IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人国立国際医療研究センターの特許一覧

<>
  • 特許-マイクロニードルパッチの製造方法 図1
  • 特許-マイクロニードルパッチの製造方法 図2
  • 特許-マイクロニードルパッチの製造方法 図3
  • 特許-マイクロニードルパッチの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】マイクロニードルパッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
A61M37/00 505
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020506118
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018035899
(87)【国際公開番号】W WO2019176146
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】62/643,761
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】金 範ジュン
(72)【発明者】
【氏名】高間 信行
(72)【発明者】
【氏名】興津 輝
(72)【発明者】
【氏名】コールマン アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】木下 梨恵
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 豊
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0112643(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101612092(CN,A)
【文献】特開2015-157072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0051695(US,A1)
【文献】特表2005-503194(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057345(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61H 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性材料を含む針形成材料を3Dプリント法により基材上に印刷して柱状体を形成した母材を得る針母材形成工程と、
前記母材をエッチング液に浸漬することにより前記柱状体を等方性エッチングしてマイクロニードルを形成するマイクロニードル形成工程と、
を有するマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項2】
前記針母材形成工程において、前記柱状体を前記基材上に円錐台形状に形成する
請求項に記載のマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項3】
前記基材は、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリウレタン樹脂の少なくとも一つを含むフィルムまたはハイドロコロイド系フィルムで構成され、
前記針形成材料は、ポリ乳酸であり、
前記エッチング液は、水酸化ナトリウム水溶液である
請求項に記載のマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項4】
前記マイクロニードル形成工程の後、前記マイクロニードルの先端部を被覆する被覆工程をさらに備える請求項に記載のマイクロニードルパッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イクロニードルパッチの製造方法に関する。本願は、2018年3月16日に米国に出願された仮出願62/643,761に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルは人体への刺入時に痛みを感じ難いため、近年、採血、薬液や美容液の投与に好適に用いられている。例えば、医療や美容の分野において、マイクロニードルを多数備えたマイクロニードルパッチが用いられている。特許文献1には、内部に網目状流路が形成されたマイクロニードルが基材上に複数立設されたマイクロニードルアレイが記載されている。特許文献1には、給水性能が高いハイドロゲル材料を用いてマイクロニードルアレイを形成することにより、網目状流路の給水速度を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2017-724号公報
