(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20220913BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C23C14/08 G
C23C14/34 M
(21)【出願番号】P 2018058777
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 勲
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093998(JP,A)
【文献】特開平02-197558(JP,A)
【文献】特開平09-257565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する成膜装置であって、
減圧可能なチャンバ内において、バナジウムのターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、前記被処理体の被処理面に対して斜め入射するように、前記ターゲットと前記被処理体とが所定の離間距離で配置されており、
前記被処理体を載置する支持台は、前記斜め入射を保ちながら、前記被処理体の被処理面をその面内において回転させる機構、および、前記被処理体を上下動させて所定の高さ位置で前記被処理体を保持するための機構を備えると共に、
第一プロセスガスとしてアルゴンを導入する
第一プロセスガス導入手段と
、第二プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを流
す第二プロセスガス導入手段と、を備え、
前記第一プロセスガス導入手段によって前記ターゲットの近傍に前記第一プロセスガスを導入するとともに、前記第二プロセスガス導入手段によって前記被処理体の被処理面の上空を通過するように前記第二プロセスガスを流しながら、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成可能とする
、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記第二プロセスガスを構成する、前記酸素の流量をF1[sccm]、前記アルゴンの流量をF2[sccm]と定義した場合、
前記
第二プロセスガ
ス導入手段は、8.75≦{F1/(F1+F2)}≦11.5 の条件を満たすように、前記第二プロセスガスの流量比を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記支持台は前記被処理体の温度制御手段を備え、
前記温度制御手段は、成膜工程における前記被処理体の温度TSを、成膜の後工程として行われるアニール時の前記被処理体の温度TAより高い温度に保つ、
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する成膜方法であって、
減圧可能なチャンバ内において、前記被処理体の被処理面に対して、バナジウムのターゲットから飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させると共に、
プラズマを励起させるプロセスガス
として、第一プロセスガスを前記ターゲットの近傍に導入するとともに、
第二プロセスガスを前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流しながら、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する際に、
前
記第一プロセスガスとしてアルゴンを用いるとともに、前
記第二プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いる、
ことを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗温度係数が高く、かつ、後加熱処理の影響を抑制できる、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜が形成可能な、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化バナジウム薄膜の諸特性に着目した各種の電子デバイスの開発が進められている。このような電子デバイスとしては、たとえば、高TCRに着目した赤外線カメラや赤外線センサ、イオン伝導に着目したLi電池キャパシタ、金属絶縁体転移に着目したスマートガラスやReRAM、NIRスイッチ、チューナブルデバイス、エレクトロクロミックに着目した電子ペーパー、等が挙げられる。
【0003】
中でも、赤外線センサは、IRフォトンと電子との相互作用を利用するフォトン方式と、温度変化による電気特性の変化を検出するサーマル方式と、に大別される。
フォトン方式は、感度が大きく、応答速度が大きい、というメリットがある反面、77Kまで冷却が必要、感度の波長依存性が大きい、というデメリットがある。
サーマル方式は、冷却不要、感度の波長依存性が小さい、というメリットがある反面、感度が小さい、応答速度が小さい、というデメリットがある。
【0004】
