IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JNC株式会社の特許一覧 ▶ JNC石油化学株式会社の特許一覧

特許7139956液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、テトラカルボン酸二無水物、およびポリアミック酸及びその誘導体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、テトラカルボン酸二無水物、およびポリアミック酸及びその誘導体
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20220913BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019002024
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020060755
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018189350
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久田 梨香
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕以智
【審査官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/024893(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109207170(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物およびジアミンからの反応生成物である、ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つのポリマーを含む液晶配向剤であって;
前記テトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つが式(1)で表される構造を有する、液晶配向剤;
【化1】
式(1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
は酸素原子または硫黄原子であり;そして、
*は結合手であることを示す。
【請求項2】
式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、請求項1に記載の液晶配向剤;
【化2】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であり;
は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであり;
が単結合の場合、Rは-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であることはなく;そして、Rは酸素原子または硫黄原子である。
【請求項3】
式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1-1)~式(1-1-16)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、請求項2に記載の液晶配向剤;
【化3】
【化4】
【化5】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶配向剤によって形成される液晶配向膜。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【請求項6】
請求項4に記載の液晶配向膜を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、テトラカルボン酸二無水物、およびポリアミック酸及びその誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのモニター、液晶テレビ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型ディスプレイ、車載モニター、タブレット、スマートフォン等の様々な表示装置、さらには、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブ等のオプトエレクトロニクス関連素子等、今日製品化されて一般に流通している液晶表示素子は、ネマティック液晶を用いた表示素子が主流である。ネマティック液晶表示素子の表示方式は、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モードがよく知られている。近年、これらのモードの問題点の1つである視野角の狭さを改善するために、光学補償フィルムを用いたTN型液晶表示素子、垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi-domain Vertical Alignment)モード、あるいは横電界方式のIPS(In-Plane Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード等が提案され、実用化されている。
【0003】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。液晶表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は表示品位に係わる重要な材料の1つであり、液晶表示素子の高品質化に伴い、液晶配向膜の性能を向上させる事が重要になってきている。
【0004】
液晶配向膜は、液晶配向剤より形成される。現在、主として用いられている液晶配向剤は、ポリアミック酸または可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液(ワニス)である。この溶液を基板に塗布した後、加熱等の手段により成膜してポリイミド系液晶配向膜を形成する。製膜後、必要に応じ前述の表示モードに適する配向処理が施される。
【0005】
工業的には、簡便で大面積の高速処理が可能なラビング法が、配向処理法として広く用いられている。ラビング法は、ナイロン、レーヨン、ポリエステル等の繊維を植毛した布を用いて液晶配向膜の表面を一方向に擦る処理であり、これによって液晶分子の一様な配向を得ることが可能になる。しかし、ラビング法では、ラビング削れやラビング傷が生じ、表示品位を低下させるという問題がある。
【0006】
さらに近年、液晶表示素子における薄型化および表示領域の拡大化に伴い、基板上の外側の画素を形成しない領域(額縁領域と言う)を狭くする技術、いわゆる狭額縁化の適用が検討されている。狭額縁化を適用すると、2枚のガラス基板を接着するシール剤の塗布面積を小さくする必要があり、このため基板同士の密着性が低下するという問題がある。さらに最近では、更なる狭額縁化を達成するため、ガラス基板上一面に液晶配向剤を塗布し、形成される液晶配向膜上にシール剤を塗布し、2枚のガラス基板を接着させる技術も検討されている。このとき、液晶配向膜の基板およびシール剤に対する密着性の低下が大きな問題となってくる。特に、液晶配向膜とシール剤との界面の密着性は、ガラス基板とシール剤との界面の密着性より弱いことが知られており、狭額縁化達成のためにも、液晶配向膜とシール剤との界面の密着性の向上が求められている(例えば、特許文献1および2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-258665
【文献】国際公開2015/080186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ラビング耐性に優れ、シール剤との密着性が高く、良好な残像特性を与える液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤を提供することである。また、該液晶配向剤により形成される液晶配向膜、該液晶配向膜を有する液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、本発明の式(1)の構造を有するテトラカルボン酸二無水物を液晶配向剤の原料として使用することで、ラビング耐性に優れ、シール剤との密着性が高く、良好な残像特性を与える液晶配向膜を形成することができ、表示品位の高い液晶表示素子を与えることを見出し、本発明を完成した。本発明は以下からなる。
【0010】
[1] テトラカルボン酸二無水物およびジアミンからの反応生成物である、ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つのポリマーを含む液晶配向剤であって;
前記テトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つが式(1)で表される構造を有する、液晶配向剤;
【化1】
式(1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
は酸素原子または硫黄原子であり;そして、
*は結合手であることを示す。
【0011】
[2] 式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、[1]項に記載の液晶配向剤;
【化2】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であり;
は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであり;
が単結合の場合、Rは-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であることはなく;そして、
は酸素原子または硫黄原子である。
【0012】
[3] 式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1-1)~式(1-1-16)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、[2]項に記載の液晶配向剤;
【化3】
【化4】
【化5】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載の液晶配向剤によって形成される液晶配向膜。
【0014】
[5] [4]項に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【0015】
[6] [4]項に記載の液晶配向膜を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【0016】
[7] 式(1-1-1)~式(1-1-16)のいずれかで表されるテトラカルボン酸二無水物;
【化6】
【化7】
【化8】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0017】
[8] 式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つを有するテトラカルボン酸二無水物とジアミンからの反応生成物である、ポリアミック酸またはポリイミド;
【化9】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であり;
は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであり;