【文献】韓国特許101816922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のマイクロニードルアレイは、網目状流路に薬液を保持する構成であるため、高分子の有効成分等には適用できない場合がある。
【0005】
従来のマイクロニードルの製造方法として、マイクロ金型に針形成材料を注入してマイクロニードルを得るモールディング方式がある。モールディング方式の場合、マイクロ金型によってマイクロニードルの形状及び寸法が決まる。そのため、マイクロニードルの形状の多様化、長さ、細径化、複数のマイクロニードルの間隔等に製造とコスト上の制限がある。また、製造過程で加熱を行うため、針に含有させる薬剤に制限がある。
【0006】
この他のマイクロニードルの製造方法として、特許文献2のドローイング・リソグラフィー方式が挙げられる。ドローイング・リソグラフィー方式は、フィルム上に針形成材料をスポット配置し、別のフィルムを針形成材料に接触させた後、一方のフィルムを上方に移動させることにより針形成材料を引き上げて(ドローイング)マイクロニードルを形成する方法である。ドローイング・リソグラフィー方式では、マイクロニードルパッチを製造できる面積に制約がある。また、ドローイング・リソグラフィー方式では、1つのパッチの上に任意に異なる長さのマイクロニードルアレイの製造は不可能である。
【0007】
本発明は、生体刺入時に痛みを伴わない生分解性のマイクロニードルを備えるマイクロニードルパッチを効率的に製造できるマイクロニードルパッチの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第の態様は、生分解性材料を含む針形成材料を3Dプリント法により基材上に印刷して柱状体を形成した母材を得る針母材形成工程と、前記母材をエッチング液に浸漬することにより前記柱状体を等方性エッチングしてマイクロニードルを形成するマイクロニードル形成工程と、を有するマイクロニードルパッチの製造方法である。
【0013】
本発明の第の態様は、上記マイクロニードルパッチの製造方法の前記針母材形成工程において、前記柱状体を前記基材上に円錐台形状に形成してもよい。
【0014】
本発明の第の態様は、上記マイクロニードルパッチの製造方法において、前記基材は、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリウレタン樹脂の少なくとも一つを含むフィルムまたはハイドロコロイド系フィルムで構成され、前記針形成材料は、ポリ乳酸であり、前記エッチング液は、水酸化ナトリウム水溶液であってもよい。
【0015】
本発明の第の態様は、上記マイクロニードルパッチの製造方法における前記マイクロニードル形成工程の後、前記マイクロニードルの先端部を被覆する被覆工程をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生体刺入時に痛みを伴わない微細寸法のマイクロニードルを備えるマイクロニードルパッチを効率的に製造できるマイクロニードルパッチの製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るマイクロニードルパッチの斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法の一過程を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態のマイクロニードルパッチ1を模式的に示す斜視図である。マイクロニードルパッチ1は、基材10と、複数のマイクロニードル20とを備えている。
【0019】
基材10は、生体適合性を有する材料により形成されている平板状体である。基材10は、例えば、ポリ乳酸樹脂(Poly-Lactic Acid樹脂、以下、「PLA樹脂」と記載する。)、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol樹脂、以下「PVA樹脂」と記載する。)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate樹脂、以下、「PMMA樹脂」と記載する。)、ポリウレタン樹脂の少なくとも一つを含むフィルムまたはハイドロコロイド系フィルムで構成されている。基材10としてポリウレタン樹脂フィルムを用いる場合、ニードルパッチ1の装着性の観点から、引張弾性率50~700MPa(最大伸び率100~600%)の柔軟なフィルムを用いると好ましい。例えば、ヒトの皮膚や粘膜に帖着させた際に、皮膚や粘膜の動きに追従し、貼着状態を保持可能な程度の柔軟性を備えていればよい。
【0020】
