(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20220920BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220920BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220920BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20220920BHJP
B05C 1/02 20060101ALN20220920BHJP
B05C 11/00 20060101ALN20220920BHJP
B05D 1/28 20060101ALN20220920BHJP
A61K 35/12 20150101ALN20220920BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20220920BHJP
A61L 27/22 20060101ALN20220920BHJP
A61L 27/40 20060101ALN20220920BHJP
【FI】
C12N5/00
C12M1/00 Z
A61L27/38
A61L27/52
B05C1/02 101
B05C11/00
B05D1/28
A61K35/12
A61P43/00 105
A61P43/00 101
A61L27/22
A61L27/40
(21)【出願番号】P 2018110529
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】赤木 隆美
(72)【発明者】
【氏名】江上 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山中 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽香
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047423(WO,A1)
【文献】特開2009-145685(JP,A)
【文献】特開2017-000945(JP,A)
【文献】特表2003-510108(JP,A)
【文献】山中昭浩,高速微細塗布装置,NTN TECHNICAL REVIEW (2015) No.83, pp.98-103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00-3/10
B05C 1/00
B05D 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む第1塗布液を貯留する第1塗布液容器と、
前記第1塗布液容器に貯留された前記第1塗布液に浸漬可能な第1塗布針と、
第2塗布液を貯留する第2塗布液容器と、
前記第2塗布液容器に貯留された前記第2塗布液に浸漬可能な第2塗布針と、を備えた微細塗布装置を用いた細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法であって、
前記第1塗布液容器に貯留された前記第1塗布液に前記第1塗布針における少なくとも先端を浸漬して、前記第1塗布針の先端に前記第1塗布液を保持させる工程、
前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に接触させて、塗布対象物に前記第1塗布液を塗布する工程、
前記第2塗布液容器に貯留された前記第2塗布液に前記第2塗布針における少なくとも先端を浸漬して、前記第2塗布針の先端に前記第2塗布液を保持させる工程、および
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触させる工程、
を含む、細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項2】
前記第1塗布液と前記第2塗布液とが接触して反応し、ゲル化する工程、を含む、請求項1に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項3】
前記第2塗布針の先端直径が、前記第1塗布針の先端直径より大きく構成された、請求項1または2に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項4】
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液が接触塗布される塗布速度が、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液が塗布対象物に接触塗布される塗布速度より遅くなるよう設定された、請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項5】
前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液が、塗布対象物に接触する直前で前記第1塗布針の塗布速度を遅くして接触させる工程と、
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液が、塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触する直前で前記第2塗布針の塗布速度を遅くして接触させる工程と、を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項6】
前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液が塗布対象物に接触する直前で、前記第1塗布針を一旦所定時間停止後に停止前の塗布速度より遅くして接触させる工程、を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項7】
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液が塗布対象物に
塗布された前記第1塗布液に接触する直前で、前記第2塗布針を一旦所定時間停止後に停止前の塗布速度より遅くして接触させる工程、を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項8】
前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に接触させて、塗布対象物に前記第1塗布液を接触させてから所定時間経過後に、前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触塗布させる工程、を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項9】
前記第1塗布針の先端に前記第1塗布液を保持させる工程と、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に塗布する工程と、を複数回繰り返した後、前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を、塗布対象物の前記第1塗布液に接触させる工程、を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項10】
前記第1塗布液と前記第2塗布液が2液混合のゲル化剤である、請求項1から9のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項11】
前記第2塗布針の塗布時の塗布対象物からの高さが、前記第1塗布針の塗布時の塗布対象物からの高さより高く設定された、請求項1から10のいずれか1項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項12】
前記第1塗布針により前記第1塗布液を塗布対象物に塗布する工程を複数回繰り返すとき、前記第1塗布針の塗布時の塗布対象物からの高さを徐々に上昇させるよう設定された、請求項9に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項13】
前記第1塗布針および前記第2塗布針の先端は、塗布時の移動方向に直交する平面を含むよう構成された、請求項1から12のいずれか一項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項14】
