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特許7140183静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20220913BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101R
H01L21/68 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020501775
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006059
(87)【国際公開番号】W WO2019163757
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018027750
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】釘本 弘訓
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-009351(JP,A)
【文献】特開平07-297265(JP,A)
【文献】特開2003-133401(JP,A)
【文献】特開2005-101505(JP,A)
【文献】特開2009-016573(JP,A)
【文献】特開2014-236047(JP,A)
【文献】特開2015-062237(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052291(WO,A1)
【文献】特開2011-181677(JP,A)
【文献】特開2008-198843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状試料を載置する載置面が設けられた載置台と、
円環状のフォーカスリングと、
前記フォーカスリングを冷却する冷却手段と、を備え、
前記冷却手段は、筒状の碍子を有し、
前記載置台は、前記載置面の周囲を囲んで設けられた保持部を有し、
前記保持部には、
前記載置面の周囲を囲む円環状の溝部と、
前記溝部の底面に開口する貫通孔と、が設けられ、
前記貫通孔には、前記碍子が挿入され、
前記保持部において、前記溝部の幅方向両側にある保持部の上面は、前記フォーカスリングと接触し前記フォーカスリングを保持する保持面であり、
前記保持面は、前記載置面の周方向に周期的なうねりを有し、且つ下記条件(i)~(iii)を満たす静電チャック装置。
(i)表面粗さが0.05μm以下である。
(ii)平面度が20μm以下である。
(iii)前記うねりの周期よりも短い範囲において、前記保持面と交差する方向に延在する深さ1.0μm以上の凹部を有しない。
【請求項2】
前記保持部には、
前記溝部と、
前記貫通孔と、
前記保持部の厚さ方向に延びる、管路と、
が設けられ、
前記溝部の底面と、前記管路とが平面的に重なっており、
前記管路には、筒状の碍子が挿入されている、
請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の静電チャック装置を製造する方法であって、
板状試料を載置する載置面と、
前記載置面の周囲にある貫通孔と、
が設けられた焼結体と、
前記貫通孔に挿入された筒状の碍子と、
を有する、仮載置台を用意する工程と、
前記載置面の周囲の前記焼結体の表面を円環状に研削する第1研削工程と、
前記焼結体を掘り下げて、前記載置面の周囲を囲む溝部を形成する工程と、
前記溝部の幅方向両側の上面を再度研削する第2研削工程と、
を有する静電チャック装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2研削工程において、砥石の回転軸方向の長さが前記溝部の幅方向の長さよりも長い砥石を用いる、請求項3に記載の静電チャック装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1研削工程と、前記溝部を形成する工程により、前記碍子が挿入された貫通孔が研削され、
前記第2研削工程では、前記碍子が挿入された貫通孔が研削されない、
請求項3の静電チャック装置の製造方法。
【請求項6】
前記仮載置台が、前記載置面の周囲に、筒状の碍子が挿入された厚さ方向に延びる管路を、更に有し、
前記管路は一端が焼結体の表面に露出せず、
前記第1研削工程と前記溝部を形成する工程により、研削により、前記管路から、前記溝部の底面に開口する貫通孔が形成される、
請求項3の静電チャック装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法に関するものである。
本願は、2018年2月20日に、日本に出願された特願2018-027750号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造プロセスに用いられるプラズマエッチング装置では、試料台にウエハ(板状試料)を取付けて、固定することができるとともに、そのウエハを所望の温度に維持することができる静電チャック装置が用いられている。この静電チャック装置は、上部に、ウエハ積載面を囲んでウエハ吸着部の外周縁部に配置されたリング部材(フォーカスリング)を備えている。
【0003】
従来のプラズマエッチング装置では、静電チャック装置に固定されたウエハにプラズマを照射すると、そのウエハの表面温度が上昇する。そこで、ウエハの表面温度の上昇を抑えるために、静電チャック装置の温度調整用ベース部に冷却媒体を循環させて、ウエハを下側から冷却している。
【0004】
また、ウエハにプラズマを照射すると、ウエハと同様にフォーカスリングの表面温度が上昇する。これにより、上述の温度調整用ベース部とフォーカスリングとの間に温度差が生じ、ウエハの表面温度の面内バラつきが生じることがある。そこで、フォーカスリングの表面温度の上昇を抑えるために、フォーカスリングを冷却する技術が知られている。
【0005】
例えば特許文献1では、ウエハの外周部にフォーカスリングを吸着するための第2の静電吸着手段を設けた静電チャック装置が記載されている。特許文献1に記載の静電チャック装置では、静電チャック部に対してフォーカスリングを、ウエハを吸着する力よりも大きい力で吸着させるとともに、冷却媒体(冷却ガス)をフォーカスリングの裏面に吹き付けることによりフォーカスリングの温度を調整している。