基材10は、後述する口内炎治療等、体内に留置する用途のマイクロニードルパッチの場合、セルロース類(繊維成分)等であると、誤飲時に人体への影響がないため好ましい。外皮等に留置するマイクロニードルパッチの場合は、誤飲のリスクが無い為、針形成材料は、既存の生体分解性のヒアルロン酸、コラーゲンやデキストリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、プロテオグリカン等の水溶性天然物高分子物質が使用し得る。ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(部分ケン化物)、ポリアクリル酸(塩)等の合成高分子物質も使用し得る。特に、本特許では、3Dプリント法に使用可能な生体分解性のPLA樹脂、ポリグリコール酸(Polyglycolic acid、PGA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体(PLGA)、または、ハイドロコロイド系、ポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate)等を用いてもよい。
【0021】
マイクロニードル20は、基材10の一面に複数立設されている。マイクロニードル20は、基材10と接合している基部21が円形であり、先端部22に向かって先細る略円錐形状を有する。なお、図1で示したマイクロニードルパッチ1は模式的に示した図であり、マイクロニードル20の数は図1に示す態様に限定されない。マイクロニードル20の数が多く、かつ近接していると、皮膚に刺入し難くなる。基材10の一面上に立設されるマイクロニードル20は、基部21の中心間のピッチが0.5mm以上であればよく、マイクロニードル20の数は任意に設定可能である。また、マイクロニードルパッチ1は、基材10上に一つのマイクロニードル20が設けられる構成であってもよい。本実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法は、既存の他のマイクロニードルの製造方式と比べて、より広面積においてマイクロニードルアレイの作製が可能であり、ニードルの間のピッチ、配置と密度などを自由設計で作製可能である。
【0022】
マイクロニードル20は、基部21からの長さ(高さ)Hが200μm~1500μmである。マイクロニードル20の長さHが200μmより短いと、皮膚への刺入深さが浅く、皮膚の深部へ薬剤や美容成分を伝達する性能が十分に得られない。生分解性材料で形成されたマイクロニードルの場合、マイクロニードル20の長さHが1500μmより長いと、皮膚への刺入時に針が座屈する虞がある。すなわち、マイクロニードルは、長さHが200μm~1500μmであることにより、皮膚への刺入能力が高く、且つ、十分な刺入深度が得られる。応用に応じて、長さHは調整可能であるが、針径が細くなっても、長さが1000μm以上になると、痛みを生じることは避けられない。
【0023】
マイクロニードル20は、基部21の直径DBが500~1500μm、先端部22の直径DTが10~60μmである。マイクロニードル20は、先端部22の直径DTが10~60μmであることにより、刺入時に痛みを伴わないレベルの針先が形成される。マイクロニードル20の基部21の直径DBが500~1500μmであることにより、長尺なマイクロニードルを安定支持可能である。
【0024】
マイクロニードル20は、長さHと基部21の直径DBとの比がH:DB=1:0.1~1:1.5である。長さHおよび直径DBはそれぞれ、少なくともマイクロニードルパッチに設けられる複数のニードルの平均値が上記比率の範囲であればよい。この結果、長尺なマイクロニードル20を基部21で安定支持可能である。生分解性材料で形成されたマイクロニードル20において、先端が細径且つ長尺なマイクロニードル20であっても、刺入時の形状の保持性能を十分に保持できる。
【0025】
本実施形態のマイクロニードルパッチの製造方法の場合、マイクロニードル20の寸法(長さHおよび直径DB)は、本来、自由な設計が可能である。しかし、実際の応用を考えると、マイクロニードルパッチの長さHと基部21の直径DBとの比は上記範囲が望ましい。なお、ニードルの形状は、円錐形、円錐台形状、従来の金型製造方式にて一般的なピラミッド形は勿論、先尖型の円柱形、オベリスク形など、より容易に高い自由度を有する柔軟な形状の設計および製造が可能である。
【0026】
マイクロニードルとしては、刺入時の痛みを低減するために、より細径なマイクロニードルが望まれている。その一方で、針径を細径化して十分な強度が得られない場合は、体内で折れて皮膚内に残留する可能性がある。そこで、マイクロニードルパッチ1は、使用後や針の破断時にマイクロニードルが体内に残留することを防ぐため、体内で分解可能な生分解性材料でマイクロニードル20を形成している。生分解性材料としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体(PLGA)などを例示できる。
【0027】
