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特許7140101正帯電電子写真感光体、電子写真カートリッジ及び画像形成装置
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  • 特許-正帯電電子写真感光体、電子写真カートリッジ及び画像形成装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】正帯電電子写真感光体、電子写真カートリッジ及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/147 20060101AFI20220913BHJP
   G03G 5/04 20060101ALI20220913BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G03G5/147 502
G03G5/147 503
G03G5/04
G03G5/06 312
G03G5/06 313
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019503038
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2018007367
(87)【国際公開番号】W WO2018159643
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2017038367
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 由香
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-221809(JP,A)
【文献】国際公開第2005/003093(WO,A1)
【文献】特開2010-286707(JP,A)
【文献】特開2005-157371(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148035(WO,A1)
【文献】特開2002-287397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/04-5/147
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体、感光層及び保護層をこの順に有し、前記感光層が電荷発生物質、正孔輸送物質及び電子輸送物質を同一層内に含有する正帯電電子写真感光体であって、
前記正孔輸送物質は下記式(1)~(5)の何れかで表される化合物のうち少なくとも一種を含み、
前記保護層のバインダー樹脂がアルコールに可溶な熱可塑性樹脂であり、
前記保護層が、表面処理された金属酸化物粒子を含有する、正帯電電子写真感光体。
【化1】

(式(1)中、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表す。n1は2以上の整数を表す。Zは一価の有機残基を示し、m1は0以上4以下の整数を表す。ただし、Ar及びArの少なくとも一方は、置換基を有するアリール基である。)
【化2】

(式(2)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。n2は1以上5以下の整数を表し、k2、l2、q2、r2はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、m2、o2、p2はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。)
【化3】

(式(3)中、Ar~Ar11はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar12~Ar15はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。m3、n3はそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【化4】

(式(4)中、R~R12はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。k4、n4、o4はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、l4、m4はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。)
【化5】

(式(5)中、R13~R18はそれぞれ独立してアルキル基またはアルコキシ基を表し、m5、n5、p5、q5はそれぞれ独立して0以上5以下の整数を表し、o5、r5はそれぞれ独立して0以上4以下の整数を表す。m5、n5、o5、p5、q5、r5がそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するR13~R18の各々が隣接する基同士で互いに結合し、環構造を形成してもよく、また、窒素原子を置換基として有さないベンゼン環に置換する2つのビニル基の結合位置はパラ位である。)
【請求項2】
前記式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計含有量と前記電子輸送物質の含有量との比率が、前記電子輸送物質1重量部に対して前記合計含有量が40重量部以下である請求項1に記載の正帯電電子写真感光体。
【請求項3】
前記式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計含有量と前記電子輸送物質の含有量との比率が、前記電子輸送物質1重量部に対して前記合計含有量が0.5重量部以上である請求項1または2に記載の正帯電電子写真感光体。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子が、有機金属化合物で表面処理されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の正帯電電子写真感光体。
【請求項5】
前記保護層のバインダー樹脂が、ポリアミド樹脂を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の正帯電電子写真感光体。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が下記式(7)で表される構造を含む請求項5に記載の正帯電電子写真感光体。
【化6】

(式(7)中、R’18~R’21は、それぞれ独立して水素原子または有機置換基を表す。l7は0以上2以下の整数を表す。m7、n7はそれぞれ独立して0以上4以下の整数を表し、m7、n7がそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するR’20、R’21は互いに異なっていてもよい。)
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の正帯電電子写真感光体を備える電子写真カートリッジ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の正帯電電子写真感光体を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる正帯電電子写真感光体、電子写真カートリッジ及び画像形成装置に関する。詳しくは、電気特性が良好で、且つ耐久性に優れた正帯電電子写真感光体、該感光体を備えた電子写真カートリッジ、及び該感光体を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、即時性、高品質の画像が得られること等から、複写機、各種プリンター等の分野で広く使われている。電子写真技術の中核となる電子写真感光体(以下、単に「感光体」ともいう。)については、無公害で成膜が容易、製造が容易である等の利点を有する有機系の光導電物質を使用した感光体が使用されている。
電子写真感光体においては、電荷の発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる、いわゆる機能分離型の感光体が、材料選択の余地が大きく、感光体の特性の制御がし易いことから、開発の主流となっている。感光層構成の観点からは、感光層が、電荷発生物質と電荷輸送物質とを同一層中に含有する層を有する電子写真感光体(以下、単層型感光体という。)と、電荷発生物質と電荷輸送物質とを別々の層(電荷発生層と電荷輸送層)中に分離、積層する電子写真感光体(以下、積層型感光体という。)とが知られている。
【0003】
このうち積層型感光体は、感光体設計上、層ごとに機能の最適化が図り易く、特性の制御も容易なことから、現行感光体の大部分はこのタイプになっている。このような積層型感光体のほとんどのものは、基体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層をこの順序で有して、帯電においては負帯電方式が採用される。本発明の電荷輸送物質も積層型負帯電感光体に使用されている例がある(特許文献1、2)。このような負帯電方式において、負のコロナ放電により感光体を帯電させる場合に、発生するオゾンが環境及び感光体特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0004】
それに対し、単層型感光体においては、負帯電方式であっても正帯電方式であっても利用できるので、正帯電方式を利用すれば、上記積層型感光体で問題になるオゾン発生を低く抑えることができ、一部実用化されている。他の利点としては、塗布工程が少ない、半導体レーザー光に対する干渉縞が生じ難い、等の点がある。さらに、単層型感光体は以上のような利点に加え、感光層の表面近傍で入射光のほとんどが吸収され、電荷が発生するので、入射光の感光層中での拡散はほとんど無視でき、さらに帯電後の表面電荷が中和するまでの電荷の移動距離が積層型感光体に比べて少ないという利点が挙げられる。このため、光の拡散及び電荷の拡散による画像ボケが起き難く、高解像度が期待でき、感光層の膜厚をより厚くした場合にも電荷の拡散及び入射光の拡散の度合いがさほど変わらず、解像度もあまり低下しない(例えば特許文献3~6を参照)。
【0005】
一方、単層型感光体では層内に様々な機能の物質を一括して含むため、感光体の光感度や、画像欠陥の原因となる感光体上に残った電荷(残留電位)の面で、負帯電の積層型感光体よりも劣るものが多い。この感度や残留電位が示す電気的特性は、各材料の種類はもちろん、単層ゆえに層内の材料同士の組み合わせによっても大きく変わるという特徴があり、電荷輸送物質の影響も大きいことがわかっている。その中でも、積層型感光体中にも使用される特定の構造を持つアリールアミン系の電荷輸送物質が、単層型でも高感度で低残留電位を示すことが知られている(例えば特許文献7、8を参照)。
【0006】
また、正帯電有機感光体(単層型感光体)として特定の電荷発生材料、正孔輸送材料、及び電子輸送材料を採用することにより、高感度で、且つ画像の点欠陥を抑制した電子写真感光体(例えば特許文献9を参照)や、ポリアミド樹脂を結合剤として使用する保護層にキレート化合物を滴加することにより、保護層の感光層に対する接着性を向上させ、静電特性および生産性が向上された電子写真感光体(例えば特許文献10を参照)が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2013-64992号公報
【文献】日本国特開2015-62056号公報
【文献】日本国特開昭61-77054号公報
【文献】日本国特開昭61-188543号公報
【文献】日本国特開平2-228670号公報
【文献】日本国特開昭63-271463号公報
【文献】日本国特開2014-146005号公報
【文献】日本国特開2010-286707号公報
【文献】日本国特開2013-231867号公報
【文献】日本国特開2005-157371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、特定の構造をもつアリールアミン系の化合物(後述する式(1)~(5)のいずれかで表される化合物群)を正孔輸送物質として導入すると、正帯電電子写真感光体の感度向上や残留電位低減に有効であることを見出した。一方、それら化合物のイオン化ポテンシャル等の影響で、感光体内に正電荷が注入しやすくなり、感光体表面に電荷を載せる帯電特性を悪化させることが分かった。そのため、帯電-露光-現像-除電のプロセス初期では帯電が不十分で、画像が薄くなったり得られなかったりしていた。
すなわち、正帯電電子写真感光体において、式(1)~(5)のいずれかで表される化合物を正孔輸送物質として用いると、帯電後に正電荷が感光体に注入しやすく、プロセス1回転目での帯電能力に劣ることを本発明者は新たに見出したものである。
【0009】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、高感度で低残留電位、かつ帯電性に優れた正帯電電子写真感光体を提供すること、該電子写真感光体を用いた電子写真カートリッジ(プロセスカートリッジ)、及び該電子写真感光体を用いた画像形成装置を提供することにある。
中でも、前記帯電性に関し、プロセス1回転目の電位と、プロセス10回転目の電位との差が少ないといった帯電特性に優れた正帯電電子写真感光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の目的を満足し得る正帯電電子写真感光体について鋭意研究したところ、特定の正孔輸送物質を含有する感光層の上に特定の樹脂を含有する保護層を設けることにより、繰り返し使用したときの画像劣化が起こらないのはもちろん、プロセス1回転目(1回目)からの帯電能力に優れた高スピード高解像度の感光体を得ることが可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下の[1]~[9]に存する。
[1]
導電性支持体、感光層及び保護層をこの順に有し、前記感光層が電荷発生物質、正孔輸送物質及び電子輸送物質を同一層内に含有する正帯電電子写真感光体であって、
前記正孔輸送物質は下記式(1)~(5)の何れかで表される化合物のうち少なくとも一種を含み、
前記保護層のバインダー樹脂がアルコールに可溶な熱可塑性樹脂である正帯電電子写真感光体。
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)中、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表す。n1は2以上の整数を表す。Zは一価の有機残基を示し、m1は0以上4以下の整数を表す。ただし、Ar及びArの少なくとも一方は、置換基を有するアリール基である。)
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。n2は1以上5以下の整数を表し、k2、l2、q2、r2はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、m2、o2、p2はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。)
【0016】
【化3】
【0017】
(式(3)中、Ar~Ar11はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar12~Ar15はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。m3、n3はそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。)
【0018】
【化4】
【0019】
