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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】潤滑油組成物及び冷凍機用組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/12 20060101AFI20220916BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20220916BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20220916BHJP
   C10M 107/24 20060101ALN20220916BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20220916BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20220916BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20220916BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20220916BHJP
   C09K 5/04 20060101ALN20220916BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220916BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20220916BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20220916BHJP
【FI】
C10M137/12
C10M169/04
C10M107/34
C10M107/24
C10M105/38
C10M101/02
C10M137/02
C10M137/04
C09K5/04 F
C09K5/04 E
C09K5/04 A
C10N30:06
C10N30:10
C10N40:30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018009708
(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2019127529
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-157856(JP,A)
【文献】特開平05-009490(JP,A)
【文献】特開昭52-078854(JP,A)
【文献】特開平02-298589(JP,A)
【文献】特開昭56-150076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、分子内に酸素原子を1つ以上含み、下記一般式(B-1)又は(B-3)で表されるホスフィン誘導体(B)と、を含む潤滑油組成物。
【化1】

(式中、R1b~R3bは、各々独立に、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基を示し、R1b~R3bのうち、少なくとも1つは置換基として炭素数1~5のアルコキシ基を有する。)
【化2】

(式中、R9b~R11bは、炭素数1~20の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記成分(B)の含有量が、前記成分(B)に由来するリン原子換算で、前記潤滑油組成物の全量を基準として、200~2,000質量ppmである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記一般式(B-1)中のR1b~R3bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基、及び前記一般式(B-3)中のR9b~R11bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基が、置換又は無置換のフェニル基である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、トリス-(p-メトキシフェニル)ホスフィン及びトリフェニルホスフィンオキサイドからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
基油(A)が、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリビニルエーテル(PVE)、ポリオールエステル(POE)及び鉱油からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
更に、亜リン酸エステル系化合物及び多リン酸エステル系化合物からなる群から選択される1種以上のリン系化合物(C)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記亜リン酸エステル系化合物が、トリスノニルフェニルホスファイト及びジオレイルハイドロゲンホスファイトからなる群から選択される1種以上であり、
前記多リン酸エステル系化合物が、テトラフェニル-m-フェニレンビスホスフェート及びビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)からなる群から選択される1種以上である、請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
更に、酸化防止剤、油性向上剤、酸素捕捉剤、銅不活性化剤、防錆剤、消泡剤及び粘度指数向上剤からなる群から選択される添加剤を1種以上含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
水分含有量が800質量ppm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の潤滑油組成物と、冷媒と、を含む冷凍機用組成物。
【請求項11】
前記冷媒が、不飽和フッ化炭化水素化合物、飽和フッ化炭化水素化合物、ハイドロカーボン、二酸化炭素及びアンモニアからなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項10に記載の冷凍機用組成物。
【請求項12】
前記冷媒が、不飽和フッ化炭化水素化合物を含むものである、請求項11に記載の冷凍機用組成物。
【請求項13】
空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム又は暖房システムに用いられる、請求項10~12のいずれか1項に記載の冷凍機用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及び冷凍機用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の産業機械の高速化、高圧化及び小型化に伴い、油圧機械、圧縮機械、タービン、歯車要素、軸受等の機械要素がより過酷な条件下で運転されるようになっており、これらの機械に使用する潤滑油には、過酷な条件下であっても長期間にわたって機械寿命を充分に保証できる潤滑性能が求められている。
【0003】
潤滑油の潤滑性能の向上を目的として、潤滑油には種々の添加剤が配合されている。その中でも、トリクレジルホスフェート(以下、「TCP」ともいう)は、耐摩耗性を向上させるための添加剤として、従来から使用されてきた。
例えば、特許文献1には、鉱油又は合成油若しくはこれらの混合油からなる基油に、リン系極圧剤としてトリクレジルホスフェートを所定量配合したことを特徴とする潤滑油の補強剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-100586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、潤滑油に対する耐摩耗性向上効果の要求は益々高まりつつあり、TCPよりも耐摩耗性を向上させることができる添加剤が求められている。
【0006】
また、本発明者等は、TCPを含む潤滑油組成物を冷凍機油として用いた場合、高温下において、潤滑油組成物の酸価が上昇する問題が生じることを見出した。この問題は、特に冷媒として地球温暖化係数が低い1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)等の不飽和フッ化炭化水素化合物(Hydro-Fluoro-Olefin;以下、「HFO」ともいう。)を用いる場合に顕著であり、改善が望まれている。
【0007】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物、及び該潤滑油組成物を用いた酸化安定性に優れる冷凍機用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基油と特定のホスフィン誘導体とを含む潤滑油組成物が、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]及び[2]に関する。
[1]基油(A)と、分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン誘導体(B)と、を含む潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物と、冷媒と、を含む冷凍機用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物、及び該潤滑油組成物を用いた酸化安定性に優れる冷凍機用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「炭化水素基」とは、特にことわりのない限り、炭素原子及び水素原子のみから構成されている基を意味する。「炭化水素基」には、直鎖又は分岐鎖から構成される「脂肪族基」、芳香性を有しない飽和又は不飽和の炭素環を1以上有する「脂環式基」、ベンゼン環等の芳香性を示す芳香環を1以上有する「芳香族基」も含まれる。
【0011】
