(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】免震用鋼材ダンパー及び免震構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/06 20060101AFI20220913BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220913BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20220913BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
F16F15/06 A
F16F15/02 Z
F16F7/12
F16F15/02 L
E04H9/02 351
(21)【出願番号】P 2022514628
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038444
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020197379
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】畑中 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】桑原 進
(72)【発明者】
【氏名】戸張 涼太
(72)【発明者】
【氏名】吉永 光寿
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和明
(72)【発明者】
【氏名】森岡 宙光
(72)【発明者】
【氏名】木下 智裕
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-041691(JP,A)
【文献】特開2004-278205(JP,A)
【文献】特開2003-206987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/06
F16F 15/02
F16F 7/12
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の下部と基礎との間に設置される免震用鋼材ダンパーであって、
前記構造物の下部に固定される上部基板と、
前記上部基板に対して平面視で同一位置となるように前記基礎に固定される下部基板と、
前記上部基板及び下部基板に固定され、平面視において十字方向に延在する4枚の免震板と、を備え、
前記4枚の免震板は、長尺鋼板を曲げ加工した部材であり、互いに平行な上部固定部及び下部固定部と、前記上部固定部及び下部固定部から離れるに従い近接する上部傾斜部及び下部傾斜部と、前記上部傾斜部及び下部傾斜部に連結する連結部と、を備えた部材であり、
前記4枚の免震板は、互いの前記上部固定部が重ならない位置で前記上部基板に固定され、互いの前記下部固定部が重ならない位置で前記下部基板に固定されて
おり、
前記上部固定部を前記上部基板と上部添接板とで挟み込み、前記上部基板及び前記上部添接板を締結手段で締め付けることで、前記上部固定部が前記上部基板に固定されており、
前記下部固定部を前記下部基板と下部添接板とで挟み込み、前記下部基板及び前記下部添接板を締結手段で締め付けることで、前記下部固定部が前記下部基板に固定されることを特徴とする免震用鋼材ダンパー。
【請求項2】
前記免震板は、前記上部固定部及び前記下部固定部の間の曲げ高さをH、前記上部固定部及び前記下部固定部の長手方向の寸法をD、前記上部傾斜部及び前記下部傾斜部の長手方向の寸法をLとすると、
10mm ≦ D ≦ 450mmであり、且つ、(D+L) ≦ H × 1.7
の関係を有することを特徴とする請求項1記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項3】
4枚の前記上部添接板が、前記4枚の免震板の隣接する前記上部固定部同士を跨いで配置され、前記上部固定部の端部を前記上部基板及び前記上部添接板で挟み込んでおり、
4枚の前記下部添接板が、前記4枚の免震板の隣接する前記下部固定部同士を跨いで配置され、前記下部固定部の端部を前記下部基板及び前記下部添接板で挟み込んでいることを特徴とする
請求項1又は2記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項4】
前記上部傾斜部は、前記上部固定部から前記連結部の上部まで所定の傾斜角度を付けて直線状に延在して連結し、
前記下部傾斜部は、前記下部固定部から前記連結部の下部まで前記上部傾斜部と同一の傾斜角度を付けて直線状に延在して連結していることを特徴とする
請求項1から3の何れか1項に記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項5】
前記傾斜角度をθとすると、5.2°≦ θ ≦15.3°に設定されていることを特徴とする請求項
4記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項6】
構造物の下部と基礎との間に設置される免震用鋼材ダンパーであって、
前記構造物の下部に固定される上部基板と、
前記上部基板に対して平面視で同一位置となるように前記基礎に固定される下部基板と、
前記上部基板及び下部基板に固定され、平面視において十字方向に延在している2組の免震板と、を備え、
前記2組の免震板は、上下に分割した上部分割鋼板及び下部分割鋼板を備えており、
前記上部分割鋼板は、長手方向中央部に設けた上部固定部と、上部固定部の長手方向両端から斜め下方に曲げ加工した一対の上部傾斜部と、前記一対の上部傾斜部の端部から下方に曲げ加工した上部連結部とを備え、
前記下部分割鋼板は、長手方向中央部に設けた下部固定部と、下部固定部の長手方向両端から斜め上方に曲げ加工した一対の下部傾斜部と、前記一対の下部傾斜部の端部から上方に曲げ加工した下部連結部とを備え、
前記上部分割鋼板の前記上部連結部と前記下部分割鋼板の前記下部連結部とを接続することで、前記免震板が形成され、
前記2組の免震板は、互いの前記上部固定部及び前記下部固定部を直交配置して重ね合わせ、前記上部固定部が前記上部基板に固定され、前記下部固定部が前記下部基板に固定されていることを特徴とする
免震用鋼材ダンパー。
【請求項7】
前記構造物の下部と前記上部基板との間に、所定高さに設定した上部治具が固定され、
