(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】複合酸化物粉末
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20220913BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220913BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220913BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220913BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20220913BHJP
【FI】
C01G51/00 B
C01G53/00 A
H01M4/86 U
H01M4/90 X
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2022509653
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030323
(87)【国際公開番号】W WO2022029992
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-02-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】碇 和正
(72)【発明者】
【氏名】小川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】上山 俊彦
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-113424(JP,A)
【文献】特開2020-055704(JP,A)
【文献】特開2011-228009(JP,A)
【文献】特開昭63-100001(JP,A)
【文献】特開平04-193701(JP,A)
【文献】CHEN, L. et al.,Perovskite mesoporous LaFeO3 with peroxidase-like activity for colorimetric detection of gallic acid,Sensors and Actuators: B. Chemical,NL,2020年07月24日,Vol.321,128642,doi: 10.1016/j.snb.2020.128642
【文献】SUEHIRO, S. et al.,Synthesis and NOx sensing evaluation of hollow/porous La0.8Sr0.2MnO3 microspheres,RSC Advances,英国,2016年05月27日,Vol.6,pp.53919-53924,doi: 10.1039/c6ra08587c
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00
C01G 49/00
C01G 51/00
C01G 53/00
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 8/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で示される組成を有し、
BET一点法により算出される比表面積値α(m
2/g)と、下記式(2)から算出される比表面積値β(m
2/g)との比α/βが、1.0より大きく1.5以下であって、
前記比表面積値αが
2.5m
2
/g以上20m
2/g以下である、
ことを特徴とする複合酸化物粉末。
ABO
3-δ ・・・(1)
(式中、A:La,Sr,Sm,Ca,Baから選ばれる1種類以上の元素、B:Fe,Co,Ni,Mnから選ばれる1種類以上の元素、0≦δ<1)
比表面積値β(m
2/g)=比表面積値γ-比表面積値ε ・・・・・・(2)
(式中、比表面積値γ(m
2/g):水銀圧入法測定より測定される全細孔径範囲の比表面積値の累積値,比表面積値ε(m
2/g):マイクロトラック粒度分布測定装置により算出される粒度分布における50%累積粒子径(体積換算・D
50)よりも大きい細孔径範囲の比表面積値の累積値)
【請求項2】
下記組成式(1)で示される組成を有し、
BET一点法により算出される比表面積値α(m
2/g)と、下記式(2)から算出される比表面積値β(m
2/g)との比α/βが、1.0より大きく1.5以下であって、
前記比表面積値αが20m
2/g以下であ
り、
前記比表面積値βが1.5m
2
/g以上である
ことを特徴とする複合酸化物粉末。
ABO
3-δ ・・・(1)
(式中、A:La,Sr,Sm,Ca,Baから選ばれる1種類以上の元素、B:Fe,Co,Ni,Mnから選ばれる1種類以上の元素、0≦δ<1)
比表面積値β(m
2/g)=比表面積値γ-比表面積値ε ・・・・・・(2)
(式中、比表面積値γ(m
2/g):水銀圧入法測定より測定される全細孔径範囲の比表面積値の累積値,比表面積値ε(m
2/g):マイクロトラック粒度分布測定装置により算出される粒度分布における50%累積粒子径(体積換算・D
50)よりも大きい細孔径範囲の比表面積値の累積値)
【請求項3】
BET一点法により算出される粉末の比表面積値αが2.5m
2/g以上である請求項
2に記載の複合酸化物粉末。
【請求項4】
前記50%累積粒子径(体積換算・D
50)が0.1μm以上10μm以下の範囲である請求項1~3のいずれかに記載の複合酸化物粉末。
【請求項5】
一般式(1)におけるAサイトに含まれる元素がLaもしくは、LaおよびSrであり、Bサイトに含まれる元素がFe、Co、Niから選ばれる1種類以上の元素である請求項1~4のいずれかに記載の複合酸化物粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の複合酸化物粉末を含み形成される燃料電池用の空気極。
【請求項7】
燃料極と、固体電解質と、空気極とを備えた固体酸化物型燃料電池であって、
前記空気極として請求項6に記載の空気極を用いた固体酸化物型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合酸化物粉末に関し、より詳細には、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell、以下、単に「SOFC」ということがある。)の空気極材料として好適に用いられる複合酸化物粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SOFCは、種々のタイプの燃料電池のなかでも発電効率が高く、また多様な燃料が使用可能なこと等から、環境負荷の少ない次世代の発電装置として開発が進められている。SOFCの単セルは、多孔質構造の空気極(カソード)と、酸化物イオン伝導体を含む緻密な固体電解質と、多孔質構造の燃料極(アノード)とがこの順に積層された構造を有する(
図2を参照)。SOFCの作動時には、空気極に空気等のO
2(酸素)含有ガスが、燃料極にH
2(水素)等の燃料ガスが、それぞれ供給される。この状態で、SOFCに電流を印加すると、空気極でO
2が還元されてO
2-アニオン(酸素イオン)となる。そして、このO
2-アニオンが固体電解質を通過して燃料極に到達し、H
2を酸化して電子を放出する。これによって、電気エネルギーの生成(すなわち発電)が行われる。
【0003】
このようなSOFCの動作温度は従来800℃~1000℃程度であったが、近年、SOFCの動作温度の低温化が図られている。とはいうものの、実用化されているSOFCの最低温度は600℃以上と依然として高温である。
【0004】
このようなセル構造と高い動作温度のため、SOFCの空気極の材料には、基本的に、酸素イオン導電性が高く、電子伝導性が高く、熱膨張が電解質と同等あるいは近似し、化学的な安定性が高く、他の構成材料との適合性が良好であり、焼結体が多孔質であり、一定の強度を有することなどの特性が要求される。
【0005】
このようなSOFCの空気極の材料として、ランタンストロンチウム鉄コバルタイト(LSCF)やランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)等のペロブスカイト型複合酸化物が検討されている。
【0006】
