(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】フィルター装置及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/69 20190101AFI20220914BHJP
B01D 29/39 20060101ALI20220914BHJP
B01D 35/02 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B29C48/69
B01D29/34 510C
B01D29/34 520C
B01D35/02 L
(21)【出願番号】P 2018203173
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2017209320
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】武田 英明
(72)【発明者】
【氏名】小寺 純平
(72)【発明者】
【氏名】榎本 大貴
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-170620(JP,A)
【文献】特開2017-185760(JP,A)
【文献】特開平9-38423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/69
B01D 29/39
B01D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂が流入する入口及び流出する出口を有するハウジングと、
前記ハウジング内に設けられたセンターポールと、
前記センターポールを外囲するように、前記センターポールの長手方向に間隔を空けて並設された複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントと、
前記センターポールの内面及び外面の少なくとも一方に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路とを備え、
前記複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントは、ろ過精度の異なる第1フィルターエレメント(A)及び第2フィルターエレメント(B)を有し、ここで第2フィルターエレメント(B)のろ過精度は第1フィルターエレメント(A)のろ過精度よりも値が大き
く、
前記センターポールは、内面に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路を備える内流型センターポールであって、前記内流型センターポールは、貫通孔、及び、前記貫通孔の少なくとも1つと前記溶融樹脂流路とを連結する連結溶融樹脂流路を備え、前記連結溶融樹脂流路に繋がる前記貫通孔に設けられた前記フィルターエレメントが前記第2フィルターエレメント(B)である、フィルター装置。
【請求項2】
前記第2フィルターエレメント(B)のろ過精度は、前記第1フィルターエレメント(A)のろ過精度の1.5倍以上である、請求項1に記載のフィルター装置。
【請求項3】
前記第1フィルターエレメント(A)のろ過精度は1~30μmである、請求項1又は2に記載のフィルター装置。
【請求項4】
前記第1フィルターエレメント(A)の枚数は、前記リーフディスク型のフィルターエレメントの総枚数に対して、70~99%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルター装置。
【請求項5】
前記第2フィルターエレメント(B)の枚数は、前記リーフディスク型のフィルターエレメントの総枚数に対して、1~30%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルター装置。
【請求項6】
前記第2フィルターエレメント(B)は、前記センターポールの長手方向において前記溶融樹脂の滞留傾向箇所に設けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルター装置。
【請求項7】
前記複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントにおいて、前記溶融樹脂流路の最上流及び最下流に位置する前記フィルターエレメントの少なくとも一方が前記第2フィルターエレメント(B)である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフィルター装置。
【請求項8】
溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造方法であって、
押出機とダイとの間に請求項1~
7のいずれか一項に記載のフィルター装置を配置し、前記押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂を前記フィルター装置に通過させる工程を有する、熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂を含有する、請求項
8に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル系樹脂が、
メタクリル酸メチルの単独重合体(A);
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C);
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物;
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物;
からなる群から選択される、請求項
9に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂がゴム粒子を含有する、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂成形体がフィルムである、請求項
8~
11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター装置及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電の加飾用途、光学用途、建材用途に熱可塑性樹脂成形体を使用する場合、熱可塑性樹脂成形体中に微小な異物が混入すると、最終製品の外観や品質が損なわれる。
【0003】
熱可塑性樹脂成形体中の異物を除去する方法として、例えば、アクリル系樹脂の押出工程において200~600メッシュのスクリーンメッシュを用いて、ろ過を行う方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、スクリーンメッシュを用いる方法では、ろ過面積が小さく、メッシュ自体の強度も小さいことから、ろ過精度を上げるためにメッシュの目開きを細かくしようとすると樹脂圧力が上昇してしまうため、押出吐出量や連続生産性に制限がある。
