(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物およびポリアセタール樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 59/02 20060101AFI20220914BHJP
C08G 2/22 20060101ALI20220914BHJP
C08L 59/04 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C08L59/02
C08G2/22
C08L59/04
(21)【出願番号】P 2018242399
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2020-06-01
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】喜来 直裕
(72)【発明者】
【氏名】増田 栄次
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】近野 光知
【審判官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-234923(JP,A)
【文献】特開平1-146958(JP,A)
【文献】特開2011-84702(JP,A)
【文献】特開2005-2362404(JP,A)
【文献】特開2010-59356(JP,A)
【文献】特開2016-204288(JP,A)
【文献】国際公開第2012/49926(WO,A1)
【文献】特開2010-150306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G2/22
C08L59/00-59/04
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモノマーを20モル%以下共重合して得られるポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、少なくともトリオキサン(a)および該トリオキサン100質量部に対して0.01~5質量部の式(1)で表されるシロキサン化合物(b)とを共重合して得られるポリアセタール共重合体(B)を、0.1~100質量部を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
【請求項2】
前記共重合体(B)が、コモノマーとしてさらに、前記トリオキサン100質量部に対して0.01~20質量部の炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(c)を共重合して得られたポリアセタール共重合体(B)である請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表されるシロキサン化合物(b)において、エポキシ基を有する有機基が2-(3,4-
エポキシシクロヘキシル)エチル基である請求項1または2記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表されるシロキサン化合物(b)が下記化合物(b-1)である請求項1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。式(b-1)中、Meはメチル基を表す。
【化2】
【請求項5】
ポリアセタール樹脂(A)がアセタールコポリマーである請求項1~4いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
コモノマーを20モル%以下共重合して得られるポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、少なくともトリオキサン(a)および該トリオキサン100質量部に対して0.01~5質量部の式(1)で表されるシロキサン化合物(b)とを共重合して得られるポリアセタール共重合体(B)を0.1~100質量部を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【化3】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性に優れたポリアセタール樹脂組成物およびそのポリアセタール樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性等において、優れた特性を持っており、主に構造材料や機構部品等として電気機器、自動車部品、精密機械部品等に広く使用されている。しかし、ポリアセタール樹脂が利用される分野の拡大に伴い、要求特性は益々高度化、複合化、特殊化する傾向にある。そのような要求特性として、ポリアセタール樹脂が本来有する優れた摺動性、外観等を維持したまま、剛性改良、ホルムアルデヒドの発生抑制に対し一層の向上が要求される。
【0003】
これに対し、単に剛性を向上させるだけの目的であれば、ポリアセタール樹脂に繊維状フィラー等を充填する方法が一般的であるが、この方法では、繊維状フィラー等の充填による成形品の外観不良や摺動特性の低下等の問題、更には靱性低下の問題がある。
【0004】
また、ポリアセタール共重合体では、コモノマー量を減少させることにより、摺動性や外観を実質的に損なうことなく剛性を向上させることが知られているが、コモノマー減量の手法においては、靱性が低下するのみならずポリマーの熱安定性も低下する等の問題が生じ、必ずしも要求に応え得るものではなかった。
【0005】
分岐構造導入したポリアセタール共重合体を配合した剛性向上も試みられているが(特許文献1)、分岐構造を導入したポリアセタール共重合体の重合の際に、コモノマーの種類によっては、カチオン重合触媒、特にプロトン酸を重合触媒とする場合に、重合開始が遅れ、突然爆発的に重合が起こってしまうことがあり、生産安定性の面からも課題があった。
【0006】
例えば、ポリアセタール共重合体に関して、トリオキサンと、1分子中にグリシジルエーテル基を2個以上有する化合物とを共重合させた共重合体が提案されている(特許文献2)。しかし、グリシジルエーテル基に代表されるエポキシ基とエーテル酸素を官能基として複数個有する化合物を重合に使用する場合、重合安定性に課題が残っている。特にプロトン酸を重合触媒に使用した場合、低触媒量では重合が起こらず、触媒量を上げると、不定期な誘導期ののち、突然激しい重合反応が起こる現象が発生し、重合制御を難しくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭55-019942号公報
【文献】特開2001-163944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械物性のレベルを向上させたポリアセタール樹脂組成物およびそのポリアセタール樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂を基体とし、これにトリオキサンと特定のシロキサン化合物とを共重合したポリアセタール共重合体を配合することにより、従来予知されなかったほどの機械物性の向上が可能であることを見出し、以下の本発明に達した。
【0010】
1.
