(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】弾性膜、基板保持装置、及び研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/30 20120101AFI20220914BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B24B37/30 C
B24B37/30 E
H01L21/304 622K
H01L21/304 622H
(21)【出願番号】P 2018042410
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2017078933
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】230121430
【氏名又は名称】安井 友章
(72)【発明者】
【氏名】山木 暁
(72)【発明者】
【氏名】福島 誠
(72)【発明者】
【氏名】並木 計介
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 治
(72)【発明者】
【氏名】富樫 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 良和
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第205148039(CN,U)
【文献】特開2007-268654(JP,A)
【文献】特開2013-111679(JP,A)
【文献】特開2015-193070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0211377(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/30
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板保持装置に用いられる弾性膜であって、
基板に当接する当接部と、
前記当接部の外周端に立設された円環状の側壁と、
前記側壁から径方向内側に向かって断面視で直線状に延びる第1隔壁と、
前記当接部の上面に接続する基端部が屈曲して形成された基端接続部と、前記基端接続部から前記径方向内側の上方に向かって断面視で
略全長にわたって直線状に傾斜して延びる第2隔壁と、
前記第2隔壁よりも内周側に位置しており、前記径方向内側の上方に向かって断面視で
略全長にわたって直線状に傾斜して延びる第3隔壁と、
を備え、
前記第2隔壁の傾斜と前記第3隔壁の傾斜とは平行または略平行であって、
前記第1隔壁と前記第2隔壁と前記側壁とで前記基板のエッジを押圧するためのエッジ圧力室が構成される弾性膜。
【請求項2】
前記第1隔壁と前記第2隔壁との間隔は、前記当接部の径方向内側から径方向外側に向かって徐々に広くなる、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項3】
前記基板保持装置は、前記弾性膜が取り付けられるヘッド本体を備え、
前記第1隔壁は先端に前記ヘッド本体と係合する第1係合部を有し、
前記第2隔壁は先端に前記ヘッド本体と係合する第2係合部を有し、
前記第1隔壁と前記第2隔壁との間隔は、前記第1係合部及び前記第2係合部から前記側壁に向かって徐々に広くなる、請求項1に記載の弾性膜。
【請求項4】
前記第2隔壁は、前記側壁の内周面より0.5~1.5mm内側の位置から直線状に延びている、請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性膜。
【請求項5】
前記当接部の上面における前記第2隔壁の外周面と前記側壁の内周面との間の距離は、1.5~8mmである、請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性膜。
【請求項6】
前記第2隔壁
における前記基端接続部の長さは0.5~3.5mmである、請求項5に記載の弾性膜。
【請求項7】
前記エッジ圧力室を構成する前記側壁の外周面は平坦である、請求項1ないし6のいずれかに記載の弾性膜。
【請求項8】
基板を保持する基板保持装置であって、
請求項1ないし7のいずれかに記載の弾性膜と、
前記弾性膜が取り付けられるヘッド本体と、
を備えた、基板保持装置。
【請求項9】
基板を研磨する研磨装置であって、
研磨面を有する研磨パッドを支持する研磨テーブルと、
請求項8に記載の基板保持装置と、
を備え、前記基板保持装置で前記基板を保持しつつ、前記基板を前記研磨面に向けて所定の圧力で押圧するとともに、前記研磨テーブルと前記基板保持装置とを相対運動させることにより前記基板が前記研磨面に摺接させて、前記基板の表面を研磨する、研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハ等の基板を研磨するための研磨装置、研磨装置において基板を保持するための基板保持装置、及び基板保持装置に用いられる弾性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴って、回路の配線がますます微細化し、多層配線の総数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲して段差がより大きくなるので、配線総数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理をしなければならない。また、光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面に対して平坦化処理をする必要がある。
【0003】
したがって、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化がますます重要になってきている。この表面の平坦化において最も重要な技術の一つは、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)である。この化学機械研磨は、シリカ(SiO2)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッドの研磨面上に供給しつつウェハを研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
CMPを行うための研磨装置は、研磨パッドを支持する研磨テーブルと、ウェハを保持するためのトップリング又は研磨ヘッド等と称される基板保持装置とを備えている。このような研磨装置を用いてウェハの研磨を行う場合には、基板保持装置によりウェハを保持しつつ、このウェハを研磨パッドの研磨面に向けて所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと基板保持装置とを相対運動させることによりウェハが研磨面に摺接し、ウェハの表面が研磨される。
【0005】
研磨中のウェハと研磨パッドの研磨面との間の相対的な押圧力がウェハの全面に亘って均一でない場合には、ウェハの各部分に与えられる押圧力に応じて研磨不足や過研磨が生じてしまう。そこで、ウェハに対する押圧力を均一化するために、基板保持装置の下部に弾性膜で形成される圧力室を設け、この圧力室に空気などの流体を供給することで弾性膜を介して流体圧によりウェハを押圧することが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図23は、特許文献1に記載された研磨装置の基板保持装置を示す断面図であり、
図24は、
図23の弾性膜のエッジ部分の拡大断面図である。
図23に示すように、従来の弾性膜110は、ヘッド本体102の下面に取り付けられ、ウェハの形状に合わせて円形に形成された当接部111と、当接部111から立設する側壁110hとを有する。この弾性膜110の当接部111の下面は、弾性膜110の底面となり、この当接部111の下面によってウェハを下方に押圧することで、ウェハを研磨パッドの研磨面に押圧する。
【0007】
図23及び
図24に示すように、当接部111には、上方に延びる複数の同心円状の隔壁120a~120gが間隔を置いて設けられ、当接部111の外周端には上方に延びる側壁110hが形成される。各隔壁120a~120gの間には圧力室116a~116gが形成され、外周端部では最外の隔壁と側壁との間にエッジ圧力室116gが形成される。そして、ヘッド本体102から各圧力室116a~116gに個別に空気を送り込むことで各圧力室116a~116gの圧力が制御される。各圧力室116a~116gの圧力を制御することで、各圧力室116a~116gに対応する各底面部分の押圧力が制御される。
【0008】
上記のような従来の構成の弾性膜を有する研磨装置において、研磨パッドは弾性を有するため、研磨中のウェハのエッジ部(周縁部)に加わる押圧力が不均一になり、ウェハのエッジ部のみが多く研磨される、いわゆる「縁だれ」を起こしてしまう場合がある。このような縁だれを防止するため、ウェハのエッジ部を押圧する弾性膜の外周端部ではより細かい範囲で押圧力を制御することが有利である。
【0009】
図25は、特許文献1に記載された別の例の弾性膜のエッジ部分の拡大断面図である。この例において、隔壁120fは、
図24の例と比較して、当接部111の外周端により近い位置から延びており、エッジ圧力室116gは比較的狭い範囲でウェハのエッジ部分を押圧できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特に基板のエッジ部分において研磨プロファイルを精密に調整できる研磨装置、そのような研磨装置に用いる基板保持装置、及びそのような基板保持装置に用いる弾性膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、基板保持装置に用いられる弾性膜であって、基板に当接する当接部と、前記当接部の外周端に立設された円環状の側壁と、前記側壁から径方向内側に向かって断面視で直線状に延びる第1隔壁と、前記当接部の上面に接続する基端部が屈曲して形成された基端接続部と、前記基端接続部から前記径方向内側の上方に向かって断面視で略全長にわたって直線状に傾斜して延びる第2隔壁と、前記第2隔壁よりも内周側に位置しており、前記径方向内側の上方に向かって断面視で略全長にわたって直線状に傾斜して延びる第3隔壁と、を備え、前記第2隔壁の傾斜と前記第3隔壁の傾斜とは平行または略平行であって、前記第1隔壁と前記第2隔壁と前記側壁とで前記基板のエッジを押圧するためのエッジ圧力室が構成される。
