(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】粉体塗料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20220913BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20220913BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220913BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20220913BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20220913BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220913BHJP
C09D 123/06 20060101ALI20220913BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20220913BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D5/03
C09D201/00
C09D163/00
C09D167/00
C09D133/00
C09D123/06
C09D7/40
(21)【出願番号】P 2019562030
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047582
(87)【国際公開番号】W WO2019131636
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】201711446495.0
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロウ レイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジェホン
(72)【発明者】
【氏名】射矢 健
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204085(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110924(WO,A1)
【文献】特開2012-111834(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155106(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188397(WO,A1)
【文献】特開2011-245710(JP,A)
【文献】特開2006-63210(JP,A)
【文献】特開2001-47496(JP,A)
【文献】特開2000-109660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 127/12
C09D 5/03
C09D 201/00
C09D 163/00
C09D 167/00
C09D 133/00
C09D 123/06
C09D 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含む粉体塗料の製造方法であって、
混練ゾーンを有するスクリューを備えた混練押出機を用いて、前記フッ素樹脂と前記非フッ素樹脂とを含む原料を混練する工程を含み、
前記スクリューの有効長さL
Sに対する前記混練ゾーンの長さL
Kの割合(L
K/L
S×100)が21.0~50.0%である、粉体塗料の製造方法。
【請求項2】
前記混練ゾーンが、ニュートラル型の混練セグメントを備えたニュートラルゾーンを含み、
前記混練ゾーンの長さL
Kに対する前記ニュートラルゾーンの長さL
Nの割合(L
N/L
K×100)が30%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記スクリューが直径D
Sを有し、前記直径D
Sに対する前記スクリューの有効長さL
Sの比の値(L
S/D
S)が10以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記スクリューの回転数が、10~1,000rpmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ニュートラル型の混練セグメントが、複数のニーディングディスクを備えたニュートラル型の混練セグメントである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混練押出機が、2軸以上の複数軸を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素樹脂のガラス転移温度及び前記非フッ素樹脂のガラス転移温度のうち高い方の温度以上、且つ、前記原料の硬化開始温度以下で混練する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
100℃以上、300℃以下の温度で混練する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記非フッ素樹脂が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂からなる群から選ばれる一種以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに基づく単位及びフッ素原子を含まない単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに基づく単位及びフッ素原子を含まない単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体を含み、
前記フッ素原子を含まない単量体に基づく単位が、架橋性基を有する単量体に基づく単位を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記フッ素樹脂及び非フッ素樹脂が、水酸基価及び酸価の一方又は両方を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記原料における、前記フッ素樹脂の含有量が、5~95質量%である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項14】
前記原料における、フッ素樹脂と非フッ素樹脂との質量比が、70/30~10/90である。請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項15】
前記原料は、硬化剤を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野において、環境保全の観点から、揮発性有機化合物(VOC)を含まない粉体塗料が注目されている。このような粉体塗料のうち、耐候性等を向上させる塗料として、フッ素樹脂を含む粉体塗料の開発がなされている。
【0003】
さらに、コストダウン等を目的として、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含むハイブリッド粉体塗料も提案されている。例えば、特許文献1には、フッ素樹脂とポリエステル樹脂とを含み、フッ素樹脂が上層に、ポリエステル樹脂が下層に分離した硬化膜を形成する粉体塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のようなハイブリッド粉体塗料は、原料を溶融混練し、得られた溶融物を固化し、粉砕して調製できる。しかしながら本発明者らは、特許文献1に記載の粉体塗料から形成された硬化膜は、層分離が充分でないことを知見した。特に、溶融混練の条件によって、得られる硬化膜が良好に層分離せず、フッ素樹脂が硬化膜表面の水平面に連続的に配置されないために、硬化膜の耐候性等が低下する場合があることを知見した。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明は、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含むハイブリッド粉体塗料の製造方法であって、フッ素樹脂を含む上層と非フッ素樹脂を含む下層とが層分離し、且つ、フッ素樹脂を含む上層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成された硬化膜を形成することのできる粉体塗料の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含む粉体塗料の製造方法であって、混練ゾーンを有するスクリューを備えた混練押出機を用いて、前記フッ素樹脂と前記非フッ素樹脂とを含む原料を混練する工程を含み、前記スクリューの有効長さLSに対する前記混練ゾーンの長さLKの割合(LK/LS×100)が21.0~50.0%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含むハイブリッド粉体塗料の製造方法であって、フッ素樹脂を含む上層と非フッ素樹脂を含む下層とが層分離し、且つ、フッ素樹脂を含む上層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成された硬化膜を形成することのできる粉体塗料の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一形態で用いられる混練押出機の構成を説明するための部分破断図である。
