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特許7140947フィルター装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法
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  • 特許-フィルター装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】フィルター装置及びそれを用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/69 20190101AFI20220914BHJP
   B01D 35/02 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B29C48/69
B01D35/02 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018187663
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020055223
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100204043
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 美和
(72)【発明者】
【氏名】榎本 大貴
(72)【発明者】
【氏名】善當 利行
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-130891(JP,A)
【文献】特開2017-170620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/69
B01D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理流体の流路と、該流路の一端に設けられた流入口と、該流路の他端に設けられた壁面と、該壁面に設けられた流出口とを有するハウジングと、
前記流出口を覆い、前記流路に向かって突出した2本以上の筒型のフィルターエレメントとを備え、
前記壁面は、前記流出口側に近づくに従って、連続又は不連続に、前記流入口と離れる方向に傾斜しており、且つ流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°を超えるテーパ部を有しており、
前記壁面の流出口を除く部分の前記流路方向への投影面積Aに対する、前記テーパ部の前記流路方向への投影面積Bの比率{B/A}が0.7以上であり、
前記被処理流体が、(メタ)アクリル系樹脂およびゴム粒子を含有する溶融熱可塑性樹脂であり;
前記(メタ)アクリル系樹脂が、
メタクリル酸メチルの単独重合体(A);
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C);
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物;
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物;
からなる群から選択されるものであり、
押出機の吐出量をQ(kg/h)、フィルター装置の総ろ過面積をS(m )、フィルターエレメントの直径をD (mm)、フィルターエレメントの長さをL (mm)としたとき、下記の関係を満たす、フィルター装置。
50≦Q/S(kg/m ・h)≦200 かつ 5≦L /D ≦10
【請求項2】
前記フィルターエレメントのろ過精度が1μm以上50μm以下である、請求項1に記載のフィルター装置。
【請求項3】
溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造方法であって、
押出機とダイとの間に請求項1又は2に記載のフィルター装置を配置し、前記押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂を前記フィルター装置に通過させる工程を有し、
前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂およびゴム粒子を含有し、
前記(メタ)アクリル系樹脂が、
メタクリル酸メチルの単独重合体(A);
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C);
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物;
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物;
からなる群から選択される、熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記フィルター装置内における前記熱可塑性樹脂の滞留時間が50秒以上1,800秒以下である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記フィルター装置のハウジングの設定温度が230℃以上300℃以下である、請求項3又は4に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記フィルター装置の前記流入口及び流出口における初期差圧が0.1MPa以上10MPa以下である、請求項3~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂の、温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100Pa・s以上1,500Pa・s以下である、請求項3~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂成形体がフィルムである、請求項3~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂成形体が光学用成形体である、請求項3~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂成形体が加飾用成形体である、請求項3~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター装置及び該フィルター装置を用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電の加飾用途、光学用途、建材用途に熱可塑性樹脂成形体を使用する場合、熱可塑性樹脂成形体中に微小な異物が混入すると、最終製品の外観や品質が損なわれる。
