(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】積層基板、積層体の製造方法、積層体、電子デバイス用部材付き積層体、電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/10 20060101AFI20220913BHJP
B32B 3/02 20060101ALI20220913BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20220913BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B32B17/10
B32B3/02
C03C17/34 A
H05K1/02 B
(21)【出願番号】P 2020099427
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2020015418
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020074048
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】川崎 周馬
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099802(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092688(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133599(WO,A1)
【文献】特開2016-111010(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142750(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C03C 15/00-23/00
H05K 1/00-1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製の支持基材と、前記支持基材上に配置された吸着層と、を有し、
前記支持基材の前記吸着層側の表面には、前記吸着層が配置されていない周縁領域があり、
前記吸着層は、前記支持基材側の第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに接続する端面とを有し、
前記端面が、前記第2主面から前記第1主面に向かうに従い突出する傾斜面であり、
前記傾斜面と前記第1主面とのなす角度が、
5°以下である、積層基板
であって、
前記吸着層がシリコーン樹脂層である、積層基板。
【請求項2】
前記吸着層の前記第1主面と前記第2主面との間の厚みが、50μm以下である、請求項1に記載の積層基板。
【請求項3】
前記周縁領域の幅が1~30mmである、請求項1または2に記載の積層基板。
【請求項4】
前記吸着層上に配置される保護フィルムをさらに備える、請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層基板。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層基板の前記吸着層側に、ポリイミドまたはその前駆体および溶媒を含むポリイミドワニスを塗布して、前記周縁領域上および前記吸着層上にポリイミド膜を形成して、前記支持基材と、前記吸着層と、前記ポリイミド膜とを有する積層体を形成する、積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層基板と、
前記積層基板中の前記周縁領域上および前記吸着層上に配置されるポリイミド膜と、を有する積層体。
【請求項7】
請求項
6に記載の積層体と、
前記積層体中の前記ポリイミド膜上に配置される電子デバイス用部材と、を有する電子デバイス用部材付き積層体。
【請求項8】
請求項
6に記載の積層体の前記ポリイミド膜上に電子デバイス用部材を形成し、電子デバイス用部材付き積層体を得る部材形成工程と、
前記電子デバイス用部材付き積層体から、前記ポリイミド膜および前記電子デバイス用部材を有する電子デバイスを得る分離工程と、を備える電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層基板、積層体の製造方法、積層体、電子デバイス用部材付き積層体、および、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(PV);液晶パネル(LCD);有機ELパネル(OLED);電磁波、X線、紫外線、可視光線、赤外線などを感知する受信センサーパネル;などの電子デバイスの薄型化、軽量化が進行している。それに伴い、電子デバイスに用いるポリイミド樹脂基板などの基板の薄板化も進行している。薄板化により基板の強度が不足すると、基板のハンドリング性が低下し、基板上に電子デバイス用部材を形成する工程(部材形成工程)などにおいて問題が生じる場合がある。
【0003】
そこで、最近では、基板のハンドリング性を良好にするため、支持基材上にポリイミド樹脂基板を配置した積層体を用いる技術が提案されている(特許文献1)。より具体的には、特許文献1では、熱硬化性樹脂組成物硬化体層上にポリイミドワニスを塗布して、樹脂ワニス硬化フィルム(ポリイミド膜に該当)を形成して、樹脂ワニス硬化フィルム上に精密素子を配置できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、本発明者が特許文献1に記載されるポリイミドワニスを塗布してポリイミド膜を作製するプロセスを実施したところ、ポリイミドワニスを塗布してポリイミド膜を形成した際に、ポリイミド膜の剥離が生じやすいことを知見した。特に、ポリイミド膜の端部において、剥離が生じやすいことを知見した。
【0006】
本発明は、その表面上にポリイミドワニスを塗布してポリイミド膜を形成した際に、形成されるポリイミド膜の剥離が生じにくい、積層基板を提供することを課題とする。
本発明は、積層体の製造方法、積層体、電子デバイス用部材付き積層体、および、電子デバイスの製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上述の課題を解決できることを見出した。
【0008】
(1) ガラス製の支持基材と、支持基材上に配置された吸着層と、を有し、
