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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】凝集処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/30 20060101AFI20220913BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20220913BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/01 G
B01D21/01 D
G01N15/06 C
G01N15/06 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021131205
(22)【出願日】2021-08-11
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】井上 健
(72)【発明者】
【氏名】長尾 信明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 瑞季
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-026438(JP,A)
【文献】特開2017-121601(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0055840(KR,A)
【文献】特開2021-099222(JP,A)
【文献】特開2005-241338(JP,A)
【文献】特開2002-195947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管又は凝集槽に凝集剤を添加する凝集剤添加装置と、
配管又は凝集槽の凝集液と接するように設けられた凝集状態モニタリングセンサーと、
該凝集状態モニタリングセンサーの検出値に基づいて、前記凝集剤添加装置を制御する制御器と
を有し、
該凝集状態モニタリングセンサーは、水中にレーザー光を照射する照射部及び散乱光を受光する受光部を有し、
該制御器は、散乱光の受光信号強度の時間的な変化から、該配管又は凝集槽内のフロック形成状態を判断する凝集処理装置において、
該制御器は、受光信号強度からなる受光信号強度情報を用いて、受光信号強度変化幅からなる受光信号強度変化幅情報を補正し、当該受光信号強度変化幅情報の補正値に基づいてフロック形成状態を判断する凝集処理装置であって、
前記制御器は、異なる複数の時点での適正凝集状態における受光信号強度情報と、それに対応する複数の受光信号強度変化幅情報との相関関係に基づき、制御時点での受光信号強度情報に基づいて受光信号変化幅情報を補正し、当該受光信号変化幅情報の補正値に基づいてフロック形成状態を判断することを特徴とする凝集処理装置。
【請求項2】
配管又は凝集槽に凝集剤を添加する凝集剤添加装置と、
配管又は凝集槽の凝集液と接するように設けられた凝集状態モニタリングセンサーと、
該凝集状態モニタリングセンサーの検出値に基づいて、前記凝集剤添加装置を制御する制御器と
を有し、
該凝集状態モニタリングセンサーは、水中にレーザー光を照射する照射部及び散乱光を受光する受光部を有し、
該制御器は、散乱光の受光信号強度の時間的な変化から、該配管又は凝集槽内のフロック形成状態を判断する凝集処理装置において、
該制御器は、受光信号強度からなる受光信号強度情報を用いて、受光信号強度変化幅からなる受光信号強度変化幅情報を補正し、当該受光信号強度変化幅情報の補正値に基づいてフロック形成状態を判断する凝集処理装置であって、
前記制御器は、フロック形成状態計測時間域の始期と終期との間における受光信号強度変化幅の平均値と平均受光信号強度との比に基づいてフロック形成状態を判断することを特徴とする凝集処理装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記受光信号強度変化幅の平均値と平均受光信号強度との比が第1所定値以上第2所定値以下となるように凝集剤添加制御を行う請求項の凝集処理装置。
【請求項4】