しかしながら、サーマル方式は、MEMS技術の発達により、センシング部の熱容量を極めて小さくできるようになり、高速応答が可能になった。また、消費電力が極めて小さく、かつ、空間分解能も格段に向上した。このため、サーマル方式は現在、主流になっている。
【0005】
このサーマル方式としては、焦電方式、ボロメータ方式、熱電対方式、ダイオード方式、等が挙げられる。その中でも、電磁波(たとえば赤外線)の吸収による温度変化を、ボロメータ材料の抵抗値の変化として検出するボロメータ方式が最も使用されている。ボロメータ材料としては、VOx(酸化バナジウム),a-Si(アモルファスシリコン),YBCO(イットリウム系超伝導体)、等が好適に用いられる。ボロメータ方式は、検出波長が選択可能というメリットを備えている。
【0006】
ボロメータ方式による温度センサ(たとえば
図25)は、赤外線の吸収による赤外線吸収膜514の温度変化に伴って、ボロメータ材料501の抵抗値が変化する現象を利用している(
図24)。このため、温度変化に対する抵抗値の変化が大きければ大きいほど、温度センサとして感度の高いものが得られる。ゆえに、
図26に示すように、ボロメータ材料としては、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の絶対値が大きいことが好ましい。一方、消費電力や発熱などの観点から、ボロメータ材料の比抵抗は小さいことが望ましい。
【0007】
特許文献1には、電気抵抗の温度変化において室温付近に金属絶縁体転移を示し、かつ、温度変化による抵抗変化にヒステリシスがないか、ヒステリシスがあってもその温度幅が1.5K未満と小さく、ボロメータに用いれば、高精度の測定が可能な、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜が開示されている。この抵抗体膜は、有機バナジウム化合物の塗膜をレーザ照射等で処理して、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を製造する際に、抵抗体膜中に結晶質相と非晶質(アモルファス)相を混在させることによって製造される。この抵抗体膜は、280Kから320Kの温度範囲で抵抗温度係数が4%/K以上であることが記載されている。
【0008】
ところが、温度センサを製造した後工程において、350℃前後の熱処理が求められる場合がある。このような成膜後に施される熱処理は、酸化バナジウム(VOx)膜の抵抗を大きく低下させるという問題が顕在化した。この成膜後に施される熱処理の影響を受けない、酸化バナジウム(VOx)膜を形成することが可能な、成膜装置及び成膜方法の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、抵抗温度係数(TCR)が高く、かつ、後加熱処理の影響を抑制できる、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜が形成可能な、成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の成膜装置は、反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する成膜装置であって、
減圧可能なチャンバ内において、バナジウムのターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、前記被処理体の被処理面に対して斜め入射するように、前記ターゲットと前記被処理体とが所定の離間距離で配置されており、
前記被処理体を載置する支持台は、前記斜め入射を保ちながら、前記被処理体の被処理面をその面内において回転させる機構、および、前記被処理体を上下動させて所定の高さ位置で前記被処理体を保持するための機構を備えると共に、
第一プロセスガスとしてアルゴンを導入する第一プロセスガス導入手段と、第二プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを流す第二プロセスガス導入手段と、を備え、
前記第一プロセスガス導入手段によって前記ターゲットの近傍に前記第一プロセスガスを導入するとともに、前記第二プロセスガス導入手段によって前記被処理体の被処理面の上空を通過するように前記第二プロセスガスを流しながら、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成可能とする、ことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の成膜装置は、請求項1において、前記第二プロセスガスを構成する、前記酸素の流量をF1[sccm]、前記アルゴンの流量をF2[sccm]と定義した場合、
