(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】同軸ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
H01B11/18 D
(21)【出願番号】P 2019154385
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】工藤 紀美香
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-123555(JP,A)
【文献】特開2010-176961(JP,A)
【文献】特開2021-28897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、
前記内部導体の周囲を覆う絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うシールド層と、
前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、
前記内部導体は、断面形状が円形状となるように、第1金属素線を撚り合わせて構成され、
前記シールド層は、前記絶縁体の周囲に複数の第2金属素線を螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド層と、樹脂テープの一方の面に金属層を形成したシールドテープを、前記金属層が前記横巻きシールド層と接触するように前記横巻きシールド層の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されたシールドテープ層と、を有し、
前記横巻きシールド層は、周方向に隣り合う前記第2金属素線間の少なくとも1箇所に、空隙を有し、
長手方向に垂直な断面において、前記空隙を挟んで隣り合う前記第2金属素線間の距離wの合計値が、前記第2金属素線の外径d以下である、
同軸ケーブル。
【請求項2】
長手方向に垂直な断面において、前記空隙を挟んで隣り合う前記第2金属素線間の距離wの合計値が、前記第2金属素線の外径dの0.5倍以上1.0倍以下である、
請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記横巻きシールド層における前記第2金属素線の巻き付け方向と、前記シールドテープ層における前記シールドテープの巻き付け方向が、同じ方向である、
請求項1または2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記第2金属素線が、純銅、または表面に銀めっきを施した純銅からなる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
前記シールドテープの前記金属層の厚さが、0.1μm以上0.5μm以下である、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の同軸ケーブル。
【請求項6】
前記シールドテープの前記樹脂テープの厚さをd1、前記金属層の厚さをd2としたとき、d1/d2が3/40未満である、
請求項5に記載の同軸ケーブル。
【請求項7】
前記シールドテープの厚さが、前記第2金属素線の外径の1/10以下である、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の同軸ケーブル。
【請求項8】
前記絶縁体が、フッ素樹脂からなる、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転等に用いられる撮像装置用の信号ケーブルや、ノート型パソコン、スマートフォン、タブレット端末等の電子機器の機器内配線として、細径の同軸ケーブルが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子機器等では、信号伝送速度の高速化が進んでおり、例えば70GHz以上といった非常に高速の信号を伝送した場合であっても、信号減衰が生じにくい高い伝送特性を有する同軸ケーブルが望まれている。