支持基材の吸着層側の表面には、吸着層が配置されていない周縁領域があり、
吸着層は、支持基材側の第1主面と、第1主面とは反対側の第2主面と、第1主面と第2主面とに接続する端面とを有し、
端面が、第2主面から第1主面に向かうに従い突出する傾斜面であり、
傾斜面と第1主面とのなす角度が、10°未満である、積層基板。
(2) 吸着層の第1主面と第2主面との間の厚みが、50μm以下である、(1)に記載の積層基板。
(3) 周縁領域の幅が1~30mmである、(1)または(2)に記載の積層基板。
(4) 吸着層がシリコーン樹脂層である、(1)~(3)のいずれかに記載の積層基板。
(5) 吸着層上に配置される保護フィルムをさらに備える、(1)~(4)のいずれかに記載の積層基板。
(6) (1)~(4)のいずれかに記載の積層基板の吸着層側に、ポリイミドまたはその前駆体および溶媒を含むポリイミドワニスを塗布して、周縁領域上および吸着層上にポリイミド膜を形成して、支持基材と、吸着層と、ポリイミド膜とを有する積層体を形成する、積層体の製造方法。
(7) (1)~(4)のいずれかに記載の積層基板と、
積層基板中の周縁領域上および吸着層上に配置されるポリイミド膜と、を有する積層体。
(8) (7)に記載の積層体と、
積層体中のポリイミド膜上に配置される電子デバイス用部材と、を有する電子デバイス用部材付き積層体。
(9) (7)に記載の積層体のポリイミド膜上に電子デバイス用部材を形成し、電子デバイス用部材付き積層体を得る部材形成工程と、
電子デバイス用部材付き積層体から、ポリイミド膜および電子デバイス用部材を有する電子デバイスを得る分離工程と、を備える電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、その表面上にポリイミドワニスを塗布してポリイミド膜を形成した際に、形成されるポリイミド膜の剥離が生じにくい、積層基板を提供できる。
本発明によれば、積層体の製造方法、積層体、電子デバイス用部材付き積層体、および、電子デバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の積層基板の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態は本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す実施形態に制限されることはない。なお、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明の積層基板の特徴点としては、吸着層の端面を傾斜面としている点、傾斜面の傾斜角度を所定の範囲に調整している点、および、支持基材の表面に吸着層が配置されていない周縁領域を設けている点が挙げられる。
上記のような構成を採用することにより、所望の効果が得られることを知見している。所望の効果が得られる詳細は不明だが、まず、支持基材の表面に周縁領域を設けて、この周縁領域とポリイミド膜とが接するようにポリイミド膜を積層基板上に配置することにより、ポリイミド膜とガラス製の支持基材との相互作用に基づいてポリイミド膜と端部の剥離が抑制されていると考えられる。また、所定の傾斜角度を有する傾斜面を端部に設けることにより、ポリイミド膜と、吸着層および支持基材との間に空隙などが生じることが抑制され、結果としてポリイミド膜の剥離が抑制されていると考えられる。
【0013】
<積層基板>
図1は本発明の積層基板の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2は、
図1に示す積層基板の上面図である。
積層基板10は、ガラス製の支持基材12と、支持基材12上に配置される吸着層14とを備える。
図1および
図2に示すように、吸着層14は、支持基材12側の第1主面14a、第1主面14aとは反対側の第2主面14b、および、第1主面14aと第2主面14bとに接続する端面14cを有する。
吸着層14の端面14cは、第2主面14bから第1主面14aに向かうに従い突出する傾斜面である。なお、吸着層14の形状(主面の形状)は矩形状であり、4つある端面14cの全てが傾斜面である。
また、
図1および
図2に示すように、支持基材12の吸着層14側の表面には、吸着層14が配置されていない周縁領域12aがある。言い換えれば、吸着層14は、支持基材12に吸着層14と接触しない額縁状の領域(周縁領域12a)が残るように、支持基材12上に配置されている。
上記のような態様においては、吸着層14の配置領域の面積は支持基材12の表面(主面)の面積よりも狭く、上記周縁領域12aは支持基材12の外周縁より内側に位置する領域に該当する。
なお、
図1および
図2においては、支持基材12の形状(主面の形状)および吸着層14の形状(主面の形状)はいずれも矩形状であり、支持基材12の外周縁を構成する一辺と、吸着層14の外周縁を構成する一辺が平行となるように、支持基材12上に吸着層14が配置されている。
【0014】
詳細は後述するが、積層基板10の支持基材12の周縁領域上、および、吸着層14の第2主面14b上にポリイミドワニスが塗布され、その後、ポリイミド膜が形成される。このポリイミド膜上に電子デバイス用部材を形成し、その後、電子デバイス用部材が形成されたポリイミド膜(すなわち、電子デバイス)を分離する。こうして、電子デバイスを製造する。
以下では、積層基板10を構成する各層(支持基材12、吸着層14)について詳述し、その後、積層基板10の製造方法について詳述する。
【0015】
(支持基材)
支持基材12は、ポリイミド膜を支持して補強する部材であり、例えば、ガラス板である。
ガラスの種類としては、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40~90質量%のガラスが好ましい。
ガラス板として、より具体的には、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(AGC株式会社製商品名「AN100」)が挙げられる。
ガラス板の製造方法は、通常、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えば、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法が挙げられる。
【0016】
支持基材12の形状(主面の形状)は特に制限されないが、矩形状が好ましい。
【0017】
上述したように、支持基材12表面の周縁領域12a上には吸着層14は配置されていない。つまり、支持基材12の周縁領域12aの表面は露出している。
