(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】真空ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04C 25/02 20060101AFI20220914BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
F04C25/02 B
F04C25/02 K
F04C29/00 G
(21)【出願番号】P 2018247321
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-04-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】長山 真己
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00809443(GB,A)
【文献】国際公開第2010/061939(WO,A1)
【文献】実開昭52-139413(JP,U)
【文献】特表2006-504033(JP,A)
【文献】特開2009-097349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 25/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮により固形物となる可能性があるガスを排気する真空ポンプ装置であって、
互いに対向して配置され、かつルーツロータまたはクローロータである、一対のポンプロータと、
前記一対のポンプロータが収容されるポンプケーシングと、
前記一対のポンプロータが固定された、鉛直方向に延びる一対の軸と、
前記一対のポンプロータを回転させるモータと、
前記モータに電気的に接続された運転制御装置と、
前記一対の軸に固定され、かつ互いに噛み合う一対のタイミングギヤと、
前記一対のポンプロータの上方に配置された、前記軸の軸線方向への移動が制限された固定側軸受と、
前記固定側軸受とともに、前記軸を支持する、前記軸の軸線方向への移動が可能な自由側軸受と、を備え、
前記ポンプケーシングは、前記ポンプケーシングに収容された前記一対のポンプロータとの間に、前記軸の軸線方向に対して垂直な方向における横方向隙間を形成して
おり、
前記運転制御装置は、前記モータの起動および停止を繰り返すことによって、前記真空ポンプ装置の運転を完全に停止する前に、かつ前記モータが駆動できなくなる程に前記軸の上方向への圧縮力が大きくなる前に、前記ポンプロータの回転および停止動作を実行する、真空ポンプ装置。
【請求項2】
前記モータは、前記一対のポンプロータの上方に配置されている、請求項1に記載の真空ポンプ装置。
【請求項3】
前記運転制御装置は、所定の時間間隔で、前記モータの起動および停止を繰り返す、請求項
1に記載の真空ポンプ装置。
【請求項4】
前記真空ポンプ装置は、前記ポンプケーシングの外面に取り付けられた温度センサを備えており、
前記運転制御装置は、前記温度センサによって測定された前記ポンプケーシングの温度変化に基づいて、前記モータの起動および停止を繰り返す、請求項
1に記載の真空ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造および/または有機EL・液晶などのフラットパネル製造に用いられる真空ポンプ(例えば、プロセスガスの排気用の真空ポンプ、大排気速度真空ポンプなど)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、半導体製造および/またはフラットパネル製造においては、半導体の高性能化および/またはパネルの大型化に伴い、プロセスチャンバ内に導入するプロセスガスの流量が増加しているが、このような現状においても、プロセスチャンバ内の圧力をある一定の圧力に保持する必要がある。
【0005】
上記必要性から、プロセスガスを排気する真空ポンプとして、排気速度の大きい真空ポンプが求められ、真空ポンプのサイズも大型化している。しかしながら、真空ポンプの大型化により、半導体製造工場および/またはフラットパネル製造工場における真空ポンプ装置の設置スペースが増加し、設置スペースの確保が問題となっている。
【0006】
設置スペースを小さくするために、縦置きの真空ポンプ装置を採用することが考えられる。しかしながら、特許文献1のように、固定側軸受をポンプロータに対し下側に配置した場合には、排気するガスの凝縮により生成された固形物が、ポンプロータとポンプケーシングの隙間に付着・堆積し、更に、ポンプ停止時には、真空ポンプ装置温度が下がることで、ポンプロータがこの固形物を過度に圧縮し、その結果、ポンプロータの回転が阻害され、真空ポンプ装置が再起動することができないおそれがある。
【0007】
そこで、真空ポンプ装置の設置スペースを小さくすることができ、かつ確実に再起動することができる真空ポンプ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、互いに対向して配置され、かつルーツロータまたはクローロータである、一対のポンプロータと、前記一対のポンプロータが固定された、鉛直方向に延びる一対の軸と、前記一対のポンプロータを回転させるモータと、前記一対の軸に固定され、かつ互いに噛み合う一対のタイミングギヤと、前記一対のポンプロータの上方に配置された固定側軸受と、前記固定側軸受とともに、前記軸を支持する自由側軸受と、を備えている、真空ポンプ装置が提供される。
【0009】
一態様では、前記モータは、前記一対のポンプロータの上方に配置されている。