【0003】
熱可塑性樹脂成形体中の異物を除去する方法として、例えば、アクリル系樹脂の押出工程において200~600メッシュのスクリーンメッシュを用いて、ろ過を行う方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、スクリーンメッシュを用いる方法では、ろ過面積が小さく、メッシュ自体の強度も小さいことから、ろ過精度を上げるためにメッシュの目開きを細かくしようとすると樹脂圧力が上昇してしまうため、押出吐出量や連続生産性に制限がある。
【0004】
熱可塑性樹脂成形体中の異物を除去するその他の方法としては、フィルター装置として、キャンドル型フィルターを用いて溶融樹脂のろ過を行う方法が知られている。キャンドル型フィルターは、ハウジング内に1本又は複数本のフィルターエレメントを装着できるため、ろ過面積が広く、高粘度の溶融樹脂をろ過する場合でも樹脂圧力の上昇が少ないという利点がある。一方で、ハウジング内の隅に樹脂が流れにくい滞留部が発生し、このような滞留部で樹脂の劣化が進行するため、長期間の運転において焼けやゲル状体等の異物を低減することが困難となる。
【0005】
前記ハウジング内での樹脂の滞留に起因する異物を低減する方法として、フィルターエレメントと流出口とをつなぐ筒状流路の中心線と、流出口における流体の流れ方向に平行な直線とのなす角度が、20°以上75°未満であるフィルター装置が提案されている(特許文献2参照)。また、流入口の中心と、キャップ部材および支柱部材の接合部との距離が流入口の半径よりも短いフィルター装置が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-263614号公報
【文献】特開2017-170620号公報
【文献】特開2009-196233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3で提案されているキャンドル型フィルターを用いる場合、フィルターエレメント前の樹脂滞留の解決にはならず、熱可塑性樹脂成形体は依然として異物を含む場合がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ハウジング内に生じる滞留部を減少させ、焼けやゲル状体等の異物が少ない熱可塑性樹脂成形体を製造することができるフィルター装置及び該フィルター装置を用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題について検討した結果、押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルターエレメントによってろ過して熱可塑性樹脂成形体を製造する際に、流路の一端に流入口と、他端に流出口が設けられた壁面とを有するハウジングにおいて、該壁面が、前記流出口側に近づくに従って、連続又は不連続に、前記流路の一端に設けられた流入口と離れる方向に傾斜しており、且つ流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°を超えるテーパ部を有しており、該壁面の流出口を除く部分の前記流路方向への投影面積Aに対する、前記テーパ部の前記流路方向への投影面積Bの比率{B/A}を特定の割合以上とすることによって、熱可塑性樹脂成形体中の異物を抑制できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次の[1]~[13]を提供するものである。
[1]被処理流体の流路と、該流路の一端に設けられた流入口と、該流路の他端に設けられた壁面と、該壁面に設けられた流出口とを有するハウジングと、前記流出口を覆い、前記流路に向かって突出したフィルターエレメントとを備え、前記壁面は、前記流出口側に近づくに従って、連続又は不連続に、前記流入口と離れる方向に傾斜しており、且つ流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°を超えるテーパ部を有しており、前記壁面の流出口を除く部分の前記流路方向への投影面積Aに対する、前記テーパ部の前記流路方向への投影面積Bの比率{B/A}が0.7以上である、フィルター装置。
[2]前記フィルターエレメントのろ過精度が1μm以上50μm以下である、上記[1]に記載のフィルター装置。
[3]溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造方法であって、押出機とダイとの間に[1]又は[2]に記載のフィルター装置を配置し、前記押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂を前記フィルター装置に通過させる工程を有する、熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[4]前記フィルター装置内における前記熱可塑性樹脂の滞留時間が50秒以上1,800秒以下である、上記[3]に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[5]前記フィルター装置のハウジングの設定温度が230℃以上300℃以下である、上記[3]又は[4]に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[6]前記フィルター装置の前記流入口及び流出口における初期差圧が0.1MPa以上10MPa以下である、上記[3]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[7]前記熱可塑性樹脂の、温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100Pa・s以上1,500Pa・s以下である、上記[3]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[8]前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂を含有する、上記[3]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[9]前記(メタ)アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチルの単独重合体(A);メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C);メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物;メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物;からなる群から選択される、上