周縁領域12aの幅Wは特に制限されないが、1~30mmが好ましく、3~10mmがより好ましい。周縁領域12aの幅Wとは、
図2に示すように、支持基材12の外周縁から吸着層14の外周縁までの距離に該当する。
周縁領域12aの幅が30mm以下であれば、後述する電子デバイスを形成する際の有効面積がより広くなり、電子デバイスの作製効率が向上する。また、周縁領域の12aの幅が1mm以上であることにより、ポリイミド膜の剥離がより生じにくくなる。
【0018】
支持基材12は、フレキシブルでないことが好ましい。そのため、支持基材12の厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。
一方、支持基材12の厚みは、1.0mm以下が好ましい。
【0019】
(吸着層)
吸着層14は、その上に配置されるポリイミド膜の剥離を防止するための膜である。
吸着層14は、支持基材12に吸着層14と接触しない周縁領域12aが残るように、支持基材12上に配置されている。
【0020】
上述したように、吸着層14の端面14cは、第2主面14bから第1主面14aに向かうに従い突出する傾斜面である。複数の端面14cの全部が傾斜面であることが好ましい。
【0021】
吸着層14において、傾斜面と第1主面14aとのなす角度θは、10°未満である。なかでも、ポリイミドワニスを塗布してポリイミド膜を形成した際のポリイミド膜の剥離がより抑制される点で、角度θは8°以下が好ましく、5°以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、1°以上が好ましい。
吸着層14における、傾斜面と第1主面14aとのなす角度θは、三鷹光器株式会社社製の非接触表面性状測定装置「PF-60」を用いて、吸着層14の断面形状から求める。より詳細には、
図1に示すように、吸着層14の断面図から、線分ABの長さ、および、線分ACの長さを測定し、下記式から、角度θを算出する。
θ=arctan(AC/AB)
【0022】
吸着層14は、有機層であっても、無機層であってもよい。
有機層の材質としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。また、いくつかの種類の樹脂を混合して吸着層14を構成することもできる。
無機層の材質としては、例えば、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、炭窒化物、珪化物、弗化物が挙げられる。酸化物(好ましくは、金属酸化物)、窒化物(好ましくは、金属窒化物)、酸窒化物(好ましくは、金属酸窒化物)としては、例えば、Si、Hf、Zr、Ta、Ti、Y、Nb、Na、Co、Al、Zn、Pb、Mg、Bi、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、Sr、Sn、InおよびBaから選ばれる1種以上の元素の酸化物、窒化物、酸窒化物が挙げられる。
炭化物(好ましくは、金属炭化物)、炭窒化物(好ましくは、金属炭窒化物)としては、例えば、Ti、W、Si、Zr、および、Nbから選ばれる1種以上の元素の炭化物、炭窒化物、炭酸化物が挙げられる。
珪化物(好ましくは、金属珪化物)としては、例えば、Mo、W、および、Crから選ばれる1種以上の元素の珪化物が挙げられる。
弗化物(好ましくは、金属弗化物)としては、例えば、Mg、Y、La、および、Baから選ばれる1種以上の元素の弗化物が挙げられる。
【0023】
吸着層14は、プラズマ重合膜であってもよい。
吸着層14がプラズマ重合膜である場合、プラズマ重合膜を形成する材料は、CF4、CHF3、C2H6、C3H6、C2H2、CH3F、C4H8などのフルオロカーボンモノマー、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン、ベンゼン、トルエンなどのハイドロカーボンモノマー、水素、SF6などが挙げられる。
【0024】
なかでも、耐熱性や剥離性の点から、吸着層14の材質として、シリコーン樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂が好ましく、シリコーン樹脂がより好ましく、縮合反応型シリコーンより形成されるシリコーン樹脂がより好ましい。
以下では、吸着層がシリコーン樹脂層である態様について詳述する。
【0025】
シリコーン樹脂とは、所定のオルガノシロキシ単位を含む樹脂であり、通常、硬化性シリコーンを硬化させて得られる。硬化性シリコーンは、その硬化機構により付加反応型シリコーン、縮合反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーンおよび電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用できる。なかでも、縮合反応型シリコーンが好ましい。 縮合反応型シリコーンとしては、モノマーである加水分解性オルガノシラン化合物若しくはその混合物(モノマー混合物)、または、モノマーまたはモノマー混合物を部分加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)を好適に用いることができる。
この縮合反応型シリコーンを用いて、加水分解・縮合反応(ゾルゲル反応)を進行させることにより、シリコーン樹脂を形成することができる。
【0026】
吸着層14は、硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を用いて形成されることが好ましい。
硬化性組成物は、硬化性シリコーンのほかに、溶媒、白金触媒(硬化性シリコーンとして付加反応型シリコーンを用いる場合)、レベリング剤、金属化合物などを含んでいてもよい。金属化合物に含まれる金属元素としては、例えば、3d遷移金属、4d遷移金属、ランタノイド系金属、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)が挙げられる。金属化合物の含有量は、特に制限されず、適宜調整される。
【0027】
吸着層14は、ヒドロキシ基を有することが好ましい。吸着層14のシリコーン樹脂を構成するSi-O-Si結合の一部が切れて、ヒドロキシ基が現れ得る。また、縮合反応型シリコーンを用いる場合には、そのヒドロキシ基が、吸着層14のヒドロキシ基になり得る。
【0028】