こうした空気極の構成としては、高活性材料の利用やナノ粒子からなる触媒を使用して電極の反応抵抗を低減するものが多かった。しかし、高温領域(700℃以上)では気体(燃料ガスあるいは空気)の平均自由行程(粒子が散乱源による散乱(衝突)で妨害されること無く進むことのできる距離)が長くなるため、電極の反応抵抗と並んで大きな電極過電圧要因になり得ることが知られている。そのため、ガスの拡散性を向上させながら、電極の反応性を損なわない電極の実現による電気化学反応セルの一層の高電圧密度化が望まれつつある。
【0007】
その改善のためには、電極の気孔率(開口率)を制御することにより、ガス拡散性の改善を図る技術が検討されている(特許文献1および特許文献2)。一方で上述したとおり、電極における反応抵抗も高電圧密度化を達成するためには必須であり、電極材料の低抵抗化はさらに向上させる必要がある。そういった要請に応える粉末として本出願人は、特定の磁気特性を有した複合酸化物粉末を先に提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6664132号公報
【文献】特開2010-251070号公報
【文献】特開2020-055704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物材料は、結晶構造として、複数の異なる金属イオンを含むことが可能な複合酸化物材料であるため、SOFCの空気極材料としてのみならず様々な技術分野での使用が検討されつつある。ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物材料は、含有する金属イオンの大きさ、イオン価数、更に、結晶内での電気的中性を維持するための酸素欠陥構造により、電磁気学的に種々の機能特性を有し、近年、誘電体としては、工業的な電子デバイスにおいて、例えば、メモリ、キャパシタ、波長変換素子等の種々の利用が期待されている。
【0010】
また、導電性ペロブスカイト型複合酸化物材料は、その電子伝導性を利用し、種々の電子デバイスにおけるセラミック電極としての利用にも大きな可能性があり、小型電子機器等で利用されているリチウム電池の負極や、高速蓄電型のスーパーキャパシタの蓄電電極への応用も試みられている。
【0011】
更に、ペロブスカイト型複合酸化物材料は、その酸素欠陥における反応を利用して、例えば、石炭燃焼発電所や化学プラントにおいて酸素ガス分離フィルターとして用いれば、排出ガスから地球温暖化ガスの一つであるNOX等の不純物を削減するのに貢献し得るものとして注目されている。
【0012】
このようにペロブスカイト型複合酸化物粉末に要求される特性も多様化しており、用途によってはこれまでにない特性評価が加わりつつある。
【0013】
ここで、特に燃料電池の電極材料として利用する際には、できる限り燃料となる気体との接触面積を広くするために、電極材料の内部の通り道となる気孔ができるだけ多いことが望まれる。しかし、気孔が多い場合には、単位体積当たりの電極材料そのものの存在量が少なくなるため、導電性に影響を及ぼすことが懸念される。一方、特許文献3で提案した技術では一定の導電性改善効果は見られるものの、粒子そのものについての改善をさらに行うことができれば、より高電圧密度の達成が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは種々の検討により次に示すような粉末であれば、前記の課題は解決可能であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、第1の発明に係る複合酸化物粉末は、下記組成式(1)で示される組成を有し、BET一点法により算出される比表面積値α(m2/g)と、下記式(2)から算出される比表面積値β(m2/g)との比α/βが、1.0より大きく1.5以下であって、比表面積値αが20m2/g以下であることを特徴とする。
ABO3-δ ・・・(1)
(式中、A:La,Sr,Sm,Ca,Baから選ばれる1種類以上の元素、B:Fe,Co,Ni,Mnから選ばれる1種類以上の元素、0≦δ<1)
比表面積値β(m2/g)=比表面積値γ-比表面積値ε ・・・・・・(2)
(式中、比表面積値γ(m2/g):水銀圧入法測定より測定される全細孔径範囲の比表面積値の累積値,比表面積値ε(m2/g):マイクロトラック粒度分布測定装置により算出される粒度分布における50%累積粒子径(体積換算・D50)(以下、「平均粒子径D50」と記すことがある。)よりも大きい細孔径範囲の比表面積値の累積値)
【0015】
第2の発明は第1または第2の発明において、BET一点法により算出される粉末の比表面積値αが2.5m2/g以上であるのが好ましい。
【0016】
第3の発明は第1の発明において、比表面積値βが1.5m2/g以上であるのが好ましい。
【0017】
第4の発明は第1ないし第3の発明において、前記50%累積粒子径(体積換算・D50)が0.1μm以上10μm以下の範囲であるのが好ましい。
【0018】
第5の発明は第1ないし第4の発明のいずれかの発明において、前記式(1)におけるAサイトに含まれる元素がLaもしくは、LaおよびSrであり、Bサイトに含まれる元素がFe、Co、Niから選ばれる1種類以上の元素であるのが好ましい。
【0019】
第6の発明に係る燃料電池用の空気極は、第1ないし第5の発明により得られた複合酸化物粉末を含み形成されることを特徴とする。
【0020】
第7の発明に係る固体酸化物型燃料電池は、燃料極と、固体電解質と、空気極とを備え、前記空気極として第6の発明に係る空気極を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より導電性の高いペロブスカイト型複合酸化物粉末が実現可能となる。このようなペロブスカイト型複合酸化物粉末を用いることで、導電性の高い燃料電池の空気極および燃料電池を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1の複合酸化物粉末の細孔分布測定結果である。
【
図2】固体酸化物型燃料電池の一例を模式的に示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るペロブスカイト型構造を有する複合酸化物粉末の大きな特徴の一つは、BET一点法により算出される比表面積値α(m2/g)と、前記式(2)から算出される比表面積値β(m2/g)との比α/βが1.0よりも大きく、1.5以下の範囲であることである。BET一点法による複合酸化物粉末の比表面積測定は、マイクロポア~メソポアの細孔の比表面積を計測するのに対して、水銀圧入法による複合酸化物粉末の比表面積測定は、メソポア~マイクロポアの細孔の比表面積を計測するので、両測定方法の比表面積値の比α/βはマイクロポアの割合を示す指標となる。α/βが小さいと気孔率を維持したまま導電率を向上させることは困難である。逆にα/βが大きいとマイクロポアの割合は多くなるが、粒子内の抵抗が高くなるため、効率的に導電率を向上させることは困難である。そこで本発明ではα/βを1.0よりも大きく1.5以下の範囲と定めた。これにより、導電率の向上を図ることができる。より好ましいα/βは1.1以上1.35以下の範囲である。なお、本発明におけるBET一点法により算出される比表面積値α(m2/g)は、吸着ガスとして窒素を用いて計測される値である。
【0024】
なお、本発明では、水銀圧入法測定による比表面積値β(m2/g)を算出するときに水銀圧入法測定より測定される全細孔径範囲の比表面積値の累積値である比表面積値γ(m2/g)と、マイクロトラック粒度分布測定装置により算出される粒度分布における50%累積粒子径(体積換算・D50)よりも大きい細孔径範囲の比表面積値の累積値である比表面積値ε(m2/g)を算出し、「比表面積値β=比表面積値γ-比表面積値ε」により算出したのは、水銀圧入法測定より測定される全細孔径範囲の比表面積値の累積値である比表面積値γは、粒子の細孔だけでなく、粒子間の隙間をも累積した比表面積値になってしまうので、平均粒子径D50よりも大きい細孔径範囲の比表面積値の累積値である比表面積値εを引くことで前記粒子間の隙間を排除した比表面積値にするためである。
【0025】
本発明に係るペロブスカイト型構造を有する複合酸化物粉末のもう一つの大きな特徴は、BET一点法により算出される比表面積値αが20m2/g以下であることである。BET一点法により算出される比表面積値αが20m2/gよりも大きいと、複合酸化物粉末を空気極として形成する場合に複合酸化物粉末をスラリー化あるいは塗料化した際の粘度が高くなって塗布性に悪影響がでるおそれがある。比表面積値αの好ましい上限値は8.0m2/gである。一方、粒子表面に細孔が適度な量存在しなければ、複合酸化物粉末を空気極とした場合に酸素含有ガスとの接触面積を増やすことができず、燃料電池における交換効率が低下するので比表面積値αは2.5m2/g以上であるのが望ましい。