前記第1塗布針が前記第1塗布液容器を貫通して前記第1塗布液を塗布対象物に塗布し、前記第2塗布針が前記第2塗布液容器を貫通して前記第2塗布液を塗布対象物に塗布するよう構成された、請求項1から13のいずれか一項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【請求項15】
前記第1塗布液における細胞としては、未修飾の細胞または修飾された細胞が用いられる、請求項1から14のいずれか一項に記載の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体外で細胞チップおよび細胞組織チップを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体外で細胞の三次元組織を構築する技術は、創薬研究および再生医療研究において重要であり、特にヒト生体組織に近い細胞組織の構築が求められている。
【0003】
生体外で細胞を取り扱う場合、プラスチックディッシュやガラスシャーレ等の培養容器を用いて二次元的に細胞培養を行うのが一般的である。しかしながら、実際の生体内では細胞が三次元的に増殖して組織や臓器を形成しているため、生体内に近い培養環境を実現するためには三次元の細胞組織チップを構築し、その細胞組織チップに対して評価実験を行うことが創薬研究および再生医療研究の進展には重要である。
【0004】
細胞同士が集合、凝集化した細胞組織チップ(細胞集合体)を、例えばウェルプレートにおける整列した複数のウェル(凹部)のそれぞれに配置して、それぞれの細胞集合体を評価するアッセイ法は、細胞機能の評価や、新規医薬品として有効な化合物を選択するスクリーニングにおいて広く用いられている。このような細胞集合体に対してアッセイ法を行うことにより、少量の試料で多項目を短時間で評価することが可能であり、迅速性、簡便性、安全性、再現性および高い信頼性を確保する点において有利である。
【0005】
細胞を基板上に精密パターニング配置する技術には、フォトリソグラフィ技術で基板を加工して細胞接着を制御する方法と、細胞を直接プリントして配置および固定化する方法がある。近年では、細胞を三次元(3D)に配置および積層するための3Dプリンタ技術の進展に伴い、3Dプリンタを用いた細胞集合体の構築が検討されており、細胞集合体から得られた組織モデルによる創薬研究および再生医療への応用が盛んに展開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-126459号公報
【文献】特開2008-017798号公報
【文献】特開2010-022251号公報
【文献】特開2015-229148号公報
【文献】特開2016-087822号公報
【文献】特開2017-163931号公報
【文献】特開2017-169560号公報
【文献】特開2017-131144号公報
【文献】特開2015-112576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞集合体の構築のための3Dプリンタとしては、インクジェットプリンタ(inkjet printer:インクジェット方式サーマルタイプ、ピエゾタイプ)、マイクロ押出プリンタ(microextrusion printer:ディスペンサ方式)、レーザアシストプリンタ(laser-assisted printer:パルスレーザ方式)が存在する。しかしながら、これらのプリンタにおいては、吐出できる材料が制限されており、またプリント速度(作製速度)および解像度(吐出量)においても大きく制約を受けるものであった。さらに、従来の3Dプリンタにおいては、吐出する材料が細胞を含む細胞含有溶液の場合、吐出後の状態における製造すべき細胞集合体の細胞生存率および細胞密度等に関して問題を有するものであった。特に、高い粘性を有する細胞含有溶液から細胞集合体を製造する場合には、プリンタのノズルにおいて高粘性の溶液が目詰まりするおそれがあるため、高い解像度、即ち微細な細胞集合体を大量に製造することができず問題を有するものであった。
【0008】
また、細胞集合体における細胞の乾燥によるダメージを防止するためには、細胞をゲル化剤にて包埋する必要がある。細胞をゲル化剤にて包埋する場合、2液が混合されるとゲル化する2液性ゲル化剤が用いられている。なお、紫外線硬化型のゲル化剤や、熱硬化型のゲル化剤を用いた場合には、硬化時における紫外線および熱が細胞に対して悪影響を与えるため、このような硬化剤の使用は好ましいものではない。
【0009】
2液性ゲル化剤を用いて細胞集合体を製造する場合には、2台のプリンタを使用し、一方のプリンタのノズルから細胞を含む一方のゲル化剤を所定位置に吐出して、他方のゲル化剤を他方のプリンタのノズルから一方のゲル化剤に対して高精度に吐出して、互いのゲル化剤を確実に反応させる必要がある。このように、異なるプリンタを使用して2液のゲル化剤を同じ位置に高精度に吐出してゲル化させ、細胞集合体を製造することは容易なことではない。また、2台のプリンタを用いるために、装置全体が大型化するという問題を有している。特に、インクジェット方式や、ディスペンサ方式のプリンタを用いて細胞集合体を製造する場合には、ゲル化剤として粘性の高い材料を用いた場合にはノズルの先端で目詰まりするおそれがあり、高い信頼性と高い精度を維持して所望量のゲル化剤を確実にノズルから吐出することは困難であった。
【0010】
本発明は、高粘性の細胞含有材料であったとしても、所望の塗布量で形成された細胞チップおよび細胞組織チップを短時間(高速度)で大量に確実に製造することができる細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明に係る一態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、
細胞を含む第1塗布液を貯留する第1塗布液容器と、
前記第1塗布液容器に貯留された前記第1塗布液に浸漬可能な第1塗布針と、
第2塗布液を貯留する第2塗布液容器と、
前記第2塗布液容器に貯留された前記第2塗布液に浸漬可能な第2塗布針と、を備えた微細塗布装置を用いた細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法であって、
前記第1塗布液容器に貯留された前記第1塗布液に前記第1塗布針における少なくとも先端を浸漬して、前記第1塗布針の先端に前記第1塗布液を保持させる工程、
前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に接触させて、塗布対象物に前記第1塗布液を塗布する工程、
前記第2塗布液容器に貯留された前記第2塗布液に前記第2塗布針における少なくとも先端を浸漬して、前記第2塗布針の先端に前記第2塗布液を保持させる工程、および
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触させる工程、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粘性の高い細胞含有溶液が材料であっても、所望の塗布量で形成された細胞チップおよび細胞組織チップを短時間で大量に確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施形態1において用いる卓上型の微細塗布装置を示す正面図である。
【
図2】(a)は実施形態1の微細塗布装置における塗布ユニットに装着される塗布針(第1塗布針および第2塗布針)を示す図であり、(b)は塗布針における針部の先端部分を示す拡大図である。
【
図3】実施形態1の微細塗布装置における塗布ユニットの塗布動作を示す図
【
図4】(a)は第1塗布針による第1塗布動作に示した図であり、(b)は第2塗布針による第2塗布動作を示した図である。
【
図5】(a)は第1塗布針による第1塗布動作における先端の動きを示す動作図であり、(b)は第2塗布針による第2塗布動作における先端の動きを示す動作図である。
【
図6】実施形態1の微細塗布装置において、第1塗布機構による第1塗布動作および第2塗布機構による第2塗布動作の連続塗布動作を示す動作図である。
【
図7】塗布回数と液滴スポットの形状(塗布径および塗布高さ)との関係の一例を示すグラフである。
【
図8】第1塗布針の第3塗布動作を示す動作図である。
【