吸着層14の第1主面14aと第2主面14bとの間の厚みは、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、12μm以下がさらに好ましい。一方、吸着層14の厚みは、1μm超が好ましく、異物埋め込み性がより優れる点で、6μm以上がより好ましい。上記厚みは、5点以上の任意の位置における吸着層14の厚みを接触式膜厚測定装置で測定し、それらを算術平均したものである。
なお、異物埋め込み性に優れるとは、支持基材12と吸着層14との間に異物があっても、吸着層14によって異物が埋め込まれことを意味する。異物の埋め込み性が優れると、吸着層に異物による凸部が生じにくく、ポリイミド膜上に電子デバイス用部材を形成した際に、凸部による電子デバイス用部材中での断線などのリスクが抑制される。なお、上記凸部の発生の際に形成される空隙が気泡として観察されるため、気泡の発生の有無により異物埋め込み性を評価できる。
【0029】
ガラス製の支持基材12上にポリイミド膜を形成し、高温熱処理を行うと、ポリイミド膜が黄変するため、透明な電子デバイスへの適用が難しくなる。ところが、メカニズムは不明だが、ガラス上に吸着層14を形成し、吸着層14上にポリイミド膜を形成することで、高温熱処理によるポリイミド膜の黄変を抑制することができる。
【0030】
(保護フィルム)
積層基板10は、吸着層14を覆うように配置された保護フィルムを有していてもよい。
保護フィルムは後述するポリイミドワニスが吸着層14上に塗布されるまで、吸着層14の表面を保護するフィルムである。
【0031】
保護フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリウレタン樹脂が挙げられる。なかでも、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0032】
保護フィルムの厚みは、外部から受けた力の影響を低減するために、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。保護フィルムの厚みの上限値としては、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0033】
保護フィルムは、吸着層14側の表面に、さらに密着層を有していてもよい。
密着層としては、公知の粘着層を用いることができる。粘着層を構成する粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤が挙げられる。
また、密着層は樹脂で構成されていてもよく、樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレンエラストマーが挙げられる。
保護フィルムの表面粗さ(Ra)は、保護フィルムを剥離した際の剥離力が低減するため、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、15nm以下がさらに好ましい。また、Raは、保護フィルムと吸着層が密着した状態を維持できるため、0.1nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。表面粗さ(Ra)は、菱化システム社製の非接触表面・層断面形状計測システム「Vertscan R3300-lite」を用いて測定する。
【0034】
<積層基板の製造方法>
積層基板の製造方法は、特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
なかでも、生産性がより優れる点で、仮支持体と仮支持体上に配置された加熱処理後に吸着層となる前駆体膜とを有する転写フィルムを用意して、転写フィルム中の前駆体膜をガラス製の支持基材上の所定の位置に貼り合わせて、得られたガラス製の支持基材、前駆体膜、および、仮支持体を有する積層体に対して加熱処理を施す方法が挙げられる。加熱処理を施すことにより、前駆体膜の端部が流動化して、上述した所定の傾斜面を有する吸着層が形成される。なお、前駆体膜を支持基材上に貼り合わせる際には、上述した周縁領域が形成されるように、前駆体膜を支持基材上に貼り合わせる。
また、上記以外にも、ガラス製の支持基材の所定の位置に加熱処理後に吸着層となる前駆体膜を塗布により配置して、加熱処理を施すことにより、上述した所定の傾斜面を有する吸着層が形成される。
上記前駆体膜としては、例えば、硬化性シリコーンを含む硬化性組成物を塗布して、形成される塗膜に加熱処理を施して形成される膜が挙げられる。塗膜の加熱処理の加熱温度としては、50~200℃が好ましく、加熱時間としては5~20分間が好ましい。
【0035】
上記のように、前駆体膜に対して加熱処理を施すことにより、吸着層の端面の形状を傾斜面とすることができる。なお、加熱処理の際には、圧力をかけながら実施することが好ましい。具体的には、オートクレーブを用いて加熱処理および加圧処理を実施することが好ましい。
加熱処理の際の加熱温度としては、50~350℃が好ましく、55~300℃がより好ましく、60~250℃がさらに好ましい。加熱時間としては、10~60分間が好ましく、20~40分間がより好ましい。
加圧処理の際の圧力としては、0.5~1.5MPaが好ましく、0.8~1.0MPaがより好ましい。
【0036】
また、加熱処理は、複数回行ってもよい。加熱処理を複数回実施する場合、それぞれの加熱条件は変更してもよい。
例えば、複数回の加熱処理を実施する場合、加熱温度を変えてもよい。例えば、2回の加熱処理を実施する場合、1回目の加熱処理を100℃未満の温度条件で実施して、2回目の加熱処理を100℃以上の温度条件で実施してもよい。
また、複数回の加熱処理を実施する場合、加圧処理の有無を変えてもよい。例えば、2回の加熱処理を実施する場合、1回目の加熱処理では加圧処理を合わせて実施し、2回目の加熱処理では加圧処理を実施しない形であってもよい。
なお、転写フィルムを用いて積層基板を製造する際、仮支持体を剥離した後、上記加熱処理を実施してもよいし、仮支持体が吸着層上に配置された状態のまま加熱処理を実施してもよい。また、複数回の加熱処理を実施する場合、各加熱処理の間で仮支持体を剥離してもよい。例えば、1回目の加熱処理を実施した後、仮支持体を剥離して、2回目の加熱処理を実施してもよい。
【0037】
積層基板の吸着層の表面には、表面処理を施してもよい。
表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UVオゾン処理が挙げられ、コロナ処理が好ましい。