が単結合の場合、Rは-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であることはなく;そして、
は酸素原子または硫黄原子である。
【0018】
[9] 式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、式(1-1-1)~式(1-1-16)で表されるテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つである、[8]項に記載のポリアミック酸またはポリイミド;
【化10】
【化11】
【化12】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の液晶配向剤によって形成された液晶配向膜はラビング削れやラビング傷が起こりにくく、ラビング耐性に優れる。また、シール剤との密着性が高く、残像特性が良好で表示品位の高い液晶表示素子を与える液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを反応させて得られる、ポリアミック酸およびその誘導体の少なくとも1つのポリマーを含み、前記テトラカルボン酸二無水物が下記式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1つを含む、液晶配向剤である。
【化13】
式(1)において、Aはそれぞれ独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり、Rは酸素原子または硫黄原子であり、*は結合手である。本明細書中、「150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基」とは、加熱により水素原子に置き換わる基であれば特に制限はないが、好適には、Boc(t-ブトキシカルボニル基の略)、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等のカルバメート系保護基が挙げられる。
【0021】
式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物は、例えば下記式(1-1)で表すことができる。
【化14】
式(1-1)において、Aは独立して、水素または150~300℃の加熱により水素に置き換わる熱脱離性基であり;
は、独立して、単結合、-O-、-S-、-COO-、または-OCO-であり;
は、独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレンであり;そして、
は、独立して、酸素原子または硫黄原子である。
【0022】
式(1-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の具体例を以下に挙げる。
【化15】
【化16】
【化17】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0023】
本発明の液晶配向剤は、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物によってもたらされる(チオ)ウレア結合または加熱により(チオ)ウレア結合となる構造を有する。(チオ)ウレア結合は互いに強い相互作用(例えば、水素結合)を有するため、膜硬度が高く、ラビング耐性に優れ、さらにシール密着性にも優れた液晶配向膜を与えることができる。また、(チオ)ウレア結合は液晶配向膜中の電荷の移動を促進する基として作用し、蓄積された電荷を素早く緩和する働きを担うと考えられる。式(1-1-1)~式(1-1-16)のテトラカルボン酸二無水物のように、主鎖に長鎖のスペーサ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用すれば、さらに液晶配向性の優れた液晶配向膜を与えることができる。
【0024】
前記ポリアミック酸の誘導体とは、溶剤を含有する後述する液晶配向剤としたときに溶剤に溶解する成分であり、その液晶配向剤を後述する液晶配向膜としたときに、ポリイミドを主成分とする液晶配向膜を形成することができる成分である。このようなポリアミック酸の誘導体としては、例えば(可溶性)ポリイミド、ポリアミック酸エステル、およびポリアミック酸-ポリアミドコポリマー等が挙げられ、より具体的には1)ポリアミック酸の全てのアミノとカルボキシルとが脱水閉環反応したポリイミド、2)部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、3)ポリアミック酸のカルボキシルがエステルに変換されたポリアミック酸エステル、4)テトラカルボン酸二無水物化合物に含まれる酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置き換えて反応させて得られるポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、さらに5)該ポリアミック酸-ポリアミドコポリマーの一部または全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドが挙げられる。前記ポリアミック酸またはその誘導体は、1種の化合物であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
ここで、ポリアミック酸は、式(DI)で表されるジアミンと式(AN)で表されるテトラカルボン酸二無水物との重合反応により合成されるポリマーであり、式(PAA)で表される繰り返し単位を有する。ポリアミック酸を脱水閉環することで、式(PI)で表される繰り返し単位を有するポリイミド液晶配向膜を形成することができる。ジアミンとして、式(1)で表される構造の結合位置*にアミノ基が連結した構造を有する化合物を用いることにより、式(1)で表される構造を容易に主鎖に導入することができる。ジアミンにおけるアミノ基は、式(1)で表される構造の結合位置*に直接結合していてもよいし、2価の連結基を介して連結していてもよい。また、ポリアミック酸エステルの繰り返し単位は式(PAE)で表される。
【0026】
【化18】
【0027】
【化19】
【0028】
式(AN)、式(PAA)、式(PI)、式(PAE)において、Xは4価の有機基であり、式(DI)、式(PAA)、式(PI)、および式(PAE)において、Xは2価の有機基であり、式(PAE)において、Yはアルキル基である。
【0029】
本発明のポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つを含有する液晶配向剤を製造する為に使用する、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物について説明する。本発明に使用されるテトラカルボン酸二無水物は、公知のテトラカルボン酸二無水物から制限されることなく選択することができる。このようなテトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、および芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。
【0030】
このようなテトラカルボン酸二無水物の例として、特開2016-029447や国際公開2016/104514などに記載のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。例えば、以下に示す脂肪族系テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【化20】
式(a-1-2)において、mは1~12の整数である。
【0031】
また、以下に示す芳香族系テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【化21】
式(a-2-6)において、mは1~12の整数である。
【0032】
上記テトラカルボン酸二無水物において、各特性を向上させる好適な材料について述べる。
【0033】
液晶の配向性を向上させることを重視する場合には、式(a-1-2)、(a-1-13)、(a-2-1)、(a-2-3)、(a-2-6)および(a-2-7)で表される化合物がより好ましい。式(a-1-2)においては、m=4または8が好ましい。式(a-2-6)においては、m=4または8が好ましく、m=8がより好ましい。
【0034】
液晶表示素子の透過率を向上させるあるいはVHRを向上させることを重視する場合には、上記の酸二無水物のうち、式(a-1-1)、(a-1-2)、(a-1-3)、(a-1-4)、(a-1-5)、(a-1-6)、(a-1-7)、(a-1-8)、(a-1-9)、(a-1-10)、(a-1-11)、(a-1-12)、および(a-1-14)で表される化合物が好ましい。式(a-1-2)においては、m=4または8が好ましい。
【0035】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、上記の酸二無水物のうち、式(a-1-12)、(a-2-1)、(a-2-2)、(a-2-4)、および(a-2-7)で表される化合物が好ましい。
【0036】
本発明のポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つを含有する液晶配向剤を製造する為に使用する、ジアミンおよびジヒドラジドについて説明する。本発明の液晶配向剤を製造するにあたっては、公知のジアミンおよびジヒドラジドから制限されることなく選択することができる。
【0037】
ジアミンはその構造によって2種類に分けることができる。即ち、2つのアミノ基を結ぶ骨格を主鎖として見たときに、主鎖から分岐する基、即ち側鎖基を有するジアミンと側鎖基を持たないジアミンである。この側鎖基はプレチルト角を大きくする効果を有する基である。このような効果を有する側鎖基は炭素数3以上の基である必要があり、具体的な例として炭素数3以上のアルキル、炭素数3以上のアルコキシ、炭素数3以上のアルコキシアルキル、およびステロイド骨格を有する基を挙げることができる。1つ以上の環を有する基であって、その末端の環が置換基として炭素数1以上のアルキル、炭素数1以上のアルコキシおよび炭素数2以上のアルコキシアルキルのいずれか1つを有する基も側鎖基としての効果を有する。以下の説明では、このような側鎖基を有するジアミンを側鎖型ジアミンと称することがある。そして、このような側鎖基を持たないジアミンを非側鎖型ジアミンと称することがある。
【0038】
非側鎖型ジアミンと側鎖型ジアミンを適切に使い分けることにより、それぞれに必要なプレチルト角に対応することができる。側鎖型ジアミンは、本発明の特性を損なわない程度に併用するのが好ましい。また側鎖型ジアミンおよび非側鎖型ジアミンについて、液晶に対する垂直配向性、電圧保持率、焼き付き特性および配向性を向上させる目的で取捨選択して使用することが好ましい。
【0039】
このようなジアミンおよびジヒドラジドの例として、特開2016-029447や国際公開2016/104514などに記載のジアミンおよびジヒドラジドを挙げることができる。例を以下に示す。
【化22】
式(b-1-3)および式(b-1-5)において、mは1~12の整数であり、式(b-1-8)において、kは1~5の整数であり、式(b-1-10)において、mは1~12の整数であり、nは独立して1または2である。
【化23】
式(b-1-19)において、nは1~6の整数である。
【化24】
