(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】多層構造体並びにその製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20220920BHJP
H01L 41/316 20130101ALI20220920BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220920BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220920BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/316
C23C14/08 K
B32B9/00 A
B32B9/04
(21)【出願番号】P 2018119951
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 勲
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/190110(WO,A1)
【文献】特開平09-008239(JP,A)
【文献】特開2011-198927(JP,A)
【文献】特開2008-004782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/316
C23C 14/08
B32B 9/00
B32B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一主面側に絶縁層と導電層が順に重ねて配された基体と、前記基体上に誘電体膜を備えた多層構造体であって、
前記誘電体膜は不純物としてランタン(La)
及びニッケル(Ni)が
それぞれ0.1[at%]以上5[at%]以下の範囲でドープされたPZT膜である、
ことを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
前記PZT膜には、パイクロア相が含まれない、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
基板の一主面側に絶縁層と導電層が順に重ねて配された基体を用い、前記基体上に誘電体膜を形成する多層構造体の製造方法であって、
前記導電層を覆うように誘電体膜を形成する際に、ランタン(La)
及びニッケル(Ni)を含むターゲットを用いてスパッタ法により形成する、
ことを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記基体の温度を430~485℃の範囲で温度制御しつつ前記誘電体膜を形成する、請求項3に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項5】
基板の一主面側に絶縁層と導電層が順に重ねて配された基体を用い、前記基体上に誘電体膜を形成する多層構造体の製造装置であって、
ランタン(La)
及びニッケル(Ni)を含むターゲットを備えた、
ことを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の多層構造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体並びにその製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3 :PZT)等の強誘電体を用いた圧電素子は、インクジェットヘッドや加速度センサ等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術に応用されている。中でも、PZT膜は注目されており、各機関において盛んに研究されている。
【0003】
チタン酸ジルコン酸鉛等からなる強誘電体膜を形成する成膜方法として、基板に導電層を形成し、導電層を覆うように、ペロブスカイト構造を有する酸化物を含むシード層をスパッタ法により形成し、シード層を覆うように誘電体層を形成する多層膜の製造方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
このような多層膜の製造方法では、成膜時の温度マージンが狭く、安定した量産が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、本来の成膜温度よりも低い成膜温度で成膜しても高い結晶性を有する誘電体層を備えた多層構造体を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、本来の成膜温度よりも低い成膜温度で高い結晶性を有する誘電体層を成膜することができる多層構造体の製造方法を提供することを第二の目的とする。
さらに、本発明は、本来の成膜温度よりも低い成膜温度で高い結晶性を有する誘電体層を成膜することができる多層構造体の製造装置を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の多層構造体は、基板の一主面側に絶縁層と導電層が順に重ねて配された基体と、前記基体上に誘電体膜を備えた多層構造体であって、前記誘電体膜は不純物としてランタン(La)及びニッケル(Ni)がそれぞれ0.1[at%]以上5[at%]以下の範囲でドープされたPZT膜である、ことを特徴とする。
また、前記PZT膜には、パイクロア相が含まれないことが好ましい。
【0010】
上記課題を解決するために、請求項3に記載の多層構造体の製造方法は、基板の一主面側に絶縁層と導電層が順に重ねて配された基体を用い、前記基体上に誘電体膜を形成する多層膜の製造方法であって、前記導電層を覆うように誘電体膜を形成する際に、ランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むターゲットを用いてスパッタ法により形成する、ことを特徴とする。
