(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】フィブリノゲンフラグメントとラミニンフラグメントを含むキメラタンパク質およびその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220916BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220916BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220916BHJP
C07K 14/75 20060101ALI20220916BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20220916BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220916BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C12N15/12
C07K14/75
C07K14/78
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2022519428
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017594
(87)【国際公開番号】W WO2021225171
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2020082877
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム技術開発個別課題」「再構成基底膜ゲルを用いる移植心筋細胞の生着・成熟促進技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】717001570
【氏名又は名称】株式会社マトリクソーム
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】関口 清俊
(72)【発明者】
【氏名】瀧沢 士
(72)【発明者】
【氏名】谿口 征雅
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0192739(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0119186(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0120332(US,A1)
【文献】国際公開第2019/170450(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088501(WO,A1)
【文献】NATURE COMMUNICATIONS,2012年,Vol.3, No.1236,pp.1-10, (Erratum, 2013, Vol.4, No.1931, p.1)
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2009年,Vol.284, No.12,pp.7820-7831
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C12N 15/12
C07K 14/75
C07K 14/78
C07K 19/00
C12N 5/071
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビン処理によりフィブリノゲンに結合し得るフィブリノゲンフラグメントと、インテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントを含む
タンパク質であって、ラミニンフラグメントが、ラミニンのα鎖、β鎖およびγ鎖の各C末端領域を含みヘテロ三量体を形成しているフラグメントであり、フィブリノゲンフラグメントが、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖およびγ鎖の各N末端領域を含みヘテロ三量体を形成しているフラグメントであり、
以下の(1)~(3)のいずれかであることを特徴とするタンパク質;
(1)フィブリノゲンAα鎖とラミニンβ鎖
を含むキメラタンパク質、フィブリノゲンBβ鎖とラミニンα鎖
を含むキメラタンパク質およびフィブリノゲンγ鎖とラミニンγ鎖
を含むキメラタンパク質で形成されたヘテロ三量体タンパク質、
(2)フィブリノゲンAα鎖とラミニンα鎖
を含むキメラタンパク質、フィブリノゲンBβ鎖とラミニンγ鎖
を含むキメラタンパク質およびフィブリノゲンγ鎖とラミニンβ鎖
を含むキメラタンパク質で形成されたヘテロ三量体タンパク質、または
(3)フィブリノゲンAα鎖とラミニンγ鎖
を含むキメラタンパク質、フィブリノゲンBβ鎖とラミニンβ鎖
を含むキメラタンパク質、フィブリノゲンγ鎖とラミニンα鎖
を含むキメラタンパク質で形成されたヘテロ三量体タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のヘテロ三量体
タンパク質の2分子がN末端側で会合した六量体構造を有する
タンパク質。
【請求項3】
さらに増殖因子結合活性を有するタンパク質
が、ラミニンフラグメントの少なくともいずれか1つの鎖のC末端に、直接またはリンカーを介して結合している請求項1または2に記載の
タンパク質。
【請求項4】
増殖因子結合活性を有するタンパク質が、ヘパラン硫酸プロテオグリカンである請求項3に記載の
タンパク質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の
タンパク質のトロンビン処理分子とフィブリンで形成されたゲル。
【請求項6】
請求項5に記載のゲルの製造方法であって、請求項1~4のいずれかに記載の
タンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの混和物を調製する工程を含む製造方法。
【請求項7】
前記混和物中の
タンパク質とフィブリノゲンのモル比が1:5~1:20,000である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の
タンパク質とフィブリノゲンを含むゲル調製用組成物。
【請求項9】
請求項5に記載のゲルを調製するためのキットであって、請求項1~4のいずれかに記載の
タンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンを含むキット。
【請求項10】
請求項5に記載のゲルを用いる細胞または組織片の三次元培養方法。
【請求項11】
請求項10に記載の三次元培養方法を用いて移植医療用の細胞またはオルガノイドを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリノゲンフラグメントとラミニンフラグメントを含むキメラタンパク質およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な臓器から取り出した細胞を培養するとき、培養器に接着して足場を確保することができない細胞は増殖できず、プログラム細胞死を作動させて、自ら死滅する。この現象はどの臓器の細胞にも当てはまる普遍的な属性であり、「細胞の足場依存性」と呼ばれる。生体内で細胞が足場としているのは、細胞周囲に構築される細胞外マトリックスと呼ばれる構造物である。細胞外マトリックスを構成するタンパク質は300以上が知られており、細胞ごとに足場として使う細胞外マトリックスの分子組成は異なっている。生体から取り出した細胞、特に幹細胞を培養するためには、その細胞が生体内でどのような分子組成の細胞外マトリックスを足場としているかを考慮して培養基材を選択する必要がある。
【0003】
細胞外マトリックスはその形状と生体内での存在部位によって基底膜と間質に分類される。基底膜は上皮と結合組織の境界に形成される厚さ100 nmほどのシート状の細胞外マトリックスで、様々な臓器の実質細胞とその幹細胞が恒常性と増殖能を維持するために必要な足場としての役割を担う。そのため、臓器から取り出した細胞、特に幹細胞を培養する際は、当該幹細胞が生体内で足場としている基底膜を模倣した培養基材を足場として使うことが望ましい。
【0004】
これまでに、基底膜に局在する40以上のタンパク質が知られている(非特許文献1)。その中でもIV型コラーゲン、ラミニンおよびパールカン等のヘパラン硫酸プロテオグリカンは、細胞や臓器のタイプにかかわらず、どの基底膜にも含まれる構成的(constitutive)成分であり、基底膜の構築と機能発現に不可欠な役割を担っている。これらの構成的基底膜分子は、調べられた限り、後生動物すべてで存在が確認されており、進化的によく保存されたタンパク質である。
【0005】
IV型コラーゲンは基底膜に局在する代表的なコラーゲンであり、自己会合して網目状の構造を形成する。ラミニンは基底膜の足場活性を担う接着タンパク質であり、細胞表面のインテグリンと結合して、基底膜への細胞の接着を媒介する役割を担う。パールカンは基底膜に含まれる代表的なヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、そのD1ドメインに付加されたヘパラン硫酸鎖を介して様々な増殖因子を結合し、増殖因子の働きを制御する役割を担う。へパラン硫酸はヘパリンと構造的にも機能的にも類似した酸性糖鎖分子であり、basic fibroblast growth factor(bFGF)、activin A、bone morphogenetic protein(BMP)、Wntなど、様々な増殖因子と結合することが知られている。基底膜を模倣した培養基材を製造するためには、基底膜の接着活性を担うラミニンだけでなく、基底膜の構造的あるいは機能的特性を担う他の基底膜構成分子を組み合わせることが肝要である。本発明者らは、ラミニンのインテグリン結合部位とパールカンのD1ドメインを連結したキメラタンパク質を作製し(特許文献1)、これが多能性幹細胞の分化誘導用基材として有用であることを見いだしている。
【0006】
従来、基底膜を模倣した培養基材としては、マウスEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)肉腫の粗抽出物が広く使われてきた。EHS肉腫は基底膜構成分子を過剰産生する特殊な腫瘍であり、マウス初期胚の壁側内胚葉(parietal endoderm)に由来することが知られている。EHS肉腫の抽出物はマトリゲル(商標)の名称で製品化されており、基底膜の生理活性を模倣した培養基材としてこれまで様々な細胞の培養に利用されている。マトリゲルの約60%はラミニン-111(α1β1γ1)であり、残りはIV型コラーゲン、パールカン、エンタクチン(ニドゲン)である。マトリゲルにはtransforming growth factor (TGF)-β、insulin-like growth factor (IGF)-1、platelet-derived growth factor(PDGF)などの増殖因子も微量含まれている。
【0007】
マトリゲルは22℃~35℃で加温するとゲル化するため、細胞を包埋して培養することにより、三次元培養基材として好適に使用することができる。細胞の三次元培養には、コラーゲンゲルやフィブリンゲルも利用されているが、生体から取り出した臓器幹細胞や多能性幹細胞から分化誘導した臓器幹細胞の培養においては、マトリゲルを三次元培養基材として使った例が多数報告されている。特に、複数の細胞を組み合わせてオルガノイドと呼ばれる三次元臓器モデルを作製する場合は、そのほとんどがマトリゲルを三次元培養基材として使用している。
【0008】
マトリゲルは生体から取り出した幹細胞の三次元培養基材として非常に有用であるが、培養した細胞や細胞塊を医療応用する場合には、以下のような問題点が残されている。第一に、マトリゲルはマウス腫瘍の粗抽出物であり、それを使って培養した細胞にはマウス由来タンパク質の混入が避けられない。第二に、マトリゲルの化学組成はロットごとにばらつきがあることが知られており、化学組成を標準化することが困難である。第三に、マトリゲルに含まれるラミニンアイソフォームがラミニン-111に限定されていることである。ラミニンには12種類以上のアイソフォームが存在し、足場として有効なラミニンは細胞ごとに異なっている。ラミニン-111はヒトiPS細胞を肝臓幹細胞に分化誘導する際は有効な足場であるが(特許文献2)、血管内皮細胞への分化誘導にはラミニン-411が有効であり(特許文献3)、角膜上皮細胞への分化誘導にはラミニン-332が有効であることが報告されている(非特許文献2)。しかし、マトリゲルに含まれるラミニンアイソフォームを任意に改変することは技術的に困難である。
【0009】
このような技術的背景を踏まえて、マトリゲルを代替する三次元ゲル基材の開発が臓器幹細胞を利用した医療や創薬の分野で強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2012/137970
【文献】WO2014/168157
【文献】特開2019-141086
【非特許文献】
【0011】
【文献】Manabe R, et al. Transcriptome-based systematic identification of extracellular matrix proteins. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105: 12849-12854, 2008
【文献】Shibata S, et al. Cell-type-specific adhesiveness and proliferation propensity on laminin isoforms enable purification of iPSC-derived corneal epithelium. Stem Cell Reports, 14: 663-676, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、基底膜の活性を具備した医療応用可能なゲル基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]トロンビン処理によりフィブリノゲンに結合し得るフィブリノゲンフラグメントと、インテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントを含むキメラタンパク質。
[2]さらに増殖因子結合活性を有するタンパク質を含む前記[1]に記載のキメラタンパク質。
[3]増殖因子結合活性を有するタンパク質が、ヘパラン硫酸プロテオグリカンである前記[2]に記載のキメラタンパク質。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載のキメラタンパク質のトロンビン処理分子とフィブリンで形成されたゲル。
[5]前記[4]に記載のゲルの製造方法であって、前記[1]~[3]のいずれかに記載のキメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの混和物を調製する工程を含む製造方法。
[6]前記混和物中のキメラタンパク質とフィブリノゲンのモル比が1:5~1:20,000である前記[5]に記載の製造方法。
[7]前記[1]~[3]に記載のキメラタンパク質とフィブリノゲンを含むゲル調製用組成物。
[8]前記[4]に記載のゲルを調製するためのキットであって、前記[1]~[3]のいずれかに記載のキメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンを含むキット。
[9]前記[4]に記載のゲルを用いる細胞または組織片の三次元培養方法。
[10]前記[9]に記載の三次元培養方法を用いて移植医療用の細胞またはオルガノイドを製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、基底膜の活性を具備した医療応用可能なゲル基材を提供することができる。本発明のゲル基材は細胞や組織片の三次元培養に使用でき、マトリゲルを代替することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)はヒトラミニンα5β1γ1E8(LM511E8)の分子構造、(B)はヒトフィブリノゲン(Fibrinogen)の分子構造、(C)はヒトフィブリノゲンとヒトラミニンα5β1γ1のインテグリン結合領域とのキメラタンパク質(Chimera-511)の分子構造を示す図である。
【
図2】精製したLM511E8およびChimera-511をSDS-PAGEに供して解析した結果を示す図であり、左が非還元条件での結果、右が還元条件での結果である。
【
図3】LM511E8およびChimera-511のインテグリン結合アッセイの結果を示す図である。
【
図4】トロンビン処理したLM511E8およびChimera-511のフィブリノゲン結合アッセイの結果を示す図である。
【
図5】Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いたヒトiPS細胞の包埋培養において、培地にトラネキサム酸を添加した場合(上段)と、添加しない場合(下段)を比較した結果を示す図であり、培養7日目の代表的なウェルの観察像を示す図である。
【
図6】Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いたヒトiPS細胞の包埋培養において、Chimera-511の添加濃度依存性を検討した結果を示す図であり、各濃度の培養7日目の代表的なウェルの観察像を示す図である。
【
図7】Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いたヒトiPS細胞の包埋培養において、Chimera-511の添加濃度依存性を検討した結果を示す図であり、培養8日目に各ウェルから回収した全細胞数、生細胞数、死細胞数および生存率を示した図である。
【
図8】Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いたヒトiPS細胞の包埋培養において、Chimera-511の終濃度を50 nMとし、培養8日目までの経時変化を観察した結果を示す図であり、各観察日における代表的なウェルの観察像を示す図である(上段)。下段はChimera-511を添加していないフィブリンゲルを用いてヒトiPS細胞を培養した結果を示す図である。