式(b-1-21)~式(b-1-24)において、eは独立して2~10の整数であり、式(b-1-24)中、R11は独立して水素、-NHBocまたは-N(Boc)であり、R43の少なくとも1つは-NHBocまたは-N(Boc)であり、式(b-1-25)において、R12は-NHBocまたは-N(Boc)であり、そして、mは1~12の整数である。ここでBocはt-ブトキシカルボニル基である。
【化25】
式(b-2-3)において、R12は炭素数4~30のアルキルであり、好ましくは炭素数6~25のアルキルである。
【化26】

【化27】
式(b-2-8)~式(b-2-13)において、R13は独立して炭素数1~30のアルキルまたは炭素数1~30のアルコキシであり、好ましくは炭素数5~25のアルキルまたは炭素数5~25のアルコキシである。
【化28】
式(b-2-14)~式(b-2-17)において、R14は独立して炭素数1~30のアルキルまたは炭素数1~30のアルコキシであり、好ましくは炭素数5~25のアルキルまたは炭素数5~25のアルコキシである。
【0040】
上記ジアミンおよびジヒドラジドにおいて、各特性を向上させる好適な材料について述べる。
【0041】
液晶の配向性をさらに向上させることを重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-3)、式(b-1-5)、式(b-1-8)、式(b-1-10)、式(b-1-18)、式(b-1-21)、式(b-1-22)、式(b-1-23)、式(b-1-26)、式(b-2-3)、式(b-2-6)、式(b-2-7)、式(b-2-8)、および式(b-2-9)で表されるジアミンを用いるのが好ましい。式(b-1-3)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(b-1-5)においては、m=2~6が好ましく、m=5がより好ましい。式(b-1-8)においては、k=2が好ましい。式(b-1-10)においては、m=2、3または4、n=1または2が好ましく、m=3、n=1がより好ましい。
【0042】
透過率を向上させることを重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-1)、式(b-1-3)、式(b-1-7)、および式(b-1-10)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、(b-1-1)で表されるジアミンがより好ましい。式(b-1-3)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(b-1-10)においては、m=2または3、n=1または2が好ましく、m=3、n=1がより好ましい。
【0043】
液晶表示素子のVHRを向上させることを重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-1)、式(b-1-2)、式(b-1-3)、式(b-1-6)、式(b-1-8)、式(b-1-9)、式(b-1-11)、式(b-2-1)、および式(b-2-2)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(b-1-1)、式(b-1-3)、および式(b-1-9)で表されるジアミンがより好ましい。式(b-1-3)においては、m=1が好ましい。式(b-1-8)においては、k=2が好ましい。
【0044】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、上記のジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-2)、式(b-1-3)、式(b-1-5)、式(b-1-6)、式(b-1-11)、および式(b-2-2)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(b-1-2)、および式(b-1-3)で表されるジアミンがより好ましい。式(b-1-3)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(b-1-5)においては、m=2~6が好ましく、m=5がより好ましい。
【0045】
液晶配向膜のラビング耐性およびシール密着性を重視する場合は、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物によってもたらされる(チオ)ウレア結合と相互作用する基を有するジアミンを用いるのが好ましい。例えば、水素結合を形成する基である、2級アミン残基、3級アミン残基、水酸基、カルボキシ基、アミド基、イミド基、(チオ)ウレア基等を有するジアミンが挙げられる。上記ジアミンおよびジヒドラジドのうち、式(b-1-6)、式(b-1-8)、式(b-1-9)、式(b-1-11)、式(b-1-13)、式(b-1-17)~式(b-1-20)、式(b-1-26)、式(b-2-1)、式(b-2-2)、および式(b-2-4)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(b-1-6)、式(b-1-8)、式(b-1-9)、式(b-1-11)、式(b-1-17)、式(b-1-18)、式(b-1-26)、式(b-2-1)、式(b-2-2)、および式(b-2-4)で表されるジアミンを用いるのがより好ましい。
【0046】
各ジアミンにおいて、ジアミンに対するモノアミンの比率が40モル%以下の範囲で、ジアミンの一部がモノアミンに置き換えられていてもよい。このような置き換えは、ポリアミック酸を生成する際の重合反応のターミネーションを起こすことができ、それ以上の重合反応の進行を抑えることができる。このため、このような置き換えによって、得られるポリマー(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルまたはポリイミド)の分子量を容易に制御することができ、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。モノアミンに置き換えられるジアミンは、本発明の効果が損なわれなければ、1種でも2種以上でもよい。前記モノアミンとしては、例えばアニリン、4-ヒドロキシアニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、およびn-エイコシルアミンが挙げられる。
【0047】
本発明のポリアミック酸およびその誘導体は、そのモノマーにモノイソシアネート化合物をさらに含んでいてもよい。モノイソシアネート化合物をモノマーに含むことによって、得られるポリアミック酸またはその誘導体の末端が修飾され、分子量が調節される。この末端修飾型のポリアミック酸またはその誘導体を用いることにより、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。モノマー中のモノイソシアネート化合物の含有量は、モノマー中のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の総量に対して1~10モル%であることが、前記の観点から好ましい。前記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、およびナフチルイソシアネートが挙げられる。
【0048】
本発明のポリアミック酸およびその誘導体は、上記の酸無水物の混合物とジアミンを溶剤中で反応させることによって得られる。この合成反応においては、原料の選択以外に特別な条件は必要でなく、通常のポリアミック酸合成における条件をそのまま適用することができる。使用する溶剤については後述する。
【0049】
本発明の液晶配向剤は、本発明のポリアミック酸およびその誘導体以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分は、1種であっても2種以上であってもよい。他の成分として、例えば後述するその他のポリマーや化合物などが挙げられる。
【0050】
その他のポリマーとしては、式(1)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含まない原料モノマーを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体(以下、“その他のポリアミック酸またはその誘導体”という。)、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げる事ができる。1種であっても2種以上であってもよい。これらのうち、その他のポリアミック酸またはその誘導体およびポリシロキサンが好ましく、その他のポリアミック酸またはその誘導体がより好ましい。
【0051】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物として公知のテトラカルボン酸二無水物から制限されることなく選択することができ、上記に例示したものと同じものを挙げることができる。
【0052】
好ましいテトラカルボン酸二無水物としては、上述の各特性を向上させることができる好適な材料が挙げられる。
【0053】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物を、全テトラカルボン酸二無水物に対して、10モル%以上含むものである事が好ましく、30モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0054】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いることのできるその他のジアミンとして上記に例示したものと同じものを挙げることができる。
【0055】
好ましいジアミンおよびジヒドラジドとしては、上述の各特性を向上させることができる好適な材料が挙げられる。
【0056】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものである事が好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0057】
その他のポリアミック酸またはその誘導体は、それぞれ、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体の合成方法として下記に記載したところに準じて合成することができる。
【0058】
前記ポリシロキサンとしては、特開2009-036966、特開2010-185001、特開2011-102963、特開2011-253175、特開2012-159825、国際公開2008/044644、国際公開2009/148099、国際公開2010/074261、国際公開2010/074264、国際公開2010/126108、国際公開2011/068123、国際公開2011/068127、国際公開2011/068128、国際公開2012/115157、国際公開2012/165354等に開示されているポリシロキサンをさらに含有することができる。
【0059】
<アルケニル置換ナジイミド化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、アルケニル置換ナジイミド化合物をさらに含有していてもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物は1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0060】