後述するように吸着層の上にポリイミド膜を形成する場合、吸着層の表面粗さ(Ra)は、ポリイミド膜の表面粗さが低減されるため、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、15nm以下がさらに好ましい。また、Raは、ポリイミド膜と吸着層が密着した状態を維持できるため、0.1nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。
【0038】
上述した積層基板10を用いて、支持基材12と、吸着層14と、被支持材をこの順に有する構造体を製造できる。被支持材としては、ポリイミド膜18以外の材料も積層できる。被支持材としては、例えば、ポリイミド樹脂フィルム、エポキシ樹脂フィルム、感光性レジスト、ポリエステル樹脂フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン樹脂フィルム(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリウレタン樹脂フィルム、金属箔(例えば、銅箔、アルミ箔)、スパッタ膜(例えば、銅、チタン、アルミニウム、タングステン、窒化シリコン、酸化シリコン、アモルファスシリコン)、TGV基板、薄板ガラス基板、犠牲層付き薄板ガラス基板、ABF、サファイア基板、シリコン基板、TSV基板、LEDチップ、ディスプレイパネル(例えば、LCD、OLED、μ-LED)、人工ダイヤ、合紙などが挙げられる。
【0039】
<積層体およびその製造方法>
上述した積層基板10を用いて、
図3に示す、支持基材12と、吸着層14と、ポリイミド膜18とを有する積層体16を製造することができる。
具体的には、積層体16の製造方法としては、積層基板10の吸着層14側に、ポリイミドおよび溶媒を含むポリイミドワニスを塗布して、周縁領域12a上および吸着層14上にポリイミド膜18を形成して、支持基材12と、吸着層14と、ポリイミド膜18とをこの順に有する積層体を形成する方法が挙げられる。
以下では、上記製造方法について詳述し、その後、ポリイミド膜18の構成について詳述する。
【0040】
(ポリイミドワニス)
ポリイミドワニスは、ポリイミドまたはその前駆体および溶媒を含む。
ポリイミドは、通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重縮合し、イミド化することにより得られる。ポリイミドとしては、溶剤可溶性を有することが好ましい。
用いるテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。用いるジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンが挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式または非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物があり、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’-オキシジアミノベンゼン(4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)、1,3-ビス-(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼンが挙げられる。
脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルなどの非環式脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミンなどの環式脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0041】
ポリイミドの前駆体とは、イミド化する前の状態であるポリアミド酸(いわゆる、ポリアミック酸および/またはポリアミック酸エステル)を意味する。
【0042】
溶媒は、ポリイミドまたはその前駆体を溶解する溶媒であればよく、例えば、フェノール系溶媒(例えば、m-クレゾール)、アミド系溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、ラクトン系溶媒(例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-クロトノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、δ-ヘキサノラクトン)、スルホキシド系溶媒(例えば、N,N-ジメチルスルホキシド)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル系溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル)が挙げられる。
【0043】
(手順)
積層基板10の吸着層14側にポリイミドワニスを塗布する方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法が挙げられる。
【0044】
塗布後、必要に応じて、加熱処理を実施してもよい。
加熱処理の条件として、温度条件は、50~500℃が好ましく、50~450℃がより好ましい。加熱時間は、10~300分間が好ましく、20~200分間がより好ましい。
また、加熱処理は、複数回行ってもよい。加熱処理を複数回実施する場合、それぞれの加熱条件は変更してもよい。
【0045】
(積層体)
積層体16は、
図3に示すように、支持基材12と、吸着層14と、ポリイミド膜18とを有する。
支持基材12および吸着層14の構成は上述した通りである。
【0046】
ポリイミド膜18は、支持基材12の周縁領域上および吸着層14上(吸着層14の第2主面14b上および端面14c上)に配置される。
【0047】
ポリイミド膜18の厚みは、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。柔軟性の点からは、1mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
ポリイミド膜18上に電子デバイスの高精細な配線などを形成するために、ポリイミド膜18の表面は平滑であることが好ましい。具体的には、ポリイミド膜18の表面粗度Raは、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