また、前記基体の温度を430~485℃の範囲で温度制御しつつ前記誘電体膜を形成することが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するために、請求項5に記載の多層構造体の製造装置は、基板の一主面側に絶縁層と導電層が順に重ねて配された基体を用い、前記基体上に誘電体膜を形成する多層構造体の製造装置であって、ランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むターゲットを備えた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本来の成膜温度よりも低い成膜温度で成膜しても高い結晶性を有する誘電体層を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る多層構造体の一構成例を示す断面模式図。
【
図2】(a)、(b)は本実施形態に係る多層構造体の製造工程を示す断面図。
【
図3】(a)、(b)は結晶子の大きさとX線回折ピークの形状とを模式的に示す図。
【
図4】本実施形態に係る製造装置の内部構成の全体を概略的に示す断面模式図。
【
図6】本実施形態に係る成膜方法の工程の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、以下に実施形態及び実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0015】
(1)多層構造体
図1は、本実施形態に係る多層構造体の一構成例を示す断面図である。
本実施形態に係る多層構造体は、基板1の一主面側に、導電層3と、誘電体層4とが順に重ねて配されている。
【0016】
具体的には、
図1に模式的に示すように、最表面に熱酸化膜としてのSiO
2層2が形成されたシリコン(Si)からなる基板1の一主面側に、白金(Pt)からなる導電層3、誘電体層4が順に配されている。
誘電体層4は、特に限定されるものではないが、例えばチタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]、PbTiO
3、BaTiO
3、PMM-PZT、PNN-PZT、PMN-PZT、PNN-PT、PLZT、PZTN、NBT、KNN等の強誘電体からなる。
【0017】
その中でも特に、誘電体層4としては、不純物がドープされた、例えば鉛(Pb)、ジルコニア(Zr)、チタン(Ti)、酸素(O)を含む、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]であることが好ましい。不純物としては、ランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)が挙げられる。
【0018】
図2(a)、(b)は、本実施形態に係る多層構造体の製造工程を示す断面図である。この多層構造体は、以下に述べるような製造方法により形成される。
本発明の実施形態に係る多層膜の製造方法は、最表面に熱酸化膜としてのSiO
2層2が形成されたシリコン(Si)からなる基板1の一主面側に、白金(Pt)からなる導電層3を形成する工程A[
図2(a)]と、導電層3を覆うように誘電体膜4を形成する工程B[
図2(b)]と、を少なくとも備える。このような多層構造体1の製造方法の工程Bにおいては、ランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)を含むターゲットを用いてスパッタ法により形成する。
【0019】
前記工程Bにおいて、導電層3上にPZT膜からなる誘電体層5を成膜する際に、ランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)をドープするようにスパッタ法により形成しているので、より低温での成膜が可能となり、クラックを生じさせずに結晶化したペロブスカイト構造のPZT誘電体膜を形成することができる。
【0020】
図3(a)、(b)は、結晶子の大きさとX線回折ピークの形状とを模式的に示す図である。
図3(a)に示すように、結晶子がよく成長している場合は、半値幅が狭く、鋭い形状のピークが観測される。これに対して、
図3(b)に示すように、結晶子が小さい場合は、半値幅が広がり、鈍った形状のピークが観測される。
【0021】
また、スパッタ法でPZT膜を成膜する場合、成膜終了時には十分に結晶化していないために、成膜後に結晶化を図るために熱処理を行う必要があった。PZT膜の結晶には、目的としている圧電性を持ったペロブスカイト相の他に、準安定相である圧電性を有しないパイロクロア相がある。
従来は、パイロクロア相が含まれた結晶が得られ易く、パイロクロア相を含まず、高い結晶性を有する誘電体膜を得ることが極めて困難であった。
【0022】
後述するような本実施形態に係る多層構造体の製造方法を採用することにより、ランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)をドープして成膜された誘電体膜4は、パイロクロア相を含まず、高い結晶性を有する。
この多層構造体1は、例えば、アルミ配線を有するCMOS基板に、高い圧電性と耐圧性を有するPZT膜を形成した、例えば圧電素子等に好適に用いられる。
【0023】
(2)多層構造体の製造装置
(2.1)製造装置の全体構成
図4は多層構造体の製造装置10の内部構成の全体を概略的に示す断面模式図、
図5は
図4における付近A1を示す要部断面模式図である。
【0024】
