(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】耐熱性繊維構造体
(51)【国際特許分類】
D04H 1/542 20120101AFI20220914BHJP
【FI】
D04H1/542
(21)【出願番号】P 2018509395
(86)(22)【出願日】2017-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2017013100
(87)【国際公開番号】W WO2017170791
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2019-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2016069518
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 聡
(72)【発明者】
【氏名】清岡 純人
(72)【発明者】
【氏名】新井田 康朗
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/208671(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/116676(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002924(WO,A1)
【文献】特開平03-180588(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103343423(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が100℃以上であり、かつ150℃~600℃の過熱蒸気により軟化して自己接着が可能な繊維である耐熱性繊維を含む繊維構造体であって、該耐熱性繊維同士が接着しており、
前記耐熱性繊維の繊維接着率が10~85%であり、前記繊維接着率の均一性が20%以下であ
り、
見掛け密度が0.03~0.5g/cm
3
である耐熱性繊維構造体。
【請求項2】
前記繊維構造体の厚さ方向の断面において、厚さ方向に3等分した3つの領域のうち、中央部における繊維接着率が10~85%である請求項1に記載の耐熱性繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性繊維により構成され、断熱材や吸音材として使用される耐熱性繊維構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性繊維を用いた繊維材料は、車両または航空機、建築などの分野において、断熱材、吸音材等に使用されている。
【0003】
これらの用途に用いられる繊維構造体などの繊維材料においては、軽量性の観点から低密度であることが求められ、また、曲げ応力や引張強さなどの強力も要求され、特に、高温条件下での強力が重要となる。例えば、航空機の壁面に組み込まれる吸音断熱材や、自動車のエンジン部分に組み込まれるフィルター用途などにおいて、高温時の強力が強く要望されている。
【0004】
また、バインダーを混綿した綿状素材をマット化した断熱吸音材が提案されている。より具体的には、例えば、高耐熱性の無機繊維と、熱溶融温度または熱分解温度が350℃以上である難燃性の有機繊維とを均一に混綿し、得た綿状素材に耐熱性の樹脂バインダーを施し、綿状素材を熱処理することによって全体をマット化した断熱吸音材が開示されている。そして、このような断熱吸音材を使用することにより、高い断熱性および吸音性によって安全性の高い断熱吸音材を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の断熱吸音材においては、高い断熱性と吸音性を有する屈曲可能な断熱吸音材が得られるとされているものの、繊維同士をバインダーで接着する構成であるため、強力については十分とはいえず、特に、高温条件下においては、バインダーが溶解するため、強力が低下するという問題があった。
【0007】
また、バインダーを介して繊維同士を接着した繊維構造体の場合、強力を高めるためにはバインダーの量を増やす必要があるが、バインダーの含有率が高くなると耐熱性繊維の含有率が低下するため、耐熱性が得られず、強力と耐熱性を両立することは困難でるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、耐熱性を有するとともに、曲げ応力や引張強さなどの強力に優れた耐熱性繊維構造体を提供することを目的とする。
【発明を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の耐熱性繊維構造体は、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性繊維を含む繊維構造体であって、耐熱性繊維同士が接着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性を有するとともに、曲げ応力や引張強さなどの強力に優れた耐熱性繊維構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐熱性繊維構造体(以下、単に「繊維構造体」と言う。)は、互いに接着された複数の耐熱性繊維により構成されるものである。そして、本発明の繊維構造体は、上記従来の繊維構造体とは異なり、低融点のバインダー繊維を使用せず、耐熱性繊維同士を、直接、接着させることにより、優れた耐熱性と強力を備えるという特性を有する。
【0012】
なお、ここで言う「接着」とは、加熱により繊維が軟化し、繊維同士がその交点で重なり合う力によって変形して噛み合うか、または、繊維同士が融けて一体化した状態のことを言う。
【0013】
<耐熱性繊維>
繊維構造体を構成する耐熱性繊維としては、ガラス転移温度Tgが100℃以上である繊維が使用される。
【0014】
ここで、一般に、耐熱性の指標として、ガラス転移温度(高分子がミクロな分子運動を始める温度)が使用されているが、このガラス転移点が100℃以上の樹脂は、エンジニアリングプラスチックと呼ばれ、耐熱性の要求される用途に好適に使用される。そして、この樹脂を原料に用いた繊維を耐熱性繊維と呼ぶ。
【0015】
