(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】試料製造装置および試料片の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220915BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/32 B
(21)【出願番号】P 2018034520
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】中谷 郁子
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-063726(JP,A)
【文献】特開2010-190808(JP,A)
【文献】特開2013-170941(JP,A)
【文献】特開2010-002308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
G01N 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングによって試料をエッチングすることによって薄い試料を製造するように構成された試料製造装置であって、該試料製造装置は、
粒子ビームを
放射するように構成された粒子ビーム照射光学系と、
前記試料を保持する
ように構成された試料ステージと、
前記試料から生成された二次荷電粒子を検出するように構成された検出器と、
前記試料ステージを駆動する
ように構成された駆動機構
を有し、該駆動機構は、前記試料ステージを少なくともX軸、Y軸、またはZ軸に沿って移動するように構成された移動機構と、X軸またはY軸を中心に前記試料ステージを傾斜させるように構成された傾斜機構と、前記試料ステージをZ軸を中心に回転させるように構成された回転機構と、を含む5軸駆動機構を有し、
上記検出器によって取得された画像内の前記試料の加工領域を画定し、
前記粒子ビーム照射光学系と前記駆動機構を制御し、前記加工領域に前記粒子ビームを照射して前記試料をエッチング
するよう構成されたコンピュータ
を有し、該コンピュータは、
前記試料上に処理領域としての薄片形成領域と前記薄片形成領域の全周を取り囲む周辺部とを設定し、上記駆動機構を制御して前記試料を傾け、前記試料の照射面と前記粒子ビームの照射軸との交差角を傾斜角として前記試料の照射面と交差する方向から前記粒子ビームを放射しエッチング処理を行って前記周辺部の厚みよりも薄い前記薄片形成領域の厚みを形成するエッチング処理において、上記コンピュータは、上記粒子ビーム照射光学系および前記駆動機構を制御して、上記傾斜角を維持しながら前記試料の前記薄片形成領域を前記粒子ビームで走査することにより、
前記薄片形成領域の前記粒子ビームの入射方向における上流部分の第1の断面であり、前記第1の断面は、前記試料の照射面から厚さ方向に所定の深さまで形成される、前記粒子ビームの照射軸に平行である前記第1の断面と、
前記薄片形成領域の前記粒子ビームの入射方向の下流部分の第2の断面を形成し、
上記第2の断面は、前記試料の厚さ方向の所定の深さで前記照射面に平行であることを特徴とする試料製造装置。
【請求項2】
上記コンピュータは、前記粒子ビームの照射面と照射軸および前記薄片形成領域との間の角度に関連する入力を受け取り、該入力に基づいて、前記試料に前記薄片形成領域を設定し、
前記照射面と照射軸との間の前記傾斜角を所定の角度に設定するように、前記入力に基づいて前記駆動機構を制御し、前記粒子ビーム照射光学系と前記駆動機構を制御し、前記所定の角度を維持しながら前記粒子ビームで前記薄片形成領域を走査することによりエッチング処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の試料製造装置。
【請求項3】
上記コンピュータは、前記照射面の法線の周りの前記照射軸の相対回転角度に関連する入力を受け取り、前記粒子ビーム照射光学系と前記駆動機構を制御し、前記照射面の法線のうち、前記薄片形成領域の中心を含む法線を中心に、上記所定の角度を維持しながら前記照射軸を相対的に回転させることを特徴とする請求項2に記載の試料製造装置。
【請求項4】
上記粒子ビーム照射光学系は、集束イオンビームを放射するように構成された集束イオンビーム照射光学系であり、
上記コンピュータは、前記試料の照射面と前記集束イオンビームの照射軸との間の交差角である前記傾斜角で前記試料の照射面と交差する方向から前記集束イオンビームを放射するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の試料製造装置。
【請求項5】
上記傾斜角が約20度に設定される、請求項1に記載の試料製造装置。
【請求項6】
試料から加工対象である試料片を取り出すステップと、
上記取り出された試料片を試料片ホルダに移設するステップと、
薄片形成領域と前記薄片形成領域の全周を取り囲む周辺部とを上記試料片上に設定する設定ステップと、
前記試料片を傾ける傾斜ステップと、
前記試料片の照射面と交差する傾斜角で粒子ビームを放射する処理工程であってスパッタリングによるエッチング処理を行い前記薄片形成領域の厚さを前記周辺部の厚さより薄くするステップと、を有する試料片の製造方法において、
