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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】排水処理設備
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20220913BHJP
   C02F 3/20 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C02F3/12 A
C02F3/12 J
C02F3/20 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018221059
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020081976
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】辻 大樹
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-250896(JP,A)
【文献】特開2005-046697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12- 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝気槽と沈殿槽を有する排水処理設備により排水処理をする方法であって、
この曝気槽は、散気管(A)と散気管(B)とを備え、
前記散気管(A)は、散気管(A)を構成する筒の一部に穴を設け、この筒の周壁に膜を取り付け、この膜に1~2mmの長さのスリットを刻んだものであり、かつ、この散気管(A)に通気することにより、前記膜のスリットより気泡が形成され、この気泡のうち、その径が2.7~4.2mmの気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上であり、
前記散気管(B)は、散気管(B)を構成する配管に、直径1mm~10mmの散気孔を設けたものであり、かつ、この散気管(B)により気泡が形成され、この気泡のうち、その径が4.6mm以上の気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上であり、
前記気泡の径は、水面より500mm下方の位置を通過する気泡を測定したものであり、
前記の散気管(A)と散気管(B)とを並列に配し、この散気管(A)と散気管(B)とに同時に通気する排水処理方法
【請求項2】
前記曝気槽で処理される処理対象水は、活性汚泥を含み、かつ、pH範囲が8.0~9.0である請求項1に記載の排水処理方法
【請求項3】
前記曝気槽で処理される処理対象水は、希釈水として海水を含有する請求項1又は2に記載の排水処理方法
【請求項4】
前記散気管(A)の通気量が0.1~10.0m/Hであり、かつ前記散気管(B)の通気量が0.1~10.0m/Hである、請求項1~3のいずれか1項に記載の排水処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー効率を高めながらも長期間の安定運転が可能な排水処理設備に関する。より詳しくは、本発明は、酸素溶解効率の高い散気管を使用することによるエネルギー効率を高めると共に、微生物による有機物分解を利用した好気性の曝気槽における糸状菌の発生を抑制することで長期間の安定運転を行うことのできる排水処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工場では、一般的に排水を処理するために排水処理設備が設けられている。このような排水処理設備は、一般的に排水中の有機物を分解する微生物を用いた曝気槽と処理された排水と微生物(汚泥)を分離する沈殿槽を備える。沈殿槽で処理された上澄みの処理水は、砂ろ過塔で有機系懸濁物質(SS)が処理され、活性炭塔で残存化学的酸素要求量(COD)を除去するのが一般的な方法である。
また、曝気槽では、好気性の微生物へ酸素を供給するために散気装置を用いた空気曝気が行われている。
【0003】
従来から使用される散気装置は、気泡直径の比較的大きな気泡が全体の気泡体積の80%以上の粗大気泡を発生させる散気管を使用したものである。このような散気管を使用した排水処理設備として、例えば特許文献1、2に記載の排水処理設備が挙げられる。
【0004】