【
図2】本発明の一形態で用いられる混練押出機のスクリューの構成を示す図である。
【
図3】本発明の一形態で用いられる混練押出機のスクリューで用いられるニュートラル型の混練セグメントを示す図である。
【
図4】本発明の一形態で用いられる混練押出機のスクリューで用いられる非ニュートラル型の混練セグメントを示す図である。
【
図5】本発明の一形態による製造方法で得られた粉体塗料を用いて形成された硬化膜の断面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】従来の製造方法で得られた粉体塗料を用いて形成された硬化膜の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
【0011】
(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの総称であり、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0012】
重合体における単位とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に基づく原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により分析して求められる。
【0013】
酸価及び水酸基価は、それぞれ、JIS K 0070-3(1992)の方法に準じて測定される値である。
【0014】
ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定される、重合体の中間点ガラス転移温度である。ガラス転移温度は、Tgともいう。
【0015】
軟化温度は、JIS K 7196(1991)の方法に準じて測定される値である。
【0016】
数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。数平均分子量はMnともいう。
【0017】
本発明において、SP値(溶解パラメータ)は、Fedros法(文献:R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14[2]147(1974)により算出される値である。
【0018】
膜厚は、膜厚計を用いて測定される値である。なお、実施例では、渦電流式膜厚計(商品名「EDY-5000」、サンコウ電子社製)を使用した。
【0019】
粉体塗料が含む粉体粒子の平均粒子径は、レーザー回折法を測定原理とした公知の粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布より体積平均を算出して求められる値である。なお、実施例では、商品名「Helos-Rodos」(Sympatec社製)を使用した。
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する場合がある。また、本発明は、下記の実施形態に限定されることはない。
【0021】
本形態は、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含む粉体塗料の製造方法であって、混練ゾーンを有するスクリューを備えた混練押出機を用いて、前記フッ素樹脂と前記非フッ素樹脂とを含む混合物を混練する工程を含み、前記スクリューの有効長さLSに対する前記混練ゾーンの長さLKの割合(LK/LS×100)が21.0~50.0%である。
【0022】
以下においてまず、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含む粉体塗料(以下、「ハイブリッド粉体塗料」ともいう。)について説明する。本明細書において、非フッ素樹脂とは、フッ素樹脂以外の樹脂、すなわちフッ素原子を含まない樹脂を指す。また、本明細書において、フッ素樹脂及び非フッ素樹脂は、溶融し得る、常温で固体の樹脂である。
【0023】
ハイブリッド粉体塗料を使用する場合、粉体塗料を静電塗装法等によって被塗装面に1コート塗装して塗膜を形成し、得られた塗膜を加熱して溶融した後、硬化させて硬化膜を形成する。その際、フッ素樹脂と非フッ素樹脂との間でのSP値(溶解パラメータ)の違い、表面自由エネルギーの違い等を調整すると、硬化膜において、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とが上下に偏析する傾向がある。この際、具体的には、硬化膜を形成する樹脂が、フッ素樹脂を主成分とする上層(空気側の層)と非フッ素樹脂を主成分とする下層(被塗装面側の層)とに層分離する。本明細書では、このような特性を層分離性と呼ぶ。
【0024】
このように、硬化膜が層分離しており、フッ素樹脂が上層に偏析すると、硬化膜が耐候性に優れる。また、ハイブリッド粉体塗料では、塗料中に含有させるフッ素樹脂の割合を低減させることができるので、粉体塗料のコストを低減することもできる。
【0025】
ハイブリッド粉体塗料は、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含む原料を混練押出機において溶融混練して混練物を得て、得られた混練物を粉砕することによって製造できる。しかしながら、混練押出機における混練条件によっては、製造された粉体塗料が、上述のような層分離性を呈さない場合があることを、本発明者らは知見している。すなわち、硬化膜を断面で観察した場合、上下層間に明確な界面が形成されない、或いはフッ素樹脂を主成分とする上層の、硬化膜表面の水平方向での連続性が低下することがある。そのため、得られた硬化膜の耐候性が低くなることがある。
【0026】
これに対し、本発明者らは、混練押出機のスクリューにおいて、主として混練機能を有する混練ゾーンの長さ(後述するLK)の、樹脂が通過する部分の長さ(後述するLS)に対する割合を所定の範囲とすることによって、フッ素樹脂を含む上層(より具体的には、フッ素樹脂を主成分とする上層)と非フッ素樹脂を含む下層(非フッ素樹脂を主成分とする下層)とが層分離し、且つ、フッ素樹脂を含む上層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成された硬化膜を形成することのできる粉体塗料が得られることを見出した。
【0027】
この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。フッ素樹脂は、混練押出機内での溶融混練の際に、熱や圧力の影響を受けて局所的に増粘し、フッ素樹脂及びフッ素樹脂を含む原料全体の流動性が低下する場合がある。一方で、これを受けて溶融混練による熱の影響を軽減すべく混練時間を短縮した場合等には、原料の混合が不十分となり、原料中でフッ素樹脂が均一に分散されず、フッ素樹脂を主成分とする上層の、硬化膜表面に水平な方向での連続性が低下することがある。
【0028】
しかしながら、本形態の製造方法では、混練押出機のスクリューの条件が好適であるために、上述のようなフッ素樹脂の局所的な増粘が抑制されると共に、原料の混合も十分に行うことができる。よって、本形態の製造方法によって製造された粉体塗料を用いた場合、フッ素樹脂を主成分とする上層と非フッ素樹脂を主成分とする下層とが層分離し、且つ、フッ素樹脂を主成分とする上層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成された硬化膜が得られ、硬化膜の耐候性を向上させることができる。さらには、得られる硬化膜の機械的強度(例えば硬化膜表面の硬度、耐衝撃性、耐屈曲性等)、硬化膜表面の視覚的特性(例えば表面平滑性、鏡面光沢度等)も良好である。
【0029】