前記基礎と前記下部基板との間に、所定高さに設定した下部治具が固定されていることを特徴とする請求項1から
6の何れか1項に記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項8】
前記上部基板にスタッドボルトが一体に形成されており、鉄筋コンクリート製の前記構造物の内部に前記スタッドボルトが埋め込まれた状態で前記上部基板が前記構造物に固定されているとともに、
前記下部基板にスタッドボルトが一体に形成されており、鉄筋コンクリート製の前記基礎の内部に前記スタッドボルトが埋め込まれた状態で前記下部基板が前記基礎に固定されていることを特徴とする請求項1から
6の何れか1項に記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項9】
前記上部傾斜部及び前記下部傾斜部は、前記上部固定部及び前記下部固定部から離間するに従い、幅方向寸法が徐々に減少していることを特徴とする請求項1から
8の何れか1項に記載の免震用鋼材ダンパー。
【請求項10】
請求項1から請求項
9の何れか1項に記載の免震用鋼材ダンパーと、構造物の下部と基礎との間に設置され、地震動が発生すると前記構造物の鉛直荷重を支持しながら水平方向に移動する免震装置と、を備えていることを特徴とする免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物下部と基礎との間に設置されて地震動などの外力によるエネルギーを吸収する免震用鋼材ダンパー及び免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超高層ビルなどの建築構造物や大型の土木構造物は、構造物下部と基礎との間に免震構造を設置することで大規模な地震動に対して安全性を高めている。
免震構造は、免震装置と、免震ダンパーとを備えており、大規模な地震動が発生すると、免震装置が構造物の鉛直荷重を支持しながら水平方向に移動するとともに、免震ダンパーが地震動のエネルギーを吸収することで、地震動のエネルギーが直接構造物に伝わらないようにしている。
【0003】
免震ダンパーとして、構造物下部に設けた上部構造体に固定される上部基板と、基礎上に設けた下部構造体に固定される下部基板と、上部基板及び下部基板との間に設置され、平面視十字状に配置した4枚の免震板で構成した免震用鋼材ダンパーが知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1の4枚の免震板は、長尺鋼板を曲げ加工により形成した同一形状の部材であり、互いに平行に形成した上部固定部及び下部固定部と、上部固定部及び下部固定部から離れるに従い近接する一対の傾斜部と、一対の傾斜部の近接した位置に連結する連結部と、を備えた部材である。なお、4枚の免震板を、第1~第4免震板と称する。
【0004】
そして、平面視で同一直線に配置した第1及び第2免震板の一対の上部固定部及び一対の下部固定部を突き合わせて配置し、第1及び第2免震板に対して平面視で直交する方向に配置した第3及び第4免震板の一対の上部固定部及び一対の下部固定部を、第1及び第2免震板の一対の上部固定部及び一対の下部固定部に対して平面視略矩形の重なり部分を設けて突き合わせて配置し、第1~第4免震板の上部固定部の重なり部分を上部基板に固定し、第1~第4免震板の下部固定部の重なり部分を下部基板に固定することで、上部基板及び下部基板との間に、第1~第4免震板が平面視十字状に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大規模な地震動の発生時には、上部構造体と下部構造体との間に400mm~600mm程度の大きな相対変位が生じるので、特許文献1の免震用鋼材ダンパーを構成する4枚の免震板(第1~第4免震板)には大きな相対変位に追随する変形能が要求される。
ここで、一般の鋼板曲げ機械を使用して特許文献1の免震板を製作する場合、400mm~600mm程度の変形能を有する免震板を製作するのは難しい。
すなわち、特許文献1の免震用鋼材ダンパーは、4枚の免震板の上部固定部の重なり部分が上部基板に固定されており、4枚の免震板の下部固定部の重なり部分が下部基板に固定されているので、免震板の上部固定部及び下部固定部の長尺方向の寸法は、少なくとも300mm程度が必要となる。また、大きな相対変位に追随する変形能を確保するために、免震板の傾斜部の長手方向の寸法を400mm~600mm程度に設定することが要求される。
【0007】
一般的な鋼板曲げ機械は、鋼板の曲げ高さを500mm程度とすると、曲げ深さは700mmが限界である。この一般的な鋼板曲げ機械を使用して免震板の曲げ加工を行う場合、上部固定部(或いは下部固定部)の長手方向の寸法と傾斜部の長手方向の寸法を足したものが、一般の鋼板曲げ機械の曲げ深さとなるが、上部固定部(或いは下部固定部)の長手方向の寸法が300mm程度なので、傾斜部の長手方向の寸法は400mm(700-300)程度以下に制限される。
したがって、一般の鋼板曲げ機械を使用して免震板の曲げ加工を行う場合、傾斜部の長手方向の寸法を400mm~600mm程度まで長く設定することができないので、大規模な地震動発生時のエネルギーを吸収する免震板を製作するのは難しい。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大規模な地震動の発生時に構造物と基礎との間に生じる大きな相対変位に対して必要な変形能を有して地震動のエネルギーを吸収することができる免震用鋼材ダンパーを提供することにある。また、地震動のエネルギーを直接構造物に伝わらないようにすることができる免震構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る免震用鋼材ダンパーは、構造物の下部と基礎との間に設置される免震用鋼材ダンパーであって、構造物の下部に固定される上部基板と、上部基板に対して平面視で同一位置となるように基礎に固定される下部基板と、上部基板及び下部基板に固定され、平面視において十字方向に延在する4枚の免震板と、を備え、4枚の免震板は、長尺鋼板を曲げ加工した部材であり、互いに平行な上部固定部及び下部固定部と、上部固定部及び下部固定部から離れるに従い近接する上部傾斜部及び下部傾斜部と、上部傾斜部及び下部傾斜部に連結する連結部と、を備えた部材であり、4枚の免震板は、互いの上部固定部が重ならない位置で上部基板に固定され、互いの下部固定部が重ならない位置で下部基板に固定されている。