記[8]に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[10]前記熱可塑性樹脂がゴム粒子を含有する、上記[3]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[11]前記熱可塑性樹脂成形体がフィルムである、上記[3]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[12]前記熱可塑性樹脂成形体が光学用成形体である、上記[3]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[13]前記熱可塑性樹脂成形体が加飾用成形体である、上記[3]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハウジング内に生じる滞留部を減少させ、焼けやゲル状体等の異物が少ない熱可塑性樹脂成形体を製造することができるフィルター装置及び該フィルター装置を用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態に係るフィルター装置の断面図である。
図2図1に示す壁面の流路方向からの投影図である。
図3】本発明の第二実施形態に係るフィルター装置の、第一実施形態の図2に対応する投影図である。
図4図3のI-I線に沿う概略断面図の一態様を示す概略横断図である。
図5図4に示すI-I概略断面図の他の態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[フィルター装置]
本発明のフィルター装置は、被処理流体の流路と、該流路の一端に設けられた流入口と、該流路の他端に設けられた壁面と、該壁面に設けられた流出口とを有するハウジングと、
前記流出口を覆い、前記流路に向かって突出したフィルターエレメントとを備え、
前記壁面は、前記流出口側に近づくに従って、連続又は不連続に、前記流入口と離れる方向に傾斜しており、且つ流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°を超えるテーパ部を有しており、
前記壁面の流出口を除く部分の前記流路方向への投影面積Aに対する、前記テーパ部の前記流路方向への投影面積Bの比率{B/A}が0.7以上であることを特徴とする。
ここで、前記壁面が不連続に傾斜するとは、傾斜した部分が傾斜していない部分によって隔てられていることを示す。
前記壁面は、角を有してもよいが、角を有さない滑らかな面であることが好ましい。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態にかかるフィルター装置について説明する。
【0015】
図1は、本発明の第一実施形態に係るフィルター装置の断面図である。
フィルター装置10は、被処理流体(溶融樹脂)の流路1と、該流路1の一端に設けられた流入口2と、該流路1の他端に設けられた壁面3と、該壁面3に設けられた流出口4とを有するハウジング8(典型的には円筒状等の筒状)と、前記流出口4を覆い、前記流路1に向かって突出したフィルターエレメント5とを備える。前記ハウジング8の内面の一部を構成する前記壁面3は、前記流出口側に近づくに従って、連続又は不連続に、前記流入口2と離れる方向に傾斜しており、且つ流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°を超えるテーパ部を有する。
なお、前記フィルターエレメント5の内部には、該フィルターエレメント5を支持する支柱部材6が設けられていてもよい。
ここで、フィルター装置10内の溶融樹脂の流れを矢印で示す。流入口2から流入した溶融樹脂がハウジング8内部を移動し、フィルターエレメント5を通り、ろ過された溶融樹脂が流出口4へ流出する。
【0016】
図2は、図1に示す壁面の流路方向からの投影図である。前記壁面3は流出口4に近づくに従って流入口2と離れる方向に連続して傾斜した傾斜部7を有する。そして当該傾斜部7には、流路方向(典型的には筒状のハウジングの軸方向)に対して直交する平面とのなす角度が10°を超えるテーパ部が含まれる。該傾斜部7の形状は、該傾斜部7が流出口4に向かって連続又は不連続に傾斜するとともにそのうちの少なくとも一部が前記テーパ部であれば特に限定されず、該傾斜部7の全ての領域の傾斜(例えば、一例として図2のように、傾斜部7を領域7a、領域7b、領域7cと区切った場合、領域7aの傾斜と領域7bの傾斜と領域7cの傾斜)が同じであってもよく、異なっていてもよい。また、任意の場所に、流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°以下の部分を一箇所または複数箇所有していてもよいが、傾斜部7の全てがテーパ部であることが好ましい。
なお、壁面には傾斜していない部分が含まれていてもよいが、傾斜していない部分が含まれないことが好ましい。
【0017】
図3は、本発明の第二実施形態に係るフィルター装置の、第一実施形態の図2に対応する投影図である。ここでは壁面13が、傾斜していないか又は傾斜していても流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°以下の部分Pを含む例を示す。フィルター装置20において第一実施形態に係るフィルター装置10と異なる点は、壁面13にフィルターエレメントが4本設けられている点である。第二実施形態に係るフィルター装置の図1に対応する断面図は省略する。
前記壁面13は4本のフィルターエレメントの周りに傾斜部17を有する。該傾斜部17の形状は、該傾斜部17が流出口14に向かって連続又は不連続に傾斜するとともにそのうちの少なくとも一部が前記テーパ部であれば特に限定されず、該傾斜部17の全ての領域の傾斜(例えば、一例として傾斜部17を領域17a、領域17b、領域17cと区切った場合、領域17aの傾斜と領域17bの傾斜と領域17cの傾斜)が同じであってもよく、異なっていてもよい。また、任意の場所に、流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°以下の部分を一箇所または複数箇所有していてもよいが、傾斜部の全てがテーパ部であることが好ましい。なお、壁面には傾斜していない部分が含まれていてもよいが、傾斜していない部分が含まれないことが好ましい。
【0018】
図4は、図3のI-I線に沿う概略断面図の一態様を示す概略横断図である。
図4では、フィルターエレメント15の傾斜面15aと壁面13が有する傾斜部17との間に隙間が設けられている。前記傾斜部17は、図3に示す領域17aと領域17bと領域17cとが連続的に流出口14に向かって傾斜している。
【0019】
