IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本放送協会の特許一覧 ▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

特許7140924電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池
<>
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図1
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図2
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図3
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図4
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図5
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図6
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図7
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図8
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図9
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図10
  • 特許-電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/12 20060101AFI20220913BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220913BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20220913BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220913BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H05B33/12 C
H05B33/14 A
H01L27/32
H01L31/04 150
G09F9/30 365
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021543760
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032954
(87)【国際公開番号】W WO2021045020
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019163240
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/001691(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147230(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/046166(WO,A1)
【文献】特開2011-086442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/12
H01L 51/50
H01L 27/32
H01L 51/46
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層と、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層と、を具える電荷発生層であって、
前記電子受容性の材料は、フッ素、塩素、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基から選択される置換基を含む材料であり、
前記電子供与性の材料は、酸解離定数pKaが1以上の三級アミン、フォスファゼン化合物、グアニジン化合物、アミジン構造を含む複素環式化合物、環構造を有する炭化水素化合物、フェナントロリン系化合物、ターピリジン系化合物、環状ピリジン系化合物から選択され、且つ、前記電子供与性の材料は、前記電子輸送性の材料と水素結合を形成し得る有機物質であり、
アルカリ金属、金属酸化物を含まないことを特徴とする、電荷発生層。
【請求項2】
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層と、前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層とが、直接積層されている、請求項1に記載の電荷発生層。
【請求項3】
更に、前記電子受容性の材料又は前記電子供与性の材料のみからなる層を具え、
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層と、前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層とが、前記電子受容性の材料又は前記電子供与性の材料のみからなる層を介して積層されている、請求項1に記載の電荷発生層。
【請求項4】
前記正孔輸送性の材料は、イオン化ポテンシャルが5.7eVより小さく、
前記電子受容性の材料は、前記正孔輸送性の材料と酸化還元反応による電荷移動錯体を形成し得る有機物質である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電荷発生層。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電荷発生層の製造方法であって、
正孔輸送性の材料と、電子受容性の材料と、を共蒸着して、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層を形成する工程と、
電子輸送性の材料と、電子供与性の材料と、を共蒸着して、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、電荷発生層の製造方法。
【請求項6】
陰極と、発光層と、陽極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に、請求項1~4のいずれか1項に記載の電荷発生層を具え、
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層が、前記陰極側に配置されており、
前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層が、前記発光層側に配置されていることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
陰極と、発光層と、陽極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記発光層との間に、請求項1~4のいずれか1項に記載の電荷発生層を具え、
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層が、前記発光層側に配置されており、
前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層が、前記陽極側に配置されていることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
陰極と、陽極と、を具え、前記陰極と前記陽極との間に、2層以上の発光層を具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の1層と、前記発光層の他の1層との間に、請求項1~4のいずれか1項に記載の電荷発生層を具えることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電荷発生層を具えることを特徴とする、有機薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、自発光型である、視野角が広い、視認性に優れる、低電圧で駆動できる、面発光で薄型化・軽量化可能である、多色表示可能である等の特徴を有している。このため、有機EL素子は、ディスプレイ等の表示装置や、照明装置に好適に用いることができる。また、有機EL素子と同様に、有機薄膜を利用したデバイスとして、有機薄膜太陽電池が知られている。
【0003】
昨今、有機EL素子に、電荷発生層を組み込むことが検討されている(特許文献1~3)。電荷発生層を用いることで、電極の仕事関数に依存せず、素子内に電子・正孔を注入する(発生させる)ことができる。
また、有機EL素子として、陰極と陽極との間に、複数の発光層を具える、タンデム構造の有機EL素子が検討されている(非特許文献1~6)。かかるタンデム構造の有機EL素子を、前記電荷発生層を用いて作製することで、デバイスの電流効率の向上や長寿命化が可能である。
従来、前記電荷発生層には、有機材料と、無機材料であるアルカリ金属や金属酸化物、或いは、アルカリ金属を含む金属錯体が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6488082号公報
【文献】特許第6486624号公報
【文献】特許第6479152号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Applied Physics Letters 97,063303(2010).
【文献】Applied Physics Express 11,022101(2018).
【文献】Advanced Materials,26,5864-5868(2014).
【文献】Advanced Functional Materials,20,1797-1802(2010).
【文献】URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2018/TC/c7tc05082h#!divAbstract
【文献】URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1566119917305323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記電荷発生層に、有機材料と、無機材料であるアルカリ金属とを使用する場合、多くのデバイス製造用真空装置では、有機材料と無機材料を成膜する真空室が異なるため、有機材料とアルカリ金属とを共蒸着するのは困難である。また、有機材料とアルカリ金属を積層する場合にも、真空室間のやり取りが必要であり、製造に必要な工程数が多くなってしまう。また、アルカリ金属は、酸素や水分の存在下で容易に劣化するため、フレキシブル基板上でのデバイス形成に適していない。
【0007】