製造装置10は、真空槽11と、ターゲット21と、第一の支持部101と、温度制御部105、106と、スパッタ電源13と、スパッタガス導入部14と、第一の防着板34と、第二の防着板35とを備えている。
【0025】
真空槽11の内部には、基体の一例としての処理基板100の表面に成膜しようする膜の組成に応じて所定形状に作製されたターゲット21が配置されている。ターゲット21としては、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]膜を構成する3元素と、ランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)から構成されるものであり、処理対象物Wの輪郭に対応する平面視形状に形成されている。
【0026】
第一の支持部101は、ターゲット21と対面する位置に配置され、処理基板100が載置される。
また、第一の支持部101には処理基板100を静電吸着する手段が内在されている(不図示)。第一の支持部101の表面101a(
図5においては上面)に処理基板100を載置し静電吸着させることにより、処理基板100の裏面は第一の支持部101の表面に密着し、処理基板100は第一の支持部101と熱的に接続される。
【0027】
処理基板100が載置される第一の支持部101は、その外周域の底面が第二の支持部102によって保持され、第二の支持部102は支柱103を介して真空槽11の底面に固定されている。
第一の支持部101の外周は処理基板100の外周とほぼ同じ大きさで、第一の支持部101の表面101aはターゲット21の表面と対向するように配されている。これにより、第一の支持部101に載置された処理基板100の被成膜面100aも、ターゲット21の表面21aと対向配置される。
【0028】
第一の支持部101は、外周域の底面101bが第二の支持部102によって保持され、第一の支持部101の裏面101c(
図2においては下面)は、離間して配置された温度制御部105、106と対向している。
【0029】
温度制御部105、106は、第一の支持部101に載置された処理基板100を加熱/冷却して基体温度を調整する。スパッタ電源13は、ターゲット21に電圧を印加する。スパッタガス導入部14は、真空槽11内にスパッタガスを導入する。
第一の防着板34および第二の防着板35は、真空槽11内で、ターゲット21から放出された粒子が付着する位置に配置されている。
【0030】
真空槽11の上部壁面には、カソード電極22が絶縁部材28を介して配置されており、カソード電極22と真空槽11とは電気的に絶縁され、真空槽11は接地電位とされている。カソード電極22の一面側は局部的に真空槽11内に露出されている。ターゲット21はカソード電極22の一面側のうち露出された領域の中央部に密着して固定され、ターゲット21とカソード電極22とは電気的に接続されている。
【0031】
スパッタ電源13は真空槽11の外側に配置されている。スパッタ電源13は、カソード電極22と電気的に接続され、カソード電極22を介してターゲット21に交流電圧を印加可能となっている。
カソード電極22のターゲット21とは反対側、すなわちカソード電極22の他面側には磁石装置29が配置されている。磁石装置29はターゲット21の表面に磁力線を形成するように構成されている。
【0032】
温度制御部105、106は、内蔵された発熱部材(不図示)と加熱用電源17とを有している。
発熱部材としては例えばSiCが用いられる。発熱部材は、第一の支持部101を挟んで処理基板100とは反対側の位置に配されている。
【0033】
加熱用電源17は発熱部材と電気的に接続されている。加熱用電源17から発熱部材に直流電流が供給されると、発熱部材が発する熱が、第一の支持部101を通して、第一の支持部101に載置された処理基板100と第二の防着板35とへ伝わる。これにより、処理基板100と第二の防着板35が同時に温度制御される。
【0034】
本実施形態においては、特に430~485[℃]の範囲で温度制御することで、より低温での成膜が可能となり、クラックを生じさせずに結晶化したペロブスカイト構造のPZT誘電体膜を形成することができる。また、製造装置10の運転管理においては、処理基板100を導入するときの第一の支持部101の温度を、例えば、300[℃]前後に保ったアイドル状態から、成膜時に第一の支持部101の温度を所定の成膜温度(430~485[℃])に上昇させる温度サイクルが緩和される。
【0035】
また、温度制御部105、106に内蔵された発熱部材(不図示)を挟んで第一の支持部101とは反対側に、すなわち温度制御部105、106の下方に、冷却部(不図示)を配置してもよい。たとえば、冷却部の内部に温度管理された冷却媒体を循環させるように構成することにより、発熱部材が発熱しても真空槽11の壁面の加熱を防止することができる。
【0036】
スパッタガス導入部14は真空槽11内に接続され、真空槽11内にスパッタガスを導入できるように構成されている。
【0037】
(3)多層構造体の成膜方法
図6は本実施形態に係る多層膜の成膜方法の工程の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS101で、
図4、
図5に示す製造装置10において、真空槽11内に設けられたカソード電極22に、ターゲット21を装着して保持させるとともに、真空槽11内において、カソード電極22と対向する位置に離間して配置された第一の支持部101に多層膜を成膜する処理基板100を載置して保持させる。
【0038】
次いで、ステップS102において、真空槽11の内部空間を、真空排気装置15により減圧し、以後、真空排気を継続して真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
