(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】到来方向推定装置及び到来方向推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20220915BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G01S7/02 216
G01S7/40 104
(21)【出願番号】P 2019038611
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】菊間 信良
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116425(JP,A)
【文献】特開2017-090229(JP,A)
【文献】特開2012-168157(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0292510(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
H01Q 3/00- 3/46
H01Q 21/00-25/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとの組み合わせにより生成され、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である第1の仮想アンテナ及び第2の仮想アンテナを備える仮想アレーアンテナの受信信号を取得する取得部と、
前記第1の仮想アンテナと、前記第2の仮想アンテナとを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づき前記受信信号の相関行列を算出し、前記受信信号の相関行列の固有値分解に基づき固有ベクトルを算出する算出部と、
前記第1の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素と、前記第2の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素とに基づき、前記固有ベクトルを補正する補正部と、
前記補正部によって補正された後の前記固有ベクトルに基づいて電波の到来方向を推定する推定部と、
を備える、到来方向推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記補正部によって補正された後の前記固有ベクトルにおいて、
前記第1の仮想アンテナに対応する要素と、前記第2の仮想アンテナに対応する要素と、をまとめた結合固有ベクトルを生成し、
前記結合固有ベクトルの相関行列を生成し、
前記結合固有ベクトルの相関行列に基づいて電波の到来方向を推定する、
請求項1に記載の到来方向推定装置。
【請求項3】
前記算出部は、
複数の前記結合固有ベクトルを並べて得られる特徴行列と、前記特徴行列の複素共役転置行列とを掛けて、前記結合固有ベクトルの相関行列を生成する、
請求項2に記載の到来方向推定装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記第1の仮想アンテナと、前記第2の仮想アンテナとを共に含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づき単一の前記受信信号の相関行列を算出し、
前記補正部は、前記第2の仮想アンテナと同一の前記送信アンテナ又は前記受信アンテナのいずれか一方を組合せて生成した仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素を補正する、
請求項1に記載の到来方向推定装置。
【請求項5】
前記算出部は、
前記第1の仮想アンテナを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づく第1の相関行列と、前記第2の仮想アンテナを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づく第2の相関行列と、をそれぞれ別々の前記受信信号の相関行列として算出し、
前記第1の相関行列の固有値分解に基づく第1の固有ベクトルと、
前記第2の相関行列の固有値分解に基づく第2の固有ベクトルと、を算出し、
前記補正部は、
前記第1の仮想アンテナに対応する前記第1の固有ベクトルの要素、及び前記第2の仮想アンテナに対応する前記第2の固有ベクトルの要素に基づき、前記第2の固有ベクトルを補正し、
前記推定部は、
前記第1の固有ベクトルと前記補正部によって補正された後の前記第2の固有ベクトルとに基づいて電波の到来方向を推定する、
請求項1に記載の到来方向推定装置。
【請求項6】
前記算出部は、
前記第1の仮想アンテナを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づく第1の相関行列と、前記第2の仮想アンテナを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づく第2の相関行列と、をそれぞれ別々の前記受信信号の相関行列として算出し、
前記第1の相関行列の固有値分解に基づく第1の固有ベクトルと、
前記第2の相関行列の固有値分解に基づく第2の固有ベクトルと、を算出し、
前記補正部は、