【0013】
この構成により、エッジ圧力室の圧力を制御することで、外周端部における狭い範囲で当接部の押圧力を制御できる。また、第1隔壁と第2隔壁とがそれぞれ断面視で直線状に延びているので、第1隔壁と第2隔壁とが接触しにくくなり、よってエッジ圧力室の圧力制御を行いやすくできる。また、エッジ圧力室の圧力が高くなっても、側壁から第1隔壁が直線状に延びているので、側壁の外側への膨らみを抑えることができる。
【0014】
上記の弾性膜において、前記第1隔壁と前記第2隔壁との間隔は、前記当接部の径方向内側から径方向外側に向かって徐々に広くなっていてよい。
【0015】
この構成により、エッジ圧力室内の空間の全体にエアが行き渡りやすく、外周端部における狭い範囲で当接部の押圧力を制御できる。
【0016】
上記の弾性膜において、前記基板保持装置は、前記弾性膜が取り付けられるヘッド本体を備え、前記第1隔壁は先端に前記ヘッド本体と係合する第1係合部を有し、前記第2隔壁は先端に前記ヘッド本体と係合する第2係合部を有し、前記第1隔壁と前記第2隔壁との間隔は、前記第1係合部及び前記第2係合部から前記側壁に向かって徐々に広くなっていてよい。
【0017】
この構成によっても、エッジ圧力室内の空間の全体にエアが行き渡りやすく、外周端部における狭い範囲で当接部の押圧力を制御できる。
【0018】
上記の弾性膜において、前記第2隔壁は、前記側壁の内周面より0.5~1.5mm内側の位置から直線状に延びていてよい。
【0019】
この構成により、弾性膜の外周端から内側0.5mmないし1.5mmまで(エッジ押圧幅d)の部分を外周端部として、外周端部における狭い範囲で底面の押圧力を制御できる。
【0020】
上記の弾性膜において、前記当接部の上面における前記第2隔壁の外周面と前記側壁の内周面との間の距離は、1.5~8mmであってよい。
【0021】
この構成により、外周端部に膜が形成されていない基板についても、膜の外周端部における研磨プロファイルを精密に制御できる。
【0022】
上記の弾性膜において、前記第2隔壁における前記基端接続部の長さは0.5~3.5mmであってよい。
【0023】
この構成により、第2隔壁と隣接する隔壁とが接触しないように互いの距離を確保できる。
【0024】
上記の弾性膜において、前記エッジ圧力室を構成する前記側壁の外周面は平坦であってよい。
【0025】
この構成により、側壁に段差がないので、ディフェクトの原因となるスラリが溜まりにくくなる。
【0026】
本発明の他の態様は、基板を保持する基板保持装置であって、上記の弾性膜と、前記弾性膜が取り付けられるヘッド本体とを備えた、基板保持装置である。
【0027】
この構成によっても、圧力室の圧力を制御することで、外周端部における狭い範囲で当接部の押圧力を制御できる。また、第1隔壁と第2隔壁とがそれぞれ直線状に延びているので、第1隔壁と第2隔壁とが接触しにくくなり、よって圧力室の圧力制御を行いやすくできる。圧力室の圧力が高くなっても、側壁から第1隔壁が直線状に延びているので、側壁の外側への膨らみを抑えることができる。
【0028】
本発明のさらに他の態様は、基板を研磨する研磨装置であって、研磨面を有する研磨パッドを支持する研磨テーブルと、上記の基板保持装置とを備え、前記基板保持装置で前記基板を保持しつつ、前記基板を前記研磨面に向けて所定の圧力で押圧するとともに、前記研磨テーブルと前記基板保持装置とを相対運動させることにより前記基板が前記研磨面に摺接させて、前記基板の表面を研磨する、研磨装置である。
【0029】
この構成によっても、圧力室の圧力を制御することで、外周端部における狭い範囲で当接部の押圧力を制御できる。また、第1隔壁と第2隔壁とがそれぞれ直線状に延びているので、第1隔壁と第2隔壁とが接触しにくくなり、よって圧力室の圧力制御を行いやすくできる。圧力室の圧力が高くなっても、側壁から第1隔壁が直線状に延びているので、側壁の外側への膨らみを抑えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、圧力室の圧力を制御することで、外周端部における狭い範囲で当接部の押圧力を制御できる。また、第1隔壁と第2隔壁とがそれぞれ直線状に延びているので、第1隔壁と第2隔壁とが接触しにくくなり、よって圧力室の圧力制御を行いやすくできる。圧力室の圧力が高くなっても、側壁から第1隔壁が直線状に延びているので、側壁の外側への膨らみを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】
図1に示す研磨装置に備えられた研磨ヘッド(基板保持装置)を示す図
【
図3】
図2に示すリテーナリング及び連結リングを示す平面図
【
図4】
図2に示す球面軸受及び連結リングの一部の拡大断面図
【
図5】本発明の実施の形態に係る弾性膜がヘッド本体のキャリアに連結されている状態を示す概略断面図
【
図7A】本発明の実施の形態に係る第3連結リングの断面図
【
図8】本発明の実施の形態に係る連結リングのリング傾斜部の内周面に押圧突起が形成された一例を示す拡大断面図
【
図10】
図6に示す弾性膜をヘッド本体に連結する工程を示す模式図
【
図11】
図6に示す弾性膜をヘッド本体に連結する工程を示す模式図
【
図12】
図6に示す弾性膜をヘッド本体に連結する工程を示す模式図
【
図13】
図6に示す弾性膜をヘッド本体に連結する工程を示す模式図
【
図14】本発明の実施の形態に係る固定具の配置の一例を示す模式図
【
図15A】本発明の実施の形態に係る弾性膜の利点を説明するための模式図
【
図15C】従来の弾性膜の問題を説明するための模式図
【
図16A】本発明の実施の形態に係る弾性膜の利点を説明するための模式図
【
図16C】従来の弾性膜の問題を説明するための模式図
【
図17A】本発明の実施の形態に係る弾性膜の利点を説明するための模式図
【
図17C】従来の弾性膜の問題を説明するための模式図
【
図18A】本発明の実施の形態に係る弾性膜の利点を説明するための模式図
【
図18C】従来の弾性膜の問題を説明するための模式図
【
図19A】本発明の実施の形態に係る弾性膜の利点を説明するための模式図
【
図19B】従来の弾性膜の問題を説明するための模式図
【
図20A】本発明の実施の形態に係る弾性膜の利点を説明するための模式図
【
図20B】従来の弾性膜の問題を説明するための模式図
【
図21A】本発明の実施の形態の第1の変形例に係る弾性膜の一部を示す拡大断面図
【
図21B】本発明の実施の形態の第2の変形例に係る弾性膜の一部を示す拡大断面図
【
図22】本発明の実施の形態の第3の変形例に係る弾性膜の一部を示す拡大断面図
【
図23】従来の研磨装置の基板保持装置を示す断面図
【
図25】従来の別の例の弾性膜の一部を示す拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
【0033】
図1は、実施の形態に係る研磨装置を示す図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド19を支持する研磨テーブル18と、研磨対象物である基板の一例としてのウェハWを保持して研磨テーブル18上の研磨パッド19に押圧する基板保持装置1を備えている。以下の説明では、基板保持装置1を研磨ヘッド1と称する。
【0034】
研磨テーブル18は、テーブル軸18aを介してその下方に配置されているテーブルモータ29に連結されており、そのテーブル軸18a周りに回転可能になっている。研磨パット19は研磨テーブル18の上面に貼付されており、研磨パッド19の表面19aがウェハWを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル18の上方には研磨液供給ノズル25が設置されており、この研磨液供給ノズル25によって研磨テーブル18上の研磨パッド19上に研磨液Qが供給されるようになっている。
【0035】
研磨ヘッド1は、ウェハWを研磨面19aに対して押圧するヘッド本体2と、ウェハWを保持してウェハWが研磨ヘッド1から滑り出ないようにするリテーナリング3とを備えている。研磨ヘッド1は、ヘッドシャフト27に接続されており、このヘッドシャフト27は、上下動機構81によりヘッドアーム64に対して上下動する。ヘッドシャフト27の上下動により、ヘッドアーム64に対して研磨ヘッド1の全体が昇降して位置決めされる。ヘッドシャフト27の上端にはロータリジョイント82が取り付けられている。
【0036】
ヘッドシャフト27及び研磨ヘッド1を上下動させる上下動機構81は、軸受け83を介してヘッドシャフト27を回転可能に支持するブリッジ84と、ブリッジ84に取り付けられたボールねじ88と、支柱86により支持された支持台87と、支持台87上に設けられたサーボモータ90とを備えている。サーボモータ90を支持する支持台87は、支柱86を介してヘッドアーム64に固定されている。
【0037】
ボールねじ88は、サーボモータ90に連結されたねじ軸88aと、このねじ軸88aが螺合するナット88bとを備えている。ヘッドシャフト27は、ブリッジ84と一体となって上下動するようになっている。したがって、サーボモータ90を駆動すると、ボールねじ88を介してブリッジ84が上下動し、これによりヘッドシャフト27及び研磨ヘッド1が上下動する。
【0038】
ヘッドシャフト27はキー(図示せず)を介して回転筒66に連結されている。この回転筒66はその外周部にタイミングプーリ671を備えている。ヘッドアーム64にはヘッドモータ68が固定されており、上記タイミングプーリ671は、タイミングベルト69を介してヘッドモータ68に設けられたタイミングプーリ672に接続されている。したがって、ヘッドモータ68を回転駆動することによってタイミングプーリ672、タイミングベルト69、及びタイミングプーリ671を介して回転筒66及びヘッドシャフト27が一体に回転し、研磨ヘッド1が回転する。ヘッドアーム64は、フレーム(図示せず)に回転可能に支持されたアームシャフト80によって支持されている。研磨装置は、ヘッドモータ68、サーボモータ90をはじめとする装置内の各機器を制御する制御装置40を備えている。
【0039】
