(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】強度増進剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20220915BHJP
C04B 18/16 20060101ALI20220915BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C04B22/08 A
C04B18/16
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2018123429
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 真理
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】長井 正明
(72)【発明者】
【氏名】小西 和夫
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-500605(JP,A)
【文献】特開2015-120630(JP,A)
【文献】特開2004-082061(JP,A)
【文献】特開2006-265021(JP,A)
【文献】特開平05-238794(JP,A)
【文献】特開2013-203580(JP,A)
【文献】微粉砕セメント,石膏と石灰,日本,無機マテリアル学会,1989年,222号,P14-P19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系水和物
のみからなる強度増進剤であって、
前記セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が1.0質量%以上50質量%未満である、強度増進剤。
【請求項2】
セメント系水和物と、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一方と、のみからなる強度増進剤であって、
前記セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が1.0質量%以上50質量%未満であり、
前記水酸化マグネシウム及び前記水酸化カルシウムの含有量の合計が、前記セメント系水和物100質量部に対し、20質量部以下である、強度増進剤。
【請求項3】
前記セメント系水和物は、粉末状であり且つ粒子径1μm以下の粒子の割合が10体積%以上である、請求項1
又は2に記載の強度増進剤。
【請求項4】
前記セメント系水和物が結晶質のケイ酸カルシウム水和物を実質的に含まない、請求項1
~3のいずれか一項に記載の強度増進剤。
【請求項5】
前記セメント系水和物が生コンクリートスラッジである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の強度増進剤。
【請求項6】
セメント組成物と水とを混合してセメント系水和物を生成するセメント系水和物生成工程と、
前記セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が1.0質量%以上50質量%未満となるまで養生する養生工程と、
を含む、強度増進剤の製造方法。
【請求項7】
前記養生工程を経て得られた前記セメント系水和物を湿式粉砕する粉砕工程をさらに含み、
前記粉砕工程において、粒子径1μm以下の粒子の割合が10体積%以上となるように当該セメント系水和物を粉砕する、請求項
6に記載の強度増進剤の製造方法。
【請求項8】
前記粉砕工程において、前記セメント系水和物の質量Aと水の質量Bとの比(A/B)が0.01~10の条件で湿式粉砕を行う、請求項
7に記載の強度増進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの強度増進剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設業界では、省力化や品質安定化のためにプレキャスト製品の利用拡大や、低炭素化に向けた混合材の利用拡大、高耐久性のコンクリート舗装の普及が検討されている。プレキャスト製品のようなコンクリート二次製品では、生産性を向上させるため、早期脱型が可能な早強性のセメント又は混和材が要望されている。また、コンクリート舗装に関しても同様で、早期開放に向けて数時間での硬化が可能な早強性が求められている。さらに、水和反応速度の遅い混合材の利用に対して、初期強度の不足やこれに伴う中性化などの耐久性の低下が課題として挙げられている。
【0003】
