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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】積層体及び偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019532610
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2018027562
(87)【国際公開番号】W WO2019022028
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017143267
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞島 啓
(72)【発明者】
【氏名】猪股 貴道
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板を製造するための積層体の製造方法であって、
前記製造方法は、
原反フィルムを一以上の方向に延伸して、面内方向の位相差Re1が10nm以上であり、厚みT1が40μm以下である偏光子材料フィルムを得る工程(a)、
未延伸フィルムを延伸して基材フィルムを得る工程(h)、及び
前記偏光子材料フィルム上に前記基材フィルムを設けて前記積層体を得る工程(b)をこの順に含み、
前記積層体における、前記偏光子材料フィルムの延伸方向と前記基材フィルムの延伸方向とのなす角度θ2が1°以上90°以下である、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)における前記延伸が、乾式延伸である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)における延伸倍率Xが、1.5以上5.5以下であり、
前記積層体を延伸倍率6.0/Xで自由端一軸延伸した際の、前記偏光子材料フィルムの厚みT2が20μm以下である、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記偏光子材料フィルムのNz係数が0.95以上1.5以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記基材フィルムの50℃~120℃の温度条件下で4.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記基材フィルムが、シクロオレフィン樹脂、非晶質ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種からなるフィルムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記基材フィルムがシクロオレフィン樹脂からなるフィルムであり、
前記シクロオレフィン樹脂が、シクロオレフィン系ポリマーを含み、
前記シクロオレフィン系ポリマーが、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素化物、ノルボルネン系モノマーとα-オレフィンとの付加共重合体及びその水素化物から選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記基材フィルムがシクロオレフィン樹脂からなるフィルムであり、
前記シクロオレフィン樹脂がシクロオレフィン系ポリマーを含み、
前記シクロオレフィン系ポリマーが、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、
からなるブロック共重合体[D]を、
水素化したブロック共重合体水素化物からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記基材フィルムが、可塑剤及び/又は軟化剤を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記可塑剤が、エステル系可塑剤及び/又は軟化剤、脂肪族炭化水素ポリマー又はこれらの混合物である、請求項9に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
長尺の偏光板の製造方法であって、
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体の製造方法により、長尺の積層体を製造する工程、
前記積層体を一以上の方向に延伸する工程(c)、及び
延伸された前記積層体における前記偏光子材料フィルムを、二色性物質で染色する工程(d)を含み、
前記工程(a)における延伸、及び前記工程(c)における延伸が、いずれも長手方向の延伸である、偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置としては、従来から、表示面積が大きく、重量が軽く、且つ厚みが薄いものが求められている。そのため、表示装置を構成するパネルも、従来から薄いものが求められている。
【0003】
表示装置には、偏光子及び偏光子を保護する保護フィルムを備える偏光板が一般的に用いられる。厚みの薄い表示装置を構成するために、偏光板も、より薄いものが求められている。特に、偏光子として一般的に用いられるポリビニルアルコール等の材料は、表示装置の使用環境において収縮することがあるため、薄く面積が大きい表示装置においては、そのような収縮による反りが問題となりうる。したがって、厚み10μm以下といった薄い偏光子を採用することにより、偏光子の厚みの低減自体による表示装置の厚みの低減に加え、前述のような反りの発生の低減も期待できる。
【0004】
ところが、従来の製造方法により、そのような厚みの薄いポリビニルアルコールの偏光子を製造しようとした場合、偏光子の溶断が頻発する。このような、偏光子の溶断を防ぎ、且つ薄い偏光子を含む偏光板を製造する方法として、いくつかの方法が提案されている。例えば特許文献1では、未延伸高密度ポリエチレン製の基材フィルムに未延伸ポリビニルアルコール系フィルムを貼りつけて積層体とし、当該積層体を延伸処理した後に、基材フィルムを剥離して、ポリビニルアルコール系フィルムを得る方法が提案されている。
また、特許文献2では、非晶質エステル系熱可塑性樹脂基材に、ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶液を塗布することによりポリビニルアルコール系樹脂層を製膜して積層体とし、当該積層体を延伸処理した後、二色性物質を配向させて着色積層体とし、当該着色積層体を延伸処理して光学フィルムを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-505404号公報(対応公報:米国特許出願公開第2016/084990号明細書)
【文献】特許第4691205号公報(対応公報:米国特許出願公開第2012/057232号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に記載の方法により薄い偏光板を製造する場合、積層体を高い延伸倍率で延伸することに起因して、延伸処理後の基材フィルムにおいて位相差が発生することがある。そのような場合に、基材フィルムをそのまま偏光板保護フィルムとして使用することは難しく、剥離して廃棄することになるため、無駄になる材料が発生する。さらに、偏光板を保護するための保護フィルムを別途用意して、偏光板に貼り付ける作業が生じうる。
【0007】
また、十分な幅の薄型の偏光板を得るには、幅寸法のきわめて広い基材フィルムを用意して、偏光子の材料(例えばポリビニルアルコール材料)を塗布又は貼り付けることが考えられるが、基材フィルムの幅寸法が大きくなりすぎると、生産が困難であるという問題がある。
【0008】
従って、本発明は、基材フィルムを保護フィルムとしても用いることができ、かつ、厚みの薄い偏光板を効率的に製造することができる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために検討を行った結果、本発明者は、面内方向の位相差が10nm以上で厚みが40μm以下の偏光子材料フィルムと、延伸された基材フィルムとを用い、かつ、偏光子材料フィルムの遅相軸方向と基材フィルムの遅相軸方向とをずらすことにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明によれば、下記〔1〕~〔10〕が提供される。
