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  • 特許-ポリアミド組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】ポリアミド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20220914BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20220914BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220914BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/16
C08K5/098
C08G69/26
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018157355
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029538
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100163234
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 順子
(72)【発明者】
【氏名】南谷 篤
(72)【発明者】
【氏名】大矢 延弘
(72)【発明者】
【氏名】關口 健治
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/102681(WO,A1)
【文献】特開2005-179434(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098840(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/040282(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/040283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 69/00- 69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有するポリアミド(A)と、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)とを含有し、
該ジカルボン酸単位の40モル%超100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位であり、
該ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が炭素数6以上12以下の分岐状脂肪族ジアミン単位及び任意構成単位の炭素数4以上12以下の直鎖状脂肪族ジアミン単位であり、該分岐状脂肪族ジアミン単位における分岐鎖がメチル基であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する該分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が72モル%以上である、ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位と前記直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する前記分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が80モル%以上99モル%以下である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位が、任意の一方のアミノ基が結合した炭素原子を1位とした際に、2位の炭素原子及び3位の炭素原子の少なくとも一方に分岐鎖を有するジアミンに由来する構成単位である、請求項1又は2に記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記分岐状脂肪族ジアミン単位が、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び2-メチル-1,9-ノナンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド組成物。
【請求項5】
前記直鎖状脂肪族ジアミン単位が、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、及び1,12-ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド(A)100質量部に対して、前記銅化合物(B1)を0.01質量部以上1質量部以下含有する、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド組成物。
【請求項7】
前記銅化合物(B1)が、ヨウ化銅、臭化銅、及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド(A)100質量部に対して、前記金属ハロゲン化物(B2)を0.05質量部以上20質量部以下含有する、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド組成物。
【請求項9】
前記金属ハロゲン化物(B2)が、ヨウ化カリウム及び臭化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリアミド組成物からなる成形品。
【請求項11】
ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有するポリアミド(A)と、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)とを含有し、
該ジカルボン酸単位の40モル%超100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位であり、
該ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が炭素数6以上12以下の分岐状脂肪族ジアミン単位及び任意構成単位の炭素数4以上12以下の直鎖状脂肪族ジアミン単位であり、該分岐状脂肪族ジアミン単位における分岐鎖がメチル基であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する該分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上であるポリアミド組成物からなるフィルム又はシート。
【請求項12】
ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有するポリアミド(A)と、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)とを含有し、
該ジカルボン酸単位の40モル%超100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位であり、
該ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が炭素数6以上12以下の分岐状脂肪族ジアミン単位及び任意構成単位の炭素数4以上12以下の直鎖状脂肪族ジアミン単位であり、該分岐状脂肪族ジアミン単位における分岐鎖がメチル基であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する該分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上であるポリアミド組成物からなる、
ギア、カム、ハウジング、ローラー、インペラー、ベアリングリテーナー、スプリングホルダー、クラッチパーツ、チェインテンショナー、タンク、ホイール、コネクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ハードディスク部品、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、又はLEDリフレクタである成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド組成物などに関する。より詳しくは、ナフタレンジカルボン酸単位を主体とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主体とするジアミン単位とを有する半芳香族ポリアミド、銅化合物及び金属ハロゲン化物を含むポリアミド組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジアミンを用いた半芳香族ポリアミドや、ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用や産業資材用の繊維、汎用のエンジニアリングプラスチックなどとして広く用いられている。一方で、これらの結晶性ポリアミドは、耐熱性不足、吸水による寸法安定性不良などの問題点も指摘されている。特に近年、自動車の燃費向上を目的としてエンジンルーム部品の樹脂化が盛んに検討されており、従来のポリアミドよりも、高温強度、耐熱性、寸法安定性、力学特性、物理的化学的特性に優れたポリアミドが望まれている。
