(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】粒子定量装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/02 20060101AFI20220914BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
G01N15/02 B
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2021534533
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011637
(87)【国際公開番号】W WO2021014682
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019133320
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老根 典子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智
(72)【発明者】
【氏名】桝屋 豪
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特表平7-509314(JP,A)
【文献】特開平11-271220(JP,A)
【文献】特開2007-304044(JP,A)
【文献】特表2017-529513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状試料を表す試料画像を取得する画像取得手段と、
前記試料画像に関する演算処理を行うデータ処理手段と、
を備える、粒子定量装置であって、
前記データ処理手段は、
前記試料画像の画素の輝度IについてI<M-kσとなる低輝度画素を抽出する抽出手段であって、ただしMは基準画像に係る輝度であり、kは正の実数であり、σは基準画像における各画素の輝度の標準偏差である、抽出手段と、
抽出された画素に基づいて前記粒子状試料を認識する、粒子識別手段と、
を有することを特徴とする、粒子定量装置。
【請求項2】
前記データ処理手段は、前記粒子状試料を認識し、定量する粒子定量手段を有することを特徴とする、請求項1に記載の粒子定量装置。
【請求項3】
前記粒子定量装置は、前記試料画像に基づいて粒子を個別に識別することにより、前記試料画像から個別識別領域を抽出する、個別識別手段をさらに備え、
前記粒子定量手段は、前記低輝度画素からなる低輝度領域と、前記個別識別領域との論理和によって与えられる論理和領域に基づいて前記粒子状試料を定量する、
ことを特徴とする、請求項2に記載の粒子定量装置。
【請求項4】
前記粒子定量手段は、
‐前記論理和領域の各画素の輝度の平均値、または、
‐前記論理和領域の各画素の輝度の積算値、または、
‐前記論理和領域の画素の総数
に基づいて前記粒子状試料を定量することを特徴とする、請求項3に記載の粒子定量装置。
【請求項5】
前記粒子定量手段は、前記低輝度画素の数の、前記試料画像の画素の総数に対する割合に基づいて、前記粒子状試料を定量することを特徴とする、請求項2に記載の粒子定量装置。
【請求項6】
前記粒子定量手段は、前記論理和領域の画素の数の、前記試料画像の画素の総数に対する割合に基づいて、前記粒子状試料を定量することを特徴とする、請求項3に記載の粒子定量装置。
【請求項7】
前記粒子状試料は透光性を有し、
前記粒子状試料は、粒子、細胞、または細菌である、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子定量装置。
【請求項8】
前記基準画像は、粒子数が0である試料画像であるか、または、粒子数が0とみなせる試料画像であることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子定量装置。
【請求項9】
前記粒子定量装置は、低輝度画素に関する値と、前記粒子状試料の量とを関連付ける検量線を取得する、検量線取得手段をさらに備え、
前記粒子定量手段は、前記検量線と、前記試料画像における前記低輝度画素に関する値とに基づいて前記粒子状試料を定量する、
ことを特徴とする、請求項2に記載の粒子定量装置。
【請求項10】
前記画像取得手段は、所定時間ごとに前記試料画像を取得し、
前記粒子定量手段は、各前記試料画像について前記粒子状試料を定量する、
ことを特徴とする、請求項2に記載の粒子定量装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子定量装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養や、薬剤感受性検査などでの細菌の培養などにおいて、細胞、細菌などの状態を計測する技術が必要である。一例として、培養容器下方向から培養状態をカメラなどで検出し、その特徴量を基に細胞数、細菌数を算定する技術が知られている。
【0003】
細胞量・細胞数などを計測する方法として、培養容器内の培養溶液の透過光、または培養面の透過画像を検出し、その強度変化から粒子状物体の濃度を算定する方式がある。いわゆる濁度計測で利用される方法である。
図14のように、粒子濃度が多くなると、粒子による光散乱または/および回折または/および光吸収により、ホトセンサやカメラなどの光検出器で検出される透過光強度が減少するので、その透過光強度変化から、粒子数を算定するという方法である。このような方法の例は、特許文献1に記載される。