マイクロニードル20は、先端部22を被覆するコーティング30を備えている。コーティング30の材料としては、生体への親和性が高く、乾燥状態で一定の硬度を有する材料、例えば、ヒアルロン酸を例示できる。コーティング30は、マイクロニードル20の少なくとも先端部22を覆えばよく、例えば、基部21までコーティングを設けてもよい。
【0028】
マイクロニードルパッチ1の製造方法について説明する。マイクロニードルパッチ1の製造法は、3Dプリント法により基材10上に柱状体50を形成して母材40を得た後、柱状体50をエッチングしてマイクロニードル20を形成する。
【0029】
まず、生分解性材料を含む針形成材料を3Dプリント法により基材10上に印刷して柱状体50を形成し、母材40を得る(針母材形成工程S1)。
【0030】
3Dプリント法は、FDM法(Fused Deposition Method)、SLA法(Stereolithographic 3D Printing)等、公知の3Dプリント法を用いることができる。
【0031】
針形成材料は、FDM法の場合、ABS等、アルキル鎖を有する高分子主鎖、ナイロン等のアミド、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等のウレタン、ポリ乳酸(PLA),PET等のエステル類が使用できる。
針形成材料は、SLA印刷の場合、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアルキル鎖修飾エステル等が使用できる。マイクロニードルの主材料が生分解性材料である場合は、針形成材料としては、生分解性材料に加えて、薬効成分や美容成分等の有効成分を混在させてもよい。このような針形成材料でマイクロニードルを形成すると、マイクロニードルが体内で生分解されるときに有効成分が体内に浸透しやすい。また、有効成分に遅効性が求められる場合に有効である。この他、針形成材料には、付加機能として、熱変色性、フォトクロミズム、電気抵抗、機械的強度及び柔軟性等の付加機能を発揮する高分子材料を混合してもよい。
【0032】
針形成材料は、マイクロニードルパッチ1の用途やマイクロニードル20の寸法に応じて適宜選定する。すなわち、口内等の粘膜にマイクロニードルパッチを留置する場合は、パッチの誤飲時、マイクロニードル20の破断時等に体内に残留することを防ぐためにポリ乳酸等の生分解性材料を用いる。同様に、極細径のマイクロニードル20を形成する場合は、マイクロニードルパッチを外皮に留置する場合も、マイクロニードル破断時に体内に残留することを防ぐためにポリ乳酸等の生分解性材料を用いる。一方、寸法が比較的大きいマイクロニードルを備えるマイクロニードルパッチを外皮に留置する場合は、破断物の体内残留のリスクが少ないため、生分解性材料以外の材料でマイクロニードルを形成してもよい。
【0033】
3Dプリンタのノズル径は、200μm~600μmである。柱状体50は、基材上に円錐台形状に形成する。柱状体50は、形成するマイクロニードル20の外寸法より大きい。本実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法は、3Dプリント法により形成した柱状体50を、エッチングにより細径化する。したがって、3Dプリント法による製造限界よりも細径なマイクロニードル20が形成可能である。
【0034】
柱状体50は3Dプリント法により形成するため、任意の形状に設計可能である。例えば、柱状体を設ける数やピッチ、柱状体の寸法、形状等を任意に設定できる。例えば、基材上に設ける複数の柱状体の寸法、形状を個別に変えることも可能である。したがって、マイクロニードルパッチ1の用途に応じて、任意の数、形状、寸法のマイクロニードル20を設けることができる。
【0035】
次に、母材40をエッチング液に浸漬して柱状体50をケミカルエッチングする(マイクロニードル形成工程S2)。具体的には、エッチング液を入れた容器内に母材40全体を所定時間浸漬し、柱状体50をエッチングする。エッチング液は、柱状体50がエッチング可能であればよい。エッチング液は、例えば、水酸化ナトリウム、高分子加水分解酵素等が好適に使用でき、柱状体50を構成する生分解性材料及び製造上の実用性の観点では、エッチング液は水酸化ナトリウムが好適である。水酸化ナトリウムをエッチング液に用いると、等方性エッチングと線形的エッチング率を実現でき、プログラム的に設計する形状と寸法案に基づいてエッチング時間を調整してマイクロニードルアレイを作製できる。
【0036】
エッチング時間は、作製するマイクロニードルの径に応じて設定する。例えば、高さ3000μm、直径700μの柱状体をエッチングする場合、エッチング時間は、60分~72時間であればよい。エッチング時間が60分より短いと、エッチングが不十分であり、刺入時に痛みを伴わないレベルのマイクロニードルが得られない。また、エッチング時間が72時間より長いと、柱状体が過剰にエッチングされ、マイクロニードルの高さが得られない。しかし、エッチング時間は、設計通りのエッチング率で等方性エッチングができる条件であれば良いので、温度、エッチング液の水素イオン指数(pH)、濃度により制御できる。