【0003】
耐熱性に優れるポリアミドとしては、例えば特許文献1において、2,6-ナフタレンジカルボン酸と炭素数9~13の直鎖状脂肪族ジアミンから得られる半芳香族ポリアミドが開示されている。特許文献1には、当該半芳香族ポリアミドが、耐熱性の他に、耐薬品性、機械特性などにも優れることが記載されている。一方、特許文献1には、側鎖を有する脂肪族ジアミンを用いると、得られるポリアミドの結晶性が低下するなどして好ましくないことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ジカルボン酸単位の60~100モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60~100モル%が1,9-ノナンジアミン単位及び2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位からなり、かつ1,9-ノナンジアミン単位と2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位のモル比が60対40~99対1であるポリアミドが開示されている。特許文献2には、当該ポリアミドは、耐熱性の他に、力学特性、耐熱分解性、低吸水性、耐薬品性などに優れることが記載されている。
さらに、半芳香族ポリアミドを含む樹脂組成物や、半芳香族ポリアミドの用途などについても開示されている(例えば、特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭50-67393号公報
【文献】特開平9-12715号公報
【文献】国際公開第2012/098840号
【文献】国際公開第2005/102681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように特許文献1及び2などの従来のポリアミドは、耐熱性、力学特性、低吸水性、及び耐薬品性などの物性を有するが、これらの物性のさらなる向上が求められている。
特許文献2には、脂肪族ジアミンとして1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとを併用する記載はあるが、側鎖を有する2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が高い領域のポリアミドについては一切言及されていない。
【0007】
そこで本発明は、耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性により優れたポリアミド組成物、及びこれからなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、ナフタレンジカルボン酸単位を主体とするジカルボン酸単位と、分岐状脂肪族ジアミン単位を主体とするジアミン単位とを有する特定のポリアミド、銅化合物、及び金属ハロゲン化物を含むポリアミド組成物が上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1]ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有するポリアミド(A)と、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)とを含有し、
該ジカルボン酸単位の40モル%超100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位であり、
該ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が分岐状脂肪族ジアミン単位及び任意構成単位の直鎖状脂肪族ジアミン単位であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する該分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上である、ポリアミド組成物。
[2]前記ポリアミド組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性により優れたポリアミド組成物、及びこれからなる成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ジカルボン酸単位が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位であり、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位及び/又は2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位であるポリアミドについて、ジアミン単位における2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合(モル%)に対するポリアミドの融点(℃)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0013】
<ポリアミド組成物>
本発明のポリアミド組成物は、ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有するポリアミド(A)と、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)とを含有する。
本明細書において、「~単位」(ここで「~」は単量体を示す)とは「~に由来する構成単位」を意味し、例えば「ジカルボン酸単位」とは「ジカルボン酸に由来する構成単位」を意味し、「ジアミン単位」とは「ジアミンに由来する構成単位」を意味する。
【0014】
[ポリアミド(A)]
本発明のポリアミド組成物に含まれるポリアミド(A)は、ジカルボン酸単位及びジアミン単位を有する。そして、該ジカルボン酸単位の40モル%超100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位である。また、該ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が分岐状脂肪族ジアミン単位及び任意構成単位の直鎖状脂肪族ジアミン単位であり、かつ該分岐状脂肪族ジアミン単位と該直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する該分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%以上である。
【0015】
ポリアミド(A)は、上記のように、ナフタレンジカルボン酸単位を主体とするジカルボン酸単位と、分岐状脂肪族ジアミン単位を主体とするジアミン単位とを有することにより、耐薬品性をはじめとする各種物性により優れ、当該ポリアミド(A)、銅化合物及び金属ハロゲン化物を含有する本発明のポリアミド組成物も上記優れた性質が保たれ、加えて優れた高温耐熱性が発現される。また当該ポリアミド組成物から得られる種々の成形品は、当該ポリアミド組成物の優れた性質を保持することができる。
【0016】
一般にポリアミドが有し得る高温強度、力学特性、耐熱性、低吸水性、及び耐薬品性などの物性は、ポリアミドの結晶性が高くなるほど優れる傾向にある。また、類似の一次構造を有するポリアミド間では、ポリアミドの結晶性が高くなるに従い、ポリアミドの融点も高くなる傾向にある。ここで、ポリアミドの融点について、例えば、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位及び/又は2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位であり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であるポリアミドを例にとると、当該ポリアミドの融点(縦軸)とジアミン単位の組成(1,9-ノナンジアミン単位と2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位との含有割合)(横軸)との関係を表すグラフには極小部分が示される。そしてグラフの横軸上の両端の融点、すなわち直鎖構造の1,9-ノナンジアミン単位が100モル%のときの融点A1と、分岐構造の2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位が100モル%のときの融点B1とを比べた場合、ジアミン単位の分子構造に依拠して、通常融点A1の方が融点B1よりも高くなる。