【0004】
このような方法では、粒子が高濃度に存在する場合に、粒子による光散乱・吸収による強度減少箇所が多くなり、全体として十分な強度変化が生じ、粒子数・濃度の算定が容易になるという利点がある。
【0005】
また別の方法として、粒子状物体の特徴量から個々の粒子を識別し、粒子を個々にカウントするという方式がある。たとえば、粒子の大きさに対して十分に細かく測定できるようなカメラなどで検出し、透過画像のコントラストから、粒子を識別し、粒子を個々に計数する粒子カウント方式がある。このような方法の例は、特許文献2に記載される。
【0006】
粒子カウント方式では、粒子を1個単位で識別し、計数するため、低濃度または粒子数が少ないときでも、粒子数の変化を感度よく検出でき、高感度、高精度の検出が可能となるという利点がある。これにより、例えば、粒子数のわずかな変化を高精度に検出することができるようになり、また、培養時の細胞の増殖の兆しをより早期に検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-306889号公報
【文献】特開2002-214228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、粒子を正確に認識できる粒子数の範囲が狭いという課題があった。
【0009】
たとえば特許文献1のように透過光強度変化を使う方法では、粒子数が少ないときは粒子による光散乱・吸収量が全体に対して僅かであり、透過光強度変化が小さい。そのため、粒子数・濃度を正確に算定することが困難になる。
【0010】
一方、たとえば特許文献2のような粒子カウント方式では、粒子数が多くなると、粒子同士の接触、粒子同士の重なりが確率的に多くなり、粒子の個別識別が困難になる。通常その分布はポアソン分布であらわされ、簡便的な数え落としモデルが知られている(
図15)。つまり、一定面積内に存在する粒子の量が多くなると、粒子を個々に計数する効率が低下することになる。さらに粒子数が多くなると、粒子同士の光透過方向への重なりが多くなる。その結果、透過光が多重散乱等することで、透過光強度が全体に低下し、その結果取得画像が不鮮明になるため、画像処理での粒子識別能が悪くなり、数え落としがさらに発生することになる(
図16)。このような理由等により、粒子カウントを行う場合、一定面積内に存在する粒子の量が多くなると、見かけ上、粒子計数値が逆に少なくなってしまい(例えば、
図17)、正確な粒子数、粒子濃度の算定が困難になる。とくに、粒子数が増えているにも関わらず、粒子数が少なくなってしまうという誤認識を引き起こしやすくなっている。個々の粒子を識別し、計数する場合には、このような原理的に避けられない課題がある。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、粒子状試料における粒子を正確に認識できる粒子数の範囲をより広くする粒子定量装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る粒子定量装置の一例は、
粒子状試料を表す試料画像を取得する画像取得手段と、
前記試料画像に関する演算処理を行うデータ処理手段と、
を備える、粒子定量装置であって、
前記データ処理手段は、
前記試料画像の画素の輝度IについてI<M-kσとなる低輝度画素を抽出する抽出手段であって、ただしMは基準画像に係る輝度であり、kは正の実数であり、σは基準画像における各画素の輝度の標準偏差である、抽出手段と、
抽出された画素に基づいて前記粒子状試料を認識する、粒子識別手段と、
を有することを特徴とする。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-133320号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る粒子定量装置によれば、粒子状試料における粒子を正確に認識できる粒子数の範囲がより広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る観察装置の概略構成図。
【
図2】粒子状試料を恒温状態で培養したときの画像の経時変化の一例。
【
図3】1個の粒子の拡大画像およびその特性解析図。
【
図4】第1の実施形態に係る、処理工程の説明フローチャート。
【
図5】粒子状試料の定量に係る検量線の例を説明する図。
【
図6】粒子状試料の定量に係る検量線の例を説明する図。
【
図7】粒子状試料の定量に係る検量線の例を説明する図。
【
図8】粒子状試料の定量に係る検量線の例を説明する図。
【
図9】粒子状試料の定量に係る検量線の例を説明する図。
【
図10】第1の実施形態に係る、低輝度領域の画素数の変化を示すグラフ。
【
図11】第2の実施形態に係る、観察装置による論理和演算の例を示す図。
【
図12】第3の実施形態に係る、処理工程の説明フローチャート。
【
図13】第3の実施形態に係る各工程における画像の例。
【
図14】従来技術による、透過光強度から粒子状試料を検出する方式の説明図。
【
図15】従来技術によって画像から粒子識別して粒子数をカウントする際の、数え落としモデルによる粒子量に対する計数効率変化を説明するシミュレーション図。
【