【0026】
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末の平均粒子径D50は0.1μm以上10.0μm以下の範囲が好ましく、より好ましい平均粒子径D50の下限値は0.5μmである。本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末の粒度分布は、一山分布の粒度分布を有するのが好ましい。
【0027】
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末では、比表面積値βは1.5m2/g以上であるのが好ましく、より好ましくは2.0m2/g以上である。また比表面積値βの好ましい上限値は20m2/gであり、より好ましくは15m2/g、一層好ましくは10m2/gである。
【0028】
本発明に係る複合酸化物粉末の組成は前記式(1)で示される組成である。すなわち、一般式ABO3―δで示され、AはLa(ランタン),Sr(ストロンチウム),Sm(サマリウム),Ca(カルシウム),Ba(バリウム)から選択される1種以上の元素であり、BはFe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Mn(マンガン)から選択される1種以上の元素である。より具体的には、La、Sr、Co、Feを含む(La,Sr)(Co,Fe)O3―δ系複合酸化物(以下、「LSCF」と記すことがある。)、La、Sr、Coを含む(La,Sr)CoO3―δ系複合酸化物(以下、「LSC」と記すことがある。)、La、Sr、Mnを含む (La,Sr)MnO3―δ系複合酸化物(以下、「LSM」と記すことがある。)、La、 Ni、Coを含む(La,Ni)CoO3―δ系複合酸化物(以下、「LNC」と記すことが ある。)、La、Ni、Feを含む(La,Ni)FeO3―δ系複合酸化物(以下、「LNF」と記すことがある。)、Sr、Sm、Coを含む(Sr,Sm)CoO3―δ系複合酸化物(以下、「SSC」と記すことがある。)を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。これらのペロブスカイト型複合酸化物は、電子導電性を持ち、例えば、吸着剤、触媒担体、分離膜、燃料電池等の酸素極、キャパシタ等の電極 、機能性フィルターの部材、更には、ガスセンサー、リチウム蓄電デバイス、色素増感型太陽電池等としての利用も可能である。
【0029】
これらの中でも下記式で示されるLSCF、LCNが、固体酸化型燃料電池の空気極の材料として使用する場合には好適である。一般式としてLSCFは(La1-xSrx)aCoyFe1-yO3―δ(式中、0.2≦x≦0.5,0.1≦y≦0.6,0.9≦a≦1.1)である。また、LCNはLaCoyNi1-yO3―δ(式中、0.1≦y≦0.6)である。なお、AサイトのLa、およびBサイトのCo、Fe、Niは特性調整のためにさらにほかの元素により置換される場合もある。
【0030】
なお、酸素の組成は化学量論的には3であるが、場合によっては一部欠損していてもよいし、あるいは過剰に存在していてもよい。δは0を含む酸素欠損量を示し、δの値の範囲は0≦δ<1である。また本発明に係る複合酸化物は主成分としてペロブスカイト型構造を有していればよく、他に原料などに起因する不可避の不純物相が存在していてもよい。
【0031】
次に、本発明に係る複合酸化物粉末の製造方法について具体的に説明する。本発明の係る複合酸化物粉末は乾式製法と湿式製法のいずれでも製造することができる。
【0032】
<乾式製法>
乾式製法では下記の工程を経て複合酸化物粉末が作製される。なお、乾式製法工程(b)の「原料を乾燥する工程」については省略することが可能である(後述の実施例4を参照)。
乾式製法工程(a):原料を混合し粉砕する工程
乾式製法工程(b):原料を乾燥する工程
乾式製法工程(c):焼成する工程
乾式製法工程(d):焼成物を粉砕する工程
乾式製法工程(e):乾式粉砕物を湿式粉砕する工程
乾式製法工程(f):粉砕スラリーを分散する工程
乾式製法工程(g):乾燥工程
【0033】
以下、乾式製法の各工程について順に説明する。
【0034】
乾式製法工程(a):原料を混合し粉砕する工程
(秤量)
目的の組成のペロブスカイト型構造を有する複合酸化物が生成されるように所定の各成分原料を秤量する。成分原料は、通常使用されるものを好適に使用することができる。例えば、La、Sr、Co、FeやLa、Ni、Coを含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩などが挙げられる。これらの中でも環境的な側面及び入手し易さの理由から、炭酸塩、水酸化物または酸化物が特に好ましい。また、成分原料は1つの元素につき炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩などから選ばれた任意の2種類以上の化合物を元素源として選択することもできる。
【0035】
(粉砕)
所定量を秤量した各成分原料を乾式で粉砕しても良いし、各成分原料を純水と混合して粉砕してもよい。
【0036】
湿式粉砕はビーズミルで行うのが好ましい。粉砕メディアの素材は、機械的強度の高いものならば限定せずに使用できる。具体的には、強度が高いZrO2ビーズが好ましい。また、ZrO2はFe等の元素に比べ、例えコンタミネーションが発生しても許容される範囲が大きい。従って、当該コンタミネーションの観点からもZrO2ビーズが好ましい。ビーズ径が直径2.0mm以下であると粉砕効率を担保出来るので好ましい。
【0037】
乾式製法工程(b):原料スラリーを乾燥する工程
(乾燥)
前記湿式処理後の原料スラリーを乾燥する。蒸発乾固で乾燥させる方法を採用する事も出来るし、乾燥し造粒させる方法(例えばスプレードライヤーなど)を採用することも出来る。乾燥する際の乾燥温度は60℃以上350℃以下、好ましくは100℃以上250℃以下とするのが良い。この範囲を極端に外れた状態で乾燥させると、一部がペロブスカイト化するおそれ、もしくは乾燥しきらずに粉末中に水分が残ることがあるので好ましくない。
【0038】
乾燥した粉末は粉砕を行うことで、微細化処理することが出来る。粉砕は、後述の焼成工程を経てから行っても構わない。上述の乾燥工程においてスプレードライヤーにより乾燥させた場合には、粉砕を要しない場合もある。粉砕に用いる解砕装置としては、例えば、乳鉢、サンプルミル、ヘンシェルミキサー、ハンマーミル、ジェットミル、パルペライザー、インペラーミルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
乾式製法工程(c):焼成する工程
(焼成)
作製した乾燥粉は焼成炉にて焼成される。焼成炉は、熱源として電気式又はガス式のシャトルキルン、ローラハースキルン、ロータリーキルンなど従来公知のものが使用できる。焼成温度は、複合酸化物粉末を構成する粒子の粒子内部の充填率を上げ、当該粒子の導電率を上げる観点から850℃以上1600℃以下の範囲が望ましい。また、特に導電率を上げる観点から焼成温度は900℃以上がより好ましい。また、焼成温度が1500℃以下であると焼成後の造粒物の解粒が容易となるため好ましい。さらに好ましくは1300℃以下である。室温から焼成温度になるまでの時間を含み焼成時間は30分以上24時間以下が好ましい。
【0040】
乾式製法工程(d):焼成物を粉砕する工程
(粉砕)
次に、作製した焼成物を粉砕する。より詳細には焼成物を乾式粉砕する。焼成物を粉砕する装置としてはインパクトミル、サンプルミル、ヘンシェルミキサー等を用いることができ、これらの中でもサンプルミルが好適に使用される。サンプルミルの回転数としては9000rpm以上18000rpm以下の範囲が好ましい。なお、サンプルミルの回転数と粉砕時間は、焼成工程における焼成温度と焼成時間とに関連し、焼成温度が高くまた焼成時間が長いほど、サンプルミルの回転数は大きく粉砕時間は長くするのが望ましい。
【0041】
工程(e):乾式粉砕物を湿式粉砕する工程
次に、乾式粉砕物を、湿式粉砕によりさらに微細化する。湿式粉砕法としては、湿式ボールミル、サンドグラインダー、アトライター、パールミルなどで湿式粉砕を行うことができる。特に、サンドグラインダーとパールミルを使用することが好ましい。
【0042】
乾式製法工程(f):粉砕スラリーを分散する工程