【0037】
次に、マイクロニードル形成工程S2で形成されたマイクロニードル20の先端部22を被覆する(被覆工程S3)。マイクロニードル20の先端部22をコーティング材料の溶液に浸して引き上げると、マイクロニードル20の先端部22を覆うようにコーティング材料が付着し、針の先端状の外形となる。
付着したコーティング材料を乾燥させると、マイクロニードル20の先端部22を覆うコーティング30が形成され、マイクロニードルパッチ1が完成する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るマイクロニードルパッチ1によれば、使用者がマイクロニードル20の刺入時に痛みを感じることがないマイクロニードルパッチ1を提供できる。
【0039】
本発明に係るマイクロニードルパッチ1は、長さHと基部21の直径DBとの比がH:DB=1:0.1~1:1.5であるマイクロニードル20を備える。このため、刺入時に痛みを伴わない生分解性のマイクロニードル20を備えるマイクロニードルパッチ1を提供できる。
【0040】
本発明に係るマイクロニードルパッチ1は、少なくとも先端部22を被覆して皮膚に刺入可能なコーティング30を有するため、コーティング30により先端部22を鋭利にし、針としての機能を確保でき、生分解材料で形成されているマイクロニードル20の先端部22の鋭利な先端形状を保持可能である。
【0041】
本実施形態に係るマイクロニードルパッチ1によれば、マイクロニードル20は、生分解性材料で形成されているため、経時的に皮膚内で分解吸収され、炎症等の有害事象を生じない。したがって、使用後や針の破断時にマイクロニードルが体内に残留することを防ぎ、生体への負荷が少なく、極めて安全である。
【0042】
本実施形態に係るマイクロニードルパッチ1は、マイクロニードル20の先端部22の直径DTが10μm~60μmであるため、刺入時に痛みを伴わない細径なマイクロニードル20を提供できる。
【0043】
本実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法によれば、細径で皮膚への刺入時に痛みを伴わないマイクロニードル20を備えるマイクロニードルパッチ1を確実かつ簡便に製造することができる。
【0044】
本実施形態に係るマイクロニードルの製造方法によれば、針母材形成工程S1において、生分解性材料を含む針形成材料を3Dプリント法により基材10上に印刷して柱状体を形成した母材を得る。したがって、柱状体を3Dプリント法により任意の形状で基材10上に形成できる。また、従来のマイクロ金型を用いた製法に比べて、マイクロニードル20の設計の自由度が高い。
【0045】
さらに、本実施形態に係るマイクロニードルの製造方法によれば、マイクロニードル形成工程S2において柱状体50をエッチングしてマイクロニードルを形成する。したがって、微細寸法の柱状体50をエッチングにより更に細径化したマイクロニードル20を得ることができる。また、3Dプリント法により柱状体を形成し、かつ、エッチングによりマイクロニードル20を得るため、形状の制御が容易であり、高品質なマイクロニードル20を備えるマイクロニードルパッチ1を製造できる。また、本実施形態に係るマイクロニードルの製造方法は、マイクロニードルパッチ1の大量生産に適する。
【0046】
本実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法では、針母材形成工程S1において基材10上に円錐台形状の柱状体を形成するため、その後のマイクロニードル形成工程S2で形成されるマイクロニードル20は円錐形状となる。円錐形状のマイクロニードル20は皮膚への刺入性能が高い。したがって、皮膚への刺入性能が高いマイクロニードルパッチ1を容易に製造できる。
【0047】
本実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法では、基材10は、PLA樹脂、PVA樹脂、またはPMMA樹脂で構成される。PVA樹脂を基材10に用いる場合はフィルムの形態を用いる。針形成材料はポリ乳酸であり、エッチング液は、水酸化ナトリウム水溶液を用いる。この結果、マイクロニードル形成工程S2におけるエッチング時に、基材10より柱状体50を先にエッチングできる。したがって、マイクロニードルパッチ1の基材10にエッチングにより製品誤差が生じることがなく、均質なマイクロニードルパッチ1を大量生産できる。
【0048】
本実施形態に係るマイクロニードルパッチの製造方法では、マイクロニードル形成工程S2の後、被覆工程S3により、マイクロニードル20をコーティングする。したがって、コーティング30により先端部22を鋭利にし、針としての機能を確保し、生分解材料で形成されているマイクロニードル20の先端部22の鋭利な先端形状を保持可能なマイクロニードルパッチ1を製造できる。