以下、フッ素樹脂を主成分とする層を、フッ素樹脂層といい、非フッ素樹脂を主成分とする層を、非フッ素樹脂層という。層分離している硬化膜について具体的には、例えば、後述の走査電子顕微鏡によって硬化膜を観察して得られる断面において、最上層であるフッ素樹脂層における非フッ素樹脂の面積が、10%以下である。この状態であれば、フッ素樹脂層と非フッ素樹脂層とが層分離しており、フッ素樹脂層と非フッ素樹脂層との明確な界面が視認されるといえる。また、後述の走査電子顕微鏡によって硬化膜を観察して得られる断面で見て、硬化膜の最上表面の位置において、硬化膜全体の範囲に対してフッ素樹脂が存在している範囲の合計が85%以上、好ましくは90%以上であれば、フッ素樹脂を含む上層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成されているといえる。また、走査電子顕微鏡によって硬化膜を上から観察して、硬化膜の全表面面積に対して、フッ素樹脂の表面面積が85%以上、好ましくは90%以上であれば、フッ素樹脂を含む上層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成されているといえる。
【0030】
図1に、本発明の一形態による製造方法を実施するための混練押出機10の概略図を示す。混練押出機10は、円筒形のバレル(シリンダ)1と、バレル1内に配置され、モータ部6からの動力によって回転可能なスクリュー2とを備えている。図示の混練押出機10はスクリュー2が水平方向に2本備えられている2軸混練押出機である。2軸混練押出機の回転方式は、同方向回転式でも逆方向回転式でもよいが、同方向回転式であると好ましい。また、混練押出機は、スクリューを3本以上備えた多軸押出機であってもよいし、1本のスクリュー2を備えた単軸押出機であってもよい。
【0031】
図示の混練押出機10は、バレル1の一方の端部側に、主として樹脂を含む原料をバレル1内へと供給するための供給部3を備え、他方の端部側にダイ5を備えている。原料は、供給部3から投入され、スクリュー2の軸方向に搬送されながら、バレル1内で溶融混練され、混練物が形成される。ダイ5に到達した混練物は、ダイ5を通して押し出される。ダイ5はカッタ等を備えていてもよく、この場合、混練物をペレット状の固体として押し出すことができる。
【0032】
混練押出機は、ダイ5を備えていなくてもよく、ダイ5に代えてロールを備えていてもよい。混練押出機がダイ5を備えていない場合、バレル1内で形成される混練物は、スクリュー2の先端部に到着後、直接押し出される。混練押出機が、ダイ5に代えてロールを有する場合、バレル1内で形成される混練物を、ロールを通して板状の固体として押し出すことができる。
図1においては、原料が搬送され押し出される方向を矢印で示す。
【0033】
バレル1及びスクリュー2のシャフトには、ともに加熱手段が設けられていてよく、どちらかに加熱手段が設けられていてもよい。このような加熱手段により、投入された樹脂の溶融を促進させることができる。加熱手段による加熱温度は、後述の各ゾーンによって異なっていてもよい。また、バレル1には、必要に応じてベント口等が設けられていてもよい。
【0034】
図2に、
図1の混練押出機10で用いられるスクリュー2を側面から見た模式図を示す。本形態による混練押出機10には、バレル1内に、
図2に示すようなスクリュー2が2本配置されている。
図2において、スクリュー2の右側が混練押出機10の供給部3側(上流側)に、左側がダイ5側(下流側)となるように配置される。
【0035】
図示の形態では、スクリュー2の直径(外径)DSは一定である。DSは必ずしも一定でなくともよいが、原料の搬送性の点から、一定であるのが好ましい。また、図示の形態では、スクリュー2の溝深さは一定である。溝深さは、必ずしも一定でなくともよく、例えば、ダイ5に向かう程、又は供給部3に向かう程、溝深さが大きくなるスクリューを使用することもできる。一般的には、供給部3側の溝深さが深く、ダイ5側の溝深さが浅くなるスクリューが使用される。
【0036】
図示のスクリュー2は、搬送ゾーン21と混練ゾーン22とを有している。搬送ゾーン21は、スクリュー2における、原料の投入位置から下流側の所定位置までのゾーンであってよく、樹脂を下流側へと搬送する機能を主として有する。図示の形態では、搬送ゾーン21及び混練ゾーン22の数はそれぞれ1つであるが、各ゾーンの少なくとも一方の数は複数であってよい。その場合、搬送ゾーン21と混練ゾーン22とを交互に配置することもできる。また、混練ゾーン22より下流には、
図2に示すように、計量化ゾーン23が設けられていてもよい。計量化ゾーン23は、混練された材料を一定量で押し出す機能を有する。
【0037】
搬送ゾーン21は、螺旋状のフライトが設けられた1つ以上の搬送セグメント41を有していてよい。このような螺旋状のフライトによって、搬送ゾーン21では、スクリュー2が回転するごとに樹脂が下流側に押し出され、搬送される。
【0038】
一方、混練ゾーン22は、搬送ゾーン21より下流に設けられており、原料を溶融混練する機能を主として有する。混練ゾーン22は、搬送ゾーン21の下流側の端部から、スクリュー先端部に至るまで又はスクリュー先端部から所定の距離離れた位置までのゾーンであってよい。混練ゾーン22は、1つ以上の混練セグメント42を有していてよい。混練セグメント42は、1つ以上のニーディングディスクを備えたセグメント、ロータ等であってよい。
【0039】
混練ゾーン22は、さらに、ニュートラルゾーン24と、非ニュートラルゾーン25とを有していてよい。図示の形態では、搬送ゾーン21に隣接して非ニュートラルゾーン25が設けられており、非ニュートラルゾーン25に隣接してニュートラルゾーン24が設けられている。ニュートラルゾーン24及び非ニュートラルゾーン25はいずれも1つ以上の混練セグメント42を有しているが、セグメントの構成が互いに異なる。ニュートラルゾーン24は、1つ以上のニュートラル型の混練セグメント(ニュートラルセグメント)44を有しており、非ニュートラルゾーン25は、1つ以上の非ニュートラル型の混練セグメント(非ニュートラルセグメント)45を有している。
【0040】
ニュートラルセグメント44及び非ニュートラルセグメント45はいずれも、複数のニーディングディスク(混練ディスク)を備えており、これらのニーディングディスクは、スクリュー2の軸方向に直交する平面で見て互いにずらされて配置されている。但し、ニュートラルセグメント44及び非ニュートラルセグメント45では、隣接するニーディングディスクがずらされている角度が異なり、そのため両者の機能も異なっている。
【0041】
図3に、ニュートラルセグメント44の例を模式的に示す。
図3(a)はニュートラルセグメント44の側面図を示し、
図3(b)は、
図3(a)のセグメント44を矢印I-Iで示す方向で見たニュートラルセグメント44の端面図を示す。図示の形態では、ニュートラルセグメント44は、複数のニーディングディスク(混練ディスク)441、442、443、及び444を有している。各ニーディングディスクは、スクリュー2の軸方向に直交する平面で見て同じ略楕円形状を有している。隣り合うニーディングディスク、例えばニーディングディスク441及び442は、互いにずらされて配置されている。具体的には、ニーディングディスク441の長径の方向とニーディングディスク442の長径の方向とが互いに直交するように配置されている。このような構成により、ニュートラルセグメントは、高い混練機能を有し、搬送機能をほとんど有さない。
【0042】
本形態の製造方法で用いられるニュートラルセグメント44の長径DN1は、10~200mmであると好ましく、15~150mmであるとより好ましい。また、ニュートラルセグメント44の短径DN2は、5~180mmであると好ましく、10~130mmであるとより好ましい。なお、各ディスクで長径及び短径の少なくとも一方が異なる場合、ニュートラルセグメント44の長径DN1及び短径DN2はそれぞれ、ニュートラルセグメントにおける全ディスクの平均値とすることができる。
【0043】
1つのニュートラルセグメント44の軸方向の長さPN(ピッチ)は、10~200mmであると好ましく、15~150mmであるとより好ましい。ニュートラルゾーン24に複数のニュートラルセグメントが含まれている場合であって各セグメントの長さが異なる場合には、1つのニュートラルセグメント44の長さPNは、ニュートラルゾーンにおける全ニュートラルセグメントの平均値とすることができる。
【0044】
ニュートラルセグメント44に含まれる1つのディスクの幅WN(スクリュー2の軸方向の長さ)は、2.5~50mmであると好ましく、4~40mmであるとより好ましい。各ディスクで幅が異なる場合には、ディスクの幅はニュートラルセグメントにおける全ディスクの平均値とすることができる。
【0045】