特に機器内配線として用いられる同軸ケーブルでは、曲げた状態で配線されることが多く、曲げた状態で配線されても高速信号の減衰量が小さい同軸ケーブルが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、曲げた状態で配線されても高速信号の減衰を抑制可能な同軸ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、内部導体と、前記内部導体の周囲を覆う絶縁体と、前記絶縁体の周囲を覆うシールド層と、前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、前記内部導体は、断面形状が円形状となるように、第1金属素線を撚り合わせて構成され、前記シールド層は、前記絶縁体の周囲に複数の第2金属素線を螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド層と、樹脂テープの一方の面に金属層を形成したシールドテープを、前記金属層が前記横巻きシールド層と接触するように前記横巻きシールド層の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されたシールドテープ層と、を有し、前記横巻きシールド層は、周方向に隣り合う前記第2金属素線間の少なくとも1箇所に、空隙を有し、長手方向に垂直な断面において、前記空隙を挟んで隣り合う前記第2金属素線間の距離wの合計値が、前記第2金属素線の外径d以下である、同軸ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曲げた状態で配線されても高速信号の減衰を抑制可能な同軸ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る同軸ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図2】従来例において、曲げにより絶縁体と横巻きシールド層間に隙間が生じることを説明する説明図である。
【
図3】本発明において、曲げにより絶縁体と横巻きシールド層間に隙間が生じないことを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0010】
図1は、本実施の形態に係る同軸ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図1に示すように、同軸ケーブル1は、内部導体2と、内部導体2の周囲を覆う絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うシールド層4と、シールド層4の周囲を覆うシース5と、を備えている。同軸ケーブル1は、例えば、自動運転等に用いられる撮像装置用の信号ケーブルや、ノート型パソコン、スマートフォン、タブレット端末等の電子機器の機器内配線として用いられるものであり、その外径は2mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。
【0011】
(内部導体2)
良好な伝送特性を得るため、内部導体2の導電率は、99%IACS以上とすることが望ましい。内部導体2の導電率を向上させるために、単線導体を用いることが考えられるが、この場合、繰り返し曲げを加えた際に断線しやすくなり、またレーザを用いて端末加工を行った際に、内部導体2に傷がつき断線し易くなってしまう。また、単に複数本の素線を撚り合わせるのみだと、導電率を99%IACS以上とすることが困難である。
【0012】
そこで、本実施の形態では、内部導体2を、断面形状が円形状となるように、第1金属素線21を隙間なく撚り合わせて構成した。より詳細には、内部導体2として、複数の第1金属素線21を撚り合わせ、かつ、ケーブル長手方向に垂直な断面形状が円形状となるように圧縮加工された圧縮撚線導体を用いた。内部導体2として圧縮撚線導体を用いることで、第1金属素線21同士が密着して第1金属素線21間の隙間が無くなるため、導電率が向上し良好な伝送特性が得られると共に、曲げやすさも維持できる。また、圧縮撚線導体は、単線導体と比較して曲げたときに断線しにくい。なお、第1金属素線21を隙間なく撚り合わせるとは、隣り合う第1金属素線21の外面が面接触などによって互いに接しており、接触し合う第1金属素線21同士の間に隙間がない状態で撚り合わせることである。ただし、本発明の効果に影響のない範囲の隙間はあってもよいこととする。
【0013】
高い導電率を実現するため、内部導体2に用いる第1金属素線21としては、めっきを施していない純銅からなる軟銅線を用いるとよい。ただし、導電率99%IACS以上のめっきであれば施してもよく、例えば銀めっきを施した純銅からなる軟銅線を第1金属素線21として用いてもよい。なお、圧縮撚線導体では、圧縮工程で第1金属素線21に歪みが付与され導電率が低下してしまうが、この後、加熱処理(アニール処理)を行うことで、歪みを除去して99%IACS以上の導電率を実現することができる。