上記課題を解決するため、セメントやコンクリートの硬化を促進可能な水和促進剤が提案されている。例えば、特許文献1は平均粒径10nm~500nmの非晶質シリカからなり、エーライトの水和発熱ピークの出現時間を短縮させる高温養生用セメント添加材を開示する。特許文献2は硬化促進剤としてのケイ酸カルシウム水和物を含有するセメント組成物を開示する。特許文献3は生コンクリート工場やコンクリート製品から排出される水和物の微粒子を利用した硬化促進組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-41243号公報
【文献】特開2015-120630号公報
【文献】特開平5-238794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
早強性プレキャスト製品のようなコンクリート二次製品では、生産性を向上させるため、蒸気養生下における強度増進効果の更なる向上が求められている。そこで、本発明は蒸気養生を経て製造されるセメント組成物の早期強度発現性を向上できる強度増進剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のセメント系水和物を含む材料がセメント・コンクリートの蒸気養生下における硬化速度を高める効果を有することを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る強度増進剤は、セメント系水和物を含み、当該セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満である。この強度増進剤をセメント組成物に配合することで、セメントの水和反応が促進され、これにより、蒸気養生を経て製造されるセメント組成物の早期強度発現性が向上する。かかるセメント系水和物として使用可能な材料として、生コンクリートスラッジが挙げられる。生コンクリートスラッジは、従来、廃棄物となっていたものであり、これを原料として強度増進剤を製造することで、廃棄物を有効利用できる。
【0008】
セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満であるということは、クリンカ鉱物による水和反応がある程度進行していることを意味する。強度増進剤に含まれるセメント系水和物は、セメントの水和反応による生成物(例えば、珪酸カルシウム水和物(1.7CaO・SiO2・2H2O)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2))を50質量%以上含む。本発明者らは、水和反応による生成物が種晶となる種晶効果によって水和反応が進みやすくなり、早期強度発現性が向上すると推察する。
本発明者らの検討によれば、強度増進剤において、セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が極めて低い(例えば、0.5質量%未満)と、9質量%程度であるときと比較して早期強度発現性が低下する傾向にあることから、クリンカ鉱物の含有率の下限値は、例えば、1.0質量%である。
【0009】
上記セメント系水和物は、優れた早期強度発現性の観点から、粉末状であり且つ粒子径1μm以下の粒子の割合が10体積%以上であることが好ましい。上記セメント系水和物は結晶質のケイ酸カルシウム水和物を実質的に含まないことが好ましい。セメント系水和物が結晶質のケイ酸カルシウム水和物を実質的に含まないことで、蒸気養生において一般に適用される温度(例えば、50~70℃程度)の養生条件で早期に十分に高い圧縮強度を達成することができる。
【0010】
本発明に係る強度増進剤の製造方法は、セメント組成物と水とを混合してセメント系水和物を生成するセメント系水和物生成工程と、セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満となるまで養生する養生工程とを含む。この養生工程を経ることで、クリンカ鉱物の割合が50質量%未満のセメント系水和物を得ることができる。
【0011】
本発明に係る強度増進剤の製造方法は、養生工程を経て得られた上記セメント系水和物を湿式粉砕する粉砕工程をさらに含むことが好ましい。この粉砕工程において、粒子径1μm以下の粒子の割合が10体積%以上となるように当該セメント系水和物を粉砕することが好ましい。また、粉砕工程においては、セメント系水和物の質量Aと水の質量Bとの比(A/B)が0.01~10の条件で湿式粉砕を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蒸気養生を経て製造されるセメント組成物の早期強度発現性を向上できる強度増進剤及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は強度増進剤のX線回折チャートを示す図である。