これに対して、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位及び/又は2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位であり、ジカルボン酸単位が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位であるポリアミドの場合、上記と同様の縦軸と横軸とを有するグラフにおいて極小部分が示される一方で、直鎖構造の1,9-ノナンジアミン単位が100モル%のときの融点A2と、分岐構造の2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位が100モル%のときの融点B2とを比べた場合、意外なことに融点B2の方が融点A2よりも高くなることが分かった。
【0017】
具体的に、ジカルボン酸単位が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位であり、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位及び/又は2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位であるポリアミドについて、ジアミン単位における2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合(モル%)に対するポリアミドの融点(℃)をプロットしたグラフを図1に示す。
図1によれば、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位が0モル%(すなわち、1,9-ノナンジアミン単位が100モル%)であるポリアミドの融点に対し、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合が増えるに従い、ポリアミドの融点が低下していくのが分かる。一方、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合が50モル%を過ぎる付近から、その含有割合が増えるに従いポリアミドの融点が大幅に上昇しているのが分かる。そして、図1の横軸上の両端近辺の融点を比べると、分岐構造の2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合が100モル%付近であるときの融点の方が、直鎖構造の1,9-ノナンジアミン単位の含有割合が100モル%であるときの融点よりも高いことが分かる。横軸上の両端付近以外の部分についても、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合が50モル%である付近を境にしてその左右の領域の融点を比較すると、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位の含有割合の高い右側の領域において、1,9-ノナンジアミン単位の含有割合の高い左側の領域よりも融点が高くなる傾向があることが分かる。
【0018】
上述のとおり、1,9-ノナンジアミン単位及び/又は2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を主体とするジアミン単位を有するポリアミドは、組み合わせるジカルボン酸単位によってその物性の発現が異なることが分かった。本発明者らがさらに検討を進めたところ、直鎖状脂肪族ジアミン単位よりも分岐状脂肪族ジアミン単位の含有割合が多い場合に、ジカルボン酸単位としてナフタレンジカルボン酸単位を採用することにより、耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性がより向上することを見出した。この理由は必ずしも明らかではないが、ポリアミドにおける、ジアミン単位中の分岐構造の適切な存在比率と、ジカルボン単位におけるナフタレン骨格の存在とが相互に関係していることによると推測される。
【0019】
(ジカルボン酸単位)
ジカルボン酸単位は、40モル%超100モル%以下がナフタレンジカルボン酸単位である。ジカルボン酸単位におけるナフタレンジカルボン酸単位の含有量が40モル%以下であると、ポリアミド組成物の耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性向上効果を発現することが困難となる。
力学特性、耐熱性、及び耐薬品性などの観点から、ジカルボン酸単位におけるナフタレンジカルボン酸単位の含有量は、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、80モル%以上であることがよりさらに好ましく、90モル%以上であることがよりさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0020】
ナフタレンジカルボン酸単位としては、例えば、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。上記ナフタレンジカルボン酸の中でも、ポリアミド組成物の耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性の発現及びジアミンとの反応性などの観点から、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
上記と同様の観点から、ナフタレンジカルボン酸単位中、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、100モル%に近い程(実質100モル%)好ましい。
【0021】
ジカルボン酸単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、ナフタレンジカルボン酸以外の他のジカルボン酸に由来する構成単位を含むことができる。
当該他のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジメチルマロン酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらの他のジカルボン酸に由来する構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
ジカルボン酸単位における上記他のジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、50モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましく、20モル%以下であることがよりさらに好ましく、10モル%以下であることがよりさらに好ましい。
【0022】
(ジアミン単位)
ジアミン単位は、60モル%以上100モル%以下が分岐状脂肪族ジアミン単位及び任意構成単位の直鎖状脂肪族ジアミン単位である。すなわち、ジアミン単位は、分岐状脂肪族ジアミン単位を含み直鎖状脂肪族ジアミン単位を含まないか、又は分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との両方を含み、そして、ジアミン単位における分岐状脂肪族ジアミン単位と、任意構成単位である直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計含有量が60モル%以上100モル%以下である。ジアミン単位における分岐状脂肪族ジアミン単位及び直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量が60モル%未満であると、ポリアミド組成物における耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性向上効果を発現することが困難となる。
耐薬品性、力学特性、及び耐熱性などの観点から、ジアミン単位における分岐状脂肪族ジアミン単位及び直鎖状脂肪族ジアミン単位の合計含有量は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
本明細書において分岐状脂肪族ジアミンとは、含まれる2つのアミノ基がそれぞれ結合している炭素原子を両端の炭素原子とする直鎖状の脂肪族鎖を想定した際に、当該直鎖状の脂肪族鎖(想定脂肪族鎖)の水素原子の1つ以上が分岐鎖によって置換された構造を有する脂肪族ジアミンを意味する。すなわち、例えば、1,2-プロパンジアミン(H2N-CH(CH3)-CH2-NH2)は、想定脂肪族鎖としての1,2-エチレン基の水素原子の1つが分岐鎖としてのメチル基に置換された構造を有するため、本明細書における分岐状脂肪族ジアミンに分類される。
【0023】
