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特許7140905光学素子の表面形状を評価する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】光学素子の表面形状を評価する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
G01M11/00 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021502619
(86)(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019066628
(87)【国際公開番号】W WO2020015954
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】102018211853.1
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン シーグラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シッケタンツ
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-511783(JP,A)
【文献】特開2007-198896(JP,A)
【文献】特開2010-101898(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007056200(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0106591(US,A1)
【文献】国際公開第2016/110467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の表面形状を評価する方法であって、干渉試験装置により実行される少なくとも1回のインターフェログラム測定で、前記光学素子で反射した試験波を前記光学素子で反射しない参照波と重畳させる方法において、
それぞれ直線入力偏光又はそれぞれ円入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも2回のインターフェログラム測定に基づいて、前記光学素子の面形状を判定し、前記2回のインターフェログラム測定の前記入力偏光は相互に異なり、且つ
前記2回のインターフェログラム測定に用いられる前記入力偏光は、参照波及び試験波が共通して通過する前記干渉試験装置の領域における前記干渉試験装置の偏光効果を記述するジョーンズ行列の固有ベクトルの方向に偏方向が対応する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記2回のインターフェログラム測定の前記入力偏光は、異なる偏光方向を有する直線入力偏光であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記2回のインターフェログラム測定の前記入力偏光は相互に直交することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、前記2回のインターフェログラム測定中にそれぞれ得られたインターフェログラム位相の平均に基づいて、前記光学素子の前記面形状を判定することを特徴とする方法。
【請求項5】
光学素子の表面形状を評価する方法であって、干渉試験装置により実行される少なくとも1回のインターフェログラム測定で、前記光学素子で反射した試験波を前記光学素子で反射しない参照波と重畳させる方法において、
2回のインターフェログラム測定中にそれぞれ得られたインターフェログラム位相の平均に基づいて、前記光学素子の面形状を判定し、前記2回のインターフェログラム測定の入力偏光は相互に直交し、且つ
前記2回のインターフェログラム測定に用いられる前記入力偏光は、参照波及び試験波が共通して通過する前記干渉試験装置の領域における前記干渉試験装置の偏光効果を記述するジョーンズ行列の固有ベクトルの方向に偏方向が対応する方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法において、前記2回のインターフェログラム測定を、前記表面形状に関して評価すべき前記光学素子で実行することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法において、前記2回のインターフェログラム測定を、前記表面形状に関して評価すべき前記光学素子とは異なる任意の較正試験体での事前較正で実行することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記2回のインターフェログラム測定で用いられた前記入力偏光の偏光誘起インターフェログラム位相間の差に基づいて、前記光学素子の前記面形状を判定し、前記差は前記事前較正に基づいて確認されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方法において、前記事前較正は、円入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも1回のインターフェログラム測定を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において、前記光学素子はミラーであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法において、前記光学素子は、30nm未満、特に15nm未満の作動波長用に設計されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法において、前記光学素子はマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学素子であることを特徴とする方法。
