合するX20が、-O-である<21>に記載の縮合多環芳香族炭化水素化合物。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一実施形態によれば、収率に優れるペプチド化合物の製造方法を提供することができる。
また、本発明の他の一実施形態によれば、収率に優れる保護基形成用試薬を提供することができる。
また、本発明の更に他の一実施形態によれば、新規な縮合多環芳香族炭化水素化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
また、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
また、本明細書における化学構造式は、水素原子を省略した簡略構造式で記載する場合もある。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0040】
(ペプチド化合物の製造方法)
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、下記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物(以下、式(1)で表される化合物ともいう。)を用いる工程を含む。
【0041】
【化12】
【0042】
式(1)中、環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0043】
本開示に係る式(1)で表される化合物は、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であることから、式(1)で保護された化合物は疎水性の溶剤溶解性に優れる。更に、親水性溶剤に対しては、各R中の脂肪族炭化水素基同士が凝集することや、縮合多環芳香族炭化水素環を有することにより、縮合多環芳香族炭化水素環同士によるπ-π相互作用(π-πスタッキング)が生じることにより、晶析性に優れ、精製及び分離性にも優れる。言い換えれば、式(1)で保護された化合物を反応に供する場合、反応溶剤である疎水性溶剤への溶剤溶解性に優れるため、反応が速やかに進行し、かつ、精製時には貧溶媒である極性溶媒を添加することで目的物が効率よく晶析精製されるため、得られる化合物(ペプチド化合物等)の収率に優れると推定している。
上記の効果は少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上でより優れた効果を発揮する。その理由は炭素数が増加することで分子全体に占める疎水性の寄与率が大きくなり、疎水性溶剤に溶解しやすくなり、また、親水性溶媒に対しては、炭素数が増加することで凝集力がより増加し、晶析しやすくなるためと推定している。
また、本開示に係る式(1)で表される化合物は、縮合多環芳香族炭化水素環に結合するYを有することにより、従来のベンジルアルコール型の保護基形成用試薬よりも、脱保護速度に優れる。これはベンジルアルコールよりも縮合多環芳香族炭化水素環の方が電子供与性に優れるためと推定している。本開示に係る式(1)で表される化合物によれば、アミノ酸側鎖の保護基は残したまま、C末端保護基のみを選択的に脱保護すること、すなわち、各アミノ酸の側鎖保護基との切り分けが可能となる。脱保護されたC末端に、長鎖ペプチドのフラグメントを縮合反応させる等の、後続反応にも利用できる。また、強酸に不安定なペプチドの場合は、ペプチド鎖の分解を抑制することができ、収率向上にも繋がる。また、酸での脱保護速度に優れることで、酸に不安定なペプチドの合成に好適である。
【0044】
以下、本開示に係るペプチド化合物の製造方法について、詳細に説明する。
本開示に係るペプチド化合物の製造方法において、式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、保護基の形成だけでなく、ペプチド化合物の変性、水又は有機溶媒等への溶解度の調整、結晶化性の改良、多量体化等に用いることができる。
中でも、式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、保護基の形成に用いることが好ましく、アミノ酸化合物又はペプチド化合物におけるC末端保護基の形成に用いることがより好ましい。
【0045】
<式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物>
本開示に係る式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を、以下に示す。
【0046】
【化13】
【0047】
式(1)中、環A、Y、R、n及びkは、上記と同義である。
【0048】
式(1)における環Aは、2環以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合多環芳香族炭化水素環を表し、また、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
環Aは、脱保護速度、晶析性、及び、収率の観点から、2環~4環の縮合多環芳香族炭化水素環であることが好ましく、2環又は3環の縮合多環芳香族炭化水素環であることがより好ましく、2環の縮合多環芳香族炭化水素環であることが特に好ましい。
中でも、環Aは、脱保護速度、晶析性、及び、収率の観点から、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、テトラセン環、トリフェニレン環、ピレン環、又は、クリセン環であることが好ましく、ナフタレン環、アントラセン環、又は、フェナントレン環であることがより好ましく、ナフタレン環であることが特に好ましい。
また、環Aは、収率の観点から、ベンゼン環が2環縮環した構造(ナフタレン環構造)を少なくとも有する環であることが好ましい。
更に、環Aは、置換基を有していてもよく、後述するように、2以上の置換基が結合して環構造を形成していてもよく、環Aに脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環、複素芳香環等が更に縮環した構造であってもよい。
【0049】
式(1)におけるYはそれぞれ独立に、脱保護速度、溶剤溶解性、及び、収率の観点から、-CHOH、-CHNHR、又は、-CHSHであることが好ましく、-CHOH、又は、-CHNHRであることがより好ましく、-CHOHであることが特に好ましい。また、温和な反応条件とする観点からは、Yは、-CHOH、又は、-CHSHであることが好ましく、-CHOHであることがより好ましい。
また、式(1)において、Yを2つ有する場合、2つのYは同じ基であることが好ましい。
式(1)におけるnは、1であることが好ましい。
Rにおけるアルキル基としては、炭素数(「炭素原子数」ともいう。)1~30のアルキル基が挙げられ、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。好適な具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、メチル基、及び、エチル基がより好ましく挙げられる。
Rにおけるアラルキル基(「アリールアルキル基」ともいう。)としては、炭素数7~30のアラルキル基が挙げられ、炭素数7~20のアラルキル基であることが好ましく、炭素数7~16のアラルキル基(例えば、炭素数6~10のアリール基に炭素数1~6のアルキレン基が結合した基)がより好ましく挙げられる。好適な具体例としては、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、1-ナフチルプロピル基等が挙げられ、ベンジル基がより好ましく挙げられる。
中でも、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は、炭素数7~16のアラルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、又は、ベンジル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
また、式(1)で表される化合物は、環A上に有する上記置換基又はRとして、環A、Y及びRを有する基、又は、環A及びYを有する基を有していてもよい。すなわち、式(1)で表される化合物は、2量体等の多量体であってもよい。多量体としては、合成のし易さの観点から2量体~6量体であることが好ましく、2量体~4量体であることがより好ましく、2量体であることが特に好ましい。
【0050】
式(1)における環A上のRの置換数であるkは、脱保護速度、溶剤溶解性、及び、収率の観点から、1~4の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
【0051】
はそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上である。
「脂肪族炭化水素基」とは、直鎖、分岐状、若しくは環状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数5~60の脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数5~30の脂肪族炭化水素基が更に好ましく、炭素数10~30の脂肪族炭化水素基が特に好ましい。
本明細書中、Rにおける「脂肪族炭化水素基を有する有機基」とは、その分子構造中に脂肪族炭化水素基を有する一価(環Aに結合する結合手が1つ)の有機基である。
「脂肪族炭化水素基を有する有機基」における「脂肪族炭化水素基」の部位は、特に限定されず、末端に存在しても(1価基)、それ以外の部位に存在してもよい(例えば二価基)。
「脂肪族炭化水素基」としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、
具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、アラキル基、ベヘニル基、オレイル基、イソステアリル基等の一価の基、及び、それらから誘導される二価の基(上記一価の基から水素原子を1つ除いた二価の基)や、各種ステロイド基から水酸基などを除外した基などが挙げられる。
「アルキル基」としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基等が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
「シクロアルキル基」としては、例えば、炭素数3~6のシクロアルキル基等が好ましく、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。また、これらが繰り返し連結してもよい。
「アルケニル基」としては、例えば、炭素数2~6のアルケニル基等が好ましく、例えば、ビニル、1-プロペニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル等が挙げられる。
「アルキニル基」としては、例えば、炭素数2~6のアルキニル基等が好ましく、例えば、エチニル、プロパルギル、1-プロピニル等が挙げられる。
「ステロイド基」としては、例えば、コレストロールやエストラジオール等が好ましい。
上記置換基は更にシリル基、シリルオキシ構造を有する炭化水素基、パーフルオロアルキル構造を有する有機基で置換されてもよい。
【0052】
上記シリル基としては、トリアルキルシリル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基を3つ有するシリル基であることがより好ましい。
上記シリルオキシ構造を有する炭化水素基におけるシリルオキシ構造としては、トリアルキルシリルオキシ構造であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基を3つ有するシリルオキシ構造であることがより好ましい。