【0010】
〔1〕 偏光子材料フィルムと、前記偏光子材料フィルムの上に設けられる、一以上の方向に延伸された基材フィルムと、を有する積層体であって、
前記偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1が10nm以上であり、
前記偏光子材料フィルムの厚みT1が40μm以下であり、
前記偏光子材料フィルムの遅相軸方向と前記基材フィルムの遅相軸方向とのなす角度θ1が1°以上90°以下である、積層体。
〔2〕 前記偏光子材料フィルムが、乾式延伸により得られた偏光子材料フィルムである、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕 前記偏光子材料フィルムが、1.5以上5.5以下の延伸倍率Xで延伸されたフィルムであり、
前記積層体を延伸倍率6.0/Xで自由端一軸延伸した際の、前記偏光子材料フィルムの厚みT2が20μm以下であり、
前記偏光子材料フィルムの延伸方向と前記基材フィルムの延伸方向とのなす角度θ2が1°以上90°以下である、〔1〕または〔2〕に記載の積層体。
〔4〕 前記偏光子材料フィルムのNz係数が0.95以上1.5以下である〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔5〕 前記基材フィルムの50℃~120℃の温度条件下で4.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔6〕 前記基材フィルムが、シクロオレフィン樹脂、非晶質ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種からなるフィルムである、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔7〕 前記基材フィルムがシクロオレフィン樹脂からなるフィルムであり、
前記シクロオレフィン樹脂が、シクロオレフィン系ポリマーを含み、
前記シクロオレフィン系ポリマーが、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素化物、ノルボルネン系モノマーとα-オレフィンとの付加共重合体及びその水素化物から選ばれる少なくとも1種からなる、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔8〕 前記基材フィルムがシクロオレフィン樹脂からなるフィルムであり、
前記シクロオレフィン樹脂がシクロオレフィン系ポリマーを含み、
前記シクロオレフィン系ポリマーが、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、
からなるブロック共重合体[D]を、
水素化したブロック共重合体水素化物からなる、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔9〕 前記基材フィルムが、可塑剤及び/又は軟化剤を含有する、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の積層体。
〔10〕 前記可塑剤及び/又は軟化剤が、エステル系可塑剤、脂肪族炭化水素ポリマー又はこれらの混合物である、〔9〕に記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層体を延伸して得られる偏光板では、積層体を延伸する工程を経た後でも基材フィルムに発現する位相差を小さくし、破断の発生を防止しうるので、基材フィルムを保護フィルムとしても用いることができ、かつ、厚みの薄い偏光板を効率的に製造することができる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の積層体の一例を模式的に示した断面図である。
図2図2は本発明の積層体の製造工程の一例を模式的に示した図である。
図3図3は本発明の積層体を用いた偏光板の製造工程の一例を模式的に示した図である。
図4図4は本発明の積層体を用いて製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
図5図5は本発明の積層体を用いて製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0014】
本願において、「長尺状」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。フィルムの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0015】
本願において、フィルムの面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthは、式Re=(nx-ny)×d及びRth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dに従って算出する。またフィルムのNz係数は、[(nx-nz)/(nx-ny)]で表される値であり、[(Rth/Re)+0.5]とも表しうる。ここで、nxは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、フィルムの面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、nzは、フィルムの厚み方向の屈折率であり、dは、フィルムの厚み(nm)である。測定波長は、別に断らない限り、可視光領域の代表的な波長である590nmとする。
【0016】
〔1.積層体の概要〕
図1は、本発明の積層体10を模式的に示す断面図の一例である。図1に示すように、本発明の積層体10は、面内方向の位相差が所定値であり、かつ、所定の厚みの偏光子材料フィルム11と、偏光子材料フィルムの上に設けられた延伸された基材フィルム12と、を有する。図1において、13は偏光子材料フィルム11と基材フィルム12とを接着する接着剤である。
本発明の積層体10は、偏光板を製造するための材料としうる。
【0017】
〔2.偏光子材料フィルム〕
偏光子材料フィルムは、偏光子を製造するためのフィルム(偏光子用フィルム)である。本発明において、偏光子材料フィルムは、面内方向の位相差Re1が10nm以上であり、かつ、厚みT1が40μm以下のフィルムである。偏光子材料フィルムは、偏光子の材料を含む未延伸のフィルムを、面内方向の位相差が10nm以上で、厚みが40μm以下となるように延伸処理することにより得られる。偏光子材料フィルムは偏光子の材料を含む(延伸)フィルムである。本願においては、偏光子材料フィルムを得るためのフィルムであって、所定の位相差及び厚みとするための延伸処理に供していないもの(偏光子の材料を含む未延伸のフィルム)を、偏光子材料フィルムと区別するために、「原反フィルム」という場合がある。
【0018】
本発明において原反フィルムは、本発明の目的を達成し得るものであれば必ずしも限定されないが、コストパフォーマンスの高さより、ポリビニルアルコール樹脂のフィルムが好ましい。
本発明において、ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと略称する事がある。)は必ずしも限定されないが、入手性などより、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをけん化することにより製造されたものを使用するのが好ましい。PVAは、延伸性や得られるフィルムの偏光性能などが優れるという観点より、重合度は500~8000の範囲にあることが好ましく、けん化度は90モル%以上であることが好ましい。ここで重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度であり、けん化度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した値である。重合度のより好ましい範囲は1000~6000、さらに好ましくは1500~4000である。けん化度のより好ましい範囲は95モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。PVAは、本発明の効果に悪影響がない限り、酢酸ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、あるいはグラフト重合体であってもよい。