研磨ヘッド1は、その下面にウェハWを保持できるように構成されている。ヘッドアーム64はアームシャフト80を中心として旋回可能に構成されており、下面にウェハWを保持した研磨ヘッド1は、ヘッドアーム64の旋回によりウェハWの受取位置と研磨テーブル18の上方位置との間で移動される。
【0040】
ウェハWの研磨は次のようにして行われる。研磨ヘッド1及び研磨テーブル18をそれぞれ回転させ、研磨テーブル18の上方に設けられた研磨液供給ノズル25から研磨パッド19上に研磨液Qを供給する。この状態で、研磨ヘッド1を所定の位置(所定の高さ)まで下降させ、この所定の位置でウェハWを研磨パッド19の研磨面19aに押圧する。ウェハWは研磨パッド19の研磨面19aに摺接され、これによりウェハWの表面が研磨される。
【0041】
次に、研磨ヘッド1について説明する。
図2は、研磨ヘッド(基板保持装置)1の概略断面図である。
図2に示すように、研磨ヘッド1は、ウェハWを研磨面19aに対して押圧するヘッド本体2と、ウェハWを囲むように配置されたリテーナリング3とを備えている。ヘッド本体2及びリテーナリング3は、ヘッドシャフト27の回転により一体に回転する。リテーナリング3は、ヘッド本体2とは独立して上下動可能に構成されている。
【0042】
ヘッド本体2は、円形のフランジ41と、フランジ41の下面に取り付けられたスペーサ42と、スペーサ42の下面に取り付けられたキャリア43とを備えている。フランジ41は、ヘッドシャフト27に連結されている。キャリア43は、スペーサ42を介してフランジ41に連結されており、フランジ41、スペーサ42、及びキャリア43は、一体的に回転し、かつ一体的に上下動する。フランジ41、スペーサ42、及びキャリア43を有するヘッド本体2は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。なお、フランジ41をSUS、アルミニウムなどの金属で形成してもよい。
【0043】
ヘッド本体2の下面には、ウェハWの裏面に当接する弾性膜10が連結されている。弾性膜10をヘッド本体2に連結する方法については後述する。弾性膜10の円形の当接部11の下面はウェハWに当接する当接面であり、基板保持面10aを構成する。当接部11の外周端からは側壁15が立設されている。弾性膜10は複数の(
図2では、6つの)環状の隔壁14a、14b、14c、14d、14e、14fを有しており、これら隔壁14a~14fは、同心状に配置されている。隔壁14a~14eは当接部11の上面から上方に延びており、隔壁14fは、側壁15から径方向内側に延びている。これらの隔壁14a~14fにより、弾性膜10とヘッド本体2との間に7つの圧力室、即ち中央に位置する円形状の中央圧力室16a、最外周に位置する環状のエッジ圧力室16f及び16g、及び中央圧力室16aとエッジ圧力室16fとの間に位置する中間圧力室16b、16c、16d、16eが形成されている。エッジ圧力室16gは、エッジ圧力室16fの上方に形成されている。
【0044】
これらの圧力室16a~16gはロータリジョイント82を経由して圧力調整装置65に接続されており、圧力調整装置65から各圧力室16a~16gにそれぞれ延びる流体ライン73を通って流体(例えば、気体、より具体的には、空気又は窒素)が供給されるようになっている。圧力調整装置65は、制御装置40に接続されており、これら7つの圧力室16a~16g内の圧力を独立に調整できるようになっている。さらに、圧力調整装置65は、圧力室16a~16g内に負圧を形成することも可能となっている。このように、研磨ヘッド1において、ヘッド本体2と弾性膜10との間に形成される各圧力室16a~16gに供給する流体の圧力を調整することにより、ウェハWに加えられる押圧力をウェハWの領域毎に調整できる。
【0045】
弾性膜10は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム等の強度及び耐久性に優れたゴム材によって形成されている。各圧力室16a~16gは大気開放機構(図示せず)にも接続されており、圧力室16a~16gを大気開放することも可能である。
【0046】
リテーナリング3の上部は、環状のリテーナリング押圧機構60に連結されており、このリテーナリング押圧機構60は、リテーナリング3の上面(より具体的には、ドライブリング3bの上面)の全体に均一な下向きの荷重を与え、これによりリテーナリング3の下面(即ち、リング部材3aの下面)を研磨パッド19の研磨面19aに対して押圧する。
【0047】
リテーナリング押圧機構60は、ドライブリング3bの上部に固定された環状のピストン61と、ピストン61の上面に接続された環状のローリングダイヤフラム62とを備えている。ローリングダイヤフラム62の内部にはリテーナリング圧力室63が形成されている。このリテーナリング圧力室63は、ロータリジョイント82を経由して圧力調整装置65に接続されている。この圧力調整装置65からリテーナリング圧力室63に流体(例えば、空気)を供給すると、ローリングダイヤフラム62がピストン61を下方に押し下げ、さらに、ピストン61はリテーナリング3の全体を下方に押し下げる。
【0048】
このようにして、リテーナリング押圧機構60は、リテーナリング3の下面を研磨パッド19の研磨面19aに対して押圧する。さらに、圧力調整装置65によりリテーナリング圧力室63内に負圧を形成することにより、リテーナリング3の全体を上昇させることができる。リテーナリング圧力室63は大気開放機構(図示せず)にも接続されており、リテーナリング圧力室63を大気開放することも可能である。
【0049】
リテーナリング3は、リテーナリング押圧機構60に着脱可能に連結されている。より具体的には、ピストン61は金属などの磁性材から形成されており、ドライブリング3bの上部には複数の磁石32が配置されている。これら磁石32がピストン61を引き付けることにより、リテーナリング3がピストン61の磁力により固定される。ピストン61の磁性材としては、例えば、耐蝕性の磁性ステンレスが使用される。なお、ドライブリング3bを磁性材で形成し、ピストン61に磁石を配置してもよい。
【0050】
リテーナリング3は、連結部材75を介して球面軸受85に連結されている。この球面軸受85は、リテーナリング3の径方向内側に配置されている。
図3は、リテーナリング3及び連結部材75を示す平面図である。
図3に示すように、連結部材75は、ヘッド本体2の中心部に配置された軸部76と、この軸部76に固定されたハブ77と、このハブ77から放射状に延びる複数の(図示した例では6つの)スポーク78とを備えている。
【0051】
スポーク78の一方の端部は、ハブ77に固定されており、スポーク78の他方の端部は、リテーナリング3のドライブリング3bに固定されている。ハブ77と、スポーク78と、ドライブリング3bとは一体に形成されている。キャリア43には、複数対の駆動ピン80、80が固定されている。各対の駆動ピン80、80は各スポーク78の両側に配置されており、キャリア43の回転は、駆動ピン80、80を介してリテーナリング3に伝達され、これによりヘッド本体2とリテーナリング3とは一体回転する。
【0052】
図2に示すように、軸部76は球面軸受85内を縦方向に延びている。
図3に示すように、キャリア43には、スポーク78が収容される複数の放射状の溝43aが形成されており、各スポーク78は各溝43a内で縦方向に移動自在となっている。連結部材75の軸部76は、ヘッド本体2の中央部に配置された球面軸受85に縦方向に移動自在に支持されている。このような構成により、連結部材75及びこれに固定されたリテーナリング3は、ヘッド本体2に対して縦方向に移動可能となっている。さらに、リテーナリング3は、球面軸受85により傾動可能に支持されている。
【0053】
以下、球面軸受85についてより詳細に説明する。
図4は、球面軸受85及び連結部材75の一部の拡大断面図である。
図4に示すように、軸部76は、複数のねじ79によりハブ77に固定されている。軸部76には縦方向に延びる貫通孔88が形成されている。この貫通孔88は軸部76が球面軸受85に対して縦方向に移動する際の空気抜き孔として作用し、これによりリテーナリング3はヘッド本体2に対して縦方向にスムーズに移動可能となっている。
【0054】
球面軸受85は、連結部材75を介してリテーナリング3に連結された中間輪91と、中間輪91を上から摺動自在に支持する外輪92と、中間輪91を下から摺動自在に支持する内輪93とを備えている。中間輪91は、球殻の上半分よりも小さい部分球殻形状を有し、外輪92と内輪93との間に挟まれている。
【0055】
キャリア43の中央部には凹部43bが形成されており、外輪92は凹部43b内に配置されている。外輪92は、その外周部に鍔92aを有しており、この鍔92aを凹部43bの段部にボルト(図示せず)により固定することにより、外輪92がキャリア43に固定されるとともに、中間輪91及び内輪93に圧力をかけることが可能となっている。内輪93は凹部43bの底面上に配置されており、中間輪91の下面と凹部43bの底面との間に隙間が形成されるように、中間輪91を下から支えている。
【0056】
外輪92の内面92b、中間輪91の外面91a及び内面91b、及び内輪93の外面93aは、支点Oを中心とした略半球面から構成されている。中間輪91の外面91aは、外輪92の内面92bに摺動自在に接触し、中間輪91の内面91bは、内輪93の外面93aに摺動自在に接触している。外輪92の内面92b(摺接面)、中間輪91の外面91a及び内面91b(摺接面)、及び内輪93の外面93a(摺接面)は、球面の上半分よりも小さい部分球面形状を有している。このような構成により、中間輪91は、外輪92及び内輪93に対して全方向(360°)に傾動可能であり、かつ傾動中心である支点Oは球面軸受85よりも下方に位置する。
【0057】
外輪92、中間輪91、及び内輪93には、軸部76が挿入される貫通孔92c、91c、93bがそれぞれ形成されている。外輪92の貫通孔92cと軸部76との間には隙間が形成されており、同様に、内輪93の貫通孔93bと軸部76との間には隙間が形成されている。中間輪91の貫通孔91cは、外輪92及び内輪93の貫通孔92c、93bよりも小さな直径を有しており、軸部76は中間輪91に対して縦方向にのみ移動可能となっている。したがって、軸部76に連結されたリテーナリング3は、横方向に移動することは実質的に許容されず、リテーナリング3の横方向(水平方向)の位置は球面軸受85によって固定されている。
【0058】
