IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

特許7141793真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法
<図1>
  • 特許-真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法 図1
  • 特許-真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法 図2
  • 特許-真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法 図3
  • 特許-真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
C23C14/24 B
C23C14/24 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018057163
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167593
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】清 健介
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-126753(JP,A)
【文献】特開2011-012309(JP,A)
【文献】特開平07-238368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置され、付着範囲を制限するマスクプレートを通して被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、
固体の蒸着物質を収容する収容箱とこの蒸着物質を加熱する加熱手段とを備え、被蒸着物に対向する収容箱の面に、気化した蒸着物質を噴射する噴射ノズルが突設されているものにおいて、
蒸着物質が、加熱手段により加熱されると、液相を経て気相に転移するもので構成され、
収容箱の面に、内部に冷媒の循環通路が形成されたパネル部とこのパネル部を収容箱の面に平行にかつそこから所定の高さ位置に支持する支持脚とを有する遮板を備え、遮板に、噴射ノズルが挿通する透孔を開設されると共に、噴射ノズルの先端部がパネル部から突出するようにその長さが設定され、
収容箱の面と遮熱板との間に配置されて、噴射ノズルにより気化した蒸着物質を噴射する間、蒸着物質の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に噴射ノズルを温調する温調手段を備、この温調手段とパネル部との間に配置されて熱線を反射するリフレクター板を更に備えることを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源であって、前記噴射ノズルが前記収容箱の面に対して直交する方向に起立した姿勢で突設されると共に、この噴射ノズルの複数本が間隔を存して一方向に列設されているものにおいて、
列設方向中央領域に位置する2本の噴射ノズル間のピッチを基準ピッチとし、少なくとも列設方向両端領域に夫々位置する2本の噴射ノズル間のピッチを基準ピッチより短く設定したことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項3】
真空チャンバ内に配置され、付着範囲を制限するマスクプレートを通して被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着方法であって、
真空チャンバ内に配置された収容箱に固体の蒸着物質を収容した後、真空雰囲気中で蒸着物質を加熱することで、被蒸着物に対向する収容箱の面に突設された噴射ノズルから、気化した蒸着物質を噴射して被蒸着物表面に蒸着するものにおいて、
蒸着物質を、加熱時に液相を経て気相に転移するもので構成し、収容箱の面に、内部に冷媒の循環通路が形成されたパネル部とこのパネル部を収容箱の面に平行にかつそこから所定の高さ位置に支持する支持脚とを有する遮板を設けてこのに噴射ノズルが挿通する透孔を開設し、
パネル部から突出する噴射ノズルの先端から、気化した蒸着物質を噴射する間、収容箱の面と遮熱板との間に配置される温調手段によって蒸着物質の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に噴射ノズルを温調すると共に、温調手段とパネル部との間にリフレクター板を配置して熱線を反射すると共に循環通路に冷媒を循環させてパネル部を冷却する工程を含むことを特徴とする真空蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法に関し、より詳しくは、噴射ノズルから蒸着物質が指向性よく噴射されるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蒸着源を備えた真空蒸着装置は例えば特許文献1で知られている。このものでは、被蒸着物を矩形のガラス基板(以下、「基板」という)、基板の蒸着源に対する相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板の幅方向をY軸方向として、蒸着源が蒸着物質を収容する収容箱を有し、収容箱の基板との対向面(上面)には、噴射ノズル(筒状部材)がY軸方向に間隔を存して列設されている(所謂ラインソース)。そして、真空雰囲気の真空チャンバ内で、収容箱に収容された蒸発物質を加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着物質を各噴射ノズルから噴射させ、蒸着源に対してX軸方向に相対移動する基板に付着、堆積させて所定の薄膜が成膜される。この場合、蒸着源と基板との間に、この基板に対する蒸着物質の付着範囲を制限するマスクプレートを介在させて所定のパターンで基板に成膜することも従来から知られている。