また、上記シリルオキシ構造を有する炭化水素基は、シリルオキシ構造を1~3個有することが好ましい。
更に、上記シリルオキシ構造を有する炭化水素基の炭素数は、10以上であることが好ましく、10~100であることがより好ましく、16~50であることが特に好ましい。
【0053】
上記シリルオキシ構造を有する炭化水素基としては、下記式(Si)で表される基が好ましく挙げられる。
【0054】
【化14】
【0055】
式(Si)中、Rsi1は、単結合、又は、炭素数1~3のアルキレン基を表し、Rsi2は、炭素数1~3のアルキレン基を表し、Rsi3及びRsi4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は、-OSiRsi5si6si7を表し、Rsi5~Rsi7はそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、又は、アリール基を表す。
【0056】
式(Si)におけるRsi5~Rsi7はそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~4の直鎖又は分岐アルキル基であることが特に好ましい。
【0057】
上記パーフルオロアルキル構造を有する有機基におけるパーフルオロアルキル構造は、炭素数1~20のパーフルオロアルキル構造であることが好ましく、炭素数5~20のパーフルオロアルキル構造であることがより好ましく、炭素数7~16のパーフルオロアルキル構造であることが特に好ましい。また、上記パーフルオロアルキル構造は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
上記パーフルオロアルキル構造を有する有機基は、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル構造を有するアルキル基、又は、パーフルオロアルキル構造及びアルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基であることが好ましい。
上記パーフルオロアルキル構造を有する有機基の炭素数は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、10~100であることが更に好ましく、16~50であることが特に好ましい。
上記パーフルオロアルキル構造を有する有機基としては、例えば、下記に示す基が好ましく挙げられる。
【0058】
【化15】
【0059】
「脂肪族炭化水素基を有する有機基」中の「脂肪族炭化水素基」以外の部位は任意に設定することができる。例えば-O-、-S-、-COO-、-OCONH-、-CONH-、「脂肪族炭化水素基」以外の炭化水素基(一価の基又は二価の基)等の部位を有していてもよい。
「脂肪族炭化水素基」以外の「炭化水素基」としては、例えば、芳香族炭化水素基等が挙げられ、具体的には、例えば、アリール基等の一価の基、及び、それらから誘導される二価の基が用いられる。
「アリール基」は、例えば、炭素数6~14のアリール基等が好ましく、例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、ビフェニリル、2-アンスリル等が挙げられる。中でも、炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フェニルが特に好ましい。
また、上記脂肪族炭化水素基、上記脂肪族炭化水素基以外の炭化水素基は、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子)、オキソ基等から選択される置換基で置換されていてもよい。
【0060】
「脂肪族炭化水素基を有する有機基」の環Aへの結合(置換)は、上記R中に存在する「脂肪族炭化水素基」又は上記「炭化水素基」を介するもの、すなわち、直接炭素-炭素結合で結合しているものであっても、上記R中に存在する-O-、-S-、-COO-、―OCONH-、-CONH-等の部位を介するものであってもよい。好ましくは、化合物の合成のし易さの点から、-O-、-S-、-COO-又は-CONH-を介するものであることが好ましく、-O-を介するものであることが特に好ましい。
【0061】
本開示に係る式(1)で表される化合物において、全てのRが有する全ての脂肪族炭化水素基の合計炭素数が、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、24以上であることが好ましく、24~200であることがより好ましく、32~100であることが更に好ましく、34~80であることが特に好ましく、36~80であることが最も好ましい。
また、本開示に係る式(1)で表される化合物は、少なくとも1つのRにおいて炭素数12以上の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であり、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、少なくとも1つのRにおいて、炭素数12~100の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であることが好ましく、炭素数18~40の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であることがより好ましく、炭素数20~36の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であることが更に好ましい。
更に上記脂肪族炭化水素基は、晶析性、及び、収率の観点から、アルキル基であることが好ましく、直鎖アルキル基であることがより好ましい。
また、1つのRの炭素数はそれぞれ独立に、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、12~200であることが好ましく、18~150であることがより好ましく、18~100であることが更に好ましく、20~80であることが特に好ましい。
【0062】
式(1)において、少なくとも1つのRが、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、下記式(f1)、式(a1)、式(b1)又は式(e1)のいずれかで表される基であることが好ましく、下記式(f1)又は式(a1)で表される基であることがより好ましく、下記式(f1)で表される基であることが特に好ましい。
【0063】
【化16】
【0064】
式(f1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m9は1~3の整数を表し、Xはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、Rはそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表し、Arは、(m10+1)価の芳香族基、又は、(m10+1)価の複素芳香族基を表し、m10は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0065】
【化17】
【0066】
式(a1)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m20は、1~10の整数を表し、X20はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R20はそれぞれ独立に、二価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0067】
【化18】
【0068】
式(b1)中、波線部分は環Aとの結合位置を表し、mbは、1又は2を表し、b1~b4はそれぞれ独立に、0~2の整数を表し、Xb1~Xb4はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCONH-、又は、-CONH-を表し、Rb2及びRb4はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を表し、Rb3は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を表す。
【0069】
【化19】
【0070】
式(e1)中、波線部分は環Aとの結合位置を表し、Xe1は、単結合、-O-、-S-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、meは0~15の整数を表し、e1は0~11の整数を表し、e2は0~5の整数を表し、Xe2はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、Re2はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を有する有機基を表す。
【0071】
式(f1)におけるm9は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
式(f1)におけるX及びX10はそれぞれ独立に、-O-、-S-、-COO-、-OCONH-、又は、-CONH-であることが好ましく、-O-であることがより好ましい。
式(f1)におけるRはそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であることがより好ましく、メチレン基であることが特に好ましい。
式(f1)におけるR10はそれぞれ独立に、炭素数5~60の一価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数12~50の一価の脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数18~40の一価の脂肪族炭化水素基が更に好ましく、炭素数20~32の一価の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。また、R10はそれぞれ独立に、直鎖アルキル基、又は、分岐アルキル基であることが好ましく、直鎖アルキル基であることがより好ましい。
式(f1)におけるm10は、2又は3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
式(f1)におけるArは、(m10+1)価の芳香族基であることが好ましく、ベンゼンから(m10+1)個の水素原子を除いた基、又は、ナフタレンから(m10+1)個の水素原子を除いた基であることがより好ましく、ベンゼンから(m10+1)個の水素原子を除いた基であることが特に好ましい。
【0072】
また、上記式(f1)で表される基は、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、下記式(f2)で表される基であることが好ましい。
【0073】
【化20】
【0074】
式(f2)中、波線部分はナフタレン環との結合位置を表し、m10は、1~3の整数を表し、m11は、1~3の整数を表し、X10はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-OCONH-、-NHCONH-、-NHCO-、又は、-CONH-を表し、R10はそれぞれ独立に、炭素数5以上の一価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0075】
式(f2)におけるm10、X10及びR10はそれぞれ、式(f1)におけるm10、X10及びR10と同義であり、好ましい態様も同様である。
式(f2)におけるm11は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0076】