【0004】
熱可塑性樹脂成形体中の異物を除去するその他の方法としては、フィルター装置として、リーフディスク型のフィルターエレメントを、ハウジング内のセンターポールに複数枚組み付けて積層したツリー状の組立体(以下、リーフディスクフィルターともいう)を用いて溶融樹脂のろ過を行う方法が知られている(特許文献2~4参照)。これらのリーフディスクフィルターは、ハウジング内で複数枚のフィルターエレメントを並列して使用するため、ろ過面積が広く、高粘度の溶融樹脂をろ過する場合でも樹脂圧力の上昇が少ない利点がある。一方で、フィルターエレメントの枚数が多くなると、ハウジング内で樹脂の滞留時間が延び、樹脂の劣化に繋がる。また、ハウジング内の隅又はセンターポールの端部に樹脂が流れにくい滞留部が発生し、このような滞留部で樹脂の劣化が進行するため、長期間の運転において焼け及びゲル状体等の異物を低減することが困難となる。
【0005】
上記ハウジング内での樹脂の滞留に起因する異物を低減する方法として、最上流部に位置するフィルターエレメントの上流側に配置された保護板及び最下流部に位置するフィルターエレメントの下流側に配置された底板のうち少なくとも一方の面にろ過機能を有する部材を備えるリーフディスクフィルターが提案されている(特許文献5参照)。また、ハウジング内の最下流部に長期滞留樹脂の排出口を備えるリーフディスクフィルターが提案されている(特許文献6~8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-263614号公報
【文献】特開2006-88081号公報
【文献】特開2007-254727号公報
【文献】特開2007-262399号公報
【文献】特開2012-140000号公報
【文献】特開2012-213983号公報
【文献】特開2010-284832号公報
【文献】特開2009-154301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5~8で提案されているリーフディスクフィルターを用いる場合、ハウジング等の改造が必要であり、時間及びコストが掛かる問題がある。また、最下流部に長期滞留樹脂の排出口を設ける場合、上流に存在する滞留部の解決にはならず、ろ過された熱可塑性樹脂成形体は依然として異物を含む場合がある。
【0008】
本発明は、ハウジング内の滞留部を減少させ、焼け及びゲル状体等の異物が少ない熱可塑性樹脂成形体を製造することができるフィルター装置及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について検討した結果、押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂をリーフディスクフィルターによってろ過して熱可塑性樹脂成形体を製造する際に、ろ過精度が互いに異なるフィルターエレメントを使用することによって、熱可塑性樹脂成形体中の異物が少なくなることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次の[1]~[22]を提供するものである。
[1]
溶融樹脂が流入する入口及び流出する出口を有するハウジングと、
前記ハウジング内に設けられたセンターポールと、
前記センターポールを外囲するように、前記センターポールの長手方向に間隔を空けて並設された複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントと、
前記センターポールの内面及び外面の少なくとも一方に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路とを備え、
前記複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントは、ろ過精度の異なる第1フィルターエレメント(A)及び第2フィルターエレメント(B)を有し、ここで第2フィルターエレメント(B)のろ過精度は第1フィルターエレメント(A)のろ過精度よりも値が大きい、フィルター装置。
[2]
前記第2フィルターエレメント(B)のろ過精度は、前記第1フィルターエレメント(A)のろ過精度の1.5倍以上である、[1]のフィルター装置。
[3]
前記第1フィルターエレメント(A)のろ過精度は1~30μmである、[1]又は[2]のフィルター装置。
[4]
前記第1フィルターエレメント(A)の枚数は、前記リーフディスク型のフィルターエレメントの総枚数に対して、70~99%である、[1]~[3]のいずれかのフィルター装置。
[5]
前記第2フィルターエレメント(B)の枚数は、前記リーフディスク型のフィルターエレメントの総枚数に対して、1~30%である、[1]~[4]のいずれかのフィルター装置。
[6]
前記第2フィルターエレメント(B)は、前記センターポールの長手方向において前記溶融樹脂の滞留傾向箇所に設けられる、[1]~[5]のいずれかのフィルター装置。
[7]
前記複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントにおいて、前記溶融樹脂流路の最上流及び最下流に位置する前記フィルターエレメントの少なくとも一方が前記第2フィルターエレメント(B)である、[1]~[6]のいずれかのフィルター装置。
[8]
少なくとも、前記溶融樹脂流路における最上流側の前記フィルターエレメントが、第2フィルターエレメント(B)である、[7]に記載のフィルター装置。
[9]
前記センターポールは、内面に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路を備える内流型センターポールであって、前記内流型センターポールは、貫通孔、及び、前記貫通孔の少なくとも1つと前記溶融樹脂流路とを連結する連結溶融樹脂流路を備え、前記連結溶融樹脂流路に繋がる前記貫通孔に設けられた前記フィルターエレメントが前記第2フィルターエレメント(B)である、[1]~[8]のいずれかのフィルター装置。
【0011】
[10]
溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造方法であって、
押出機とダイとの間に[1]~[9]のいずれかのフィルター装置を配置し、前記押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂を前記フィルター装置に通過させる工程を有する、熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[11]
前記フィルター装置内における、前記熱可塑性樹脂の滞留時間が50秒以上1,800秒以下である、[10]の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[12]
前記フィルター装置内における、前記熱可塑性樹脂の温度が230~300℃である、
[10]又は[11]の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[13]