そして、スパッタガス導入部14から真空槽11内にスパッタガスとしてArガスを導入すると同時に、ステップS103において、スパッタ電源13からカソード電極22に高周波(負の高周波電力)を印加して、カソード電極22を放電させて、真空槽11内に導入されたArガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラスイオンを生成させ、プラズマ空間が形成される。
【0039】
次いで、ステップS104においては、ステップS103で形成されたプラズマ空間内のプラスイオンは、カソード電極22に保持されたターゲット21をスパッタし、スパッタされたターゲット21の構成元素は、ターゲット21から放出され、中性あるいはイオン化された状態で、第一の支持部101に保持された処理基板100の一主面側にPt導電層3が形成される。
【0040】
次に、Pt導電層3を覆うように誘電体層4を形成する。誘電体層4として、PZT膜をスパッタ法により形成する。
ターゲット21として、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]膜を構成する3元素と、不純物としてランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを真空槽11に設置する。真空槽11の内部空間を、真空排気装置15により減圧して、成膜時の圧力雰囲気よりも高真空排気された真空雰囲気の状態を維持しながら、Pt導電層3が予め設けてある基板のPt導電層3が、PZTターゲット21のスパッタ面と対向するように、第一の支持部101に基板を保持させる(ステップS105)。
【0041】
続いて、加熱用電源17に接続された温度制御部105、106を温度制御しながら、第一の支持部101に保持された基板の基板温度を400~520[℃]の範囲に保持しながら、スパッタガス導入部14から真空槽11内に、スパッタガスとしてArガスと酸素ガスとを導入し、スパッタ電源13からカソード電極22に交流電圧を印加することにより、PZTターゲットのスパッタを開始する(ステップS106)。これにより、基板の一主面側にあるPt導電層3の上に、ランタン(La)及び/又はニッケル(Ni)がドープされたチタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]からなるペロブスカイト構造を有するPZT膜が形成される(S107)。
【0042】
そして、基板上に所定の膜厚のPZT膜を成膜した後、スパッタ電源13からカソード電極22への電圧印加を停止し、スパッタガス導入部14から真空槽11内へのスパッタガスの導入を停止する。
また、加熱用電源17から温度制御部105、106への電流の供給を停止して、温度制御部105、106を冷却し、基板を成膜温度(430~485[℃])よりも低い温度(例えば、300[℃])に降温させ、その温度を保持させる。
【0043】
以上の成膜プロセスを実行することにより、本来の成膜温度である600~700[℃]よりも低い成膜温度である430~485[℃]の範囲で成膜しても、パイロクロア相を含まず、高い結晶性を有する誘電体層4を形成することができる。また、冷却も急冷ではなく、クラックを生じさせずに成膜の歩留まりを向上させることができる。
[実験例]
【0044】
図7サンプル1~サンプル3のPZT膜について結晶構造を示す回折ピークを示す図、
図8はサンプル1で成膜されたPZT膜の結晶構造を示す回折ピークを示す図、
図9はサンプル2で成膜されたPZT膜の結晶構造を示す回折ピークを示す図、
図10はサンプル3で成膜されたPZT膜の結晶構造を示す回折ピークを示す図である。
以上説明した製造装置10及び製造方法を用いて不純物のドープ条件及び成膜温度条件を変えて多層構造体の成膜実験を行った結果を説明する。
【0045】
[多層膜]
実験例において製膜実験を行った多層膜は、
図1に示すように、基板1の一主面側に、導電層3と、誘電体層4とが順に重ねて配された多層膜である。
具体的には、最表面に熱酸化膜としてのSiO
2層2が形成されたシリコン(Si)からなる基板1の一主面側に、白金(Pt)からなる導電層3、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]からなる誘電体層4が順に配されている。
【0046】
本実験例においては、基板1として直径が200mm(8インチ)のSiウェハに、Pt膜からなる導電層3を予め積層した基板を用いて、Pt導電層3を覆うように、PZT膜からなる誘電体層4を、それぞれ基板温度を430[℃]、485[℃]の2水準、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]のみからなるPZTターゲットと、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]とランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用いて成膜して、得られたサンプル1~サンプル3のPZT膜について、PZT膜の結晶構造をX線回折法を用いて解析した。
【0047】
[実験例1]
本例では、基板温度の条件を430[℃]、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]のみからなるPZTターゲットを用い、PZT膜を形成した。本例で作製した試料をサンプル1と呼ぶ。
【0048】
[実験例2]
本例では、基板温度の条件を430[℃]、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]とランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用い、PZT膜中のランタン(La)とニッケル(Ni)がそれぞれ1[at%]となるように形成した。本例で作製した試料をサンプル2と呼ぶ。