この耐熱性繊維は、高温の過熱蒸気(150℃~600℃)により軟化して、自己接着が可能な繊維であり、例えば、ポリアミド繊維、メタアラミド繊維、パラアラミド繊維、メラミン繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリエーテルスルホン繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、ポリアミドイミド繊維等を挙げることができる。なお、これらの繊維は、単独で使用してもよく、2種以上の混合体として使用してもよい。
【0016】
なお、これらの繊維のうち、低吸水性、及び耐薬品性の観点から、ポリアミド繊維を使用することが好ましく、難燃性、及び低発煙性の観点から、ポリエーテルイミド繊維を使用することが好ましい。
【0017】
ポリアミド繊維としては、例えば、脂肪族ジアミンと芳香族成分を主とするジカルボン酸とから得られるポリアミドである半芳香族ポリアミドからなる繊維が使用される。脂肪族ジアミンは下記一般式(1)で示され、n=4~12のものが好ましく、n=6およびn=9がより好ましく、n=9が特に好ましい。
【0018】
【0019】
芳香族成分を主とするジカルボン酸とは、少なくとも60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるものをいう。好ましい例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等である。脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸の組合せ例としては脂肪族ジアミン(上記一般式(1)のn=9)とテレフタル酸の組み合わせが好ましい。
【0020】
また、ポリエーテルイミド繊維としては、融点を持たない非晶性のポリエーテルイミド繊維が使用され、ガラス転移温度Tgが200℃以上であってもよく、細繊度であっても、200℃などの高温条件下で耐熱性を保持するものが好ましい。このような耐熱性は、200℃における乾熱収縮率により判断することが可能であり、本発明の耐熱性繊維として使用される非晶性ポリエーテルイミド系繊維は、200℃における乾熱収縮率が5.0%以下であってもよく、具体的には、乾熱収縮率が-1.0~5.0%であることが好ましい。
【0021】
また、非晶性ポリエーテルイミド系繊維は、ポリマーに由来して難燃性にも優れており、例えば、限界酸素指数値(LOI値)が25以上であってもよく、好ましくは28以上、より好ましくは30以上であってもよい。
【0022】
更に、非晶性ポリエーテルイミド系繊維は、単繊維繊度が15.0dtex以下であってもよい。製造コスト、取り扱い性の観点からは、好ましくは単繊維繊度が0.1~12.0dtexであり、0.5~10.0dtexであると更に好ましい。
【0023】
また、非晶性ポリエーテルイミド系繊維は、室温における繊維強度が2.0cN/dtex以上であることが好ましい。繊維強度が2.0cN/dtex未満の場合、紙や不織布や織物などの布帛にする際の工程通過性が悪化する場合があり、また使用用途に制限がかかるので好ましくない。より好ましくは2.3~4.0cN/dtex、2.5~4.0cN/dtexであると更に好ましい。
【0024】
また、耐熱性繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な断面形状である丸型断面や異型断面(偏平状、楕円状、多角形状、3~14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など)に限定されず、中空断面状などであってもよい。
【0025】
耐熱性繊維の平均繊度は、用途に応じて、例えば、0.01~100dtexの範囲から選択でき、好ましくは0.1~50dtex、さらに好ましくは0.5~30dtex(特に1~10dtex)である。平均繊度がこの範囲にあると、繊維の強度と接着性の発現とのバランスに優れる。
【0026】
耐熱性繊維の平均繊維長は、例えば、10~100mmの範囲から選択でき、好ましくは20~80mm、さらに好ましくは25~75mm(特に35~55mm)である。平均繊維長がこの範囲にあると、繊維が充分に絡み合うため、繊維構造体の機械的強度が向上する。
【0027】
耐熱性繊維の捲縮率は、例えば、1~50%、好ましくは3~40%、さらに好ましくは5~30%(特に10~20%)である。また、捲縮数は、例えば、1~100個/インチ、好ましくは5~50個/インチ、さらに好ましくは10~30個/インチである。
【0028】
<繊維構造体>
本発明の繊維構造体は、上述の耐熱性繊維を含み、耐熱性繊維同士が接着している構造を有しており、その形状は用途に応じて選択できるが、通常、シート状又は板状である。
【0029】
また、本発明の繊維構造体において、高い表面硬さ及び曲げ硬さを有するとともに、軽量性と通気性とをバランスよく備えた不織繊維構造を有するためには、不織繊維のウェブを構成する繊維の配列状態及び接着状態が適度に調整されている必要がある。すなわち、繊維ウェブを構成する繊維が、概ね繊維ウェブ(不織繊維)面に対して平行に配列しながら、お互いに交差するように配列させるのが望ましい。
【0030】
さらに、本発明の繊維構造体は、各繊維が交差した交点で接着しているのが好ましい。特に、高い硬度及び強度が要求される繊維構造体(成形体)は、交点以外の繊維が略平行に配列している状態において、数本~数十本程度で束状に接着した束状接着繊維を形成していてもよい。これらの繊維が、単繊維同士の交点、束状繊維同士の交点、又は単繊維と束状繊維との交点において接着した構造を部分的に形成することにより、「スクラム」を組んだような構造(繊維が交点部で接着し、網目のように絡み合った構造、又は交点で繊維が接着し隣接する繊維を互いに拘束する構造)とし、目的とする曲げ挙動や表面硬度などを発現させることができる。本発明では、このような構造が、繊維ウェブの面方向及び厚さ方向に沿って概ね均一に分布するような形態とすることが望ましい。
【0031】
なお、ここでいう「概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列している」とは、局部的に多数の繊維が厚さ方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態を示す。より具体的には、繊維構造体の繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、繊維ウェブでの厚さの30%以上に亘り、厚さ方向に連続して延びる繊維の存在割合(本数割合)が、その断面における全繊維に対して10%以下(特に、5%以下)である状態をいう。