ジアミン単位において、分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する分岐状脂肪族ジアミン単位の割合は60モル%以上である。上記分岐状脂肪族ジアミン単位の割合が60モル%未満であると、ポリアミド組成物の耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性向上効果を発現することが困難となる。
耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性が向上しやすく、ポリアミド組成物の成形性が向上するなどの観点から、分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位との合計100モル%に対する分岐状脂肪族ジアミン単位の割合は、65モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、72モル%以上であることがさらに好ましく、77モル%以上であることがよりさらに好ましく、80モル%以上であることがよりさらに好ましく、90モル%以上であってもよい。当該割合は100モル%であってもよいが、成形性やジアミンの入手性なども考慮すると、99モル%以下であることが好ましく、98モル%以下、さらには95モル%以下であってもよい。
【0024】
分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数は、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、また18以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数が上記範囲内であれば、ジカルボン酸とジアミンとの重合反応が良好に進行し、ポリアミド(A)の結晶性も良好となり、ポリアミド(A)を含むポリアミド組成物の物性がより向上しやすい。分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数の好ましい態様の一例として、4以上18以下でもよく、4以上12以下でもよく、6以上18以下でもよく、6以上12以下でもよく、8以上18以下でもよく、8以上12以下でもよい。
【0025】
分岐状脂肪族ジアミン単位における分岐鎖の種類に特に制限はなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の各種脂肪族基とすることができるが、当該分岐状脂肪族ジアミン単位は、分岐鎖としてメチル基及びエチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するジアミンに由来する構成単位であることが好ましい。分岐鎖としてメチル基及びエチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するジアミンを用いると、ジカルボン酸とジアミンとの重合反応が良好に進行し、ポリアミド(A)を含むポリアミド組成物の耐薬品性がより向上しやすい。当該観点から、分岐鎖はメチル基であることがより好ましい。
分岐状脂肪族ジアミン単位を形成する分岐状脂肪族ジアミンが有する分岐鎖の数に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることがさらに好ましい。
【0026】
分岐状脂肪族ジアミン単位は、任意の一方のアミノ基が結合した炭素原子を1位とした際に、それに隣接する2位の炭素原子(上記想定脂肪族鎖上の炭素原子)及び当該2位の炭素原子に隣接する3位の炭素原子(上記想定脂肪族鎖上の炭素原子)の少なくとも一方に分岐鎖のうちの少なくとも1つを有するジアミンに由来する構成単位であることが好ましく、上記2位の炭素原子に分岐鎖のうちの少なくとも1つを有するジアミンに由来する構成単位であることがより好ましい。これにより、ポリアミド組成物の耐薬品性及び高温耐熱性をはじめとする各種物性がより向上しやすい。
【0027】
分岐状脂肪族ジアミン単位としては、例えば、1,2-プロパンジアミン、1-ブチル-1,2-エタンジアミン、1,1-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1-エチル-1,4-ブタンジアミン、1,2-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,4-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,4-ブタンジアミン、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、3,3-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジエチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-エチル-1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、3-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、1,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,5-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,2-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,9-ノナンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐状脂肪族ジアミンに由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
上記分岐状脂肪族ジアミン単位の中でも、本発明の効果がより顕著に奏されると共に原料入手性にも優れるなどの観点から、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び2-メチル-1,9-ノナンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位が好ましく、2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位がより好ましい。
【0028】
直鎖状脂肪族ジアミン単位の炭素数は、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、また18以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。直鎖状脂肪族ジアミン単位の炭素数が上記範囲内であれば、ジカルボン酸とジアミンとの重合反応が良好に進行し、ポリアミドの結晶性も良好となり、ポリアミドの物性が向上しやすい。直鎖状脂肪族ジアミン単位の炭素数の好ましい態様の一例として、4以上18以下でもよく、4以上12以下でもよく、6以上18以下でもよく、6以上12以下でもよく、8以上18以下でもよく、8以上12以下でもよい。
直鎖状脂肪族ジアミン単位及び上記した分岐状脂肪族ジアミン単位の炭素数は、同一であっても異なっていてもよいが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから同一であることが好ましい。
【0029】
直鎖状脂肪族ジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,17-ヘプタデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
上記直鎖状脂肪族ジアミン単位の中でも、本発明の効果がより顕著に奏され、特に得られるポリアミド(A)を含むポリアミド組成物の耐熱性が向上するなどの観点から、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、及び1,12-ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位が好ましく、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位がより好ましい。
【0030】
ジアミン単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、分岐状脂肪族ジアミン及び直鎖状脂肪族ジアミン以外の他のジアミンに由来する構成単位を含むことができる。当該他のジアミンとしては、例えば、脂環式ジアミン、芳香族ジアミンなどが挙げられる。
脂環式ジアミンとしては、例えば、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミンなどが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。