また、前記電荷発生層に、有機材料と、無機材料である金属酸化物とを使用する場合も、上述の通り、多くのデバイス製造用真空装置では、有機材料と無機材料を成膜する真空室が異なるため、有機材料と金属酸化物とを共蒸着するのは困難である。また、有機材料と金属酸化物を積層する場合にも、真空室間のやり取りが必要であり、製造に必要な工程数が多くなってしまう。
【0008】
また、前記電荷発生層に、有機材料と、アルカリ金属を含む金属錯体とを使用する場合は、真空室は共通であるため共蒸着は容易であるが、アルカリ金属を含む金属錯体を混合した膜は、酸素や水分の存在下で容易に劣化するため、フレキシブル基板上でのデバイス形成に適していない。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、共蒸着により製造することが可能で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い電荷発生層及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い有機EL素子、表示装置、照明装置、及び有機薄膜太陽電池を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
本発明の電荷発生層は、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層と、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層と、を具える電荷発生層であって、
前記電子受容性の材料は、フッ素、塩素、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基から選択される置換基を含む材料であり、
前記電子供与性の材料は、酸解離定数pKaが1以上の三級アミン、フォスファゼン化合物、グアニジン化合物、アミジン構造を含む複素環式化合物、環構造を有する炭化水素化合物、フェナントロリン系化合物、ターピリジン系化合物、環状ピリジン系化合物から選択され、
アルカリ金属、金属酸化物を含まないことを特徴とする。
かかる本発明の電荷発生層は、共蒸着により製造することが可能で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0012】
本発明の電荷発生層の好適例においては、前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層と、前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層とが、直接積層されている。この場合、製造に必要な工程数を更に削減できる。
【0013】
好ましくは、本発明の電荷発生層は、更に、前記電子受容性の材料又は前記電子供与性の材料のみからなる層を具え、
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層と、前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層とが、前記電子受容性の材料又は前記電子供与性の材料のみからなる層を介して積層されている。この場合も、共蒸着により電荷発生層を製造することが可能であり、製造される電荷発生層は、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0014】
本発明の電荷発生層の他の好適例においては、前記正孔輸送性の材料は、イオン化ポテンシャルが5.7eVより小さく、
前記電子受容性の材料は、前記正孔輸送性の材料と酸化還元反応による電荷移動錯体を形成し得る有機物質であり、
前記電子供与性の材料は、前記電子輸送性の材料と水素結合を形成し得る有機物質である。この場合、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層から、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層へ、効率的に電子を移すことができ、電荷発生層を具える素子内に効率よく電子を注入できる。
【0015】
また、本発明の電荷発生層の製造方法は、上記の電荷発生層の製造方法であって、
正孔輸送性の材料と、電子受容性の材料と、を共蒸着して、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層を形成する工程と、
電子輸送性の材料と、電子供与性の材料と、を共蒸着して、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。かかる電荷発生層の製造方法によれば、少ない工程数で、電荷発生層を効率的に製造できる。
【0016】
本発明の一好適態様の有機エレクトロルミネッセンス素子は、
陰極と、発光層と、陽極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に、上記の電荷発生層を具え、
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層が、前記陰極側に配置されており、
前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層が、前記発光層側に配置されていることを特徴とする。かかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0017】
本発明の他の好適態様の有機エレクトロルミネッセンス素子は、
陰極と、発光層と、陽極と、をこの順に具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記発光層との間に、上記の電荷発生層を具え、
前記正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層が、前記発光層側に配置されており、
前記電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層が、前記陽極側に配置されていることを特徴とする。かかる有機エレクトロルミネッセンス素子も、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0018】
本発明の他の好適態様の有機エレクトロルミネッセンス素子は、
陰極と、陽極と、を具え、前記陰極と前記陽極との間に、2層以上の発光層を具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の1層と、前記発光層の他の1層との間に、上記の電荷発生層を具えることを特徴とする。かかる有機エレクトロルミネッセンス素子も、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0019】
本発明の表示装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。かかる表示装置は、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0020】
本発明の照明装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。かかる照明装置は、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0021】
本発明の有機薄膜太陽電池は、上記の電荷発生層を具えることを特徴とする。かかる有機薄膜太陽電池は、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、共蒸着により製造することが可能で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い電荷発生層及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い有機EL素子、表示装置、照明装置、及び有機薄膜太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の電荷発生層の一実施態様を説明するための断面模式図である。
図2】本発明の電荷発生層の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
図3】ドーパントを添加していない電荷発生層のエネルギー準位の説明図である。
図4】ドーパントを添加した電荷発生層のエネルギー準位の説明図である。
図5】本発明の有機EL素子の一実施態様を説明するための断面模式図である。
図6】本発明の有機EL素子の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
図7】本発明の有機EL素子の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
図8】本発明の有機EL素子の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
図9】本発明の有機EL素子の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
図10】本発明の有機EL素子の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
図11】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の電荷発生層及びその製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、並びに有機薄膜太陽電池を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0025】
<電荷発生層>
図1は、本発明の電荷発生層の一実施態様を説明するための断面模式図であり、図2は、本発明の電荷発生層の他の実施態様を説明するための断面模式図である。
【0026】
図1及び図2に示す電荷発生層10は、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層(以下、「p-ドープ層」と記す場合がある。)1と、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層(以下、「n-ドープ層」と記す場合がある。)2と、を具え、図2に示す電荷発生層10は、更に、電子受容性の材料又は電子供与性の材料のみからなる層(以下、「ドーパント層」と記す場合がある。)3を具える。
【0027】
なお、本発明の電荷発生層は、図1に示す電荷発生層10のように、p-ドープ層1と、n-ドープ層2とが、直接積層されていてもよいし、図2に示す電荷発生層10のように、p-ドープ層1と、n-ドープ層2とが、ドーパント層3を介して積層されていてもよい。p-ドープ層1と、n-ドープ層2とが、直接積層されて場合、製造に必要な工程数を更に削減できる。また、p-ドープ層1と、n-ドープ層2とが、ドーパント層3を介して積層されている場合でも、共蒸着により電荷発生層10を製造することが可能であり、製造される電荷発生層10は、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0028】