【
図9】フィブリンゲルを用いたヒトiPS細胞の包埋培養において、終濃度50 nMのChimera-511を添加したフィブリンゲルを用いた場合(A)と、終濃度100 nMのLM511E8を添加したフィブリンゲルを用いた場合(B)を比較した結果を示す図であり、両群の培養8日目代表的なウェルの観察像を示す図である。
【
図10】Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いた細胞培養後のヒトiPS細胞の未分化性を検討した結果を示す図であり、培養7日目の細胞を回収して未分化マーカーを抗体で染色し、フローサイトメトリー解析した結果であり、(A)はSSEA4の結果、(B)はOCT3/4の結果、(C)はrBC2LCNの結果、各上段は対照として用いた二次元維持培養したヒトiPS細胞の結果、各下段はフィブリンゲルを用いて三次元包埋培養したヒトiPS細胞の結果である。
【
図11】Chimera-511Pのインテグリン結合アッセイの結果を示す図である。
【
図12】トロンビン処理したChimera-511Pのフィブリノゲン結合アッセイの結果を示す図である。
【
図13】フィブリンゲルを用いたヒトiPS細胞の包埋培養において、(A)無添加のフィブリンゲル(Fibrin only)を用いて細胞を培養した場合と、(B)終濃度50 nMのChimera-511Pを添加したフィブリンゲルを用いて細胞を培養した場合を比較した結果を示す図であり、培養8日目代表的なウェルの観察像を示す図である。左はウェルの画像、右は左の枠内の拡大画像である。
【
図14】培養上清中のキメラタンパク質の発現を、非還元条件のSDS-PAGEとHisタグ抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。
【
図15】精製した(A)Chimera-111、(B)Chimera-221、(C)Chimera-332、(D)Chimera-411、(E)Chimera-421をそれぞれSDS-PAGEに供して解析した結果を示す図であり、左が非還元条件での結果、右が還元条件での結果である。
【
図16】トロンビン処理した(A)Chimera-111、(B)Chimera-221、(C)Chimera-332、(D)Chimera-421のフィブリノゲン結合アッセイの結果を示す図である。
【
図17】トロンビン処理した(A)Chimera-111、(B)Chimera-221、(C)Chimera-332、(D)Chimera-421をフィブリノゲンに結合させ、結合した各キメラタンパク質についてインテグリン結合アッセイを行った結果を示す図である。
【
図18】培養上清中のパールカン付加型のキメラタンパク質の発現を、非還元条件のSDS-PAGEとHisタグ抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。
【
図19】精製した(A)Chimera-111P、(B)Chimera-221P、(C)Chimera-332P、(D)Chimera-421P、(E)Chimera-511PをそれぞれSDS-PAGEに供して解析した結果を示す図であり、左が非還元条件での結果、右が還元条件での結果である。
【
図20】トロンビン処理した(A)Chimera-111P、(B)Chimera-221P、(C)Chimera-332P、(D)Chimera-421Pをフィブリノゲンに結合させ、結合した各キメラタンパク質についてインテグリン結合アッセイを行った結果を示す図である。
【
図21】精製した(A)Chimera-111P、(B)Chimera-221P、(C)Chimera-332P、(D)Chimera-421P、(E)Chimera-511PのプロアクチビンAの結合アッセイの結果を示す図である。
【
図22】培養上清中のキメラタンパク質(Combination-1、Combination-2、Combination-3)の発現を、非還元条件のSDS-PAGEとHisタグ抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔キメラタンパク質〕
本発明は、フィブリノゲンフラグメントとラミニンフラグメントを含むキメラタンパク質を提供する(以下「本発明のキメラタンパク質」と記す)。フィブリノゲンフラグメントはトロンビン処理によりフィブリノゲンに結合し得るフィブリノゲンフラグメントであればよく、ラミニンフラグメントはインテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントであればよい。すなわち、本発明のキメラタンパク質は、トロンビン処理によりフィブリノゲンに結合し得る能力とインテグリン結合活性とを併せ持つキメラタンパク質である。本発明のキメラタンパク質は、さらに他のタンパク質または他のタンパク質の機能ドメインを含むキメラタンパク質であってもよい。他のタンパク質としては、増殖因子結合活性を有するタンパク質を含むキメラタンパク質であってもよい。
【0017】
フィブリノゲンは血液凝固反応の最終段階でトロンビンの作用によりフィブリンに変化し、血液凝固、止血、血栓形成、創傷治癒、炎症、血管新生、細胞と細胞外マトリックス間の相互作用などに関与する糖タンパク質である。フィブリノゲンはAα鎖、Bβ鎖およびγ鎖の3本のサブユニット鎖がコイルドコイル構造で会合したヘテロ3量体分子で、このヘテロ三量体2分子がN末端側で会合した六量体(Aα-Bβ-γ)2を基本構造としている。Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の質量数はそれぞれ67 kDa、56 kDa、47.5 kDaで、六量体(Aα-Bβ-γ)2 の質量数は340 kDaである。フィブリノゲンはトロンビンによりAα鎖のArg16とGly17の間とBβ鎖のArg14とGly15間が切断されてそれぞれA knobおよびB knobを生成し、フィブリンモノマーに転換する。A knobおよびB knobは、それぞれフィブリノゲン(フィブリン)のγ鎖C末端領域のa-holeおよびβ鎖C末端領域のb-holeに結合する。したがって、トロンビン処理によりフィブリノゲンに結合し得るフィブリノゲンフラグメントは、フィブリノゲンのN末端のA knobおよびB knobを含み、Aα-Bβ-γのヘテロ三量体を形成するフラグメントである。
【0018】
ラミニンは基底膜の主要な細胞接着分子であり、α鎖、β鎖およびγ鎖の3本のサブユニット鎖からなるヘテロ三量体で、分子量約80万の巨大な糖タンパク質である。3本のサブユニット鎖はC末端側で会合してコイルドコイル構造を作り、ジスルフィド結合によって安定化したヘテロ三量体分子を形成している。α鎖はα1~α5の5種類、β鎖はβ1~β3の3種類、γ鎖はγ1~γ3の3種類が知られており、それらの組み合わせで少なくとも12種類以上のアイソフォームが存在する(表1参照)。本発明のキメラタンパク質を構成するラミニンフラグメントは、いずれのアイソフォームであってもよい。すなわち、本発明のキメラタンパク質を構成するラミニンは、α1~α5から選択される1種のα鎖、β1~β3から選択される1種のβ鎖、γ1~γ3から選択される1種のγ鎖からなるものであればよい。具体的には、表1に記載の12種類、およびこれら以外のすべてのアイソフォームを好適に用いることができる。
【0019】
【0020】
ラミニンのインテグリン結合活性の発現には、少なくともα鎖C末端側の3つの球状ドメイン(LG1-3)とγ鎖C末端領域が関与することが、本発明者らにより解明されている。したがって、インテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントはラミニンのα鎖C末端側のLG1-3とγ鎖C末端領域を含むフラグメントであり、これらがβ鎖のC末端領域とともにヘテロ三量体を形成するラミニンフラグメントであることが好ましい。
【0021】
本発明のキメラタンパク質は、増殖因子結合活性を有するタンパク質を含むものであってもよい。増殖因子結合活性を有するタンパク質は、細胞増殖に関与する増殖因子と結合可能なタンパク質であればよく、特に限定されない。増殖因子結合活性を有するタンパク質としては、例えばヘパラン硫酸プロテオグリカンが挙げられる。ヘパラン硫酸プロテオグリカンとしては、例えばパールカン、アグリン、XVIII型コラーゲン、シンデカン1~4、グリピカン1~6などが挙げられる。また、ヘパラン硫酸プロテオグリカン以外の増殖因子結合分子としては、例えば、latent TGF-β binding protein1~4などが挙げられる。これらの分子は、その全長であってもよく、増殖因子結合活性を有するフラグメントであってもよい。ヘパラン硫酸プロテオグリカンの増殖因子結合活性を有するフラグメントとしては、例えばパールカンのドメイン1、アグリンのフォリスタチンドメインの1番目から8番目までを含む領域などが挙げられる。
【0022】
本発明のキメラタンパク質を構成する各タンパク質(フィブリノゲンフラグメント、ラミニンフラグメントおよび増殖因子結合活性を有するタンパク質、以下「キメラ構成タンパク質」と記す場合がある)は、どのような生物のタンパク質であってもよく特に限定されない。キメラ構成タンパク質は哺乳動物のタンパク質であってもよい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ等が挙げられるが、限定されない。キメラ構成タンパク質は異なる生物のタンパク質を組み合わせたキメラタンパク質でもよいが、同じ生物のタンパク質を組み合わせたキメラタンパク質であることが好ましい。また、本発明のキメラタンパク質をヒトの医療に適用する場合は、キメラ構成タンパク質はヒトのタンパク質であることが好ましい。また、キメラ構成タンパク質は、天然型であってもよく、必要な生物学的活性を維持したまま1またはそれ以上のアミノ酸残基が修飾された修飾型であってもよい。
【0023】
本発明のキメラタンパク質は、各キメラ構成タンパク質が直接連結されている形態であってもよく、スペーサーペプチドやリンカーを介して連結されている形態であってよい。本発明のキメラタンパク質は、各構成タンパク質以外に、例えばHisタグ、HAタグ、FLAGタグなどのアフィニティータグを含んでいてもよい。また、本発明のキメラタンパク質は、公知のタンパク質標識物質で標識されていてもよい。
【0024】
本発明のキメラタンパク質は、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより、組換えキメラタンパク質として製造することができる。主要な哺乳動物のフィブリノゲンをコードする遺伝子の塩基配列情報およびアミノ酸配列情報、主要な哺乳動物のラミニンをコードする遺伝子の塩基配列情報およびアミノ酸配列情報、ならびに主要な哺乳動物の増殖因子結合活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列情報およびアミノ酸配列情報は、NCBI等の公知のデータベースから取得することができる。表2にヒトラミニンを構成する各鎖をコードする遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列のアクセッション番号を示し、表3にヒトフィブリノゲンを構成する各鎖をコードする遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列のアクセッション番号を示し、表4にヒトの増殖因子結合活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列のアクセッション番号を示す。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
フィブリノゲンフラグメントとラミニンフラグメントとのキメラタンパク質は、フィブリノゲンのN末端を含みヘテロ三量体を形成するフラグメントと、ラミニンのC末端を含みヘテロ三量体を形成するラミニンフラグメントを連結させた形態で製造することができる。キメラタンパク質がトロンビン処理によりフィブリノゲンに結合し得る能力とインテグリン結合活性とを併せ持つ限り、フィブリノゲンのN末端を含みヘテロ三量体を形成するフラグメントと、ラミニンのC末端を含みヘテロ三量体を形成するラミニンフラグメントとは、どのように連結した状態であってもよい。具体的には、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖およびγ鎖とラミニンのα鎖、β鎖およびγ鎖は、どのような組み合わせで連結されてもよい。好ましくはフィブリノゲンのAα鎖とラミニンのβ鎖、フィブリノゲンのBβ鎖とラミニンのα鎖、フィブリノゲンのγ鎖とラミニンのγ鎖を連結する形態、フィブリノゲンのAα鎖とラミニンのγ鎖、フィブリノゲンのBβ鎖とラミニンのβ鎖、フィブリノゲンのγ鎖とラミニンのα鎖を連結する形態、フィブリノゲンのAα鎖とラミニンのα鎖、フィブリノゲンのBβ鎖とラミニンのγ鎖、フィブリノゲンのγ鎖とラミニンのβ鎖を連結する形態である。キメラタンパク質の各鎖の全長、各鎖におけるフィブリノゲン鎖とラミニン鎖の長さの比率等についても特に限定されず、上記の2つの機能を発現できる範囲内で任意に設定することができる。
【0029】
フィブリノゲンフラグメントとラミニンフラグメントとの組換えキメラタンパク質は、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、フィブリノゲンの1つの鎖をコードするDNAの一部と、それと連結するラミニンの1つの鎖をコードするDNAの一部を連結して3種のキメラDNAを作製する。次に、適当な発現ベクターに、これら3種のキメラDNAをそれぞれ挿入し、3種の発現ベクターを作製する。これら3種の発現ベクターを適当な宿主細胞に共導入して発現させ、三量体を形成しているタンパク質を公知の方法で精製することにより製造することができる。
【0030】
さらに増殖因子結合活性を有するタンパク質を含むキメラタンパク質は、増殖因子結合活性を有するタンパク質をラミニンフラグメントの少なくもいずれか1つの鎖のC末端に連結させた形態で製造することができる。例えば、ラミニンフラグメントのα鎖のC末端に増殖因子結合活性を有するタンパク質を連結する場合は、前記の3種のキメラDNAのうちラミニンα鎖をコードするDNAを含むキメラDNAに、さらに増殖因子結合活性を有するタンパク質をコードするDNAを連結することにより、フィブリノゲンの1つの鎖とラミニンの1つの鎖と増殖因子結合活性を有するタンパク質のキメラDNAを作製する。このキメラDNAを適当な発現ベクターに挿入し、残りの2種の発現ベクターと一緒に適当な宿主細胞に共導入して発現させ、三量体を形成しているタンパク質を公知の方法で精製することにより製造することができる。
【0031】
〔ゲル、ゲルの製造方法、ゲル調製用組成物、ゲル調製用キット〕
本発明は、上記本発明のキメラタンパク質のトロンビン処理分子とフィブリンで形成されたゲル(以下「本発明のゲル」と記す)を提供する。また、本発明は、本発明のゲルの製造方法を提供する(以下「本発明の製造方法」と記す)。本発明の製造方法は、本発明のキメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの混和物を調製する工程を含むものであればよい。上述のように、本発明のキメラタンパク質およびフィブリノゲンにトロンビンが作用するとフィブリノゲンのAα鎖およびBβ鎖のN末端が切断されてそれぞれA knobおよびB knobを生成し、フィブリノゲンのγ鎖C末端領域のa-holeおよびβ鎖C末端領域のb-holeに結合することにより、本発明のキメラタンパク質が組み込まれたフィブリンゲルが形成される。
【0032】
フィブリノゲンはどのような生物から得られたものであってもよいが、本発明のキメラタンパク質を構成する各タンパク質と同じ生物から得られたものが好ましい。トロンビンもどのような生物から得られたものであってもよいが、本発明のキメラタンパク質を構成する各タンパク質およびフィブリノゲンと同じ生物から得られたものが好ましい。キメラタンパク質とフィブリノゲンとトロンビンは、いずれもヒトから得られたものであることが好ましい。また、本発明のキメラタンパク質は、増殖因子結合活性を有するタンパク質を含むキメラタンパク質であることが好ましい。
【0033】
具体的には、本発明の製造方法は、本発明のキメラタンパク質溶液、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液の混和物を調製することにより実施できる。それぞれを別々の溶液(3溶液)として混和物を調製してもよいが、キメラタンパク質とフィブリノゲンとの混合溶液とトロンビン溶液の2溶液から混和物を調製してもよく、キメラタンパク質とトロンビンとの混合溶液とフィブリノゲン溶液の2溶液から混和物を調製してもよい。溶媒には、生理的溶液を用いることが好ましく、例えば生理食塩水、生理的緩衝液、細胞培養用培地等を好適に用いることができる。キメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの混和物には、第XIII因子、アプロチニン、血清アルブミン、グリシン、L-アルギニン塩酸塩、L-イソロイシン、L-グルタミン酸ナトリウム、D-マンニトール、クエン酸ナトリウム水和物、塩化ナトリウム等が含まれていてもよい。
【0034】
本発明のゲルには、フィブリン安定剤としてトラネキサム酸、ε-アミノカプロン酸等のリジンアナログを含有することが好ましい。したがって、本発明の製造方法は、本発明のキメラタンパク質、フィブリノゲン、トロンビンおよびリジンアナログ(トラネキサム酸またはε-アミノカプロン酸)の混和物を調製する工程を含むものであってもよい。また、本発明のゲル中で細胞または組織片を培養する場合は、細胞懸濁液または組織片懸濁液をさらに添加して混和物を調製することが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法において、混和物中のキメラタンパク質とフィブリノゲンのモル比は、1:5~1:20,000であることが好ましい。混和物中のキメラタンパク質の濃度は特に限定されないが、0.5 nM~1,000 nMであってもよい。混和物中のキメラタンパク質の濃度は、1 nM以上、1.5 nM以上、2 nM以上、3 nM以上、5 nM以上、10 nM以上、20 nM以上、30 nM以上、50 nM以上、70 nM以上、100 nM以上であってもよく、900 nM以下、800 nM以下、700 nM以下、600 nM以下、500 nM以下、400 nM以下であってもよい。