式(a1)におけるm20は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
式(a1)におけるX20はそれぞれ独立に、-O-、-S-、-COO-、-OCONH-、又は、-CONH-であることが好ましく、-O-であることがより好ましい。
式(a1)におけるR20は、炭素数5以上の二価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数5~60の二価の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数8~40の二価の脂肪族炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数12~32の二価の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。また、R20は、直鎖アルキレン基であることが好ましい。
【0077】
式(b1)におけるmbは、1であることが好ましい。
式(b1)におけるb1~b4はそれぞれ独立に、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
式(b1)におけるXb1~Xb4はそれぞれ独立に、-O-、-S-、-COO-、-OCONH-、又は、-CONH-であることが好ましく、-O-であることがより好ましい。
式(b1)におけるRb2及びRb4はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は、炭素数5~60の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又は、炭素数8~40のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又は、炭素数12~32のアルキル基であることが特に好ましい。
式(b1)におけるRb3は、炭素数5~60の、一価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数5~60の一価の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数8~40の一価の脂肪族炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数12~32の一価の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。また、Rb3は、直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0078】
また、本開示に係る式(1)で表される化合物は、溶剤溶解性、及び、収率の観点から、Rにおける脂肪族炭化水素基として、分岐を有する脂肪族炭化水素基が好ましく挙げられ、以下に示す基がより好ましく挙げられる。なお、波線部分は他の構造との結合位置を表し、nt2は3以上の整数を表し、nt3は、下記基の総炭素数が14~300となるように設定される整数を表す。
【0079】
【化21】
【0080】
式(1)で表される化合物が環A上に有していてもよい置換基としては、特に制限はないが、アルコキシ基、アリーロキシ基、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、Rst-CO-NRst-、-CON(Rst、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、及び、これらを2以上組み合わせた基等が挙げられる。なお、Rstは、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
また、式(1)で表される化合物が多量体である場合、環A上に有していてもよい置換基としては、下記式(M)で表される基が好ましく挙げられる。
【0081】
【化22】
【0082】
式(M)中、波線部分は式(1)における環Aとの結合位置を表し、環Bは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br、Iを表し、kbは1~5の整数を表し、nbは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのR中の少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、環Bは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0083】
式(M)における環B、Y、R、kb、nb、及び、Rはそれぞれ、式(1)における環A、Y、R、k、n、及び、Rと同義であり、好ましい態様も同様である。
また、置換基として式(M)で表される基を有する場合、式(1)で表される化合物は、後述する式(20)で表される化合物であることが好ましい。
【0084】
上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、脱保護速度、晶析性、溶剤溶解性、及び、収率の観点から、下記式(10)~式(30)のいずれかで表される化合物であることが好ましく、下記式(10)又は式(20)で表される化合物であることがより好ましく、下記式(10)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0085】
【化23】
【0086】
式(10)、式(20)及び式(30)中、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br、Iを表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのR中の少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、Rはそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【0087】
式(10)、式(20)又は式(30)におけるY、及び、Rはそれぞれ、式(1)におけるY、及び、Rと同義であり、好ましい態様も同様である。
式(10)におけるn10は、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
式(20)におけるn20及びn21はそれぞれ独立に、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
式(20)における2つのYは、同じ基であることが好ましい。
また、式(20)における2つのRは、同じ基であることが好ましい。
式(30)におけるn30は、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
式(30)における2つのRは、同じ基であることが好ましい。
式(10)、式(20)又は式(30)におけるRはそれぞれ独立に、アルコキシ基、アリーロキシ基、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、Rst-CO-NRst-、-CON(Rst、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、又は、これらを2以上組み合わせた基であることが好ましく、アルコキシ基、アリーロキシ基、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、又は、アリール基であることがより好ましく、アルコキシ基、又は、アルキル基であることが更に好ましい。
【0088】
式(10)におけるRは、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、上記式(f1)、式(a1)、式(b1)又は式(e1)のいずれかで表される基であることが好ましく、上記式(f1)又は式(a1)のいずれかで表される基であることがより好ましく、上記式(f1)で表される基であることが更に好ましく、上記式(f2)で表される基であることが特に好ましい。
【0089】
式(20)におけるRはそれぞれ独立に、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、上記式(f1)、式(a1)、式(b1)又は式(e1)のいずれかで表される基であることが好ましく、上記式(f1)又は式(a1)のいずれかで表される基であることがより好ましい。
【0090】
式(30)におけるRはそれぞれ独立に、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、上記式(f1)、式(a1)、式(b1)又は式(e1)のいずれかで表される基であることが好ましく、上記式(f1)又は式(a1)のいずれかで表される基であることがより好ましい。
【0091】
式(1)で表される化合物の分子量は、特に制限はないが、脱保護速度、晶析性、溶剤溶解性、及び、収率の観点から、340~3,000であることが好ましく、400~2,000であることがより好ましく、500~1,500であることが更に好ましく、800~1,300であることが特に好ましい。また、分子量が3,000以下であると、目的物に占める式(1)の割合が適度であり、式(1)を脱保護して得られる化合物の割合が少なくならないため、生産性に優れる。
【0092】
式(1)で表される化合物の具体例としては、下記に示す化合物が好ましく挙げられるが、これらに限定されない。なお、Rは、炭素数12以上の脂肪族炭化水素基を表し、炭素数12~100の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数18~40の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数20~32の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。また、上記脂肪族炭化水素基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又は環状アルキル基であることが好ましく、直鎖アルキル基であることがより好ましい。
【0093】
【化24】
【0094】
【化25】
【0095】
【化26】
【0096】
【化27】
【0097】
【化28】
【0098】
<式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の製造方法>
本開示に係る式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の製造方法としては、特に限定されないが、公知の方法を参照して製造することができる。
製造に用いる原料化合物は、特に述べない限り、市販されているものを用いてもよいし、自体公知の方法、又は、これらに準ずる方法に従って製造することもできる。
また、必要に応じ、製造した式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を公知の精製方法により、精製してもよい。例えば、再結晶、カラムクロマトグラフィー等によって単離及び精製する方法、及び、溶液温度を変化させる手段や溶液組成を変化させる手段等によって再沈殿により精製する方法等を行うことができる。
【0099】
本開示に係る式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の合成方法は、例えば、以下のスキームに従って合成することができる。また、国際公開第2010/113939号に記載の合成方法を参考に合成することもできる。
【0100】
【化29】
【0101】
100は水素原子又はOR101を表し、R101はアルキル基を表し、X100はCl、Br又はIを表し、R102は水素原子又はアルキル基を表す。
【0102】