図16】従来技術による、粒子同士の重なりによる散乱・回折などによる光透過強度減少による、数え落としの影響を説明するシミュレーション図。
【
図17】従来技術による、数え落としが発生する場合の、実粒子数と、識別計数粒子数の関係を説明するシミュレーション図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0017】
[第1の実施形態]
【0018】
(1)装置の構成の概要
【0019】
第1の実施形態に係る装置を
図1に沿って説明する。
図1は、第1の実施形態に係る観察装置1の構成を示す概略構成図である。観察装置1は、粒子状試料を観察するための装置である。粒子状試料とは、たとえば粒子、細胞、または細菌を含む試料を意味する。「粒子」の意味はとくに限定しないが、たとえば細胞または細菌等の生物を含むものとして定義されてもよく、ラテックス粒子やポリスチレンビーズ等の無生物であってもよい。
【0020】
図1に示すように、観察装置1は、主要な構成要素として、照明用光学系101と、サンプル容器102と、台座103と、XYステージ104と、対物レンズ105と、対物レンズアクチュエータ106と、撮像カメラ107と、コンピュータ108とを備える。
【0021】
照明用光学系101は、粒子状試料を均一に照明する。たとえば粒子状試料がサンプル容器102の底面に配置されている場合には、サンプル容器102の底面を均一に照明する。照明用光学系101は、ケーラー照明等の光学系などから構築される。
【0022】
サンプル容器102は、粒子状試料を保持できる格納部を有するものとする。粒子状試料は、たとえば1つ以上のサンプル液として提供可能である。サンプル容器102としては、たとえば、シャーレ、ディッシュ、マイクロタイタープレート様のものが使われる。サンプル容器102は、その内部またはウェル内に、細胞、細菌などの生体関連の粒子状試料を保持する。サンプル容器102は、細胞培養または細菌培養等の作業に用いることができ、とくに、同定培養や薬剤感受性検査のための培養などに用いることができる。
【0023】
台座103は、サンプル容器102を保持することができる。台座103としては、サンプル容器102内の測定試料面の上面及び下面(すなわち光路における上流または下流)が光を透過する構造であると好適である。光を透過する構造としては、透明な部材を用いてもよいし、遮蔽構造体等のない空隙としてもよい。
【0024】
XYステージ104は、サンプル容器102を載せた台座103をX方向及びY方向に移動させることができる。XYステージ104は、サンプル容器102を温度調節するヒーター等を備えてもよい(不図示)。ヒーターとしては、例えば、透明ガラスヒータをその底面または周囲に配置することができる。または、光学系全体を断熱材で囲い、内部をヒーターで温度調節しても良い。
【0025】
対物レンズ105は対物レンズアクチュエータ106に保持される。対物レンズアクチュエータ106は、対物レンズ105をZ方向(照明光軸方向)に移動させるアクチュエータであり、対物レンズ105の焦点位置をサンプル容器102の深さ方向に走査することができる。対物レンズ105の動作により、サンプル容器102の測定試料面に撮像カメラ107の焦点を合わせることができる。
【0026】
撮像カメラ107は、粒子状試料を表す画像(試料画像)を取得する画像取得手段として機能する。このような構成は、粒子が透光性を有する場合に好適である。本実施形態では、試料画像は透過画像すなわち粒子状試料を透過した光によって構成される画像となる。撮像カメラ107は、対物レンズ105の焦点位置、すなわち粒子状試料の像が結像される位置に設置される。対物レンズ105が無限遠補正光学系対応のものであれば、撮像カメラ107と対物レンズ105の間に結像レンズを設置する。撮像カメラ107は、たとえば試料画像を顕微鏡画像として撮像する。撮像カメラ107は、撮像した試料画像を電気信号に変換し、出力または送信する機能を備える。本実施形態では、撮像された試料画像はコンピュータ108に転送される。
【0027】
撮像カメラ107と対物レンズ105との間には、必要に応じて、色ガラスフィルタ、干渉フィルタなどの光学フィルタ(不図示)を適宜挿入してもよい。
【0028】
コンピュータ108は、公知のコンピュータを用いて構成することができ、各種演算処理および制御を行なう演算部と、情報を記憶する記憶部とを備える。記憶部は、半導体メモリ装置などの一時的、揮発性または過渡的記憶媒体を含んでもよいし、ハードディスクなどの非一時的、不揮発性または非過渡的記憶媒体を含んでもよく、これらの両方を含んでもよい。また、コンピュータ108は、ユーザからの入力を受け付ける入力装置(マウス、キーボードなど)と、測定結果を表示する表示装置(ディスプレイなど)を備えてもよい。コンピュータ108は、本実施形態において、試料画像に関する演算処理を行うデータ処理手段として機能し、試料画像に関する演算処理を行うデータ処理工程を実行する。
【0029】
本実施形態では、観察装置1の観察対象として、生体関連の粒子状試料である細胞または細菌を用いる。細胞または細菌は、96穴マイクロタイタープレート内で培養され、経時変化が計測される。
【0030】
(2)試料画像の特徴
【0031】
図2は、粒子状試料を恒温状態で培養したときの画像(透過光像)の経時変化の一例である。
図2(a)は観察開始直後の画像であり、
図2(b)は観察開始から約2時間後の画像であり、