これらの他のジアミンに由来する構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
ジアミン単位における上記他のジアミンに由来する構成単位の含有量は、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(ジカルボン酸単位及びジアミン単位)
ポリアミド(A)におけるジカルボン酸単位とジアミン単位とのモル比[ジカルボン酸単位/ジアミン単位]は、45/55~55/45であることが好ましい。ジカルボン酸単位とジアミン単位とのモル比が上記範囲であれば、重合反応が良好に進行し、所望する物性に優れたポリアミド組成物が得られやすい。
なお、ジカルボン酸単位とジアミン単位とのモル比は、原料のジカルボン酸と原料のジアミンとの配合比(モル比)に応じて調整することができる。
【0032】
ポリアミド(A)におけるジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計割合(ポリアミド(A)を構成する全構成単位のモル数に対するジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計モル数の占める割合)は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上、さらには100モル%であってもよい。ジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計割合が上記範囲にあることにより、所望する物性により優れたポリアミド組成物となる。
【0033】
(アミノカルボン酸単位)
ポリアミド(A)は、ジカルボン酸単位及びジアミン単位の他に、アミノカルボン酸単位をさらに含んでもよい。
アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などから誘導される構成単位を挙げることができる。ポリアミド(A)におけるアミノカルボン酸単位の含有量は、ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸単位とジアミン単位の合計100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0034】
(多価カルボン酸単位)
ポリアミド(A)には、本発明の効果を損なわない範囲内で、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸に由来する構成単位を溶融成形が可能な範囲で含ませることもできる。
【0035】
(末端封止剤単位)
ポリアミド(A)は末端封止剤に由来する構成単位(末端封止剤単位)を含んでもよい。
末端封止剤単位は、ジアミン単位100モル%に対して、1.0モル%以上であることが好ましく、1.2モル%以上であることがより好ましく、1.5モル%以上であることがさらに好ましく、また10モル%以下であることが好ましく、7.5モル%以下であることがより好ましく、6.5モル%以下であることがさらに好ましい。末端封止剤単位の含有量が上記範囲にあると、力学強度と流動性により優れたポリアミド組成物となる。末端封止剤単位の含有量は、重合原料を仕込む際に末端封止剤の量を適宜調整することにより上記所望の範囲内とすることができる。なお、重合時に単量体成分が揮発することを考慮して、得られるポリアミド(A)に所望量の末端封止剤単位が導入されるように末端封止剤の仕込み量を微調整することが望ましい。
ポリアミド(A)中の末端封止剤単位の含有量を求める方法としては、例えば、特開平7-228690号公報に示されているように、溶液粘度を測定し、これと数平均分子量との関係式から全末端基量を算出し、ここから滴定によって求めたアミノ基量とカルボキシル基量を減じる方法や、1H-NMRを用い、ジアミン単位と末端封止剤単位のそれぞれに対応するシグナルの積分値に基づいて求める方法などが挙げられ、後者が好ましい。
【0036】
末端封止剤としては、末端アミノ基又は末端カルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を用いることができる。具体的には、モノカルボン酸、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類、モノアミンなどが挙げられる。反応性及び封止末端の安定性などの観点から、末端アミノ基に対する末端封止剤としては、モノカルボン酸が好ましく、末端カルボキシル基に対する末端封止剤としては、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さなどの観点からは、末端封止剤としてはモノカルボン酸がより好ましい。
【0037】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0038】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性及び価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0039】
ポリアミド(A)は、濃硫酸を溶媒とし、濃度0.2g/dl、温度30℃で測定した固有粘度[ηinh]が0.1dl/g以上であることが好ましく、0.4dl/g以上であることがより好ましく、0.6dl/g以上であることがさらに好ましく、0.8dl/g以上であることが特に好ましく、また、3.0dl/g以下であることが好ましく、2.0dl/g以下であることがより好ましく、1.8dl/g以下であることがさらに好ましい。ポリアミド(A)の固有粘度[ηinh]が上記の範囲内であれば、成形性などの諸物性がより向上する。固有粘度[ηinh]は、溶媒(濃硫酸)の流下時間t0(秒)、試料溶液の流下時間t1(秒)及び試料溶液における試料濃度c(g/dl)(すなわち、0.2g/dl)から、ηinh=[ln(t1/t0)]/cの関係式により求めることができる。
【0040】
ポリアミド(A)の融点に特に制限はなく、例えば、260℃以上、270℃以上、さらには280℃以上とすることができるが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、290℃以上であることが好ましく、295℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましく、305℃以上であることがよりさらに好ましく、310℃以上であることがよりさらに好ましく、315℃以上であってもよい。ポリアミド(A)の融点の上限に特に制限はないが、成形性なども考慮すると、330℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、317℃以下であることがさらに好ましい。ポリアミド(A)の融点は、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度として求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0041】
ポリアミド(A)のガラス転移温度に特に制限はなく、例えば、100℃以上、110℃以上、さらには120℃以上とすることができるが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、125℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、135℃以上であることがさらに好ましく、137℃以上であることがよりさらに好ましく、138℃以上であることがよりさらに好ましく、139℃以上であってもよい。ポリアミド(A)のガラス転移温度の上限に特に制限はないが、成形性なども考慮すると、180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。ポリアミド(A)のガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、20℃/分の速度で昇温した時に現れる変曲点の温度として求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0042】
(ポリアミド(A)の製造方法)
ポリアミド(A)は、結晶性ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法などの方法により製造することができる。これらの中でもポリアミド(A)の製造方法は、重合中の熱劣化をより良好に抑制することができるなどの観点から、固相重合法であることが好ましい。
分岐状脂肪族ジアミン単位と直鎖状脂肪族ジアミン単位とのモル比を上述した特定の数値範囲とするためには、原料として用いる分岐状脂肪族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンとを、所望する上記単位のモル比となるような配合比で用いればよい。