上記傾斜角は前記試料片の照射面と前記粒子ビームの照射軸との間の交差角であり、
上記エッチング処理の実施において、粒子ビーム照射光学系および駆動機構を制御して上記傾斜角を維持しながら前記試料片の前記薄片形成領域を前記粒子ビームで走査することにより前記薄片形成領域の前記粒子ビームの入射方向における上流部分の第1の断面であって前記試料片の照射面から厚さ方向に所定の深さまで形成され前記粒子ビームの照射軸に平行である第1の断面と、前記薄片形成領域の前記粒子ビームの入射方向の下流部分の第2の断面を形成し、
上記第2の断面は、前記試料片の厚さ方向の所定の深さで前記照射面に平行であることを特徴とする試料片の製造方法。
【請求項7】
前記設定ステップにおいて、前記薄片形成領域の外形は、前記照射面の法線方向から見て円形に設定されることを特徴とする請求項6に記載の試料片の製造方法。
【請求項8】
上記照射軸が、前記照射面と前記粒子ビームの照射軸との角度を一定に保ちながら前記照射面の法線内の前記薄片形成領域の中心を含む法線を中心に相対的に回転することを特徴とする請求項7に記載の試料片の製造方法。
【請求項9】
上記粒子ビームは集束イオンビームであり、前記集束イオンビームを前記試料片の照射面と交差する方向から上記傾斜角で放射することを特徴とする請求項6に記載の試料片の製造方法。
【請求項10】
上記傾斜角が約20度に設定される、請求項6に記載の試料片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子ビームを用いるエッチング加工により薄片化試料を作製する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体デバイスの欠陥解析などにおいて、透過電子顕微鏡による観察、分析、および計測などの各種工程に適した形状の薄片試料を作製する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この試料作製方法においては、板状の試料の厚さ方向に直交する方向から試料の端部にイオンビームを照射して、試料の端部から中央部に向かって切り欠くようにエッチング加工を行う。これにより、試料の端部から中央部に亘って厚さが一段薄くなる薄膜部を形成し、薄膜部よりも厚い薄膜部以外の部位によって薄膜部を支持することで支持強度の低下を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る試料作製方法によれば、試料の中央部の観察領域に対して、試料の端部から中央部に向かってエッチング加工を行うので、観察領域以外の部位、つまり端部から中央部に向かう領域においても薄膜部が形成されている。この観察領域以外の薄膜部の大きさは、観察領域が大きくなることに伴って増大する。観察領域以外の薄膜部が大きくなると、観察領域の薄膜部の強度が低下するという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、薄片試料の強度が低下することを抑制することが可能な薄片試料作製装置および薄片試料作製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係る薄片試料作製装置は、試料をスパッタリングによりエッチング加工して薄片試料を作製する薄片試料作製装置であって、粒子ビームを照射する粒子ビーム照射光学系と、前記試料を保持する試料ステージと、前記試料ステージを駆動する駆動機構と、前記粒子ビームを前記試料に照射して得られる画像において前記試料の加工領域を画定し、前記加工領域に前記粒子ビームを照射して前記試料をエッチング加工するように前記粒子ビーム照射光学系および前記駆動機構を制御するコンピュータと、を備え、前記コンピュータは、前記試料において前記加工領域である薄片化領域と前記薄片化領域の全周を取り囲む周縁部とを設定し、前記試料の被照射面に交差する方向から前記粒子ビームを照射して、エッチング加工によって前記薄片化領域の厚さを前記周縁部の厚さよりも薄く形成する。
【0007】
(2)上記(1)に記載の薄片試料作製装置では、前記コンピュータは、前記被照射面と前記粒子ビームの照射軸とのなす角および前記薄片化領域に関する入力を受け付け、前記入力に応じて前記試料に前記薄片化領域を設定し、前記入力に応じて前記駆動機構を制御して、前記被照射面と前記照射軸とのなす角を所定角度に設定し、前記所定角度を維持しながら前記粒子ビームによって前記薄片化領域を走査してエッチング加工を行うように前記粒子ビーム照射光学系および前記駆動機構を制御してもよい。
【0008】
(3)上記(2)に記載の薄片試料作製装置では、前記コンピュータは、前記被照射面の法線周りにおける前記照射軸の相対的な回転角に関する入力を受け付け、前記入力に応じて前記所定角度を維持しながら、前記被照射面の法線のうち前記薄片化領域の中心を含む法線周りに前記照射軸を所定回転角度の範囲で相対的に回転させるように、前記粒子ビーム照射光学系および前記駆動機構を制御してもよい。
【0009】
(4)本発明の一態様に係る薄片試料作製方法は、試料において薄片化領域と前記薄片化領域の全周を取り囲む周縁部とを設定する設定工程と、前記試料の被照射面に交差する方向から粒子ビームを照射して、スパッタリングによるエッチング加工によって前記薄片化領域の厚さを前記周縁部の厚さよりも薄く形成する加工工程と、を含む。