図2(c)は観察開始から6時間後における画像である。この図は、粒子状試料が培養時間に伴って増殖している様子を示している。約2時間後(
図2(b))では、粒子状試料を個別に識別することが可能であるが、6時間後(
図2(c))では、粒子同士が近接し、または重なってしまい、各粒子の輪郭が不鮮明となる。また、全体的に輝度が小さくなり、各粒子の識別は困難になる。この結果、特許文献2のような粒子カウント方式では、粒子の識別が困難になり、正確な計数が困難になってしまう。
【0032】
図3は、粒子状試料における1個の粒子の拡大画像およびその特性解析図である。
図3(a)は1個の粒子を中心近傍に配置した拡大画像であり、粒子が存在する領域R1と、左上の領域R2と、右上の領域R3と、左下の領域R4と、右下の領域R5とを含む。
【0033】
図3(b)は、
図3(a)の左上から右下へと延びる対角線Dにおける輝度プロファイルである。横軸は左上頂点からの距離を表し、縦軸は画素の輝度を表す。画像中央付近で粒子に対応する輝度の上昇が見られ、その輝度上昇部分の両端では粒子の周辺(縁)に対応する輝度の減少が見られる。
【0034】
図3(c)は、領域R1~R5それぞれの輝度プロファイルを表すヒストグラムである。横軸は輝度を表し、縦軸はその輝度を持つ画素の数を表す。この図では、各画素の輝度を0~255の256段階で表し、0が最も輝度が低く(暗く)、255が最も輝度が高い(明るい)ものとする。領域R1のヒストグラムH1のみ太線で示し、領域R2~R5のヒストグラムは細線で示す。なお
図3(c)では領域R2~R5のヒストグラムをとくに個別に特定していない(これは本実施形態の説明において本質的ではない)。
【0035】
粒子が存在することにより、光の回折現象などにより、粒子の中央付近の輝度が高く、粒子の周辺部分の輝度が低くなる。このため、領域R1のヒストグラムH1は、領域R2~R5のヒストグラムH2と比較して幅が広くなっている。すなわち、領域R1のヒストグラムH1は、輝度80~110前後において低輝度の画素からなる部分H1aを有し、輝度125~150前後において高輝度の画素からなる部分H1bを有する。
【0036】
(3)装置の作用の概要
【0037】
上述のように、粒子が存在すると、粒子の中心部が高輝度となり、粒子の周辺が低輝度となるという特徴が生じる。この特徴を使用して、公知の方式で、粒子を識別することが可能である。従来の粒子カウント方式ではこのような手法が用いられる。
【0038】
しかしながら、本発明者らは、粒子が存在していない部分に比べて低輝度の部分を抽出することによって、粒子の存在を簡便に確認できるということを見出した。以下、この原理に基づく観察装置1の動作の例を説明する。
【0039】
図4は、観察装置1の動作の一例を示すフローチャートであり、試料画像に対するデータ処理工程を含むものである。このフローチャートは、第1の実施形態に係る方法を表す。まず、観察装置1は、基準画像に基づいて所定の変数を設定する(ステップS1)。たとえば、基準画像として、粒子が存在していない部分を含む画像を準備しておく。
【0040】
基準画像としては、任意の画像を用いることができるが、たとえば試料画像のうち粒子が存在していない領域の画像を用いてもよいし、粒子数が0である場合の試料画像を用いてもよいし、粒子数が0とみなせる場合の試料画像を用いてもよい。このような基準画像を用いると、試料画像に適した基準を設定することができる。また、その他恣意的に作成した画像を用いてもよい。なお、基準画像は、あらかじめ感度ムラなどの補正がされていてもよい。
【0041】
また、基準画像は、固定された基準画像を異なる試料画像について用いてもよいし、試料画像それぞれについて適切な基準画像を選択または撮像して用いてもよい。とくに、粒子状試料ごとに異なる基準画像を毎回撮像してもよい。
【0042】
観察装置1は、この基準画像に係る輝度を基準輝度Mとする。基準画像に基づく基準輝度Mの定義方法は任意であるが、たとえば基準画像の画素ごとに基準輝度Mを定義することができる。より具体的な例としては、基準画像中のある位置における画素の輝度を、試料画像中の同じ位置における画素を評価する際の基準輝度Mとしてもよい。または、基準画像全体についてただ1つの基準輝度Mを定義することもでき、たとえば基準画像中の全画素の輝度の平均値を基準輝度Mとし、この基準輝度Mと試料画像中の各画素の輝度を比較してもよい。
【0043】
また、観察装置1は、基準画像における各画素の輝度の標準偏差σを算出する。さらに、観察装置1は、後述の閾値パラメータkを取得する。kの値は観察装置1があらかじめ記憶していてもよいし、任意の入力装置を介して入力されてもよい。
【0044】
次に、観察装置1は、撮像カメラ107によって試料を撮像し、撮影された試料画像を取得する(ステップS2、取得工程)。ここで、試料画像に対し、公知の様々な画像補正を実施してもよい。
【0045】
ついで、試料画像において、基準輝度Mに対して低輝度となる部分を抽出する(ステップS3、抽出工程)。本実施形態では、輝度の比較は、基準輝度Mに対して直接行うのではなく、基準輝度Mに応じて算出される閾値輝度Thに対して行う。この閾値輝度Thは、基準輝度Mより小さい値に決定される。
【0046】
本実施形態では、閾値輝度Thは、基準輝度Mと、基準画像における各画素の輝度の標準偏差σとを用いて算出される。たとえば、Th=M-kσとして算出される。ただしkは上述の閾値パラメータであり、正の実数である。kの値は、たとえば1≦k≦3の範囲内であり、たとえばk=2である。そして、観察装置1は、試料画像の画素のうち、その画素の輝度をIとして、I<Th=M-kσとなる画素を、低輝度画素として抽出する。