前記第二プロセスガス導入手段は、8.75≦{F1/(F1+F2)}≦11.5 の条件を満たすように、前記第二プロセスガスの流量比を制御する、ことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の成膜装置は、請求項1において、前記支持台は前記被処理体の温度制御手段を備え、前記温度制御手段は、成膜工程における前記被処理体の温度TSを、成膜の後工程として行われるアニール時の前記被処理体の温度TAより高い温度に保つ、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に記載の成膜方法は、反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する成膜方法であって、
減圧可能なチャンバ内において、前記被処理体の被処理面に対して、バナジウムのターゲットから飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させると共に、
プラズマを励起させるプロセスガスとして、第一プロセスガスを前記ターゲットの近傍に導入するとともに、第二プロセスガスを前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流しながら、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する際に、
前記第一プロセスガスとしてアルゴンを用いるとともに、前記第二プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る成膜装置は、反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する。その際に、前記被処理体の被処理面をその面内において回転させながら、スパッタ粒子を「斜め入射」させる。また、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように、プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを流すための「プロセスガスの導入手段」を配置する。
このような構成、すなわち、「斜め入射」と「プロセスガスの導入手段の位置」を制御する構成を備えることにより、本発明の成膜装置は、各種VOxからなる(酸化バナジウムを主成分とする)抵抗体膜を形成する(作り分ける)ことが可能となる。ここで、各種VOxとは、非晶質、VO2、V6O13、V6O13とV2O5の混在、を意味する。この作り分けにより、本発明の成膜装置は、TCR(抵抗温度係数)が高く、かつ、後加熱処理の影響を抑制できる、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜の製造に寄与する。
【0014】
本発明に係る成膜方法は、反応性スパッタリング法により、被処理体上に酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する際に、プロセスガスとして酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いる。これにより、混合ガスに占める酸素とアルゴンの比率を適宜変更して、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成できる。その際、被処理体の被処理面に対して、バナジウムのターゲットから飛翔したスパッタ粒子を斜め入射させると共に、前記プロセスガスを、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように流しながら、前記被処理面を覆うように所望の抵抗体膜を形成する。その結果、形成された抵抗体膜が含有するバナジウム(V)と酸素(O)の比率を制御することができる。よって、本発明は、各種VOx膜を作り分けることが可能な成膜方法の提供に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す模式的な断面図。
【
図2】成膜温度とVOx膜の抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図3】ヒーター温度と基板温度および基板温度分布との関係を示すグラフ。
【
図4】酸素流量比とVOx膜の抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図5】各種膜の抵抗値とTCRとの関係を示すグラフ。
【
図6】VO2混合膜の抵抗値とTCRとの関係を示すグラフ。
【
図7】各種アニール処理の前後における抵抗値を示す一覧表。
【
図8】VOx膜において異なる酸素量の組成と抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図10】酸素流量比とシート抵抗および生成される結晶相との関係を示すグラフ。
【
図12】
図10に示した試料SA~SDの抵抗値の温度依存性を示すグラフ。
【
図13A】成膜温度と抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図13B】成膜パワーと抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図14B】成膜パワーの異なる試料のX線チャート。
【
図15】組成の異なるVOx膜における生成自由エネルギーを示すグラフ。
【
図16】組成の異なるVOx膜における比抵抗値@300Kを示すグラフ。
【