前記フィルター装置の入口及び出口における差圧が0.1~10MPaである、[10]~[12]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[14]
前記熱可塑性樹脂の温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100~1,500Pa・sである、[10]~[13]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[15]
前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂を含有する、[10]~[14]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[16]
前記(メタ)アクリル系樹脂が、
メタクリル酸メチルの単独重合体(A);
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C);
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物;
メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物;
からなる群から選択される、[15]の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[17]
前記熱可塑性樹脂がゴム粒子を含有する、[10]~[16]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[18]
前記ゴム粒子がアクリル系弾性体粒子である、[17]の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[19]
前記熱可塑性樹脂成形体がフィルムである、[10]~[18]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[20]
前記熱可塑性樹脂成形体が光学用成形体である、[10]~[19]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[21]
前記熱可塑性樹脂成形体が加飾用成形体である、[10]~[19]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
[22]
前記熱可塑性樹脂成形体が建材用成形体である、[10]~[19]のいずれかの熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハウジング内の滞留部を減少させ、焼け及びゲル状体等の異物が少ない熱可塑性樹脂成形体を製造することができるフィルター装置及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルター装置(リーフディスクフィルター)の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るフィルター装置(リーフディスクフィルター)における溶融樹脂の流れを示す説明図である。
【
図3】一実施形態における上流部にトーピード構造を有する内流型センターポールの断面図である。
【
図4】一実施形態における上流部に樹脂流路を有する内流型センターポールの断面図である。
【
図5】一実施形態における内流型センターポールの断面図である。
【
図6】一実施形態における外流型センターポールの断面図である。
【
図7】一実施形態における外流型センターポールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフィルター装置及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法について説明する。
本発明のフィルター装置は、溶融樹脂が流入する入口及び流出する出口を有するハウジングと、ハウジング内に設けられたセンターポールと、センターポールを外囲するように、センターポールの長手方向に間隔を空けて並設された複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントと、センターポールの内面及び外面の少なくとも一方に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路とを備え、複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメントは、ろ過精度の異なる第1フィルターエレメント(A)及び第2フィルターエレメント(B)を有し、ここで第2フィルターエレメント(B)のろ過精度は第1フィルターエレメント(A)のろ過精度よりも値が大きい。
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造方法であって、押出機とダイとの間に本発明のフィルター装置を配置し、押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルター装置に通過させる工程を有する。
なお、本明細書では、リーフディスク型のフィルターエレメントを単に「フィルターエレメント」と記載し、リーフディスク型のフィルターエレメントを有するフィルター装置を「リーフディスクフィルター」と記載することがある。
【0015】
(フィルター装置)
本発明の一実施形態に係るフィルター装置(リーフディスクフィルター)を
図1に示す。
図1に示すように、溶融樹脂が流入する入口1及び流出する出口2を有するハウジング3と、ハウジング3内に設けられたセンターポール4と、センターポール4を外囲するように、センターポール4の長手方向に間隔を空けて並設された複数枚のリーフディスク型のフィルターエレメント5とを備える。
【0016】
図2にフィルター装置内の溶融樹脂の流れを矢印で示す。入口1から流入した溶融樹脂が、ハウジング3内の空間6を移動し、フィルターエレメント5の側方に移動する。フィルターエレメント5の側方に移動した溶融樹脂は、フィルターエレメント5を通り、その内部にろ過済みの溶融樹脂として流入し、ろ過済みの溶融樹脂が、センターポール4の内面及び外面の少なくとも一方に沿う溶融樹脂流路を流れ、出口2へ流出する。
溶融樹脂がフィルターエレメント5からセンターポール4の内部の溶融樹脂流路を通過する際、
図2に示す滞留傾向箇所7、8は、溶融樹脂が滞留しやすい傾向がある箇所である。滞留傾向箇所7は、センターポール4における溶融樹脂の流れの最上流部である。また、滞留傾向箇所8は、ハウジング3内の空間6における溶融樹脂の流れの最下流部である。
【0017】
センターポール4の滞留傾向箇所7、8について、
図3、4及び6を参照して説明する。
図3、4は、内流型センターポールの断面図である。