一方、近年、樹脂製の筒にエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)やシリコンなどの材質に1~2mm程度のスリットを大量に入れた膜を取り付けた、微細気泡を形成させることができるメンブレンタイプの散気管が市販されている。このような散気管を使用した排水処理設備として、例えば特許文献3、4に記載の排水処理設備が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-137885号公報
【文献】特開2002-307091号公報
【文献】特開2018-164894号公報
【文献】特開2018-164887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、排水処理設備の曝気槽で使用される電力消費の多くはこの曝気に必要なブロワーの運転によるものであり、散気装置による酸素溶解速度を向上させることにより、必要空気量を減らして曝気電力を低減することが可能である。このことから、本発明者は酸素溶解速度を向上させるために微細気泡を形成させることができる散気管を使用することを検討した。
【0007】
しかしながら、本発明者の検討の結果、このような微細気泡を形成させることができる散気管を使用した場合、曝気槽内において、糸状菌が異常増殖し、汚泥の沈降性が悪化し、その結果、沈殿槽での界面上昇が起こり処理水中に高濃度で汚泥が含まれる問題が発生した。このため、微細気泡を形成させることができる散気管を使用した場合には長時間の安定運転が困難になるという問題があることがわかった。
【0008】
これは、微細気泡により、曝気槽内の処理対象水の溶存酸素量が増大するという特徴はあるものの、微細気泡の使用により処理水中に送り込む空気量を低減させるので、その結果、槽内撹拌力が低下してしまい、汚泥堆積、汚泥腐敗等が生じ、糸状菌が繁殖しやすい環境になったためと考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、酸素溶解効率の高い散気管を使用することによるエネルギー効率を高めると共に、微生物による有機物分解を利用した好気性の曝気槽における糸状菌の発生を抑制することにより、長期間の安定運転を行うことのできる排水処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、汚泥無機分を多く含む活性汚泥を処理する排水処理設備の曝気槽において、高負荷運転を行う際に、微細気泡を形成することのできる散気管を運転しながら、気泡径の大きい泡を形成することのできる散気管を運転することにより、酸素溶解速度を向上させると共に、曝気槽内の循環力を維持することで糸状菌を抑制させることを特徴とする。
【0011】
本発明者が前記課題を解決するために詳細な検討を行った結果、微細気泡を形成することのできる散気管と共に気泡径の大きな泡を形成することのできる散気管を併用することで、曝気槽内の液循環が良好となり、糸状菌の異常増殖を抑制することができることを見出した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
[1]曝気槽と沈殿槽を有する排水処理設備であって、この曝気槽に、気泡径が2.7~4.2mmの気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上である気泡を形成させる散気管(A)と、気泡径が4.6mm以上の気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上である気泡を形成させる散気管(B)とを備える排水処理設備。
[2]前記曝気槽で処理される処理対象水は、活性汚泥を含み、かつ、pH範囲が8.0~9.0である[1]に記載の排水処理設備。
[3]前記曝気槽で処理される処理対象水は、希釈水として海水を含有する[1]又は[2]に記載の排水処理設備。
[4]前記散気管(A)の通気量が0.1~10.0m/Hであり、かつ前記散気管(B)の通気量が0.1~10.0m/Hである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の排水処理設備。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸素溶解効率の高い散気管を使用することにより、酸素溶解速度を向上させることによりエネルギー効率を高めると共に、微生物による有機物分解を利用した好気性の曝気槽における糸状菌の発生を抑制することで長期間の安定運転を行うことのできる排水処理設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】排水処理設備の例を示すフロー図