【請求項13】
光学素子、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学素子の表面形状を評価する干渉試験装置であって、
少なくとも1回のインターフェログラム測定で、光学素子で反射した試験波を前記光学素子で反射しない参照波と重畳させる回折構造と、
それぞれ直線入力偏光又はそれぞれ円入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも2回のインターフェログラム測定に基づいて、前記光学素子の面形状を判定する評価装置であって、前記2回のインターフェログラム測定の前記入力偏光は相互に異なる、前記評価装置と、を備え、
前記2回のインターフェログラム測定に用いられる前記入力偏光は、参照波及び試験波が共通して通過する前記干渉試験装置の領域における前記干渉試験装置の偏光効果を記述するジョーンズ行列の固有ベクトルの方向に偏光方向が対応する、干渉試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年7月17日に出願された独国特許出願第10 2018 211 853.1号の優先権を主張する。この独国出願の内容を参照により本願の本文に援用する。
【0002】
本発明は、光学素子の表面形状を評価する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路又はLCD等の微細構造コンポーネントの製造に用いられる。マイクロリソグラフィプロセスは、照明装置及び投影レンズを備えたいわゆる投影露光装置で実行される。この場合、照明装置により照明されたマスク(レチクル)の像を、投影レンズにより、感光層(フォトレジスト)で被覆されて投影レンズの像平面に配置された基板(例えばシリコンウェーハ)に投影することで、マスク構造を基板の感光コーティングに転写するようにする。
【0004】
EUV領域、すなわち例えば約13nm又は7nmの波長用に設計した投影レンズでは、適当な光透過屈折材料が利用可能でないことにより、ミラーを結像プロセス用の光学コンポーネントとして用いる。例えば特許文献1から既知のようなEUV用に設計した通常の投影レンズは、例えばNA=0.55程度の像側開口数(NA)を有することができ、(例えば弓形の)物体視野を像平面又はウェーハ面に結像させることができる。
【0005】
像側開口数(NA)の増加には、投影露光装置で用いるミラーの所要ミラー面積の拡大が通常は伴う。その結果としてさらに、ミラーの製造に加えてミラーの表面形状の試験も厳しい課題となる。ここで、特に干渉測定法がミラーの高精度試験に用いられる。
【0006】
この場合、計算機ホログラム(CGH)の使用も特に知られており、これは特に、実際の試験に必要な機能(すなわち、試験体形状に数学的に対応する波面を整形するミラー形状に従って設計したCGH構造)に加えて、較正又は誤差補正の働きをする参照波面を提供する少なくとも1つのさらなる「較正機能」を全く同一のCGHに符号化することができる。
【0007】
さらに、フィゾー構成で、参照面(「フィゾー板」)で反射した参照波とミラーで反射した試験波との間でインターフェログラムを生成することも例えば既知である。
【0008】
実際に起こる問題の1つは、各インターフェログラム測定中に確認されて各面形状判定に用いられるインターフェログラム位相が、(試験体の表面形状又は面形状に従って)実際に判定される位相成分以外にさらなる位相成分を有することである。このさらなる位相成分は、例えば各光学系で生じ且つ面形状判定中に得られた結果を改悪する(例えば、光学素子に存在する複屈折層、応力複屈折等の結果としての)偏光状態のさまざまな影響による、偏光誘起位相成分を特に含む。
【0009】
上記偏光誘起位相成分を補償又は目標通りに算出するには、これをできる限り正確に把握する必要がある。しかしながら、この目的で実行できる偏光測定は、複雑であることが分かっており、この測定に関しても誤差を示し得る。
【0010】
従来技術に関しては、単なる例として特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6、並びに非特許文献1及び非特許文献2を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2016/0085061号明細書
【文献】独国特許出願公開第198 26 385号明細書