前記第1の仮想アンテナに対応する前記第1の固有ベクトルの要素、及び前記第2の仮想アンテナに対応する前記第2の固有ベクトルの要素に基づき、前記第2の固有ベクトルを補正し、
前記推定部は、
前記第1の固有ベクトルと前記補正部によって補正された後の前記第2の固有ベクトルとに基づいて電波の到来方向を推定する、
請求項2または請求項3に記載の到来方向推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、
前記第1の固有ベクトルと前記補正部によって補正された後の前記第2の固有ベクトルとを結合して前記結合固有ベクトルを生成する、
請求項6に記載の到来方向推定装置。
【請求項8】
複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとの組み合わせにより生成され、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である第1の仮想アンテナ及び第2の仮想アンテナを備える仮想アレーアンテナの受信信号を取得する取得工程と、
前記第1の仮想アンテナと、前記第2の仮想アンテナとを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づき前記受信信号の相関行列を算出し、前記受信信号の相関行列の固有値分解に基づき固有ベクトルを算出する算出工程と、
前記第1の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素と、前記第2の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素とに基づき、前記固有ベクトルを補正する補正工程と、
前記補正工程によって補正された後の前記固有ベクトルに基づいて電波の到来方向を推定する推定工程と、
を備える、到来方向推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の到来方向を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、電波を照射し、物標から反射してきた電波(反射波)を受信することで、反射波の到来方向を推定する。到来方向の推定方法は、反射波を受信する複数の受信アンテナで得られた受信信号の位相差や振幅差の情報から到来方向(角度)を算出する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
到来方向(角度)を算出する上で、アンテナ数は非常に重要であり、角度精度性能及び角度分離性能に大きく影響する。しかしながら、アンテナ数の増加は、レーダ装置のコストアップに繋がってしまう。このため、受信アンテナの数を超える数の仮想アンテナを備える仮想アレーアンテナを、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとの組み合わせによって生成する技術が近年注目されている。
【0005】
仮想アレーアンテナでは、1つの送信アンテナに存在する誤差が複数の仮想アンテナの誤差に反映され、誤差の影響する範囲が広くなる。例えば、
図7に示すアンテナ間隔が4dである2つの送信アンテナTx1及びTx2とアンテナ間隔がdである4つの受信アンテナRx1~Rx4との組み合わせによって生成される仮想アレーアンテナVAx1では、送信アンテナTx1に存在する誤差が4つの仮想アンテナVRx5~VRx8に影響を与えてしまう。
【0006】
同様に、仮想アレーアンテナでは、1つの受信アンテナに存在する誤差が複数の仮想アンテナの誤差に反映され、誤差の影響する範囲が広くなる。例えば、
図8に示すアンテナ間隔がdである4つの送信アンテナTx1~Tx4とアンテナ間隔が4dである2つの受信アンテナRx1及びRx2との組み合わせによって生成される仮想アレーアンテナVAx1では、受信アンテナRx1に存在する誤差が4つの仮想アンテナVRx1、VRx3、VRx5、及びVRx7に影響を与えてしまう。
【0007】
そこで、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である複数の仮想アンテナが得られるように、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとを配置し、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である2つの仮想アンテナの受信信号間の差をキャンセルするように仮想アンテナの受信信号に補正をかける補正技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、熱雑音などのランダムな雑音が、複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナそれぞれにおいて発生する。このため、各仮想アンテナの各受信信号に含まれる雑音はそれぞれ異なる。したがって、上記の補正技術では、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である2つの仮想アンテナの受信信号間の差を、2つの仮想アンテナの受信信号がそれぞれで異なる雑音を含んだままでキャンセルしており、正しい誤差補正が行えていない。