図2】実施例で用いた気泡径測定装置を示す模式図
図3】(a)実施例で用いた排水処理設備の例を示す模式図、(b)(a)の散気管の配置を示す平面図
図4】実施例1における散気管A1、散気管B1の通気量の変化を示すグラフ
図5】比較例1、比較例2における沈殿槽界面挙動を示すグラフ
図6】比較例1における汚泥観察結果を示す写真
図7】実施例1における排水処理量と沈殿槽界面挙動を示すグラフ
図8】(a)散気管B1使用時の槽内液循環の模式図、(b)散気管A1使用時の槽内液循環の模式図、(c)散気管A1及びB1使用時の槽内液循環の模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔排水処理設備〕
本発明にかかる排水処理設備は、曝気槽と沈殿槽を有する設備である。この曝気槽は、微細気泡を形成することのできる散気管として、気泡径が2.7~4.2mmの気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上である気泡を形成させる散気管(A)と、気泡径の大きい泡を形成することができる散気管として、気泡径が4.6mm以上の気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上である気泡を形成させる散気管(B)とを備える。
【0017】
本発明の排水処理設備は、酸素溶解効率の高い散気管を使用することによりエネルギー効率を高めると共に、微生物による有機物分解を利用した好気性の曝気槽における糸状菌の発生を抑制することで長期間の安定運転を行うことができる。すなわち、本発明の排水処理設備では、散気管(A)を用いることでエネルギー効率が高められる。一方、本発明者の検討によれば、散気管(A)を単独で用いると、曝気槽の運転pH範囲がアルカリ性である場合、無機分を多く含む沈降しやすい汚泥が生成する。このような汚泥は、曝気槽内に送り込まれる空気量が低減し、曝気槽内の撹拌力が低下すると、曝気槽底部に堆積し、嫌気性条件となり汚泥が腐敗しやすい状況が生じ得る。特に、無機分を多く含む汚泥の場合、汚泥の堆積が起こり糸状菌の異常発生が起こりやすい状態となる。このような状況に対して、本発明の排水処理設備では、散気管(A)と共に散気管(B)を併用して運転することにより、散気管(B)により発生する相対的に大きな気泡は曝気槽内の水中での上昇速度が速く、その速度で液が循環するために、曝気槽内の循環力が維持されて糸状菌を抑制することができるものと考えられる。
【0018】
図1に排水処理設備の一例を示す。排水処理設備は一般的に、活性汚泥法と呼ばれる微生物処理によって排水中の有機物を酸化分解する曝気槽17と、そこで処理された排水を処理水と固体(微生物)に自然沈降分離する沈殿槽18とから構成される。
【0019】
具体的には、エアコンプレッサー12により送られた空気11が曝気槽17内に設置された散気装置13に送られ、曝気槽17に送られた排水処理の対象である処理対象水14中に気泡を発生させて、処理対象水14の中に酸素が供給される。曝気槽17において、微生物処理によって処理対象水14中の有機物が酸化分解され、この処理後の排水である曝気槽処理水15が曝気槽処理水供給ライン15aによって、沈殿槽18に送られる。沈殿槽18において、自然沈降分離されて、沈殿槽処理水19と沈殿物(微生物等の固体)19bに分離され、この沈殿物19bは返送汚泥16として、返送汚泥供給ライン16aを経由して曝気槽17に戻される。そして、沈殿槽処理水19は、沈殿槽処理水供給ライン19aを経由して、次工程に送られる。
このとき、前記散気装置13として、前記の散気管(A)と散気管(B)とが併用される。
【0020】
<曝気槽>
次に、本発明の排水処理設備で用いられる散気管(A)及び散気管(B)について説明する。
【0021】
[散気管(A)]
散気管(A)は、気泡径が2.7~4.2mmの気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上である気泡を形成させるものである。散気管(A)がこのような微細気泡を発生することができることによって単位体積量当たりの空気が液と接触する表面積が、前記散気管(B)等で形成する粗大気泡よりも増加し、酸素溶解効率が高くなる。また、この観点から、散気管(A)において、前記気泡直径の範囲内の気泡の気泡全体に対する含有割合は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。前記含有割合が前記下限値以上であることにより、酸素溶解効率は高く、より省エネルギー効果が優れたものになる。