本明細書において、「環形成炭素数」とは、原子が環状に結合した構造の化合物の該環自体を構成する原子のうちの炭素原子の数を表す。環が置換基によって置換される場合、置換基に含まれる炭素は環形成炭素数には含まない。
また、環形成原子数とは、原子が環状に結合した構造の化合物の、該環自体を構成する原子の数を表す。環を構成しない原子(例えば、環を構成する原子の結合手を終端する水素原子)、及び環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。
なお、本明細書において、「置換又は無置換の炭素数a~bのX基」という表現における「炭素数a~b」は、X基が無置換である場合の炭素数を表すものであり、X基が置換されている場合の置換基の炭素数は含めない。
【0012】
[潤滑油組成物]
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)と、分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン誘導体(B)と、を含むものである。
【0013】
本発明者らは、潤滑油の耐摩耗性を向上し得る添加剤について検討を行った結果、分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン誘導体(B)が、顕著な耐摩耗性向上効果を発揮すると共に、該潤滑油組成物を冷媒と共に冷凍機用組成物とした場合に、優れた酸化安定性が得られることを見出した。
一方で、酸素原子を有しないホスフィン化合物は、十分な耐摩耗性向上効果が得られず、ホスフィン誘導体ではないトリクレジルホスフェート等のリン酸エステル化合物は、冷媒と混合して冷凍機用組成物とした場合に、十分な酸化安定性が得られなかった。
これらのことから、本発明者らは、分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン誘導体(B)が、潤滑油組成物の耐摩耗性、及び冷凍機用組成物の酸価上昇抑制に対して顕著な効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0015】
以下、本実施形態の潤滑油組成物に配合される各成分について説明する。
【0016】
<基油(A)>
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)を含有する。
本実施形態の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは99.3質量%以下、更に好ましくは99.0質量%以下である。
【0017】
基油(A)は、例えば、合成油及び鉱油からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
基油(A)としては、潤滑油組成物の熱安定性向上の観点から、ポリアルキレングリコール類(以下、「PAG」ともいう)、ポリビニルエーテル類(以下、「PVE」ともいう)、ポリオールエステル類(以下、「POE」ともいう)及び鉱油からなる群から選択される1種以上の基油(以下、「基油(A1)」ともいう)を含むことが好ましく、冷媒との相溶性向上の観点、耐加水分解性向上の観点、及び潤滑油組成物の熱安定性向上の観点から、PVE及びPAGからなる群から選択される1種以上の基油(以下、「基油(A2)」ともいう)を含むことがより好ましく、冷媒との相溶性向上の観点、耐加水分解性向上の観点、及び潤滑油組成物のさらなる熱安定性向上の観点から、PAG(以下、「基油(A3)」ともいう)を含むことが更に好ましい。
以下、PVE、PAG、POE及び鉱油について、詳細に説明する。
【0018】
(ポリビニルエーテル類(PVE))
PVEは、ビニルエーテル由来の構成単位を1種以上有する重合体であればよい。
なお、基油(A)中にPVEが含まれる場合、PVEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
PVEは、冷媒との相溶性の観点から、ビニルエーテル由来の構成単位を1種以上有し、側鎖に炭素数1~4のアルキル基を有する重合体が好ましい。該アルキル基としては、冷媒との相溶性をより向上させる観点から、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0019】
PVEは、下記一般式(A-1)で表される構成単位を1種以上有する重合体(A-1)であることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
式(A-1)中、R1a、R2a及びR3aは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を示す。R4aは、炭素数2~10の2価の炭化水素基を示す。R5aは、炭素数1~10の炭化水素基を示す。rは、OR4aの繰り返し単位の数であって、0~10の数を示すが、好ましくは0~5の数、より好ましくは0~3の数、更に好ましくは0である。なお、上記一般式(A-1)で表される構成単位中にOR4aが複数存在する場合、複数のOR4aは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
1a、R2a及びR3aで表される炭素数1~8の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基等のアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。
ここで、「各種」とは「直鎖状、分岐鎖状又は環状」の炭化水素基であることを表し、例えば、「各種ブチル基」とは、「n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基」等の各種ブチル基を表す。また、環状構造を有する基については、オルト体、メタ体、パラ体等の位置異性体を含むことを示し、以下、同様である。
【0023】
1a、R2a及びR3aで表される炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~3である。
1a、R2a及びR3aは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0024】
4aで表される炭素数2~10の2価の炭化水素基としては、エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基等の2価の脂肪族基;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン等の二価の脂環式基;各種フェニレン基、各種メチルフェニレン基、各種エチルフェニレン基、各種ジメチルフェニレン基、各種ナフチレン等の2価の芳香族基;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等のアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分と芳香族部分とにそれぞれ一価の結合部位を有する2価のアルキル芳香族基;キシレン、ジエチルベンゼン等のポリアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分に結合部位を有する2価のアルキル芳香族基;等が挙げられる。
4aで表される炭化水素基の炭素数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
4aは、炭素数2~10の2価の脂肪族基が好ましく、炭素数2~4の2価の脂肪族基がより好ましい。
【0025】
5aで表される炭素数1~10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。
5aで表される炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは1~6である。
5aは、冷媒との相溶性をより向上させる観点から、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基がより更に好ましい。
【0026】
上記一般式(A-1)で表される構成単位の単位数(重合度数)は、基油(A)に要求される動粘度に応じて適宜選択される。
また、上記一般式(A-1)で表される構成単位を有する重合体は、該構成単位を1種のみ有する単独重合体であってもよく、該構成単位を2種以上有する共重合体であってもよい。なお、重合体が共重合体である場合、共重合の形態としては、特に制限はなく、ブロック共重合体、ランダム共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
また、PVEは、その構造中にポリアルキレングリコール構造を含んでいてもよいが、ポリアルキレングリコール構造を含まないものであることが好ましい。
【0027】
重合体(A-1)の末端部分には、飽和の炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、アミド、ニトリル等に由来する一価の基を導入してもよい。これらの中でも、重合体(A-1)は、一方の末端部分が下記一般式(A-1-i)で表される基であることが好ましい。
【0028】
【化2】
【0029】
式(A-1-i)中、*は上記一般式(A-1)で表される構成単位中の炭素原子との結合位置を示す。
式(A-1-i)中、R6a、R7a及びR8aは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を示し、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
6a、R7a及びR8aで表される炭素数1~8の炭化水素基としては、上記一般式(A-1)中のR1a、R2a及びR3aで表される炭素数1~8の炭化水素基として列挙したものと同じものが挙げられる。
【0030】
上記式(A-1-i)中、R9aは、炭素数2~10の2価の炭化水素基を示し、炭素数2~6の2価の炭化水素基が好ましく、炭素数2~4の2価の脂肪族基がより好ましい。