球面軸受85は、リテーナリング3の上下移動及び傾動を許容する一方で、リテーナリング3の横方向の移動(水平方向の移動)を制限する。ウェハWの研磨中は、リテーナリング3はウェハWと研磨パッド19との摩擦に起因した横方向の力(ウェハWの径方向外側に向かう力)をウェハWから受ける。この横方向の力は球面軸受85によって受けられる。このようにして、球面軸受85は、ウェハWの研磨中に、ウェハWと研磨パッド19との摩擦に起因してリテーナリング3がウェハWから受ける横方向の力(ウェハWの径方向外側に向かう力)を受けつつ、リテーナリング3の横方向の移動を制限する(即ち、リテーナリング3の水平方向の位置を固定する)支持機構として機能する。
【0059】
図5は、弾性膜10がヘッド本体2に連結されている状態を示す概略断面図であり、
図6は、
図5に示す弾性膜10の一部を示す拡大断面図である。弾性膜10は、ウェハWに当接する当接面としての円形の当接部11と、当接部11の外周端に垂直に立設された円環状の側壁15と、当接部11の上面に接続される複数の(
図5では、5つの)隔壁14a、14b、14c、14d、14eと、側壁15の内面に接続される隔壁14fとを有している。隔壁14a~14fは、同心状に配置された環状の隔壁である。
【0060】
上述したように、これら6つの隔壁14a~14fによって、7つの圧力室(即ち、中央圧力室16a、中間圧力室16b~16e、及びエッジ圧力室16f及び16g)が形成される。当接部11はウェハWの裏面、即ち研磨すべき表面とは反対側の面に接触し、ウェハWを研磨パッド19に対して押し付ける。
【0061】
エッジ圧力室14gとエッジ圧力室14fとは、概ね水平に延びる隔壁14fによって仕切られている。隔壁14fは側壁15に接続されているので、エッジ圧力室14gとエッジ圧力室14fとの差圧は側壁15を鉛直方向に押し下げる下向きの力を発生させる。つまり、エッジ圧力室14g内の圧力がエッジ圧力室14f内の圧力よりも大きいとき、エッジ圧力室14g,14f間の差圧によって下向きの力が側壁15に発生し、側壁15は当接部11の周縁部を鉛直方向にウェハWの裏面に押し付ける。結果として、当接部11の周縁部がウェハエッジ部を研磨パッド19に対して押し付ける。このように、側壁15自体に下向きの力が鉛直方向に作用するので、当接部11の周縁部はウェハWのエッジ部の狭い領域を研磨パッド19に対して押し付けることができる。したがって、ウェハWのエッジ部のプロファイルを精密に制御することが可能となる。
【0062】
以下の説明では、隔壁14a~14fを区別する必要がない場合、及び隔壁14a~14fを総称する場合には、隔壁14と表記する。また、圧力室16a~16gについても、これらを区別する必要がない場合、及びこれらを総称する場合には、圧力室16と表記する。
【0063】
当接部11の上面から延びる隔壁14a~14eにおいて、隔壁14eは当接部11の外周端部に接続され、隔壁14dは隔壁14eよりも径方向内側に配置され、隔壁14cは隔壁14dよりも径方向内側に配置され、隔壁14bは隔壁14cよりも径方向内側に配置され、隔壁14aは隔壁14bよりも径方向内側に配置される。以下の説明では、隔壁14fを第1隔壁14fと称し、隔壁14eを第2隔壁14eと称し、隔壁14dを第3隔壁14dと称し、隔壁14cを第4隔壁14cと称し、隔壁14bを第5隔壁14bと称し、隔壁14aを第6隔壁14aと称する。当接部11の上面から延びる隔壁14a~14eは、当接部11の上面から上方に延びている。
【0064】
当接部11には、第5隔壁14bと第4隔壁14cとの間に形成された圧力室16cに連通する複数の通孔17が周方向に所定のピッチで形成されている。
図5及び
図6では、1つの通孔17のみを示す。当接部11にウェハWが接触した状態で、複数の通孔17が形成された中間圧力室16cが減圧されると、ウェハWが当接部11の下面に保持される。すなわち、ウェハWは真空吸引によって研磨ヘッド1に保持される。さらに、ウェハWが研磨パッド19から離れた状態で、複数の通孔17が形成された中間圧力室16cに流体を供給すると、ウェハWが研磨ヘッド1からリリースされる。通孔17は中間圧力室16cの代わりに他の圧力室に形成してもよい。その際には、ウェハWの真空吸引やリリースは通孔17を形成した圧力室の圧力を制御することにより行う。
【0065】
本実施の形態では、当接部11の上面から延びる隔壁14a~14eは、径方向内側に傾斜した傾斜隔壁として構成されており、いずれも直線状の形状(ストレート形状)を有する。以下では、傾斜隔壁である隔壁14a~14eの代表として、最も外側に位置する隔壁14eの構成を説明する。
【0066】
傾斜隔壁である第2隔壁14eは、当接部11の外周端部から径方向内側の上方に向かって断面視で直線状に延びている。第2隔壁14eは、当接部11の上面から径方向内側かつ上方に直線状に延びる隔壁本体55と、該隔壁本体55の先端に形成された環状のシール突起54とから構成される。本実施の形態では、シール突起54は、円状の断面形状を有しており、隔壁本体55は、シール突起54の接線方向に延びている。
【0067】
第2隔壁14eは、その下端部(基端部)から上端部までの全体において、径方向内側に所定の角度θで傾斜しつつ、上方に延びている。第2隔壁14eの下端部は、当接部11に接続され、第2隔壁14eの上端部(即ち、シール突起54)は、後述するヘッド本体2の連結リング23dに接続される。
【0068】
底面に対する隔壁14eの傾斜角度θは、好ましくは、20°~70°の範囲に設定される。傾斜角度θが20°よりも小さいと、隣接する圧力室16に供給される流体の圧力差が大きい場合に、隣接する隔壁14どうしが接触するおそれがある。傾斜角度θが70°よりも大きいと、隔壁14によって、鉛直方向における弾性膜10の伸縮(即ち、弾性膜10の変形)が阻害されるおそれがある。この場合、弾性膜10が圧力室16に供給される流体の圧力に応じて適切に伸縮できないので、ウェハWに加えられる押圧力をウェハWの領域毎に調整することが困難になるおそれがある。
【0069】
図6に示すように、傾斜隔壁として構成された隔壁14a~14eは、互いに同一の形状を有しているので、隔壁14a~14eは互いに平行に延びている。より具体的には、隔壁14a~14eの隔壁本体55は互いに平行である。
図5に示すように、第6隔壁14aと第5隔壁14bとの間に圧力室16bが形成され、第5隔壁14bと第4隔壁14cとの間に圧力室16cが形成され、第4隔壁14cと第3隔壁14dとの間に圧力室16dが形成され、第3隔壁14dと第2隔壁14eとの間に圧力室16eが形成され、第2隔壁14eと第1隔壁14fとの間にエッジ圧力室16fが形成される。
【0070】
さらに、
図5及び
図6に示す弾性膜10において、傾斜隔壁として構成された隔壁14a~14eは互いに平行に延びている。すなわち、隔壁14a~14eの隔壁本体55の傾斜角度θは同一である。この場合、隣接する隔壁14を極めて狭い間隔で配置することができるので、圧力室16の径方向の幅を極めて狭くすることができる。
【0071】
傾斜隔壁として構成された隔壁14a~14eが互いに接触しなければ、隔壁14a~14eは互いに略平行に延びてもよい。より具体的には、傾斜隔壁として構成された隔壁14a~14eの隔壁本体55の傾斜角度θは互いにある程度異なっていてもよい。本明細書において、「略平行」との表現は、傾斜隔壁として構成された隔壁14のうちの1つの隔壁14の傾斜角度(説明の便宜上、この傾斜角度を基準傾斜角度θsと称する)を基準としたときに、傾斜隔壁として構成された他の隔壁14の傾斜角度θが基準傾斜角度θsに対して±10°の範囲内にあることを意味する(即ち、θs-10≦θ≦θs+10)。例えば、隔壁14aの傾斜角度が45°であり、かつ隔壁14aの傾斜角度を基準傾斜角度θsとした場合に、隔壁14b~14eの傾斜角度θは、隔壁14aの基準傾斜角度θ’(=45°)に対して±10°の範囲(即ち、35°~55°)の範囲)にある。
【0072】
本実施の形態では、側壁15は、当接部11の外周端から垂直に延びる垂直部22と、上端に形成された水平部28と、垂直部22の上端と水平部28の外側端部との間に形成され、径方向内側に凸に屈曲する屈曲部24とから構成されている。また、水平部28の先端(内側端)にも隔壁14a~14fと同様に、シール突起54が形成されている。
【0073】
第1隔壁14fは、側壁15の垂直部22の上端部から径方向内側に向けて水平に延びている。隔壁14fも、隔壁14a~14eと同様に、全体としてストレート形状を有し、直線状に延びる隔壁本体55と、該隔壁本体55の先端に形成された環状のシール突起54とから構成される。ただし、隔壁14fの隔壁本体55は、側壁15の内面から径方向内側に向けて水平に延びている。
【0074】
ここで、第1隔壁14fと、側壁15の垂直部22と、第2隔壁14eとで構成されるエッジ圧力室16fについて、さらに説明する。第1隔壁14fと第2隔壁14eは、いずれも断面視で直線状の形状(ストレート形状)であり、隔壁本体55にはその端部を除き屈曲している箇所や湾曲している箇所がない。また、側壁15の垂直部22も断面視で直線状の形状(ストレート形状)であって、垂直部22には屈曲している箇所や湾曲している箇所がない。よって、第1隔壁14fの延長線と、側壁15の垂直部22と、第2隔壁14eの延長線とで断面視で三角形Tが構成される。この三角形Tの1つの頂点C1の径方向の位置は、弾性膜10の当接部11の外周端となっている。
【0075】
エッジ圧力室16fにおいて、第1隔壁14fと第2隔壁14eとの間隔は、当接部11の径方向内側から外側に向けて、徐々に広がっている。また、側壁15の垂直部22、即ち、少なくともエッジ圧力室16fを構成する部分において、外周面には段差がなく平坦である。
【0076】
当接部11の上面に形成されている隔壁14a~14eのうちの最も外側の隔壁である第2隔壁14eは、当接部11の外周端部に接続されている。本明細書において、「外周端部」の用語は、当接部11の外周端を含み、そこから若干内側の部分も含む範囲を意味する。具体的には、
図6のような断面視で、第2隔壁14eの上面と当接部11の上面とが交わる点と、側壁15の内面と当接部11の上面とが交わる点との間の距離(エッジ押圧幅)dが0~8mmである場合に、第2隔壁14eが当接部11の外周端部に接続されている、ないし当接部11の外周端部から延びているというものとする。なお、本実施の形態では、エッジ押圧幅dは、0.5~1.5mmに設定する。
【0077】