図5は、図4に示すI-I概略断面図の他の態様を示す概略断面図である。図5(a)に示すように傾斜部17の領域17aの傾斜と領域17bの傾斜と領域17cの傾斜とが異なっていてもよい。また、図示しないが、本発明の効果を阻害しない範囲で、領域17aと領域17bとの間、領域17bと領域17cとの間に傾斜していない部分が介在していてもよいが、介在しないことが好ましい。
また、図5(b)に示すようにフィルターエレメント15の傾斜面15aと壁面13の傾斜部17とは、一部接していてもよく、図5(c)に示すようにフィルターエレメント15の傾斜面15aの全面において壁面13の傾斜部17が接触していてもよい。
【0020】
前記壁面の流出口を除く部分の前記流路方向への投影面積Aに対する、前記テーパ部の前記流路方向への投影面積Bの比率{B/A}は0.7以上である。フィルター装置の壁面において、該壁面と流路方向に対して直交する平面とのなす角度が0°以上10°以下の面積が大きいほど、流入口から流入しフィルターエレメントへ流入することなく壁面まで達した溶融樹脂は、該フィルターエレメントの内部に流れにくく、滞留しやすい傾向にある。そのため、比率{B/A}が0.7未満では壁面付近において溶融樹脂が滞留しやすい領域(滞留部)が大きくなり、該滞留部で溶融樹脂の劣化が進行し、熱可塑性樹脂成形体中に焼けやゲル状体等の異物が多量に含まれるおそれがある。このような観点から、比率{B/A}は0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることがさらに好ましく、1であることが特に好ましい。
【0021】
(ハウジング)
ハウジングとしては筒型のものを用いるのが好ましい。筒型のハウジングの形状としては、円柱、正四角柱等の直柱などが挙げられる。中でも、円柱が好ましい。
【0022】
(フィルターエレメント)
フィルターエレメントとしては筒型のものを用いるのが好ましい。
筒型のフィルターエレメントは通常、外周面から流体をろ過するろ過部、ろ過された流体が流れる中空部、この中空部から流体を排出する端部の排出部、フィルターエレメントの先端部を備える。筒型のフィルターエレメントとしては、例えばチューブ型、キャンドル型などが挙げられる。中でも、キャンドル型のフィルターエレメントが好ましい。
キャンドル型のフィルターエレメントのろ過部の形状に特に制限はなく、波型又はプリーツ型など公知のものが使用できる。前記プリーツ型におけるプリーツは、フィルターエレメントの半径方向に延びたものでもよいし、半径方向に対して斜めに延び、湾曲した断面形状又はアーチ型の断面形状を有するいわゆるスパイラルプリーツであってもよい。
【0023】
フィルターエレメントの材質としては特に制限はないが、耐錆性、耐食性及び強度などの観点から、ステンレスが好ましく、SUS304及びSUS316Lなどがより好ましく、耐食性の観点から、SUS316Lがさらに好ましい。
【0024】
フィルターエレメントのろ材の形態としては、例えばパウダー焼結体やファイバー焼結体などが挙げられる。これらは組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明のフィルター装置はフィルターエレメントを1本以上備える。フィルターエレメントの数に特に制限はないが、数を増やすことによってろ過面積が増大し、フィルターエレメントの寿命を延ばすことができる。例えば熱可塑性樹脂フィルムの製造においてはフィルターエレメントを4本備えたフィルター装置を好適に用いることができる。
【0026】
フィルターエレメントのろ過精度は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、生産性や異物サイズなどのバランスの観点から、5μm以上40μm以下であることがより好ましく、7μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。ろ過精度を1μm以上とすることによって、溶融状態の熱可塑性樹脂を通過させる際の剪断発熱による熱劣化を抑制できる傾向にあり、ろ過精度を50μm以下とすることによって、異物の効果的な除去が可能となる。
【0027】
フィルター装置のろ過面積が大きいほどろ過寿命が長くなる一方、溶融状態の熱可塑性樹脂の滞留による劣化の原因となりうる。
本発明のフィルター装置の性能をより効果的に発揮するためには、後述する押出機の吐出量をQ(kg/h)、フィルター装置の総ろ過面積をS(m)、フィルターエレメントの直径をD(mm)、フィルターエレメントの長さをL(mm)としたとき、これらが下記の関係を満たすことが好ましい。なお、総ろ過面積は各フィルターエレメントの直径、長さ及び本数により調節可能である。
50≦Q/S(kg/m・h)≦200 かつ 5≦L/D≦10
【0028】
Q/Sを50以上とすることによって、溶融状態の熱可塑性樹脂の滞留時間が短くなり、該熱可塑性樹脂の滞留による劣化を抑制できる。一方、Q/Sを200以下とすることによって、剪断発熱による熱可塑性樹脂の劣化を抑制できる。このような観点から、Q/Sは100以上180以下であることがより好ましく、120以上160以下であることがさらに好ましい。
溶融状態の熱可塑性樹脂の滞留時間(s)は、(ハウジングの空間容積(L))÷(熱可塑性樹脂の吐出量(kg/h)/3600/比重)で求めることができる。
【0029】
また、L/Dを10以下とすることによって、フィルターエレメントが長くなり過ぎるのを抑えることができ、溶融状態の熱可塑性樹脂の滞留時間を短くして、熱劣化を抑制することができる。一方、L/Dを5以上とすることによって、フィルターエレメントが太くなり過ぎるのを抑えることができ、ハウジングの設計がしやすくなる。このような観点から、L/Dは5以上8以下であることがより好ましい。
【0030】
筒型のフィルターエレメントの形状は通常、直柱又は錐台であり、直柱としては例えば円柱、正四角柱などが挙げられる。また、錐台としては例えば円錐台、正四角錐台などが挙げられる。中でも、円柱が好ましい。
筒型のフィルターエレメントを2本以上備える場合、各筒型のフィルターエレメントは全て同一形状、同一サイズであることが好ましい。
フィルターエレメントとハウジング(壁面)との接続部、フィルターエレメント流出後の合流部の形状に特に制限はない。
【0031】
[熱可塑性樹脂成形体の製造方法]
本発明のフィルター装置は、押出機及びダイを用いた溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造に好適に用いることができる。
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、押出機とダイとの間に本発明のフィルター装置を配置し、前記押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂を前記フィルター装置に通過させる工程を有する。