アルケニル置換ナジイミド化合物は、本発明で用いられるポリアミック酸またはその誘導体を溶解する溶剤に溶解させることができる化合物であることが好ましい。このようなアルケニル置換ナジイミド化合物として、例えば、特開2013-242526等に開示されているアルケニル置換ナジイミド化合物を挙げることができる。好ましいアルケニル置換ナジイミド化合物としては、ビス{4-(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)フェニル}メタン、N,N’-m-キシリレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)が挙げられる。
【0061】
<ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物をさらに含有していてもよい。ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。なお、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物にはアルケニル置換ナジイミド化合物は含まれない。ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0062】
なお、アルケニル置換ナジイミド化合物に対するラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の比率は、液晶表示素子のイオン密度を低減し、イオン密度の経時的な増加を抑制し、さらに残像の発生を抑制するために、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物/アルケニル置換ナジイミド化合物が重量比で0.1~10であることが好ましく、0.5~5であることがより好ましい。
【0063】
好ましいラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物を挙げることができる。
【0064】
<オキサジン化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサジン化合物をさらに含有していてもよい。オキサジン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサジン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0065】
オキサジン化合物は、ポリアミック酸またはその誘導体を溶解させる溶媒に可溶であり、加えて、開環重合性を有するオキサジン化合物が好ましい。好ましいオキサジン化合物としては、例えば、式(OX-3-1)、式(OX-3-9)で表されるオキサジン化合物や、特開2013-242526等に開示されているオキサジン化合物を挙げることができる。
【化29】
【0066】
<オキサゾリン化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサゾリン化合物をさらに含有していてもよい。オキサゾリン化合物はオキサゾリン構造を有する化合物である。オキサゾリン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサゾリン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることが好ましい。または、オキサゾリン化合物の含有量は、オキサゾリン化合物中のオキサゾリン構造をオキサゾリンに換算したときに、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~40重量%であることが、上記の目的から好ましい。
【0067】
オキサゾリン化合物としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているオキサゾリン化合物を挙げることできる。好ましいオキサゾリン化合物としては、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンが挙げられる。
【0068】
<エポキシ化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、エポキシ化合物をさらに含有していてもよい。エポキシ化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。エポキシ化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0069】
エポキシ化合物としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているエポキシ化合物を挙げることができる。好ましいエポキシ化合物としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(3,3’,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシルが挙げられる。
【0070】
また例えば、本発明の液晶配向剤は各種添加剤をさらに含有していてもよい。各種添加剤としては、例えばポリアミック酸およびその誘導体以外の高分子化合物、および低分子化合物が挙げられ、それぞれの目的に応じて選択して使用することができる。
【0071】
例えば、前記高分子化合物としては、有機溶媒に可溶性の高分子化合物が挙げられる。このような高分子化合物を本発明の液晶配向剤に添加することは、形成される液晶配向膜の電気特性や配向性を制御する観点から好ましい。該高分子化合物としては、例えばポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエポキサイド、ポリエステルポリオール、シリコーン変性ポリウレタン、およびシリコーン変性ポリエステルが挙げられる。
【0072】
また、前記低分子化合物としては、例えば1)塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤、2)帯電防止の向上を必要とするときは帯電防止剤、3)基板との密着性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤、また、4)低温でイミド化を進行させる場合はイミド化触媒、が挙げられる。
【0073】
シランカップリング剤としては、例えば、特開2013-242526等に開示されているシランカップリング剤を挙げることができる。好ましいシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。また、イミド化触媒としては、特開2013-242526等に開示されているイミド化触媒を挙げることができる。
【0074】
シランカップリング剤の添加量は、通常、ポリアミック酸またはその誘導体の総重量の0~20重量%であり、0.1~10重量%であることが好ましい。
【0075】
イミド化触媒の添加量は、通常、ポリアミック酸またはその誘導体のカルボニル基に対して0.01~5当量であり、0.05~3当量であることが好ましい。
【0076】
その他の添加剤の添加量は、その用途に応じて異なるが、通常、ポリアミック酸またはその誘導体の総重量の0~100重量%であり、0.1~50重量%であることが好ましい。
【0077】
また例えば、本発明の光液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性や前記ポリアミック酸またはその誘導体の濃度の調整の観点から、溶剤をさらに含有していてもよい。前記溶剤は、高分子成分を溶解する能力を持った溶剤であれば格別制限なく適用可能である。前記溶剤は、ポリアミック酸、(可溶性)ポリイミド等の高分子成分の製造工程や用途面で通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて、適宜選択できる。前記溶剤は1種でも2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0078】
溶剤としては、前記ポリアミック酸またはその誘導体の親溶剤や、塗布性改善を目的とした他の溶剤が挙げられる。
【0079】
ポリアミック酸またはその誘導体に対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、N-メチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン等のラクトンが挙げられる。
【0080】
塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、乳酸アルキル、3-メチル-3-メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、フェニルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、これらのアセテート類等のエステル化合物、ジイソブチルケトンなどのケトン化合物が挙げられる。
【0081】
これらの中で、前記溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジイソブチルケトンが特に好ましい。
【0082】
本発明の液晶配向剤中のポリアミック酸の濃度は0.1~40重量%であることが好ましい。この配向剤を基板に塗布するときには、膜厚の調整のために、含有されているポリアミック酸を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。
【0083】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度は特に限定されるものではなく、下記の種々の塗布法に合わせ最適な値を選べばよい。通常、塗布時のムラやピンホール等を抑えるため、ワニス重量に対し、好ましくは0.1~30重量%、より好ましくは1~10重量%である。
【0084】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリアミック酸またはその誘導体の濃度、使用するポリアミック酸またはその誘導体の種類、溶剤の種類と割合によって好ましい範囲が異なる。例えば、印刷機による塗布の場合、5~100mPa・sの範囲であると、十分な膜厚が得られ、印刷ムラが大きくなることを防ぐことができるため好ましく、10~80mPa・sであることがより好ましい。スピンコートによる塗布の場合は5~200mPa・s(より好ましくは10~100mPa・s)が適している。インクジェット塗布装置を用いて塗布する場合は5~50mPa・s(より好ましくは5~20mPa・s)が適している。液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE-20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0085】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜について詳細に説明する。本発明の液晶配向膜は、前述した本発明の液晶配向剤の塗膜を加熱することによって形成される膜である。本発明の液晶配向膜は、液晶配向剤から液晶配向膜を作製する通常の方法によって得ることができる。例えば本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤の塗膜を形成する工程と、加熱乾燥する工程と、加熱焼成する工程を経ることによって得ることができる。本発明の液晶配向膜については、必要に応じて後述の通り、加熱乾燥工程、加熱焼成工程を経て得られる膜をラビング処理して異方性を付与してもよい。または、必要に応じて、塗膜工程、加熱乾燥工程の後に光を照射して、または加熱焼成工程の後に光を照射して異方性を付与してもよい。
