(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】磁気素子、磁気装置および磁気素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 10/16 20060101AFI20220916BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20220916BHJP
G11B 5/65 20060101ALI20220916BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20220916BHJP
G11B 5/855 20060101ALI20220916BHJP
G11B 5/33 20060101ALI20220916BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
H01F10/16
H01L29/82 Z
G11B5/65
G11B5/84 Z
G11B5/855
G11B5/33
G11B5/02 R
(21)【出願番号】P 2019515737
(86)(22)【出願日】2018-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2018017423
(87)【国際公開番号】W WO2018203554
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-08
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「原子分解能磁場フリー電子顕微鏡の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】松元 隆夫
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021403(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0314827(US,A1)
【文献】Y.Tokunaga, X.Z.Yu, J.S.White, H.M.Ronnow, D.Morikawa, Y.Taguchi, Y.Tokura,A new class of chiral materials hosting magnetic skyrmions beyond room temperature,nature communications[online],米国,Nature Publishing Group,2015年07月02日,http://www.nature.com/articles/ncomms8638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/16
H01L 29/82
G11B 5/65
G11B 5/84
G11B 5/855
G11B 5/33
G11B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料により形成された磁気素子であって、
前記磁性材料は、スキルミオンを生成可能な材料であり、
平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥が導入されている、
磁気素子。
【請求項2】
請求項1記載の磁気素子であって、
前記略三角形の内部に相当する領域に少なくとも1つのスキルミオンが生成されている、
磁気素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の磁気素子であって、
平面視で複数の点状の欠陥が、生成されるスキルミオンの直径より短い間隔を持って前記各辺に相当する位置に並んで全体として三角形状に配置されている、
磁気素子。
【請求項4】
請求項1または2記載の磁気素子であって、
平面視で線状の欠陥が、前記各辺に相当する位置に三角形状に配置されている、
磁気素子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記欠陥は、一面に形成された凹部または凸部である、
磁気素子。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記欠陥は、貫通孔である、
磁気素子。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記欠陥は、前記磁性材料に添加され、前記磁性材料を構成する原子と異なる種類の原子である、
磁気素子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記各辺の長さは、生成されるスキルミオンの直径の√3倍以上5倍以下の範囲内である、
磁気素子。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記磁性材料は、強磁性金属である、
磁気素子。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記磁性材料は、らせん磁性を示す金属である、
磁気素子。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記磁性材料は、CoZnMnの合金である、
磁気素子。
【請求項12】
請求項1ないし8のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子であって、
前記磁性材料は、CoZnMnの合金であり、
前記各辺の長さは、一辺の長さが150nm以上800nm以下の範囲内である、
磁気素子。
【請求項13】
磁気装置であって、
請求項1ないし
12のいずれか1つの請求項に記載の磁気素子を複数備える、
磁気装置。
【請求項14】
スキルミオンを生成可能な磁性材料により形成された磁気素子の製造方法であって、
前記磁性材料に、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥を導入する欠陥導入工程、
を備える磁気素子の製造方法。
【請求項15】
請求項
14記載の磁気素子の製造方法であって、
前記欠陥導入工程は、電子線を用いて、前記磁性材料に平面視で点状の複数の前記欠陥を導入する工程である
磁気素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気素子、磁気装置および磁気素子の製造方法に関し、詳しくは、磁性材料により形成された磁気素子、こうした磁気素子を複数備える磁気装置、磁性材料により形成された磁気素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の磁気素子としては、らせん型の磁気構造を有する磁性材料により形成されるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この磁気素子では、磁性材料は、板状に形成されている。そして、磁性材料に一定の磁場を印加した状態で、磁性体を加熱して29Kより高温とし、その後、磁性体を急冷して27Kより低温とすることにより、スキルミオンを準安定的に生成し保持する。そして、磁性体を加熱して27Kより高温とすることで、スキルミオンを消去している。
【0003】
さらに、この種の磁気素子としては、スキルミオンを室温で生成可能な磁性材料あるいはスキルミオンを室温で生成可能な積層磁性薄膜により形成されるものが提案されている(例えば、非特許文献1,2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-41580号公報
【文献】Y. Tokunaga, X. Z. Yu, J. S. White, H. M. Ronnow, D. Morikawa, Y. Taguchi and Y. Tokura, A new class of chiral materials hosting magnetic skyrmions beyond room temperature, Nature Communications Vol. 6, 7638(2015).