得られた湿式粉砕後のスラリーは、BET一点法により算出される焼成物の比表面積値を大きくするため湿式分散を行う。湿式分散法としては、ホモミクサー、超音波ホモジナイザー、圧力ホモジナイザー、アルティマイザーなどで、且つ工程(e)とは異なった装置を用いて湿式分散を行うことにより、上述の条件に沿ったペロブスカイト型複合酸化物を構成することができる。
とりわけ、強い剪断力を有した分散機を用いて処理を実施した方が適切に粒子表面を調整できるので適当である。剪断力の強弱は、攪拌翼を有する装置であれば、攪拌翼の周速度で評価することができ、本発明において、「強い剪断力」とは、周速度が5.0(m/s)以上、好ましくは7.5(m/s)以上、一層好ましくは10.0(m/s)以上のものを指す。
タービン・ステータ型攪拌機として知られるプライミクス株式会社のT.K.ホモミクサー(登録商標)、IKA社のUltra-Turrax(登録商標)などが例示でき、コロイドミルとしては、プライミクス株式会社のT.K.マイコロイダー(登録商標)、T.K.ホモミックラインミル(登録商標)、T.K.ハイラインミル(登録商標)や、株式会社ノリタケカンパニーリミテドのスタティックミキサー(登録商標)、高圧マイクロリアクター(登録商標)、高圧ホモジナイザー(登録商標)等が例示できる。粒子の大きさが小さくなると、スラリー粘度の上昇が見られるため、所望するスラリー条件を調整し、後の工程の処理効率向上を図ることができるようになる。例えばホモミキサーを使用する場合においては攪拌回転数を高くすることで粒子の大きさを小さくすることができる。こうした工程の付加により湿式分散粉砕による強い剪断力を有した分散機を用いて処理を実施した方が適切に凝集粒子を低減できるので適当である。微細化を行うことで、BET/細孔表面積を調整することができる。乾式粉砕では、微細な粉砕ができないため好ましくない。
【0043】
乾式製法工程(g):乾燥工程
得られた粉砕物は必要に応じてスラリーから分離して、洗浄を行った後、粉砕物乾燥体を得る。スラリーから分離する方法としては、例えばろ過分離、フィルタープレスによる分離回収やスプレードライなどにより直接乾燥する方法のいずれも採用することができる。乾燥温度は100℃以上350℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以上300℃以下である。この乾燥温度範囲を極端に外れた温度で乾燥させると、一部が焼結するおそれ、もしくは乾燥しきらずにペロブスカイト粉末中に水分が残るおそれがあるので好ましくない。
【0044】
<湿式製法>
湿式製法では下記の工程を経て複合酸化物粉末が作製される。
湿式製法工程(a):前駆体を形成する工程
湿式製法工程(b):原料スラリーを分散する工程
湿式製法工程(c):原料を乾燥する工程
湿式製法工程(d):焼成する工程
湿式製法工程(e):粉砕する工程
【0045】
以下、湿式製法の各工程について順に説明する。
【0046】
湿式製法工程(a):前駆体を形成する工程
製造方法としては、一般式ABO3―δで示され、AはLa(ランタン),Sr(ストロンチウム),Sm(サマリウム),Ca(カルシウム),Ba(バリウム)から選択される1種以上の元素であり、BはFe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Mn(マンガン)から選択される1種以上の元素を含む、硝酸塩もしくは炭酸塩などの原料を水または酸に溶解した原料溶液を、予め準備しておいたアンモニア水、炭酸アンモニウムなどのアルカリ溶液に添加し、中和反応を行い、ペロブスカイト型複合酸化物の中和生成物を含有するスラリーを生成する方法を採用することが出来る。
【0047】
生成させる中和生成物としては、炭酸を含ませておくことが好ましい。こうすることによって、中和生成物(本明細書では「前駆体」という場合もある。)を分離回収した際に空気中の二酸化炭素と反応して局部的に炭酸塩化し結晶化することが抑制される。その結果、後の工程でペロブスカイト化した際の不純物相の析出が抑制されることになるので好ましい。この系内への炭酸の添加は炭酸塩としての添加でよい。このようにして得られた中和生成物は、各元素が均一に混合された非晶質のナノ粒子であるため、焼成時に元素の拡散が容易になり単相化および結晶子の成長を促す効果が得られる。
【0048】
中和生成物を形成させるときの温度は60℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以下、一層好ましくは40℃以下である。こうした温度設定にすることで、液中に含まれる炭酸やアンモニアなどのガスとなりやすいものが液中から気散するので、中和生成物を好適に得ることが出来る。本実施形態で得られたペロブスカイト型複合酸化物の中和生成物は、各元素が均一に混合された非晶質のナノ粒子であるため、焼成時に元素の拡散が容易になり単相化および結晶子の成長を促す効果が得られる。
【0049】
湿式製法工程(b):原料スラリーを分散する工程
得られたスラリーは、BET一点法により算出される焼成物の比表面積を大きくするため、湿式分散することが適当である。湿式分散法の例としては、乾式製法工程(f)で例示した装置を使用することができる。原料である非晶質のナノ粒子を強い剪断力で分散する事で製品のα/β比を調整することが可能となる。
とりわけ、タービン・ステータ型攪拌機として知られるプライミクス株式会社のT.K.ホモミクサー(登録商標)、IKA社のUltra-Turrax(登録商標)などが例示でき、コロイドミルとしては、プライミクス株式会社のT.K.マイコロイダー(登録商標)、T.K.ホモミックラインミル(登録商標)、T.K.ハイラインミル(登録商標)や、株式会社ノリタケカンパニーリミテドのスタティックミキサー(登録商標)、高圧マイクロリアクター(登録商標)、高圧ホモジナイザー(登録商標)等が例示できる。例えばホモミクサーを使用する場合においては攪拌回転数を高くすることで凝集粒子を効果的に低減することができる。
【0050】
湿式製法工程(c):原料を乾燥する工程
得られた中和生成物は必要に応じてスラリーから分離して、洗浄を行った後、乾燥を行い中和生成物を乾燥させた前駆体を得る。スラリーから分離する方法としては、例えばろ過分離、フィルタープレスによる分離回収やスプレードライやフリーズドライなどにより直接乾燥する方法のいずれも採用することができる。ろ過分離やフィルタープレスについては、公知の方法をいずれも採用することができる。また、直接乾燥する際、得られる前駆体を所望の大きさなどに調整するために、pH調整を行ってもよい。pH調整の際には、乾燥凝集体にアルカリ金属、アルカリ土類金属など不純物の残存を避けるため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属を含むような調整剤を用いるよりは、乾燥時に揮散して残存する虞の少ないアンモニア等で調整することが好ましい。中和生成物を乾燥する際の乾燥温度は150℃以上350℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以上300℃以下である。この乾燥温度範囲を極端に外れた温度で乾燥させると、一部がペロブスカイト化するおそれ、もしくは乾燥しきらずに前駆体粉末中に水分が残るおそれがあるので好ましくない。
【0051】
湿式製法工程(d):焼成する工程
次に、乾燥された前駆体を熱処理(焼成)することによって、ペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物を得る。この焼成温度は、ペロブスカイト型の結晶構造を得られる限り特に限定されないが、複合酸化物粉末を構成する粒子の粒子内部の充填率を上げ、当該粒子の導電率を上げる観点から850℃以上1600℃以下の範囲が望ましい。また、特に導電率を上げる観点から焼成温度は900℃以上がより好ましい。また、焼成温度が1500℃以下であると焼成後の造粒物の解粒が容易となるため好ましい。さらに好ましくは1300℃以下である。室温から焼成温度になるまでの時間を含み焼成時間は30分以上24時間以下が好ましい。
【0052】
湿式製法工程(e):粉砕する工程
次に、焼成後の造粒物(焼成物)を粉砕する。粉砕は、湿式粉砕、乾式粉砕のどちらでもよいし、湿式粉砕、乾式粉砕の一方のみでもよいし、両方を実施してもよい。なお、湿式粉砕を行う場合、多段階で湿式粉砕を実施してもよい。
【0053】