【0006】
また、例えば特許文献2では、静電チャック部により吸着されたウエハ吸着部とフォーカスリングのそれぞれに、伝熱ガスを供給するガス供給部を設けた静電チャック装置が記載されている。特許文献2に記載の静電チャック装置では、ウエハ吸着部とフォーカスリングの温度を、それぞれ独立して制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-033376号公報
【文献】特開2012-134375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、プラズマエッチング装置の高出力化により、ウエハに照射されるプラズマの熱エネルギーが増加し、フォーカスリングの表面温度が高温になってきている。これに対し、冷却ガスの圧力を増加させてフォーカスリングを冷却する方法が採られることがある。しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されているような従来の静電チャック装置では、フォーカスリングの表面温度を十分に制御できないことがある。静電チャック装置は、さらなる改良が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、板状試料の表面温度を均一にすることができる静電チャック装置およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、発明者らが鋭意検討した結果、フォーカスリングの表面温度を十分に制御できない要因の一つとして、冷却ガスがリークしていることが分かった。また、冷却ガスの圧力を増加させると、冷却ガスのリーク量が増加することが分かった。そこで、以下の態様の静電チャック装置によれば、冷却ガスのリークを低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の第一の態様は、板状試料を載置する載置面が設けられた載置台と、円環状のフォーカスリングと、フォーカスリングを冷却する冷却手段と、を備え、載置台は、載置面の周囲を囲んで設けられた保持部を有し、保持部には、載置面の周囲を囲む円環状の溝部と、溝部の底面に開口する貫通孔と、が設けられ、貫通孔には、筒状の碍子が挿入され、保持部において、溝部の幅方向両側にある保持部の上面は、フォーカスリングと接触しフォーカスリングを保持する保持面であり、保持面は、下記条件(i)~(iii)を満たす静電チャック装置を提供する。
(i)表面粗さが0.05μm以下である。
(ii)平面度が20μm以下である。
(iii)保持面と交差する方向に延在する深さ1.0μm以上の凹部を有しない。
【0012】
本発明の第一の態様は、前記保持部には、前記溝部と、前記貫通孔と、保持部の厚さ方向に延びる管路と、が設けられ、前記溝部の底面と、前記管路とが平面的に重なっており、前記管路には、筒状の碍子が挿入されていることが好ましい。
【0013】
本発明の第二の態様は、上記の静電チャック装置を製造する方法であって、板状試料を載置する載置面と、載置面の周囲にある貫通孔が設けられた焼結体と、貫通孔に挿入された筒状の碍子と、を有する仮載置台について、載置面の周囲の焼結体の表面を円環状に研削する第1研削工程と、焼結体を掘り下げて、載置面の周囲を囲む溝部を形成する工程と、溝部の幅方向両側の上面を再度研削する第2研削工程と、を有する静電チャック装置の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第二の態様においては、第2研削工程において、砥石の回転軸方向の長さが溝部の幅方向の長さよりも長い砥石を用いる製造方法としてもよい。
本発明の第二の態様においては、前記第1研削工程と、前記溝部を形成する工程により、前記碍子が挿入された貫通孔が研削され、前記第2研削工程では、前記碍子が挿入された貫通孔が研削されなくても良い。
本発明の第二の態様においては、前記仮載置台が、前記載置面の周囲に、筒状の碍子が挿入された厚さ方向に延びる管路を更に有し、前記管路は一端が焼結体の表面に露出せず、前記第1研削工程と前記溝部を形成する工程により、研削によって前記管路から溝部の底面に開口する貫通孔が形成されても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、板状試料の表面温度を均一にすることができる静電チャック装置およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態の静電チャック装置を示すXZ平面での概略断面図である。
図2図2は、図1のαで示す領域を拡大した概略部分拡大図である。
図3図3は、本実施形態の第1研削工程を示す概略斜視図である。
図4図4は、本実施形態の溝部16を形成する工程を示す概略斜視図である。
図5図5は、本施形態の第2研削工程を示す概略斜視図である。
図6図6は、本実施形態の静電チャック装置の変形例を示すXZ平面での概略断面図である。
図7図7は、実施例1における溝部の幅方向両側の上面(保持面)の表面形状を表すグラフである。
図8図8は、比較例1における溝部の幅方向両側の上面の表面形状を表すグラフである。
図9図9は、図2に示す領域の変形例を示す、概略部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る静電チャック装置およびその製造方法の実施の形態について、図面に基づき説明する。
【0018】
なお、以下の説明は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。発明を逸脱しない範囲で、数や位置や大きさや数値などの変更や省略や追加をする事ができる。また以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法や比率などが実際と同じであっても、又は異なっていても良い。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0019】
<静電チャック装置>
図1は、本実施形態の静電チャック装置を示すXZ平面での概略断面図である。図2は、図1のαで示す領域を拡大した概略部分拡大図である。
【0020】
図1に示す静電チャック装置10は、載置台11と、フォーカスリング12と、冷却手段13と、を備えている。