【文献】独国特許出願公開第103 04 822号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0192769号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2014 205 406号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2009 015 393号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】B. Geh et al.,"The impact of projection lens polarization properties on lithographic process at hyper-NA", Proc. of SPIE Vol. 6520, 65200F, 2007 Article number: 65200F: - ISSN 1996-756X (E); 0277-786X (P), DOI: 10.1117/12.722317
【文献】R. Clark Jones, "A New Calculus for the Treatment of Optical Systems: I 'Description and Discussion of the Calculus', II 'Proof of 3 general equivalence theorems', III 'The Sohncke theory of optical activity'", in: Journal of the Optical Society of America (JOSA), vol. 31 (1941), vol. 7 pages 500-503, ISSN 0030-3941 (P), DOI: 10.1364/JOSA.31.000500
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上を踏まえて、本発明の目的は、上述の問題を少なくとも部分的に回避しつつ精度の向上を可能にする、光学素子の表面形状を評価する方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、独立請求項の特徴により達成される。
【0015】
光学素子の表面形状を評価する方法において、干渉試験装置により実行される少なくとも1回のインターフェログラム測定で、光学素子で反射した試験波を光学素子で反射しない参照波と重畳させる。
【0016】
この方法は、それぞれ直線入力偏光又はそれぞれ円入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも2回のインターフェログラム測定に基づいて、光学素子の面形状を判定し、上記2回のインターフェログラム測定の入力偏光は相互に異なることを特徴とする。
【0017】
一実施形態によれば、直線入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも2回のインターフェログラム測定に基づいて、光学素子の面形状を判定し、上記2回のインターフェログラム測定の入力偏光は、電磁放射の偏光方向に関して相互に異なる。
【0018】
一実施形態によれば、上記2回のインターフェログラム測定の入力偏光は相互に直交する。
【0019】
一実施形態によれば、上記2回のインターフェログラム測定中にそれぞれ得られたインターフェログラム位相の平均に基づいて、光学素子の面形状を判定する。
【0020】
本発明は最初に、干渉試験装置により確認されたインターフェログラム位相において(試験体の面形状に従って)実際に判定される位相成分以外に存在するさらなる位相成分に関して、特に2つの偏光誘起成分が区別され得るという考えから出発している。
【0021】
第1偏光誘起位相成分は、光学系又は干渉試験装置において干渉を達成する光波(すなわち、参照波及び試験波)が共通して通過しない領域での偏光効果により生じる。
【0022】
この第1成分に加えて、第2偏光誘起位相成分は、光学系において干渉を達成する光波(すなわち、参照波及び試験波)が共通して通過する領域での偏光効果により、正確にはこの偏光効果と第1成分の上記偏光効果との結合により生じる。
【0023】
干渉を達成する光波が等しく通過する光学系内の領域の寄与が実際に関与することを踏まえると、上記第2偏光誘起位相成分の存在は、上記第1偏光誘起位相成分とは対照的に、自明ではなく、むしろ上述の結合及び自体公知のジョーンズ形式を用いた数学的考察から得られる。
【0024】
これに関しては、非特許文献1を参照されたい。
【0025】
この場合、干渉試験装置に存在する個々の部分の偏光効果に関するジョーンズ行列は、基本偏光素子への分解により、すなわちスカラー透過と、スカラー位相を有する因子と、旋光子(rotator)、回転した二色性偏光子、及び回転したリタデーション偏光影響素子(以下「移相子(retarder)」と称する)に関する3つのジョーンズ行列との積として表すことができる。
【0026】
こうした効果を簡便に推定するために、二色性及びリタデーションの結果としての円偏光又はキラル偏光効果(干渉光学系ではほぼ無視できる)ではなく直線偏光効果のみを考慮し、干渉計の各部分で現れる二色性及びリタデーションがいずれの場合も比較的少ないことで、得られる式のいくつかを特定の次数の大きさまで展開することができるとさらに仮定する。この場合、共通して通過する部分における二色性及びリタデーションの強度の展開は、線形項まで、すなわち1次までしか実行されない。