【0032】
繊維を繊維ウェブ面に対して平行に配列するのは、厚さ方向(ウェブ面に対して垂直な方向)に沿って配向している繊維が多く存在すると周辺に繊維配列の乱れが生じて不織繊維内に必要以上に大きな空隙を生じ、繊維構造体の曲げ強度や表面硬さが低減するためである。従って、できるだけこの空隙を少なくすることが好ましく、このために繊維を可能な限り繊維ウェブ面に対して平行に配列させるのが望ましい。
【0033】
特に、本発明の繊維構造体がシート状又は板状の成形体である場合に、繊維構造体の厚さ方向に荷重がかかった場合、大きな空隙部が存在すると、この空隙部が荷重により潰れて成形体表面が変形し易くなる。さらに、この荷重が成形体全面にかかると全体的に厚さが小さくなり易くなる。そこで、繊維構造体自体を空隙のない樹脂充填物とすればこのような問題を回避できるが、これでは通気度が低下し、曲げたときの折れ難さ(耐折性)、軽量性を確保するのが困難となる。
【0034】
一方で、荷重による厚さ方向への変形を小さくするために、繊維を細くし、より密に繊維を充填することが考えられるが、細い繊維のみで軽量性と通気性とを確保しようとすると、各々の繊維の剛性が低くなり、逆に曲げ応力が低下する。曲げ応力を確保するためには、繊維径をある程度太くすることが必要であるが、単純に太い繊維を混合したのでは、太い繊維同士の交点付近で、大きな空隙ができやすく、厚さ方向へ変形し易くなる。
【0035】
そこで、本発明の繊維構造体は、繊維の方向をウェブの面方向に沿って平行に並べ、分散させる(又は繊維方向をランダム方向に向ける)ことにより、繊維同士がお互いに交差し、その交点で接着することにより、小さな空隙を生じて軽量性を確保している。さらに、このような繊維構造が連続することにより、適度な通気度及び表面硬さも確保している。特に、他の繊維と交差せず概ね平行に並んでいる箇所において、繊維長さ方向に並行に接着した束状繊維を形成させた場合には、単繊維のみから構成される場合に比べて高い曲げ強度を主に確保できる。硬さ及び強度が高い繊維構造体を望む場合には、繊維一本一本が交差する交点で接着しながら、交点と交点との間で、各繊維が束状に並ぶ部分において、数本の束状繊維を形成することが好ましい。このような構造は、成形体断面を観察したときの単繊維の存在状態から確認できる。
【0036】
また、本発明の繊維構造体においては、耐熱性繊維の接着による繊維接着率が10~85%であることが好ましく、25~75%であることがより好ましく、40~65%であることが更に好ましい。
【0037】
これは、繊維接着率が10%未満の場合は、硬さ、曲げ応力、及び引張強さが低下するという不都合が生じる場合があり、85%よりも大きい場合は、繊維間の空隙が小さくなるため、見掛け密度が大きくなりすぎて軽量性が損なわれるという不都合が生じる場合があるためである。即ち、繊維接着率を10~85%に設定することにより、軽量性を損なうことなく、曲げ応力や引張強さなどの強力を一層向上させることが可能になる。
【0038】
なお、この繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定でき、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が接着する割合(集束して接着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
【0039】
また、不織繊維構造を構成する耐熱性繊維は、各々の繊維の接点で接着されているが、可能な限り少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が、厚さ方向に沿って、繊維構造体の表面から内部(中央部)、そして裏面に至るまで、均一に分布していることが好ましい。接着点が表面又は内部などに集中すると、充分な曲げ応力を確保するのが困難となるだけでなく、接着点の少ない部分における形態安定性が低下する。従って、形態安定性を低下させることなく、曲げ応力をより一層向上させるとの観点から、繊維構造体の厚さ方向の断面において、厚さ方向に3等分した3つの領域のうち、中央部(中心の部分)における繊維接着率が、いずれも上述の範囲(10~85%)にあることが好ましい。
【0040】
さらに、各領域における繊維接着率の均一性(即ち、繊維接着率の最大値と最小値との差)は、20%以下(例えば、0.1~20%)が好ましく、15%以下(例えば、0.5~15%)がより好ましく、10%以下(例えば、1~10%)が更に好ましい。
【0041】
本発明の繊維構造体は、繊維接着率が、厚さ方向において、このような均一性を有しているため、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性において優れている。
【0042】
なお、本発明において、「厚さ方向に三等分した領域」とは、板状の繊維構造体の厚さ方向に対して直交する方向にスライスして三等分した各領域のことを意味する。
【0043】
このように、本発明の繊維構造体では、耐熱性繊維による接着が均一に分散して点接着しているだけでなく、これらの点接着が短い接着点距離(例えば、数十~数百μm)で緻密にネットワーク構造を張り巡らしている。このような構造により、本発明の繊維構造体は、外力が作用しても、繊維構造が有する柔軟性により、歪みに対して追従性が高くなるとともに、微細に分散した繊維の各接着点に外力が分散して小さくなるため、高い曲げ応力や引張強さを発現していると推定できる。これに対して、バインダー繊維を介して耐熱性繊維同士を接着する従来の繊維構造体は、耐熱性を確保するためにバインダー繊維の量が制限されるため接着点の数が少なく、またバインダー繊維の量を増やして接着点を増やしたとしても耐熱性が得られず、さらに繊維構造体の厚さ方向の接着を均一に分散させることも難しいため、歪みが発生し易く、曲げ応力や引張強さが低下すると推定できる。
【0044】