【0021】
なお、以下の説明においてはXYZ座標系を設定し、このXYZ座標系を参照しつつ各部材の位置関係を説明する。この際、載置台11の厚さ方向をZ軸方向、Z軸方向と直交する一方向をX軸方向(図1左右方向)、Z軸方向とX軸方向とに直交する方向をY軸方向とする。本実施形態においては、Z軸方向は鉛直方向である。
【0022】
[載置台]
図1に示す載置台11は、半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aが設けられている。載置台11は、吸着部材3と、冷却ベース5と、を備えている。
【0023】
[吸着部材]
吸着部材3は、誘電体基板24と、電極層26と、を備えている。
【0024】
図1に示す誘電体基板24は全体として凸状であり、すなわち丘部を形成しており、載置面11aが相対的に高くなっている。
【0025】
誘電体基板24の形成材料は任意に選択できるが、耐熱性を有するセラミックスを用いることが好ましい。このようなセラミックスとしては、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)、窒化ケイ素(Si)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)、サイアロン、窒化ホウ素(BN)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体が挙げられる。前記材料を2種以上用いた複合焼結体であっても良い。
【0026】
中でも、誘電体基板24の形成材料は、炭化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合材料が好ましい。これにより、誘電体基板24の誘電率を高くすることができ、板状試料Wの静電吸着が良好となりやすい。また、板状試料Wに対する不純物のリスクを低く抑えることができる。
【0027】
誘電体基板24の形成材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
誘電体基板24の形成材料の平均結晶粒径は、特に限定されないが、例えば10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。誘電体基板24の形成材料の平均結晶粒径が10μm以下であれば、加工時におけるチッピングや脱粒が少なく、後述する溝部16を形成しやすい傾向がある。平均結晶粒径の下限値は任意に選択できるが、例えば0.1μmや、0.15μmや、0.5μmなどが例として挙げられる。
【0029】
電極層26は、誘電体基板24の内部に埋設されている。
【0030】
静電チャック装置10の使用温度下において、電極層26の体積固有抵抗値は、1.0×10Ω・cm以下が好ましく、1.0×10Ω・cm以下がより好ましい。
【0031】
電極層26の形成材料は任意に選択できるが、導電性セラミックスであるであることが好ましい。導電性セラミックスとしては、炭化ケイ素(SiC)と酸化アルミニウム(Al)との複合焼結体、窒化タンタル(TaN)と酸化アルミニウム(Al)との複合焼結体、炭化タンタル(TaC)と酸化アルミニウム(Al)との複合焼結体、炭化モリブデン(MoC)と酸化アルミニウム(Al)との複合焼結体等が挙げられる。
【0032】
電極層26の厚さは任意に選択できるが、例えば10μm~50μmであっても良い。
【0033】
吸着部材3は、静電チャック部14と、保持部15と、を有している。静電チャック部14および保持部15にはそれぞれの内部に、上述の電極層26が配置されている。
【0034】
本実施形態において、吸着部材3の静電チャック部14に配置された電極層を「電極層26A」と称することがある。また、吸着部材3の保持部15に配置された電極層を「電極層26B」と称することがある。なお、単に「電極層26」というときには、電極層26Aおよび電極層26Bの両方を指している。
【0035】
電極層26Aと、電極層26Bとは電気的に接続されていてもよい。
【0036】
誘電体基板24の静電チャック部14の上面は、誘電体基板24の保持部15の上面よりも高くなっている。
【0037】
(静電チャック部)
静電チャック部14には、電極層26に通電する給電用端子27が配置されている。給電用端子27から電極層26に通電することにより、誘電体基板24の静電チャック部14は、静電吸着力を発現できる。給電用端子27の一端は、電極層26Aの下面に接続されている。一方、給電用端子27の他端は、外部電源(図示略)に電気的に接続されている。
【0038】
給電用端子27の周囲は、絶縁碍子28に覆われている。図1に示す絶縁碍子28は、円筒状の筐体である。絶縁碍子28は、内部に給電用端子27を収容する空間を有している。これにより、給電用端子27を絶縁碍子28の外部と絶縁している。
【0039】
誘電体基板24の静電チャック部14の上面(+Z側の面)は、上述の載置面11aである。載置面11aは、平面視円形であってよく、ディスク状のウエハ等を搭置できる。
【0040】
(保持部)
本実施形態の保持部15は、載置面11aの周囲を囲むように、円環状に形成されている。
【0041】
保持部15には、溝部16と、複数の貫通孔25とが設けられている。
【0042】
溝部16は、載置面11aの周囲を囲むように円環状に形成されている。溝部16には、冷却ガスが拡散されている。保持部15の上面(保持面)にはフォーカスリング12が配置されている。これにより、冷却ガスと接触する部分からフォーカスリングが冷却される。
【0043】
保持部15において、溝部16の幅方向両側の上面は、フォーカスリング12と接し、フォーカスリング12を保持する保持面15aである。保持面15aは、溝部16に流通する冷却ガスが、外部にリークするのを抑制する。
【0044】
本実施形態では、保持面15aを有する帯状の構造体をシールバンド17と称することがある。シールバンド17は、外側でフォーカスリングを保持するシールバンド17Aと、シールバンド17Aよりも内側でフォーカスリングを保持するシールバンド17Bからなる。シールバンド17は、保持面15aでフォーカスリング12と接触し、溝部16に流通する冷却ガスが外部に漏れ出ないように封止する。
【0045】
複数の貫通孔25は、溝部16の底面16aに開口している。
【0046】