【文献】W. Legrand, D. Maccariello, N. Reyren, K. Garcia, C. Moutafis, C. Moreau-Luchaire, S. Collin, K. Bouzehouane, V. Cros and A. Fert, Room-Temperature Current-Induced Generation and Motion of sub 100 nm Skyrmions, Nano letters Vol. 17, 2703-2712, 2017年3月30日.
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1の磁気素子では、生成したスキルミオンを27Kより高い温度で安定して保持することができない。また、上述の非特許文献1,2の磁気素子では、27Kより高い温度でスキルミオンを生成可能であるが、27Kより高い温度で熱揺らぎの影響に対抗して安定して保持することができない。磁気素子をディスクリートトラックメディアなど27Kより高い温度(例えば、JIS規格で定められる室温(293±15K)など)で使用される磁気装置へ搭載する場合、生成したスキルミオンを27Kより高い温度で安定して保持することが望まれている。
【0006】
本発明は、生成したスキルミオンをより高い温度で安定して保持することが可能な磁気素子、磁気装置を提供することを主目的とする。本発明の磁気素子の製造方法では、生成したスキルミオンをより高い温度で安定して保持することができる磁気素子を製造することを主目的とする。
【0007】
本発明の磁気素子、磁気装置、磁気素子の製造方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の磁気素子は、
磁性材料により形成された磁気素子であって、
前記磁性材料は、スキルミオンを生成可能な材料であり、
平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥が導入されている、
ことを要旨とする。
【0009】
この本発明の磁気素子では、磁性材料には、スキルミオンを生成可能な材料であり、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥が導入されている。この磁気素子では、略三角形の内部に相当する領域に少なくとも1つのスキルミオンが生成する方向および強さの磁場を印加することにより、略三角形の内部に相当する領域内にスキルミオンを生成することができる。こうして生成したスキルミオンはより高い温度安定して保持することができる。これにより、スキルミオンをより高い温度で安定して保持可能な磁気素子を提供することができる。
【0010】
こうした本発明の磁気素子において、前記略三角形の内部に相当する領域に少なくとも1つのスキルミオンが生成されていてもよい。
【0011】
また、本発明の磁気素子において、平面視で点状の複数の欠陥が、生成されるスキルミオンの直径より短い間隔を持って前記各辺に相当する位置に並んで全体として三角形状に配置されていてもよい。この場合において、前記を形成してもよい。こうすれば、線状の複数の欠陥を形成するものに比して、製造時間の短縮を図ることができる。これにより、製造時のスループットが向上された磁気素子を提供することができる。
【0012】
さらに、本発明の磁気素子において、平面視で線状の欠陥が、前記各辺に相当する位置に三角形状に配置されていてもよい。こうすれば、平面視で線状の欠陥を、各辺に相当する位置に三角形状に配置することにより、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥を配置することができる。
【0013】
そして、本発明の磁気素子において、前記欠陥は、一面に形成された凹部または凸部としてもよいし、前記欠陥は、貫通孔としてもよい。こうすれば、一面に形成された凹部または凸部や貫通孔により平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥を導入することができる。
【0014】
また、本発明の磁気素子において、前記欠陥は、前記磁性材料に添加され、前記磁性材料を構成する原子と異なる種類の原子としてもよい。
【0015】
さらに、本発明の磁気素子において、前記各辺の長さは、生成されるスキルミオンの直径の√3倍以上5倍以下の範囲内としてもよい。こうすれば、略三角形状の内部に1つまたは3つのスキルミオンを生成することができる。
【0016】
そして、本発明の磁気素子において、前記磁性材料は、強磁性金属としたり、前記磁性材料は、らせん磁性を示す金属としたり、前記磁性材料は、CoZnMnの合金としてもよい。この場合において、磁性材料は、結晶方位が前記一面と平行に(111)面となるように形成してもよい。こうすれば、スキルミオンをより高い温度でより安定して保持することができる。