本発明において、PVAの原反フィルムの製法は特に限定されず、公知の方法により製造することができ、例えば、PVAを溶剤に溶解したPVA溶液を製膜原液として使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(PVA水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVAの原反フィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法や、溶剤を含有するPVAを溶融したものを製膜原液として行う溶融押出製膜法など、任意の方法を採用することができる。これらの中でも、流延製膜法、および溶融押出製膜法が、透明性が高く着色の少ないPVAの原反フィルムが得られることから好ましく、溶融押出製膜法がより好ましい。
本発明において、PVAの原反フィルムは、機械的物性や二次加工時の工程通過性などを改善するために、グリセリン等の多価アルコールなどの可塑剤を、PVAに対して0.01~30質量%含有する事が好ましく、また取り扱い性やフィルム外観などを改善するため、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などの界面活性剤を、PVAに対して0.01~1質量%含有することが好ましい。
PVAの原反フィルムは、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、pH調整剤、無機物微粒子、着色剤、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物、水分などの他の成分を更に含んでいてもよい。PVAの原反フィルムはこれらの他の成分の1種または2種以上を含むことができる。
【0019】
原反フィルムの厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは30μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。原反フィルムの厚みが、前記範囲の下限値以上であることにより十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることができ、前記範囲の上限値以下であることにより偏光板の曲げに対する耐性を効果的に高めることができる。
【0020】
偏光子材料フィルムは、原反フィルムを、延伸処理することにより得られる。延伸処理の方法としては、乾式延伸、及び湿式延伸等が挙げられる。乾式延伸は湿式延伸に比べ設備や工程が簡素であるため、偏光子材料フィルムとしては、乾式延伸により得られるものが好ましい。乾式延伸としては、テンター延伸、フロート延伸、熱ロール延伸などの延伸方法を用いることが出来る。乾式延伸とは、高温(例えば100℃以上)の気体雰囲気下で延伸する延伸処理の方法をいう。乾式延伸で用いる気体としては空気が挙げられる。
【0021】
原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸の条件は、所望の偏光子材料フィルムが得られるよう適宜選択しうる。例えば、原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸の態様は、一軸延伸、二軸延伸等の任意の態様としうる。また、原反フィルムが長尺状のフィルムである場合、延伸の方向は、縦方向(長尺状のフィルムの長手方向に平行な方向)、横方向(長尺状のフィルムの幅方向に平行な方向)、及び斜め方向(縦方向でも横方向でも無い方向)のいずれであってもよい。
【0022】
原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸倍率Xは、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、更に好ましくは2.5以上であり、一方好ましくは5.5以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは3.5以下である。つまり、偏光子材料フィルムは1.5以上5.5以下の延伸倍率Xで延伸されたフィルムであるのが好ましく、2.0以上4.5以下の延伸倍率Xで延伸されたフィルムであるのがより好ましく、2.5以上3.5以下の延伸倍率Xで延伸されたフィルムであるのが更に好ましい。延伸倍率Xを前記範囲の上限値以下とすると、原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとするときに破断の発生を防止することができる。また、延伸倍率Xを前記範囲の下限値以上とすると、積層体を延伸して偏光板を得るときの延伸倍率を低くすることができる。原反フィルムの延伸を、二軸延伸等の二以上の方向への延伸により行う場合、延伸倍率Xは、各延伸の倍率の積である。
【0023】
原反フィルムを乾式延伸して偏光子材料フィルムとする際の延伸温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、一方好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。乾式延伸の温度が前記範囲であることにより均一な膜厚の偏光子材料フィルムが得られる。
【0024】
偏光子材料フィルムの厚みT1は、40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下であり、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。偏光子材料フィルムの厚みT1が、前記範囲の下限値以上であることにより十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることができ、前記範囲の上限値以下であることにより偏光板の曲げに対する耐性を効果的に高めることができる。
【0025】
偏光子材料フィルムの形状及び寸法は、所望の用途に応じたものに適宜調整しうる。製造の効率上、偏光子材料フィルムは長尺状のフィルムであることが好ましい。
【0026】
偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1は、10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1が上記範囲の下限値以上であることにより、積層体を延伸処理して偏光板とするときの延伸倍率を低く抑えて、延伸処理後の基材の位相差を低くキープすることができる。偏光子材料フィルムの面内方向の位相差Re1が上記範囲の上限値以下であることにより、原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとするときの延伸倍率を低くすることができ、原反フィルムを単独で延伸する際のしわの発生などの問題を回避することができる。
【0027】
偏光子材料フィルムのNz係数は好ましくは0.95以上、より好ましくは0.99以上、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下である。Nz係数が前記範囲内であることにより、十分な偏光度を持つ偏光子を得ることができる。
【0028】
〔3.基材フィルム〕
本発明の積層体においては、基材フィルムとして、一以上の方向に延伸されたフィルムを用いる。本願明細書においては、基材フィルムを得る前の(延伸処理前の)フィルムを、基材フィルムと区別するために「未延伸のフィルム」ともいう。
【0029】
基材フィルムの厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、一方好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。基材フィルムの厚みが前記範囲の下限値以上であることにより、良好な貼り合わせ面状の積層体を得ることができ、前記範囲の上限値以下であることにより、積層体を延伸して偏光板を得た際に基材フィルムに発生する位相差を小さくすることができる。
【0030】
