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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ポリシラザン含有組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/28 20060101AFI20220915BHJP
   H01L 21/312 20060101ALI20220915BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B01J31/28 M
H01L21/312 C
H01L21/316 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019075295
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020171887
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】兼子 達朗
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-299118(JP,A)
【文献】特開2004-155834(JP,A)
【文献】特許第6475388(JP,B2)
【文献】特開2012-008345(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109593464(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C04B 35/56-35/599
C08G 77/00-77/62
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
H01L 21/312-21/316
21/318-21/32
21/47-21/475
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分;
(A)1分子中に少なくとも1つ以上のヒドロシリル基を含有するポリシラザン化合物、
(B)有機溶剤、
(C)下記(C-1)及び(C-2)成分を含有する硬化触媒、
(C-1)前記(A)成分の酸化還元反応を促進する主触媒、
(C-2)前記(C-1)の触媒作用を促進する助触媒、
を含むものであって、
前記(C-1)成分がパラジウム化合物であり、
前記(C-2)成分が鉄、銅、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金の金属塩化物
であることを特徴とするポリシラザン含有組成物。
【請求項2】
前記(C-1)主触媒が有機パラジウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリシラザン含有組成物。
【請求項3】
前記(C-1)成分の配合量が、前記(A)成分100質量部に対して0.15~0.8質量部の範囲であり、かつ前記(C-1)成分と(C-2)成分との配合比が(C-1)成分100質量部に対して(C-2)成分30~600質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリシラザン含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザン含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシラザン化合物は、有機EL表示装置などの半導体表示装置や電子ディスプレイの防湿膜、また半導体やLEDなどの装置における層間絶縁膜、パッシベーション膜、保護膜、平坦化膜等の形成材料として様々な用途に検討されている。
これらの膜はポリシラザン化合物と該ポリシラザン化合物を溶解させる有機溶媒とを含むコーティング液を適宜の基材上に塗布後、適当な硬化処理を施し、前記ポリシラザン化合物をシリカ質膜に転化させることにより形成されている(例えば、特許文献1~4参照)。よく用いられる硬化処理方法としては400℃~500℃程度で焼成する加熱硬化、キセノンエキシマ光などの波長が200nm以下の光による光照射硬化、加湿雰囲気中で加熱を行う加湿硬化などが挙げられる。しかし、いずれの硬化方法においても処理を行うためには特殊な装置の使用や基材に対して大きなダメージを与えてしまう恐れがあるため用途によっては硬化処理方法として好ましくない場合がある。そこで、従来では硬化がより穏やかな条件で進行するように触媒を加え、脱水素反応を促進させる方法も良く知られている(例えば、特許文献5)。このような触媒を使用すれば100℃~200℃程度の加熱で数時間以内に十分な硬化反応が進行する。
【0003】
しかし、脱水素触媒としてよく使われるパラジウムはレアメタルに分類されており、非常に高価である。また、価格も安定しておらず、極力使用量を低減させることがコスト削減のためには重要であるが、添加量を低減させると硬化時間が長くなるため好ましくない。特に同じ硬化時間でも初期段階で速やかに硬化するような硬化特性のほうが、次工程以降の兼ね合いからプロセス設計しやすいため好ましい。有機パラジウム化合物の中でも、従来使用されているプロピオン酸パラジウムは硬化初期段階での硬化速度が速く好ましいが、他の有機パラジウム化合物に比べてコストが高い問題がある。
そこで、硬化初期段階での速い硬化速度を維持し、なおかつパラジウム化合物の使用量を低減することでコストを削減できるようなポリシラザン含有組成物の提供が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-54898号公報
【文献】特開2005-45230号公報
【文献】特開平9-031333号公報
【文献】特開平9-275135号公報
【文献】特開平6-299118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来の硬化速度を維持したままパラジウム化合物の使用量を低減することが可能なポリシラザン含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明では、
下記(A)~(C)成分;
(A)1分子中に少なくとも1つ以上のヒドロシリル基を含有するポリシラザン化合物、
(B)有機溶剤、
(C)下記(C-1)及び(C-2)成分を含有する硬化触媒、
(C-1)前記(A)成分の酸化還元反応を促進する主触媒、
(C-2)前記(C-1)の触媒作用を促進する助触媒、
を含むポリシラザン含有組成物を提供する。
【0007】