【0003】
ここで、各噴射ノズルは、通常、そのノズル孔の孔軸が基板に平行な収容箱の対向面に対して直交する方向にまたは、この対向面に対してY軸方向に所定角で傾斜する方向に起立した姿勢で収容箱の対向面に突設されている。然し、このような噴射ノズルは、収容箱内で昇華または気化した蒸着物質を噴射するときの指向性が悪く、孔軸に対して広い角度範囲で蒸着物質が真空チャンバ内に飛散していくという問題がある。つまり、収容箱内で昇華または気化した蒸着物質が噴射ノズル内を通ってそのノズル先端から真空チャンバに噴射される際、蒸着物質の一部が、噴射ノズルの内壁面に衝突して散乱し、これを繰り返しながらノズル先端から真空チャンバ内に噴射されることで、蒸着物質の指向性が悪くなる。この場合、例えば、蒸着速度を高めるために、収容箱内での蒸着物質の気化量を増加させる(即ち、収容箱内部の圧力が比較的高くなる)と、蒸着物質を噴射するときの指向性はより悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-77193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、噴射ノズルから噴射される蒸着物質の指向性が良い真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置され、付着範囲を制限するマスクプレートを通して被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、固体の蒸着物質を収容する収容箱とこの蒸着物質を加熱する加熱手段とを備え、被蒸着物に対向する収容箱の面に、気化した蒸着物質を噴射する噴射ノズルが突設され、蒸着物質が、加熱手段により加熱されると、液相を経て気相に転移するもので構成され、収容箱の面に、内部に冷媒の循環通路が形成されたパネル部と、このパネル部を収容箱の面に平行にかつそこから所定の高さ位置に支持する支持脚とを有する遮板を備え、遮板に、噴射ノズルが挿通する透孔を開設されると共に、噴射ノズルの先端部がパネル部から突出するようにその長さが設定され、収容箱の面と遮熱板との間に配置されて、噴射ノズルにより気化した蒸着物質を噴射する間、蒸着物質の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に噴射ノズルを温調する温調手段を備、この温調手段とパネル部との間に配置されて熱線を反射するリフレクター板を更に備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、収容箱に収容した固体の蒸着物質を加熱すると、蒸着物質が(部分的または全体的に)液相を経て気相に転移する。そして、この気化した蒸着物質(蒸着材の原子や分子)が噴射ノズル内を通って外部に飛散していく。その際、蒸着物質の一部が、噴射ノズルの内壁面に衝突するが、温調手段により蒸着物質の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に噴射ノズルが温調されているため、この衝突した蒸着物質は、噴射ノズルの内壁面で再液化する。これにより、噴射ノズルの内壁面に衝突して散乱し、これを繰り返しながらノズル先端から外部に噴射される蒸着物質を可及的に減少させることができ(言い換えると、噴射ノズルの内壁面に衝突することのない蒸着物質のみが被蒸着物に向けてノズル先端から噴射されることで、孔軸に対して狭い角度範囲で蒸着物質が真空チャンバ内に飛散され)、その結果、本発明の蒸着源は、噴射ノズルから噴射される蒸着物質の指向性が良いものとなる。なお、本発明において、噴射ノズルが鉛直方向上側に位置する収容箱の面に設けられていれば、内壁面で再液化した蒸着物質をその自重で収容箱内に戻すことができ、例えば噴射ノズルがノズル詰まりを生じるといった不具合が発生せず、有利である。
【0008】
ところで、上記温調手段として例えばシースヒータを用い、これを噴射ノズルの周囲に配置して加熱することが考えられるが、これでは、シースヒータからの輻射熱で被蒸着物としての基板やマスクプレートも加熱される場合があり、基板とマスクプレートとの熱膨張の差で精度よく所定のパターンで蒸着(成膜)できない虞がある。本発明においては、前記収容箱の面に対向配置され、前記噴射ノズルが挿通する透孔を開設した遮熱板を更に備え、前記収容箱の面と前記遮熱板との間に前記温調手段が配置されることが好ましい。これによれば、輻射熱で被蒸着物としての基板やマスクプレートが加熱されることが可及的に抑制でき、有利である。この場合、熱線を反射するリフレクター板を温調手段と遮熱板との間に更に設けるようにしてもよい。
【0009】