前記受光信号強度変化幅は、受光信号強度の経時変化を表わすグラフにおいて、任意の極大値と、該極大値を示す時刻の直近の前又は後において表われる極小値との差である請求項1~のいずれかの凝集処理装置。
【請求項5】
前記受光信号強度変化幅は、受光信号強度の経時変化を表わすグラフにおいて、任意の極大値と、該極大値を示す時刻の直近の前後の極小値の平均値との差である請求項1~のいずれかの凝集処理装置。
【請求項6】
前記平均受光信号強度は、受光信号強度の経時変化を表わすグラフにおいて、前記フロック形成状態計測時間域の始期から終期までの受光信号強度の積分値を該始期から終期までの時間で除算した値である請求項2又は3の凝集処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業排水や工業用水あるいは汚泥等を凝集処理する凝集処理装置に係り、特に、凝集状態モニタリングセンサーを用いた凝集処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種排水・用水から、濁質および有機物等を除去するために凝集処理を行う場合、塩化鉄やポリ塩化アルミニウムなどの無機凝集剤と高分子凝集剤とを併用することがある。こうした2種類の薬品を用いることで、凝集フロックの粗大化が生じ後段の固液分離操作が容易になるほか、無機凝集剤の添加量を抑えることによる汚泥発生量の削減が可能となる。
【0003】
また、排水の生物処理によって発生した汚泥を脱水処理する場合、脱水処理に先立ち、塩化鉄やポリ塩化アルミニウムなどの無機凝集剤と、高分子凝集剤とを併用して凝集処理する場合がある。このように無機凝集剤と高分子凝集剤とを併用することで、効率的に汚泥を荷電中和するとともにフロック強度の向上をはかることで、脱水処理後の汚泥(脱水ケーキ)の含水率を大きく低下させることが可能となる。
【0004】
凝集剤は、被処理水の水質や被処理汚泥の性状に応じて適切な量を添加する必要がある。排水、用水の凝集処理においては、薬品添加量(注入量)が不足すれば、被処理水中に含まれる濁質や有機物の除去が不十分となり、処理水質が悪化する。一方、薬品添加量が過剰であると、薬品が後段へリークし、後段処理での負荷増大や汚染を引き起こす可能性がある。
【0005】
また、汚泥処理においては、薬品添加量が不足すれば汚泥の荷電中和が不十分となり、更にはフロック強度が低下して脱水ケーキの含水率が上昇したり、脱水分離液に汚泥がリークしたりすることがあった。一方、薬品添加量が過剰となった場合にもフロック強度は低下するため脱水ケーキの含水率が上昇したり、脱水分離液に汚泥がリークしたりすることがあった。
【0006】
最適な薬品添加量を決定するためには、ジャーテストや凝集、濾過、圧搾テスト(ヌッチェテスト)等の机上テストを行うことが基本的である。しかし、手間を要し、被処理水の水質変動や被処理汚泥の性状変動のたびに机上テストを行うことは、実際の水処理、汚泥処理において、変動に即時対応することができず、現実的ではない。
【0007】
特許文献1には、レーザー光を水中に向けて照射し、水中のフロック等によって散乱される散乱光を受光して凝集状態を測定する凝集状態モニタリングセンサーを用いて凝集剤添加を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-26438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような凝集状態モニタリングセンサーに基づく薬注制御においては、凝集状態モニタリングセンサーの出力信号の変化が、専ら粒子径によるものと考えられてきたが、本発明者の研究の結果、粒子の色や量も影響することが判明した。
【0010】
本発明は、凝集状態モニタリングセンサーに基づいて薬注制御を行う凝集処理装置において、粒子の色や量も考慮して凝集剤の添加量を的確に制御することができる凝集処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の凝集処理装置は、配管又は凝集槽に凝集剤を添加する凝集剤添加装置と、配管又は凝集槽の凝集液と接するように設けられた凝集状態モニタリングセンサーと、該凝集状態モニタリングセンサーの検出値に基づいて、前記凝集剤添加装置を制御する制御器と