図9】第1塗布針の第3塗布動作と第2塗布針の第2塗布動作との連続塗布動作を示す動作図である。
【
図10】第1塗布液の液滴スポットに対して第2塗布液が塗布された直後の組織体の状態を示す画像である。
【
図11】
図10に示した組織体を3日間培養したときの状態を示す画像である。
【
図12】塗布針の先端直径と、液滴スポットに含まれる塗布細胞数との実験結果を示すグラフである。
【
図13】先端直径が330μmの第1塗布針を用いて第3塗布動作を行った場合の塗布細胞数を計測した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず始めに、本発明に係る細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法における各種態様について記載する。なお、本発明における細胞チップとは、例えば培養容器において実質的に個々の細胞が分散して接着している状態の実質的に1つの細胞で形成されたチップである。また、細胞組織チップとは、基板上で細胞が集合、凝集、積層化して組織化し、機能している状態の細胞集合体のことをいい、細胞シートなどの二次元細胞集合体、細胞シートを重ね合わせた三次元細胞集合体を含む。
【0015】
本発明に係る第1の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、
細胞を含む第1塗布液を貯留する第1塗布液容器と、
前記第1塗布液容器に貯留された前記第1塗布液に浸漬可能な第1塗布針と、
第2塗布液を貯留する第2塗布液容器と、
前記第2塗布液容器に貯留された前記第2塗布液に浸漬可能な第2塗布針と、を備えた微細塗布装置を用いた細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法であって、
前記第1塗布液容器に貯留された前記第1塗布液に前記第1塗布針における少なくとも先端を浸漬して、前記第1塗布針の先端に前記第1塗布液を保持させる工程、
前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に接触させて、塗布対象物に前記第1塗布液を塗布する工程、
前記第2塗布液容器に貯留された前記第2塗布液に前記第2塗布針における少なくとも先端を浸漬して、前記第2塗布針の先端に前記第2塗布液を保持させる工程、および
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触させる工程、
を含む。
【0016】
本発明に係る第2の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法においては、前記の第1の態様の前記第1塗布液と前記第2塗布液とが接触して反応し、ゲル化する工程、を含むものとしてもよい。
【0017】
本発明に係る第3の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法においては、前記の第1の態様または第2の態様の前記第2塗布針の先端直径を、前記第1塗布針の先端直径より大きく構成してもよい。
【0018】
本発明に係る第4の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第3の態様において、前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液が接触塗布される塗布速度が、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液が塗布対象物に接触塗布される塗布速度より遅くなるよう設定されてもよい。
【0019】
本発明に係る第5の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第4の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液が、塗布対象物に接触する直前で前記第1塗布針の塗布速度を遅くして接触させ、
前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液が、塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触する直前で前記第2塗布針の塗布速度を遅くして接触させてもよい。
【0020】
本発明に係る第6の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第5の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液が塗布対象物に接触する直前で、前記第1塗布針を一旦所定時間停止後に停止前の塗布速度より遅くして接触させてもよい。
【0021】
本発明に係る第7の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第6の態様のいずれかの態様において、前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液が塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触する直前で、前記第2塗布針を一旦所定時間停止後に停止前の塗布速度より遅くして接触させてもよい。
【0022】
本発明に係る第8の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第7の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に接触させて、塗布対象物に前記第1塗布液を接触させてから所定時間経過後に、前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を塗布対象物に塗布された前記第1塗布液に接触塗布させてもよい。
【0023】
本発明に係る第9の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第8の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布針の先端に前記第1塗布液を保持させて、前記第1塗布針の先端に保持された前記第1塗布液を塗布対象物に塗布する工程を複数回繰り返した後、前記第2塗布針の先端に保持された前記第2塗布液を、塗布対象物の前記第1塗布液に接触させてもよい。
【0024】
本発明に係る第10の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第9の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布液と前記第2塗布液が2液混合のゲル化剤であってもよい。
【0025】
本発明に係る第11の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第10の態様のいずれかの態様において、前記第2塗布針の塗布時の塗布対象物からの高さが、前記第1塗布針の塗布時の塗布対象物からの高さより高く設定されてもよい。
【0026】
本発明に係る第12の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第9の態様において、前記第1塗布針により前記第1塗布液を塗布対象物に塗布する工程を複数回繰り返すとき、前記第1塗布針の塗布時の塗布対象物からの高さを徐々に上昇させるよう設定してもよい。
【0027】
本発明に係る第13の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第12の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布針および前記第2塗布針の先端が、塗布時の移動方向に直交する平面を含むよう構成してもよい。
【0028】
本発明に係る第14の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第13の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布針が前記第1塗布液容器を貫通して前記第1塗布液を塗布対象物に塗布し、前記第2塗布針が前記第2塗布液容器を貫通して前記第2塗布液を塗布対象物に塗布するよう構成してもよい。
【0029】