コモノマーを20モル%以下共重合して得られるポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、少なくともトリオキサン(a)および
該トリオキサン100質量部に対して0.01~5質量部の式(1)で表されるシロキサン化合物(b)とを共重合して得られるポリアセタール共重合体(B)を0.1~100質量部を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
2.前記共重合体(B)が、コモノマーとしてさらに
、前記トリオキサン100質量部に対して0.01~20質量部の炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(c)を共重合して得られたポリアセタール共重合体(B)である前記1記載のポリアセタール樹脂組成物。
3.前記式(1)で表されるシロキサン化合物(b)において、エポキシ基を有する有機基が2-(3,4-
エポキシシクロヘキシル)エチル基である前記1または2記載のポリアセタール樹脂組成物。
4.前記式(1)で表されるシロキサン化合物(b)が下記化合物(b-1)である前記1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。式(b-1)中、Meはメチル基を表す。
【化2】
5.ポリアセタール樹脂(A)がアセタールコポリマーである前記1~4いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
6.コモノマーを20モル%以下共重合して得られるポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、少なくともトリオキサン(a)および
該トリオキサン100質量部に対して0.01~5質量部の式(1)で表されるシロキサン化合物(b)とを共重合して得られるポリアセタール共重合体(B)を0.1~100質量部を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【化3】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械物性のレベルを向上させたポリアセタール樹脂組成物およびそのポリアセタール樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本発明のポリアセタール樹脂組成物はポリアセタール樹脂(A)とトリオキサン(a)および式(1)で表されるシロキサン化合物(b)
【化4】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
および場合により炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(c)を共重合して得られるポリアセタール共重合体(B)、とを含有するポリアセタール樹脂組成物であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の樹脂組成物において、かかるポリアセタール共重合体(B)の配合量は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.1~100質量部であり、好ましくは0.3~100質量部である。
【0015】
<ポリアセタール樹脂(A)>
以下、本発明のポリアセタール樹脂組成物の構成について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物の基体であるポリアセタール樹脂(A)とは、オキシメチレン単位(-CH2O-)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、アセタールホモポリマー(例えば米国デュポン社製、商品名「デルリン」等)、オキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を含有するアセタールコポリマー(例えば、ポリプラスチックス(株)社製、商品名「ジュラコン」等)が含まれる。
本発明において配合するポリアセタール樹脂(A)としては、その熱安定性等の点で特にアセタールコポリマーが好ましい。
【0016】
アセタールコポリマーにおいて、コモノマー単位には炭素数2~6程度(好ましくは、炭素数2~4程度)のオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(-CH2CH2O-)、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等)が含まれる。
【0017】
また、コモノマー単位の含有量は、樹脂の結晶性を大幅に損なわない程度の量、例えば、ポリアセタール重合体の構成単位に占める割合として、一般的には0.01~20モル%、好ましくは、0.03~10モル%、更に好ましくは、0.1~7モル%の範囲から選択できる。
【0018】
アセタールコポリマーは、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマー等であってよい。アセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってよい。
【0019】
また、このようなポリアセタール樹脂(A)の重合度、分岐度や架橋度も特に制限はなく溶融成形可能であればよい。
【0020】
<ポリアセタール共重合体(B)>
本発明のポリアセタール共重合体(B)は、トリオキサン(a)および式(1)で表されるシロキサン化合物(b)
【化5】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
および場合により、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(c)、とを共重合したポリアセタール共重合体(B)である。
【0021】
≪トリオキサン(a)≫
本発明において用いられるトリオキサンとは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。
【0022】
≪式(1)で表されるシロキサン化合物(b)≫
本発明で使用する(b)成分は、式(1)で表されるシロキサン化合物であることを特徴とする。
【化6】
(式(1)中、R
1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基、Xは、R
1またはエポキシ基を有する有機基をそれぞれ表す。ただし複数存在するXのうち2以上はエポキシ基を有する有機基であり、複数存在するR
1、Xはそれぞれ同一であっても異なっても構わない。)
【0023】