を有し、該凝集状態モニタリングセンサーは、水中にレーザー光を照射する照射部及び散乱光を受光する受光部を有し、該制御器は、散乱光の受光信号強度の時間的な変化から、該配管又は凝集槽内のフロック形成状態を判断する凝集処理装置において、該制御器は、受光信号強度からなる受光信号強度情報を用いて、受光信号強度変化幅からなる受光信号強度変化幅情報を補正し、当該受光信号強度変化幅情報の補正値に基づいてフロック形成状態を判断することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様では、異なる複数の時点での適正凝集状態における受光信号強度情報と、それに対応する複数の受光信号強度変化幅情報との相関関係に基づき、制御時点での受光信号強度情報に基づいて受光信号変化幅情報を補正し、当該受光信号変化幅情報の補正値に基づいてフロック形成状態を判断する。
【0013】
本発明の一態様では、前記制御器は、フロック形成状態計測時間域の始期と終期との間における受光信号強度変化幅の平均値と平均受光信号強度との比に基づいてフロック形成状態を判断する。
【0014】
本発明の一態様では前記制御器は、前記受光信号強度変化幅の平均値と平均受光信号強度との比が第1所定値以上第2所定値以下となるように凝集剤添加制御を行う。
【0015】
本発明の一態様では、前記受光信号強度変化幅は、受光信号強度の経時変化を表わすグラフにおいて、任意の極大値と、該極大値を示す時刻の直近の前又は後において表われる極小値との差である。
【0016】
本発明の一態様では、前記受光信号強度変化幅は、受光信号強度の経時変化を表わすグラフにおいて、任意の極大値と、該極大値を示す時刻の直近の前後の極小値の平均値との差である。
【0017】
本発明の一態様では、前記平均受光信号強度は、受光信号強度の経時変化を表わすグラフにおいて、前記フロック形成状態計測時間域の始期から終期までの受光信号強度の積分値を該始期から終期までの時間で除算した値である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の凝集処理装置では、凝集状態モニタリングセンサーに基づいて薬注制御を行う凝集処理装置において、粒子の色や量も考慮して凝集剤の添加量を的確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態に係る凝集処理装置の構成図である。
図2】凝集状態モニタリングセンサーの構成図である。
図3】凝集状態モニタリングセンサーの計測領域の模式図である。
図4図4a,4bは凝集状態モニタリングセンサーの検出波形図である。
図5】凝集状態モニタリングセンサーの検出波形図である。
図6】凝集状態モニタリングセンサーの検出波形図の面積の説明図である。
図7】実験例における測定結果を示すグラフである。
図8】実験例における測定結果を示すグラフである。
図9】実験例における測定結果を示すグラフである。
図10】実験例における測定結果を示すグラフである。
図11】受光信号強度変化幅の累積度数図である。
図12】相関関係式を示すグラフ図である。
図13】実験例における測定結果を示すグラフである。
図14】実験例における測定結果を示すグラフである。
図15】実験例における測定結果を示すグラフである。
図16】実験例における測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態に係る凝集処理装置について説明する。
【0021】
図1の通り、この凝集処理装置では、被処理汚泥である原汚泥は、流量計2を有する流入管1を介して凝集槽3に導入され、薬注装置4によって凝集剤が添加される。凝集槽3には撹拌機3aと、凝集状態モニタリングセンサー10が設置されており、その検出信号が制御器8に入力される。制御器8はこの検出信号に基づいて薬注装置4を制御する。
【0022】
凝集剤は、無機凝集剤であってもよく、有機凝集剤であってもよく、それらの併用であってもよい。
【0023】