一態様では、前記真空ポンプ装置は、前記モータに電気的に接続された運転制御装置を備えており、前記運転制御装置は、前記モータの起動および停止を繰り返すことによって、前記真空ポンプ装置の運転を完全に停止する前に、前記ポンプロータの回転および停止動作を実行する。
【0010】
一態様では、前記運転制御装置は、所定の時間間隔で、前記モータの起動および停止を繰り返す。
一態様では、前記真空ポンプ装置は、前記一対のポンプロータが収容されるポンプケーシングと、前記ポンプケーシングの外面に取り付けられた温度センサと、を備えており、前記運転制御装置は、前記温度センサによって測定された前記ポンプケーシングの温度変化に基づいて、前記モータの起動および停止を繰り返す。
【発明の効果】
【0011】
縦置きで配置された真空ポンプ装置の運転を停止した場合、軸は、その温度低下により、ポンプロータの上方に配置された固定側軸受を基準に、上方向に収縮する。したがって、ポンプロータの下面とポンプケーシングとの間の横方向隙間が大きくなり、ポンプロータは、固形物を押しつぶさない。結果として、真空ポンプ装置の再起動は阻害されない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】真空ポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】軸受装置の内部で循環する潤滑油を示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、接触シールを示す図である。
【
図8】真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、縦置きの真空ポンプ装置に生じうる問題を説明するための図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、
図8に示す実施形態における真空ポンプ装置の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下で説明する図面において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0014】
図1は、真空ポンプ装置1の一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、真空ポンプ装置1は、直立姿勢に配置された立型真空ポンプ装置である。
図1に示す実施形態では、真空ポンプ装置1は、フロアFL上に載置されている。真空ポンプ装置1は、高速で回転するポンプ装置である。真空ポンプ装置1は、その設置スペースを小さくするために、縦置きで配置されている。
【0015】
真空ポンプ装置1は、互いに対向して配置された一対のポンプロータ(本実施形態では、ルーツロータ)6a,6b,6c,6dと、これらポンプロータ6a~6dが固定される一対の軸(駆動軸)8と、ポンプロータ6a~6dが収容されるポンプケーシング5と、軸8を介してポンプロータ6a~6dを回転させるモータ10とを備えている。
【0016】
図1に示す実施形態では、ポンプロータ6a~6dの構造は、ルーツロータには限定されない。ポンプロータ6a~6dは、クローロータであってもよく、またはスクリューロータであってもよい。
【0017】
真空ポンプ装置1は、気体を吸気するための吸気ポート2と、気体を排出するための排気ポート4とを備えている。真空ポンプ装置1の運転により、気体は、吸気ポート2を通って真空ポンプ装置1の内部に吸い込まれ、排気ポート4から排出される(
図1の矢印参照)。吸気ポート2および排気ポート4は、ポンプケーシング5に設けられている。
【0018】
ポンプケーシング5は、その内部に形成された気体流路35を有している。ポンプロータ6a~6dによって圧縮された気体は、気体流路35を通って排気ポート4から排出される。
【0019】
図1では、一対のポンプロータ6a~6dのうちの一方のみが描かれており、反対側のポンプロータの図示は省略されている。一対の軸8のうちの一方のみが描かれており、反対側の軸の図示は省略されている。
図1では、ポンプロータの段数は4段であるが、ポンプロータの段数は、本実施形態には限定されない。ポンプロータの段数は、求められる真空度や排気ガス流量などに応じて適宜選定することができる。一実施形態では、1段のポンプロータが設けられてもよい。
【0020】
真空ポンプ装置1は、真空ポンプ装置1の運転を制御する運転制御装置12を備えている。運転制御装置12は、モータ10に電気的に接続されている。運転制御装置12は、モータ10の駆動および停止によってポンプロータ6a~6dの回転および停止動作を制御するように構成されている。
【0021】
軸8は、鉛直方向に延びており、軸受13および軸受装置15(より具体的には、軸受装置15に設けられた軸受20,21)によって回転自在に支持されている。軸受13は、軸8の一端部分(すなわち、下端部分)に配置されており、軸受装置15(より具体的には、軸受20,21)は、軸8の他端部分(すなわち、上端部分)に配置されている。
【0022】
軸8の一端部分には、互いに噛み合うタイミングギヤ25が設けられており、これらタイミングギヤ25は、軸受13とともにギヤカバー26内に収容されている。なお、
図1では、一対のタイミングギヤ25のうちの一方のみが描かれている。
図1に示す実施形態では、タイミングギヤ25は、ポンプロータ6a~6dの下方に配置されている。一実施形態では、ポンプロータ6a~6dの上方に配置されてもよい。
【0023】