焼成物を乾式粉砕する装置としてはインパクトミル、サンプルミル、ヘンシェルミキサー等を用いることができ、これらの中でもサンプルミルが好適に使用される。サンプルミルの回転数としては9000rpm以上18000rpm以下の範囲が好ましい。なお、サンプルミルの回転数と粉砕時間は、焼成工程における焼成温度と焼成時間とに関連し、焼成温度が高くまた焼成時間が長いほど、サンプルミルの回転数は大きく粉砕時間は長くするのが望ましい。
【0054】
また、湿式粉砕法としては、湿式ボールミル、サンドグラインダー、アトライター、パールミル、超音波ホモジナイザー、圧力ホモジナイザー、アルティマイザーなどで湿式粉砕又は湿式破砕を行うことにより、上述の条件に沿ったペロブスカイト型複合酸化物を構成することができる。特に、パールミルを使用することが好ましい。湿式での粉砕を行うにあたりパールミルを選択するときには、知られている縦型流通管式ビーズミル、横型流通管式ビーズミル、強粉砕型突流式ビスコミルなどの既存の湿式粉砕機のいずれでも粉砕可能であるが、好ましくは横型流通管式ビ-ズミルを使用する。横型流通管式ビーズミルは縦型流通管式ビーズミルと比較してベッセル内に滞留している間は均一に粉砕が行われ、同一流量においてより均一な粉砕が可能となるため好適である。また、横型流通管式ビーズミルは強粉砕型突流式ビスコミルよりも処理流量が大きいため経済的に好ましい。粉砕メディアとしてはガラス、セラミック、アルミナ、ジルコニア等の硬質原料で製造されたボールを使用すると良い。また、溶媒として水またはエタノールなどを用い、焼成物を投入しビーズミルなどを用いることができる。また、湿式粉砕で得られた粉砕物は必要に応じてスラリーから分離して、洗浄を行った後、粉砕物乾燥体を得る。スラリーから分離する方法としては、例えばろ過分離、フィルタープレスによる分離回収やスプレードライやフリーズドライなどにより直接乾燥する方法のいずれも採用することができる。乾燥温度は100℃以上350℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以上300℃以下である。
【0055】
(固体酸化物型燃料電池用空気極)
以上説明した複合酸化物粉末は、固体酸化物型燃料電池の空気極として好適に使用される。すなわち、本発明の複合酸化物粉末を成型体として焼結することにより、その成型焼結体は、固体酸化物型燃料電池用空気極として好適に使用することができる。
【0056】
焼結体を形成する手段としてはそれ自体公知の手段が適用される。例えば、まず、本発明の複合酸化物粉末をバインダーと混合し、一定の体積を有する金型に充填し、上から圧力をかけることにより、当該粉末の成型体を作成する。圧力をかける方法は、機械的一軸プレス、冷間等方圧(CIP)プレスなど特に限定されない。次に、この成型体を熱処理し焼結体を得る。熱処理温度は、1000℃以上1450℃以下の範囲が好ましい。熱処理温度が1000℃以上では成型体の機械的強度が十分に保たれ、また1450℃以下であると、生成した複合酸化物粉末の一部が分解して、不純物を形成し、組成が不均一となるおそれがないので好ましい。熱処理時間は2時間以上24時間以下が好ましい。
【0057】
(気孔率)
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末が空気極材料として用いられると、焼結によって空気極とされたときに微小な気孔が数多く形成され高い開気孔率が得られると共に高い導電率が得られる。ペロブスカイト型複合酸化物粉末を段落(0078)に記載の方法で作製した焼結体の気孔率が25%以上あれば燃料電池の空気極として利用することができる。
【0058】
(固体酸化物型燃料電池,SOFC)
固体酸化物型燃料電池について説明する。
図2は、固体酸化物型燃料電池の一例を模式的に示した断面構成図である。支持体となる薄板状あるいはシート状の燃料極1と、燃料極1の表面に形成された固体電解質2と、固体電解質2の表面に形成された薄板状あるいはシート状の空気極3とが積層された構造を有する。
【0059】
そして、燃料極1に燃料ガス(典型的には水素(H2)であるが炭化水素(メタン(CH4))等でもよい。)を供給し、空気極3に酸素(O2)を含む気体(空気)を流し、燃料電池に電流を印加すると、空気極3において、空気中の酸素が、酸化物イオンとなる。酸化物イオンは、空気極3から固体電解質2を介して燃料極1に供給される。そして、該燃料極1において、燃料ガスと反応して水(H2O)を生成し、電子を放出し、発電が行われる。
【0060】
SOFCは、適用する燃料電池の構成や製造プロセスにもよるが、燃料極、固体電解質等の積層体を予め作製し、その積層体の上に、印刷法や蒸着等によって、上記空気極材料を含む層を形成し焼結させることで空気極が形成され、燃料電池が作製される。
【0061】
空気極の膜厚はセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、例えば20μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0062】
固体電解質層としては、上記空気極材料に用いる電解質材料を用いることができ、例えば、希土類元素ドープセリア系固体酸化物電解質や、希土類元素ドープジルコニア系固体酸化物電解質が挙げられる。
【0063】
固体電解層の膜厚は、固体電解質層の緻密性が維持される程度に厚くする一方、燃料電池として好ましい酸素イオン又は水素イオンの伝導度を供し得る程度に薄くなるよう、両者をバランスさせて設定され、0.1μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上20μm以下がより好ましい。
【0064】
燃料極としては、多孔質構造を有し、供給される燃料ガスと接触できるように構成されていればよく、従来から固体酸化物型燃料電池に用いられている材料を使用することができる。例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等からなる金属および/または金属元素のうちの1種類以上から構成される金属酸化物が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
燃料極の膜厚は、耐久性、熱膨張率等から20μm以上1mm以下が好ましく、20μm以上250μm以下であることがより好ましい。
【0066】
なお、SOFCの構造は、従来公知の平型、多角形型、円筒型(Tubular)あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)等とすることができ、形状やサイズは特に限定されない。また、平型のSOFCとしては、燃料極支持型(ASC:Anode-Supported Cell)の他にも、例えば電解質を厚くした電解質支持型(ESC:Electrolyte-Supported Cell)や、空気極を厚くした空気極支持型(CSC:Cathode-Supported Cell)等を用いることができる。その他、燃料極の下に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(MSC:Metal-Supported Cell)とすることもできる。
【0067】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。なお、各実施例、比較例にかかる製造条件および得られたサンプルの物理特性は表1に併せて記載した。
【0068】
(実施例1)
湿式製法工程(a):前駆体を形成する工程
硝酸に酸化ランタンを溶解させた溶液(La濃度:14.88質量%、NO3
-:270g/L)243gと、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)39gと、硝酸鉄九水和物(Fe(NO3)3・9H2O)142gと、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)27gをそれぞれイオン交換水550gに溶解させ、硝酸塩の混合溶液Aを作成した。
【0069】
また、イオン交換水2700gと炭酸アンモニウム190gを反応槽に入れ、撹拌しながら水温を25℃になるよう調整した。この炭酸アンモニウム溶液中に、硝酸塩の混合溶液Aを徐々に加えて中和反応を行い、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させた後、この前駆体を30分間熟成させて反応を完了させた。
【0070】
湿式製法工程(b):原料スラリーを分散する工程
このようにして得られた前駆体を濾過した後に水洗し、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を使用して、8000rpmで5分間乳化分散させ、原料粉末の分散スラリーを得た。高速乳化・分散機の撹拌翼の周速度は12.57(m/s)とした。