【0022】
この散気管(A)の長さは特に制限されず、使用する槽のサイズに合わせて選択される。
この散気管(A)としては、例えば、樹脂製の筒の一部に筒内に供給された空気を外部に放出する穴を設け、かつ、この筒の周壁や側壁、端壁にエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)やシリコンなどの膜を取り付け、この膜に1~2mmの長さのスリットを、刻んだものをあげることができる。この筒に通気することにより、筒から筒の穴を経由して穴の外部に配された膜に向かって空気が放出され、この膜が膨張し、この膜に設けられたスリットから微細な気泡が発生する。このような散気管(A)としては、株式会社EDI JapanEDI Japan製:FlexAir、協和エンジニアリング(株)製等がある。
【0023】
散気管(A)の通気量は、好ましくは0.1m/H以上であり、より好ましくは0.3m/H以上であり、特に好ましいのは0.5m/H以上であり、一方、好ましくは10.0m/H以下であり、より好ましくは9.0m/H以下であり、特に好ましいのは8.0m/H以下である。散気管(A)の通気量が上記下限値以上であると省エネルギーの点で好ましく、上記上限値以下であると槽内の液循環の点で好ましい。
【0024】
[散気管(B)]
散気管(B)は、気泡径が4.6mm以上の気泡直径である気泡が全体の気泡体積の60%以上である気泡を形成させるものである。散気管(B)がこのような気泡を発生することができることによって、粗大気泡上昇による曝気槽内の処理対象水の液循環がより促進される。槽内の液循環を目的とするのであれば、気泡直径はより粗大な方が好ましく、この観点から、散気管(B)において、前記気泡直径の範囲内の気泡の気泡全体に対する含有割合は、好ましくは75%以上であり、より好ましくは90%以上である。前記散気管(B)から散気される気泡の気泡径の上限は特に制限されないが、通常は曝気槽への酸素供給のために使用されるため、この観点から散気管(B)において、微細な気泡もある程度発生できる方が好ましく、このため、気泡径の上限は、通常、80.0mmであり、好ましくは75.0mmである。
【0025】
散気管(B)の形状は、特に限定されず、筒状の配管を例としてあげることができる。また、この大きさ等は特に制限されないが、散気管(B)として用いる配管は、その直径が通常、10~300mm、好ましくは15~250mmである。また、このような配管に通常、1~10mmφ、好ましくは1.5~8mmφの散気孔を設けられたものを用いることができる。
なお、この散気管(A)、及び散気管(B)から形成する気泡の測定方法は、以下の実施例の欄で示す。
【0026】
散気管(B)の通気量は、好ましくは0.1m/H以上であり、より好ましくは0.3m/H以上であり、特に好ましいのは0.5m/H以上であり、一方、好ましくは10.0m/H以下であり、より好ましくは9.0m/H以下であり、特に好ましいのは8.0m/H以下である。散気管(B)の通気量が上記下限値以上であると槽内の液循環の点で好ましく、上記上限値以下であると省エネルギーの点で好ましい。
【0027】
[活性汚泥と処理対象水]
この発明にかかる排水処理設備は、曝気槽において、好気性の微生物による有機物分解を行うことにより排水処理を行う設備である。そして、この曝気槽で処理される前記処理対象水は、工場排水や生活排水等のこの設備で処理を行う対象である排水に、活性汚泥や、これらを希釈する希釈水としての海水を含有する。さらに、後記するように、海水は、pHとの関係で炭酸カルシウム等の無機分の析出が生じる傾向があるので、海水の使用量は所定の制限を受ける場合がある。このとき、さらに希釈したい場合は、工場用水(工水)を用いることができる。
【0028】
前記処理対象水は、通常、海水を含み、曝気槽の運転pH範囲が通常はアルカリ性であるため、無機分を多く含む沈降しやすい汚泥が生成する傾向がある。このような汚泥では曝気槽内の撹拌力が低下すると汚泥が曝気槽底部に堆積し、嫌気性条件となり汚泥が腐敗しやすい状況となる。このため、本発明の排水処理設備において、排水中にアンモニア等のアルカリ性成分が多く含まれる、具体的には曝気槽中の混合液のpH範囲が、好ましくは8.0~9.0、より好ましくは8.2~8.8において、本発明は特に有効である。特に、曝気槽内に排水の希釈として海水を使用することで炭酸カルシウム等の無機分が析出しやすい環境である排水処理設備に対しては、本発明は特に有効である。さらに、無機分の析出により、微生物を含む汚泥フロックの比重が増加し、沈殿槽において汚泥フロックの沈降分離が容易となり、曝気槽での汚泥堆積により腐敗が起こりやすく糸状菌が異常発生しやすい排水処理設備において、本発明は特に有効である。