モータ10は、2つの軸8のうちの少なくとも一方に固定されたモータロータ30と、コイルが巻かれたステータコアを有するモータステータ31と、これらモータロータ30およびモータステータ31を収容するモータフレーム32とを備えている。モータステータ31は、モータロータ30を囲むように配置されており、モータフレーム32の内周面に固定されている。
【0024】
モータ10が駆動すると、タイミングギヤ25を介して一対のポンプロータ6a~6dが互いに反対方向に回転し、気体が吸気ポート2を通じてポンプケーシング5の内部に吸い込まれる。吸い込まれた気体は、ポンプロータ6a~6dによって下流側に移送され、排気ポート4から排出される。
【0025】
真空ポンプ装置1は、高速で回転するポンプ装置であり、縦置きで配置されている。したがって、真空ポンプ装置1に設けられる軸受装置も縦置きで配置する必要がある。しかしながら、一般的な構造を有する軸受装置を高速運転が可能な真空ポンプ装置1にそのまま採用すると、軸受20,21のそれぞれを潤滑および冷却するための潤滑油が軸受20,21に十分に供給されないおそれがある。この場合、各軸受20,21は、その機能を十分に発揮することができない。そこで、本実施形態では、真空ポンプ装置1は、軸受20,21の機能を十分に発揮することができる構造を有する軸受装置15を備えている。以下、軸受装置15の構造について、図面を参照して説明する。
【0026】
図2は、軸受装置15の一実施形態を示す断面図である。軸受装置15は、潤滑油が軸受装置15の内部で循環する油循環型の軸受装置である。
図3は、軸受装置15の内部で循環する潤滑油を示す図である。
図3では、図面を見やすくするために、符号の図示は省略されている。
図3において、潤滑油の流れは、矢印で表されている。
【0027】
図2に示すように、軸受装置15は、鉛直方向に延びる軸8を支持する軸受20,21と、軸受20,21を収容する軸受ハウジング40と、軸8に固定可能な回転円筒45と、軸受20,21、軸受ハウジング40、および回転円筒45を収容する軸受ケーシング46と、を備えている。
【0028】
軸受20,21は、鉛直方向において、直列に配置されている。軸受20,21は、軸8のスラスト荷重およびラジアル荷重を受ける軸受である。軸受ハウジング40は、軸受20,21を収容しており、軸8および軸受20,21と同心状に配置されている。本実施形態では、2つの軸受20,21が設けられているが、軸受の数は本実施形態には限定されない。一実施形態では、単一の軸受が設けられてもよい。
【0029】
軸受20の上方には、軸8に装着されたスペーサ41と、スペーサ41を介して軸8に固定された固定具(例えば、軸ナット)42が配置されている。これらスペーサ41および固定具42は、軸受20,21に作用するスラスト荷重(軸8の軸線方向CLにおける荷重)を受け止める。より具体的には、スペーサ41は軸受20の内輪に密着しており、固定具42は、スペーサ41を介して、軸受20の軸線方向CLへの移動を制限している。
【0030】
回転円筒45は、軸受21(言い換えれば、軸受ハウジング40)の下方に配置されている。回転円筒45は、軸受21の内輪に密着しており、軸受21の軸線方向CLへの移動を制限している。
【0031】
固定具42の上方には、軸8に固定されたシール部材43が配置されている。シール部材43は、軸受ケーシング46内に配置された潤滑油の外部への漏洩を防止する部材である。潤滑油は、軸受20,21を潤滑および冷却するための液体である。
【0032】
軸受ケーシング46は、ポンプケーシング5に接続され、かつ潤滑油を貯留するサイドカバー50と、サイドカバー50の上方に配置され、軸受装置15の上端部を構成するケース部材51と、サイドカバー50とケース部材51との間に配置された軸受サポート部材52とを備えている。軸受サポート部材52は、サイドカバー50とケース部材51との間に挟まれている。
【0033】
サイドカバー50は、その中央に軸8が貫通する貫通穴50aを有しており、軸8の外周面と貫通穴50aとの間には、2つのピストンリング55が配置されている。ピストンリング55のそれぞれは、軸8に装着されており、鉛直方向において、直列に配置され、潤滑油の外部への漏洩を防止する。
【0034】
サイドカバー50は、軸8に隣接して配置された環状の内周壁56と、内周壁56の半径方向外側に配置された環状の外周壁57と、内周壁56と外周壁57との間に配置された底壁58とを備えている。潤滑油は、内周壁56、外周壁57、および底壁58によって保持されている。
【0035】
軸受ケーシング46の外周面、より具体的には、サイドカバー50の外周壁57には、水冷ジャケット90が取り付けられている(
図1および
図2参照)。水冷ジャケット90は、冷却水が循環する構造を有しており、サイドカバー50に保持された潤滑油を、サイドカバー50を通じて冷却する。
【0036】
底壁58は、上側のピストンリング55と下側のピストンリング55との間の空間に連通する連通穴59を有している。連通穴59は、上側のピストンリング55と下側のピストンリング55との間の空間に軸シール用ガス(例えば、N2ガスなどの不活性ガス)を供給するための穴である。
【0037】
内周壁56は、貫通穴50aに接続されており、内周壁56の上端は、サイドカバー50によって保持された潤滑油の液面よりも高い位置に配置されている。このような配置により、内周壁56の越流によって潤滑油の外部への漏洩が抑制される。
【0038】
軸8が回転すると、軸8に固定された回転円筒45も軸8とともに回転し、サイドカバー50に保持された潤滑油は、回転する回転円筒45によってサイドカバー50の上方にかき上げられる(
図3参照)。以下、回転円筒45の構造について、図面を参照して説明する。
【0039】
図4は、回転円筒45を示す斜視図である。
図5は、回転円筒45の拡大図である。なお、