本発明の繊維構造体においては、厚さ方向の断面における単繊維(単繊維端面)の存在頻度は特に限定されない。例えば、その断面の任意の1mm2に存在する単繊維の存在頻度が100個/mm2以上(例えば、100~300個)であってもよいが、特に、軽量性よりも機械的特性が要求される場合には、単繊維の存在頻度は、例えば、100個/mm2以下、好ましくは60個/mm2以下(例えば、1~60個/mm2)、さらに好ましくは25個/mm2以下(例えば、3~25個/mm2)であってもよい。単繊維の存在頻度が多すぎると、繊維の接着が少なく、繊維構造体からなる成形体の強度が低下する。なお、単繊維の存在頻度が100個/mm2を超えると繊維の束状接着が少なくなるため、高い曲げ強度の確保が困難となる。さらに、板状成形体の場合、束状に接着された繊維が成形体の厚さ方向に薄く、面方向(長さ方向又は幅方向)に幅広い形を有するのが好ましい。
【0045】
なお、本発明においては、単繊維の存在頻度は、次のようにして測定する。すなわち、成形体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の中から選んだ1mm2に相当する範囲を観察し、単繊維断面の数を数える。写真の中から任意の数箇所(例えば、無作為に選択した10箇所)について同様に観察し、単繊維端面の単位面積当たりの平均値を単繊維の存在頻度とする。この際、断面において、単繊維の状態である繊維の数を全て数える。すなわち、完全に単繊維の状態である繊維以外に、数本の繊維が接着した繊維であっても、断面において接着部分から離れて単繊維の状態にある繊維は単繊維として数える。
【0046】
繊維構造体中の耐熱性繊維は、厚さ方向の両端を結ばないことにより(厚さ方向で繊維が繊維構造体を貫通しないことにより)、繊維の抜けなどによる繊維構造体の欠落が抑制できる。耐熱性繊維をこのように配置するための製造方法は特に限定されないが、耐熱性繊維を交絡させた繊維成形体を複数積層して、過熱蒸気で接着する手段が簡便かつ確実である。また、繊維長と繊維構造体の厚さの関係を調整することにより、繊維構造体の厚さ方向の両端を結ぶ繊維を大幅に低減できる。このような観点から、繊維構造体の厚さは、繊維長に対して10%以上(例えば、10~1000%)、好ましくは40%以上(例えば、40~800%)、より好ましくは60%以上(例えば、60~700%)、更に好ましくは100%以上(例えば、100~600%)である。繊維構造体の厚さと繊維長とがこのような範囲にあると、繊維構造体の曲げ応力などの機械的強度が低下することなく、繊維の抜けなどによる繊維構造体の欠落が抑制できる。
【0047】
このように本発明の繊維構造体の密度や機械的特性は、束状接着繊維の割合や存在状態に影響を受ける。接着の度合いを示す繊維接着率は、SEMを用いて、繊維構造体の断面を拡大した写真を撮影し、所定の領域において、接着した繊維断面の数に基づいて簡便に測定できる。しかし、束状に繊維が接着している場合には、各繊維が束状に又は交点で接着しているため、特に密度が高い場合には、繊維単体として観察することが困難になり易い。
【0048】
また、本発明では、この繊維接着の度合を反映する指標として、繊維構造体の断面(厚さ方向の断面)における繊維及び束状の繊維束が形成する断面の占める面積比率、すなわち繊維充填率を用いることもできる。厚さ方向の断面における繊維充填率は、例えば、20~80%、好ましくは20~60%、さらに好ましくは30~50%である。繊維充填率が小さすぎると、繊維構造体内の空隙が多すぎて、所望の表面硬さ及び曲げ応力を確保するのが困難になる。逆に、大きすぎると、表面硬さ及び曲げ応力を充分に確保できるが、非常に重くなり、通気度が低下する傾向にある。
【0049】
本発明の繊維構造体(特に、束状に繊維が接着し、単繊維の存在頻度が100個/mm2以下である繊維構造体)は、板状(ボード状)であっても、荷重により凹形状が形成される等の変形が発生し難い表面硬さを有することが好ましい。そのような指標として、Aタイプデュロメータ硬さ試験(JIS K6253の「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験法」に準拠した試験)による硬度が、例えば、A50以上、好ましくはA60以上であり、より好ましくはA70以上である。この硬度が小さすぎると、表面にかかる荷重により変形し易い。
【0050】
このような束状接着繊維を含む繊維構造体は、曲げ強度及び表面硬さと軽量性と通気性とを高い次元でバランスさせるために、束状接着繊維の存在頻度が少なく、かつ各繊維(束状繊維及び/又は単繊維)の交点で高い頻度で接着していることが好ましい。但し、繊維接着率が高すぎると、接着している点同士の距離が近接し過ぎて柔軟性が低下し、外部応力による歪みの解消が困難となる。このため、本発明の繊維構造体は、上述のごとく、繊維接着率が85%以下であることが好ましい。繊維接着率が高すぎないことにより、繊維構造体内に細かな空隙による通路が確保でき、軽量性と通気度とを向上できる。従って、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力、表面硬さ及び通気度を発現するためには、繊維接着率が繊維構造体の表面から内部(中央部)、そして裏面に至るまで、厚さ方向に沿って均一に分布しているのが好ましい。
【0051】
また、接着点が表面や内部などに集中すると、前述の曲げ応力や形態安定性に加えて、通気度を確保するのも困難となる。そこで、本発明の繊維構造体では、厚さ方向の断面において、厚さ方向に3等分した3つの領域(表面、中央部、裏面)のうち、中央部の繊維接着率が上述した範囲にあることが好ましく、表面、中央部および裏面のいずれもが上述した範囲にあることがより好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値と最小値との差が20%以下(例えば、0.1~20%)であってもよく、好ましくは15%以下(例えば、0.5~15%)、さらに好ましくは10%以下(例えば、1~10%)である。本発明では、繊維接着率が、厚さ方向において均一であると、曲げ応力や引張強さ、耐折性や靱性などにおいて優れる。本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0052】
本発明の繊維構造体は、バインダー繊維を介して耐熱性繊維を接着した従来の繊維構造体では得られないような曲げ挙動を示すことも特徴の1つである。本発明では、この曲げ挙動を表すため、JIS K7171「プラスチック-曲げ特性の求め方」に準じて、サンプルを徐々に曲げたときに生ずるサンプルの反発力と曲げ量から曲げ応力を測定し、曲げ挙動の指標として用いた。すなわち、この曲げ応力が大きいほど硬い繊維構造体であり、さらに測定対象物が破壊するまでの曲げ量(変位)が大きい程よく曲がる成形体である。