図17】組成の異なるVOx膜における融点を示すグラフ。
【
図18】成膜した試料間におけるシート抵抗を示すグラフ。
【
図19】TCRの一様性を評価した結果を示すグラフ。
【
図20】加熱/除熱した際に観測されるヒステリシスを示すグラフ。
【
図21】成膜した試料間におけるTCRを示すグラフ。
【
図22】ボロメータ膜をセンシング部としたセンサの一構成例を示す模式斜視図。
【
図23A】MEMS製造工程における最初のステップを示す模式的な断面図。
【
図24】ボロメータ方式による温度センサに関する動作原理を示す解説図。
【
図25】ボロメータ方式による温度センサの模式断面図。
【
図26】マイクロボロメータの特性指標を示す解説図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0017】
<成膜装置>
図1は、本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、成膜装置10における真空槽11には、この真空槽11の内部空間11aを排気する各種の真空ポンプからなる排気手段12が連結されている。真空槽11と排気手段12との間には、ゲートバルブ等からなる仕切弁13が配置されている。真空槽11の仕切弁13と対向する位置には、被処理体である基板Sを搬送手段(不図示)により、真空槽11の外部と搬入・搬出するためのドアバルブ15が配置されている。
【0018】
搬入された基板Sは、支持台(基板ステージ)21に載置される。基板を搬入・搬出する際には、支持台21に対して基板Sを下方から突き上げ、基板Sを上下動させるリフトピンを備えた第一移動機構22が、支持台21の下部に配置されている。支持台21の裏面側には、第一移動機構22の一部として、基板Sの温度制御手段22aが配置されている。
【0019】
また、支持台21の下部には、基板Sを載置した状態において、基板Sを被処理面(
図1では上面)内で所定の回転速度で自転させるための第二移動機構23、および、基板Sを上下動させて所定の高さ位置で基板Sを保持するための第三移動機構24、が配置されている。
【0020】
真空槽11の内部空間11aには、バナジウムのターゲット31が基板Sの上方に配置されている。この成膜装置10においては、ターゲット31から飛翔したスパッタ粒子が、前記被処理体である基板Sの被処理面に対して、角度θで斜め入射するように(点線矢印)、ターゲット31と被処理体(基板S)が所定の離間距離Dで配置されている。
換言すると、被処理体である基板Sを載置する支持台21は、前記斜め入射を保ちながら、前記被処理体の被処理面をその面内において回転させる機構(第二移動機構23)を備えたものである。
【0021】
ターゲット31の裏面側には、ターゲット31の表面側に漏洩磁束を形成するための磁石機構32が配置されている。第一プロセスガス(たとえばアルゴンガス)を導入する第一プロセスガス導入手段33を備え、第一ガス導入手段33の導出口33aがターゲット31の近傍に配置されている。ターゲット31の側方近傍にはカソードが配置されている。本発明では、ターゲット31、磁石機構32、および、第一プロセスガス導入手段33を纏めて、ターゲット機構とも呼ぶ。
【0022】
真空槽11の内部空間11aには、成膜シールド36が配置されている。前記ターゲット機構から見て、基板ステージ21上にある基板Sを覗き見ることが可能な開口部36aを、成膜シールド36は備えている。成膜シールド36と前記ターゲット機構との間には、シャッター機構35が配置されており、シャッター機構35を開閉動作させることにより、成膜シールド36の開口部36aを通して、基板Sへ向けてターゲット31から飛翔したスパッタ粒子が通過・遮断する時間を制御する。
【0023】
また、被処理体である基板Sを載置する支持台21の近傍には、前記被処理体の被処理面に対して平行を成し、かつ、前記被処理体の被処理面の上空を通過するように、第二プロセスガス(たとえば酸素とアルゴンからなる混合ガス)を導入する第二プロセスガス導入手段40を備えている。すなわち、第二プロセスガス導入手段40の導出口40aが支持台21に載置された基板Sの一方の外縁付近に配置されている。これにより、基板Sの一方の外縁付近から他方の外縁付近へ向けて、第二プロセスガスは進行する(一点鎖線の矢印)。つまり、本発明の成膜装置10においては、基板Sに付着するスパッタ粒子は、基板Sに付着する前に、第二プロセスガスが流れる雰囲気中を通過し、第二プロセスガスの影響を受けた後、基板Sに付着し、堆積することにより膜形成が行われる。
【0024】
(実験例1)
本例では、
図1に示す成膜装置を用い、以下の成膜条件によってVOx膜を形成した。VOx膜を形成する際の成膜温度(基板温度(とも呼ぶ)を、25℃~250℃の範囲で変更した試料を作製し、VOx膜の比抵抗[Ω・cm]を調べた。
【0025】
【0026】
図2は、成膜温度とVOx膜の抵抗値[Ω・cm]との関係を示すグラフである。
図3は、ヒーター温度と基板温度および基板温度分布との関係を示すグラフである。
図2及び
図3から、以下の点が明らかとなった。
(A1)VOx膜の抵抗値は成膜温度に強く依存する。成膜温度の増加に伴い、抵抗値が急減する。