【0010】
(5)上記(4)に記載の薄片試料作製方法では、前記設定工程は、前記被照射面の法線方向から見た場合の前記薄片化領域の外形を円形状に設定してもよい。
【0011】
(6)上記(5)に記載の薄片試料作製方法では、前記加工工程は、前記被照射面と前記粒子ビームの照射軸とのなす角を一定に維持しながら、前記被照射面の法線のうち前記薄片化領域の中心を含む法線周りに前記照射軸を相対的に回転させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄片試料作製装置および薄片試料作製方法によれば、試料の薄片化領域の全周を取り囲む周縁部が設けられるので、例えば薄片化領域の周縁の少なくとも一部が、薄片化領域よりも厚く形成された部位によって支持されない場合に比べて、薄片化領域の支持強度を増大させることができる。また、試料の被照射面に交差する方向から粒子ビームを照射することによって、試料の厚さ方向における被照射面から所望の深さで被照射面に平行にエッチング加工を進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る薄片試料作製装置の一例である荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法における試料片の被照射面を法線方向(厚さ方向)から見た平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法の加工工程の実行時における試料片の薄片化領域の断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法の加工工程の実行時における集束イオンビームと試料片との相対位置の一例を示す図であって、試料片の被照射面を法線方向(厚さ方向)から見た平面図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の実施形態の比較例に係る試料片の断面拡大図であり、
図5(b)は、本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法の加工工程の実行時における試料片の薄片化領域の断面拡大図である。
【
図6】本発明の実施形態の変形例に係る薄片試料作製装置の一例である荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る薄片試料作製装置および薄片試料作製方法について添付図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る薄片試料作製装置の構成図である。
本発明の実施形態に係る薄片試料作製装置1は、例えば、荷電粒子ビーム装置10である。荷電粒子ビーム装置10は、
図1に示すように、内部を真空状態に維持可能な試料室11と、試料室11の内部において試料Sおよび試料片ホルダPを固定可能なステージ12と、ステージ12を駆動するステージ駆動機構13と、を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、試料室11の内部における所定の照射領域(つまり走査範囲)内の照射対象に集束イオンビーム(FIB)を照射する集束イオンビーム照射光学系14を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、試料室11の内部における所定の照射領域内の照射対象に電子ビーム(EB)を照射する電子ビーム照射光学系15を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、集束イオンビームまたは電子ビームの照射によって照射対象から発生する二次荷電粒子(二次電子、二次イオン)Rを検出する検出器16を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、照射対象の表面にガスGを供給するガス供給部17を備えている。ガス供給部17は具体的には外径200μm程度のノズルなどを有する。荷電粒子ビーム装置10は、ステージ12に固定された試料Sから微小な試料片Qを取り出し、試料片Qを保持して試料片ホルダPに移設するニードル18と、ニードル18を駆動して試料片Qを搬送するニードル駆動機構19と、ニードル18に流入する荷電粒子ビームの流入電流(吸収電流とも言う)を検出し、流入電流信号をコンピュータに送り画像化する吸収電流検出器20と、を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、検出器16によって検出された二次荷電粒子Rに基づく画像データなどを表示する表示装置21と、コンピュータ22と、入力デバイス23と、を備えている。
【0016】