本実施形態の保持部15は、誘電体基板24の原料に対して、すなわち保持部のない構造体に対して、後述の研削加工をすることにより形成される。
【0047】
[冷却ベース]
本実施形態の冷却ベース5は、吸着部材3の下面に接して設けられている。吸着部材3と冷却ベース5とは、例えばシリコーン系などの接着剤により接着されている。図1に示す冷却ベース5は、円盤状である。冷却ベース5には、複数の流路29が設けられている。
【0048】
流路29は、水や有機溶媒等の冷却用媒体を好ましく循環させる。これにより、吸着部材3の熱を冷却ベース5に逃がし、吸着部材3を冷却することができる。その結果、載置面11aに載置される板状試料Wが冷却され、板状試料Wの温度を低く抑えることができる。
【0049】
冷却ベース5の形成材料としては任意に選択できるが、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)、チタン等が好適に用いられる。
【0050】
[フォーカスリング]
フォーカスリング12は、半導体製造プロセスにおけるプラズマエッチング等の処理工程において、板状試料Wと略同一の温度になるように制御される。
【0051】
本実施形態のフォーカスリング12は、載置台11の上に、載置面11aの周囲を囲むように円環状に配置されている。本実施形態のフォーカスリング12は、その全体が保持部15と平面視で重なるように配置され、保持部15で保持されている。フォーカスリング12の内径は、吸着部材3の静電チャック部14の径より大きい。フォーカスリング12は、上表面の内側に段差部を有してもよい。
【0052】
本実施形態において、フォーカスリング12は、上述の保持部15の周方向に沿って設けられている。また、フォーカスリング12は、上述の溝部16の周方向に沿って設けられている。
【0053】
フォーカスリング12を載置台11に静電吸着しやすいことから、フォーカスリング12の形成材料の体積抵抗率は、低いことが好ましい。また、フォーカスリング12の温度を制御しやすいことから、フォーカスリング12の形成材料の熱伝導率は高いことが好ましい。このような特性を有するフォーカスリング12の形成材料としては、例えばセラミックスが挙げられる。例えば、静電チャック装置10を酸化膜エッチングに用いる場合、フォーカスリング12の形成材料には、多結晶シリコン、炭化ケイ素等が好適に用いられる。
なおフォーカスリング12の、保持部と接触する部分(面)の表面粗さは任意に選択できるが、0.05μm以下であることが好ましく、0.01μm以下であることがより好ましい。また前記部分(面)の平面度は任意に選択できるが、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0054】
[冷却手段]
本実施形態の冷却手段13は、複数の碍子(硝子部材)32を備えている。複数の碍子32の内側は、それぞれガス流路20となっている。
【0055】
複数のガス流路20は、溝部16に冷却ガスを供給する。本実施形態で用いられる冷却ガスとしては任意に選択できるが、例えばHeガスが挙げられる。
【0056】
複数のガス流路20には、冷却ガスを供給する冷却ガス供給源22が、圧力制御バルブ23を介して、接続されている。圧力制御バルブ23は、冷却ガスの圧力が所定の圧力になるように流量を調整する。なお、冷却ガス供給源22から冷却ガスを供給するガス流路20の数は、1本でも、2本以上の複数本でもよい。
【0057】
冷却手段13は、1つ又は複数のガス流路20を介して溝部16に冷却ガスを供給する。これにより、冷却手段13は、フォーカスリング12を冷却することができる。
【0058】
本実施形態の複数の碍子32は、複数の貫通孔25に挿入されている。複数の碍子32は、筒状の筐体である。また、複数の碍子32の端部は、溝部16の底面16aに開口しており、溝部16と連通するガス孔21である。複数のガス孔21は、溝部16の底面16aに、離散的に形成されている。
【0059】
複数の碍子32の形成材料は任意に選択できるが、絶縁性および機械的強度を有することが好ましい。また、碍子32の形成材料の熱伝導率は、誘電体基板24の形成材料の熱伝導率と同等であることが好ましい。このような特性を有する複数の碍子32の形成材料としては、例えばセラミックスが挙げられる。複数の碍子32の形成材料として用いられるセラミックスの好ましい例としては、酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0060】
発明者らが検討を行った結果、保持部15の表面には、研削加工に起因して、連続した周期的な凹凸構造(うねり)が形成される場合があることが分かった。
【0061】
特に、保持面15aに形成されるうねりは、冷却ガスがリークする要因となると推測される。そのため、本実施形態の静電チャック装置10においては、保持面15aのうねりを制御することが求められる。
【0062】
本実施形態の保持面15aは、表面粗さが0.05μm以下である。以下、これを条件(i)と称することがある。保持面15aの表面粗さは、好ましくは0.02μm以下である。
【0063】
本明細書の表面粗さは、いわゆる中心線平均表面粗さRaである。本明細書の表面粗さは、JIS B 0601に準拠し、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密製、SURFCOM 1500SD3)を用いて測定する。この測定において、溝部16の幅方向の外側17Aおよび内側17Bの上面(保持面)15aの表面粗さについて、同心円周上で120°毎に3箇所ずつ計6箇所測定し、その平均値を採用する。
【0064】
本実施形態の保持面15aは、平面度が20μm以下である。以下、これを条件(ii)と称することがある。保持面15aの平面度は、好ましくは15μm以下である。
【0065】
本明細書の平面度は、JIS B 6191に準拠し、三次元測定機(株式会社東京精密製、RVA800A)を用いて測定される。この測定において、まず、溝部16の幅方向の外側17Aおよび内側17Bの上面(保持面)15aの三次元座標について、同心円周上で45°毎に8箇所ずつ計16箇所測定する。次に、これらの測定値を用い、最小二乗法にて各測定点からの二乗の和が最小となる最小二乗平面を求める。この最小二乗平面の上側に最も離れた点と下側に最も離れた点の長さの絶対値の和を採用する。
【0066】