図5では、水冷ジャケット90の図示は省略されている。
図4および
図5に示すように、回転円筒45は、その外周面45aに形成された2つのスロープ70を備えている。
図4では、一方のスロープ70のみが描かれている。
【0040】
2つのスロープ70は、回転円筒45の円周方向に沿って等間隔に配置されている。スロープ70は、回転円筒45の外周面45aと外周壁57の内面との間の隙間に配置されている。本実施形態では、2つのスロープ70が設けられているが、スロープ70の数は本実施形態には限定されない。一実施形態では、3つ以上のスロープ70が設けられてもよい。この場合であっても、複数のスロープ70は、回転円筒45の円周方向に沿って、等間隔に配置されている。
【0041】
回転円筒45は、軸8に固定可能な内側円筒部71と、内側円筒部71の外側に配置された外側円筒部72と、内側円筒部71および外側円筒部72を連結する環状リング部73とを備えている。内側円筒部71および外側円筒部72は、軸8と同心状に配置されている。
【0042】
内側円筒部71は、軸受21の下方に配置されており、外側円筒部72は、軸受21の半径方向外側に配置されている。外側円筒部72の高さは、内側円筒部71の高さよりも高い。本実施形態では、内側円筒部71、外側円筒部72、および環状リング部73は、一体成形部材である。
【0043】
回転円筒45の外周面45aは、外側円筒部72の外周面に相当する。したがって、スロープ70は、外側円筒部72の外周面に設けられている、と表現されてもよい。
【0044】
本実施形態では、スロープ70の上端部70aは、回転円筒45の上端45bに接続されており、スロープ70の下端部70bは、回転円筒45の下端45cに接続されている。スロープ70の上端部70aと下端部70bとの間には、すくい上げ面70cが形成されている。スロープ70は、回転円筒45の回転方向において、上端部70a(すなわち、上端45b)から下端部70b(すなわち、下端45c)に向かって斜め下方に延びる湾曲形状を有している。言い換えれば、スロープ70は、軸線方向CLに対して傾斜している。
【0045】
回転円筒45が軸8とともに回転すると、スロープ70は、軸8の中心周りに回転する。スロープ70が回転すると、すくい上げ面70cは、回転円筒45の回転方向に進行し、サイドカバー50に貯留された潤滑油をすくい上げる。すくい上げられた潤滑油は、回転円筒45の外周面45aと外周壁57との間の環状の隙間を斜め上方向に移動する。
【0046】
図2に示すように、サイドカバー50の外周壁57の上端は、軸8に固定された回転円筒45よりも高い位置に配置されている。軸受サポート部材52は、水平方向に延びており、外周壁57の上端に接続されている。軸受サポート部材52は、軸受ハウジング40を支持しており、軸受ハウジング40を介して、軸受20,21に作用するラジアル荷重(軸8の軸線方向CLに垂直な方向における荷重)およびスラスト荷重(軸8の軸線方向CLに水平な方向における荷重)を受け止める。
【0047】
軸受サポート部材52は、スロープ70によってすくい上げられた潤滑油が通過可能な2つの流通穴52aを有している。2つの流通穴52aは、軸受サポート部材52の円周方向において、等間隔に配置されている。本実施形態では、2つの流通穴52aが設けられているが、流通穴52aの数は本実施形態には限定されない。
【0048】
ケース部材51は、軸受サポート部材52に接続されている。回転円筒45によってかき上げられた潤滑油は、軸受サポート部材52の流通穴52aを通ってケース部材51まで到達する。ケース部材51に到達した潤滑油は、ケース部材51の上端壁51aに衝突し、潤滑油の方向が転換されて、軸受20,21に導かれる。
【0049】
ケース部材51の上端壁51aは、回転円筒45および軸受20,21の上方に配置されており、潤滑油をスムーズに軸受20,21にまで導くテーパー形状を有している。より具体的には、上端壁51aは、その内面に形成された湾曲部60と、湾曲部60に接続されたテーパー部61とを有している。テーパー部61は、上端壁51aから軸受ハウジング40に向かって延びる突起であり、シール部材43に隣接して配置されている。
【0050】
テーパー部61は、湾曲部60から軸受ハウジング40に向かうにつれて、徐々にテーパー部61の断面積が小さくなるテーパー形状を有しており、テーパー部61の最下端は、軸受ハウジング40の上方に配置されている。上端壁51aは、上端壁51aに衝突した潤滑油の方向をスムーズに転換し、潤滑油を軸受20,21に導くことができる(
図3参照)。
【0051】
軸受ハウジング40は、ハウジング本体64と、ハウジング本体64の上端に配置された受け皿65を備えている。
図6は、受け皿65の拡大図である。受け皿65は、上端壁51aに衝突して方向が転換された潤滑油を受け止めつつ、潤滑油を軸受20,21に導く。受け皿65は、その中央に形成された貫通穴65aと、貫通穴65aに接続された内側環状突起66と、内側環状突起66の外側に配置された外側環状突起67と、内側環状突起66および外側環状突起67を接続する接続部位68とを有している。
【0052】
内側環状突起66および外側環状突起67は、軸8と同心状に配置されている。内側環状突起66は、接続部位68から下方に、すなわち、軸受20に向かって延びており、外側環状突起67は、接続部位68から上方に、すなわち、上端壁51aに向かって延びている。
【0053】
内側環状突起66は、軸受20の外輪に密着しており、軸受20の軸線方向CLへの移動を制限している。軸受ハウジング40のハウジング本体64は、軸受21の外輪に密着しており、軸受21の軸線方向CLへの移動を制限している(
図2参照)。
【0054】