【0032】
ダイは、特に限定されず、ペレット、フィルム、シート、板等の熱可塑性樹脂成形体の形状に合わせて選定することができる。熱可塑性樹脂を溶融させるための押出機は、特に限定されず、単軸押出機でも二軸押出機でもよく、また、一台であっても複数台であってもよい。押出機は、熱可塑性樹脂が含む水分や熱可塑性樹脂が分解したモノマーを除去し、異物を低減する観点から、ベントを有することが好ましい。ベント付押出機では減圧にして、又は窒素を流通させて運転することが好ましい。さらに必要に応じてフィルター装置の前及び/又は後にギアポンプ等を配し、溶融樹脂の計量を行ってもよい。押出機がベントを有する場合、ベントアップを抑制し、生産性を高める観点から、押出機とフィルター装置との間にギアポンプを配することが好ましい。
【0033】
熱可塑性樹脂成形体としてフィルムを製造する場合には、Tダイ等を用いて溶融した熱可塑性樹脂を押出して冷却ロール上で冷却することにより未延伸フィルムを得、必要に応じて縦延伸装置、横延伸装置、同時二軸延伸装置等の延伸装置を任意に組み合わせて延伸し、延伸フィルムを得ることができる。また、フィルムの表面平滑性及び厚さ均一性の観点から、押し出されたフィルム状溶融樹脂を、鏡面ロール又は鏡面ベルトの間に引き取り挟圧することが好ましい。鏡面ロール又は鏡面ベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。鏡面ロールは、表面平滑性及び厚さ均一性の観点から、金属剛体ロールと金属弾性ロールとの組み合せであることが好ましい。鏡面ロール又は鏡面ベルト間の線圧は、表面平滑性の観点から、好ましくは10N/mm以上であり、より好ましくは30N/mm以上である。鏡面ロール又は鏡面ベルトの表面温度は、表面平滑性、ヘーズ、外観等の観点から、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上である。また、好ましくは130℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法において、フィルター装置のハウジングの設定温度は、230℃以上300℃以下であることが好ましく、240℃以上280℃以下であることがより好ましく、250℃以上270℃以下であることがさらに好ましい。
フィルター装置のハウジングの設定温度を230℃以上とすることによって、溶融粘度を低くすることができ、樹脂圧の上昇を抑え、熱可塑性樹脂成形体の連続生産性が向上する。一方、フィルター装置のハウジングの設定温度を300℃以下とすることによって、熱による樹脂の劣化をさらに抑制することができる。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法において、フィルター装置内での熱可塑性樹脂(溶融樹脂)の滞留時間は50秒以上1,800秒以下であることが好ましく、70秒以上1,200秒以下であることがより好ましく、100秒以上900秒以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂の滞留時間を50秒以上とすることによって、樹脂温度のむらが小さくなり、樹脂の劣化をさらに抑制することができる。一方、熱可塑性樹脂の滞留時間を1,800秒以下とすることによって、樹脂の劣化をさらに抑制することができる。
【0036】
フィルター装置の流入口及び流出口における初期差圧((差圧)=(流入口側圧力)-(流出口側圧力))は0.1MPa以上10MPa以下であることが好ましく、1MPa以上8MPa以下であることがより好ましく、3MPa以上7MPa以下であることがさらに好ましい。
フィルター装置の流入口及び流出口における初期差圧を0.1MPa以上とすることによって、溶融樹脂の偏流を抑制し、樹脂の劣化をさらに抑制することができる。一方、フィルター装置の流入口及び流出口における初期差圧を10MPa以下とすることによって、熱可塑性樹脂成形体の連続生産性が向上し、更には、フィルターエレメントが捕集した異物がフィルターエレメントをすり抜けることを低減し、熱可塑性樹脂成形体中の異物をさらに低減できる。
【0037】
(熱可塑性樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法では、溶融状態の熱可塑性樹脂(溶融樹脂)をフィルター装置に通過させて、異物等を除去する工程を有する。ここで熱可塑性樹脂は、1種の熱可塑性樹脂のみからなるものであってもよいし、2種以上の熱可塑性樹脂を含む混合物であってもよい。熱可塑性樹脂は、温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100Pa・s以上1,500Pa・s以下であることが好ましく、300Pa・s以上1,000Pa・s以下であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂の温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100Pa・s以上であることによって、溶融樹脂がフィルター装置を通過する際、背圧が十分に大きく、効果的に異物を除去することができる。一方、熱可塑性樹脂の温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が1,500Pa・s以下であることによって、フィルター装置へ過剰な圧力がかかることによるフィルター装置の破損を防ぐことができ、熱可塑性樹脂成形体の連続生産性が向上する。
なお、溶融粘度は、キャピログラフ等により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1及びポリノルボルネン等のポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂);ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン-スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル-アクリル系弾性体-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)及びメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド9T、ポリアミド10T及びポリアミドエラストマー等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルフェノール及びエチレン-ビニルアルコール共重合体;ポリアセタール;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル及びポリフェニレンスルフィド;アクリル系熱可塑性エラストマー;スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)及びスチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー;オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの重合体成分のみからなるもの及びこれらの重合体成分のうちの1種又は2種以上を含む樹脂組成物などが挙げられる。