【
図2】
図2はモルタルの養生条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<強度増進剤>
本実施形態に係る強度増進剤は、セメントの硬化を増進するためのものである。この強度増進剤は、セメント系水和物を含み、このセメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満である。例えば、セメントの一部と置き換えて使用することで、セメントの強度増進をもたらす。
【0016】
(セメント系水和物)
上述のとおり、セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満である。この割合が50質量%を超えると、セメント組成物の早期強度発現性が不十分となる。ここでいうクリンカ鉱物は、ポルトランドセメントに存在する未水和の鉱物を意味し、具体的には、エーライト(3CaO・SiO2、以下、C3Sということがある)、ビーライト(2CaO・SiO2、以下C2Sということがある)、アルミネート相(3CaO・Al2O3、以下C3Aということがある)、フェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3、以下C4AFということがある)の4種類である。ここでいうセメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合は、これらの4種類の未水和のクリンカ鉱物の含有率(質量%)の合計を意味する。セメント系水和物におけるこれらのクリンカ鉱物は、X線回折リートベルト解析によって定量することができる。
【0017】
セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合は、好ましくは30質量%未満であり、より好ましくは20質量%であり、さらに好ましくは1.0~15質量%である。この割合が1.0質量%未満であると、未水和の鉱物が不足することに起因してセメント組成物の早期強度発現性が不十分となる傾向にある。
【0018】
セメント系水和物中のC3S量は、早期強度発現性の観点から、好ましくは0~30質量%であり、0~15質量%又は0.1~10質量%であってもよい。セメント系水和物中のC2S量は、早期強度発現性の観点から、好ましくは0~25質量%であり、0~15質量%又は0.5~12質量%であってもよい。セメント系水和物中のC3A量は、早期強度発現性の観点から、好ましくは0~12質量%であり、0~10質量%又は0.1~8質量%であってもよい。セメント系水和物中のC4AF量は、早期強度発現性の観点から、好ましくは0~15質量%であり、0~10質量%又は0.1~5質量%であってもよい。
【0019】
上記セメント系水和物は、優れた早期強度発現性の観点から、粉末状であることが好ましい。セメント系水和物の粉末は、粒子径1μm以下の粒子の割合が好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは20体積%以上であり、さらに好ましくは30体積%以上である。セメント系水和物の粒度は、レーザー回折式粒度分布計で測定することができる。
【0020】
セメント系水和物は、未水和のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満である限り、特にその種類は任意に選択できる。例えば、セメントを水と反応させて一部を水和させたものが使用可能である。セメントの種類は特に制限はなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、ポルトランドセメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質材量と混合した混合セメントが使用可能である。
【0021】
セメント系水和物として、生コンクリート工場等で発生する生コンクリートスラッジ(以下、生コンスラッジということがある)を使用してもよい。生コンクリート工場で製造された生コンクリートは、アジテータ車で施工現場まで運ばれる。施工現場で生コンクリートを降ろした後のアジテータ車内に残った生コンクリートは、アジテータ車が生コン工場に戻った後、アジテータ車内を洗浄することで除去される。アジテータ車内を洗浄したときに発生する残渣の固形分から、ふるいなどで粗骨材、細骨材を取り除き分離された微粒分が生コンスラッジである。粗骨材、細骨材は通常再利用されるが、生コンスラッジは、フィルタプレス等の脱水機で脱水された後、産業廃棄物として処分されていることが多い。生コンスラッジには、セメントが水和反応したセメント水和物が含まれている。生コンスラッジを強度増進剤として利用することで、産業廃棄物の削減に繋げることができる。