【0010】
また、本発明の一態様に係る免震構造は、上述した免震用鋼材ダンパーと、構造物の下部と基礎との間に設置され、地震動が発生すると構造物の鉛直荷重を支持しながら水平方向に移動する免震装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る免震用鋼材ダンパーによると、大規模な地震動の発生時に構造物と基礎との間に生じる大きな相対変位に対して、必要な変形能を有して地震動のエネルギーを吸収することができる。
また、本発明に係る免震構造によると、地震動のエネルギーを直接構造物に伝わらないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明に係る第1実施形態の免震用鋼材ダンパーを示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る第1実施形態の免震用鋼材ダンパーを構成する鋼板を折り曲げて形成した免震板を示す図である。
【
図4】本発明に係る第1実施形態の免震用鋼材ダンパーの要部を示す鉛直方向の断面図である。
【
図7】本発明に係る第2実施形態の免震用鋼材ダンパーを示す鉛直方向の断面図である。
【
図8】本発明に係る第3実施形態の免震用鋼材ダンパーの要部を示す鉛直方向の断面図である。
【
図11】本発明に係る第4実施形態の免震用鋼材ダンパーを示す斜視図である。
【
図12】第4実施形態の免震用鋼材ダンパーの要部を示す鉛直方向の断面図である。
【
図15】本発明に係る第5実施形態の免震板のFEM解析モデルを示す斜視図である。
【
図16】第5実施形態の免震板のFEM解析モデルの所定部位の寸法形状を示す図である。
【
図17】第5実施形態において傾斜角度が異なる複数種類の免震板のFEM解析モデルを示す側面図である。
【
図18】第5実施形態における傾斜角度が異なる複数種類の免震板のFEM解析モデルの相当塑性歪を示した図である。
【
図19】第5実施形態における傾斜角度が異なる複数種類の免震板のFEM解析モデルの変位と載荷荷重の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0014】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、超高層ビルなどの建築構造物や大型の土木構造物などの構造物1と基礎2との間に設置された免震構造3を示している。
免震構造3は、構造物1の下部に設けたダンパー用上部構造体4と基礎2上に設けたダンパー用下部構造体5との間に設置した第1実施形態の免震用鋼材ダンパー6と、ダンパー用上部構造体4に隣接して構造物1の下部に設けた装置用上部構造体7とダンパー用下部構造体5に隣接して基礎2上に設けた装置用下部構造体8との間に設置した免震装置9と、を備えている。
図1では1組の免震構造3しか示していないが、構造物1と基礎2との間には複数組設置されている。なお、ダンパー用上部構造体4、ダンパー用下部構造体5、装置用上部構造体7及び装置用下部構造体8は、鉄筋コンクリート製である。
【0016】
図2は、第1実施形態の免震用鋼材ダンパー6を示すものであり、ダンパー用上部構造体4に上部治具12(
図1参照)を介して固定されている上部基板10と、上部基板10に対して平面視において同一位置となるようにダンパー用下部構造体5に下部治具13(
図1参照)を介して固定されている下部基板11と、上部基板10及び下部基板11に固定され、平面視において互いに直交する十字方向に延在している4枚の免震板15a,15b,15c,15dと、で構成されている。
【0017】
免震板15aは、長尺な矩形鋼板を曲げ加工して形成した部材であり、
図3(a)に示すように、上部基板10に固定される平板形状の上部固定部16aと、上部固定部16aに対して長手方向の寸法を同一にして平行に延在し、下部基板11に固定される平板形状の下部固定部17aと、上部固定部16a及び下部固定部17aから離間するに従い近接するように同一の傾斜角度θで延在する平板形状の上部傾斜部18a及び下部傾斜部19aと、上部傾斜部18a及び下部傾斜部19aの間に連続する連結部20aと、を備えている。
【0018】
図3(a),(b)に示すように、上部固定部16aには、複数のボルト貫通穴が形成されている。下部固定部17aにも、複数のボルト貫通穴が形成されている。そして、
図3(b)に示すように、免震板15aの上部傾斜部18aは、上部固定部16aから連結部20aに向うに従い幅寸法Mが徐々に減少して形成されており、下部傾斜部19aも、下部固定部17aから連結部20aに向うに従い幅寸法が徐々に減少している。
また、他の3枚の免震板15b,15c,15dも、上述した免震板15aと同一形状の部材であり、免震板15aを構成する部位と同一構成の部位は、符号を同一として添え字を「a」の替わりに「b、c、d」として示す。
【0019】
ここで、免震板15aの実寸は、
図3(a)に示すように、上部固定部16a及び下部固定部17aの間の距離(曲げ高さ)Hが500mmであり、上部固定部16a(下部固定部17a)の長手方向の寸法Dが50mmであり、上部傾斜部18a(下部傾斜部19a)の長手方向の寸法Lが650mmである。また、他の3枚の免震板15b,15c,15dも、免震板15aと同一寸法で形成されている。
【0020】
上部基板10をダンパー用上部構造体4に固定している上部治具12は、
図4に示すように、ダンパー用上部構造体4の下面に当接するアンカープレート12aと、上部基板10に当接する上部基板側プレート12bと、アンカープレート12a及び上部基板側プレート12bの間に直交して溶接で固定されているリブ板12cと、を備えている。なお、
図4では、4枚の免震板15a,15b,15c,15dのうち、互いに平面視で直線上に対向している免震板15a,15bのみを示している。
アンカープレート12aには複数の貫通穴が形成されており、ダンパー用上部構造体4の下面から突出する複数のアンカーボルト12dを貫通穴に通過させて下面から突出させてナット12eでねじ込むことで、アンカープレート12aがダンパー用上部構造体4にボルト固定されている。
【0021】
上部基板側プレート12bは上部基板10より小面積の矩形板であり、上部基板10の上面中央に上部基板側プレート12bを当接し、上部基板10の上面全周に上部基板側プレート12bと重なり合わない部分を設けている。また、上部基板10の下面中央に、上部基板側プレート12bと略同一形状の第1添接板12fを当接し、上部基板10の下面全周に第1添接板12fと重なり合わない部分を設けている。そして、