【0027】
試験装置において干渉を達成する光波が別個に通過する各干渉計部分では、1次よりも高い次数まで展開が実行され、偏光効果は、二色性とリタデーションとが通常はそれぞれ異なる強度、通常の場合は二色性とリタデーションとがそれぞれ異なる軸方向で、ジョーンズ行列により各分割波について記述される。
【0028】
偏光効果は、主にビーム偏向が大きい偏光素子の場合には大きいので、試験装置に存在する回折構造に期待される偏光効果は、試験装置に存在する他の偏光素子に期待される偏光効果よりも通常は大きい。したがって、推定のために、二色性及びリタデーションの大きさの展開が、共通して通過する部分については概ね1次までしか実行されず、回折構造の後の別個に通過する部分については高次まで実行される。回折構造の二色性及びリタデーションの強度が特定の次数までしか展開されないのは、その位相効果が回折構造により起こるスカラー位相と比べて概して大幅に小さいことに起因し得る。
【0029】
さらに、回折構造により分割された波に関するジョーンズ行列における直線二色性偏光子及び直線移相子の軸方向は、個々の波についていずれの場合も一致するという単純化がなされる。生じる各波の軸方向のこの共線性は、回折構造の場合にほぼ得られる。
【0030】
R. Clark Jones著の刊行物「A New Calculus for the Treatment of Optical Systems: I Description and Discussion of the Calculus」、JOSA、Vol. 31 (1941) によれば、干渉計に2回通過される部分がある場合、光伝播の復路でのジョーンズ行列は、往路でのジョーンズ行列に従う。
【0031】
インターフェログラム位相を直交する直線又は円偏光の変調強度からより単純に解析的に計算できるようにするために、全てのジョーンズ行列は、自体公知のパウリ行列の基底で表され、ジョーンズ形式と同等の自体公知のストークス形式が、干渉を記述する複素数値のミュラー行列と共に利用される。
【0032】
本発明のさらに他の用途では、参照波をフィゾー面での反射により発生させることもでき、記載した形式は引き続き有効である。フィゾー面で発生した参照波の場合、通常はフィゾー面においてできる限り垂直な光入射が望まれるので二色性及びリタデーションの大きさが略ゼロに設定され得る結果として、偏光効果は無視できるほど小さい。
【0033】
干渉試験装置により確認されたインターフェログラム位相における上述の偏光誘起位相成分に加えて(試験体の面形状に従って実際に求められる位相成分以外に)生じるさらに他の位相成分は、特に、変調位相成分(例えば、各参照ミラー又は参照面の変位による)と、回折(例えばCGH)構造を用いて当該回折構造のジョーンズ行列からのスカラー位相から得られる位相成分とを含む。
【0034】
上述の考察から、本発明は、特に、それぞれ選択された入力偏光が相互に異なるインターフェログラム位相の2つの判定に基づいて面形状判定が行われることにより、第2偏光誘起位相成分を大幅に低減するという概念に基づく。
【0035】
特に、相互に異なる入力偏光は、相互に直交する直線偏光状態とすることができ、これらの直線偏光状態は、参照波及び試験波が共通して通過する光学系の領域における光学系の偏光効果を記述するジョーンズ行列の固有ベクトルの方向に偏向方向が対応するように選択される。
【0036】
この入力偏光の選択の結果として、第1に、参照波及び試験波が共通して通過する上記領域における偏光効果の低減、ひいては上述の結合の低減も達成される。第2に、以下でも説明する数学的考察から分かるように、それぞれ計算されたインターフェログラム位相を上記入力偏光に基づいて平均することにより、偏光効果のさらなる低減が達成される。
【0037】
本開示は、直線入力偏光のインターフェログラム測定を2回実行することに制限されない。正確には、本開示は、直線入力偏光を有する電磁放射を用いた1回のインターフェログラム測定に基づいて光学素子の面形状が判定される実施形態も包含すると考えられることが意図されるが、それは、これにより、参照波及び試験波が共通して通過する領域での偏光効果の低減、ひいては上述の結合の低減も既に達成されるからである。
【0038】
相互に直交する入力偏光での2回のインターフェログラム測定中にそれぞれ得られたインターフェログラム位相の平均に基づいた光学素子の面形状の上記判定は、他の(必ずしも直線でない)いかなる入力偏光でも有利である。
【0039】
したがって、さらに別の態様によれば、本発明は、光学素子の表面形状を評価する方法であって、干渉試験装置により実行される少なくとも1回のインターフェログラム測定で、光学素子で反射した試験波を光学素子で反射しない参照波と重畳させ、2回のインターフェログラム測定中にそれぞれ得られたインターフェログラム位相の平均に基づいて、光学素子の面形状を判定し、上記2回のインターフェログラム測定の入力偏光は相互に直交する方法にも関する。
【0040】
本発明の実施形態において、上記2回のインターフェログラム測定は、表面形状に関して評価すべき光学素子で実行される。
【0041】