特に、信号対雑音比(SNR)が低い場合には、雑音の影響が大きくなるため、誤差補正の精度低下が顕著になる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて、誤差補正の精度が高い到来方向推定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る到来方向推定装置は、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとの組み合わせにより生成され、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である第1の仮想アンテナ及び第2の仮想アンテナを備える仮想アレーアンテナの受信信号を取得する取得部と、前記第1の仮想アンテナと、前記第2の仮想アンテナとを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づき前記受信信号の相関行列を算出し、前記受信信号の相関行列の固有値分解に基づき固有ベクトルを算出する算出部と、前記第1の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素と、前記第2の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素とに基づき、前記固有ベクトルを補正する補正部と、前記補正部によって補正された後の前記固有ベクトルに基づいて電波の到来方向を推定する推定部と、を備える構成(第1の構成)である。
【0011】
上記第1の構成の到来方向推定装置において、前記推定部は、前記補正部によって補正された後の前記固有ベクトルにおいて、前記第1の仮想アンテナに対応する要素と、前記第2の仮想アンテナに対応する要素と、をまとめた結合固有ベクトルを生成し、前記結合固有ベクトルの相関行列を生成し、前記結合固有ベクトルの相関行列に基づいて電波の到来方向を推定する構成(第2の構成)であってもよい。
【0012】
上記第2の構成の到来方向推定装置において、前記算出部は、複数の前記結合固有ベクトルを並べて得られる特徴行列と、前記特徴行列の複素共役転置行列とを掛けて、前記結合固有ベクトルの相関行列を生成する構成(第3の構成)であってもよい。
【0013】
上記第1の構成の到来方向推定装置において、前記算出部は、前記第1の仮想アンテナと、前記第2の仮想アンテナとを共に含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づき単一の前記受信信号の相関行列を算出し、前記補正部は、前記第2の仮想アンテナと同一の前記送信アンテナ又は前記受信アンテナのいずれか一方を組合せて生成した仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素を補正する構成(第4の構成)であってもよい。
【0014】
上記第1~第3の構成の到来方向推定装置において、前記算出部は、前記第1の仮想アンテナを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づく第1の相関行列と、前記第2の仮想アンテナを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づく第2の相関行列と、をそれぞれ別々の前記受信信号の相関行列として算出し、前記第1の相関行列の固有値分解に基づく第1の固有ベクトルと、前記第2の相関行列の固有値分解に基づく第2の固有ベクトルと、を算出し、前記補正部は、前記第1の仮想アンテナに対応する前記第1の固有ベクトルの要素、及び前記第2の仮想アンテナに対応する前記第2の固有ベクトルの要素に基づき、前記第2の固有ベクトルを補正し、前記推定部は、前記第1の固有ベクトルと前記補正部によって補正された後の前記第2の固有ベクトルとに基づいて電波の到来方向を推定する構成(第5の構成)であってもよい。
【0015】
上記第5の構成の到来方向推定装置において、前記推定部は、前記第1の固有ベクトルと前記補正部によって補正された後の前記第2の固有ベクトルとを結合して前記結合固有ベクトルを生成する構成(第6の構成)であってもよい。
【0016】
本発明に係る到来方向推定方法は、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとの組み合わせにより生成され、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である第1の仮想アンテナ及び第2の仮想アンテナを備える仮想アレーアンテナの受信信号を取得する取得工程と、前記第1の仮想アンテナと、前記第2の仮想アンテナとを含む複数の仮想アンテナごとの前記受信信号に基づき前記受信信号の相関行列を算出し、前記受信信号の相関行列の固有値分解に基づき固有ベクトルを算出する算出工程と、前記第1の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素と、前記第2の仮想アンテナに対応する前記固有ベクトルの要素とに基づき、前記固有ベクトルを補正する補正工程と、前記補正工程によって補正された後の前記固有ベクトルに基づいて電波の到来方向を推定する推定工程と、を備える構成(第7の構成)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る到来方向推定技術によると、誤差補正の精度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1および第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図