本発明に係る第15の態様の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、前記の第1の態様から第14の態様のいずれかの態様において、前記第1塗布液における細胞としては、未修飾の細胞または修飾された細胞が用いられてもよい。
【0030】
本発明に係る細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、後述する実施形態において具体的な例示を用いて説明するように、塗布針の先端に付着させた数pL(ピコリットル)の微少な液滴を一回当たり極短時間で、例えば0.1秒で対象物の所定位置に高精度に塗布できる微細塗布装置を用いて、安全性および再現性が高く、自動化が可能であり、短時間で大量の信頼性の高い細胞チップおよび細胞組織チップ(細胞集合体)の製造を提案するものである。
【0031】
本発明においては、複数の塗布針を備えた、例えば2本の塗布針を備えた2針形式の微細塗布装置を用いることにより、従来の塗布装置(プリンタ)では対応することが困難であったゲル化された細胞チップおよび細胞組織チップ(細胞集合体)を高速度で安定して製造することが可能となる。この結果、様々な細胞組織チップを自動化して無菌状態で多量に製造することが可能となる。従って、本発明に係る細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、安全性および再現性が高く、高い信頼性を有する細胞チップおよび細胞組織チップを自動化により大量に製造することが可能となる。なお、以下の実施形態においては塗布液として細胞を含む2液性ゲル化剤を用いた場合について説明する。
【0032】
次に、添付の図面を参照して本発明に係る細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法について具体的な構成例を示す実施形態を用いて説明する。なお、本発明に係る細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、以下に説明する実施形態の微細塗布装置を用いる構成に限定されるものではなく、微細塗布装置において実行される細胞塗布動作(細胞塗布方法)と同等の技術的思想による細胞塗布動作(細胞塗布方法)を含むものである。
【0033】
(実施形態1)
以下、具体的な実施形態1について添付の図面を参照して説明する。
図1は、実施形態1において用いる卓上型の微細塗布装置1を示す正面図である。
図1に示す微細塗布装置1は、当該微細塗布装置1における設定、制御、および表示を行うための表示・制御部(図示省略)を備える。実施形態1の微細塗布装置1における表示・制御部としては、所謂パーソナルコンピュータ(PC)で構成される。
【0034】
微細塗布装置1は、卓上に水平に配置された本体ベース2において、水平方向に移動可能なXYテーブル3と、XYテーブル3に対して上下方向(鉛直方向)に移動するように微調整可能な塗布ユニット4と、XYテーブル3上の塗布物(細胞等)を目視観察等を行うための観察光学系ユニット(例えば、CCDカメラ等)5Aと、作製された塗布物の計測等を行う計測機器を含む評価系装置(例えば、レーザー変位計、白色干渉計等)5Bと、を備えている。XYテーブル3上には、塗布対象物として、例えば、細胞培養用容器である培養容器6として多数の凹み(ウェル)を有するウェルプレート等の器具が所定位置に載置され固定される。例えば、ウェルプレートの各ウェルには細胞含有溶液である塗布液が塗布されて、複数の細胞チップまたは細胞組織チップが作製される。なお、本発明の微細塗布装置としては、観察光学系ユニットおよび評価系装置5Bを備えない構成、若しくはいずれか一方を備える構成を含むものである。
【0035】
なお、実施形態1においては、
図1に示すように、卓上型の微細塗布装置1の構成で説明するが、本発明はこのような卓上型の構成に限定されるものではなく、実質的に同じ構成で大型化して培養室等に設置される大型の微細塗布装置1を含むものである。
【0036】
上記のように構成された微細塗布装置1における塗布ユニット4は、XYテーブル3上の培養容器6の各ウェル内に細胞チップまたは細胞組織チップを作製するための細胞塗布動作を行うよう構成されている。以下、塗布ユニット4の構成および塗布ユニット4による細胞塗布動作について説明する。
【0037】
[塗布ユニットの構成]
微細塗布装置1における塗布ユニット4は、2つの塗布機構(第1塗布機構4Aおよび第2塗布機構4B)を備えており、それぞれの塗布機構4A、4Bが独立して塗布動作を行うように構成されている。微細塗布装置1においては、細胞チップまたは細胞組織チップを作製するために、塗布液として2液性ゲル化剤を用いる構成であり、第1塗布機構4Aおよび第2塗布機構4Bが備えられている。
【0038】
図2の(a)は、塗布ユニット4における第1塗布機構4Aおよび第2塗布機構4Bに装着される塗布針7を示す図である。塗布針7は、針保持部8、およびその針保持部8に突設された針部9を有する。
図2の(b)は、塗布針7における針部9の先端部分を示す拡大図である。実施形態1の塗布針9の先端部分は、円錐形状に形成されており、その先端9aが、XYテーブル4の水平面に対向するように平面(フラット)に形成されている。即ち、先端9aの平面は鉛直方向に直交する水平面である。
【0039】
微細塗布装置1においては、第1塗布機構4Aに装着される塗布針7(第1塗布針7A)と、第2塗布機構4Bに装着される塗布針7(第2塗布針7B)とは、塗布針9の先端9aの直径が異なっているが、その他の構成は実質的に同じである。塗布針9の先端9aの直径dは、作製される細胞チップまたは細胞組織チップの形状に大きく関係している。実施形態1の微細塗布装置1において、塗布針9の先端9aの直径dは、第1塗布機構4Aに装着される第1塗布針7Aが、例えば330μmであり、第2塗布機構4Bに装着される第2塗布針7Bが、例えば1000μmであり、このように先端直径が異なる第1塗布針7Aおよび第2塗布針7Bを用いて微細な細胞チップまたは細胞組織チップを作製した。なお、実施形態1において、第1塗布針7Aおよび第2塗布針7Bにおける針保持部8、針部9、および先端9aは同じ参照符号を用いて説明する。
【0040】
図2の(b)に示すように、塗布針7の先端部分が円錐形状を有し、その先端9aが水平面であるため、先端9aを水平面に研磨することにより、先端9aの直径dは所望の直径に形成することが容易である。
【0041】
図3は、塗布ユニット4における塗布動作を模式的に示す図である。塗布ユニット4の塗布動作においては、第1塗布機構4Aによる第1塗布動作を行った後、第2塗布機構4Bによる第2塗布動作を行う。第1塗布機構4Aによる第1塗布動作により塗布される第1塗布液11Aは細胞を懸濁した第1ゲル化剤であり、第2塗布機構4Bにより塗布される第2塗布液11Bは第1塗布液11Aをゲル化するための第2ゲル化剤である。
【0042】
図3においては、第1塗布機構4Aにおける第1塗布動作を模式的に示している。
図3に示すように、第1塗布機構4Aには、細胞含有溶液である第1塗布液11Aを所定量貯留する塗布液溜り10aが形成された第1塗布液容器10Aが設けられている。また、第1塗布機構4Aには、塗布液溜り10aを貫通して上下方向(鉛直方向)に高速移動(往復動作)する第1塗布針7Aが装着されている。
【0043】
第1塗布針7Aの往復動作は、駆動源(例えば、モータ)の回転動作をリンク機構を介して往復動作に変換する駆動機構により達成される。第1塗布針7Aの上下方向(鉛直方向)の高速の往復動作は、第1塗布液容器10Aの上端に形成された貫通孔(上部孔10b)により、第1塗布針7Aの針部9が摺動可能に保持されており、第1塗布針7Aの高速往復動作の信頼性が確保されている。第1塗布針7Aは、第1塗布機構4Aにおいて第1塗布針7Aを高速往復動作させる駆動機構の所定位置に脱着可能に設けられており、例えば、駆動機構に対してマグネットの磁力により、またはネジ止め等により脱着可能な構成としている。
【0044】
上記のように、第1塗布機構4Aにおける駆動機構に固定された第1塗布針7Aは、上下方向(鉛直方向)における所定間隔の間を高速度で往復移動する。このような駆動機構の駆動制御、YXテーブル3および第1塗布機構4Aを備える塗布ユニット4の全体を上下方向(鉛直方向)に移動する上下移動機構の駆動制御の設定等は、表示・制御部において行われる。なお、第1塗布針7Aの上下方向の往復動作は超高速度であり、例えば1往復が、0.5秒以下、さらに0.1秒以下に設定することが可能である。