【0014】
(絶縁体3)
絶縁体3としては、高周波信号の伝送特性を向上させる(より詳細には、例えば、70MHz~100GHzの帯域の高周波信号を伝送した際に減衰しにくくする)ために、なるべく誘電率が低いものを用いることが望ましい。また、絶縁体3としては、電子機器等の使用状況を考慮し、-40℃以上80℃以下の温度で安定した誘電率となるものが望まれる。そこで、これらの特性を満足すべく、本実施の形態では、絶縁体3として、フッ素樹脂からなるものを用いた。絶縁体3に用いるフッ素樹脂としては、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が上げられる。絶縁体3としてフッ素樹脂を用いることで、絶縁体3の表面が滑りやすくなるため、同軸ケーブル1を曲げた際に、後述する横巻きシールド層41を構成する第2金属素線41aがケーブル長手方向に移動しやすくなり、横巻きシールド層41と絶縁体3との間に隙間が生じてしまうことをより抑制可能になる。
【0015】
なお、絶縁体3として発泡樹脂を用いることも考えられるが、同軸ケーブル1は外径が2mm以下と細径であることから、絶縁体3の厚さも非常に薄くなってしまう。薄い発泡樹脂を安定して製造することは困難であるため、本実施の形態では、絶縁体3として比較的誘電率が低いフッ素樹脂を用いている。
【0016】
(シース5)
絶縁体3の周囲にはシールド層4が設けられており、その周囲を覆うようにシース5が設けられている。本実施の形態では、シース5は、絶縁体3と同様に、フッ素樹脂からなる。シース5に用いるフッ素樹脂としては、PFA、FEP、PTFE等が上げられる。シース5の外径は、2.0mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下である。
【0017】
(シールド層4)
本実施の形態では、シールド層4は、絶縁体3の周囲に複数の第2金属素線41aを螺旋状に巻き付けて(横巻きして)構成された横巻きシールド層41と、横巻きシールド層41の周囲にシールドテープ421を螺旋状に巻き付けて構成されたシールドテープ層42と、を有している。
【0018】
良好な伝送特性を得るため、横巻きシールド層41の導電率はなるべく高くすることが望まれる。そのため、第2金属素線41aとしては、上述の第1金属素線21と同様に、めっきを施していない純銅からなる軟銅線を用いるとよい。ただし、導電率99%IACS以上のめっきであれば施してもよく、例えば銀めっきを施した純銅からなる軟銅線を第2金属素線41aとして用いてもよい。第2金属素線41aとしては、内部導体2に用いる第1金属素線21よりも細径のものを用いるとよい。ここでは、外径dが0.05mmの第2金属素線41aを用いた。なお、
図1では、第2金属素線41aの横断面形状を円形状で示しているが、第2金属素線41aの横断面形状は楕円形状であってもよい。
【0019】
第2金属素線41aを横巻きすることにより、例えば、金属素線を編組した編組シールドを用いた場合と比較して、同軸ケーブル1を曲げ易くなり、機器内の狭い空間等で配線しやすい同軸ケーブル1が得られる。
【0020】
ここで、同軸ケーブル1を曲げた際の第2金属素線41aの挙動について検討する。
図2に示すように、第2金属素線41aを隙間なく巻き付けた場合、同軸ケーブルを曲げた際に、曲げの内側(
図2における下側)において第2金属素線41aの逃げ場がなくなり、第2金属素線41aが絶縁体3から浮いてしまう。つまり、第2金属素線41aを隙間なく巻き付けた場合、同軸ケーブルを曲げた際に、曲げの内側において絶縁体3と横巻きシールド層41との間に隙間10が発生してしまう。
【0021】
同軸ケーブル1における特性インピーダンスは、内部導体2とシールド層4との距離、及び内部導体2とシールド層4間の誘電率に大きく依存する。そのため、隙間10が発生することで、隙間10が発生した部分、すなわち同軸ケーブル1を曲げた部分における特性インピーダンスが、他の部分の特性インピーダンスに対しておおきく変化してしまう。その結果、リターンロスが増加して信号減衰が大きくなってしまい、特に高速信号を伝送する場合にはその影響が非常に大きくなってしまう。隙間10が生じることを抑制するためには、曲げの内側において第2金属素線41aが逃げることができる空間を設け、同軸ケーブル1を曲げた際においても絶縁体3の動きに第2金属素線41aを追従させればよいことになる。
【0022】