【0071】
湿式製法工程(c):原料を乾燥する工程
分散スラリーから固形物を分離回収した。得られたウエットケーキを直径5mmの細長い円柱形のペレット状に成形した。この成形後直ぐにペレット状の成形体に空気を通風しながら250℃で2時間加熱して乾燥させ、黒色の乾燥粉末を得た。
【0072】
湿式製法工程(d):焼成する工程
得られた乾燥粉末50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から990℃(焼成温度)まで昇温し、焼成温度で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0073】
湿式製法工程(e):粉砕する工程
得られた焼成物20gを協立理工株式会社製サンプルミル粉砕装置(機種名:SK-M10)を用いて、回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し乾式粉砕処理をすることで、実施例1に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0074】
(組成分析)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製の720ES)によって組成分析を行った。
【0075】
(BET一点法による比表面積測定)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末について、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック社製のHM model―1210)を用いて窒素吸着によるBET一点法で測定した。なお、当該BET一点法による測定において、測定前の脱気条件は105℃、20分間とした。
【0076】
(水銀圧入法測定)
水銀圧入法による細孔の状況測定は、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の試料0.3~0.5gをMicrometitics Instrument Corporation社製のAutoPore V 9620型を用いて0.4~30000psiaの範囲で測定した。
・測定装置:Auto Pore V 9620型
・測定圧力:0.4psia~30000psia
・ステップ数:65
・測定モード:自動測定
・水銀接触角:130°
・水銀表面張力:485dyne/cm
・測定試料質量:0.3g~0.5g
・測定温度:22℃
水銀圧入法では粒子間の隙間も計測されるので、粒子間の隙間を除くため、水銀圧入法測定による比表面積値β(m2/g)は、水銀圧入法測定より測定される全細孔径範囲の比表面積値の累積値である比表面積値γ(m2/g)と、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の平均粒子径D50よりも大きい細孔径範囲の比表面積値の累積値である比表面積値ε(m2/g)を算出し、「比表面積値β=比表面積値γ-比表面積値ε」により算出される。ただし、水銀圧入法のデータ収集が断続的になっている場合には、比表面積値εはペロブスカイト型複合酸化物粉末の平均粒子径D50よりも大きい値を下限とする。例えば、データが細孔径0.76μm、0.61μm、0.49μmのときの比表面積値がそれぞれ算出され、平均粒子径D50が0.7μmの場合、比表面積値εを算出するための細孔径の下限は0.76μmとされ、0.76μm以上の比表面積値の累積値(比表面積値ε)が算出される。
【0077】
(50%累積粒子径(体積換算・D50),平均粒子径D50)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末0.15gを、500ppmのヘキサメタリン酸ナトリウムを含有する水60mLに添加し、超音波ホモジナイザーにより2分間分散させて得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末を含むスラリーを使用して、このペロブスカイト型複合酸化物粉末の50%累積粒子径(体積換算・D50)をマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のMT3300EXII)により(粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率を1.333、計算モードをMT3000IIとして)測定した。
【0078】
(焼結体の作成と導電率測定)
空気極の導電率測定は、空気極材料をペレット化し、ソースメータ(ケースレーインスツルメンツ株式会社製 Series 2400 Source Meter)を用いて導電率を測定した。具体的には、ペレット作製用プレス装置を用いて、ペロブスカイト型複合酸化物粉末を成形圧力4MPaで加圧してペレット状の成形体を得る。その成形体を5℃/minで昇温し、1050℃で2時間保持後に自然降温させて導電率測定用ペレットを得る。得られたペレットに直径0.2mmの白金線を両端及び内側において3.5mmの間隔になるよう計4か所に巻き付ける。試料面と白金線を銀ペーストを用いて接合する。このペレットを電気ヒーターを用いて25℃から700℃まで昇温させ、700℃、で保持し、ソースメータの4端子法を用いて両端の端子に「30mA」から「-30mA」まで10mAずつ電流値を変化させて電流を印加し、内側の端子に発生する電圧値を測定する。得られた6点の電圧と電流の関係より抵抗値を算出する。そして下記式から導電率σを算出する。
導電率σ=L/(R×b×d)
(式中、L:電圧端子間距離、b×d:断面積、R:抵抗)
【0079】
(焼結体の気孔率)
ペロブスカイト型複合酸化物粉末を成型体として焼結した成型焼結体の気孔率は日本産業規格JIS R1634:1998ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法に準拠して測定した。ペレット状に加工した試料を温度110℃±5℃の恒温器中で乾燥し,デシケーター中で放冷し、質量を測定した。この操作を繰り返し、恒量に達したときの質量をもって乾燥質量W1とする。乾燥質量を測定した後、試料を真空容器の底に置き、2.0kPa以下の真空下で15分間吸引し、粉末の細孔中の空気を十分に排除した後、水を注入した。この場合,水は試料が完全に浸るまで注入し、そこでコックを徐々に開いて大気圧に戻した後、30分間放置する。ここで真空ポンプは媒液の注入中は作動させておき、注入後に停止する。飽水試料の水中質量は、飽水試料を針金で水中に懸垂したまま測定し、ジグの質量を補正した値をもって水中質量W2とした。飽水試料の質量は飽水試料を水中から取り出し、湿ったガーゼで手早く表面をぬぐい水滴を除去した後、測定して飽水質量W3とする。ここでガーゼは十分に水を含ませた後、試験片表面の水滴だけを取る程度に絞って用いる。開気孔率Po(%)は下記式によって算出し、JIS Z 8401に準拠して小数点以下1桁に丸める。
Po=(W3-W1)/(W3-W2)×100
【0080】
(実施例2)
湿式製法工程(d):焼成する工程
実施例1の(a)~(c)工程までは同様にして黒色の乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から1080℃(焼成温度)まで昇温させ、焼成温度で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0081】
湿式製法工程(e1):乾式粉砕する工程
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用いて、1回あたり20gの仕込量で回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることで、実施例2に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0082】
(実施例3)
湿式製法工程(e2):湿式粉砕する工程