1つのニュートラルセグメント44に含まれるニーディングディスクの数、形状、大きさ等は、所望の混練状態を得るために適宜設計することができる。例えば、1つのニュートラルセグメント44に含まれるニーディングディスクの数を2~6とすることができるし、スクリュー2の軸方向に直交する平面で見たニーディングディスクの形状を円形、三角形、楕円形等とすることもできる。また、混練押出機10に設けられるニュートラル型混練セグメント44の個数は2~6であると好ましく、3~4であるとより好ましい。
【0046】
非ニュートラルセグメント45は、混練機能を有する混練セグメントであるが、搬送機能も備えている。非ニュートラルセグメント45としては、スクリューが回転することにより下流に材料を送り得る順送り型と、スクリューが回転することにより上流に材料を送り得る逆送り型とが知られている。本形態における非ニュートラルセグメント45としては、溶融混練時の増粘を制御できる点から、順送り型のセグメントが好ましい。
【0047】
非ニュートラルセグメント45も、ニュートラルセグメント44と同様、1つのセグメントにつき複数のディスクを備えていてよい。非ニュートラルセグメント45としては、本形態では、隣接するディスクがずらされた角度が異なる2種類のセグメント45A、45Bが用いられている(
図2)。
【0048】
図4に、非ニュートラルセグメント45Aの例を模式的に示す。
図4(a)は非ニュートラルセグメント45Aの側面図を示し、
図4(b)は、
図4(a)のセグメント45Aを矢印II-IIで示す方向で見た非ニュートラルセグメント45Aの端面図を示す。図示の形態では、非ニュートラルセグメント45Aは、4つのニーディングディスク(混練ディスク)451、452、453、及び454を有している。各ディスクは、スクリュー2の軸方向に直交する平面で見て同じ略楕円形状を有している。上述のニュートラルセグメント44と同様、非ニュートラルセグメント45Aにおける隣り合うディスクは互いに所定の角度でずらされて配置されている。図示の例では、隣り合うニーディングディスクの長径の方向は30°の角度ずつずらされて配置されている。
【0049】
非ニュートラルセグメント45Bは、隣り合うディスクがずらされている角度が60°である点で、非ニュートラルセグメント45Aと異なっている。そのため、非ニュートラルセグメント45Bは、非ニュートラルセグメント45Aよりも混練機能が高く、搬送機能は低い。
【0050】
非ニュートラルセグメント45A、45Bのいずれについても、その長径DM1は、10~200mmであると好ましく、15~150mmであるとより好ましい。また、その短径DM2は、5~180mmであると好ましく、10~130mmであるとより好ましい。なお、各ディスクで長径及び短径の少なくとも一方が異なる場合、非ニュートラルセグメント45の長径DM1及び短径DM2はそれぞれ、非ニュートラルセグメントにおける全ディスクの平均値とすることができる。
【0051】
非ニュートラルセグメント45A、45Bのいずれについても、1つのセグメントの軸方向の長さPM(ピッチ)は、10~200mmであると好ましく、15~150mmであるとより好ましい。非ニュートラルセグメント45A、45Bがそれぞれ複数のセグメントを有する場合であって各セグメントの長さが異なる場合には、1つのセグメント45の長さPMは、非ニュートラルゾーンにおける全セグメントの平均値とすることができる。
【0052】
また、非ニュートラルセグメント45に含まれる1つのディスクの幅WM(スクリュー2の軸方向の長さ)は、2.5~50mmであると好ましく、4~40mmであるとより好ましい。各ディスクで幅が異なる場合には、ディスクの幅は非ニュートラルセグメントにおける全ディスクの平均値とすることができる。
【0053】
1つの非ニュートラルセグメント45に含まれるニーディングディスクの数、形状、大きさ等は、所望の混練状態を得るために適宜設計することができる。例えば、1つの非ニュートラルセグメント45に含まれるニーディングディスクの数を2~6とすることができるし、スクリュー2の軸方向に直交する平面で見たニーディングディスクの形状を円形、三角形、楕円形等とすることもできる。また、隣接するニーディングディスクがずらされている角度は、所望される混練機能及び搬送機能に応じて、15~75°の間で適宜選択することができる。
【0054】
図示の形態では、ニュートラルゾーン24及び非ニュートラルゾーン25はそれぞれ1つであるが、各ゾーンの少なくとも一方の数は複数であってよい。その場合、ニュートラルゾーン24及び非ニュートラルゾーン25を、交互に配置することができる。但し、搬送ゾーン21に隣接するゾーンは、材料の搬送を円滑に行う観点から、搬送機能を有する非ニュートラルゾーン25であると好ましい。また、搬送機能に差がある2種以上の非ニュートラルセグメントを用いる場合には、搬送機能の高い非ニュートラルセグメントを、搬送ゾーンに近い方に配置することが好ましい。混練押出機10に設けられる非ニュートラル型混練セグメント45の個数は、0~3個であると好ましい。
【0055】
上述の混練ゾーン22、ニュートラルゾーン24、及び非ニュートラルゾーン24の長さはそれぞれ、L
K、L
N、及びL
Rとする(
図2)。なお、混練ゾーンを複数有する場合、L
Kは全ての混練ゾーンの長さの合計である。同様にして、L
Nは全てのニュートラルゾーンの合計であり、L
Rは全ての非ニュートラルゾーンの合計である。また、スクリュー2が有する全ての搬送ゾーン21、混練ゾーン22、及び計量ゾーン23の合計の長さをスクリューの有効長さとし、L
Sで表す。スクリュー2の有効長さL
Sは、スクリュー2のD
Sにより適宜選択し得るが、12~560cmが好ましく、15~500cmがより好ましい。
【0056】
本形態では、スクリューの有効長さLSに対する混練ゾーン22の長さLKの割合であるK値(LK/LS×100)が、21.0~50.0%である。このK値は、23.0~45.0%が好ましく、25.0~40.0%がより好ましく、35.0~40.0%が特に好ましい。
【0057】
K値が21.0%以上であることで、溶融混練におけるフッ素樹脂及び非フッ素樹脂の分散を良好にすることができる。K値が50.0%以下であることで、混練押出機中での過剰な混練を防ぎ、フッ素樹脂が増粘することを防止することができる。これにより、得られる硬化膜の優れた層分離性が得られる。すなわち、硬化膜中において、フッ素樹脂層が上層に、非フッ素樹脂層が下層に配置されており、フッ素樹脂層と、非フッ素樹脂層との間で明確な界面が観察され、また硬化膜表面に水平な方向での上層の高い連続性が得られる。例えば、硬化膜の断面を、後述する2種類の走査電子顕微鏡を用いて観察した場合の、硬化膜表面全体の面積に対するフッ素樹脂層の面積の割合を85%以上とすることができ、好ましくは90%以上とすることができ、より好ましくは95%以上とすることができる。
【0058】
また、混練ゾーン22の長さLKに対するニュートラルゾーン24の長さLNの割合であるN値(LN/LK×100)は、30%以上とすることができる。N値は、30~100%であると好ましく、40~90%であるとより好ましく、50~70%であると特に好ましく、60~65%であるとさらに好ましく、60.0~65.0%とすることができる。
N値を30%以上とすることで、原料中でのフッ素樹脂及び非フッ素樹脂の分散を良好にすることができる。また、K値が21.0~50.0%且つN値が30%以上であると、フッ素樹脂の増粘を制御しつつ、溶融混練におけるフッ素樹脂及び非フッ素樹脂の分散を良好にすることができる。
【0059】
なお、K値が21.0~50.0%であればN値の上限は特になく、混練ゾーン22の長さLKがニュートラルゾーン24の長さLNに等しい、すなわち、混練ゾーン22がニュートラルセグメントから形成されていてもよい。但し、搬送ゾーン21から混練ゾーン22への材料の搬送を円滑に行うという観点では、混練ゾーン22が、搬送ゾーン21と隣接する端部に、搬送機能を有する混練ゾーン、すなわち非ニュートラルゾーン25を備えていると好ましい。
【0060】
スクリューの有効長さLSに対するニュートラルゾーン24の長さLNの割合(LN/LS×100)は、6~50%であると好ましく、21~50%であるとより好ましい。
【0061】
スクリュー2の直径(外径)DSに対するスクリューの有効長さLSの比の値(LS/DS)は、10~30であると好ましく、12~28であるとより好ましい。LS/DSを10以上とすることで、原料の混合を適切に行うことができ、得られる粉体塗料中においてフッ素樹脂を均一に分散させることができる。また、LS/DSを30以下とすることで、樹脂の過剰な混練を防ぐことができる。
【0062】
本形態による製造方法における混練工程では、スクリュー2の回転数に大きく影響されないが、10~1,000rpm、好ましくは200~600rpmとすることができる。本形態によれば、上記のような広い範囲の回転数において、樹脂の過剰な混練を防止でき、フッ素樹脂の流動性の低下を防ぐことができるとともに、原料の混合も十分に行うことができる。
