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特許7140854荷電粒子のビームを検査するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】荷電粒子のビームを検査するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/21 20060101AFI20220913BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20220913BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20220913BHJP
   H01J 37/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H01J37/21
H01J37/244
H01J37/153
H01J37/04 A
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020573279
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019066855
(87)【国際公開番号】W WO2020002344
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】102018210522.7
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100158469
【弁理士】
【氏名又は名称】大浦 博司
(72)【発明者】
【氏名】リノウ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】バウアー マルクス
(72)【発明者】
【氏名】フェティグ ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ラムル ダーヴィト
(72)【発明者】
【氏名】バッツ マーリオン
(72)【発明者】
【氏名】グリース カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】フォルマール セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シュピース ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】ホインキス オットマー
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-204722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子のビーム(120)を検査するための方法であって、
a.前記ビームに対するサンプル(130)の複数の位置で前記ビームと前記サンプルとの持続的相互作用(210)を生成するステップと、
b.前記複数の位置での前記持続的相互作用の空間分布を分析することによって前記ビームの少なくとも1つの性質を導き出すステップと
を含み、
ビーム光学系パラメータを一定に保ちつつ前記サンプルの位置を調節することにより、前記サンプルの前記複数の位置の少なくともいくつかが、前記ビームの伝播の方向における異なる点に配置される、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの性質が、以下の性質、すなわち、
a.開口数、
b.拡大率、
c.ビームプロファイル、
d.結像攪乱、
e.波面攪乱、
f.非点収差、
g.球面収差、
h.色収差、
i.ビーム光学ユニットのテレセントリックエラー、および
j.ビーム形状歪み、ならびに
k.高次ビーム収差
のうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の位置の少なくともいくつかが、前記ビームの前記伝播の方向に垂直な異なる点に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ビームが焦点の合ったビームである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の位置のいくつかが、前記ビームの焦点位置の変更によって少なくとも部分的に調節される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の前記位置の少なくともいくつかが、前記ビームの焦点の遠視野に位置する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記持続的相互作用の前記空間分布の前記分析が、ビームプロファイルの少なくとも一部の決定を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記持続的相互作用の前記空間分布の前記分析が、以下のステップ、すなわち、
a.ビームプロファイルの軌道長半径および/または軌道短半径の長さを推定するステップ、
b.基準方向に対する前記ビームプロファイルの前記軌道長半径および/または前記軌道短半径の間の角度を推定するステップ、
c.基準点の位置に対する前記ビームプロファイルの重心の位置を推定するステップ、
d.前記ビームプロファイルの前記重心での強度値を推定するステップ、ならびに/または
e.前記ビームプロファイルの平均強度を推定するステップ
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記持続的相互作用が、前記サンプルの表面の一部の持続的な変化を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記持続的相互作用が、前記サンプルの表面の前記一部の上への気相からの材料のビーム誘起堆積を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記堆積材料が、少なくとも1つの前駆体材料から得られる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記持続的相互作用を生成する前記ステップが、
a.前記少なくとも1つの前駆体材料の濃度を低減するステップ、
b.前記荷電粒子のビームの強度を増加させるステップ、
c.前記ビームの少なくとも1つの中心部分(1000)において前記前駆体材料を使い果たすステップ、
d.前記ビームと前記サンプル(130)との相互作用継続時間を変更するステップ
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記持続的相互作用が、前記サンプルの表面の前記一部のエッチングを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記持続的相互作用の前記空間分布が、前記荷電粒子の焦点の合ったビームによって、および/または原子間力用プローブによって、および/またはそれらの組合せによって決定される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