また、上記従来例のように、噴射ノズルからの蒸着物質の指向性が悪い場合、基板の蒸着源側に隙間を存してマスクプレートが介在されていると、被蒸着物に到達するときの蒸着物質の付着角度によっては、マスクプレートで本来遮蔽されるべき領域まで蒸着物質が回り込んで被蒸着物に付着し、マスク材の開口より大きな輪郭で成膜される(所謂マスクエフェクト)という問題がある。このような問題の解決策として、上記従来例では、収容箱の対向面を中央領域とこの中央領域両側の外郭領域とに区分し、各外郭領域の噴射ノズルをY軸方向外方に傾けることが提案されている。然し、これでは、外郭領域の各噴射ノズルから噴射される蒸着物質の大半が被蒸着物に到達せず、蒸着物質の付着効率(言い換えると、蒸着物質の使用効率)が悪い。しかも、噴射ノズルを傾けていると、気化した蒸着物質の大部分が噴射ノズルの内壁面に衝突することになり、ノズル詰まりを生じ易いという問題もある。
【0010】
そこで、本発明においては、蒸着物質の指向性が良い噴射ノズルが収容箱の面に対して直交する方向に起立した姿勢で立設されると共に、この噴射ノズルの複数本が間隔を存して一方向に列設されている場合、列設方向中央領域に位置する2本の噴射ノズル間のピッチを基準ピッチとし、少なくとも列設方向両端領域に夫々位置する2本の噴射ノズル間のピッチを基準ピッチより短く設定しておけば、噴射ノズルの一部を傾けて設置するといったことを必要とせずに、列設方向両端領域における各噴射ノズルのピッチを適宜調整するだけで、列設方向における膜厚分布の均一性を図りつつ、マスクエフェクトの抑制や蒸着物質の使用効率の低減を図ることができ、有利である。
【0011】
また、上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置され、付着範囲を制限するマスクプレートを通して被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着方法は、真空チャンバ内に配置された収容箱に固体の蒸着物質を収容した後、真空雰囲気中で蒸着物質を加熱することで、被蒸着物に対向する収容箱の面に突設された噴射ノズルから、気化した蒸着物質を噴射して被蒸着物表面に蒸着するものにおいて、蒸着物質を、加熱時に液相を経て気相に転移するもので構成し、収容箱の面に、内部に冷媒の循環通路が形成されたパネル部とこのパネル部を収容箱の面に平行にかつそこから所定の高さ位置に支持する支持脚とを有する遮板を設けてこのに噴射ノズルが挿通する透孔を開設し、パネル部から突出する噴射ノズルの先端から、気化した蒸着物質を噴射する間、収容箱の面と遮熱板との間に配置される温調手段によって蒸着物質の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に噴射ノズルを温調すると共に、温調手段とパネル部との間にリフレクター板を配置して熱線を反射すると共に循環通路に冷媒を循環させてパネル部を冷却する工程を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は、本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図、(b)は、真空蒸着装置を正面側から見た部分断面図。
図2】本実施形態の蒸着源の拡大断面図。
図3】(a)は、従来例の蒸着源にて噴射ノズルから蒸着物質を噴射したときの状態を説明する図、(b)は、本実施形態にて噴射ノズルから蒸着物質を噴射したときの状態を説明する図。
図4】本発明の効果を確認するための実験結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの片面に所定の薄膜を成膜する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源及び真空蒸着方法の実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は図1を基準として説明する。
【0014】
図1(a)及び(b)を参照して、Dmは、本実施形態の蒸着源DSを備える真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空引きして保持できるようになっている。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動するようになっている。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、以下においては、蒸着源DSに対する基板Swの相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板Sの幅方向をY軸方向とする。
【0015】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと後述の蒸着源DSとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送されるようになっている。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて蒸着物質の基板Swに対する付着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに成膜されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、X軸方向に移動される基板Sに対向させて本実施形態の蒸着源DSが設けられている。