(式(4)中、R~R12はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。k4、n4、o4はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、l4、m4はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。)
【0020】
【化5】
【0021】
(式(5)中、R13~R18はそれぞれ独立してアルキル基またはアルコキシ基を表し、m5、n5、p5、q5はそれぞれ独立して0以上5以下の整数を表し、o5、r5はそれぞれ独立して0以上4以下の整数を表す。m5、n5、o5、p5、q5、r5がそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するR13~R18の各々が隣接する基同士で互いに結合し、環構造を形成してもよい。)
【0022】
[2]
前記式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計含有量と前記電子輸送物質の含有量との比率が、前記電子輸送物質1重量部に対して前記合計含有量が40重量部以下である前記[1]に記載の正帯電電子写真感光体。
[3]
前記式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計含有量と前記電子輸送物質の含有量との比率が、前記電子輸送物質1重量部に対して前記合計含有量が0.5重量部以上である前記[1]または[2]に記載の正帯電電子写真感光体。
[4]
前記保護層が、金属酸化物粒子を含有する前記[1]乃至[3]のいずれか一に記載の正帯電電子写真感光体。
[5]
前記金属酸化物粒子が、有機金属化合物で表面処理されている前記[4]に記載の正帯電電子写真感光体。
[6]
前記保護層のバインダー樹脂が、ポリアミド樹脂を含む前記[1]乃至[5]のいずれか一に記載の正帯電電子写真感光体。
[7]
前記ポリアミド樹脂が下記式(7)で表される構造を含む前記[6]に記載の正帯電電子写真感光体。
【0023】
【化6】
【0024】
(式(7)中、R’18~R’21は、それぞれ独立して水素原子または有機置換基を表す。l7は0以上2以下の整数を表す。m7、n7はそれぞれ独立して0以上4以下の整数を表し、m7、n7がそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するR’20、R’21は互いに異なっていてもよい。)
【0025】
[8]
前記[1]乃至[7]のいずれか一に記載の正帯電電子写真感光体を備える電子写真カートリッジ。
[9]
前記[1]乃至[7]のいずれか一に記載の正帯電電子写真感光体を備える画像形成装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高感度・低残留電位で帯電能力にすぐれ、高画質な画像形成を高スピードで行うことができる正帯電電子写真感光体、並びに、該正帯電電子写真感光体を備える電子写真カートリッジ及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施例2及び比較例2における感光体2A及び2Bの表面の帯電量(表面電位)とプロセス回数(回転回数)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。なお、‘質量%’と‘重量%’、‘質量部’と‘重量部’とは、それぞれ同義である。
【0029】
<正帯電電子写真感光体>
本発明の正帯電電子写真感光体(以下、単に電子写真感光体や感光体と称することがある。)は、導電性支持体、感光層及び保護層をこの順に有し、前記感光層は電荷発生物質及び電荷輸送物質を同一層内に含有する、所謂単層型の感光層であり、該感光層の上に有する前記保護層のバインダー樹脂がアルコールに可溶な熱可塑性樹脂であることを特徴としている。また、前記電荷輸送物質は、正孔輸送物質及び電子輸送物質を含み、前記正孔輸送物質は、式(1)~(5)の何れかで表される化合物のうち少なくとも一種を含む。
【0030】
本発明によれば、特定の感光層の上に所定の保護層を設けることで、帯電能力に優れ、印刷が速い高性能な画像形成を行うことができる感光体を得ることができる。
式(1)~(5)の何れかで表される化合物は、イオン化ポテンシャルが低く、高移動度の電荷輸送能があるため、低残留電位で高速マシンにも対応できる高性能感光体を得ることができる。一方で、イオン化ポテンシャルが低いため、表面に載せた正電荷が層内に注入されたり、暗電流となって減衰しやすくなって、プロセス初期には十分な帯電が得られない場合が多く、プロセス1回転目の帯電電位が、プロセス10回転目の帯電電位に比べて劣る傾向にあった。
【0031】
本発明者は、当該感光層上に特定の保護層を設けると、正電荷の注入や暗減衰が抑えられることを見出した。熱可塑性の特定の樹脂であると、感光層と保護層との間の相互作用により良好な界面を形成して、電荷の発生や負電荷の移動を損なわないまま、正電荷の感光層への注入を抑制していると推測できる。
以下、本発明の電子写真感光体を構成する各部(導電性支持体、下引き層、感光層、保護層)について説明する。
【0032】
<導電性支持体>
まず、本発明の感光体に用いられる導電性支持体について説明する。
導電性支持体としては、後述する感光層、保護層を支持し、導電性を示すものであれば、特に限定されない。
導電性支持体としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を共存させて導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着または塗布した樹脂、ガラス、紙等を主として使用する。
形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでもよい。
【0033】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、金属材料に陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。
例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、金属材料を陽極酸化処理することにより、金属材料表面に陽極酸化被膜が形成される。特に、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は通常100g/l以上、300g/l以下、溶存アルミニウム濃度は通常2g/l以上、15g/l以下、液温は通常15℃以上、30℃以下、電解電圧は通常10V以上、20V以下、電流密度は通常0.5A/dm以上、2A/dm以下の範囲内に設定されるのが好ましいが、上記条件に限定されるものではない。
【0034】
金属材料に陽極酸化被膜を施す場合、封孔処理を行うことが好ましい。封孔処理は、公知の方法で行うことができる。例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に上記金属材料を浸漬させる低温封孔処理、または、主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に上記金属材料を浸漬させる高温封孔処理を施すことが好ましい。
上記低温封孔処理の場合に使用されるフッ化ニッケル水溶液濃度は、適宜選択可能であるが、水溶液濃度を3g/l以上、6g/l以下の範囲とした場合、より好ましい結果が得られる。また、封孔処理をスムーズに進めるための処理温度としては、通常25℃以上、好ましくは30℃以上である。また、通常40℃以下、好ましくは35℃以下である。また、フッ化ニッケル水溶液のpHは、通常4.5以上、好ましくは5.5以上であり、通常pHは6.5以下、好ましくは6.0以下である。
【0035】
pH調節剤としては、例えば、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることができる。
処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり通常1分以上、3分以内で処理することが好ましい。なお、被膜物性を更に改良するために、フッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、または界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に共存させておいてもよい。次いで、水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。
【0036】
また、上記高温封孔処理の場合の封孔剤としては、例えば、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル-コバルト、硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることができるが、特に酢酸ニッケルを用いることが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合の濃度は、通常5g/l以上、20g/l以下が好ましい。この際の処理温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、また通常100℃以下、好ましくは98℃以下である。さらに、酢酸ニッケル水溶液のpHは、通常5.0以上、6.0以下で処理することが好ましい。
【0037】
pH調節剤としては、例えば、アンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることができる。処理時間は通常10分以上、好ましくは15分以上とする。なお、この場合も被膜物性を改良するために、例えば、酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系またはノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に含有させてもよい。更に、実質上塩類を含まない高温水や高温水蒸気で処理しても構わない。次いで、水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。
【0038】
なお、陽極酸化被膜の平均膜厚が厚い場合には、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理により強い封孔条件とすることが好ましい。しかしながら、強い封孔条件とすると生産性が低下すると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じる場合がある。したがって、陽極酸化被膜の平均膜厚は、通常20μm以下、特に7μm以下とされることが好ましい。
【0039】
上記導電性支持体の表面は、平滑であってもよく、また特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。
なお、上記導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のために、後述する下引き層を設けてもよい。
【0040】
<感光層>
次に、本発明の電子写真感光体に用いられる感光層について、以下詳しく説明する。
[材料]
まず、感光層に用いられる材料について説明する。本発明に用いられる感光層は、電荷輸送物質及び電荷発生物質を含有する単一の層から構成されることが好ましいが、構成成分または組成比の異なる複数の層を重ねたものであってよい。後者の場合でも、感光層中の材料の働きから、単層型感光層という。この際、感光層を構成する層のうちの1以上の層において、電荷輸送物質及び電荷発生物質を同一層内に含有していればよい。また、電荷輸送物質は、正孔輸送物質と電子輸送物質を含み、これらの総称として用いられる。
以下、上記感光層に用いられる材料(電荷発生物質、電荷輸送物質、バインダー樹脂など)について説明する。
【0041】
(電荷発生物質)
感光層に用いる電荷発生物質としては、例えば、セレン及びその合金、硫化カドミウム、その他無機系光導電材料;フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などの有機顔料;などの各種光導電材料が使用できる。中でも、特に有機顔料が好ましく、更に、フタロシアニン顔料、アゾ顔料がより好ましい。
【0042】
特に、電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、またはその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類などが使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、上に示した酸素原子、塩素原子の他、水酸基、アルコキシ基などが挙げられる。
中でも、特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、A型、B型、D型等のチタニルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。
【0043】
なお、ここで挙げたチタニルフタロシアニンの結晶型のうち、A型、B型についてはW.HellerらによってそれぞれI相、II相として示されており(Zeit.Kristallogr.159(1982)173)、A型は安定型として知られているものである。D型は、CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2°が27.3°に明瞭なピークを示すことを特徴とする結晶型である。
またアゾ顔料を使用する場合には、各種公知のビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。好ましいアゾ顔料の例を下記に示す。
【0044】
【化7】
【0045】
【化8】
【0046】
また、電荷発生物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、電荷発生物質を2種以上併用する場合、併用する電荷発生物質の混合状態、または、その結晶状態における混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合して用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等の電荷発生物質の製造・処理工程において混合状態を生じせしめて用いてもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
【0047】
この場合の電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが望ましい。具体的には、通常、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。
さらに、感光層内に分散される電荷発生物質の量は少なすぎると充分な感度が得られない可能性があり、多すぎると帯電性の低下、感度の低下などが生じる場合がある。よって、感光層内の電荷発生物質の量は、通常0.1重量%以上が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常50重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下とする。
【0048】
(電荷輸送物質)
本発明の感光体は正孔輸送物質と電子輸送物質を含み、正孔輸送物質は式(1)~(5)の何れかで表される化合物を1種以上含有する。この単層型感光層は、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を含有する層中に電荷発生物質を分散させたものであり、式(1)~(5)の何れかで表される化合物は、その感光層中に電荷輸送物質(正孔輸送物質)として含まれる。