【0045】
上記のように、塗布ユニット4における第1塗布機構4Aは、第1塗布針7Aを保持して上下方向に高速で往復動作するように構成されており、第1塗布針7Aは、細胞含有溶液である第1塗布液11Aを貯留する塗布液溜り10aに対して、上下方向(鉛直方向)に移動し貫通するように構成されている。塗布液溜り10aを有する第1塗布液容器10Aの上部および下部には第1塗布針7Aにより貫通される孔(上部孔10b、下部孔10c)が形成されている。
【0046】
塗布ユニット4における第1塗布機構4Aは、上記のように構成されて第1塗布針7Aを駆動するが、塗布ユニット4における第2塗布機構4Bにおいても同様に構成されており、第2塗布針7Bが第2塗布液容器10B(
図3の塗布液容器10A参照)の塗布液溜り(10a)を貫通して上下方向(鉛直方向)に高速移動(1往復動作)する。即ち、第2塗布針7Aの第2塗布動作は、駆動源(例えば、モータ)の回転動作をリンク機構を介して往復動作に変換する駆動機構により達成されている。なお、第1塗布針7Aの第1塗布動作および第2塗布針7Aの第2塗布動作においては、1つの駆動源の回転動作を第1リンク機構および第2リンク機構のそれぞれ介して伝達するように切り替える構成である。第1リンク機構および第2リンク機構においては、往復動作時の速度制御を行うことができるよう構成されている。
【0047】
第1塗布機構4Aと第2塗布機構4Bとにおいては、前述のように、第1塗布針7Aと第2塗布針7Bの塗布針先端の直径が異なっている。また、第1塗布機構4Aと第2塗布機構4Bとにおける塗布動作の違いは、第1塗布動作の塗布回数が複数回であるのに対して、第2塗布動作の塗布回数が1回であることと、塗布動作の往復動作時における塗布針先端の最下点位置である。
【0048】
上記のように、第1塗布機構4Aによる第1塗布動作と、第2塗布機構4Bによる第2塗布動作は、塗布回数と塗布時における先端最下点の位置以外は実質的に同様の動作である。このため、第2塗布機構4Bによる第2塗布動作については、
図3の模式図を参照して第1塗布機構4Aの第1塗布動作を主として説明する。
【0049】
[塗布動作]
図3に示した第1塗布機構4Aによる第1塗布動作は、第1塗布容器10Aの塗布液溜り10aに貯留された細胞を含む第1塗布液11A(第1ゲル化剤)が塗布対象物である培養容器6のウェルの底面上に塗布される細胞塗布動作である。
【0050】
細胞塗布動作においては、第1塗布針7Aが第1塗布容器10Aの塗布液溜り10aを通り抜けて、培養容器6のウェルの底面上に細胞を含む第1塗布液11Aが接触塗布される。この接触塗布とは、第1塗布針7Aの先端9aに保持されている極微量の第1塗布液11Aがウェルの底面に接触して塗布されるものであり、第1塗布針7Aの先端9aとウェルの底面との当接による塗布とは異なるものである。
【0051】
図3の(a)は、細胞塗布動作における第1塗布針7Aの塗布液浸漬状態を示している。この塗布液浸漬状態においては、第1塗布針7Aが上部孔10bから塗布液溜り10aに挿入されており、第1塗布針7Aの先端9aが塗布液溜り10aの第1塗布液11Aに浸漬している。この塗布液浸漬状態においては、第1塗布針7Aの先端9aが第1塗布液11Aに浸漬しているため、先端9aに付着する第1塗布液11Aが乾燥しない構成である。このとき、第1塗布容器10Aの下部孔10cの直径は微細(例えば、1mm以下)であるため、第1塗布液11Aが塗布液溜り10aから漏洩することはない。
【0052】
図3の(b)は、第1塗布針7Aの先端9aが第1塗布容器10Aの下部孔10cから突出して、先端9aが保持する第1塗布液11Aが培養容器6のウェルの底面に接触している塗布状態を示している。即ち、第1塗布針7Aの先端9aが塗布液溜り10aを貫通して突出した下降状態においては、第1塗布針7Aの先端部分には一定量の第1塗布液11Aが保持されている。このため、第1塗布針7Aの先端9aに保持された第1塗布液11Aがウェルの底面に接触することにより、第1塗布液11Aが第1塗布針7Aの先端9aからウェルの底面に移動し接触塗布される。培養容器6のウェルの底面に移動した微細な液滴スポットSは、その表面張力によりウェルの底面上に略半球状に盛り上がった状態となる。
【0053】
上記の第1塗布針7Aによる細胞塗布動作が、所定回数繰り返されて、第1塗布液11Aがウェルの底面上に接触塗布される。第1塗布針7Aによる所定回数の細胞塗布動作において、2回目以降の接触塗布では第1塗布針7Aの先端9aに保持されている第1塗布液11Aとウェルの底面上に塗布された第1塗布液11Aの液滴スポットSとの接触により塗布される。このように、細胞塗布動作が所定回数(例えば、10回)繰り返されて、第1塗布液11Aが接触塗布され、ウェルの底面上には微細な液滴スポットSが形成される。例えば、10回の細胞塗布動作を行うことにより、第1塗布針7Aの先端9aの直径が330μmの場合には、略250~300μmの直径の液滴スポットSが形成される。
【0054】
上記のように、
図3の(a)、(b)に示す第1塗布針7Aによる細胞塗布動作が所定回数(例えば、10回)繰り返されて、培養容器6のウェルの底面上には微細な液滴スポットSが形成される。第1塗布液11Aの液滴スポットSが形成された後、第2塗布機構4Bの第2塗布針7Bによる第2塗布動作が実行される。第2塗布動作においては、第2塗布液11Bが、形成された第1塗布液11Aの液滴スポットSに対して1回だけ接触塗布される。第1塗布液11Aは細胞を懸濁した第1ゲル化剤であり、第2塗布液11Bは第1ゲル化剤との混合により反応してゲル化する第2ゲル化剤である。第2ゲル化剤である第2塗布液11Bが第1塗布液11Aに対して覆い被さるように接触塗布されることにより、互いに十分に反応して液滴スポットSが確実にゲル化する。
【0055】
図4の(a)に示す(a-1)~(a-4)の図は、第1塗布針7Aによる1回の第1塗布動作(細胞塗布動作)の動きを模式的に示した図である。
図4の(b)に示す(b-1)~(b-3)の図は、は第2塗布針7Bによる第2塗布動作を模式的に示した図である。
図4の(a)においては、第1塗布針7Aの先端9aに極微量の第1塗布液11Aが保持された状態(a-1)と、塗布対象物である培養容器6のウェルの底面上に第1塗布針7Aの先端9aの第1塗布液11Aが接触した状態(a-2)と、第1塗布針7Aの先端9aが第1塗布液11Aが接触して上昇直後の状態(a-3)と、第1塗布針7Aの先端9aがウェルの底面から上昇してウェルの底面上に微細な液滴スポットS(高さZ1)が形成された状態(a-4)と、を模式的に示している。
【0056】
実施形態1の微細塗布装置1においては、
図4の(a)に示す第1塗布動作が所定回数、例えば、10回繰り返されて、細胞が懸濁された第1ゲル化剤である第1塗布液11Aの液滴スポットS(高さZ2)が形成される。第1塗布液11Aの液滴スポットS(高さZ2)に対して、
図4の(b)に示すように、第2塗布針7Bの先端9bに保持された第2ゲル化剤である第2塗布液11Bが接触塗布される。
【0057】
実施形態1の微細塗布装置1においては、第1塗布動作に用いられる第1塗布針7Aの先端9aの直径が、例えば330μmであり、第2塗布動作に用いられる第2塗布針7Bの先端9bの直径が、例えば1000μmである。このため、第2塗布針7Bによる塗布量は、第1塗布針7Aによる塗布量に比べて多く、第1塗布針7Aによる第1塗布動作において形成された第1塗布液11Aの微細な液滴スポットSに対して、第2塗布針7Bによる第2塗布動作により、第2塗布液11Bが確実に覆う状態となる。
【0058】
上記のように、第1塗布針7Aによる所定回数の第1塗布動作(
図4の(a))を行い、その後、第2塗布針7Bによる第2塗布動作(
図4の(b))を行うことにより、第2塗布液11Bが第1塗布液11Aを覆うように塗布されて、第1塗布液11Aと第2塗布液11Bが反応して、ゲル化した細胞チップまたは細胞組織チップが作製される。
【0059】
なお、第1塗布針7Aによる塗布量と、第2塗布針7Bによる塗布量が大きく異なっており、第2塗布液11Bの消費量が第1塗布液11Aの消費量に比べて多いため、第2塗布液容器10Bの容量を第1塗布液容器10Aに比べて大きくしてもよい。即ち、第2塗布液容器10Bに貯留される第2塗布液11Bの貯容量を、第1塗布液容器10Aに貯留される第2塗布液11Aの貯容量より大きく構成してもよい。
