(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】津波抑制方法及び装置
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
E02B3/06 301
(21)【出願番号】P 2018044884
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082027
【氏名又は名称】竹安 英雄
(72)【発明者】
【氏名】▲柄▼崎 和孝
(72)【発明者】
【氏名】東 克彦
(72)【発明者】
【氏名】都築 浩
(72)【発明者】
【氏名】堤 英伸
(72)【発明者】
【氏名】中尾 允哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博善
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直三
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-124025(JP,A)
【文献】特開平08-226116(JP,A)
【文献】特開2000-282434(JP,A)
【文献】特開昭60-129313(JP,A)
【文献】特公昭44-011864(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0150656(US,A1)
【文献】特開2008-201062(JP,A)
【文献】特開2002-160295(JP,A)
【文献】特開2011-132992(JP,A)
【文献】特開平08-014473(JP,A)
【文献】特開2013-060769(JP,A)
【文献】特開2006-348611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に設置した箱体(1)内に空気(28)を封入すると共に、当該箱体(1)内に、後部が細径で先部が太径の柔軟な気密性の筒体(14)を扁平に折畳んだ状態で収容し、当該筒体(14)の細径部(24)の後端末を前記箱体(1)の上面に形成された口金(12)に環状に固定すると共に、前記筒体(14)の太径部(25)の先端末を閉塞しておき、津波の襲来が予測される異常時に、前記箱体(1)内の空気(28)の圧力により前記筒体(14)の環状固定部分(29)において当該筒体(14)を内側が外側となるように反転せしめ、前記筒体(14)を反転した筒体(14)の外側部分(34)内を通して反転部分(30)に送り込み、当該筒体(14)を裏返して海中に起立せしめることを特徴とする、津波の抑制方法
【請求項2】
前記筒体(14)をその全長に亙って裏返して、当該筒体の先端を海面上に突出せしめることを特徴とする、請求項1に記載の津波の抑制方法
【請求項3】
前記筒体(14)の細径部(24)の長さが筒体(14)の全長の5~30%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の津波の抑制方法
【請求項4】
前記筒体(14)の細径部(24)の直径が太径部(25)の直径の50~95%であることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の津波の抑制方法
【請求項5】
前記筒体(14)の細径部(24)の直径が0.6~5mであることを特徴とする、請求項1、2、3又は4に記載の津波の抑制方法
【請求項6】
前記筒体(14)が、繊維を筒状に織成してなり、後部が細径で先部が太径であって、当該細径部(24)と太径部(25)との間に細径部(24)と太径部(25)とを繋ぐ変径部(26)を形成してなる筒状織布(22)の外面に、柔軟なゴム又は合成樹脂の皮膜(23)を形成してなるものであることを特徴とする、請求項1、2、
3、4又は5に記載の津波の抑制方法
【請求項7】
前記箱体(1)の底部を周囲の海水と通ぜしめると共に、常時は前記箱体(1)内の空気圧により前記筒体(14)が裏返らないように箱体(1)内に引止めておき、異常時に当該引止めを解除することにより筒体(14)の裏返りを進行せしめることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5又は6に記載の津波の抑制方法
【請求項8】