まず下記式(1)で表される化合物について説明する。
【0049】
【化9】
【0050】
式(1)中、Ar~Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表す。n1は2以上の整数を表す。Zは一価の有機残基を示し、m1は0以上4以下の整数を表す。ただし、Ar及びArの少なくとも一方は、置換基を有するアリール基である。
【0051】
上記式(1)中、Ar~Arは置換基を有していてもよいアリール基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。中でも6~20の炭素原子を有するアリール基が好ましく、より好ましくは6~12の炭素原子を有するアリール基である。
具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基が挙げられ、好ましくは、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基が挙げられる。製造コストの面で、フェニル基、ナフチル基のような6~10の炭素原子を有するアリール基が特に好ましい。
【0052】
さらに、置換基を有する場合、該置換基としては、1~10の炭素原子を有し、かつHammett則における置換基定数σρが0.20以下である置換基が好ましい。ここで、Hammett則は、芳香族化合物における置換基が芳香環の電子状態に与える効果を説明するために用いられる経験則であって、置換ベンゼンの置換基定数σρは、置換基の電子供与/吸引の程度を定量化した値といえる。σρ値が正であれば置換化合物の方が無置換のものより酸性が強い、つまり電子吸引性置換基となる。逆にσρ値が負であると電子供与性置換基となる。代表的な置換基のσρ値は、日本化学会編の「化学便覧 基礎編II 改訂4版」(丸善株式会社、平成5年(1993年)9月30日発行、p.364~365)等に記載されている。
【0053】
Hammett則における置換基定数σρが0.20以下の置換基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルキルアミノ基、炭素数6~10のアリール基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、フェニル基、4-トリル基、4-エチルフェニル基、4-プロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。中でも、電気特性の面から、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、特には、メチル基、エチル基が好ましい。
【0054】
上記式(1)中、n1は、本発明に係る電子写真感光体の電気特性を向上させるという点で、通常2以上の整数であり、電気特性に悪影響を与えない限り特に上限はないが、5以下の整数が好ましく、3以下の整数がより好ましい。感光層に対する相溶性や製造コストなどの観点から総合的に考えると、n1は、2または3が好ましく、n=2の場合が特に好ましい。
【0055】
上記式(1)中、一価の有機残基Zとしては、例えば、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~4のアルキルアミノ基、炭素数6~10のアリール基等が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、フェニル基、4-トリル基、4-エチルフェニル基、4-プロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。中でも、電気特性の面から、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。
【0056】
前記式(1)中、m1は0以上4以下の整数を表し、0または1が好ましいが、製造コストの観点から考え、m1=0の場合が特に好ましい。
【0057】
上記式(1)で表される化合物の代表例として、以下の例示化合物が挙げられる。ただし、本発明における式(1)で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。また、式(1)で表される1種の化合物を単一成分として含有しても、式(1)で表される複数の化合物の混合物として含有してもよく、他の正孔輸送物質(例えば式(2)~(5)の何れかで表される化合物)との混合物として含有してもよい。
【0058】
【化10】
【0059】
【化11】
【0060】
上記例示化合物の中で、(1)-2、(1)-3、(1)-11、及び(1)-12が好ましく、(1)-2、(1)-3、及び(1)-12がより好ましく、(1)-2、及び(1)-3が更に好ましい。
【0061】
次に下記式(2)で表される化合物について説明する。
【0062】
【化12】
【0063】
式(2)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。n2は1以上5以下の整数を表し、k2、l2、q2、r2はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、m2、o2、p2はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。
【0064】
上記式(2)においてR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、またはアルコキシ基を表すが、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。ベンゼン環に対するそれぞれの置換基の結合位置は、スチリル基に対して、通常、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれの位置でも可能であるが、製造の容易さの面から、オルト位またはパラ位のいずれかが好ましい。
【0065】
上記式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、またはアルコキシ基を表すが、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性から水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、水素原子、炭素数1~2のアルキル基が更に好ましく、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、水素原子が特に好ましい。
【0066】
上記式(2)において、R、Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、またはアルコキシ基のいずれかを表す。具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられ、アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性の面から水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面からは、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基が更に好ましく、電子写真感光体のオゾンに対する耐性面から、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましく、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面からメチル基またはエチル基が最も好ましい。
【0067】
更にR、Rがアルキル基、またはアルコキシ基である場合、ベンゼン環に対するそれぞれの置換基の結合位置は、窒素原子の結合に対して、通常、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれの位置でも可能であるが、製造の容易さの面から、オルト位またはパラ位のいずれかが好ましい。
1つのベンゼン環に対するアルキル基、アルコキシ基の合計が2個以上である場合、オルト位またはパラ位のいずれかに置換していることが好ましい。電子写真感光体特性の面から、より好ましくは1つのベンゼン環に対してアルキル基が合計2個置換している場合であり、その2個の置換基が、それぞれパラ位、オルト位に置換していること、もしくは両方ともオルト位に置換していることが更に好ましい。
【0068】
k2、l2、q2、r2はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、m2、o2、p2はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。k2、l2、m2、o2、p2、q2及び/又はr2が2以上の整数を表す場合、また、ベンゼン環に結合する複数のR~Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0069】
n2は1以上5以下の整数を表し、1以上3以下の整数が好ましく、2又は3がより好ましい。また、塗布溶媒への溶解性の観点からは、より好ましくは1または2であり、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、さらに好ましくは2である。
ジフェニルアミノ基が結合するアリーレン基部分は、n2=1の場合、フェニレン基、n2=2の場合、ビフェニレン基、n2=3の場合、ターフェニレン基を表す。
2つのジフェニルアミノ基がアリーレン基と結合する位置は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、n=1の場合、電子写真感光体の帯電性の面から、2つのジフェニルアミノ基がフェニレン基の結合位置でメタ位の関係となることが好ましい。n2=2の場合、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、ジフェニルアミノ基がビフェニレン基と結合する位置は、ビフェニレン基の4位と4’位に結合することが好ましく、n2=3の場合、製造原料の汎用性からターフェニレン基の中でもp-ターフェニレン基が好ましく、p-ターフェニレン基へのジフェニルアミン基の結合位置は、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から4位と4’’位に結合することが好ましい。
【0070】
また、本発明の電子写真感光体は、通常、感光層に、式(2)で表される化合物を単一成分として含有するものでもよいし、式(2)で表される異なる構造の化合物の混合物として含有してもよい。さらには他の正孔輸送物質(例えば式(1)、式(3)~(5)の何れかで表される化合物)との混合物として含有してもよい。
式(2)で表される異なる構造の化合物の混合物としては、式(2)で表される構造のうち、R~Rの置換位置だけが異なる、いわゆる位置異性体を複数種混合する場合が、互いの電子状態が近く電荷輸送のトラップになり難いことに加えて、塗布液あるいは膜中での結晶生成を抑制できる観点から、好ましい。位置異性体としては、R、Rの置換位置が異なるものを混合して使用することが、化合物の合成の容易さの観点からより好ましく、R、Rの置換位置がオルト位,パラ位のものを混合して使用することが最も好ましい。
【0071】
上記式(2)で表される化合物の代表例として、以下の例示化合物が挙げられる。ただし、本発明における式(2)で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
なお、本明細書において、式中、Meはメチル基、Etはエチル基、nBuはn-ブチル基、nHexはn-ヘキシル基をそれぞれ表す。
【0072】
【化13】
【0073】
【化14】
【0074】
上記例示化合物の中で、(2)-3、(2)-4、(2)-7、(2)-10、(2)-12及び(2)-22が好ましく、(2)-3、(2)-4、(2)-7及び(2)-10がより好ましく、(2)-7及び(2)-10が更に好ましい。
【0075】
次に下記式(3)で表される化合物について説明する。
【0076】
【化15】
【0077】
式(3)中、Ar~Ar11はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar12~Ar15はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。m3、n3はそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。
【0078】
上記式(3)においてAr~Ar11は、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基を表し、具体的にはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。中でも、電子写真感光体の特性を考慮すると、フェニル基、ナフチル基が好ましく、電荷輸送能力の観点からは、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、フェニル基が更に好ましい。
【0079】
Ar~Ar11が有していてもよい置換基としてはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体的にはアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルコキシ基、シクロヘキシロキシ基等の環状アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、1,1,1-トリフルオロエトキシ基等のフッ素原子を有するアルコキシ基が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性から炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が更に好ましい。
【0080】
Ar~Ar11がフェニル基である場合、電荷輸送能力の観点から置換基を有することが好ましく、置換基の数としては1~5個が可能であるが、製造原料の汎用性からは1~3個が好ましく、電子写真感光体の特性の面からは、1~2個がより好ましい。また、Ar~Ar11がナフチル基である場合は、製造原料の汎用性から置換基の数が2以下、もしくは置換基を有さないことが好ましく、より好ましくは置換基の数が1、もしくは置換基を有さないことである。
【0081】
上記式(3)においてAr12~Ar15は、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、具体的にはフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基が例として挙げられ、この中でも電子写真感光体の特性を考慮すると、フェニレン基、ナフチレン基が好ましく、より好ましくはフェニレン基である。
【0082】
Ar12~Ar15が有していてもよい置換基としてはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体的にはアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルコキシ基、シクロヘキシロキシ基等の環状アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、1,1,1-トリフルオロエトキシ基等のフッ素原子を有するアルコキシ基が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性から炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が更に好ましい。