(A2)目標とする抵抗値分布(直径8inchの基板において±3%以内)を達成するには、基板面内における温度分布をΔ7℃以下にする必要がある。
(A3)膜厚分布や組成分布を考慮すると、基板面内における温度分布をΔ5℃以下を達成する必要がある。
【0027】
図4は、酸素流量比とVOx膜の抵抗値[Ω・cm]との関係を示すグラフであり、成膜温度を25℃(RT)~350℃の間で変更した場合の結果である。ここで、酸素流量比とは、「酸素流量を(アルゴン流量+酸素流量)で除した値」であり、
図4の横軸には、「O2/(Ar+O2)」と記載した。
図4において、△印は25℃(RT)の場合、□印は100℃の場合、○印は200℃の場合、◇印は250℃の場合、▽印は350℃の場合、を各々表している。
【0028】
図4から、以下の点が明らかとなった。
(B1)VOx膜の特徴として、成膜温度が25℃(RT)~200℃までは、酸素流量比に対して抵抗値が一定の領域が存在する。このため、酸素に対するプロセスマージンは十分あり、成膜温度が25℃(RT)~200℃の間では、成膜温度を変えることにより所望の抵抗値が得られる。
(B2)これに対して、成膜温度が250℃、350℃の場合は、酸素流量比に対して抵抗値が一定の領域が存在しない。
図4の結果から、プロセスガスを構成する、酸素の流量をF1[sccm]、アルゴンの流量をF2[sccm]と定義した場合、前記プロセスガスの導入手段は、8.75≦{F1/(F1+F2)}≦11.5 の条件を満たすように、前記プロセスガスの流量比を制御することにより、VOx膜の抵抗値が一定の領域を得ることができる。
【0029】
図5は、各種膜(VOx膜、TiOx膜、MoOx膜)の抵抗値[Ω・cm]とTCR[@300K(%/K)]との関係を示すグラフである。
図5において、○印はVOx膜の場合、◇印はTiOx膜の場合、△印はMoOx膜の場合、を各々表している。
図5から、以下の点が明らかとなった。
(C1)抵抗値Rsが大きいほど電気伝導の活性化エネルギーが大きいため、TCRも大きくなる傾向を示す。この傾向は、3種類の膜(VOx膜、TiOx膜、MoOx膜)とも同一であった。
(C2)2種類の膜(VOx膜、TiOx膜)では、抵抗値[Ω・cm]が0.5~4.0の範囲(網掛け領域)において、TCRの値が2.0を超えることが確認された。
【0030】
図6は、VO2混合膜の抵抗値とTCRとの関係を示すグラフである。
図6において、○印はVOx膜の場合、◇印はTiOx膜の場合、△印はVO2/TiO2混合膜、□印はVO2/AlN混合膜の場合、を各々表している。
図6から、以下の点が明らかとなった。
(D1)アモルファスである2種類の膜(○印、◇印)では、抵抗値[Ω・cm]が10において、TCRの値は2.5%程度が限界である。
(D2)これに対して、結晶化したVO2膜[2種類の混合膜(△印、□印)]では、抵抗値[Ω・cm]が10において、TCRが3.7~5.2に急増することが確認された。しかしながら、相転移による抵抗値の急激な変化を伴うため、ボロメーター用途には不向きである。
上記(D1)と(D2)より、膜全体が結晶化したVO2膜にならずに、アモルファスのマトリクス中にVO2の微結晶が点在するような構造が得られるならば、0.5~4.0の抵抗値[Ω・cm]と2.5%を超えるTCRの値とが、両立する可能性があることが分かった。
【0031】
図7は、各種アニール処理の前後における抵抗値を示す一覧表である。VOx膜を成膜した後に各種雰囲気において熱処理を行った場合の膜質変化について調べた結果である。各種雰囲気としては、3種類(真空雰囲気、窒素雰囲気、酸素雰囲気)検討した。アニール処理の条件は、300℃、30minとした。ここでは、成膜温度が138℃のVOx膜を用いた。
図7において、抵抗値の欄に示した、「center」はウェハ中心付近、「middle」はウェハ中心から半径1/2付近、「eddge」はウェハ外縁付近、における測定値であることを表している。抵抗率分布は、「center」と「middle」と「eddge」の抵抗値のばらつきである。
【0032】
図7から、以下の点が明らかとなった。
(E1)VOx膜を成膜した後に、成膜温度以上でアニール処理を行うと、アニール処理時の雰囲気に依存せず、VOx膜の抵抗値は低下した。
(E2)3種類の雰囲気のうち、酸素雰囲気の場合が、最も抵抗値の低下が大きく、かつ、抵抗分布も最大であった。
【0033】
図8は、VOx膜(酸化バナジウム膜)において異なる酸素量の組成と抵抗値との関係を示すグラフである。
図8において、横軸は「VOx膜(酸化バナジウム膜)において異なる酸素量の組成」を表しており、左側から右側へ順に、酸素量の比率が増える組成を表している。縦軸は抵抗値[Ω・cm]である。
【0034】
図8から、以下の点が明らかとなった。
(F1)VO
2膜の半導体状態(室温:300K)における抵抗値を決める要因は、組成と結晶性である。VO
2膜より酸素が少ない組成はV
9O
17(VO
1.89に相当)であり、VO
2膜より酸素が多い組成はV
6O
13であるが、何れの組成でも抵抗値がVO
2膜の千分の一以下である。
(F2)一般的な2元酸化物の抵抗値は、酸素空孔濃度によって決定される。酸素空孔によるキャリア導入により、酸素欠損したVO