上記式(A-1-i)中、r1は、OR9aの繰り返し単位の数であって、0~10の整数を示し、好ましくは0~5の整数、より好ましくは0~3の整数、更に好ましくは0である。なお、上記一般式(A-1-i)で表される構成単位中にOR9aが複数存在する場合、複数のOR9aは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
9aで表される炭素数2~10の2価の炭化水素基としては、上記一般式(A-1)中のR4aで表される炭素数2~10の2価の炭化水素基として列挙したものと同じものが挙げられる。
【0031】
式(A-1-i)中、R10aは、炭素数1~10の炭化水素基を示し、炭素数1~8の炭化水素基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
なお、R10aとしては、上記一般式(A-1-i)中のr1が0である場合には、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、r1が1以上である場合には、炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
10aで表される炭素数1~10の炭化水素基としては、上記一般式(A-1)中のR5aで表される炭素数1~10の炭化水素基として列挙したものと同じものが挙げられる。
【0032】
また、重合体(A-1)について、一方の末端部分が上記一般式(A-1-i)で表される基であるとき、他方の末端部分としては、上記一般式(A-1-i)で表される基、下記一般式(A-1-ii)で表される基、下記一般式(A-1-iii)で表される基、オレフィン性不飽和結合を有する基のいずれかであることが好ましい。
【0033】
【化3】
【0034】
式(A-1-ii)及び(A-1-iii)中、R6a、R7a、R8a、R9a、R10a及びr1は、上記一般式(A-1-i)中の規定と同じである。また、式(A-1-ii)中、R11a、R12a及びr2は、それぞれ上記一般式(A-1-i)中のR9a、R10a及びr1の規定と同じである。
【0035】
(ポリアルキレングリコール類(PAG))
PAGとしては、下記一般式(A-2)で表される重合体(A-2)であることが好ましい。
13a-[(OR14a-OR15a (A-2)
なお、基油(A)中にPAGが含まれる場合、PAGは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
上記一般式(A-2)中、R13aは、水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、炭素数1~10の2~6価の炭化水素基又は置換若しくは無置換の環形成原子数3~10の複素環基を示し、R14aは、炭素数2~4のアルキレン基を示し、R15aは、水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基又は置換若しくは無置換の環形成原子数3~10の複素環基を示す。
複素環基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~10(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)のアルキル基;環形成炭素数3~10(好ましくは3~8、より好ましくは5又は6)のシクロアルキル基;環形成炭素数6~18(好ましくは6~12)のアリール基;ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;アミノ基等が挙げられる。
これらの置換基は、更に上述の任意の置換基により置換されていてもよい。
【0037】
nは、1~6の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1である。
なお、nは、上記一般式(A-2)中のR13aの結合部位の数に応じて定められる。例えば、R13aがアルキル基又はアシル基の場合には、nは1となり、R13aが炭化水素基又は複素環基であり、該基の価数が2、3、4、5又は6価である場合、nはそれぞれ2、3、4、5又は6となる。
mは、OR14aの繰り返し単位の数であって、1以上の数を示し、好ましくはm×nが6~80となる数である。なお、mの値は、基油(A)の100℃における動粘度が2~50mm/sの範囲に属するように適宜設定される値であり、該動粘度が所定の範囲内に属するように調整されていれば、特に制限はない。
なお、複数のR14aは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、1分子中の複数のR15aは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
13a及びR15aで表される上記1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。なお、上記アルキル基は直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよい。
13a及びR15aで表される1価の炭化水素基の炭素数は、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~3である。
【0039】
13a及びR15aで表される上記炭素数2~10のアシル基が有する炭化水素基部分は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよい。該アルキル基部分としては、上述のR13a及びR15aで表される炭化水素基のうち炭素数1~9のものが挙げられる。
13a及びR15aで表されるアシル基の炭素数は、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは2~8、より好ましくは2~6である。
【0040】
13aで表される上記2~6価の炭化水素基としては、上述のR13aで表される1価の炭化水素基から更に水素原子を1~5個除いた残基、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,2,3-トリヒドロキシシクロヘキサン、1,3,5-トリヒドロキシシクロヘキサン等の多価アルコールから水酸基を除いた残基等が挙げられる。
13aで表される2~6価のアシル基の炭素数は、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは2~10、より好ましくは2~6である。
【0041】
13a及びR15aで表される上記複素環基としては、酸素原子含有複素環基又は硫黄原子含有複素環基が好ましい。なお、該複素環基は、飽和環であってもよく不飽和環であってもよい。
上記酸素原子含有複素環基としては、エチレンオキシド、1,3-プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ヘキサメチレンオキシド等の酸素原子含有飽和複素環;アセチレンオキシド、フラン、ピラン、オキシシクロヘプタトリエン、イソベンゾフラン、イソクロメン等の酸素原子含有不飽和複素環が有する水素原子を1~6個除いた残基等が挙げられる。
また、上記硫黄原子含有複素環基としては、エチレンスルフィド、トリメチレンスルフィド、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、ヘキサメチレンスルフィド等の硫黄原子含有飽和複素環、アセチレンスルフィド、チオフェン、チアピラン、チオトリピリデン等の硫黄原子含有不飽和複素環等が有する水素原子を1~6個除いた残基が挙げられる。
【0042】
13a及びR15aで表される上記複素環基は、置換基を有していてもよく、該置換基が上記一般式(A-2)中の酸素原子と結合してもよい。該置換基としては、上述のとおりであるが、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
上記複素環基の環形成原子数は、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは3~10、より好ましくは3~6である。
【0043】
14aで表される上記アルキレン基としては、ジメチレン基(-CHCH-)、エチレン基(-CH(CH)-)等の炭素数2のアルキレン基;トリメチレン基(-CHCHCH-)、プロピレン基(-CH(CH)CH-)、プロピリデン基(-CHCHCH-)、イソプロピリデン基(-C(CH-)等の炭素数3のアルキレン基;テトラメチレン基(-CHCHCHCH-)、1-メチルトリメチレン基(-CH(CH)CHCH-)、2-メチルトリメチレン基(-CHCH(CH)CH-)、ブチレン基(-C(CHCH-)等の炭素数4のアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、R14aとしては、プロピレン基(-CH(CH)CH-)が好ましい。
【0044】
なお、上記一般式(A-2)で表される重合体(A-2)において、オキシプロピレン単位(-OCH(CH)CH-)の含有量は、重合体(A-2)中のオキシアルキレン(OR14a)の全量(100モル%)基準で、好ましくは50モル%以上、より好ましくは65モル%以上、更に好ましくは80モル%以上である。
【0045】
上記一般式(A-2)で表される重合体(A-2)の中でも、下記一般式(A-2-i)で表されるポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、下記一般式(A-2-ii)で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、下記一般式(A-2-iii)で表されるポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル及びポリオキシプロピレングリコールジアセテートからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0046】
【化4】

(式(A-2-i)中、m1は、1以上の数を示し、好ましくは6~80の数である。)
【0047】
【化5】

(式(A-2-ii)中、m2及びm3は、各々独立に、1以上の数を示し、好ましくはm2+m3の値が6~80となる数である。)
【0048】
【化6】

(式(A-2-iii)中、m4は、1以上の数を示し、好ましくは6~80の数である。)