図4及び
図5に示すように、上部基板側プレート12b、上部基板10及び第1添接板12fの重なり合う部分に形成した複数の貫通穴に連結ボルト12gを挿通してナット12hをねじ込むことで、上部基板10が上部基板側プレート12bにボルト固定されている。
【0022】
下部基板11をダンパー用下部構造体5に固定している下部治具13は、
図4に示すように、ダンパー用下部構造体5の上面に当接するアンカープレート13aと、下部基板11に当接する下部基板側プレート13bと、アンカープレート13a及び下部基板側プレート13bの間に直交して溶接で固定されているリブ板13cと、を備えている。
また、ダンパー用下部構造体5の上面から突出する複数のアンカーボルト13dを下部基板側プレート13bに形成した貫通穴に通過させて上面から突出させてナット13eでねじ込むことで、アンカープレート13aがダンパー用下部構造体5にボルト固定されている。
【0023】
そして、下部基板側プレート13bは下部基板11より小面積の矩形板であり、下部基板11の上面中央に下部基板側プレート13bを当接し、下部基板11の下面全周に下部基板側プレート13bと重なり合わない部分を設けている。また、下部基板11の上面中央に、下部基板側プレート13bと略同一形状の第2添接板13fを当接し、下部基板11の上面全周に第2添接板13fと重なり合わない部分を設けている。そして、
図4及び
図6に示すように、下部基板側プレート13b、下部基板11及び第2添接板13fの重なり合う部分に形成した複数の貫通穴に連結ボルト13gを挿通してナット13hをねじ込むことで、下部基板11が下部基板側プレート13bにボルト固定されている。
【0024】
ここで、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との上下間隔は、免震用鋼材ダンパー6の設置場所ごとに異なる。このため、リブ板12cの高さが異なる複数種類の上部治具12と、リブ板13cの高さが異なる複数種類の下部治具13が用意されており、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との上下間隔に対応した所定の上部治具12及び下部治具13を選択して配置することで、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との間に、上部治具12及び下部治具13を介して免震用鋼材ダンパー6が設置されている。
【0025】
そして、2枚の免震板15a,15bは、
図5及び
図6に示すように、水平方向に延在する仮想直線K1上に上部傾斜部18a,18b、下部傾斜部19a,19bが延在して配置されており、他の2枚の免震板15c,15dも、水平面上で仮想直線K1に対して直交する仮想直線K2上に上部傾斜部18c,18d、下部傾斜部19c,19dが延在して配置されている。
【0026】
2枚の免震板15a,15bの上部固定部16a,16bは、
図5に示すように、仮想直線K1上の上部基板10の上部基板側プレート12b及び第1添接板12fに重なり合わない部分の下面に当接し、他の2枚の免震板15c,15dの上部固定部16c,16dも、仮想直線K2上の上部基板10の上部基板側プレート12b及び第2添接板13fに重なり合わない部分の下面に当接している。そして、上部固定部16a,16b,16c,16dの各々の下面に、長方形状の第3添接板21を当接し、これらの部材に形成した貫通穴に連結ボルト22を挿通してナット23をねじ込む。これにより、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dは、互いに重なり合わずに、上部基板10及び第3添接板21に挟まれた状態でボルト固定される。
【0027】
また、2枚の免震板15a,15bの下部固定部17a,17bは、
図6に示すように、仮想直線K1上の下部基板11の下部基板側プレート13b及び第2添接板13fに重なり合わない部分の上面に当接し、他の2枚の免震板15c,15dの下部固定部17c,17dも、仮想直線K2上の下部基板11の下部基板側プレート13b及び第2添接板13fに重なり合わない部分の上面に当接している。そして、下部固定部17a,17b,17c,17dの各々の上面に、長方形状の第3添接板24を当接し、これらの部材に形成した貫通穴に連結ボルト25を挿通してナット26をねじ込む。これにより、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの下部固定部17a,17b,17c,17dは、互いに重なり合わずに、上部基板10にボルト固定されている。
【0028】
次に、第1実施形態の免震用鋼材ダンパー6及び免震構造3の作用効果について説明する。
上記構成の免震構造3は、地震動が発生すると、免震装置9が構造物1の鉛直荷重を支持しながら水平方向に移動する。免震用鋼材ダンパー6の4枚の免震板15a,15b,15c,15dが平面視において十字方向に配置されているので、地震動が水平面内のいずれの方向に作用しても、各免震板15a,15b,15c,15dの上部傾斜部18a,18b,18c,18d、連結部20a,20b,20c,20d,下部傾斜部19a,19b,19c,19dが、せん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形を行うことで地震動のエネルギーを吸収し、地震動のエネルギーを直接構造物1に伝わらないようにすることができる。
【0029】
また、免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dは、上部基板10及び4枚の第3添接板21に厚さ方向から挟み込まれた状態で連結ボルト22及びナット23により強固に締付け固定され、免震板15a,15b,15c,15dの下部固定部17a,17b,17c,17dは、下部基板11及び4枚の第3添接板24に厚さ方向から挟み込まれた状態で連結ボルト25及びナット26で強固に締付け固定されている。これにより、地震動のエネルギーが伝達されたときの上部固定部16a,16b,16c,16d及び下部固定部17a,17b,17c,17dの塑性変形が防止されるので、免震用鋼材ダンパー6の地震動エネルギーの吸収能が低下するのを防止することができる。
【0030】