【0060】
図5の(a)は第1塗布針7Aによる第1塗布動作における先端9aの動きを示す動作図であり、
図5の(b)は第2塗布針7Bによる第2塗布動作における先端9aの動きを示す動作図である。
図5の(a)および(b)の動作図において、縦軸が塗布針先端位置を示し、横軸が時間を示している。
【0061】
図5の(a)に示すように、第1塗布針7Aの第1塗布動作(往復動作)においては、その先端9aが上限位置P1aから第1塗布速度V1aで下降し、予め設定された塗布直前の速度変更位置P2aに達したとき、第1塗布速度V1aより遅い第2塗布速度V2aで低速下降する。第1塗布針7Aの先端9aが第2塗布速度V2aで下降して、接触塗布位置P3aで先端9aに保持された第1塗布液11Aが接触塗布される。接触塗布位置P3aに関しては、塗布対象物である培養容器6のウェル底面の位置および高さを評価系装置5Bに設けられている位置計測機器等による検出データに基づいて算出して、予め設定してもよい。また、接触塗布位置P3aに関しては、第1塗布動作における塗布最初の原点位置を予め検出して設定し、その原点位置に基づいて塗布動作における2回目以降の接触塗布位置P3aを設定してもよい。即ち、第1塗布針7Aによる複数回の塗布動作においては、塗布動作を1回行う度に接触塗布が可能な範囲で接触塗布位置P3aを徐々に上げる設定としてもよい。
【0062】
第1塗布動作において、接触塗布位置P3aで接触塗布した後は、初期位置である上限位置P1aに復帰速度V3で戻り、次の塗布動作を繰り返す。
図5の(a)に示すように、1回の塗布動作において、上限位置P1a(時間T1a)から速度変更位置P2a(時間T2a)までを第1塗布速度V1aで下降し、速度変更位置P2a(時間T2a)から接触塗布位置P3a(時間T3a)までを第2塗布速度V2a(<V1a)で下降して接触塗布する。接触塗布後は、上限位置P1a(時間T4a)まで所定の復帰速度V3で上昇する。
【0063】
実施形態1の微細塗布装置1においては、接触塗布位置P3aに到達するときの第1塗布針7Aの第2塗布速度V2aは第1塗布速度V1aに比して低速度であるため、第1塗布針7Aの先端9aは設定された接触塗布位置P3aに対して精度高く配置することができ、微細な塗布動作を行うことができる。なお、第1塗布針7Aの先端9aが塗布対象物である基板表面に接触したとしても、接触衝撃は小さいものとなり、細胞に対する影響を小さいものとすることができる。
【0064】
一方、第2塗布針7Bによる第2塗布動作においては、
図5の(b)に示すように、第1塗布針7Aの第1塗布動作(
図5の(a))に比べて低速度に設定されている。第2塗布針7Bの第2塗布動作においては、第2塗布針7Bの先端9aが上限位置P1bから第1塗布速度V1b(V1b<V1a)で下降し、予め設定された塗布直前の速度変更位置P2b(P2b=P2a)に達したとき、第1塗布速度V1bより遅い第2塗布速度V2bで低速下降する。第2塗布針7Bの先端9aが第2塗布速度V2bで下降して、接触塗布位置P3bで先端9aに保持された第2塗布液11Bが第1塗布液11Aの液滴スポットSに対して接触塗布される。接触塗布位置P3bは、評価系装置5Bに設けられている位置計測機器により、第1塗布液11Aの液滴スポットSの位置、および高さを示す検出データに基づいて算出し、設定してもよい。
【0065】
第2塗布動作において、接触塗布位置P3bで接触塗布した後は、初期位置である上限位置P1bに復帰速度V3で戻る。
図5の(b)に示すように、第2塗布動作において、上限位置P1b(時間T1b)から速度変更位置P2b(時間T2b)までを第1塗布速度V1b(<V1a)で下降し、速度変更位置P2b(時間T2b)から接触塗布位置P3b(時間T3b)までを第2塗布速度V2b(<V1b)で下降して接触塗布する。接触塗布後は、上限位置P1b(時間T4b)まで所定の復帰速度V3で上昇する。
【0066】
図6は、実施形態1の微細塗布装置1において、第1塗布機構4Aによる第1塗布動作と、第2塗布機構4Bによる第2塗布動作との連続塗布動作を示す動作図である。
図6に示す第1塗布機構4Aによる第1塗布動作においては、第1塗布針7Aにより第1塗布液11Aが塗布対象物である培養容器6に対して10回の接触塗布が実行されている。
【0067】
図6に示すように、第1塗布動作における10回の接触塗布においては、第1塗布針7Aの最下点位置である接触塗布位置P3aが、1回の接触塗布が終了する度に徐々に上方へ移動するように設定されている。実施形態1の微細塗布装置1における第1塗布動作では、例えば、接触塗布位置P3aを各接触塗布毎に数μmだけ上方に移動させている。
【0068】
発明者は、第1塗布機構4Aによる第1塗布動作により形成される液滴スポットSの形状(塗布径および塗布高さ)について計測実験を行った。
図7は、塗布回数と液滴スポットSの形状(塗布径および塗布高さ)との関係の一例を示すグラフである。
【0069】
図7に示すように、液滴スポットSの塗布径においては塗布回数が5回目までは徐々に大きくなり、6回目以降は塗布径が大きく変わることがなかった。また、液滴スポットSの塗布高さに関しては、1回目の塗布で最終的な塗布高さの約半分の高さの液滴スポットSが形成されており、その後においては5回目までに最終的な塗布高さと略同等の液滴スポットSが形成されている。
図7に示す例の場合には、5回の塗布回数を行うことにより液滴スポットSの形状が略決定されていた。但し、塗布回数と液滴スポットSの形状との関係は、塗布液の粘性などの特性により大きく変化するため、少なくとも10回の塗布回数を行うことにより、液滴スポットSの形状が安定すると考えられる。
【0070】
実施形態1の微細塗布装置1においては、塗布針先端に保持されている塗布液が塗布対象物(培養容器のウェル底面または液滴スポット等)に接触することにより、塗布液を塗布する接触塗布という特殊な塗布動作を行っている。このため、塗布対象物に形成された液滴スポットSに対して接触塗布されても、塗布針先端に保持されている塗布液の全てが基板上の液滴スポットSに移行する塗布動作ではない。接触塗布においては、塗布される液滴スポットSの塗布量および形状は、塗布針先端に保持されている塗布液の保持量および塗布液の特性、そして塗布対象物の表面性状(表面粗さ)等で決定されると考えられる。
【0071】
上記のように第1塗布動作が終了した後においては、所定時間の間にXYテーブル3上の塗布対象物を第1塗布針7Aの直下から、第2塗布針7Bの直下に移動して、第2塗布針7Bによる第2塗布動作が開始される。第2塗布動作においては、第1塗布液11Aの液滴スポットSを覆うように第2塗布液11Bが第2塗布針7Bにより接触塗布される。
【0072】
なお、細胞を懸濁した第1塗布液11A(第1ゲル化剤)を第1塗布針7Aで塗布した後、第2塗布針7Bで第2塗布液11B(第2ゲル化剤)を塗布するまでに、僅かな時間(
図6における切替時間Tc)を有しているため、第1塗布液11Aの液滴スポットSにおいて適度に緩衝して細胞が安定し、第1塗布液11Aに懸濁した細胞の流出を防止することができる。
【0073】
実施形態1の微細塗布装置1においては、
図5の動作図に示したように、第1塗布機構4Aによる第1塗布針7Aの第1塗布動作における塗布対象物に最も近づくときの近接速度(V2a)を遅くする(V2a<V1a)設定である。塗布液における粘性等の特性によっては、近接速度を遅くするだけでは第1塗布針7Aの先端9aに保持する塗布量が一定とならない場合が生じる。このように先端9aの近接速度を遅くするだけでは、一定の塗布量を安定して塗布できないときには、塗布対象物の直前の位置である速度変更位置P2aにおいて第1塗布針7Aを一旦所定時間停止させることにより、第1塗布針7Aの先端9aに保持する第1塗布液11Aの量を均一化することが可能となる。
【0074】
図8は、第1塗布針7Aを塗布対象物の直前の速度変更位置P2aで一旦所定時間停止させる第3塗布動作を示す第1塗布針7Aの先端9aの動作図である。
図8に示すように、第1塗布針7Aの先端9aは、第1塗布速度V1aで下降して速度変更位置P2aに達した時(T2)、微少な所定時間(T2→T2’)だけ停止しており、この所定時間経過後に再び第2塗布速度V2aで塗布対象物に向かって下降して接触塗布している。このように第1塗布針7Aの先端9aを塗布対象物の直前位置で微少な所定時間だけ停止させることにより、第1塗布液11Aの先端9aによる保持量を均一化することができる。このため、第1塗布機構4Aにおいて第1塗布針7Aの第3塗布動作を行うことにより、塗布対象物に対して、塗布液の特性に応じて一定の塗布量を安定して信頼性高く塗布することが可能となる。