ここで、本実施形態の電荷発生層10において、前記電子受容性の材料は、フッ素、塩素、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基から選択される電気陰性度の大きい置換基を含む材料である。また、本実施形態の電荷発生層10において、前記電子供与性の材料は、酸解離定数pKaが1以上の三級アミン、フォスファゼン化合物、グアニジン化合物、アミジン構造を含む複素環式化合物、環構造を有する炭化水素化合物、フェナントロリン系化合物、ターピリジン系化合物、環状ピリジン系化合物から選択される。また、本実施形態の電荷発生層10は、アルカリ金属、金属酸化物を含まないことを特徴とする。なお、「アルカリ金属を含まないこと」には、単体のアルカリ金属を含まないことの他、アルカリ金属の合金やアルカリ金属の化合物(例えば、アルカリ金属を含む錯体等)を含まないとも包含される。
【0029】
本実施形態の電荷発生層10は、アルカリ金属も、金属酸化物も含まず、有機材料のみから構成されるため、例えば、真空室で電荷発生層10を作製する場合、有機蒸着室のみで容易に作製でき、プロセス上の制約が少なく、有機EL素子等を構成する層の材料として使用し易い。また、本実施形態の電荷発生層10は、アルカリ金属を含む錯体を用いないため、酸素や水分に対する耐性も高く、フレキシブル基板上にも容易に作製できる。なお、本実施形態の電荷発生層10は、蒸着による製造が可能であるが、蒸着だけでなく、塗布によっても形成することが可能である。
従って、本実施形態の電荷発生層10は、共蒸着による製造が可能で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0030】
次に、図3及び図4を参照して、本実施形態の電荷発生層10における、電荷発生のメカニズムとドーパント(電子受容性の材料、電子供与性の材料)の役割について、図11に示す有機EL素子における電子注入を例に説明する。なお、図11に示す有機EL素子については、<有機EL素子>の項で詳述する。
【0031】
図3は、ドーパントを添加していない電荷発生層のエネルギー準位の説明図であり、図4は、ドーパントを添加した電荷発生層のエネルギー準位の説明図である。
図3に示す通り、p-ドープ層1に含まれるHOMOのイオン化エネルギーが小さい正孔輸送性の材料の電子(●)の挙動が、素子への電子注入のための鍵となる。p-ドープ層1からn-ドープ層2へ効率的に電子を移すことができれば、素子内に効率よく電子が注入される。この電荷の流れを促進するために、ドーパント(電子受容性の材料、電子供与性の材料)が必要となる。
【0032】
ドーパント(電子受容性の材料、電子供与性の材料)を、p-ドープ層1、n-ドープ層2に添加した場合のエネルギーの変化を図4に示す。
ドーパント(電子受容性の材料)をp-ドープ層1に添加することで、p-ドープ層1においては、エネルギー準位が上に(イオン化エネルギーが小さい方に)シフトし、n-ドープ層2のLUMOに電子を渡し易い状態になる。一方、ドーパント(電子供与性の材料)をn-ドープ層2に添加することで、n-ドープ層2においては、電子供与性の材料と電子輸送性の材料とが水素結合を形成することで、電子輸送性の材料のエネルギー準位が下に(電子親和力が大きい方に)シフトし、n-ドープ層2のLUMOに電子を受け入れ易い状態になる。更に、イオン化エネルギーも大きくなることで、発光層側から運ばれてくる正孔の阻止性能も向上し、発光効率が向上する。
このように、ドーパント(電子受容性の材料、電子供与性の材料)の添加によるエネルギー準位のシフトを利用することで、有機材料のみからなる電荷発生層10における電荷発生能力が向上する。
【0033】
前記正孔輸送性の材料は、イオン化ポテンシャルが5.7eVより小さいことが好ましい。この場合、p-ドープ層1のHOMOのイオン化エネルギーが小さいため、n-ドープ層2のLUMOに電子を渡し易くなる。ここで、正孔輸送性の材料のイオン化ポテンシャルは、光電子分光法もしくは光電子収量分光で測定される。
【0034】
前記電子受容性の材料は、前記正孔輸送性の材料と酸化還元反応による電荷移動錯体を形成し得る有機物質であることが好ましい。この場合、p-ドープ層1のHOMOのイオン化エネルギーが小さくなり、n-ドープ層2のLUMOに電子を渡し易くなる。
【0035】
前記電子供与性の材料は、前記電子輸送性の材料と水素結合を形成し得る有機物質であることが好ましい。この場合、n-ドープ層2中の電子輸送性の材料のエネルギー準位が低くなり、n-ドープ層2のLUMOに電子を受け取り易くなる。
【0036】
「p-ドープ層」
前記p-ドープ層1は、正孔輸送性の材料と、電子受容性の材料と、を含む。
本実施形態のp-ドープ層1は、イオン化エネルギーが小さい正孔輸送性の材料と、電子受容性の材料と、から構成されており、正孔輸送性の材料の電子を電子受容性の材料が引き付けることで、素子内にこの電子を注入し易くなる。
p-ドープ層1の平均厚さは、1~100nmであることが好ましく、3~20nmであることがより好ましい。また、p-ドープ層1における、正孔輸送性の材料:電子受容性の材料の混合比(質量比)は、0.1:9.9~9.9:0.1であることが好ましく、1:9~9:1であることがより好ましい。
p-ドープ層1の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0037】
前記正孔輸送性の材料としては、各種p型の高分子材料(有機ポリマー)、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
具体的には、正孔輸送性の材料として、例えば、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、3,3’-ビ[1,4]ベンゾオキサジノ[2,3,4-kl]フェノキサジン、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニル-4,4’-ジアミン(DBTPB)、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチエニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂又はその誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送性の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。その中でも特に、イオン化エネルギーが小さい材料、例えば、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等のトリアリールアミン類や、3,3’-ビ[1,4]ベンゾオキサジノ[2,3,4-kl]フェノキサジン等のフェノキサジン誘導体が好ましい。
【0038】
前記電子受容性の材料は、フッ素、塩素、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基から選択される電気陰性度の大きい置換基を含む材料である。電子受容性の材料としては、例えば、下記構造式(1-1)で示される2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、下記構造式(1-2)で示される1,3,4,5,7,8-ヘキサフルオロ-テトラシアノナフトキノジメタン(F6TCNNQ)、下記構造式(1-3)で示されるヘキサシアノ-トリメチレン-シクロプロパン(CN6-CP)、下記構造式(1-4)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)等を用いることができる。
【化1】
前記電子受容性の材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
「n-ドープ層」
前記n-ドープ層2は、電子輸送性の材料と、電子供与性の材料と、を含む。
本実施形態のn-ドープ層2は、電子親和力が大きい電子輸送性の材料と、電子供与性の材料と、から構成されており、p-ドープ層1の電子を受け取り、素子内に運ぶ役割を担う。電子供与性の材料の存在により電子輸送性の材料の電子親和力が大きくなり、素子内に電子を注入し易くすると共に、電子輸送性の材料のイオン化エネルギーが大きくなり、例えば、発光層から運ばれてくる正孔の阻止にも有効となり、高効率化につながる。
n-ドープ層2の平均厚さは、1~100nmであることが好ましく、3~20nmであることがより好ましい。また、n-ドープ層2における、電子輸送性の材料:電子供与性の材料の混合比(質量比)は、0.1:9.9~9.9:0.1であることが好ましく、1:9~9:1であることがより好ましい。
n-ドープ層2の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0040】
前記電子輸送性の材料としては、有機EL素子の電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの材料を用いてもよい。
具体的には、電子輸送性の材料として、フェニル-ジピレニルホスフィンオキサイド(POPy)等のホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)等のピリジン誘導体、2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ)等のキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)等のピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)等のフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)、2,4,6-トリス(m-ピリジン-3-イル-フェニル)トリアジン(TmPPyTz)等のトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)等のオキサジアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)等のイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、特開2013-239691号公報、国際公開第2014/133141号、特開2016-172728号公報、特開2016-199507号公報及び特開2016-199508号公報に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの電子輸送性の材料の中でも、特に、TmPPyTzのようなトリアジン誘導体、POPyのようなホスフィンオキサイド誘導体、Alqのような金属錯体、TmPhPyBのようなピリジン誘導体を用いることが好ましい。
【0041】
前記電子供与性の材料は、酸解離定数pKaが1以上の三級アミン、フォスファゼン化合物、グアニジン化合物、アミジン構造を含む複素環式化合物、環構造を有する炭化水素化合物、フェナントロリン系化合物、ターピリジン系化合物、環状ピリジン系化合物から選択される。電子供与性の材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これら電子供与性の材料は、酸解離定数pKaが1以上であり、塩基性の化合物である。