【
図2】第1および第2の実施形態におけるアンテナ配置を示す図
【
図3A】第1の実施形態に係るレーダ装置の概略動作を示すフローチャート
【
図3B】第2の実施形態に係るレーダ装置の概略動作を示すフローチャート
【
図7】一般的なMIMOアンテナ配置の一例を示す図
【
図8】一般的なMIMOアンテナ配置の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
<1.第1の実施形態>
<1-1.レーダ装置の構成>
図1は本実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載されている。レーダ装置1が自車両の前端に搭載されている場合、レーダ装置1は、送信波を用いて、自車両の前方に存在する物標に係る物標データを取得する。物標データは、物標までの距離、レーダ装置1に対する物標の相対速度等を含む。しかしながら、本実施形態に係るレーダ装置1を到来方向推定装置の一例として説明するため、以下の説明においては到来方向推定に関する部分についてのみ説明を行う。
【0021】
図1に示すように、レーダ装置1は、2個の送信部2と、受信部3と、信号処理装置4と、を主に備えている。なお、レーダ装置1は、いわゆるMIMO(Multi Input Multi Output)レーダ装置である。
【0022】
送信部2は、信号生成部21と発信器22とを備えている。発信器22は、信号生成部21で生成された信号を変調して送信信号を生成する。2個の送信アンテナ23はそれぞれ別々の送信部2から送信信号を受け取り、その送信信号を送信波TWに変換して出力する。2個の送信部2それぞれから出力される2つの送信信号は、互いに直交した信号(直交信号)である。
【0023】
受信部3は、複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32とを備えている。本実施形態では、受信部3は、例えば、4個の受信アンテナ31と4個の個別受信部32とを備えている。4個の個別受信部32は、4個の受信アンテナ31にそれぞれ対応している。4個の受信アンテナ31はそれぞれ受信チャンネルch1~ch4に対応している。各受信アンテナ31は物体からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。
【0024】
各個別受信部32は、ミキサ33とA/D変換器34とを備えている。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には各送信部2の各発信器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において各送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、各送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
【0025】
信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、フーリエ変換部43、及び、データ処理部44を備えている。送信制御部42は、各送信部2の各信号生成部21を制御する。データ処理部44は、ピーク抽出部45、取得部46、算出部47、補正部48、及び推定部49を備えている。
【0026】
フーリエ変換部43は、複数の物標からの反射波が重なり合った状態で受信アンテナ31において受信されるため、受信信号に基づいて生成されたビート信号から、各物標の反射波に基づく周波数成分を分離する処理(例えば、FFT(Fast Fourier Transfer)処理)を行う。FFT処理では、所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(周波数ビンという場合がある)ごとに受信レベルや位相情報が算出される。
【0027】
ピーク抽出部45は、フーリエ変換部43によるFFT処理等の結果からピークを検出する。
【0028】
取得部46は、ピーク抽出部45で抽出されたピーク値に基づき、仮想アレーアンテナの受信信号を取得する。仮想アレーアンテナの詳細については後述する。
【0029】
算出部47は、仮想アレーアンテナの受信信号に基づき、第1の固有ベクトル及び第2の固有ベクトルを算出する。第1の固有ベクトル及び第2の固有ベクトルの詳細については後述する。
【0030】
補正部48は、第2の固有ベクトルを補正する。補正の具体例については後述する。
【0031】
推定部49は、第1の固有ベクトルと補正部48によって補正された後の第2の固有ベクトルとに基づいて電波の到来方向を推定する。推定の具体例については後述する。
【0032】
<1-2.アンテナ配置>
図2は、本実施形態におけるアンテナ配置を示す図である。
図2(a)に示すように2個の送信アンテナ23が水平方向に沿ってアンテナ間隔3dで配置され、
図2(b)に示すように4個の受信アンテナ31が水平方向に沿って同一のアンテナ間隔dで配置される。なお、受信アンテナ31における3つのアンテナ間隔は、厳密に同一でなくてもよく、設計上の誤差やばらつきなどを考慮した上で3つのアンテナ間隔が同一とみなすことができればよい。また、送信アンテナ23におけるアンテナ間隔は、厳密に受信アンテナ31におけるアンテナ間隔の3倍でなくてもよく、設計上の誤差やばらつきなどを考慮した上で受信アンテナ31におけるアンテナ間隔の3倍とみなすことができればよい。