分岐状脂肪族ジアミン及び直鎖状脂肪族ジアミンとして、例えば2-メチル-1,8-オクタンジアミン及び1,9-ノナンジアミンをそれぞれ用いる場合、これらは公知の方法により製造することができる。公知の方法としては、例えば、ジアルデヒドを出発原料として還元アミノ化反応することにより得られたジアミン粗反応液を蒸留する方法などが挙げられる。さらに、2-メチル-1,8-オクタンジアミンと1,9-ノナンジアミンとは、上記ジアミン粗反応液を分留して得ることができる。
【0043】
ポリアミド(A)は、例えば、最初にジアミン、ジカルボン酸、及び必要に応じて触媒や末端封止剤を一括して添加してナイロン塩を製造した後、200~250℃の温度において加熱重合してプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合することにより製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下又は不活性ガス流動下に行うのが好ましく、重合温度が200~280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができる。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合の重合温度としては、370℃以下であるのが好ましく、かかる条件で重合すると、分解がほとんどなく、劣化の少ないポリアミドが得られる。
【0044】
ポリアミド(A)を製造する際に使用することができる触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、又はこれらの塩もしくはエステルなどが挙げられる。上記の塩又はエステルとしては、例えば、リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを挙げることができる。
上記触媒の使用量は、原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。触媒の使用量が上記下限以上であれば良好に重合が進行する。上記上限以下であれば触媒由来の不純物が生じにくくなり、例えばポリアミド組成物をフィルムにした場合に上記不純物による不具合を防ぐことができる。
【0045】
[銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)]
本発明のポリアミド組成物は、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)を含有することにより、耐薬品性、低吸水性、引張物性等の力学特性、流動性に優れるポリアミド(A)の性質を損なうことなく、さらに高温耐熱性、具体的には150℃以上の高温での優れた耐熱老化性及び耐熱性を有するポリアミド組成物を得ることができる。以下、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)についてさらに説明する。
【0046】
・銅化合物(B1)
銅化合物(B1)としては、例えばハロゲン化銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅、エチレンジアミン及びエチレンジアミン四酢酸等のキレート剤に配位した銅錯塩などが挙げられる。上記ハロゲン化銅としては、例えば、ヨウ化銅;臭化第一銅、臭化第二銅等の臭化銅;塩化第一銅等の塩化銅などが挙げられる。これらの銅化合物の中でも、耐熱老化性に優れ、押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食を抑制することができる観点から、ハロゲン化銅及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅、及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ヨウ化銅、臭化銅、及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。銅化合物(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明のポリアミド組成物中の銅化合物(B1)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下が好ましく、0.02質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.06質量部以上0.4質量部以下がさらに好ましい。銅化合物(B1)の含有量を上記範囲内にすることにより、得られるポリアミド組成物の引張物性の低下を抑制しつつ、耐熱老化性等の高温耐熱性を向上させ、さらに成形時の銅析出や金属腐食も抑制できる。
【0048】
・金属ハロゲン化物(B2)
金属ハロゲン化物(B2)としては、銅化合物(B1)に該当しない金属ハロゲン化物を用いることができ、元素周期律表の1族または2族金属元素とハロゲンとの塩が好ましい。例えばヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、得られるポリアミド組成物が耐熱老化性等の高温耐熱性に優れ、金属腐食を抑制することができる観点などから、ヨウ化カリウム及び臭化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヨウ化カリウムがより好ましい。金属ハロゲン化物(B2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明のポリアミド組成物中の金属ハロゲン化物(B2)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.05質量部以上20質量部以下が好ましく、0.2質量部以上10質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上9質量部以下がさらに好ましい。金属ハロゲン化物(B2)の含有量を上記範囲内にすることにより、得られるポリアミド組成物の引張物性の低下を抑制しつつ、耐熱老化性等の高温耐熱性を向上し、さらに成形時の銅析出や金属腐食も抑制できる。
【0050】
ポリアミド組成物中の銅化合物(B1)と金属ハロゲン化物(B2)との割合について、ハロゲンの総モル量と銅の総モル量との比(ハロゲン/銅)が2/1~50/1となるように、ポリアミド組成物に銅化合物(B1)と金属ハロゲン化物(B2)とを含有させることが好ましい。上記比(ハロゲン/銅)は、好ましくは3/1以上、より好ましくは4/1以上、さらに好ましくは5/1以上であり、また好ましくは45/1以下、より好ましくは40/1以下、さらに好ましくは30/1以下である。比(ハロゲン/銅)が上記下限以上である場合には、成形時の銅析出及び金属腐食をより効果的に抑制することができる。比(ハロゲン/銅)が上記上限以下である場合には、得られるポリアミド組成物の引張物性などの機械物性を損なうことなく、成形機のスクリューなどの腐食をより効果的に抑制することができる。
【0051】
銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)は、得られるポリアミド組成物が耐熱老化性等の高温耐熱性に優れる観点から併用する。ポリアミド(A)100質量部に対する、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)の合計含有量は、好ましくは0.06質量部以上21質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以上10質量部以下、よりさらに好ましくは0.5質量部以上5質量部以下である。銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)の合計含有量が上記範囲にあれば、ポリアミド組成物の金属腐食等の問題をより効果的に抑制しながら、耐熱老化性等の高温耐熱性を向上させることができる。
【0052】
[その他の添加剤]
ポリアミド組成物には、上述したポリアミド(A)、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)以外にその他の添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0053】