なお、本発明において、「pKa」は通常は「水中における酸解離定数」を意味するが、水中で測定できないものは「ジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数」を意味し、DMSO中でも測定できないものは、「アセトニトリル中の酸解離定数」を意味する。好ましくは「水中における酸解離定数」を意味する。
【0042】
前記三級アミン(三級アミン誘導体)としては、鎖状や環状等のアミン化合物であっても良く、環状である場合には複素環式のアミン化合物であってもよく、脂肪族アミンや芳香族アミン等の複素環式のアミン化合物であってもよい。三級アミンは、アミノ基を1~4個有していることが好ましく、1または2個有していることがより好ましい。また、アミン化合物としては、アルキル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を有する化合物であってもよい。具体的には、(モノ、ジ、トリ)アルキルアミン;アルキルアミノ基を1~3つ有する芳香族アミン;アルコキシ基を1~3つ有する芳香族アミン等が挙げられる。
【0043】
前記三級アミンとしては、1級アミン及び2級アミンを含まないものが好ましい。具体的には、該三級アミンとして、下記構造式(2-1)又は(2-2)で示されるジメチルアミノピリジン(DMAP)等のジアルキルアミノピリジン、下記構造式(2-3)で示されるトリエチルアミン等のNR212223で表される構造を有するアミン(但し、R21、R22、R23は、同一又は異なって、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)、下記構造式(2-4)で示されるアクリジンオレンジ(AOB)等が挙げられる。
【化2】
【0044】
前記炭化水素基としては、炭素数1~30のものが好ましく、炭素数1~8のものがより好ましく、炭素数1~4のものが更に好ましく、炭素数1又は2のものがより一層好ましい。炭化水素基が置換基を有する場合には、置換基も含めた全体として前記炭素数であることが好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が例示されるが、アルキル基が好ましい。置換基を有する炭化水素基における置換基としては、ハロゲン原子、複素環基、シアノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基等が例示される。ジメチルアミノピリジンとしては、電子供与基であるジメチルアミノ基のピリジン環に結合している位置が、2位(2-DMAP)又は4位(4-DMAP)であることが好ましい。特に、ピリジン環の4位にジメチルアミノ基が結合している4-ジメチルアミノピリジンは、pKaが高い。
【0045】
前記三級アミンとしては、メトキシピリジン誘導体等のアルコキシピリジン誘導体も用いることができる。アルコキシ基としては、炭素数1~30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基が更に好ましく、1又は2のアルコキシ基がより一層好ましい。アルコキシピリジン誘導体には、アルコキシピリジンの水素原子の1又は2以上が、置換基で置換された構造の化合物も含まれる。置換基としては、上記の三級アミンの炭化水素基の置換基と同様のものが例示される。
メトキシピリジン誘導体としては、メトキシ基のピリジン環に結合している位置が4位である下記構造式(2-5)で示される4-メトキシピリジン(4-MeOP)又は3位である下記構造式(2-6)で示される3-メトキシピリジン(3-MeOP)であることが好ましい。特に、ピリジン環の4位にメトキシ基が結合している4-メトキシピリジンは、pKaが高いため好ましい。
【化3】
【0046】
前記三級アミンとしては、ジアルキルアミノ基及び/又はアルコキシ基を有する複素環式芳香族アミン、トリアルキルアミンから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましく、ジアルキルアミノピリジン、トリアルキルアミン、アルコキシピリジン誘導体から選択される1種又は2種以上を用いることが特に好ましい。
【0047】
前記フォスファゼン化合物(フォスファゼン塩基誘導体)とは、例えば、下記一般式(3-1)で表される構造を含む化合物である。
【化4】
【0048】
上記式(3-1)において、R31は、水素原子又は炭化水素基を表し、R32~R34は、水素原子、炭化水素基、-NR’R”(但し、R’、R”は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基を表す。)、又は下記式(3-2)で表される基を表し、nは1~5の数を表す。
【化5】
【0049】
上記式(3-2)において、R35~R37は、水素原子、炭化水素基、又は-NR’R”(但し、R’、R”は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基を表す。)を表し、mは1~5の数を表す。
【0050】
上記式(3-1)、(3-2)における炭化水素基としては、炭素数1~8の基が好ましく、炭素数1~4の基が更に好ましい。また、炭化水素基としては、アルキル基が好ましい。上記R34としては、ターシャリーブチル基が特に好ましい。
【0051】
前記フォスファゼン塩基誘導体としては、下記構造式(3-3)で示される化合物等が挙げられる。
【化6】
【0052】
前記グアニジン化合物とは、下記一般式(4-1)で表される構造を含む化合物である。
【化7】
【0053】
上記式(4-1)中、R41~R45は、同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を表し、R41~R45のうち2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよい。また、前記グアニジン化合物は、上記一般式(4-1)で表される構造を複数有していてもよい。
【0054】
前記グアニジン化合物としては、グアニジン環状誘導体等を用いることができる。グアニジン環状誘導体としては、下記構造式(4-2)で示される7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)、下記構造式(4-3)で示される1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、下記構造式(4-4)で示される化合物(Py-hpp2)等が挙げられる。
【化8】
【0055】
前記アミジン構造を含む複素環式化合物において、アミジン構造とは、R51-C(=NR52)-NR5354で表される構造(但し、R51~R54は、同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を表す。)である。アミジン構造を含む複素環式化合物としては、ジアザビシクロノネン誘導体やジアザビシクロウンデセン誘導体等が挙げられる。
【0056】
前記ジアザビシクロノネン誘導体としては、下記構造式(5-1)で示される1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)等が挙げられる。
前記ジアザビシクロウンデセン誘導体としては、下記構造式(5-2)で示される1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
【化9】
【0057】
前記ジアザビシクロノネン誘導体には、ジアザビシクロノネンの水素原子の1又は2以上が、置換基で置換された構造の化合物も含まれ、ジアザビシクロウンデセン誘導体には、ジアザビシクロウンデセン水素原子の1又は2以上が、置換基で置換された構造の化合物も含まれる。置換基としては、上記の三級アミンの炭化水素基の置換基と同様のものが例示される。
【0058】
前記環構造を有する炭化水素化合物としては、環構造として5員環又は6員環を有する化合物が好ましく、5員環と6員環とが縮環した環構造や、複数の6員環が縮環した環構造を有する化合物も好ましい。5員環としては、シクロペンタン環やシクロペンタジエン環等が挙げられ、6員環としては、ベンゼン環等が挙げられる。
環構造を有する炭化水素化合物としては、環構造のみの化合物、環構造に炭素数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5のアルキル基が結合した構造の化合物や、複数の環構造が直接又は炭素数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5の炭化水素の連結基を介して結合した構造の化合物が好ましい。環構造を有する炭化水素化合物の具体例としては、下記式(6-1)~(6-14)の化合物が挙げられる。なお、式中のPhはフェニル基を表す。
【化10】
【0059】
前記フェナントロリン系化合物は、下記構造式(7-1):
【化11】
で示されるフェナントロリンと、該フェナントロリン中の水素原子の1つ又は複数が1価の有機基で置換された化合物(以下、「フェナントロリン誘導体」と呼ぶことがある。)と、を包含する。
ここで、1価の有機基としては、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基、シリル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、チオール基、エポキシ基、アシル基、置換基を有していてもよいオリゴアリール基、1価のオリゴ複素環基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アゾ基、スタニル基、ホスフィノ基、置換基を有していてもよいアリールホスフィノ基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィノ基、アリールホスフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィニル基、シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルフィニル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基;メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基等のアルキルスルホネート基;ベンゼンスルホネート基、p-トルエンスルホネート基等のアリールスルホネート基;ベンジルスルホネート基等のアリールアルキルスルホネート基、ボリル基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、アリールスルホネート基、アルデヒド基、アセトニトリル基等が挙げられる。
また、上記1価の有機基が有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で置換されていてもよい。更に、これらの基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0060】
前記フェナントロリン誘導体は、分子構造中にフェナントロリン構造を複数有する化合物であってもよい。
【0061】