【0049】
なお、上記一般式(A-2-i)中のm1、上記一般式(A-2-ii)中のm2及びm3、並びに上記一般式(A-2-iii)中のm4は、基油(A)に要求される動粘度に応じて適宜選択すればよい。
【0050】
(ポリオールエステル類(POE))
POEとしては、例えば、ジオール又はポリオールと、脂肪酸とのエステルが挙げられる。なお、基油(A)中にPOEが含まれる場合、POEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
POEは、ジオール又は水酸基数が3~20のポリオールと、炭素数3~20の脂肪酸とのエステルが好ましい。
【0051】
ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0052】
ポリオールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2~20量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトース等の糖類;並びに、これらの部分エーテル化物、メチルグルコシド(配糖体)等が挙げられる。
これらの中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)等のヒンダードアルコールが好ましい。なお、ヒンダードアルコールとは、4つの炭素原子に結合する4級炭素原子を有するアルコールを意味する。
【0053】
脂肪酸の炭素数としては、潤滑性能の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは8以上であり、また、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下である。
なお、上記の脂肪酸の炭素数には、該脂肪酸が有するカルボキシ基(-COOH)の炭素原子も含まれる。
また、脂肪酸としては、直鎖状脂肪酸又は分岐鎖状脂肪酸のいずれであってもよいが、潤滑性能の観点から、直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の観点から、分岐鎖状脂肪酸が好ましい。更に、脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0054】
脂肪酸としては、イソ酪酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸等の直鎖又は分岐鎖のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等が挙げられる。
更に具体的には、イソ酪酸、吉草酸(n-ペンタン酸)、カプロン酸(n-ヘキサン酸)、エナント酸(n-ヘプタン酸)、カプリル酸(n-オクタン酸)、ペラルゴン酸(n-ノナン酸)、カプリン酸(n-デカン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3-メチルブタン酸)、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸等が好ましい。
【0055】
POEとしては、ポリオールが有する複数の水酸基の一部がエステル化されずに残った部分エステルであってもよく、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであってもよい。また、POEは、部分エステルと完全エステルの混合物であってもよいが、完全エステルであることが好ましい。
【0056】
POEとしては、より加水分解安定性に優れる観点から、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)等のヒンダードアルコールのエステルが好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトールのエステルがより好ましく、更に冷媒との相溶性及び加水分解安定性が特に優れる観点から、ペンタエリスリトールのエステルが更に好ましい。
【0057】
好ましいPOEの具体例としては、ネオペンチルグリコールと、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる群から選択される一種又は二種以上の脂肪酸とのジエステル;トリメチロールエタンと、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる群から選択される一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールプロパンと、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる群から選択される一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールブタンと、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる群から選択される一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;ペンタエリスリトールと、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる群から選択される一種又は二種以上の脂肪酸とのテトラエステル等が挙げられる。
【0058】
なお、二種以上の脂肪酸とのエステルとは、一種の脂肪酸とポリオールのエステルを二種以上混合したものでもよい。POEの中でも、低温特性の向上、及び冷媒との相溶性の観点から、二種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステルが好ましい。
【0059】
(鉱油)
鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系、若しくはナフテン系原油を常圧蒸留するか、又は原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した油、鉱油系ワックスを異性化することによって製造される油、又はフィシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化することによって製造される油等が挙げられる。
なお、基油(A)中に鉱油が含まれる場合、鉱油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本実施形態の潤滑油組成物において、基油(A)の主成分は、上記基油(A1)が好ましく、上記基油(A2)がより好ましく、上記基油(A3)が更に好ましい。なお、本明細書における「主成分」とは、最も含有率が多い成分を意味する。
基油(A)中における、基油(A1)、基油(A2)又は基油(A3)の含有量は、基油(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、更になお好ましくは90~100質量%である。
【0061】
基油(A)は、本発明の効果を損なわない範囲内で、基油(A1)、基油(A2)又は基油(A3)に加えて、更に他の基油を含有してもよい。
他の基油としては、前述のPVE、PAG及びPOEには該当しない、ポリエステル類、ポリカーボネート類、α-オレフィンオリゴマーの水素化物、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体(ECP)等の合成油が挙げられる。
なお、「ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体(ECP)」とは、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルに由来の構成単位と、ポリビニルエーテルに由来の構成単位とを有する共重合体であり、「ポリ(オキシ)アルキレングリコール」とは、ポリアルキレングリコール及びポリオキシアルキレングリコールの両方を指す。
【0062】
基油(A)の40℃動粘度は、好ましくは5~120mm/s、より好ましくは10~110mm/s、更に好ましくは30~100mm/sである。基油(A)の40℃動粘度が上記範囲内であると、耐摩耗性がより良好となる。
本明細書において、40℃動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した値である。
【0063】
<分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン誘導体(B)>
本実施形態の潤滑油組成物は、分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン誘導体(B)を含む。
なお、本明細書中、ホスフィン誘導体とは、ホスフィン(PH)が有する3つの水素原子が、炭素原子に置換された構造を有する化合物及びその誘導体を意味する。
なお、成分(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本実施形態の潤滑油組成物において、成分(B)の含有量は、耐摩耗性を向上させる観点から、成分(B)に由来するリン原子換算で、該潤滑油組成物の全量を基準として、好ましくは200~2,000質量ppm、より好ましくは300~1,800質量ppm、更に好ましくは400~1,800質量ppmである。
【0065】
成分(B)が有する酸素原子は、金属表面に配位することにより、成分(B)の耐摩耗性向上効果を高める機能を有する。成分(B)が一分子中に有する酸素原子の数は、(B)成分の耐摩耗性向上効果を高める観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上である。成分(B)が一分子中に有する酸素原子の数の上限値に特に制限はないが、入手容易性、その他の性能とのバランス等の観点から、10以下であってもよく、5以下であってもよい。
成分(B)が一分子中に有するリン原子の数は、1以上であればよく、基油への溶解性を高める観点からは、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1が最も好ましい。