このように、軸受20,21は、固定具42、軸受ハウジング40、および回転円筒45によって、軸受20,21の軸線方向CLへの移動が制限された固定側軸受である。ポンプロータ6a~6dを挟んで軸受20,21の反対側に配置された軸受13は、軸線方向CLへの移動が可能な自由側軸受である。固定側軸受である軸受20,21は、ポンプロータ6a~6dの上方に配置されており、自由側軸受である軸受13は、ポンプロータ6a~6dの下方に配置されている。
【0055】
外側環状突起67は、上端壁51aのテーパー部61よりも軸8から離間した位置に配置されている(
図2参照)。したがって、外側環状突起67は、テーパー部61から受け皿65上に落下した潤滑油が受け皿65の外側に流れることを防止することができる。受け皿65上に落下した潤滑油は、貫通穴65aとスペーサ41との間の隙間を通って軸受20,21に接触し、結果として、軸受20,21を潤滑および冷却する。
【0056】
軸受20,21に接触した潤滑油は、軸受20,21を通過して、回転円筒45上に落下する(
図3参照)。より具体的には、潤滑油は、内側円筒部71、外側円筒部72、および環状リング部73によって保持される。
【0057】
回転円筒45に保持された潤滑油には、回転円筒45の回転による遠心力が作用する。潤滑油は、ハウジング本体64と外側円筒部72との間の隙間を通って、回転円筒45の外周面45aと外周壁57との間の環状の隙間に流入する。その後、潤滑油は、再び、スロープ70によってかき上げられる。
【0058】
このように、軸受装置15は、その内部に、潤滑油の循環流(すなわち、潤滑油の上昇流および下降流)を形成することができる。循環する潤滑油は、軸受20,21に接触して、軸受20,21を潤滑および冷却することができる。結果として、軸受20,21のそれぞれは、その機能を十分に発揮することができる。
【0059】
図2および
図5に示すように、回転円筒45は、軸受21の一部を取り囲むように配置されている。外側円筒部72の上端は、軸受21の転動体21aの下端よりも高い位置に配置されている。好ましくは、外側円筒部72の上端は、転動体21aの中央と同じ位置に配置されている。このような構造により、真空ポンプ装置1の運転停止時において、軸受21の転動体21aは、常に回転円筒45に保持された潤滑油に接触する。したがって、真空ポンプ装置1は、軸受21を無潤滑状態にすることなく、真空ポンプ装置1の運転を再開することができる。
【0060】
潤滑油の循環流を形成する構造を有する軸受装置15による効果について、説明する。軸受を常に潤滑油中に浸漬させた状態で真空ポンプ装置を運転させる構成が考えられる。しかしながら、このような構成の場合、真空ポンプ装置の運転時において、軸受は、潤滑油中で回転するため、潤滑油の攪拌熱による軸受の温度上昇が大きく、軸受が破損するおそれがある。したがって、高速で回転(例えば、4000min-1)する真空ポンプ装置1に採用することは望ましくない。
【0061】
本実施形態によれば、軸受装置15は、スロープ70によって潤滑油を循環させるように構成されている。したがって、軸受20,21は、潤滑油の攪拌熱による影響を受けることなく、潤滑油によって潤滑および冷却される。結果として、軸受20,21のそれぞれは、その機能を十分に発揮することができる。
【0062】
本実施形態によれば、真空ポンプ装置1は、潤滑油を確実に軸受20,21に接触させて、軸受20,21の機能を十分に発揮することができる軸受装置15を備えている。したがって、縦置きで配置される真空ポンプ装置1は、問題なく、運転することができる。結果として、真空ポンプ装置1の設置スペースを小さくすることができ、かつ真空ポンプ装置1の大排気速度での運転を実現することができる。
【0063】
真空ポンプ装置1は、縦置きで配置されているため、軸受装置15内の潤滑油には、重力が作用する。更に、真空ポンプ装置1の運転時には、プロセスチャンバ側から流入するガス流量が変化もしくは停止すると、ポンプ室内圧力も変化するため、軸受室内圧力との間に圧力差が生じ、両者の間において、圧力の高い側から低い側へガスが移動する。特に、大流量のガスを排気し、ポンプ室内圧力および軸受室内圧力が高くなっている状態で、プロセスチャンバ側からのガス流入が一気に停止すると、ポンプ室内圧力は一気に低下し、軸受室側との間に大きな圧力差が生じるため、軸受室側からポンプ室側へ大流量のガスが流れ、この流れに乗り、潤滑油(霧状の潤滑油および液状の潤滑油)が外部(ポンプ室側)に漏洩するおそれがある。
【0064】
潤滑油が漏洩すると、軸受装置15内の潤滑油量が減るため、軸受20,21への潤滑油供給量が減り、軸受破損につながるおそれがあるばかりでなく、漏洩した潤滑油がポンプ室を経由してプロセスチャンバ側へ逆流し、ウェーハ汚染の原因となるおそれもある。そこで、軸受装置15は、潤滑油の漏洩を確実に防止することができる構造を有している。
【0065】
図5に示すように、回転円筒45は、その下面からサイドカバー50の底壁58(すなわち、下方)に延びる複数の下向きリブ75,76,77を備えている。これら下向きリブ75,76,77のそれぞれは、円筒形状を有しており、軸8と同心状に配置されている。以下、本明細書において、下向きリブ75を内側下向きリブ75と呼ぶことがあり、下向きリブ76を中間側下向きリブ76と呼ぶことがあり、下向きリブ77を外側下向きリブ77と呼ぶことがある。
【0066】
内側下向きリブ75および中間側下向きリブ76は、環状リング部73の下面から下方に延びており、外側下向きリブ77は、外側円筒部72の下面から下方に延びている。
【0067】