荷電粒子のビームを補正するための方法であって、
a.請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行するステップと、
b.前記ビームの少なくとも1つの決定された性質に基づいて、前記ビームの少なくとも1つのビーム光学ユニットを少なくとも部分的に適応させるステップと
を含む、方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのビーム光学ユニットが、以下の構成要素、すなわち、
a.電磁レンズ、
b.コンデンサダイアフラムまたはアパーチャ、
c.電磁多極
のうちの1つまたは複数を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
以下のビーム性質、すなわち、
a.非点収差、
b.球面収差、
c.色収差、
d.前記ビーム光学ユニットのテレセントリックエラー、
e.結像攪乱、
f.波面攪乱、
g.ビーム形状歪み、および
h.高次ビーム収差
のうちの1つまたは複数を補正するステップをさらに含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記ビーム性質のうちの1つまたは複数を補正する前記ステップが、ビーム光学ユニットの1つまたは複数の構成要素を横切って、特に、ビーム光学ユニットまたはコンデンサのダイアフラムまたはアパーチャを横切って、前記荷電粒子のビームを走査するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
a.前記ビーム光学ユニットの前記1つまたは複数の構成要素の上に前記荷電粒子のビームの焦点を合わせるステップ、
b.コンデンサユニットを調節するステップ、
c.ビーム偏向ユニットを調節するステップ
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
命令が電子データ処理装置のプロセッサによって実行されるとき、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法を実行するための前記命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項21】
荷電粒子のビーム(120)を検査するための装置(100)であって、
a.前記ビームに対するサンプル(130)の複数の位置で前記ビームと前記サンプルとの持続的相互作用(210)を生成するための手段(150)と、
b.前記複数の位置での前記持続的相互作用の空間分布を分析することによって前記ビームの少なくとも1つの性質を導き出すための手段(110)と
を含み、
ビーム光学系パラメータを一定に保ちつつ前記サンプルの位置を調節することにより、前記サンプルの前記複数の位置の少なくともいくつかが、前記ビームの伝播の方向における異なる点に配置される、装置(100)。
【請求項22】
前記装置が、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法を実行するように具現化される、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
荷電粒子のビーム(120)を検査するための装置(100)であって、
a.複数の位置でサンプル(130)の上に前記ビームを導くように具現化された少なくとも1つのビーム光学ユニット(110)と、
b.前記ビームと前記サンプルとの持続的相互作用(210)を生成するように具現化された少なくとも1つの材料(160)と、
c.前記複数の位置での前記持続的相互作用の空間分布を分析することによって前記ビームの少なくとも1つの性質を導き出すように具現化された少なくとも1つの分析器(170、180)と
を含み、
ビーム光学系パラメータを一定に保ちつつ前記サンプルの位置を調節することにより、前記サンプルの前記複数の位置の少なくともいくつかが、前記ビームの伝播の方向における異なる点に配置される、装置(100)。
【請求項24】
前記装置が、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法を実行するように具現化される、請求項23に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2018年6月27日に出願され、その譲受人に譲渡された「Verfahren und Vorrichtung zur Untersuchung eines Strahls geladener Teilchen」と題するドイツ特許出願DE 10 2018 210 522.7の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0002】
本発明は、例えば、電子ビームまたはイオンビームなどの荷電粒子のビームを検査するための方法、装置、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、電子ビームなどの荷電粒子のビームは、短いドブロイ(de Broglie)波長のために、光-光学機器(light-optical instrument)の解像度能力よりも実質的に小さい空間的構造を解像することができる。
【0004】
例として、これは、電子および/またはイオン顕微鏡法で使用される。特に、最新の粒子-光学システムは、サブナノメートル範囲までの構造の解像および検査だけでなく、その対象とする操作も容易にする。粒子ビームを使用して基板を処理する方法および装置は、例えば、出願人による以前の出願WO2012/146647A2から分かる。
【0005】
さらに、商標「MeRiT(登録商標)」の下で出願人によって商業的に販売されているフォトリソグラフィマスクを修復するための電子-光学システムは、例えば、電子ビームによるそのようなマスクの欠陥の補正を可能にする。ここで、補正精度は、とりわけ、電子ビームの最小の達成可能な直径によって決定される。
【0006】
所与の粒子-光学システムでは、粒子ビームの品質が最小ビーム直径に影響を及ぼす可能性があることが分かっている。特に、粒子-光学収差および他のビーム攪乱(beam disturbance)は、最小ビーム直径の増加をもたらし、その結果として、それぞれの粒子-光学システムの位置精度および解像度を低下させる可能性がある。
【0007】
したがって、粒子ビームの品質を決定し、必要ならば後者を改善するための方法および装置を開発することに関心がある。
【発明の概要】
【0008】
上述で説明した問題は、本発明の独立請求項の主題によって少なくとも部分的に解決される。例示の実施形態が従属請求項に記載される。
【0009】
1つの実施形態では、本発明は、荷電粒子のビームを検査するための方法を提供し、この方法は、以下のステップ、すなわち、ビームに対するサンプルの複数の位置でビームとサンプルとの持続的相互作用(persistent interaction)を生成するステップと、複数の位置での持続的相互作用の空間分布を分析することによってビームの少なくとも1つの性質を導き出すステップとを含む。