【0047】
図2(c)のように粒子(たとえば細胞)が増殖し、粒子が重なり合うように密集する状態になると、粒子の存在しない領域がほぼ無くなり、全体の画素の強度が小さくなる。このためコントラストも低下し、従来の粒子カウント方式では粒子の識別が困難になる。
【0048】
そこで、本実施形態では、以下のように検量線を用いて粒子の定量を行う。これにより、粒子が密集していたり、粒子が互いに重なり合っている場合でも、
図17に関連して説明したような計数ロスを防ぐとともに、粒子状試料の実際の量が増加するにつれ算定される量も増加するように処理を行う。
【0049】
図5~
図9は、ある粒子状試料について、培養時間ごとに得られた透過画像から、時間毎の、その全画素の輝度分布を並べて表示したヒストグラムである。横軸は輝度を表し、縦軸は画素数を表す。また、
図5~
図9において、k=2とした場合の閾値輝度Th=M-kσに相当する位置を破線で示す。
【0050】
図中の「m」は時間単位を表し、この例では「分」を表す。たとえば
図5には、培養時間が26分である場合の画像(すなわち培養開始から26分が経過した時点で撮像された画像)の輝度分布と、培養時間が56分である場合の画像(すなわち培養開始から56分が経過した時点で撮像された画像)の輝度分布とが示されている。
【0051】
培養開始時の画像を基準画像として、各時間の画像から基準画像を差し引いた画像の輝度分布(すなわち、各画素の輝度から基準輝度を減算した値の分布)を表示した。このため、輝度値は正負双方にわたって分布する。差し引きは画素単位で行った。なお、基準画像を差し引かなくても同様の処理は可能であり、その場合、図の横軸の値が変わることになる。
【0052】
図6より、176分以下のときには、輝度0付近にピークを有し、粒子がほぼ重なり合うことなく増殖している様子がわかる。200分を超えると、
図7に示すようにピーク位置がマイナス方向にずれる。すなわち、粒子の重なりなどにより、粒子が存在する位置の画素の透過強度が小さくなる。さらに時間が経過するにつれ、透過画像の輝度が小さくなる。このような状態では、粒子カウント方式などの従来の粒子識別手法を使っても、計数が正確にできなくなり、また、数え落しが大きくなり、逆に粒子が少なくなるという結果にもなる。
【0053】
そこで、本実施形態では、上述のステップS3で説明したように、基準輝度Mに対して低輝度となる領域を抽出し、その領域を粒子存在領域とする処理を行なうことで、上記の数え落としの影響を抑制する。
【0054】
コンピュータ108は、抽出された低輝度画素からなる領域(低輝度領域)に基づき、粒子状試料を認識または定量する(ステップS4、認識工程または定量工程)。すなわち、コンピュータ108は、低輝度画素を抽出する抽出手段として機能し、また、粒子状試料を認識する粒子認識手段または粒子識別手段として機能する。これにより、観察装置1は、抽出された低輝度画素に基づいて、粒子状試料を認識することができる。より具体的な例として、低輝度領域には粒子状試料が存在すると判定することができる。このようにして、観察装置1は粒子認識装置として機能する。
【0055】
また、観察装置1は、抽出された低輝度画素に基づいて、粒子状試料を定量することができる。すなわち、コンピュータ108は、粒子状試料を認識し、定量する粒子定量手段として機能する。ここで、「定量」とは、粒子の数を正確に計測することの他に、粒子の概数を算出すること、粒子の濃度を算出すること、等を含む。このようにして、観察装置1は粒子定量装置として機能する。
【0056】
定量を行う場合には、その具体的な方法は任意に設計可能であるが、たとえば、低輝度画素の数を算定し、この数に基づいて粒子状試料を定量することができる。または、たとえば、低輝度画素の数の、試料画像の画素の総数に対する割合を算定し、この割合に基づいて粒子状試料を定量することができる。
【0057】
観察装置1は、あらかじめ求めた検量線などを使用し、粒子数、濃度などを算定することができる。たとえば、コンピュータ108は、低輝度画素に関する値と、粒子状試料の量とを関連付ける検量線を取得する、検量線取得手段として機能してもよい。なお、この「低輝度画素に関する値」とは、低輝度画素の数、試料画像における低輝度画素の割合、等とすることができる。このような検量線は、コンピュータ108があらかじめ記憶していてもよい。
【0058】
また、たとえば、観察装置1(または上述の粒子定量手段)は、このような検量線と、試料画像における低輝度画素に関する値とに基づいて、粒子状試料を定量してもよい。より具体的な例としては、低輝度画素の数に応じて粒子状試料の量を与える関数や、低輝度画素の割合に応じて粒子状試料の量を与える関数を用いることができる。
【0059】
より具体的な例として、培養時間と、粒子状試料の量(たとえば細胞の数)との関係を別途の実験等で求めておき、
図5~
図9に示す情報から、培養時間と低輝度画素の数との関係を求める。これら2種類の関係に基づいて、低輝度画素の数と、粒子状試料の量とを関連付ける検量線を作成することができる。そして、上述のように、この検量線と、所望の試料画像における低輝度画素の数とに基づき、その試料画像における粒子状試料の量を決定することができる。
【0060】