前記筒体(14)を前記箱体(1)内に設置されたリール(13)に巻回し、当該リール(13)の筒体(14)の送り出し方向への回転をロックすることにより前記筒体(14)の裏返りを引き止め、当該ロックを外部からの操作により解除することにより筒体(14)の裏返りを進行せしめることを特徴とする、請求項7に記載の津波の抑制方法
【請求項9】
前記筒体(14)の太径部(25)の先端末(32)を閉塞し、当該先端末(32)に接続した前記筒体(14)とほゞ同長の紐状物(33)を、前記筒体(14)を反転した外側部分(34)内を通して前記リール(13)に接続し、筒体(14)が裏返った後、前記紐状物(33)を箱体(1)内から牽引することにより、裏返った筒体(14)を逆に反転させて復旧することを特徴とする、請求項8に記載の津波の抑制方法
【請求項10】
海底に設置された箱体(1)の上面に上方に開口する多数の口金(12)を設け、当該箱体(1)内に前記口金(12)の数に対応する数の、後部が細径で先部が太径の柔軟な筒体(14)を扁平に折畳んだ状態でリール(13)に巻回して収容し、当該筒体(14)の細径部(24)の後端末をそれぞれ対応する口金(12)に環状に固定すると共に、前記筒体(14)の太径部(25)の先端末を閉塞し、前記リール(13)の筒体(14)の送り出し方向への回転をロックすると共に、当該ロックを外部からの操作により解除可能とし、前記箱体(1)内に空気(28)を封入すると共に、当該箱体(1)の底部を周囲の海水と通ぜしめたことを特徴とする、津波の抑制装置
【請求項11】
前記筒体(14)の太径部(25)の先端末(32)を閉塞し、当該先端末(32)に接続した前記筒体(14)とほゞ同長の紐状物(33)を、前記筒体(14)を反転した外側部分(34)内を通して前記リール(13)に接続し、筒体(14)が裏返った後前記紐状物(33)を箱体(1)内から牽引することにより、裏返った筒体(14)を逆に反転させて復旧可能としたことを特徴とする、請求項10に記載の津波の抑制装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大地震に伴う津波を抑制し、かかる津波が大都市や、原子炉・石油コンビナートなどの重要施設に対して、回復不能の損害をもたらすことを防止するための、方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に起きた東日本大震災において、マグニチュード9に及ぶ大地震が発生し、それに伴う津波によって東北地方の太平洋沿岸には、原子力発電所や石油コンビナートなどに激しい被害を生じることとなった。
【0003】
また近い将来、南海トラフを震源とする巨大地震の発生が想定されており、それにより太平洋ベルト地帯に激しい津波の襲来が予想されており、それに伴ってかかる津波を防ぐ各種の防波堤などの発明が提案されている。
【0004】
例えば特開2013-60769号公報には津波の進行を止める防波堤が提案されているが、この種の防波堤では津波の進行を止めることができず、東日本大震災においてもこの種の防波堤が津波で押し流されている。
【0005】
また上記公報に示された形式の防波堤は基本的に据え置き式であるために、かかる防波堤で港湾施設などを完全に遮蔽すると港湾施設への船舶の出入りができなくなる。そのためかかる防波堤内への船舶の出入りを許容する隙間を設けざるを得ず、かかる隙間から津波が防波堤内に侵入するのを防止することができない。
【0006】
また特開2006-348611号公報には、鋼鉄製の剛直なパイプを直立した状態で海底に多数並べて埋伏させておき、平常時には海底に埋伏させておいてその上を船舶の航行を許容すると共に、津波が予想される異常時には前記パイプ内に空気を圧入して、前記パイプを海底から起立せしめ、海面上に突出して津波を遮るようにしたものが提案されている。
【0007】
しかしながらこのような剛直なパイプでは、津波による巨大なエネルギーを受け切ることは不可能であり、津波によってパイプが破壊されるか、そうでなければパイプの間から海水が流入して津波被害を軽減させることができない。
【0008】
またこの種の直立浮上式の津波軽減方法では、ある程度の水深を有する沖合の海底を、パイプの長さ以上の深さに亙って掘削して建造しなければならないため、建造には膨大なコストと時間を要し、実現は困難である。
【0009】