【0017】
また、本発明の磁気素子において、前記磁性材料は、CoZnMnの合金であり、前記各辺の長さは、一辺の長さが150nm以上800nm以下の範囲内としてもよい。こうすれば、略三角形状の内部に1つまたは3つのスキルミオンを生成することができる。この場合において、前記磁性材料は、結晶方位が前記一面と平行に(111)面となるように形成してもよい。こうすれば、略三角形状の内部に1つまたは3つのスキルミオンをより高い温度でより安定して保持することができる。
【0018】
本発明の磁気装置は、
上述したいずれかの態様の本発明の磁気素子、例えば、磁性材料により形成された磁気素子であって、前記磁性材料は、スキルミオンを生成可能な材料であり、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥が導入されている、磁気素子を複数備えることを要旨とする。
【0019】
この本発明の磁気装置では、上述したいずれかの態様の本発明の磁気素子を備えているから、本発明の磁気素子が備える効果、例えば、スキルミオンをより高い温度で安定して保持可能な磁気素子を提供することができる効果などと同様の効果を奏する。
【0020】
こうした本発明の磁気装置において、前記複数の磁気素子は、隣の前記磁気素子の欠陥が導入された位置に相当する各辺を有する略三角形を180度回転させた略三角形の各辺に相当する位置に欠陥が導入されていてもよい。こうすれば、一定面積内により多くの磁気素子を配置することができる。
【0021】
また、本発明の磁気装置を、情報を記憶可能な磁気メモリまたは磁気を検出する磁気センサとしてもよいし、ディスクリートトラックメディアとしてもよい。
【0022】
本発明の磁気素子の製造方法は、
スキルミオンを生成可能な磁性材料により形成された磁気素子の製造方法であって、
前記磁性材料に、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥を導入するに欠陥を導入する欠陥導入工程、
を備えることを要旨とする。
【0023】
この本発明の磁気素子の製造方法では、欠陥導入工程では、磁性材料に、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥を導入する。これにより、磁性材料には、スキルミオンを生成可能な材料であり、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥が導入されている磁気素子を製造することができる。こうした磁気素子では、生成したスキルミオンをより高い温度で安定して保持することができる。よって、生成したスキルミオンをより高い温度で安定して保持することが可能な磁気素子を製造することができる。
【0024】
こうした本発明の磁気素子の製造方法において、前記欠陥導入工程は、電子線を用いて、前記磁性材料に平面視で点状の複数の前記欠陥を導入する工程としてもよい。こうすれば、磁性材料に平面視で線状の欠陥を形成するものに比して、スループットの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施例としての磁気装置10の構成の概略を示す構成図である。
【
図4】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの、磁気装置10の要部の微分位相コントラスト(DPC)法による走査型透過電子顕微鏡(STEM)像の一例を示す説明図である。
【
図5】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの磁気素子20のDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図6】
図5のSTEM像を模式的に表した模式図である。
【
図7】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの磁気素子20のDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図8】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20BのDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図9】
図8のSTEM像を模式的に表した模式図である。
【