図3の内流型センターポール9において、溶融樹脂はフィルターエレメント5を通り、内流型センターポール9の貫通孔10を通って内部の溶融樹脂流路11に流入する。溶融樹脂流路11の最上流部に位置する箇所は、溶融樹脂が滞留しやすく、滞留傾向箇所7となり得る。溶融樹脂流路11の最上流部に円錐及び六角錘等の構造を有するトーピード12を配置し、溶融樹脂の流れを整流化し、滞留を抑制することが試みられているが、その効果は十分でない。
また、
図4の内流型センターポール9においては、貫通孔10を通った溶融樹脂が、貫通孔10と溶融樹脂流路11とを連結する連結溶融樹脂流路13を通る構造を有する。しかし、単独の貫通孔10より流路が長くなる連結溶融樹脂流路13においては、圧力損失のため、溶融樹脂が通過し難く、連結溶融樹脂流路13に繋がる貫通孔10の近傍は滞留傾向箇所7となり得る。
滞留傾向箇所8はハウジング3内の空間6における溶融樹脂の流れの最下流部であるため、溶融樹脂の熱履歴が最も多く、熱劣化して流動性が低下した溶融樹脂が溜まり易い。
なお、
図5は内流型センターポールの断面図の一例である。
図6は外流型センターポールの断面図である。
図6の外流型センターポール14において、フィルターエレメント5を通った溶融樹脂は、センターポール14の外面とフィルターエレメントの内周部との空間である溶融樹脂流路15を流れ、合流部16で合流する。内流型センターポール9と同様に、センターポール14の最上流部は圧力損失のため、溶融樹脂が流れにくく、滞留傾向箇所7となり得る。
滞留傾向箇所8は、ハウジング3内の空間6における溶融樹脂の流れの最下流部であるため、溶融樹脂の熱履歴が最も多く、熱劣化して流動性が低下した溶融樹脂が溜まり易い。
なお、
図7は外流型センターポールの断面図の一例である。
【0018】
滞留傾向箇所7、8は、センターポール4の長手方向において溶融樹脂が滞留しやすい箇所である。滞留傾向箇所7、8では、溶融樹脂が熱によって劣化し、異物欠点となりやすい。そこで、滞留傾向箇所7、8には、ろ過精度の値が大きい(すなわち、目が粗いなどして性能としてのろ過精度の低い)フィルターエレメント5(第2フィルターエレメント(B))を配することが好ましい。滞留傾向箇所7、8にろ過精度の値の大きいフィルターエレメント5を配することで、溶融樹脂の流速を上げることができるので、滞留箇所の低減に繋がり、熱可塑性樹脂成形体中に混入する異物欠点を減らすことができる。
【0019】
(リーフディスク型のフィルターエレメント)
フィルターエレメント5のろ材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、又は、それらを組み合わせたハイブリッドタイプ等いずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが好ましい。
【0020】
本発明において、フィルターエレメント5は、ろ過精度の異なる第1フィルターエレメント(A)及び第2フィルターエレメント(B)を組み合わせて使用する。ここで、便宜上、ろ過精度の値の小さい方のフィルターエレメント5を第1フィルターエレメント(A)とし、ろ過精度の値の大きい方のフィルターエレメント5を第2フィルターエレメント(B)とする。
フィルターエレメント5としては、第1フィルターエレメント(A)及び第2フィルターエレメント(B)の組み合わせに限られず、ろ過精度が異なる3種以上のフィルターの組み合わせであってもよい。ろ過精度が異なる3種以上のフィルターの組み合わせの場合、ろ過精度の値が最小のフィルターエレメント5を第1フィルターエレメント(A)とし、ろ過精度の値が最大のフィルターエレメント5を第2フィルターエレメント(B)とすればよい。
なお、本明細書において、ろ過精度とは、粒子サイズとして95%以上を捕集可能なサイズのうちの最小値を意味する。
【0021】
第2フィルターエレメント(B)のろ過精度は第1フィルターエレメント(A)のろ過精度の1.5倍以上であることが好ましく、1.7倍以上であることがより好ましく、1.9倍以上であることがさらに好ましく、また、5.0倍以下であることが好ましく、4.5倍以下であることがより好ましく、4.0倍以下であることがさらに好ましい。第2フィルターエレメント(B)のろ過精度を1.5倍以上にすることで、溶融樹脂の滞留部をさらに低減でき、熱可塑性樹脂成形体が含む異物をさらに低減できる。第2フィルターエレメント(B)のろ過精度を5.0倍以下にすることで、大きい異物を低減できる。
【0022】
ろ過精度が異なるフィルターエレメント5のうち、第1フィルターエレメント(A)のろ過精度は、1~30μmであることが好ましく、3~20μmであることがより好ましく、4~10μmであることがさらに好ましい。第1フィルターエレメント(A)のろ過精度が1μm以上であることで、加わる圧力を低減することができ、フィルター装置の寿命が伸び、熱可塑性樹脂成形体の生産性が向上する。また、第1フィルターエレメント(A)のろ過精度が30μm以下であることで、熱可塑性樹脂成形体に含まれる視認できる異物をさらに低減することができ、特に光学用途で好ましい。
【0023】
フィルターエレメント5は、
図1に示すように複数枚を組み合わせて使用する。好ましい総枚数としては、10~200枚であり、より好ましくは20~100枚であり、さらに好ましくは30~60枚である。
第1フィルターエレメント(A)の枚数は、フィルターエレメント5の総枚数に対して、好ましくは70~99%であり、より好ましくは80~98%であり、さらに好ましくは90~96%である。第1フィルターエレメント(A)の枚数の比率を70%以上とすることで、溶融樹脂が含む異物をさらに効果的に除去でき、熱可塑性樹脂成形体が含む異物をさらに低減できる。また、第1フィルターエレメント(A)の枚数の比率を99%以下とすることで、溶融樹脂の滞留部をさらに低減でき、熱可塑性樹脂成形体が含む異物をさらに低減できる。
第2フィルターエレメント(B)の枚数は、フィルターエレメント5の総枚数に対して、好ましくは1~30%であり、より好ましくは2~20%であり、さらに好ましくは4~10%である。第2フィルターエレメント(B)の枚数の比率を上記範囲とすることで、溶融樹脂の滞留部を低減でき、熱可塑性樹脂成形体が含む異物をさらに低減できる。
【0024】
複数枚のフィルターエレメント5において、溶融樹脂流路11の最上流及び最下流に位置するフィルターエレメント5の少なくとも一方が第2フィルターエレメント(B)であることが好ましく、少なくとも、溶融樹脂流路11の最上流に位置するフィルターエレメント5が第2フィルターエレメント(B)であることがより好ましく、少なくとも、溶融樹脂流路11の最上流及び最下流に位置するフィルターエレメント5の両方が第2フィルターエレメント(B)であることがさらに好ましい。このような構成とすることによって、溶融樹脂流路11の最上流及び最下流に位置するフィルターエレメント5の周辺に生じる滞留部を効果的に低減でき、熱可塑性樹脂成形体中の異物をさらに効果的に低減できる。
【0025】
センターポール4が、その内面に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路11を備える内流型センターポールであって、その上流部に