本開示に係るペプチド化合物の製造方法において、上記式(1)で表される縮合多環縮環芳香族炭化水素化合物を用いる工程が、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物によりアミノ酸化合物又はペプチド化合物のカルボキシ基又はアミド基を保護するC末端保護工程であることが好ましい。
また、本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、ペプチド化合物の合成容易性、及び、収率の観点から、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物によりアミノ酸化合物又はペプチド化合物のカルボキシ基又はアミド基を保護するC末端保護工程に加え、上記C末端保護工程で得られたN末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護するN末端脱保護工程、及び、上記N末端脱保護工程で得られたC末端保護アミノ酸化合物又はC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させるペプチド鎖延長工程を更に含むことがより好ましく、上記ペプチド鎖延長工程で得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿させる沈殿工程を更に含むことが更に好ましく、上記沈殿工程の後に、得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護する工程、得られたC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させる工程、及び、得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿する工程をこの順で1回以上更に含むことが特に好ましい。
また、本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、C末端保護基を脱保護するC末端脱保護工程を更に含むことが好ましい。
更に、本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記C末端保護工程の前に、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を溶媒に溶解する溶解工程を更に含むことが好ましい。
以下、上述した各工程等について詳細に説明する。
【0103】
<溶解工程>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記C末端保護工程の前に、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を溶媒に溶解する溶解工程を含むことが好ましい。
溶媒としては、一般的な有機溶媒を反応に用いることができるが、上記溶媒における溶解度が高い程、優れた反応性が期待できるため、式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の溶解度の高い溶媒を選択することが好ましい。具体的にはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等の非極性有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。また、上記ハロゲン化炭素類や非極性有機溶媒に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類を、式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物が溶解し得る限り、適宜の割合で混合して用いてもよい。
また、Organic Process Research & Development、2017、21、3、365-369に記載の溶剤を使用してもよい。
【0104】
<C末端保護工程>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物によりアミノ酸化合物又はペプチド化合物のカルボキシ基又はアミド基を保護するC末端保護工程を含むことが好ましい。
上記C末端保護工程に用いられるアミノ酸化合物、又は、ペプチド化合物としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物であることが好ましく、Fmoc保護アミノ酸化合物、又は、Fmoc保護ペプチド化合物であることがより好ましい。
また、上記C末端保護工程に用いられるアミノ酸化合物、又は、ペプチド化合物におけるC末端部分以外のヒドロキシ基、アミノ基、カルボニル基、アミド基、イミダゾール基、インドール基、グアニジル基、メルカプト基等は後述する保護基等の公知の保護基により保護されていることが好ましい。
反応基質であるアミノ酸化合物又はペプチド化合物の使用量は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物1モル当量に対し、1モル当量~10モル当量であることが好ましく、1モル当量~5モル当量であることがより好ましく、1モル当量~2モル当量であることが更に好ましく、1~1.5であることが特に好ましい。
【0105】
式(1)におけるYが-CHOH又は-CHSHである上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を用いる場合は、反応に影響を及ぼさない溶媒中、触媒下、縮合剤を添加するか、酸触媒中で反応させることが好ましく挙げられる。
式(1)におけるYが-CHNHRである上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を用いる場合は、縮合添加剤(縮合促進剤)存在下、縮合剤を添加することが好ましく挙げられる。
縮合添加剤の使用量は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物1モル当量に対して、0.05モル当量~1.5モル当量であることが好ましい。
【0106】
縮合剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤が、本開示においても制限なく用いることができ、これに限定されないが、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホニウムクロリド(DMTMM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6-Cl))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、その塩酸塩(EDC・HCl)、及び、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBop)等を挙げることができる。
中でも、DIC、EDC、EDC・HCl、DMT-MM、HBTU、HATU、又は、COMUが好ましい。
縮合剤の使用量は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物1モル当量に対して、1モル当量~10モル当量であることが好ましく、1モル当量~5モル当量であることがより好ましい。
【0107】
縮合反応に用いる触媒としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤を制限なく用いることができる。
触媒の使用量は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物1モル当量に対して、0モル当量を超え4.0モル当量であることが好ましく、0.05モル当量~1.5モル当量であることがより好ましく、0.1モル当量~0.3モル当量であることが更に好ましい。
【0108】
縮合反応に用いる酸触媒としては、ペプチド合成において一般的に用いられる酸触媒を制限なく用いることができ、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等を挙げることができる。
中でもメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸が好ましい。
酸触媒の使用量は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物1モル当量に対して、0モル当量を超え4.0モル当量であることが好ましく、0.05モル当量~1.5モル当量であることがより好ましく、0.1モル当量~0.3モル当量であることが更に好ましい。
【0109】
上記C末端保護工程において、反応を促進し、ラセミ化などの副反応を抑制するため、活性化剤を添加することが好ましい。
本開示における活性化剤とは、縮合剤との共存化で、アミノ酸を、対応する活性エステル、対称酸無水物などに導いて、ペプチド結合(アミド結合)を形成させやすくする試薬である。
活性化剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤を制限なく用いることができ、例えば、4-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、ボロン酸誘導体、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、エチル 1-ヒドロキシトリアゾール-4-カルボキシレート(HOCt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、3-ヒドロキシ-1,2,3-ベンゾトリアゾジン-4(3H)-オン(HOOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、N-ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONb)、ペンタフルオロフェノール、エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート(Oxyma)等を挙げることができる。中でも、4-ジメチルアミノピリジン、HOBt、HOCt、HOAt、HOOBt、HOSu、HONb、又は、Oxymaが好ましい。
活性化剤の使用量は、アミノ酸化合物又はペプチド化合物に対して、0モル当量を超え4.0モル当量であることが好ましく、0.1モル当量~1.5モル当量であることがより好ましい。
溶媒としては、上記溶解工程において上述した溶剤を好適に用いることができる。
【0110】
反応温度は、特に制限はないが、-10℃~50℃であることが好ましく、0℃~40℃であることがより好ましい。反応時間は、特に制限はないが、1時間~30時間であることが好ましい。
反応の進行の確認は、一般的な液相有機合成反応と同様の方法を適用できる。すなわち、薄層シリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、NMR等を用いて反応を追跡することができる。
【0111】
また、上記C末端保護工程により得られたN末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物は、精製を行ってもよい。
例えば、得られたN末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物を溶媒に溶解させ、所望の有機合成反応を行った後に得られる生成物を単離するために、N末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物が溶解している溶媒を変化させ(例、溶媒組成の変更、溶媒の種類の変更)、再沈殿させる方法が好ましく挙げられる。