本発明のさらに他の実施形態において、上記2回のインターフェログラム測定は、例えばまず当該インターフェログラム測定に基づいて偏光誘起インターフェログラム位相間の差をこのようにして確認するために、任意の較正試験体での事前較正の一環として実行することもできる。その後、実際に表面形状に関して評価すべき光学素子で、事前較正で用いた2つの入力偏光の一方のみを用いてインターフェログラム測定を実行することができ、それから、この場合に得られたインターフェログラム位相と、2つの相互に直交する入力偏光の偏光誘起インターフェログラム位相間の差とに基づいて、試験体の面形状が判定され、上記差は、事前較正に基づいて確認されるものである。上記相互に直交する入力偏光は、いずれの場合も直線入力偏光又は円入力偏光であり得る。
【0042】
事前較正で実行されたインターフェログラム測定は、その場合、実際に表面形状に関して評価すべき光学素子で実行されるインターフェログラム測定中に、式φ=0.5・(φ+φ)-0.5・(φ1,k+φ2,k)+φ1,kに従って、用いられた2つの入力偏光の対応する平均値への変換に利用され得る。この場合、φ及びφは2つの相互に直交する入力偏光を示し、添字kは事前較正を表す。
【0043】
結果として、前述の事前較正により、実際の試験体の2つのインターフェログラム測定の実行時に付随的に起こる測定時間の増加を回避することが可能となる。
【0044】
さらに他の実施形態では、上記事前較正は、2つの相互に垂直な直線入力偏光に加えて、円入力偏光について実行することもできる。このような事前較正と共に、(場合によってはコントラスト強調の目的で望まれる)円入力偏光について、実際に表面形状に関して評価すべき光学素子での後続のインターフェログラム測定も実行することが可能だが、それは、その際に事前較正を、2つの相互に垂直な直線入力偏光の対応するインターフェログラム位相(又は上記実施形態と同様に1つの平均インターフェログラム位相)への変換に利用できるからである。
【0045】
表面形状に関して評価すべき光学素子は、特にミラーであり得る。さらに、光学素子は、30nm未満、特に15nm未満の作動波長用に設計され得る。特に、光学素子は、マイクロリソグラフィ投影露光装置の光学素子であり得る。
【0046】
本発明はさらに、光学素子、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学素子の表面形状を評価する装置であって、前述の特徴を有する方法を実行するよう構成された装置に関する。
【0047】
装置の利点及び有利な構成に関しては、本発明による方法に関連した上記説明を参照されたい。
【0048】
本発明のさらに他の構成は、明細書及び従属請求項から得ることができる。添付図面に示す例示的な実施形態に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明による方法で用いることができる干渉試験装置の可能な構成を説明する概略図を示す。
図2】本発明による方法の例示的な実施形態を説明するフロー図を示す。
図3】本発明による方法の例示的な実施形態を説明するフロー図を示す。
図4】本発明による方法用いることができる干渉試験装置のさらに別の可能な構成を説明する概略図を示す。
図5】EUVでの動作用に設計された投影露光装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
まず、図5は、EUVでの動作用に設計され、本発明による方法により試験可能であるミラーを備えた例示的な投影露光装置の概略図を示す。
【0051】
図5によれば、EUV用に設計された投影露光装置510の照明装置が、視野ファセットミラー503及び瞳ファセットミラー504を含む。プラズマ光源501及びコレクタミラー502を含む光源ユニットからの光は、視野ファセットミラー503へ指向される。第1望遠鏡ミラー505及び第2望遠鏡ミラー506が、瞳ファセットミラー504の下流の光路に配置される。偏向ミラー507が光路の下流に配置され、当該偏向ミラーは、入射した放射線を6つのミラー521~526を含む投影レンズの物体平面の物体視野へ指向させる。物体視野の場所では、反射構造担持マスク531がマスクステージ530上に配置され、上記マスクは投影レンズを用いて像平面に結像され、像平面では、感光層(フォトレジスト)でコーティングされた基板541がウェーハステージ540上に位置する。
【0052】
以下に記載の干渉試験装置において本発明による方法により試験される光学素子は、例えば、投影露光装置510の任意のミラーであり得る。
【0053】
図1は、CGHを用いてミラーを試験する干渉試験装置の可能な設定を説明する概略図を示す。
【0054】
図1によれば、光源(図示せず)が発生させて光導波路101の出射面から出る照明放射線は、球面波面を有する入力波105として出てビームスプリッタ110を通り、続いて複素符号化(complexly coded)CGH120に入射する。CGH120は、その複素符号化に従って本例では透過時に入力波105から合計4つの出力波を発生させ、そのうち1つの出力波は試験波として、ミラー140の形態の表面に関して評価すべき光学素子の表面に上記ミラー140の目標形状に適合させた波面で当たる。さらに、CGH120は、入力波105からさらに3つの出力波を透過時に発生させ、それらの出力波のそれぞれが、さらにそれぞれの光学素子131、132、及び133に入射する。「135」は、シャッタを示す。CGH120は、ミラー140から反射した試験波及び素子131~133から反射した参照波を重畳させるようにも働き、試験波及び参照波は、収束ビームとしてビームスプリッタ110に再度入射し、ビームスプリッタ110からCCDカメラとして設計された干渉計カメラ160の方向に反射され、その過程で接眼レンズ150を通る。干渉計カメラ160は、干渉波により発生したインターフェログラムを取得し、ミラー140の光学面の実際の形状は、評価装置(図示せず)により上記インターフェログラムから判定される。