ポリイミド膜18の熱膨張係数は、支持基材12との熱膨張係数差が小さい方が加熱後または冷却後の積層体16の反りを抑制できるため好ましい。具体的には、ポリイミド膜18と支持基材12との熱膨張係数の差は、0~90×10-6/℃が好ましく、0~30×10-6/℃がより好ましい。
ポリイミド膜18の面積は、特に制限されないが、電子デバイスの生産性の点から、300cm2以上が好ましい。
ポリイミド膜18は、有色であっても、無色透明であってもよい。
【0048】
積層体16は、種々の用途に使用でき、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウエハ、受信センサーパネルなどの電子部品を製造する用途が挙げられる。これらの用途では、積層体が大気雰囲気下にて、高温条件(例えば、450℃以上)で曝される(例えば、20分以上)場合もある。
表示装置用パネルは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、マイクロLEDディスプレイパネル、MEMSシャッターパネルなどを含む。
受信センサーパネルは、電磁波受信センサーパネル、X線受光センサーパネル、紫外線受光センサーパネル、可視光線受光センサーパネル、赤外線受光センサーパネルなどを含む。受信センサーパネルに用いる基板は、樹脂などの補強シートなどによって補強されていてもよい。
【0049】
<電子デバイスの製造方法>
積層体を用いて、ポリイミド膜および後述する電子デバイス用部材を含む電子デバイスが製造される。
電子デバイスの製造方法は、例えば、
図4および5に示すように、積層体16のポリイミド膜18上(ポリイミド膜18の吸着層14側とは反対側の表面上)に電子デバイス用部材20を形成し、電子デバイス用部材付き積層体22を得る部材形成工程と、電子デバイス用部材付き積層体22から、ポリイミド膜18および電子デバイス用部材20を有する電子デバイス24を得る分離工程と、を備える方法である。
【0050】
以下、電子デバイス用部材20を形成する工程を「部材形成工程」、電子デバイス24と吸着層付き支持基材26とに分離する工程を「分離工程」という。
以下に、各工程で使用される材料および手順について詳述する。
【0051】
(部材形成工程)
部材形成工程は、積層体16のポリイミド膜18上に電子デバイス用部材を形成する工程である。より具体的には、
図4に示すように、ポリイミド膜18上(ポリイミド膜18の吸着層14側とは反対側の表面上)に電子デバイス用部材20を形成し、電子デバイス用部材付き積層体22を得る。
なお、電子デバイスの信頼性向上のため、ポリイミド膜18上にバリア層を形成してもよい。バリア層の材料は、特に制限されず、公知の材料を用いることができる。バリア層を構成する材料としては、例えば、窒化シリコン、酸化シリコンが挙げられる。また、バリア層は1層であっても、2層以上であってもよいし、複数の材料を組み合わせてもよい。成膜方法は、特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、プラズマCVD、スパッタなどの方法が挙げられる。
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材20について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0052】
(電子デバイス用部材)
電子デバイス用部材20は、積層体16のポリイミド膜18上に形成される電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材20としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、または、表面に回路が形成された半導体ウエハなどの電子部品、受信センサーパネルなどに用いられる部材(例えば、LTPSなどの表示装置用部材、太陽電池用部材、薄膜2次電池用部材、電子部品用回路、受信センサー用部材)が挙げられ、例えば、米国特許出願公開第2018/0178492号明細書の段落[0192]に記載された太陽電池用部材、同段落[0193]に記載された薄膜2次電池用部材、同段落[0194]に記載された電子部品用回路が挙げられる。
【0053】
(工程の手順)
上述した電子デバイス用部材付き積層体22の製造方法は特に制限されず、電子デバイス用部材の構成部材の種類に応じて従来公知の方法にて、積層体16のポリイミド膜18上に、電子デバイス用部材20を形成する。
電子デバイス用部材20は、ポリイミド膜18に最終的に形成される部材の全部(以下、「全部材」という)ではなく、全部材の一部(以下、「部分部材」という)であってもよい。吸着層14から剥離された部分部材付き基板を、その後の工程で全部材付き基板(後述する電子デバイスに相当)とすることもできる。
吸着層14から剥離された、全部材付き基板には、その剥離面に他の電子デバイス用部材が形成されてもよい。さらに、2枚の電子デバイス用部材付き積層体22の電子デバイス用部材20同士を対向させて、両者を貼り合わせて全部材付き積層体を組み立て、その後、全部材付き積層体から2枚の吸着層付き支持基材を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。
【0054】
例えば、OLEDを製造する場合を例にとると、積層体16のポリイミド膜18の吸着層14側とは反対側の表面上に有機EL構造体を形成するために、透明電極を形成する、さらに透明電極を形成した面上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層などを蒸着する、裏面電極を形成する、封止板を用いて封止する、などの各種の層形成や処理が行なわれる。これらの層形成や処理として、具体的には、例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理などが挙げられる。
【0055】
(分離工程)
分離工程は、
図5に示すように、上記部材形成工程で得られた電子デバイス用部材付き積層体22から、吸着層14とポリイミド膜18との界面を剥離面として、電子デバイス用部材20が積層したポリイミド膜18と、吸着層付き支持基材26とに分離して、電子デバイス用部材20およびポリイミド膜18を含む電子デバイス24を得る工程である。
【0056】
剥離されたポリイミド膜18上の電子デバイス用部材20が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材をポリイミド膜18上に形成することもできる。