【0022】
セメント組成物に含まれるクリンカ鉱物は、水と接触することにより水和反応を起こす。セメント組成物の水和反応は多くの反応が複雑に絡み合いケイ酸カルシウム水和物(CSH)等が生成する。このCSHは、結晶の配列が不規則であるので、一般的には非晶質である。したがって、セメント組成物の水和反応後の組成物は非晶質であることが多い。
【0023】
セメント系水和物は、結晶質のケイ酸カルシウム水和物を実質的に含まないことが好ましい。結晶質のケイ酸カルシウム水和物を生成するには90℃以上の高温養生が必要であり、養生にコストがかかってしまう。また、結晶質のケイ酸カルシウム水和物を実質的に含まないとは、セメント系水和物のX線回折パターンが、未水和のクリンカ鉱物のピークまたはエトリンガイトやモノサルフェート等のアルミネート系の水和物だけであり、トバモライト等のケイ酸カルシウム水和物を示すシャープなピークを持たないことを意味する。
【0024】
(その他の成分)
本実施形態に係る強度増進剤は、上記セメント系水和物の他に、セメントの初期水和反応をさらに促進する観点から、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一方をさらに含んでもよい。上記セメント系水和物100質量部に対し、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムの含有量の合計は、例えば、0~20質量部であり、0.1~5質量部であってもよい。
【0025】
本実施形態に係る強度増進剤は、蒸気養生したモルタル・コンクリート製品の強度増進を促進することができる。強度増進剤は、セメントに対して置き換えて添加されることが好ましい。強度増進剤の置換量はセメントに対し、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、1.0~6質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
<強度増進剤の製造方法>
本実施形態に係る強度増進剤の製造方法は、セメント組成物と水とを混合してセメント系水和物を生成するセメント系水和物生成工程と、セメント系水和物中のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満となるまで養生する養生工程とを含む。この養生工程を経ることで、クリンカ鉱物の割合が50質量%未満の上記セメント系水和物を得ることができる。
【0027】
(水和物生成工程)
水和物生成工程は、セメント組成物と水を混合してセメント組成物を水和反応させる工程である。この工程におけるセメント組成物の質量Cと水の質量Wの比(C/W)はセメントペーストのハンドリング等を考慮すると、好ましくは0.01~10であり、より好ましくは0.02~5であり、さらに好ましくは0.1~1である。セメント組成物と水との混合は、市販されている混合機が使用できる。セメント系水和物として、生コンスラッジを使用する場合、生コンクリートを混練する工程がこの工程に該当する。
【0028】
(養生工程)
養生工程は、セメント組成物の水和反応によりセメント系水和物中の未水和のクリンカ鉱物の割合が50質量%未満になるように養生する工程である。セメント組成物の水和反応が進むと未反応のクリンカ鉱物が減少する。セメント組成物と水との水和反応は未反応のクリンカ鉱物が50質量%未満になるまで水和反応させることによって上記セメント系水和物を得ることができる。水和反応は温度により速度が変化するため、水和させる時間は温度により適宜調整すればよい。水和反応中のセメント組成物の水和反応は未反応のクリンカ鉱物が50質量%未満になった時点で停止させても構わない。水和停止させる方法としては以下のものが挙げられる。
(1)セメント組成物と水を混合したペースト等を放置して自然に乾燥させる方法
(2)加熱により水を蒸発させる方法
(3)湿度を低下させる調湿による方法
(4)減圧により乾燥する方法
(5)アルコールやアセトンで水を抽出する溶媒抽出による方法
【0029】
セメント系水和物として、生コンスラッジを使用する場合、生コンスラッジの水和反応を停止させるには、生コンスラッジをフィルタプレスやベルトプレス、スクリュープレス等の方法で脱水したり、自然乾燥や加熱乾燥したりすればよい。
【0030】
(粉砕工程)