具体的には例えば、N末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物が溶解するような条件下にて反応を行い、反応後、溶媒を留去後、溶媒置換するか、反応後、溶媒を留去せずに、反応系へ極性溶媒を添加することによって凝集物を沈殿化し不純物を淘汰する。置換溶媒としては、メタノール、アセトニトリル、水等の極性有機溶媒を単独又は混合して用いる。すなわち、N末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物が溶解するような条件下にて反応を行い、反応後、溶媒置換としては、例えば溶解にはハロゲン化溶媒、THF等を用いて、沈殿化にはメタノール、アセトニトリルや水等の極性有機溶媒を用いる。
【0112】
<N末端脱保護工程>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記C末端保護工程で得られたN末端保護C末端保護アミノ酸化合物又はN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護するN末端脱保護工程を含むことが好ましい。
N末端の保護基としては、ペプチド化学等の技術分野で一般的に用いられる後述のアミノ基の保護基が使用可能であるが、本開示においては、tert-ブトキシカルボニル基(以下、Boc基ともいう。)、ベンジルオキシカルボニル基(以下、Cbz基、またはZ基ともいう。)、又は、9-フルオレニルメトキシカルボニル基(以下、Fmoc基ともいう。)が好適に用いられる。
【0113】
脱保護条件は、当該一時保護基の種類により適宜選択されるが、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物由来の保護基の除去とは異なる条件により脱保護できる基が好ましい。例えば、Fmoc基の場合は、塩基で処理することにより行われ、Boc基の場合は、酸で処理することにより行われる。当該反応は、反応に影響を及ぼさない溶媒中で行われる。
【0114】
塩基としては、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの第二級アミンや、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)などの求核性のない有機塩基等が挙げられる。
溶媒としては、上記溶解工程において上述した溶剤を好適に用いることができる。
【0115】
<ペプチド鎖延長工程>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記N末端脱保護工程で得られたC末端保護アミノ酸化合物又はC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させるペプチド鎖延長工程を含むことが好ましい。
上記ペプチド鎖延長工程は、上述した縮合剤、縮合添加剤等を使用し、ペプチド化学の分野において一般的に用いられるペプチド合成条件下で好適に行われる。
N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物としては、特に制限はなく、所望のものを用いることができるが、Fmoc保護アミノ酸化合物、又は、Fmoc保護ペプチド化合物を好適に用いることができる。
また、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物におけるC末端部分以外のヒドロキシ基、アミノ基、カルボニル基、アミド基、イミダゾール基、インドール基、グアニジル基、メルカプト基等は後述する保護基等の公知の保護基により保護されていることが好ましい。
【0116】
<沈殿工程>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記ペプチド鎖延長工程で得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿させる沈殿工程を更に含むことが好ましい。
上記沈殿工程は、上述した上記C末端保護工程の後に行ってもよい精製における沈殿方法と同様にして行うことができる。
【0117】
<鎖延長>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、上記沈殿工程の後に、得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物のN末端を脱保護する工程、得られたC末端保護ペプチド化合物のN末端に、N末端保護アミノ酸化合物、又は、N末端保護ペプチド化合物を縮合させる工程、及び、得られたN末端保護C末端保護ペプチド化合物を沈殿する工程をこの順で1回以上更に含むことが好ましい。
上記3工程を繰り返し行うことにより、得られるペプチド化合物の鎖延長を容易に行うことができる。
上記3工程における各工程は、上述した対応する各工程と同様に行うことができる。
【0118】
<C末端脱保護工程>
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、C末端保護基を脱保護するC末端脱保護工程を更に含むことが好ましい。
上記C末端脱保護工程において、所望のアミノ酸残基数を有するC末端保護ペプチド化合物における上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物により形成されたC末端保護基を除去することによって、最終目的物であるペプチド化合物を得ることができる。
C末端保護基の除去方法としては、酸性化合物を用いた脱保護方法が好ましく挙げられる。
例えば、酸触媒を用いた方法や金属触媒を用いて水素添加する方法が挙げられる。酸触媒としては、トリフルオロ酢酸(TFA)、塩酸などが挙げられ、TFAが好ましい。TFAの濃度は、保護基及び脱保護条件に応じ、適宜選択することができ、使用する溶媒の全質量に対し、0.01質量%~100質量%が好ましく、1質量%~100質量%がより好ましい。
また、TFAの濃度は、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、10質量%以下がより更に好ましく、1質量%以下が特に好ましい。本開示においては、弱酸条件でもC末端保護基の脱保護が可能であり、得られるペプチドの副反応を抑制することが可能である。
脱保護時間は、5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0119】
本開示に係るペプチド化合物の製造方法により得られた最終目的物であるペプチド化合物は、ペプチド化学で常用される方法に従って、単離精製することができる。例えば、反応混合物を抽出洗浄、晶析、クロマトグラフィーなどによって、最終目的物であるペプチド化合物を単離精製することができる。
【0120】
本開示に係るペプチド化合物の製造方法により製造されるペプチドの種類は特に限定されないが、ペプチド化合物のアミノ酸残基数が、例えば、数十以下程度であることが好ましい。本開示に係るペプチド化合物の製造方法によって得られるペプチドは、既存の又は未知の合成ペプチドや天然ペプチドと同様に、様々な分野、例えばこれに限定されないが、医薬、食品、化粧品、電子材料、バイオセンサー等の分野に利用できる。
【0121】
本開示に係るペプチド化合物の製造方法は、次工程の反応に影響を及ぼさない範囲で上記沈殿工程を適宜省略することも可能である。
【0122】
本開示に係るペプチド化合物の製造方法に用いられるアミノ酸化合物、及び、ペプチド化合物がヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、グアジニル基、メルカプト基等を有する場合、これらの基にペプチド化学等で一般的に用いられるような保護基が導入されていてもよく、反応後に必要に応じて保護基を除去することにより目的化合物を得ることができる。
【0123】
ヒドロキシ基の保護基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基(例、メチル、
エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル)、フェニル基、トリチル基、炭素数7~10のアラルキル基(例、ベンジル)、ホルミル基、炭素数1~6のアシル基(例、アセチル、プロピオニル)、ベンゾイル基、炭素数7~10のアラルキル-カルボニル基(例、ベンジルカルボニル)、2-テトラヒドロピラニル基、2-テトラヒドロフラニル基、シリル基(例、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジエチルシリル)、炭素数2~6のアルケニル基(例、1-プロぺニル)等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~6のアルキル基(例、メチル、エチル、プロピル)、炭素数1~6のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、及び、ニトロ基よりなる群から選ばれる1個~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0124】
アミノ基の保護基としては、例えば、ホルミル基、炭素数1~6のアシル基(例、アセチル、プロピオニル)、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、Boc基)、ベンゾイル基、炭素数7~10のアラルキル-カルボニル基(例、ベンジルカルボニル)、炭素数7~14のアラルキルオキシカルボニル基(例、ベンジルオキシカルボニル、Fmoc基)、トリチル基、モノメトキシトリチル基、1-(4,4-Dimethyl-2,6-dioxocyclohex-1-ylidene)-3-methylbutyl基、フタロイル基、N,N-ジメチルアミノメチレン基、シリル基(例、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジエチルシリル)、炭素数2~6のアルケニル基(例、1-プロペニル)等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~6のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、及び、ニトロ基よりなる群から選ばれる1個~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0125】
カルボキシ基の保護基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基(例、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル)、炭素数7~10のアラルキル基(例、ベンジル)、フェニル基、トリチル基、シリル基(例、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジエチルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル)、炭素数2~6のアルケニル基(例、1-アリル)等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~6のアルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、及び、ニトロ基よりなる群から選ばれる1個~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0126】
カルボニル基の保護基としては、例えば、環状アセタール(例、1,3-ジオキサン)、非環状アセタール(例、ジ(炭素数1~6のアルキル)アセタール)等が挙げられる。
【0127】