【0036】
混和物中のフィブリノゲン濃度は特に限定されないが、0.1 mg/mL~50 mg/mLであってもよい。混和物中のフィブリノゲン濃度は、0.5 mg/mL以上、1.0 mg/mL以上、1.5 mg/mL以上、2 mg/mL以上、2.5 mg/mL以上、3 mg/mL以上、5 mg/mL以上、7 mg/mL以上、10 mg/mL以上、15 mg/mL以上、20 mg/mL以上、25 mg/mL以上であってもよく、45 mg/mL以下、40 mg/mL以下、35 mg/mL以下、30 mg/mL以下であってもよい。混和物中のフィブリノゲン濃度を調整することにより、ゲルの柔軟性を調整することができる。すなわち、混和物中のフィブリノゲン濃度を高くすると固いゲルを調製することができ、混和物中のフィブリノゲン濃度を低くすると柔らかいゲルを調製することができる。したがって、使用目的に応じて、ゲルの柔軟性を調整することが好ましい。
【0037】
混和物中のトロンビン濃度は特に限定されず、フィブリノゲン濃度に応じて適宜選択することができる。例えば、混和物中のトロンビン濃度は、0.01 NIH unit/mL~250 NIH unit/mLであってもよい。混和物中のトロンビン濃度は、0.05 NIH unit/mL以上、0.1 NIH unit/mL以上、0.5 NIH unit/mL以上、1 NIH unit/mL以上、2 NIH unit/mL以上、3 NIH unit/mL以上、5 NIH unit/mL以上、7 NIH unit/mL以上、10 NIH unit/mL以上であってもよく、200 NIH unit/mL以下、150 NIH unit/mL以下、125 NIH unit/mL以下、100 NIH unit/mL以下、70 NIH unit/mL以下、50 NIH unit/mL以下であってもよい。
【0038】
本発明のゲルは、ゲル形成後に凍結乾燥し、凍結乾燥ゲルとして実施してもよい。凍結乾燥ゲルは、使用時に生理的溶液や細胞培養液で膨潤させて使用することができる。また、使用時に細胞または組織片を懸濁した培養液中で膨潤させてもよい。また、本発明のゲルは、他の培養用ゲル基材との混合ゲルとして実施してもよい。
【0039】
本発明は、本発明のキメラタンパク質とフィブリノゲンを含むゲル調製用組成物を提供する(以下「本発明の組成物」と記す)。本発明の組成物は溶液または溶液を凍結乾燥して得られる凍結乾燥物の形態で実施することができる。本発明の組成物には第XIII因子、アプロチニン、トラネキサム酸、ε-アミノカプロン酸 、血清アルブミン、グリシン、L-アルギニン塩酸塩、L-イソロイシン、L-グルタミン酸ナトリウム、D-マンニトール、クエン酸ナトリウム水和物、塩化ナトリウム等が含まれていてもよい。本発明の組成物における、キメラタンパク質とフィブリノゲンの好ましいモル比、好ましい濃度については、本発明の製造方法の説明として記載したとおりである。
【0040】
本発明の組成物溶液にトロンビン溶液を添加して混合することにより、本発明のゲルを製造することができる。したがって、本発明の組成物は、本発明のゲル調製用の製品として実施することができる。
【0041】
本発明は、本発明のゲルを調製するためのキットを提供する(以下「本発明のキット」と記す)。本発明のキットは、本発明のキメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンを含むものであればよい。具体的には、キメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの各溶液、または各溶液の凍結乾燥物を含むキットとして実施することができる。キメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの各溶液は3溶液として実施してもよく、2溶液として実施してもよい。本発明のキットの構成品として上記本発明の組成物を好適に使用することができる。本発明のキットが、キメラタンパク質、フィブリノゲンおよびトロンビンの各溶液を凍結乾燥物として含有する場合、各凍結乾燥物の溶解液を含有することが好ましい。さらに本発明のキットは、ゲル調製用チューブ、使用説明書等を含有してもよい。
【0042】
〔本発明のゲルの用途〕
本発明のゲルは細胞または組織片の三次元培養に用いることができる。すなわち本発明は、上記本発明のゲルを用いる細胞または組織片の三次元培養方法を提供する(以下「本発明の三次元培養方法」と記す)。本発明の三次元培養方法は、本発明のゲルを用いて細胞または組織片を三次元培養できる形態であれば、どのような培養容器や培養条件を用いて実施してもよい。本発明の三次元培養方法は、例えば細胞培養プレートのウェル内に細胞または組織片を含むゲルを添加し、さらに細胞培養液を添加して一般的な培養条件で培養することにより実施することができる。また、本発明の三次元培養方法は、例えば細胞培養プレートのウェル内のゲル上に、培養液に懸濁した細胞または組織片を添加して一般的な培養条件で培養することができる。
【0043】
三次元培養に用いる細胞または組織片は特に限定されず、本発明のゲルを用いて三次元培養できるものであれば、どのような生物の細胞または組織片であってもよい。好ましくは、哺乳動物の細胞または組織片である。哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ等が挙げられる。なかでもヒトが好ましい。
【0044】
細胞は初代細胞でもよく、株化細胞でもよい。また、細胞は体細胞でもよく、幹細胞でもよい。幹細胞には体性幹細胞、多能性幹細胞などが含まれる。体性幹細胞としては、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、心臓幹細胞、肝臓幹細胞、小腸幹細胞などが挙げられる。多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(ntES細胞)、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが挙げられる。
【0045】
組織片は正常組織由来であってもよく、腫瘍組織由来でもよい。特にヒト腫瘍組織片から分離した腫瘍細胞を本発明のゲルを利用して培養したがんオルガノイドは、ヒト生体内のがん細胞の性質を高度に反映していると考えられ、化学療法、免疫療法、放射線療法等のがん治療法に対するがん細胞の感受性の予測、抗がん剤のスクリーニング、その他のがん研究を行う上で有用である。
【0046】
本発明の三次元培養方法において、本発明のキメラタンパク質を構成するラミニンのアイソフォームは、培養する細胞または組織片に応じて、最適なアイソフォームを選択することが好ましい。細胞の種類とラミニンアイソフォームの適合性については、先行技術文献から容易に見出すことができる(Masashi Yamada and Kiyotoshi Sekiguchi, Molecular Basis of Laminin-integrin Interactions, Current Topics in Membranes, 76:197-229, 2015; Lynn Yap, et al. Laminins in Cellular Differentiation, Trends in Cell Biology, 29:987-1000, 2019)。また、ゲルの柔らかさについても、細胞または組織片に応じて最適な柔らかさを選択することが好ましい。
【0047】
本発明の三次元培養方法を用いて得られる細胞またはオルガノイドは、移植医療用に用いることができる。すなわち本発明は、上記本発明の三次元培養方法を用いて移植医療用の細胞またはオルガノイドを製造する方法を提供する。特に、ヒトタンパク質で構成された本発明のキメラタンパク質、ヒトフィブリノゲン、ヒトトロンビンを用いて製造された本発明のゲルを用いる本発明の三次元培養方法は、培養系から異種由来の成分を排除したゼノフリー(Xeno-Free)条件を満たすので、当該条件でヒト細胞を培養して得られる細胞またはオルガノイドは、ヒトの移植医療用に好適に用いることができる。
【0048】
移植医療に用いる三次元培養細胞としては、心筋細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、腸上皮細胞、肺胞上皮細胞、気道上皮細胞、腎臓細胞、造血細胞、免疫細胞、神経細胞、眼組織細胞、表皮細胞などが挙げられる。これらの移植医療用細胞は、本発明のゲルを用いて幹細胞から誘導して得られた細胞であってもよい。
【0049】
移植医療に用いるオルガノイドとしては、例えば腎臓、肝臓、消化管(胃、腸、食道など)、肺・気管、大脳、血管、などの臓器が挙げられる。例えば腎臓は、Takasatoら(Nat Protoc 11: 1681-1692, 2016)に記載の製造方法において、三次元ゲル基材を本発明のゲルに変更することにより実施することができる。例えば肝臓と腸は、Takebeら(Cell Rep 21: 2661-2670, 2017)とSatoら(Nature 459: 262-265, 2009)にそれぞれ記載の製造方法において、三次元ゲル基材を本発明のゲルに変更することにより実施することができる。例えば肺と気道は、Yamamotoら(Nature Methods 14: 1097-1109, 2017)とRockら(Proc Natl Acad Sci USA 106: 12771-12775, 2009)にそれぞれ記載の製造方法において、三次元ゲル基材を本発明のゲルに変更することにより実施することができる。
【0050】
本発明のゲルは、細胞、組織、オルガノイド等を生体移植する際に、移植部位を保護するために使用することができる。例えば、移植する細胞、組織、オルガノイド等を本発明のゲルで包埋して移植部位に埋め込んでもよく、細胞、組織、オルガノイド等を移植した後に、移植部位の周辺に本発明のゲルを重層してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1:ヒトフィブリノゲン-ヒトラミニン511キメラ分子の作製、精製および活性評価〕
(1)ヒトラミニン511E8フラグメントの発現ベクターの構築
はじめに、pcDNA3.4-TOPO(Thermo Fisher Scientific)を鋳型として、瀧沢らの方法(Mamoru Takizawa et al., Sci. Adv., 2017;3:e1701497)に従ってpSecTag2B由来のマルチクローニング部位を挿入した発現ベクター(以下「pcDNA3.4+MCS」と記す)を構築した。ヒトラミニンα5E8(Ala2534-Ala3327、N末端側から順にマウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチドと6×Hisタグを含む)、ヒトラミニンβ1E8(Leu1561-Leu1786、N末端側から順にマウスIg-κ鎖V-J2-CシグナルペプチドとHAタグを含む)、ヒトラミニンγ1E8(Asn1362-Pro1609、N末端側から順にマウスIg-κ鎖V-J2-CシグナルペプチドとFLAGタグを含む)をそれぞれコードするDNA断片を制限酵素NheIとNotIで切り出し、pcDNA3.4+MCSの当該制限酵素部位に挿入してヒトラミニンα5鎖フラグメントLMα5(Ala2534-Ala3327)、ヒトラミニンβ1鎖フラグメントLMβ1(Leu1561-Leu1786)およびヒトラミニンγ1鎖フラグメントLMγ1(Asn1362-Pro1609)の各発現ベクターを構築した。
【0053】
(2)ヒトフィブリノゲンにヒトラミニン511のインテグリン結合領域を連結したキメラタンパク質発現ベクターの構築
ヒトフィブリノゲンにヒトラミニン511のインテグリン結合領域を連結したキメラタンパク質(以下「Chimera-511」と記す)として、ヒトフィブリノゲンα鎖(以下FBGα(Met1-Pro644)」と記す)、ヒトフィブリノゲンβ鎖(以下「FBGβ(Met1-Gln491)」と記す)およびヒトフィブリノゲンγ鎖(以下「FBGγ(Met1-Val437)」と記す)をコードするDNA断片を挿入した発現ベクターを構築した後、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)(以下「Chimera-α5」と記す)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)(以下「Chimera-β1」と記す)およびマウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)(以下「Chimera-γ1」と記す)を構築した。
【0054】
(2-1)ヒトフィブリノゲン発現ベクターの構築
はじめに、ヒト肝臓由来cDNAライブラリーは、Human Liver Total RNA(Clontech、636531)を鋳型として、First Strand cDNA Synthesis Kit ReverTra Ace -α-(東洋紡、FSK-101)を用いて付属プロトコルに従って以下のように調製した。19μLのマスターミックス(RNase-free H2O 10μL、5×RT Buffer 4μL、10 mM dNTP Mixture 2μL、10 U/μL RNase Inhibitor 1μL、10 pmol/μL Oligo(dt)20 1μL、ReverTra Ace 1μL)と1μg/μL Human Liver Total RNA 1μLを混合し、逆転写反応(42℃で20分間インキュベート後、99℃で5分間インキュベート)を行った。
【0055】
次に、ヒト肝臓由来cDNAライブラリーを鋳型として、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、FBGα(Met1-Pro644)、FBGβ(Met1-Gln491)およびFBGγ(Met1-Val437)をそれぞれコードするDNA断片を増幅した。増幅した各DNA断片を制限酵素NheIとNotIで消化し、それぞれpcDNA3.4+MCSの当該制限酵素部位に挿入してFBGα(Met1-Pro644)、FBGβ(Met1-Gln491)およびFBGγ(Met1-Val437)の各発現ベクターを構築した。
(i) FBGα(Met1-Pro644)増幅用プライマーセット
5’-GGGAGACCCAAGCTGGCTAGCCACCATGTTTTCCATGAGGATCGTCTGCC-3’(forward、配列番号1)
5’-TCCTCGAGCGGCCGCCGATCTAGGGGGACAGGGAAGG-3’(reverse、配列番号2)
(ii) FBGβ(Met1-Gln491)増幅用プライマーセット
5’-TAGGGAGACCCAAGCTGGCTAGCCACCATGAAAAGGATGGTTTCTTGGAGCTTCC-3’(forward、配列番号3)
5’-CCTCCTCGAGCGGCCGCGATCTATTGCTGTGGGAAGAAGG-3’(reverse、配列番号4)
(iii) FBGγ(Met1-Val437)増幅用プライマーセット
5’-ACCCAAGCTGGCTAGCCACCATGAGTTGGTCCTTGCACCCCCG-3’(forward、配列番号5)
5’-CCCTCCTCGAGCGGCCGCGATTTAAACGTCTCCAGCCTGTTTGG-3’(reverse、配列番号6)
【0056】
(2-2)C末端に10×Hisタグを付加したLMα5(Ala2534-Ala3310)の発現ベクターの構築
LMα5(Ala2534-Ala3327)の発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、5’側断片と3’側断片を増幅した。なお、(iv)のリバースプライマーの5’側と(v)のフォワードプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(iv) 5’側断片増幅用プライマーセット
5’-AGCCTGCGATGGCTCTTCCCCACCGGAGGCTCAG-3’(forward、配列番号7)
5’-GTGATGGTGATGGTGATGGTGATGGTGATGGGCCTGCAGTC-3’(reverse、配列番号8)
(v) 3’側断片増幅用プライマーセット
5’-AGGCCCATCACCATCACCATCACCATCACCATCACTAGATCCAGCAC-3’(forward、配列番号9)
5’-GATCGAACCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGCTG-3’(reverse、配列番号10)
【0057】
得られた2種類のDNA断片を、以下のプライマーセットを用いたエクステンションPCRにより連結して増幅させた。増幅したDNA断片を制限酵素AscIとNotIで消化し、LMα5(Ala2534-Ala3327)の発現ベクターの当該制限酵素部位に挿入し、C末端部に10×Hisタグを付加したLMα5(Ala2534-Ala3310)(以下「LMα5(Ala2534-Ala3310)/10×His」と記す)の発現ベクターを構築した。
(vi) LMα5(Ala2534-Ala3310)/10×His連結・増幅用プライマーセット
5’-AGCCTGCGATGGCTCTTCCCCACCGGAGGCTCAG-3’(forward、配列番号7)
5’-GATCGAACCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGCTG-3’(reverse、配列番号10)
【0058】
(2-3)Chimera-α5、Chimera-β1およびChimera-γ1発現ベクターの構築
ヒトフィブリノゲン各鎖の発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、FBGα(Met1-His151)、FBGβ(Met1-Asn194)またはFBGγ(Met1-Ser132)をコードするDNA断片を増幅した。なお、各プライマーセットのリバースプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(vii) FBGα(Met1-His151)増幅用プライマーセット
5’-AGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号11)
5’-GAACGGACTTCTCCTTCCAGTCTTGCTAAATGCTGTACTTTTTCTATGACTTTGCGC-3’(reverse、配列番号12)
(viii) FBGβ(Met1-Asn194)側増幅用プライマーセット