【0029】
<沈殿槽>
前記沈殿槽は、通常、前記曝気槽において処理された曝気槽処理水と微生物を含む汚泥フロックを、自然沈降分離によって上澄みの処理水と汚泥に分離する設備である。なお、通常、ここで処理された汚泥は曝気槽に戻して用いることができる。
【実施例
【0030】
[気泡径の測定]
図2に示す気泡径測定装置を用いて、気泡径の測定を行った。
まず、水槽27に水深4mの水を張り、散気管23を水深3.5mの位置にセットした。
エアコンプレッサー22から空気21を供給し、面積式流量計等の流量計26で通気量を確認し、調整バルブ24にて流量を調整した。散気圧力は調整バルブ24の出口に設置したデジタルマノメータ等の圧力計25により確認した。
そして、散気管23から分散、上昇した気泡をデジタルカメラ等のカメラ29にて水槽内に設置したスケール28とともに撮影した。
撮影した気泡を無作為に50点抽出し、背後のスケールの目盛から気泡径を実測した。
発生した気泡は真球ではなく楕円に近い形状であった場合は、縦及び横の長さを測定し、これらから楕円球体積を計算し、同体積となる真球の直径に換算し、散気管23から出る気泡の直径とした。
【0031】
気泡径測定には以下の2つの散気管を用いた。
・散気管A1:
樹脂製の管の一部に筒内に供給された空気を外部に放出する穴を設け、かつ、この筒の周壁に膜を取り付け、この膜にスリットを刻んだもの。
なお、詳細の条件は、次の通りである。
スリット幅:2mm、スリットのピッチ:2mm、全長:525mm、散気管有効長:500mm、膜の材質:エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)。
【0032】
・散気管B1:
下記の条件の塩化ビニル配管。
散気孔径:1mmφ、散気孔のピッチ:20mm、配管径:15mm、配管の長さ:500mm。
【0033】
結果を表1に示す。散気管B1では気泡径4.6mm以上が90%超を占め、一方で散気管A1は2.7~4.2mmの気泡径が全体の約90%であり微細な気泡を発生していることが分かった。すなわち、散気管A1は本発明における散気管(A)に該当し、散気管B1は本発明における散気管(B)に該当する。
【0034】
【表1】
【0035】
[実施例1、比較例1~2]
図3(a)に活性汚泥試験設備を用いて実験を行った。
まず、曝気槽37は、650mm×650mm×370mmの容積156Lの設備である。
活性汚泥は、実機から移植したものを使用し、排水についても実機で処理するものを一部バイパスさせてタンク(図示せず)へ貯め、連続処理した。この活性汚泥の添加量は、後記の処理対象水全量に対し、活性汚泥処理能力を十分に維持できる所定の汚泥濃度を維持できるように、適宜調整した。
活性汚泥及び希釈水として使用している海水を、前記タンクに貯めた排水に加え、液のpHが8.0~9.0の範囲内になるように調整して処理対象水原液とした。そして、ポンプ41aの吐出部に電磁流量計42aを設置し、目標流量になるようにポンプの回転数を制御して流量調整し、所定流量を連続供給した。
また、工水についても同様に、ポンプ41bの吐出部に電磁流量計42bを設置し、目標流量になるようにポンプの回転数を制御して流量調整し、所定流量を連続供給した。そして、処理対象水原液にこの工水を混合させることにより、処理対象水を調整した。
さらに、曝気槽37に、図3(a)(b)に示すように、散気管A1及び散気管B1を並列に設置し、その配管に調整バルブ34b、34cを設け、散気管A1又は散気管B1の単独運転若しくはこれらの両方を同時運転するハイブリッド運転が可能となるようにした。なお、散気管A1単独で運転した場合を比較例1、散気管B1単独で運転した場合を比較例2、散気管A1と散気管B1を同時運転した場合を実施例1として実験を行った。
散気管A1及び/又はB1には、空気31をエアコンプレッサー32を用いて供給した。空気量はオリフィス式の流量計33にて確認し調整バルブ34aで調整した。空気量調整の目安として、槽内に酸化還元電位(ORP)計36を設置し、指示値が-80mV~-120mVの間に入るように空気量を調整した。
また、曝気槽37の温度は温度調節器付の投げ込み式ヒーターを使用し35℃±1℃で運転した。
曝気槽37内で処理された曝気槽処理水35は、曝気槽37をオーバーフローし、曝気槽処理水供給ライン35aを経由して、沈殿槽38へ流入させた。