このポリシラザン含有組成物は、従来の硬化速度を維持しつつパラジウム化合物の使用量を低減することが可能なものである。
【0008】
前記(C-2)助触媒は金属塩化物であることが好ましい。
前記(C-2)助触媒が金属塩化物であると、ポリシラザン含有組成物はパラジウム化合物の使用量をより低減することが可能で、安全性が高く安価のものとなる。
【0009】
前記(C-1)主触媒は有機パラジウム化合物であることが好ましい。
前記(C-1)主触媒が有機パラジウム化合物であると、ポリシラザン含有組成物は硬化速度、作業性、保存安定性に優れるものとなる。
【0010】
前記(C-1)成分の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して0.15~0.8質量部の範囲であり、かつ前記(C-1)成分と(C-2)成分との配合比は(C-1)成分100質量部に対して(C-2)成分30~600質量部であることが好ましい。
前記(C-1)成分の前記(A)成分に対する配合量、及び前記(C-1)成分と(C-2)成分との配合比が上述のとおりであると、ポリシラザン含有組成物はパラジウム化合物の使用量をより低減することが可能なものとなる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本発明のポリシラザン含有組成物は、ポリシラザン化合物、有機溶媒、及び主触媒と助触媒を含有する硬化触媒を含むポリシラザン含有組成物を提供するもので、従来の硬化速度を維持しつつパラジウム化合物の使用量を低減することが可能なポリシラザン含有組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述のように、従来の硬化速度を維持したままパラジウム化合物の使用量を低減することが可能なポリシラザン含有組成物の開発が求められていた。
【0013】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ポリシラザン化合物、有機溶媒、及び主触媒と助触媒を含有する硬化触媒を含むポリシラザン含有組成物が、従来の硬化速度を維持しつつパラジウム化合物の使用量を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明は、下記(A)~(C)成分;
(A)1分子中に少なくとも1つ以上のヒドロシリル基を含有するポリシラザン化合物、
(B)有機溶剤、
(C)下記(C-1)及び(C-2)成分を含有する硬化触媒、
(C-1)前記(A)成分の酸化還元反応を促進する主触媒、
(C-2)前記(C-1)の触媒作用を促進する助触媒、
を含むポリシラザン含有組成物である。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
[(A)ポリシラザン化合物]
本発明の(A)成分であるポリシラザン化合物は、本発明の主剤となる成分であり、硬化することによってガラス質膜を形成するものである。前記ポリシラザン化合物としては、例えば無機ポリシラザンであるペルヒドロポリシラザン、もしくは有機ポリシラザンであるメチルポリシラザン、ジメチルポリシラザン、フェニルポリシラザン、ビニルポリシラザン、ヒドロキシル基、ビニル基、アミノ基、シリル基などのポリシラザンと化学的に反応し架橋構造を生成する反応基を有する炭化水素化合物、環状飽和炭化水素化合物、環状不飽和炭化水素化合物、飽和複素環化合物、不飽和複素環化合物およびシリコーン化合物などの化合物と化学的に架橋された架橋ポリシラザンなどが挙げられる。前記ポリシラザン化合物は、1種単独、もしくは2種以上のポリシラザン混合物、あるいは2種以上のポリシラザン構造からなるポリシラザン共重合体を含むことが好ましく、1分子中にケイ素原子に直接結合した水素原子(ヒドロシリル基)を少なくとも1つ以上含むことが必須である。さらに、共重合体はSi-H結合とSi-R結合との合計数に対するSi-R結合の数の比が0.01以上0.05以下であることが好ましい。Rは炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、ポリシラザン1分子中でRは同一であっても異なっていてもよい。中でも、硬化後の膜特性の観点から少なくともペルヒドロポリシラザンを含んでいることが更に好ましい。
【0017】
また、(A)ポリシラザン化合物は(B)成分である有機溶剤への溶解性や塗布時の作業性の観点から重量平均分子量が100~100,000,000であることが好ましく、1,000~1,000,000であることがより好ましく、3,000~500,000の範囲内であることが更に好ましい。重量平均分子量が100以上だと(A)ポリシラザン化合物の揮発性が低く、(B)有機溶剤の乾燥および硬化処理時に揮発しないから塗膜の膜質が劣化する恐れがなく、重量平均分子量が100,000,000以下だと、(A)ポリシラザン化合物の(B)有機溶剤に対する溶解性が高くなる。
【0018】
[(B)有機溶剤]
本発明の(B)有機溶剤は、前記(A)ポリシラザン化合物を溶解するものであれば特に制約はない。メチル基やエチル基などの有機基が含まれるポリシラザンは比較的多種の有機溶剤に溶解するが、ペルヒドロポリシラザンのような有機基が含まれないもしくは有機基の量が少ないポリマーは無極性溶剤への溶解性が乏しいため、有機溶剤の最適化を図る必要がある。
一方、極性が大きい有機溶剤では吸湿しやすくなる傾向にあることが知られている。ポリシラザン化合物は水分により重合反応および硬化反応が促進されることが知られており、極性が大きい、すなわち吸湿性が高い有機溶剤を使用すると保存安定性が低下する。また、有機基の割合が多いポリシラザンについては、溶解性が乏しくなるため選定するポリシラザン化合物により溶剤を使い分けることもできる。
【0019】
上記項目を満たす有機溶剤であれば特に制約されるものではないが、例えば1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのアルケン化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどのシクロアルカン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物などが挙げられる。その中でも極性が高すぎたり低すぎたりせずにペルヒドロポリシラザンや有機基変性ポリシラザンなど様々な種類のポリシラザン化合物が溶解する程度の極性を持ち、価格や揮発性などの面からジブチルエーテルや酢酸イソアミルなどが好ましい。
【0020】