【0049】
[実験例3]
本例では、基板温度の条件を485[℃]、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]とランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用い、PZT膜中のランタン(La)とニッケル(Ni)がそれぞれ1[at%]となるように形成した。本例で作製した試料をサンプル3と呼ぶ。
【0050】
これらの各実験例のサンプル1~3について、X線回折法を用いてPZT膜の結晶構造を解析した結果を
図7に示す。また、
図8にはサンプル1で成膜されたPZT膜の結晶構造を示す回折ピークを、
図9にはサンプル2で成膜されたPZT膜の結晶構造を示す回折ピークを、
図10にはサンプル3で成膜されたPZT膜の結晶構造を示す回折ピークを示す。
【0051】
図7、
図8に示すように、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]のみからなるPZTターゲットを用いて、成膜温度430[℃]でPZT膜を成膜したサンプル1では、パイロクロア相に起因するピーク(
図8において、楕円で囲んだ2つのピーク)が確認された。
【0052】
図7、
図9に示すように、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]とランタン(La)とニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用いて成膜温度430[℃]でPZT膜を成膜したサンプル2では、パイロクロア相が確認されなかった。
すなわち、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]とランタン(La)とニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用いれば、本来の成膜温度よりも低い430[℃]において、パイロクロア相が含まれないPZT膜が得られることが確認された。
【0053】
図7、
図10に示すように、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]とランタン(La)とニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用いて成膜温度485[℃]でPZT膜を成膜したサンプル3でも、パイロクロア相が確認されなかった。
すなわち、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr
xTi
1-x)O
3:PZT]とランタン(La)とニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用いれば、本来の成膜温度よりも低い485[℃]において、パイロクロア相が含まれないPZT膜が得られることが確認された。
【0054】
このように、本来の成膜温度である600~700[℃]よりも低い成膜温度である430~485[℃]の範囲内で成膜しても、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]とランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用いれば、パイロクロア相が含まれないPZT膜が得られることが明らかとなった。
【0055】
また、PZTターゲットとして、チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(ZrxTi1-x)O3:PZT]とランタン(La)及びニッケル(Ni)を含むPZTターゲットを用い、PZT膜中のランタン(La)とニッケル(Ni)がそれぞれ0.1[at%]以上5[at%]以下となるように形成して作製したサンプルに対して検証を行ったところ、上述した1[at%]で得られた結果と同様であった。なお、0.1[at%]より小さい場合には同様の効果を得ることができず、5[at%]より大きい場合には絶縁耐性の低下等のPZT膜質の劣化が確認され、好ましくなかった。
【0056】
なお、上述した実験例においては、不純物としてランタン(La)及びニッケル(Ni)をドープした場合について説明したが、不純物としてランタン(La)又はニッケル(Ni)をドープした場合、0.1[at%]以上5[at%]以下となるように形成して作製したサンプルにおいて同様の効果が得られた。しかしながら、絶縁耐性の低下等のPZT膜質の劣化が確認されたため、不純物としてランタン(La)及びニッケル(Ni)をドープすることが、より好ましいことが分かった。
【0057】
以上、本来の成膜温度よりも低い成膜温度で成膜しても膜質の低下を抑制することができる多層構造体並びにその製造方法及びその製造装置について説明したが、製造装置10及び製造装置10を用いた成膜方法は、基板の一主面側に、導電層と、誘電体層とが順に重ねて配された多層膜に限らず、最表面に絶縁層を有する基板に絶縁膜が配された多層膜の成膜にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 基板、2 SiO2層(絶縁層)、3 第一導電層(導電層)、4 誘電体層(誘電体膜)、5 第二導電層、10 成膜装置、11 真空槽、13 スパッタ電源、14 スパッタガス導入部、21 ターゲット、100 基体(W:処理基板)、101 第一の支持部(S1:支持体)、102 第二の支持部(S2)、34 第一の防着板、35 第二の防着板。