かかる事情に鑑み出願人は先に、海底に設置した箱体内に空気を封入すると共に、当該箱体内に多数の柔軟な筒体を扁平に折畳んだ状態で収容し、当該筒体の端末を前記箱体の上面に形成された口金に環状に固定しておき、津波の襲来が予測される異常時に前記箱体内の空気の圧力により前記筒体の環状固定部分において当該筒体を内側が外側となるように反転せしめ、前記筒体を反転した筒体の外側部分内を通して反転部分に送り込み、当該筒体をその全長に亙って裏返してその先端を海面上に突出せしめることにより、かかる多数の柔軟な筒体を林立せしめることによって津波を抑制する方法を提案し、特願2018-4305号として出願した。
【0010】
しかしながらこの方法では、多数設置する筒体の間隔は筒体の直径よりも大きくならざるを得ないため、その筒体の間隔から津波が侵入し、また個々の筒体も一本ごとに津波のエネルギーを受けるため、大きなエネルギーを持った津波をこの多数の筒体全体で抑制するには、効果が乏しい。
【0011】
また前記筒体を反転させるためには、当該筒体を収容した圧力容器内に外部から圧力流体を送入しなければならないため、津波に先立つ地震により電源が喪失した場合には、圧力流体を送入するためのポンプを動かすことができず、この装置そのものが全く機能しないこととなりかねない。さらにはかかる事態に備えるためには、バックアップ用の電源を個々の圧力容器毎に多数設けておくこととなり、装置全体としてさらに複雑になると共に、さらにコストアップにも繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2013-60769号
【文献】特開2006-348611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、海底に剛直な箱体を設置し、当該箱体内に空気を封入すると共に、多数の柔軟な筒体を扁平に折畳んだ状態で敷設しておき、津波が予想される異常時には前記箱体内の空気を前記筒体内に圧入して海面に向かって起立せしめ、このようにして起立した筒体が隣接する筒体と接触することにより、多数の筒体が全体として一体となって撓むことにより、津波のエネルギーを十分に吸収する方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して本発明の津波の抑制方法は、海底に設置した箱体内に空気を封入すると共に、当該箱体内に、後部が細径で先部が太径の柔軟な気密性の筒体を扁平に折畳んだ状態で収容し、当該筒体の細径部の後端末を前記箱体の上面に形成された口金に環状に固定すると共に、前記筒体の太径部の先端末を閉塞しておき、津波の襲来が予測される異常時に、前記箱体内の空気の圧力により前記筒体の環状固定部分において当該筒体を内側が外側となるように反転せしめ、前記筒体を反転した筒体の外側部分内を通して反転部分に送り込み、当該筒体を裏返して海中に起立せしめることを特徴とするものである。
【0015】
本発明においては、前記筒体をその全長に亙って裏返して、当該筒体の先端を海面上に突出せしめることが好ましい。
【0016】
また本発明においては、前記筒体の細径部の長さは筒体の全長の5~30%であることが適当である。また前記筒体の細径部の直径は太径部の直径の50~95%とするのが適当である。また前記筒体の細径部の直径は、0.6~5mであることが適当である。
【0017】
また本発明においては、前記筒体が、繊維を筒状に織成してなり、後部が細径で先部が太径であって、当該細径部と太径部との間に細径部と太径部とを繋ぐ変径部を形成してなる筒状織布の外面に、柔軟なゴム又は合成樹脂の皮膜を形成してなるものであることが好ましい。
【0018】
また本発明の方法においては、前記箱体の底部を周囲の海水と通ぜしめると共に、常時は前記箱体内の空気圧により前記筒体が裏返らないように箱体内に引止めておき、異常時に当該引止めを解除することにより、筒体の裏返りを進行せしめるようにすることが好ましい。
【0019】
またこの方法においては、前記筒体を前記箱体内に設置されたリールに巻回し、当該リールの筒体の送り出し方向への回転をロックすることにより前記筒体の裏返りを引き止め、当該ロックを外部からの操作により解除することにより筒体の裏返りを進行せしめることが好ましい。
【0020】
また本発明においては、前記筒体の太径部の先端末を閉塞し、当該先端末に接続した前記筒体とほゞ同長の紐状物を、前記筒体を反転した外側部分内を通して前記リールに接続し、筒体が裏返った後、前記紐状物を箱体内から牽引することにより、裏返った筒体を逆に反転させて復旧することが好ましい。