凝集状態モニタリングセンサー10は、好ましくは、特許文献1に記載のものが用いられる。図2はこの凝集状態モニタリングセンサーのプローブ部分の構成を示している。このプローブは、直交する面11a,11b及びそれらが交わる頂部11cを有したブロック11と、面11aに沿って設けられた、凝集処理液に向ってレーザ光を照射する発光部12と、面11bに沿って設けられた、受光光軸を該発光部12の発光光軸と直交方向とした受光部13とを有する。また、凝集状態モニタリングセンサー10は、発光部12の発光作動及び受光部13の受光信号の解析を行うために、発光回路、検波回路及び計測回路(図示略)を備えている。計測回路は、タイミング回路、A/D変換部、演算部等を有する。
【0024】
特許文献1と同様に、発光部12から、頂部11c近傍の計測領域Aに照射されたレーザー光が計測領域A内の粒子によって散乱され、この散乱光が受光部13で受光され、この受光強度の経時変化に基づいて凝集状態が計測される。なお、ブロック11は不透明材料よりなる。
【0025】
発光回路は、タイミング回路からの信号に応じて発光部に一定の変調周波数を持った電気信号を送り、レーザ発光を行わせる。発光部は、発光回路からの信号によって、レーザ光を発光する。受光部は、レーザ光が水中の懸濁物に当たって発生した散乱光を受けて、電気信号に変換する。検波回路は、受光部からの電気信号から変調成分を除去し、散乱光強度に応じた受光電圧を出力する。
【0026】
計測回路 は、発光回路に発光のための信号(特定の周波数変調波)を送信すると共に、検波回路からの信号をデジタル信号に変換し、論理演算して凝集に関する情報を出力する。
【0027】
この凝集状態モニタリングセンサーとしては、特許文献1のモニタリング装置、特にそれが特許された特許第6281534号公報に記載のモニタリング装置を好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
なお、特許第6281534号の凝集モニタリング装置は、
「 凝集処理される被処理水の処理状態を監視する凝集モニタリング装置であって、
計測光を前記被処理水の計測領域に照射する計測光照射部と、
前記計測領域にある前記被処理水の粒子による散乱光を受光する散乱光受光部と、
前記散乱光受光部に得られる受光信号の振幅を計測する振幅計測手段を含み、計測された前記振幅の出現を監視および集計し、特定の振幅の発生率または発生頻度を算出して、前記被処理水中のフロックの粒径を表す前記被処理水の凝集に関わる指標を算出する計測値演算部と、
を備え、
前記振幅計測手段は、前記受光信号が上昇から下降に変化する第1の変曲点および下降から上昇に変化する第2の変曲点を検出し、前記第1の変曲点および第2の変曲点のレベル差から前記振幅を計測することを特徴とする凝集モニタリング装置。」
である。
【0029】
図3は、図2の計測領域Aにおけるレーザー光Lの光軸と垂直な断面を示す模式図である。図3の通り、ある時点では、計測領域Aに5個の粒子が存在している。この時点で計測領域Aに照射されたレーザー光が、各粒子によって散乱され、散乱光Sが受光部13に入射する。この時点から所定時間Δt(好ましくは0.1~10mSecの間から選定された時間。例えば、約1mSec)が経過した時点では、計測領域Aに存在する粒子数が変動する(理論上は、粒子数が変化しないこともあるが、粒子がブラウン運動し、また凝集槽5内の汚泥液が撹拌されているので、通常は該粒子数は変動する。)。
【0030】
粒子数が変動すると、それに連動して散乱光強度が変動し、受光部13の受光強度が変動する。
【0031】
粒子の粒径が大きいほど、1個の粒子が計測領域Aに出入りしたときの該受光強度の変動幅が大きいものとなる。従って、この受光強度の変動幅から、計測領域Aに出入りした粒子の粒径の大小を検出することができる。すなわち、任意の時刻tの受光強度と、Δt経過後の時刻tk+1の受光強度との差は、該Δtの間に計測領域Aに出入りした粒子の表面積に比例した値となる。
【0032】
図4aは、凝集状態モニタリングセンサーの受光信号を信号処理して得られる凝集状態モニタリングセンサー出力信号の経時変化の一例を示している。図4aにおける出力信号は、受光部13の受光強度に比例した値であり、単位は、例えばmVである。
【0033】
図4aは、時刻t,t…tの各時刻において測定された受光信号強度をプロットしたグラフであり、各時刻の間隔Δt(すなわちt-tk-1)は前述の通り、好ましくは0.1~10mSec、例えば1mSecである。
【0034】