【0053】
本発明の繊維構造体は、少なくとも一方向(好ましくは全ての方向)における曲げ応力が0.05MPa以上(例えば、0.05~100MPa)であり、好ましくは0.1~30MPa、さらに好ましくは0.2~10MPaであってもよい。この曲げ応力が小さすぎると、ボード材として使用したときに自重やわずかな荷重により簡単に折れ易い。また、曲げ応力が高すぎると、硬くなり過ぎて、応力のピークを過ぎて折り曲げると折れて破損し易くなる。なお、100MPaを超えるような硬さを得るためには、繊維構造体の密度を高くすることが必要となり、軽量性の確保が困難になる。
【0054】
本発明の繊維構造体は、繊維間に生ずる空隙により優れた軽量性を確保できる。また、これらの空隙は、スポンジのような樹脂発泡体と異なり各々が独立した空隙ではなく連続しているため、通気性を有している。このような構造は、樹脂を含浸する方法や、表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成する方法など、これまでの一般的な硬質化手法では製造することが極めて困難な構造である。
【0055】
すなわち、本発明の繊維構造体は低密度であり、具体的には、見掛け密度が、例えば、0.03~0.7g/cm3であり、特に、軽量性を要求される用途では、例えば、0.05~0.5g/cm3、好ましくは0.08~0.4g/cm3、さらに好ましくは0.1~0.35g/cm3である。軽量性よりも硬さが要求される用途では、見掛け密度は、例えば、0.2~0.7g/cm3、好ましくは0.25~0.65g/cm3、さらに好ましくは0.3~0.6g/cm3であってもよい。見かけ密度が低すぎると、軽量性を有するものの、十分な曲げ硬さ及び表面硬さを確保するのが難しく、逆に高すぎると、硬さは確保できるものの、軽量性が低下する。なお、見掛け密度が低下すると、繊維が交絡し、交点で接着した一般的な不織繊維構造に近くなり、一方、密度が高くなると、繊維が束状に接着し、多孔質成形体に近い構造となる。
【0056】
なお、ここで言う「見掛け密度」とは、JIS L1913(一般不織布試験方法)の規定に準拠して測定された目付と厚みに基づいて計算される密度のことを言う。
【0057】
本発明の繊維構造体の目付は、例えば、50~10000g/m2程度の範囲から選択でき、好ましくは150~8000g/m2、さらに好ましくは300~6000g/m2程度である。軽量性よりも硬さが要求される用途では、目付は、例えば、1000~10000g/m2、好ましくは1500~8000g/m2、さらに好ましくは2000~6000g/m2程度であってもよい。目付が小さすぎると、硬さを確保することが難しく、また、目付が大きすぎると、ウェブが厚すぎて過熱蒸気による加工において、過熱蒸気が十分にウェブ内部に入り込めず、厚さ方向に均一な繊維構造体とするのが困難になる。
【0058】
本発明の繊維構造体が、板状又はシート状である場合、その厚さは特に限定されないが、1~100mm程度の範囲から選択でき、例えば、2~50mm、好ましくは3~20mm、さらに好ましくは5~150mmである。厚さが薄すぎると、硬さの確保が難しくなり、厚すぎると、これも質量が重くなるため、シートとしての取扱性が低下する。
【0059】
本発明の繊維構造体は、不織繊維構造を有しているため、通気性が高い。本発明の繊維構造体の通気度は、フラジール形法による通気度で0.1cm3/cm2/秒以上(例えば、0.1~300cm3/cm2/秒)、好ましくは0.5~250cm3/cm2/秒(例えば、1~250cm3/cm2/秒)、さらに好ましくは5~200cm3/cm2/秒であり、通常、1~100cm3/cm2/秒である。通気度が小さすぎると、繊維構造体に空気を通過させるために外部から圧力を加える必要が生じ、自然な空気の出入が困難となる。一方、通気度が大き過ぎると、通気性は高くなるが、繊維構造体内の繊維空隙が大きくなりすぎ、曲げ応力が低下する。
【0060】
本発明の繊維構造体は、不織繊維構造を有しているため、断熱性も高く、熱伝導率が0.1W/m・K以下と低く、例えば、0.03~0.1W/m・K、好ましくは0.05~0.08W/m・Kである。
【0061】
次に、本発明の繊維構造体の製造方法について説明する。
【0062】
本発明の繊維構造体の製造方法では、まず、上述した耐熱性繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロ一法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。これらのウェブのうち、束状接着繊維の割合を多くする場合には、セミランダムウェブ、パラレルウェブが好ましい。
【0063】
得られた繊維ウェブの繊維同士を接着させる工程においては、繊維同士を接着させる手段は従来の熱風処理や熱プレスであってもよく、また過熱蒸気により繊維同士を接着してもよい。過熱蒸気を用いる場合、上記工程で得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、過熱蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、本発明の不織繊維構造を有する繊維構造体が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、蒸気噴射装置のノズルから噴出される過熱蒸気流の中を通過し、吹き付けられた過熱蒸気により耐熱性繊維同士が三次元的に接着(熱接着)される。
【0064】
このような過熱蒸気(150℃~600℃)による加熱処理を行うことにより、耐熱性繊維同士が接着されて繊維のネットワークを得ることができるため、繊維構造体の厚み方向における内部まで均一、かつ嵩高に処理することが可能になる。
【0065】
なお、耐熱性繊維に噴射される過熱蒸気の温度は、150~600℃の範囲が好ましい。これは、温度が150℃より低いと耐熱性繊維に与えるエネルギーが不足し、繊維同士の接着が不十分になる場合があり、600℃より大きいと噴射装置に近い繊維に伝熱するエネルギーが大きくなりすぎ、繊維接着率の均一性が低下する場合があるためである。
【0066】