図10】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20BのDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図12】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20CのDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図14】温度が300Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20CのDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図16】磁気装置10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図17】温度が295Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの変形例の磁気素子120のDPC法によるSTEM像の一例である。
【
図18】温度が295Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの変形例の磁気素子120のDPC法によるSTEM像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0027】
図1は、本発明の一実施例としての磁気装置10の構成の概略を示す構成図である。
図2は、
図1の部分Aを拡大した拡大図である。
図3は、
図2の部分Bを拡大した拡大図である。磁気装置10は、ディスクリートメディアとして構成されており、β-Mn型結晶構造を有するCo
8Zn
8Mn
4のバルク多結晶の基板上に、複数の磁気素子20が同心円上に配置されてトラックを形成している。
【0028】
複数の磁気素子20は、厚さが150nmで結晶方位が表面Sと平行に(111)面となるCo
8Zn
8Mn
4により形成されている。Co
8Zn
8Mn
4は、らせん磁性を示す磁性体の合金である。磁気素子20は、
図2,
図3に示すように、表面Sの平面視で1辺が440nmの略正三角形の各辺に相当する位置に、平面視で直径2nmで深さが数nm(例えば、1nm,2nm,3nmなど)の点状の凹部である複数の欠陥22が10nmの間隔を持って並んで形成されている。複数の磁気素子20は、隣の磁気素子20の欠陥22が導入された位置に相当する各辺を有する略正三角形が180度回転させた略正三角形の各辺に相当する位置に欠陥22が導入されている、すなわち、略正三角形と略逆正三角形とが交互に並ぶように欠陥22が導入されている。
【0029】
こうして構成された実施例の磁気素子20では、室温(例えば、300K)で表面Sと垂直な方向に(
図1~
図3において図面の裏から表へ向かう方向に)20mT~80mTの磁場を印加することで、欠陥22で形成された略正三角形の内部に相当する領域内にスキルミオン24が生成される。
図4は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの、磁気装置10の要部の微分位相コントラスト(DPC)法による走査型透過電子顕微鏡(STEM)像の一例を示す説明図である。スキルミオン24は、平面視で半径120nmの略円形状に生成される。このスキルミオン24は、80mTを超える磁場を印加することで消滅する。そして、スキルミオン24が生成されているときと消滅しているときとをそれぞれ1ビットの情報に対応させて、表面Sと垂直な方向の磁場をトンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magneto Resistance)素子などのセンサで検出することにより磁気装置10をメモリとして動作させることができる。なお、微分位相コントラスト(DPC)法による走査型透過電子顕微鏡(STEM)像とは、電子銃を用いて試料に電子線を入射させ、入射した電子線が試料内部の磁場で偏向されることによって、試料を挟んで電子銃と反対側の分割検出器の各位置で検出される電子線強度に差が生じることを利用して、試料上の各点での磁場を計測し、計測結果を可視化した像である。
【0030】
図5は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの磁気素子20のDPC法によるSTEM像の一例である。
図6は、
図5のSTEM像を模式的に表した模式図である。
図7は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの磁気素子20のDPC法によるSTEM像の一例である。なお、
図7のSTEM像を模式的に表した模式図は、
図7とほぼ同一の図面となるので記載を省略する。
図8は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20BのDPC法によるSTEM像の一例である。