実施例2として得られた複合酸化物粉末をさらに湿式粉砕し実施例3に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末とした。具体的には、アイメックス社製4筒式サンドグラインダー(TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrO2ビーズ200g、純水117g、実施例2として作製されたペロブスカイト型複合酸化物粉末50gを入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで50分間粉砕処理することで、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物粉末の粉砕物を含むスラリーを得たのち、得られたスラリーはろ過分離し125℃で乾燥させ、実施例3に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0083】
(比較例1)
乾式製法工程(a):原料スラリー作製工程
はじめに、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δの組成を有する複合酸化物粉末が得られるよう、La2O3を173g、SrCO3を105g、Co3O4を29g、Fe2O3を112g、純水を643g、ポリアクリル酸系の分散剤を21g秤量した。
得られた混合粉をイガラシ機械工業社製ビーズミル(機種名:SLG-1/2G、容量:2.0L)のベッセルに直径1.75mmのZrOビーズを2280gと上記原料、純水、分散剤を入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで60分間粉砕処理することで、原料スラリーを作製した。
【0084】
乾式製法工程(b):原料スラリーを乾燥する工程
(1)前記原料スラリーへ純水を添加し、原料スラリーにおける粉末の固形分濃度を60質量%に調整した。
(2)スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製のL-12型)のディスク回転数を25000rpm、乾燥用熱風温度を入り口温度で165℃、出口温度で65℃とし、原料スラリーの供給速度を10kg/hとして、原料スラリーの噴霧乾燥を行って造粒物を得た。この乾燥造粒物の粒度分布を、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のMT3300EXII)により(粒子屈折率を2.40、計算モードをHRAMT3000IIとして)測定したところ、乾燥造粒物の平均粒子径D50は27μmであった。
次に、得られた乾燥造粒物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)により1回あたり50gの仕込量で回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることで乾燥粉砕物を得た。
【0085】
乾式製法工程(c):焼成する工程
得られた乾燥粉砕物50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から1080℃(焼成温度)まで昇温させ、焼成温度で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0086】
乾式製法工程(d):焼成物を粉砕する工程
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用いて、1回あたり20g/Bの仕込量で回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることで比較例1に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。粉砕物を純水に入れて超音波出力40Wで6分間超音波処理を行った後、得られた粒子の粒度分布を、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のMT3300EXII)により(粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率を1.333、計算モードをMT3000IIとして)測定した。
【0087】
(比較例2)
乾式製法工程(e):乾式粉砕物を湿式粉砕する工程
比較例1として得られた複合酸化物粉末をさらに湿式粉砕し比較例2に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末とした。具体的には、4筒式サンドグラインダー(アイメックス社製、TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrO2ビーズ200g、純水117g、ペロブスカイト型複合酸化物50gを入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで50分間粉砕処理することで、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物の粉砕物を含むスラリーを得た。得られたスラリーはろ過分離し125℃で乾燥させ、比較例2に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。粉砕物を純水に入れて超音波出力40Wで6分間超音波処理を行った後、得られた粒子の粒度分布を、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のMT3300EXII)により(粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率を1.333、計算モードをMT3000IIとして)測定した。
【0088】
(比較例3)
乾式製法工程(a):原料を粉砕する工程
(原料混合)
(1)La1.0Co0.4Ni0.6O3-δの組成を有する複合酸化物粉末が得られるよう、La2O3を13.5g、Co3O4を2.7g、NiOを3.7g秤量し、乳鉢で30min混合し、原料混合物を得た。必要な所定量になるまで上記操作を繰り返した。
【0089】
乾式製法工程(c):焼成する工程
(焼成)
得られた混合物50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から1250℃(焼成温度)まで昇温させ、焼成温度で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0090】
乾式製法工程(d):焼成物を粉砕する工程
(粉砕)
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用いて、1回あたり仕込量20g、回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることで、比較例3に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0091】
(実施例4)
乾式製法工程(e):乾式粉砕物を湿式粉砕する工程
比較例3として得られた複合酸化物粉末をさらに湿式粉砕し実施例4に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末とした。具体的には、4筒式サンドグラインダー(アイメックス社製、TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrO2ビーズ200g、純水117g、ペロブスカイト型複合酸化物50gを入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで85分間粉砕処理した。
【0092】
乾式製法工程(f):粉砕スラリーを分散する工程
高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を使用して、8000rpmで5分間乳化分散させ、原料粉末の分散スラリーを得たのち、スラリーから固形物を分離回収して、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物の粉砕物を含むスラリーを得た。得られたスラリーはろ過分離し125℃で乾燥させ、実施例4に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。高速乳化・分散機の撹拌翼の周速度は12.57(m/s)とした。
【0093】
(比較例4)
乾式製法工程(a):原料を粉砕する工程
(原料スラリーの作製)
La1.0Co0.4Ni0.6O3-δの組成を有する複合酸化物粉末が得られるよう、La2O3を68g、Co3O4を13.5g、NiOを19g、純水を99g、酢酸を1.5g秤量した。