なお、弾性膜10は、その弾性によって、自律的に
図5や
図6に示す形状を維持できるわけではないが、本明細書において、弾性膜10の形状を説明する場合には、ヘッド本体2に取り付けられて研磨に用いられる状態にあるときの形状をいうものとする。
【0078】
隔壁14a~14f、側壁15、及び当接部11を有する弾性膜10は、金型などを用いて一体的に成型することができる。
【0079】
上述したように、各圧力室16a~16fには、圧力調整装置65からロータリジョイント82を介して延びる流体ライン73(
図1及び
図2参照)を通って流体がそれぞれ供給される。
図5には、圧力調整装置65から圧力室16dに流体を供給するための流体ライン73の一部のみが示されている。
【0080】
図5に示す流体ライン73の一部は、スペーサ42に形成された貫通孔73aと、キャリア43に形成され、貫通孔73aと連通する貫通孔73bと、後述する連結リング23に形成され、貫通孔73bに連通する貫通孔73cとによって構成される。これら貫通孔73a、73b、73cは、同一の直径を有している。連結リング23に形成された貫通孔73cの上端には、環状の凹部が形成されており、この凹部に、連結リング23とキャリア43との間の隙間をシールするシール部材(例えば、O-リング)74が配置される。このシール部材74によって、貫通孔73b、73cを流れる流体が連結リング23とキャリア43との間の隙間から漏洩することが防止される。
【0081】
同様に、キャリア43に形成された貫通孔73bの上端には、環状の凹部が形成されており、この凹部に、キャリア43とスペーサ42との間の隙間をシールするシール部材(例えば、O-リング)44が配置される。このシール部材44によって、貫通孔73a、73bを流れる流体がスペーサ42とキャリア43との間の隙間から漏洩することが防止される。
【0082】
ヘッド本体2は、さらに、隔壁14a~14f及び側壁15が接続される複数の連結リング23a~23fを有する。連結リング23aは、第6隔壁14aと第5隔壁14bとの間に配置され、以下の説明では第6連結リング23aと称する。連結リング23bは、第5隔壁14bと第4隔壁14cとの間に配置され、以下の説明では第5連結リング23bと称する。連結リング23cは、第4隔壁14cと第3隔壁14dとの間に配置され、以下の説明では第4連結リング23cと称する。連結リング23dは、第3隔壁14dと第2隔壁14eとの間に配置され、以下の説明では第3連結リング23dと称する。
【0083】
連結リング23eは、第2隔壁14eと第1隔壁14fとの間に配置され、以下の説明では第2連結リング23eと称する。連結リング23fは、第1隔壁14fと側壁15の屈曲部24及び水平部28との間に配置され、以下の説明では第1連結リング23fと称する。このように、各連結リング23a~23eは、隣接する隔壁14の間に配置される。
【0084】
本実施の形態では、第6隔壁14aも傾斜隔壁として構成されているので、ヘッド本体2は、該隔壁14aが連結される連結リング23gを有している。以下の説明では、連結リング23gを追加連結リング23gと称する。
【0085】
第6連結リング23a、第5連結リング23b、第4連結リング23c、第3連結リング23d、及び第2連結リング23e、及び第1連結リング23fは、同様の構成をしている。以下では、第4連結リング23cを代表例として詳細な構造を説明する。
【0086】
図7Aは、第4連結リング23cの断面図であり、
図7Bは、
図7AのA線矢視図である。
図7Aでは、上記シール部材74が仮想線(点線)で描かれている。第4連結リング23cは、ヘッド本体2のキャリア43に対して垂直に延びるリング垂直部50と、該リング垂直部50と、該リング垂直部50から径方向外側に延びつつ下方に傾斜するリング傾斜部51とを有する。弾性膜10の当接部11と平行である水平面Pに対するリング傾斜部51の内周面51aの傾斜角度θ’は、傾斜隔壁として構成された第4隔壁14cの傾斜角度θ(
図6参照)よりも小さく、水平面Pに対するリング傾斜部51の外周面51bの傾斜角度θ’’は、傾斜隔壁として構成された第2隔壁14eの傾斜角度θよりも大きい。
【0087】
リング傾斜部51の外周面51bは、リング傾斜部51の内周面51aとリング傾斜部51の先端51cで接続される。したがって、リング傾斜部51は、リング傾斜部51の先端51cに向かって徐々に細くなる断面形状を有している。内周面51aと外周面51bとが接続されるリング傾斜部51の先端51cは、曲面からなる断面形状(例えば、半円状の断面形状)を有している。さらに、第4連結リング23cは、第4連結リング23cのリング傾斜部51の内周面51aから外周面51bまで伸びる貫通孔51dを有している。さらに、リング傾斜部51の外周面51bには、該外周面51bの全周にわたって延びる環状のシール溝51eが形成されている。
【0088】
図7Bに示すように、第4連結リング23cのリング傾斜部51の内周面51aには、該内周面51aの周方向に延びる複数の横溝63と、隣接する横溝63を互いに連通させる複数の縦溝64とが形成されている。本実施の形態では、流体ライン73の貫通孔73cは、リング傾斜部51の内周面51aに形成された横溝63に開口しており、貫通孔51dは、流体ライン73が開口する横溝63とは異なる横溝63に開口している。
【0089】
流体ライン73の貫通孔73c及び貫通孔51dは、リング傾斜部51の内周面51aに形成された縦溝64にそれぞれ開口してもよい。図示はしないが、第4連結リング23cのリング傾斜部51の外周面51bには、該外周面51bの周方向に延びる複数の横溝と、隣接する横溝を互いに連通させる複数の縦溝とが形成されている。貫通孔51dは、リング傾斜部51の外周面51bに形成された横溝又は縦溝に開口するのが好ましい。
【0090】
図6に示す隔壁14のシール突起54は、リング傾斜部51の外周面51bに形成されたシール溝51eに嵌め込まれる。弾性膜10をヘッド本体2に連結するときに、シール突起54は、該シール突起54の径方向外側に位置する連結リング23のリング傾斜部51の内周面51aによってシール溝51eの底面に押圧される。例えば、第5隔壁14bの先端に形成されたシール突起54は、第6連結リング23aのリング傾斜部51の外周面51bに形成されたシール溝51eに嵌め込まれ、第5連結リング23bのリング傾斜部51の内周面51aによって、第6連結リング23aのシール溝51eの底面に押圧される。
【0091】
これにより、第5隔壁14bと、第6連結リング23aのリング傾斜部51との間の隙間、及び第5隔壁14bと、第5連結リング23bのリング傾斜部51の外周面51bとの間の隙間がシールされる。このような構成で、各圧力室16a~16eに供給された流体が各圧力室16a~16eから漏洩することが防止される。このように、隔壁14におけるシール突起54は、ヘッド本体2と係合して隔壁14をヘッド本体2に固定することにより、弾性膜10をヘッド本体2に支持させるものであり、本発明の係合部に相当し、特に、第1隔壁fのシール突起54は本発明の第1係合部に相当し、第2隔壁14eのシール突起54は本発明の第2係合部に相当する。
【0092】
図8に示すように、連結リング23のリング傾斜部51の内周面51aに、シール溝51eに嵌め込まれたシール突起54に対向する環状の押圧突起51fを形成してもよい。押圧突起51fは、リング傾斜部51の内周面51aの全周にわたって延びる。押圧突起51fによって、シール突起54をシール溝51eの底面により強い押圧力で押圧することができる。その結果、各圧力室16a~16eに供給された流体が各圧力室16a~16eから漏洩することをより効果的に防止できる。
【0093】
図5に示すように、隔壁14a~14fは、それぞれ連結リング23a~23fとシール突起54のみで接触する。すなわち、先端51cに向かって徐々に細くなる断面形状を有するリング傾斜部51と、シール突起54以外の隔壁14との間には隙間が形成される。この隙間によって、各圧力室16a~16fに加圧された流体を供給したときに、隔壁14a~14fが径方向に移動する(即ち、シール突起54を支点として回動する)ことが許容される。その結果、各圧力室16a~16fに供給される流体の圧力に応じて、弾性膜10を円滑に膨らませることができるので、研磨プロファイルを精密に調整できる。
【0094】
上述したように、各圧力室16a~16fに加圧された流体を供給すると、弾性膜10が膨らみ、隔壁14a~14eと当接部11との接続部分も径方向に移動する。しかしながら、隔壁14a~14eのシール突起54以外の部分では、隔壁14a~14eと連結リング23a~23eとの間には上記隙間が形成されているので、隔壁14a~14eの径方向におけるある程度の移動は連結リング23a~23fによって妨害されない。したがって、各圧力室16a~16fに供給される流体の圧力に応じて、弾性膜10を膨らませることができる。
【0095】
隣接する圧力室16にそれぞれ供給される流体の圧力差がある場合は、これら圧力室16を区画する隔壁が径方向に変形しようとする。しかしながら、連結リング23のリング傾斜部51の内周面51a又は外周面51bによって、隔壁14の径方向の変形が制限されるので、隔壁14が当接部11の上面と接触することが効果的に防止され、同時に、隣接する隔壁14どうしが互いに接触することが効果的に防止される。本実施の形態では、連結リング23のリング傾斜部51の先端51cは曲面からなる断面形状を有している。したがって、隔壁14がリング傾斜部51の先端51cに接触したときにも、隔壁14の損傷を防止できる。
【0096】
上述したように、連結リング23は、リング傾斜部51の内周面51a及び外周面51bに形成された横溝63と縦溝64と、内周面51aから外周面51bまで延び、かつ横溝63(又は縦溝64)に開口する貫通孔51dとを有している。さらに、各圧力室16a~16fに供給される流体が流れる流体ライン73の貫通孔73c(
図5参照)は、横溝63に開口している。
【0097】
したがって、隣接する圧力室16にそれぞれ供給される流体の圧力差によって、隔壁14が連結リング23のリング傾斜部51の内周面51a及び/又は外周面51bに接触しても、流体ライン73を流れる流体をリング傾斜部51に形成された横溝63と縦溝64、及び貫通孔51dを介して圧力室16に素早くかつ円滑に供給することができる。その結果、隔壁14が連結リング23のリング傾斜部51の内周面51a及び/又は外周面51bに接触している状態でも、流体ライン73から供給される流体の圧力を当接部11に速やかに作用させることができる。