【0010】
そのような方法を介して、例えば、開口数、拡大率(magnification scale)、ビームプロファイル、および結像攪乱および/または波面攪乱、例えば、非点収差、球面収差、色収差、および/またはビーム光学ユニットのテレセントリックエラー(telecentricity error)など、ならびに粒子ビームのビーム形状歪み(beam form distortion)(例えば、ビーム光学ユニットの帯電のため)などのビーム性質を導き出すことが可能である。
【0011】
次いで、所与の粒子-光学システムに関する複数の持続的相互作用からそのようなビーム性質を体系的に導き出すことにより、どのタイプの収差および/またはビーム攪乱が粒子ビームの品質への悪影響の原因である可能性があるかを決定することが可能になり得る。その上に構築して、それぞれの収差および/またはビーム攪乱を除去するかまたは少なくとも低減し、それによって、システムの解像度能力を改善するために、必要ならば、狙い通りに対策を講じることができる。
【0012】
特に、本発明によって提供される方法は、持続的相互作用の空間分布とビームの数学的モデルとの比較を含む、ビームの少なくとも1つの性質を導き出すステップを容易にすることができる。例として、ビームのそのような数学的モデルは、少なくとも、ゼルニケ(Zernike)多項式、ガウス-エルミート(Gauss-Hermite)多項式、および/またはガウス-ラゲール(Gauss-Laguerre)多項式、および位相因子を含むことができる。
【0013】
一般に、重みを次第に減少させながら有限数の項を合計することによって空間におけるビームの強度および位相分布を記述できるようにする任意の数学的モデルが、この目的に適し得る。特に、ビームの少なくとも1つの性質は、持続的相互作用の空間分布に少なくとも部分的に基づいて、ゼルニケ分析によって決定することができる。
【0014】
さらに、サンプルの複数の位置の少なくともいくつかは、ビームの伝播(propagation)の方向における異なる点に配置することができる。
【0015】
例として、これにより、伝播方向におけるビームの変化を、持続的相互作用の空間分布の変化およびその体系的な分析にリンクさせることができる。
【0016】
同様に、複数の位置の少なくともいくつかは、ビームの伝播の方向に垂直な異なる点に配置することができる。
【0017】
例として、これにより、伝播方向に垂直なビームの変化を、持続的相互作用の空間分布の変化およびその体系的な分析にリンクさせることができる。
【0018】
ビームは、本発明のいくつかの実施形態では焦点の合ったビームとすることができる。
【0019】
そのような場合、一般に、伝播方向と、伝播方向に垂直な面との両方において、ビームのビームプロファイルに変化が存在する。例として、焦点の合ったビームは、ビームの焦点で実質的にガウスビームプロファイルを有することができる。本発明によって提供される方法は、今では、そのような焦点の合ったビームの1つまたは複数のビーム性質を体系的な方法で導き出すことを可能にする。特に、所与の荷電粒子のビームが、所望の、予測された、および/または典型的な焦点サイズよりも大きい焦点サイズを有する原因であり得るものを分析することが可能であり得る。ここで、本出願の残りの部分において、「実質的に」という用語は、「通常の構造、検出、計算、および/または処理の許容範囲内で」を意味すると解釈されるべきである。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、複数の位置は、ビームの焦点位置を変更することによって少なくとも部分的に調節することができる。
【0021】
例として、サンプルの位置は、空間において実質的に固定することができ、ビームの焦点位置は、ビームの少なくとも1つのビーム光学ユニットを調節することによって変更することができる。例として、走査粒子顕微鏡の焦点位置は、サンプルに対する走査粒子顕微鏡のビーム光学ユニットを調節することによって、ビームの伝播方向と、伝播方向に垂直な面との両方で調節することができる。特に、これにより、持続的相互作用をサンプルの表面の異なる位置に生成することができ、同様に、焦点位置とサンプルとの間の伝播方向の距離を体系的に変更することができる。
【0022】
代替として、またはそれに加えて、例えば、サンプルステージまたはサンプルホルダを変位させることによって、ビームに対して、特に、ビームの焦点位置に対してサンプルの位置を変更することも可能である。例として、サンプルは、サンプルの位置を少なくとも1つの空間方向に、または好ましくは3つの空間方向に制御することを可能にする圧電アクチュエータ上でアセンブル(assemble:組み立てる)することができる。
【0023】
特に、複数の位置の少なくともいくつかは、ビームの焦点の遠視野(far field)に位置することができる。ここで、「遠視野」という用語は、被写界深度範囲の倍数だけ焦点から離間した焦点位置からの距離のすべてを含むことを意味すると理解されたい。好ましくは、その距離は、被写界深度範囲の少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍、さらにより好ましくは少なくとも4倍、および最も好ましくは少なくとも5倍である。
【0024】
特に、焦点の遠視野での持続的相互作用の空間分布の体系的な分析により、焦点の近距離場の持続的相互作用の空間分布の分析の場合には検出可能でないかまたは不十分にしか検出可能でない粒子-光学収差および/またはビーム攪乱の検出が可能になり得る。例として、ビームの球面収差およびことによると存在する非点収差などの波面攪乱は、焦点の遠視野の持続的相互作用を分析することによって、一般に焦点または焦点の近傍の場合よりも少ない曖昧さでおよび一層正確に検出することができる。
【0025】
さらに、持続的相互作用の空間分布の分析は、特に、ビームプロファイルの少なくとも一部の決定を含むことができる。
【0026】
例として、持続的相互作用の空間分布の分析は、以下のステップ、すなわち、ビームプロファイルの軌道長半径(semi-major axis)および/または軌道短半径(semi-minor axis)の長さを推定するステップであり、これらは実質的に円形のビームプロファイルの場合には一致する、推定するステップ、基準方向に対するビームプロファイルの軌道長半径および/または軌道短半径の間の角度を推定するステップ、基準点の位置に対するビームプロファイルの重心(centroid)の位置を推定するステップ、ビームプロファイルの重心での粒子流密度を推定するステップ、および/またはビームプロファイルの平均(mean)粒子流密度を推定するステップのうちの少なくとも1つを含むことができる。さらに、完全な瞳関数(瞳における空間的に解像された振幅および位相)は、位相再構成方法を介して、焦点の上流および下流の様々な位置での十分に多くのビームプロファイルの像から決定することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、持続的相互作用は、サンプルの表面の一部の持続的な変化を含むことができる。
【0028】