【0086】
塗膜は、通常の液晶配向膜の作製と同様に、液晶表示素子における基板に本発明の液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。基板には、ITO(IndiumTinOxide)、IZO(In-ZnO)、IGZO(In-Ga-ZnO)電極等の電極やカラーフィルタ等が設けられていてもよいガラス製、窒化ケイ素製、アクリル製、ポリカーボネート製、ポリイミド製等の基板が挙げられる。
【0087】
液晶配向剤を基板に塗布する方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても同様に適用可能である。
【0088】
前記加熱乾燥工程は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。加熱乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の温度で実施することが好ましく、加熱焼成工程における温度に対して比較的低い温度で実施することがより好ましい。具体的には加熱乾燥温度は30℃~150℃の範囲であること、さらには50℃~120℃の範囲であることが好ましい。
【0089】
前記加熱焼成工程は、前記ポリアミック酸またはその誘導体が脱水・閉環反応を呈するのに必要な条件で行うことができる。前記塗膜の焼成は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も本発明において同様に適用可能である。一般に100~300℃程度の温度で1分間~3時間行うことが好ましく、120~280℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましい。また、異なる温度で複数回加熱焼成することができる。異なる温度に設定された複数の加熱装置を用いてもよいし、1台の加熱装置を用いて、異なる温度に順次変化させながら行ってもよい。異なる温度で2回加熱焼成を行う場合、1回目は90~180℃、2回目は185℃以上の温度で行うのが好ましい。また、低温度から高温へと温度を変化させて焼成することができる。温度を変化させて焼成を行なう場合、初期温度は90~180℃が好ましい。最終温度は185~300℃が好ましく、190~230℃がより好ましい。
【0090】
本発明の液晶配向膜の形成方法において、液晶を水平および/または垂直方向に対して一方向に配向させるために、配向膜へ異方性を付与する手段として、ラビング法など公知の形成方法を好適に用いることができる。ラビング布の材質としては、コットン、レーヨン、ナイロン等が挙げられる。
【0091】
ラビング法を用いた本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤を基板に塗布する工程と、液晶配向剤を塗布した基板を加熱乾燥する工程と、その膜を加熱焼成する工程と、膜をラビング処理する工程とを経て形成することができる。
【0092】
ラビング処理は、通常の液晶配向膜の配向処理のためのラビング処理と同様に行うことができ、本発明の液晶配向膜において十分なリタデーションが得られる条件であればよい。好ましい条件は、毛足押し込み量0.2~0.8mm、ステージ移動速度5~250mm/sec、ローラー回転速度500~2,000rpmである。
【0093】
本発明の液晶配向膜は、前述した工程以外の他の工程をさらに含む方法によって好適に得られる。例えば、本発明の液晶配向膜は焼成後の膜を洗浄液で洗浄する工程は必須としないが、他の工程の都合で洗浄工程を設けることができる。
【0094】
洗浄液による洗浄方法としては、ブラッシング、ジェットスプレー、蒸気洗浄または超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水または、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。このような洗浄方法は、本発明の液晶配向膜の形成における前記洗浄工程にも適用することができる。
【0095】
本発明の液晶配向膜の液晶配向能を高めるために、加熱焼成工程の前後、ラビング工程の前後に、熱や光によるアニール処理を用いることができる。該アニール処理において、アニール温度が30~180℃、好ましくは50~150℃であり、時間は1分~2時間が好ましい。また、アニール処理に使用するアニール光には、UVランプ、蛍光ランプ、LEDランプなどが挙げられる。光の照射量は0.3~10J/cmであることが好ましい。
【0096】
本発明の液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10~300nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。本発明の液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
【0097】
本発明の液晶配向膜は特に大きな配向の異方性を持つことを特徴とする。このような異方性の大きさは特開2005-275364等に記載の偏光IRを用いた方法で評価する事ができる。また以下に示すようにエリプソメトリーを用いた方法によっても評価することができる。詳しくは、分光エリプソメータによって液晶配向膜のリタデーション値を測定することができる。膜のリタデーション値はポリマー主鎖の配向度に比例して大きくなる。すなわち、大きなリタデーション値を持つものは、大きな配向度を持ち、液晶配向膜として使用した場合、より大きな異方性を持つ配向膜が液晶組成物に対し大きな配向規制力を持つと考えられる。
【0098】
本発明の液晶配向膜は横電界方式の液晶表示素子に好適に用いることができる。横電界方式の液晶表示素子に用いる場合、Pt角が小さいほど、また液晶配向能が高いほど暗状態での黒表示レベルは高くなり、コントラストが向上する。Pt角は1.5°以下が望ましく、1.2°以下がより望ましい。
【0099】
本発明の液晶配向膜は、スマートフォン、タブレット、車載モニター、テレビ等、液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向制御に用いることができる。液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向用途以外に、光学補償材やその他すべての液晶材料の配向制御に用いることができる。また本発明の配向膜は大きな異方性を有するので、単独で光学補償材用途に使用することができる。
【0100】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子について詳細に説明する。本発明は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方または両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子において、前記液晶配向膜が本発明の配向膜である液晶表示素子を提供する。
【0101】
前記電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は、基板の一方の面の全面に形成されていてもよいし、例えばパターン化されている所望の形状に形成されていてもよい。電極の前記所望の形状には、例えば櫛型またはジグザグ構造等が挙げられる。電極は、一対の基板のうちの一方の基板に形成されていてもよいし、両方の基板に形成されていてもよい。電極の形成の形態は液晶表示素子の種類に応じて異なり、例えばIPS型液晶表示素子の場合は前記一対の基板の一方に電極が配置され、その他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板または電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0102】
前記液晶層は、液晶配向膜が形成された面が対向している前記一対の基板によって液晶組成物が挟持される形で形成される。液晶層の形成では、微粒子や樹脂シート等の、前記一対の基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。
【0103】
液晶層の形成方法としては、例えば、真空注入法やODF(One Drop Fill)法を用いることができる。基板の張り合わせに用いられるシール剤としては、例えば、UV硬化型や熱硬化型のシール剤を用いることができる。シール剤の印刷には、例えば、スクリーン印刷法を用いることができる。
【0104】
液晶組成物には、特に制限はなく、誘電率異方性が正または負の各種の液晶組成物を用いることができる。誘電率異方性が正の好ましい液晶組成物には、特許3086228、特許2635435、特表平5-501735、特開平8-157826、特開平8-231960、特開平9-241644(EP885272A1)、特開平9-302346(EP806466A1)、特開平8-199168(EP722998A1)、特開平9-235552、特開平9-255956、特開平9-241643(EP885271A1)、特開平10-204016(EP844229A1)、特開平10-204436、特開平10-231482、特開2000-087040、特開2001-48822等に開示されている液晶組成物が挙げられる。
【0105】
前記負の誘電率異方性を有する液晶組成物の好ましい例として、特開昭57-114532、特開平2-4725、特開平4-224885、特開平8-40953、特開平8-104869、特開平10-168076、特開平10-168453、特開平10-236989、特開平10-236990、特開平10-236992、特開平10-236993、特開平10-236994、特開平10-237000、特開平10-237004、特開平10-237024、特開平10-237035、特開平10-237075、特開平10-237076、特開平10-237448(EP967261A1)、特開平10-287874、特開平10-287875、特開平10-291945、特開平11-029581、特開平11-080049、特開2000-256307、特開2001-019965、特開2001-072626、特開2001-192657、特開2010-037428、国際公開2011/024666、国際公開2010/072370、特表2010-537010、特開2012-077201、特開2009-084362等に開示されている液晶組成物が挙げられる。誘電率異方性が正または負の液晶組成物に1種以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0106】
また例えば、本発明の液晶表示素子に用いる液晶組成物は、例えば配向性を向上させる観点から、添加物をさらに添加してもよい。このような添加物は、光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤などである。好ましい光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤には、国際公開2015/146330等に開示されている化合物が挙げられる。
【0107】
PSA(polymer sustained alignment)モードの液晶表示素子に適合させるために重合可能な化合物を液晶組成物に混合することができる。重合可能な化合物の好ましい例はアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。好ましい化合物には、国際公開2015/146330等に開示されている化合物が挙げられる。