サイドカバー50は、その底壁58から回転円筒45の下面(すなわち、上方)に向かって延びる複数の上向きリブ80,81を備えている。上向きリブ80,81のそれぞれは、円筒形状を有しており、軸8と同心状に配置されている。以下、本明細書において、上向きリブ80を内側上向きリブ80と呼ぶことがあり、上向きリブ81を外側上向きリブ81と呼ぶことがある。
【0068】
内側上向きリブ80は、潤滑油の通過を許容する通過部(すなわち、油通過部)80aを有している。本実施形態では、2つの通過部80aが設けられているが、通過部80aの数は、本実施形態には限定されない。また、外側上向きリブ81にも、潤滑油の通過を許容する通過部(すなわち、油通過部)81aが形成されている。本実施形態では、2つの通過部81aが設けられているが、通過部81aの数は、本実施形態には限定されない。潤滑油は、通過部80aおよび通過部81aを通過可能である。通過部80aは、内周壁56と内側上向きリブ80との間に存在する潤滑油の液面の高さと、内側上向きリブ80と外側上向きリブ81との間に存在する潤滑油の液面の高さとを同じにするための穴である。また、通過部81aは、内側上向きリブ80と外側上向きリブ81との間に存在する潤滑油の液面の高さと、外側上向きリブ81と回転円筒45の外側下向きリブ77との間に存在する潤滑油の液面の高さとを同じにするための穴である。
【0069】
通過部80aは、内側上向きリブ80と内側下向きリブ75との間の隙間を通過した潤滑油を内側上向きリブ80と外側上向きリブ81との間の空間に戻す戻り流路である。一実施形態では、通過部80aは、内側上向きリブ80の下部に形成された穴であってもよい。他の実施形態では、通過部80aは、内側上向きリブ80の下端に形成された切り欠きであってもよい。また、通過部81aは、後述する圧力調整穴74を通過した潤滑油や、通過部80aから戻ってきた潤滑油で軸受20,21を潤滑するために、回転円筒45の外周面45aと軸受ケーシング46の内面との間の空間に戻す戻り流路である。一実施形態では、通過部81aは、外側上向きリブ81の下部に形成された穴であってもよい。他の実施形態では、通過部81aは、外側上向きリブ81の下端に形成された切り欠きであってもよい。
【0070】
本実施形態では、外側下向きリブ77は、内側下向きリブ75および中間側下向きリブ76よりも下方に延びている。内側下向きリブ75の下端75aおよび中間側下向きリブ76の下端76aは、同じ高さに配置されている。内側下向きリブ75の下端75aおよび中間側下向きリブ76の下端76aは、サイドカバー50に保持された潤滑油の上方に配置されており、外側下向きリブ77の下端77aは、サイドカバー50に保持された潤滑油中に浸漬されている。回転円筒45の下端45cは、外側下向きリブ77の下端77aに相当する。
【0071】
回転円筒45は、その外側円筒部72に形成された鉛直方向に延びる圧力調整穴74を有している。本実施形態では、2つの圧力調整穴74が設けられているが、圧力調整穴74の数は本実施形態には限定されない。一実施形態では、1つの圧力調整穴74が設けられてもよい。
【0072】
上述したように、外側下向きリブ77の下端77aは、潤滑油中に浸漬されている。したがって、圧力調整穴74が設けられていない場合には、回転円筒45の上方の空間(第1空間SP1)と回転円筒45の下方の空間、言い換えれば、外側下向きリブ77によって囲まれた空間(第2空間SP2)との間では、潤滑油により、ガスの通行が遮断される。そのため、例えば、真空ポンプ装置1の停止中では、第1空間SP1および第2空間SP2は共に大気圧となっているが、真空ポンプ装置1が起動すると、ポンプ室側の圧力が低くなるため、第2空間SP2の圧力は低くなるが、第1空間SP1の圧力は大気圧のままであるため、両者の間に圧力差が生じる。その結果、第1空間SP1のガスが膨張し、回転円筒45の外周面45aと軸受ケーシング46の内面との間の潤滑油の液面を押すことで、第2空間SP2の潤滑油の液面が上昇し、潤滑油が内周壁56を越流するおそれがある。本実施形態では、圧力調整穴74を設けることで、第1空間SP1と第2空間SP2とを連通させることができるため、第1空間SP1の圧力と第2空間SP2の圧力は常に同じである。したがって、外側下向きリブ77の内側の潤滑油の液面の上昇が防止される。
【0073】
内側下向きリブ75は、内周壁56の半径方向外側に配置されている。内側上向きリブ80は、内側下向きリブ75の半径方向外側に配置されている。中間側下向きリブ76は、内側上向きリブ80の半径方向外側に配置されている。外側上向きリブ81は、中間側下向きリブ76の半径方向外側に配置されている。外側下向きリブ77は、外側上向きリブ81の半径方向外側に配置されている。
【0074】
このように、下向きリブ75,76,77および上向きリブ80,81は、交互に配置されており、ラビリンス構造を有している。より具体的には、内側下向きリブ75、内側上向きリブ80、中間側下向きリブ76、外側上向きリブ81、および外側下向きリブ77は、内周壁56から外周壁57に向かって、この順に、配列されている。
【0075】
真空ポンプ装置1がプロセスガスを排出した直後など、軸受ケーシング46内の空間とポンプケーシング5内の空間との間に(軸受ケーシング46内の空間圧力の方がポンプケーシング5内の空間圧力よりも高い)圧力差が発生すると、軸受ケーシング46内の空間の気体は、ポンプケーシング5に向かって上記ラビリンス構造部分をジグザグに進行するが、その気体の流れに乗った潤滑油(霧状の潤滑油および液状の潤滑油)については、下向きリブ75,76,77および上向きリブ80,81との間に形成されたジグザグの進路により、その自重のために、気体の流れから振り切られ、ポンプケーシング5への進行が遮断される。したがって、軸受装置15は、潤滑油のポンプケーシング5への漏洩を確実に防止することができる。