次に、観察装置1は、測定を終了するか否かを判定する(ステップS5)。たとえば、事前に指定された測定時間が経過するか、または観察装置の使用者から所定の終了操作を受け付けた場合に、試料画像の取得を終了すると判定する。
【0061】
測定を終了しない場合には、観察装置は事前に指定される所定時間だけ待機し(ステップS6)、処理をステップS2に戻す。この場合には、所定時間後に試料画像の取得が繰り返される。このように、本実施形態に係る観察装置は、所定の時間ごとに試料画像を取得し、時間経過情報を取得することができる。たとえば、撮像カメラ107が所定時間ごとに試料画像を取得する。このようにすると、粒子状試料の量の経時変化をモニタすることができる。
【0062】
以上説明するように、たとえば、粒子数が少ないときには、粒子は、ほぼ重なり合うことなく存在する。1粒子当たりの低輝度領域は、粒子ごとにほぼ同等であり、粒子数の増加にほぼ比例して画像全体での低輝度領域が増加することになるため、特許文献1のように透過光強度変化を用いる従来の方法よりも正確な定量ができる。一方、粒子数が多い場合には、粒子同士の重なりが発生し、粒子像に相当する領域の輝度分布が小さいほうにずれ、全体的に暗くなり、粒子存在領域での低輝度領域の割合が増加する。そのため、粒子数が多く、重なりが増えるに従い、粒子存在領域のうち低輝度と判定される画素の数が増加するので、特許文献2にように粒子カウント方式を用いる従来の方法よりも正確な定量ができる。
【0063】
図10は、
図5~
図9に示す例において、培養時間に対する低輝度領域(粒子存在領域)の画素数の変化を示すグラフである。培養時間が小さいときは、
図3および
図5~
図9での説明のとおり、輝度Iが閾値輝度Th未満となる画素を抽出しており、粒子数の変化に対して高感度に検知することができる。
【0064】
さらに、培養時間が長くなり、粒子が密集したり互いに重なり合う状態となった場合でも、粒子数の算定結果はほぼ単調増加を示す。500分以降は、画像全体にわたり粒子が存在し、低輝度画素の数は飽和するが、
図17に示すように減少することはない。したがって、粒子数が測定限界を超えて増加しても、誤った測定値を得ることはない。
【0065】
このように、本実施形態の観察装置1に係る粒子認識装置、粒子定量装置、粒子認識方法および粒子定量方法によれば、従来の2方式の計数可能範囲を組み合わせた広い範囲において正確な定量ができるので、粒子状試料における粒子を正確に認識できる粒子数の範囲がより広くなる。
【0066】
観察装置1は、細胞または細菌の培養モニタリング、細胞または細菌の同定、細胞または細菌の薬剤感受性検査などに適用することが可能であり、広範囲の粒子数において正確な測定または検査が可能になる。
【0067】
たとえば、粒子状試料の量が少ない場合の感度が高く、粒子数の微小な変化を正確に検知できるとともに、粒子状試料の量が多く粒子状試料の重なりがある場合でも、カウントロスすることなく検出できる。
【0068】
また、本実施形態に係る観察装置1は、細胞または細菌の培養モニタや検査に限らず、たとえば、微粒子の凝集反応を利用した免疫反応測定での凝集塊の計測にも適用可能である。プロゾーンなどの現象を低減することも可能になる。
【0069】
観察装置1によれば、閾値パラメータkを設定するだけで領域抽出処理を簡単に行なうことができ、低コスト化が可能になる。また処理速度も高速にできる。
【0070】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態による低輝度領域と、他の手法による抽出領域との論理和を求めるものである。
図11は、第2の実施形態に係る観察装置による論理和演算の例を示す。
図11(a)における着色部分は、第1の実施形態に係る観察装置1によって決定された低輝度領域を表す。この図は
図3に大まかに対応しており、粒子の周縁部分は低輝度領域として抽出されているが、粒子の中央部分は輝度が高いため低輝度領域ではない。
【0071】
一方、
図11(b)における着色部分は、第1の実施形態以外の手法を用いて検出された粒子の存在領域を表す。たとえば、この変形例に係る観察装置において、コンピュータ108は、試料画像に基づいて粒子を個別に識別することにより、試料画像から個別識別領域を抽出する、個別識別手段として機能する。粒子を個別に識別する手法は任意であるが、たとえば公知のコントラスト法を用いてもよく、他の手法を用いてもよい。
【0072】
図11(c)における着色部分は、
図11(a)に示す低輝度画素からなる低輝度領域と、
図11(b)に示す個別識別領域との論理和によって与えられる論理和領域を表す。この変形例に係る観察装置(または上述の粒子定量手段)は、
図11(c)に示す論理和領域に基づいて粒子状試料を定量する。
【0073】
たとえば、第2の実施形態に係る観察装置(または上述の粒子定量手段)は、
‐論理和領域の各画素の輝度の平均値、または、
‐論理和領域の各画素の輝度の積算値、または、
‐論理和領域の画素の総数、または、
‐論理和領域に係る他の量
に基づいて粒子状試料を定量することができる。
【0074】
論理和領域の画素の数に基づく定量を行う場合には、たとえば、論理和領域の画素の数の、試料画像の画素の総数に対する割合を算定し、この割合に基づいて粒子状試料を定量することができる。
【0075】