そこで、本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、横巻きシールド層41において、周方向に隣り合う第2金属素線41a間の少なくとも1箇所に、空隙(空間、あるいは隙間)6を形成し、かつ、長手方向に垂直な断面において、空隙6を挟んで隣り合う第2金属素線41a間の距離w(以下、空隙6の幅wという)の合計値を、第2金属素線41aの外径d以下とした。空隙6は螺旋状に存在するため、長手方向に平行な断面においても隣り合う第2金属素線41a間に空隙6が存在することになる。これにより、
図3に示すように、同軸ケーブル1を曲げた際に、曲げの内側において第2金属素線41aが空隙6に逃げる(空隙6が小さくなるように、空隙6側へと移動する)ことが可能になり、第2金属素線41aが絶縁体3に密着した状態を維持することが可能になる。その結果、同軸ケーブル1を曲げた部分における特性インピーダンスの変化を抑制でき、信号減衰を抑制することが可能になる。なお、
図2及び
図3では、シールドテープ層42とシース5とを省略して示している。
【0023】
本実施の形態では、周方向に隣り合う第2金属素線41a間の1箇所のみに空隙6が形成されている場合を示したが、これに限らず、2箇所以上に分散して空隙6が形成されていてもよい。また、長手方向において、空隙6が形成されている位置が変化していてもよい。
【0024】
より好ましくは、空隙6の幅wの合計値は、第2金属素線41aの外径dの0.5倍以上1.0倍以下であるとよい。空隙6の幅wの合計値を第2金属素線41aの外径dの0.5倍以上とすることで、曲げた際に上述の隙間10が生じにくくなる。また、空隙6の幅wの合計値を第2金属素線41aの外径dの1.0倍以下とすることで、空隙6が大きくなりすぎて電界分布がアンバランスとなり伝送特性が劣化することを抑制できる。なお、ここでいう「空隙6の幅wの合計値」とは、同軸ケーブル1を曲げずに直線状とした状態における空隙6の幅wの合計値を表している。
【0025】
絶縁体3の外径をDとすると、第2金属素線41aの中心を通る円の円周はπ(D+d)で表される。これを第2金属素線41aの外径dで除した値、すなわち下式(1)
n={π(D+d)/d} ・・・(1)
により得られるnが、絶縁体3の外周に配置可能な第2金属素線41aの本数となる。絶縁体の外径Dを微調整することで本数nの値を調整し、また絶縁体3への第2金属素線41aの食い込みを考慮して、得られた本数nよりも0.6~1.5本程度少ない本数の第2金属素線41aを用いて横巻きシールド層41を形成することで、空隙6の幅wを第2金属素線41aの外径dの0.5倍以上1.0倍以下とすることができる。
【0026】
横巻きシールド層41では、そもそも曲げの際等に第2金属素線41a間に隙間が生じやすい。シールドテープ層42は、このような隙間(上述の空隙6を含む)を塞ぎ、遮蔽性能を向上させるためのものである。シールドテープ層42は、
図4に示すように、樹脂テープ421aの一方の面に金属層421bを形成したシールドテープ421を用いて構成される。樹脂テープ421aは、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる。金属層421bは、例えば銅からなる。シールドテープ層42は、金属層421bが横巻きシールド層41の各第2金属素線41aと接触するように、金属層421bを径方向内側として、横巻きシールド層41の周囲に螺旋状に巻き付けて構成される。また、シールドテープ層42は、シールドテープ421の幅方向における一部が重なるように、シールドテープ421を螺旋状にラップ巻き(重ね巻き)して構成されている。
【0027】
横巻きシールド層41における第2金属素線41aの巻き付け方向と、シールドテープ層42におけるシールドテープ421の巻き付け方向とは、同じ方向であることが望ましい。第2金属素線41aの巻き付け方向と、シールドテープ421の巻き付け方向とを同じ方向にすることによって、シールドテープ421が第2金属素線41aの動きに追従しやすくなり、横巻きシールド層41とシールドテープ層42間に隙間が生じて伝送特性が劣化することを抑制できる。また、第2金属素線41aの巻き付け方向と、シールドテープ421の巻き付け方向とを同じ方向にすることによって、第2金属素線41aの動きにシールドテープ421が追従するので、同軸ケーブル1を曲げやすくなる。例えば、第2金属素線41aの巻き付け方向と、シールドテープ421の巻き付け方向とが逆方向である場合、第2金属素線41aとシールドテープ421とが互いに動きを阻害しあうために同軸ケーブル1を曲げにくくなり、この状態で同軸ケーブル1を無理に曲げた場合にはシールドテープ421に皺が発生し伝送特性が劣化するおそれが生じる。