【0016】
図2も参照して、蒸着源DSは、固体の蒸着物質4を収容する収容箱51を有する。蒸着物質4としては、基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて、後述の加熱手段により加熱すると、液相を経て気相に転移する材料から適宜選択され、顆粒状またはタブレット状のものが利用される。この場合、収容箱51の下部には、金属製の受け皿52が設けられ、受け皿52上に蒸着物質4が設置されるようになっている。受け皿52と収容箱51の底壁との間には加熱手段53が設けられ、受け皿52を介して蒸着物質4が気化温度まで加熱されるようになっている。加熱手段53としては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用できる。なお、特に図示して説明しないが、収容箱51内には、受け皿52の上方に位置させて分散板が設けられ、気化した蒸着物質4を後述の各噴射ノズルから略均等な流量で噴射できるようになっている。
【0017】
収容箱51の上面(基板Swとの対向面)51aには、所定高さの筒体で構成される、気化させた蒸着物質4を噴射する噴射ノズル54がY軸方向に所定の間隔で(本実施形態では、10本)列設されている。各噴射ノズル54は、その孔軸54aが、基板Swに平行に設置される収容箱51の上面51aに直交する方向に起立した姿勢で立設されている。噴射ノズル54の本数、各噴射ノズル54のノズル径Ndや、上面51aからノズル先端54bまでの高さNhは、例えば基板Swに蒸着したときのY軸方向の膜厚分布や、蒸着中の(上面51aに堆積したものによる)ノズル詰まりの回避を考慮して適宜設定される。
【0018】
ここで、各噴射ノズル54が収容箱51の上面51aに立設されている場合、収容箱51の受け皿52上に設置した固体の蒸着物質4を加熱手段53により加熱すると、蒸着物質4が(部分的または全体的に)液相を経て気相に転移する。そして、この気化した蒸着物質4が各噴射ノズル54内を通って真空チャンバ1内に飛散していく。各噴射ノズル54の温度が蒸着物質4の気化温度以上のとき、図3(a)に示すように、蒸着物質4の一部は、噴射ノズル54の内壁面54cに衝突することなく、そのまま噴射されるが、残りの一部は、噴射ノズル54の内壁面54cに衝突して散乱し、これを繰り返しながらノズル先端54bから真空チャンバ1内に噴射される。このため、蒸着物質4は、孔軸54aに対して広い角度範囲で真空チャンバ1内に飛散し、蒸着物質4の指向性が悪い。
【0019】
そこで、本実施形態では、各噴射ノズル54を夫々囲うように、温調手段としてのシースヒータ6を設けると共に、熱電対等の温度センサ(図示せず)を各噴射ノズル54に付設し、噴射ノズル54から気化した蒸着物質4を噴射する間、各噴射ノズル54を適宜加熱して蒸着物質4の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に噴射ノズル54を温調するようにした。即ち、本実施形態の真空蒸着方法では、真空チャンバ1内に配置された収容箱51の受け皿52上に蒸着物質4を設置した後、真空雰囲気中で加熱手段53により蒸着物質4を所定温度に加熱する。これにより、蒸着物質4は、液相を経て気相に転移し、収容箱51内で気化した蒸着物質4が各噴射ノズル54から噴射される。そして、噴射ノズル54から気化した蒸着物質4が噴射される間、各噴射ノズル54を、シースヒータ6により加熱されて蒸着物質4の液化温度以上で且つ気化温度以下の所定温度に温調する。なお、本実施形態では、加熱手段53により蒸着物質4を加熱したとき、輻射熱等で収容箱51自体も加熱され、伝熱等で各噴射ノズル54も昇温するが、蒸着物質4が再液化する温度までは達しないため、シースヒータ等の加熱手段で温調手段を構成するものを例に説明する。加熱手段53により蒸着物質4を加熱したときの噴射ノズルの温度によっては、加熱手段に代えてまたは加えて公知の冷却手段を設ける場合もある。
【0020】
以上によれば、図3(b)に示すように、気化した蒸着物質4が各噴射ノズル54内を通って真空チャンバ1内に飛散するとき、蒸着物質4が、噴射ノズル54の内壁面54cに衝突すると、この衝突した蒸着物質4が噴射ノズル54の内壁面54cで再液化し、この再液化した蒸着物質4がその自重で内壁面54cを伝って収容箱51内に戻される。このため、噴射ノズル54の内壁面54cに衝突していない蒸着物質4のみが基板Swに向けてノズル先端54bから噴射されることで、孔軸54aに対して狭い角度範囲で蒸着物質4が真空チャンバ1内に飛散する。その結果、噴射ノズル54から噴射される蒸着物質4の指向性が良いものとなり、しかも、再液化した蒸着物質4が収容箱51内に戻されることで、噴射ノズル54がノズル詰まりを生じるといった不具合も発生しない。
【0021】
ここで、本発明の効果を確認するために、次の実験を行った。蒸着物質4として蒸着プロセスにおいて液相過程を有する低分子有機材料を用いた。また、収容箱51の上面51aには、Φ6mm×長さ10mmの寸法を持つ単一の噴射ノズル54を設けた。そして、基板Swと噴射ノズル54のノズル先端54bとの間の距離を500mmに設定し、収容箱51内の蒸着物質4を410℃に加熱して液相を経て気相に転移させ、真空雰囲気中で基板Swに低分子有機材料膜を蒸着(成膜)し、Y軸方向での膜厚の変化を評価した。この場合、発明実験では、シースヒータ6により噴射ノズル54の温度を、蒸着物質4の液化温度以上で且つ気化温度以下である370℃に温調した。