基材フィルムとしては、50℃~120℃の温度条件下4.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下であるものが好ましく、10nm以下であるものがより好ましい。基材フィルムの前記面内方向の位相差Re2が上記範囲内であることにより、基材フィルムを、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経てもなお、位相差の発現性が充分に低いものとすることができる。
【0031】
基材フィルムは樹脂により形成される。基材フィルムを形成する樹脂としては特に限定はない。基材フィルムは、シクロオレフィン樹脂、非晶質ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種からなるフィルムであることが好ましく、シクロオレフィン樹脂からなるフィルムであることがより好ましい。
【0032】
基材フィルムを形成するシクロオレフィン樹脂としては、シクロオレフィン系ポリマーを含み、シクロオレフィン系ポリマーが、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素化物、ノルボルネン系モノマーとα-オレフィンとの付加共重合体、及びその水素化物であるのが好ましい。これらのうちシクロオレフィン系ポリマーとしては、延伸した場合にも位相差が発現し難い観点からノルボルネン系モノマーとα-オレフィンとの付加共重合体、及びその水素化物が好ましい。ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素化物、ノルボルネン系モノマーとα-オレフィンの付加共重合体及び/又はその水素化物としては、特開平2-180976号公報、特開平3-109418号公報、特開平3-223328号公報、特開平4-301415号公報、特開平5-212828号公報、特開平7-145213号公報、等に記載の高分子化合物が挙げられる。
【0033】
また、基材フィルムを形成するシクロオレフィン樹脂としては、シクロオレフィン系ポリマーを含み、シクロオレフィン系ポリマーが、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]の主鎖及び側鎖の炭素‐炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合を、水素化したブロック共重合体水素化物等からなるものが好ましい。このようなブロック共重合体水素化物としては、国際公開第2000/32646号、国際公開第2001/081957号、特開2002-105151号公報、特開2006-195242号公報、特開2011-13378号公報、国際公開第2015/002020号、等に記載の高分子化合物が挙げられる。
【0034】
〔3.1.可塑剤、及び軟化剤〕
本発明において、基材フィルムは、可塑剤及び/又は軟化剤(可塑剤及び軟化剤のうちのいずれか一方、又は双方)を含有することが好ましい。可塑剤及び/又は軟化剤を含有することにより、積層体を延伸して偏光板を得た際に基材フィルムに発生する位相差を小さくすることが出来る。
【0035】
可塑剤及び軟化剤としては、基材フィルムを形成する樹脂に均一に溶解ないし分散できるものを用いうる。可塑剤及び軟化剤の例としては、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤(以下において「多価アルコールエステル系可塑剤」という。)、及び多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤(以下において「多価カルボン酸エステル系可塑剤」という。)等のエステル系可塑剤、並びに燐酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、及びその他のポリマー軟化剤が挙げられる。
【0036】
本発明において好ましく用いられるエステル系可塑剤の原料である多価アルコールの例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0037】
多価アルコールエステル系可塑剤の例としては、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、及びその他の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
【0038】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の例としては、ジカルボン酸エステル系可塑剤、及びその他の多価カルボン酸エステル系可塑剤が挙げられる。
【0039】
燐酸エステル系可塑剤の例としては、具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の燐酸アルキルエステル;トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等の燐酸シクロアルキルエステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等の燐酸アリールエステルが挙げられる。
【0040】
炭水化物エステル系可塑剤として、具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテートがより好ましい。
【0041】
ポリマー軟化剤としては、具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの共重合体、等のアクリル系ポリマー;ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN-ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー;ポリスチレン、ポリ4-ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル;ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。
【0042】
脂肪族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン、ポリ-1-オクテン、エチレン・α-オレフィン共重合体等の低分子量体及びその水素化物;ポリイソプレン、ポリイソプレン-ブタジエン共重合体等の低分子量体及びその水素化物等が挙げられる。シクロオレフィン樹脂に均一に溶解ないし分散し易い観点から脂肪族炭化水素系ポリマーは、数平均分子量300~5,000であることが好ましい。
【0043】
これらポリマー軟化剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
【0044】
本発明において、可塑剤及び/又は軟化剤としては、エステル系可塑剤、脂肪族炭化水素系ポリマー及びこれらの混合物が好ましい。
【0045】
基材フィルムにおける可塑剤及び/又は軟化剤(以下「可塑剤等」ともいう)の割合は、基材フィルムを形成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらにより好ましくは1.0重量部以上であり、一方好ましくは40重量部以下、より好ましくは30重量部以下である。可塑剤等の割合を前記範囲内とすることにより、基材フィルムを、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経ても、位相差の発現性が充分に低いものとすることができる。
【0046】
〔3.2.任意成分〕
基材フィルムは、樹脂及び可塑剤等の他に任意成分を含みうる。任意成分の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤;滑剤などの樹脂改質剤;染料や顔料などの着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの配合剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0047】
〔4.基材フィルムの製造方法〕
基材フィルムは、基材フィルムを形成するための成分(樹脂及び必要に応じ添加される成分)を含む組成物(以下、「樹脂組成物」ともいう)を、任意の成形方法によりフィルム状に成形して未延伸のフィルムを製造した後、当該未延伸のフィルムを延伸することにより製造しうる。
【0048】