【0028】
さらに、第2金属素線41aの巻き付け方向と、シールドテープ421の巻き付け方向とを同じ方向にすることによって、端末処理時にシース5とシールドテープ層42を容易に除去することが可能になる。例えば、第2金属素線41aの巻き付け方向と、シールドテープ421の巻き付け方向とが逆方向である場合、シールドテープ421が第2金属素線41aに引っ掛かって抜けにくくなる。さらに、その状態でシールドテープ421を無理に引き抜くと、第2金属素線41aがほぐれて乱れてしまい、同軸ケーブル1の端部において伝送特性が大きく劣化してしまうおそれが生じる。本実施の形態によれば、第2金属素線41aに沿って容易にシールドテープ421を引き抜くことができ、第2金属素線41aの乱れを抑え、同軸ケーブル1の端部での伝送特性の劣化を抑制することが可能である。
【0029】
なお、第2金属素線41aの巻き付け方向とは、同軸ケーブル1の一端から見たときに、他端側から一端側にかけて第2金属素線41aが回転している方向である。また、シールドテープ421の巻き付け方向とは、同軸ケーブル1の一端から見たときに、他端側から一端側にかけてシールドテープ421が回転している方向である。
【0030】
シールドテープ421が厚すぎると、横巻きシールド層41の動きに追従できなくなり、またシールドテープ421が重なった部分の段差に起因する隙間が大きくなり伝送特性が劣化するおそれがあるため、シールドテープ421はできるだけ薄いことが望ましい。より具体的には、シールドテープ421の厚さd3は、第2金属素線41aの外径dの1/10以下であることが望ましい。厚さd3を第2金属素線41aの外径dの1/10以下とすることで、横巻きシールド層41の動きに追従できなくなったり、シールドテープ421が重なった部分の段差に起因する隙間が大きくなり伝送特性が劣化したりすることを抑制できる。
【0031】
また、シールドテープ421の金属層421bの厚さd2は、0.1μm以上0.5μm以下であるとよい。厚さd2を0.1μm以上とすることで十分な遮蔽効果が得られ、厚さd2を0.5μm以下とすることで、シールドテープ421が硬くなり横巻きシールド層41の動きに追従しにくくなることを抑制できる。
【0032】
樹脂テープ421aが厚すぎると、シールドテープ421が硬くなり、横巻きシールド層41の動きに追従しにくくなるので、樹脂テープ421aの厚さd1もなるべく薄いことが望ましい。具体的には、樹脂テープ421aの厚さd1と、金属層421bの厚さd2との比率であるd1/d2が、3/40未満であるとよい。d1/d2を3/40未満とすることで、シールドテープ421が硬くなり横巻きシールド層41の動きに追従しにくくなることを抑制できる。
【0033】
また、シールドテープ421の巻きピッチは、なるべく第2金属素線41aの巻きピッチと近いことが望ましい。より具体的には、シールドテープ421の巻きピッチは、第2金属素線41aの巻きピッチの2倍以下であることが望ましい。これは、シールドテープ421の巻きピッチが大きくなり過ぎると、横巻きシールド層41の動きに追従しにくくなるためである。
【0034】
なお、例えば、シールドテープ層42を、絶縁体3と横巻きシールド層41との間に設けることも考えられるが、このような構造は、伝送特性の劣化をまねくため好ましくない。高速信号を伝送する際には、表皮効果によりシールド層41の径方向内方の縁部を流れる電流の割合が多くなる。多くの電流が流れるシールド層41の径方向内方の縁部にシールドテープ層42を設けると、シールドテープ層42は導体(金属層421b)と絶縁体(樹脂テープ421a)とが長手方向に周期的に存在する構造となっているため、特定の周波数で大きな減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が生じるおそれがある。このようなサックアウトを抑制するため、シールドテープ層42は、横巻きシールド層41の外周に設けられている。
【0035】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、内部導体2は、断面形状が円形状となるように、第1金属素線21を隙間なく撚り合わせて構成され、かつ、横巻きシールド層41は、周方向に隣り合う第2金属素線41a間の少なくとも1箇所に、空隙6を有している。
【0036】