また、免震板15aの上部傾斜部18aは、上部固定部16aから連結部20aに向うに従い幅寸法Mが徐々に減少し、下部傾斜部19aも、下部固定部17aから連結部20aに向うに従い幅寸法が徐々に減少する構造とされていることから、免震板15aにねじれが発生しても地震動のエネルギー吸収を効率よく行うことができる。また、他の3枚の免震板15b,15c,15dも、免震板15aと同一構造なので、ねじれの発生による地震動のエネルギー吸収を効率よく行うことができる。
そして、大規模な地震動が発生すると、構造物1と基礎2との間には、400mm~600mm程度の大きな相対変位が生じる。
【0031】
第1実施形態の免震板15a,15b,15c,15dは、上部傾斜部18a,18b,18c,18d及び下部傾斜部19a,19b,19c,19dの長手方向の寸法L(
図3(a)参照)が700mmに設定されており、構造物1と基礎2との間の大きな相対変位(400mm~600mm程度)に必要な変形能(700mm)を有しているので、地震動のエネルギーを十分に吸収することができる。
また、第1実施形態の免震板15a,15b,15c,15dは、一般の鋼板曲げ機械を使用して製造することができる。ここで、一般の鋼板曲げ機械とは、鋼板の曲げ高さが500mm程度であると、曲げ深さが、最大850mm程度が限界の装置である。
【0032】
免震板15a,15b,15c,15dを製造するときの最大の曲げ深さは、曲げ高さHを500mmに設定すると、上部固定部16a,16b,16c,16(下部固定部17a,17b,17c,17d)の長手方向の寸法D(
図3(a)参照)と、上部傾斜部18a,18b,18c,18d(下部傾斜部19a,19b,19c,19d)の長手方向の寸法Lとを足した寸法(D+L)である。
【0033】
上部固定部16a,16b,16c,16d(下部固定部17a,17b,17c,17d)の長手方向の寸法Dは、免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dが互いに重なり合わずに上部基板10にボルト固定され、免震板15a,15b,15c,15dの下部固定部17a,17b,17c,17dも互いに重なり合わずに下部基板11にボルト固定されているだけであり、ボルト固定に必要な短い寸法(D=150mm)で足りる。
このように、上部固定部16a,16b,16c,16d(下部固定部17a,17b,17c,17d)の長手方向の寸法D(=150mm)と、上部傾斜部18a,18b,18c,18d(下部傾斜部19a,19b,19c,19d)の長手方向の寸法L(=700mm)とを足した寸法(D+L=150mm+700mm)が、一般の鋼板曲げ機械の曲げ深さの限界値(850mm)に一致する。
【0034】
ここで、上部固定部16a,16b,16c,16d(下部固定部17a,17b,17c,17d)の長手方向の寸法Dと、上部傾斜部18a,18b,18c,18d(下部傾斜部19a,19b,19c,19d)の長手方向の寸法Lとを足した寸法(D+L)は、上部固定部16a及び下部固定部17aの間の曲げ高さHとの関係を、
(D+L) ≦ H × 1.7
とすることで、一般の鋼板曲げ機械を使用して4枚の免震板15a,15b,15c,15dを容易に製造することができる。
【0035】
また、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dが、互いに重なり合わずに上部基板10に溶接で固定され、下部固定部17a,17b,17c,17dが、互いに重なり合わずに上部基板10に溶接で固定される場合には、上部固定部16a,16b,16c,16d(下部固定部17a,17b,17c,17d)の長手方向の寸法Dは10mm程度で済む(D≧10mm)。
【0036】
一方、変形能400mm~600mmを確保するために最小限必要な上部傾斜部18a,18b,18c,18d(下部傾斜部19a,19b,19c,19d)の長手方向の寸法Lは400mmであり、このときD=850mm-400mm=450mmとすることができる。このため、Dの範囲は、10mm ≦ D ≦ 450mmとなる。
したがって、第1実施形態の免震板15a,15b,15c,15dを、10mm ≦ D ≦ 450mmとし、且つ、(D+L) ≦ H × 1.7の関係を有する形状とすることで、免震板15a,15b,15c,15dを一般の鋼板曲げ機械を使用して容易に製造することができるので、免震板15a,15b,15c,15dの部品価格、免震用鋼材ダンパー6の製造コストを抑制することができる。
【0037】
さらに、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との上下間隔は、免震用鋼材ダンパー6の設置場所ごとに異なるので、第1実施形態では、リブ板12cの高さが異なる複数種類の上部治具12と、リブ板13cの高さが異なる複数種類の下部治具13を用意し、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との上下間隔に対応した所定の上部治具12及び下部治具13を選択して配置している。したがって、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との間に設置した免震用鋼材ダンパー6には地震動による構造物1と基礎2との間の相対変位が確実に伝達され、多量の地震動のエネルギーを吸収することができる。
【0038】
[第2実施形態]
次に、
図7は、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との間に設置した第2実施形態の免震用鋼材ダンパー6を示すものである。本実施形態の免震用鋼材ダンパー6も、第1実施形態と同様に平面視において十字方向に延在している4枚の免震板15a,15b,15c,15dと、で構成されているが、
図7では、互いに平面視で直線上に対向している免震板15a,15bのみを示している。
本実施形態の上部基板10の上面には、複数のスタッドボルト30が突出して固定されており、下部基板11の下面にも、複数のスタッドボルト31が突出して固定されている。
【0039】
そして、鉄筋コンクリート製のダンパー用上部構造体4を形成する際に、上部基板10のスタッドボルト30がコンクリートに埋め込まれることで、ダンパー用上部構造体4の下面に上部基板10が一体化される。