樹脂組成物をフィルム状に成形する方法の例としては、溶融押出成形が挙げられる。溶融押出工程は、樹脂組成物を押出機によって溶融させ、当該押出機に取り付けられたTダイからフィルム状に押出し、押出されたフィルムを1つ以上の冷却ロールに密着させて成形して引き取る方法により行いうる。溶融押出成形での成形条件は、使用する樹脂組成物の組成及び分子量等の条件に合わせて適宜設定しうる。
【0049】
未延伸フィルムの厚みは、その使用目的などに応じて適宜設定しうる。未延伸フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、一方好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。未延伸フィルムは、ロール状に巻いて次の延伸工程に供することもでき、また、溶融押出工程に連続した延伸工程に供することもできる。
【0050】
未延伸フィルムを延伸して基材フィルムとする際の延伸の条件は、所望の基材フィルムが得られるよう適宜選択しうる。
未延伸フィルムを延伸して基材フィルムとする際の延伸の態様は、一軸延伸、二軸延伸等の任意の態様としうる。また、未延伸フィルムが長尺状のフィルムである場合、延伸の方向は、縦方向(長尺状のフィルムの長手方向に平行な方向)、横方向(長尺状のフィルムの幅方向に平行な方向)、及び斜め方向(縦方向でも横方向でも無い方向)のいずれであってもよい。
【0051】
本発明において、未延伸フィルムを延伸して基材フィルムとする際の延伸方向は、偏光子材料フィルムの延伸方向とずれている。具体的には、偏光子材料フィルムの延伸方向(遅相軸方向)と基材フィルムの延伸方向(基材フィルムの原料が正の位相差発現性の樹脂であれば遅相軸方向、負の位相差発現性の樹脂であれは進相軸方向)とのなす角度θ2(θ1)は、1°以上90°以下である。角度θ2(θ1)は好ましくは5°以上、より好ましくは10°以上であり、好ましくは85°以下、より好ましくは80°以下である。角度θ2(θ1)が上記範囲であると、偏光子材料フィルムと基材フィルムの延伸方向がずれていることにより、積層体を延伸して偏光板を製造する工程における破断の発生を防止することできる。また、基材フィルムを、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経てもなお、位相差の発現性が充分に低いものとすることができる。
【0052】
θ2の算出にあたり、偏光子材料フィルムが偏光子材料を2以上の方向に延出して得られたフィルムである場合および、基材フィルムが未延伸フィルムを2以上の方向に延伸して得られたフィルムである場合、延伸倍率が大きい方の延伸方向をフィルムの延伸方向とする。
【0053】
〔5.積層体の製造方法〕
次に本発明の積層体の製造方法の一例を説明する。
積層体の製造方法は、原反フィルムを一以上の方向に延伸して面内方向の位相差Re1が10nmであり、厚みT1が40μm以上の偏光子材料フィルムを得る工程(a)と、未延伸フィルムを延伸して基材フィルムを得る工程(h)と、偏光子材料フィルム上に基材フィルム層を設けて積層体を得る工程(b)と、を含む。
【0054】
図2は、偏光子材料フィルム11の上に基材フィルム12を設けて積層体10を製造する製造装置200の一例を模式的に示す概略図である。製造装置200は、繰り出し装置201,202、延伸装置204,206、貼り合わせ装置205、及び巻取り装置203を備える。
【0055】
図2に示すように、繰り出し装置201から繰り出された原反フィルム1を、延伸装置204に搬送し、延伸装置204にて延伸処理することにより偏光子材料フィルム11が得られる(工程(a))。一方、繰り出し装置202から繰り出された未延伸フィルム2を延伸装置206に搬送し、延伸装置206にて延伸処理することにより基材フィルム12が得られる(工程(h))。
次に、偏光子材料フィルム11を、貼り合わせ装置205に搬送し、貼り合わせ装置205にて必要に応じて接着剤13を塗布し、基材フィルム12と貼り合わせることにより積層体10が得られる(工程(b))。製造された積層体10は、巻取り装置203により巻き取られ、ロールの形状とし、さらなる工程に供することができる。工程(b)において、接着剤は任意成分である。また、工程(b)において接着剤は基材フィルムに塗布した後、偏光子材料フィルムと貼り合わせてもよい。偏光子材料フィルムと基材フィルムとの間に接着剤を塗布するのが、両フィルム間の剥離などの問題を防止することができるので好ましいが、接着剤を用いなくても偏光子材料フィルムと基材フィルムとの間で十分な接着力を得られる場合は、接着剤を使用しなくても良い。
【0056】
工程(a)における原反フィルムの延伸処理は、〔2.偏光子材料フィルム〕の項で説明した条件及び方法(延伸処理の方法、延伸の態様、延伸倍率、延伸温度)で行うことが好ましい。
【0057】
工程(h)における基材フィルムの延伸処理は、〔4.基材フィルムの製造方法〕の項で説明した条件及び方法(延伸処理の方法、延伸の態様、延伸倍率、延伸温度)で行うことが好ましい。
【0058】
工程(a)における延伸処理及び工程(h)における延伸処理は、基材フィルムの延伸方向と偏光子材料フィルムの延伸方向とのなす角θ2が1°以上90°以下となるように行う。
【0059】
工程(b)において、偏光子材料フィルム11と基材フィルム12とを貼り合わせる接着剤13としては、特段の制限は無く、例えば、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、変性ポリオレフィン系接着剤、ポリビニルアルキルエーテル系接着剤、ゴム系接着剤、塩化ビニル-酢酸ビニル系接着剤、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)系接着剤、エチレン-スチレン共重合体などのエチレン系接着剤、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル系接着剤などを用いうる。
【0060】
基材フィルムの、偏光子材料フィルムに貼り付けられる面には、コロナ処理、ケン化処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理などの易接着処理が施されてもよい。
【0061】
本発明の積層体10は、偏光板を製造するための材料としうる。その場合、積層体は、延伸処理及び染色処理等の処理を行った後に偏光板とされる。
【0062】
〔6.偏光板の製造方法〕
偏光板の製造方法は、上述の工程(a)および工程(b)と、これらを経て得られた積層体を一以上の方向に延伸する工程(c)とを含む。偏光板の製造方法は、工程(b)の後に、偏光子材料フィルムを二色性物質で染色する工程(d)を含んでいてもよい。偏光子材料フィルムの染色は、積層体10を形成する前の偏光子材料フィルムについて行ってもよい。このような製造方法により、偏光子材料フィルムは、延伸され、さらに任意に染色され、その結果偏光子として機能しうるフィルムとなる。偏光板の製造方法は、さらに任意の工程を含みうる。任意の工程の例としては、工程(c)の後に、偏光子材料フィルムに、直接または接着剤を介して保護フィルムを貼合する工程(e1)、及び偏光子材料フィルムに粘着剤層を設ける工程(e2)が挙げられる。
【0063】
偏光板は例えば図3に示す製造装置により製造することができる。
図3は、積層体10に延伸処理及びその他の任意の処理を行うことにより偏光板100を製造する製造装置300の一例を模式的に示した概略図である。製造装置300は、繰り出し装置301,307、処理装置302~305、乾燥装置306,309、貼り合わせ装置308、及び巻取り装置310を備える。
【0064】
図3に示すように、繰り出し装置301から繰り出された積層体10を、処理装置302~305に搬送し、染色処理(工程(d))及び延伸処理(工程(c))等の処理をおこなう。これらの処理を行った後の積層体を乾燥装置306にて乾燥すると、偏光板100が得られる。
【0065】
図4は本発明の積層体を用いて得られた偏光板100を模式的に示した断面図である。偏光板100においては、図4に示すように、偏光子材料フィルム111の一方の面(図示上側面)の上に基材フィルム112が積層されている。図4中、113は接着剤である。図4に示す偏光板100は、そのまま偏光板として用いることができるが、偏光子材料フィルム111の基材フィルム112の積層されていない側の面(図示下側面)に保護フィルムを積層してもよい。