成分(B)としては、分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン化合物(B1)、ホスフィンオキサイド化合物(B2)等が挙げられる。
【0066】
(分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン化合物(B1))
分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン化合物(B1)としては、リン原子を1つ有するものであってもよく、リン原子を2つ以上有するものであってもよい。
リン原子を1つ有する成分(B1)としては、例えば、下記一般式(B-1)で表される化合物が挙げられ、リン原子を2つ以上有する成分(B1)としては、例えば、下記一般式(B-2)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【化7】

(式(B-1)中、R1b~R3bは、各々独立に、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基を示し、R1b~R3bのうち、少なくとも1つの基は1つ以上の酸素原子を含む置換基を有する。
式(B-2)中、R4b~R7bは、各々独立に、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基を示し、R8bは、エーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数1~20の2価の炭化水素基を示す。R8bがエーテル結合を含まない場合、R4b~R8bのうち、少なくとも1つの基は1つ以上の酸素原子を含む置換基を有する。)
【0068】
上記一般式(B-1)中、R1b~R3bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基としては、置換又は無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換又は無置換の炭素数2~20のアルケニル基、置換又は無置換の炭素数2~20のアルキニル基、置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基等が挙げられ、これらの中でも、置換又は無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基が好ましく、置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基がより好ましい。
これらの炭化水素基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、アミド基、カルボキシ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基等が挙げられる。
【0069】
上記置換又は無置換の炭素数1~20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。なお、上記アルキル基は直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよい。
上記アルキル基の炭素数は、好ましくは2~10、より好ましくは3~8である。
【0070】
上記置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基としては、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のナフチル基等が挙げられ、これらの中でも、置換又は無置換のフェニル基が好ましい。置換又は無置換のフェニル基としては、フェニル基、各種メトキシフェニル基、各種ジメトキシフェニル基、各種トリメトキシフェニル基、各種エトキシフェニル基、2,6-ジメチル-4-エトキシフェニル基、各種メチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種トリメチルフェニル基等が挙げられる。これらの中でも、各種メトキシフェニル基、各種ジメトキシフェニル基、各種トリメトキシフェニル基が好ましく、各種メトキシフェニル基がより好ましく、4-メトキシフェニル基が更に好ましい。
これらのアリール基の炭素数は、好ましくは6~10、より好ましくは6~8である。
【0071】
上記一般式(B-2)中、R4b~R7bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基としては、上記一般式(B-1)中のR1b~R3bと同じものが挙げられる。
8bで表されるエーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数1~20の2価の炭化水素基としては、エーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数1~20のアルキレン基、置換又は無置換の炭素数2~20のアルケニレン基、置換又は無置換の炭素数2~20のアルキニレン基、置換又は無置換の炭素数6~20のアリーレン基等が挙げられる。これらの炭化水素基の置換基としては、上記R1b~R3bの置換基として挙げられたものと同じものが挙げられる。
上記エーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数1~20のアルキレン基としては、エチレン基、フェニルエチレン基、1,2-プロピレン基、2-フェニル-1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基等が挙げられる。
上記エーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数6~20のアリーレン基としては、各種フェニレン基、各種メチルフェニレン基、各種エチルフェニレン基、各種ジメチルフェニレン基、各種ナフチレン、ジフェニレンエーテル基、9,9-ジメチルキサンテン由来の2価の基等が挙げられる。
【0072】
分子内に酸素原子を1つ以上含むホスフィン化合物(B1)としては、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス-(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリメトキシフェニル)ホスフィン、ビス[(2-メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン等が挙げられる。
【0073】
(ホスフィンオキサイド化合物(B2))
ホスフィンオキサイド化合物(B2)としては、リン原子を1つ有するものであってもよく、リン原子を2つ以上有するものであってもよい。
リン原子を1つ有する成分(B2)としては、下記一般式(B-3)で表される化合物が挙げられ、リン原子を2つ以上有する成分(B2)としては、下記一般式(B-4)で表される化合物が挙げられる。
【0074】
【化8】

(式(B-3)中、R9b~R11bは、各々独立に、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基を示す。式(B-4)中、R12b~R15bは、各々独立に、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基を示し、R16bは、エーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数1~20の2価の炭化水素基を示す。)
【0075】
9b~R11bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基としては、上記R1b~R3bと同じものが挙げられ、これらの中でも、置換又は無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基が好ましく、置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基がより好ましい。これらの炭化水素基の置換基も、上記R1b~R3bの置換基として挙げられたものと同じものが挙げられる。
【0076】
上記置換又は無置換の炭素数1~20のアルキル基としては、上記R1b、R2b及びR3bで表される置換又は無置換の炭素数1~20のアルキル基として列挙したものと同じものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0077】
上記置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基としては、上記一般式(B-1)中のR1b、R2b及びR3bで表される置換又は無置換の炭素数6~20のアリール基として列挙したものと同じものが挙げられる。これらの中でも、置換又は無置換のフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
上記アリール基の炭素数は、好ましくは6~10、より好ましくは6~8である。
【0078】
上記一般式(B-4)中、R12b~R15bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基としては、上記一般式(B-2)中のR4b~R7bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素基と同じものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
上記一般式(B-4)中、R16bで表されるエーテル結合を含んでいてもよい置換又は無置換の炭素数1~20の2価の炭化水素基としては、上記一般式(B-2)中のR8bで表される置換又は無置換の炭素数1~20の2価の炭化水素基と同じものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0079】
ホスフィンオキサイド化合物(B2)としては、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリ-n-オクチルホスフィンオキサイド、ビス[2-[(オキソ)ジフェニルホスフィノ]フェニル]エーテル等が挙げられる。
【0080】