【0057】
ポリイミド膜18と吸着層14とを剥離する方法は、特に制限されない。例えば、ポリイミド膜18と支持基材12との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離できる。
好ましくは、電子デバイス用部材付き積層体22を、支持基材12が上側、電子デバイス用部材20側が下側となるように定盤上に設置し、電子デバイス用部材20側を定盤上に真空吸着し、この状態でまず刃物状のものをポリイミド膜18と支持基材12との界面に侵入させる。その後、支持基材12側を複数の真空吸着パッドで吸着し、刃物状のものを差し込んだ箇所付近から順に真空吸着パッドを上昇させる。そうすると、吸着層付き支持基材26を容易に剥離できる。
【0058】
電子デバイス用部材付き積層体22から電子デバイス24を分離する際においては、イオナイザーによる吹き付けや湿度を制御することにより、吸着層14の欠片が電子デバイス24に静電吸着することをより抑制できる。
上述した電子デバイスの製造方法は、例えば、米国特許出願公開第2018/0178492号明細書の段落[0210]に記載された表示装置の製造に好適であり、電子デバイス24としては、例えば、同段落[0211]に記載されたものが挙げられる。
【0059】
また、上記分離工程を実施する前に、積層体の電子デバイス用部材が配置されていない領域を切断して除去してもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
【0061】
以下では、支持基材として、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(線膨張係数38×10-7/℃、AGC株式会社製 商品名「AN100」)を使用した。積層前のガラス板の表面には、顕微赤外分光分析により、ヒドロキシ基(OH基)が存在することが確認された。
以下、例1~例5は実施例であり、例6~例7は比較例である。
【0062】
<外観評価>
後段での手順で得られたガラス板、シリコーン樹脂層、および、ポリイミド膜をこの順で有する積層体中のポリイミド膜を目視により観察して、以下の基準に従って評価した。A:ポリイミド膜の剥離が生じていなかった。
B:ポリイミド膜の一部で剥離が生じていたが、実用上問題のない範囲だった。
C:ポリイミド膜の大部分または全面で剥離が生じていたが、実用上問題のない範囲だった。
【0063】
<周縁領域の幅評価>
支持基材の周縁領域の幅を、以下の基準に従って評価した。なお、各例の周縁領域の幅はいずれも1mm以上であった。
A:幅が10mm以下
B:幅が10mm超30mm以下
C:幅が30mm超
【0064】
<異物埋め込み性>
後段での手順で得られたガラス板、シリコーン樹脂層、および、PETフィルムがこの順で配置された積層体を目視により観察して、以下の基準に従って評価した。
A:ガラス板/シリコーン樹脂層界面の異物による界面気泡が5個以下だった。
B:ガラス板/シリコーン樹脂層界面の異物による界面気泡が5個より多く、10個以下だった。
C:ガラス板/シリコーン樹脂層界面の異物による界面気泡が10個より多かった。
【0065】
<例1>
(硬化性シリコーンの調製)
1Lのフラスコに、トリエトキシメチルシラン(179g)、トルエン(300g)、酢酸(5g)を加えて、混合物を25℃で20分間撹拌後、さらに、60℃に加熱して12時間反応させた。得られた反応粗液を25℃に冷却後、水(300g)を用いて、反応粗液を3回洗浄した。洗浄された反応粗液にクロロトリメチルシラン(70g)を加えて、混合物を25℃で20分間撹拌後、さらに、50℃に加熱して12時間反応させた。得られた反応粗液を25℃に冷却後、水(300g)を用いて、反応粗液を3回洗浄した。洗浄された反応粗液からトルエンを減圧留去し、スラリー状態にした後、真空乾燥機で終夜乾燥することにより、白色のオルガノポリシロキサン化合物である硬化性シリコーン1を得た。硬化性シリコーン1は、T単位の個数:M単位の個数=87:13(モル比)であった。なお、M単位は、(R)3SiO1/2で表される1官能オルガノシロキシ単位を意味する。T単位は、RSiO3/2(Rは、水素原子または有機基を表す)で表される3官能オルガノシロキシ単位を意味する。
【0066】
(硬化性組成物の調製)
硬化性シリコーン1とヘキサンとを混合し、さらに有機ジルコニウム系化合物(オクチル酸ジルコニウム化合物)および有機ビスマス系化合物(2-エチルヘキサン酸ビスマス)を添加した。溶媒量は、固形分濃度が50質量%となるように調整した。また、金属化合物の添加量は、金属元素が樹脂100質量部に対して、0.01質量部となるように調整した。得られた混合液を、孔径0.45μmのフィルタを用いてろ過することにより、硬化性組成物を得た。
【0067】
(積層基板の作製)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)(東洋紡社製、コスモシャインA4100)の表面上に調製した硬化性組成物を塗布し、ホットプレートを用いて140℃で10分間加熱することにより、シリコーン樹脂層を形成した。シリコーン樹脂層の厚みは、8μmであった。
続いて、水系ガラス洗浄剤(株式会社パーカーコーポレーション製「PK―LCG213」)で洗浄後、純水で洗浄した200×200mm、厚み0.5mmのガラス板「AN100」(支持基材)と、シリコーン樹脂層が形成されたPETフィルムとを貼合して、ガラス板、シリコーン樹脂層、およびPETフィルムがこの順で配置された積層体を作製した。なお、上記貼合の際には、ガラス板の表面の周縁領域にシリコーン樹脂層が配置されない領域が残るように、貼合を行った(
図2参照)。周縁領域の幅Wは5mmであった。
次に、得られた積層体をオートクレーブ内に配置して、60℃、1MPaの条件にて30分間加熱した。その後、PETフィルムを剥離して、ガラス板およびシリコーン樹脂層からなる積層基板に対して、250℃で30分間アニール処理を施した後、シリコーン樹脂層にコロナ処理を施した。得られたシリコーン樹脂層は、ガラス板側の第1主面と第1主面とは反対側の第2主面と、第1主面および第2主面とに接続する端面とを有し、上記端面は第2主面から第1主面に向かうに従って突出する傾斜面であった。上記傾斜面と第1主面とのなす角度は、3°であった。シリコーン樹脂層の第1主面と第2主面との間の厚みは、8μmであった。
【0068】
(積層体の作製)