【0098】
図5に示すように、リング傾斜部51の先端51cは、傾斜隔壁として構成された隔壁14a~14eの中間点CPよりも下方に位置しているのが好ましい。
図6に示すように、中間点CPは、所定の傾斜角度θで上方に延びる隔壁14a~14eの中央に位置している。すなわち、隔壁14a~14eの中間点CPと当接部11の上面との間の距離L1は、中間点CPと隔壁14a~14eの先端との間の距離L2と等しい。
【0099】
ウェハWを弾性膜10の基板保持面10a(当接部11の下面)に吸着させるために、圧力室(例えば、中間圧力室16c)に真空を形成すると、弾性膜10はヘッド本体2に向かって変形する。弾性膜10の変形量が大きいと、ウェハWに発生する応力が増加して、ウェハW上に形成された電子回路が損傷したり、ウェハWの割れが生じたりすることがある。本実施の形態では、リング傾斜部51の先端51cが隔壁14a~14eの中間点CPよりも下方に位置しているので、当接部11の上面とリング傾斜部51の先端51cとの間の距離が短い。
【0100】
したがって、ウェハWを弾性膜10の基板保持面10a(
図2参照)に吸着するときに、リング傾斜部51の先端51cに弾性膜10が接触して、弾性膜10の変形量を低減できる。その結果、ウェハWに発生する応力を低減できる。さらに、リング傾斜部51の先端51cは、曲面からなる断面形状を有しているため、リング傾斜部51の先端51cに弾性膜10が接触したときに、弾性膜10の損傷を防止できる。
【0101】
本実施の形態によれば、隔壁14a~14eは、従来の隔壁に形成されていた水平部を有さないストレート形状の隔壁として形成される。さらに、これら隔壁14a~14eは、同一形状を有し、かつ互いに平行(又は略平行)に延びている。したがって、隣接する圧力室にそれぞれ供給される流体の圧力差が大きい場合でも、隔壁14a~14eは、当接部11の上面に接触しない。
【0102】
さらに、隣接する隔壁が互いに接触することを防止できる。特に、隣接する隔壁14の間には、隔壁14が径方向内側又は外側に移動することを制限するリング傾斜部51を備えた連結リング23が設けられているので、隔壁14と当接部11の上面との接触及び隣接する隔壁14どうしの接触を効果的に防止できる。その結果、研磨ヘッド(基板保持装置)1に保持されているウェハWの研磨プロファイルを精密に調整できる。
【0103】
さらに、本実施の形態によれば、傾斜隔壁として構成されている隔壁14a~14eが互いに平行に延びているので、隣接する隔壁14a~14eの間の間隔を小さくできる。その結果、各圧力室16a~16eの径方向における幅を小さくすることができるので、研磨ヘッド(基板保持装置)1に保持されるウェハWの研磨プロファイルを精密に調整できる。
【0104】
隔壁14a~14eを傾斜隔壁として構成すると、隣接する隔壁14の間の間隔及び隔壁14eと側壁15の垂直部22との間の間隔、各圧力室の径方向の幅は、ウェハWの研磨プロファイルに応じて任意に設定できる。すなわち、隣接する隔壁14の間隔を所望の間隔(例えば、極めて狭い間隔)に設定できる。複数の隔壁14a~14eのうちの隣接する少なくとも2つの隔壁を傾斜隔壁として構成してもよい。例えば、隔壁14c、隔壁14d、隔壁14eを傾斜隔壁として構成してもよいし、側壁15に隣接して配置されている2つの隔壁14d、14eを傾斜隔壁として構成してもよい。
【0105】
連結リング23は、複数の固定具によってキャリア43に固定される。連結リング23を固定釘によってキャリア43に固定することにより、弾性膜10がヘッド本体2に連結される。傾斜隔壁として構成された隣接する隔壁14の間の間隔が小さい弾性膜10をヘッド本体2に連結する場合には、ヘッド本体2の連結リング23の径方向における幅も小さくなる。その結果、連結リング23をキャリア43に固定するための固定具を狭いスペースに配置しなければならない。さらに、連結リング23をキャリア43に固定するための固定具の数が多いと、メンテナンス時に、弾性膜10をキャリア43から着脱する作業量が増加してしまう。
【0106】
さらに、連結リング23をヘッド本体2のキャリア43に固定するための固定具を設置するスペースには制限がある。より具体的には、ヘッド本体2のキャリア43には、流体を各圧力室16a~16fに供給する複数の流体ライン73(
図2参照)が貫通しており、固定具はこれら流体ライン73に干渉しないように配置する必要がある。さらに、ヘッド本体2のキャリア43には、スポーク78が収容される複数の放射状の溝43a(
図3参照)が形成されており、固定具をこれら溝43aが形成されている位置に配置することができない。
【0107】
そこで、本実施の形態では、研磨ヘッド1は、傾斜隔壁として形成された隣接する2つの隔壁14を3つないし4つの連結リング23を介してヘッド本体2に同時に固定するための固定具70を有する。以下、この固定具70と、固定具70を用いて弾性膜10が接続された連結リング23をヘッド本体2に固定する方法について説明する。
【0108】
図9Aは、固定具70の上面図であり、
図9Bは、
図9AのB-B線断面図である。
図9A及び
図9Bに示すように、固定具70は、円柱状の固定具本体71と、固定具本体71の外周面から外側に突出し、楕円形状を有する鍔72とを備える。鍔72は、2つの傾斜面72a、72bを有しており、これら傾斜面72a、72bは、それぞれ鍔72の外周面まで延びている。傾斜面72a、72bを除いた鍔72の鉛直方向の厚みは、連結リング23のリング垂直部50に形成された係合溝(後述する)と同一である。固定具本体71の上面71aには、図示しない冶具(例えば、マイナスドライバ)の先端が係合可能な溝71bが形成されている。溝71bに冶具の先端を係合させ、さらに冶具を回転させることにより、固定具70を回転させることができる。
【0109】
次に、
図9A及び
図9Bに示す固定具70を用いて、3つないし4つの連結リング23を同時にヘッド本体2のキャリア43に固定する方法について説明する。3つの連結リング23をキャリア43に固定すると、2つの隣接する隔壁14が同時にヘッド本体2に連結される。以下の説明では、3つの連結リング23のうちの径方向内側に位置する連結リング23を内側連結リング23と称することがあり、3つの連結リング23のうちの径方向外側にあるリング23を外側連結リング23と称することがあり、内側連結リング23と外側連結リング23との間に位置する連結リング23を中間連結リングと称することがある。また、傾斜隔壁として構成された隣接する2つの隔壁14のうちの径方向内側に位置する隔壁14を内側隔壁14と称することがあり、傾斜隔壁として構成された隣接する2つの隔壁14のうちの径方向外側に位置する隔壁14を外側隔壁14と称することがある。
【0110】
図10~
図13は、
図6に示す弾性膜10をヘッド本体2に連結するために、
図9A及び
図9Bに示す固定具70を用いて3つないし4つの連結リング23をキャリア43に同時に固定する各工程を示した模式図である。
【0111】
図5に示す弾性膜10では、第5隔壁14bが内側隔壁14であり、第4隔壁14cが外側隔壁14である。第5隔壁14bと第4隔壁14cに対して、第6連結リング23aは内側連結リング23であり、第5連結リング23bは中間連結リング23であり、第4連結リング23cは外側連結リング23である。固定具70によって連結リング23a~23cをキャリア43に固定することにより、第5隔壁14bと第4隔壁14cとがヘッド本体2に連結される。
【0112】
同様に、第3隔壁14dは内側隔壁14であり、第2隔壁14eは外側隔壁14である。第3隔壁14dと第2隔壁14eに対して、第4連結リング23cは内側連結リング23であり、第3連結リング23dは中間連結リング23であり、第2連結リング23eは外側連結リング23である。固定具70によって連結リング23c~23eをキャリア43に固定することにより、第3隔壁14dと第2隔壁14eとがヘッド本体2に連結される。このように、第4連結リング23cは、第5隔壁14bと第4隔壁14cに対しては外側連結リング23であり、第3隔壁14dと第2隔壁14eに対しては、内側連結リング23である。
【0113】
図10に示すように、ヘッド本体2のキャリア43の上面43cには、複数の固定具70がそれぞれ挿入される複数の第1凹部45が形成されている。各第1凹部45は、キャリア43の上面43cからキャリア43の下面43dに向かって延びている。第1凹部45は、該第1凹部45に挿入される固定具70の鍔72が接触しないように、楕円形状の断面を有する。
【0114】
さらに、キャリア43の下面43dには、中間連結リング23のリング垂直部50が挿入される環状の第3凹部47と、外側連結リング23のリング垂直部50が挿入される第2凹部46及び第4凹部48と、第1連結リング23f及び第2連結リング23eの垂直部50が挿入される第5凹部49とが形成されている。第2凹部46、第3凹部47、第4凹部48、及び第5凹部49は、キャリア43の全周に亘って延びており、かつキャリア43の下面43dから上面43cに向かって延びている。
【0115】
第1凹部45の径方向内側の内面には、内側開口96が形成されており、第1凹部45の径方向外側の内面には外側開口97が形成されている。第1凹部45は、内側開口96を介して第2凹部46と連通しており、かつ外側開口97を介して第4凹部48と連通している。第1凹部45に挿入された固定具70を回転させると、固定具70の鍔72が内側開口96及び外側開口97を通って、第2凹部46及び第4凹部48の内部に突出する。
【0116】
中間連結リング23は、内側連結リング23と外側連結リング23に挟まれることで、該内側連結リング23と外側連結リング23に保持される。例えば、中間連結リング23である第5連結リング23bは、内側連結リング23である第6連結リング23aと外側連結リング23である第4連結リング23cとに保持される。同様に、中間連結リング23である第3連結リング23dは、内側連結リング23である第4連結リング23cと外側連結リング23であるである第2連結リング23eとに保持される。
【0117】