【0033】
図2(a)に示す2個の送信アンテナ23と
図2(b)に示す4個の受信アンテナ31との組み合わせにより、
図2(c)に示す仮想アレーアンテナが生成される。
図2(c)に示す仮想アレーアンテナは、8個の仮想アンテナVRx1~VRx8によって構成される。
【0034】
MIMO技術を適用することで、受信アンテナの数を超える数の仮想アンテナを得ることができる。仮想アンテナVRx1~VRx4は水平方向に沿ってアンテナ間隔dで配置され、仮想アンテナVRx5~VRx8は水平方向に沿ってアンテナ間隔dで配置される。そして、仮想アンテナVRx4の位置と仮想アンテナVRx5の位置とが重なっている。なお、位置が重なっている仮想アンテナVRx4と仮想アンテナVRx5とでは、同一物標に対する信号の往復路距離が同一である。
【0035】
1chの受信アンテナ31の受信信号は、互いに直交する仮想アンテナVRx1の受信信号及び仮想アンテナVRx5の受信信号を含む。同様に、2chの受信アンテナ31の受信信号は、互いに直交する仮想アンテナVRx2の受信信号及び仮想アンテナVRx6の受信信号を含む。同様に、3chの受信アンテナ31の受信信号は、互いに直交する仮想アンテナVRx3の受信信号及び仮想アンテナVRx7の受信信号を含む。同様に、4chの受信アンテナ31の受信信号は、互いに直交する仮想アンテナVRx4の受信信号及び仮想アンテナVRx8の受信信号を含む。
【0036】
<1-3.レーダ装置の概略動作>
図3Aは、レーダ装置1の概略動作を示すフローチャートである。レーダ装置1は
図3Aに示す処理を一定時間ごとに周期的に繰り返す。
【0037】
まず送信アンテナ23が送信波TWを出力する(ステップS10)。次に、受信アンテナ31が受信波RWを受信して受信信号を取得する(ステップS20)。次に、信号処理装置4が所定数のビート信号を取得する(ステップS30)。次に、フーリエ変換部43は、ビート信号を対象にFFT演算を実行する(ステップS40)。
【0038】
そして、ピーク抽出部45は、FFT演算の結果からピークを抽出する(ステップS50)。
【0039】
ステップS50に続くステップS60において、取得部46は、ピーク抽出部45で抽出されたピーク値に基づき、
図2(c)に示す仮想アレーアンテナの受信信号を取得する。すなわち、取得部46は、仮想アンテナVRx1~VRx8の受信信号x
1~x
8を取得する。
【0040】
ステップS60に続くステップS70において、算出部47は、仮想アンテナVRx1~VRx8の受信信号x1~x8に基づき、第1の固有ベクトル及び第2の固有ベクトルを算出する。
【0041】
算出部47は、仮想アンテナVRx1~VRx4の受信信号x1~x4に基づく第1の相関行列R1と、仮想アンテナVRx5~VRx8の受信信号x5~x8に基づく第2の相関行列R2と、を算出する。第1の相関行列R1は下記の(1)式により算出することができ、第2の相関行列R2は下記の(2)式により算出することができる。ここで、X1= [x1,x2,x3,x4]Tであり、X2= [x5,x6,x7,x8]Tであり、E[・]は時間平均処理を表しており、[・]Hは複素共役転置を表している。
R1=E[X1X1H] ・・・(1)
R2=E[X2X2H] ・・・(2)
【0042】
算出部47は、第1の相関行列R1及び第2の相関行列R2をそれぞれ固有値分解する。固有値分解により、信号と雑音を分離することができる。第1の相関行列R1及び第2の相関行列R2はそれぞれ4行4列の行列であるため、第1の相関行列R1の固有値は4つ求まり、第2の相関行列R2の固有値も4つ求まる。
【0043】
本実施形態では、算出部47は、第1の相関行列R1の特定の固有値それぞれに対応する第1の固有ベクトルを算出し、第2の相関行列R2の特定の固有値それぞれに対応する第2の固有ベクトルを算出する。特定の固有値とは、絶対値が所定値以上である固有値を意味する。
【0044】
以下、第1の相関行列R1の固有値のうち、最も絶対値が大きい固有値Φ11及び2番目に絶対値が大きい固有値Φ12のみが特定の固有値に該当し、第2の相関行列R2の固有値のうち、最も絶対値が大きい固有値Φ21及び2番目に絶対値が大きい固有値Φ22のみが特定の固有値に該当する場合を例に挙げて説明を行う。
【0045】
算出部47は、固有値Φ11に対応する第1の固有ベクトルe11、固有値Φ12に対応する第1の固有ベクトルe12、固有値Φ21に対応する第2の固有ベクトルe21、及び固有値Φ22に対応する第2の固有ベクトルe22を算出する。算出部47によって算出される第1の固有ベクトルe11及びe12並びに第2の固有ベクトルe21及びe22は、雑音の影響を受けない。算出部47によって算出される第1の固有ベクトルe11及びe12並びに第2の固有ベクトルe21及びe22は、下記の(3)~(6)式で表される。
e11=[e111, e112, e113, e114]T ・・・(3)
e12=[e121, e122, e123, e124]T ・・・(4)
e21=[e211, e212, e213, e214]T ・・・(5)
e22=[e221, e222, e223, e224]T ・・・(6)