【0063】
また、混練工程における混練温度は、原料に含まれるフッ素樹脂のガラス転移温度及び非フッ素樹脂のガラス転移温度のうち高い方の温度以上であるのが好ましい。また、混練工程における混練温度は、原料の硬化開始温度以下であるのが好ましい。ここで、原料の硬化開始温度とは、フッ素樹脂の硬化開始温度、及び非フッ素樹脂の硬化開始温度のうち低い温度を指す。また、原料が硬化剤を含む場合には、フッ素樹脂と硬化剤との配合物の硬化開始温度、及び非フッ素樹脂と硬化剤との配合物の硬化開始温度のうち低い温度を指す。混練温度を上記のようにすることで、樹脂同士を均一に混合できるとともに、原料が混練押出機内で硬化して混練を妨げることを防止することができる。混練温度は、溶融混練時の原料の増粘を制御しつつ均一に混合できる点から、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。また、溶融混練時の原料を均一に混合しつつ原料が混練押出機内で硬化して混練を妨げることを防止する点から、300℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。混練温度は、100~300℃が好ましく、110~190℃がより好ましい。
【0064】
本形態により製造される粉体塗料は、フッ素樹脂及び非フッ素樹脂を含むハイブリッド粉体塗料である。粉体塗料の製造においては、フッ素樹脂、非フッ素樹脂、及び、必要に応じて、硬化剤や顔料等のその他の成分を混練押出機に投入し、溶融混練し、得られた混練物を必要に応じて冷却し、粉砕して粉体塗料を得ることができる。また、得られた混練物を粉砕した後に、硬化剤やその他の成分を混合することもできる。
【0065】
原料として用いられるフッ素樹脂としては、フルオロオレフィンに基づく単位を含む含フッ素重合体が好ましい。フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたオレフィンである。フルオロオレフィンの炭素数は、2~8が好ましく、2~6がより好ましい。フルオロオレフィンにおけるフッ素原子の数は、2以上が好ましく、3~4がより好ましい。フッ素原子の数が2以上であれば、硬化膜の耐候性が優れる。フルオロオレフィンにおいては、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
【0066】
フルオロオレフィンの具体例としては、CF2=CF2、CF2=CFCl、CF2=CHF、CH2=CF2、CF2=CFCF3、CF2=CHCF3、CF3CH=CHF、CF3CF=CH2が挙げられ、共重合性の点から、CF2=CFCl、CF3CH=CHF又はCF3CF=CH2が好ましい。フルオロオレフィンは、2種以上を併用してもよい。
【0067】
含フッ素重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位のみを含んでもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位を含んでもよく、フッ素原子を含まない単量体に基づく単位を含んでもよい。
【0068】
フルオロオレフィンに基づく単位のみを含む含フッ素重合体としては、フルオロオレフィンの単独重合体、及びフルオロオレフィンの二種以上の共重合体が挙げられ、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、並びに、ポリビニリデンフルオリドが挙げられる。
【0069】
フルオロオレフィン以外のフッ素原子を含む単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体としては、フルオロオレフィン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体が挙げられ、具体的には、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体が挙げられる。
【0070】
含フッ素重合体が含む全単位に対する、フルオロオレフィンに基づく単位の含有量は、5~100モル%が好ましく、20~70モル%が好ましく、40~60モル%が特に好ましい。
【0071】
本形態による製造方法は、溶融混練時における増粘をより効果的に制御できる点から、フッ素原子を含まない単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体を用いる場合に特に有効である。
【0072】
含フッ素重合体が、フッ素原子を含まない単量体に基づく単位を含む場合、この単位は、架橋性基を有する単位を含むのが好ましい。架橋性基を有する単位は、架橋性基を有する単量体に基づく単位であってもよく、架橋性基を有する含フッ素重合体における架橋性基を異なる架橋性基に変換させて得られる単位であってもよい。この場合、原料として硬化剤を含むと、上記架橋性基が架橋点となって、含フッ素重合体間の架橋反応が硬化剤によって進行し、硬化膜の物性が向上する。架橋性基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アルコキシシリル基、又はエポキシ基が挙げられ、硬化膜の耐水性、耐薬品性、耐衝撃性等の観点から、水酸基又はカルボキシ基が好ましく、水酸基がより好ましい。
【0073】
架橋性基を有する単量体としては、ビニルアルコール、フルオロオレフィンと重合し得るカルボン酸、ならびに、架橋性基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが挙げられ、具体的には、CH2=CHCOOH、CH(CH3)=CHCOOH、CH2=C(CH3)COOH、式CH2=CH(CH2)n2COOHで表される化合物(但し、n2は1~10の整数を示す。)、CH2=CHO-CH2-cycloC6H10-CH2OH、CH2=CHCH2O-CH2-cycloC6H10-CH2OH、CH2=CHOCH2CH2OH、CH2=CHCH2OCH2CH2OH、CH2=CHOCH2CH2CH2CH2OH、CH2=CHCH2OCH2CH2CH2CH2OH、CH2=CHCOOCH2CH2OH、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OHが挙げられる。なお、「-cycloC6H10-」はシクロへキシレン基を表し、「-cycloC6H10-」の結合部位は、通常1,4-である。
【0074】
架橋性基を有する単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0075】
含フッ素重合体が含む全単位に対する、架橋性基を有する単量体に基づく単位の含有量は、硬化膜の物性に優れる点から、0.5~35モル%が好ましく、3~30モル%がより好ましく、5~25モル%が特に好ましく、5~20モル%が最も好ましい。
【0076】
含フッ素重合体は、フッ素原子を含まず架橋性基を有しない単量体に基づく単位を含んでもよい。上記単位としては、アルケン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が挙げられ、具体的には、エチレン、プロピレン、エチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルが挙げられる。
【0077】
なかでも、含フッ素重合体は、含フッ素重合体のTgの点から、炭素数3~9の3級炭素原子を有するアルキル基又は炭素数4~10のシクロアルキル基を側鎖に有する単量体に基づく単位を含むのが好ましい。但し、この単位はフッ素原子及び架橋性基を含まない。
【0078】
炭素数3~9の3級炭素原子を有するアルキル基及び炭素数4~10のシクロアルキル基としては、tert-ブチル基、ネオノニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4-シクロヘキシルシクロヘキシル基、1-デカヒドロナフチル基等が挙げられる。
【0079】
上記単位の具体例としては、シクロヘキシルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ピバル酸ビニル、tert-ブチル安息香酸ビニル、ネオノナン酸ビニルが挙げられる。上記単位は、2種以上を併用してもよい。
【0080】
含フッ素重合体が含む全単位に対する、フッ素原子を含まず架橋性基を有しない単量体に基づく単位の含有量は、含フッ素重合体のTg及び硬化膜の柔軟性の点から、5~60モル%が好ましく、10~50モル%がより好ましい。
【0081】