(A)ポリシラザン化合物と(B)有機溶剤との混合比は、ポリシラザン含有組成物全体に対して、(B)有機溶剤の割合が50~99.9質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは80~99質量%であり、更に好ましく80~95質量%の範囲である。この範囲内であれば、保存安定性や塗工性等が良好となるため好ましい。
前記(B)有機溶媒中の水分量は、水が(A)ポリシラザン化合物と反応してしまいポリシラザン含有組成物の保存安定性を損なうためできるだけ少ない方が良いが、500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。
【0021】
[(C)硬化触媒]
本発明の(C)硬化触媒は、前記(A)成分の硬化反応を促進する作用を有し、(C-1)主触媒と(C-2)助触媒とを含有するものである。
【0022】
[(C-1)主触媒]
本発明の(C-1)主触媒は、前記(A)成分の酸化還元反応を促進し、ポリシラザン化合物の硬化速度を速める作用を有する。
主触媒としては酸化還元反応によりポリシラザンの脱水素反応を促進する触媒効果があれば特に制約はないが、例えばチタン、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛などの周期表第4周期に属するdブロック元素、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの白金族元素、アルミニウム、スズ、亜鉛などの両性元素などの金属単体もしくはこれらの金属元素を有する化合物が挙げられる。
【0023】
金属単体として用いる場合は、粉状で用いるのが好ましく、化合物として用いる場合は、有機金属化合物を用いるのが好ましい。その中でも特に硬化速度や作業性、保存安定性などの観点から有機パラジウム系の触媒が好ましく、さらには比較的価格の安い酢酸パラジウムがより好ましい。
前記(C-1)成分の配合量としては、前記(A)成分100質量部に対して0.15~0.8質量部の範囲であることが好ましく、0.3~0.6質量部であることがより好ましい。
【0024】
[(C-2)助触媒]
本発明の(C-2)助触媒は、前記(C-1)成分と併用し、前記(C-1)成分の触媒作用を促進する作用を有する。前記(C-2)助触媒としては、主触媒の酸化還元作用を促進する効果があれば特に制約はないが、例えば鉄、銅、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛などの周期表第4周期に属するdブロック元素、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの白金族元素などの金属単体もしくはこれらの金属元素を有する化合物が挙げられる。金属単体として用いる場合は、粉状で用いるのが好ましく、化合物として用いる場合は、無機金属化合物を用いるのが好ましく、金属塩化物を用いるのが、助触媒としての効果が高いためより好ましい。中でも、安全性や価格の観点から塩化鉄(II)が好ましい。
【0025】
前記(C-1)成分と(C-2)成分との配合比は、(C-1)成分100質量部に対して(C-2)成分30~600質量部の範囲であることが好ましく、50~300質量部であることがより好ましい。
また、前記(C-1)及び(C-2)成分は、そのままポリシラザン含有組成物に添加しても良いが、有機溶剤に分散・溶解させてから添加しても良い。有機溶剤としては、例えば1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのアルケン化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどのシクロアルカン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物、トルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族化合物などが挙げられる。その中でも上記(C)硬化触媒の溶解性に優れるトルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族化合物が好ましく、その中でも特に基材に対する濡れ性などの工程上の理由からアニソールがより好ましい。
【0026】
[その他の成分]
本発明のポリシラザン含有組成物は(A)ポリシラザン化合物と(B)有機溶剤、(C)硬化触媒の他にも無機充填剤などの添加物を含んでいても良い。例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどの脂肪族アミン類、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノールなどの脂肪族アミノアルコール類、アニリン、フェニルエチルアミン、トルイジンなどの芳香族アミン類、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジンピラジンなどの複素環式アミン類などのアミン触媒、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン、ヒュームドアルミナ等の補強性無機充填剤、溶融シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、酸化亜鉛等の非補強性無機充填剤、ヒドロシリル基、アルケニル基、アルコキシシリル基、エポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種、好ましくは2種又は3種含有するオルガノシロキサンオリゴマー、オルガノオキシシリル変性イソシアヌレート化合物およびその加水分解縮合物などの接着助剤、ジメチルシリコーンやフェニルシリコーンなどの非反応性シリコーンオイルなどが挙げられ任意の割合で添加できる。
【0027】
[ポリシラザン含有組成物の使用方法]
本発明のポリシラザン含有組成物は、そのままコーティング組成物として使用できる。
前記ポリシラザン含有コーティング組成物を塗布する方法としては、例えば、チャンバードクターコーター、一本ロールキスコーター、リバースキスコーター、バーコーター、リバースロールコーター、正回転ロールコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどのロールコート法やスピンコート法、ディスペンス法、ディップ法、スプレー法、転写法、スリットコート法等が挙げられる。
【0028】
塗布対象となる基材としては、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、樹脂基板、樹脂フィルム等が挙げられ、必要であれば半導体素子を形成する過程での半導体膜や回路などの設けられた基板などに塗布してもよい。塗膜の厚さは、該塗膜の使用目的などにより異なるが、一般的には、硬化膜厚で、好ましくは10~100,000nm、より好ましくは100~1,000nmである。