【0046】
ステップS70に続くステップS80において、補正部48は、第2の固有ベクトルe21及びe22を補正する。
【0047】
仮に2つの送信アンテナ23間で誤差がなければ、仮想アンテナVRx4に対応する第1の固有ベクトルe11の要素e114と仮想アンテナVRx5に対応する第2の固有ベクトルe21の要素e211とは一致するはずである。したがって、補正部48は、仮想アンテナVRx4に対応する第1の固有ベクトルe11の要素e114と仮想アンテナVRx5に対応する補正後の第2の固有ベクトルe’21の要素とが一致するように、第2の固有ベクトルe21を補正する。
【0048】
同様に、仮に2つの送信アンテナ23間で誤差がなければ、仮想アンテナVRx4に対応する第1の固有ベクトルe12の要素e124と仮想アンテナVRx5に対応する第2の固有ベクトルe22の要素e221とは一致するはずである。したがって、補正部48は、仮想アンテナVRx4に対応する第1の固有ベクトルe12の要素e124と仮想アンテナVRx5に対応する補正後の第2の固有ベクトルe’22の要素とが一致するように、第2の固有ベクトルe22を補正する。
【0049】
補正後の第2の固有ベクトルe’21及びe’22は、下記の(7)~(8)式で表される。
e’21=(e114/e211)×[e211, e212, e213, e214]T ・・・(7)
e’22=(e124/e221)×[e221, e222, e223, e224]T ・・・(8)
【0050】
ステップS80に続くステップS90において、推定部49は、第1の固有ベクトルe11と補正後の第2の固有ベクトルe’21とを結合した結合固有ベクトルeC1を生成し、第1の固有ベクトルe12と補正後の第2の固有ベクトルe’22とを結合した結合固有ベクトルeC2を生成する。なお、上記の結合において、一致する要素同士は一つの要素にまとめている。
【0051】
結合固有ベクトルeC1及びeC2は、下記の(9)~(10)式で表される。
eC1=[e111, e112, e113, e114, (e114/e211)×e212, (e114/e211)×e213, (e114/e211)×e214]T ・・・(9)
eC2=[e121, e122, e123, e124, (e124/e221)×e222, (e124/e221)×e223, (e124/e221)×e224]T ・・・(10)
【0052】
さらに、推定部49は、結合固有ベクトルeC1と結合固有ベクトルeC2とを順に並べて得られる特徴行列Aと、特徴行列Aの複素共役転置行列とを掛けて、結合固有ベクトルの相関行列Revを生成する。相関行列Revは下記の(11)式で表される。
Rev=AAH
Rev=[eC1 eC2]×[eC1
H eC2
H] ・・・(11)
【0053】
最後に、推定部49は、MUSIC(Multiple Signal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの公知の到来方向推定手法を用いて、相関行列Revに基づいて角度スペクトラムを算出し、算出した角度スペクトラムに基づいて電波の到来方向(物標の角度)を推定する。
【0054】
上述した
図3Aのフローチャートに示す動作を実行することで、信号と雑音を分離することができ、雑音の影響を受けずに誤差補正を行うことができる。したがって、誤差補正の精度を高くすることができる。
【0055】
<2.第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明を行う。なお、第1の実施形態と重畳する部分については説明を省略する。第2の実施形態では、算出部47、補正部48、及び推定部49の処理が異なる。
【0056】
算出部47は、仮想アレーアンテナの受信信号に基づき、相関行列を1つ算出し、該相関行列から固有ベクトルを算出する。
【0057】
補正部48は、固有ベクトルを補正する。
【0058】
推定部49は、補正部48によって補正された後の固有ベクトルに基づいて電波の到来方向を推定する。
【0059】
以下、第2の実施形態に係るレーダ装置1の概略動作について
図3Bを参照して説明する。第2の実施形態は、ステップS70~S80の代わりにステップS70’~S80’の処理が実行される点で第1の実施形態と異なる。
【0060】
ステップS60に続くステップS70’において、算出部47は、仮想アンテナVRx1~VRx8の受信信号x1~x8に基づき、固有ベクトルを算出する。
【0061】
算出部47は、仮想アンテナVRx1~VRx8の受信信号x1~x8に基づく単一の相関行列Rを算出する。相関行列Rは下記の(12)式により算出することができる。ここで、X= [x1,x2,x3,x4,x5,x6,x7,x8]Tである。
R=E[XXH] ・・・(12)
【0062】
算出部47は、相関行列Rを固有値分解する。固有値分解により、信号と雑音を分離することができる。相関行列Rは8行8列の行列であるため、相関行列Rの固有値は8つ求まる。
【0063】
本実施形態では、算出部47は、相関行列Rの特定の固有値それぞれに対応する固有ベクトルを算出する。特定の固有値とは、絶対値が所定値以上である固有値を意味する。
【0064】
以下、相関行列Rの固有値のうち、最も絶対値が大きい固有値Φ1及び2番目に絶対値が大きい固有値Φ2のみが特定の固有値に該当する場合を例に挙げて説明を行う。