含フッ素重合体は、フッ素重合体が有する全単位に対して、フルオロオレフィンに基づく単位と、架橋性基を有する単量体に基づく単位と、フッ素原子を含まず架橋性基を有しない単量体に基づく単位とを、この順に20~70モル%、0.5~35モル%、5~60モル%含むのが好ましい。
【0082】
含フッ素重合体のMnは、硬化膜の耐水性及び平滑性の点から、3,000~50,000が好ましく、5,000~30,000がより好ましい。
【0083】
含フッ素重合体の水酸基価は、フッ素樹脂層と非フッ素樹脂層との密着性の点から、5~200mgKOH/gが好ましく、10~150mgKOH/gがより好ましい。
【0084】
含フッ素重合体の酸価は、フッ素樹脂層と非フッ素樹脂層との密着性の点から、1~150mgKOH/gが好ましく、3~100mgKOH/gがより好ましく、5~50mgKOH/gが特に好ましい。
【0085】
含フッ素重合体は、酸価及び水酸基価のどちらか一方のみを有してもよく、両方を有してもよい。酸価及び水酸基価の合計が上記範囲内にあれば、含フッ素重合体のTgを好適に調整でき、また、硬化膜の物性が優れる。
【0086】
フッ素樹脂の融点は、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、180℃以下が特に好ましい。フッ素樹脂のTgは、粉体塗料の耐ブロッキング性及び硬化膜の平滑性の点から、30~150℃が好ましく、40~120℃がより好ましく、50~100℃がさらに好ましい。
【0087】
フッ素樹脂のSP値は、硬化膜の層分離性の点から、16.0~20.0(J/cm3)1/2が好ましく、16.5~19.5(J/cm3)1/2がより好ましく、17.0~19.0(J/cm3)1/2が特に好ましい。
【0088】
本形態の製造方法で用いられる非フッ素樹脂としては、フッ素樹脂との相溶性が低いものが好ましい。例えば、用いられるフッ素樹脂のSP値と非フッ素樹脂のSP値との差が0.6(J/cm3)1/2以上となるような非フッ素樹脂であることが好ましい。非フッ素樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。このうち、耐候性とコストとのバランスの点から、ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。これらの樹脂は、2種以上を併用してもよい。
【0089】
非フッ素樹脂としてポリエステル樹脂を含む場合、多価カルボン酸化合物に基づく単位と多価アルコール化合物に基づく単位とがエステル結合で連結した構造を含む。ポリエステル樹脂は、カルボン酸単位とアルコール単位以外の単位として、ヒドロキシカルボン酸に基づく単位等を含んでもよい。
【0090】
ポリエステル樹脂としては、例えば、炭素数8~15の芳香族多価カルボン酸化合物に由来する単位と炭素数2~10の多価アルコール化合物に由来する単位とを有する重合体を用いることができる。
【0091】
ポリエステル樹脂の水酸基価は、20~100mgKOH/gが好ましく、30~80mgKOH/gがより好ましい。ポリエステル樹脂の酸価は、1~80mgKOH/gが好ましく、3~50mgKOH/gがより好ましい。
【0092】
ポリエステル樹脂のMn及びMwは、粉体塗料の溶融粘度の観点から、Mnが5,000以下且つMwが6,000~20,000であるのが好ましく、Mnが5,000以下且つMwが6,000~10,000であるのがより好ましい。
【0093】
ポリエステル樹脂の具体例としては、日本サイテックインダストリーズ社製の「CRYLCOAT(登録商標) 4642-3」、「CRYLCOAT(登録商標) 4890-0」、日本ユピカ社製の「GV-250」、「GV-740」、「GV-175」が挙げられる。
【0094】
(メタ)アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を有する重合体からなる樹脂であり、第二の架橋性基を有する単量体に基づく単位をさらに有する共重合体が好ましい。
【0095】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキルメタクリレート(メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等)、アルキルアクリレート(エチルアクリレート等)が挙げられる。第二の架橋性基を有する単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アククリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート等)、エポキシ基を有する(メタ)アククリレート(グリシジルメタクリレート等)等が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリレート以外の単量体(スチレン等)に基づく単位をさらに有していてもよい。
【0096】
アクリル樹脂の具体例としては、DIC社製の「ファインディック(登録商標) A-249」、「ファインディック(登録商標) A-251」、「ファインディック(登録商標) A-266」、三井化学社製の「アルマテックス(登録商標) PD6200」、「アルマテックス(登録商標) PD7310」、三洋化成工業社製の「サンペックス PA-55」が挙げられる。
【0097】
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2以上有する化合物である。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル等のグリシジルオキシ基を有する芳香族化合物等が好ましい。
【0098】
エポキシ樹脂の具体例としては、三菱化学社製の「エピコート(登録商標) 1001」、「エピコート(登録商標) 1002」、「エピコート(登録商標) 4004P」、DIC社製の「エピクロン(登録商標) 1050」、「エピクロン(登録商標) 3050」、新日鉄住金化学社製の「エポトート(登録商標) YD-012」、「エポトート(登録商標) YD-014」、ナガセケムテックス社製の「デナコール(登録商標) EX-711」、ダイセル社製の「EHPE3150」が挙げられる。
【0099】
ウレタン樹脂は、ポリオール(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、プロピレングリコール等)とイソシアネート化合物との混合物、又はこの混合物を反応させて得られる樹脂であり、粉体のポリオール(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール)と粉体のイソシアネートとの混合物が好ましい。
【0100】
非フッ素樹脂としては、常温で固体状であり、軟化温度が100~150℃であるものが好ましく、Tgが30~60℃であるものが好ましく、融点が200℃以下であるものが好ましい。
【0101】
非フッ素樹脂のSP値は、フッ素樹脂のSP値よりも大きいことが好ましい。また、非フッ素樹脂のSP値は、硬化膜の層分離性の点から、18.0~30.0(J/cm3)1/2が好ましく、18.5~29.5(J/cm3)1/2がより好ましく、19.0~29.0(J/cm3)1/2が特に好ましい。
【0102】
フッ素樹脂と非フッ素樹脂のSP値の差は、硬化膜の層分離性の点から、0.6(J/cm3)1/2以上とすることができ、0.6~16(J/cm3)1/2が好ましく、2.0~10.0(J/cm3)1/2が特に好ましい。
【0103】
粉体塗料の原料中に含まれるフッ素樹脂の含有量は、原料の全質量に対して5~95質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、10~50質量%が特に好ましい。また、粉体塗料の原料中に含まれるフッ素樹脂と非フッ素樹脂との質量比(フッ素樹脂の質量/非フッ素樹脂の質量)は、70/30~10/90であると好ましく、50/50~30/70であるとより好ましい。また、フッ素樹脂の質量と非フッ素樹脂との質量の合計は、原料又は粉体塗料の全質量に対して30~100質量%とすることができ、40~90質量%とすることができ、50~80質量%とすることができる。
【0104】
本形態の製造方法で得られる粉体塗料であれば、フッ素樹脂の含有量が低くとも、硬化膜においてフッ素樹脂層が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成された硬化膜を形成できる。
【0105】
原料には、フッ素樹脂及び非フッ素樹脂に加え、硬化剤を含むことが好ましい。但し、硬化剤を原料の段階で添加せず、フッ素樹脂及び非フッ素樹脂を混練して粉砕した後に、添加することもできる。また、フッ素樹脂及び非フッ素樹脂が、硬化剤を用いずに、電子線架橋等の別の手段によって硬化可能であれば、硬化剤は添加しなくともよい。
【0106】