次に4筒式サンドグラインダー(アイメックス社製、TSG-4U型、容積容量:350mL)のポットに、直径1.75mmのZrO2ビーズを200gと上記原料、純水、酢酸を入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで60分間粉砕処理し、原料スラリーを作製した。
【0094】
乾式製法工程(b):原料を乾燥する工程
(乾燥)
次に、このスラリーを125℃で乾燥させた。得られた乾燥物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)により1回あたり50gの仕込量で回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることで、乾燥粉砕物を得た。
【0095】
乾式製法工程(c):焼成する工程
(焼成)
得られた乾燥粉砕物50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から1080℃(焼成温度)まで昇温させ、焼成温度で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0096】
乾式製法工程(d):焼成物を粉砕する工程
(粉砕)
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用いて、1回あたり20gの仕込量で回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることで、比較例4に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0097】
(実施例5)
乾式製法工程(e):乾式粉砕物を湿式粉砕する工程
比較例4として得られた複合酸化物粉末をさらに湿式粉砕し実施例5に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末とした。具体的には、4筒式サンドグラインダー(アイメックス社製、TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrO2ビーズ200g、純水117g、ペロブスカイト型複合酸化物50gを入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで60分間粉砕処理した後、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を使用して、8000rpmで5分間乳化分散させ、原料粉末の分散スラリーを得たのち、スラリーから固形物をろ過分離して、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物の粉砕物を得た。得られた固形物は125℃で乾燥させ、実施例5に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。高速乳化・分散機の撹拌翼の周速度は12.57(m/s)とした。
この粉砕物を溶媒としての水に入れて超音波出力40Wで6分間超音波処理を行った後、得られた粒子の粒度分布を、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のMT3300EXII)により(粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率を1.333、計算モードをMT3000IIとして)測定した。
【0098】
(実施例6)
湿式製法工程(a):前駆体を形成する工程
硝酸に酸化ランタンを溶解させた溶液(La濃度:15.17質量%、NO3
-:270g/L)535gと、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)73g、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O)123gとをそれぞれイオン交換水269gに溶解させ、硝酸塩の混合溶液Aを作成した。
【0099】
また、イオン交換水2650gと炭酸アンモニウム216gを反応槽に入れ、撹拌しながら水温を30℃になるよう調整した。この炭酸アンモニウム溶液中に、硝酸塩の混合溶液Aを徐々に加えて中和反応を行い、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させた後、この前駆体を30分間熟成させて反応を完了させた。
【0100】
湿式製法工程(b):原料スラリーを分散する工程
このようにして得られた前駆体を濾過した後に水洗し、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を使用して、8000rpmで5分間乳化分散させ、原料粉末の分散スラリーを得た。高速乳化・分散機の撹拌翼の周速度は12.57(m/s)とした。
【0101】
湿式製法工程(c):原料を乾燥する工程
分散スラリーから固形物を分離回収した。得られたウエットケーキを直径5mmの細長い円柱形のペレット状に成形した。この成形後直ぐにペレット状の成形体に空気を通風しながら250℃で2時間加熱して乾燥させ、黒色の乾燥粉末を得た。
【0102】
湿式製法工程(d):焼成する工程
(焼成)
得られた乾燥粉末50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から1080℃(焼成温度)まで昇温させ、焼成温度で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0103】
湿式製法工程(e):粉砕する工程
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用いて、1回あたり20gの仕込量で回転数16000rpmで30秒を2回繰り返し粉砕処理をすることでペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0104】
そしてさらに、アイメックス社製4筒式サンドグラインダー(TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrO2ビーズ200g、純水117g、ペロブスカイト型複合酸化物粉末50gを入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで50分間粉砕処理することで、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物粉末の粉砕物を含むスラリーを得たのち、得られたスラリーはろ過分離し125℃で乾燥させ、実施例6に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0105】
【0106】
LSCF組成であって、本発明で規定する比表面積値比α/β及び比表面積値αを満足する実施例1~3の複合酸化物粉末では、空気極とした場合の気孔率が34.0%,40.0%,32.0%と所望の気孔率を有するとともに、導電率が117(S/cm),105(S/cm),160(S/cm)と良好な値であった。
【0107】
これに対して、同じLSCF組成であるが比表面積値比α/βが0.89(S/cm)と本発明で規定する範囲よりも小さい比較例1の複合酸化物粉末では、空気極とした場合の気孔率は42.0と比較的高い気孔率を有していたが、導電率が21(S/cm)と低くかった。反対に、比表面積値比α/βが1.72(S/cm)と本発明で規定する範囲よりも大きい比較例2の複合酸化物粉末では、空気極とした場合の気孔率は28.3と小さく、導電率も89(S/cm)と実施例1~3の複合酸化物粉末に比べて低かった。
【0108】
また、LNCF組成であって、本発明で規定する比表面積値比α/β及び比表面積値αを満足する実施例4~6の複合酸化物粉末では、空気極とした場合の気孔率が40.0,31.0,34.0と所望の気孔率を有するとともに、導電率が361(S/cm),349(S/cm),390(S/cm)と良好な値であった。
【0109】
これに対して、同じLSCF組成であるが比表面積値比α/βが0.93(S/cm),0.72(S/cm)と本発明で規定する範囲よりも小さい比較例3,4の複合酸化物粉末では、空気極とした場合の気孔率は41.0%,44.2%と比較的高い気孔率を有していたが、導電率が165(S/cm),149(S/cm)と実施例4~6の複合酸化物粉末に比べて低かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係る複合酸化物粉末は、燃料電池の空気極とした場合に良好な導電率が確保される。
【符号の説明】
【0111】
1 燃料極
2 固体電解質
3 空気極