この実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10は、照射対象の表面に集束イオンビームを走査しながら照射することによって、被照射部の画像化やスパッタリングによる各種の加工(掘削、トリミング加工など)と、デポジション膜の形成などが実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料Sから透過電子顕微鏡による透過観察用の試料片Q(例えば、薄片試料、針状試料など)や電子ビーム利用の分析試料片を形成する加工を実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料片ホルダPに移設された試料片Qを、透過電子顕微鏡による透過観察に適した所望の厚さ(例えば、5~100nmなど)の薄片試料とする加工が実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料片Qおよびニードル18などの照射対象の表面に集束イオンビームまたは電子ビームを走査しながら照射することによって、照射対象の表面の観察を実行可能である。
吸収電流検出器20は、プリアンプを備え、ニードル18の流入電流を増幅し、コンピュータ22に送る。吸収電流検出器20により検出されるニードル流入電流と荷電粒子ビームの走査と同期した信号により、表示装置21にニードル形状の吸収電流画像を表示でき、ニードル形状や先端位置特定が行える。
【0017】
試料室11は、排気装置(図示略)によって内部を所望の真空状態になるまで排気可能であるとともに、所望の真空状態を維持可能に構成されている。
ステージ12は、試料Sを保持する。ステージ12は、試料片ホルダPを保持するホルダ固定台12aを備えている。このホルダ固定台12aは複数の試料片ホルダPを搭載できる構造であってもよい。
【0018】
ステージ駆動機構13は、ステージ12に接続された状態で試料室11の内部に収容されており、コンピュータ22から出力される制御信号に応じてステージ12を所定軸に対して変位させる。例えば、ステージ駆動機構13は、5軸の駆動機構である。5軸の駆動機構は、少なくとも水平面に平行かつ互いに直交するX軸およびY軸と、X軸およびY軸に直交する鉛直方向のZ軸とに沿って平行にステージ12を移動させる移動機構13aを備えている。5軸の駆動機構は、ステージ12をX軸またはY軸周りに傾斜させる傾斜機構13bと、ステージ12をZ軸周りに回転させる回転機構13cと、を備えている。
【0019】
集束イオンビーム照射光学系14は、試料室11の内部においてビーム出射部(図示略)を、照射領域内のステージ12の鉛直方向上方の位置でステージ12に臨ませるとともに、光軸を鉛直方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に載置された試料S、試料片Q、および照射領域内に存在するニードル18などの照射対象に鉛直方向上方から下方に向かい集束イオンビームを照射可能である。また、荷電粒子ビーム装置10は、上記のような集束イオンビーム照射光学系14の代わりに他のイオンビーム照射光学系を備えてもよい。イオンビーム照射光学系は、上記のような集束ビームを形成する光学系に限定されない。イオンビーム照射光学系は、例えば、光学系内に定型の開口を有するステンシルマスクを設置して、ステンシルマスクの開口形状の成形ビームを形成するプロジェクション型のイオンビーム照射光学系であってもよい。このようなプロジェクション型のイオンビーム照射光学系によれば、試料片Qの周辺の加工領域に相当する形状の成形ビームを精度良く形成でき、加工時間が短縮される。
集束イオンビーム照射光学系14は、イオンを発生させるイオン源14aと、イオン源14aから引き出されたイオンを集束および偏向させるイオン光学系14bと、を備えている。イオン源14aおよびイオン光学系14bは、コンピュータ22から出力される制御信号に応じて制御され、集束イオンビームの照射位置および照射条件などがコンピュータ22によって制御される。イオン源14aは、例えば、液体ガリウムなどを用いた液体金属イオン源やプラズマ型イオン源、ガス電界電離型イオン源などである。イオン光学系14bは、例えば、コンデンサレンズなどの第1静電レンズと、静電偏向器と、対物レンズなどの第2静電レンズと、などを備えている。イオン源14aとして、プラズマ型イオン源を用いた場合、大電流ビームによる高速な加工が実現でき、大きな試料Sの摘出に好適である。
【0020】
電子ビーム照射光学系15は、試料室11の内部においてビーム出射部(図示略)を、照射領域内のステージ12の鉛直方向に対して所定角度(例えば60°)傾斜した傾斜方向でステージ12に臨ませるとともに、光軸を傾斜方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に固定された試料S、試料片Q、および照射領域内に存在するニードル18などの照射対象に傾斜方向の上方から下方に向かい電子ビームを照射可能である。
電子ビーム照射光学系15は、電子を発生させる電子源15aと、電子源15aから射出された電子を集束および偏向させる電子光学系15bと、を備えている。電子源15aおよび電子光学系15bは、コンピュータ22から出力される制御信号に応じて制御され、電子ビームの照射位置および照射条件などがコンピュータ22によって制御される。電子光学系15bは、例えば、電磁レンズや偏向器などを備えている。
【0021】
なお、電子ビーム照射光学系15と集束イオンビーム照射光学系14の配置を入れ替えて、電子ビーム照射光学系15を鉛直方向に、集束イオンビーム照射光学系14を鉛直方向に所定角度傾斜した傾斜方向に配置してもよい。
【0022】