図4bは、図4aにおいて、極小点P,P…と、極大点Q,Q…とを記入し、受光信号強度変化幅すなわち極小点と極大点との差h,h…を記入した説明図である。なお、以下、極大点の数をピーク数ということがある。
【0035】
上述の通り、任意の時刻tk-1の受光信号強度と時刻tの受光信号強度との差hは、時刻tk-1~t間に計測領域A出入りした粒子の表面積に比例した値である。
【0036】
時刻t~tのΔt・z秒間(zは例えば200とされ、Δt=1mSecである場合Δt×zは0.2秒となる。ただし、これは一例であり、0.01~900秒程度であればよい。)におけるすべての受光信号強度変化幅h,h…hより、この時刻t~tの間に計測領域A付近に存在する粒子の粒径分布が検出される。
【0037】
この検出原理を図4bに従って説明する。図4bにおいて、受光信号強度変化幅hは小径の粒子が検出されたことを表わし、受光信号強度変化幅hは大径の粒子が検出されたことを表わし、受光信号強度変化幅hはそれらの間の粒径の粒子が検出されたことを表わす。受光信号強度変化幅hは、hの粒子よりも若干大きい程度の粒子が検出されたことを表わす。
【0038】
この原理に従って、測定時間範囲t~tにおける、凝集状態モニタリングセンサーの受光信号強度変化幅を、小→大の順番の階級に分類し、各階級に属するピーク数をカウントすることにより、相対度数すなわちピーク総数に占める各階級の度数(ピーク数)が得られ、またピーク数の累積相対度数が得られる。なお、階級の数は2以上、特に3以上例えば10~100が好ましい。
【0039】
なお、所定の時間間隔で発光、非発光を繰り返すことで発光素子の使用時間を延長することができる。例えば、発光時間を0.2秒/回、発光間隔を2秒とした場合、連続で発光した場合に比較して発光素子の使用時間(寿命)を10倍に延長することが可能となる。
【0040】
一般に、凝集剤の薬注量が不足すると凝集不良となり、全粒子数に占める小径粒子の割合が多くなる。有機凝集剤の薬注量が過剰であると、大径粒子の割合が過度に多くなる。
【0041】
このような凝集特性を考慮して、凝集槽3内に設置した凝集状態モニタリングセンサー10の検出信号に基づいて、凝集粒子が適正大きさ範囲となるように、凝集剤の薬注量を制御する。
【0042】
一般に、凝集剤添加制御では、凝集粒子が適正大きさ範囲となるように、すなわち、過小とならないようにかつ過大とならないように凝集剤の添加量を制御する。
【0043】
<所定受光信号強度変化幅以上のピーク数の発生頻度と平均受光信号強度とに基づくフロック形成状態の判断>
本発明の一態様では、所定受光信号強度変化幅以上のピーク数の発生頻度(すなわち相対度数)が予め設定した閾値(例えば、累積相対度数の80%)以上であれば、フロック形成状態良好と判断する。そして、所定受光信号強度変化幅以上のピーク数の発生頻度が該閾値以上となるように凝集剤の添加量を制御する。具体例を以下に説明する。
【0044】
<工程1>
目視判断等により凝集状況が良好であると判断される日に、ピーク数の累積相対度数の80%タイル値となるときの受光信号強度変化幅h80%図11参照)を求める。また、平均受光信号強度を求める。平均受光信号強度は、図6において斜線を付した領域の面積S(受光信号強度の時間積分値)を測定時間(tーt)で除算した値である。
【0045】
凝集状況が良好な複数の日において、それぞれ工程1を行い、各日における受光信号強度変化幅h80%値と平均受光信号強度を求める。
【0046】
<工程2>
工程1の各日における受光信号強度変化幅h80%値と平均受光信号強度とをグラフにプロットすることにより、図12のような、受光信号強度変化幅h80%値と平均受光信号強度との相関図を得る。そして、平均受光信号強度と発生頻度累計の80%タイル値(h80%値)との関係式(y=ax+b)を決定する。
【0047】
<工程3>
上記のようにして決定した関係式y=ax+bのxに、凝集剤注入量制御時点での平均受光信号強度の測定値を代入してyすなわちh80%値を算出し、算出したh80%値を「目標受光信号変化幅」として設定する。そして、測定される受光信号強度変化幅の累積発生頻度の80%タイル値がこの目標受光信号強度変化幅以上となるように凝集剤の添加量を制御する。
【0048】