例として、これにより、持続的相互作用の空間分布を、例えば、光-光学、粒子-光学、および/またはX線-光学方法、および原子間力(atomic force)検出方法などの様々な検出方法によって分析することが可能になる。
【0029】
例として、持続的相互作用の生成は、サンプルの表面の一部の上への気相からの材料のビーム誘起堆積(beam-induced deposition)を含むことができる。例として、堆積材料は、金属、金属化合物、炭素化合物、または酸化物とすることができる。特に、例えば、SiO2、炭素、TEOS、またはMo(CO)6を使用することができる。
【0030】
ここで、堆積材料は、本発明のいくつかの実施形態では少なくとも1つの前駆体(precursor)材料から得ることができる。例として、以下の物質の1つまたは複数が、前駆体材料として議論される。
- シクロペンタジエニル-(Cp)またはメチルシクロペンタジエニル-(MeCp)トリメチルプラチナ(それぞれ、CpPtMe3およびMeCpPtMe3)、テトラメチルスズSnMe4、トリメチルガリウムGaMe3、フェロセンCp2Fe、ビスアリルクロムAr2Cr、およびさらなるそのような化合物などの(金属、遷移元素、主族)アルキル、
- クロムヘキサカルボニルCr(CO)6、モリブデンヘキサカルボニルMo(CO)6、タングステンヘキサカルボニルW(CO)6、ジコバルトオクタカルボニルCo2(CO)8、トリルテニウムドデカカルボニルRu3(CO)12、鉄ペンタカルボニルFe(CO)5、およびさらなるそのような化合物などの(金属、遷移元素、主族)カルボニル、
- テトラエトキシシランSi(OC25)、テトライソプロポキシチタンTi(OC374およびさらなるそのような化合物などの(金属、遷移元素、主族)アルコキシド、
- WF6、WCl6、TiCl6、BCl3、SiCl4、およびさらなるそのような化合物などの(金属、遷移元素、主族)ハライド、
- 銅ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)Cu(C56HO22、ジメチルゴールドトリフルオロアセチルアセトナートMe2Au(C5342)、およびさらなるそのような化合物などの(金属、遷移元素、主族)錯体、
- CO、CO2、脂肪族または芳香族炭化水素、真空ポンプ油の構成成分、揮発性有機化合物、およびさらなるそのような化合物などの有機化合物。
【0031】
その上、以下の追加のガスのうちの1つまたは複数を使用することができる。
- O2、O3、H2O、H22、N2O、NO、NO2、HNO3、およびさらなる酸素含有ガスなどのオキシダント、
- Cl2、HCl、XeF2、HF、I2、HI、Br2、HBr、NOCl、PCl3、PCl5、PF3、およびさらになるハロゲン含有ガスなどのハライド、
- H2、NH3、CH4、およびさらなる水素含有ガスなどの還元効果をもつガス。
【0032】
いくつかの実施形態では、持続的相互作用を生成するステップは、
a.少なくとも1つの前駆体材料の濃度を低減するステップ、
b.荷電粒子のビームの強度を増加させるステップ、
c.ビームの少なくとも1つのより高い強度部分(1000)において前駆体材料を使い果たすステップ、
d.ビームとサンプル(130)との相互作用継続時間を変更するステップ
のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0033】
言い換えれば、本発明は、荷電粒子のビームを検査するための方法を提供し、この方法は、ビームに対するサンプルの1つまたは複数の位置でビームとサンプルとの持続的相互作用を生成するステップであり、持続的相互作用の生成がビームの強度にサブ線形で依存する、生成するステップと、1つまたは複数の位置での持続的相互作用の空間分布を分析することによってビームの少なくとも1つの性質を導き出すステップとを含む。
【0034】
例えば、持続的相互作用の生成速度は、荷電粒子のビームの強度の増加とともに減少し得る。これにより、持続的相互作用の空間分布は、荷電粒子のビームの実際のビームプロファイル(すなわち、強度分布)に直接対応しないが、より良好なコントラストをビームの低強度の領域に与えることを確実にすることが可能になる。このようにして、荷電粒子のビームの(例えば、ガウス形状の)コア領域の内部にない荷電粒子は、持続的相互作用の場合に空間分布を分析するとき、より良く考慮に入れることができる。
【0035】
これにより、荷電粒子のビームの低強度バックグラウンド領域に対する検出解像度を向上させることが可能になる。ビームのこれらの低強度領域における持続的相互作用の空間分布を分析することによって、普通なら、ビームの高強度コア領域によって不明瞭にされる可能性がある高次ビーム収差に関する情報を得ることができる。そのような高次ビーム収差は、例えば、荷電粒子のビームを発生しサンプル上に導くために使用されるビーム光学アセンブリ、ユニット、および/または構成要素のうちの1つまたは複数における局所電荷濃度が原因で生成される可能性がある。
【0036】
上述で詳細に論じたように、そのような前駆体材料は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)または同様の化合物のガスを含むことができる。そのような前駆体材料の濃度を低減することにより、荷電粒子のビームの高強度コア領域における前駆体材料の存在によって、持続的相互作用の生成を限定することを可能にすることができる。言い換えれば、ビームの高強度コア領域の荷電粒子の大部分は、相互作用領域に十分な前駆体材料分子が存在しないので、持続的相互作用の生成に寄与しない。したがって、そのような前駆体材料限定領域(例えば、ビームのガウス形状コア領域内)では、持続的相互作用の生成は、ビームの強度に対して飽和状態になり、持続的相互作用の生成は、ビームの強度にサブ線形で依存する。この領域では、ビームの強度を2倍に増加させたとき、持続的相互作用の生成速度は、2倍に増加するのではなく、大幅に少ない量(例えば、わずかに10%)になる。
【0037】
これは、荷電粒子のビームのより低い強度のバックグラウンド領域には当てはまらず、持続的相互作用の生成は、前駆体材料限定領域には存在しない。このようにして、ビームのバックグラウンド領域で生成される持続的相互作用は、持続的相互作用の生成が前駆体材料の濃度によって限定されるコア領域と比較してより大きい相対的重みを示すことができる。
【0038】
代替として、またはそれに加えて、持続的相互作用の生成は、サンプルの表面の一部をエッチングすることをさらに含むことができる。特に、サンプルの表面の一部をエッチングすることは、少なくとも1つのエッチングガスを使用してエッチングすることを含むことができる。
【0039】
代替として、またはそれに加えて、持続的相互作用の生成は、粒子感受性層の照射、例えば、電子感受性ラッカー層またはポリマー基板の照射などをさらに含むことができる。
【0040】
ここで、前駆体材料および/またはエッチングガスの濃度は、実施形態によっては粒子流密度に応じて変更することができる。代替として、またはそれに加えて、粒子流密度に応じて照射時間および/またはビームの粒子束を変更することが同様に可能である。例として、これは、粒子流密度と持続的相互作用の本質との間の好適な、既知の、および/または制御可能な機能的関係が確実に存在することを可能にし、前記機能的関係は、特に、実質的に線形になり得る。