検出器16は、試料Sおよびニードル18などの照射対象に集束イオンビームや電子ビームが照射された時に照射対象から放射される二次荷電粒子(二次電子および二次イオン)Rの強度(つまり、二次荷電粒子の量)を検出し、二次荷電粒子Rの検出量の情報を出力する。検出器16は、試料室11の内部において二次荷電粒子Rの量を検出可能な位置、例えば照射領域内の試料Sなどの照射対象に対して斜め上方の位置などに配置され、試料室11に固定されている。
【0023】
ガス供給部17は試料室11に固定されており、試料室11の内部においてガス噴射部17a(例えば、ノズルなど)を有し、ガス噴射部17aをステージ12に臨ませて配置されている。ガス供給部17は、集束イオンビームによる試料Sのエッチングを試料Sの材質に応じて選択的に促進するためのエッチング用ガスと、試料Sの表面に金属または絶縁体などの堆積物によるデポジション膜を形成するためのデポジション用ガスなどを試料Sに供給可能である。例えば、シリコン系の試料Sに対するフッ化キセノンと、有機系の試料Sに対する水と、などのエッチング用ガスを、集束イオンビームの照射と共に試料Sに供給することによって、エッチングを材料選択的に促進させる。また、例えば、プラチナ、カーボン、またはタングステンなどを含有したデポジション用ガスを、集束イオンビームの照射と共に試料Sに供給することによって、デポジション用ガスから分解された固体成分を試料Sの表面に堆積(デポジション)させることができる。デポジション用ガスの具体例として、カーボンを含むガスとしてフェナントレンやナフタレンやピレンなど、プラチナを含むガスとしてトリメチル・エチルシクロペンタジエニル・プラチナなど、また、タングステンを含むガスとしてタングステンヘキサカルボニルなどがある。また、供給ガスによっては、電子ビームを照射することでも、エッチングまたはデポジションを行うことができる。
【0024】
ニードル駆動機構19は、ニードル18が接続された状態で試料室11の内部に収容されており、コンピュータ22から出力される制御信号に応じてニードル18を変位させる。ニードル駆動機構19は、ステージ12と一体に設けられており、例えばステージ12が傾斜機構13bによって傾斜軸(つまり、X軸またはY軸)周りに回転すると、ステージ12と一体に移動する。ニードル駆動機構19は、3次元座標軸の各々に沿って平行にニードル18を移動させる移動機構(図示略)と、ニードル18の中心軸周りにニードル18を回転させる回転機構(図示略)と、を備えている。なお、この3次元座標軸は、試料ステージの直交3軸座標系とは独立しており、ステージ12の表面に平行な2次元座標軸を含む直交3軸座標系で、ステージ12の表面が傾斜状態、回転状態にある場合、この座標系は傾斜し、回転する。
【0025】
コンピュータ22は、少なくともステージ駆動機構13と、集束イオンビーム照射光学系14と、電子ビーム照射光学系15と、ガス供給部17と、ニードル駆動機構19を制御する。
コンピュータ22は、試料室11の外部に配置され、表示装置21と、操作者の入力操作に応じた信号を出力するマウスおよびキーボードなどの入力デバイス23とが接続されている。
コンピュータ22は、入力デバイス23から出力される信号または予め設定された自動運転制御処理によって生成される信号などによって、荷電粒子ビーム装置10の動作を統合的に制御する。
【0026】
コンピュータ22は、荷電粒子ビームの照射位置を走査しながら検出器16によって検出される二次荷電粒子Rの検出量を、照射位置に対応付けた輝度信号に変換して、二次荷電粒子Rの検出量の2次元位置分布によって照射対象の形状を示す画像データを生成する。吸収電流画像モードでは、コンピュータ22は、荷電粒子ビームの照射位置を走査しながらニードル18に流れる吸収電流を検出することによって、吸収電流の2次元位置分布(吸収電流画像)によってニードル18の形状を示す吸収電流画像データを生成する。コンピュータ22は、生成した各画像データとともに、各画像データの拡大、縮小、移動、および回転などの操作を実行するための画面を、表示装置21に表示させる。コンピュータ22は、自動的なシーケンス制御におけるモード選択および加工設定などの各種の設定を行うための画面を、表示装置21に表示させる。
【0027】
本発明の実施形態による荷電粒子ビーム装置10は上記構成を備えており、次に、この荷電粒子ビーム装置10を用いて透過電子顕微鏡による透過観察用の薄片試料Tを作製する方法について説明する。
【0028】
以下、コンピュータ22が実行する薄片試料作製の動作として、例えば、集束イオンビームFIBによる試料Sの加工によって形成された試料片Qから薄片試料Tを作製する動作について、初期設定工程および加工工程に大別して、順次説明する。
なお、以下に示す薄片試料作製の動作に先立って、加工対象である試料片Qは、ニードル18によって試料Sから取り出されて、試料片ホルダPに移設されている。この移設に伴い、試料片Qの位置および形状は把握され、試料片Qが荷電粒子ビームによる観察視野領域内に入るように、ステージ駆動機構13によってステージ12が駆動されている。例えば、試料片Qの位置および形状は、試料Sに設けられるレファレンスマークと試料片Qとの既知の相対位置関係、および試料片Qの画像データから直接に取得したテンプレートを基にしたテンプレートマッチングなどに基づいて把握される。
【0029】
<初期設定工程>