また、上述した保持面15aに形成されるうねりでは、保持面の高さの極大値と極小値とが交互に繰り返されている。ここで、保持部15におけるうねりの極大値とは、保持部15の方向において局所的に観察される、+Z方向に最大の値を指す。また、保持部15におけるうねりの極小値とは、保持部15の方向において局所的に観察される、-Z方向に最大の値を指す。
【0067】
上述の極大値と極小値とが繰り返す周期が長いほど、静電吸着したフォーカスリング12が保持面15aのうねりに追従しやすいと推測される。フォーカスリング12が保持面15aのうねりに追従することで、保持部15のシールバンド17での隙間を少なくし、冷却ガスのリーク量を少なくすることができる。なおうねりを追従しやすいとは、フォーカスリングと保持面の間の隙間をより小さくしやすいことを意味する。保持面の表面のうねりは無いことが好ましいが、表面のうねりの値をコントロールすることにより、うねりがあっても、目的とする結果を得ることができる。
【0068】
本実施形態において、保持面15aに形成されるうねりの周期は60度(°)以上であることが好ましい。うねりの周期が60度以上であることにより、フォーカスリング12が保持面15aの凹凸に十分追従できると考えられる。うねりの周期は、隣り合う極大値を有する位置と、円環の中心とが作る角度であってよい。周期は、例えば、後述する表面プロファイルから求めることができる。
【0069】
発明者らが検討したところ、上述の要件を満たしても板状試料Wの表面温度を均一に制御できるものと、できないものがあった。評価及び観察を行うことによって、温度制御ができないものは、保持面15aに、うねりの周期よりも短い範囲で微小な凹部が形成されていることが確認された。この凹部は、後述するように、碍子32の影響により、形成されると推測される。
【0070】
本実施形態の静電チャック装置10においては、保持面15aは、保持部15の周方向と交差する方向に延在する、深さ1.0μm以上の凹部を有しないものとする。以下、これを条件(iii)と称することがある。
【0071】
保持部15の周方向と交差する方向に延在する深さ1.0μm以上の凹部があると、フォーカスリング12が凹部に追従しにくく、この凹部から冷却ガスがリークするおそれがある。本実施形態の静電チャック装置10においては、このような深さ1.0μm以上の凹部がないので、冷却ガスのリーク量を少なくすることができる。
【0072】
本明細書における凹部の深さは、以下の方法で測定される表面プロファイルから求められる。表面プロファイルの測定は、三次元測定機(株式会社東京精密製、RVA800A)を用いる。表面プロファイルは、溝部16の幅方向の外側17Aの上面(保持面)15aの三次元座標について、同心円周上で、1°毎に360箇所ずつ計360箇所測定することで得られる。この表面プロファイルを用い、うねりの周期の60°の範囲内において、隣り合う山の頂点を結ぶ接線から谷に向かって垂線を下すとき、接線から谷までの距離を、本明細書における凹部の深さとする。なお、前記隣り合う2つの山は、60°の範囲の中に含まれる山である。すなわち中心からの一方の山から他方の山までの角度が60°の範囲に含まれる。隣り合う山が60°の範囲内にない場合、この範囲に凹部はないものと判断する。
【0073】
以上のように、保持面15aが上記条件(i)~(iii)を満たすことにより、保持部15の保持面15aとフォーカスリング12との隙間を少なくすることができる。これにより、この隙間からリークする冷却ガスの量を少なくすることができる。その結果、本実施形態では冷却ガスの圧力を制御しやすくなる。このため、静電チャック装置10は、フォーカスリング12の温度制御が容易となり、板状試料Wの表面温度を均一にすることができる。
【0074】
以上のような構成によれば、板状試料の表面温度を均一にすることができる静電チャック装置とすることができる。
【0075】
<静電チャック装置の製造方法>
上述の静電チャック装置10が得られる製造方法を、図3図5に基づいて説明する。
本実施形態の静電チャック装置10の製造方法は、第1研削工程と、溝部16を形成する工程と、第2研削工程と、を有する。第1研削工程、溝部16を形成する工程および第2研削工程以外の工程は、公知の静電チャック装置の製造方法で行われる工程を実施することができる。
【0076】
図3は、本実施形態の第1研削工程を示す概略斜視図である。本実施形態の第1研削工程では、円筒状の第1砥石G1を回転させながら、仮載置台200を研削する。
【0077】
仮載置台200は、焼結体150と、複数の筒状の碍子32と、冷却ベース5と、を有している。焼結体150には、板状試料Wを載置する載置面11a(図1参照)が設けられる。載置面11aの周囲に、複数の貫通孔25が設けられている。前記貫通孔25は任意に選択される数と位置で設けられてよい。貫通孔25は、等間隔に設けられてもよい。また、焼結体150には、電極層26Bが設けられている。仮載置台200では、焼結体150と冷却ベース5とがシリコーン系などの接着剤(図示なし)により接着されている。
【0078】
一方、複数の筒状の碍子32は、上述の貫通孔25に挿入されている。
【0079】
本実施形態の第1研削工程では、複数の碍子32の一端が焼結体150の表面に露出した仮載置台200について、複数の碍子32の一端と共に載置面11aの周囲の表面150aを、円環状に研削する。
なお第1研削工程の前には、仮載置台200の焼結体150の上主面は、段差がなく、平らな表面であってよい。例えば、第1研削工程を行うことにより、載置面11aの周囲を囲む、連続する1つの段差を形成することができる。前記段差は、載置面11aの側面と、平面視で円環状である、1つの底面(保持面)とを有することができる。あるいは、第1研削工程の前には、仮載置台200の焼結体150の上主面に、載置面が設けられていてもよい。
【0080】
本実施形態の第1研削工程では、例えばロータリー研削機などを用いることができる。
【0081】
本実施形態の第1研削工程では、載置面11aの周囲の表面150aが好ましくは下記条件(i)および条件(ii)を満たすように、仮載置台200を研削する。
【0082】
(i)表面粗さが0.05μm以下である。
(ii)平面度が20μm以下である。
【0083】
通常、焼結体を砥石により研削すると、研削熱が発生する。第1砥石G1の周速度が速いほど、発熱量が大きくなる。発熱量が大きくなると、焼結体と冷却ベースの間の上述の接着剤が硬化収縮することがある。この硬化収縮により、焼結体150の表面150aにうねりが生じることがある。その結果、表面150aの平面度が低下することがある。