第2の実施形態に係る観察装置は、あらかじめ求めた検量線などを使用し、粒子数、濃度などを算定することができる。たとえば、コンピュータ108は、論理和領域の画素に関する値と、粒子状試料の量とを関連付ける検量線を取得する、検量線取得手段として機能してもよい。なお、この「論理和領域の画素に関する値」とは、上記のように、論理和領域の各画素の輝度の平均値、または、論理和領域の各画素の輝度の積算値、または、論理和領域の画素の総数、等とすることができる。
【0076】
また、たとえば、第2の実施形態に係る観察装置は、このような検量線と、試料画像における論理和領域の画素に関する値とに基づいて、粒子状試料を定量してもよい。より具体的な例としては、論理和領域の画素の数に応じて粒子状試料の量を与える関数や、論理和領域の画素の割合に応じて粒子状試料の量を与える関数を用いることができる。
【0077】
このように、第2の実施形態の観察装置に係る粒子認識装置、粒子定量装置、粒子認識方法および粒子定量方法によれば、第1の実施形態に加え、さらに公知の手法を用いて粒子の存在領域を抽出することができるので、粒子状試料の特性によっては、より正確な認識または定量を行える可能性がある。特に、粒子数が少ないときには、1粒子当たりの論理和抽出画素数がおおきくなるため、粒子数が少ないときの粒子数変化をより高感度に検出できる可能性がある。
【0078】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、第1の実施形態または第2の実施形態において、試料画像に対するノイズ・アウトライア除去に係る処理を追加するものである。
【0079】
図12は、第3の実施形態に係る観察装置の動作の一例を示すフローチャートであり、試料画像に対するデータ処理工程を含むものである。このフローチャートは、第3の実施形態に係る方法を表す。
図12の処理において、まず観察装置は、試料画像を取得する(ステップS11)。この処理は、たとえば
図4のステップS2と同様とすることができる。
【0080】
次に、観察装置は、試料画像の取得を終了するか否かを判定する(ステップS12)。たとえば、事前に指定された測定時間が経過するか、または観察装置の使用者から所定の終了操作を受け付けた場合に、試料画像の取得を終了すると判定する。
【0081】
試料画像の取得を終了しない場合には、観察装置は事前に指定される所定時間だけ待機し(ステップS13)、処理をステップS11に戻す。この場合には、所定時間後に試料画像の取得が繰り返される。このように、第3の実施形態に係る観察装置は、所定の時間ごとに試料画像を取得し、時間経過情報を取得することができる。たとえば、撮像カメラ107が所定時間ごとに試料画像を取得する。このようにすると、粒子状試料の量の経時変化をモニタすることができる。
【0082】
ステップS12において、試料画像の取得を終了する場合には、それまでに取得された試料画像について定量動作が開始される。すなわち、以下に説明するようにコンピュータ108が粒子定量手段として機能し、各試料画像について粒子状試料を定量する。
【0083】
図13を用いて、
図12のステップS14~S18における処理の例を説明する。
図13(a)~
図13(d)は、第3の実施形態に係る各工程における画像の例を表す。まず、コンピュータ108は、各試料画像に対してシェーディング補正等を行う(ステップS14)。これによって、
図13(a)に示すように、感度ムラ、光源ムラ、ゆがみ等が補正される。
【0084】
次に、コンピュータ108は基準画像を選定する(ステップS15)。これはたとえば第1の実施形態と同様にして行われる。また、このステップS15において、基準画像における画像のバラツキ(たとえば画素の輝度値のバラツキ)を計算する。たとえば第1の実施形態と同様にして、基準画像における各画素の輝度の標準偏差σを算出する。
【0085】
次に、コンピュータ108は、各試料画像から基準画像を差し引く(ステップS16)。たとえば、各画素の輝度Iから基準輝度Mを差し引いて相対輝度Ir=I-Mを算出する。これによって
図13(b)に示すような画像が得られる。
【0086】
次に、コンピュータ108は、差し引いた結果の画像に基づき、低輝度領域を抽出する(ステップS17)。たとえば、相対輝度Irについて、Ir<Thとなる画素を低輝度画素として抽出する。なお、ここではたとえばThはTh=-kσとして定義される。これによって
図13(c)に示すような画像が得られる。なお、ここでは形式的には相対輝度Irに基づいて低輝度画素を抽出しているが、実質的には各画素の輝度IについてI<M-kσとなるものを抽出した結果と同一となる。
【0087】
第3の実施形態においても閾値パラメータkの値は任意に選択可能であり、たとえばk=1としてもよい。また、低輝度領域を抽出するための具体的な手法として、2値化処理を行ってもよい。すなわち、低輝度画素をビット0で表し、それ以外の画素(高輝度画素)をビット1で表してもよい。
【0088】
次に、コンピュータ108は、低輝度領域に対して、ノイズ・アウトライア除去に係る処理を行う(ステップS18)。ノイズ・アウトライア除去とは、ノイズと考えられる画素や、アウトライアと考えられる画素の影響を排除するものであり、公知の手法を用いることができるが、具体例を以下に説明する。たとえば、ステップS17で低輝度画素ではなかった画素(すなわち高輝度画素)であって低輝度画素に囲まれている画素は、ノイズであると判定し、ステップS17の結果に関わらず低輝度画素として抽出する。これによって
図13(d)に示すような画像が得られる。