【0049】
マイクロニードルパッチ1においては、コーティング30の態様をさまざまに変更できる。コーティング30が皮膚内で速やかに溶ける材料で形成されている場合は、コーティング30がマイクロニードル20の側面全体を覆っていてもよい。コーティング30が先端部22のみを覆う場合は、コーティング30を生分解性の材質で形成すれば、必ずしも皮膚内で速やかに溶けない構成でもよい。なお、コーティングは本発明に係るマイクロニードルにおいて必須ではない。
【0050】
本発明に係るマイクロニードルパッチの製造方法は、上述の通り、生分解性材料からなる細径なマイクロニードルを備えるマイクロニードルパッチの製造に適している。この他、公知のマイクロニードルのような大きな寸法のマイクロニードルを備えるマイクロニードルパッチの製造にも適用可能である。
【0051】
本発明に係るマイクロニードルパッチは、生体刺入時に痛みを伴わない大きさのマイクロニードルを備えた高機能性マイクロニードルパッチを提供できる。このマイクロニードルパッチは、例えば、美容用途の他、経皮インスリンパッチ、経皮ワクチンパッチ、ペプチド・タンパク性医薬品を含む難吸収性薬物の経皮パッチなど、経皮ドラッグデリバリーシステムに利用できる。
【0052】
経皮ドラッグデリバリーシステムの使用例としては、口内炎用パッチが考えられる。癌の化学療法や放射線治療を行う患者は、口内炎の発症例が多く、口内炎の激しい疼痛の影響で摂食機能の著しい低下や治療意欲の減退等、癌治療に重大な影響を与える。このような口内炎患者に対し、患部にマイクロニードルパッチを留置すると、マイクロニードル20が患部に刺入された状態が長時間保持される。その結果、マイクロニードルパッチ1が患部から剥がれ難い。また、マイクロニードル20の刺入による適度な物理的刺激が口内炎の治療に効果を奏する。さらに、マイクロニードル20に薬剤を担持させた構成とすると、薬剤が粘膜内へ効果的に浸透して口内炎の軽減に寄与する。また、マイクロニードルパッチ1を留置することにより患部が覆われるため、温冷刺激などから患部を遮蔽・保護するとともに、二次感染を防ぐことができる。
【0053】
本発明に係るマイクロニードルパッチの製造方法は、安定した品質のマイクロニードルパッチを効率的に製造可能であり、且つ、大量生産が可能である。
【0054】
(実施例)
上記マイクロニードルパッチの製造方法によりマイクロニードルパッチを製造した。基材10として、生分解性ポリマーからなる直径6mmの円板形状のシートを用意した。針形成材料として、ポリ乳酸とヒアルロン酸との混合物を用意した。
【0055】
ノズル径350μmの3Dプリンタ(LulzBot社製、TAZ6)を用いて基材10上に柱状体50を形成し、母材40を得た。柱状体50は、高さ(長さ)が1800μm、基部21の直径が1mm、先端部22の直径が350μmの円錐台形状に形成し、これを基部21の中心間のピッチが1.5mmとなるように16本(4×4)の柱状体50を形成した。
【0056】
脱イオン水(純水)に水酸化ナトリウムを混合し4M濃度のエッチング液を作製した。エッチング液をポリエチレンタンクに入れた。エッチング液内に、母材40を入れ、24時間浸漬し、エッチングした。
【0057】
エッチング後のパッチのマイクロニードル20の先端部22を、ハイドロコロイドバンドに入れて引き上げコーティングを行い、マイクロニードルパッチを得た。得られたマイクロニードルパッチにおける各マイクロニードル基部の平均直径は500μm、先端部の平均直径が50μm、平均高さが450μmであった。
【0058】
ラットの粘膜を焼灼し口内炎に類似した粘膜上皮欠損を形成した。各ラットの粘膜上皮欠損に実施例のマイクロニードルパッチを貼り、ラットの体重および食べた餌の量を定期測定した。その結果、一時的にラットの食餌量及び体重が減少し、7日後には食餌量及び体重が回復した。
【0059】
また、実施例のマイクロニードルパッチをラットの粘膜から剥がして、粘膜を実体顕微鏡下に観察した。さらにパラフィン包埋による組織切片を作成し、それにH-E染色を施した後に光学顕微鏡下で観察した。その結果、被検体では、16本のマイクロニードルが全て粘膜上皮に刺入されていることが確認できた。
【0060】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各実施形態における構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、生体刺入時に痛みを伴わない生分解性のマイクロニードルを備えるマイクロニードルパッチを効率的に製造できるマイクロニードルパッチの製造方法を提供可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 マイクロニードルパッチ
10 基材
20 マイクロニードル
30 コーティング
40 母材
50 柱状体
図1
図2
図3
図4