前記フェナントロリン誘導体としては、例えば、下記構造式(7-2)~(7-9)で示される化合物が挙げられる。
【化12】
【0062】
前記ターピリジン系化合物は、ターピリジン構造(3つのピリジンが結合した構造)を有する化合物であり、下記構造式(8-1):
【化13】
で示されるターピリジンと、該ターピリジン中の水素原子の1つ又は複数が1価の有機基で置換された化合物(以下、「ターピリジン誘導体」と呼ぶことがある。)と、を包含する。
ここで、1価の有機基としては、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基、シリル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、チオール基、エポキシ基、アシル基、置換基を有していてもよいオリゴアリール基、1価のオリゴ複素環基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アゾ基、スタニル基、ホスフィノ基、置換基を有していてもよいアリールホスフィノ基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィノ基、アリールホスフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィニル基、シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルフィニル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基;メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基等のアルキルスルホネート基;ベンゼンスルホネート基、p-トルエンスルホネート基等のアリールスルホネート基;ベンジルスルホネート基等のアリールアルキルスルホネート基、ボリル基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、アリールスルホネート基、アルデヒド基、アセトニトリル基等が挙げられる。
上記1価の有機基が有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で置換されていてもよい。更に、これらの基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0063】
前記ターピリジン系化合物としては、2,2’:6’,2”-ターピリジン、1,3-ビス(4’-(2,2’:6’,2”-ターピリジニル))ベンゼン、6”-(3-(5H-ジベンゾ[b,d]ボロール-5-イル)-5-(4’,6’-ジエチル-[2,2’-ビピリジン]-6-イル)チオフェン-2-イル)-4,6-ジエチル-2,2’:6’,3”-ターピリジン等が挙げられる。
【0064】
前記環状ピリジン系化合物は、複数のピリジンが環状に結合した構造を有する化合物であり、複数のピリジン環が直接に、又は窒素原子を介して結合し、環構造を形成した化合物であることが好ましい。該環状ピリジン系化合物としては、下記一般式(9-1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【化14】
【0065】
上記一般式(9-1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。nは、同一又は異なって、0又は1の整数である。mは、3~10の整数である。
【0066】
上記一般式(9-1)におけるRが1価の有機基である場合、1価の有機基としては、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基、シリル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、チオール基、エポキシ基、アシル基、置換基を有していてもよいオリゴアリール基、1価のオリゴ複素環基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アゾ基、スタニル基、ホスフィノ基、置換基を有していてもよいアリールホスフィノ基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィノ基、アリールホスフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィニル基、シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルフィニル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基;メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基等のアルキルスルホネート基;ベンゼンスルホネート基、p-トルエンスルホネート基等のアリールスルホネート基;ベンジルスルホネート基等のアリールアルキルスルホネート基、ボリル基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、アリールスルホネート基、アルデヒド基、アセトニトリル基等が挙げられる。
上記1価の有機基が有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で置換されていてもよい。更に、これらの基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
これらの中でもRの1価の有機基としては、メチル基、エチル基、フェニル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、イソブチル基が好ましい。
【0067】
上記一般式(9-1)におけるmは、3~10の整数であるが、水素との相互作用の強さの点で、好ましくは3~8であり、より好ましくは3~6である。
【0068】
上記一般式(9-1)におけるnは、同一又は異なって、0又は1の整数を取りうる。つまり、例えば、環状ピリジン系化合物がピリジン環を6つ有する化合物である場合、構造中の6つ存在するnの取りうる整数は、[i](0,0,0,0,0,0)から[xii](1,1,1,1,1,1)までの組み合わせであり、環状構造であることから他には[ii](1,0,0,0,0,0)、[iii](1,1,0,0,0,0)、[iv](1,0,1,0,0,0)、[v](1,0,0,1,0,0)、[vi](1,1,1,0,0,0)、[vii](1,1,0,1,0,0)、[viii](0,0,1,1,1,1)、[ix](0,1,0,1,1,1)、[x](0,1,1,0,1,1)、[xi](0,1,1,1,1,1)が可能であり、合計12通りが許される。そしてこれらすべてが候補である。ただし、そのうち6つ又は3つが1である上記[vi]、[vii]、[xii]が好ましい。より好ましくは、nのうち、1であるものの数がmと同じである[xii]である。即ち、前記環状ピリジン系化合物としては、一般式(9-1)で表されるものの中でも、一般式(9-1)におけるnが全て1のアザカリックスピリジン誘導体であることが好ましい。
【0069】
上記一般式(9-1)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物としては、下記一般式(9-2)~(9-5)で表される化合物が好ましい。なお、一般式(9-2)~(9-5)中のRは、一般式(9-1)中のRと同義である。
【0070】
【化15】
【0071】
前記環状ピリジン系化合物としては、上記一般式(9-1)中のピリジン環のパラ位の水素原子が1価の有機基で置換された化合物も好ましく、ここで、1価の有機基としては、Rにおける1価の有機基が同様に挙げられる。また、該1価の有機基の中でも、複素環基が好ましく、ピロリジニル基が特に好ましい。
【0072】
前記環状ピリジン系化合物の具体例としては、例えば、下記構造式(9-6)~(9-7)で表される化合物等が挙げられる。
【化16】
【0073】
「ドーパント層」
前記ドーパント層3は、前記電子受容性の材料又は前記電子供与性の材料のみからなる。ここで、電子受容性の材料としては、「p-ドープ層」の項で説明した各種材料を使用できる。また、電子供与性の材料としては、「n-ドープ層」の項で説明した各種材料を使用できる。
【0074】
本実施形態の電荷発生層は、アルカリ金属、金属酸化物を含まないことを特徴とする。なお、本実施形態の電荷発生層は、アルカリ金属を含まないため、上述したような、アルカリ金属を含む錯体も含まない。本実施形態の電荷発生層は、これらの材料を含まないため、共蒸着による製造が可能で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0075】
<電荷発生層の製造方法>
本発明の電荷発生層の製造方法は、上述の電荷発生層の製造方法であって、
正孔輸送性の材料と、電子受容性の材料と、を共蒸着して、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層(p-ドープ層)1を形成する工程Aと、
電子輸送性の材料と、電子供与性の材料と、を共蒸着して、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層(n-ドープ層)2を形成する工程Bと、
を含むことを特徴とする。
また、本発明の電荷発生層の製造方法は、所望により、電子受容性の材料のみ又は電子供与性の材料のみ、蒸着して、電子受容性の材料のみからなる層又は電子供与性の材料のみからなる層(ドーパント層)3を形成する工程Cを含んでもよい。
前記工程Aと、前記工程Bとの、順序は特に限定されず、目的とするデバイス構造に応じて、適宜選択できる。また、前記工程Cは、前記工程Aと、前記工程Bとの間に行うことが好ましい。
【0076】
本発明の電荷発生層の製造方法に用いる正孔輸送性の材料、電子受容性の材料、電子輸送性の材料、電子供与性の材料としては、<電荷発生層>の項で説明した各材料を使用することができる。また、上記の共蒸着及び蒸着には、通常の真空蒸着装置を利用できる。
本発明の電荷発生層の製造方法によれば、共蒸着により、p-ドープ層1と、n-ドープ層2と、を形成するため、少ない工程数で、電荷発生層10を効率的に製造できる。
【0077】
<有機EL素子>
次に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の実施態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図5図10は、本発明の有機EL素子の実施態様を説明するための断面模式図である。
【0078】
図5及び図6に示す有機EL素子100は、陰極30と、発光層60と、陽極90と、をこの順に具え、更に、陰極30と発光層60との間に、電荷発生層10を具える。
図5に示す有機EL素子100は、基板20上に、陰極30と、電荷発生層10と、発光層60と、正孔輸送層70と、陽極90とが、この順に形成されており、所謂、逆構造の有機EL素子である。
一方、図6に示す有機EL素子100は、基板20上に、陽極90と、正孔輸送層70と、発光層60と、電荷発生層10と、陰極30とが、この順に形成されており、所謂、順構造の有機EL素子である。