先ず、コンピュータ22は、試料片Qの加工条件に関する操作者の入力を受け付け、操作者の入力に応じて加工条件の初期設定を行う(ステップS01)。例えば、加工条件は、試料片Qにおける薄片化領域31の位置および形状、並びに集束イオンビームFIBの照射軸Uの試料片Qに対するチルト角θaおよび回転角θbなどである。
図2は、本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法における試料片Qの被照射面34を法線方向(厚さ方向D)から見た平面図である。例えば、試料片Qの外形は、矩形板状に形成されている。試料片Qの第1幅方向W1における長さ、並びに厚さ方向Dおよび第1幅方向W1に直交する第2幅方向W2の長さは、例えば、数十μm程度に形成されている。
薄片化領域31の位置および形状は、例えば、荷電粒子ビームの照射によって取得される画像データ上において、操作者により入力される加工枠32によって指定される。加工枠32は、試料片Qの周縁部33によって取り囲まれる部位に設定されるように規制される。つまり、試料片Qは、加工枠32によって薄片化領域31と薄片化領域31の全周を取り囲む周縁部33とに区分される。例えば、薄片化領域31を示す加工枠32の外形は、試料片Qの厚さ方向Dつまり試料片Qの被照射面34の法線方向から見て、十数μm程度の直径を有する円形状となるように設定され、周縁部33の外形は、環状に設定される。
【0030】
チルト角θa(
図3参照)は、試料片Qの被照射面34を含む表面35と集束イオンビームFIBの照射軸Uとのなす角(交差角)である。例えば、チルト角θaは、後に実行する加工工程において試料片Qの被照射面34に平行な薄片化を実現するとともに、カーテン効果により集束イオンビームFIBの照射方向に生じる加工縞模様の発生を抑制する鋭角の所定角度であって、数度~20°程度に設定される。
なお、カーテン効果は、集束イオンビームFIBの照射によって加工対象物をエッチング加工する際において、加工対象物の形状又は構造の局所的な差異に起因するエッチングレートの変化によって、加工面に凹凸が形成される現象である。加工面に形成される凹凸の外形は、例えば、集束イオンビームFIBの照射方向に沿って伸びる筋状に形成される。カーテン効果によって加工面に形成される凹凸は、加工面の観察像において加工縞模様を生じさせ、加工対象物が本来に有する構造物又は欠陥に起因する模様との見分けがつかないため、誤った解釈を与えてしまうおそれがある。
回転角θb(
図4参照)は、試料片Qの被照射面34の法線のうち薄片化領域31の中心Cを含む法線N周りにおける集束イオンビームFIBの照射軸Uの相対的な回転角である。例えば、回転角θbは、後に実行する加工工程においてカーテン効果により生じた加工縞模様を、集束イオンビームFIBのエッチングにより除去する所定回転角度の範囲であって、集束イオンビームFIBの照射軸Uを基準とする±45°程度に設定される。
【0031】
コンピュータ22は、集束イオンビームFIBの照射軸Uに対する試料片Qの姿勢が、操作者の入力に応じた所定姿勢になるように、ステージ駆動機構13によってステージ12を駆動する。コンピュータ22は、試料片Qの表面35と集束イオンビームFIBの照射軸Uとが平行になる状態から相対的に表面35に対して照射軸Uを傾けて、加工枠32内における試料片Qの被照射面34と集束イオンビームFIBの照射軸Uとのなす角(チルト角θa)が所定角度になるようにステージ12を駆動する。
これによりコンピュータ22は、後に実行する加工工程に適した試料片Qの姿勢を確保するとともに、試料片Qの加工時に生じるカーテン効果の影響を低減する。
【0032】
<加工工程>
図3は、本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法の加工工程の実行時における試料片Qの薄片化領域31の断面図である。
次に、コンピュータ22は、加工工程を実行する(ステップS02)。加工工程において、コンピュータ22は、試料片Qの加工枠32内における被照射面34と集束イオンビームFIBの照射軸Uとのなす角(チルト角θa)を所定角度に維持しながら、加工枠32内の薄片化領域を集束イオンビームFIBによって走査するように、集束イオンビーム照射光学系14およびステージ駆動機構13を制御する。
これにより薄片化領域31において、集束イオンビームFIBの入射方向の上流部31aには、試料片Qの被照射面34から厚さ方向の所定深さまで集束イオンビームFIBの照射軸Uに平行な第1断面41が形成される。薄片化領域31において、集束イオンビームFIBの入射方向の下流部31bには、試料片Qの厚さ方向の所定深さにおいて被照射面34に平行な第2断面42が形成される。
これによりコンピュータ22は、加工枠32内の薄片化領域31の厚さを、薄片化領域31を取り囲む周縁部33の厚さよりも薄く形成する。例えば、周縁部33の厚さは、1~2μm程度であり、薄片化領域31の厚さは、数十nm程度である。
【0033】
図4は、本発明の実施形態に係る薄片試料作製方法の加工工程の実行時における集束イオンビームFIBと試料片Qとの相対位置の一例を示す図であって、試料片Qの被照射面34を法線方向(厚さ方向D)から見た平面図である。