【0076】
図7(a)および
図7(b)は、接触シールを示す図である。
図7(a)に示すように、潤滑油の漏洩防止をより確実にするために、接触シール(第1接触シール)85を回転円筒45の内側下向きリブ75とサイドカバー50の内周壁56との間に配置してもよい。
図7(b)に示すように、接触シール(第2接触シール)86を軸8とサイドカバー50の内周壁56との間に配置してもよい。図示しないが、軸受装置15は、接触シール85,86の両方を備えてもよい。接触シール85,86として、公知の接触シールを採用することができる。
【0077】
図8は、真空ポンプ装置1の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成は、上述した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0078】
図8に示すように、軸受20,21は、これら軸受20,21を支持する軸受支持部材100によって支持されている。
図8に示す実施形態において、軸受支持部材100は、軸受20,21の軸線方向CLへの移動を制限するように、軸受20,21を支持している。したがって、
図8に示す実施形態においても、軸受20,21は、固定側軸受である。ポンプロータ6a~6dを挟んで軸受20,21の反対側に配置された軸受13は、自由側軸受である。なお、
図8に示す実施形態に係る真空ポンプ装置1は、
図1乃至
図7に示す構成を有する軸受装置15を備えてもよい。
【0079】
図8に示す実施形態では、固定側軸受である軸受20,21は、ポンプロータ6a~6d(より具体的には、ポンプロータ6a~6dのうちの最も上方にあるポンプロータ6a)の上方に配置されている。
図8に示す実施形態では、自由側軸受である軸受13は、固定側軸受である軸受20,21の下方、より具体的には、ポンプロータ6a~6dの下方に配置されている。一実施形態では、軸受13は、ポンプロータ6a~6dの上方に配置されてもよい。軸受13は、軸受装置15の内部に配置されてもよい。一実施形態では、タイミングギヤ25は、ポンプロータ6a~6dの上方に配置されてもよい。
【0080】
タイミングギヤ25、軸受13、ポンプロータ6a~6d、軸受装置15、およびモータ10は、軸8の軸線方向CLに沿って、直列的に、鉛直方向に配置されている。
図8に示す実施形態では、ポンプロータ6a~6dは、ルーツロータまたはクローロータである。したがって、真空ポンプ装置1は、排気方式がルーツ型であるルーツ型ポンプ装置または排気方式がクロー型であるクロー型ポンプ装置である。更に一実施形態では、ポンプロータの少なくとも1段がルーツロータもしくはクローロータである複合型ポンプ装置であってもよい。図示しないが、ポンプケーシング5には、ポンプケーシング5の温度を上昇させるためのヒータが取り付けられてもよい。
【0081】
図8に示す実施形態では、モータ10は、軸受装置15(より具体的には、軸受20,21)の上方に配置されている。このような配置により、真空ポンプ装置1の構成要素のうちの重量物であるポンプロータ6a~6dおよびポンプケーシング5の重心位置を低くすることができる。したがって、真空ポンプ装置1の移動時および運転時における真空ポンプ装置1の設置安定性を向上することができ、真空ポンプ装置1の転倒を防止することができる。
【0082】
排気方式として、ルーツ型またはクロー型を採用した場合、軸8の軸線方向CLに対して垂直な方向におけるポンプケーシング5と各ポンプロータ6a~6dとの間の隙間は極めて小さい。このような微少な隙間を形成することにより、排出されるプロセスガスの逆流が抑制され、真空ポンプ装置1の排気性能を維持することができる。以下、この隙間を横方向隙間と呼ぶことがある。
【0083】
図9(a)および
図9(b)は、縦置きの真空ポンプ装置に生じうる問題を説明するための図である。
図9(a)および
図9(b)では、ポンプロータ6とポンプケーシング5が描かれており、ポンプロータ6とポンプケーシング5との間の横方向隙間は誇張して描かれている。また、自由側軸受B1は、ポンプロータ6の上方に配置されており、固定側軸受B2は、ポンプロータ6の下方に配置されている。なお、
図9(a)および
図9(b)における真空ポンプ装置は、上記問題を説明するための装置であり、本実施形態に係る真空ポンプ装置1とは異なる構成を有している。
【0084】
この真空ポンプ装置の運転中、軸8は、その温度上昇により、固定側軸受B2を基準に、上方向に膨張するが、ポンプロータ6の温度はポンプケーシング5の温度よりも高くなるため、軸8に固定されたポンプロータ6とポンプケーシング5との間の横方向隙間については、下側の隙間が広くなり、上側の隙間が狭くなる。この状態でプロセスガスを排気すると、排気するガスによっては、その昇華性により固形化するため、この固形物(
図9(a)および
図9(b)の黒丸参照)が横方向隙間部分にも付着・堆積していく。但し、固形物は、その自重により、ポンプロータ6の下面とポンプケーシング5との間の横方向隙間により多く堆積する。
【0085】
この固形物が堆積した状態で、
図9(b)に示すように、真空ポンプ装置のメンテナンスや真空ポンプ装置下流側の排ガス処理装置のメンテナンスなどのため、真空ポンプ装置の運転を停止した場合、軸8は、その温度低下により、固定側軸受B2を基準に、下方向に収縮する。結果として、軸8に固定されたポンプロータ6の下面とポンプケーシング5との間の横方向隙間が小さくなる。したがって、ポンプロータ6は、ポンプロータ6の下面とポンプケーシング5との間の横方向隙間に堆積した大量の固形物を圧縮してしまう。