【0022】
比較実験として、ノズルの長さを5mm、ノズル温度を410℃(これを比較実験1とする)、また、ノズルの長さを10mm、ノズル温度を410℃(これを比較実験2とする)とし、その他は上記発明実験と同様として低分子有機材料膜を蒸着し、Y軸方向での膜厚の変化を評価した。これによれば、図4中、点線で示すように、ノズルの長さを短くし、ノズル温度を蒸着物質4の気化温度以上にした比較実験1では、噴射ノズル直上に位置する0点における膜厚が極大となっているものの、0点からY軸方向に離れていっても、膜厚の減少量が少なく、噴射ノズルからの蒸着物質の指向性が悪いことが判る。また、ノズルの長さを長くし、ノズル温度を材料の気化温度以上にした比較実験2では、図4中、一点鎖線で示すように、0点における膜厚が薄くなるものの、噴射ノズルからの蒸着物質の指向性が多少改善される。それに対して、発明実験では、図4中、実線で示すように、噴射ノズル直上に位置する0点における膜厚が極大となり、0点からY軸方向に離れると、急激に膜厚が減少し、噴射ノズルからの蒸着物質の指向性が良いことが判る。この場合、0点における膜厚も、指向性が良いことで比較実験2のものと同等になることが確認された。このようにノズルの温度を気化温度以下、液化温度以上にすることで、指向性が極端に向上することがわかる。これは、ノズル内面に衝突した蒸気が液体になり、再蒸発しないで流れ落ちるためと考えられる。なお、ノズルの温度を液化温度以下にすると、ノズル内面で蒸着材料が凝固してノズルが閉塞するので好ましくない。
【0023】
ここで、上記の如く、収容箱51の上面51aに、温調手段としてのシースヒータ6を設置して噴射ノズル54を加熱すると、シースヒータ6からの輻射熱で基板Swやマスクプレート3も加熱される場合があり、基板Sとマスクプレート3との熱膨張の差で精度よく所定のパターンで蒸着(成膜)できない虞がある。そこで、本実施形態では、図2に示すように、遮熱板7を設けることとした。遮熱板7は、内部に冷媒の循環通路(図示せず)が形成されたパネル部71と、パネル部71を、収容箱51の上面51aに平行にかつそこから所定の高さ位置に支持する支持脚72とで構成されている。
【0024】
パネル部71は、その主面が収容箱51の上面51aと同等の面積を持つように形成され、また、パネル部71の所定位置には、収容箱51の上面51aに支持脚72を介して設置するとき、ノズル先端部54bの挿通を許容する上下方向の透孔73が開設されている。支持脚72の高さは、蒸着中に収容箱51の上面51aに付着、堆積したもので噴射ノズル54が閉塞されないように、噴射ノズル54先端部がパネル部71から上方に突出するように適宜設定される。蒸着中には、パネル部71の循通路に冷媒を循環させて所定温度に冷却することで、基板Swから蒸着源DSをみたとき、ほぼ噴射ノズル54のノズル先端54bのみが熱源となるようにし、蒸着中における基板SやマスクプレートMpの昇温を可及的に抑制している。また、本実施形態では、熱線を反射する複数枚のリフレクター板8をシースヒータ6と遮熱板7のパネル部71との間に更に設けている(図2参照)。
【0025】
ところで、上記蒸着源DSでは、噴射ノズル54から噴射される蒸着物質4の指向性が良いため、噴射ノズル54が列設される収容箱51の上面51aのY軸方向の幅は、例えば蒸着物質4の使用効率を考慮して、基板Swの幅と同等以下に設定すればよい。然し、各噴射ノズル54がY軸方向に等間隔で立設されていると、基板SwのY軸方向両端部の膜厚が局所的に薄くなってしまう。そこで、Y軸(列設)方向の中央領域に位置する2本の噴射ノズル54,54間のピッチを基準ピッチBpとし、少なくとも列設方向両端領域に夫々位置する2本の噴射ノズル54,54間のピッチEpを基準ピッチより短く設定すれば、基板SwのY軸方向両端部における単位時間当たりの蒸着量を増加させて、基板SwのY軸方向における膜厚分布を均一化でき、有利である。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、被成膜物をガラス基板とし、基板搬送装置2によりガラス基板を一定の速度で搬送しながら成膜するものを例に説明したが、真空蒸着装置の構成は、上記のものに限定されるものではない。例えば、被成膜物をシート状の基材とし、駆動ローラと巻取りローラとの間で一定の速度で基材を移動させながら基材の片面に成膜するような装置にも本発明は適用できる。また、真空チャンバ1内に基板Swとマスクプレート3を一体として固定し、蒸着源に公知の構造を持つ駆動手段を付設して、基板Swに対して蒸着源を相対移動させながら成膜することにも本発明は適用できる。即ち、基板Swと蒸着源DSを相対的に移動させれば、基板Swと蒸着源DSのいずれか、もしくは両方を移動させてもよい。更に、収容箱51に噴射ノズル54を一列で設けたものを例に説明したが、複数例設けることもできる。
【符号の説明】
【0027】
DS…真空蒸着装置用の蒸着源、Dm…真空蒸着装置、1…真空チャンバ、4…蒸着物質、51…収容箱、53…加熱手段、54…噴射ノズル、6…シースヒータ(温調手段)、7…遮熱板、Sw…基板(被蒸着物)、Bp…基準ピッチ、Ep…列設方向両端領域に夫々位置する2本の噴射ノズル間のピッチ。
図1
図2
図3
図4