図5及び図6に示す有機EL素子100は、いずれも、電荷発生層10の内、p-ドープ層1が、陰極30側に配置されており、また、電荷発生層10の内、n-ドープ層2が、発光層60側に配置されている。かかる構成の有機EL素子100は、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0079】
図7及び図8に示す有機EL素子100は、陰極30と、発光層60と、陽極90と、をこの順に具え、更に、陽極90と発光層60との間に、電荷発生層10を具える。
図7に示す有機EL素子100は、基板20上に、陰極30と、電子輸送層45と、発光層60と、電荷発生層10と、陽極90とが、この順に形成されており、所謂、逆構造の有機EL素子である。
一方、図8に示す有機EL素子100は、基板20上に、陽極90と、電荷発生層10と、発光層60と、電子輸送層45と、陰極30とが、この順に形成されており、所謂、順構造の有機EL素子である。
図7及び図8に示す有機EL素子100は、いずれも、電荷発生層10の内、p-ドープ層1が、発光層60側に配置されており、また、電荷発生層10の内、n-ドープ層2が、陽極90側に配置されている。かかる構成の有機EL素子100も、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。
【0080】
図9に示す有機EL素子100は、基板20上に、電極39と、電荷輸送層57と、発光層60と、電荷発生層10と、発光層60と、電荷輸送層57と、電極39とが、この順に形成されており、発光層60を2層有するタンデム構造を有する。
また、図10に示す有機EL素子100は、基板20上に、電極39と、電荷輸送層57と、発光層60と、電荷発生層10と、発光層60と、電荷発生層10と、発光層60と、電荷輸送層57と、電極39とが、この順に形成されており、発光層60を3層有するタンデム構造を有する。
なお、本発明の有機EL素子は、発光層を4層以上有するタンデム構造をとってもよい。
【0081】
ここで、図9及び図10に示す有機EL素子100において、電極39は、陰極でも、陽極でもよく、また、電荷輸送層57は、電子輸送層でも、正孔輸送層でもよく、一方の電極39が陰極の場合、他方の電極39は陽極である。また、陰極である電極39に隣接する電荷輸送層57は、通常は電子輸送層であり、陽極である電極39に隣接する電荷輸送層57は、通常は正孔輸送層であるが、後述する図11のように、陰極側の電荷輸送層が正孔輸送層であってもよい。
図9及び図10に示す有機EL素子100は、2つの電極39(陰極と陽極)を具え、2つの電極39(陰極と陽極)の間に、2層以上の発光層60を具える有機EL素子であって、発光層60の内の1層と、発光層60の内の他の1層との間に、電荷発生層10を具えている。かかる構成の有機EL素子100も、製造が容易で、酸素や水分の存在下でも劣化し難い。加えて、かかる構成の有機EL素子100は、電流効率が高く、長寿命である。
【0082】
図11は、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図11に示す本実施形態の有機EL素子100は、陰極30と陽極90との間に発光層60を有する。また、図11に示す有機EL素子100は、陰極30と発光層60との間に、上記有機材料からなる電荷発生層10を有している。
【0083】
本実施形態の有機EL素子100は、基板20上に、陰極30と、塗布中間層40と、正孔輸送層50と、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料からなる層(p-ドープ層)1と、電子輸送性の材料と電子供与性の材料からなる層(n-ドープ層)2と、発光層60と、正孔輸送層70と、正孔注入層80と、陽極90と、がこの順に形成された積層構造を有する。また、図11においては、p-ドープ層1とn-ドープ層2との間には、電子受容性の材料又は電子供与性の材料のみからなる層(ドーパント層)3が配置されている。また、電荷発生層10と発光層60との間に、電子輸送性の材料のみからなる層が積層されていてもよい。
【0084】
図11に示す有機EL素子100は、基板20と発光層60との間に陰極30が配置された逆構造の有機EL素子である。図11に示す有機EL素子100は、基板20と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板20側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
本実施形態においては、逆構造の有機EL素子を例に挙げて説明するが、本発明の有機EL素子は、図5図10に記載のいずれの構造であってもよい。
【0085】
「基板」
基板20の材料としては、樹脂材料、ガラス材料、セルロース等が挙げられる。基板20に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板20の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子100が得られるため好ましい。一方、基板20に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0086】
有機EL素子100がボトムエミッション型のものである場合には、基板20の材料として、透明基板を用いる。一方、有機EL素子100がトップエミッション型のものである場合には、基板20の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0087】
基板20の平均厚さは、基板20の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。なお、基板20の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0088】
「陰極」
陰極30は、基板20上に直接接触して形成されている。陰極30の材料としては、ボトムエミッション素子の場合には、透明電極であるITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物の導電材料が好ましいが、電子は電荷発生層10で生成されるため、金属酸化物のみならず、金属や有機導電膜、カーボンナノチューブ、グラフェン等、任意の材料を用いることができる。
【0089】
陰極30の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。なお、陰極30の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0090】
「塗布中間層」
図11に示す有機EL素子100においては、リークを抑制する目的で、陰極30の上に塗布中間層40が設けられている。塗布中間層40を設けることで、パーティクル等により電流がリークする(ショートする)こと抑制できる。塗布中間層40には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等の導電性が高い高分子材料を使用でき、例えば、へレウス社製の「Clevios HIL1.3」を使用できる。塗布中間層40の厚さは、数十nm程度が好ましく、10nm~90nmが更に好ましい。塗布中間層40は、例えば、スピンコート法により成膜できる。
【0091】
「正孔輸送層」
図11に示す有機EL素子100においては、直接的な電荷発生に寄与するわけではないが、塗布中間層40の上に正孔輸送層50が設けられている。p-ドープ層1に添加する電子受容性の材料と、陰極30との相互作用を避けるためには、正孔輸送層50があることが好ましい。なお、正孔輸送層50には、上述のp-ドープ層1に用いる正孔輸送性の材料や、後述の正孔輸送層70に用いる材料を使用することができる。
【0092】
「電荷発生層」
電荷発生層10は、上述の通り、正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層(p-ドープ層)1と、電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層(n-ドープ層)2と、を具える。なお、本実施形態においては、p-ドープ層1と、n-ドープ層2とが、ドーパント層3を介して積層されているが、ドーパント層3は、設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0093】
「発光層」
発光層60を形成する材料としては、発光層の材料として通常用いることができる何れの材料を用いてもよく、複数の材料を混合して用いてもよい。例えば、好適態様においては、発光層60として、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ))と、トリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq))と、を含むものとすることができる。
また、発光層60を形成する材料は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0094】
発光層60を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)等のポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)等のポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジイル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル))等のポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)等のポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)等のポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)等のポリシラン系化合物;更には特開2011-184430号公報、特開2012-151148号公報に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0095】