また、鉄筋コンクリート製のダンパー用下部構造体5を形成する際に、下部基板11のスタッドボルト31がコンクリートに埋め込まれることで、ダンパー用下部構造体5の上面に下部基板11が一体化される。
そして、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dは、互いに重なり合わずに上部基板10にボルト固定されている。また、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの下部固定部17a,17b,17c,17dも、互いに重なり合わずに上部基板10にボルト固定されている。
【0040】
第2実施形態の免震用鋼材ダンパー6の作用効果について説明する。
本実施形態のダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との間に設置した免震用鋼材ダンパー6によると、第1実施形態と同様の効果を奏することができるとともに、ダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との上下間隔が狭い場合、上部治具12及び下部治具13使用せずに、免震用鋼材ダンパー6をダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との間に確実に設置することができ、地震動による構造物1と基礎2との間の相対変位が確実に伝達され、多量の地震動のエネルギーを吸収することができる。
【0041】
[第3実施形態]
次に、
図8から
図10は、第3実施形態の免震用鋼材ダンパー32を示すものである。本実施形態は、ダンパー用上部構造体4に上部治具12を介して免震用鋼材ダンパー32の上部基板10が固定され、上部基板10に対して平面視において同一位置となるようにダンパー用下部構造体5に下部治具13を介して免震用鋼材ダンパー32の下部基板11が固定され、上部基板10及び下部基板11に固定された第1及び第2免震板32a,32bが平面視において十字方向に延在して配置されている。
【0042】
第1免震板32aは、
図8に示すように、上部分割鋼板33aと下部分割鋼板34aとを備えている。上部分割鋼板33aは、長手方向中央部に設けた上部固定部35aと、上部固定部35aの長手方向両端から斜め下方に曲げ加工した一対の上部傾斜部36a,37aと、これら一対の上部傾斜部36a,37aの端部から下方に曲げ加工した上部連結部38a,39aと、を備えている。また、下部分割鋼板34aは、長手方向中央部に設けた下部固定部40aと、下部固定部40aの長手方向両端から斜め下方に曲げ加工した一対の下部傾斜部41a,42aと、これら一対の下部傾斜部41a,42aの端部から上方に曲げ加工した下部連結部43a,44aと、を備えている。
【0043】
上部分割鋼板33aと下部分割鋼板34aは、上部連結部38a,39a及び下部連結部43a,44aが連結されることで一体化されている。すなわち、
図8に示すように、上部連結部38a,39a及び下部連結部43a,44aを突き合わせた状態で、突き合わせた部分を第4及び第5添接板45,46で挟み、第4及び第5添接板45,46に連結ボルト47を挿通してナット48でねじ込むことで、上部分割鋼板33a及び下部分割鋼板34aが一体化されて第1免震板32aが形成される。第1免震板32aの一対の上部傾斜部36a,37a及び一対の下部傾斜部41a,42aは、上部固定部35a及び下部固定部40aから離間するに従い、幅寸法Mが徐々に減少する形状を有している。
【0044】
一方、第2免震板32bも、
図9及び
図10に示すように、上部分割鋼板33bと下部分割鋼板34bとを備えている。上部分割鋼板33bは、長手方向中央部に設けた上部固定部35bと、上部固定部35bの長手方向両端から斜め下方に曲げ加工した一対の上部傾斜部36b,37bと、これら一対の上部傾斜部36b,37bの端部から下方に曲げ加工した上部連結部38b,39bと、を備えている。また、下部分割鋼板34bは、長手方向中央部に設けた下部固定部40bと、下部固定部40bの長手方向両端から斜め下方に曲げ加工した一対の下部傾斜部41b,42bと、これら一対の下部傾斜部41b,42bの端部から上方に曲げ加工した下部連結部43b,44bと、を備えている。
【0045】
そして、上部連結部38b,39b及び下部連結部43b,44bを突き合わせた状態で、
図9及び
図10に示すように、突き合わせた部分を第4及び第5添接板45,46で挟み、第4及び第5添接板45,46と上部連結部38b,39b及び下部連結部43b,44bに形成した貫通穴に連結ボルト47を挿通してナット48でねじ込むことで、上部分割鋼板33b及び下部分割鋼板34bが一体化されて第2免震板32bが形成される。第2免震板32bの一対の上部傾斜部36b,37b及び一対の下部傾斜部41b,42bは、上部固定部35b及び下部固定部40bから離間するに従い、幅寸法Mが徐々に減少する形状を有している。
【0046】
ここで、第1免震板32aの上部連結部38a,39a及び下部連結部43a,44aは、第4及び第5添接板45,46で挟みこみ連結ボルト47を挿通してナット48でねじ込んで固定され、第2免震板32bの上部連結部38b,39b及び下部連結部43b,44bも、第4及び第5添接板45,46で挟みこみ連結ボルト47を挿通してナット48でねじ込んで固定しているが、第1免震板32aの上部連結部38a,39a及び下部連結部43a,44aを溶接で固定し、第2免震板32bの上部連結部38b,39b及び下部連結部43b,44bを溶接で固定してもよい。
【0047】
上記構成の第1及び第2免震板32a,32bは、互いが平面視において十字方向に延在するように配置して上部固定部35a,35b同士と、下部固定部40a,40b同士を重ね合わせる。
そして、上部治具12の上部基板側プレート12bの下部に、重ね合わせた上部固定部35a,35bを配置し、上部固定部35a,35bの下部に上部基板10を配置し、上部基板側プレート12b、上部固定部35a,35b及び上部基板10に形成した貫通穴に連結ボルト12gを挿通してナット12hでねじ込むことで、ダンパー用上部構造体4に上部治具12を介して免震ダンパー32の上部基板10が固定される。
【0048】
また、下部治具13の下部基板側プレート13bの上部に、重ね合わせた下部固定部40a,40bを配置し、下部固定部40a,40bの上部に下部基板11を配置し、下部基板側プレート13b、下部固定部40a,40b及び下部基板11に形成した貫通穴に連結ボルト13gを挿通してナット13hでねじ込むことで、ダンパー用下部構造体5に下部治具13を介して免震ダンパー32の下部基板11が固定される。