上記説明では、予め設定した閾値を20%、累積発生頻度を80%としたが、この数値は変えても良い。例えば、閾値20%に対して累積発生頻度を70%や50%などとしても良く、これら数値は、相関が求められる範囲で適宜設定することができる。ただし、閾値X%と累積発生頻度Y%とは、X+Yが100に近い数値であることが好ましい。
【0049】
また、図12では、関係式は一次式とされているが、相関があれば二次式でもその他の式で良い。また、グラフを作成し、グラフから求めても良い。
【0050】
上記説明では、受光信号強度変化幅情報(受光信号強度変化幅又はそれに対応する値)として累積発生頻度が所定値のときの受光信号強度信号変化幅としたが、これに限定されず、例えば、受光信号強度変化幅の平均値、中央値、第一四分位、第三四分位などでもよい。平均値や中央値となる受光信号強度変化幅を「受光信号変化幅情報」とした場合には、これら情報と平均受光信号強度との相関式より目標とする平均受光信号強度幅を設定すれば良い。
【0051】
なお、受光信号強度変化幅の中央値、第一四分位、第三四分位と累積発生頻度との関係の一例を図13に示す。
【0052】
上記説明では、受光信号強度情報(受光信号強度又はそれに対応する値)として平均受光信号強度を用いたが、平均受光信号強度に限定されず、第一四分位、中央値、第三四分位、最大値、その他任意のパーセンタイル値でもよい。
【0053】
ピーク波高値(受光信号強度変化幅)と受光信号強度が相関する場合、ピーク波高値と受光信号強度の関係式で補正された値が、測定対象試料の色や濃度に関係なく一定になる。
【0054】
<別の態様>
本発明の別の態様においては、凝集粒子が過小とならないように凝集剤を添加するために、凝集状態モニタリングセンサーの受光信号強度に基づいて求められる[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]が所定値(第1所定値)よりも大きくなるように凝集剤を添加し、凝集粒子が過大とならないようにするために、[受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]が第2所定値(前記第1所定値よりも大きい)以下となるように凝集剤を添加する。
【0055】
[平均受光信号強度変化幅]vs[平均受光信号強度]グラフと、第1所定値及び第2所定値を求めるには、凝集処理装置を現場に設置し、所定期間(例えば1週間~1か月程度)当該現場の実排水を、凝集処理装置をマニュアル運転することにより凝集処理する。この場合、運転作業員が、凝集状況を見ながら経験に基づいて凝集剤添加量を制御するとともに、この間、凝集状態モニタリングセンサーの信号強度の経時変化を記録する。そして、このマニュアル運転期間中で、凝集状態(フロック径)が適正範囲の下限になった時の[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]を第1所定値として求める。また、このマニュアル運転期間中で、凝集状態(フロック径)が適正範囲の上限になった時の[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]を第2所定値として求める。その後は、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]が第1所定値以上第2所定値以下となるように、凝集状態モニタリングセンサーの信号強度検出データに基づいて薬注制御すればよい。
【0056】
なお、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]の逆数に基づいて薬注制御を行ってもよいことは明らかである。
【0057】
本発明者が種々研究を重ねた結果、粒子の径だけではなく、粒子の色及び濃度も凝集状態モニタリングセンサーの信号強度に影響することが認められた。
【0058】
粒子の色の影響について図5を参照して説明する。一例として、図5の(A)が、粒子がオレンジ色粒子のみからなる場合の信号強度の経時変化であるとする。このオレンジ色粒子と全く同じ粒径分布及び粒子濃度であり、色が茶又は黒色の粒子の信号強度の経時変化は図5の(B),(C)のようになる。(B)は粒子が茶色粒子のみからなる場合であり、(C)は粒子が黒色粒子のみからなる場合である。このように粒子の色によって信号強度が変わるのは、茶色粒子の光反射率がオレンジ色粒子よりも低く、黒色粒子の光反射率が茶色粒子よりも低いからである。