【0041】
特に、粒子流密度と持続的相互作用の本質との間のそのような線形関係は、ビームプロファイル、すなわち、ビームの粒子流密度の空間分布を、持続的相互作用の空間分布から直接推定することを可能にすることができる。それゆえに、粒子流密度と持続的相互作用の本質との間の好適な、既知の、および/または制御可能な機能的関係が存在し、前記機能的関係が、特に、実質的に線形であり得ることを確実にすることも一般に重要である。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、持続的相互作用の空間分布は、荷電粒子の焦点の合ったビームによって、および/または原子間力用プローブによって、および/またはそれらの組合せによって決定することができる。
【0043】
特に、例えば、走査粒子顕微鏡などの粒子-光学システムにおいて、持続的相互作用を生成する目的のために、および持続的相互作用の空間分布を決定するために、同じ粒子ビームを使用することができる。例として、粒子ビームは、第1のステップにおいて、サンプルの表面の複数の位置に材料を堆積(deposit)させるために使用することができる。次いで、第2のステップにおいて、同じ粒子ビームをサンプルの表面上に焦点を合わせることができ、サンプルの表面を走査することによって堆積材料の空間分布を検出することができる。
【0044】
本発明のさらなる実施形態は、上述で論じた実施形態のいずれか1つに記載の方法を実行することと、ビームの少なくとも1つの決定された性質に基づいて、ビームの少なくとも1つのビーム光学ユニットを少なくとも部分的に適応させることとを含む、荷電粒子のビームを補正するための方法に関する。
【0045】
例として、この場合のビームの少なくとも1つのビーム光学ユニットを適応させることは、電磁レンズ、コンデンサ(condenser)ダイアフラムまたはアパーチャ、および/または電磁多極(electromagnetic multi-pole)を適応させることを含むことができる。
【0046】
ここで、そのような方法は、以下のビーム性質、すなわち、非点収差、球面収差、色収差、ビーム光学ユニットのテレセントリックエラー、ビーム光学ユニットの結像攪乱、波面攪乱、およびビーム形状歪みのうちの1つまたは複数を補正するステップをさらに含むことができる。
【0047】
例えば、ビーム性質のうちの1つまたは複数を補正するステップは、ビーム光学ユニットの1つまたは複数の構成要素を横切って、特に、コンデンサなどのビーム光学ユニットのダイアフラム(diaphragm:絞り)やアパーチャ(aperture:開口、絞り)を横切って、荷電粒子のビームを走査するステップを含むことができる。
【0048】
このようにして、高次ビーム収差などのビーム歪みのいくつかの原因を除去することができる。例えば、いくつかの高次収差は、コンデンサアパーチャ/ダイアフラムなどのビーム光学系の特定の構成要素の局所表面電荷蓄積によって引き起こされる可能性がある。そのようなコンデンサアパーチャ/ダイアフラムを横切って荷電粒子のビームを走査することにより、表面電荷蓄積を除去または低減させ、それによって、さらに、高次ビーム収差を引き起こす可能性がある対応する漂遊電界を低減させることができる。例えば、いくつかの実施形態は、以下のステップ、すなわち、
a.ビーム光学ユニットの1つまたは複数の構成要素の上に荷電粒子のビームの焦点を合わせるステップ、
b.コンデンサユニットを調節するステップ、
c.ビーム偏向ユニットを調節するステップ
のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0049】
例として、ビームのことによると存在する非点収差は、多極スティグマトール(multi-pole stigmator)のコイル電流を適応させることによって補正することができる。
【0050】
特に、本発明は、少なくとも、持続的相互作用を生成するステップ、持続的相互作用の空間分布を分析するステップ、少なくとも1つのビーム性質を導き出すステップ、少なくとも1つのビーム光学ユニットを適応させるステップ、および/または電子データ処理装置を介して、および/または少なくとも部分的に自動化されたやり方で、少なくとも1つのビーム性質を少なくとも部分的に補正するステップを実行することを容易にすることができる。
【0051】
特に、ここで、反復法を使用することができ、反復法は、機械学習に少なくとも部分的に基づくことができる。例として、この目的のために、ニューラルネットワークを使用することができ、ニューラルネットワークは、像ファイルおよび/または顕微鏡像を分析および分類するように構成される。
【0052】
本発明は、命令が電子データ処理装置のプロセッサによって実行される場合に上述の方法のうちの1つを実行するための命令を含むコンピュータプログラムをさらに含む。
【0053】
本発明は、荷電粒子のビームを検査するための装置をさらに含み、この装置は、ビームに対するサンプルの複数の位置でビームとサンプルとの持続的相互作用を生成するための手段と、複数の位置での持続的相互作用の空間分布を分析することによってビームの少なくとも1つの性質を導き出すための手段とを含む。
【0054】
この装置は、上述で論じた方法のうちの1つを実行するようにさらに具現化することができる。
【0055】
本発明は、荷電粒子のビームを検査するための装置をさらに含み、この装置は、複数の位置でサンプルの上にビームを導くように具現化された少なくとも1つのビーム光学ユニットと、ビームとサンプルとの持続的相互作用を生成するように具現化された少なくとも1つの材料と、複数の位置での持続的相互作用の空間分布を分析することによってビームの少なくとも1つの性質を導き出すように具現化された少なくとも1つの分析器とを含む。
【0056】
この装置は、上述で論じた方法のうちの1つを実行するようにさらに具現化することができる。
【0057】
本発明の例示的な実施形態が、添付の図面を参照して以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明による方法を実行するのに適する粒子-光学装置の一部の端から端までの概略縦断面図である。
図2】本発明による方法を実行するのに適する粒子-光学装置のビーム経路の一部の端から端までの概略縦断面図である。
図3】本発明による方法で使用するのに適するサンプルの概略平面図である。
図4】走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、焦点位置から異なる距離での複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す図である。
図5】走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、焦点位置から異なる距離での複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す図である。