沈殿槽38は内径400mm高さ500mmの円筒部、及び内径400mm高さ300mmの三角錐からなる底部から構成され、内容積は約80Lである。沈殿槽38内で静置分離された沈殿物(汚泥)39bは沈殿槽38に設置したスケール40にて液面から汚泥界面までの高さ(汚泥界面高さ)を測定した。
なお、実施例1における散気管A1及び散気管B1への通気量は、図4に示す量とした。すなわち、運転開始時は散気管B1にのみ通気(通気量は3m/Hで固定)し、排水量が増加するに伴って不足分の空気を散気管A1から供給した。具体的には、排水量の増加に伴い高効率散気管からの通気量を増加し、最大処理量に到達した30日以降での通気量は1.5~4.0m/Hで変動した。
【0036】
[結果]
<比較例1及び比較例2の結果>
散気管A1を単独で運転した場合(比較例1)、及び散気管B1を単独で運転した場合(比較例2)の沈殿槽の汚泥界面の高さの変化について図5に示す。
比較例2において、散気管B1単独の場合、運転開始後40日が経過しても汚泥界面高さはほぼ変わらず、汚泥の顕微鏡観察から運転開始前の汚泥と比較して大きな変化がないことが確認された。しかし、散気管B1への空気供給量は、図示しないが、平均で3m/Hであり、実施例1の場合に比べて約3倍となり、曝気電力が大きくなり、エネルギー効率が実施例1に比べて悪いことが確認された。これは、散気管B1のみでは、酸素溶解効率が低いため、処理に必要な空気量が増大したためであると考えられる。
また、比較例1においては、散気管A1単独の場合、運転開始直後から汚泥界面が上昇し始め約30日で汚泥が沈殿槽からリークする状態となった。
比較例1において、実験の前後の汚泥の状態を確認するため、運転開始時、運転10日後、及び運転30日後の汚泥観察を行った。汚泥観察は曝気槽汚泥をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかけたものを倍率100倍の光学顕微鏡で観察した。
その汚泥観察結果を図6に示す。運転開始時には汚泥フロックのみが観察されたが、運転開始から徐々に糸状の微生物が成長するのが観察され、運転30日後には汚泥フロック間を埋めるほど成長しているのが確認された。散気管A1を単独で運転したことで糸状菌が異常発生し、沈殿槽の汚泥界面上昇を引き起こしたと考えられる。
【0037】
<実施例1の結果>
散気管A1及び散気管B1の両方を同時に使用した場合(実施例1)の沈殿槽の排水処理量及び汚泥の界面高さの変化について図7に示す。
比較例1では30日程度で糸状菌が異常増殖し汚泥界面が上昇したが、実施例1では、連続で90日以上の期間で汚泥界面を通常時並に維持できた。
汚泥を顕微鏡で確認しても糸状菌の異常増殖は確認できなかったことから、糸状菌増殖を抑制しながら高効率散気管を使用した省エネルギー運転が可能となった。
【0038】
<考察>
これらの結果から、散気管B1を単独で用いた場合(比較例2)、図8(a)に示すように、気泡による対流が生じ、槽内の液循環は十分に生じるものの、溶存酸素量が十分でなく、活性汚泥による汚泥処理が十分に生じていないと考えられる。
【0039】
また、散気管A1を単独で用いた場合(比較例1)、図8(b)に示すように、溶存酸素量を増加させることができるため、空気量が低減できる。しかし、槽内の液循環力については小さくなると考えられる。また、糸状菌は汚泥滞留部の嫌気性になりやすい領域で増殖しやすいことが知られている。これらから、曝気槽底部に汚泥滞留部が発生し糸状菌が増殖しやすい環境になり、滞留部に糸状菌が繁殖したと考えられる。
【0040】
一方、散気管A1と散気管B1を併用した場合(実施例1)、散気管B1の粗大気泡により槽内の液循環が発生すると共に、散気管A1により溶存酸素量が増大するので、汚泥滞留部の生成を抑制し、糸状菌の異常増殖を阻害することができ、活性汚泥による排水処理を長期間、安定して運転することができたと考えられる。
【符号の説明】
【0041】
11、21、31 空気
12、22、32 エアコンプレッサー
13、23、A1、B1 散気装置(散気管)
14 処理対象水
15、35 曝気槽処理水
15a、35a 曝気槽処理水供給ライン
16 返送汚泥
16a 返送汚泥供給ライン
17、37 曝気槽
18、38 沈殿槽
19 沈殿槽処理水
19a 沈殿槽処理水供給ライン
19b、39b 沈殿物
24 調整バルブ
25 圧力計
26 流量計
27 水槽
28 スケール
29 カメラ
33 流量計
34a、34b、34c 調整バルブ
36 酸化還元電位(ORP)計
40 スケール
41a、41b ポンプ
42a、42b 流量計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8