図3に示すようなトーピード12を備える場合、センターポール4における上流部に相当する位置に配するフィルターエレメント5が第2フィルターエレメント(B)であることが好ましい。このような構成とすることによって、センターポール内、溶融樹脂流路及びフィルターエレメント周辺に生じる滞留部を効果的に低減でき、熱可塑性樹脂成形体中の異物を効果的に低減できる。
【0026】
センターポール4が、その内面に沿って溶融樹脂が流れる溶融樹脂流路11を備える内流型センターポールであって、当該内流型センターポールが、
図4に示すように、貫通孔10、及び、貫通孔10の少なくとも1つと溶融樹脂流路11とを連結する連結溶融樹脂流路13を備える場合、当該連結溶融樹脂流路13に繋がる貫通孔10に設けられたフィルターエレメント5が第2フィルターエレメント(B)であることが好ましい。
溶融樹脂流路11への流路として、貫通孔10及び連結溶融樹脂流路13を連結した流路は、貫通孔10のみからなる流路より長くなることにより、圧力損失により溶融樹脂が流れにくくなり、滞留部を形成しやすくなる。そこで、上記のような構成とすることによって、連結溶融樹脂流路13に繋がる貫通孔10の近傍に生じる滞留部を効果的に低減でき、熱可塑性樹脂成形体中の異物を効果的に低減できる。
【0027】
(熱可塑性樹脂成形体の製造方法)
本発明のフィルター装置は、押出機及びダイを用いた溶融押出法による熱可塑性樹脂成形体の製造に好適に用いることができる。このとき、本発明のフィルター装置は、押出機とダイとの間に配置され、押出機から吐出される溶融状態の熱可塑性樹脂を当該フィルター装置に通過させることによって異物等をろ過する工程に用いられることが好ましい。
ダイは、特に限定されず、ペレット、フィルム、シート、板等の熱可塑性樹脂成形体の形状に合わせて選定することができる。熱可塑性樹脂を溶融させるための押出機は、特に限定されず、単軸押出機でも二軸押出機でもよく、また、一台であっても複数台であってもよい。押出機は、熱可塑性樹脂が含む水分や熱可塑性樹脂が分解したモノマーを除去し、異物を低減する観点から、ベントを有することが好ましい。ベント付押出機では減圧にして、又は窒素を流通させて運転することが好ましい。さらに必要に応じてフィルター装置の前及び/又は後にギアポンプ等を配し、溶融樹脂の計量を行ってもよい。押出機がベントを有する場合、ベントアップを抑制し、生産性を高める観点から、押出機とフィルター装置の間にギアポンプを配することが好ましい。
【0028】
フィルムを製造する場合には、Tダイ等を用いて溶融した熱可塑性樹脂を押出して冷却ロール上で冷却することにより未延伸フィルムを得、必要に応じて縦延伸装置、横延伸装置、同時二軸延伸装置等の延伸装置を任意に組み合わせて延伸し、延伸フィルムを得ることができる。また、フィルムの表面平滑性及び厚さ均一性の観点から、押し出されたフィルム状溶融樹脂を、鏡面ロール又は鏡面ベルトの間に引き取り挟圧することが好ましい。
鏡面ロール又は鏡面ベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。鏡面ロールは、表面平滑性及び厚さ均一性の観点から、金属剛体ロール及び金属弾性ロールの組み合せであることが好ましい。鏡面ロール又は鏡面ベルト間の線圧は、表面平滑性の観点から、好ましくは10N/mm以上であり、より好ましくは30N/mm以上である。鏡面ロール又は鏡面ベルトの表面温度は、表面平滑性、ヘーズ、外観等の観点から、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上である。また、好ましくは130℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。
【0029】
フィルター装置内における、熱可塑性樹脂(溶融樹脂)の温度は、230~300℃であることが好ましく、240~280℃であることがより好ましく、250~270℃であることがさらに好ましい。
フィルター装置内の熱可塑性樹脂の温度を230℃以上とすることで、溶融粘度を低くすることができ、樹脂圧の上昇を抑え、熱可塑性樹脂成形体の連続生産性が向上する。
フィルター装置内の熱可塑性樹脂の温度を300℃以下とすることで、フィルター内部の樹脂滞留をさらに抑制し、熱による樹脂の劣化をさらに抑制することができる。
【0030】
フィルター装置内における、熱可塑性樹脂(溶融樹脂)の滞留時間は50秒以上1,800秒以下であることが好ましく、70秒以上1,200秒以下であることがより好ましく、100秒以上900秒以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂の滞留時間を50秒以上とすることで、樹脂温度のむらを小さくし、樹脂の劣化をさらに抑制することができる。
熱可塑性樹脂の滞留時間を1,800秒以下とすることで、樹脂の劣化をさらに抑制することができる。
【0031】
フィルター装置の入口及び出口における差圧は0.1~10MPaであることが好ましく、1~8MPaであることがより好ましく、2~6MPaであることがさらに好ましい。
フィルター装置の入口及び出口における差圧を0.1MPa以上とすることで、溶融樹脂の偏流を抑制し、樹脂の劣化をさらに抑制することができる。
フィルター装置の入口及び出口における差圧を10MPa以下とすることで、熱可塑性樹脂成形体の連続生産性が向上し、さらには、フィルターエレメントが捕集した異物がフィルターエレメントをすり抜けることを低減し、熱可塑性樹脂成形体の異物をさらに低減できる。
【0032】
(熱可塑性樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法では、溶融状態の熱可塑性樹脂(溶融樹脂)をフィルター装置に通過させて、異物等をろ過する工程を有する。ここで熱可塑性樹脂は、単独の熱可塑性樹脂成分のみからなるものであってもよいし複数種の成分を含む熱可塑性樹脂組成物であってもよい。熱可塑性樹脂は、温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100~1,500Pa・sであることが好ましく、300~1,000Pa・sであることがより好ましい。
熱可塑性樹脂の温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が100Pa・s以上であることで、溶融樹脂がフィルター装置を通過する際、背圧が十分に大きく、効果的に異物をろ過することができる。また、熱可塑性樹脂の温度270℃、せん断速度122秒-1における溶融粘度が1,500Pa・s以下であることで、フィルター装置へ過剰な圧力がかかることによるフィルター装置の破損を防ぐことができ、熱可塑性樹脂成形体の連続生産性が向上する。
なお、溶融粘度は、キャピログラフィ等により測定することができる。
【0033】
熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、及びポリノルボルネン等のポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;メタクリル系樹脂、MS樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、及びMBS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド9T、ポリアミド10T及びポリアミドエラストマー等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルフェノール、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体;ポリアセタール;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル及びポリフェニレンスルフィド;アクリル系熱可塑性エラストマー;SEPS、SEBS、及びSIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの重合体成分のみからなるものや、これらの重合体成分のうちの1種又は2種以上を含む樹脂組成物などが挙げられる。
なお、本明細書において(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂又はアクリル系樹脂を指す。
【0034】
熱可塑性樹脂は、光学特性、耐熱性、成形加工性等に優れる観点から、(メタ)アクリル系樹脂を含有するものが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、メタクリル酸メチルの単独重合体(A)、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)、メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びアクリル酸エステルの単独重合体(B)の混合物、メタクリル酸メチルの単独重合体(A)及びメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)の混合物等が挙げられる。
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルの共重合体(C)が含有するメタクリル酸メチル単位の割合は、60~99質量%であることが好ましく、70~98質量%であることがより好ましく、80~97質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
アクリル酸エステルは特に限定されない。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5万以上15万以下であることが好ましく、6万以上15万以下であることがより好ましく、7万以上12万以下であることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.7~2.6であることが好ましく、1.7~2.3であることがより好ましく、1.7~2.0であることがさらに好ましい。分子量分布を1.7以上とすることで、熱可塑性樹脂の成形加工性が良好となる。また、分子量分布を2.6以下とすることで、得られる熱可塑性樹脂成形体の耐衝撃性が良好となる。
なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で分析し標準ポリスチレンの分子量に換算して算出される値である。
【0037】
(メタ)アクリル系樹脂としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造されたものを用いることができる。中でも、塊状重合法又は溶液重合法により得られたものを用いることが好ましく、不純物の少ない熱可塑性樹脂成形体が得られる観点からは、塊状重合法により得られたものを用いることがより好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂における(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、70~95質量%であることが好ましく、75~90質量%であることがより好ましく、80~85質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、特にゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂成形体の製造に好適に用いることができる。ゴム粒子は滞留によって異物を生じやすいためである。ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂成形体は、ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂を用いることにより製造することができる。
ゴム粒子としては、アクリル酸エステルに由来する単位を有する重合体からなる粒子(以下、「アクリル系弾性体粒子」と称する。)、共役ジエンに由来する単位を有する重合体からなる粒子、アクリル酸エステルに由来する単位及び共役ジエンに由来する単位を有する重合体からなる粒子等が挙げられる。なお、これらの重合体は必要に応じて架橋性単量体に由来する単位を有していてもよい。中でも熱可塑性樹脂として(メタ)アクリル系樹脂を含有するものを用いる場合などにおいて、ゴム粒子はアクリル系弾性体粒子であることが好ましい。
【0040】
ゴム粒子は、多層構造を有するゴム粒子であることが好ましく、粒子の芯から外殻に向かって略同心円状に複数の層が積層され、層間がグラフト結合により結合しているゴム粒子であることがより好ましい。
【0041】
ゴム粒子の好ましい一態様であるアクリル系弾性体粒子は、単一重合体からなる粒子であってもよいし、異なる弾性率の重合体が少なくとも2つ層を形成した粒子であってもよい。アクリル系弾性体粒子は、熱可塑性樹脂成形体の耐衝撃性の観点から、共役ジエンに由来する単位を有する重合体及び/又はアクリル系弾性重合体(例えば、アクリル酸非環状アルキルエステルに由来する単位を主成分として含む重合体など)を含有する層と他の重合体を含有する層とからなる多層構造のコアシェル粒子であることが好ましく、アクリル系弾性重合体を含有する層とその外側を覆うメタクリル系重合体を含有する層とからなる2層構造のコアシェル粒子、又は、メタクリル系重合体を含有する層と、その外側を覆うアクリル系弾性重合体を含有する層と、そのさらに外側を覆うメタクリル系重合体を含有する層とからなる3層構造のコアシェル粒子であることがより好ましく、耐熱性の観点から、3層構造のコアシェル粒子であることがさらに好ましい。
【0042】
コアシェル粒子を構成するメタクリル系重合体は、メタクリル酸非環状アルキルエステルに由来する単位を主成分として含む重合体であることが好ましい。メタクリル系重合体において、メタクリル酸非環状アルキルエステルに由来する単位の含有量は、流動性及び耐熱性の観点から、50~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