【0055】
本発明の基本的な概念では、光学系又は干渉試験装置が、干渉を達成する光波が共通して通過する部分及び干渉を達成する光波が別個に通過する又は共通して通過しない部分に細分される。共通して通過する部分と別個に通過する部分との間の分離点は、ここでは回折構造(図1のCGH120)として形成される。この場合、波の分離が回折構造でのみ起こるので、照明源から回折構造(照明光学ユニットを含む)までのシステムの部分も、共通して通過する部分とみなすべきである。回折構造から干渉計カメラまでの干渉計の部分も、システムの共通して通過する部分である。システムのこれら2つの共通して通過する部分は、二色性及びリタデーションの強度が異なり、且つ二色性偏光子及び移相子の軸方向がそれぞれ異なり得る。別個に又は共通して通過する部分において、回折構造での分割により、偏光効果は通常の場合は主に回折構造の偏光効果により与えられる。試験面、参照面、及び較正面への光入射は、垂直であることが好ましく、したがって偏光効果を事実上有しないので、これらの部分の他の全ての偏光効果は通常は無視され得る。
【0056】
そこで、本発明によれば、光学素子又はミラー140の面形状は、直線入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも1回のインターフェログラム測定に基づいて判定される。特に、本発明による方法は、直線入力偏光を有する電磁放射を用いた少なくとも2回のインターフェログラム測定を含むことができ、当該2回のインターフェログラム測定の入力偏光は相互に直交する。この場合、好ましくは、上記2回のインターフェログラム測定に用いられる入力偏光は、参照波及び試験波が共通して通過する干渉試験装置の領域における干渉試験装置の偏光効果を記述するジョーンズ行列の固有ベクトルの方向に偏光方向が一致する。
【0057】
対応する入力偏光は、図1に概略的に示す偏光影響素子170を用いて設定され、これは、任意の適当な形で構成され且つ光ビーム経路に可変に配置され得る。実施形態において、各偏光方向間を切り換えるためのλ/2板と組み合わせて直線偏光を設定するのに適した偏光子を用いることが可能である。さらに他の実施形態において、直交する直線及び円入力偏光を設定するための回転可能なλ/2板及び回転可能なλ/4板と組み合わせて適当な偏光子を用いることが可能である。
【0058】
本発明による方法の第1実施形態において、上記2回のインターフェログラム測定は、表面形状に関して評価すべき光学素子で直接行うことができ、これは、図2に示すフロー図に関してステップS210及びS220において実施される。その後、図2によれば、ステップS230において、ステップS210及びS220で得られた2つのインターフェログラム位相から平均インターフェログラム位相を計算し、ステップS240において、上記平均インターフェログラム位相に基づいて試験体の面形状を判定する。
【0059】
この場合、上記2回のインターフェログラム測定に用いられる入力偏光は、直線入力偏光又は円入力偏光であり得る。
【0060】
解析的推定を用いて、ここで、特定の次数までのインターフェログラム位相における偏光誘起位相部分は、相互に直交する入力偏光に関して同一項(すなわち、入力偏光とは無関係の項)と、相互に直交する入力偏光に関して同じ絶対値を有するが反対の符号を有する項との両方を含むことを示すことが可能である。この結果として、相互に直交する入力偏光に関して同一であるか又はそれとは無関係の項のみが、本発明による上記平均中に残る。
【0061】
上記の解析的推定を用いると、2つの直交直線入力偏光を用いたインターフェログラム位相における第2偏光誘起位相部分に関して以下の形式的表現が得られる。
【数1】
【0062】
2つの異なる相互に直交する入力偏光それぞれについて、下付き添字「pol」で示す偏光依存成分の相違は、2つの上記符号の相違である。示されている式は、近似的な展開にすぎないとみなされ、インターフェログラム位相における第2偏光誘起位相成分の成分のみを表す(他の位相成分、例えば第1偏光誘起位相成分、回折構造のスカラー位相による位相成分、試験対象の表面による位相成分、及び場合によってはさらに他の位相成分は、ここには含まれない)。
【0063】
上記式(1)及び(2)において、括弧内の上付き数字は、回折構造の小さな二色性及びリタデーションに対する展開に関する項の次数を特定する。dが二色性の強度を示し、rが回折構造で生じた波のリタデーションの強度を示す場合、項φ(2)は積d、r、及びd×rを有する項のみを含む。したがって、上付き数字は、各項の絶対値の大きさを通常は特定し、例えば、φ(1)は絶対値に関してφ(2)よりも大きい。
【0064】