【0066】
偏光子材料フィルム111に保護フィルム115を積層する場合、図3に示すように、偏光板100を貼り合わせ装置308に搬送し、偏光子材料フィルム111の基材フィルム112の積層されていない側の面に接着剤を塗布し、繰り出し装置307から繰り出された保護フィルム115と貼り合わせることにより、保護フィルム115を備える偏光板120が得られる(工程(e1))。製造された偏光板120は、巻取り装置310により巻き取られ、ロールの形状とし、さらなる工程に供することができる。
【0067】
図5は保護フィルム115を備える偏光板120を模式的に示した断面図である。この偏光板120においては、図5に示すように、偏光子材料フィルム111の一方の面(図示上側面)の上に基材フィルム112が積層され、偏光子材料フィルム111の他方の面側(図示下側面)に保護フィルム115が積層されている。図5中、113,114は接着剤である。保護フィルムを偏光子材料フィルムに貼り合わせるための接着剤は、偏光子材料フィルムに基材フィルムを貼り合わせる接着剤と同様のものを用いることができる。
【0068】
本発明の積層体を用いて偏光板を製造する際の延伸処理の方法としては特に限定されないが、湿式延伸が好ましい。
本発明の積層体を用いて湿式延伸により偏光板を製造する際の延伸倍率は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下である。積層体の延伸倍率を前記範囲の上限値以下とすると、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経てもなお、基材フィルムの位相差の発現を低くし、偏光板の破断の発生を防止することができ、延伸倍率を前記範囲の下限値以上とすると十分な偏光性能を持つ偏光板を得ることができる。
【0069】
積層体の延伸温度は、特段の制限は無い。例えば、偏光子の材料としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、具体的な延伸温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、特に好ましくは60℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは120℃以下、特に好ましくは110℃以下である。延伸温度が、前記範囲の下限値以上であることにより延伸を円滑に行うことができ、また、前記範囲の上限値以下であることにより延伸によって効果的な配向を行うことができる。前記延伸温度の範囲は乾式延伸及び湿式延伸のいずれの方法であっても好ましいが、湿式延伸の場合に特に好ましい。
【0070】
積層体の延伸処理は、少なくとも一方向への延伸を含む処理であり、一方向の延伸のみを含んでいてもよく、二以上の方向への延伸を含んでいてもよい。積層体の延伸処理としては、一軸延伸を行うことが好ましく、自由端一軸延伸がさらに好ましく、縦方向の自由端一軸延伸が特に好ましい。一方向の延伸のみを含む延伸処理においては、その延伸の延伸倍率が、前記の所定の延伸倍率の範囲に収まるように、延伸を行う。また、二以上の方向への延伸を含む延伸処理においては、各延伸の延伸倍率の積が、前記の所定の延伸倍率の範囲に収まるように、延伸を行う。二以上の方向への延伸を含む延伸処理において、それらの延伸は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。
【0071】
積層体を延伸倍率6.0/Xで自由端一軸延伸した際の、積層体延伸後の偏光子材料フィルムの厚みT2は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。ここで、Xは、原反フィルムを延伸して偏光子材料フィルムとするときの延伸倍率である。前記T2が、上限値以下であることにより、積層体を延伸処理して得られる偏光板の厚みを小さくすることができ、T2が下限値以上であることにより、十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることが出来る。
【0072】
〔7.本発明の効果〕
本発明の積層体は、面内方向の位相差が10nm以上で厚みが40μm以下の偏光子材料フィルムと、延伸された基材フィルムと、を有する。つまり、本発明の積層体を用いて偏光板を製造する際に、偏光子材料フィルムとして予め延伸されたものを用いるので、積層体を延伸して偏光板を製造する際の延伸倍率を低くすることができる。その結果、積層体を延伸する工程を経た後の基材フィルムに発現する位相差を小さくすることができる。
また、本発明においては、偏光子材料フィルムの遅相軸方向(延伸方向)と基材フィルムの遅相軸方向(延伸方向)とのなす角度θ1(θ2)を1°以上90°以下とすることにより、積層体を延伸して偏光板を製造する工程における破断を防止することができる。その結果、基材フィルムを、そのまま保護フィルムとして使用することができる。
さらに、上述したように、本発明においては偏光子材料フィルムを予め延伸したものを用いるので、基材フィルムを積層して積層体とする際に、未延伸の偏光子材料フィルムを用いるときのように幅寸法のきわめて広い基材フィルムは不要であり、偏光板の製造を効率的に行いうる。
以上より、本発明によれば、基材フィルムを保護フィルムとしても用いることができ、かつ、厚みの薄い偏光板を効率的に製造することができる積層体を提供することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において、成分の量比に関する「部」及び「%」は、別に断らない限り重量部を表す。
【0074】
〔評価方法〕
〔重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn〕
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、THFを溶離液とするGPCによる標準ポリスチレン換算値として、38℃において測定した。測定装置として、東ソー社製、HLC8020GPCを用いた。
【0075】
〔水素化率〕
ブロック共重合体水素化物の水素化率は、H-NMRスペクトル又はGPC分析により算出した。水素化率99%以下の領域は、H-NMRスペクトルを測定して算出し、99%を超える領域は、GPC分析により、UV検出器及びRI検出器によるピーク面積の比率から算出した。
【0076】
〔面内位相差Re1,Re2とNz係数の測定方法〕
波長590nmで位相差測定装置(Axometric社製 製品名「Axoscan」)を用いて、Re及びRthを測定し、それらに基づいてNz係数を求めた。位相差Re2の測定試料は、積層体の製造に使用したものと同じ基材フィルム(例えば、実施例1の場合は基材フィルムA)を、偏光板作成時と同一の温度条件下(ただし、実施例9は110℃)で4.0倍に自由端一軸延伸して調製した。
【0077】
〔厚みの測定方法〕
原反フィルムの延伸前と延伸後の厚み、基材フィルムの厚み、偏光板に含まれる各層の厚みは、下記の方法で測定した。
ミクロトームを用いて偏光板を切断した後に、その断面をTEMを用いて観察した。5箇所において厚み方向のサイズを測定し、その測定値の平均を厚みとして採用した。
【0078】
〔積層体の貼合面状の評価〕
積層体を目視にて観察し、スジやボイドの発生が無いものを「良」、発生のあるものを「不良」とした。
【0079】
〔延伸性の評価〕
積層体を延伸して偏光板を製造する工程における工程安定性を以下の基準により評価した。
A…破断が発生しない(10回通紙して0回破断)。
B…破断がほとんど発生しない(10回通紙して1回破断)。
C…破断が頻発し偏光板化できない。
【0080】
〔耐引裂き性の評価〕
島津製作所(株)製のオートグラフAG-1(商品名)を用い、幅5cm×長さ15cmのサンプルについて、引張り速度200mm/min(室温)で測定した。
耐引裂性を以下の基準により評価した。
A…1.0N/mm以上
B…0.3N/mm以上、1.0N/mm未満
C…0.3N/mm未満
【0081】
〔実施例1〕
(1-1)基材フィルムの製造
(1-1-1)重合体Xの作製