5’-AGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号11)
5’-GCTCTCGCACGCGGCCAATGTTAGTTGGGATATTGCTATTC-3’(reverse、配列番号13)
(ix) FBGγ(Met1-Ser132)増幅用プライマーセット
5’-AGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号11)
5’-GCGAATGTCCTTCATGATCTCCTCGATACTTGAGTCATGTGTTAAAATCGATG-3’(reverse、配列番号14)
【0059】
次に、LMα5(Ala2534-Ala3310)/10×His、LMβ1(Leu1561-Leu1786)およびLMγ1(Asn1362-Pro1609)の発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、LMβ1(Leu1761-Leu1786)、またはLMγ1(Ile1579-Pro1609)をコードするDNA断片を増幅した。なお、各プライマーセットのフォワードプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(x) LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His増幅用プライマーセット
5’-GAATAGCAATATCCCAACTAACATTGGCCGCGTGCGAGAGC-3’(forward、配列番号15)
5’-CCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号16)
(xi) LMβ1(Leu1761-Leu1786)増幅用プライマーセット
5’-GCGCAAAGTCATAGAAAAAGTACAGCATTTAGCAAGACTGGAAGGAGAAGTCCGTTC-3’(forward、配列番号17)
5’-CCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号16)
(xii) LMγ1(Ile1579-Pro1609)増幅用プライマーセット
5’-CATCGATTTTAACACATGACTCAAGTATCGAGGAGATCATGAAGGACATTCGC-3’(forward、配列番号18)
5’-CCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号16)
【0060】
得られた6種類の断片を、以下のプライマーセットを用いてエクステンションPCRを行い、FBGα(Met1-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)、FBGβ(Met1-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、またはFBGγ(Met1-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)をコードするDNA断片に連結して増幅させた。増幅したDNA断片を制限酵素NheIとNotIで消化し、pcDNA3.4+MCSの当該制限酵素部位に挿入した。
(xiii) 各鎖連結・増幅用プライマーセット
5’-AGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号11)
5’-CCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号16)
【0061】
続いて、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチドを導入するために、LMα5(Ala2534-Ala3327)の発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーを用いたPCRを行い、マウスIg-κ鎖V―J2-CシグナルペプチドをコードするDNA断片を増幅した。なお、各プライマーセットのリバースプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(xiv) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド増幅用プライマーセット(Chimera-α5用)
5’-CTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号19)
5’-CATTGTCGTTGACACCTTGGTCACCAGTGGAACCTGG-3’(reverse、配列番号20)
(xv) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド増幅用プライマーセット(Chimera-β1用)
5’-CTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号19)
5’-CACCTTCACCACTATCTGCGTCACCAGTGGAACCTGGA-3’(reverse、配列番号21)
(xvi) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド増幅用プライマーセット(Chimera-γ1用)
5’-CTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号19)
5’-CAGTTGTCTCTGGTAGCAACATAGTCACCAGTGGAACCTGGAACCC-3’(reverse、配列番号22)
【0062】
次に、FBGα(Met1-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)、FBGβ(Met1-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×HisおよびFBGγ(Met1-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)の発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、FBGα(Ala20-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)およびFBGγ(Tyr27-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)をコードするDNA断片を増幅した。なお、各プライマーセットのフォワードプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(xvii) FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His増幅用プライマーセット
5’-CCAGGTTCCACTGGTGACCAAGGTGTCAACGACAATG-3’(forward、配列番号23)
5’-CCGGTAGGGATCGAACCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAG-3’(reverse、配列番号24)
(xviii) FBGα(Ala20-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)増幅用プライマーセット
5’-TCCAGGTTCCACTGGTGACGCAGATAGTGGTGAAGGTG-3’(forward、配列番号25)
5’-CCGGTAGGGATCGAACCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAG-3’(reverse、配列番号24)
(xix) FBGγ(Tyr27-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)増幅用プライマーセット
5’-GGGTTCCAGGTTCCACTGGTGACTATGTTGCTACCAGAGACAACTG-3’(forward、配列番号26)
5’-CCGGTAGGGATCGAACCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAG-3’(reverse、配列番号24)
【0063】
上記(xiv)~(xix)のプライマーセットで増幅した6種類のDNA断片を、以下のプライマーセットを用いたエクステンションPCRを行い、それぞれ連結して増幅させた。増幅したDNA断片を制限酵素NheIとNotIで消化し、pcDNA3.4+MCSの当該制限酵素部位に挿入し、Chimera-α5、Chimera-β1およびChimera-γ1の各発現ベクターを構築した。
(xx) 各鎖連結・増幅用プライマーセット
5’-CTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGC-3’(forward、配列番号19)
5’-CCGGTAGGGATCGAACCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAG-3’(reverse、配列番号24)
【0064】
(3)ヒトラミニン511E8フラグメントおよびChimera-511の発現および精製
ヒトラミニン511E8(以下「LM511E8」と記す)およびChimera-511は、構築した各鎖の発現ベクターをFreeStyle 293-F細胞(Thermo Fisher Scientific、以下「293-F細胞」と記す)に導入して発現させた。すなわち、LM511E8の場合は、LMα5(Ala2534-Ala3327)、LMβ1(Leu1561-Leu1786)およびLMγ1(Asn1362-Pro1609)の各発現ベクターを293-F細胞に導入し、Chimera-511の場合は、Chimera-α5、Chimera-β1およびChimera-γ1の各発現ベクターを293-F細胞に導入した。1.0×109個の293-F細胞(1.0×106 cells/mL)に対して、トランスフェクション試薬293 fectin(Thermo Fisher Scientific)およびOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific)を用いて各鎖発現ベクターを400 μgずつ同時にトランスフェクトし、72時間培養を行った後、培養液を回収した。
【0065】
回収した培養液を1,000×gで10分間遠心分離し、その上清をさらに15,000×gで30分間遠心分離し、細胞および不溶物を除去した。培養上清に10 mL のcOmplete His-Tag Purification Resin(Roche)を添加し、一夜インキュベートして目的タンパク質を吸着させた。cOmplete His-Tag Purification Resinを回収し、pH 8.0に調整したHEPES-buffered Saline(20 mM HEPESおよび137 mM NaClを含む緩衝生理食塩水、以下「HBS」と記す)で洗浄した後、250 mM イミダゾールを含むHBS(pH 8.0)で溶出した。溶出画分はA280の吸光度測定により確認した。
【0066】
目的タンパク質を含む溶出画分をAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Units(Merck Millipore)を用いて濃縮した後、Superose 6 Increase 10/300GL(GE Healthcare)によるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、HBS(pH 7.4)を用いて流速0.5 mL/minで溶出した。溶出画分中の目的タンパク質量は、A280の吸光度およびSDS-PAGEにより確認した。ゲル濾過クロマトグラフィー後の精製物を0.22μmのディスクシリンジフィルター(Merck Millipore、SLGV033RS)で滅菌した後、-80℃で保存した。
【0067】
(4)LM511E8およびChimera-511のSDS-PAGE解析
精製したLM511E8(
図1(A)参照)およびChimera-511(
図1(C)参照)をそれぞれSDS-PAGEに供し、電気泳動パターンを比較した。5%-20%の濃度勾配をもつポリアクリルアミドゲル(ATTO、#2331830)に、LM511E8およびChimera-511をそれぞれ1.2μg/wellアプライし、20 mAで75分間電気泳動した。電気泳動はLaemmli法に従い、25 mM トリス、192 mM グリシン、0.1% ドデシル硫酸ナトリウムからなる緩衝液を用いて還元および非還元条件で行った。タンパク質の染色にはQuick-CBB(富士フィルム和光純薬、#299-50101)を用いた。
【0068】
結果を
図2に示した。非還元条件では、LM511E8からは、LMα5E8とLMβ1E8-LMγ1E8二量体の2本のバンドが出現し、Chimera-511からは、Chimera-511六量体のバンド1本のみが出現した。還元条件では、LM511E8からは、LMα5E8とLMγ1E8とLMβ1E8の3本のバンドが出現し、Chimera-511からは、Chimera-α5のバンドと、Chimera-β1およびChimera-γ1のバンドが同じ位置で重なって1本のバンドとして出現した。この結果から、目的のLM511E8とChimera-511が得られていることが確認できた。
【0069】
(5)インテグリン結合アッセイ
(5-1)プレートへのコーティング
HBS(pH 7.4)で終濃度が10 nM になるようにLM511E8およびChimera-511を希釈した後、96-wellプレート(Thermo Fisher Scientific、#442404)に50μL/wellずつ加え、4℃で一晩緩やかに振盪しながらコーティングを行った。
【0070】
(5-2)インテグリン結合アッセイ
インテグリン結合アッセイは、井戸らの方法(Hiroyuki Ido et al., J. Biol. Chem., 282, 11144-11154, 2007)に従って実施した。すなわち、上記のようにLM511E8およびChimera-511をそれぞれコーティングした96-wellプレートに、0.02% Tween-20(富士フィルム和光純薬、#167-11515)および137 mM NaClを含む20 mM トリス緩衝液、pH7.4(以下「TBST」と記す)に0.1%ウシ血清アルブミン(BSA; Sigma-Aldrich A7906)を添加した溶液(以下、「0.1% BSA/TBST」と記す)を200μL/wellずつ加えて、プレートを洗浄した。次に、1% BSAを添加したTBSTを200μL /wellずつ加え、シェーカー(B.Braun Biotech International CERTOMAT MT)上で振盪しながら室温で1時間ブロッキングを行った。200μL/wellの0.1% BSA/TBSTで1回洗浄した。1 mM MnCl2、または10 mM EDTAを含む0.1% BSA/TBSTでα6β1インテグリンを希釈し、終濃度が0.001 nM、0.003 nM、0.01 nM、0.03 nM、0.1 nM、0.3 nM、1 nM、3 nM、10 nM、30 nM、100 nMになるようにα6β1インテグリン溶液を調製した。α6β1インテグリン溶液をプレートに50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら3時間反応させた。
【0071】
200μL/wellの1mM MnCl2/0.1% BSA/TBST、または10 mM EDTA/0.1% BSA/TBSTで3回洗浄した後、1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで希釈した1.5μg/mLのビオチン標識Velcro抗体(Takagi, J., Erickson, H. P. and Springer, T. A. (2001) Nat. Struct. Biol. 8, 412-416の記載に従って作製) を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら30分間反応させた。200μL/wellの1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで3回洗浄した後、1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで希釈した0.53μg/mLのstreptavidin-horseradish peroxidase(Thermo Fisher Scientific, #21126)を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら15分間反応させた。200μL/wellの1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで3回洗浄した後、0.04% H2O2を含む25 mM クエン酸/50 mM Na2HPO4緩衝液で終濃度が0.4 mg/mLになるように溶解させたο-phenylenediamine(OPD;富士フィルム和光純薬 #615-28-1)を50μL/wellずつ加えて2分30秒反応させた。2.5 M H2SO4で反応停止後、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices EMax)を用いて490 nm での発色基質の吸光度を測定した。
【0072】
結果を
図3に示した。Chimera-511のα6β1インテグリン対する結合活性は、LM511E8のα6β1インテグリン対する結合活性と同等であることが示された。
図3の結果から、西内らの方法(Ryoko Nishiuchi et al.Matrix Biology, 25, 189-197, 2006)により求めたLM511E8に対するα6β1インテグリンの解離定数は0.59 nMであり、 Chimera-511に対するα6β1インテグリンの解離定数は0.58 nMであった。
【0073】
(6)フィブリノゲン結合アッセイ
(6-1)プレートへのコーティング
HBS(pH 7.4)で終濃度100 nMになるようにヒトフィブリノゲンを希釈した後、96-wellプレートに50μL/wellずつ加え、室温で一晩緩やかに振盪しながらコーティングを行った。