【0083】
Ar12~Ar15が置換基を有すると、分子構造にねじれが生じ、分子内でのπ共役拡張を妨げ、電子輸送能力が低下する可能性があることから、Ar12~Ar15は置換基を有さないことが好ましく、電子写真感光体特性の面からは1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、2,8-ナフチレン基がより好ましく、1,4-フェニレン基が更に好ましい。
【0084】
m3、n3はそれぞれ独立して1以上3以下の整数を表す。m3、n3が大きくなると塗布溶媒への溶解性が低下する傾向にあることから、好ましくは2以下であり、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、より好ましく1である。
m3、n3が1の場合、エテニル基を表し、幾何異性体を有するが、電子写真感光体特性の面から、トランス体構造が好ましい。m3、n3が2の場合、ブタジエニル基を表し、この場合も幾何異性体を有するが、塗布液保管安定性の面から、2種以上の幾何異性体混合物であることが好ましい。
【0085】
また、本発明の電子写真感光体は、通常、感光層に、式(3)で表される化合物を単一成分として含有するものでもよいし、式(3)で表される化合物の混合物として含有することも可能である。さらには他の正孔輸送物質(例えば式(1)、(2)、(4)、(5)の何れかで表される化合物)との混合物として含有してもよい。
上記式(3)で表される化合物の代表例として、以下の例示化合物が挙げられる。ただし、本発明における式(3)で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0086】
【化16】
【0087】
【化17】
【0088】
上記例示化合物の中で、(3)-1、(3)-2、(3)-5、(3)-8、(3)-9、及び(3)-10が好ましく、(3)-1、及び(3)-8が特に好ましい。
【0089】
次に下記式(4)で表される化合物について説明する。
【0090】
【化18】
【0091】
式(4)中、R~R12はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアルコキシ基を表す。k4、n4、o4はそれぞれ独立して1以上5以下の整数を表し、l4、m4はそれぞれ独立して1以上4以下の整数を表す。
【0092】
上記式(4)において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基のいずれかを表し、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性の面から水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面からは、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基が更に好ましく、電子写真感光体のオゾンに対する耐性面から、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましく、溶解性の面からは、炭素数3~4の直鎖状または分岐状アルキル基が最も好ましい。
更にRがアルキル基である場合、ベンゼン環に対する置換基の結合位置は、窒素原子の結合に対して、通常、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれの位置でも可能であるが、製造の容易さの面から、オルト位および/またはパラ位が好ましい。
【0093】
上記式(4)において、R、R10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基を表し、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性から水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、水素原子、炭素数1~2のアルキル基が更に好ましく、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、水素原子が特に好ましい。
【0094】
上記式(4)においてR11、R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基を表し、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アリール基としては、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性、電荷輸送物質としての電荷輸送能力の面から、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。ベンゼン環に対するそれぞれの置換基の結合位置は、スチリル基に対して、通常、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれの位置でも可能であるが、製造の容易さの面から、オルト位またはパラ位のいずれかが好ましい。
【0095】
上記式(4)で表される化合物の代表例として、以下の例示化合物が挙げられる。ただし、本発明における式(4)で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
また、式(4)で表される1種の化合物を単一成分として含有しても、式(4)で表される複数の化合物の混合物として含有してもよく、他の正孔輸送物質(例えば式(1)~(3)、(5)の何れかで表される化合物)との混合物として含有してもよい。
【0096】
【化19】
【0097】
上記例示化合物の中で、(4)-5、(4)-7、(4)-8及び(4)-9が好ましく、(4)-5及び(4)-7が特に好ましい。
【0098】
次に下記式(5)で表される化合物について説明する。
【0099】
【化20】
【0100】
式(5)中、R13~R18はそれぞれ独立してアルキル基またはアルコキシ基を表し、m5、n5、p5、q5はそれぞれ独立して0以上5以下の整数を表し、o5、r5はそれぞれ独立して0以上4以下の整数を表す。m5、n5、o5、p5、q5、r5がそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するR13~R18の各々が隣接する基同士で互いに結合し、環構造を形成してもよい。
【0101】
上記式(5)においてR13~R18は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基を表す。具体的にはアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、エチルヘキシル基等の分岐状アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルコキシ基、シクロヘキシロキシ基等の環状アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、1,1,1-トリフルオロエトキシ基等のフッ素原子を有するアルコキシ基が挙げられる。
これらの中でも、製造原料の汎用性から炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基が好ましく、製造時の取扱性の面から、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基がより好ましく、電子写真感光体としての光減衰特性の面から、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が更に好ましく、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基が更により好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基が最も好ましい。
【0102】
m5、n5、p5、q5はそれぞれ独立して0以上5以下の整数をとることが可能であるが、製造原料の汎用性からは0以上3以下が好ましく、電子写真感光体の特性の面からは、0以上2以下がより好ましい。
またo5、r5はそれぞれ独立して0以上4以下の整数をとることが可能であるが、上記m5、n5、p5、q5と同様の理由から0以上2以下が好ましく、0以上1以下がより好ましく、0が更により好ましい。
【0103】
m5、n5、p5、q5が1以上の場合、R13、R14、R16、R17が各ベンゼン環に置換する位置は、窒素原子に対してオルト位、メタ位、パラ位のいずれにも置換可能であるが、電子写真感光体特性の面からオルト位又はパラ位が好ましい。また、m5、n5、o5、p5、q5、r5各々が2以上の場合、同一ベンゼン環上の複数の置換基が隣接する基同士で互いに結合し、環構造を形成してもよい。
【0104】
窒素原子を置換基として有さないベンゼン環に置換する2つのビニル基の結合位置は、それぞれオルト位、メタ位、パラ位のいずれの位置でも置換可能であるが、電子写真感光体特性の面からパラ位であることが好ましい。
上記式(5)で表される好ましい化合物の代表例として、以下の例示化合物が挙げられる。ただし、本発明に係る式(5)で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。また、式(5)で表される1種の化合物を単一成分として含有しても、式(5)で表される複数の化合物の混合物として含有してもよく、他の正孔輸送物質(例えば式(1)~(4)の何れかで表される化合物)との混合物として含有してもよい。
【0105】
【化21】
【0106】
上記例示化合物の中で、(5)-1、(5)-2及び(5)-3が好ましく、(5)-2が特に好ましい。
【0107】
本発明の電子写真感光体は、正孔輸送物質として、式(1)~(5)の何れかで表される化合物を単一成分として含有するものでもよいし、式(1)~(5)の何れかで表される化合物の混合物として含有することも可能である。
【0108】
本発明の電子写真感光体における感光層には、上記正孔輸送物質の他に、任意の公知の正孔輸送物質を併用して用いることができる。たとえば、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等の電子供与性物質などが挙げられる。
これらの中でも、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
なお、正孔輸送物質に対して、式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計の含有量が50重量%以上とすることが残留電位の点から好ましく、70重量%以上がより好ましい。また、上限は特に限定されず、100重量%であってもよい。
【0109】
さらに、電荷輸送物質として前記正孔輸送物質と併用される電子輸送物質には、公知の電子輸送物質を用いることができる。電子輸送物質としては、公知の材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、2,4,7-トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質や、公知の環状ケトン化合物やペリレン顔料(ペリレン誘導体)が挙げられる。電子輸送物質としては、例えば下記式(I)~(XII)で表される化合物が例示できる。なお、式中t-Buとは、t-ブチル基を表す。
【0110】
【化22】
【0111】
【化23】
【0112】
正孔輸送物質である前記式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計含有量と、電子輸送物質の含有量との比率は、電子輸送物質1重量部に対して、前記合計含有量が40重量部以下であることが帯電性の点から好ましく、15重量部以下がより好ましい。一方、残留電位の点から前記合計含有量が0.5重量部以上であることが好ましく、2重量部以上がより好ましい。
【0113】
(バインダー樹脂)
次に、上記感光層に用いるバインダー樹脂について説明する。上記感光層に用いるバインダー樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体またはその共重合体;ブタジエン樹脂;スチレン樹脂;酢酸ビニル樹脂;塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂;メタクリル酸エステル樹脂;ビニルアルコール樹脂;エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルホルマール樹脂;部分変性ポリビニルアセタール樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリアミド樹脂;ポリウレタン樹脂;セルロースエステル樹脂;シリコーン-アルキッド樹脂;ポリ-N-ビニルカルバゾール樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリイミド樹脂;フェノキシ樹脂;エポキシ樹脂;シリコーン樹脂;及びこれらの部分的架橋硬化物が挙げられる。また上記樹脂は珪素試薬等で修飾されていてもよい。またこれらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることもできる。
【0114】
また、特にバインダー樹脂として、界面重合で得られた1種、または2種類以上のポリマーを含有することが好ましい。界面重合とは、互いに混ざり合わない2つ以上の溶媒(多くは、有機溶媒-水系)の界面で進行される重縮合反応を利用する重合法である。例えば、ジカルボン酸塩化物を有機溶媒に、グリコール成分をアルカリ水等に溶かして、常温で両液を混合させて2層に分け、その界面で重縮合反応を進ませて、ポリマーを生成させる。他の2成分の例としては、ホスゲンとグリコール水溶液等が挙げられる。また、ポリカーボネートオリゴマーを界面重合で縮合する場合のように、2成分をそれぞれ、2層に分けるのではなく、界面を重合の場として、利用する場合もある。
【0115】
上記界面重合における反応溶媒としては、有機層と水層との二層を使用するのが好ましく、有機層としてはメチレンクロライドが好ましく、水層としてはアルカリ性水溶液が好ましく用いられる。また上記反応時に、触媒を使用することが好ましく、反応で使用する縮合触媒の量は、例えばグリコールを反応させる場合、ジオールに対して通常0.005mol%以上、好ましくは0.03mol%以上である。また通常0.1mol%以下、好ましくは0.08mol%以下である。上記範囲を超えると、重縮合後の洗浄工程で触媒の抽出除去に多大の労力を要する場合がある。
【0116】
また、上記界面重合における反応温度は、通常80℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下であり、下限は通常10℃以上である。反応温度が高すぎると、副反応の制御ができない場合がある。一方、反応温度が低いと、反応制御上は好ましい状況ではあるが、冷凍負荷が増大して、その分コストアップとなる場合がある。また反応時間は反応温度や目的とする組成物の種類等によっても左右されるが、通常0.5分以上、好ましくは1分以上であり、通常30時間以内、好ましくは15時間以内である。
【0117】