【0084】
第1砥石G1の周速度は、予備実験を行い、表面150aが上記条件(i)および条件(ii)を満たすような速度に設定するとよい。
【0085】
発明者らが検討した結果、本実施形態の第1研削工程において、上記条件(i)および条件(ii)を満たしても、載置面11aの周囲の表面150aに、上述した微小な凹部30が形成される場合があることが分かった。この凹部30が形成される要因として、発明者らは次のように考察している。
【0086】
本実施形態の第1研削工程において、碍子32の一端が焼結体150の表面に露出した部分では、碍子32と焼結体150とを同時に研削する。また、碍子32は、内側に研削する対象を有していない。一方、碍子32の一端が焼結体150の表面に露出していない部分では、焼結体150のみを研削する。
【0087】
このように、仮載置台200の中でも、研削する位置によって研削する対象が異なっている。そのため、仮載置台200の中でも研削されやすいところと、研削されにくいところとがあると考えられる。本実施形態においては、この違いが微小な凹部30として顕在化したと推測される。
【0088】
図4は、本実施形態の溝部16を形成する工程を示す、概略斜視図である。本実施形態の溝部16を形成する工程では、第1研削工程の後に、保持面に露出する碍子32と碍子32の周囲の焼結体150とを掘り下げて、載置面11aの周囲を囲む、溝部16を形成する。なおこの時、溝部16を挟む、保持面の2つの上面(両)は掘り下げられない。図4に示すように、前記保持面の下には、平面視で、碍子が挿入された貫通孔や管路が含まれない。本実施形態の溝部16を形成する工程では、任意に選択される加工を行うことができ、例えばロータリー加工やブラスト加工などを用いることができ、ブラスト加工を好ましく用いることができる。
【0089】
ブラスト加工に使用されるメディアとしては、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)、炭化珪素、ガラスビーズなどを使用することが好ましい。メディアは、400メッシュアンダー(300メッシュを通過するもの)であることが好ましい。ブラスト加工におけるメディアの吐出圧力は、例えば、0.1MPa以下とすることが好ましく、0.05MPa以下とすることがより好ましい。
【0090】
図5は、本実施形態の第2研削工程を示す斜視図である。本実施形態の第2研削工程では、円筒状の第2砥石G2を回転させながら、溝部16の幅方向両側のシールバンド17Aおよびシールバンド17Bの上面(保持面)151aを、再度研削する。なお、第2砥石G2は、第1砥石G1と同じであっても、異なっていても良い。
【0091】
本実施形態の第2研削工程では、例えばロータリー研削機などを用いることができる。
【0092】
本実施形態の第2研削工程において、溝部16の幅方向両側にあるシールバンド17Aおよびシールバンド17Bの上面151aを研削する。このことにより、上述の第1研削工程で形成された微小な凹部30を平坦化する。本実施形態の第2研削工程では、上記条件(i)および条件(ii)を満たすように、溝部16の幅方向両側にあるシールバンド17Aおよびシールバンド17Bの上面151aを研削する。その結果、得られる静電チャック装置10の保持面15aが上記条件(i)および条件(ii)を満たしつつ、下記条件(iii)を満たすものとなる。
【0093】
(iii)フォーカスリング12の周方向と交差する方向に延在する深さ1.0μm以上の凹部30を有しない。
なお前記凹部の長さや幅は限定されず、深さの測定ができる値であればよい。
【0094】
本実施形態の第2研削工程において、砥石の回転軸方向の長さが溝部16の幅方向の長さよりも長い、砥石を用いることが好ましい。これにより、第2砥石G2を保持部15に接触させるだけで、保持面151aを選択的に研削することができる。第2砥石G2の回転軸方向の長さは、少なくとも保持部の片方の上面よりも長いことが好ましく、保持部の全幅(2つの上面の幅と溝部の幅の合計)と同じ、又はより大きいことがより好ましい。
【0095】
第1研削工程で用いる第1砥石G1と同様に、第2砥石G1の周速度が速いほど、発熱量が大きくなる。発熱量が大きくなると、上述の接着剤が硬化収縮することがある。この硬化収縮により、保持面151aにうねりが生じることがある。その結果、保持面151aの平面度が低下することがある。
【0096】
第2砥石G2の周速度は、予備実験を行い、保持面151aが上記条件(i)~(iii)を満たすような速度に設定するとよい。
【0097】
また、上述したように、第1研削工程において上記条件(i)および条件(ii)を満たすように研削加工してもよいが、第2研削工程において上記条件(i)および条件(ii)を満たすように研削加工することができる。後者の場合、シールバンド17Aとシールバンド17Bとで同じ表面状態となるように、第2砥石G2として回転軸方向の長さが、保持部15の全幅と略同一のものを用いるとよい。
【0098】
以上のような方法によれば、得られる静電チャック装置10の保持面15aが上記条件(i)~(iii)を満たすものとなる。その結果、板状試料の表面温度を均一にすることができる静電チャック装置を製造することができる。
【0099】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【0100】
本実施形態の静電チャック装置10では、複数の碍子32の端部が、溝部16の底面16aに開口している例を示したが、これに限定されない。本発明の一態様の静電チャック装置では、溝部を平面視したとき、複数の碍子が溝部の底面と平面的に重なっていればよい。例えば、前記碍子32の端部が、溝部16の底面16aに開口していなくても良く、保持部15の内部に位置することができる。
【0101】
図6を参照して、本実施形態の静電チャック装置の変形例について説明する。図6は、本実施形態の静電チャック装置の変形例を示す、X平面での概略断面図である。図6は、図2に相当する図である。図2の静電チャック装置10と異なる点は、静電チャック110の保持部15には、保持部15の厚さ方向(Z方向)に延びる、端部が溝部16の底面16aにて開口しない、複数の管路125が設けられていることである。複数の管路125の内部空間120は、それぞれ電極層26に電気的に接続される配線などを通す目的で使用される。