【0074】
(6-2)トロンビン添加によるChimera-511のフィブリノゲンへの結合
ヒトフィブリノゲンをコーティングした96-wellプレートに1% Skim milk(ナカライテスク、#31149-75)、0.1% Tween-20、137 mM NaClを含む20 mM トリス緩衝液、pH7.4(以下、「1% Skim/TBST」と記す)を200μL/wellずつ加えて、プレートを洗浄した。次に1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加え、シェーカー上で振盪しながら室温で1時間ブロッキングを行った。TBSTで1回洗浄したプレートに0.5 NIH units/mL トロンビン溶液を25μL/wellずつ加えた後、HBS(7.4)で終濃度が0.3125 nM、0.625 nM、1.25 nM、2.5 nM、5 nM、10 nMになるようにLM511E8とChimera-511を希釈した溶液を25μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら1時間反応させた。対照として、トロンビン溶液の代わりにPBS(-)を25μL/wellずつ加えた後、LM511E8とChimera-511を段階希釈した溶液を25μL/wellずつ加え、同様に室温にて振盪しながら1時間反応させた。
【0075】
(6-3)結合したChimera-511量の測定
フィブリノゲンに結合したChimera-511は抗ラミニンα5鎖抗体4C7(Merck Millipore, MAB1924)を用いて定量した。4C7はLM511E8のα5E8鎖と結合することが報告されている(Hiroyuki Ido et al., Matrix Biology, 25, 112-117, 2006)。TBSTで3,000倍希釈した抗ラミニンα5鎖抗体4C7を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、TBSTで希釈した10 nM Donkey anti-Mouse IgG/HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories, #715-035-150)を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、0.04% H2O2を含む25 mM クエン酸/50 mM Na2HPO4緩衝液で終濃度0.4 mg/mLになるように溶解させたο-phenylenediamineを50μL/wellずつ加えて2分反応させた。2.5 M H2SO4で反応停止後、マイクロプレートリーダーを用いて490 nm での発色基質の吸光度を測定した。
【0076】
結果を
図4に示した。Chimera-511はトロンビン存在下で用量依存的にフィブリノゲンに結合したが、トロンビン非存在下では結合しなかった。LM511E8は、トロンビンの有無にかかわらず、フィブリノゲンには結合しなかった。この結果は、Chimera-511がトロンビンによってChimera-α5鎖とChimera-β1鎖のN末端領域で切断を受け、それによって露出したA knobとB knob(
図1参照)がプレートにコーティングされたフィブリノゲンのa-holeとb-holeに結合することを示している。
【0077】
〔実施例2:Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いた細胞培養におけるトラネキサム酸の添加効果の検討〕
【0078】
(1)ヒトiPS細胞の維持培養
ヒトiPS細胞(以下「hiPS細胞」と記す)として、201B7株をRIKEN BioResource Research Centerから購入して使用した。hiPS細胞は中川らの方法(Nakagawa et al., Sci. Rep. 4:3594, doi:10.1038/srep03594, 2014)を一部変更した以下のプロトコールに従い、6-wellプレート(コーニング、#353046)を使用して維持培養を行った。hiPS細胞に細胞剥離液[TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific)を0.5 mM EDTA/PBS(-)で1:1に希釈した液]を添加して37℃で5分間インキュベートしてhiPSを剥離し、hiPS細胞懸濁液を調製した。詳細には、インキュベート後に細胞剥離液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した後、10μMのROCK阻害剤(Y-27632、和光純薬)を含有するStemFit AK02N(味の素)を1 mL/well添加し、セルスクレーパー(住友ベークライト)を用いてhiPS細胞を回収した。繰り返しのピペッティングで単一細胞まで分散させた後、細胞懸濁液10μLと0.4%トリパンブルー(Thermo Fisher Scientific, T10282)10μLを混合し、Countess自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞数を測定した。
【0079】
培養開始前日に、培養用6-wellプレートに22 nM LM511E8コーティング液を1.5 mL/well添加し、4℃で一夜静置してコーティングを行った。培養開始当日、コーティングされたLN511E8の乾燥による失活を防止するため、PBS(-)で調製したリコンビナントヒト血清アルブミン(Novozymes)溶液(1 mg/mL)を1.5 mL/well添加した。ウェルに残った溶液を吸引除去し、単一細胞に分散した201B7株hiPS細胞を1.0×104 cells/wellで播種し、37℃/0.5%CO2条件下培養を開始した。培養開始の翌日、培養4日目、培養5日目、培養6日目にStemFit AK02Nを用いて培地交換を行った。培養7日目のhiPS細胞を、フィブリンゲルを用いた細胞培養に供した。
【0080】
(2)フィブリンゲルを用いたhiPS細胞の包埋培養
(2-1)下層ゲルの作製
ヒトフィブリノゲン(Enzyme Research Laboratories, FIB 3)をStemFit AK02Nで5 mg/mLになるように希釈し、2×フィブリノゲン溶液を調製した。Thrombin(Sigma-Aldrich, T4393)をStemFit AK02Nで1 NIH units/mLになるように希釈し、2×トロンビン溶液を調製した。250μLの2×フィブリノゲン溶液を加えた1.7 mL チューブに250μLの2×トロンビン溶液を添加した。ピペッティングおよび転倒攪拌した後、培養用24-wellプレート(BD Biosciences)に混合液を250μL添加し、37℃で10分間静置してゲル化させた。トラネキサム酸非添加培地群用のウェルのフィブリンゲルの上に10μM Y-27632/StemFit AK02Nを、トラネキサム酸添加培地群用のウェルのフィブリンゲルの上に10μM Y-27632/1 mM トラネキサム酸/ StemFit AK02Nをそれぞれ1 mL/well加え、37℃/0.5%CO2条件下で一晩静置した。
【0081】
(2-2)上層ゲルの作製およびhiPS細胞の培養
維持培養7日目のhiPS細胞を、上記と同じ手順で、剥離、単一細胞に分散および細胞数測定を行った。4×104 cells/mLの細胞と、1 NIH units/mL のトロンビンと、100 nM Chimera-511を含む2×細胞懸濁液を調製した。250μLの2×フィブリノゲン溶液を加えた1.7 mL チューブに250μLの2×細胞懸濁液を添加した。ピペッティングおよび転倒攪拌した後、下層ゲルが形成されたウェルに混合液を250μL添加し、37℃で10分間静置してゲル化させた。トラネキサム酸非添加培地群用のウェルのフィブリンゲルの上に10μM Y-27632/StemFit AK02Nを、トラネキサム酸添加培地群用のウェルのフィブリンゲルの上に10μM Y-27632/1 mM トラネキサム酸/StemFit AK02Nをそれぞれ1 mL/well加え、37℃/0.5%CO2条件下で包埋培養を開始した。培養開始の翌日、培養4日目、培養5日目、培養6日目に1 mM トラネキサム酸/StemFit AK02Nを用いて培地交換を行った。
【0082】
培養7日目の結果を
図5に示した。上段がトラネキサム酸添加培地群の代表的なウェルの観察像、下段がトラネキサム酸非添加培地群の代表的なウェルの観察像である。左側が明視野像、右側が位相差像である。トラネキサム酸非添加培地群では、包埋培養開始4日目からゲルの溶解が顕著になり、培地交換時に一部の細胞がゲルごと剥がれ落ちる現象が散見された。一方、トラネキサム酸添加培地群では、観察終了時までゲルの溶解は認められず、細胞は真球に近い形状の塊を形成して増殖した。トラネキサム酸添加培地群でゲルが溶解しなかったのは、トラネキサム酸の抗プラスミン作用によるものと考えられた。
【0083】
〔実施例3:Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いた細胞培養におけるChimera-511の濃度依存性の検討〕
実施例2において、Chimera-511の終濃度が0.15 nM、0.5 nM、1.5 nM、5 nM、15 nM、50 nMまたは150 nMとなるように、2×細胞懸濁液にChimera-511を添加したこと以外は、実施例2と同じ手順でhiPS細胞を包埋培養した。陰性対照として、Chimera-511を添加していないフィブリンゲルを用いてhiPS細胞を包埋培養した。オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス、BZ-X710)を用いて包埋翌日、培養4日目、培養5日目、培養6日目、培養7日目の細胞塊を撮影し、細胞塊形成におけるChimera-511の添加濃度依存性を観察した。
【0084】
培養8日目に、以下の手順で細胞を回収し、細胞数を測定した。細胞培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。フィブリンゲル溶解液 [2.5 mg/mL トリプシン(Thermo Fisher Scientific, #15090046)、5 mM EDTA、10μM Y-27632を含むPBS(-)] を1 mL/wellずつ加え、37℃にてシェーカー上で30分間フィブリンゲルを消化した。繰り返しのピペッティングで単一細胞まで分散させた後、5分間遠心分離(300×g)して上清を除去し、フィブリンゲル溶解液に再懸濁した。細胞懸濁液10μLと0.4%トリパンブルー(Thermo Fisher Scientific, T10282)10μLを混合し、Countess自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞数を測定した。全細胞数およびトリパンブルー染色された細胞数を測定し、生存率を算出した。
【0085】
培養7日目の観察の結果を
図6に示した。Chimera-511の濃度依存的な細胞塊数の増加が観察された。
【0086】
培養8日目の細胞数および生存率の結果を
図7に示した。
図7のデータは3回の独立した実験の平均値をおよび標準偏差で示されている。細胞数および生存率はChimera-511の濃度依存的に増加していた。
【0087】
〔実施例4:Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いた細胞培養における経時的変化の検討〕
実施例2と同じ手順で、Chimera-511の終濃度を50 nMとしてhiPS細胞を包埋培養した。陰性対照として、Chimera-511を添加していないフィブリンゲルを用いてhiPS細胞を包埋培養した。オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス、BZ-X710)を用いて包埋翌日(培養1日目)、培養4日目、培養6日目、培養8日目の細胞塊を撮影し、経時変化を観察した。
【0088】
結果を
図8に示した。上段はChimera-511を添加したフィブリンゲルを使ってhiPS細胞を培養した結果を示し、下段はChimera-511を添加していないフィブリンゲルを用いてhiPS細胞を培養した結果を示す。Chimera-511を添加したフィブリンゲルでは細胞塊は経時的に増殖して大きくなることが観察された。一方、Chimera-511を添加していないフィブリンゲルでは、培養8日目でも細胞塊の増殖は認められなかった。
【0089】
〔実施例5:フィブリンゲルを用いた細胞培養におけるChimera-511とLM511E8の添加効果の比較〕
実施例2と同じ手順で、終濃度50 nMのChimera-511を添加したフィブリンゲルを用いてhiPS細胞を包埋培養した。同様に、Chimera-511に代えて終濃度100 nMのLM511E8を添加したフィブリンゲルを用いてhiPS細胞を包埋培養した。オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス、BZ-X710)を用いて培養8日目に細胞塊を撮影し、細胞塊の増殖を比較した。
【0090】
結果を
図9に示した。(A)はChimera-511を添加したフィブリンゲルの結果、(B)はLM511E8を添加したフィブリンゲルの結果である。Chimera-511を添加したフィブリンゲルを用いた場合は増殖したhiPS細胞の細胞塊が多数観察されたが、LM511E8を添加したフィブリンゲルを用いた場合は、増殖したhiPS細胞の細胞塊がほとんど観察されなかった。この結果は、インテグリン結合活性を有するLM511E8がフィブリンゲル内に存在するだけでは不十分であり、インテグリン結合活性を有するLM511のフラグメントがフィブリンゲルに結合した状態で存在することが細胞の増殖に必要であることを示している。
【0091】
〔実施例6:Chimera-511を組み込んだフィブリンゲルを用いた細胞培養後のhiPS細胞の未分化性の検討〕
実施例2と同じ手順で、Chimera-511の終濃度を50 nMとしてhiPS細胞を包埋培養した。培養7日目において、細胞培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。フィブリンゲル溶解液 [2.5 mg/mL トリプシン、5 mM EDTA、10μM Y-27632を含むPBS(-)] を1 mL/wellずつ加え、37℃にてシェーカー上で30分間フィブリンゲルを消化した。繰り返しのピペッティングで単一細胞まで分散させた後、5分間遠心分離(300×g)して上清を除去した。10μM Y-27632/PBS(-)に再懸濁した後、40μmセルストレーナー(corning, #352340)に通した。10μM Y-27632/PBS(-)で1回洗浄後、10μM Y-27632/PBS(-)に再懸濁し、Countess自動セルカウンターを用いて細胞数を測定した。
【0092】
PBS(-)で希釈した3.7%パラホルムアルデヒドで懸濁し、室温にて10分間固定した。PBS(-)で2回洗浄後、1.5%ウシ胎児血清(FBS)含有PBS(-)で懸濁し、4℃にて一夜静置した。この細胞懸濁液に以下の抗体、isotype controlまたは組換えタンパク質を添加し、氷上で1時間静置した。
・FITC Mouse anti-SSEA4(BD, #560126)
・FITC Mouse IgG3 control(BD, #555588)
・Alexa Fluor 488 Mouse anti-Oct3/4(BD, #555588)
・Alexa Fluor 488 Mouse IgG1 Isotype control(BD, #557782)
・rBC2LCN-FITC(富士フィルム和光純薬、#180-01192)
【0093】
Alexa Fluor 488 Mouse anti-Oct3/4を添加した細胞懸濁液、およびAlexa Fluor 488 Mouse IgG1 Isotype controlを添加した細胞懸濁液には、0.2% NP-40を添加して抗体反応と並行して透過処理を行った。rBC2LCN-FITCのネガティブコントロールとして、未添加の細胞懸濁液を準備した。抗体反応液を除去した後、1.5%FBS含有PBS(-)で1回洗浄し、D-PBSに再懸濁した。この細胞懸濁液を氷上で保存し、BD FACSCelesta セルサイトメーターで未分化マーカーを検出した。
【0094】
対照として、6-wellプレート(コーニング、#353046)を使用して二次元維持培養したhiPS細胞を使用した。維持培養7日目のhiPS細胞に細胞剥離液を添加して37℃で5分間インキュベートし、細胞剥離液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した後、10μM Y-27632を含有するStemFit AK02Nを1 mL/well添加し、セルスクレーパーを用いてhiPS細胞を回収した。繰り返しのピペッティングで単一細胞まで分散させた後、細胞懸濁液10μLと0.4%トリパンブルー10μLを混合し、Countess自動セルカウンターを用いて細胞数を測定した。10μM Y-27632/PBS(-)で2回洗浄後、PBS(-)で希釈した3.7%パラホルムアルデヒドで懸濁し、室温にて10分間固定した。以後は、上記のフィブリンゲルを用いた三次元包埋培養したhiPS細胞における手順と同じ手順で、抗体処理および未分化マーカー検出を行った。
【0095】
結果を
図10に示した。(A)はSSEA4の検出結果、(B)はOCT3/4の検出結果、(C)はrBC2LCNの検出結果である。各上段は二次元維持培養したhiPS細胞の結果、下段はフィブリンゲルを用いて三次元包埋培養したhiPS細胞の結果である。フィブリンゲルを用いて三次元包埋培養したhiPS細胞は、二次元維持培養したhiPS細胞と同様に未分化性を維持していることが示された。
【0096】
〔実施例7:パールカン付加型Chimera-511の作製、精製および活性評価〕
(1)ヒトパールカンドメイン1を連結したChimera-α5の発現ベクターの構築
パールカンは基底膜の主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンである。増殖因子結合活性を有するヘパラン硫酸鎖はそのドメイン1に結合している。増殖因子結合活性を有するChimera-511を作製するため、ヒトパールカンのドメイン1をChimera-α5のC末端に融合させたキメラタンパク質(以下「Chimera-α5(+P)」と記す)を以下のようにして作製した。まず、WO2014/199754A1に記載の手順に従って構築したヒトパールカンのドメイン1とLMα5E8フラグメントのキメラタンパク質(以下「LMα5E8(+P)」と記す)の発現ベクターを鋳型として、パールカンD1ドメインを含むLMα5E8(+P)のC末端領域をコードするDNA断片を制限酵素ClaIとNotIで切り出した。これをChimera-α5の発現ベクターの当該制限酵素部位に挿入し、Chimera-α5(+P)の発現ベクターを構築した。