なお、本明細書において(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及び/又はアクリル系樹脂を指す。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂であれば特に制限なく適用される。熱可塑性樹脂の中でも、(メタ)アクリル系樹脂が光学特性、耐熱性、成形加工性等に優れる観点から、各種用途に好ましく用いられる。
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、メタクリル酸メチルの単独重合体(A)、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)、メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物、メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物等が挙げられる。
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)が含有するメタクリル酸メチル単位の割合は、60質量%以上99質量%以下であることが好ましく、70質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
アクリル酸エステルは特に限定されない。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0041】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50,000以上150,000以下であることが好ましく、60,000以上150,000以下であることがより好ましく、70,000万以上120,000以下であることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.5以上2.6以下であることが好ましく、1.6以上2.3以下であることがより好ましく、1.7以上2.2以下であることがさらに好ましい。分子量分布を1.5以上とすることによって、熱可塑性樹脂の成形加工性が良好となり、フィルター装置内での樹脂の滞留を抑える点でも有利である。また、分子量分布を2.6以下とすることによって、得られる熱可塑性樹脂成形体の耐衝撃性が良好となる。
なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で分析し標準ポリスチレンの分子量に換算して算出される値である。
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造されたものを用いることができる。中でも、塊状重合法又は溶液重合法により得られたものを用いることが好ましく、不純物の少ない熱可塑性樹脂成形体が得られる観点からは、塊状重合法により得られたものを用いることがより好ましい。
【0043】
前記熱可塑性樹脂における(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂100質量%に対して、70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、73質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、75質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。なお、上記(メタ)アクリル系樹脂の含有量には、ゴム粒子は含まないものとする。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、特にゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂成形体の製造に好適に適用することができる。ゴム粒子は滞留によって異物を生じやすいためである。ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂成形体は、ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂を用いることにより製造することができる。
ゴム粒子としては、アクリル酸エステルに由来する構造単位を含有する重合体を含む粒子(以下、「アクリル系弾性体粒子」と称する。)、共役ジエンに由来する構造単位を含有する重合体を含む粒子、アクリル酸エステルに由来する構造単位及び共役ジエンに由来する構造単位を含有する重合体を含む粒子等が挙げられる。なお、これらの重合体は必要に応じて架橋性単量体に由来する構造単位を有していてもよい。中でも熱可塑性樹脂として(メタ)アクリル系樹脂を含有するものを用いる場合、ゴム粒子はアクリル系弾性体粒子であることが好ましい。
【0045】
ゴム粒子は、多層構造を有するゴム粒子であることが好ましく、粒子の芯から外殻に向かって略同心円状に複数の層が積層され、層間がグラフト結合により結合しているゴム粒子であることがより好ましい。
【0046】
ゴム粒子の好ましい一態様であるアクリル系弾性体粒子は、単一重合体からなる粒子であってもよいし、異なる弾性率の重合体が少なくとも2つの層を形成した粒子であってもよい。アクリル系弾性体粒子は、熱可塑性樹脂成形体の耐衝撃性の観点から、共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体及び/又はアクリル系弾性重合体(例えば、アクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位を主成分として含む重合体など)を含有する層と他の重合体を含有する層とからなる多層構造のコアシェル粒子であることが好ましく、アクリル系弾性重合体を含有する層(コア層)とその外側を覆うメタクリル系重合体を含有する層(最外層)とからなる2層構造のコアシェル粒子、又は、メタクリル系重合体を含有する層(コア層)と、その外側を覆うアクリル系弾性重合体を含有する層(中間層)と、そのさらに外側を覆うメタクリル系重合体を含有する層(最外層)とからなる3層構造のコアシェル粒子であることがより好ましく、耐熱性の観点から、3層構造のコアシェル粒子であることがさらに好ましい。