【0059】
本発明者が種々実験を行ったところ、図6に示した、フロック形成状態計測時間域の始期tから終期tとの間における、受光信号強度変化幅の平均値(平均受光信号強度変化幅hab
ab=(h+h+h+……………+h)/n
と、受光信号強度の積分値(図6の斜線部の面積)Sをフロック形成状態計測時間域の長さ(t-t)で除した平均受光信号強度S/(t-t)との比[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]=hab/(S/(t-t))は、後述の実施例の通り、粒子の色に影響されないことが認められた。
【0060】
上記では、粒子の色と受光信号強度との関係を説明したが、粒子の色及び粒径分布が同一である場合には、粒子濃度が高いと、図9のような[平均受光信号強度変化幅]vs[平均受光信号強度]関係図においてグラフが上位に位置し、粒子濃度が中間であるときには中位に位置し、粒子濃度が低いときには下位に位置することが認められた。そして、この場合も、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]は、粒子の濃度の影響を受けない値であることが認められた。
【0061】
このようなことから、粒子の色と濃度が異なる場合であっても、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]は、粒子の色及び濃度に影響されないものとなる。
【0062】
従って、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]に基づいて凝集剤添加を制御することにより、粒子の色と濃度が異なる場合であっても、凝集状態モニタリングセンサーの受光信号強度に基づいて適切に(いわば、粒子の色及び濃度を考慮して補正した粒径測定値にもとづいて)、凝集剤添加制御を行うことができる。
【0063】
また、図1では、制御器8と凝集状態モニタリングセンサー10とを別個に設置しているが、凝集状態モニタリングセンサー10の信号処理部に制御器8の制御プログラムを組み込み、凝集状態モニタリングセンサー10から薬注装置4に制御信号を与えるようにしてもよい。
【0064】
凝集状態モニタリングセンサー10は、凝集槽3からの凝集液流出配管に設置されてもよい。また、凝集槽3内の液が導入される計測槽を設け、この計測槽に凝集状態モニタリングセンサー10を設置してもよい。
【実施例
【0065】
[実験例1]
<実験目的>
粒子の色が凝集状態モニタリングセンサーの検出値に与える影響を調べるために、均一粒径(1.8mm)で色のみが異なる粒子を同一濃度(10g/L)含んだ粒子分散液を調製し、凝集状態モニタリングセンサー(栗田工業株式会社製S.sensing CS-P)を用いて信号強度を測定した。
【0066】
〔粒子分散液の調製〕
室温にて、0.25wt%アルギン酸水溶液に対し水性絵具を添加してオレンジ色、茶色及び黒色のアルギン酸水溶液をそれぞれ調製した。ビウレットを用いて該アルギン酸水溶液を4.0wt%塩化カルシウム水溶液中に滴下し、滴下されたアルギン酸水溶液を凝固させて微小球状粒子とした。
【0067】
ビウレットの開度は、生成する粒子径が1.8mmとなるように調整した。これにより、粒子径が1.8mmであり、粒子がオレンジ色、茶色又は黒色であり、粒子濃度が10g/Lである3種類の分散液を調製した。
【0068】
〔凝集状態モニタリングセンサーを用いた信号強度の測定及び結果〕
分散液中に凝集状態モニタリングセンサーのプローブを差し込み、分散液をスターラで撹拌しながら信号強度を測定し、図4a,4bに示されるものと同様の信号強度の経時変化グラフを得、このグラフからh,h,h……………hを計測し、平均ピーク高さ(平均受光信号強度変化幅)hab=(h+h+h+……………+h)/nを算出した。結果を図7に示す。なお、時刻の間隔Δt(すなわちt-tk-1)は1mSecとした。
【0069】
また、この計測時間域(t-t)における受光信号強度の積分値Sを求め、(t-t)で除算して平均受光信号強度S/(t-t)を求めたところ、次の通りであった。
【0070】
黒粒子の場合:45.9mV
茶粒子の場合:203.4mV