【0065】
算出部47は、固有値Φ1に対応する固有ベクトルe1、固有値Φ2に対応する固有ベクトルe2を算出する。算出部47によって算出される固有ベクトルe1及びe2は、雑音の影響を受けない。算出部47によって算出される固有ベクトルe1及びe2は、下記の(13)~(14)式で表される。
e1=[e11, e12, e13, e14, e15, e16, e17, e18]T・・・(13)
e2=[e21, e22, e23, e24, e25, e26, e27, e28]T・・・(14)
【0066】
ステップS70’に続くステップS80’において、補正部48は、固有ベクトルe1及びe2を補正する。
【0067】
仮に2つの送信アンテナ23間で誤差がなければ、仮想アンテナVRx4に対応する固有ベクトルe1の要素e14と仮想アンテナVRx5に対応する固有ベクトルe1の要素e15とは一致するはずである。換言すると、仮想アンテナVRx5と同じ送信アンテナを用いて生成された仮想アンテナである仮想アンテナVRx5~VRx8に対応する固有ベクトルe1の各要素e15~e18は、e14とe15との差異に対応する誤差を有している。したがって、補正部48は、仮想アンテナVRx4に対応する固有ベクトルe1の要素e14と仮想アンテナVRx5に対応する補正後の固有ベクトルe’1の要素とが一致するように、固有ベクトルe1を補正する。特に仮想アンテナVRx5~VRx8に対応する固有ベクトルe1の各要素e15~e18を補正する。
【0068】
同様に、仮に2つの送信アンテナ23間で誤差がなければ、仮想アンテナVRx4に対応する固有ベクトルe2の要素e24と仮想アンテナVRx5に対応する固有ベクトルe2の要素e25とは一致するはずである。したがって、補正部48は、仮想アンテナVRx4に対応する固有ベクトルe2の要素e24と仮想アンテナVRx5に対応する補正後の固有ベクトルe’2の要素とが一致するように、固有ベクトルe2を補正する。
【0069】
補正後の固有ベクトルe’1及びe’2は、下記の(14)~(17)式で表される。
k1=(e14/e15) ・・・(14)
k2=(e24/e25) ・・・(15)
e’1=e1
T×[1, 1, 1, 1, k1, k1, k1, k1] ・・・(16)
e’2=e2
T×[1, 1, 1, 1, k2, k2, k2, k2] ・・・(17)
【0070】
ステップS80’に続くステップS90において、推定部49は、結合固有ベクトルeC1を生成する。結合固有ベクトルeC1は、補正後の固有ベクトルe’1において、仮想アンテナVRx4と仮想アンテナVRx5とに対応する要素を1つにまとめたベクトルである。補正部48において、両者の要素が一致するように補正を行ったためである。また同様に、推定部49は、結合固有ベクトルeC2も生成する。結合固有ベクトルeC2は、補正後の固有ベクトルe’2において、仮想アンテナVRx4と仮想アンテナVRx5とに対応する要素を1つにまとめたベクトルである。
【0071】
結合固有ベクトルeC1及びeC2は、下記の(18)~(19)式で表される。
eC1=[e11, e12, e13, e14, k1×e16, k1×e17, k1×e18]T ・・・(18)
eC2=[e21, e22, e23, e24, k2×e26, k2×e27, k2×e28]T ・・・(19)
【0072】
さらに、推定部49は、結合固有ベクトルeC1と結合固有ベクトルeC2とを順に並べて得られる特徴行列Aと、特徴行列Aの複素共役転置行列とを掛けて、結合固有ベクトルの相関行列Revを生成する。相関行列Revは下記の(20)式で表される。
Rev=AAH
Rev=[eC1 eC2]×[eC1
H eC2
H] ・・・(20)
【0073】
最後に、推定部49は、MUSIC(Multiple Signal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの公知の到来方向推定手法を用いて、相関行列Revに基づいて角度スペクトラムを算出し、算出した角度スペクトラムに基づいて電波の到来方向(物標の角度)を推定する。
【0074】
本実施形態に係るレーダ装置1は、第1の実施形態に係るレーダ装置1では達成できない特有の効果を奏する。
【0075】
第1の実施形態に係るレーダ装置では、同程度の大きさの固有値となった場合に組み合わせの不確定性が生じるおそれがある。例えば、Φ11≒Φ12およびΦ21≒Φ22という状況の場合を考える。この時、Φ11とΦ21に対応する固有ベクトル同士、また、Φ12とΦ22に対応する固有ベクトル同士が正しい組合せとする。しかし、ノイズなどの影響で、Φ11とΦ22に対応する固有ベクトル同士を、また、Φ12とΦ21に対応する固有ベクトル同士を誤って組み合わせてしまう可能性がある。このように固有ベクトル同士の組合せを誤ってしまうと、推定部49において正しい角度を算出することができない。
【0076】
このような状態は、例えば同一距離および速度で角度の異なる似た物標が存在する場合に生じうる。例えば両隣の車線を同じ車種の車が同じ位置を並走する場合などである。
【0077】
一方、本実施形態に係るレーダ装置1では、すべての仮想アンテナの受信信号を用いて単一の相関行列を生成するため、組合せの不確実性が生じるおそれが原理的に無い。したがって、本実施形態に係るレーダ装置1は、上記のような状態においても正しい角度を安定して推定することが可能である。