特開2002-105151号公報に記載の製造例を参照して、第1段階でスチレンモノマー25部を重合させた後、第2段階でスチレンモノマー30部及びイソプレンモノマー25部を重合させ、その後に第3段階でスチレンモノマー20部を重合させてブロック共重合体[D1]を得た後、該ブロック共重合体を水素化してブロック共重合体水素化物[E1]を合成した。ブロック共重合体水素化物[E1]のMwは84,500、Mw/Mnは1.20、主鎖及び芳香環の水素化率はほぼ100%であった。
ブロック共重合体水素化物[E1]100部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](松原産業社製、製品名「Songnox1010」)0.1部を溶融混練して配合した後、ペレット状にして、成形用の重合体Xを得た。
【0082】
(1-1-2)未延伸フィルムAの製造
(1-1-1)で製造した重合体Xを、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。Tダイから重合体Xを押し出し、4m/分の引き取り速度でロールに巻き取ることにより、重合体Xをフィルム状に成形した。これにより、重合体Xからなる長尺の未延伸フィルムA(厚み25μm)を得た。
【0083】
(1-1-3)基材フィルムAの製造
未延伸フィルムAを、テンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で幅方向に延伸倍率2.0で延伸し、基材フィルムAを得た(横一軸延伸)。基材フィルムAの厚みは13μm。面内方向の位相差は2nmであった。
【0084】
(1-2)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルムとして、未延伸ポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、厚み20μm、以下において「PVA20」ともいう)を用いた。
原反フィルムを、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率3.0で乾式延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は12μm、Re1は345nm、Nz係数は1.0であった。
【0085】
(1-3)積層体の製造
水100重量部、ポリビニルアルコール系接着剤(日本合成化学社製「Z-200」)3重量部、及び架橋剤(日本合成化学社製「SPM-01」)0.3重量部を混合して、接着剤組成物を得た。(1-1-2)で得た基材フィルムAの片面にコロナ処理を施して、その上にこの接着剤組成物を塗工し、偏光子材料フィルムの一方の面に貼り合わせた。この状態で、接着剤組成物を70℃において5分加熱乾燥させた。これにより、「偏光子材料フィルム」/「接着層」/「基材フィルムA」の層構造を有する積層体を得た。接着剤層の厚みは1μmであった。積層体において、偏光子材料フィルムの延伸方向と基材フィルムの延伸方向とのなす角θ2は90°である。
得られた積層体の貼合面状を評価した。結果を表1に示した。
【0086】
(1-4)偏光板の製造(湿式)
(1-3)で得た積層体を、ガイドロールを介して長手方向に連続搬送しながら、下記の操作を行った。
前記の積層体を、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色溶液に浸漬する染色処理と、染色処理後の積層体を延伸する第一延伸処理とを行った。次いで、第一延伸処理後の積層体を、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む65℃の酸性浴中で延伸する第二延伸処理を行った。第一延伸処理での延伸倍率と第二延伸処理での延伸倍率との積で表されるトータルの延伸倍率が2.0となるように設定した。第一延伸処理及び第二処理における延伸方向は、いずれも、長手方向とした。
第二延伸処理後の積層体を乾燥機中で、70℃で5分間乾燥し偏光板を得た。偏光板における基材フィルムの厚み及び位相差Re2、ならびに偏光子材料フィルムの厚みT2を測定し、延伸性及び耐引裂性の評価結果とともに表1に示した。
【0087】
〔実施例2〕
(1-2)で得られた偏光子材料フィルムに代えて、以下の(2-2)で得られた偏光子材料フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表1に示した。
【0088】
(2-2)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルム(PVA20)を、テンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率3.0で延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は7μm、Re1は270nm、Nz係数は1.4であった。
【0089】
〔実施例3〕
(1-2)で得られた偏光子材料フィルムに代えて、以下の(3-2)で得られた偏光子材料フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表1に示した。
【0090】
(3-2)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルム(PVA20)を、斜め延伸用テンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で延伸倍率3.0で斜め延伸して、平均配向角が45°の偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は7μm、Re1は310nm、Nz係数は1.1であった。
【0091】
〔実施例4〕
(1-2)で得られた偏光子材料フィルムに代えて、以下の(4-2)で得られた偏光子材料フィルムを用いたこと、及び(1-4)におけるトータルの延伸倍率が4.0となるように積層体を延伸したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表1に示した。
【0092】
(4-2)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルムとして、未延伸ポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、厚み30μm、以下において「PVA30」ともいう)を用いた。
原反フィルム(PVA30)を、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率1.5で延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は24μm、Re1は345nm、Nz係数は1.0であった。
【0093】
〔実施例5〕
(1-2)で得られた偏光子材料フィルムに代えて、以下の(5-2)で得られた偏光子材料フィルムを用いたこと、及び(1-4)におけるトータルの延伸倍率が1.2となるように積層体を延伸したこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表1に示した。
【0094】
(5-2)偏光子材料フィルムの製造
原反フィルム(PVA20)を、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率5.0で延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みT1は9μm、Re1は325nm、Nz係数は1.0であった。
【0095】
〔実施例6〕
(1-1)で得られた基材フィルムAに代えて、以下の(6-1)で得られた基材フィルムBを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表2に示した。
【0096】
(6-1)基材フィルムBの製造
(1-1-2)で得られた未延伸フィルムAを、テンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で幅方向に延伸倍率1.5で延伸した後、長手方向に延伸倍率1.3で延伸し、基材フィルムBを得た(二軸横延伸)。基材フィルムBの厚みは13μm、面内方向の位相差は1nmであった。
【0097】
〔実施例7〕
(1-1)で得られた基材フィルムAに代えて、以下の(7-1)で得られた基材フィルムDを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表2に示した。