強度増進剤の製造方法は、養生工程を経て得られた上記セメント系水和物を湿式粉砕する粉砕工程をさらに含んでもよい。セメント系水和物を粉砕することにより、強度増進効果を高めることができ、また、湿式粉砕することで、粉砕されたセメント系水和物(強度増進剤)を含むスラリーが得られる。湿式粉砕には溶媒に水を使ってボールミル等で行うことができる。この場合、セメント系水和物の質量Aと水の質量Bとの比(A/B)が0.01~10の条件で湿式粉砕を行うことが好ましい。この比は、より好ましくは0.02~5であり、さらに好ましくは0.1~1である。
【0031】
粉状の強度増進剤を製造する場合、粉砕工程後、上記スラリーを乾燥させて粉状水熱反応生成物を得る工程をさらに含んでもよい。上記スラリーを乾燥させることなく、スラリーのまま使用する場合、強度を増進すべきポルトランドセメントと、上記スラリーと、混練水とを混ぜてセメント組成物を調製すればよい。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例を詳細に記載する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[セメント系水和物の原料]
・普通ポルトランドセメント(NC):宇部興産株式会社製
・早強ポルトランドセメント(HC):宇部興産株式会社製
・中庸熱ポルトランドセメント(MC):宇部興産株式会社製
・生コンスラッジ1(SL1):関東宇部コンクリート工業社豊洲工場(2017年11月採取品)
・生コンスラッジ2(SL2):リコーン社製サスティナブルセメント
【0034】
セメント系水和物原料の強熱減量(ig.loss)及び化学組成を表1に示す。なお、強熱減量は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い測定し、化学組成はJIS R5204「セメントの蛍光X線分析方法」に従い、蛍光X線回折装置(Rigaku社製、ZSX-100e)で測定した。
【0035】
[セメント系水和物の作製]
水/セメント比=0.5で、ハイパーミキサー(株式会社丸東製作所製、型番CB-34)で2分間混練し、得られたセメントペーストをポリ袋に入れ密閉(封緘)し、80℃の恒温機で72時間養生して硬化体を作製した。その後、硬化体を粉砕し、アセトンに浸漬して水和停止させ、硬化体に含まれるアセトンは減圧することで乾燥した。水和停止後の硬化体は振動ミル(会社名不明、GY-RO P-6200)で90秒間粉砕して、各種ポルトランドセメントのセメント系水和物を得た。
【0036】
[生コンスラッジの調製]
生コンスラッジは、生コン工場で回収された戻り生コンクリートを洗浄処理により粗骨材、細骨材を分離し、懸濁水中の固形分(セメント水和物、未水和セメント、一部細骨材微粒分等を含む)をフィルタプレス脱水機により脱水したものを用いた。また、市販されている生コンスラッジ乾燥品(SL2)を使用した。生コンスラッジ(SL1、SL2)のig.loss及び化学成分を表1に示す。
【0037】
【0038】
[強度増進剤の作製]
(実施例1)
普通ポルトランドセメントセメント(NC)水和物と水を2:8の質量比となるように混合し、φ80mmで容量500mlアルミナ製ポッドに投入し、そこにφ10mmのジルコニア製ボールを加えて、アルミナ製ポッドを24時間回転させてボールミル粉砕することによって、NC水和物の粉砕物からなる強度増進剤を含むスラリーを作製した。
【0039】
(実施例2)
普通ポルトランドセメントセメント(NC)水和物の代わりに、早強ポルトランドセメント(HC)水和物を使用したことの他は、実施例1と同様にしてHC水和物の粉砕物からなる強度増進剤を含むスラリーを作製した。
【0040】
(実施例3)
普通ポルトランドセメントセメント(NC)水和物の代わりに、中庸熱ポルトランドセメント(MC)水和物を使用したことの他は、実施例1と同様にしてMC水和物の粉砕物からなる強度増進剤を含むスラリーを作製した。
【0041】
(実施例4)
普通ポルトランドセメントセメント(NC)水和物の代わりに、生コンスラッジ1(SL1)を使用したことの他は、実施例1と同様にしてSL1の粉砕物からなる強度増進剤を含むスラリーを作製した。
【0042】
(実施例5)
普通ポルトランドセメントセメント(NC)水和物の代わりに、生コンスラッジ2(SL2)を使用したことの他は、実施例1と同様にしてSL2の粉砕物からなる強度増進剤を含むスラリーを作製した。
【0043】
(参考例)
参考例として、石炭灰50.7質量%と消石灰49.3質量%の割合で混合した粉体とを水/粉体の質量比2.0で混練したものを180℃、10気圧のオートクレーブで24時間反応させて得た水熱合成水和物を同様の条件で粉砕してスラリーを作製した。
【0044】
[鉱物の同定及びクリンカ鉱物の割合]