グアニジル基の保護基としては、例えば、2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル基、2,3,4,5,6-ペンタメチルベンゼンスルホニル基、トシル基、ニトロ基等が挙げられる。
【0128】
メルカプト基(スルフヒドリル基)の保護基としては、例えば、トリチル基、4-メチルベンジル基、アセチルアミノメチル基、t-ブチル基、t-ブチルチオ基等が挙げられる。
【0129】
また、これらの保護基の除去方法は、自体公知の方法、例えば、ProtectiveGroups in Organic Synthesis,John Wiley andSons刊(1980)に記載の方法等に準じて行えばよい。例えば、酸、塩基、紫外光、ヒドラジン、フェニルヒドラジン、N-メチルジチオカルバミン酸ナトリウム、テトラブチルアンモニウムフルオリド、酢酸パラジウム、トリアルキルシリルハライド(例えば、トリメチルシリルヨージド、トリメチルシリルブロミド等)等を使用する方法、還元法等が用いられる。
【0130】
(保護基形成用試薬)
本開示に係る保護基形成用試薬は、下記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物を含む。
【0131】
【化30】
【0132】
式(1)中、環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上であり、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0133】
本開示に係る保護基形成用試薬は、カルボキシ基又はアミド基の保護基形成用試薬であることが好ましく、アミノ酸化合物又はペプチド化合物のC末端保護基形成用試薬であることがより好ましい。
【0134】
本開示に係る保護基形成用試薬における式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の好ましい態様は、上述した本開示に係る式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の好ましい態様と同様である。
本開示に係る保護基形成用試薬は、固体状の試薬であっても、液体状の試薬であってもよい。
本開示に係る保護基形成用試薬における式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物の含有量は、特に制限はないが、保護基形成用試薬の全質量に対し、0.1質量%~100質量%であることが好ましく、1質量%~100質量%であることがより好ましく、3質量%~100質量%であることが更に好ましい。
【0135】
本開示に係る保護基形成用試薬は、式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、公知の成分を含むことができる。例えば、水、有機溶媒、酸化防止剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0136】
(式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物)
本開示に係る化合物は、下記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物である。
【0137】
【化31】
【0138】
式(1a)中、環Aは縮合多環芳香族炭化水素環を表し、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、kは1~5の整数を表し、nは1又は2を表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、環Aは、Y及びRに加えて更に置換基を有していてもよい。
【0139】
本開示に係る化合物である式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、新規な化合物であり、ペプチド化合物の製造に好適に用いることができる。中でも、保護基形成用試薬として好適に用いることができ、カルボキシ基又はアミド基の保護基形成用試薬としてより好適に用いることができ、アミノ酸化合物又はペプチド化合物のC末端保護基形成用試薬として特に好適に用いることができる。
【0140】
本開示に係る化合物における式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が18以上であること以外は、上述した本開示に係るペプチド化合物の製造方法において上述した式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物と同様であり、後述する好ましい態様以外の好ましい態様も同様である。
【0141】
上記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、少なくとも1つのRにおいて炭素数18以上の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であり、溶剤溶解性、晶析性、及び、収率の観点から、少なくとも1つのRにおいて、炭素数18~100の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であることが好ましく、炭素数18~40の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であることがより好ましく、炭素数20~36の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する化合物であることが更に好ましい。
【0142】
上記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、脱保護速度、晶析性、溶剤溶解性、及び、収率の観点から、下記式(10a)~式(30a)のいずれかで表される化合物であることが好ましく、下記式(10a)又は式(20a)で表される化合物であることがより好ましく、下記式(10a)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0143】
【化32】
【0144】
式(10a)、式(20a)及び式(30a)中、Yはそれぞれ独立に、-CHOH、-CHNHR、-CHSH、又は、-CHを表し、Rは水素原子、アルキル基又はアラルキル基を表し、XはCl、Br又はIを表し、Rはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、又は、脂肪族炭化水素基を有する有機基であり、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が、18以上であり、Rはそれぞれ独立に、置換基を表し、n10は0~6の整数を表し、n20、n21及びn30はそれぞれ独立に、0~5の整数を表す。
【0145】
上記式(10a)~式(30a)のいずれかで表される化合物は、少なくとも1つのRが有する少なくとも1つの脂肪族炭化水素基の炭素数が18以上であること以外は、上述した本開示に係るペプチド化合物の製造方法において上述した式(10)~式(30)のいずれかで表される化合物と同様であり、後述する好ましい態様以外の好ましい態様も同様である。
【0146】
上記式(10a)~式(30a)のいずれかで表される化合物におけるRは、上記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物におけるRと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0147】
また、上記式(1a)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物と同様にして、合成することができる。
【実施例
【0148】
以下に実施例を挙げて本発明の実施形態を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の実施形態の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の実施形態の範囲は以下に示す具体例に限定されない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0149】
特に記載のない場合、カラムクロマトグラフィーによる精製は、自動精製装置ISOLERA(Biotage社製)又は中圧液体クロマトグラフYFLC-Wprep2XY.N(山善(株)製)を使用した。
特に記載のない場合、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおける担体は、SNAPKP-Sil Cartridge(Biotage社製)、ハイフラッシュカラムW001、W002、W003、W004又はW005(山善(株)製)を使用した。
カラムクロマトグラフィーに用いる溶離液における混合比は、体積比である。例えば、「ヘキサン:酢酸エチルの勾配溶離=50:50~0:100」は、50%ヘキサン/50%酢酸エチルの溶離液を最終的に0%ヘキサン/100%酢酸エチルの溶離液へ変化させたことを意味する。
また、例えば、「ヘキサン:酢酸エチルの勾配溶離=50:50~0:100、メタノール:酢酸エチルの勾配溶離=0:100~20:80」は、50%ヘキサン/50%酢酸エチルの溶離液を0%ヘキサン/100%酢酸エチルの溶離液へ変化させた後、溶離液を0%メタノール/100%酢酸エチルの溶離液へ切り替え、最終的に20%メタノール/80%酢酸エチルの溶離液へ変化させたことを意味する。
【0150】
MSスペクトルは、ACQUITY SQD LC/MS System(Waters社製、イオン化法:ESI(ElectroSpray Ionization、エレクトロスプレーイオン化)法)を用いて測定した。
【0151】
NMRスペクトルは、内部基準としてテトラメチルシランを用い、Bruker AV300(Bruker社製、300MHz)、又は、Bruker AV400(Bruker社製、400MHz)を用いて測定し、全δ値をppmで示した。
【0152】
<保護基形成用試薬(化合物(1-1))の合成>
【0153】
【化33】
【0154】
中間体(1-1)は、欧州特許出願公開第2518041号明細書に記載の方法により合成した。
中間体(1-1)(12.00g、15.5mmol)、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸メチル(6.26g、30.9mmol)、炭酸カリウム(8.55g、61.9mmol)、N-メチルピロリドン(NMP、155mL)とを混合し、窒素雰囲気下、100℃で4時間撹拌した。反応溶液を室温まで降温し、シクロペンチルメチルエーテル、水で抽出した。得られた有機層にメタノールを添加することで析出した固体をろ過、減圧乾燥させることにより、中間体(1-2)(13.8g、収率95%)を得た。
窒素雰囲気下、中間体(1-2)(4.00g、4.25mmol)、テトラヒドロフラン(66mL)とを混合し、30℃で撹拌させたところへ、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムトルエン溶液(3.6M(=3.6mol/L))(3.5mL、12.8mmol)を滴下した。反応溶液を30℃で2時間撹拌し、酒石酸カリウムナトリウム飽和水溶液(50mL)を緩やかに滴下した後、分液し、得られた有機層にメタノールを添加することで析出した固体をろ過・乾燥させることにより化合物(1-1)(3.87g、収率99%)を得た。
H-NMR(CDCl,400MHz)δ=0.88(6H,t),1.19-1.82(80H,m),3.94(4H,t),4.82(2H,d),5.10(2H,s),6.42(1H,t),6.61(2H,d),7.20(1H,t),7.24(1H,dd),7.45(1H,dd),7.69-7.78(3H,m).