また、有機層中の反応成分の濃度は、得られる組成物が可溶な範囲であればよく、具体的には、通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上である。また、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下である。有機層の割合は水層に対して0.2以上、1.0以下の容積比であることが好ましい。また、重縮合によって得られる有機層中の生成樹脂の濃度が5重量%以上、30重量%以下となるように溶媒の量が調整されることが好ましい。しかる後、新たに水及びアルカリ金属水酸化物を含む水層を加え、界面重縮合法に従い、初期の重縮合を完結させる。この際、重縮合条件を整えるために縮合触媒を含有させることが好ましい。上記重縮合時の有機層と水層との割合は容積比で有機層を1とした際に水層が0.2以上、1以下であることが好ましい。
【0118】
上記界面重合により得られるバインダー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、特にポリカーボネート樹脂、またはポリアリレート樹脂が好ましい。また、特に芳香族ジオールを原料とするポリマーであることが好ましく、好ましい芳香族ジオール化合物としては、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0119】
【化24】
【0120】
上記式(6)中、Xは下記のいずれかで表される連結基、または単結合を示す。
【0121】
【化25】
【0122】
上記連結基中、R’16及びR’17は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、置換されていてもよいアリール基、またはハロゲン化アルキル基を示す。Zは、炭素数4~20の置換または非置換の炭素環を示す。
【0123】
式(6)中、Y~Yは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、置換されていてもよいアリール基、または、ハロゲン化アルキル基を示す。
【0124】
さらに、下記構造式を有するビスフェノール成分、またはビフェノール成分が含有されるポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が電子写真感光体の感度及び残留電位の点から好ましく、中でも移動度の面からポリカーボネート樹脂がより好ましい。
本例示は、趣旨を明確にするために行うものであり、本発明の趣旨に反しない限り、例示される構造に限定されるものではない。
【0125】
【化26】
【0126】
【化27】
【0127】
また特に、本発明の効果を最大限に発揮するためには、下記構造を示すビスフェノール誘導体を含有するポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0128】
【化28】
【0129】
また、機械特性向上のためには、ポリエステル樹脂、特にポリアリレート樹脂を使用することが好ましく、この場合は、ビスフェノール成分として下記構造を有するものを用いることが好ましい。
【0130】
【化29】
【0131】
また酸成分としては、下記構造を有するものを用いることが好ましい。
【0132】
【化30】
【0133】
また、テレフタル酸とイソフタル酸を使用する際は、テレフタル酸のモル比が多い方が好ましく、下記構造を有するものを用いることが好ましい。
【0134】
【化31】
【0135】
ここで、上記バインダー樹脂と式(1)~式(5)の何れかで表される正孔輸送物質の合計含有量との割合は、バインダー樹脂100重量部に対して通常前記合計含有量は20重量部以上が好ましく、残留電位低減の観点から30重量部以上がより好ましく、さらに繰り返し使用時の安定性、電荷移動度の観点から、40重量部以上がさらに好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、通常は200重量部以下が好ましく、正孔輸送物質とバインダー樹脂との相溶性の観点から120重量部以下がより好ましく、さらに繰り返し価像形成時の耐久性の観点から110重量部以下がさらに好ましく、感光層の耐傷性の観点から100重量部以下が特に好ましい。正孔輸送物質の量は少なすぎると電気特性が低下する傾向があり、多すぎると塗布膜が脆くなり耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0136】
なお、上記のような配合比の正孔輸送媒体中に、さらに上述した電子輸送物質や電荷発生物質、すなわちフタロシアニン化合物及び/またはその他の電荷発生物質が分散される。その際、電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが好ましく、通常1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。感光層中に分散される電荷発生物質の量が少なすぎると充分な感度が得られず、多すぎると帯電性の低下、感度の低下等が生じることがある。そのため、電荷発生物質の量は感光層中において、通常0.1重量%以上が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上であり、50重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下である。なお、上記電荷発生物質の量は、上述したフタロシアニン化合物及び/またはその他の電荷発生物質の総量とする。
【0137】
また、電子輸送物質の使用量は特に制限されないが、例えば感光層中のバインダー樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、残留電位の点で特に好ましくは2重量部以上であり、60重量部以下が好ましく、耐刷性が低下する場合があるので45重量部以下が特に好ましい。
【0138】
(その他の物質)
上記材料以外にも、感光層中には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加物を含有させてもよい。また、感光層には必要に応じて塗布性を改善するためのレベリング剤や、酸化防止剤、増感剤、染料、顔料、界面活性剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。また、染料、顔料の例としては、各種の色素化合物、アゾ化合物などが挙げられ、界面活性剤の例としては、シリコ-ンオイル、フッ素系オイルなどが挙げられる。本発明では、これらを適宜、1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0139】
また電子写真感光体表面の摩擦抵抗や摩耗を軽減する目的で、感光層の表面の層にフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含んでもよく、これらの樹脂からなる粒子や酸化アルミニウム等の無機化合物の粒子を含有させてもよい。
ここで、本発明においては特に下記の酸化防止剤及び電子吸引性化合物が感光層に含有されていることが好ましい。
【0140】
<酸化防止剤>
酸化防止剤は、本発明の電子写真感光体の酸化を防止するために用いられる安定剤の一種である。
酸化防止剤は、ラジカル補足剤としての機能があるものであればよく、具体的には、フェノール誘導体、アミン化合物、ホスホン酸エステル、硫黄化合物、ビタミン、ビタミン誘導体等が挙げられる。
【0141】
この中でも、フェノール誘導体、アミン化合物、ビタミン等が好ましい。また、嵩高い置換基を、ヒドロキシ基近辺に有する、ヒンダードフェノール、またはトリアルキルアミン誘導体等がより好ましい。
またさらに、ヒドロキシ基のo位にt-ブチル基を有するアリール化合物誘導体、及びヒドロキシ基のo位にt-ブチル基を2つ有するアリール化合物誘導体が特に好ましい。
【0142】
また、該酸化防止剤の分子量が大きすぎると、酸化防止能が低下する場合があり、分子量1500以下、特には分子量1000以下の化合物が好ましい。また下限の分子量は通常100以上、好ましくは150以上であり、更に好ましくは200以上である。
【0143】
以下、本発明に使用できる酸化防止剤を示す。本発明に使用できる酸化防止剤としては、プラスチック、ゴム、石油、油脂類の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤として公知の材料すべてを用いる事ができる。なかでも、下記<1>から<8>の化合物群より選ばれる材料が好ましく使用できる。本発明においては、このような酸化防止剤を1種または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0144】
<1>日本国特開昭57-122444号公報に記載のフェノール類、日本国特開昭60-188956号公報に記載のフェノール誘導体、及び、日本国特開昭63-18356号公報に記載のヒンダードフェノール類。
<2>日本国特開昭57-122444号公報に記載のパラフェニレンジアミン類、日本国特開昭60-188956号公報に記載のパラフェニレンジアミン誘導体、及び、日本国特開昭63-18356号公報に記載のパラフェニレンジアミン類。
【0145】
<3>日本国特開昭57-122444号公報に記載のハイドロキノン類、日本国特開昭60-188956号公報に記載のハイドロキノン誘導体、及び、日本国特開昭63-18356号公報に記載のハイドロキノン類。
<4>日本国特開昭57-188956号公報に記載のイオウ化合物、及び、日本国特開昭63-18356号公報に記載の有機イオウ化合物類。
【0146】
<5>日本国特開昭57-122444号公報に記載の有機リン化合物、及び、日本国特開昭63-18356号公報に記載の有機リン化合物類。
<6>日本国特開昭57-122444号公報に記載のヒドロキシアニソール類。
<7>日本国特開昭63-18355号公報に記載の特定の骨格構造を有するピペリジン誘導体及びオキソピペラジン誘導体。
<8>日本国特開昭60-188956号公報に記載のカロチン類、アミン類、トコフェロール類、Ni(II)錯体、スルフィド類等。
【0147】
また、特に好ましくは、下記に示すヒンダードフェノール類が好ましい。なお、ヒンダードフェノールとは、嵩高い置換基を、ヒドロキシ基近辺に有する、フェノール類を示す。
具体的には、ジブチルヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、α-トコフェノール、β-トコフェノール、2,2,4-トリメチル-6-ヒドロキシ-7-t-ブチルクロマン、ペンタエリスチルテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’-チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシアニソール、オクタデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート(Octadecyl-3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyhydrocinnamate)、または1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-ベンゼン(1,3,5-trimethyl-2,4,6-tris-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxybenzyl)-benzene)等が挙げられる。
【0148】
上記、ヒンダードフェノール類の中でも、特に、ジブチルヒドロキシトルエン、オクタデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート(Octadecyl-3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyhydrocinnamate)、または1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-ベンゼン(1,3,5-trimethyl-2,4,6-tris-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxybenzyl)-benzene)がより好ましい。
【0149】
これらの化合物はゴム、プラスチック、油脂類等の酸化防止剤として知られており、市販品として手に入るものもある。
上記酸化防止剤の使用量は、特に制限されないが、感光層中のバインダー樹脂100重量部当り通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上である。また良好な電気特性を得るため、通常25重量部以下であるが、酸化防止剤の量が多すぎると、電気特性だけでなく、耐刷性が低下する場合があるので、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0150】
<電子吸引性化合物>
また、本発明の電子写真感光体中には電子吸引性の化合物を有してもよく、特に感光層に含有することが好ましい。
電子吸引性化合物の例として具体的には、スルホン酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、有機シアノ化合物、ニトロ化合物、芳香族ハロゲン誘導体等が挙げられ、好ましくは、スルホン酸エステル化合物、有機シアノ化合物であり、特に好ましくはスルホン酸エステル化合物である。上記電子吸引性化合物は1種のみを単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0151】
また電子吸引性化合物の電子吸引能力は、LUMOの値(以下、適宜LUMOcalとする)で予見することが可能であると解される。本発明においては、上記の中でも特に、PM3パラメーターを使った半経験的分子軌道計算を用いた構造最適化による(以下これを単に、半経験的分子軌道計算による、と記載する場合がある)LUMOcalの値に特に制限はないが、-0.5eV以上-5.0eV以下である化合物が好ましい。LUMOcalの絶対値は、より好ましくは、1.0eV以上であり、さらに好ましくは、1.1eV以上であり、特に好ましくは、1.2eV以上である。LUMOcalの絶対値は、より好ましくは4.5eV以下、さらに好ましくは、4.0eV以下、特に好ましくは、3.5eV以下である。上記の範囲であると、電子吸引性の効き目と帯電のバランスが適度である。
上記LUMOcalの絶対値が上記範囲内とされる化合物としては、以下の化合物があげられる。
【0152】
【化32】
【0153】
本発明における電子写真感光体に用いられる上記電子吸引性化合物の量は、特に制限されないが、上記電子吸引性化合物が感光層に使用される場合、感光層に含まれるバインダー樹脂100重量部当り電子吸引性化合物の合計量は0.01重量部以上が好ましく、より好ましくは0.1重量部以上である。また良好な電気特性を得るため、通常50重量部以下が好ましい。電子吸引性化合物の量が多すぎると、電気特性だけでなく、耐刷性が低下する場合があるので、より好ましくは40重量部以下、さらに好ましくは30重量部以下である。
【0154】
(感光層の形成方法)
次に、感光層の形成方法について説明する。上記感光層の形成方法は特に限定されないが、例えば、電荷輸送物質、バインダー樹脂、及びその他の物質を溶媒(または分散媒)に溶解(または分散)した塗布液中に上記電荷発生物質を分散させ、導電性支持体上(後述する下引き層等の中間層を設ける場合は、これらの中間層上)に塗布することにより形成することができる。
以下、感光層の形成に用いられる溶媒または分散媒、及び塗布方法を説明する。
【0155】
<溶媒または分散媒>
感光層の形成に用いられる溶媒または分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;n-ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類;アセトニトリル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0156】