【0097】
(2)パールカン付加型Chimera-511(以下「Chimera-511P」と記す)の発現および精製
Chimera-511Pの発現は、構築した各鎖の発現ベクターを293-F細胞に導入して行った。すなわち、Chimera-α5(+P)、Chimera-β1およびChimera-γ1の発現ベクターを293-F細胞に導入した。1.0×109個の293-F細胞(1.0×106 cells/mL)にトランスフェクション試薬293 fectinおよびOpti-MEMを用いて各鎖発現ベクターを400 μgずつ同時にトランスフェクトし、72時間培養を行った後、培養液を回収した。回収した培養液を1,000×gで10分間遠心分離し、その上清をさらに15,000×gで30分間遠心分離し、細胞および不溶物を除去した。培養上清に10 mL のcOmplete His-Tag Purification Resin(Roche)を添加し、一夜インキュベートして目的タンパク質を吸着させた。cOmplete His-Tag Purification Resinを回収し、HBS(pH8.0)で洗浄した後、250 mM イミダゾールを溶解したHBS(pH 8.0)で溶出した。溶出画分はA280の吸光度測定により確認した。
【0098】
目的タンパク質を含む溶出画分をAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Units(Merck Millipore)を用いて濃縮した後、Superose 6 Increase 10/300GL(GE Healthcare)によるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、HBS(pH 7.4)を用いて流速0.5 mL/minで溶出した。溶出画分中の目的タンパク質量は、A280の吸光度およびSDS-PAGEにより確認した。ゲル濾過クロマトグラフィー後の精製物を0.22μmのディスクシリンジフィルター(Merck Millipore、SLGV033RS)で滅菌した後、-80℃で保存した。
【0099】
(3)インテグリン結合アッセイ
実施例1(5)に記載の方法を用いて、Chimera-511Pのα6β1インテグリンに対する結合活性を測定した。
【0100】
インテグリン結合アッセイの結果を
図11に示した。α6β1インテグリンは用量依存的にChimera-511Pと結合し、その見かけの解離定数は0.90 nMであった。この結果から、Chimera-511PはChimera-511やLM511E8とほぼ同等のα6β1インテグリンに対する結合活性を保持していると考えられた。
【0101】
(4)フィブリノゲン結合アッセイ
(4-1)プレートへのコーティング
HBS(pH 7.4)で終濃度100 nMになるようにヒトフィブリノゲンを希釈した後、96-wellプレートに50μL/wellずつ加え、室温で一晩緩やかに振盪しながらコーティングを行った。
【0102】
(4-2)トロンビン添加によるChimera-511Pのフィブリノゲンへの結合
ヒトフィブリノゲンをコーティングした96-wellプレートに1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加えて、プレートを洗浄した。次に1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加え、シェーカー上で振盪しながら室温で1時間ブロッキングを行った。TBSTで1回洗浄したプレートに0.5 NIH units/mL トロンビン溶液を25μL/wellずつ加えた後、HBS(7.4)で終濃度が0.3125 nM、0.625 nM、1.25 nM、2.5 nM、5 nM、10 nMになるようにChimera-511Pを希釈した溶液を25μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら1時間反応させた。対照として、トロンビン溶液の代わりにPBS(-)を25μL/wellずつ加えた後、Chimera-511Pを段階希釈した溶液を25μL/wellずつ加え、同様に室温にて振盪しながら1時間反応させた。
【0103】
(4-3)結合したChimera-511P量の測定
フィブリノゲンに結合したChimera-511Pは抗ラミニンα5鎖抗体4C7(Merck Millipore, MAB1924)を用いて定量した。TBSTで3,000倍希釈した抗ラミニンα5鎖抗体4C7を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、TBSTで希釈した10 nM Donkey anti-Mouse IgG/HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories, #715-035-150)を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、0.04% H2O2を含む25 mM クエン酸/50 mM Na2HPO4緩衝液で終濃度0.4 mg/mLになるように溶解させたο-phenylenediamineを50μL/wellずつ加えて2分反応させた。2.5 M H2SO4で反応停止後、マイクロプレートリーダーを用いて490 nm での発色基質の吸光度を測定した。
【0104】
結果を
図12に示した。Chimera-511Pはトロンビン存在下で用量依存的にフィブリノゲンに結合したが、トロンビン非存在下では結合しなかった。この結果は、Chimera-511と同様、Chimera-511PがトロンビンによってChimera-α5(+P)鎖とChimera-β1鎖のN末端領域で切断を受け、それによって露出したA knobとB knobがプレートにコーティングされたフィブリノゲンのa-holeとb-holeに結合したことを示唆している。
【0105】
〔実施例8:Chimera-511Pを組み込んだフィブリンゲルを用いた細胞培養〕
実施例2と同じ手順で、Chimera-511Pの終濃度を50 nMとしてhiPS細胞を包埋培養した。陰性対照として、Chimera-511Pを添加していないフィブリンゲルを用いてhiPS細胞を包埋培養した。
【0106】
培養7日目のhiPS細胞をオールインワン蛍光顕微鏡で観察した結果を
図13に示した。(A)は陰性対照(Fibrin only)、(B)は50 nM Chimera-511Pを添加したフィブリンゲルで培養した結果である。左はウェル全体の画像、右は左の枠内の拡大画像である。(A)陰性対照では、培養7日目において細胞塊は観察されなかった。一方、(B)50 nM Chimera-511Pを含むフィブリンゲル内で培養した場合は、増殖したhiPS細胞の細胞塊が多数観察された。
【0107】
〔実施例9:ラミニン511以外のラミニンアイソフォームとフィブリノゲンのキメラ分子の作製、精製、および活性評価〕
(1)ヒトフィブリノゲンにラミニン111、ラミニン121、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン321、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン521のインテグリン結合領域を連結したキメラタンパク質発現ベクターの構築
C末端に10×Hisタグを付加したヒトラミニンα1鎖のキメラタンパク質Chimera-α1(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα1(Leu2099-Pro2683)/10×His)の発現ベクターは、実施例1(2)に記載の方法に従い、ヒトラミニンα1E8フラグメントの発現ベクター(Hiroyuki Ido et al. J Biol Chem 283:28149-28157, 2008)を鋳型として作製した。同様に、ヒトラミニンα2鎖のキメラタンパク質Chimera-α2(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα2(Ile2127-Asp2720)/10×His)、ヒトラミニンα3鎖のキメラタンパク質Chimera-α3(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα3(Met2370-Leu2937)/10×His)、ヒトラミニンα4鎖のキメラタンパク質Chimera-α4(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα4(Ile815-Leu1412)/10×His)の発現ベクターを、ヒトラミニンα2E8フラグメント(Hiroyuki Ido et al. J Biol Chem 283:28149-28157, 2008)、ヒトラミニンα3E8フラグメント(Takamichi Miyamzaki et al. Nature Commun 3:1236, 2012)、ヒトラミニンα4E8フラグメント(Ryo Ohta et al. Sci Rep 6:35680, 2016)の発現ベクターをそれぞれ鋳型として作製した。なお、Chimera-α1およびChimera-α2については、ヒトフィブリノゲンβ鎖(「FBGβ(Met1-Gln491)」)とヒトラミニンα1鎖またはα2鎖との連結部にN型糖鎖付加配列(Asn-Xaa-Ser)が生じるため、ヒトフィブリノゲンβ鎖Asn194をグルタミン(Gln)に置換したキメラタンパク質の発現ベクターをそれぞれ作製した。
【0108】
ヒトラミニンβ2鎖のキメラタンパク質Chimera-β2(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMβ2(Leu1773-Gln1798)は、実施例1に記載の方法に従い、ヒトラミニンβ2E8フラグメントの発現ベクター(Yukimasa Taniguchi et al. J Biol Chem 284:7820-7831, 2009)を鋳型として作製した。同様にして、ヒトラミニンβ3鎖のキメラタンパク質Chimera-β3(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMβ3(Leu1147-Lys1172)の発現ベクターとヒトラミニンγ2鎖のキメラタンパク質Chimera-γ2(マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMγ2(Ile1163-Gln1193)の発現ベクターをヒトラミニンβ3E8フラグメントの発現ベクター(Takamichi Miyamzaki et al. Nature Commun 3:1236, 2012)とヒトラミニンγ2E8フラグメントの発現ベクター(Takamichi Miyamzaki et al. Nature Commun 3:1236, 2012)を鋳型として作製した。
【0109】
(2)ヒトフィブリノゲンにラミニン111、ラミニン121、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン321、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン521のインテグリン結合領域を連結したキメラタンパク質(Chimera-111、Chimera-121、Chimera-211、Chimera-221、Chimera-311、Chimera-321、Chimera-332、Chimera-411、Chimera-421、Chimera-521)の発現および精製
Chimera-111は、実施例1(3)に記載の方法に従い、Chimera-α1、Chimera-β1、Chimera-γ1の発現ベクターを293-F細胞に導入して発現させた。同様にして、Chimera-121、Chimera-211、Chimera-221、Chimera-311、Chimera-321、Chimera-332、Chimera-411、Chimera-421、Chimera-511、Chimera-521は、Chimera-α1、Chimera-α2、Chimera-α3、Chimera-α4、Chimera-α5、Chimera-β1、Chimera-β2、Chimera-β3、Chimera-γ1、Chimera-γ2の各発現ベクターを各ラミニンサブユニット鎖の組成に従って組み合わせ、293-F細胞に導入して発現させた。
【0110】
培養開始から72時間後、培養液を回収し、遠心操作により培養上清を回収した。実施例1(3)に記載の方法に従い、Chimera-α鎖のC末端に付加した10×Hisタグを利用したアフィニティークロマトグラフィーとSuperose 6 Increase 10/300GL(GE Healthcare)を用いるゲル濾過クロマトグラフィーを組み合わせて、培養上清からキメラタンパク質を精製した。精製したキメラタンパク質は0.22μmのディスクシリンジフィルター(Merck Millipore、SLGV033RS)で滅菌した後、-80℃で保存した。
【0111】
(3)Chimera-111、Chimera-121、Chimera-211、Chimera-221、Chimera-311、Chimera-321、Chimera-332、Chimera-411、Chimera-421、Chimera-521のSDS-PAGE解析
(3-1)キメラタンパク質の発現確認
各キメラタンパク質の発現ベクターを導入した293-F細胞の培養液を培養開始から72時間後に回収し、培養上清中に目的のキメラタンパク質が発現していることをSDS-PAGEにより確認した。培養上清5 μLに5×SDS sample treatment buffer 1.3 μLを加えて、95℃で5 min処理した後、5%-20%の濃度勾配をもつポリアクリルアミドゲル(ATTO、#2331830)にアプライし、15 mAで115分間電気泳動した。電気泳動はLaemmli法に従い、25 mM トリス、192 mM グリシン、0.1% ドデシル硫酸ナトリウムからなる緩衝液を用いて非還元条件で行った。電気泳動後、分離したタンパク質をpolyvinylidene difluoride膜に転写した。膜上に転写されたキメラタンパク質は、Chimera-α1、Chimera-α2、Chimera-α3、Chimera-α4、Chimera-α5のC末端に付加した10×Hisタグに対する抗体(Penta-His HRP conjugate; QIAGEN #34460)を用いて検出した。
【0112】
結果を
図14に示した。どのキメラタンパク質の培養上清からも250 kDaの分子量マーカーよりも高分子量側に六量体のバンドが検出された。また、100 kDaの分子量マーカーの位置に少量のChimera-α1/Chimera-α2/Chimera-α3/Chimera-α4/Chimera-α5のバンドが検出された。これらの結果から、Chimera-511と同様、各キメラタンパク質が六量体として発現していることが確認された。
【0113】
(3-2)精製したキメラタンパク質の純度検定
5%-20%の濃度勾配をもつポリアクリルアミドゲル(ATTO、#2331830)に精製したChimera-111、Chimera-221、Chimera-332、Chimera-411、Chimera-421をそれぞれ1.2μg/wellアプライし、20 mAで75分間電気泳動した。泳動後、Quick-CBB(富士フィルム和光純薬、#299-50101)を用いてゲルを染色し、分離したタンパク質を可視化した。
【0114】
結果を
図15に示した。非還元条件では、どのキメラタンパク質においても250 kDaの分子量マーカーよりも 高分子量側に六量体のバンド1本が検出された。還元条件では、Chimera-α1/Chimera-α2/Chimera-α3/Chimera-α4のバンドが100 kDaの分子量マーカーの位置に検出され、Chimera-β1/Chimera-β2/Chimera-β3/Chimera-γ1/Chimera-γ2のバンドが15 kDaの分子量マーカーの少し高分子量側の位置に検出された。これらの結果から、各キメラタンパク質が高純度で精製できていることが確認された。
【0115】
(4)Chimera-111、Chimera-221、Chimera-332、Chimera-421のフィブリノゲン結合活性およびインテグリン結合活性の測定
(4-1)フィブリノゲン結合活性
精製したChimera-111、Chimera-221、Chimera-332、Chimera-421のフィブリノゲン結合活性を、実施例1(6)に記載の方法に準じて測定した。96-wellプレートにHBS(pH 7.4)で終濃度が100 nMになるように希釈したヒトフィブリノゲンを50μL/wellずつ加え、室温で一晩緩やかに振盪しながらコーティングを行った。コーティング後、1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加えて、プレートを洗浄した。次に1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加え、シェーカー上で振盪しながら室温で1時間ブロッキングを行った。TBSTで1回洗浄したプレートに0.5 NIH units/mL トロンビン溶液を25μL/wellずつ加えた後、HBS(pH 7.4)で終濃度が0.3125 nM、0.625 nM、1.25 nM、2.5 nM、5 nM、10 nMになるように各キメラタンパク質を希釈した溶液を25μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら1時間反応させた。対照群には、トロンビン溶液の代わりにHBS(pH 7.4)を25μL/wellずつ加えた。
【0116】