R1は炭素数1~6の一価脂肪族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基であり、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ヘプチル基等のアルキル基などの飽和一価脂肪族炭化水素基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基などの不飽和一価脂肪族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基 、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0024】
Xにおいて有機基とは、C、H、N、O原子からなる化合物を表し、エポキシ基含有の有機基の具体例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3―グリシドキシプロピル基が挙げられ、重合反応の安定性の観点から2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基が好ましい。ここで、有機基における炭素数は1~20であることが好ましく、3~15であることがより好ましい。また、炭素数1~5のアルキレン基を介在して2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基であることが、重合の安定性、機械強度の観点から好ましい。
【0025】
式(1)のシロキサン化合物は、公知の文献、例えば特開2010-229324号公報、特開2016-204288号公報等に記載の方法によって製造することができる。これらの製造方法を適用した場合、副生成物としてシロキサン単位が3、5または6単位結合した6員環、10員環または12員環の環状シロキサンが生成することがあるが、それらの存在は本発明のポリアセタール共重合体の製造に対しての影響は少なく、本発明の8員環の環状シロキサンが80質量%以上含有されていればよい。
【0026】
本発明において式(1)のシロキサン化合物を共重合させた場合に重合の制御が容易となる理由について、式(1)の有するシロキサン環構造により共重合反応点であるエポキシ基が分子の比較的外側に固定配置されるため、反応確率が向上するためであると推測している。
【0027】
特に好ましいシロキサン化合物は下記化合物(b-1)である。式(b-1)中、Meはメチル基を表す。
【化7】
【0028】
本発明において、(b)成分は、トリオキサン100質量部に対して0.01~5質量部の範囲となるように使用するのが好ましく、さらに好ましくは0.03~1質量部の範囲である。
【0029】
≪炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(c)≫
本発明のポリアセタール共重合体(B)おいて、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(c)をさらにコモノマーとして用いることも可能である。
本発明の炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物とは、ポリアセタール共重合体の製造においてコモノマーとして一般に使用される化合物である。具体的には、1,3-ジオキソラン、1,3,6-トリオキソカン、1,4-ブタンジオールホルマール等が挙げられる。
【0030】
本発明において、(c)成分は、トリオキサン100質量部に対して0.01~20質量部の範囲となるように使用するのが好ましく、さらに好ましくは0.05~5質量部の範囲である。
【0031】
<ポリアセタール共重合体(B)の製造方法>
本発明のポリアセタール共重合体(B)の製造方法は、トリオキサン(a)、式(1)で表される分子内に2以上のエポキシ基を有する特定の環状シロキサン化合物(b)とを、カチオン重合触媒の存在下、共重合させることを特徴とする。
【0032】
<カチオン重合触媒>
カチオン重合触媒としては、トリオキサンを主モノマーとするカチオン共重合において公知の重合触媒が使用できる。代表的には、プロトン酸、ルイス酸、が挙げられる。
【0033】
≪プロトン酸≫
プロトン酸としては、パーフルオロアルカンスルホン酸、ヘテロポリ酸、イソポリ酸等が挙げられる。
パーフルオロアルカンスルホン酸の具体例として、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸、ペンタデカフルオロへプタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸が挙げられる。
【0034】
ヘテロポリ酸とは、異種の酸素酸が脱水縮合して生成するポリ酸をいい、中心に特定の異種元素が存在し、酸素原子を共有して縮合酸基が縮合してできる単核又は複核の錯イオンを有する。イソポリ酸とは、イソ多重酸、同核縮合酸、同種多重酸とも称され、V価又はVI価の単一種類の金属を有する無機酸素酸の縮合体から成る高分子量の無機酸素酸をいう。
【0035】
ヘテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。特に、重合活性の観点から、ヘテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸から選択されることが好ましい。
【0036】
イソポリ酸の具体例として、パラタングステン酸、メタタングステン酸等に例示されるイソポリタングステン酸、パラモリブデン酸、メタモリブデン酸等に例示されるイソポリモリブデン酸、メタポリバナジウム酸、イソポリバナジウム酸等が挙げられる。中でも、重合活性の観点から、イソポリタングステン酸であることが好ましい。
【0037】
≪ルイス酸≫
ルイス酸としては、例えば、ホウ素、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、具体的には三フッ化ホウ素(およびそのエーテル錯体)、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。
【0038】
重合触媒の量は特に限定されるものでないが、全モノマーの合計に対して0.1ppm以上50ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以上30ppm以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明のポリアセタール共重合体(B)の製造においては、上記成分の他に分子量を調整する成分を併用し、末端基量を調整することができる。分子量を調整する成分としては、不安定末端を形成することのない連鎖移動剤、即ち、メチラール、モノメトキシメチラール、ジメトキシメチラール等のアルコキシ基を有する化合物が例示される。
【0040】
本発明のポリアセタール共重合体(B)の製造方法は、特に限定されるものではない。製造するにあたり、重合装置も特に限定されるものではなく、公知の装置が使用され、バッチ式、連続式等、いずれの方法も可能である。また、重合温度は65℃以上135℃以下に保つことが好ましい。
【0041】