硬化剤としては、公知の化合物を使用することができ、例えば、ブロック化イソシアネート系硬化剤、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂等のアミン系硬化剤、β-ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤、トリグリシジルイソシアヌレート系硬化剤が挙げられる。硬化剤は、2種以上を併用してもよい。
【0107】
硬化剤の軟化温度は、10~120℃が好ましく、40~100℃がより好ましい。軟化温度を10℃以上とすることで、粉体塗料が室温で硬化したり、粒状の塊が形成されたりすることを防止できる。また、120℃以下とすることで、混練工程において硬化剤を原料中に均質に分散させることができ、得られる硬化膜の平滑性、硬化膜の強度等を向上させることができる。
【0108】
硬化剤の含有量は、粉体塗料の原料の全質量に対して1~50質量%が好ましく、3~30質量%が好ましい。
【0109】
本形態の製造方法で用いられる原料は、上述したフッ素樹脂、非フッ素樹脂、及び硬化剤に加え、その他の成分を含んでいてよい。その他の成分としては、顔料、硬化触媒、脱ガス剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、超微粉合成シリカ等のつや消し剤、ノニオン系、カチオン系、またはアニオン系の界面活性剤、レベリング剤、充填剤、熱安定剤、増粘剤、分散剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、防汚剤、低汚染化処理剤等が挙げられる。
【0110】
顔料としては、光輝顔料、防錆顔料、着色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。光輝顔料としては、アルミニウム粉、ニッケル粉、ステンレス粉、銅粉、ブロンズ粉、金粉、銀粉、雲母粉、グラファイト粉、ガラスフレーク、鱗片状酸化鉄粉等が挙げられる。防錆顔料としては、環境への負荷が少ない無鉛防錆顔料が好ましく、シアナミド亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムマグネシウム、モリブデン酸亜鉛、ホウ酸バリウム、シアナミド亜鉛カルシウム等が挙げられる。着色顔料は、硬化膜を着色するための顔料である。着色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ジオキサジン等が挙げられる。体質顔料としては、タルク、硫酸バリウム、マイカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0111】
本形態によって得られる粉体塗料における顔料の含有量は、粉体塗料中のフッ素樹脂100質量部に対して20~200質量部が好ましく、50~150質量部がより好ましい。
【0112】
硬化触媒は、例えば、オクチル酸スズ錫、トリブチルスズ錫ジラウレート、ジブチルスズジラウレート等のスズ触媒であってよい。硬化触媒は、2種以上を併用してもよい。
【0113】
本形態の製造方法により製造される粉体塗料は、アルミニウム、鉄、マグネシウム等の金属類の塗装に好適に用いることができる。本形態により製造される粉体塗料によれば、フッ素樹脂を含む上層(より具体的には、フッ素樹脂を主成分とする上層)と非フッ素樹脂とを含む下層(非フッ素樹脂を主成分とする下層)とが層分離し、且つ、フッ素樹脂を含む上層(より具体的には、フッ素樹脂を主成分とする上層)が硬化膜表面の水平方向に連続的に形成された硬化膜を形成することができるので、耐候性に優れるため、室外に設置される被塗装面、例えば、海岸沿いに設置してあるエアコンの室外機や信号機のポール、標識等の、高い耐候性が要求される用途で好適に用いることができる。
【0114】
なお、本形態の粉体塗料の製造方法における混練工程の後は、得られた混練物を、0℃~40℃にて冷却し、ミル、グラインダー等の粉砕機等により粉砕して粉体組成物を得て、必要に応じて粉体状の成分を加えて混合して、粉体塗料を得ることができる。冷却は、急冷でもよく、徐冷でもよい。粉砕によって得られる粉体塗料における、粉体粒子の平均粒径は、硬化膜の表面平滑性の点から、120μm以下とすることができ、好ましくは90μm以下とすることができる。
【0115】
また、本形態の製造方法により製造された粉体塗料の塗装方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。硬化膜を薄膜化した場合でも硬化膜の平滑性に優れ、硬化膜の隠ぺい性に優れる点では、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法が好ましい。粉体塗装ガンとしては、コロナ帯電型塗装ガン、摩擦帯電型塗装ガンが挙げられる。また、比較的膜厚の厚い硬化膜を形成する方法としては、流動浸漬法が好ましい。
【0116】
粉体塗料を基材に塗装して、基材上に粉体塗料の溶融物からなる塗膜を形成できる。基材としては、アルミニウム、鉄、マグネシウム等の金属類およびその合金等が好ましい。基材の形状、および、サイズ等は、用途に応じて定められる。
【0117】
粉体塗料の溶融物からなる塗膜は、基材への粉体塗料の塗装と同時に形成してもよく、基材に粉体塗料の粉体を付着させた後に基材上で粉体を加熱溶融させて形成してもよい。粉体塗料が硬化剤を含む場合、加熱溶融されるとほぼ同時に、組成物中の反応成分の架橋反応が開始するため、粉体塗料の加熱溶融と基材への付着はほぼ同時に行うか、粉体塗料の基材への付着の後に粉体塗料の加熱溶融を行うのが好ましい。
【0118】
粉体塗料を加熱して溶融し、その溶融状態を所定時間維持して硬化させるための加熱温度と加熱維持時間は、粉体塗料の原料成分の種類や組成、所望する塗膜の膜厚等により適宜設定される。加熱温度は、硬化剤の反応温度に応じて設定され、硬化剤がブロック化ポリイソシアネートである場合には、通常150~300℃であり、170~220℃が好ましい。加熱維持温度は、通常5~120分である。
【0119】
本形態の製造方法により製造された粉体塗料によって形成される硬化膜の膜厚は、40~1,000μmとすることができ、50~100μmとすることができる。本形態の製造方法により製造された粉体塗料は、塗膜が溶融する際のフッ素樹脂の流動性が確保されているため、上記範囲の膜厚において良好な層分離性を得ることができるので、高い耐候性が得られる。また、硬化膜の機械的強度、視覚的特性も優れている。
【0120】
また、本発明の一形態は、フッ素樹脂と、非フッ素樹脂とを含む粉体塗料であって、混練ゾーンを有するスクリューを備えた混練押出機を用いて、フッ素樹脂と、非フッ素樹脂とを含む原料を混練する工程を含み、前記スクリューの有効長さLSに対する前記混練ゾーンの長さLKの割合(LK/LS×100)が21.0~50.0%である、粉体塗料の製造方法によって製造された粉体塗料である。本形態による粉体塗料を用いることで、フッ素樹脂層が連続性をもって空気側に形成された、耐候性の高い塗膜を形成することができる。
【0121】
また、本発明の一形態は、混練ゾーンを有するスクリューを備え、前記スクリューの有効長さLSに対する前記混練ゾーンの長さLKの割合(LK/LS×100)が21.0~50.0%である混練押出機を用いて、フッ素樹脂と、非フッ素樹脂とを含む原料を混練して混練物を得て、前記混練物を粉砕して粉体組成物を得て、前記粉体組成物を含む粉体塗料を被塗装面に塗装して塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させて得られた硬化膜である。
【0122】
また、本発明の一形態は、混練ゾーンを有するスクリューを備え、前記スクリューの有効長さLSに対する前記混練ゾーンの長さLKの割合(LK/LS×100)が21.0~50.0%である混練押出機を用いて、フッ素樹脂と、非フッ素樹脂とを含む原料を混練して混練物を得て、前記混練物を粉砕して粉体組成物を得て、前記粉体組成物を含む粉体塗料を被塗装面に塗装して塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させて得られた硬化膜であって、前記硬化膜の断面を、後述の2種類の走査電子顕微鏡を用いて側面から観察した際の、硬化膜表面全体の面積に対するフッ素樹脂を主として含む(主成分とする)上層の面積の割合が85%以上である硬化膜である。
【実施例】
【0123】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの例に限定されない。
【0124】
以下の各例では、フッ素樹脂、非フッ素樹脂、硬化剤、及びその他の添加剤を配合し、混練押出機において溶融混練した後、粉砕して粉体塗料を得た。なお、例1~6は実施例であり、例7~12は比較例である。