図6】走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、焦点位置から異なる距離での複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す図である。
図7】局所表面電荷蓄積が高次ビーム収差をもたらすことによって影響を受ける典型的なビーム光学デバイスを示す図である。
図8】走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、局所表面電荷蓄積によって引き起こされる高次ビーム収差がない、焦点位置から異なる距離での複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す図である。
図9】走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、局所表面電荷蓄積によって引き起こされる高次ビーム収差がある、焦点位置から異なる距離での複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す図である。
図10】走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、堆積のための前駆体材料の濃度を変化させることを介して堆積された複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明のいくつかの例示的な実施形態が、走査電子顕微鏡の例を使用して詳細に説明される。ここで、様々な特徴の組合せが、本発明のいくつかの例示的な実施形態を参照して説明される。例として、材料を気相によりビーム誘起堆積させるための方法が使用される。しかしながら、荷電粒子のビームを検査するための特許請求される方法、装置、およびコンピュータプログラムは、そのような実施形態に制限されない。むしろ、他の特徴の組合せも本発明の保護の範囲に含まれ得ることを理解されたい。別の言い方をすれば、本発明を実現するために、記載された実施形態のすべての特徴が存在する必要があるわけではない。その上、実施形態は、本発明の開示および保護の範囲から逸脱することなく、ある実施形態の特定の特徴を別の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせることによって変更することができる。
【0060】
特に、本発明は、電子顕微鏡に制限されるのではなく、多数の粒子-光学システム、例えば、走査電子および走査イオン顕微鏡、透過電子および透過イオン顕微鏡、電子ビームリソグラフィシステム、イオンビームリソグラフィシステム、およびX線顕微鏡などに適用することもできる。
【0061】
図1は、本発明による方法を実行するのに適する走査電子顕微鏡(SEM)100の一部の端から端までの概略縦断面図を示す。ここで、カラム(column:柱状体)110は、様々な電子またはビーム光学ユニットを含み、それは、電子ビーム120の焦点を合わせ、電子ビーム120をサンプル130上に導くように構成される。ここで、電子ビームは、カラム110の上方端部の電子銃(図示せず)などの発生源によって生成され、少なくとも1つのコンデンサコイルとコンデンサダイアフラム/アパーチャとで構成されるコンデンサアセンブリ(図示せず)によってビーム形成される。ここで、カラム110は、例えば、さらなる電磁レンズ、さらなるアパーチャ/ダイアフラム、ビームエラーを補正するための電磁多極などのようなビーム光学ユニットをさらに含むことができ、それらは、電子ビーム120の操作および位置調整に適する。
【0062】
特に、カラム110は、電子ビーム120の焦点位置140をサンプル130の表面に対して変位させるように構成することができる。例として、電子ビームは、z方向の位置を調節することによってサンプル130の表面上に焦点が合わせられ、その後、サンプル130の表面の一部が、SEM100の通常動作中にサンプル130の表面の電子-光学像を生成するために、焦点位置140をx方向およびy方向に体系的に変位させることによって走査される。
【0063】
この目的のために、図示のSEM100は、少なくとも1つの検出器170と、データ処理装置180とを含むことができ、それらは、一緒になって、電子ビーム120によって走査されたサンプル130の表面の走査像を生成するように具現化される。例として、検出器は、後方散乱された一次電子および/または二次電子を検出するように具現化され得る。代替として、またはそれに加えて、カラム110の電子ビームのビーム経路に配置された検出器を使用することもできる。さらに、データ処理装置180は、SEM100のビーム光学ユニットを作動、制御、および/または調節するように具現化され得る。
【0064】
ここで、サンプル130はサンプルステージに配置され、サンプルステージは同様に調節可能とすることができる。特に、サンプルステージは、サンプル130を電子ビーム120に対して変位させることができる1つまたは複数の圧電アクチュエータを有することができる。
【0065】
図示のSEM100は、少なくとも前駆体ガスおよび/またはエッチングガス160のための適用装置(application apparatus:アプリケーション装置)150をさらに含み、適用装置150は、電子ビーム120とサンプル130の表面の一部との持続的相互作用を生成するのに適する。例として、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)は、前駆体ガスとして使用することができ、前駆体ガスは、SiO2が電子ビームを介してサンプル130の表面に狙い通りに堆積させるのを可能にする。特に、ビーム120の電子は、とりわけ、サンプル130の原子および/または格子構造との散乱プロセスによって二次電子を生成し、その結果として、前記二次電子は、前駆体ガス160の分子と相互作用することができ、それにより、例えば、SiO2などの材料が、サンプル130の表面に堆積されることになる。材料を気相によりビーム誘起堆積させるプロセスは、堆積物のビーム誘起堆積とも呼ばれる。
【0066】
同様に、適用装置150によって様々なエッチングガス160を導入することにより、サンプル130の表面から材料を目標通りに除去することができる。
【0067】
サンプル130の表面に材料をビーム誘起堆積させることに関する詳細な説明を、出願人による以前の出願WO2012/146647から知ることができる。
【0068】
SEM100は、とりわけ、サンプル130の表面の異なる位置において堆積物を生成することおよび/またはエッチングすることと、プロセスにおいて、同様に、サンプル130の表面とビーム120の焦点位置140との間の伝播方向の距離を目標通りに調節することとを容易にする。特に、ビームは、サンプル130の表面がビーム120の焦点の遠視野に位置付けられるようにデフォーカス(defocus:焦点をぼかす)され、これにより、上述のような様々なビーム性質を導き出すことを簡単化するかまたはさらに単に可能にすることができる。
【0069】