発光層60を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)等の各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)等のベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッド等のナフタレン系化合物;フェナントレン等のフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセン等のクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)等のペリレン系化合物;コロネン等のコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセン等のアントラセン系化合物;ピレン等のピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)等のピラン系化合物;アクリジン等のアクリジン系化合物;スチルベン等のスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェン等のチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾール等のベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエン等のブタジエン系化合物;ナフタルイミド等のナフタルイミド系化合物;クマリン等のクマリン系化合物;ペリノン等のペリノン系化合物;オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)等のシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッド等のキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン等のピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物;フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニン等の金属又は無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報、特開2011-184430号公報及び特開2012-151149号公報に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。
【0096】
発光層60の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。なお、発光層60の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層60の成膜時に測定してもよい。
【0097】
「正孔輸送層」
正孔輸送層70に用いる正孔輸送性有機材料としては、各種p型の高分子材料(有機ポリマー)、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
具体的には、正孔輸送層70の材料として、例えば、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニル-4,4’-ジアミン(DBTPB)、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチエニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂又はその誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送層70の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、正孔輸送層70の材料として用いられるポリチオフェンを含有する混合物として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0098】
正孔輸送層70の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。なお、正孔輸送層70の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0099】
「正孔注入層」
正孔注入層80は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。無機材料は、有機材料と比較して安定であるため、有機材料を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られ易い。無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V)、酸化モリブテン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。一方、有機材料としては、1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)等を用いることができる。
【0100】
正孔注入層80の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。なお、正孔注入層80の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0101】
「陽極」
陽極90に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。これらの中でも、陽極90の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。
【0102】
陽極90の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。また、陽極90の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陽極として使用できる。なお、陽極90の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陽極90の成膜時に測定できる。
【0103】
「封止」
図11に示す有機EL素子100は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、図11に示す有機EL素子100は、有機EL素子を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂などからなるシール材を充填することにより封止してもよい。また、例えば、図11に示す有機EL素子100は、陽極90上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陽極90と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間および枠部材と基板20との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
【0104】
封止容器または封止部材を用いて有機EL素子を封止する場合、封止容器内または封止部材の内側に、水分を吸収する乾燥材を配置してもよい。また、封止容器または封止部材として、水分を吸収する材料を用いてもよい。また、封止された封止容器内または封止部材の内側には、空間が形成されていてもよい。
【0105】
図11に示す有機EL素子100を封止する場合に用いる封止容器または封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器または封止部材に用いられる樹脂材料およびガラス材料としては、基板20に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0106】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、図11に示す有機EL素子の製造方法を説明する。
図11に示す有機EL素子100を製造するには、まず、基板20上に陰極30を形成する。陰極30は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陰極30の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0107】
次に、陰極30上に、場合によっては塗布中間層40及び正孔輸送層50を、そして電荷発生層10を形成する。電荷発生層10は、上述した通り主に2層以上から構成される。
次に、電荷発生層10上に、発光層60と、正孔輸送層70とをこの順で形成する。
【0108】
電荷発生層10、発光層60、正孔輸送層70の形成方法は、特に限定されず、それぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
具体的には、電荷発生層10、発光層60、正孔輸送層70の各層を形成する方法として、電荷発生層10、発光層60、正孔輸送層70となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法等が挙げられる。
【0109】
次に、正孔輸送層70上に、正孔注入層80と、陽極90とをこの順に形成する。
正孔注入層80が有機材料からなるものである場合、正孔注入層80は、例えば、電荷発生層10、発光層60、正孔輸送層70と同様にして形成できる。
また、陽極90は、例えば、陰極30と同様にして形成できる。
以上の工程により、図11に示す有機EL素子100が得られる。
【0110】
「封止方法」
図11に示す有機EL素子100を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0111】
本実施形態の有機EL素子100は、上述した電子輸送性の材料と電子供与性の材料からなる層(n-ドープ層)2を有しているため、電子供与性の材料が電子輸送性の材料のエネルギー準位を変えることにより、隣接する正孔輸送性の材料と電子受容性の材料からなる層(p-ドープ層)1から電子を効率的に引き込むことができ、また、発光層60側から運ばれてくる正孔への阻止性も高い。従って、電荷発生層10内で電子が効率的に発生し、駆動電圧が低い有機EL素子となったり、発光層60から運ばれてくる正孔への阻止性能が高まることで、発光効率が高い有機EL素子となる。
【0112】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、電荷発生層が電子注入層として機能する場合を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、2つの電極間に本発明で記述する電荷発生層を有していればよい。従って、図5図10に記載の構成も、本発明の範囲内となる。
【0113】
また、図11に示す有機EL素子100においては、塗布中間層40、正孔輸送層50、正孔輸送層70、正孔注入層80は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陰極30、塗布中間層40、正孔輸送層50、発光層60、正孔輸送層70、正孔注入層80、陽極90の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0114】
また、図11に示す有機EL素子100においては、図11に示す各層の間に他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層等を有していてもよい。
【0115】
また、上述した実施形態では、基板20と発光層60との間に陰極30が配置された逆構造の有機EL素子を例に挙げて説明したが、図6図10のいずれの構造の有機EL素子であってもよい。
【0116】
本発明の有機EL素子は、発光層等の材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、本発明の有機EL素子は、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0117】