【0098】
(7-1)基材フィルムDの製造
(1-1-2)で得られた未延伸フィルムAを、斜め延伸用テンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で斜め方向に延伸倍率1.5で、斜め延伸して、平均配向角が45°の基材フィルムDを得た(斜め延伸)。基材フィルムCの厚みは17μm、面内方向の位相差は2nmであった。
【0099】
〔実施例8〕
(1-1)で得られた基材フィルムAに代えて、以下の(8-1)で得られた基材フィルムEを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表2に示した。
【0100】
(8-1)基材フィルムEの製造
(8-1-2)未延伸フィルムEの製造
(1-1-1)で製造した重合体Xと、重合体X100重量部に対して20重量部の割合で添加したポリイソブテン(JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン HV-300」、数平均分子量1,400)との混合物を、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。Tダイから重合体X及びポリイソブテンの混合物を押し出し、4m/分の引き取り速度でロールに巻き取ることにより、フィルム状で長尺状をなす未延伸フィルムEを得た(厚み25μm)。
【0101】
(8-1-3)基材フィルムEの製造
未延伸フィルムEを、テンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で幅方向に延伸倍率2.0で延伸し、基材フィルムEを得た(横一軸延伸)。基材フィルムEの厚みは19μm、面内方向の位相差は2nmであった。
【0102】
〔実施例9〕
以下の方法により偏光板を製造し、実施例1と同様に評価を行い、結果を表2に示した。
(9-1)基材フィルムFの製造
アクリル樹脂(住友化学社製、スミペックスHT55X)を、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。Tダイからアクリル樹脂を押し出し、4m/分の引き取り速度でロールに巻き取ることにより、アクリル樹脂をフィルム状に成形した。これにより、アクリル樹脂からなる長尺の未延伸フィルムF(厚み25μm)を得た。
(1-1-3)において未延伸フィルムAに代えて、未延伸フィルムFを用い、当該未延伸フィルムFをテンター延伸機を用いて、延伸温度130℃で幅方向に延伸倍率1.3で延伸し、基材フィルムFを得た(横一軸延伸)。基材フィルムFの厚みは19μm、面内方向の位相差は2nmであった。
【0103】
(9-3)積層体の製造
(1-3)において、基材フィルムAに代えて(9-1)で製造した基材フィルムFを用いたこと以外は実施例1の(1-3)と同様にして、「偏光子材料フィルム」/「接着層」/「基材フィルムF」の層構造を有する積層体を得た。
【0104】
(9-4)偏光板の製造(乾式)
(9-3)で得た積層体を、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度110℃で長手方向に延伸倍率1.8で延伸した。延伸した積層体をヨウ素、ヨウ化カリウム及びホウ酸を含む染色溶液に浸漬して染色し60℃の温風で乾燥した。次いで、染色した積層体を、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度90℃で長手方向に延伸倍率1.1で延伸して偏光板を得た。
【0105】
〔比較例1〕
(C1-1)基材フィルムC1の製造
(1-1-2)で得られた未延伸フィルムAを、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向(延伸方向は90°)に延伸倍率3.5で、延伸して基材フィルムC1を得た(縦一軸延伸)。基材フィルムC1の厚みは13μm、面内方向の位相差は3nmであった。
【0106】
(C1-3)積層体の製造
(1-3)において、基材フィルムAに代えて、基材フィルムC1を用いたこと以外は(1-3)と同様にして「偏光子材料フィルム」/「接着剤」/「基材フィルムC1」の層構造を有する積層体を得た。積層体において、偏光子材料フィルムの延伸方向と基材フィルムC1の延伸方向とのなす角θ2は0°である。
【0107】
(C1-4)偏光板の製造(湿式)
(1-4)における積層体に代えて(C1-3)で得た積層体を用いたこと以外、(1-4)と同様にして、偏光板を得た。偏光板における基材フィルムの厚み及び位相差Re2、ならびに偏光子材料フィルムの厚みT2を測定し、延伸性及び耐引裂性の評価結果とともに表3に示した。また、実施例1と同様に、積層体の貼合面状の変化を行った。結果を表3に示した。
【0108】
〔比較例2〕
(C2-3)積層体の製造
以下の手順により、基材フィルムC2の表面にポリビニルアルコール(PVA)層を製膜し積層体を製造した。
基材フィルムC2として、イソフタル酸6mol%を共重合させた非晶質ポリエチレンテレフタレート(非晶質PET、ガラス転移温度は75℃)の連続ウェブの基材フィルム(厚み200μm)を用いた。PVA層を形成するPVA水溶液としては重合度1000以上、ケン化度99%以上、ガラス転移温度80℃のPVA粉末を濃度が4~5重量%となるように水に溶解して得られる水溶液を用いた。
基材フィルムC2の一方の面にPVA水溶液を塗布し、50~60℃の温度で乾燥することにより基材フィルムC2の表面にPVA層を製膜して「PVA層」/「基材フィルムC2」の層構造を有する積層体を得た。本比較例においてPVA層はPVA水溶液の塗布・乾燥により形成されるものではあるが、層の厚みと面内方向の位相差を、表2の「延伸後の厚みT1」と「延伸後のRe1」の欄にそれぞれ記載した。
【0109】
(C2-4)偏光板の製造
(C2-3)で得た積層体を、130℃の延伸温度環境に設定されたオーブンに配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸延伸を行った(第一延伸処理)。
第一延伸処理後の積層体をヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色溶液に浸漬する染色処理を行った。次いで、染色処理後の積層体を、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む65℃のホウ酸水溶液に設定された処理装置に配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸処理を行った(第二延伸処理)。延伸方向は、第一延伸処理及び第二延伸処理共に、長手方向とした。
第二延伸処理後の積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄した後、60℃の温風による乾燥工程によって乾燥し偏光板を得た。偏光板における基材フィルムの厚み及び位相差Re2、ならびにPVA層の厚みT2を測定し、延伸性及び耐引裂性の評価結果とともに表3に示した。
【0110】
実施例及び比較例の結果を、表1~表3に示す。
表中、Acrylとはアクリル樹脂を意味する。
表中、延伸方向(°)はフィルムの幅方向を0°としたときの角度である。
表3中、非晶質PETとは非晶質ポリエチレンテレフタレートを意味する。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
表1~表3の結果から、本発明によれば、積層体を延伸する工程を経た後の基材フィルムに発現する位相差を小さくし破断の発生を防止しうるので、基材フィルムを保護フィルムとしても用いることができ、かつ、厚みの薄い偏光板を効率的に製造しうることが分かる。
【符号の説明】
【0115】
1…原反フィルム
2…未延伸フィルム
10…積層体
11…偏光子材料フィルム
12…基材フィルム
13…接着剤
100…偏光板
111…偏光子材料フィルム
112…基材フィルム
113,114…接着剤
115…保護フィルム
120…保護フィルムを備えた偏光板
200…製造装置
201,202…繰り出し装置
203…巻き取り装置
204,206…延伸装置
205…貼り合わせ装置
300…製造装置
301,307…繰り出し装置
302~305…処理装置
306,309…乾燥装置
308…貼り合わせ装置
310…巻き取り装置
図1
図2
図3
図4
図5