図9は、
図8のSTEM像を模式的に表した模式図である。
図10は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20BのDPC法によるSTEM像の一例である。
図11は、
図10のSTEM像を模式的に表した模式図である。
図12は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20CのDPC法によるSTEM像の一例である。
図13は、
図12のSTEM像を模式的に表した模式図である。
図14は、温度が300Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの比較例の磁気素子20CのDPC法によるSTEM像の一例である。
図15は、
図14のSTEM像を模式的に表した模式図である。比較例の磁気素子20Bは、表面Sの平面視で略正方形の各辺に相当する位置に欠陥を導入した素子である。比較例の磁気素子20Cは、表面Sの平面視で略円形の円周に相当する位置に欠陥を導入したものである。
図5,
図6,
図8,
図10,
図12,
図14では、白丸で囲んだ部分にスキルミオンが生成されている。
【0031】
実施例の磁気素子20では、
図5,
図6に示すように、印加する磁場が変化しても安定した平面視で略円形状の1つのスキルミオンが平面視で略三角形の内部に相当する領域内に生成されている。比較例の磁気素子20Bでは、印加する磁場が変化すると、平面視で略正方形の内部に相当する領域内に生成されるスキルミオンの形状と個数とが変化している。比較例の磁気素子20Cでは、印加する磁場が変化すると、平面視で略円形の内部に相当する領域内に生成されるスキルミオンの数が変化している。このように、実施例の磁気素子20では、比較例の磁気素子20B,20Cに比して、スキルミオンをより高い温度、特に、室温(JIS規格で定められる室温である293±15Kなど)でより安定して保持することができる。
【0032】
次に、こうして構成された磁気装置10の製造方法について説明する。
図16は、磁気装置10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0033】
最初に、Co8Zn8Mn4の結晶成長に適した基板を準備する(工程P100)。基板として、シリコン(Si)などが使用できる。
【0034】
次に、基板上にCo8Zn8Mn4磁性体薄膜を形成する(工程P110)。工程P110では、表面と平行に(111)面となるようにMBE(モレキュラービームエピタキシー)法などの手法を用いて、基板上にCo8Zn8Mn4磁性体薄膜を形成する。
【0035】
そして、磁性体薄膜の表面に凹部を形成して、すなわち、欠陥22を導入して(工程P120)、磁気装置10を完成する。工程P120では、200kVで動作するショットキー電界放出電子銃からの電子線で、表面Sの平面視で1辺が440nmの略正三角形の各辺に相当する位置に、平面視で直径2nmの点状の凹部である複数の欠陥22を10nmの間隔を持って形成する。そして、隣の磁気素子20の欠陥22が導入された位置に相当する各辺を有する略正三角形が180度回転させた略正三角形の各辺に相当する位置に欠陥22が導入されるように複数の磁気素子20を順次製造する。ここでは、欠陥22として点状の凹部を形成するから、欠陥22として線状の凹部を形成するときに比して、欠陥22の形成時間を短縮することができる。これにより、磁気素子20を形成する際のスループットの向上を図ることができ、磁気装置10を製造する際のスループットの向上を図ることができる。
【0036】
以上説明した実施例の磁気装置10によれば、スキルミオン24を生成可能な磁性材料に、平面視で略三角形の各辺に相当する位置に欠陥22を導入することにより、生成したスキルミオン24をより高い温度で安定して保持することができる。
【0037】
実施例の磁気装置10では、磁気素子20の平面視で略三角形の内部に相当する領域に1つのスキルミオン24が生成されている。しかしながら、略三角形の各辺の長さを変更することにより2つ以上のスキルミオン24を生成することができる。
図17,
図18は、変形例の磁気素子120のDPC法によるSTEM象の一例を示す説明図である。変形例の磁気素子120は、表面Sの平面視で1辺が800nmの略正三角形の各辺に相当する位置に、平面視で直径5nmの点状の凹部である複数の欠陥22を10nmの間隔を持って形成されている。
【0038】
図17は、温度が295Kで表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加したときの変形例の磁気素子120のDPC法によるSTEM像の一例である。