使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブを目的の密度に圧縮しつつ、過熱蒸気による処理が可能であれば、特に限定されるものではなく、エンドレスコンベアが好適に用いられる。なお、一般的な単独のベルトコンベアであってもよく、必要に応じて2台のベルトコンベアを組み合わせて、両ベルト間にウェブを挟むようにして運搬してもよい。このように運搬することにより、ウェブを処理する際に、処理に用いる過熱蒸気、コンベアの振動などの外力に起因して、運搬してきたウェブの形態が変形してしまうという不都合を抑制できる。また、処理後の不織繊維の密度や厚さをこのベルトの間隔を調整することにより制御することも可能となる。
【0067】
ウェブに過熱蒸気を供給するための蒸気噴射装置は、2台のベルトコンベアを組み合わせた場合、一方のコンベア内に装着され、コンベアネットを通してウェブに過熱蒸気を供給する。反対側のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。サクションボックスによって、ウェブを通過した過剰の過熱蒸気を吸引排出できる。また、ウェブの表及び裏の両側に対して、同時に過熱蒸気による処理を行うために、さらに過熱蒸気噴射装置が装着された側のコンベアの下流部にサクションボックスを装着し、このサクションボックスが装着された反対側のコンベア内に過熱蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の過熱蒸気噴射装置及びサクションボックスがない場合に、繊維ウェブの表と裏を蒸気処理する場合は、一度処理した繊維ウェブの表裏を反転させて再度処理装置内を通過させることで代用できる。
【0068】
コンベアに用いるエンドレスベルトは、ウェブの運搬や過熱蒸気処理の妨げにならない限り、特に、限定されるものではない。ただし、過熱蒸気処理をした場合、その条件により繊維ウェブの表面にベルトの表面形状が転写される場合があるので、用途に応じて適宜選択することが好ましい。特に、表面の平坦な繊維構造体の場合には、メッシュの細かいネットを使用する。なお、90メッシュが上限であり、これ以上のメッシュの細かなネットは、通気性が低く、蒸気が通過し難くなる。メッシュベルトの材質は、過熱蒸気処理に対する耐熱性などの観点より、金属、耐熱処理を施したポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアリレート系樹脂(全芳香族系ポリエステル系樹脂)、芳香族ポリアミド系樹脂などの耐熱性樹脂などが好ましい。
【0069】
蒸気噴射装置から噴射される過熱蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体であるウェブ中の繊維を大きく移動させることなくウェブ内部へ進入する。このウェブ中への蒸気流の進入作用及び過熱作用により、過熱蒸気流がウェブ内に存在する各耐熱性繊維の表面を過熱状態で効率的に覆い、均一な熱接着が可能になると考えられる。また、この処理は高速気流下で極めて短時間に行われるため、過熱蒸気の繊維表面への熱伝導は十分であるが、繊維内部への熱伝導が十分になされる前に処理が終了してしまい、そのため過熱蒸気の圧力や熱により、処理される繊維ウェブ全体が潰れるという不都合や、その厚さが損なわれるような変形も起こりにくい。その結果、繊維ウェブに大きな変形が生じることなく、表面及び厚さ方向における接着の程度が概ね均一になるように熱接着が完了する。
【0070】
さらに、表面硬さや曲げ強度の高い繊維構造体を得る場合には、ウェブに過熱蒸気を供給して処理する際に、処理されるウェブを、コンベアベルト又はローラーの間で、目的の見かけ密度(例えば、0.03~0.7g/cm3)に圧縮した状態で過熱蒸気に晒すことが重要である。特に、相対的に高密度の繊維構造体を得ようとする場合には、過熱蒸気で処理する際に、十分な圧力で繊維ウェブを圧縮する必要がある。さらに、ローラー間又はコンベア間に適度なクリアランスを確保することで、目的の厚さや密度に調整することも可能である。コンベアの場合には、一気にウェブを圧縮することが困難であるため、ベルトの張力をできるだけ高く設定し、蒸気処理地点の上流から徐々にクリアランスを狭めていくことが好ましい。さらに、蒸気圧力、処理速度を調整することにより所望の曲げ硬さ、表面硬度、軽量性、通気度を有する繊維構造体に加工する。
【0071】
この際、硬度を上げたい場合には、ウェブを挟んでノズルと反対側のエンドレスベルトの裏側をステンレス板などにし、蒸気が通過できない構造とすれば、被処理体であるウェブを通過した蒸気がここで反射するので、蒸気の保温効果によって、より強固に接着される。逆に、軽度の接着が必要な場合には、サクションボックスを配置し、余分な蒸気を室外へ排出してもよい。
【0072】
過熱蒸気を噴射するためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給されるウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。また、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
【0073】
プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚さは、0.5~1mmであってもよい。オリフィスの径やピッチに関しては、目的とする繊維固定が可能な条件であれば特に制限はないが、オリフィスの直径は、通常、0.05~2mm、好ましくは0.1~1mm、さらに好ましくは0.2~0.5mmである。オリフィスのピッチは、通常、0.5~3mm、好ましくは1~2.5mm、さらに好ましくは1~1.5mmである。オリフィスの径が小さすぎると、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になるという設備的な問題点と、目詰まりを起こしやすくなるという運転上の問題点が生じ易い。逆に、大きすぎると、蒸気噴射力が低下する。一方、ピッチが小さすぎると、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズル自体の強度が低下する。一方、ピッチが大きすぎると、高温水蒸気がウェブに十分に当たらないケースが生じるため、ウェブ強度が低下する。
【0074】