カチオン重合触媒は、重合に悪影響のない不活性な溶剤で希釈して使用することが好ましい。重合後の重合触媒の失活は従来公知の方法で行うことができる。例えば、重合反応後、重合機より排出される生成反応物、重合機中の反応生成物に塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行うこともできる。
【0042】
重合触媒を中和し失活するための塩基性化合物は、特に限定されるものでない。重合及び失活の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0043】
上記のようにして得られるポリアセタール共重合体は、サイズ排除クロマトグラフィーにて決定されたポリメタクリル酸メチル相当の重量平均分子量が10000~500000であることが好ましく、特に好ましくは20000~150000である。また、末端基については、1H-NMRにより検出されるヘミホルマール末端基量(例えば、特開2001-11143公報記載の方法による)が0~4mmol/kgであることが好ましく、特に好ましくは0~2mmol/kgである。
【0044】
ヘミホルマール末端基量を上記範囲に制御するためには、重合に供するモノマー、コモノマー総量中の不純物、特に水分を20ppm以下にするのが好ましく、特に好ましくは10ppm以下である。
<その他成分>
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて選択される公知の各種安定剤を配合するのが好ましい。ここで用いられる安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。
【0045】
更に、本発明を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば耐候(光)安定剤、染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種または2種以上添加することができる。
【0046】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造法>
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造には、溶融混練処理装置が使用される。溶融混練処理装置については特に限定されないが、溶融したポリアセタール樹脂およびポリアセタール共重合体を混練する機能を有し、好ましくはベント機能を有するものであり、例えば、少なくとも1つのベント孔を有する単軸又は多軸の連続押出し混練機、コニーダー等が挙げられる。溶融混練処理は、ポリアセタール樹脂およびポリアセタール共重合体の融点以上260℃までの温度範囲が好ましい。260℃より高いと重合体の分解劣化が生じ好ましくない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で使用したポリアセタール樹脂(A)およびポリアセタール共重合体(B)は以下の通りである。
【0048】
<ポリアセタール樹脂(A)>
ポリアセタール樹脂(A)は、次のようにして調製した。
二軸パドルタイプの連続式重合機にトリオキサン(TOX)96.7質量%と1,3-ジオキソラン(DO)3.3質量%と800ppmのメチラールの混合物を連続的に供給し、触媒として三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート(ジブチルエーテル溶液)を20ppm(三フッ化ホウ素として)添加し重合を行った。
重合機吐出口より排出された重合体は、直ちにトリエチルアミン1000ppm含有水溶液を加えて粉砕、攪拌処理を行うことにより触媒の失活を行った。次いで、遠心分離により重合体を回収し、乾燥を行うことによりポリアセタール樹脂(A)を得た。
【0049】
<ポリアセタール共重合体(B)>
ポリアセタール共重合体(B)は、次のようにして調製した。
熱媒を通すことのできるジャケットと撹拌羽根を有する密閉オートクレーブ中に300gのトリオキサンを入れ、さらに(b)成分として表1に記載の化合物、場合により(c)成分として1,3-ジオキソラン(DO)またはブタンジオールホルマール(BDF)を、それぞれ表1に示した質量部の割合になるように添加した。これら内容物を撹拌し、ジャケットに80℃の温水を通して内部温度を80℃に保った後、触媒溶液(リンタングステン酸(PWA)はギ酸メチルの溶液、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート(BF
3OBu
2)はジブチルエーテル溶液)を表1に示す触媒濃度(対全モノマー)になる様に加えて重合を開始した。なお、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート使用の場合、その触媒濃度は、三フッ化ホウ素としての濃度を示した。
実施例で用いた(b)成分は下記(b-1)である。式(b-1)中、Meはメチル基を表す。
【化8】
【0050】
5分後にこのオートクレーブへトリエチルアミン0.1%を含む水300gを加えて反応を停止し、内容物を取り出して200メッシュ以下に粉砕し、アセトン洗浄及び乾燥後、ポリアセタール共重合体を得た。
【0051】
比較として下記ジグリシジル化合物(X-1およびX-2)を本発明の(b-1)成分に替えて重合に用い、比較のポリアセタール共重合体を得た。
【0052】
X-1: ブタンジオールジグリシジルエーテル
【化9】
X-2:トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル
【化10】
【0053】
<実施例および比較例>
表1に示す各種成分を表1に示す割合で添加混合し、ベント付き二軸の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。
なお、全ての試料において、溶融混錬の際に(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対してエチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert―ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](BASFジャパン社製 IRGANOX245)0.35質量部とメラミン 0.08質量部を添加した。
【0054】
なお、X-1またはX-2を用いた比較例4および5では、ポリアセタール共重合体(B)に関し、表1記載の条件では、他の重合条件は実施例と同一にしても、重合反応は観測されなかったため、組成物の評価を行わなかった。
【0055】
<評価>
実施例における特性評価項目及び評価方法は以下の通りである。
<引張強度>
ISO527-1、2に準拠し、ISO Type1A試験片の引張強度の測定を行った。測定室は、23℃50%RHの雰囲気を保持した。
<曲げ強度および曲げ弾性率>
ISO178に準拠し、曲げ弾性率の測定を行った。測定室は、23℃50%RHの雰囲気を保持した。
【表1】
【0056】
表1から、本発明の組成物において、機械物性(引張強度、曲げ弾性率)に優れていることがわかる。