内部導体2を、断面形状が円形状となるように、第1金属素線21を隙間なく撚り合わせて構成することで、繰り返し曲げを加えても内部導体2が断線しにくくなり、かつ、導電率を向上して高速信号を伝送する際の伝送特性を向上できる。さらに、第2金属素線41a間に空隙6を設け、空隙6を挟んで隣り合う第2金属素線41a間の距離wの合計値が、第2金属素線41aの外径d以下であることで、同軸ケーブル1を曲げた部分においても横巻きシールド層41と絶縁体3との間に隙間10が生じにくくなるため、曲げた部分における内部導体2とシールド層4との距離を、曲げていない部分における内部導体2とシールド層4との距離と同じにすることができる。その結果、曲げた部分における特性インピーダンスの変化を抑制し、高速信号を伝送する際の伝送特性を向上できる。
【0037】
つまり、本実施の形態によれば、曲げた状態で配線されても高速信号の減衰を抑制可能な同軸ケーブル1を実現できる。より具体的には、曲げて配線した場合であっても、特性インピーダンスの誤差を1%程度(例えば、50Ω±0.5Ω)とすることができ、70GHz以上といった次世代の高速伝送に適した非常に高い伝送特性を実現することができる。
【0038】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0039】
[1]内部導体(2)と、前記内部導体(2)の周囲を覆う絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うシールド層(4)と、前記シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備え、前記内部導体(2)は、断面形状が円形状となるように、第1金属素線(21)を撚り合わせて構成され、前記シールド層(4)は、前記絶縁体(3)の周囲に複数の第2金属素線(41a)を螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド層(41)と、樹脂テープ(421a)の一方の面に金属層(421b)を形成したシールドテープ(421)を、前記金属層(421b)が前記横巻きシールド層(41)と接触するように前記横巻きシールド層(41)の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されたシールドテープ層(42)と、を有し、前記横巻きシールド層(41)は、周方向に隣り合う前記第2金属素線間(41a)の少なくとも1箇所に、空隙(6)を有し、長手方向に垂直な断面において、前記空隙(6)を挟んで隣り合う前記第2金属素線(41a)間の距離wの合計値が、前記第2金属素線(41a)の外径d以下である、同軸ケーブル(1)。
【0040】
[2]長手方向に垂直な断面において、前記空隙(6)を挟んで隣り合う前記第2金属素線(41a)間の距離wの合計値が、前記第2金属素線(41a)の外径dの0.5倍以上1.0倍以下である、[1]に記載の同軸ケーブル(1)。
【0041】
[3]前記横巻きシールド層(41)における前記第2金属素線(41a)の巻き付け方向と、前記シールドテープ層(42)における前記シールドテープ(421)の巻き付け方向が、同じ方向である、[1]または[2]に記載の同軸ケーブル(1)。
【0042】
[4]前記第2金属素線(41a)が、純銅、または表面に銀めっきを施した純銅からなる、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)。
【0043】
[5]前記シールドテープ(421)の前記金属層(421b)の厚さが、0.1μm以上0.5μm以下である、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)。
【0044】
[6]前記シールドテープ(421)の前記樹脂テープ(421a)の厚さをd1、前記金属層(421b)の厚さをd2としたとき、d1/d2が3/40未満である、[5]に記載の同軸ケーブル(1)。
【0045】
[7]前記シールドテープ(421)の厚さが、前記第2金属素線(41a)の外径の1/10以下である、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)。
【0046】
[8]前記絶縁体(3)が、フッ素樹脂からなる、[1]乃至[7]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…同軸ケーブル
2…内部導体
21…金属素線
3…絶縁体
4…シールド層
41…横巻きシールド層
41a…第1金属素線
42…シールドテープ層
421…シールドテープ
421a…樹脂テープ
421b…金属層
5…シース
6…空隙