上記で得られた積層基板のシリコーン樹脂層側の表面にポリイミドワニス(宇部興産社製、ユピア-ST-1003)を塗布して、60℃で30分間加熱した後、さらに120℃で30分間加熱して、ガラス板、シリコーン樹脂層、および、ポリイミド膜(厚み:7μm)をこの順に有する積層体を得た。ポリイミド膜は、ガラス板の周縁領域上およびシリコーン樹脂層上に配置されていた(
図3参照)。
【0069】
<例2~例7>
シリコーン樹脂層の第1主面と第2主面との間の厚み、周縁領域の幅、および、角度を後述する表1に示すように調整した以外は、例1と同様の手順に従って、積層体を得た。 なお、例6および7に関しては、ガラス板の全面に硬化性組成物を塗布して、塗膜を250℃で30分間加熱して硬化させ、ガラス板全面上にシリコーン樹脂層を作製した後、得られたシリコーン樹脂層付きガラス板の周縁部を切断して、ガラス板とシリコーン樹脂層とを有し、かつ、平滑な側面を有する積層体(以下、「積層体C」ともいう。)を得た後、積層体Cを用いて上記(積層体の作製)を実施した。つまり、例6および7で使用した積層体Cは、シリコーン樹脂層のガラス板側の主面の面積と、ガラス板側とは反対側の主面の面積とが同じで、θが90°に該当するシリコーン樹脂層を有していた。
【0070】
表1中、「吸着層厚み(μm)」欄は、シリコーン樹脂層の第1主面と第2主面との間の厚みを表す。
表1中、「周縁領域幅(mm)」欄は、周縁領域の幅(
図2のW)を表す。
表1中、「角度(°)」欄は、シリコーン樹脂層の第1主面と傾斜面とのなす角度を表す。角度の測定方法は、上述した通りである。
【0071】
【0072】
表1に示すように、本発明の積層基板は、所望の効果を示した。
特に、例1~3および5と、例4との比較より、吸着層の厚みが6μm以上の場合、異物埋め込み性がより優れることが確認された。
また、例1と3との比較より、吸着層の厚みが12μm以下の場合、外観特性がより優れることが確認された。
【0073】
<有機EL表示装置(電子デバイスに該当)の製造>
例1~5で得られた積層体を用いて、以下の手順に従って、有機EL表示装置を製造した。
まず、積層基板のポリイミド膜のガラス板側とは反対側の表面上に、プラズマCVD法により窒化シリコン、酸化シリコン、アモルファスシリコンの順に成膜した。次に、イオンドーピング装置により低濃度のホウ素をアモルファスシリコン層に注入し、加熱処理し脱水素処理を行った。次に、レーザアニール装置によりアモルファスシリコン層の結晶化処理を行った。次に、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングおよびイオンドーピング装置より、低濃度のリンをアモルファスシリコン層に注入し、N型およびP型のTFTエリアを形成した。
次に、ポリイミド膜のガラス板側とは反対側に、プラズマCVD法により酸化シリコン膜を成膜してゲート絶縁膜を形成した後に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成した。次に、フォトリソグラフィ法とイオンドーピング装置により、高濃度のホウ素とリンをN型、P型それぞれの所望のエリアに注入し、ソースエリアおよびドレインエリアを形成した。
次に、ポリイミド膜のガラス板側とは反対側に、プラズマCVD法による酸化シリコンの成膜で層間絶縁膜を、スパッタリング法によりアルミニウムの成膜およびフォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりTFT電極を形成した。次に、水素雰囲気下、加熱処理し水素化処理を行った後に、プラズマCVD法による窒素シリコンの成膜で、パッシベーション層を形成した。
次に、ポリイミド膜のガラス板側とは反対側に、紫外線硬化性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ法により平坦化層およびコンタクトホールを形成した。次に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより画素電極を形成した。続いて、蒸着法により、ポリイミド膜のガラス板側とは反対側に、正孔注入層として4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、正孔輸送層としてビス[(N-ナフチル)-N-フェニル]ベンジジン、発光層として8-キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)に2,6-ビス[4-[N-(4-メトキシフェニル)-N-フェニル]アミノスチリル]ナフタレン-1,5-ジカルボニトリル(BSN-BCN)を40体積%混合したもの、電子輸送層としてAlq3をこの順に成膜した。次に、スパッタリング法によりアルミニウムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより対向電極を形成した。
次に、ポリイミド膜のガラス板側とは反対側に、紫外線硬化型の接着層を介してもう一枚のガラス板を貼り合わせて封止した。上記手順によって、ポリイミド膜上に有機EL構造体を形成した。ポリイミド膜上に有機EL構造体を有する構造物(以下、パネルAという。)が、電子デバイス用部材付き積層体である。
続いて、パネルAの封止体側を定盤に真空吸着させたうえで、パネルAのコーナー部のポリイミド膜とガラス板との界面に、厚み0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ポリイミド膜とガラス板との界面に剥離のきっかけを与えた。そして、パネルAの支持基材表面を真空吸着パッドで吸着した上で、吸着パッドを上昇させた。ここで刃物の差し込みは、イオナイザー(キーエンス社製)から除電性流体を当該界面に吹き付けながら行った。次に、形成した空隙へ向けてイオナイザーからは引き続き除電性流体を吹き付けながら、かつ、水を剥離前線に差しながら真空吸着パッドを引き上げた。その結果、定盤上に有機EL構造体が形成されたポリイミド膜のみを残し、シリコーン樹脂層付き支持基材を剥離することができた。
続いて、分離されたポリイミド膜をレーザーカッタまたはスクライブ-ブレイク法を用いて切断し、複数のセルに分断した後、有機EL構造体が形成されたポリイミド膜と対向基板とを組み立てて、モジュール形成工程を実施して有機EL表示装置を作製した。
【符号の説明】
【0074】
10 積層基板
12 支持基材
14 シリコーン樹脂層
16 積層体
18 ポリイミド膜
20 電子デバイス用部材
22 電子デバイス用部材付き積層体
24 電子デバイス
26 吸着層付き支持基材