【0086】
このようにして、ポンプロータ6によって押しつぶされた固形物は、ポンプロータ6の回転を阻害し、モータの負荷抵抗を増加させ、最悪の場合、真空ポンプ装置は再起動することができないおそれがある。
【0087】
図10(a)および
図10(b)は、
図8に示す実施形態における真空ポンプ装置1の効果を説明するための図である。軸受20,21をポンプロータ6aの上方に配置することにより、真空ポンプ装置1の運転を停止した場合、軸8は、その温度低下により、固定側軸受である軸受20,21を基準に、上方向に収縮する(
図10(b)参照)。結果として、軸8に固定された各ポンプロータ6a~6dの下面とポンプケーシング5との間の横方向隙間が大きくなる。したがって、各ポンプロータ6a~6dによる各ポンプロータ6a~6dの下面とポンプケーシング5との間の横方向隙間に堆積した固形物の圧縮が防止される。結果として、真空ポンプ装置1の再起動は阻害されない。
【0088】
軸8が上方向に収縮すると、軸8に固定された各ポンプロータ6a~6dの上面とポンプケーシング5との間の横方向隙間が小さくなる。しかしながら、この横方向隙間に堆積する固形物の量は少ないため、モータの負荷抵抗の増加は極僅かである。したがって、真空ポンプ装置1の再起動はほとんど阻害されない。
図1に示す実施形態においても、固定側軸受である軸受20,21はポンプロータ6a~6dの上方に配置されている。
図1に示す実施形態に係る真空ポンプ装置1は、上記効果と同様の効果を奏することができる。
【0089】
モータの負荷抵抗の増加を確実に防止するために、運転制御装置12は、真空ポンプ装置1の運転を完全に停止する前に、モータ10の駆動および停止の繰り返しによってポンプロータ6a~6dの回転および停止の繰り返し動作を実行してもよい。
【0090】
運転制御装置12は、真空ポンプ装置1の運転停止制御機能を内蔵しており、時間の経過に対して、真空ポンプ装置1の運転開始と運転停止とを繰り返す運転停止制御パターン(すなわち、真空ポンプ装置1の運転停止を制御するためのタイミングパターン)を記憶している。よって、上記運転停止制御機能の操作により、真空ポンプ装置1の運転停止動作が開始されると、上記運転停止制御パターンを実行する。より具体的には、所定の時間間隔で、モータ10の起動と停止とを繰り返す。
【0091】
真空ポンプ装置1は、停止すると温度が低下するため、軸8についても上方向に収縮していき、少しずつ各ポンプロータ6a~6dの上面とポンプケーシング5との間の横方向隙間に堆積している固形物を圧縮していくが、その圧縮力が(モータ10が駆動できなくなる程に)大きくなる前に運転停止制御機能により、モータ10を駆動させ、各ポンプロータ6a~6dを回転させることで、各ポンプロータ6a~6dに接触していた固形物は、その回転による遠心力によって、外側へ弾き飛ばされ、よって、各ポンプロータ6a~6dとポンプケーシング5との間の横方向隙間から除去される。更に、運転により、真空ポンプ装置1の温度が上昇し、軸8が下方向に伸長する前に真空ポンプ装置1を停止させ、軸8が再び収縮し、各ポンプロータ6a~6dの上面が固形物を圧縮し始めた時点で、再度運転を開始する・・・という起動・停止を繰り返し実施することにより、モータ10の負荷抵抗の増加を確実に防止することができる。
【0092】
上述したように、軸8の収縮に伴う各ポンプロータ6a~6dによる固形物の圧縮は、真空ポンプ装置1の温度低下に依存する。したがって、一実施形態では、真空ポンプ装置1は、ポンプケーシング5の外面に取り付けられた温度センサ(図示しない)を備えてもよい。この温度センサは、運転制御装置12に電気的に接続されている。運転制御装置12は、温度センサによって測定されたポンプケーシング5の温度変化に基づいて、モータ10の起動と停止とを繰り返す。このような構成によっても、真空ポンプ装置1は、軸8の収縮に伴うモータ10の負荷抵抗の増加を防止することができる。
【0093】
上述した実施形態において、多段のポンプロータを備えた多段型真空ポンプ装置について説明したが、この例に限定されず、単段のポンプロータを備えた単段型真空ポンプ装置を採用してもよい。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 真空ポンプ装置
2 吸気ポート
4 排気ポート
5 ポンプケーシング
6a,6b,6c,6d ポンプロータ
8 軸
10 モータ
12 運転制御装置
13 軸受(自由側軸受)
15 軸受装置
20,21 軸受(固定側軸受)
25 タイミングギヤ
26 ギヤカバー
30 モータロータ
31 モータステータ
32 モータフレーム
35 気体流路
40 軸受ハウジング
41 スペーサ
42 固定具
43 シール部材
45 回転円筒
45a 外周面
45b 上端
45c 下端
46 軸受ケーシング
50 サイドカバー
50a 貫通穴
51 ケース部材
51a 上端壁
52 軸受サポート部材
52a 流通穴
55 ピストンリング
56 内周壁
57 外周壁
58 底壁
59 貫通穴
60 湾曲部
61 テーパー部
64 ハウジング本体
65 受け皿
65a 貫通穴
66 内側環状突起
67 外側環状突起
68 接続部位
70 スロープ
70a 上端部
70b 下端部
70c すくい上げ面
71 内側円筒部
72 外側円筒部
73 環状リング部
74 圧力調整穴
75 内側下向きリブ
75a 下端
76 中間側下向きリブ
76a 下端
77 外側下向きリブ
77a 下端
80 内側上向きリブ
80a 通過部
81 外側上向きリブ
81a 通過部
85,86 接触シール
90 水冷ジャケット
100 軸受支持部材