<表示装置>
本発明の表示装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、陰極と陽極との間に電荷発生層を有し、生産性に優れ、発光効率が高く、駆動安定性に優れた本発明の有機EL素子を備える。このため、本発明の表示装置は、製造が容易で、酸素・水分存在下でも劣化し難く、発光特性に優れる。
【0118】
<照明装置>
本発明の照明装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。本発明の照明装置は、生産性に優れ、発光効率が高く、駆動安定性に優れた本発明の有機EL素子を備える。このため、本発明の照明装置は、製造が容易で、酸素・水分存在下でも劣化し難く、発光特性に優れる。
【0119】
<有機薄膜太陽電池>
本発明の有機薄膜太陽電池は、上記の電荷発生層を具えることを特徴とする。例えば、有機薄膜太陽電池に電荷発生層を用いた場合に特に好ましい形態は、図9図10に示す発光層の代わりに光電変換層を用い、吸収波長が異なる複数の光電変換層を、電荷発生層を介して積層するものである。これにより広い波長範囲の光を効率的に電荷に変えることができ、高い発電効率が得られる。また、本発明の有機薄膜太陽電池は、製造が容易で、酸素・水分存在下でも劣化し難い。
【0120】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の電荷発生層は、例えば、センサー等のデバイスに用いることができる。
【実施例
【0121】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
ここでは、通常は陽極として使用される仕事関数が大きいITO上に電荷発生層を形成し、ITO側からの電子発生(電子注入)を検証する。
【0122】
(実施例1)
<有機EL素子の作製>
以下に示す方法により、図11に示す有機EL素子100を製造し、評価した。
【0123】
[工程1]
基板20として、ITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陰極30)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陰極30を有する基板20を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陰極30を有する基板20を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0124】
[工程2]
前記[工程1]で作製したITO電極(陰極30)上に、スピンコートにより、塗布中間層40として、へレウス社製「Clevios HIL1.3」(導電性高分子)を30nm成膜した。
【0125】
次に、塗布中間層40までの各層が形成された基板20を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、下記構造式(10-1)で示される4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA、イオン化ポテンシャル=5.1eV)と、
下記構造式(10-2)で示される2,4,6-トリス(m-ピリジン-3-イル-フェニル)トリアジン(TmPPyTz)と、
下記構造式(10-3)で示される化合物(Py-hpp2)と、
下記構造式(10-4)で示されるビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ))と、
下記構造式(10-5)で示されるトリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq))と、
下記構造式(10-6)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、
下記構造式(10-7)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)と、
Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【化17】
【0126】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、電荷発生層10、発光層60、正孔輸送層70、正孔注入層80、陽極90を連続して形成した。
【0127】
[工程3]
塗布中間層40上に正孔輸送層50として、m-MTDATAを10nm、真空蒸着法により形成した。
【0128】
[工程4]
次に、正孔輸送層50上に、p-ドープ層1として、正孔輸送性の材料であるm-MTDATAと、電子受容性の材料であるHAT-CNを質量比1:1で共蒸着膜を形成した。平均膜厚は10nmであった。
【0129】
[工程5]
次に、p-ドープ層1上に、ドーパント層3として、HAT-CNを10nm、真空蒸着法により形成した。
【0130】
[工程6]
次に、ドーパント層3上に、n-ドープ層2として、電子輸送性の材料であるTmPPyTzと、電子供与性の材料であるPy-hpp2を質量比7:3で共蒸着膜を形成した。平均膜厚は10nmであった。
【0131】
[工程7]
続いて、Zn(BTZ)をホスト、Ir(piq)をドーパントとして30nm共蒸着し、発光層60を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(piq)が発光層60全体に対して6質量%となるようにした。
次に、発光層60まで形成した基板20上に、α-NPDを40nm成膜し、正孔輸送層70を形成した。
さらに、HAT-CNを10nm成膜し、正孔注入層80を形成した。
次に、正孔注入層80まで形成した基板20上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陽極90を成膜した。
【0132】
なお、陽極90は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mmとした。
【0133】
[工程8]
次に、陽極90までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
【0134】
(実施例2)
[工程6]において、電子供与性の材料として下記構造式(10-8)で示されるフェナントロリン系化合物(Phenan-OMe)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製した。
【化18】
【0135】
(実施例3)
[工程6]において、電子供与性の材料として下記構造式(10-9)で示される環状ピリジン系化合物(AzPy)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製した。
【化19】
【0136】
(実施例4)
[工程5]を省略した以外は、実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製した。
【0137】
(実施例5)
[工程7]において、発光層60として、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製した。
【0138】
(比較例1)
[工程6]において、電子供与性の材料であるPy-hpp2を共蒸着しなかった以外は、実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製した。
【0139】
(比較例2)
[工程6]において、電子供与性の材料としてPy-hpp2の代わりに、リチウム錯体である8-キノリノラトリチウム(Liq)を用い、発光層60としてAlqを用いた以外は、実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製した。
【0140】
(有機EL素子の発光特性測定)
作製した有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、印加電圧と電流密度の関係を調べた。更に、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、得られた輝度-電圧-電流値の相関より、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
実施例1と比較例1の比較より、Py-hpp2と電子輸送性の材料を含む電荷発生層から構成されている有機EL素子は、電子輸送性の材料のみで電荷発生層を構成している有機EL素子に比べ、低い駆動電圧・高い発光効率を示していることが分かる。これは、Py-hpp2(塩基材料、ドーパント)が電子輸送性の材料のエネルギー準位を変化させた結果、電子注入性や正孔阻止性が改善した結果であると考えられる。
【0143】
実施例2と比較例1の比較より、Phenan-OMeと電子輸送性の材料を含む電荷発生層から構成されている有機EL素子も、電子輸送性の材料のみで電荷発生層を構成している有機EL素子に比べ高い発光効率を示していることが分かる。これは、Phenan-OMe(塩基材料、ドーパント)が電子輸送性の材料のエネルギー準位を変化させた結果、正孔阻止性が改善した結果であると考えられる。
【0144】
実施例3と比較例1の比較より、AzPyと電子輸送性の材料を含む電荷発生層から構成されている有機EL素子も、電子輸送性の材料のみで電荷発生層を構成している有機EL素子に比べ低い駆動電圧・高い発光効率を示していることが分かる。これは、AzPy(塩基材料、ドーパント)が電子輸送性の材料のエネルギー準位を変化させた結果、電子注入性や正孔阻止性が改善した結果であると考えられる。
【0145】
実施例1と実施例4の比較より、ドーパント層3の有無は、電荷発生に大きな影響がないことが分かる。
【0146】
実施例5と比較例2の比較より、電荷発生に広く用いられてきたアルカリ金属を含む錯体であるLiqをn-ドープ層2に用いた有機EL素子よりも、塩基材料であるPy-hpp2をn-ドープ層2に用いた有機EL素子の方が、低い駆動電圧で高い発光効率が得られており、電子供与性の材料として塩基材料が好適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の電荷発生層は、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池等に利用できる。
【符号の説明】
【0148】
10:電荷発生層
1:正孔輸送性の材料と電子受容性の材料とからなる層(p-ドープ層)
2:電子輸送性の材料と電子供与性の材料とからなる層(n-ドープ層)
3:電子受容性の材料又は電子供与性の材料のみからなる層(ドーパント層)
100:有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子
20:基板
30:陰極
40:塗布中間層
50:正孔輸送層
60:発光層
70:正孔輸送層
80:正孔注入層
90:陽極
45:電子輸送層
39:電極
57:電荷輸送層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11