第2偏光誘起位相効果において偏光とは無関係の項及び偏光に依存する項について論考するには、これらの項の絶対値のみを考慮すれば十分だが、それは、例えば個々の項の符号が(及び絶対値も)インターフェログラムにおける位置及びそれぞれ考慮される干渉波に応じて変わり得るからであり、又は例えば偏光効果を有する個々の光学素子の製造ばらつきが正規分布である場合に、偏光素子の理想的な知識がある場合の公称位相を減算した対応する位相が、同様の確率で異なる符号(及び絶対値)を有し得るからである。
【0065】
対応する前提条件及び近似の下で、回折構造の偏光効果によってのみ引き起こされる第1偏光誘起位相成分のインターフェログラム位相の推定を、直交直線入力偏光に関しては
【数2】
と特定することも可能である。第2偏光誘起位相効果の項は、共通して通過する部分における非常に小さな大きさの二色性及びリタデーションに依然として線形依存するので、第2偏光誘起位相効果の項は第1偏光誘起位相効果の項よりも通常は小さいことに留意されたい。
【0066】
回折構造が理想的な形で知られており、そのスカラー位相及び別個に通過する部分における第1偏光誘起位相成分が理想的な形で知られているとすると、第2偏光誘起位相成分は、いずれの場合も円から直線入力偏光への移行及びさらに2つの直交入力偏光のインターフェログラム位相の平均により低減することができ、それは、回折構造の二色性及びリタデーションの強度の項の次数が各ステップで1次ずつ増加し、したがって各項の絶対値の大きさが段階的に減るからである。
【0067】
結果として、(試験体の面形状に従って実際に求めるべき位相成分以外に存在する)偏光誘起位相成分の低減が、本発明による方法で概して達成される。
【0068】
図2に示す光学素子での2回のインターフェログラム測定の実行時に付随して生じる測定時間の増加を回避するために、図3に示すさらに他の実施形態では、ステップS310において、(表面形状に関して評価すべき光学素子とは異なる)較正試料で事前較正を実行することも可能である。
【0069】
上記事前較正に基づいて、ステップS320において、相互に直交する入力偏光について得られた偏光誘起インターフェログラム位相間の差を求めることが可能である。表面形状に関して評価すべき光学素子での実際のインターフェログラム測定の実行は、その場合、事前較正で用いた2つの入力偏光の一方について行うだけでよく(ステップS330)、続いて、ここで得られたインターフェログラム位相及びステップS320で求めた差に基づいて面形状判定を行うことができる。
【0070】
事前較正で用いた相互に直交する入力偏光は、直線入力偏光又は円入力偏光でもあり得る。事前較正で実行されたインターフェログラム測定は、続いて実際に表面形状に関して評価すべき光学素子で実行されるインターフェログラム測定中に、式
φ=0.5・(φ+φ)-0.5・(φ1,k+φ2,k)+φ1,k (5)
に従って、用いられた2つの入力偏光の対応する平均値への変換に利用され得る。この場合、φ及びφは2つの相互に直交する入力偏光を示し、添字kは事前較正を表す。
【0071】
結果として、前述の事前較正により、実際の試験体に関する2回のインターフェログラム測定の実行時に付随して生じる測定時間の増加を回避することが可能である。
【0072】
さらに他の実施形態において、事前較正はさらに、円入力偏光を有する電磁放射を用いたインターフェログラム測定を含み得る。このような事前較正と共に、(場合によってはコントラスト強調の目的で望まれる)円入力偏光について、実際に表面形状に関して評価すべき光学素子での後続のインターフェログラム測定も実行することが可能だが、それは、その際に事前較正を、2つの相互に垂直な直線入力偏光の対応するインターフェログラム位相(又は上記実施形態と同様に1つの平均インターフェログラム位相)への変換に利用できるからである。
【0073】
図4は、図1の代替として干渉試験装置のさらに別の例示的な構成を示す。
【0074】
図4によれば、フィゾー構成で、参照面402(「フィゾー板」)で反射した参照波とミラー401で反射した試験波との間でインターフェログラムが生成される。この場合、測定光は、目標距離で「試験体形状」(すなわち、関連のミラー401の形状)に数学的に正確に対応する球面波面を形成するようCGH403により整形される。第1に参照面402から、第2に関連のミラー401又は試験体から反射した波面は、図4によれば光源405、ビームスプリッタ406、コリメータ407、絞り408、接眼レンズ409、及びCCDカメラ410を含む干渉計404で干渉し合う。各ミラー401のインターフェログラムは、CCDカメラ410により記録される。
【0075】
ここでも、対応する入力偏光は、図4に単に概略的に示す偏光影響素子450を用いて設定され、これは、図1と同様に任意の適当な形で構成され且つ光ビーム経路に可変に配置され得る。
【0076】
本発明は特定の実施形態に基づいて説明されているが、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせ及び/又は交換により、多数の変形形態及び代替的な実施形態が当業者には明らかとなるであろう。したがって、当業者には言うまでもなく、かかる変形形態及び代替的な実施形態も本発明に包含され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物の意味の範囲内にのみ制限される。
図1
図2
図3
図4
図5