【0049】
次に、第3実施形態の免震ダンパー32の作用効果について説明する。
本実施形態の免震ダンパー32の第1及び第2免震板32a,32bは平面視において十字方向に配置されているので、地震動が水平面内のいずれの方向に作用しても、上部傾斜部36a,37a,36b,37b、下部傾斜部41a,42a,41b,42bが、せん断方向変形と曲げ方向変形の両方の変形を行うことで地震動のエネルギーを吸収する。
また、上部傾斜部36a,37a,36b,37b、下部傾斜部41a,42a,41b,42bは、上部固定部35a,35b及び下部固定部40a,40bから離間するに従い幅寸法Mが徐々に減少する構造とされていることから、ねじれが発生しても地震動のエネルギー吸収を効率よく行うことができる。
【0050】
また、第1免震板32aは、長手方向の両端部に曲げ深さが浅い上部連結部38a,39aを形成した上部分割鋼板33aと、長手方向の両端部に曲げ深さが浅い下部連結部43a,44aを形成した下部分割鋼板34aとで構成されているので、上部傾斜部36a,37a及び下部傾斜部41a,42aの長手方向の寸法を大きく設定することができる。また、第2免震板32bも、長手方向の両端部に曲げ深さが浅い上部連結部38b,39bを形成した上部分割鋼板33bと、長手方向の両端部に曲げ深さが浅い下部連結部43b,44bを形成した下部分割鋼板34bとで構成されているので、上部傾斜部36b,37b及び下部傾斜部41b,42bの長手方向の寸法を大きく設定することができる。これにより、本実施形態の免震ダンパー32は、構造物1と基礎2との間の大きな相対変位(400mm~600mm程度)に必要な変形能を有することができるので、地震動のエネルギーを十分に吸収することができる。
【0051】
[第4実施形態]
次に、
図11から
図14は、第4実施形態の免震用鋼材ダンパー6を示すものである。
本実施形態の免震用鋼材ダンパー6は、
図11及び
図12に示すように、第1実施形態の免震用鋼材ダンパー6と同様に、ダンパー用上部構造体4に上部治具12を介して固定されている上部基板10と、上部基板10に対して平面視において同一位置となるようにダンパー用下部構造体5に下部治具13を介して固定されている下部基板11と、上部基板10及び下部基板11に固定され、平面視において互いに直交する十字方向に延在している4枚の免震板15a,15b,15c,15dと、で構成されている。
【0052】
本実施形態の免震用鋼材ダンパー6が、第1実施形態の免震用鋼材ダンパー6に対して異なる構成は、
図13に示すように、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの隣接する上部固定部16a,16cと、隣接する上部固定部16b,16cと、隣接する上部固定部16b,16dと、隣接する上部固定部16a,16dとの間を跨いでそれらの下面に当接する第3添接板51が配置されている。そして、第3添接板51に形成した貫通穴に連結ボルト22を挿通してナット23をねじ込むことで、
図12に示すように、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dは、互いに重なり合わずに上部基板10にボルト固定されている。
【0053】
また、
図14に示すように、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの隣接する下部固定部17a,17dと、隣接する下部固定部17b,17dと、隣接する下部固定部17b,17cと、隣接する下部固定部17a,17cとの間を跨いでそれらの上面に当接する第3添接板52が配置されている。そして、第3添接板52に形成した貫通穴に連結ボルト25を挿通してナット26をねじ込むことで、
図12に示すように、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの下部固定部17a,17b,17c,17dは、互いに重なり合わずに下部基板11にボルト固定されている。
【0054】
本実施形態のダンパー用上部構造体4とダンパー用下部構造体5との間に設置した免震用鋼材ダンパー6によると、免震板15a,15b,15c,15dの上部固定部16a,16b,16c,16dは、上部基板10及び4枚の第3添接板51に厚さ方向から挟み込まれた状態で連結ボルト22及びナット23により強固に締付け固定され、免震板15a,15b,15c,15dの下部固定部17a,17b,17c,17dも、下部基板11及び4枚の第3添接板52に厚さ方向から挟み込まれた状態で連結ボルト25及びナット26で強固に締付け固定されている。
【0055】
そして、4枚の第3点添接板51の各々は、免震板15a,15b,15c,15dの隣接する一対の上部固定部16a,16cと、隣接する一対の上部固定部16b,16cと、隣接する一対の上部固定部16b,16dと、隣接する一対の上部固定部16a,16dとに跨がって配置されている。これにより、上部固定部16a,16b,16c,16dの端部も含む上部固定部16a,16b,16c,16d全体が拘束され、上部固定部16a,16b,16c,16dの局部的な塑性変形を抑止することができる。また、上部固定部16a,16b,16c,16dの局部的な変形が抑制されることで、連結ボルト22の応力集中も防止することができる。また、4枚の第3点添接板51の各々も、免震板15a,15b,15c,15dの隣接する一対の下部固定部17a,17dと、隣接する一対の下部固定部17b,17dと、隣接する一対の下部固定部17b,17cと、隣接する一対の上部固定部17a,17cとに跨がって配置されている。これにより、下部固定部17a,17b,17c,17dの端部を含む下部固定部17a,17b,17c,17d全体が拘束され、下部固定部17a,17b,17c,17dの局部的な塑性変形を抑止することができるとともに、ボルト25の応力集中も防止することができる。
【0056】
したがって、本実施形態の免震用鋼材ダンパー6も、地震動のエネルギーが伝達されたときの上部固定部16a,16b,16c,16d及び下部固定部17a,17b,17c,17dの局部的な塑性変形が確実に抑止され、地震動エネルギーの吸収能が低下するのを防止することができる。
【0057】
[第5実施形態]
次に、
図15から