結合したキメラタンパク質はChimera-α鎖のC末端に付加した10×Hisタグと結合する抗体(Penta-His HRP conjugate; QIAGEN #34460;以下「Hisタグ抗体」と記す)を用いて定量した。200μL/wellのTBSTでプレートを3回洗浄後、1% Skim/TBSTで3,000倍希釈したHisタグ抗体を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、0.04% H2O2を含む25 mM クエン酸/50 mM Na2HPO4緩衝液で終濃度0.4 mg/mLになるように溶解させたο-phenylenediamineを50μL/wellずつ加えて2分反応させた。2.5 M H2SO4で反応停止後、マイクロプレートリーダーを用いて490 nm での発色基質の吸光度を測定した。
【0117】
結果を
図16に示した。各キメラタンパク質はトロンビン存在下で用量依存的にフィブリノゲンに結合した。トロンビン非存在下では結合しなかった。この結果は、Chimera-511と同様に、各キメラタンパク質がトロンビン依存的にフィブリノゲンに結合する活性を保持していることを示している。
【0118】
(4-2)インテグリン結合活性
各キメラタンパク質はラミニンのインテグリン結合領域を含むため、96-wellプレートにコーティングしたフィブリノゲンにトロンビン依存的に結合したキメラタンパク質を、そのインテグリン結合活性を利用して定量することが可能である。すなわち、結合したキメラタンパク質をHisタグ抗体の代わりにラミニン結合性インテグリンを使って定量することができる。ラミニン結合性インテグリンの中でも、ラミニン-111とラミニン-221はα7X2β1インテグリンに強く結合し、ラミニン-332、ラミニン-421はα6β1インテグリンに強く結合する(Yukimasa Taniguchi et al. J Biol Chem 284:7820-7831, 2009; Ryoko Nishiuchi et al. Matrix Biol 25:189-197, 2006; Taichi Ishikawa et al. Matrix Biol 38:69-83, 2014)。そのため、フィブリノゲンに結合したChimera-111とChimera-221はα7X2β1インテグリンを用いて定量し、フィブリノゲンに結合したChimera-332、Chimera421はα6β1インテグリンを用いて定量した。
【0119】
α7X2β1インテグリンとα6β1インテグリンはIdoらの方法(Hiroyuki Ido et al. J Biol Chem 282(15):11144-11154, 2007)により作製した。上記(4-1)に記載の方法に従い、96-wellプレートにコーティングしたフィブリノゲンに精製したChimera-111、Chimera-221、Chimera-332、Chimera-421をそれぞれ結合させた。結合したインテグリンを、実施例1(5-2)に記載の方法に準じて定量した。具体的には、1 mM MnCl2、または10 mM EDTAを含む0.1% BSA/TBSTで終濃度が30 nMになるように希釈したインテグリン溶液を調製し、これをプレートに50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら1時間反応させた。200μL/wellの1mM MnCl2/0.1% BSA/TBST、または10 mM EDTA/0.1% BSA/TBSTで3回洗浄した後、1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで希釈した1.5μg/mLのビオチン標識Velcro抗体(Takagi, J., Erickson, H. P. and Springer, T. A. (2001) Nat. Struct. Biol. 8, 412-416の記載に従って作製)を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら30分間反応させた。200μL/wellの1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで3回洗浄した後、1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで希釈した0.53μg/mLのstreptavidin-horseradish peroxidase(Thermo Fisher Scientific, #21126)を50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら15分間反応させた。200μL/wellの1mM MnCl2/0.1% BSA/TBSTで3回洗浄した後、0.04% H2O2を含む25 mM クエン酸/50 mM Na2HPO4緩衝液で終濃度が0.4 mg/mLになるように溶解させたο-phenylenediamine(OPD;富士フィルム和光純薬 #615-28-1)を50μL/wellずつ加えて2分~5分反応させた。2.5 M H2SO4で反応停止後、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices EMax)を用いて490 nm での発色基質の吸光度を測定した。
【0120】
結果を
図17に示した。いずれのキメラタンパク質も1 mM MnCl
2存在下で インテグリンと強く結合し、10 mM EDTA存在下では結合しなかった。一方、96-wellプレートにコーティングしたフィブリノゲンに、トロンビン非共存下でキメラタンパク質を結合させると、検出にHisタグ抗体を用いた場合と同様、インテグリンの結合は検出されなかった。この結果は、キメラタンパク質が、フィブリノゲンとキメラ化するラミニンアイソフォームのタイプの違いにかかわらず、トロンビン依存的にフィブリノゲンに結合できることを確認するとともに、フィブリノゲンに結合した状況下でもインテグリン結合活性を保持していることを示している。
【0121】
〔実施例10:ラミニン511以外のラミニンアイソフォームとフィブリノゲンのパールカン付加型キメラ分子の作製、精製、および活性評価〕
(1)ヒトパールカンドメイン1を連結したChimera-α1、Chimera-α2、Chimera-α3、Chimera-α4の発現ベクターの構築
ヒトパールカンのドメイン1をChimera-α1のC末端に融合させたキメラタンパク質(以下「Chimera-α1(+P)」と記す)の発現ベクターは、WO2014/199754A1に記載の手順に従って構築したヒトパールカンのドメイン1をラミニンα1E8フラグメントのC末端に付加したキメラタンパク質の発現ベクターを作製し(W02018/088501A1)、これを鋳型として、実施例7(1)に記載の方法に従って構築した。同様にして、ヒトパールカンのドメイン1をChimera-α2、Chimera-α3、Chimera-α4のC末端に融合させたキメラタンパク質(以下、それぞれ「Chimera-α2(+P)」、「Chimera-α3(+P)」、「Chimera-α4(+P)」と記す)の発現ベクターを、ヒトパールカンのドメイン1をC末端に付加したラミニンα2E8フラグメント、ラミニンα3E8フラグメント、ラミニンα4E8フラグメントの発現ベクター(WO2018/088501A1)を鋳型として構築した。
【0122】
(2)パールカン付加型のChimera-111、Chimera-121、Chimera-211、Chimera-221、Chimera-311、Chimera-321、Chimera-332、Chimera-411、Chimera-421、Chimera-521の発現および精製
パールカン付加型Chimera-111(以下、「Chimera-111P」と記す)は、実施例7(2)に記載の方法に従い、Chimera-α1(+P)、Chimera-β1、Chimera-γ1の発現ベクターを293-F細胞に導入して発現させた。同様にして、パールカン付加型のChimera-121、Chimera-211、Chimera-221、Chimera-311、Chimera-321、Chimera-332、Chimera-411、Chimera-421、Chimera-521(以下、それぞれ「Chimera-121P」、「Chimera-211P」、「Chimera-221P」、「Chimera-311P」、「Chimera-321P」、「Chimera-332P」、「Chimera-411P」、「Chimera-421P」、「Chimera-521P」と記す)は、Chimera-α1(+P)、Chimera-α2(+P)、Chimera-α3(+P)、Chimera-α4(+P)、Chimera-α5(+P)、Chimera-β1、Chimera-β2、Chimera-β3、Chimera-γ1、Chimera-γ2の各発現ベクターをそれぞれのラミニンサブユニット鎖の組成に従って組み合わせ、実施例7(2)に記載の方法を用いて293-F細胞に導入し、各キメラタンパク質を発現させた。培養開始から72時間後、培養液を回収し、遠心操作により培養上清を回収した。
【0123】
パールカンD1ドメインに結合しているヘパラン硫酸鎖は第4級アンモニウム基を持つ陰イオン交換体に強く結合する。この性質を利用して、10×Hisタグを利用したアフィニティークロマトグラフィーとゲル濾過クロマトグラフィーを使用することなく、陰イオン交換クロマトグラフィーだけで精製することが可能である。具体的には、回収した培養液300 mLを500×gで10分間遠心分離し、その上清をさらに10,000×gで30分間遠心分離し、細胞および不溶物を除去した。HiTrap Q Fast Flow (5 mL)(Cytiva、17515601)2本をAKTA avant 25に接続し、上清を2.5 mL/minでカラムに流した。2 mM NaCl含有20 mM Tris-HCl(pH 8.0)100 mLを5 mL/minで流してカラムを洗浄した後に、20 mM Tris-HCl(pH 8.0)と1M NaCl含有20 mM Tris-HCl(pH 8.0)により吸着された蛋白質を溶出した。目的蛋白質を含む溶出フラクションをSDS-PAGE分析で決定した後に、該当フラクションを1つにまとめ、20 mM Tris-HCl(pH 8.0)でNaCl濃度をおおよそ500 mMに調整した。次に、HiTrapR Q HP (5 mL)(Cytiva、17115401)1本をAKTA avant 25に接続し、上述のフラクションプールを2.5 mL/minでカラムに流した。450-500 mM NaCl含有20 mM Tris-HCl(pH 8.0)50 mLを2.5 mL/minで流してカラムを洗浄した後に,2M NaCl含有20 mM Tris-HCl(pH 8.0)により吸着された蛋白質を溶出した。目的蛋白質を含む溶出フラクションをSDS-PAGE分析で決定した後に、該当フラクションを1つにまとめ、HBS(-)(pH 7.4)で透析した。透析後の精製物を0.22μmのディスクシリンジフィルター(Merck Millipore、SLGVJ13SL)で滅菌した後、Pierce BCA Protein Assay Kit(ThermoFisher Scientific、23227)で蛋白質濃度を決定して-80℃で保存した。
【0124】
(3)Chimera-111P、Chimera-121P、Chimera-211P、Chimera-221P、Chimera-311P、Chimera-321P、Chimera-332P、Chimera-411P、Chimera-421P、Chimera-521PのSDS-PAGE解析
(3-1)パールカン付加型キメラタンパク質の発現確認
各キメラタンパク質の発現ベクターを導入した293-F細胞の培養液を培養開始から72時間後に回収し、培養上清中に目的のキメラタンパク質が発現していることを、非還元条件下でのSDS-PAGEにより確認した。培養上清16 μLに5×SDS sample treatment buffer 4 μLを加えて、95℃で5 min処理した後、5%-20%の濃度勾配をもつポリアクリルアミドゲル(ATTO、#2331830)にアプライし、20 mAで75分間電気泳動した。電気泳動後、分離したタンパク質をpolyvinylidene difluoride膜に転写した。膜上に転写されたキメラタンパク質は、Chimera-α1P、Chimera-α2P、Chimera-α3P、Chimera-α4P、Chimera-α5PのC末端に付加した10×Hisタグに対する抗体(Penta-His HRP conjugate; QIAGEN #34460)を用いて検出した。
【0125】
結果を
図18に示した。どのパールカン付加型キメラタンパク質の培養上清からも、非還元条件下に置いて、250 kDaの分子量マーカーよりも高分子量側に少しブロードなバンド1本が検出され、各キメラタンパク質が設計通りの6量体として発現していることが確認された。パールカン付加型キメラタンパク質の発現量は、ラミニンアイソフォームのタイプによって異なり、ラミニンα1鎖、ラミニンα2鎖、ラミニンα4鎖を含むキメラタンパク質(Chimera-111P、Chimera-121P、Chimera-211P、Chimera-221P、Chimera-411P、Chimera-421P)は、ラミニンα3鎖とラミニンα5鎖を含むキメラタンパク質(Chimera-311P、Chimera-321P、Chimera-332P、Chimera-511P、Chimera-521P)に比べて、発現量が多い傾向が認められた。
【0126】
(3-2)精製したキメラタンパク質の純度検定
精製したChimera-111P、Chimera-221P、Chimera-332P、Chimera-421P、Chimera-511Pをそれぞれ1.2μg/wellで5%-20%の濃度勾配をもつポリアクリルアミドゲル(ATTO、#2331830)にアプライし、20 mAで75分間電気泳動した。泳動後、Quick-CBB(富士フィルム和光純薬、#299-50101)を用いてゲルを染色し、分離したタンパク質を可視化した。
【0127】
結果を
図19に示した。非還元条件下では、どのキメラタンパク質においても250 kDaの分子量マーカーよりも高分子量側に六量体のバンドが検出され、還元条件下では、分子量150 kDaから250 kDaより高分子量側の領域にかけて拡散性のChimera-α1(+P)/Chimera-α2(+P)/Chimera-α3(+P)/Chimera-α4(+P)/Chimera-α5(+P)のバンドが検出された。ヘパラン硫酸鎖を含むタンパク質(ヘパラン硫酸鎖プロテオグリカン)は、ヘパラン硫酸鎖の鎖長、および硫酸化度の不均一性により、SDS-PAGE解析では拡散した幅広いバンドを与えることが知られている(Shaoliang Li et al. J Biol Chem 285:36645-36655, 2010)。還元条件下のSDS-PAGEにおいて、分子量150 kDaから250 kDa超の領域に拡散性のバンドが出現することは、Chimera-α1(+P)/Chimera-α2(+P)/Chimera-α3(+P)/Chimera-α4(+P)/Chimera-α5(+P)のパールカンD1ドメインに十分量のヘパラン硫酸鎖が付加されていることを示している。還元条件下では、分子量15 kDaから少し高分子量側の位置にChimera-β1/Chimera-β2/Chimera-β3/Chimera-γ1/Chimera-γ2も検出された。なお、還元条件下で分子量100 kDaの領域に検出されたシャープなバンドは、パールカンD1ドメインが切断されたChimera-α(+P)鎖のバンドであることが、パールカンD1ドメインを特異的に認識する抗体を用いたウェスタンブロットにより確認されている。
【0128】
(4)Chimera-111P、Chimera-221P、Chimera-332P、Chimera-421のフィブリノゲン結合活性およびインテグリン結合活性の測定
精製したChimera-111P、Chimera-221P、Chimera-332P、Chimera-421Pのフィブリノゲン結合活性およびインテグリン結合活性を、実施例1(6)に記載の方法に準じて測定した。96-wellプレートにHBS(pH 7.4)で終濃度が100 nMになるように希釈したヒトフィブリノゲンを50μL/wellずつ加え、室温で一晩緩やかに振盪しながらコーティングを行った。コーティング後、1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加えて、プレートを洗浄した。次に1% Skim/TBSTを200μL/wellずつ加え、シェーカー上で振盪しながら室温で1時間ブロッキングを行った。TBSTで1回洗浄したプレートに0.5 NIH units/mL トロンビン溶液を25μL/wellずつ加えた後、HBS(7.4)で終濃度が0.3125 nM、0.625 nM、1.25 nM、2.5 nM、5 nM、10 nMになるように各キメラタンパク質を希釈した溶液を25μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で振盪しながら1時間反応させた。対照群には、トロンビン溶液の代わりにHBSを25μL/wellずつ加えた。
【0129】
パールカン付加型キメラタンパク質はラミニンのインテグリン結合領域を含むため、結合したキメラタンパク質はそのインテグリン結合活性を指標として測定した。具体的には、実施例9(4-2)に記載した方法により、フィブリノゲンに結合したChimera-111PおよびChimera-221Pはα7X2β1インテグリンを用いて定量し、フィブリノゲンに結合したChimera-332PおよびChimera-421Pはα6β1インテグリンを用いて定量した。
【0130】
結果を
図20に示した。いずれのパールカン付加型キメラタンパク質も1 mM MnCl
2存在下で インテグリンと強く結合し、10 mM EDTA存在下では結合しなかった。一方、トロンビン非共存下でパールカン付加型キメラタンパク質を結合させた場合は、インテグリンの結合は検出されなかった。これらの結果は、パールカン付加型キメラタンパク質が、フィブリノゲンとキメラ化するラミニンアイソフォームのタイプの違いにかかわらず、トロンビン依存的にフィブリノゲンに結合する活性を保持していることを示すとともに、フィブリノゲンに結合した状況下でもインテグリン結合活性を保持していることを示している。
【0131】
(5)Chimera-111P、Chimera-221P、Chimera-332P、Chimera-421の増殖因子結合活性の測定