上記実施例及び参考例に係る強度増進剤を構成する鉱物の同定及びクリンカ鉱物の割合を測定した。クリンカ鉱物の定量は、標準試料としてAl2O3(和光純薬工業株式会製、コランダム)を内割りで10質量%添加し、アセトンを加えて乳鉢で混合することでX線回折用測定試料を調製した。X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、加速電圧:30kV、電流:10mA、管球:Cu)を用いて各セメントの水和物および生コンスラッジ(標準試料としてAl2O3含む)のX線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンから結晶相の同定をX線回折用ソフトウェア(DIFFRAC.EVA)で行った。
【0045】
X線回折で得られたX線パターンは解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Topas)にてリートベルト解析を行い、各種ポルトランドセメントのセメント系水和物及び生コンスラッジ(SL1、SL2)に含まれるC
3S、C
2S、C
3A及びC
4AFを定量し、その合計をクリンカ鉱物の割合とした。表2に結果を示す。
図1は、実施例1,4,5及び参考例に係る強度増進剤のX線回折チャートである。なお、
図1に示すとおり、参考例に係る水熱合成水和物はトバモライト及びハイドロガーネット系水和物(C
3ASH
4)を含む。
【0046】
[強度増進剤の粒度分布測定]
上記実施例及び参考例に係る強度増進剤はエタノールに分散し、超音波を10分間照射後、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)を用いて粒度分布を測定し、粒子径1μm以下の割合(単位:体積%)を算出した。表2に結果を示す。
【0047】
【0048】
表2において、「クリンカ鉱物(質量%)」は湿式粉砕前の強度増進剤を測定対象としたものであり、「粒子径1μm以下の粒子の割合(体積%)」は湿式粉砕後の強度増進剤を測定対象としたものである。参考例に係る水熱合成水和物は完全に水和しているので、未水和のクリンカ鉱物の含有量は0質量%である。なお、実施例4,5に係るSL1,SL2については「粒子径1μm以下の粒子の割合」のデータを取っていない。
【0049】
[強度増進剤を含むモルタルの圧縮強度試験]
実施例及び参考例に係る強度増進剤を含むモルタルを作製し、圧縮強度試験を行った。モルタル試験の配合を表3に示す。セメントは宇部興産製の普通ポルトランドセメント(OPC)を使用し、細骨材はセメント強さ試験用標準砂(以下、「標準砂」という。)を使用した。湿式粉砕後の強度増進剤を20質量%含有するスラリーを、普通ポルトランドセメントに対して強度増進剤が質量割合で2%、3%、5%置き換えるように添加し、強度増進剤を含有するスラリーの水分を混錬水と置換して配合を調整した。練混ぜはモルタルミキサー(株式会社丸東製作所製、型番CB-34)で、普通ポルトランドセメント及び標準砂を30秒間低速で混合し、強度増進剤スラリーと混錬水を低速で30秒間混合後、60秒間高速混合し、モルタルを調製した。
【0050】
【0051】
調製したモルタルをφ50mm×高さ100mmの円柱型枠に詰めた後、型枠をポリエチレン製のフィルムで封緘し、
図2に示す温度条件で3時間蒸気養生した。その後、型枠を脱型してモルタル圧縮強度を測定した。表4に結果を示す。表4において、圧縮強度比は比較例1に係るモルタル硬化体の圧縮強度を基準としたものである。比較例1に係るモルタル硬化体は、強度増進剤を添加しなかった他は実施例1と同様にして作製した。
【0052】
【0053】
表4に示されたとおり、実施例に係るモルタルは強度増進剤を含まない比較例1に係るモルタルと比較して圧縮強度が高くなり、本発明の強度増進剤は高い強度増進効果を有することがわかった。
【0054】
実施例4b,4c,5に係るモルタルは、水熱合成水和物を使用した参考例b,cに係るモルタルと比較して圧縮強度が高くなった。参考例に係る水熱合成水和物のX線回折パターンには結晶性のトバモライト由来の回折ピークが確認された一方、実施例の強度増進剤には結晶性のケイ酸カルシウム水和物は見られず、強度増進剤の水和物は実質的に非晶質であることがわかった(
図1参照)。このことより、強度増進剤は結晶性の水和物を含んでいない方が好ましいとわかった。さらに、実施例4,5に係る強度増進剤は、強度発現性に優れるだけでなく、従来は廃棄物となっていた生コンスラッジからなるものである。したがって、原料として生コンスラッジを使用した実施例によれば、早期強度発現性に優れるとともに廃棄物を有効利用することもできる。