<塗布方法>
感光層を形成するための塗布液の塗布方法としては、例えば、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等が挙げられる。
スプレー塗布法としては、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電エアスプレー、静電エアレススプレー、回転霧化式静電スプレー、ホットスプレー、ホットエアレススプレー等がある。均一な膜厚を得るための微粒化度、付着効率等を考えると回転霧化式静電スプレーであって、日本国再公表平1-805198号公報に開示されている搬送方法、すなわち円筒状ワークを回転させながらその軸方向に間隔を開けることなく連続して搬送する方法が好ましい。これにより、総合的に高い付着効率で膜厚の均一性に優れた感光層を得ることができる。
【0157】
またスパイラル塗布法としては、例えば、日本国特開昭52-119651号公報に開示されている注液塗布機またはカーテン塗布機を用いた方法、日本国特開平1-231966号公報に開示されている微小開口部から塗料を筋状に連続して飛翔させる方法、日本国特開平3-193161号公報に開示されているマルチノズル体を用いた方法等がある。
浸漬塗布法では、塗布液または分散液の全固形分濃度を好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上とする。また好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下とする。
【0158】
また、塗布液または分散液の粘度を好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上とする。また、好ましくは700mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下とする。これにより膜厚の均一性に優れた感光層とすることができる。
上記塗布法により塗布膜を形成した後、塗膜を乾燥させるが、必要且つ充分な乾燥が行われるように乾燥温度時間を調整することが好ましい。
乾燥温度は、高すぎると感光層内に気泡が混入する原因となり、低すぎると乾燥に時間を要し、残留溶媒量が増加して電気特性に影響を与えることがあるため、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。また通常250℃以下、好ましくは170℃以下、さらに好ましくは140℃以下であり、段階的に温度を変更してもよい。
乾燥方法としては、熱風乾燥機、蒸気乾燥機、赤外線乾燥機および遠赤外線乾燥機等を用いることができる。
また、本発明では感光層上に後述する保護層を設けるため、感光層の塗布後は室温での風乾のみを実施し、保護層塗布後に上記方法での熱乾燥を実施してもよい。
【0159】
感光層の厚みは使用される材料などにより適宜最適な厚みが選択されるが、寿命の点より、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が特に好ましい。また、電気特性の点より、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。
【0160】
<保護層>
次に、本発明の感光体に用いられる保護層について説明する。本発明で使用される保護層は、上記の感光層上に形成される。
保護層に使用される材料として、機械的強度に優れ、膜形成が容易、感光層の特性を損ねない点で、アルコールに可溶な熱可塑性樹脂をバインダー樹脂として用いることが好ましく、さらに金属酸化物粒子を含む保護層であることがより好ましい。
以下、保護層に用いられる好適な材料(バインダー樹脂、金属酸化物粒子)について説明する。
【0161】
<バインダー樹脂>
本発明の保護層に用いられるバインダー樹脂は、熱可塑性であり、かつアルコールに可溶である。本発明における、「アルコールに可溶」なバインダー樹脂とは、以下(A)~(C)のうち、いずれか一つ以上の条件を満たすものである。
(A)常圧下、メタノールに対して、25℃乃至60℃のいずれかの温度で、溶液全体に対して1質量%以上溶解する樹脂。
(B)常圧下、エタノールに対して、25℃乃至60℃のいずれかの温度で、溶液全体に対して1質量%以上溶解する樹脂。
(C)常圧下、1-プロパノールに対して、25℃乃至60℃のいずれかの温度で、溶液全体に対して1質量%以上溶解する樹脂。
【0162】
バインダー樹脂は、画像欠陥の観点から、飽和吸水率が5%以下の樹脂が好ましく、3%以下が更に好ましい。下限は、電気特性の観点から通常0.5%以上であり、1%以上が好ましい。飽和吸水率が低いほど表面抵抗率が大きくなり、像流れを抑制する効果が得られる。
【0163】
熱可塑性であり、かつアルコールに可溶な樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、吸水率の観点からポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましく、塗膜強度の観点からポリアミド樹脂を含むことが更に好ましい。
【0164】
ポリアミド樹脂としては、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン等を共重合させた、いわゆる共重合ナイロンや、N-アルコキシメチル変性ナイロン、N-アルコキシエチル変性ナイロンのようにナイロンを化学的に変性させたタイプ等のアルコール可溶性ナイロン樹脂などを挙げることができる。
具体的な商品としては、例えば「CM4000」「CM8000」(以上、東レ製)、「F-30K」「MF-30」「EF-30T」(以上、ナガセケムテック株式会社製)等が挙げられる。
【0165】
具体的には、ジもしくはトリカルボン酸、ラクタム化合物、アミノカルボン酸、ジアミン等から誘導される成分が重合されたものであることが好ましい。
前記ジもしくはトリカルボン酸としては、炭素数は、経済性、入手の容易さの観点から通常2~32、好ましくは2~26、更に好ましくは2~22である。例えば、シュウ酸、マロン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジもしくはトリカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、エイコセン酸などの脂肪族モノ不飽和脂肪酸、デカジエン酸、ウンデカジエン酸、ドデカジエン酸、トリデカジエン酸、テトラデカジエン酸、ペンタデカジエン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘプタデカジエン酸、オクタデカジエン酸、ノナデカジエン酸、エイコサジエン酸、およびドコサジエン酸などのジ不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましく、経済性、入手の容易さから、アジピン酸が好ましい。
【0166】
ジもしくはトリカルボン酸の合計の成分比としては、下限は通常、全ポリアミド成分の0mol%以上、好ましくは3mol%以上、更に好ましくは5mol%以上、特に好ましくは10mol%以上である。上限は通常、全ポリアミド成分の50mol%以下、好ましくは45mol%以下、更に好ましくは40mol%以下、特に好ましくは30mol%以下である。
【0167】
前記ラクタム化合物および前記アミノカルボン酸としては、炭素数は、経済性、入手の容易さの観点から通常2~20、好ましくは4~16、更に好ましくは6~12である。例えば、α-ラクタム、β-ラクタム、γ-ラクタム、δ-ラクタム、ε-ラクタム(カプロラクタム)、ω-ラクタム(ラウリルラクタム、ドデカンラクタム)などのラクタム化合物、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
経済性、入手の容易さから、カプロラクタム、ドデカンラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸が好ましい。
【0168】
ラクタム化合物およびアミノカルボン酸の合計の成分比としては、下限は通常、全ポリアミド成分の0mol%以上、好ましくは3mol%以上、更に好ましくは5mol%以上、特に好ましくは10mol%以上である。上限は通常、全ポリアミド成分の50mol%以下、好ましくは45mol%以下、更に好ましくは40mol%以下、特に好ましくは30mol%以下である。
【0169】
前記ジアミンとしては、炭素数は、経済性、入手の容易さの観点から通常2~32、好ましくは2~26、更に好ましくは2~20である。例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、テトラデカメチレンジアミン、ペンタデカメチレンジアミン、ヘキサデカメチレンジアミン、ヘプタデカメチレンジアミン、オクタデカメチレンジアミン、ノナデカメチレンジアミン、エイコサメチレンジアミン等の直鎖状メチレンジアミン、2-/3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状メチレンジアミン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカンなどのシクロアルカン環状構造を有するジアミン(環状ジアミン)、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,5-ジ-n-プロピルピペラジン、2,5-ジイソプロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、2,5-ジ-t-ブチルピペラジン、2,5-ピペラジンジオンなどの無置換または置換ピペラジン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
経済性、入手の容易さから、直鎖状メチレンジアミン及び/又は環状ジアミンが好ましく、この中でも環状ジアミンがさらに好ましく、シクロヘキサン環を有するジアミンが特に好ましい。
【0170】
ジアミンの合計の成分比としては、下限は通常、全ジアミン成分の0mol%以上、好ましくは5mol%以上、更に好ましくは10mol%以上、特に好ましくは20mol%以上である。上限は通常、全ジアミン成分の90mol%以下、好ましくは70mol%以下、更に好ましくは60mol%以下、特に好ましくは40mol%以下である。
【0171】
これらのポリアミド樹脂の中でも、下記式(7)で表される構造を含むポリアミド樹脂が、環境安定性が良好であるため特に好ましく用いられる。
【0172】
【化33】
【0173】
式(7)中、R’18~R’21は、それぞれ独立して水素原子または有機置換基を表す。l7は0以上2以下の整数を表す。m7、n7は、それぞれ独立して0以上4以下の整数を表し、m7、n7がそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するR’20、R’21は互いに異なっていてもよい。
【0174】
R’18~R’21で表される有機置換基としては、炭素数20以下の、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基が好ましく、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基等のアリール基が挙げられ、更に好ましくはアルキル基、またはアルコキシ基である。特に好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0175】
式(7)で表される構造の中でも以下の構造が好ましい。
【0176】
【化34】
【0177】
上記の具体例の中でも、式(7-1)、式(7-4)、式(7-7)、式(7-8)、式(7-9)、式(7-10)、式(7-11)及び式(7-12)で表される構造を含むことがより好ましく、式(7-7)、式(7-8)及び式(7-10)で表される構造を含むことが、合成のし易さや生成したポリアミド樹脂の溶剤への溶解性の観点からさらに好ましい。
【0178】
式(7)で表される構造を含むポリアミド樹脂は、他の繰り返し単位を有する化合物との共重合体であることが好ましい。
他の繰り返し単位に特に制限はないが、例えば、γ-ブチロラクタム、ε-カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類;1,4-ブタンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,20-アイコサンジカルボン酸等のジカルボン酸類;1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,12-ドデカンジアミン等のジアミン類;ピペラジン等を組み合わせて、二元、三元、四元等に共重合させたものが挙げられる。
【0179】
共重合ポリアミド樹脂中の、式(7)で表される構造以外の構造としては、例えば以下の式(8-1)~式(8-4)で表される構造が挙げられる。式(8-1)~式(8-3)においてn8に特に制限はないが、通常1以上の整数であり、好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、一方通常30以下、好ましくは22以下、より好ましくは14以下であり、更に好ましくは9以下である。上記の範囲内であると、吸水率を低く維持でき、さらには、保護層が金属酸化物粒子を含有する場合に分散性が良い安定な塗布液となることから好ましい。
【0180】
【化35】
【0181】
共重合ポリアミド樹脂中の繰り返し単位の組み合わせに特に制限はないが、具体例として以下の(PA-1)~(PA-8)に示す構造の組み合わせが挙げられる。
【0182】
【化36】
【0183】
この共重合比率について特に限定はないが、式(7)で表される構造を有するジアミン成分が共重合ポリアミド樹脂の全構成成分中、好ましくは5mol%以上、より好ましくは8mol%以上、更に好ましくは10mol%以上、特に好ましくは12mol%以上であり、一方、好ましくは45mol%以下、より好ましくは40mol%以下、更に好ましくは35mol%以下、特に好ましくは30mol%以下、最も好ましくは25mol%以下である。上記の範囲内であると、感光体の環境依存性と塗布液安定性のバランスが良く好ましい。
【0184】
共重合ポリアミド樹脂の数平均分子量としては、好ましくは10000以上、より好ましくは15000以上であり、一方、好ましくは50000以下、より好ましくは35000以下である。上記の範囲内であると、膜の均一性を保ちやすくなる為好ましい。
【0185】
共重合ポリアミド樹脂の製造方法には特に制限はなく、通常のポリアミド樹脂の重縮合方法が適宜適用され、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法等が用いられる。また重合に際して、酢酸や安息香酸等の一塩基酸、あるいは、ヘキシルアミン、アニリン等の一酸塩基を、分子量調節剤として加えてもよい。
【0186】
また、亜リン酸ソーダ、次亜リン酸ソーダ、亜リン酸、次亜リン酸やヒンダードフェノールに代表される熱安定剤やその他の重合添加剤を加えることも可能である。
【0187】
<金属酸化物粒子>
本発明の保護層には金属酸化物粒子が含まれていてもよい。
金属酸化物粒子としては、通常、電子写真感光体に使用可能な如何なる金属酸化物粒子も使用することができる。金属酸化物粒子として、より具体的には、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。これらの中でもバンドギャップが2~4eVの金属酸化物粒子が好ましい。金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。