過熱蒸気についても、耐熱性繊維の固定が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、圧力は、例えば、0.1~2MPa、好ましくは0.2~1.5MPa、さらに好ましくは0.3~1MPaである。蒸気の圧力が高すぎる、または強すぎる場合には、ウェブを形成する繊維が動いて地合の乱れを生じる、あるいは繊維が溶融しすぎて部分的に繊維形状を保持できなくなる可能性がある。また、圧力が弱すぎると、繊維の接着に必要な熱量をウェブに与えることができなくなる場合や、過熱蒸気がウェブを貫通できず、厚さ方向に繊維接着斑を生ずる場合があり、ノズルからの蒸気の均一噴出の制御が困難になる場合がある。
【0075】
このようにして得られた不織繊維構造を有する繊維構造体は、一般的な不織布と同程度の低密度でありながら、極めて高い曲げ応力及び表面硬さを有するとともに、通気性、吸音性、断熱性に加え、耐熱性を有している。従って、このような性能を利用して、例えば、自動車の内装材、航空機の内壁、建材ボード等の耐熱性が求められる用途に応用できる。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0077】
実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0078】
(実施例1)
<繊維構造体の作製>
耐熱性繊維として、炭素数9のジアミンとテレフタル酸からなる半芳香族ポリアミド樹脂((株)クラレ製、商品名:ジェネスタ、融点:265℃、ガラス転移温度:125℃、熱分解温度:400℃)を用いた耐熱性繊維(繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)を準備した。次に、この耐熱性繊維を用いて、カード法により目付が50g/m2のカードウェブを作製し、このウェブを12枚重ねて、合計目付600g/m2のカードウェブとした。このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。
【0079】
なお、このベルトコンベアは、下側コンベアと上側コンベアの一対のコンベアからなり、少なくとも一方のコンベアのベルト裏側に蒸気噴射ノズルが設置されている。また、ベルトを通して、通過するウェブに過熱蒸気が噴射可能である。さらに、このノズルより上流側に、ウェブ厚調整用の金属ロール(以下、「ウェブ厚調整用ロール」と略記する場合がある)が、それぞれのコンベアに設けられている。そして、下側コンベアは、上面(すなわちウェブの通過する面)がフラットな形状であり、一方の上側コンベアは、下面がウェブ厚調整用ロールに沿って屈曲した形状をなし、上側コンベアのウェブ厚調整用ロールが下側コンベアのウェブ厚調整用ロールと対をなすように配置されている。
【0080】
また、上側コンベアは、上下に移動可能であり、これにより上側コンベアと下側コンベアのウェブ厚調整用ロール間を所定の間隔に調整できるようになっている。さらに、上側コンベアの上流側は、下流部に対してウェブ厚調整用ロールを基点に(上側コンベアの下流側の下面に対し)30度の角度で傾斜させ、下流部は下側コンベアと平行になるよう配置するように屈曲されている。なお、上側コンベアが上下する場合には、この平行関係を保ちながら移動する。
【0081】
これらのベルトコンベアは、それぞれが同速度で同方向に回転し、これら両コンベアベルト同士及びウェブ厚さ調整用ロール同士が所定のクリアランスを保ちながら加圧可能な構造となっている。これは、いわゆるカレンダー工程のように作動して蒸気処理前のウェブ厚さを調整するためのものである。すなわち、上流側より送り込まれてきたカードウェブは、下側コンベア上を走行するが、ウェブ厚調整用ロールに到達するまでの間に上側コンベアとの間隔が徐々に狭くなる。そして、この間隔がウェブ厚さよりも狭くなったときに、ウェブは上下コンベアベルトの問に挟まれ、徐々に圧縮されながら走行する。このウェブは、ウェブ厚調整用ロールに設けられたクリアランスとほぼ同等の厚さになるまで圧縮され、その厚さの状態で過熱蒸気処理がなされ、その後もコンベア下流部において厚さを維持しながら走行する仕組みになっている。ここでは、ウェブ厚さ調整用のロールが線圧50kg/cmとなるように調整した。
【0082】
次いで、下側コンベアに備えられた蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から300℃の過熱蒸気をカードウェブの厚さ方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して蒸気処理を施し、本実施例における不織繊維構造を有する繊維構造体を得た。この蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して過熱蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して過熱蒸気処理を施した。
【0083】
なお、蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)は5mmとした。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
【0084】
<目付の測定>
JIS L1913に準拠して、作製した繊維構造体の目付(g/m2)を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0085】
<見掛け密度の測定>
JIS L1913に準拠して、作製した繊維構造体の厚み(mm)を測定し、この厚みの値と目付の値に基づいて、見掛け密度(g/cm3)を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0086】
<繊維接着率の測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、繊維構造体の断面を100倍に拡大した写真を撮影した。次に、撮影した繊維構造体の厚さ方向における断面写真を厚さ方向に三等分し、三等分した各領域(表面側、内部(中央部)、裏面側)において、認識可能な繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。
【0087】
より具体的には、各領域において認識できる繊維の全断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式(1)に基づいて百分率で表わした。
【0088】
【0089】