図19で示す第5実施形態は、第1、第2及び第4実施形態の免震用鋼材ダンパー6で使用されている4枚の免震板15a,15b,15c,15dの適切な傾斜角度θの範囲を設定したものである。
本実施形態は、
図15に示す免震板のFEM解析モデル15を使用している。
図15の免震板のFEM解析モデル15は、
図3(a)で示した免震板15aに対応した構造であり、上部固定部16が免震板15aの上部固定部16aに対応し、下部固定部17が免震板15aの下部固定部17aに対応し、上部傾斜部18及び下部傾斜部19が免震板15aの上部傾斜部18a及び下部傾斜部19aに対応し、連結部20が免震板15aの連結部20aに対応している。また、
図15の免震板のFEM解析モデル15は、他の免震板15b,15c,15dにも対応した構造である。
【0058】
FEM解析モデル15は、
図16に示す寸法形状の上部固定部16,下部固定部17,上部傾斜部18,下部傾斜部19及び連結部20を有している。そして、
図17(a)~(g)に示すように、傾斜角度θが異なる複数種類のFEM解析モデル(モデルM1~モデルM7)を有している。
図17(a)は、傾斜角度θが0°の比較例としてのモデルM1を示しており、
図17(b)~(g)は、傾斜角度が2.6°~19.7°に設定したモデルM2~モデルM7を示している。なお、
図16、
図17(b)~(g)で示した形状寸法の単位は(mm)である。
そして、モデルM1~M7の下部固定部17を固定状態とし、上部固定部16の長手方向に沿う方向(載荷方向)に載荷荷重をかけ、上部固定部16を載荷方向に400mmまで変位させることで上部傾斜部18及び連結部20の相当塑性歪を確認した。
【0059】
図18は、傾斜角度θを横軸にとり、相当塑性歪を縦軸にとり、モデルM1~モデルM7の上部傾斜部18及び連結部20の相当塑性歪の最大値をプロットした図である。モデルM1(θ=0°)及びモデルM2(θ=2.6°)の場合、連結部20の相当塑性歪が上部傾斜部18に比べて著しく小さいので、塑性変形による地震動エネルギーの吸収能を発揮することができない。また、モデルM6(θ=17.7°)及びモデルM7(θ=19.7°)の場合、相当塑性歪が著しく増大し、地震時の繰り返し荷重に対する疲労耐久性が不足するおそれがある。一方、モデルM3(θ=5.2°)、モデルM4(θ=10.3°)及びモデルM5(θ=15.3°)の場合には、上部傾斜部18と連結部20の相当塑性歪が比較的均等であり、FEM解析モデル15全体が均等に塑性変形する。
【0060】
また、
図19は、載荷方向の変位を横軸に取り、載荷荷重を縦軸にとり、モデルM1~モデルM7の変位に伴う載荷荷重の変化を示した図である。この図から傾斜角度θが大きいほど載荷荷重が大きくなることがわかる。そして、モデルM6(θ=17.7°)及びモデルM7(θ=19.7°)の場合、変位の初期に載荷荷重のピークが表れ、変位が大きくなるにつれて急激に載荷荷重が低下するため、変位が大きくなった場合のエネルギー吸収能が急激に低下し、免震ダンパーとしての性能が十分ではない。
【0061】
このように、モデルM3(θ=5.2°)、モデルM4(θ=10.3°)及びモデルM5(θ=15.3°)の場合には、上部傾斜部18と連結部20の相当塑性歪が比較的均等であり、変位の初期のピークから終期にかけて載荷荷重の急激な低下が発生しないことから、最適な傾斜角度θは、5.2°≦ θ ≦15.3°であることがわかる。
したがって、4枚の免震板15a,15b,15c,15dの傾斜角度θは、5.2°≦ θ ≦15.3°の範囲に設定することで、地震動エネルギーの吸収能を十分に発揮した免震用鋼材ダンパー6を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 構造物
2 基礎
3 免震構造
4 ダンパー用上部構造体(構造物の下部)
5 ダンパー用下部構造体(基礎)
6 免震用鋼材ダンパー
7 装置用上部構造体
8 装置用下部構造体
9 免震装置
10 上部基板
11 下部基板
12 上部治具
12a アンカープレート
12b 上部基板側プレート
12c リブ板
12d アンカーボルト
12e ナット
12f 第1添接板
12g 連結ボルト
12h ナット
13 下部治具
13a アンカープレート
13b 下部基板側プレート
13c リブ板
13d アンカーボルト
13e ナット
13f 第2添接板
13g 連結ボルト
13h ナット
15 免震板のFEM解析モデル
15a,15b,15c,15d 免震板
16,16a,16b,16c,16d 上部固定部
17,17a,17b,17c,17d 下部固定部
18,18a,18b,18c,18d 上部傾斜部
19,19a,19b,19c,19d 下部傾斜部
20,20a,20b,20c,20d 連結部
21 第3添接板(上部添接板)
24 第3添接板(下部添接板)
22 連結ボルト(締結手段)
23 ナット(締結手段)
25 連結ボルト(締結手段)
26 ナット(締結手段)
30 スタッドボルト
31 スタッドボルト
32 免震用鋼材ダンパー
32a 第1免震板
32b 第2免震板
33a,33b 上部分割鋼板
34a,34b 下部分割鋼板
35a,35b 上部固定部
36a,37a,36b,37b 上部傾斜部
38a,39a,38b,39b 上部連結部
40a,40b 下部固定部
41a,42a,41b,42b 下部傾斜部
43a,44a,43b,44b 下部連結部
45 第4添接板
46 第5添接板
47 連結ボルト
48 ナット
51 第3添接板(上部添接板)
52 第3添接板(下部添接板)
D 免震板の上部固定部(下部固定部)の長手方向の寸法
L 免震板の上部傾斜部(下部傾斜部)の長手方向の寸法
H 免震板の曲げ高さ
θ 傾斜角度
【要約】
構造物(1)の下部に固定される上部基板(10)と、上部基板に対して平面視で同一位置となるように基礎(2)に固定される下部基板(11)と、上部基板及び下部基板に固定され、平面視で十字方向に延在する4枚の免震板(15a)~(15d)を備えている。免震板は、長尺鋼板を曲げ加工した部材であり、互いに平行な上部固定部(16a)及び下部固定部(17a)と、上部固定部及び下部固定部から離れるに従い近接する上部傾斜部(18a)及び下部傾斜部(19a)と、上部傾斜部及び下部傾斜部に連結する連結部(20a)と、を備えた略U字形状の部材である。4枚の免震板は、互いの上部固定部が重ならない位置で上部基板に固定され、互いの下部固定部が重ならない位置で下部基板に固定されている。