これらの金属酸化物粒子の中でも、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、および酸化亜鉛が好ましく、より好ましくは酸化チタンおよび酸化アルミニウムである、特には酸化チタンが好ましい。
【0188】
酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、これらの結晶状態の異なるものから、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0189】
金属酸化物粒子は、その表面に種々の表面処理を行ってもよく、有機金属化合物で表面処理されていることが好ましい。例えば、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、またはステアリン酸、ポリオール、有機珪素化合物等の有機物による処理を施していてもよい。特に、酸化チタン粒子を用いる場合には、有機珪素化合物により表面処理されていることが好ましい。
有機珪素化合物としては、ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン等のシリコーンオイル、メチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のオルガノシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等が一般的であるが、下記式(8)の構造で表されるシラン処理剤が金属酸化物粒子との反応性もよく、最も良好な処理剤である。
【0190】
【化37】
【0191】
式(8)中、R22及びR23は、それぞれ独立してアルキル基を表し、好ましくはメチル基またはエチル基を示す。R24は、アルキル基またはアルコキシ基を表し、より好ましくは、メチル基、エチル基、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群より選ばれる基を示す。
【0192】
なお、表面処理された金属酸化物粒子の最表面はこのような処理剤で処理されているが、該処理の前に酸化アルミ、酸化珪素または酸化ジルコニウム等の処理剤などで処理されていても構わない。金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。
【0193】
使用する金属酸化物粒子は、通常、平均一次粒子径が500nm以下のものが好ましく用いられ、より好ましくは1nm~100nmのものが用いられ、さらに好ましくは5~50nmのものが用いられる。この平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope:以下、TEMとも称する。)により直接観察される粒子の径の算術平均値によって求めることが可能である。
【0194】
本発明における金属酸化物粒子のうち、酸化チタン粒子の具体的な商品名としては、表面処理を施していない超微粒子酸化チタン「TTO-55(N)」、Al被覆を施した超微粒子酸化チタン「TTO-55(A)」、「TTO-55(B)」、ステアリン酸で表面処理を施した超微粒子酸化チタン「TTO-55(C)」、Alとオルガノシロキサンで表面処理を施した超微粒子酸化チタン「TTO-55(S)」、高純度酸化チタン「C-EL」、硫酸法酸化チタン「R-550」、「R-580」、「R-630」、「R-670」、「R-680」、「R-780」、「A-100」、「A-220」、「W-10」、塩素法酸化チタン「CR-50」、「CR-58」、「CR-60」、「CR-60-2」、「CR-67」、導電性酸化チタン「SN-100P」、「SN-100D」、「ET-300W」(以上、石原産業株式会社製)や、「R-60」、「A-110」、「A-150」などの酸化チタンをはじめ、Al被覆を施した「SR-1」、「R-GL」、「R-5N」、「R-5N-2」、「R-52N」、「RK-1」、「A-SP」、SiO、Al被覆を施した「R-GX」、「R-7E」、ZnO、SiO、Al被覆を施した「R-650」、ZrO、Al被覆を施した「R-61N」(以上、堺化学工業株式会社製)、また、SiO、Alで表面処理された「TR-700」、ZnO、SiO、Alで表面処理された「TR-840」、「TA-500」の他、「TA-100」、「TA-200」、「TA-300」など表面未処理の酸化チタン、Alで表面処理を施した「TA-400」(以上、富士チタン工業株式会社製)、表面処理を施していない「MT-150W」、「MT-500B」、SiO、Alで表面処理された「MT-100SA」、「MT-500SA」、SiO、Alとオルガノシロキサンで表面処理された「MT-100SAS」、「MT-500SAS」(テイカ株式会社製)等が挙げられる。
【0195】
また、酸化アルミニウム粒子の具体的な商品名としては、「Aluminium Oxide C」(日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、酸化珪素粒子の具体的な商品名としては、「200CF」、「R972」(日本アエロジル社製)、「KEP-30」(日本触媒株式会社製)等が挙げられる。
また、酸化スズ粒子の具体的な商品名としては、「SN-100P」(石原産業株式会社製)等が挙げられる。
【0196】
酸化亜鉛粒子の具体的な商品名としては「MZ-305S」(テイカ株式会社製)が挙げられるが、本発明において使用可能な金属酸化物粒子は、これらに限定されるものではない。
【0197】
本発明に係る電子写真感光体の保護層中での金属酸化物粒子の使用量は特に限定されないが、バインダー樹脂1重量部に対して、金属酸化物粒子は、0.5重量部~4重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0198】
(保護層の形成方法)
次に、保護層の形成方法について説明する。上記保護層の形成方法は特に限定されないが、例えば、バインダー樹脂、金属酸化物粒子、及びその他の物質を溶媒(または分散媒)に溶解(または分散)した塗布液を、感光層上に塗布することにより形成することができる。
以下、保護層の形成に用いられる溶媒または分散媒、及び塗布方法を説明する。
【0199】
<保護層形成用塗布液に用いる溶媒>
本発明の保護層形成用塗布液に用いる有機溶媒としては、本発明に係る保護層用のバインダー樹脂を溶解することができる有機溶媒で、且つ、感光層を侵さないものであれば、どのようなものでも使用することができる。
具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールまたはノルマルプロピルアルコール等の炭素数5以下のアルコール類;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクレン、四塩化炭素、1,2-ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド等の含窒素有機溶媒類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。これらの中から任意の組み合わせ及び任意の割合の混合溶媒を用いることもできる。また、単独では本発明における保護層用のバインダー樹脂を溶解しない有機溶媒であっても、例えば、上記の有機溶媒との混合溶媒とすることで該バインダー樹脂を溶解可能であれば、使用することができる。一般に、混合溶媒を用いた方が塗布ムラを少なくすることができる。
【0200】
本発明の保護層形成用塗布液に用いる有機溶媒と、バインダー樹脂、金属酸化物粒子などの固形分の量比は、保護層形成用塗布液の塗布方法により異なり、適用する塗布方法において均一な塗膜が形成されるように適宜変更して用いればよい。
【0201】
<塗布方法>
保護層を形成するための塗布液の塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等が挙げられる。感光層を侵さない方法であれば、塗布方法は問わない。
上記塗布法により塗布膜を形成した後、塗膜を乾燥させるが、必要且つ充分な乾燥が得られれば温度、時間は問わない。ただし、感光層塗布後に風乾のみで保護層の塗布を行った場合は、前述の感光層の<塗布方法>に記載の方法と同様の方法で、充分な乾燥を行うことが好ましい。
【0202】
保護層の厚みは使用される材料などにより適宜最適な厚みが選択されるが、寿命の点より、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。さらには、0.8μm以上であると、画像メモリーの発生がより抑制されることからよりさらに好ましい。また、電気特性の点より、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0203】
<下引き層>
本発明の電子写真感光体は、上記感光層と導電性支持体との間に下引き層を有していてもよい。
下引き層としては、例えば、樹脂、樹脂に有機顔料や金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。下引き層に用いる有機顔料の例としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などが挙げられる。中でも、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、具体的には、前述した電荷発生物質として用いる場合のフタロシアニン顔料やアゾ顔料が挙げられる。
【0204】
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。下引き層には、上記1種類の粒子のみを用いてもよく、複数の種類の粒子を任意の比率及び組み合わせで混合して用いてもよい。
【0205】
上記金属酸化物粒子の中でも、酸化チタンおよび酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。なお、酸化チタン粒子は、例えば、その表面が酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、またはステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物等によって処理されていてもよい。
また酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0206】
下引き層に用いられる金属酸化物粒子の粒径としては、特に限定されないが、下引き層の特性、および下引き層を形成するための溶液の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上であることが好ましく、また通常100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下である。
【0207】
ここで、下引き層は粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成することが望ましい。
下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂(共重合ポリミド、変性ポリアミド)、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アルキッド樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルミアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーの中から選択し、用いることができるが、これらポリマーに限定されるものではない。また、これら結着樹脂は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよく、硬化剤とともに硬化した形でも使用してもよい。
なかでも、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂や、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等が良好な分散性及び塗布性を示すことから好ましい。
【0208】
上記バインダー樹脂に対する金属酸化物粒子の混合比は任意に選べるが、10重量%から500重量%の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。また下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、電子写真感光体の特性、および上記分散液の塗布性から通常0.1μm以上、20μm以下とすることが好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0209】
<その他の層>
また本発明の電子写真感光体は、上述した導電性支持体、感光層、保護層及び下引き層以外に必要に応じて適宜他の層を有していてもよい。
【実施例
【0210】
以下、実施例を示して本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく任意に変形して実施することができる。また、以下の実施例、及び比較例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「質量部」を示す。
【0211】
<保護層形成用分散液の作製方法>
・保護層形成用分散液1
保護層形成用分散液は次のようにして製造した。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入した。回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1-プロパノールの重量比が7/3の混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、日本国特開平4-31870号公報の実施例に記載された、ε-カプロラクタム[下記式Aで表わされる化合物]/ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン[下記式Bで表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式Cで表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式Dで表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式Eで表わされる化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットを、加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた。その後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1-プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水化処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の保護層形成用分散液1を作製した。
【0212】
【化38】
【0213】
・保護層形成用分散液2
平均一次粒子径13nmの酸化アルミニウム粒子(日本アエロジル社製 Aluminum Oxide C)を、メタノール/1-プロパノールの混合溶媒中で超音波により分散させることにより、酸化アルミニウムの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、上記の共重合ポリアミドのペレットを、加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた。その後、超音波分散処理を行なうことにより、酸化アルミニウム/共重合ポリアミドを重量比1/1で含有する固形分濃度8.0%の保護層形成用分散液2を作製した。