【0075】
上記のように、第3塗布動作においては、速度変更位置P2aで一旦停止し、所定時間(X)経過後に停止前の第1塗布速度V1aより遅い第2塗布速度V2aで接触塗布位置P3aに下降する。接触塗布位置P3aで接触塗布した後は、初期位置である上限位置P1aに復帰速度V3で戻り、次の塗布動作を繰り返す。
図8に示すように、1回の塗布動作において、上限位置P1a(時間
T1)から速度変更位置P2a(時間
T2)までを第1塗布速度V1aで下降し、所定時間(X)経過後に速度変更位置P2a(時間
T2’)から接触塗布位置P3a(時間
T3c)までを第2塗布速度V2a(<V1a)で下降して接触塗布する。接触塗布後は、上限位置P1a(時間T4c)まで所定の復帰速度V3で上昇する。
【0076】
なお、
図8は、第1塗布針7Aの第3塗布動作を示したが、この第3塗布動作は第2塗布針7Bにおいても同様の塗布動作を行うことが可能である。即ち、第2塗布針7Bの先端に保持された第2塗布液11Bが塗布対象物に接触する直前で、第2塗布針7Bを一旦所定時間停止後に停止前の塗布速度より遅くして接触させてもよい。このように第2塗布針7Bの先端9aを塗布対象物の直前位置で微少な所定時間だけ停止させることにより、第2塗布液11Bの先端9aによる保持量を均一化することができる。
【0077】
図9は、
図8に示した第1塗布針7Aの第3塗布動作と、
図5の(b)に示した第2塗布針7Bの第2塗布動作との連続塗布動作を示す動作図である。
図9に示す第1塗布針7Aによる第3塗布動作においては、第1塗布針7Aにより第1塗布液11Aが塗布対象物である培養容器6に対して10回の接触塗布が行われている。
【0078】
図9に示す第3塗布動作においては、
図6に示した第1塗布動作と同様に、第1塗布針7Aの最下点位置である接触塗布位置P3aが、1回の塗布が終了する度に徐々に上方へ移動するように設定されている。また、第3塗布動作が終了後の所定時間の切替時間(Tc)経過後において第2塗布針7Bにより第2塗布液11Bが第1塗布液11Aの液滴スポットSに対して接触塗布される。
【0079】
実施形態1における微細塗布装置1の塗布動作においては、塗布針7(7A,7B)の先端9aに極微量な塗布液11(11A,11B)を付着させて塗布対象物に接触させることにより、数pL(ピコリットル)の塗布量の液滴スポットSを高い配置精度、例えば±15μm以下、好ましくは±3μm以下の配置精度で塗布し形成することができる。また、塗布液11の粘度としては、1×105mPa・s以下の材料を塗布することが可能であり、高粘度の細胞分散液の塗布が可能となる。実施形態1における微細塗布装置1の塗布動作おいては、インクジェットプリンタ等のノズルを用いたプリンタでは目詰まり等の問題を有するため使用できなかった粘度10mPa・s以上、1×105mPa・s以下の材料を塗布材料として使用することが可能となる。また、塗布針7の先端9aに保持した極微量な塗布液11を塗布対象物に接触させて塗布するため、塗布針7の鉛直方向位置のバラツキに影響されることなく、塗布液11を安定して繰り返し塗布することができる。このように、実施形態1の塗布ユニット4および微細塗布装置1の塗布動作によれば、高粘度の細胞分散液を塗布対象物に対して所定の位置に精密塗布することができるため、任意のパターニングを有する細胞チップ、細胞を立体的に造形した細胞組織チップを製造することができる。このため、本発明に係る実施形態1の細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、製造された細胞チップおよび細胞組織チップが、薬剤の薬効、安全性の評価のスクリーニング等の創薬研究および再生医療の分野において利用されて、各分野における進展に効果を奏するものである。
【0080】
(実験例)
以下、実施形態1において説明した微細塗布装置1を用いて発明者らが実施した具体的な実験について説明する。但し、以下の説明において記載した物質名や具体的な塗布条件は、一例として示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
以下の実験においては、実施形態1の微細塗布装置1を用いて2液性ゲル化剤による塗布実験を行った。
【0082】
この塗布実験においては、第1塗布機構4Aの第1塗布針7Aとして先端直径が330μmを用い、第2塗布機構4Bの第2塗布針7Bとして先端直径が1000μmを用いた。2液性ゲル化剤における第1塗布液11A(第1ゲル化剤)としては、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を4×107cells/mLの濃度で20mg/mLのフィブリノゲン溶液に分散させた溶液(懸濁液)を用いた。一方、第2塗布液11B(第2ゲル化剤)としては、800unit/mLのトロンビン溶液を用いた。
【0083】
塗布実験においては、
図9に示したように第1塗布針7Aによる第3塗布動作(
図8参照)と、第2塗布針7Bによる第2塗布動作(
図5の(b)参照)を行った。
【0084】
先ず、第1塗布針7Aによる第3塗布動作において、第1塗布針7Aが第1塗布速度V1aで下降し、第1塗布針7Aによる塗布量を安定させるために、速度変更位置P2で第1塗布針7Aを一旦所定時間(
図8における期間(T2→T2’):X)静止させる。第1塗布針7Aが所定時間Xだけ静止することにより、先端9aに保持される第1塗布液11Aが安定する。第1塗布針7Aが所定時間Xだけ静止した後、第1塗布針7Aが第1塗布速度V1aより遅い第2塗布速度V2aで最下端である接触塗布位置P3aまで下降して、接触塗布する。最下端である接触塗布位置P3aは、1回塗布する毎に数μm上方へ移動させている。この塗布する毎の接触塗布位置P3aの移動距離は、経験則に基づいて予め設定されているが、微細塗布装置1の評価系装置5Bに設けられている位置計測機器等による計測された塗布スポットの高さに応じて設定してもよい。塗布実験においては、第1塗布針7Aの1回の塗布により形成される液滴スポットSの高さZ1より低い高さを第1塗布針7Aが1回塗布する毎に上方へ移動する移動距離としている。
【0085】
塗布実験における第1塗布針7Aによる第3塗布動作では、上記のように針先先端位置を上昇させて、塗布対象物であるプラスチック製カバースリップであるセルデスクLF(登録商標)(住友ベークライト株式会社製)の培養容器6のウェル底面上に10回連続して接触塗布して液滴スポットSを形成した。
【0086】
第1塗布針7Aによる第3塗布動作が終了した後、ウェル底面上の第1塗布液11Aの液滴スポットSを数秒間(
図9における切替時間Tc)放置して、液滴スポットSが安定した後、第2塗布針7Bによる第2塗布動作を開始した。第2塗布動作においては、第2塗布針7Bの先端9aに保持された第2塗布液11Bがウェル底面上の第1塗布液11Aの液滴スポットSに確実に接触して塗布できるように、第2塗布針7Bの先端位置が設定される。例えば、第2塗布針7Bの先端位置は、ウェル底面上の第1塗布液11Aの液滴スポットSの高さZ2(10回塗布後の高さ)に設定されてもよく、第2塗布針7Bの先端9aから垂れ下がる第2塗布液11Bの最下点位置を考慮して設定してもよい。このように第2塗布針7Bの先端位置を設定することにより、第2塗布液11Bが第1塗布液11Aの液滴スポットSの上面に確実に接触塗布される。この結果、第2塗布液11Bの第2ゲル化剤であるトロンビンが、第1塗布液11Aであるヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を含むフィブリノゲン溶液の懸濁液を覆うように塗布され(
図4の(b)参照)、液滴スポットSをゲル化による組織固定して、細胞組織チップを作製した。作製した細胞組織チップの観察結果を
図10および
図11に示す。
【0087】
図10は、第1塗布液11Aの液滴スポットSに対して第2塗布液11Bが塗布された直後(0日間培養)の組織体の状態を示す画像である。
図11は、
図10に示した組織体を3日間培養したときの状態を示す画像である。