以上の成分(B)の中でも、耐摩耗性及び酸化安定性の観点から、上記一般式(B-1)で表される化合物及び上記一般式(B-3)で表される化合物からなる群から選択される1種以上が好ましく、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィンオキサイド、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンからなる群から選択される1種以上がより好ましく、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン及びトリフェニルホスフィンオキサイドからなる群から選択される1種以上が更に好ましい。
【0081】
<リン系化合物(C)>
本実施形態の潤滑油組成物は、耐摩耗性を向上させる観点から、更に、亜リン酸エステル系化合物及び多リン酸エステル系化合物からなる群から選択される1種以上のリン系化合物(C)を含むことが好ましい。
【0082】
本実施形態の潤滑油組成物がリン系化合物(C)を含有する場合、その含有量は、耐摩耗性を向上させる観点から、成分(C)に由来するリン原子換算で、該潤滑油組成物の全量を基準として、好ましくは50~1,000質量ppm、より好ましくは100~700質量ppmである。
本実施形態の潤滑油組成物中における、成分(B)に由来するリン原子含有量と、成分(C)に由来するリン原子含有量との合計含有量は、好ましくは250~3,000質量ppm、より好ましくは300~2,500質量ppm、更に好ましく500~2,500質量ppmである。
【0083】
(亜リン酸エステル系化合物)
亜リン酸エステル系化合物としては、アリールハイドロゲンホスファイト、アルキルハイドロゲンホスファイト、アリールホスファイト、アルキルホスファイト、アルケニルホスファイト、アルキルアリールホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、アルキルアリールホスファイトが好ましい。
アルキルアリールホスファイトとしては、トリス(アルキルアリール)ホスファイトが好ましく、アルキルアリール基を構成するアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは5~15、より好ましくは7~12である。
アルキルアリール基を構成するアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基が好ましい。
亜リン酸エステル系化合物の具体例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルホスファイト、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジブチルハイドロジェンホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールドデシルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールトリデシルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールテトラデシルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールペンタデシルホスファイト、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジトリデシルホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-トリデシルホスファイト-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト等が挙げられる。亜リン酸エステル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
(多リン酸エステル系化合物)
多リン酸エステル系化合物は、一分子中に少なくとも2つのリン酸骨格を有するリン酸エステル化合物であり、好ましくは下記一般式(C-1)で表される化合物である。なお、多リン酸エステル系化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
【化9】
【0086】
一般式(C-1)中、sは1~10の整数を表し、R1c~R8cは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R9cは炭素数2~20の2価の炭化水素基を表す。
【0087】
1c~R8cで表される炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってよく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基等が挙げられる。
1c~R8cは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0088】
9cで表される炭素数1~20の2価の炭化水素基は、アルキレン基、アリーレン基、又はアリーレン基及びアルキレン基からなる炭化水素基が好ましく、アリーレン基を含む基であることがより好ましい。
9cで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、イコサレン基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、ジシクロペンチレン基、トリシクロペンチレン基等の環状のアルキレン基等が挙げられる。なお、ここでいうアルキレン基は、アルキリデン基も含む。
【0089】
9cで表されるアリーレン基としては、置換又は無置換のいずれのアリーレン基であってもよく、具体的には、置換又は無置換のフェニレン基、置換又は無置換のナフチレン基、置換又は無置換のビフェニレン基等が挙げられる。これらの中でも、無置換のアリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
9cがアリーレン基及びアルキレン基からなる炭化水素基である場合、該炭化水素基を構成するアリーレン基としては上記と同じものが挙げられる。また、該炭化水素基を構成するアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1~14のアルキレン基が挙げられ、具体的には、メチレン基、R9cとして説明されたアルキレン基と同様のものが挙げられる。該アルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、例えば、メチレン基、1,1-エチレン基、1,2-エチレン基等の各種エチレン基;1,3-プロピレン基、1,2-プロピレン基、2,2-プロピレン基等の各種プロピレン基;各種ブチレン基;各種ペンチレン基等が挙げられ、これらの中でも、2,2-プロピレン基(-C(CH-)がより好ましい。
一般式(C-1)中、sは、好ましくは1~8の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数、より更に好ましくは1である。sを小さくすることにより、分子量が小さくなるため、成分(A)に対する溶解度を高めやすくなり、更には、摩擦係数を低減させやすくなる。なお、sが2以上の整数である場合、繰り返し単位がsで表される複数の構成単位は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0090】
9cの好適例としては、下記一般式(C-2)、(C-3)又は(C-4)で表される基が挙げられるが、一般式(C-2)又は(C-3)で表される基がより好ましく、一般式(C-2)で表される基が更に好ましい。なお、一般式(C-2)は、オルト体、メタ体又はパラ体のいずれであってもよいが、メタ体が好ましい。
【0091】
【化10】
【0092】
より好ましい多リン酸エステル系化合物としては、例えば、下記一般式(C-5)又は(C-6)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(C-5)で表される化合物が更に好ましい。
【0093】
【化11】
【0094】
一般式(C-5)中、s1は1~10の整数を表し、好ましくは1~8の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数である。
【0095】
【化12】
【0096】
<添加剤>
本実施形態の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更に添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、潤滑油組成物の安定性向上の観点から、酸化防止剤、油性向上剤、酸素捕捉剤、銅不活性化剤、防錆剤、消泡剤及び粘度指数向上剤からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましく、少なくとも酸化防止剤を含有することがより好ましい。また、本実施形態の潤滑油組成物は、成分(B)及び(C)以外の極圧剤を含んでいてもよい。
これらの添加剤は、各々について、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの添加剤の合計含有量は、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0097】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群から選択される1種以上が好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、フェニル-α-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)がより好ましい。
酸化防止剤の含有量は、安定性及び酸化防止性能の観点から、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05~3質量%である。
【0098】
(油性向上剤)