例えば、コンピュータ22は、加工工程において、試料片Qの被照射面34を含む表面35と集束イオンビームFIBの照射軸Uとのなす角(チルト角θa)を所定角度に維持しながら、被照射面34の法線のうち薄片化領域31の中心Cを含む法線N周りに照射軸Uを所定回転角度の範囲で相対的に回転させるように、ステージ駆動機構13を制御する。そして、コンピュータ22は、被照射面34の法線N周りにおける照射軸Uの所定回転角度毎に、被照射面34と照射軸Uとのなす角を所定角度に維持しながら、加工枠32内の薄片化領域31を集束イオンビームFIBによって走査するように、集束イオンビーム照射光学系14およびステージ駆動機構13を制御する。
これによりコンピュータ22は、照射軸Uの回転角度が適宜の一定角度の状態でカーテン効果により生じた加工縞模様を、適宜の一定角度とは異なる入射方向の集束イオンビームFIBのエッチング加工により除去する。さらに、コンピュータ22は、照射軸Uの回転角度が適宜の一定角度の状態で形成された薄片化領域31の上流部31aの少なくとも一部を、適宜の一定角度とは異なる入射方向の集束イオンビームFIBによってエッチング加工することにより、下流部31bの第2断面42と同様に被照射面34に平行な加工断面を、上流部31aの少なくとも一部に形成することができる。
以上により、コンピュータ22は、試料片Qから薄片試料Tを作製し、一連の薄片試料作製方法の動作を終了する。
【0034】
上述したように、本発明の実施形態による薄片試料作製装置1および薄片試料作製方法によれば、試料片Qの薄片化領域31の全周を取り囲む周縁部33が設けられるので、例えば薄片化領域31の周縁の少なくとも一部が、薄片化領域31よりも厚く形成された部位によって支持されない場合に比べて、薄片化領域31の支持強度を増大させることができる。これにより、薄片化領域31を増大させても、エッチング加工時における所望の強度を確保することができ、薄片化領域31の湾曲などの不具合が生じることを防ぎ、適正な加工を行うことができる。
また、薄片化領域31を、試料片Q及び周縁部33の各々の外形に関わらずに、試料片Qの中央部に設定することができるので、例えば試料片Qの端部にカーテン効果による加工縞模様が発生しやすい形状の部位が存在する場合などであっても、試料片Qに対する集束イオンビームFIBの相対的な入射方向を特別に規制すること無しに、薄片化領域31の加工を適正かつ容易に行うことができる。
【0035】
また、加工工程において試料片Qの被照射面34に交差する方向から集束イオンビームFIBを照射することによって、試料片Qの厚さ方向Dにおける被照射面34から所望の深さで被照射面34に平行にエッチング加工を進行させることができる。例えば、集束イオンビームFIBのビーム強度分布が照射軸Uを極大とするガウス分布などの適宜の分布形状を有する場合であっても、追加的なエッチング加工を必要とせずに、薄片化領域31における集束イオンビームFIBの入射方向の下流端に至るまで被照射面34に平行な第2断面42を形成することができる。
図5(a)は、本発明の実施形態の比較例に係る試料片Qの断面拡大図である。例えば
図5(a)に示す比較例のように、被照射面34を含む表面35に平行に集束イオンビームFIBを照射する場合においては、集束イオンビームFIBの入射方向における下流端においてビーム強度分布に応じた形状の加工断面50が形成され、被照射面34に平行な加工断面51を得るために集束イオンビームFIBの入射方向が変更された追加的なエッチング加工(チルト補正)が必要になる場合がある。
図5(b)は、本発明の実施形態に係る試料片作製方法の加工工程の実行時における試料片Qの薄片化領域31の断面拡大図である。これに対して、例えば
図5(b)に示す本発明の実施形態のように、試料片Qの被照射面34に交差する方向から、集束イオンビームFIBのビーム強度分布の形状に応じた適切なチルト角θaで集束イオンビームFIBを照射することによって、追加的なエッチング加工を必要とせずに、集束イオンビームFIBの入射方向の下流端においても被照射面34に平行な第2断面42を形成することができる。
【0036】
さらに、コンピュータ22は、チルト角θaを所定角度に維持しながら、被照射面34の法線のうち薄片化領域31の中心Cを含む法線N周りに照射軸Uを所定回転角度の範囲で相対的に回転させるので、照射軸Uの回転角度が適宜の一定角度の状態でカーテン効果により生じた加工縞模様を、適宜の一定角度とは異なる入射方向の集束イオンビームFIBのエッチング加工により除去することができる。
【0037】
また、被照射面34の法線方向から見た場合の薄片化領域31の外形を円形状に設定することにより、例えば薄片化領域31の外形が矩形状に設定される場合の角部などのように荷重が集中する部位が設けられることを防ぎ、エッチング加工時に薄片化領域31の湾曲などの不具合が生じることを防止することができる。さらに、薄片化領域31を規定する加工枠32の形状が円形状に設定されることにより、法線N周りに照射軸Uを相対的に回転させる場合であっても、加工枠32を変更する必要無しに、薄片化領域31に集束イオンビームFIBを照射することができる。
【0038】
以下、上述した実施形態の変形例について説明する。
上述した実施形態において、荷電粒子ビーム装置10は、さらに、2軸の駆動機構を備えてもよい。