【0089】
ここで、「低輝度画素に囲まれている画素」の具体的な定義は当業者が適宜設計可能であるが、たとえば、その画素の上下左右合計4画素がすべて低輝度画素であることを条件としてもよいし、斜め方向まで含めた合計8画素がすべて低輝度画素であることを条件としてもよいし、他の条件を用いてもよい。
【0090】
次に、コンピュータ108は、低輝度領域に基づいて粒子状試料を認識または定量する(ステップS19)。これは第1の実施形態のステップS4と同様に行うことができる。
【0091】
以上説明するように、第3の実施形態の観察装置に係る粒子認識装置、粒子定量装置、粒子認識方法および粒子定量方法によれば、第1の実施形態または第2の実施形態における効果に加え、さらにノイズ除去によってより正確な定量を行うことができる。
【0092】
[その他の実施形態]
第1~第3の実施形態において、以下のような変形を施すことができる。
第1~第3の実施形態において、低輝度画素に加え、高輝度画素を抽出してもよい。たとえば、試料画像の画素のうち、I>M+kσとなる画素を、高輝度画素として抽出してもよい。その場合には、抽出された低輝度画素および高輝度画素の双方に基づいて、粒子状試料を認識することができる。たとえば、低輝度画素または高輝度画素のいずれか一方が存在している領域には、粒子が存在すると判定することができる。
【0093】
第1~第3の実施形態において、各画素に対してその画素の輝度に基づく補正値をあらかじめ決定しておき、この補正値を各画素に乗算し、その結果に基づいて低輝度画素を抽出する方式としてもよい。また、あらかじめ1粒子あたり平均画素数を取得しておき、低輝度画素の数をこの平均で除算して、粒子数を算定する方式も適用可能である。これらの方式でも、上述の各実施形態と同様の効果を有する。
【0094】
第1~第3の実施形態において、飽和した低輝度領域に対し、輝度の減少量に基づいて、粒子状試料の量を補正してもよい。低輝度画素が飽和している画像または領域(すなわち、粒子状試料が増加してももはや低輝度画素が増加しない状態になっている画像または領域)であっても、
図8および
図9に示すように、粒子状試料が増加すれば輝度の減少が生じる。
【0095】
このような変形例の具体的手法として、たとえば、ある画像または画像の特定領域の、画素の輝度の統計的量に応じ、粒子状試料の量を補正するような関数を用いてもよい。画素の輝度の統計的量とは、たとえば、
図5~
図9のような輝度ヒストグラムにおけるピーク輝度の値であってもよいし、画素の輝度の平均値であってもよい。たとえば、ピーク輝度が減少するにつれ粒子状試料の量を増加させるように補正する関数を用いることができる。輝度の減少は、粒子の重なりが増えている情報であるので、輝度の減少量に基づく補正を行なうことにより、粒子状試料の量の測定範囲をさらに広げることができ、より広いダイナミックレンジを得ることができる。
【0096】
第1~第3の実施形態において、試料画像の形式は当業者が任意に設計可能である。たとえば、8bitのグレースケール画像を用いてもよいし、16bitのグレースケール画像を用いてもよい。また、カラー画像をグレースケール画像へ変換してから用いてもよい。
【0097】
第1~第3の実施形態では、試料画像として透過光像を使用したが、試料画像は透過画像に限らない。たとえば、公知の手段で取得できる相差像、微分干渉像などを試料画像とすることもできる。この場合でも処理は同様である。
【0098】
第1~第3の実施形態では、粒子状試料は透光性を有するが、透光性を有しないものを用いてもよい。また、粒子状試料としてはたとえば粒子、細胞または細菌が用いられるが、これら以外の試料を用いてもよい。
【0099】
第1~第3の実施形態において、試料画像に対して画像補正を行ってもよい。たとえば、シェーディング補正、感度ムラ補正、ノイズ除去、スムージング、等などの画像処理を行なってもよい。また、光源ムラ、検出器感度ムラなどの補正を行なってもよい。これらの補正を行うと、より正確な定量が可能になる。
【0100】
第1~第3の実施形態において、観察装置の光学系は
図1のような構成とする必要はなく、試料画像を取得する画像取得手段を設けることができる構成であればどのようなものであってもよい。また、光学系を含まず、通信ネットワークまたは可搬型記憶媒体等を介して試料画像を取得するものであってもよい。
【0101】
第1~第3の実施形態において、観察装置は、粒子状試料の定量を行わないものであってもよい。たとえば、粒子の存在領域を識別し、その位置または形状等を出力する装置であってもよい。
【0102】
本開示は、上述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、様々な他の変形例をも包含する。各実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0103】
1…観察装置(粒子定量装置)
101…照明用光学系
102…サンプル容器
103…台座
104…XYステージ
105…対物レンズ
106…対物レンズアクチュエータ
107…撮像カメラ(画像取得手段)
108…コンピュータ(データ処理手段、粒子認識手段、粒子定量手段)
M…基準輝度
k…閾値パラメータ
σ…標準偏差
S2…ステップ(取得工程)
S4…ステップ(認識工程、定量工程)
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。