【0078】
<3.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0079】
上述した実施形態では、送信アンテナ間の誤差を補正したが、レーダ装置が送信アンテナ間では誤差が発生し難く、受信アンテナ間で誤差が発生し易いハードウェア構成である場合には、受信アンテナ間の誤差を補正するようにしてもよい。
【0080】
受信アンテナ間の誤差を補正する場合には、例えば、
図4(a)に示すように4個の送信アンテナ23を水平方向に沿って同一のアンテナ間隔dで配置し、
図4(b)に示すように2個の受信アンテナ31を水平方向に沿ってアンテナ間隔3dで配置すればよい。そして、算出部47が、仮想アンテナVRx1、VRx3、VRx5、及びVRx7の受信信号x
1、x
3、x
5、及びx
7に基づく第1の相関行列R1と、仮想アンテナVRx2、VRx4、VRx6、及びVRx8の受信信号x
2、x
4、x
6、及びx
8に基づく第2の相関行列R2と、を算出すればよい。
【0081】
この場合、1chの受信アンテナ31の受信信号は、互いに直交する仮想アンテナVRx1の受信信号、仮想アンテナVRx3、仮想アンテナVRx5、及び仮想アンテナVRx7の受信信号を含む。同様に、2chの受信アンテナ31の受信信号は、互いに直交する仮想アンテナVRx2の受信信号、仮想アンテナVRx4、仮想アンテナVRx6、及び仮想アンテナVRx8の受信信号を含む。
【0082】
また、上述した実施形態では仮想アンテナVRx4の位置と仮想アンテナVRx5の位置とが重なっているだけであるが、位置が重なる仮想アンテナの組を複数にしてもよい。例えば、
図5に示すアンテナ配置にした場合、仮想アンテナVRx3の位置と仮想アンテナVRx5の位置とが重なり、仮想アンテナVRx4の位置と仮想アンテナVRx6の位置とが重なる。この場合、例えば、仮想アンテナVRx3に対応する第1の固有ベクトルe
11の要素e
113と仮想アンテナVRx5に対応する補正後の第2の固有ベクトルe’
21の要素とが一致するような第1の補正量を求め、仮想アンテナVRx4に対応する第1の固有ベクトルe
11の要素e
114と仮想アンテナVRx6に対応する補正後の第2の固有ベクトルe’
21の要素とが一致するような第2の補正量を求め、第1の補正量及び第2の補正量に基づき、第2の固有ベクトルe
21の最終的な補正量を決定することができる。例えば、第1の補正量及び第2の補正量の単純平均を最終的な補正量としてもよく、各受信アンテナの特性などを考慮した第1の補正量及び第2の補正量の重み付け平均を最終的な補正量としてもよい。第2の固有ベクトルe
22の最終的な補正量についても同様である。
【0083】
また、送信アンテナを3つ以上設けることで、位置が重なる仮想アンテナの組を複数にしてもよい。例えば、
図6に示すアンテナ配置にした場合、仮想アンテナVRx4の位置と仮想アンテナVRx5の位置とが重なり、仮想アンテナVRx8の位置と仮想アンテナVRx9の位置とが重なる。この場合、例えば、算出部47は、仮想アンテナVRx9~VRx12の受信信号x
9~x
12に基づく第3の相関行列R3も算出し、第3の相関行列R3を固有値分解して第3の固有ベクトルe
31及びe
32も算出する。そして、仮想アンテナVRx4に対応する第1の固有ベクトルe
11の要素e
114と仮想アンテナVRx5に対応する補正後の第2の固有ベクトルe’
21の要素とが一致するような第1の補正量を求め、仮想アンテナVRx8に対応する第1の固有ベクトルe
11の要素e
118と仮想アンテナVRx9に対応する補正後の第3の固有ベクトルe’
31の要素とが一致するような第2の補正量を求め、第1の補正量と第2の補正量を掛けた補正量で第3の固有ベクトルe
31を補正することができる。第3の固有ベクトルe
32の補正についても同様である。
【0084】
また、上述した実施形態では車載レーダ装置について説明したが、本発明は、道路等に設置されるインフラレーダ装置、船舶監視レーダ装置、航空機監視レーダ装置等にも適用可能である。
【0085】
また、上述した実施形態では、推定部49が、結合固有ベクトルeC1と結合固有ベクトルeC2とを順に並べて得られる特徴行列Aと、特徴行列Aの複素共役転置行列とを掛けて、結合固有ベクトルの相関行列Revを生成した。これにより、2つの物標が非常に似通った角度に存在する場合でも、物標の角度推定の精度を高めることができる。
【0086】
例えば、船舶監視レーダ装置のように、2つの物標が非常に似通った角度に存在するシーンが想定されないレーダ装置の場合などには、推定部49が、結合固有ベクトルeC1と結合固有ベクトルeC1の複素共役転置ベクトルとを掛けて結合固有ベクトルeC1の相関行列Rev1を生成し、結合固有ベクトルeC2と結合固有ベクトルeC2の複素共役転置ベクトルとを掛けて結合固有ベクトルeC2の相関行列Rev2を生成し、相関行列Rev1及びRev2それぞれに基づいて角度スペクトラムを算出し、算出した角度スペクトラムに基づいて電波の到来方向(物標の角度)を推定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 レーダ装置
2 送信部
23 送信アンテナ
3 受信部
31 受信アンテナ
4 信号処理装置
46 取得部
47 算出部
48 補正部
49 推定部
VRx1~VRx12 仮想アンテナ