メタクリル酸非環状アルキルエステルは、流動性及び耐熱性の観点から、メタクリル酸メチルであることが好ましく、コアシェル粒子を構成するメタクリル系重合体は、メタクリル酸メチル単位を80~100質量%含有することが最も好ましい。
【0043】
アクリル系弾性体粒子の製造方法に特に制限はなく、公知の手法(例えば、国際公開第2016/121868号等)に準じた方法により製造することができる。
【0044】
熱可塑性樹脂は添加剤を含有してもよい。添加剤の種類は特に限定されず、例えば、紫外線吸収剤、高分子加工助剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、艶消し剤、充填剤、耐衝撃助剤、可塑剤等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
添加剤は、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよいが、熱可塑性樹脂中での分散性の観点から、有機化合物が好ましい。
添加剤の含有量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂において好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.1~8質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。添加剤の含有量が0.01質量%以上であることで添加剤の効果を十分に発現することができ、10質量%以下であることで熱可塑性樹脂成形体が本来有する物性を十分に維持できる。
【0045】
本発明の製造方法で得られる熱可塑性樹脂成形体は異物欠点が少ないため、自動車や家電の加飾用途;偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシート等の光学用途;壁材、ウィンドウフィルム、窓枠、浴室壁材等の建材用途に好適に用いることができる。すなわち、熱可塑性樹脂成形体は、加飾用成形体、光学用成形体、又は建材用成形体として好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂成形体が光学成形体である場合、光学成形体の全光線透過率が好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)及び溶融粘度、並びに、フィルム中の異物量の測定方法を以下に記す。
【0047】
(重量平均分子量(Mw))
測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン(THF)5mlに溶解させ、孔径0.1μmのフィルターでろ過したものを試料溶液とした。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー(株)製「HLC-8320」を使用した。カラムとして、東ソー(株)製の「TSKgel Super Multipore HZM-M」2本と「Super HZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。溶離剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μLを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。クロマトグラムは、試料溶液と参照溶液との屈折率差に由来する電気信号値(強度Y)を保持時間Xに対してプロットしたチャートである。
分子量が400~5,000,000の範囲の標準ポリスチレン10点を用いてGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、測定対象樹脂の重量平均分子量(Mw)を決定した。なお、クロマトグラムのベースラインは、GPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0048】
(溶融粘度)
測定対象樹脂(ペレット)を80℃で12時間乾燥した後、東洋精機(株)社製「キャピログラフ1D」を用いて、温度270℃、せん断速度122秒-1の条件で、溶融粘度を測定した。
【0049】
(フィルム中の異物量)
艶消しの黒色布(川島織物セルコン社製)の上に、各実施例又は比較例で得られたフィルムを1m×1mのサイズに切り出して置き、フィルム表面の垂直面から蛍光灯の反射光を利用して目視で見た際に表面凹凸の違いにより検出される異物の個数を数え、1m2当りの異物量として算出した。なお、ここでの異物とは、幅×長さの値が0.03mm2を超える異物を指す。
【0050】
(熱可塑性樹脂の製造例)
国際公開第2016/121868号の合成例4を参照して得たメタクリル系樹脂(重量平均分子量(Mw)110,000)80質量部と、同合成例8を参照して得た3層構造のアクリル系弾性体粒子20質量部をヘンシェルミキサーで混合し、260℃に設定されたスクリュー径75mmのベント付き二軸押出機を用いて(メタ)アクリル系樹脂のペレットを得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂の上記溶融粘度は830Pa・sであった。
【0051】
(実施例1)
65mmφベント付き単軸押出機、ギアポンプ、フィルター装置、スタティックミキサー、Tダイをこの順番に備えたフィルム製造装置にて、押出機、ギアポンプ、フィルター装置のハウジングの設定温度が260℃、吐出量が70kg/hの条件で、上述の製造例で得た熱可塑性樹脂((メタ)アクリル系樹脂)を押出し、90℃に設定した鏡面金属剛体ロール及び鏡面金属弾性ロールで挟持して、厚さ100μmのフィルムを作製した。
フィルター装置は、溶融樹脂が流入する入口及び流出する出口を有するハウジングと、ハウジング内に設けられたトーピードを有さない内流型センターポール(
図4と同類で上流側に貫通孔と溶融樹脂流路とを繋ぐ連結溶融樹脂流路を有する)と、センターポールを外囲するように、センターポールの長手方向に間隔を空けて並設されたリーフディスク型のフィルターエレメントとを備える。リーフディスク型のフィルターエレメントは、ろ過精度の異なる第1フィルターエレメント(A)及び第2フィルターエレメント(B)を以下のように組み合わせたものである。