油性向上剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸;ダイマー酸、水添ダイマー酸等の重合脂肪酸;リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸;ラウリルアルコール、オレイルアルコール等の脂肪族飽和又は不飽和モノアルコール;ステアリルアミン、オレイルアミン等の脂肪族飽和又は不飽和モノアミン;ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸アミド;グリセリン、ソルビトール等の多価アルコールと脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸との部分エステル;等が挙げられる。
【0099】
(酸素捕捉剤)
酸素捕捉剤としては、脂肪族不飽和化合物、二重結合を有するテルペン類等が挙げられる。
上記脂肪族不飽和化合物としては、不飽和炭化水素が好ましく、具体的には、オレフィン;ジエン、トリエン等のポリエン等が挙げられる。オレフィンとしては、酸素との反応性の観点から、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等のα-オレフィンが好ましい。
上記以外の脂肪族不飽和化合物としては、酸素との反応性の観点から、分子式C2030Oで表されるビタミンA((2E,4E,6E,8E)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセ-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエン-1-オール)等の共役二重結合を有する不飽和脂肪族アルコールが好ましい。
二重結合を有するテルペン類としては、二重結合を有するテルペン系炭化水素が好ましく、酸素との反応性の観点から、α-ファルネセン(C1524:3,7,11-トリメチルドデカ-1,3,6,10-テトラエン)及びβ-ファルネセン(C1524:7,11-ジメチル-3-メチリデンドデカ-1,6,10-トリエン)がより好ましい。
【0100】
(銅不活性化剤)
銅不活性化剤としては、N-[N,N’-ジアルキル(炭素数3~12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾール等が挙げられる。
【0101】
(防錆剤)
防錆剤としては、金属スルホネート、脂肪族アミン類、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルフォン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0102】
(消泡剤)
消泡剤としては、シリコーン油、フッ素化シリコーン油等のシリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0103】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン水素化共重合体等が挙げられる。
【0104】
(成分(B)及び(C)以外の極圧剤)
成分(B)及び(C)以外の極圧剤としては、成分(B)及び(C)以外のリン系極圧剤、カルボン酸の金属塩、硫黄系極圧剤等が挙げられる。
成分(B)及び(C)以外のリン系極圧剤としては、成分(C)以外のリン酸エステル、酸性リン酸エステル、成分(C)以外の亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、これらのアミン塩等が挙げられる。具体的には、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト等が挙げられる。
カルボン酸の金属塩としては、炭素数3~60(好ましくは3~30)のカルボン酸の金属塩等が挙げられる。これらの中でも、炭素数12~30の脂肪酸及び炭素数3~30のジカルボン酸の金属塩からなる群から選択される1種以上が好ましい。金属塩を構成する金属としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
硫黄系極圧剤としては、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類等が挙げられる。
本実施形態の潤滑油組成物は、成分(B)又は成分(B)及び(C)が極圧剤としての効果を奏するものであるため、成分(B)及び(C)以外の極圧剤を含有しないものとしてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物が成分(B)及び(C)以外の極圧剤を含む場合、その含有量は、潤滑性及び安定性の観点から、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量以下である。
また、本実施形態の潤滑油組成物は、冷凍機用組成物とした場合の酸化安定性向上の観点から、成分(C)以外のリン酸エステルを含有しないことが好ましく、トリクレジルホスフェートを含有しないことがより好ましい。
【0105】
<潤滑油組成物の物性>
本実施形態の潤滑油組成物の水分含有量は、好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは700質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下、より更に好ましくは300質量ppm以下、より更に好ましくは300質量ppm未満、より更に好ましくは200質量ppm以下、より更に好ましくは100質量ppm以下である。
本実施形態の潤滑油組成物は、水分含有量が十分に低い場合であっても、優れた酸価上昇抑制効果が奏されるため、酸価上昇を抑える上で一定量以上の水分を含有する必要がない。
【0106】
<潤滑油組成物の用途>
本実施形態の潤滑油組成物は、耐摩耗性に優れるものであるため、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、その他内燃機関に用いられる内燃機油;ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用ギヤ油;その他一般機械等の工業用ギヤ油等のギヤ油;冷媒と共に使用される冷凍機油として好適に用いられる。本実施形態の潤滑油組成物は、特に冷媒と共に使用する場合において、高い酸化安定性を有するため、冷凍機油として好適である。
ここで、冷凍機とは、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁等)及び蒸発器、又は圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器及び蒸発器を必須とする構成からなる冷凍サイクルを有する。本実施形態の潤滑油組成物は、例えば、圧縮機等に設けられる摺動部分を潤滑するために使用されることが好ましい。
したがって、本発明は、冷凍機内部の潤滑部分に、本実施形態の潤滑油組成物を使用する潤滑方法も提供する。
また、本実施形態の潤滑油組成物は、例えば、空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム又は暖房システムに用いることができる。
なお、空調機としては、開放型カーエアコン、電動カーエアコン等のカーエアコン;ガスヒートポンプ(GHP)エアコン;等が挙げられる。
【0107】
[冷凍機用組成物]
本実施形態の冷凍機用組成物は、本実施形態の潤滑油組成物と、冷媒と、を含む冷凍機用組成物である。
本実施形態の冷凍機用組成物は、本実施形態の潤滑油組成物を使用することにより、優れた酸化安定性が得られる。その機構については定かではないが、以下のように推察される。
近年の冷凍機の小型化に伴って機器内の潤滑油組成物の使用量の減少が進む一方で、運転条件の過酷化による圧縮機の摺動部における摩擦熱等によって、冷凍機には、局所的に高温になる箇所が発生し得る。そのような過酷な環境下で、従来のTCP等のリン酸エステルを使用すると、冷媒の分解物によって生じた酸性物質によって、リン酸エステルのエステル基が分解され、これによって酸価が上昇する。一方、本実施形態の潤滑油組成物が含有するホスフィン誘導体は、TCPのようなエステル結合を有するものではないため安定性が高く、上記酸性物質による分解が抑制され、酸価の上昇を抑制できたものと考えられる。
【0108】
<冷媒>
冷媒としては、不飽和フッ化炭化水素化合物、飽和フッ化炭化水素化合物等のフッ化炭化水素冷媒;ハイドロカーボン、二酸化炭素、アンモニア等の自然系冷媒が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、冷媒としては、不飽和フッ化炭化水素化合物、飽和フッ化炭化水素化合物、ハイドロカーボン、二酸化炭素及びアンモニアからなる群から選択される1種以上を含むものが好ましく、不飽和フッ化炭化水素化合物を含むものがより好ましい。
以下、各冷媒について説明する。
【0109】
<不飽和フッ化炭化水素化合物>
不飽和フッ化炭化水素化合物は高温での熱安定性が低いため、冷媒として使用した場合、フッ化水素(HF)等の酸性物質が発生し、酸価が上昇しやすいという欠点があるが、本実施形態の潤滑油組成物を用いることで、酸価が上昇しやすいという不飽和フッ化炭化水素化合物の欠点を解消し、不飽和フッ化炭化水素化合物を冷媒として用いた冷凍システム等の安定性を確保することができる。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物において、冷媒は、不飽和フッ化炭化水素化合物(HFO)を含む冷媒であることが好ましい。
冷媒中における不飽和フッ化炭化水素化合物(HFO)の含有量は、冷媒の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、冷媒は、不飽和フッ化炭化水素化合物(HFO)のみからなる冷媒であることがより更に好ましい。
【0110】
不飽和フッ化炭化水素化合物としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2~6の鎖状オレフィンや炭素数4以上6以下の環状オレフィンのフッ素化物等、炭素-炭素二重結合を有するものが挙げられる。