図11に示すように、3日間培養の培養により細胞組織体(細胞集合体)の構造が確認され、細胞組織チップが確実に構築されていることが確認できた。
【0088】
また、発明者は、塗布針7の先端直径を変更して塗布実験を行い、塗布針7の先端直径と、基板上に塗布された液滴スポットSに含まれる塗布細胞数とを計測した。この実験においては、第1塗布液11AとしてiPS-CMを4×10
7cells/mLの濃度でPBS溶液に分散させた懸濁液を用いた。実験の結果、1回の塗布で、塗布針7の先端直径が50μmのとき液滴スポットSには平均1.1個の塗布細胞が存在し、先端直径が100μmのときの液滴スポットSには平均4.0個の塗布細胞が存在し、先端直径が150μmのときの液滴スポットSには平均4.5個の塗布細胞が存在し、先端直径が200μmのときの液滴スポットSには平均19.1個の塗布細胞が存在していた。そして先端直径が330μmの塗布針7で1回塗布したとき液滴スポットSには平均85.3個の塗布細胞が存在していた。
図12は、塗布針7の先端直径と、液滴スポットSに含まれる塗布細胞数との関係を考察するための実験結果を示すグラフである。
図12において、縦軸が塗布細胞数[cells/spot]を示し、横軸が塗布針7の先端直径[μm]を示す。
【0089】
図12のグラフに示すように、塗布針7の先端直径が大きいほど液滴スポットSにおける塗布細胞は多く存在していた。従って、実施形態1の微細塗布装置1においては、第1塗布針7Aの先端直径を選択することにより、塗布対象物の基板等に対して所望の塗布細胞数を有する液滴スポットSを形成することが可能となることが理解できる。即ち、塗布針7の先端直径、溶液細胞濃度、溶液粘度等を選択することにより、所望の細胞チップおよび細胞組織チップの製造を行うことが可能となる。
【0090】
図13は、先端直径が330μmの第1塗布針7Aを用いて第3塗布動作(10回の接触塗布)を行った場合の塗布細胞数を計測した実験結果を示すグラフである。
図13において、縦軸が塗布細胞数[cells/spot]を示し、横軸が第1塗布針7Aによる塗布回数を示している。この塗布実験においては、第1塗布液11AとしてiPS-CMを4×10
7cells/mLの濃度で20mg/mLのフィブリノゲン溶液に分散させた溶液を用いた。
図13に示すように、第1塗布針7Aがウェル底面上に第1塗布液11Aを10回塗布した場合には、平均162.4個の塗布細胞が存在していた(4回の実験)。なお、
図12および
図13のグラフにおいては、塗布細胞数の標準偏差(正方向)をエラーバーで示している。
【0091】
上記のように、実施形態1の微細塗布装置1においては、第1塗布針7Aを有する第1塗布機構4Aにより所望の細胞数を含む液滴スポットSを形成することができると共に、形成された第1塗布液11Aの液滴スポットSに対して、第2塗布針7Bを有する第2塗布機構4Bにより第2塗布液11Bを確実に塗布して反応させ、ゲル化した細胞チップまたは細胞組織チップを確実に製造することができる。
【0092】
なお、実施形態1の微細塗布装置1においては、塗布針7が塗布液容器10の塗布液溜り10aを貫通して塗布対象物に接触塗布する構成であるが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。例えば、塗布液溜り10aの塗布液に浸漬した塗布針7を持ち上げ、塗布対象物の塗布位置に移動させて接触塗布する構成としてもよい。このように構成された微細塗布装置においても前述の実施形態1の微細塗布装置1による効果と同様に高粘性の細胞含有ゲル化剤が材料であったとしても、所望の塗布量で形成された細胞チップおよび細胞組織チップを短時間(高速度)で確実に製造することが可能となる。
【0093】
本発明で使用できる細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、表皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、消化管細胞、神経細胞、肝細胞、腎細胞、膵細胞等の各種初代細胞、iPS細胞由来の分化細胞、並びに各種がん細胞等が使用できる。細胞としては、未修飾の細胞、またはタンパク質、糖鎖、核酸等で修飾された細胞、例えばフィブロネクチン、ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、エラスチン等の既に知られているコーティング剤、コーティング方法でコーティングされた細胞を用いることができる。
【0094】
なお、細胞含有溶液には、内包した細胞が安定して接着・増殖できる環境を与えるために、フィブロネクチン、ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、エラスチン、マトリゲル等の細胞外マトリックス成分、線維芽細胞増殖因子や血小板由来成長因子等の細胞増殖因子、その他、血管内皮細胞やリンパ管内皮細胞、各種幹細胞等の添加剤を含ませてもよい。また、ゲル化剤としてフィブリノゲンやアルギン酸、感熱応答性高分子等をふくませてもよい。
【0095】
前述の実施形態および実験例を用いて説明したように、本発明は、新たなバイオプリンタを用いて細胞チップおよび細胞組織チップを製造する新たな製造方法を提供するものである。従来のノズルを用いたプリンタを用いて製造する場合と比較して、塗布針を用いてその先端表面に付着した溶液を塗布する構成であるため、溶液が目詰まりすることがなく、細胞集合体の解像度および形成速度が向上し、より少ないサンプル量(試料)で信頼性の高い細胞チップおよび細胞組織チップを確実に製造することができる。また、従来のプリンタを用いた場合に比較して、高粘度の細胞分散液を対象物に対して塗布して、細胞チップおよび細胞組織チップを製造しているため、塗布後の細胞分散液における蒸発を抑えることができ、高い細胞生存率を維持することができる。
【0096】
本発明における微細塗布装置においては、先端に極微量な塗布液を付着させた針(塗布針)を塗布対象物(培養容器等)に接触させることにより、数pL(ピコリットル)の塗布量となる液滴を高い配置精度、例えば±15μm以下、好ましくは±3μm以下の配置精度で塗布することができる。また、塗布液の粘度としては、1×105mPa・sまでの材料を塗布することが可能であり、高粘度の細胞分散液の塗布が可能となる。
【0097】
本発明によれば、例えば2液性ゲル化剤により細胞集合体を製造することが容易なものとなり、大量の細胞集合体を高精度に製造することができる。更に、本発明によれば、粘性の高い細胞含有ゲル化剤が材料であったとしても、所望の細胞チップおよび細胞組織チップを短時間(高速度)で大量に製造することができ、製造された細胞チップおよび細胞組織チップにおいて所望の細胞密度を有して高い細胞生存率を維持することができる。
【0098】
この結果、本発明によれば、高粘度の細胞分散液を塗布対象物(培養容器等)に対して所定の位置に精密塗布することが可能となり、任意のパターニングを有する細胞チップ、細胞を立体的に造形した細胞組織チップを製造することができる。この結果、製造された細胞チップおよび細胞組織チップは、薬剤の薬効、安全性の評価のスクリーニング等の創薬研究および再生医療の分野において利用できる。
【0099】
本発明をある程度の詳細さをもって実施形態において説明したが、この構成は例示であり、この実施形態の開示内容は構成の細部において変化してしかるべきものである。本発明においては、実施形態における要素を他の要素との置換、組合せ、および順序の変更は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る細胞チップおよび細胞組織チップの製造方法は、信頼性の高い様々な細胞チップおよび細胞組織チップを大量に製造することができるため、創薬研究および再生医療を研究する上でも重要な技術であり、産業上の利用可能性が高い発明である。
【符号の説明】
【0101】
1 微細塗布装置
2 本体ベース
3 XYテーブル
4 塗布ユニット
4A 第1塗布機構
4B 第2塗布機構
5A 観察光学系装置
5B 評価系装置
6 培養容器
7 塗布針
7A 第1塗布針
7B 第2塗布針
8 針保持部
9 針部
9a 先端
10 塗布液容器
10A 第1塗布液容器
10B 第2塗布液容器
10a 塗布液溜り
10b 上部孔
10c 下部孔
11 塗布液
11A 第1塗布液(細胞含有溶液:第1ゲル化剤)
11B 第2塗布液(第2ゲル化剤)