【0155】
<保護基形成用試薬(化合物(1-2))の合成>
【0156】
【化34】
【0157】
化合物(1-1)と同様に合成することで化合物(1-2)を得た。
H-NMR(CDCl,300MHz)δ=0.88(9H,t),1.19-1.85(96H,m),3.93-4.01(6H,m),4.83(2H,d),5.06(2H,s),6.42(1H,t),6.67(2H,d),7.22-7.26(2H,m),7.46(1H,dd),7.72-7.77(3H,m).
【0158】
<保護基形成用試薬(化合物(1-3))の合成>
【0159】
【化35】
【0160】
化合物(1-1)と同様に合成することで化合物(1-3)を得た。
H-NMR(CDCl,400MHz)δ=0.88(6H,t),1.24-1.58(64H,m),2.04(4H,m),3.41(4H,t),3.58(4H,t),4.05(4H,t),4.83(2H,d),5.10(2H,s),6.44(1H,t),6.63(2H,d),7.20-7.26(2H,m),7.45(1H,dd),7.72-7.76(3H,m).
【0161】
<保護基形成用試薬(化合物(1-4))の合成>
【0162】
【化36】
【0163】
中間体(1-1)(3.00g、3.87mmol)、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド(1.00g、3.87mmol)、炭酸カリウム(1.07g、7.73mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、30mL)とを混合し、窒素雰囲気下、100℃で3時間撹拌した。反応溶液を室温まで降温し、メタノールを添加することで析出した固体をろ過、減圧乾燥させることにより、中間体(1-3)(4.46g)を得た。
窒素雰囲気下、中間体(1-3)(3.52g、3.86mmol)、テトラヒドロフラン(154mL)、メタノール(7.7mL)とを混合し、室温下で撹拌させたところへ、水素化ホウ素ナトリウム(0.292g、7.72mmol)を加えた。反応溶液を40℃で30分間撹拌し、原料の消失を確認後、反応液にシリカゲル(50g)を少量ずつ加え反応を停止した。シリカゲルのろ過、ろ液の減圧下濃縮後、得られた残渣をTHF(15mL)に溶解し、メタノール(100mL)を添加することで析出した固体をろ過・乾燥させることにより化合物(1-4)(3.44g、収率98%)を得た。
H-NMR(CDCl,400MHz)δ=0.88(6H,t),1.19-1.80(80H,m),3.92(4H,t),5.17(2H,s),5.22(2H,d),6.40(1H,s),6.58(2H,d),7.29(1H,t),7.37(1H,t),7.53(1H,t),7.80(2H,dd),8.14(1H,d).
【0164】
<保護基形成用試薬(化合物(1-5))の合成>
【0165】
【化37】
【0166】
化合物(1-4)と同様に合成することで化合物(1-5)を得た。
H-NMR(CDCl,400MHz)δ=0.88(6H,t),1.19-1.85(80H,m),3.95(4H,t),5.06(2H,d),5.18(2H,s),6.42(1H,t),6.63(2H,d),6.82(1H,d),7.38(1H,d),7.48-7.65(2H,m),8.12(1H,d),8.41(1H,d).
【0167】
<保護基形成用試薬(化合物(2-1))の合成>
【0168】
【化38】
【0169】
中間体(2-1)は文献J.Am.Chem.Soc.,2010,132,14625-14637に記載の方法で合成した。
中間体(2-1)(346mg、1.00mmol)、1-ブロモドコサン(1166mg、3.00mmol)、炭酸カリウム(897mg、6.5mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、10mL)とを混合し、窒素雰囲気下、80℃で2時間撹拌した。反応溶液を室温まで降温し、ジクロロメタン、水で抽出し、有機相を減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=1/9~3/7(体積比))に供することで精製し、更に、アセトニトリルで再結晶し、ろ過、乾燥させることで化合物(2-1)(200mg、収率21%)を得た。
H-NMR(CDCl,400MHz)δ=0.83-1.63(86H,m),3.86-3.92(4H,m),4.79(4H,d),7.12(2H,d),7.20(2H,dd),7.40(2H,d),7.82(2H,d),7.91(2H,d).
【0170】
<保護基形成用試薬(化合物(2-2))の合成>
【0171】
【化39】
【0172】
使用する臭化物におけるアルキル基の長さを変更した以外は、化合物(2-1)と同様に合成することで、化合物(2-2)を得た。
【0173】
<比較用保護基形成用試薬(比較化合物(2-1))の合成>
【0174】
【化40】
【0175】
使用する臭化物におけるアルキル基の長さを変更した以外は、化合物(2-1)と同様に合成することで、比較化合物(2-1)を得た。
【0176】
<保護基形成用試薬(化合物(3-1))の合成>
【0177】
【化41】
【0178】
中間体(3-1)はJournal of Organic Chemistry,2009,74,2,520-529に記載の方法で合成した。
中間体(3-1)(132mg、0.7mmol)、1-ブロモドコサン(601mg、1.54mmol)、炭酸カリウム(388mg、2.8mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、3.5mL)、テトラヒドロフラン(3.5mL)とを混合し、窒素雰囲気下、90℃で5時間撹拌した。反応溶液を室温まで降温し、メタノールを添加することで析出した固体をろ取し、水、メタノールでそれぞれ洗った後、減圧乾燥させることにより、中間体(3-2)(480mg、85%)を得た。
窒素雰囲気下、中間体(3-2)(480mg、0.6mmol)、テトラヒドロフラン(90mL)、メタノール(4.5mL)とを混合したところへ、水素化ホウ素ナトリウム(68mg、1.8mmol)を添加した。反応溶液を40℃に昇温し、2時間撹拌した後、シリカゲルを加えることで反応をクエンチした。反応溶液をろ過し、有機相を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/ジクロロメタン=7/3~1/1(体積比))に供することで精製することで化合物(3-1)(427mg、収率89%)を得た。
H-NMR(CDCl,400MHz)δ=0.88(6H,t),1.25-1.53(76H,m),1.80-1.87(4H,m),4.05(2H,t),4.11(2H,t),5.16(2H,d),7.10(1H,d),7.19-7.25(2H,m),7.68(1H,d),8.01(1H,d).