2膜では、抵抗値が減少する。後述するように、XRDにより単相が確認された試料においても、抵抗値は酸素量に敏感である。
(F3)また一般的に、結晶の粒界抵抗も抵抗値の増加の要因となる。
【0035】
図9は、酸素量の異なるVOx膜のX線チャートである。酸素流量比を12.3%~15.3%の範囲で変更した結果を示している。
図10は、酸素流量比とシート抵抗および生成される結晶相との関係を示すグラフである。
【0036】
図9及び
図10から、以下の点が明らかとなった。
(G1)酸素流量比の増加と共に、非晶質の膜から結晶相を有する膜に変化する。すなわち、酸素流量比の増加により、非晶質膜→VO
2膜→V
6O
13膜→(V
6O
13+V
2O
5)膜が生成する。
(G2)1MΩ/□(=1E
+6Ω/□)以上のシート抵抗を有するVO
2膜が得られる酸素流量比の領域は、極めて狭い範囲である。
(G3)酸素流量比の増加により、V
6O
13が生成しているにも関わらず、VOx膜の抵抗値が減少する。
【0037】
【0038】
図11A~
図11D及び
図12から、以下の点が明らかとなった。
(H1)VO2とV6~13の境界(試料SB、試料SC)では、粗大な粒が観測された。これに比較して、試料SAと試料SDは粒が細かく、表面プロファイルが平坦であった。
(H2)試料SAと試料SDは、80℃前後において、急激な抵抗変化が生じる。これに対して、試料SBと試料SCでは、試料SAや試料SDのような、急激な抵抗変化が生じない。
この結果から、試料SBと試料SCでは、相転移する温度を過ぎても、抵抗値の温度に対する傾きが変わらないのは、粒界抵抗の影響であると考えられる。
【0039】
図13Aは、成膜温度と抵抗値及びChange rateとの関係を示すグラフである。
図13Bは、成膜パワー(パルスDCパワー)と抵抗値及びChange rateとの関係を示すグラフである。ここで、Change rateは、R
25℃/R
120℃として定義される。
【0040】
図13A及び
図13Bから、以下の点が明らかとなった。
(I1)成膜温度が350℃~550℃の範囲では、抵抗値とChange rateは、何れもほぼ一定となる。
(I2)成膜パワーが750W~1500Wの範囲では、抵抗値とChange rateは、何れもほぼ一定となる。
【0041】
図14Aは、成膜温度の異なる試料のX線チャートである。
図14Bは、成膜パワーの異なる試料のX線チャートである。
図14Aと
図14Bにおいて、横軸は2θ、縦軸は回折強度(ピーク強度?)を表している。
【0042】
図14A及び
図14Bから、以下の点が明らかとなった。
(J1)成膜温度が200℃の場合に比べて350℃、500℃では結晶性が改善している。
(J2)成膜パワーが750W~1500Wの範囲では結晶性の改善は殆ど見られない。
この結果から、検討した成膜温度の範囲内、成膜パワーの範囲内では、VOx膜の結晶性に変化がないことが確認された。
【0043】
図15は、組成の異なるVOx膜における生成自由エネルギー[kJ/mol]を示すグラフである。
図15より、VO2は熱力学的に生成しにくい物質であり、V6~O13は生成しやすい物質であることが分かる。
【0044】
図16は、組成の異なるVOx膜における抵抗値@300K[Ω・cm]を示すグラフである。
図16より、VO以外の組成(V
2O
3、V
3O
5、VO
2、V
6O
13、V
2O
5)は、半導体-金属転移を示す材料である。V
6O
13は転移温度が150Kであるため、室温で金属的であり、VO
2に比較して3桁以上小さい抵抗値を有する。
【0045】
図17は、組成の異なるVOx膜における融点を示すグラフである。
図17より、V
6O
13は融点が662℃であり、成膜温度を500℃とした場合は融点の約75%に達する。このため、粗大な粒構造となり易いと推定される。
【0046】
図18は、成膜した試料間におけるシート抵抗を示すグラフである。
図18において横軸はサンプル番号、縦軸は左がシート抵抗Rs[kΩ/□]、右がRsの一様性を表している。ウェハの面内において49ポイントで測定したRsの平均値である。
図18より、Rsの平均値は158.2[kΩ/□]であり、Rsの一様性はWIW(同一基板内の均一性:Within Wafer)が±1.5%以内であった。この結果から、本発明によれば一様性に優れたVOx膜を形成できることが確認された。
【0047】
図19は、TCR[@300K,%/K]の一様性を評価した結果を示すグラフである。
図19において、○印がウェハの中心位置(center:0)、◇印がウェハ中心から半径1/2付近(middle:45)、△印がウェハ外縁付近(eddge:90)、における測定値であることを表している。
図19より、TCR[@300K,%/K]とlinearity[R2]を求めた。その結果、CenterではTCR=-2.45、R2=0.998、middleではTCR=-2.46、R2=0.998、eddgeではTCR=-2.37、R2=0.996であった。この結果から、本発明によれば一様性に優れたVOx膜を形成できることが確認された。