より具体的には、1~3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1~5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1~7個のフッ素原子が導入されたブテン、1~9個のフッ素原子が導入されたペンテン、1~11個のフッ素原子が導入されたヘキセン、1~5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1~7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1~9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセン等が挙げられる。
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、プロペンのフッ化物が好ましく、3~5個のフッ素原子が導入されたプロペンがより好ましく、4個のフッ素原子が導入されたプロペンが更に好ましい。具体的には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)等が好ましい化合物として挙げられる。
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいし、不飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒と組み合わせて使用してもよい。ここで、不飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒と組み合わせて用いる場合の例として、飽和フッ化炭化水素化合物と不飽和フッ化炭化水素化合物の混合冷媒が挙げられる。該混合冷媒としては、R32とR1234yfの混合冷媒、R32とR1234zeとR152aの混合冷媒(AC5、混合比は13.23:76.20:9.96)等が挙げられる。
【0111】
飽和フッ化炭化水素化合物としては、好ましくは炭素数1~4のアルカンのフッ化物、より好ましくは炭素数1~3のアルカンのフッ化物、更に好ましくは炭素数1又は2のアルカン(メタン又はエタン)のフッ化物である。該メタン又はエタンのフッ化物としては、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(R143)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(R125)等が挙げられ、これらの中でも、ジフルオロメタン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタンが好ましい。
これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。ここで、2種以上組み合わせて用いる場合の例として、炭素数1以上3以下の飽和フッ化炭化水素化合物を2種以上混合した混合冷媒や、炭素数1以上2以下の飽和フッ化炭化水素化合物を2種以上混合した混合冷媒が挙げられる。
該混合冷媒としては、R32とR125の混合物(R410A)、R125とR143aとR134aの混合物(R404A)、R32とR125とR134aの混合物(R407A、R407C、R407E等)、R125とR143aの混合物(R507A)等が挙げられる。
【0112】
<自然系冷媒>
自然系冷媒としては、ハイドロカーボン(HC)系冷媒、二酸化炭素(CO)及びアンモニアからなる群から選択される1種以上が挙げられ、好ましくはハイドロカーボン(HC)系冷媒である。これらの1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいし、自然系冷媒以外の冷媒と組み合わせてもよい。ここで、自然系冷媒以外の冷媒と組み合わせて用いる場合の例としては、飽和フッ化炭化水素化合物及び/又は不飽和フッ化炭化水素化合物との混合冷媒が挙げられる。具体的な混合冷媒としては、二酸化炭素とR1234zeとR134aの混合冷媒(AC6、配合比は5.15:79.02:15.41)等が挙げられる。
【0113】
ハイドロカーボン(HC)系冷媒としては、炭素数1~8の炭化水素が好ましく、炭素数1~5の炭化水素がより好ましく、炭素数3~5の炭化水素が更に好ましい。炭素数が8以下であると、冷媒の沸点が高くなり過ぎず冷媒として好ましい。該ハイドロカーボン系冷媒としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン(R600a)、2-メチルブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンイソブタン、ノルマルブタン等が挙げられる。
ハイドロカーボン系冷媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ハイドロカーボン系冷媒は、ハイドロカーボン系冷媒単独で使用してもよく、R134a等のフッ化炭化水素冷媒、二酸化炭素等のハイドロカーボン系冷媒以外の冷媒と混合した混合冷媒として用いてもよい。
【0114】
本実施形態の冷凍機用組成物において、冷媒及び潤滑油組成物の使用量は、潤滑油組成物/冷媒の質量比で好ましくは1/99~90/10、より好ましくは5/95~70/30である。潤滑油組成物/冷媒の質量比を該範囲内とすると、潤滑性及び冷凍機における好適な冷凍能力を得ることができる。
【0115】
本実施形態の冷凍機用組成物は、例えば、空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム又は暖房システムに用いることが好ましい。なお、空調機としては、開放型カーエアコン、電動カーエアコン等のカーエアコン;ガスヒートポンプ(GHP)エアコン;等が挙げられる。
【実施例
【0116】
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0117】
実施例及び比較例の潤滑油組成物の調製に用いた各成分の種類を以下に示す。
(1)基油
40℃動粘度72.0mm/sのポリビニルエーテル類(PVE)又は40℃動粘度47.0mm/sのポリアルキレングリコール類(PAG)のいずれかを基油として使用した。
なお、40℃動粘度は、JIS K2283:2000に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
【0118】
(2)酸化防止剤
2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)
【0119】
(3)成分(B)
・トリス-(p-メトキシフェニル)ホスフィン(TPAP)
・トリフェニルホスフィンオキサイド(TPPO)
【0120】
(4)成分(C)
・トリスノニルフェニルホスファイト
・テトラフェニル-m-フェニレンビスホスフェート
【0121】
(5)比較用極圧剤
・トリクレジルホスフェート(TCP)
・トリフェニルホスフィン(TPP)
【0122】
(6)冷媒
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)
【0123】
[実施例1~9及び比較例1~3]
表1に示す組成の潤滑油組成物を調製し、以下に示す方法により耐摩耗性及び酸化安定性を評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の配合組成の数値単位は「質量%」である。
【0124】
[ファレックス摩耗試験]
(1)ピン及びブロックとして、次のものを準備した。
・ピン:SAE3135
・ブロック:AISIC1137
(2)摩耗試験
ファレックス試験機を用い、ASTM D2670に準拠して次の試験を行った。
ファレックス試験機に、ピンとブロックとをセットし、試験容器内に、評価対象の潤滑油組成物100mLを導入し、回転数290r/min、油温25℃、荷重1,334Nに設定して1時間運転し、ピン及びブロック摩耗量(mg)を測定した。
なお、近年の過酷な条件下でも機械寿命を充分に保証できる潤滑性能とする観点から、上記試験におけるピン及びブロック摩耗量の合計量は、10.0mg以下であることが好ましい。
【0125】
[酸化安定性]
オートクレーブ容器(容積:200ml)に、触媒としてFe、Cu及びAlを入れ、更に各例で得た潤滑油組成物20gと冷媒(R1234yf)20gとの混合物をそれぞれ充填すると共に、水分2,000質量ppmを充填し、175℃で14日間保持した後、酸価(mgKOH/g)の評価を行った。
酸価は、JIS K2501に準じ、指示薬光度滴定法(左記JIS規格における付属書1参照)により測定した。
なお、近年の過酷な環境下でも十分な酸化寿命を得る観点から、上記試験における酸価の値は、0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0126】
【表1】
【0127】
表1から、成分(B)を使用した実施例1~9の潤滑油組成物は、摩耗量(合計量)が10.0mgを下回っており、さらには試験後の酸価の値も0.5mgKOH/gを超えることなく、酸価の上昇も低く抑えられていた。特に、成分(B)と成分(C)とを併用した実施例7~9の潤滑油組成物は、摩耗量が顕著に小さくなった。
一方、TCPを使用した比較例1及び3の潤滑油組成物は、摩耗量が大きく、試験後の酸価も大きくなった。また、酸素原子を有さないホスフィン化合物であるTPPを使用した比較例2の潤滑油組成物は、摩耗量が大きかった。
以上の結果により、本発明の潤滑油組成物が耐摩耗性に優れ、本発明の潤滑油組成物を用いた冷凍機用組成物が酸化安定性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の潤滑油組成物は、耐摩耗性に優れるものである。よって、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、その他内燃機関に用いられる内燃機油;ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用ギヤ油;その他一般機械等の工業用ギヤ油等のギヤ油;冷媒と共に使用される冷凍機油として好適に用いられる。本実施形態の潤滑油組成物は、特に冷媒と共に使用する際に高い酸化安定性を有するため、冷凍機油として好適である。