本実施の形態では、中間連結リング23は、その内周面から内側に突出する環状の突出部30を有し、内側連結リング23は、突出部30が載置される環状の段差部31を有する。さらに、外側連結リング23は、その内周面から内側に突出する環状の突出部33を有し、中間連結リング23は、突出部33が載置される環状の段差部34を有する。第4連結リング23cは、第5隔壁14bと第4隔壁14cに対しては外側連結リング23として機能し、第3隔壁14dと第2隔壁14eに対しては内側連結リング23として機能するので、第4連結リング23cは、環状の突出部33と、環状の段差部31とを有している。
【0118】
さらに、内側連結リング23のリング垂直部50には、固定具70の鍔72が係合可能な内側係合溝36が形成されており、外側連結リング23のリング垂直部50には、固定具70の鍔72が係合可能な外側係合溝37が形成されている。第4連結リング23cは、第5隔壁14bと第4隔壁14cに対しては、外側連結リング23として機能し、第3隔壁14dと第2隔壁14eに対しては内側連結リング23として機能するので、第4連結リング23cは、内側係合溝36と外側係合溝37とを有している。
【0119】
内側連結リング23(例えば、第6連結リング23a)のリング傾斜部51の外周面に形成されたシール溝51eに内側隔壁14(例えば、第5隔壁14b)の先端に形成されたシール突起54が嵌め込まれる。中間連結リング23(例えば、第5連結リング23b)のリング傾斜部51の外周面に形成されたシール溝51eに外側隔壁14(例えば、第4隔壁14c)の先端に形成されたシール突起54が嵌め込まれる。さらに、中間連結リング23の突出部33を中間連結リング23の段差部34に載置させる。この状態が
図10に示されている。
【0120】
また、
図10に示すように、弾性膜10の第6隔壁14aも傾斜隔壁として構成されている。第6隔壁14aは、追加連結リング23gに接続され、該追加連結リング23gをキャリア43に固定することによりヘッド本体2に連結される。より具体的には、追加連結リング23gは傾斜面53を有しており、傾斜面53には第6隔壁14aの先端に形成されたシール突起54が嵌め込まれるシール溝53aが形成されている。第6隔壁14aは、該第6隔壁14aのシール突起54が追加連結リング23gのシール溝53aに嵌め込まれた状態で、第6連結リング23aと追加連結リング23gとに挟まれ、これにより、第6隔壁14aが第6連結リング23aと追加連結リング23gとに保持される。
【0121】
さらに、
図10に示すように、連結リング23fは、その内周面から内側に突出する環状の突出部35を有し、連結リング23eは、突出部35が載置される環状の段差部38を有する。弾性膜10の側壁15は、水平部28を有している。この水平部28の先端には、シール突起54が形成されており、第1連結リング23fの外周面には、このシール突起54が嵌め込まれるシール溝51eが形成されている。弾性膜10をヘッド本体2のキャリア43に連結する際は、弾性膜10の隔壁14b~14e及び側壁を連結リング23a~23fにあらかじめ保持させ、かつ隔壁14aを追加連結リング23gにあらかじめ保持させる。
【0122】
次いで、
図11に示すように、弾性膜10、連結リング23a~23f及び追加連結リング23gをキャリア43に向かって移動させ、各連結リング23a~23fをキャリア43の下面43bに形成された凹部46、47、48、49(
図10参照)に挿入する。
図10に示すように、第4連結リング23cが挿入される凹部は、第5隔壁14b及び第4隔壁14cに対しては第4凹部48である一方で、第3隔壁14d及び第2隔壁14eに対しては第2凹部46である。
【0123】
図9A及び
図9Bに示すように、固定具70の鍔72には、2つの傾斜面72a、72bが形成されている。傾斜面72a、72bは、それぞれ鍔72の外周面まで延びている。この傾斜面72a、72bによって、鍔72はスムーズに係合溝36、37に進入することができる。
【0124】
傾斜面71a、71bを除いた鍔72の厚みは係合溝36、37の厚みと同一であるため、スムーズに係合溝36、37に進入した鍔72は、係合溝36、37と強固に係合する。その結果、内側連結リング(例えば、第6連結リング23a)、外側連結リング(例えば、第4連結リング23c)がキャリア43に強固に固定される。このとき、内側連結リング23と外側連結リング23とに保持される中間連結リング23(例えば第5連結リング23b)も内側連結リング23と外側連結リング23とに強固に連結される。
【0125】
同時に、内側隔壁(例えば、第5隔壁14b)のシール突起54が内側連結リング23のリング傾斜部51の外周面51bに形成されたシール溝51eに、中間連結リング23のリング傾斜部51の内周面51aによって押し付けられ、外側隔壁(例えば、隔壁14c)のシール突起54が中間連結リング23のリング傾斜部51の外周面51bに形成されたシール溝51eに、外側連結リング23のリング傾斜部51の内周面51aによって押し付けられる。
【0126】
これにより、内側隔壁14と内側連結リング23との間の隙間、及び内側隔壁14と中間連結リング23との間の隙間がシールされ、外側隔壁14と中間連結リング23との間の隙間、及び外側隔壁14と外側連結リング23との間の隙間がシールされる。
図8を参照して説明されたように、連結リング23のリング傾斜部51の内周面51aに、シール突起54をシール溝51eに押圧する押圧突起51fを形成してもよい。
【0127】
側壁15のシール突起54は、キャリア43の下面43d(
図10参照)によって第1連結リング23fのリング傾斜部51の外周面51bに形成されたシール溝51eに押し付けられ、これにより、側壁15と第1連結リング23fとの間の隙間、及び側壁15とキャリア43との間の隙間がシールされる。
【0128】
キャリア43の下面43dに、
図8を参照して説明された環状の押圧突起51fを配置してもよい。弾性膜10をヘッド本体2に連結するときに、下面43dに設けられた押圧突起51fによって、側壁15のシール突起54が第1連結リング23fのリング傾斜部51の外周面51bに形成されたシール溝51eに強い押圧力で押圧される。
【0129】
本実施の形態では、追加連結リング23gは、複数のねじ94によってキャリア43に固定される。キャリア43には、ねじ94が挿入される貫通孔43f(
図10参照)が形成されており、追加連結リング23gには、その上面から下面に向かって延びるねじ孔56が形成されている。ねじ94を貫通孔43fに挿入して、ねじ94をねじ孔56に螺合させることにより、追加連結リング23gが強固にキャリア43に固定される。
【0130】
このとき、第6隔壁14aのシール突起54が追加連結リング23gの傾斜面53に形成されたシール溝53aに、第6連結リング23aのリング傾斜部51の内周面51aによって押圧される。これにより、第6隔壁14aと追加連結リング23gとの間の隙間、及び第6隔壁14aと第6連結リング23aとの間の隙間、及び第6隔壁14aと第6連結リング23aとの間の隙間がシールされる。
【0131】
図14は、固定具70の配置の一例を示した模式図である。
図14に示すように、第6連結リング23a、第5連結リング23b、及び第4連結リング23cは、第5連結リング23bの周方向に沿って配置される複数の固定具70によってキャリア43に固定される。第4連結リング23c、第2連結リング23d、及び第2連結リング23eは、第3連結リング23dの周方向に沿って配置される複数の固定具70によってキャリア43に固定される。
【0132】
このように、上述した固定具70を用いて3つないし4つの連結リング23を同時にキャリア43に固定すると、圧力室16a~16fの径方向における幅が小さい場合でも、弾性膜10をヘッド本体2に連結することができる。さらに、固定具70の数を減らすことができるので、弾性膜10を着脱するときの作業量を減少できる。
【0133】
図14に示すように、キャリア43は、各圧力室16a~16fに流体を供給する流体ライン73のための複数の貫通孔73a、73bを流れる流体が漏洩することを防止するシール部材44(
図5参照)が配置される。さらに、
図3を参照して説明されたように、キャリア43は、スポーク78が収容される複数の放射状の溝43が形成されている。
【0134】
本実施の形態のように、隣接する2つの隔壁14をヘッド本体2に連結するために、固定具70によって3つの連結リング23をヘッド本体2のキャリア43に固定すると、貫通孔73b及び溝43aとは異なる位置に、固定具70を容易に配置させることができる。さらに、固定具70の数を減らすことができるので、弾性膜10の着脱が容易になる。
【0135】
上述した実施形態において、複数の隔壁14のうちの少なくとも2つの隣接する隔壁が径方向内側に傾斜した傾斜隔壁として構成される。傾斜隔壁として構成された隔壁14以外の隔壁14の形状は任意である。例えば、隔壁14d、14eを傾斜隔壁として構成し、隔壁14d、14e以外の隔壁14a~14cを、当接部11から径方向内側に傾斜する傾斜部と、該傾斜部から水平に延びる水平部とを有する隔壁として構成してもよい。
【0136】
本実施の形態では、上述のように、弾性膜10とヘッド本体2との間に形成される複数の圧力室のうちの最も外側にあるエッジ圧力室16fについて、当該エッジ圧力室16fを構成する隔壁である第1隔壁14fと第2隔壁14eとをストレート形状とし、かつ、当接部11の径方向内側から外側に向けて、第1側壁14fと第2側壁14eとの間隔が徐々に広がるように構成した。エッジ圧力室16fのこのような構成によって、種々の効果が得られる。
【0137】
図15~20は、エッジ圧力室16fの上記構成による効果を説明するための模式図である。
図15Bに示す従来例のように、圧力室216fを構成する隔壁214fと214eとが平行して延びており、かつ、それらの間隔が狭いと、エッジ圧力室216eの圧力が圧力室216fの圧力より大きくなり、その差圧が大きいと、
図15Cに示すように、圧力室216eが膨らんで、隔壁214eが変形し、隔壁214eと隔壁214fとが接触してしまうおそれがある。
【0138】
図15Cのように、隔壁214eと隔壁214fとが接触すると、接触部分より外側の圧力室216fの圧力を正確に制御することができず、よって、弾性膜10によるウェハWのエッジ部分への押圧力を正確に制御できなくなる。
【0139】
これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、第1隔壁14fと第2隔壁14eとをストレート形状とし、かつ、当接部11の径方向内側から外側に向けて、第1側壁14fと第2側壁14eとの間隔が徐々に広がるように構成されているので、