図18は、温度が295Kで表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加したときの変形例の磁気素子120のDPC法によるSTEM像の一例である。磁気素子120では、
図17に示すように、表面Sと垂直な方向に60mTの磁場を印加すると、略正三角形の内部に相当する領域内に1つのスキルミオン24が生成される。磁気素子120では、
図18に示すように、表面Sと垂直な方向に20mTの磁場を印加すると、略正三角形の内部に相当する領域内に3つのスキルミオンが生成される。磁気素子120では、印加する磁場を20mTから増加させると40mT程度(40mT±1.0mT)で、生成されるスキルミオンの個数が3つから1つへと切り換わる。磁気素子120では、印加する磁場が77mTを超えると、スキルミオンが不安定になったり、消滅したりする。したがって、磁気素子120では、スキルミオン24が1つ生成されている状態と3つ生成されている状態と消滅している状態とをそれぞれ1ビットに対応させて、表面Sと垂直な方向の磁場をトンネルTMR素子などのセンサで検出することにより磁気素子120を複数備える変形例の磁気装置110をメモリとして動作させることができる。
【0039】
実施例の磁気装置10では、平面視で点状の複数の凹部である欠陥22を磁性材料へ導入している。しかしながら、磁性材料の平面視で略正三角形の各辺に相当する位置に何らかの欠陥を導入すればよいから、点状の複数の凹部に代えて凸部である欠陥を磁性材料へ導入してもよいし、磁性材料の平面視で略正三角形の各辺に相当する位置に線状の欠陥を導入してもよいし、磁性材料の平面視で略正三角形の各辺に相当する位置に貫通孔を形成してもよいし、磁性材料の平面視で略正三角形の各辺に相当する位置に磁性材料を構成する原子と異なる種類の原子を導入してもよい。
【0040】
実施例の磁気装置10では、磁気素子20の表面Sの平面視で1辺が440nmの略正三角形の各辺に相当する位置に欠陥22が導入されている。しかしながら、略正三角形の各辺の長さは、略正三角形の内部に相当する領域内に生成されるスキルミオンの直径の√3倍以上5倍以下の範囲内であれば如何なる長さとしてもよい。
【0041】
実施例の磁気装置10では、磁気素子20の表面Sの平面視で略正三角形の各辺に相当する位置に欠陥22が導入されているが、略正三角形に変えて、二辺の長さがほぼ等しい略二等辺三角形や、各辺の長さが異なる略三角形などとしてもよい。
【0042】
実施例の磁気装置10では、磁気素子20をCo8Zn8Mn4により形成しているが、スキルミオンを生成可能な材料であれば、如何なるものを用いても構わない。また、磁気素子20をB20型結晶構造を有するらせん磁性材料により形成してもよい。「B20型結晶構造を有するらせん磁性材料」としては、MnSi,MnGe,MnGeFe,FeGe,FeGeSi,FeCoSi,Cu2OSeO3などを挙げることができる。さらに、磁気素子20をスキルミオンを生成可能な磁性薄膜と金属との積層構造としてもよい。「磁性薄膜」としては、Fe,Co,Niなどを挙げることができる。「金属」としては、Pt,Ir,Wなどを挙げることができる。そして、磁気素子20を極性磁性半導体により形成してもよい。「極性磁性半導体」としては、GaV4S8,GaV4Se8などを挙げることができる。
【0043】
実施例の磁気装置10では、磁気素子20をCo8Zn8Mn4により形成しているが、強磁性金属であれば如何なるものを用いても構わない。
【0044】
実施例の磁気装置10では、磁性材料をらせん磁性を示すCo8Zn8Mn4により形成しているが、スキルミオンを生成可能な磁性材料であれば如何なるものとしてもよいから、らせん磁性とは異なる磁性材料としてもよい。
【0045】
実施例の磁気装置10では、磁性材料の結晶方位が表面Sと並行に(111)面となるように形成されているが、スキルミオンを生成可能なものであればよく、磁性材料の結晶方位が表面Sと並行に(111)面とな異なる面となるように形成してもよい。
【0046】
実施例の磁気装置10では、磁気素子20を、隣の磁気素子の欠陥が導入された位置に相当する各辺を有する略三角形を180度回転させた略三角形の各辺に相当する位置に欠陥22を導入しているが、隣の磁気素子の欠陥22が導入された位置に相当する各辺を有する略三角形を180度回転させずにこの略三角形の各辺に相当する位置に欠陥22を導入してもよい。
【0047】
実施例では、本発明をディスクリートトラックメディアに適用する場合について例示しているが、情報を記憶可能な磁気メモリであれば如何なるものに適用しても構わない。また、本発明を磁気を検出する磁気センサに適用しても構わない。
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、磁気素子や磁気装置の製造産業などに利用可能である。