すなわち、リーフディスク型のフィルターエレメントは、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を48枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を2枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)の2枚は、最上流側に配置した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は5MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、リーフディスク型のフィルターエレメントの構成を、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を47枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を3枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)のうち2枚を最上流側に配置し、残りの1枚を最下流側に配置した。それ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は5MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、リーフディスク型のフィルターエレメントの構成を、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を25枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を25枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)のうち13枚を最上流側に配置し、残りの12枚を最下流側に配置した。それ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は4MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
実施例1において、リーフディスク型のフィルターエレメントの構成を、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を25枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を25枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)の25枚は、最上流側に配置した。それ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は4MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
実施例1において、リーフディスク型のフィルターエレメントの構成を、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を25枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を25枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)の25枚は、最下流側に配置した。それ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は4MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0056】
(実施例6)
実施例1において、リーフディスク型のフィルターエレメントの構成を、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を42枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を8枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)のうち4枚を最上流側に配置し、残りの4枚を最下流側に配置した。それ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は4.8MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例7)
実施例1において、リーフディスク型のフィルターエレメントの構成を、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を38枚と、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を12枚とを組み合わせた合計50枚とした。第2フィルターエレメント(B)のうち6枚を最上流側に配置し、残りの6枚を最下流側に配置した。それ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は4.5MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を使用せず、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を50枚使用したこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は7MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
実施例1において、ろ過精度が5μmである第1フィルターエレメント(A)を使用せず、ろ過精度が10μmである第2フィルターエレメント(B)を50枚使用したこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。フィルター装置内における熱可塑性樹脂の滞留時間は600秒であり、熱可塑性樹脂の温度は260℃であり、フィルター装置の入口及び出口における差圧は3MPaであった。
製膜開始から10時間経過後に得られたフィルム中の異物量の評価結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
実施例1~7は、フィルター装置内で溶融樹脂の滞留傾向箇所、すなわち最上流及び/又は最下流に位置するフィルターエレメントに、中央部とはろ過精度が異なるフィルターエレメントを使用したため、得られるフィルム中に異物量が少ない。
また、溶融樹脂流路の最上流にろ過精度の値が大きいフィルターエレメントを配置した実施例1~4、6、7は、最上流にろ過精度の値が小さいフィルターエレメントを配置した実施例5に比べて、得られるフィルム中の異物量が少ない。
さらに、溶融樹脂流路の最上流及び最下流の両方にろ過精度の値が大きいフィルターを配置した実施例1~3、6、7は、最上流側のみにろ過精度の値が大きいフィルターを配置した実施例4に比べて、得られるフィルム中の異物量が少ない。
一方、比較例1及び2は、単一の種類のフィルターエレメントのみを使用したため、フィルム中の異物量が多い。
【符号の説明】
【0062】
1 入口
2 出口
3 ハウジング
4 センターポール
5 リーフディスク型のフィルターエレメント
6 ハウジング内の空間
7,8 滞留傾向箇所
9 内流型センターポール
10 貫通孔
11,15 溶融樹脂流路
12 トーピード
13 連結溶融樹脂流路
14 外流型センターポール
16 合流部