【0021】
次に本発明の津波の抑制装置は、海底に設置された箱体の上面に上方に開口する多数の口金を設け、当該箱体内に前記口金の数に対応する数の、後部が細径で先部が太径の柔軟な筒体を扁平に折畳んだ状態でリールに巻回して収容し、当該筒体の細径部の後端末をそれぞれ対応する口金に環状に固定すると共に、前記筒体の太径部の先端末を閉塞し、前記リールの筒体の送り出し方向への回転をロックすると共に、当該ロックを外部からの操作により解除可能とし、前記箱体内に空気を封入すると共に、当該箱体の底部を周囲の海水と通ぜしめたことを特徴とするものである。
【0022】
本発明の装置においては、前記筒体の太径部の先端末を閉塞し、当該先端末に接続した前記筒体とほゞ同長の紐状物を、前記筒体を反転した外側部分内を通して前記リールに接続し、筒体が裏返った後前記紐状物を箱体内から牽引することにより、裏返った筒体を逆に反転させて復旧可能とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明における箱体の設置状況を示すものであって、(a)は平面図、(b)は(a)におけるB-B断面図である。
【
図2】本発明の津波抑制装置を示すものであって、(a)は平面図、(b)は(a)におけるB-B断面図である。
【
図3】本発明における筒体を口金に固定した状態を示す中央縦断面図。
【
図4】本発明における筒体の反転を開始した状態を示す中央縦断面図。
【
図5】本発明における筒体を全長に亙って反転した状態を示す、
図2(a)におけるb-b断面図。
【
図6】
図5の状態に津波が襲来した状態を示す図面。
【
図7】本発明における筒体を示すものであって、(a)は中央縦断面図、(b)は(a)におけるB-B断面図、(c)は(a)におけるC-C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明を図面に基づいて説明する。
図1は本発明における箱体1を、海底に設置した状態を示すものであって、海の波打ち際2から数百メートル乃至数十キロメートル離れた位置の海底に、前記箱体1が埋設されている。箱体1を埋設する位置の水深は、10~50メートル程度が適当である。
【0025】
而して箱体1を拡大して
図2に示す。箱体1は鋼鉄又はコンクリートで作られており、それを取り囲むコンクリート3により海底に固定されている。なお箱体1は後述のように内部に空気を封入するので、当該空気の浮力により浮き上がることがないように海底に固定される必要がある。
【0026】
そして箱体1の側面には扉4が設けられており、当該扉4に対向する外部のコンクリート3に形成された通路5を介して、潜水夫が扉4から箱体1内に出入りすることができるようになっている。
【0027】
また前記箱体1の底部は板6により二重底になっており、当該板6には多数の小孔7が穿設されている。そしてその二重底の下段8は通水管9を介して、コンクリート3の外の海水と導通している。
【0028】
また前記箱体1の上部には、バルブ11を介して送気管10が接続されており、当該送気管10には外部の送気ポンプ(図示せず)から空気を送り、当該空気を箱体1内に送入することができるようになっている。
【0029】
而して箱体1の上面には多数の口金12が設けられており、各口金12に対応して箱体1内にリール13が設けられ、当該リール13に巻回した筒体14の端末が前記口金12に環状に固定されている。
【0030】
図3には単一のリール13に巻回された筒体14が口金12に取り付けられた状態の拡大図が示されている。リール13から引き出された筒体14は、その端末が外側に折り返され、口金12及び当該口金12の先端に取り付けられた管体15のフランジ16,16間に挟圧固定されている。
【0031】
また管体15の先端は当該管体15内に異物が入らないようにゴム製のキャップ17で塞がれており、当該キャップ17は管体15の内側から突き上げることにより簡単に開くようになっている。
【0032】
そしてリール13の外周には爪18が設けられており、フック19が当該爪18に係止することにより、前記リール13が当該リール13に巻回された筒体14が繰り出される方向に回転するのを阻止している。
【0033】
本発明における前記筒体14の一例を