【0125】
[製造例1(フッ素樹脂の製造)]
オートクレーブ内に、キシレン(503g)、エタノール(142g)、CTFE(387g)、CHVE(326g)、HBVE(84.9g)、炭酸カリウム(12.3g)、及びtert-ブチルペルオキシピバレートの50質量%キシレン溶液(20mL)を導入して昇温し、65℃で11時間重合した。次いで、オートクレーブ内溶液をろ過し、含フッ素重合体からなるフッ素樹脂を含む溶液を得た。得られた溶液を、65℃で24時間真空乾燥することによって溶媒を除去し、さらに130℃で20分間真空乾燥した。得られたブロック状のフッ素樹脂を粉砕して、粉末状のフッ素樹脂を得た。
【0126】
得られたフッ素樹脂は、CTFEに基づく単位、CHVEに基づく単位、HBVEに基づく単位をこの順に50モル%、39モル%、11モル%含む重合体(水酸基価:50mgKOH/g、ガラス転移温度Tg:52℃、融点:136℃、数平均分子量Mn:10,000、SP値:18.6(J/cm3)1/2)であった。
【0127】
[粉体塗料組成物の製造に使用した各成分]
粉体塗料組成物の製造に使用した各成分の詳細、及び組成物全量に対する各成分の質量%を以下に示す。
・フッ素樹脂:製造例1で製造したフッ素樹脂 16質量%
・非フッ素樹脂:ポリエステル(ALLNEX社製、商品名「CRYLCOAT(登録商標)4890-0」、Mn:2,500、軟化温度:120℃、SP値:22.8(J/cm3)1/2) 36.7質量%
・硬化剤:ブロック化イソシアネート系硬化剤(デグサ社製、商品名「ベスタゴン(登録商標)B1530」) 9質量%
・顔料:デュポン社製、商品名「タイピュア(登録商標)R960」、酸化チタン含有量89% 33質量%
・硬化触媒:ジブチルスズジラウレートの100倍希釈キシレン溶液 0.2質量%
・脱ガス剤:ベンゾイン 0.4質量%
・表面調整剤1:ビックケミー社製、商品名「BYK(登録商標)-360P」 1.9質量%
・表面調整剤2:EASTMAN社製、商品名「Benzoflex(商標)352」 2.8質量%
【0128】
[例1(粉体塗料の製造)]
上述の成分を、高速ミキサー(凌宇社製)を用いて10秒間混合し、粉末状の混合物を得た。得られた混合物を原料として、2軸押出機(凌宇社製、25mm径スクリュー押出機)を用いて以下の混練条件にて溶融混練を行い、混練物を得た。用いられた2軸押出機は
図1に示したものと同様の構成を有する押出機である。また、スクリュー2の構成、ニュートラル型混練セグメント、非ニュートラル型混練セグメントの各セグメントの構成もそれぞれ、
図2~4に示したものと同様である。
・K値(L
K/L
S×100):37.9%
・N値(L
N/L
K×100):60.6%
・ニュートラル型混練セグメントの個数:4個
・L
S/D
S:17.4
・バレル設定温度:120℃
・スクリュー回転数:100rpm
【0129】
得られた混練物を、23℃まで徐冷し、粉砕機(凌宇社製、商品名:DJ-05)を用いて23℃にて粉砕して粉体組成物を得て、180メッシュにて分級し、粉体塗料(平均粒子径90μm)とした。
【0130】
[例2~12(粉体塗料の製造)]
例1において、混練条件のうち、K値(%)、N値(%)、ニュートラル型の混練セグメントの個数、スクリュー回転数を表1のように変更した以外は同様にして、各例においてそれぞれ粉体塗料を得た。
【0131】
(硬化膜の評価)
<試験片の作成>
クロメート処理を行ったアルミ板の一面に、静電塗装機(GEMA社製、商品名:Classic Standard)を用いて、各例で得られた粉体塗料を静電塗装した。次いで、200℃雰囲気中で20分間保持して硬化させ、23℃まで冷却して、厚さ55~65μmの硬化膜が形成されたアルミ板を得た。得られた硬化膜付きアルミ板(75mm×150mm)を試験片として、後述の評価に供した。結果を表1に示す。
【0132】
<層分離性>
試験片を切断し、硬化膜の断面を、下記2種類の走査電子顕微鏡(装置1及び装置2)により観察した。断面観察は、以下の条件にて行った。
装置1:日本電子社製「JSM-5900LV」
・加速電圧:20kV
・倍率:10,000倍
・測定前処理:JEOL社製オートファインコーター「JFC-1300」による、20mA、45秒の白金コート
装置2:日本電子社製「JCM-6000」
・加速電圧:15kV
・倍率:10,000倍
・測定前処理:日本電子社製オートファインコーター「Smart Coater」による、20mA、60秒の白金コート
【0133】
上記の両装置によって得られた断面写真に基づき、以下の基準で判定した。
A:断面写真において、フッ素樹脂層と非フッ素樹脂層との明確な界面が視認され、且つフッ素樹脂層が連続していることが確認された。
B:断面写真において、フッ素樹脂層と非フッ素樹脂層との界面が視認されなかった、又はフッ素樹脂層に不連続な部分があった。
【0134】
なお、例1~12の二層分離性の評価はいずれも、装置1及び装置2で同じであった。また、装置1によって撮影された、例6及び例12の走査電子顕微鏡写真を、それぞれ
図5及び
図6に示す。
図5、6に示す写真においては、フッ素は白色で表されている。
【0135】
<硬化膜表面特性>
上記の両装置によって得られた断面写真において、硬化膜の表面の全表面面積に対して、最上層であるフッ素樹脂層の表面面積が何%存在するかを目視で算出した。
【0136】
<鏡面光沢度>
得られた試験片における硬化膜表面の入射角60度鏡面光沢度(%)を、JIS K 5600-4-7に準拠して測定した。測定は、試験機器(日本電色工業社製、商品名「PG-1M」)を用い、試験片の上部・中部・下部の三か所に対して行い、得られた測定値の平均値を算出した。
【0137】
<外観(平滑性)>
試験片における硬化膜表面の平滑性を、PCI(パウダーコーティングインスティチュート)により平滑性目視判定用標準板を用いて、以下の基準に従って判定した。標準板の数値(PCI値)は1~10であり、このPCI値が大きくなるほど平滑性に優れる。
A:PCI値が3以上であり、はじきや濡れ性の不良等が確認されなかった。
B:PCI値が3未満であり、はじきや濡れ性の不良等が確認された。
【0138】
<表面硬度>
JIS K5600-5-4に準拠して、試験片における硬化膜の鉛筆硬度を測定した。
【0139】
<耐衝撃性>
JIS K 5600-5-3に準拠して、500gのおもりの落下高5~100cmに対する硬化膜の抵抗性について、硬化膜の剥離が生じない落下高の最大値(cm)で評価した。落下高の最大値が大きいほど、耐衝撃性に優れる。
【0140】
<耐屈曲性>
JIS K 5600-5-1に準拠して、規定された直径の円筒形マンドレルに試験片の硬化膜を巻き付けたときの硬化膜の抵抗性について、硬化膜の割れが生じない円筒形マンドレルの直径の最低値(mm)で評価した。円筒形マンドレルの直径の最低値が小さいほど、耐屈曲性に優れる。
【0141】
【0142】
表1より、K値(LK/LS×100)が21.0~50.0%である例1~6では、硬化膜断面において高い層分離性が観察された。この結果から、本形態の製造方法によれば、100rpm、300rpm、500rpmのいずれのスクリュー回転数での製造においても、得られる硬化膜の層分離性が高いことが分かる。また、例1~6は、例7~12と同等以上の光沢度、平滑性、表面硬度、耐衝撃性、及び耐屈曲性を示した。
【0143】
本出願は、2017年12月27日に中国特許庁に出願された中国特許出願第201711446495.0号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は参照をもってここに援用される。
【符号の説明】
【0144】
1 バレル
2 スクリュー
3 供給部
5 ダイ
6 モータ部
10 混練押出機
21 搬送ゾーン
22 混練ゾーン
23 計量化ゾーン
24 ニュートラルゾーン
25 非ニュートラルゾーン
41 搬送セグメント
42 混練セグメント
44 ニュートラル型の混練セグメント
45、45A、45B 非ニュートラル型の混練セグメント
441~444 ニュートラルセグメントのニーディングディスク(混練ディスク)
451~454 非ニュートラルセグメントのニーディングディスク(混練ディスク)
DM1 非ニュートラルセグメントの長径
DM2 非ニュートラルセグメントの短径
DN1 ニュートラルセグメントの長径
DN2 ニュートラルセグメントの短径
DS スクリュー直径(外径)
LK 混練ゾーンの長さ
LN ニュートラルゾーンの長さ
LR 非ニュートラルゾーンの長さ
LS スクリューの有効長さ
PM 非ニュートラルセグメントの軸方向の長さ(ピッチ)
PN ニュートラルセグメントの軸方向の長さ(ピッチ)
WM 非ニュートラルセグメントのディスク幅
WN ニュートラルセグメントのディスク幅