【実施例
【0108】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、実施例において用いる評価法および化合物は次の通りである。
【0109】
1.重量平均分子量(Mw)
ポリアミック酸の重量平均分子量は、2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計(Waters製)を用いてGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。得られたポリアミック酸をリン酸-DMF混合溶液(リン酸/DMF=0.6/100:重量比)で、ポリアミック酸濃度が約2重量%になるように希釈した。カラムはHSPgel RT MB-M(Waters製)を使用し、前記混合溶液を展開剤として、カラム温度50℃、流速0.40mL/minの条件で測定を行った。標準ポリスチレンは東ソー(株)製TSK標準ポリスチレンを用いた。
2.鉛筆硬度
JIS規格「JIS-K-5400、8.4、鉛筆引掻試験」の方法に従った。結果を鉛筆の芯の硬さで表した。鉛筆硬度が低いと剥がれや削れが発生しやすく、この値が3Hよりも大きいと、削れ等が発生しにくい配向膜が得られる。
3.シール密着性
後述するシール密着性測定用サンプルを島津製作所製の卓上形精密万能試験機AGS-X 500Nに上下基板の端を固定し、基板中央の上部から押し込みを行い、剥離する際の圧力(N)を測定した。そして、計測したシール剤の直径より見積もった面積(cm)で圧力(N)を規格化した値を用いてシール密着性を評価した。50N/cm以上だとシール密着性良好といえる。
4.DC残像評価
30Hz、3Vの矩形波を10分間印加した後、0.3Vの直流電圧を20分間重畳した。直流電圧を0Vにした後、再び3Vの矩形波を20分間印加した。直流電圧重畳時の電荷の吸収が早いほど、非対称なAC駆動となった場合の残留DCが小さく、DC残像が発生しにくいことから、直流電圧を重畳してから20分経過するまでにフリッカー消去電圧が0.15V以下となった場合はDC残像が「○」、0.1V以下となった場合はDC残像が「◎」と定義して評価した。直流電圧を重畳してから20分経過するまでにフリッカー消去電圧が0.15V以下とならなかった場合は、DC残像が「×」と定義して評価した。
【0110】
<テトラカルボン酸二無水物>
【化30】
【化31】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0111】
【化32】
【0112】
【化33】
【0113】
<ジアミン>
【化34】
【0114】
【化35】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0115】
<溶剤>
NMP: N-メチル-2-ピロリドン
BC: ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
GBL: γ-ブチロラクトン
【0116】
<添加剤>
添加剤(Ad1): N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン
添加剤(Ad2): 1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン
添加剤(Ad3): 2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
【0117】
[モノマー合成例1]化合物(1-1-1)の合成
【化36】
【0118】
<第一段階:還元反応>
オートクレーブに、3-ニトロ-フタル酸ジメチル(50.0g、209.1mmol)、Pd/C(2.5g)およびメタノール(500mL)を加えた。反応系内を水素ガス(5.0atm.)で置換した後、溶液を48時間60℃で撹拌した。Pd/Cを濾別した後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をヘプタン:酢酸エチル=60:40の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量42.6g、収率97%)。
【化37】
【0119】
<第二段階:ウレア合成>
温度計、窒素導入管および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、トリホスゲン(28.5g、96.1mmol)およびジクロロメタン(200mL)を加えた。この溶液に第一段階で得た化合物(40.2g、192.2mmol)、トリエチルアミン(116.7g、1150mmol)およびジクロロメタン(100mL)の混合溶液をゆっくりと滴下した。その後、反応溶液を24時間窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(500mL)にあけ、ジクロロメタン(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量32.5g、収率76%)。
【化38】
【0120】
<第三段階:加水分解・無水化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した1000mL3つ口フラスコに、第二段階で得た化合物(30.0g、67.5mmol)および水(300mL)を加えた。その後、水酸化ナトリウム(21.6g、540.1mmol)を加え、48時間室温で撹拌した。反応溶液を2N塩酸(500mL)にあけ、酢酸エチル(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して固体を得た。得られた固体に無水酢酸(300mL)を加え、3時間還流撹拌した。溶液を室温に放冷した後、析出した固体を吸引濾取し化合物(1-1-1)を得た(収量18.6g、収率78%)。
【化39】
【0121】
[モノマー合成例2]化合物(1-1-2)の合成
【化40】
【0122】
<第一段階:アミノ化反応>
温度計、および滴下漏斗を装着した5000mL3つ口フラスコに、4-(ブロモメチル)-フタル酸ジメチル(50.0g、174.2mmol)、DMF(800mL)を加えた。さらにフタルイミドカリウム(35.5g、191.6mmol)をゆっくりと加え、溶液を48時間室温で撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(1000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をメタノールに溶解させ、ヒドラジン水和物(67.6g、348.3mmol)を加えて48時間室温で撹拌した。生じた固体をろ別した後ろ液を濃縮し、得られた粗体をヘプタン:酢酸エチル=60:40の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、下記の化合物を得た(収量26.5g、収率68%)。
【化41】
【0123】
<第二段階:ウレア合成>
温度計、窒素導入管および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、トリホスゲン(16.6g、56.0mmol)およびジクロロメタン(150mL)を加えた。この溶液に第一段階で得た化合物(25.0g、112.0mmol)、トリエチルアミン(68.0g、672mmol)およびジクロロメタン(100mL)の混合溶液をゆっくりと滴下した。その後、反応溶液を24時間窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(500mL)にあけ、ジクロロメタン(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量21.9g、収率83%)。
【化42】
【0124】
<第三段階:加水分解・無水化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した300mL3つ口フラスコに、第二段階で得た化合物(20.0g、67.5mmol)および水(20mL)を加えた。その後、水酸化ナトリウム水溶液(21.6g、540.1mmol)を加え、48時間室温で撹拌した。反応溶液を2N塩酸(500mL)にあけ、酢酸エチル(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して固体を得た。得られた固体に無水酢酸(300mL)を加え、3時間還流撹拌した。溶液を室温に放冷した後、析出した固体を吸引濾取し化合物(1-1-2)を得た(収量18.6g、収率78%)。
【化43】
【0125】
[モノマー合成例3]化合物(1-1-3)の合成
【化44】
【0126】
<第一段階:ニトロアルドール反応>
温度計、および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、4-ホルミル-フタル酸ジメチル(100.0g、450.1mmol)、酢酸アンモニウム(20.8g、270.0mmol)および酢酸(300mL)を加えた。さらにニトロメタン(33.0g、540.1mmol)をゆっくりと加え、溶液を6時間還流撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(1000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をメタノールに溶解させ、ヒドラジン水和物(67.6g、348.3mmol)を加えて48時間室温で撹拌した。生じた固体をろ別した後ろ液を濃縮し、得られた粗体をヘプタン:酢酸エチル=20:80の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、下記の化合物を得た(収量76.1g、収率64%)。
【化45】
【0127】
<第二段階:還元反応>
オートクレーブに、第一段階で得た化合物(70.0g、263.9mmol)、Pd/C(7.0g)およびメタノール(500mL)を加えた。反応系内を水素ガス(5.0atm.)で置換した後、溶液を48時間60℃で撹拌した。Pd/Cを濾別した後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をヘプタン:酢酸エチル=60:40の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量59.9g、収率96%)。
【化46】
【0128】
<第三段階:ウレア合成>
温度計、窒素導入管および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、トリホスゲン(31.3g、105.4mmol)およびジクロロメタン(100mL)を加えた。この溶液に第二段階で得た化合物(50.0g、210.8mmol)、トリエチルアミン(128.0g、1260mmol)およびジクロロメタン(300mL)の混合溶液をゆっくりと滴下した。その後、反応溶液を24時間窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(500mL)にあけ、ジクロロメタン(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量28.9g、収率55%)。
【化47】
【0129】