パールカンはそのヘパラン硫酸鎖を介して様々な増殖因子を捕捉することが知られている(Shaoliang Li et al. J Biol Chem 285:36645-36655, 2010)。パールカン付加型のキメラタンパク質が増殖因子結合活性を保持していることを確認するため、ヘパラン硫酸鎖に結合することが報告されているプロアクチビンAと精製したパールカン付加型キメラタンパク質の結合活性を測定した。
【0132】
(5-1)プロアクチビンAの発現および精製
プロアクチビンAは、N末端側に6×Hisタグを付加した全長ヒトプロアクチビン発現ベクターを293-F細胞に導入して発現させた。3×108個の293-F細胞(1.0×106 cells/mL)にトランスフェクション試薬293 fectinおよびOpti-MEMを用いて発現ベクター360 μgをトランスフェクトし、72時間培養を行った後、培養液を回収した。
【0133】
回収した培養液を500×gで10分間遠心分離し、その上清をさらに12,000×gで30分間遠心分離し、細胞および不溶物を除去した。培養上清に終濃度 5 mM イミダゾール、1 mM Pefabloc SC PLUS(Roche、#11873628001)、0.02%(重量/体積)アジ化ナトリウムを添加して撹拌により混合した。cOmplete His-Tag Purification Column Prepacked (1 mL)(Roche、#6781535001)1本をAKTA avant 25に接続し、上清を流速1 mL/minでカラムに流した。200 mM NaCl含有50 mM Tris-HCl(pH 8.0)10 mLを流速1 mL/minで流してカラムを洗浄した後に、250 mM イミダゾールと200 mM NaClを含む50 mM Tris-HCl(pH 8.0)により吸着されたタンパク質を溶出した。目的タンパク質を含む溶出フラクションをSDS-PAGE分析で決定した後に、該当フラクションを1つにまとめ、25 mM Tris-HCl(pH 8.0)で10倍に希釈した。次に、RESOURCE Q (1 mL)(Cytiva、17117701)1本をAKTA avant 25に接続し、上述のフラクションプールを流速2 mL/minでカラムに流した。25 mM Tris-HCl(pH 8.0)10 mLを流速4 mL/minで流してカラムを洗浄した後に,1M NaCl含有25 mM Tris-HCl(pH 8.0)により吸着されたタンパク質を溶出した後に、目的タンパク質を含む溶出フラクションをSDS-PAGE分析で決定した。
【0134】
該当フラクションをAmicon Ultra-4 Centrifugal Filter Units - 10,000 NMWL(Millipore社、UFC801008)で濃縮した。次に、濃縮液をSuperose 6 Increase 10/300GL(GE Healthcare)によるゲル濾過クロマトグラフィーに供し、D-PBS(-)(Nacalai Tesque、14249-95)を用いて流速0.5 mL/minで溶出した後に、目的タンパク質を含む溶出フラクションをSDS-PAGE分析で決定した。精製物を0.22μmのディスクシリンジフィルター(Merck Millipore、SLGVJ13SL)で滅菌した後、Pierce BCA Protein Assay Kit(ThermoFisher Scientific、23227)でタンパク質濃度を決定して-80℃で保存した。
【0135】
(5-2)プロアクチビンAの結合アッセイ
HBS(pH 7.4)でChimera-111P、Chimera-221P、Chimera-332P、Chimera-421P、Chimera-511Pを希釈し、終濃度が0.31 nM、0.63 nM、1.25 nM、2.5 nM、5 nM、10 nM、20 nMになるように調製した。各希釈液を96-wellプレート(Thermo Fisher Scientific、#442404)に50μL/wellずつ加え、4℃で一晩緩やかに振盪しながらコーティングを行った。
【0136】
パールカン付加型キメラタンパク質をコーティングした96-wellプレートに1% BSA/TBSTを200μL/wellずつ加えて、プレートを洗浄した。次に1% BSA /TBSTを200μL/wellずつ加え、シェーカー上で振盪しながら室温で1時間ブロッキングを行った。1% BSA /TBSTで1回洗浄したプレートに,30 nM プロアクチビンAを含む1% BSA /TBSTを50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、1% BSA /TBSTで希釈した0.5μg/mL mouse anti-Activin A βA Subunit (R&D SYSTEMS、MAB3381)50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、1% BSA /TBSTで希釈した0.4μg/mL donkey anti-mouse IgG pAb/HRP (Jackson ImmunoResearch Laboratories、715-035-150) 50μL/wellずつ加え、室温にてシェーカー上で1時間反応させた。200μL/wellのTBSTで3回洗浄後、0.04% H2O2を含む25 mM クエン酸/50 mM Na2HPO4緩衝液で終濃度0.4 mg/mLになるように溶解させたο-phenylenediamineを50μL/wellずつ加えて10分反応させた。2.5 M H2SO4で反応停止後、マイクロプレートリーダーを用いて490 nm での発色基質の吸光度を測定した。
【0137】
結果を
図21に示した。パールカン付加型キメラタンパク質はコーティング濃度依存的にプロアクチビンAに結合しているのに対し、従来型のキメラタンパク質では有意なプロアクチビンAの結合が観察されなかった。これらの結果は、プロアクチビンAがパールカンドメインに担持されたヘパラン硫酸鎖を介してパールカン付加型キメラタンパク質に結合していることを示している。
【0138】
〔実施例11:ヒトフィブリノゲンAα鎖、Bβ鎖、γ鎖とヒトラミニンα5鎖、β1鎖、γ1鎖の組み合わせが異なるキメラ分子の作製〕
(1)ヒトフィブリノゲンAα鎖、Bβ鎖、γ鎖とヒトラミニンα5鎖、β1鎖、γ1鎖の組み合わせが異なるキメラタンパク質の発現ベクターの構築
ラミニン(α鎖、β鎖、γ鎖のヘテロ三量体)とフィブリノゲン(Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖のヘテロ三量体)のキメラタンパク質を作製する場合、両者のサブユニット鎖の組み合わせが異なる以下の3通りのキメラタンパク質を作製することが可能である。
Combination-1(FBGα-LMα/FBGγ-LMβ/FBGβ-LMγ)
Combination-2(FBGγ-LMα/FBGβ-LMβ/FBGα-LMγ)
Combination-3(FBGβ-LMα/FBGα-LMβ/FBGγ-LMγ)
これら3通りのキメラタンパク質の発現を確認するため、各キメラタンパク質の発現ベクターを構築した。なお、Combination-3の発現ベクターは実施例9に記載の通りである。
【0139】
<Combination-1の発現ベクターの構築>
マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×Hisで構成されるchimera-α5、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)で構成されるchimera-β1、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/ LMγ1(Ile1579-Pro1609)で構成されるchimera-γ1の発現ベクターは以下の通り構築した。すなわち、実施例1で記載のマウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/LMβ1(Leu1761-Leu1786)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/LMγ1(Ile1579-Pro1609)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)の発現ベクターを鋳型とし、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)、LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/ FBGγ(Tyr27-Ser132)、LMβ1(Leu1761-Leu1786)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)、LMγ1(Ile1579-Pro1609)のDNA断片を増幅した。なお、各プライマーセットのリバースプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(xxi) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-CAATGAGCTCTCGCACGCGGCCAATATGCTGTACTTTTTCTATGACTTTG-3’(reverse、配列番号28)
(xxii) LMα5(Ile2716-Ala3310)増幅用プライマーセット
5’-CAAAGTCATAGAAAAAGTACAGCATATTGGCCGCGTGCGAGAGCTCATTG-3’(forward、配列番号29)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
(xxiii) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-GAGTGAACGGACTTCTCCTTCCAGTCTTGCTAAACTTGAGTCATGTGTTAAAATCGATGC-3’(reverse、配列番号31)
(xxiv) LMβ1(Leu1761-Leu1786)増幅用プライマーセット
5’-GCATCGATTTTAACACATGACTCAAGTTTAGCAAGACTGGAAGGAGAAGTCCGTTCACTC-3’(forward、配列番号32)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
(xxv) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-GCGAATGTCCTTCATGATCTCCTCGATGTTAGTTGGGATATTGCTATTCACAGTCTCATC-3’(reverse、配列番号33)
(xxvi) LMγ1(Ile1579-Pro1609)増幅用プライマーセット
5’-GATGAGACTGTGAATAGCAATATCCCAACTAACATCGAGGAGATCATGAAGGACATTCGC-3’(forward、配列番号34)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
【0140】
得られた6種類の断片を、以下のプライマーセットを用いたエクステンションPCRを行い、それぞれ連結して増幅させた。増幅したDNA断片を制限酵素NheIとNotIで消化し、pcDNA3.4+MCSの当該制限酵素部位に挿入し、combination1に該当するChimera-α5、Chimera-β1およびChimera-γ1の各発現ベクターを構築した。
(xxvii) 各鎖連結・増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
【0141】
<Combination-2の発現ベクターの構築>
マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×Hisで構成されるchimera-α5、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)で構成されるchimera-β1、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/ LMγ1(Ile1579-Pro1609)で構成されるchimera-γ1の発現ベクターは以下の通り構築した。すなわち、〔実施例1〕で記載のマウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/LMβ1(Leu1761-Leu1786)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/LMγ1(Ile1579-Pro1609)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)/LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)/LMβ1(Leu1761-Leu1786)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)/LMγ1(Ile1579-Pro1609)の発現ベクターを鋳型とし、以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)、LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)、LMβ1(Leu1761-Leu1786)、マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)、LMγ1(Ile1579-Pro1609)のDNA断片を増幅した。なお、各プライマーセットのリバースプライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用するための配列が付加されている。
(xxviii) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGγ(Tyr27-Ser132)増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-GAGCTCTCGCACGCGGCCAATACTTGAGTCATGTGTTAAAATCG-3’(reverse、配列番号35)
(xxix) LMα5(Ile2716-Ala3310)/10×His増幅用プライマーセット
5’-CGATTTTAACACATGACTCAAGTATTGGCCGCGTGCGAGAGCTC-3’(forward、配列番号36)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
(xxx) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGβ(Gln31-Asn194)増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-GGAGTGAACGGACTTCTCCTTCCAGTCTTGCTAAGTTAGTTGGGATATTGCTATTCACAGTCTCATC-3’(reverse、配列番号37)
(xxxi) LMβ1(Leu1761-Leu1786)増幅用プライマーセット
5’-GATGAGACTGTGAATAGCAATATCCCAACTAACTTAGCAAGACTGGAAGGAGAAGTCCGTTCACTCC-3’(forward、配列番号38)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
(xxxii) マウスIg-κ鎖V-J2-Cシグナルペプチド/FBGα(Ala20-His151)増幅用プライマーセット
5’-CGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGAC-3’(forward、配列番号27)
5’-GCGAATGTCCTTCATGATCTCCTCGATATGCTGTACTTTTTCTATGACTTTGCGCTTC-3’(reverse、配列番号39)
(xxxiii) LMγ1(Ile1579-Pro1609)増幅用プライマーセット
5’-GAAGCGCAAAGTCATAGAAAAAGTACAGCATATCGAGGAGATCATGAAGGACATTCGC-3’(forward、配列番号40)
5’-CCCTTGATGGCTGGCAACTAGAAGGCACAGTCGAGGC-3’(reverse、配列番号30)
【0142】
(2)ヒトフィブリノゲンAα鎖、Bβ鎖、γ鎖とヒトラミニンα5鎖、β1鎖、γ1鎖の組み合わせが異なるキメラタンパク質の発現の確認
Combination-1、Combination-2、およびCombination-3の組み合わせに従って発現ベクターを293-F細胞に導入した。培養開始から72時間後に培養液を回収し、培養上清中に各キメラタンパク質が発現していることを、非還元条件下でのSDS-PAGEにより確認した。培養上清5 μLに5×SDS sample treatment buffer 1.3 μLを加えて、95℃で5 min処理した後、5%-20%の濃度勾配をもつポリアクリルアミドゲル(ATTO、#2331830)にアプライし、15 mAで115分間電気泳動した。電気泳動後、分離したタンパク質をpolyvinylidene difluoride膜に転写した。膜上に転写されたキメラタンパク質は、各combinationのChimera-α5のC末端に付加した10×Hisタグに対する抗体(Penta-His HRP conjugate; QIAGEN #34460)を用いて検出した。
【0143】
結果を
図22に示す。フィブリノゲンとラミニンの構成サブユニット鎖の組み合わせがCombination-3の場合がキメラタンパク質の発現量が最も多く、予想される六量体の分子量に位置に主たるバンドが検出された。Combination-1およびCombination-2の構成サブユニット鎖の組み合わせにおいても、発現量はCombination-3よりは低いものの、予想される六量体の分子量の位置に主たるバンドが検出された。これらの結果は、フィブリノゲンとラミニンのそれぞれの三量体構造が保持されている限り、キメラタンパク質の構成鎖の組み合わせ(フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖とラミニンのα鎖、β鎖、1鎖の組み合わせ)は特定の組み合わせに限定されないことを示している。
【0144】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【配列表】