オレンジ粒子の場合:351.6mV
【0071】
各色の粒子の平均受光信号強度変化幅habと各色の平均受光信号強度との関係をグラフにプロットして図9に示した。
【0072】
[実験例2]
粒子の濃度の影響を調べるために実験例1の茶色の粒子と同一粒子径の粒子を濃度3.3g/L又は16.7g/Lとした分散液を調製し、平均受光信号強度変化幅と平均受光信号強度を測定した。平均受光信号強度変化幅の測定結果を図11に示す。なお、図11中には実験例1の茶色粒子(濃度10g/L)の結果も併せて示した。また、平均受光信号強度変化幅と平均受光信号強度との関係を図9に示した。
【0073】
[考察]
実験例1,2で求めた各平均受光信号強度変化幅を各平均受光信号強度で除算した[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]と平均受光信号強度との関係を図10にプロットした。
【0074】
図10の通り、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]はいずれも約5であることが認められる。このことから、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]は粒子の色及び濃度の影響を受けない値であることが分る。
【0075】
従って、[平均受光信号強度変化幅]/[平均受光信号強度]に基づいて凝集剤を添加することにより、粒子の色や濃度の影響を受けずに適切な凝集剤添加制御が可能であることが認められる。
【0076】
[実験例3]
図9は、前述の通り、実験例1で調製した、粒径が同じであるが色と濃度が異なる人工粒子分散液について、平均受光信号強度と平均受光信号変化幅をグラフにしたものである。この図9より求めた相関式(y=5.0586x + 3.5921、R=0.9973)から、各試料の基準となる受光信号変化幅を算出し、この平均受光信号変化幅以上のピークの出現率を測定したものが、図14の「補正あり」のデータとなり、受光信号変化幅が1000mVと一定としたものが「補正していないもの」となる。図14の通り、補正ありのデータの方が、ばらつきがなく、基準として使えることがわかる。
【0077】
平均受光信号強度とパーセンタイル値での受光信号強度変化幅との関係を図15に示す。また、図15中に記載の相関式より求めた各試料の受光信号強度変化幅におけるピーク出現頻度との関係を図16に示す。
【0078】
なお、最大値の相関式に基づき補整して得られるピーク出現率は、必然的に100%となると考えられ、フロックサイズの推察には使えないと考えられる。
【0079】
[実験例4(現場試験)]
実験例3の方法を実機に適用した。なお、平均受光信号強度と受光信号強度変化幅との相関を作成するデータは、運転員が、得られた脱水ケーキの含水率は重力濾過性に基づき最適と判断した条件(3日間程度)に基づき、作成した。その相関式に基づき自動薬注で運転した。結果を表1に示す。なお、「大ピーク出現率(補正前)」が、受光信号幅が5000mv以上となるピークの出現率である。「大ピーク出現率(補正後)」は基準となる受光信号幅以上のピーク出現率である。表1に示す通り、本発明に記載の方法で受光信号強度変化幅情報を補正することにより、得られる脱水ケーキの含水率を82%前後の低い含水率で安定して処理することが可能となった。
【表1】
【符号の説明】
【0080】
3 凝集槽
4 薬注装置
8 制御器
10 凝集状態モニタリングセンサー
【要約】
【課題】凝集状態モニタリングセンサーに基づいて薬注制御を行う凝集処理装置において、粒子の色や量も考慮して凝集剤の添加量を的確に制御することができる凝集処理装置を提供する。
【解決手段】凝集槽3に対し、薬注装置4によって凝集剤が添加される。凝集装置3に設けた凝集状態モニタリングセンサー10の検出信号が制御器8に入力され、薬注装置4が制御される。凝集状態モニタリングセンサー10は、凝集処理液に向ってレーザー光を照射する発光部と、受光光軸を該発光部の発光光軸と直交方向とした受光部とを有する。受光信号強度を用いて、受光信号強度変化幅を補正し、受光信号強度変化幅の補正値に基づいてフロック形成状態を判断する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16