図2は、図1からの焦点が合った電子ビーム120およびサンプル130の端から端までのさらなる概略縦断面図を示す。ここで、電子ビーム120は、理想化して、いわゆるガウスビームとして示されている。ここで、そのようなガウスビームは、ガウス関数によって実質的に記述されるビームプロファイルを有する。ここで、このガウス関数の半値全幅wは、z=0の焦点位置からの伝播方向での距離zの関数w(z)である。ここで、焦点でのビームの最小幅は、w(0)で表される。
【0070】
焦点位置とサンプルとの間の相対距離Δzは、焦点位置をz方向で調節することによって、および/またはサンプル130の位置を調節することによって調節することができる。ここで、距離Δzを増加させると、サンプル130の表面のビーム幅wも増加する。ここで、ビーム120の中心の最大粒子流密度は、距離Δzが増加すると減少する。一般に、サンプル130での単位面積当たりの二次電子の生成率は、この単位面積を通る粒子流に依存する。例として、二次電子の生成率は、サンプル130の表面のこの単位面積を通る粒子流に比例し得る。
【0071】
図2に示されたビームプロファイルは、理論的に理想化されたものであり、SEM100の実際の物理的電子ビーム120または任意の他の粒子-光学システムの粒子ビームを表していないことは当業者には明らかである。
【0072】
概略的に、図3は、上述で論じた装置100を使用して、SEM100の電子ビーム120をどのように体系的に検査することができるか、および、それによって、ビーム120の特定の性質をどのように導き出すことができるかについての一例を示す。
【0073】
サンプル130の矩形部分が示されている。多数の持続的相互作用が、x、y、およびz方向に焦点位置を体系的に変位させることを介してサンプル130の表面に生成され得る。例として、上述のように、気相による材料のビーム誘起堆積を使用して、各焦点位置Δzでサンプル130の表面に堆積物210を堆積させることができる。
【0074】
それぞれの堆積物210の空間分布は、少なくとも部分的に、電子ビーム120のビームプロファイルによって決定することができる。例として、電子束および/または前駆体ガスの濃度などのプロセスパラメータは、堆積物210の各々の生成に対して、ビーム120の粒子流密度とそれぞれの堆積物210の堆積速度と間に実質的に線形の関係を定めるように調節することができる。このようにして、サンプル130の表面に堆積物210を生成することが可能であり、堆積物210の空間分布は、電子ビーム120のビームプロファイルに直接関係する。
【0075】
サンプル130は、堆積物210がサンプル130の表面に堆積された後、測定することができる。例として、サンプル130は、SEM100の電子ビーム120を使用して測定することができる。この目的のために、サンプル130の表面にビームの焦点を合わせ、サンプル130の表面の関連部分を走査して、例えば、一次電子および/または二次電子を検出することによって堆積物210のSEM像を生成する。次に、得られた堆積物210の像を評価することができ、堆積物210の空間分布を分析して、ビーム120の特定の性質を導き出すことができる。
【0076】
図4は、サンプル130の表面の複数の堆積物210-a~210-jのSEM像を示し、これらは、異なるデフォーカス設定で生成され、堆積物の形成も誘導した同じ電子ビーム120を使用して検出された。ここで図4の像から明確に識別できるものは、堆積物の空間分布がSEM100の焦点が合った電子ビーム120のビームプロファイルと相関していることである。特に、デフォーカス設定|z|≧30μmによる堆積物の空間分布により、SEM100の電子ビーム120のビームプロファイルを直接推定することができる。より小さいデフォーカス設定|z|≦10μmの場合には、電子ビーム120の中心の前駆体ガス160のガスの激減(gas depletion)が、図示の例では、リング構造を有するそれぞれの堆積物をもたらし、それは、電子ビーム120の実際のビームプロファイルに対応しないか、または不正確にしか対応しない。
【0077】
次に、SEM100の電子ビーム120のいくつかの性質を堆積物210の空間分布から直接推定することができる。例として、ビームプロファイルが円形ではなく楕円であることを識別することが可能である。電子ビームの開口数(NA)は、異なるデフォーカス設定zでの楕円ビームプロファイルの半半径(semi-radii)、R=R(z)から、関係NA=dR/dzを介して、直接推定することができる。追加として、電子ビーム120の平均ドブロイ波長
【数1】
が分かっている場合、SEMの横方向解像度限界δx~λ/NAおよび軸方向解像度限界δz~λ/NA2を、追加として、開口数から予測することができる。ここで、meは、電子の静止質量を表し、EKinは、電子ビーム120の電子の平均運動エネルギーを表す。
【0078】
さらに、同心リング構造は、+20μm~+50μmの正のデフォーカス設定での堆積物で識別され、-20μm~-50μmの対応する負のデフォーカス設定では存在しない。これに基づいて、電子ビームにおける正の球面収差の存在を推定することができる。
【0079】
像収差の定量分析はまた、堆積物のSEM像の信号対雑音比が十分に高い場合には、体系的に変えたデフォーカス設定を用いて記録されたそのような一連の堆積物像に基づいて実行することができる。この目的のために、例えば、光学顕微鏡から知られているゼルニケ分析またはアポダイゼーションなどの方法を使用することができる。そのような一連の堆積物像は、デフォーカススタックまたは焦点スタックと呼ぶこともできる。
【0080】
図4の堆積物を生成するために使用されるビーム誘起堆積プロセスは、一般に、様々なパラメータに非線形で依存する。特に、ここで、前駆体ガスの濃度および電子ビームの粒子流密度が関連する。例として、粒子流密度が高すぎると、前駆体ガスが電子ビームの中心に拡散しないかまたは不十分にしか拡散しないことがあり、それは、中心にガスの激減をもたらす可能性がある。そこで、この影響により、堆積物の空間分布はもはや電子ビームのビームプロファイルと直接相関しない可能性がある。堆積物を形成するときのこの影響および他の飽和現象を打ち消すために、それぞれの堆積物の空間的配置と電子ビームのビームプロファイルとの間にできるだけ直接的な相関関係を確保するように、デフォーカス設定に応じて前駆体分子の濃度、電子ビームの電子束、および/または照射時間などのプロセスパラメータを適応させることが可能である。特に、ここで、堆積物の厚さがビームの電子流密度に実質的に正比例するようにプロセスパラメータを設定することが有利であり得る。この場合、それぞれの堆積物210は、電子ビーム120の関連ビームプロファイルの直接測定を容易にする。
【0081】
図5は、堆積物のデフォーカススタックのさらなるSEM像を示す。この例では、堆積物の空間分布から、強い楕円のビームプロファイルを推定することができる。追加として、楕円の配置は、z=0μmで焦点を通過する間に実質的に90°回転する。ビームプロファイルのそのような挙動により、電子ビーム120の非点収差の存在を直接推定することができる。この場合の楕円の主軸の半径が、同じzの値で最小でない(すなわち、それらの焦点を有している)ので、そのような非点収差は、一般に、電子ビーム120の実効焦点寸法の増加をもたらす。