【0047】
コアシェル粒子を構成するメタクリル系重合体は、メタクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位を主成分として含む重合体であることが好ましい。メタクリル系重合体において、メタクリル酸非環状アルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、流動性や耐熱性の観点から、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
メタクリル酸非環状アルキルエステルは、流動性及び耐熱性の観点から、メタクリル酸メチルであることが好ましく、コアシェル粒子を構成するメタクリル系重合体は、メタクリル酸メチル単位を80質量%以上100質量%以下含有することが最も好ましい。
【0048】
アクリル系弾性体粒子の製造方法に特に制限はなく、公知の手法(例えば、国際公開第2016/121868号等)に準じた方法により製造することができる。
【0049】
前記熱可塑性樹脂中におけるゴム粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100質量%に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上23質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
熱可塑性樹脂は添加剤を含有してもよい。添加剤の種類は特に限定されず、例えば、紫外線吸収剤、高分子加工助剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、艶消し剤、充填剤、耐衝撃助剤、可塑剤等が挙げられる。添加剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
添加剤は、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよいが、熱可塑性樹脂中での分散性の観点から、有機化合物が好ましい。
添加剤が熱可塑性樹脂に含有される場合、その含有量は特に限定されないが、該熱可塑性樹脂100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。添加剤の含有量が0.01質量%以上であることによって添加剤の効果を十分に発現することができ、10質量%以下であることによって熱可塑性樹脂成形体が本来有する物性を十分に維持できる。
【0051】
本発明の製造方法で得られる熱可塑性樹脂成形体は異物欠点が少ないため、自動車及び家電の加飾用途;偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシート等の光学用途;壁材、ウィンドウフィルム、窓枠、浴室壁材等の建材用途等に好適に用いることができる。すなわち、本発明によって得られる熱可塑性樹脂成形体は、加飾用成形体、光学用成形体、建材用成形体等として好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂成形体が光学用成形体である場合、光学用成形体の全光線透過率は好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは92%以上である。
なお、光学用成形体の全光線透過率は、JIS K7375(2008)に準拠して測定することができる。
【実施例
【0052】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0053】
(重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn))
測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン(THF)5mLに溶解させ、孔径0.1μmのフィルターでろ過したものを試料溶液とした。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー(株)製「HLC-8320」を使用した。カラムとして、東ソー(株)製の「TSKgel Super Multipore HZM-M」2本と「Super HZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。溶離剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35mL/分で、試料溶液20μLを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。クロマトグラムは、試料溶液と参照溶液との屈折率差に由来する電気信号値(強度Y)を保持時間Xに対してプロットしたチャートである。
分子量が400~5,000,000の範囲の標準ポリスチレン10点を用いてGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、測定対象樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を決定した。なお、クロマトグラムのベースラインは、GPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0054】
(溶融粘度)
測定対象樹脂(ペレット)を80℃で12時間乾燥した後、東洋精機(株)製「キャピログラフ1D」を用いて、温度270℃、せん断速度122秒-1の条件で、溶融粘度を測定した。
【0055】
(フィルム中の異物量)
艶消しの黒色布((株)川島織物セルコン製)の上に、各実施例及び比較例で得られたフィルムを1m×1mのサイズに切り出して置き、フィルム表面の垂直面から蛍光灯の反射光を利用して目視で見た際に表面凹凸の違いにより検出される異物の個数を数え、1m当りの異物量として算出した。なお、ここでの異物とは、幅×長さの値が0.03mmを超える異物を指す。
【0056】
(製造例1:熱可塑性樹脂の製造)
(1)(メタ)アクリル系樹脂の合成