その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤等の酸化防止剤;着色剤;紫外線吸収剤;光安定化剤;帯電防止剤;臭素化ポリマー、酸化アンチモン、金属水酸化物、ホスフィン酸塩等の難燃剤;難燃助剤;結晶核剤;可塑剤;潤滑剤;滑剤;分散剤;酸素吸収剤;硫化水素吸着剤;ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維等の無機又は有機繊維状充填剤;ウォラストナイト、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化マグネシウム、二硫化モリブデン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン等の粉末状充填剤;ハイドロタルサイト、ガラスフレーク、マイカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のフレーク状充填剤;α-オレフィン系共重合体、ゴム等の衝撃改質剤などが挙げられる。
【0054】
上記の分散剤としては、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)をポリアミド(A)中に分散させることのできるものを好ましく用いることができる。当該分散剤としては、例えば、ラウリル酸等の高級脂肪酸;高級脂肪酸とアルミニウム等の金属とからなる高級脂肪酸金属塩;エチレンビスステアリルアミド等の高級脂肪酸アミド;ポリエチレンワックス等のワックス類;少なくとも1つのアミド基を有する有機化合物などが挙げられる。
【0055】
上記の繊維状充填剤は、必要に応じ、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などにより表面処理が施されていてもよい。前記シランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン系カップリング剤;エポキシシラン系カップリング剤;ビニルシラン系カップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記シランカップリング剤の中でも、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0056】
繊維状充填剤は、必要に応じ、集束剤による処理が施されていてもよい。集束剤としては、例えばカルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体単位と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体単位とを構成単位として含む共重合体、エポキシ化合物、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマー、これらの第1級、第2級又は第3級アミンとの塩などが挙げられる。これらの集束剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記その他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.02~200質量部が好ましく、0.03~100質量部がより好ましい。
【0058】
[ポリアミド組成物の製造方法]
ポリアミド組成物の製造方法に特に制限はなく、ポリアミド(A)、銅化合物(B1)、金属ハロゲン化物(B2)、及び必要に応じて用いられる上記その他の添加剤等を均一に混合することのできる方法を好ましく採用することができる。
銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)をポリアミド(A)に含有させる方法としては、ポリアミド(A)の重合工程中に銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)をそれぞれ単独で又は混合物として添加する方法(以下、「製法1」と略称する場合がある)や、溶融混練時にポリアミド(A)と、銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)をそれぞれ単独で又は混合物として添加する方法(以下、「製法2」と略称する場合がある)などが挙げられる。銅化合物(B1)及び金属ハロゲン化物(B2)を添加する場合、固体のまま添加してもよく、水溶液の状態で添加してもよい。その他の添加剤についても、製法1又は製法2と同様の添加方法を採用することができる。
【0059】
製法1における「ポリアミド(A)の重合工程中」とは、原料モノマーからポリアミド(A)の重合完了までのいずれかの工程であって、どの段階でもよい。製法2の「溶融混練」を行う場合の混合は、通常、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して溶融混練する際に添加する方法が好ましく採用される。溶融混練条件は特に限定されないが、例えば、ポリアミド(A)の融点よりも10~50℃程度高い温度範囲で、約1~30分間溶融混練する方法が挙げられる。
【0060】
<成形品>
(成形方法)
本発明のポリアミド組成物からなる成形品は、本発明のポリアミド組成物を用いて、射出成形法、ブロー成形法、押出成形法、圧縮成形法、延伸成形法、真空成形法、発泡成形法、回転成形法、含浸法、レーザー焼結法、熱溶解積層法等の各種成形方法で成形することにより得ることができる。さらに、本発明のポリアミド組成物と他のポリマー等とを複合成形して成形品を得ることもできる。
【0061】
(用途)
前記成形品としては、例えば、フィルム、シート、チューブ、パイプ、ギア、カム、各種ハウジング、ローラー、インペラー、ベアリングリテーナー、スプリングホルダー、クラッチパーツ、チェインテンショナー、タンク、ホイール、コネクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ハードディスク部品、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、ICハウジング、LEDリフレクタなどが挙げられる。
特に、本発明のポリアミド組成物は、高温特性、耐薬品性が求められる射出成形部材、耐熱フィルム、各種薬剤/薬液輸送用チューブ、インテークパイプ、ブローバイチューブ、3Dプリンタ用基材などとして好適であり、また、高い耐熱性・耐薬品性が求められる自動車用途の成形品、例えば、自動車の内外装部品、エンジンルーム内の部品、冷却系部品、摺動部品、電装部品などに好適に使用することができる。加えて、本発明のポリアミド組成物は、表面実装工程に対応する耐熱性が要求される成形品とすることができる。このような成形品は、電気部品・電子部品や、表面実装型のコネクタ、ソケット、カメラモジュール、電源部品、スイッチ、センサー、コンデンサー座板、ハードディスク部品、リレー、抵抗器、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICハウジング等の表面実装部品などに好適に使用することができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
製造例、実施例、及び比較例における各評価は、以下に示す方法に従って行った。
・固有粘度
製造例で得られたポリアミド(試料)について、濃硫酸を溶媒とし、濃度0.2g/dl、温度30℃での固有粘度(dl/g)を下記関係式より求めた。
ηinh=[ln(t1/t0)]/c
上記関係式中、ηinhは固有粘度(dl/g)を表し、t0は溶媒(濃硫酸)の流下時間(秒)を表し、t1は試料溶液の流下時間(秒)を表し、cは試料溶液中の試料の濃度(g/dl)(すなわち、0.2g/dl)を表す。
【0064】
・融点及びガラス転移温度
製造例で得られたポリアミドの融点及びガラス転移温度は、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量分析装置「DSC7020」を使用して測定した。
融点は、ISO11357-3(2011年第2版)に準拠して測定を行った。具体的には、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ10℃/分の速度で試料(ポリアミド)を加熱し、340℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分の速度で50℃まで冷却し50℃で5分間保持した。再び10℃/分の速度で340℃まで昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とし、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点(℃)とした。
ガラス転移温度(℃)は、ISO11357-2(2013年第2版)に準拠して測定を行った。具体的には、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ20℃/分の速度で試料(ポリアミド)を加熱し、340℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、20℃/分の速度で50℃まで冷却し50℃で5分間保持した。再び20℃/分の速度で200℃まで昇温した時に現れる変曲点の温度をガラス転移温度(℃)とした。
【0065】
《試験片の作製》