図15Aに示すように、エッジ圧力室16fの圧力が圧力室16eの圧力より小さくなり、かつその差圧が大きくなっても、第1隔壁14fと第2隔壁14eとが接触しにくい。よって、エッジ圧力室16fの圧力を精密に調整でき、ウェハWのエッジ部分に対する押圧力も精密に調整できる。
【0140】
また、
図16Bに示す従来例のように、第2隔壁114eと当接部111の上面との接続箇所と当接部111の外周端との間の距離(エッジ押圧幅)が大きいと、
図16Cに示すように、弾性膜10のエッジ部分において細かい範囲で押圧力を制御することができず、縁だれ等の問題が生じ得る。
【0141】
これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、
図16Aに示すように、エッジ圧力室16fを構成する下側の隔壁である隔壁14eと当接部11との接続箇所が当接部11の外周端に近い箇所にあり、隔壁14eが当接部11の外周端部から延びているので、エッジ押圧幅は小さくなり、弾性膜10のエッジ部分において細かい範囲で押圧力を制御できる。
【0142】
また、
図17Bに示す従来例のように、エッジ圧力室116fを構成する側壁115の部分が長いと、エッジ圧力室116fの圧力を上げたときに、
図17Cに示すように、エッジ圧力室116fにおいて側壁115が径方向外側に膨らんで、リテーナリング3に接触して、エッジ部分の押圧力が不安定となって、ウェハWのエッジ部分における研磨レートが不安定になるおそれがある。
【0143】
これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、
図17Aに示すように、ストレート形状の隔壁14fが側壁15に接続されているので、エッジ圧力室16fの圧力が高くなっても、隔壁14fが側壁15の膨らみを抑えるので、側壁15がリテーナリング3に接触しにくくなる。よって、本実施の形態の弾性膜10では、エッジ部分の押圧力が安定し、ウェハWのエッジ部分における研磨レートが安定する。
【0144】
なお、
図23や
図24に示す従来例でも本実施の形態の弾性膜10の隔壁14fに相当する隔壁120gが側壁110hに接続されているが、この隔壁120gは、ストレート形状ではなく屈曲しており、かつ、隔壁120fも屈曲しているので、エッジ圧力室116gの圧力が高くなることで、これらの屈曲部が伸びて平らになることで、側壁110hが径方向外側に膨らみ得る。
【0145】
これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、
図17Aに示すように、側壁15に接続される隔壁14fがストレート形状であるので、この隔壁14fは径方向外側に延びる余地は極めて小さく、側壁15の膨らみを有効に抑制できる。
【0146】
また、
図18Bに示す従来例のように、当接部111の端部の断面が四角になっている場合には、
図18Cに示すように、エッジ圧力室116fの圧力による押圧力は、この四角の幅でウェハWに与えられることになる。そうすると、エッジ部分において狭い範囲でウェハWを押圧することができず、エッジ部分で押圧力の精密な調整ができない。
【0147】
これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、
図18Aに示すように、隔壁14eが当接部11の外周端部に接続されているので、エッジ圧力室16fによるエッジ押圧幅を小さくでき、エッジ部分で押圧力を精密に調整できる。
【0148】
また、
図19Bに示す従来例のように、側壁115に段差がある場合には、その段差にスラリSが溜まりやすくなり、ディフェクトの原因となり得る。これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、
図19Aに示すように、側壁15の外周面が平坦であるので、スラリが溜まることはない。
【0149】
また、
図20Bに示す従来例のように、エッジ圧力室116fを構成する隔壁114eが屈曲しており、これによって、エッジ圧力室116fが屈曲していると、この曲がり角で圧力損失が生じ、このエッジ圧力室116fの端、即ち、当接部111の外周端部まで圧力が行き渡らず、エッジ部分における押圧力を精密に調整することが困難になる。
【0150】
これに対して、本実施の形態の弾性膜10では、
図20Aに示すように、エッジ圧力室16fにとっての流体源である流体ライン73がある径方向内側から、下流側である径方向外側に向けて、第1隔壁14fと第2隔壁14eとの間隔が徐々に広くなり、エッジ圧力室16fが広くなっている。よって、流体の通り道を遮るものがなく、流体がエッジ圧力室16fの全体に行き渡りやすく、エッジ部分で押圧力を精密に調整できる。
【0151】
次に、本実施の形態の弾性膜10の変形例を説明する。
図21Aは、第1の変形例に係る弾性膜の一部を示す拡大断面図である。上記の実施の形態では、エッジ圧力室16fを構成する上側の隔壁14fが側壁15から水平に延びていたが、本変形例の弾性膜10’では、隔壁14f’は、径方向外側から内側に向けて若干上向きに傾斜している。
【0152】
この変形例の構成によっても、第1隔壁14fは、側壁15から径方向内側に向かって延びるストレート形状とされ、第2隔壁14eは、当接部11の外周端部から径方向内側の上方に向かって延びるストレート形状とされ、第1隔壁14fと第2隔壁14eと側壁15とでエッジ圧力室16fが構成されるので、上記と同様の効果を得ることができる。なお、隔壁14fは、隔壁14eと平行ないしそれ以上になるまで、径方向内側にかけて上方に傾いていてもよい。
【0153】
図21Bは、第2の変形例に係る弾性膜の一部を示す拡大断面図である。本変形例の弾性膜10では、
図21Aの構成に加えて、側壁15’の内側に、側壁15’の径方向外側への膨らみを抑制するためのブロック151が形成されている。側壁15’の内側では、ブロック151が周方向に連続することで円環形状をなしていてもよいし、複数のブロック151が周方向に間隔を置いて設けられていてもよい。
【0154】
この変形例の構成によっても、第1隔壁14fは、側壁15から径方向内側に向かって延びるストレート形状とされ、第2隔壁14eは、当接部11の外周端部から径方向内側の上方に向かって延びるストレート形状とされ、第1隔壁14fと第2隔壁14eと側壁15とでエッジ圧力室16fが構成されるので、上記と同様の効果を得ることができる。
【0155】
なお、
図21A及び
図21Bに示した弾性膜の第2隔壁14eは、その基端部において垂直方向に屈曲して基端接続部141eが形成され、この基端接続部141eが当接部11の上面に接続されている。この基端接続部141eの外周面と側壁15の内周面との間の距離(上記のエッジ押圧幅dに相当する)は、1.5~8mm(好ましくは3~6mm)であってよい。
【0156】
このように第2隔壁14eが当接部11の外周端より距離dだけ内側の位置から形成されている場合も、そのような第2隔壁14eは当接部11の外周端部から延びる隔壁に該当する。また、基端接続部141eの長さLは0.5~3.5mm(好ましくは、1~2.5mm程度)であってよい。このような基端接続部141eが形成された第2隔壁14eであっても、隔壁本体55の大部分は直線状に形成されており、直線状に延びる隔壁に該当する。
【0157】
図22は、より明確な距離d及び長さLを有する例を第3の変形例として示す図である。
図22に示す変形例では、基端接続部141eの外周面と側壁15の内周面との間の距離dは5mmであり、基端接続部141eの長さLは3mmである。すなわち、この例では、当接部11の外周端部のごくわずかな(5mm幅の)部分もエッジ圧力室16fを構成している。
【0158】
ウェハWに銅やタングステン等のメタル膜が形成されている場合には、膜付けされている範囲がウェハWの外周から内側に入っており、ウェハWの外周端部に膜が形成されていないことがある。このような場合には、ウェハWの外周端よりも若干内側の部分、即ち膜の外周端部の研磨プロファイルを精密に制御する必要がある。
【0159】
上記のような変形例によれば、距離dをある程度確保することでウェハWに形成された膜の外周端部の研磨プロセスを精密に制御できることになる。また、基端接続部141eを形成することで、第2隔壁14eの基端接続部141e以外の部分の位置及び姿勢を
図6に示した上記の実施の形態の第2隔壁14eと同様にすることができる。
【0160】
すなわち、
図6の第2隔壁14eをそのまま内側に平行移動させると、第2隔壁14eと第3隔壁14dとの間の距離が狭くなってしまうところ、第2隔壁14eの基端部を屈曲させて基端接続部141eを形成することで、第2隔壁14eと第3隔壁14dとの間の距離を上記の実施の形態と同様に保ちつつ、エッジ押圧幅dを確保できる。なお、エッジ押圧幅dが8mm以下であり、かつ長さLが3.5mm以下であれば、上記の実施の形態で説明した作用効果を十分に享受できる。
【0161】
上述した実施の形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施の形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になし得ることであり、本発明の技術的思想は他の実施の形態にも適用し得る。したがって、本発明は、記載された実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従って最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0162】
1 基板保持装置(研磨ヘッド)
2 ヘッド本体
3 リテーナリング
10 弾性膜(メンブレン)
11 当接部
14a、14b、14c、14d、14e、14f 隔壁
15 側壁
16a、16b、16c、16d、16e、16f 圧力室
17 通孔
18 研磨テーブル
19 研磨パッド
23a、23b、23c、23d、23e、23f、23g 連結リング
25 研磨液供給ノズル
27 ヘッドシャフト
32 磁石
34 段差部
36、37 係合溝
40 制御装置
45 第1凹部
46 第2凹部
47 第3凹部
48 第4凹部
49 第5凹部
50 リング垂直部
51e シール溝
54 シール突起
60 リテーナリング押圧機構
671 タイミングプーリ
70 固定具
71 固定具本体
72 鍔
81 上下動機構
82 ロータリジョイント
85 球面軸受
94 ねじ