メタクリル酸メチル95質量部およびアクリル酸メチル5質量部からなる単量体混合物に重合開始剤(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.1質量部および連鎖移動剤(n-オクチルメルカプタン)0.21質量部を加え溶解させて原料液を得た。また、別の容器にイオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部および懸濁分散剤0.45質量部を混ぜ合わせて混合液を得た。耐圧重合槽に前記混合液420質量部と前記原料液210質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後3時間経過時に温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状共重合体が分散した液を得た。得られた共重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機によりビーズ状共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥させ、重量平均分子量(Mw)が110,000、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が2.0であるビーズ状の(メタ)アクリル系樹脂を得た。
【0057】
(2)ゴム粒子(アクリル系弾性体粒子)の合成
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器に、イオン交換水1050質量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.5質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換した後、内温を80℃に設定した。そこに過硫酸カリウム0.25質量部を投入して5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル:メタクリル酸アリル=94:5.8:0.2(質量比)からなる単量体混合物245質量部を50分間かけて連続的に滴下し、滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
次いで、同反応器にぺルオキソ2硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した後、アクリル酸ブチル:スチレン:メタクリル酸アリル=80.6:17.4:2(質量比)からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下し、滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
続いて同反応器にぺルオキソ2硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル=94:6(質量比)からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下供給し、滴下終了後、さらに60分間重合反応を行って、3層構造のアクリル系弾性体粒子を得た。
【0058】
(3)熱可塑性樹脂の製造
前記(1)で合成したメタクリル系樹脂80質量部と、前記(2)で合成した3層構造のアクリル系弾性体粒子20質量部とをヘンシェルミキサーで混合し、260℃に設定されたスクリュー径58mmのベント付き二軸押出機を用いて(メタ)アクリル系樹脂のペレットを得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂の溶融粘度は830Pa・sであった。
【0059】
(壁面の流出口を除く部分の流路方向への投影面積Aに対する、壁面のテーパ部の流路方向への投影面積Bの比率{B/A}の調整)
フィルター装置のハウジングの壁面を、該壁面に設けた流出口に近づくに従って流路の一端に設けられた流入口と離れる方向に傾斜するように削り、該壁面において流出口を除く部分の流路方向への投影面積Aに対する、該壁面に設けたテーパ部の流路方向への投影面積Bの比率{B/A}を調整した。
【0060】
(実施例1)
65mmφベント付き単軸押出機、ギアポンプ、図3に示すフィルターエレメントを4本備えるフィルター装置、スタティックミキサー、Tダイをこの順番に備えたフィルム製造装置にて、押出機、ギアポンプ、フィルター装置のハウジングの設定温度が260℃、吐出量が165kg/hの条件で、上述の製造例1で得た熱可塑性樹脂((メタ)アクリル系樹脂)を押出し、90℃に設定した鏡面金属剛体ロール及び鏡面金属弾性ロールで挟持して、厚さ100μmのフィルムを作製した。
フィルター装置は、溶融樹脂が流入する流入口及び流出する流出口を有し、前記のとおりに比率{B/A}を調整した壁面を有するハウジングと、ハウジング内に4本のキャンドル型のフィルターエレメントを備えたものを使用した。
キャンドル型のフィルターエレメントは長さ360mm、直径60mm、ろ過精度10μm、4本のフィルターエレメントの総ろ過面積1.21mとし、比率{B/A}は0.96であった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示した。
【0061】
(実施例2)
比率{B/A}を0.85に変更したこと以外は実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示した。
【0062】
(実施例3)
押出機の吐出量を200kg/hに変更したこと以外は実施例2と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示した。
【0063】
(比較例1)
比率{B/A}を0.25に変更したこと以外は実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示した。
【0064】
(比較例2)
押出機の吐出量を200kg/hに変更したこと以外は比較例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示した。
【0065】
【表1】
【0066】
比率{B/A}が0.7以上を満たすフィルター装置を用いた実施例1~3は、ハウジング内で溶融樹脂が滞留しやすい滞留部が少ないため、得られるフィルム中の異物量が少なかった。一方、比率{B/A}が0.7以上を満たさないフィルター装置を用いた比較例1及び2は、ハウジング内で溶融樹脂が滞留しやすい滞留部が多いため、得られるフィルム中の異物量が多かった。
また、比率{B/A}が同じフィルター装置を用いた場合、滞留時間が短いほど、フィルム中の異物量が少ないことが分かる(実施例2及び3、並びに比較例1及び2参照)。
【符号の説明】
【0067】
1 流路
2 流入口
3、13 壁面
4、14 流出口
5、15 フィルターエレメント
15a フィルターエレメントの傾斜面
6 支柱部材
7、17 傾斜部
7a、7b、7c、17a、17b、17c 傾斜部の領域
8 ハウジング
10、20 フィルター装置
P 壁面が傾斜していないか又は傾斜していても該壁面と流路方向に対して直交する平面とのなす角度が10°以下の部分
図1
図2
図3
図4
図5