図6の溝部16は、例えば、管路125以外の管から供給される冷却ガスを流しても良い。冷却ガスを供給する管の例は特に限定されない。例えば、図2に記載されたような、筒状の硝子が挿入された、溝部の底面に開口する貫通孔などを、図6の静電チャック装置にも使用することが挙げられる。
【0102】
複数の管路125には、複数の碍子132がそれぞれ挿入されている。これら複数の碍子132の端部は溝部16の底面16aに露出していない。溝部16の底面16aと、管路125とが平面的に重なっている、すなわち平面視で重なる。
【0103】
本実施形態の静電チャック装置10の製造方法に用いる仮載置台200は、複数の碍子32の一端が焼結体150の表面に露出しているものとしたが、これに限定されない。
例えば、厚さ方向に延び、碍子が挿入されている、一端が表面(研削表面)に露出していない複数の管路を含むものの、貫通孔は有しない、仮載置台200の焼結体150を用いても良い。このような仮載置台200を用いることで、研削工程によって貫通孔が形成され、図2のように管路と硝子の一端が溝部内の表面に露出しても良いし、あるいは、研削工程を行っても、図6のように管路と硝子が溝部内の表面で露出しなくても良い。前記仮載置台200中の一端が露出していない前記管路の高さや長さや位置を互いに変えることで、研削工程によって、貫通孔と管路の両方を含む、保持部が形成されても良い。
仮載置台200の焼結体150は、途中まで硝子が挿入されており、前記硝子が表面に露出していない、貫通孔を有しても良い。研削工程によって、図2のように貫通孔と硝子の一端が溝部内の表面に露出しても良いし、貫通孔のみが溝部内の表面に露出しても良い。
あるいは、表面に露出する貫通孔と露出しない管路の両方と、これらに挿入された硝子とを含む、仮載置台200を用いても良い。形成された静電チャック装置が前記のような貫通孔と管路の両方を含む場合、これらは互いに連通していてもよいし、連通していなくても良い。
本発明の一態様の静電チャック装置の製造方法に用いる仮載置台は、載置面の周囲の焼結体を平面視したとき、複数の碍子が載置面の周囲の焼結体の表面と平面的に重なっていればよい。このような仮載置台を用いて図1に示す静電チャック装置10を製造する場合、第1研削工程と第2研削工程との少なくとも一方において、焼結体150と共に複数の碍子32の一端を加工することができる。
【0104】
図6の静電チャック装置110を製造する製造方法について説明する。静電チャック装置110を製造する製造方法に用いる仮載置台は、複数の碍子132の一端が焼結体150の表面に露出していない。このような仮載置台の載置面11aの周囲では、平面視で、複数の碍子132が存在する領域と、複数の碍子132が存在しない領域とで、弾性率が異なる。そのため、第1研削工程または第2研削工程の際に、第1砥石G1または第2砥石G2を焼結体150の研削面に押し当てると、各領域の厚さ方向(Z軸方向)の変形量に差が生じることがある。そのため、この変形量の差に起因して、載置面11aの周囲の表面150aに微小な凹部が形成されると考えられる。上述したような製造方法によれば、載置面11aの周囲の表面150aに微小な凹部が形成されるのを抑制できる。
【0105】
図6に示す静電チャック装置110を製造する場合、仮載置台には、複数の碍子132の一端が焼結体150の表面に露出していない材料を用いる。第1研削工程および第2研削工程においては、焼結体150と共に複数の碍子132の一端を加工しない。
【0106】
例えば、上述した保持部15には、ヒータ(図示略)が設けられていてもよい。これにより、フォーカスリング12を加熱することにより、フォーカスリング12の温度を板状試料Wと略同一の温度に制御することができる。
【0107】
図9に示すように、溝部16の底面16aには、誘電体基板24と同じ材料で形成され、保持面15aよりも低く設けられた凸部を有していてもよい。凸部の形状や大きさは任意に選択できる。これにより、冷却ガスの流通を妨げることなく、保持部15の静電吸着を良好にすることができる。その結果、フォーカスリング12(または板状試料W)の表面温度を均一に冷却することができる。
【実施例
【0108】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例では、冷却ガスとしてHeガスを用いた。
【0109】
[表面粗さの測定]
JIS B 0601に準拠し、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密製、SURFCOM 1500SD3)を用いて、表面粗さを測定した。この測定において、溝部の幅方向の内側および外側の上面(保持面)の表面粗さについて、同心円周上で120°毎に3箇所ずつ計6箇所測定し、その平均値を採用した。
【0110】
[平面度の測定]
JIS B 6191に準拠し、三次元測定機(株式会社東京精密製、RVA800A)を用いて、平面度を測定した。この測定において、まず、溝部の幅方向の内側および外側の上面(保持面)の三次元座標について、同心円周上で45°毎に8箇所ずつ計16箇所測定した。次に、これらの測定値を用い、最小二乗法にて各測定点からの二乗の和が最小となる最小二乗平面を求めた。この最小二乗平面の上側に最も離れた点と下側に最も離れた点の長さの絶対値の和を採用した。
【0111】
[凹部の深さの測定]
凹部の深さは、以下の方法で測定される表面プロファイルから求めた。表面プロファイルの測定は、三次元測定機(株式会社東京精密製、RVA800A)を用いた。溝部の幅方向の外側の上面(保持面)および内側の上面(保持面)の三次元座標について、測定した。具体的には、円周上で1°毎に360箇所ずつ計360箇所測定することで、表面プロファイルを得た。この表面プロファイルを用い、うねりの周期の60°の範囲内において、隣り合う山の頂点を結ぶ接線から谷に向かって垂線を下すとき、接線から谷までの距離を凹部の深さとした。表面プロファイルは、図7と8に示した。60°の範囲内において、隣り合う山がない場合は、なしと判断した。同心円周上で位置を変えて複数回測定し、位置を変えても、類似の結果が得られることを確認した。
【0112】
[Heガスのリーク量の評価]