住友重機械工業(株)製の射出成形機(型締力:100トン、スクリュー径:φ32mm)を使用し、実施例及び比較例で得られたポリアミド組成物を用いて、ポリアミドの融点よりも20~30℃高いシリンダー温度とし、実施例1、2及び比較例1、5のポリアミド組成物は金型温度160℃の条件下で、比較例2~4のポリアミド組成物は金型温度140℃の条件下で、Tランナー金型を用いてポリアミド組成物を成形し、多目的試験片タイプA1(JIS K7139に記載されたダンベル型の試験片;4mm厚、全長170mm、平行部長さ80mm、平行部幅10mm)を作製した。
【0066】
・引張破断強度
上記の方法で作製した多目的試験片タイプA1(4mm厚)を用い、ISO527-1(2012年第2版)に準拠して、オートグラフ((株)島津製作所製)を使用して、23℃における引張破断強度(MPa)を測定した。
【0067】
・耐薬品性(引張強度保持率)
上記の方法で作製した多目的試験片タイプA1(4mm厚)を用いて、ISO527-1(2012年第2版)に従って23℃で引張試験を行い、以下の式(1)より引張破断強度を算出した。この値を初期の引張破断強度(a)とした。
引張破断強度(MPa)=破断点応力(N)/試験片断面積(mm2) (1)
上記の方法で作製した試験片を、耐圧容器中で不凍液(トヨタ自動車(株)製「スーパーロングライフクーラント」(ピンク)を2倍希釈した水溶液)に浸漬し、この耐圧容器を130℃に設定した恒温槽(三田産業(株)製「DE-303」)中で500時間静置した。500時間後、恒温槽から取り出した試験片に対して上記と同様の方法で引張試験を行い、加熱後の試験片の引張破断強度(b)を測定した。
以下の式(2)より引張強度保持率を求め、長期耐熱・耐薬品性を評価した。
引張強度保持率(%)={(b)/(a)}×100 (2)
【0068】
・熱変形温度
上記の方法で作製した多目的試験片タイプA1(4mm厚)から切削して試験片(4mm厚、全長80mm、幅10mm)を作製し、(株)東洋精機製作所製のHDTテスター「S-3M」を用いて、ISO75(2013年第3版)に準拠して熱変形温度(℃)を測定した。
【0069】
・吸水率
上記の方法で作製した多目的試験片タイプA1(4mm厚)を秤量した。次いで水中に浸漬し、23℃、168時間浸漬処理した後、再び秤量することにより重量増加量を求め、これを浸漬前の重量で除すことにより、吸水率(%)を求めた。
【0070】
・耐熱老化性
Xplore Instruments社製の小型混練機・射出成形機(「Xplore MC15」)を使用し、実施例及び比較例で得られたポリアミド組成物を用いて、ポリアミドの融点よりも20~30℃高いシリンダー温度とし、金型温度170℃の条件下で、Tランナー金型を用いてポリアミド組成物を成形し、小型試験片タイプ1BA(2mm厚、全長75mm、平行部長さ30mm、平行部幅5mm)を作製した。この小型試験片タイプ1BA(2mm厚)を170℃の乾燥機内に250時間静置した後の引張強さをISO527-1(2012年第2版)に従って測定し、乾燥機に静置する前の試験片の引張強さに対する割合(%)を算出することで、耐熱老化性の指標とした。
【0071】
実施例及び比較例におけるポリアミド組成物を調製するために用いた各成分を示す。
【0072】
《ポリアミド》
[製造例1]
・半芳香族ポリアミド(PA9N-1)の製造
2,6-ナフタレンジカルボン酸9110.2g(42.14モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=4/96(モル比)]6853.7g(43.30モル)、安息香酸210.0g(1.72モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物16.2g(原料の総質量に対して0.1質量%)及び蒸留水8.3リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま5時間、圧力を2MPaに保ちながら加熱を続け、水蒸気を徐々に抜いて反応させた。次に、30分かけて圧力を1.3MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、プレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合しポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9N-1」と略称する。
【0073】
[製造例2]
・半芳香族ポリアミド(PA9N-2)の製造
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=15/85(モル比)]である混合物を用いたこと以外は製造例1と同様にしてポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9N-2」と略称する。
【0074】
[製造例3]
・半芳香族ポリアミド(PA9N-3)の製造
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=85/15(モル比)]である混合物を用いたこと以外は製造例1と同様にしてポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9N-3」と略称する。
【0075】
[製造例4]
・半芳香族ポリアミド(PA9T-1)の製造
テレフタル酸8190.7g(49.30モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=4/96(モル比)]7969.4g(50.35モル)、安息香酸171.0g(1.40モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物16.3g(原料の総質量に対して0.1質量%)及び蒸留水5.5リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、以降は製造例1と同様にしてポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9T-1」と略称する。
【0076】
[製造例5]
・半芳香族ポリアミド(PA9T-2)の製造
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの比率が[前者/後者=80/20(モル比)]である混合物を用いたこと以外は製造例4と同様にしてポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9T-2」と略称する。
【0077】
《銅化合物及び金属ハロゲン化物》
「KG HS01-P」(モル比:CuI/KI=10/1)、PolyAd Services製
《その他添加剤》
・滑剤
「LICOWAX OP」、クラリアントケミカルズ製
・結晶核剤
「TALC ML112」、富士タルク(株)製
・ガラス繊維
「CS03JA-FT2A」、オーウェンスコーニングジャパン合同会社製
・着色剤
カーボンブラック「#980B」、三菱化学(株)製
【0078】
[実施例1、2及び比較例1~5]
各成分を表1に示す割合で予め混合して、二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」)の上流部供給口に一括投入した。ポリアミドの融点よりも20~30℃高いシリンダー温度で溶融混練して押出し、冷却及び切断してペレット状のポリアミド組成物を製造した。
【0079】
上記実施例及び比較例において得られたポリアミド組成物を用い、前述の各種物性評価を行った。結果を表1に示す。
なお、表1中、C9DAは1,9-ノナンジアミン単位を示し、MC8DAは2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1から、実施例1及び2のポリアミド組成物は、比較例1~4に比べ、不凍液浸漬後の引張強度保持率が高く耐薬品性がさらに向上していることが分かる。さらに実施例1及び2のポリアミド組成物は、比較例5に比べ、耐熱老化性に優れるため、優れた高温耐熱性を有することが分かる。
また実施例1及び2のポリアミド組成物は、比較例1~5と比べ、引張破断強度、熱変形温度、及び吸水率の評価が、同等あるいはそれ以上に優れており、本発明のポリアミド組成物は力学特性、耐熱性、低吸水性にも優れていることが分かる。
特許文献1に記載されているように、側鎖を有する脂肪族ジアミンを用いると、得られるポリアミドの結晶性が低下することが知られており、耐熱性、耐薬品性などの面で好ましくない。これに対して本発明のポリアミド組成物は、それに含まれるポリアミド(A)が、ナフタレンジカルボン酸単位を主体とするジカルボン酸単位と、分岐状脂肪族ジアミン単位を主体とするジアミン単位とを有する特定の構成を有することにより、耐薬品性がさらに向上し、加えて力学特性、高温耐熱性を含めた耐熱性、低吸水性をはじめとする各種物性により優れたものとなる。
図1