図7に示す。本発明における筒体14は、複数のたて糸20と、当該たて糸20群に対して螺旋状に織り込まれたよこ糸21とを筒状に織成した筒状織布22の外面に、柔軟なゴム又は合成樹脂よりなる皮膜層23を形成したものである。
【0034】
而して本発明における筒状織布22は、後部が細径で先部が太径であって、当該細径部24と太径部25との間に当該細径部24と太径部25とを繋ぐ変径部26を形成してなっており、異径の筒状織物となっている。
【0035】
そして前記筒体14における細径部24の長さは筒体14の全長の5~30%であるのが好ましい。細径部24の長さが全長の30%を超えると、起立した複数の筒体14同士が接触する長さが減ることとなり、太径部25の接触による津波エネルギーの減衰能力にロスが生じる。
【0036】
また細径部24の長さが全長の5%未満では、津波エネルギーが作用したときに短い細径部24にそのエネルギーが集中し、当該細径部において筒体14が折れやすくなり、好ましくない。
【0037】
また前記筒体14における細径部24の直径は太径部25の直径の50~95%であることが好ましい。細径部24の直径が太径部25の直径の95%を越えると、箱体1の上面において口金12を近付けて設置することが困難となり、太径部25の接触による津波エネルギーの減衰能力が劣ることとなる。
【0038】
また細径部24の直径が太径部25の直径の50%未満であると、細径部24と太径部25との直径差が大きくなり過ぎ、筒体14の起立状態が維持できず、津波によって細径部24で折れ易くなり好ましくない。
【0039】
前記筒体14の直径は、細径部24において0.6~5m程度、好ましくは1~2m程度が適当である。筒体14を設置する水深にもよるが、10~50m程度の水深では、筒体14の直径が0.6m未満では津波の力によって細径部24において折れ易く、津波エネルギーを支えることができない。
【0040】
また5mを超えるような大口径の筒体14は、巻き取りが可能な柔軟性を有し、且つ津波エネルギーに耐えるだけの耐圧性能を有する筒体14を製造することが困難であり、またコスト的にも適当でない。
【0041】
而して本発明の津波の制御装置を組み立てるには、前記扉4から箱体1内に入った潜水夫と、箱体1の外で作業する潜水夫との共同作業により、全ての口金12について
図3に示す装置を組み立てる。然る後箱体1内の潜水夫が外に出て扉4を閉じ、バルブ11を開いて送気管10を介して箱体1内に圧縮空気を送入する。
【0042】
これにより箱体1内の海水27は通水管9を経由して箱体1外に押し出され、箱体1内の上部は送気管10から送入された空気28で満たされる。このとき箱体1内には箱体1を設置した深さに相当する水圧がかかることとなる。
【0043】
而して各筒体14の環状固定部分29には、前記箱体1内の水圧に相当する空気圧が作用することとなり、当該空気圧は箱体1内の海水27面と前記筒体14の環状固定部分29との水頭圧に相当する圧力として前記14の環状固定部分29を上方に押し上げ、当該環状固定部分29に反転部分30を形成する。
【0044】
そしてその反転部分30を押し上げる力により筒体14が引っ張られて、リール13が
図3中における時計方向に回転しようとするが、当該回転力は爪18にフック19が係止することにより支えられる。
【0045】
而して津波の襲来の恐れのない通常時においては、このようにして箱体1内の空気圧により筒体14の反転部分30が押し上げられ、その力を爪18とフック19が係止することにより支えることで、箱体1内は密閉された状態でバランスが取れており、なんら特別の動きは生じない。
【0046】
海面における通常の潮の干満が生じ、当該干満により箱体1の位置の水圧が多少変動するが、その水圧の変動は通水管9を介して箱体1内に海水が出入りすることにより吸収され、前記バランスが崩れることはない。
【0047】
而して地震が起こって津波警報が発令され、大きな津波の襲来が予測されるような事態が生じた場合には、陸上から遠隔操作によりフック19を回動させ、爪18との係止を解除し、これによりリール13の回転がフリーとなる。
【0048】
これにより各筒体14の反転部分30には、前述のように箱体1内の海水27の水面と前記反転部分30との高さの水頭圧に相当する空気圧がかかっており、当該空気圧により前記反転部分30は上方に向かって押し上げられ、その力により筒体14が引っ張られてリール13が