【0048】
図20は、加熱/除熱した際に観測されるヒステリシスを示すグラフである。
図20において、○印がHeating(加熱)した際の結果、◇印がCooling(除熱)した際の結果、をそれぞれ表している。
図20より、Hysteresisとslopeを求めた。その結果、Hysteresisは0.7℃であり、Heating slopeは2.2089、Cooling slopeは2.2242であった。この結果から、本発明によれば一様性に優れたVOx膜を形成できることが確認された。
【0049】
図21は、成膜した試料間におけるTCRを示すグラフである。
図21において横軸はサンプル番号、縦軸は左がTCR[@300K,%/K]、右がTCRの一様性を表している。ウェハの面内の3箇所(中心付近:0mm、中間付近:45mm、外縁付近:90mm)において測定したTCRの平均値である。
図21より、TCRの平均値とTCRの一様性を求めた。その結果、TCRの平均値は-2.40[%/K]であり、TCRの一様性はWIWが±3.1%以内であった。この結果から、本発明によれば一様性に優れたVOx膜を形成できることが確認された。
【0050】
図22は、上述したVOx膜をボロメータ膜として採用し、このボロメータ膜をセンシング部としたセンサの一構成例を示す模式斜視図である。
図22において、SSはセンサ、301はボロメータ膜、302(302A、302B)は画素配線、303はSiN支持膜、304はバイポーラトランジスタ、305は信号線、306はアドレス線である。
【0051】
図22のセンサSSは、センシング部であるボロメータ膜301をIC読出回路上にダイアフラム構造とすることにより、熱コンダクタンスを低減すると共に、赤外線受光部の割合(フィルファクタ)を増加させている。
【0052】
【0053】
最初のステップ(
図23A:下部SiN膜の成膜)では、たとえばSiからなる第一基板300の一面(
図23Aでは上面)を覆うように下部SiN膜300Mを、PECVD法やスパッタ法により形成する。
次のステップ(
図23B:VOx膜の成膜)では、下部SiN膜300Mを覆うようにボロメータ膜(VOx膜)301をスパッタ法により形成する。
次のステップ(
図23C:VOx膜の分離)では、ドライエッチグ法によりボロメータ膜(VOx膜)301を分離させる。これにより、下部SiN膜300M上にボロメータ膜301が局在し、ボロメータ膜301が除去された領域では、下部SiN膜300Mが露呈した状態とする。
【0054】
次のステップ(
図23D:電極の形成)では、蒸着法により電極302(302A、302B)を形成する。これにより、ボロメータ膜301が除去された領域に位置する下部SiN膜300Mと、ボロメータ膜301の側面および上面の周縁域とを覆うように、電極302(302A、302B)を配置する。
次のステップ(
図23E:上部SiN膜の成膜)では、ボロメータ膜301と電極302(302A、302B)を覆うように上部SiN膜312を、PECVD法やスパッタ法により形成する。
【0055】
次のステップ(
図23F:縦孔部の形成)では、第一基板300上に下部SiN膜300M、電極302(302A、302B)、上部SiN膜312が順に積層された領域に、上部SiN膜312側から第一基板300の一面(
図23Aでは上面)まで到達する、縦孔部312(312A、312B)をドライエッチング法により形成する。
次のステップ(
図23G:キャビティの形成)では、縦孔部312(312A、312B)を通じて、ウェットエッチング法によりキャビティ311を形成する。これにより、ダイアフラム構造を形成し、
図22Aに示すようなセンサSSを得る。
【0056】
このように、本発明に係る成膜装置及び成膜方法によれば、抵抗温度係数(TCR)が高く、かつ、後加熱処理の影響を抑制できる、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜が形成可能であることから、作製条件を適宜選定することにより、抵抗温度係数(TCR)の絶対値が大きく、かつ、比抵抗の小さな、ボロメータ材料を作製することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、TCRが高く、かつ、後加熱処理の影響を抑制できる、酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜を形成する成膜装置及び成膜方法の提供に貢献する。本発明により形成される酸化バナジウムを主成分とする抵抗体膜は、ボロメーター乃至非冷却型赤外線センサ以外にも、温度センサ、感熱センサ等、温度や熱に関する高精度のセンサ等として幅広く応用できる。
【符号の説明】
【0058】
D 離間距離、S 基板(被処理体)、θ 角度、1 成膜装置、11 真空槽(チャンバ)、11a 内部空間、12 排気手段、13 仕切弁、15 ドアバルブ、21 支持台(基板ステージ)、22 第一移動機構、22a 温度制御手段、23 第二移動機構、24 第三移動機構、31 ターゲット、32 磁石機構、33 第一プロセスガス導入手段、36 成膜シールド、36a 開口部、40 第二プロセスガス導入手段、40a 導出口。