なお、繊維同士が接触する部分には、接着することなく単に接触している部分と、接着により接着している部分とがあるが、顕微鏡撮影のために繊維構造体を切断することにより、繊維構造体の切断面において、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離した。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着しているものとした。
【0090】
また、各写真について、断面が確認できる繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して繊維の全断面数が100を超えるようにした。また、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値と最小値との差(即ち、均一性)も併せて求めた。以上の結果を表1に示す。
【0091】
<曲げ応力の測定>
JIS K7171(プラスチック-曲げ特性の求め方)の規定に準拠して、作製した繊維構造体から試験片(幅が10mm、長さが100mm)を用意し、支点間距離を80mm、試験速度を10mm/分として、曲げ応力(MPa)を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0092】
<引張強さの測定>
JIS L1913(一般不織布試験方法)の規定に準拠して、作製した繊維構造体から試験片(幅が30mm、長さが150mm)を用意し、つかみ間隔を100mm、試験速度を10mm/分として、引張強さ(N/30mm)を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0093】
(実施例2)
<繊維構造体の作製>
耐熱性繊維として、非晶性のポリエーテルイミド繊維((株)クラレ製、商品名:KURAKISSS、ガラス転移温度:215℃、熱分解温度:540℃、繊度:8.9dtex、繊維長51mm)を準備した。次に、この耐熱性繊維を用いて、カード法により目付が100g/m2のカードウェブを作製し、水流絡合法を用いてシート化した。
【0094】
次に、このシートを10枚積層した後、積層体を50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。
【0095】
次に、上述の実施例1と同様にして、下側コンベアに備えられた蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から330℃の過熱蒸気をカードウェブの厚さ方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して蒸気処理を施し、本実施例における不織繊維構造を有する繊維構造体を得た。
【0096】
次に、上述の実施例1と同様にして、目付の測定、見掛け密度の測定、繊維接着率の測定、曲げ応力の測定、及び引張強さの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0097】
(実施例3)
<繊維構造体の作製>
実施例1で用いたカードウェブを9枚積層し、熱プレス装置にて260℃で1分間、熱プレス処理を行い、繊維構造体を得た。
【0098】
次に、上述の実施例1と同様にして、目付の測定、見掛け密度の測定、繊維接着率の測定、曲げ応力の測定、及び引張強さの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
<繊維構造体の作製>
実施例1で準備した半芳香族ポリアミド繊維と、バインダー繊維としてポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘型複合繊維(宇部エクシモ(株)製、HR-NTW、芯部のガラス転移温度:-20℃、鞘部のガラス転移温度:-120℃、芯部の熱分解温度:240℃、鞘部の熱分解温度:270℃、繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)を準備し、80/20の質量比で混綿した。次に、この混綿繊維を用いてカード法により目付が50g/m2のカードウェブを作製し、このウェブを6枚重ねて、合計目付300g/m2のカードウェブとした。そして、このカードウェブを熱風乾燥機にて150℃で1分間、加熱処理を行うことにより、本比較例の繊維構造体を得た。
【0100】
次に、上述の実施例1と同様にして、目付の測定、見掛け密度の測定、繊維接着率の測定、曲げ応力の測定、及び引張強さの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0101】
【0102】
表1に示すように、100℃以上のガラス転移温度を有する耐熱性繊維同士を熱接着させた実施例1~3の繊維構造体は、耐熱性繊維同士がバインダーを介して接着している比較例1の繊維構造体よりも、曲げ応力および引張強さに優れる。特に、繊維接着率の均一性が高い実施例1~2の繊維構造体においては、比較例1に比し、曲げ応力、及び引張強さの値が著しく高く、強力が非常に優れていると言える。
【0103】
また、実施例1~2の繊維構造体においては、比較例1に比し、引張強さの維持率(180℃における引張強さ/常温における引張強さ)が非常に大きく、耐熱性が非常に優れていると言える。
【0104】
また、表1に示すように、比較例1の繊維構造体の曲げ応力は0であるが、このような繊維構造体は自重で撓んでしまうほどに柔らかく、曲げ応力が測定限界以下であり、例えば、断熱材として施工する場合であっても、壁面や天井面などに沿わずに垂れ下がってしまうため取扱い性に劣る。一方、実施例3の曲げ応力は0.4MPaであり比較例1よりも優れ、0.4MPa程度の曲げ応力を有していれば壁面から垂れ下がることなく施工できるため、実施例3においても取扱い性の観点などから大きく向上していると言える。
【0105】
また、実施例3の繊維構造体においては、比較例1に比し、引張強さの維持率(180℃における引張強さ/常温における引張強さ)が大きく、耐熱性に優れていると言える。
【0106】
一方、比較例1においては、繊維同士をバインダーで接着する構成であるため、表1に示すように、繊維接着率が著しく低くなり、結果として、実施例1~2に比し、曲げ応力や引張強さが著しく低くなっていると言える。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上に説明したように、本発明は、耐熱性繊維により構成され、断熱材や吸音材として使用される耐熱性繊維構造体に適している。