<第四段階:加水分解・無水化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した500mL3つ口フラスコに、第三段階で得た化合物(20.0g、67.5mmol)および水(20mL)を加えた。その後、水酸化ナトリウム(12.8g、319.7mmol)を加え、48時間室温で撹拌した。反応溶液を2N塩酸(200mL)にあけ、酢酸エチル(200mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して固体を得た。得られた固体に無水酢酸(50mL)を加え、3時間還流撹拌した。溶液を室温に放冷した後、析出した固体を吸引濾取し化合物(1-1-3)を得た(収量11.9g、収率73%)。
【化48】
【0130】
[モノマー合成例4]化合物(1-1-4)の合成
【化49】
【0131】
<第一段階:ニトロアルドール反応>
温度計、および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、4-ブロモ-フタル酸ジメチル(100.0g、366.2mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(5.14g、7.32mmol)、ヨウ化銅(I)(2.79g、14.7mmol)およびトリエチルアミン(500mL)を加えた。さらにプロパルギルアルコール(22.6g、402.8mmol)をゆっくりと滴下し、溶液を6時間還流撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(1000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をヘプタン:酢酸エチル=50:50の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、下記の化合物を得た(収量90.1g、収率99%)。
【化50】
【0132】
<第二段階:アジド化反応>
温度計、および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、第一段階で得た化合物(95.0g、382.7mmol)、トリエチルアミン(42.6g、421.0mmol)およびジクロロメタン(500mL)を加えた。メタンスルホニルクロリド(48.2g、421.0mmol)をゆっくりと滴下し、溶液を6時間室温で撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(1000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をジメチルホルムアミド(1000mL)に溶解させ、アジ化ナトリウム(49.8g、765.4mmol)をゆっくりと加え、溶液を24時間室温で撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(1000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をヘプタン:酢酸エチル=50:50の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、下記の化合物を得た(収量86.2g、収率82%)。
【化51】
【0133】
<第三段階:還元反応>
オートクレーブに、第二段階で得た化合物(85.0g、263.9mmol)、Pd/C(4.3g)およびメタノール(500mL)を加えた。反応系内を水素ガス(5.0atm.)で置換した後、溶液を48時間室温で撹拌した。Pd/Cを濾別した後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をヘプタン:酢酸エチル=60:40の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量72.0g、収率92%)。
【化52】
【0134】
<第四段階:ウレア合成>
温度計、窒素導入管および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、トリホスゲン(41.3g、139.3mmol)およびジクロロメタン(300mL)を加えた。この溶液に第三段階で得た化合物(70.0g、278.6mmol)、トリエチルアミン(169.1g、1670mmol)およびジクロロメタン(600mL)の混合溶液をゆっくりと滴下した。その後、反応溶液を24時間窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(1000mL)にあけ、ジクロロメタン(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量46.7g、収率63%)。
【化53】
【0135】
<第五段階:加水分解・無水化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した500mL3つ口フラスコに、第四段階で得た化合物(40.0g、75.7mmol)および水(150mL)を加えた。その後、水酸化ナトリウム(24.2g、605.4mmol)を加え、48時間室温で撹拌した。反応溶液を2N塩酸(400mL)にあけ、酢酸エチル(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して固体を得た。得られた固体に無水酢酸(100mL)を加え、3時間還流撹拌した。溶液を室温に放冷した後、析出した固体を吸引濾取し化合物(1-1-4)を得た(収量29.6g、収率90%)。
【化54】
【0136】
[モノマー合成例5]化合物(1-1-5)の合成
【化55】
【0137】
<第一段階:エーテル化反応>
温度計、および滴下漏斗を装着した5000mL3つ口フラスコに、4-ヒドロキシ-フタル酸ジメチル(100.0g、475.8mmol)、炭酸カリウム(78.9g、570.9mmol)およびジメチルホルムアミド(1000mL)を加えた。N-(2-ブロモエチル)-フタルイミドをゆっくりと加え、溶液を6時間60度で撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(1000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をヘプタン:酢酸エチル=20:80の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、下記の化合物を得た(収量162.5g、収率89%)。
【化56】
【0138】
<第二段階:脱保護反応>
温度計、および滴下漏斗を装着した5000mL3つ口フラスコに、第一段階で得た化合物(160.0g、417.4mmol)およびメタノール(800mL)を加えた。ヒドラジン水和物(31.3g、626.1mmol)をゆっくりと滴下し、溶液を48時間室温で撹拌した。反応溶液を水(1500mL)にあけ、酢酸エチル(2000mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をヘプタン:酢酸エチル=60:40の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、下記の化合物を得た(収量58.5g、収率55%)。
【化57】
【0139】
<第三段階:ウレア合成>
温度計、窒素導入管および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、トリホスゲン(32.2g、108.6mmol)およびジクロロメタン(200mL)を加えた。この溶液に第二段階で得た化合物(55.0g、217.2mmol)、トリエチルアミン(131.9g、1300mmol)およびジクロロメタン(500mL)の混合溶液をゆっくりと滴下した。その後、反応溶液を24時間窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(1000mL)にあけ、ジクロロメタン(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量38.1g、収率66%)。
【化58】
【0140】
<第四段階:加水分解・無水化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した5000mL3つ口フラスコに、第三段階で得た化合物(37.0g、69.5mmol)および水(150mL)を加えた。その後、水酸化ナトリウム(22.2g、555.9mmol)を加え、48時間室温で撹拌した。反応溶液を2N塩酸(400mL)にあけ、酢酸エチル(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して固体を得た。得られた固体に無水酢酸(100mL)を加え、3時間還流撹拌した。溶液を室温に放冷した後、析出した固体を吸引濾取し化合物(1-1-5)を得た(収量22.6g、収率74%)。
【化59】
【0141】
[モノマー合成例6]化合物(1-1-6)の合成
【化60】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0142】
<第一段階:還元反応>
オートクレーブに、3-ニトロ-フタル酸ジメチル(50.0g、209.1mmol)、Pd/C(2.5g)およびメタノール(500mL)を加えた。反応系内を水素ガス(5.0atm.)で置換した後、溶液を48時間60℃で撹拌した。Pd/Cを濾別した後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をヘプタン:酢酸エチル=60:40の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量42.6g、収率97%)。
【化61】
【0143】
<第二段階:ウレア合成>
温度計、窒素導入管および滴下漏斗を装着した2000mL3つ口フラスコに、トリホスゲン(28.5g、96.1mmol)およびジクロロメタン(200mL)を加えた。この溶液に第一段階で得た化合物(40.2g、192.2mmol)、トリエチルアミン(116.7g、1150mmol)およびジクロロメタン(100mL)の混合溶液をゆっくりと滴下した。その後、反応溶液を24時間窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(500mL)にあけ、ジクロロメタン(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量32.5g、収率76%)。
【化62】
【0144】
<第三段階:Boc化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した1000mL3つ口フラスコに、第二段階で得た化合物(30.0g、67.5mmol)およびDMF(300mL)を加えた。その後、ジイソプロピルエチルアミン(34.9g、270mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(1.65g、13.5mmol)を加えた後、二炭酸ジ-tert-ブチル(51.6g、236mmol)を室温で滴下した。反応液を72時間室温で撹拌した後、反応溶液を水(500mL)にあけ、酢酸エチル(500mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をジクロロメタン:メタノール=95:5の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記の化合物を得た(収量9.8g、収率23%)。
【化63】
【0145】
<第四段階:加水分解・無水化反応>