静電チャック装置をプラズマエッチング装置に搭載し、静電チャック装置の載置面に直径350mmのシリコンウエハ(リング状試料)を、直流2.5kVの印加電圧で吸着固定した。この際、ガス孔よりHeガスを6.66kPaの圧力にて導入し、真空中(<0.5Pa)の条件で、Heガスのリーク量を測定し、評価した。
【0113】
この評価において、Heガスのリーク量が1sccm以下であるものを「○」(可)とした。
また、Heガスのリーク量が1sccmを超えるものを不良品とし、「×」(不可)とした。
【0114】
なお、1sccmは、0.1MPa、0℃の条件下における1分間あたりの気体の流量(単位:cm)を表す。
【0115】
<静電チャック装置の製造>
[実施例1]
載置台の載置面となる部分の周囲に、複数の貫通孔が設けられた、焼結体(φ350mm、Al-SiC製)を用意した。この焼結体と、焼結体の貫通孔と平面的に重なる位置に複数の貫通孔が設けられた冷却ベース(アルミニウム製)と、をシリコーン系接着剤を介して、積層した。この積層体を100℃で5時間加熱することにより、焼結体と、冷却ベースと、を接着した。
なお前記焼結体と前記冷却ベースは、同じ直径を有する円筒型のものを用いた。
【0116】
次いで、焼結体の貫通孔と冷却ベースの貫通孔とから形成される貫通孔に、複数の碍子(Al製)を挿入し、仮載置台を得た。
【0117】
次いで、載置面となる部分の周囲にある、前記焼結体の表面部分を、ロータリー研削機により炭化珪素砥石1000番(第1砥石)を用いて、円環状に研削した(第1研削加工)。この研削により、フォーカスリングを保持する、保持面が形成された。なお研削された部分には、前記碍子が挿入され貫通孔が含まれた。なお、炭化珪素砥石の番手は、数が大きいほど砥粒が小さくなる。また、第1研削加工における砥石周速度(回転速度)を80m/sとした。
【0118】
次いで、載置面の周囲にある、研削された面(保持面)に、ブラスト加工を行い、碍子と碍子の周囲の焼結体とを掘り下げて、載置面の周囲を囲む溝部を形成した(溝部を形成する工程)。ブラスト加工は、炭化珪素メディア(400メッシュアンダー(300メッシュを通過するもの))を用い、吐出圧力0.03MPaの条件にて行った。
【0119】
さらに、形成した溝部の幅方向の両側の上面を再度、ロータリー研削機により炭化珪素砥石1000番(第2砥石)を用いて研削した(第2研削加工)。また、第2研削加工における砥石周速度を80m/sとした。このようにして、静電チャック装置を製造した。
【0120】
第2研削工程後に得られた溝部の幅方向の上面(保持面)について表面粗さ、平面度および凹部の深さを測定した。
【0121】
[実施例2]
第1研削加工および第2研削加工における砥石周速度を100m/sとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0122】
[実施例3]
第1研削加工および第2研削加工における砥石周速度を110m/sとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0123】
[実施例4]
第1砥石および第2砥石として炭化珪素砥石600番を用いたこと以外は、実施例2と同様に行った。
【0124】
[比較例1]
第2研削工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0125】
溝部を形成する工程後に得られた溝部の幅方向の上面(保持面)について表面粗さ、平面度および凹部の深さを測定した。
【0126】
[比較例2]
第2研削工程を行わなかったこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0127】
溝部を形成する工程後に得られた、溝部の幅方向の上面(保持面)について、表面粗さ、平面度および凹部の深さを測定した。
【0128】
実施例および比較例の評価結果を図7および図8、ならびに表1に示す。図7は、実施例1における溝部の幅方向両側の上面(保持面)の、表面形状を表すグラフである。図8は、比較例1における溝部の幅方向両側の上面の、表面形状を表すグラフである。図7および図8の縦軸は、始めの測定点を基準としたときの保持面の高さである。また、横軸は、うねりの周期である。
【0129】
【表1】
【0130】
表1に示すように、下記条件(i)~(iii)を満たす実施例1~4の静電チャック装置は、Heガスのリーク量が1sccm以下であり、Heガスのリーク量が少ないことが分かった。これにより、実施例1~4の静電チャック装置ではHeガスの圧力を制御しやすくなり、ウエハの表面温度を均一にすることができると考えられる。
(i)表面粗さが0.05μm以下である。
(ii)平面度が20μm以下である。
(iii)フォーカスリングの周方向と交差する方向に延在する深さ1.0μm以上の凹部を有しない。
【0131】
一方、上記条件(i)~(iii)を満たさない比較例1および比較例2の静電チャック装置は、Heガスのリーク量が1sccmを超え、Heガスのリーク量が多いことが分かった。これにより、比較例1および比較例2の静電チャック装置ではHeガスの圧力を制御しにくく、ウエハの表面温度を均一にしにくいと考えられる。
【0132】
以上の結果から、本発明が有用であることが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
板状試料の表面温度を均一にすることができる静電チャック装置を提供する。
【符号の説明】
【0134】
3 吸着部材
5 冷却ベース
10,110…静電チャック装置
11…載置台
11a…載置面
12…フォーカスリング
13…冷却手段
14 静電チャック部
15…保持部
15a,151a…上面(保持面)
16…溝部
16a…底面
17 シールバンド
17A シールバンド(外側)
17B シールバンド(内側)
20 ガス流路
21 ガス穴
22 冷却ガス供給源
23 圧力制御バルブ
24 誘電体基板
25…貫通孔
26 電極層
26A 静電チャック部に配置された電極層
26B 保持部に配置された電極層
27 給電用端子
28 絶縁碍子
29 流路
30…凹部
32,132…碍子
120 管路の内部空間
125…管路
150…焼結体
150a…表面 200…仮載置台
W…板状試料
α 領域
G1 第1砥石
G2 第2砥石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9