図3中における時計方向に回転し、前記反転部分30は管体15内を前進し、
図4に示すようにキャップ17を押し開いて海中に押し出される。
【0049】
そして反転部分30が海中に押し出されることにより、筒体14はリール13を回転させて当該リール13から繰り出され、当該筒体14は既に裏返された外側部分34内を通って反転部分30に至り、当該反転部分30において内側が外側となるように裏返され、反転部分30はさらに海中を前進する。
【0050】
このようにして筒体14が裏返されながらその反転部分30が海中を進行することにより、箱体1内の圧力が減少するが、その減少した分の圧力は通水管9を通して箱体1外の海中から箱体1内に補給され、箱体1内の圧力が不足して筒体14の裏返りが停止してしまうようなことはない。
【0051】
このとき筒体14の後部は細径部24であり、当該細径部24の後端末が環状固定部分29において環状に固定されているので、筒体14の反転の初期にはこの細径部24が裏返される。そして当該細径部24の全てが裏返された後には、それに続いて変径部26及び太径部25がリール13から引き出され、当該変径部26及び太径部25が裏返され、その状態が
図4に示されている。
【0052】
而して筒体14がその全長にわたって裏返ると、
図5に示すように全ての筒体14は口金12から上方に直立し、その先端部は海面31上に突出する。このとき筒体14内には箱体1内の海水27面と海面31との間の水頭圧に相当する圧力が作用しているので、筒体14は剛直な棒状になって、その重さにより倒れるようなことはない。
【0053】
また筒体14の太径部25の先端末32は閉塞されており、当該先端末32に筒体14とほゞ同長の紐状物33を接続しておき、当該紐状物33を筒体14が裏返った外側部分34内を通してリール13に接続しておくのが好ましい。
【0054】
このようにすることにより、津波の脅威が去った後、又はテストなどで本発明の装置を作動させた後、本発明の装置を組み立てる際と同様に潜水夫が箱体1内に入り、箱体1内から紐状物33を牽引することにより、筒体14を逆に反転させて箱体1内に引き込み、リール13に巻回して装置を復旧することができる。
【0055】
而して
図5に示す状態のところに津波が襲来したときには、
図6に示すように筒体14は津波に押し流されて大きく撓むが、筒体14は前述のように剛直な棒状であるために筒体14が撓むときの弾力によって、津波のエネルギーを吸収し、津波の勢いを十分に抑制することができるのである。
【0056】
また筒体14の先部は太径部25となっているため、筒体14が撓んだときに太径部25同士が当接して互いに押し合うため、当該太径部25の間には隙間が生じにくくなり、筒体14の間を通して津波が通過することが少なく、多数の筒体14が一体となって撓むこととなり、津波のエネルギーを大幅に削減することができるのである。
【0057】
このようにして本発明によれば、柔軟な複数の筒体14により津波のエネルギーを軽減していくので、津波の影響を完全に消失させることはできないが、津波が海岸14に到達するころには、津波の威力は十分に軽減されているのである。また個々の筒体14は津波によって撓められるが、鋼鉄やコンクリートの防波堤のような剛性によって津波を遮るのと異なり、津波により破壊されることはない。
【0058】
また本発明の装置によれば、筒体14は柔軟であって平常時は扁平に折畳んだ状態で、さらにそれをリール13に巻回した状態で箱体1内に収容されているので、箱体1を含めてもその高さは低いものであって、前記従来例のように海底を深く掘削する必要がなく、設置のコストも時間も大幅に削減される。
【0059】
そして筒体14は平常時には箱体1と共に海底に埋設された状態であるので、その上部は船舶などが自由に航行することができ、前記従来の防波堤のように船舶の航行を妨げることはない。
【0060】
而して津波の襲来が予測されるときには、箱体1内に流体圧力を作用させて筒体14を剛直な棒状のものとして起立せしめ、当該多数の筒体14が一体となって撓むことにより津波のエネルギーを軽減し、津波の被害を抑制することができるのである。
【符号の説明】
【0061】
1 箱体
12 口金
13 リール
14 筒体
22 筒状織布
23 皮膜層
24 細径部
25 太径部
26 変径部
29 環状固定部分
30 反転部分
32 端末
33 紐状物
34 外側部分