図6は、本発明の実施形態の変形例に係る薄片試料作製装置1の一例である荷電粒子ビーム装置10の構成図である。 荷電粒子ビーム装置10は、ステージ12上に配置されるダブルチルトステージ25を備えている。ダブルチルトステージ25は、2軸の駆動機構であって、上述した加工工程において加工対象である試料片Qを固定する。
ステージ12は、5軸の駆動機構であるステージ駆動機構13によって駆動される。例えば、ステージ駆動機構13の傾斜軸T1は、集束イオンビーム照射光学系14の集束イオンビーム(FIB)および電子ビーム照射光学系15の電子ビーム(EB)の各々に対して直交する方向と平行に設定されている。ステージ駆動機構13は、傾斜軸T1の軸周りにステージ12を傾斜させることにより、電子ビーム(EB)で観察した試料片Qの断面を、集束イオンビーム(FIB)に向けることができる。
ステージ12上に配置されるダブルチルトステージ25は、相互に直交する2つの傾斜軸を備えている。例えば、ダブルチルトステージ25の傾斜軸T2は、ステージ駆動機構13の傾斜軸T1および集束イオンビーム(FIB)の照射軸Uの各々に対して直交する方向と平行に設定されている。ダブルチルトステージ25は、加工工程において、試料片Qの被照射面34を電子ビーム(EB)の照射軸に向けた状態で傾斜軸T2の軸周りに試料片Qを傾斜させることによって、被照射面34に対する集束イオンビーム(FIB)の入射角度を調整する。これにより、集束イオンビーム(FIB)によるエッチング加工中に電子ビーム(EB)による加工面の観察像を取得することができる。
【0039】
なお、上述した実施形態において、薄片試料作製装置1は荷電粒子ビーム装置10であるとしたが、これに限定されない。
例えば、薄片試料作製装置1は、荷電粒子の代わりに、帯電していない粒子のビームを照射する粒子ビーム装置であってもよい。この場合、試料室11内の漏れ電界などによって粒子ビームの照射位置がずれてしまうことを防ぐことができる。
例えば、薄片試料作製装置1は、試料Sから試料片Qを作製する荷電粒子ビーム装置10とは別の集束イオンビーム装置であってもよい。
【0040】
なお、上述した実施形態において、コンピュータ22は、薄片試料作製の動作の少なくとも一部を自動的に実行してもよい。例えば、コンピュータ22は、複数の試料片Qに対して連続的に繰り返して薄片試料作製の動作を実行する場合などにおいて、自動的な動作を実行してもよい。
例えば、上述した実施形態において、初期設定工程では、試料片Qにおける薄片化領域31の位置および形状は、操作者により入力されるとしたが、これに限定されない。例えば、コンピュータ22は、試料片Qにおける薄片化領域31の位置および形状を自動的に設定してもよい。この場合、コンピュータ22は、荷電粒子ビームの照射により得られる画像データにおいて試料片Qのエッジを抽出し、予め規定されている形状および大きさの加工枠32を、抽出したエッジに基づく所定位置に自動的に設定してもよい。
【0041】
なお、上述した実施形態においては、予め試料片ホルダPに保持されている試料片Qに対して薄片試料作製の動作を実行するとしたが、これに限定されない。
例えば、試料片Qがニードル18によって試料Sから取り出される前において、試料Sに形成されている試料片Qに対して薄片試料作製の動作を実行してもよい。この場合、予め試料Sに形成されているレファレンスマークの位置座標を用いて加工枠32の設定、並びに試料片Qの位置および姿勢制御を行ってもよい。
【0042】
なお、上述した実施形態において、加工枠32の外形は、試料片Qの厚さ方向Dつまり試料片Qの被照射面34の法線方向から見て円形状となるように設定されるとしたが、これに限定されず、楕円形状または矩形状などの他の形状に設定されてもよい。この場合、加工工程の実行時には、被照射面34の法線N周りにおける照射軸Uの回転角度に応じて、新たな加工枠32を設定し直してもよい。
【0043】
なお、上述した実施形態においては、加工工程の実行に先立って試料片Qの被照射面34にデポジション膜を形成してもよい。この場合、ガス供給部17によって試料片Qの被照射面34にデポジション用のガスGを供給しながら被照射面34に電子ビームまたは集束イオンビームを照射することによって、被照射面34を被覆するデポジション膜を形成する。これにより、例えば、加工工程の実行に先立つ試料片Qの作成時などにおいて、試料片Qに含まれる材質のスパッタリング速度の違いによって被照射面34に凹凸が生じた場合であっても、デポジション膜によって被照射面34を平滑化し、後に実行する加工工程においてカーテン効果の影響を低減することができる。
【0044】
なお、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1…薄片試料作製装置、10…荷電粒子ビーム装置、11…試料室、12…ステージ(試料ステージ)、13…ステージ駆動機構(駆動機構)、14…集束イオンビーム照射光学系(粒子ビーム照射光学系)、15…電子ビーム照射光学系、16…検出器、17…ガス供給部、18…ニードル、19…ニードル駆動機構、20…吸収電流検出器、21…表示装置、22…コンピュータ、23…入力デバイス、31…薄片化領域、31a…上流部、31b…下流部、32…加工枠、33…周縁部、34…被照射面、C…中心、N…法線、P…試料片ホルダ、Q…試料片(試料)、R…二次荷電粒子、S…試料、U…照射軸、S01…初期設定工程、S02…加工工程