還流管、温度計、および滴下漏斗を装着した1000mL3つ口フラスコに、第三段階で得た化合物(9.8g、15.2mmol)および水(30mL)を加えた。その後、水酸化ナトリウム(2.92g、73.0mmol)を加え、48時間室温で撹拌した。反応溶液を2N塩酸(100mL)にあけ、酢酸エチル(200mL)を加えて抽出操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して固体を得た。得られた固体に無水酢酸(100mL)を加え、3時間還流撹拌した。溶液を室温に放冷した後、析出した固体を吸引濾取し下記の化合物を得た(収量7.6g、収率90%)。
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表す。
【0146】
ワニスの調製
本実施例で使用したワニスは、下記の手順で調製した。ここで、ワニスの調製例1~14で調製したワニスは、式(1)の構造を有するテトラカルボン酸二無水物を原料の一つに用いて反応させて得られたポリアミック酸の溶液(液晶配向剤)である。ブレンド用ワニスの調製例1~3で調製したブレンド用ワニスは、式(1)の構造を有するテトラカルボン酸二無水物を原料に用いないで得られたポリアミック酸の溶液(液晶配向剤)であり、ワニス1~13にブレンドして使用するものである。
【0147】
[ワニスの調製例1] ワニス1の調製
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mL3つ口フラスコに、式(b-1-1)で表される化合物0.335g、式(b-1-3)(m=2)で表される化合物1.559g、および式(b-1-11)で表される化合物0.670gを入れ、N-メチル-2-ピロリドンを34.0g加えた。その溶液を氷浴で5℃まで冷却した後、式(1-1-1)で表される化合物1.035g、式(a-1-3)で表される化合物1.440g、および式(a-2-1)で表される化合物0.961gを加え、12時間室温で攪拌させた。そこにγ-ブチロラクトン30.0gおよびブチルセロソルブ30.0gを加え、溶質のポリマーの重量平均分子量が所望する重量平均分子量になるまで、その溶液を60℃で加熱攪拌して、溶質の重量平均分子量がおよそ45,000であり、樹脂分濃度が6重量%であるワニス1を得た。
【0148】
[ワニスの調製例2~14] ワニス2~14の調製
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物を、表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%のワニス2~14を調製した。このとき、ポリマーの合成条件は、重量平均分子量が35,000から62,000の範囲になるように調整した。生成したポリマーの重量平均分子量を表1に示す。なお、表1において、ジアミンとして2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてジアミンとして使用したことを意味し、テトラカルボン酸二無水物として2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてテトラカルボン酸二無水物として使用したことを意味する。角括弧内の数値は、配合比(モル%)を表し、「-」はその欄に対応する化合物を使用していないことを意味する。表2においても、同様である。
【0149】
[ブレンド用ワニスの調製例1~3] ブレンド用ワニス1~3の調製
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物と配合比を、表2に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%であるブレンド用ワニス1~3を調製した。生成したポリマー成分の重量平均分子量を表2に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
【表2】
【0152】
液晶配向膜の製造
各調製例で調製したワニス1~14、ブレンド用ワニス1~3を使用して、下記の手順で液晶配向剤(配向剤1~15、比較配向剤1a~3a)を調製し、その液晶配向剤を用いて液晶配向膜を製造した。
【0153】
[実施例1] 配向剤1の調製、配向膜1の製造、ラビング削れの確認、および鉛筆硬度測定
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス1(10.0g)を秤取って投入し、そこにN-メチル-2-ピロリドン(7.0g)、ブチルセロソルブ(3.0g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度3重量%の配向剤1を得た。この配向剤1を、透明ガラス基板上にスピンナーで塗布した。塗布後80℃にて約5分間予備焼成した後、200℃にて30分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの塗膜1を形成した。塗膜1をラビング処理装置でラビング布(毛足長1.9mm:レーヨン)の毛足押し込み量0.40mm、ステージ移動速度を60mm/sec、ローラー回転速度を1000rpmの条件で、ラビング処理し、配向膜1を形成した。配向膜表面の観察を行ったところ、膜の削れは観察されなかった。得られた配向膜1の鉛筆硬度を測定したところ、3Hであった。
【0154】
[実施例2~12] 配向剤2~12の調製、配向膜2~12の製造、ラビング削れの確認、および鉛筆硬度測定
ワニス1の代わりに、表1に示すワニスを用いて配向剤2~12を調製し、実施例1と同様にして液晶配向膜を形成した。形成した配向膜を用いて、実施例1と同様にして、膜の削れの観察および鉛筆硬度の測定を行った。
【0155】
[実施例13] 配向剤13の調製、配向膜13の製造、ラビング削れの確認、および鉛筆硬度測定
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLのナスフラスコに、ワニス1(3.0g)と、ブレンド用ワニス1(7.0g)をそれぞれ秤取って投入し、そこにN-メチル-2-ピロリドン(7.0g)およびブチルセロソルブ(3.0g)を加え、室温で1時間攪拌して樹脂分濃度3重量%の配向剤13を得た。
この配向剤13を配向剤1の代わりに用い、実施例1と同様にして液晶配向膜を形成した。形成した配向膜を用いて、実施例1と同様にして、膜の削れの観察および鉛筆硬度の測定を行った。
【0156】
[実施例14および15] 配向剤14および15の調製、配向膜14および15の製造、ラビング削れの確認、および鉛筆硬度測定
ワニス1およびブレンド用ワニス1の代わりに、表3に示すワニスおよびブレンド用ワニスをそれぞれ用いて配向剤14および15を調製し、実施例1と同様にして液晶配向膜を形成した。形成した配向膜を用いて、実施例1と同様にして、膜の削れの観察および鉛筆硬度の測定を行った。
【0157】
[比較例1および2] 比較配向剤1a~2aの調製、比較配向膜1a~2aの製造、ラビング削れの確認、および鉛筆硬度測定
ワニス1の代わりに、表3に示すワニスを用いて比較配向剤1aおよび2aを調製し、実施例1と同様にして液晶配向膜を形成した。形成した配向膜を用いて、実施例1と同様にして、膜の削れの観察および鉛筆硬度の測定を行った。
【0158】
[比較例3] 比較配向剤3aの調製、比較配向膜3aの製造、ラビング削れの確認、および鉛筆硬度測定
ワニス1の代わりに、ワニス15を用いた以外は、実施例13と同様にして液晶配向膜を形成した。形成した配向膜を用いて、実施例13と同様にして、膜の削れの観察および鉛筆硬度の測定を行った。
【0159】
実施例1~15のラビング削れの観察結果および鉛筆硬度の測定結果を表3に示す。また、比較例1~3のラビング削れの観察結果と鉛筆硬度の測定結果も併せて表3に示す。
【表3】
【0160】
実施例1~15において、ラビング削れは観察されず、鉛筆硬度は3H以上と、高いラビング耐性を確認することができた。一方、比較例1および比較例3においては、ラビング削れが観察され、比較例1および2においては、鉛筆硬度は2HまたはHBと、高いラビング耐性は観察されなかった。
【0161】
[実施例16] シール密着性評価セルの作製および評価
実施例1において配向剤1を用いて作製した基板を2枚用意し、一方の基板の液晶配向膜面上に4μmビーズスペーサーを散布した後、シール剤(協立化学製XN-1500T)を滴下した。次いで、他方の基板の液晶配向膜面を内側にし、基板の重なり幅が1cmになるように、貼り合わせを行った。その際、貼り合わせ後のシール剤の直径が約3mmとなるようにシール剤滴下量を調整した。貼り合わせた2枚の基板をクリップにて固定した後、120℃で1時間熱硬化させて、シール密着性評価用のサンプルを作製した。上述の測定法を用いて、シール密着性の評価を行った。
【0162】
[実施例17~30][比較例4~6]
実施例2~15、比較例1~3で作製した基板に変更した以外は、実施例16に準拠して、シール密着性評価用サンプルを作製し、シール密着性の評価を行った。測定結果を実施例16と併せて表4に示す。
【0163】
【表4】
【0164】
実施例16~30において、シール密着性は70N/cm以上を示し、配向剤1~15は高いシール密着性を有することがわかった。一方、比較例4~6においては、シール密着性は50N/cmを達成できず、比較配向剤1a~3aはシール密着性が弱いことが分かった。
【0165】
[実施例31] 残留DC測定用セルの作製および残留DC測定
実施例1で調製した液晶配向剤1をFFS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板にスピンナー(ミカサ株式会社製、スピンコーター(1H-DX2))により塗布した。塗布後80℃にて約5分間予備焼成した後、200℃にて30分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの塗膜1を形成した。塗膜1をラビング処理装置でラビング布(毛足長1.9mm:レーヨン)の毛足押し込み量0.40mm、ステージ移動速度を60mm/sec、ローラー回転速度を1000rpmの条件で、ラビング処理し、配向膜1を形成した。これらの液晶配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙を設けて貼り合わせた。この時、それぞれの液晶配向膜に照射された直線偏光の偏光方向が平行になるようにした。これらのセルにポジ型液晶組成物Aを注入し、セル厚7μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。
【0166】
<ポジ型液晶組成物A>
【化64】
物性値:NI 100.1℃; Δε 5.1; Δn 0.093; η 25.6mPa・s.
【0167】
[実施例32~45][比較例7~9]
使用するワニスを変更した以外は、実施例31に準拠して、液晶セルを作製し、残留DCの測定を行った。測定結果を実施例31と併せて表5に示す。
【0168】
【表5】
【0169】
実施例31~45において、DC残像は○または◎であり、良好であった。一方、比較例7および比較例9において、DC残像は×であり、残像特性は良好とはいえなかった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の液晶配向剤を使用すれば、シールとの密着性が高く、ラビング耐性が高い液晶配向膜を形成することができ、残像特性が良好な液晶表示素子を与えることができる。本発明の液晶配向剤は横電界型液晶表示素子に好適に適用することができる。