【0214】
・保護層形成用分散液3(比較例用)
平均一次粒子径13nmの酸化アルミニウム粒子(日本アエロジル社製 Aluminum Oxide C)を、トルエン溶媒中で超音波により分散させることにより、酸化アルミニウムの分散スラリーとした。該分散スラリーと、別に、トルエンに下記式で表される繰り返し構造を有するポリカーボネート樹脂1(粘度平均分子量、31700)を加熱溶解し、該分散スラリーと混合して分散液とした。その後、超音波分散処理を行なうことにより、酸化アルミニウム/ポリカーボネート樹脂を重量比1/1で含有する固形分濃度10.0%の保護層形成用分散液3を作製した。
【0215】
【化39】
【0216】
・保護層形成用分散液4
共重合ポリアミドとして、成分が下記式A’で表される構造、下記式Fで表される構造、下記式Gで表される構造、及び下記式Hで表される構造を有するアミランCM8000:東レ(株)製を用いた以外は、保護層形成用分散液1と同様にして、保護層形成用分散液4を作製した。
【0217】
【化40】
【0218】
・保護層形成用分散液5
共重合ポリアミドとして、成分が上記式A’で表される構造、上記式Fで表される構造、及び上記式Gで表される構造を有するダイアミドT171:ダイセルヒュルス(株)製を用いた以外は、保護層形成用分散液1と同様にして、保護層形成用分散液5を作製した。
【0219】
<感光層形成用塗布液の作製方法>
・顔料分散液
CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示すことを特徴とする、オキシチタニウムフタロシアニン8部とトルエン112部をサンドグラインドミル中で1時間分散し、得られた分散液をトルエンで希釈して固形分濃度3重量%の顔料分散液を調製した。
【0220】
・電荷輸送物質溶液
下記式で表される繰り返し構造を有するポリカーボネート樹脂2([粘度平均分子量:Mv=40,400])100部、下記構造式で表される電荷輸送物質(1)-3(正孔輸送物質)を60部、下記構造式で表される化合物A’’(電子輸送物質)を40部、下記構造式で表される化合物B’を1部、シリコーンオイル(信越化学株式会社製シリコーンオイルKF96)0.03部、およびトルエン557部を混合し、電荷輸送物質溶液を調製した。
【0221】
【化41】
【0222】
上記の顔料分散液133部と、電荷輸送物質溶液758部とを、特殊機化工業株式会社製TKホモミキサーで30分混合し、感光層形成用塗布液を調製した。
【0223】
<下引き層形成用分散液の作製方法>
下引き層形成用分散液Aは、次のようにして製造した。CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示すことを特徴とする、オキシチタニウムフタロシアニン20部と1,2-ジメトキシエタン280部を混合し、サンドグラインドミルで1時間粉砕して微粒化分散処理を行った。続いて、この微細化処理液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10部を、1,2-ジメトキシエタンの255部、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノンの85部の混合液に溶解させて得られたバインダー液、及び、230部の2-ジメトキシエタンを混合して下引き層形成用分散液Aを調製した。
【0224】
<電子写真感光体の製造>
[実施例1]
アルミニウム製押出管をしごき形成して作製した、外径30mm、長さ244mm、厚さ0.75mmのアルミニウム製しごき管(アルミニウム製シリンダー、導電性支持体)を、下引き層形成用分散液Aに浸漬塗布し、その乾燥膜厚が0.2μmとなるように下引き層を設けた。
次に、先に下引き層を設けたアルミニウム製シリンダーを、感光層形成用塗布液に浸漬塗布し、100℃で20分の乾燥を行い、膜厚が25μmとなるように感光層を設けた。さらに、該感光層の上に上記保護層形成用分散液1を浸漬塗布し、100℃で24分の乾燥を行って膜厚1.5μmの保護層を設け、電子写真感光体1Aを作製した。
【0225】
[比較例1]
実施例1において、形成した感光層上に保護層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体1Bを作製した。
【0226】
[実施例2]
実施例1において、感光層形成用塗布液における正孔輸送物質を電荷輸送物質(1)-3から、下記構造の電荷輸送物質(2)-7に変えた以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体2Aを作製した。
【0227】
【化42】
【0228】
[比較例2]
実施例2において、形成した感光層上に保護層を設けなかったこと以外は、実施例2と同様にして、電子写真感光体2Bを作製した。
【0229】
[実施例3]
実施例1において、感光層形成用塗布液における正孔輸送物質を電荷輸送物質(1)-3から、下記構造の電荷輸送物質(3)-8に変えた以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体3Aを作製した。
【0230】
【化43】
【0231】
[比較例3]
実施例3において、形成した感光層上に保護層を設けなかったこと以外は、実施例3と同様にして、電子写真感光体3Bを作製した。
【0232】
[実施例4]
実施例1において、感光層形成用塗布液における正孔輸送物質を電荷輸送物質(1)-3から、下記構造の電荷輸送物質(4)-7に変えた以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体4Aを作製した。
【0233】
【化44】
【0234】
[比較例4]
実施例4において、形成した感光層上に保護層を設けなかったこと以外は、実施例4と同様にして、電子写真感光体4Bを作製した。
【0235】
[実施例5]
実施例1において、感光層形成用塗布液における正孔輸送物質を電荷輸送物質(1)-3から、下記構造の電荷輸送物質(5)-2に変えた以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体5Aを作製した。
【0236】
【化45】
【0237】
[比較例5]
実施例5において、形成した感光層上に保護層を設けなかったこと以外は、実施例5と同様にして、電子写真感光体5Bを作製した。
【0238】
[実施例6]
実施例2において、保護層形成用分散液1を保護層形成用分散液2に変えた以外は、実施例2と同様にして、電子写真感光体2Cを作製した。
【0239】
[実施例7]
実施例3において、保護層形成用分散液1を保護層形成用分散液2に変えた以外は、実施例3と同様にして、電子写真感光体3Cを作製した。
【0240】
[実施例8]
実施例1において、感光層塗布後に100℃の加熱乾燥を行わずに、25℃の室温で風乾のみ行った感光層上に、実施例1と同様にして保護層をもうけて、電子写真感光体1Cを作製した。
【0241】
[比較例6]
実施例2において、保護層形成用分散液1を保護層形成用分散液3に変えた以外は、実施例2と同様にして、電子写真感光体2Dを作製した。
【0242】
[比較例7]
比較例1において、正孔輸送物質である電荷輸送物質(1)-3を下記構造の電荷輸送物質(6)に変えた以外は、比較例1と同様にして、電子写真感光体6Bを作製した。
【0243】
【化46】
【0244】
[比較例8]
実施例8において、正孔輸送物質である電荷輸送物質(1)-3を、比較例7と同じ電荷輸送物質(6)に変えた以外は、実施例8と同様とにして、電子写真感光体6Aを作製した。
【0245】
【表1】
【0246】
[実施例8’]
実施例1で調製した下引き層形成用分散液Aを、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートシート(厚さ75μm)のアルミ蒸着面に、乾燥後の膜厚が0.2μmになるようにワイヤーバーで塗布、乾燥して下引き層を設けた。
この下引き層上に、実施例1で使用した感光層形成用塗布液を125℃で20分間乾燥した場合の膜厚が20μmとなるようアプリケータで塗布して、ここでは加熱乾燥は行わず25℃の室温に20分放置した。この感光層上に、実施例1で使用した保護層形成用分散液1を乾燥後の膜厚が1.5μmとなるようワイヤーバーで塗布した。このシートを125℃で20分乾燥して、20μmの感光層上に1.5μmの保護層を持った電子写真感光体シートを作製した。
作製した電子写真感光体シートを、外径30mmのアルミニウム製ドラムに巻き付け、アルミニウム製ドラムと感光体のアルミニウム蒸着層との導通を取り、測定サンプルとした。この感光体を1C’とする。
【0247】
[実施例9]
実施例8’において、保護層形成用分散液1を保護層形成用分散液4に変えた以外は、実施例8’と同様にして、電子写真感光体1Dを作製した。
【0248】
[実施例10]
実施例8’において、保護層形成用分散液1を保護層形成用分散液5に変えた以外は、実施例8’と同様にして、電子写真感光体1Eを作製した。
【0249】
【表2】
【0250】
[実施例11]
<シート感光層形成用塗布液の作製方法>
・シート塗布用顔料分散液
CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が28.1゜に強い回折ピークを示すことを特徴とするオキシチタニウムフタロシアニン1.2部とトルエン30部をサンドグラインドミル中で1時間分散し、得られた分散液をトルエンで希釈して固形分濃度3重量%のシート塗布用顔料分散液を調製した。
【0251】
・シート塗布用電荷輸送物質溶液
上記式で表される繰り返し構造を有するポリカーボネート樹脂2([粘度平均分子量:Mv=40,400])1.0部、上記構造式で表される電荷輸送物質(2)-7(正孔輸送物質)を0.6部、上記構造式で表される化合物A’’(電子輸送物質)を1.0部、上記構造式で表される化合物B’0.011部、シリコーンオイル(信越化学株式会社製シリコーンオイルKF96)の1%トルエン液を0.03部、およびトルエンを5.54部混合し、シート塗布用電荷輸送物質溶液を調製した。
【0252】
上記のシート塗布用顔料分散液1.33部と、シート塗布用電荷輸送物質溶液8.18部とを混合、撹拌し、シート感光層形成用塗布液を調製した。
実施例8’において、感光層形成用塗布液を上記で調製したシート感光層形成用塗布液に変更した以外は、実施例8’と同様にシート塗布して、電子写真感光体2Eを作製した。
【0253】
[実施例12]
実施例11において、シート塗布用電荷輸送物質溶液における化合物A’’の配合量を1.0部から1.5部に変更した以外は、実施例11と同様にして、電子写真感光体2Fを作製した。
【0254】
[実施例13]
実施例11において、シート塗布用電荷輸送物質溶液における化合物A’’の配合量を1.0部から0.15部に変更した以外は、実施例11と同様にして、電子写真感光体2Gを作製した。
【0255】
[実施例14]
実施例11において、シート塗布用電荷輸送物質溶液における化合物A’’1.0部を下記構造式で表される化合物C’0.02部に変更した以外は、実施例11と同様にして、電子写真感光体2Hを作製した。
【0256】
【化47】
【0257】
[実施例15]
実施例14において、シート塗布用電荷輸送物質溶液における化合物C’の配合量を0.02部から0.012部に変更した以外は、実施例14と同様にして、電子写真感光体2Iを作製した。
【0258】
【表3】
【0259】
以下に各試験方法を記載し、それらの結果を表-1~表-3に示した。
なお、表-3における「CTM/ETM」とは「正孔輸送物質である式(1)~(5)の何れかで表される化合物の合計含有量/電子輸送物質の含有量」の重量比を表す。
【0260】
<電気特性試験>
上記実施例及び比較例で得られた電子写真感光体1A~1E、2A~2I、3A~3C、4A、4B、5A、5B、6A及び6Bを、一般社団法人 日本画像学会による測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続 電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、1996年11月15日発行、第404~405頁記載)に搭載して電気特性試験を行なった。電子写真感光体を60rpmの一定速度で回転させ、帯電にはスコロトロン帯電手段を用いて、除電光には660nmの単色光を9.0μJ/cmで露光し、感光体の初期表面電位が+700Vになるようにグリッド電圧を調整した。これに、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを2.0μJ/cmで露光して、露光後表面電位(以下、VLと呼ぶことがある)を測定した。更に、感光体の初期表面電位が+700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを露光し、表面電位が+350Vとなる時の照射エネルギー(半減露光エネルギー)を半減露光量E1/2として測定した(単位:μJ/cm、以下、感度と呼ぶことがある)。
【0261】
各測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%で行なった。
VLの値が低いと、残留電位が小さく良好な感光体であることを示し、感度の値が低い方が、光感度に優れた良好な感光体であることを示している。
【0262】
<帯電特性試験>
電気特性試験と同様の装置に感光体を装着し、スコロトロン帯電装置のグリッド電圧が730V、除電光として660nmの単色光が9.0μJ/cmとなるようセッティングして、60rpmの速度で測定プロセスを開始した。この時、1回転目の表面電位と10回転目の表面電位との比率を百分率で表した(1回転目表面電位/10回転目表面電位*100(%))。結果を表中「帯電(%)」として示し、10回転目表面電位を「10回転目値」としてカッコ書きで示すが、帯電(%)の数値が100%に近い方が、プロセス1回目から充分な帯電が得られていることを示している。
【0263】
<測定結果>
本発明に係る電子写真感光体は、感度に優れ、残留電位も低減できることが確認された。さらに保護層を設けることにより、10回転目と同様の帯電を1回転目から得られており、プロセス初期から充分な帯電が得られたといえる。また、帯電器グリッドの電圧値を一定にして出力した場合には、到達する帯電量の絶対値も高いことがわかる。
図1に、実施例2における電子写真感光体2A(感光体2A)と比較例2における電子写真感光体2B(感光体2B)の、プロセス回数(回転回数)と感光体表面の帯電量(表面電位)のグラフを示したが、この結果からも、保護層を設けることによりプロセス初期から充分な帯電が得られ、かつ到達する帯電量の絶対値も高いことが分かる。
【0264】
<画像試験>
前記実施例1~実施例8で得られた電子写真感光体をA4サイズ(210×297mm)のモノクロプリンター[ブラザー工業社製 HL5240(印刷速度:モノクロ24rpm 解像度:1200dpi 露光源:レーザー 帯電方式:スコロトロン)]のドラムカートリッジに装着し、上記プリンターにセットした。
印刷の入力として、A4領域の上部には白地に線太の文字を持ち、線太の文字の印刷部から下部にかけてはハーフトーン部を持ったパターンをパソコンからプリンターに送り、その結果得られる出力画像を目視評価した。
【0265】
いずれの感光体も、10000枚印刷後も、ハーフトーンでの濃度低下が起こらず、文字の太りや画像ボケのない良好な画像が得られた。
【0266】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2017年3月1日出願の日本特許出願(特願2017-038367)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1