【0179】
(実施例1)
<保護アミノ酸化合物(N末端保護C末端保護アミノ酸(1))の合成>
【0180】
【化42】
【0181】
化合物(1-1)(914mg、1.00mmol)、N-[(9H-フルオレン―9-イルメトキシ)カルボニル]-L-ロイシン(530mg、1.50mmol)、テトラヒドロフラン(10mL)を室温で混合し、4-ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.20mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(232μL、1.50mmol)を添加した。反応溶液を窒素下1時間撹拌した後、メタノール(50mL)を添加することで析出した固体をろ過、減圧乾燥させてN-保護C-保護アミノ酸(1)(1250mg、100%)を得た。
なお、Fmocは、9-フルオレニルメトキシカルボニル基を表し、Leuはロイシン残基を表す。
【0182】
(実施例2~8、及び、比較例1)
N-保護C-保護アミノ酸(1)を得る方法と同様に、化合物(1-2)、化合物(1-3)、化合物(1-4)、化合物(1-5)、化合物(2-1)、化合物(2-2)、化合物(3-1)、比較化合物(2-1)をN-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-L-ロイシンと縮合させることで、対応するN-保護C-保護アミノ酸を合成した。得られた収率を表1に示す。
【0183】
【表1】
【0184】
表1に示すように、式(1)中の各R中の脂肪族炭化水素基の炭素数が、12以上である実施例1~8の化合物は、収率が85%以上と良好な収率であるのに対して、式(1)中の各R中の脂肪族炭化水素基の炭素数が12未満である比較例1の化合物を用いた場合の収率は80%未満となり、収率が低下した。
【0185】
<保護ペプチド(7残基ペプチド:Fmoc-Trp(Boc)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-保護基)の合成>
なお、上述した以外の各略称の詳細を、以下に示す。
Trp(Boc):Boc保護トリプトファン残基
Boc:t-ブトキシカルボニル基
Ser(tBu):tBu保護セリン残基
tBu:t-ブチル基
Tyr(tBu):tBu保護チロシン残基
dLeu:D-ロイシン残基
Arg(pbf):pbf保護アルギニン残基
pbf:2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル基
Pro:プロリン残基
【0186】
(実施例9:Fmoc-Pro-O-NaphTAG(1)の合成)
6-(3,5-ビス(ドコサノイルオキシベンジルオキシ)ナフタレン-2-イルメタノール(上記化合物(1-1)に相当する。「NaphTAG(1)」とも表記する。)(2.74g、3.0mmol)とFmoc-Pro-OH(2.0モル当量)をクロロホルム(6.0mL)中に溶解させ、4-ジメチルアミノピリジン(0.1モル当量)とジイソプロピルカルボジイミド(2.0モル当量)とを添加して撹拌した。縮合反応完結後、メタノール(MeOH、70mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Pro-O-NaphTAG(1)(3.78g、収率99.0%)を得た。
エレクトロンスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)(+)=1,231.9
【0187】
(実施例10:Fmoc-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)の合成)
Fmoc-Pro-O-NaphTAG(1)(2.0g、1.62mmol)をクロロホルム(4.0mL)中に溶解させ、ジアザビシクロウンデセン(DBU、2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Leu-Arg(pbf)-OH(1.25モル当量)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU、1.25モル当量)を添加して攪拌した。縮合反応完結後、MeOH(140mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(2.72g、収率95.6%)を得た。
ESI-MS(+)=1,752.2
【0188】
(実施例11:Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)の合成)
Fmoc-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(2.5g、1.40mmol)をクロロホルム(3.5mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-dLeu-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して撹拌した。縮合反応完結後、MeOH(85mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(2.56g、収率97.1%)を得た。
ESI-MS(+)=1,865.3
【0189】
(実施例12:Fmoc-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)の合成)
Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(2.19g、1.17mmol)をクロロホルム(3.0mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Tyr(tBu)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して撹拌した。縮合反応完結後、MeOH(75mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(2.44g、収率97.1%)を得た。
ESI-MS(+)=2,084.4
【0190】
(実施例13:Fmoc-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)の合成)
Fmoc-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(1.63g、0.78mmol)をクロロホルム(2.0mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Ser(tBu)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して撹拌した。縮合反応完結後、MeOH(55mL)を加えて攪拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(1.68g、収率96.6%)を得た。
ESI-MS(+)=2,227.5
【0191】
(実施例14:Fmoc-Trp(Boc)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)の合成)
Fmoc-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(1.07g、0.48mmol)をクロロホルム(1.2mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Trp(Boc)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して攪拌した。縮合反応完結後、MeOH(38mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Trp(Boc)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(1.13g、収率93.5%)を得た。
ESI-MS(+)=2,513.6
【0192】
(比較例2:Fmoc-Pro-O-TAG(1)の合成)
3,5-ビス(ドコサノイルオキシ)ベンジルアルコール(「TAG(1)」とも表記する。)(2.27g、3.0mmol)とFmoc-Pro-OH(2.0モル当量)をクロロホルム(6.0mL)中に溶解させ、4-ジメチルアミノピリジン(0.1モル当量)とジイソプロピルカルボジイミド(2.0モル当量)とを添加して撹拌した。縮合反応完結後、MeOH(70mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Pro-O-NaphTAG(1)(3.04g、収率94.0%)を得た。
ESI-MS(+)=1,074.9
【0193】
(比較例3:Fmoc-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)の合成)
Fmoc-Pro-O-TAG(1)(2.0g、1.86mmol)をクロロホルム(4.6mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Leu-Arg(pbf)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して攪拌した。縮合反応完結後、MeOH(140mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(2.73g,収率90.1%)を得た。
ESI-MS(+)=1,610.1
【0194】
(比較例4:Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)の合成)
Fmoc-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(2.23g、1.40mmol)をクロロホルム(3.5mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-dLeu-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して攪拌した。縮合反応完結後、MeOH(80mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(2.23g、収率92.3%)を得た。
ESI-MS(+)=1,709.2
【0195】
(比較例5:Fmoc-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)の合成)
Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(2.00g、1.17mmol)をクロロホルム(3.0mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)を含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Tyr(tBu)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して攪拌した。縮合反応完結後、MeOH(75mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-NaphTAG(1)(1.98g、収率87.8%)を得た。
ESI-MS(+)=1,928.3
【0196】
(比較例6:Fmoc-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)の合成)
Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(1.63g、0.78mmol)をクロロホルム(2.0mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加えた後、Fmoc-Ser(tBu)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25モル当量)を添加して攪拌した。縮合反応完結後、MeOH(55mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(1.26g、収率78.2%)を得た。
ESI-MS(+)=2,071.4
【0197】
(比較例7:Fmoc-Trp(Boc)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)の合成)
Fmoc-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(1.07g、0.48mmol)をクロロホルム(1.2mL)中に溶解させ、DBU(2.0モル当量)を加えて撹拌した。脱保護反応完結後、メタンスルホン酸(2.1モル当量)とN-メチルモルホリン(2.1モル当量)とを含むクロロホルム溶液を加モルえた後、Fmoc-Trp(Boc)-OH(1.25モル当量)、COMU(1.25当量)を添加して撹拌した。縮合反応完結後、MeOH(38mL)を加えて撹拌し、沈殿物をろ過してメタノールとアセトニトリルの混合溶媒(体積比で1:1)で洗浄し、減圧乾燥させることにより、Fmoc-Trp(Boc)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-dLeu-Leu-Arg(pbf)-Pro-O-TAG(1)(0.44g、収率38.7%)を得た。
ESI-MS(+)=2,357.56
【0198】
結果を表2にまとめて示す。
【0199】
【表2】
【0200】
表2に示すように、実施例9~14で使用した式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、比較例2~7で使用した化合物に比べ、得られるペプチド化合物の収率に優れる。
また、表2に示すように、式(1)で表される縮合多環芳香族炭化水素化合物は、総収率でも、収率に優れることがわかる。
【0201】
2019年2月28日に出願された日本国特許出願第2019-035853号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。