こうしてコーティング組成物の塗布によりポリシラザン樹脂塗膜を形成した後、該塗膜を硬化させることが好ましい。
硬化方法としては充分に硬化する方法であれば特に制約はないが80~450℃の範囲内での加熱処理が好ましく、100~200℃の範囲内での加熱処理がより好ましい。
【実施例
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例で部は質量部を示す。また、鉛筆硬度はJIS K 5600-5-4:1999に基づいて測定を行った。
【0030】
[実施例1]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒としてプロピオン酸パラジウム0.008gと助触媒として塩化鉄(II)0.011gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Aを作製した。
このポリシラザン溶液Aを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。以後、硬化率は100-(1時間硬化後の残存Si-H結合量)/(硬化前のSi-H結合量)×100の計算式で算出したものを指す。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0031】
[実施例2]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒としてプロピオン酸パラジウム0.016gと助触媒として塩化鉄(II)0.021gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Bを作製した。
このポリシラザン溶液Bを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0032】
[実施例3]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒として酢酸パラジウム0.0036gと助触媒として塩化鉄(II)0.021gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Cを作製した。
このポリシラザン溶液Cを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0033】
[実施例4]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒として酢酸パラジウム0.0071gと助触媒として塩化鉄(II)0.021gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Dを作製した。
このポリシラザン溶液Dを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0034】
[実施例5]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒として酢酸パラジウム0.0142gと助触媒として塩化鉄(II)0.021gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Eを作製した。
このポリシラザン溶液Eを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0035】
[実施例6]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒として酢酸パラジウム0.0142gと助触媒として塩化鉄(II)0.032gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Fを作製した。
このポリシラザン溶液Fを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0036】
[実施例7]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒として酢酸パラジウム0.0142gと助触媒として塩化鉄(II)0.053gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Gを作製した。
このポリシラザン溶液Gを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0037】
[比較例1]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒としてプロピオン酸パラジウム0.016gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Hを作製した。
このポリシラザン溶液Hを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0038】
[比較例2]
重量平均分子量が3,411であるペルヒドロポリシラザン2gをジブチルエーテル8gに溶解させ、ポリシラザン溶液を作製した。次に主触媒として酢酸パラジウム0.0142gをアニソール2gに溶解させた触媒溶液を作製し、ポリシラザン溶液にゆっくり添加し、ポリシラザン溶液Iを作製した。
このポリシラザン溶液Iを被膜が0.5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、150℃で1時間加熱硬化した。この時の残存Si-H結合量をFT-IRにより測定し硬化率を算出した。また、加熱硬化1時間後と3時間後に塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0039】
実施例、比較例の結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、本発明のポリシラザン含有組成物である実施例1~7では、150℃×1時間の硬化処理で従来のプロピオン酸パラジウム触媒のみを添加したサンプルよりも硬化率が高くなった。また、助触媒の添加によりパラジウム触媒量が同量もしくは同量以下の添加量でパラジウム触媒のみの場合よりも硬化率が高くなり、初期硬化の遅い酢酸パラジウム触媒でもプロピオン酸パラジウムと同等以上の硬化速度に改善されることが示された。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。