【0082】
非点収差の本質は、堆積物のSEM像の信号対雑音比が十分に高い場合には、定量的に分析することができる。そこで、SEM100のビーム光学ユニットは、それに基づいて、電子ビーム120の非点収差を補正できるように調節することができる。例として、四極子スティグマトールまたはカラム110の任意の他の適切な補償光学ユニットを使用して、現在の非点収差を補正することができる。
【0083】
図6は、堆積物のデフォーカススタックのさらなるSEM像を示す。図4および図5のSEM像とは対照的に、電子ビーム120の横方向位置は、図6では、サンプル130に対して一定に保たれた。様々な堆積物間の堆積物の空間分布の移動は、例えば、SEM100のコンデンサダイアフラム/アパーチャの不完全なウォブリングまで遡ることができる。堆積物間の横方向間隔の設定が固定または既知である場合には、電子ビームの残りのテレセントリックエラーは、固定または既知の横方向間隔に対する堆積物の測定された横方向オフセットから直接推定することができる。非点収差の上述の補正と同様の方法で、現在のテレセントリックエラーを除去するかまたは少なくとも著しく低減させるために、コンデンサダイアフラム/アパーチャを調節することができる。
【0084】
さらに、堆積物の空間分布におけるフリンジ(矢印を参照)を、図6の堆積物で決定することができる。堆積物のこれらのフリンジまたは不規則性、したがって、電子ビーム120のビームプロファイルのこれらのフリンジまたは不規則性により、ビーム光学ユニットの結像攪乱の存在を推定することができる。例として、そのような結像攪乱は、SEMの局所帯電または表面帯電によって引き起こされる可能性があり、電子ビーム120の焦点を合わせる能力に、したがって、電子ビーム120の最小焦点寸法に悪影響を及ぼす。SEMの結像力のそのような劣化は、焦点でまたは焦点の近くでは(例えば、SEMの被写界深度内では)直接に見えない。しかしながら、堆積物が、焦点の遠視野(例えば、z>被写界深度の5倍)で記録される場合、そのようなビーム形状歪みは、容易に識別することができ、必要に応じて目標の方法で改善することができる。例として、ビーム形状歪みの原因である結像攪乱の場所、例えば、表面電荷の場所は、ビーム形状歪みのデフォーカス依存性から推定することができる。
【0085】
一般に、ビーム収差は、焦点の合ったビームを分析することによって可能であるよりもデフォーカスされた電子ビームにより堆積された堆積物の助けを借りて著しく容易に分析し改善することができることに留意されたい。特に、図3図6に示された方法は、容易に自動化することができる。例として、図3に概略的に示されたような堆積物の完全なデフォーカススタックは、数分で生成することができ、同じ粒子ビームまたは任意の他の適切な方法を使用して検出し評価することができる。
【0086】
その結果、所与の粒子-光学システムについての関連のビーム性質を体系的に分析するだけでなく、それぞれのビーム光学ユニットおよび/または専用の補償構成要素への適切なフィードバックを介して所与の粒子-光学システムを自動的に改善することも可能であり得る。特に、ここで、像データを分析および分類するように構成された線形、非線形、および/または確率的最適化アルゴリズム、機械学習、および/またはニューラルネットワークを使用することができる。そのような方法は、現在、部分的にまたは完全に自動化された方法で、所与の粒子-光学システムの特性決定、調節、および/または較正を可能にすることができ、その後、実際の操作が開始または継続される。
【0087】
図7は、局所表面電荷蓄積700が高次ビーム収差をもたらす可能性があることによって影響を受ける典型的なビーム光学デバイスを示す。例えば、局所表面電荷蓄積700は、ビーム光学デバイスのコンデンサアパーチャまたはダイアフラム710の近くに存在することがある。局所表面電荷蓄積700は、漂遊電界を生成することがあり、漂遊電界は、ビーム光学デバイスの動作を妨害することがある。例えば、そのような漂遊電界は、以下で図9において示されるような高次ビーム収差をもたらすことがある。
【0088】
図8は、走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、アパーチャのコンデンサダイアフラムなどのビーム光学要素への局所表面電荷蓄積によって引き起こされる収差などの高次ビーム収差がない、焦点位置からの異なる距離(例えば、-20μm、-15μm、…、+15μm、+20μm)に複数の材料堆積を含むサンプルの記録を示す。
【0089】
図9は、走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、例えば、アパーチャのコンデンサダイアフラムなどのビーム光学要素への局所表面電荷蓄積によって引き起こされる可能性がある高次ビーム収差800がある、焦点位置からの異なる距離(例えば、-20μm、-15μm、…、+15μm、+20μm)に複数の材料堆積を含むサンプルの記録を示す。
【0090】
図10は、走査電子顕微鏡によった、本発明の方法による、堆積のための前駆体材料の濃度を変えながらサンプルの表面の異なる位置に堆積された複数の材料堆積を含む、サンプルの記録を示す。堆積の2つの異なる領域を識別することができる。大きい直径のバックグラウンド領域1010は、堆積の高強度コア領域1000を囲む。高強度コア領域1000は、荷電粒子のビームの高強度コア領域に対応する。前駆体材料の濃度が低下すると、コア領域1000は、コア領域の前駆体材料の激減により、記録においてそれほど顕著でなくなる。言い換えれば、堆積は、ビームの強度に関してコア領域では飽和状態になる。代替としてまたは追加として、前駆体材料の濃度を低減するために、前駆体材料濃度とビームの強度の比に本質的に依存する飽和領域に入るように、ビームの強度を増加させることもできる。
【0091】
この効果を使用して、前駆体材料の最も低いレベルの濃度で記録された最後の堆積1012から見て分かるように、コア領域1000とバックグラウンド領域1010との間のコントラストの大きい差を低減させることができる。
【0092】
このようにして、望ましくないバックグラウンド領域1010の分析が強化され、例えば、ビームのコンデンサアパーチャを横切って荷電粒子のビームを走査すること、および/またはビームのビーム光学系を調節することを介して、バックグラウンド領域1010の潜在的な原因をより良く決定し除去することができる。
【0093】
上述で、低強度のバックグラウンド領域1010のコントラストを増加させるための発案が、前駆体材料のビーム誘起堆積の文脈で説明されているが、本発明のこの態様は、荷電粒子のビームとサンプルとの間の持続的相互作用を生成するこの特別の方法に限定されない。ビームを用いたサンプルのビーム誘導エッチングおよび/または直接的な修正などの他の相互作用機構も包含される。言い換えれば、ビームの強度に関して持続的相互作用の生成の飽和領域に入るという一般的な考えは、すべての種類の相互作用機構に適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10