(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20220921BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20220921BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220921BHJP
B29C 65/70 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/17
B32B15/08 Z
B29C65/70
(21)【出願番号】P 2018187100
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】春成 武
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-004823(JP,A)
【文献】特開2014-218076(JP,A)
【文献】特開2014-139003(JP,A)
【文献】特開2018-030349(JP,A)
【文献】特開2001-228124(JP,A)
【文献】特開平05-346384(JP,A)
【文献】特開平08-118443(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044709(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B32B 15/08
C08L 81/02
G01N 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(1)~(5)の工程を経ることを特徴とする金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法。
(1)射出成形金型内の金属部材に対し、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出成形により直接一体化し、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とする工程。
(2)金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に対して、打音試験装置により打撃し、周波数-音圧の関係を測定する工程。
(3)得られた周波数-音圧の関係から
周波数が1KHz~14KHzの音圧を単位周波数
1Hz当たりの音圧として抽出する工程。
(4)得られた単位周波数当たりの音圧を
3Hzごとの移動平均処理することにより得られた周波数分布波形を
少数の主成分として要約を行う主成分分析し、その際にデータの分散が最大となる直線を第一成分軸とし、これと直行する軸の中で最大となる直行軸を第二主成分軸とし、これを繰り返すことにより各主成分軸を決定し、各主成分のデータの散らばり具合の指標である累積寄与率より累積寄与率が70%以上となる各主成分における各主成分得点を算出する工程。
(5)
各主成分得点を基準値として、基準値との差異が
10を越える金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を製造工程より排除する工程。
【請求項2】
(1)工程における金属部材が、物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合面の接合強度に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れ、特に自動車や航空機などの輸送機器の部品用途に有用な金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との接合強度に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の信頼性を堅持したまま、安定的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などの輸送機器の部品を軽量化するため、金属の一部を樹脂に置き換える方法が検討されている。また、樹脂と金属を複合一体化する方法として、金型内に物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材をインサートし、樹脂を射出成形して直接一体化する方法(以下、射出インサート成形法と表記する場合がある)が、良量産性、少部品点数、低コスト、高設計自由度、低環境負荷の観点から注目されており、スマートフォン等の携帯電子機器の製造プロセスなどに提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【0003】
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPSと略記することもある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記することもある。)は、優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性、耐薬品性を有し、多くの電気・電子機器部材や自動車機器部材、その他OA機器部材等、幅広く使用されている。
【0004】
また、PASは溶融流動性に優れることから、物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材との射出インサート成形法において、優れた接合強度を発現する。
【0005】
一方、打音試験は、検体の空隙などの欠陥を検査する手法として一般に使用されており、例えば、コンクリート、耐火物の検査、薄板、FRP構造物の検査方法として提案されている(例えば、特許文献4~7参照。)。
【0006】
また、主成分分析は、複数の対象物の中から異種品を検出する解析手段、あるいは製品性能を安定して得られる製造プロセスを精度良く予測する製造プロセスのモニタリング方法等として広く活用されている(例えば、特許文献8、9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5701414号公報
【文献】特許第5714193号公報
【文献】特許第4020957号公報
【文献】特許第4768927号公報
【文献】特開2002-340869号公報
【文献】特開平7-20097号公報
【文献】特許第4736501号公報
【文献】WO2005/038443号公報
【文献】特開2016-167205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1~3に提案された射出インサート成形法により得られる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体においては、一定の接合強度を有するものを得ることが可能ではあるが、射出インサート成形では装置の動作不良や条件設定のミス、射出成形機シリンダ内での樹脂滞留時間の長短などにより金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との接合不良が発生し、接合面に空隙などの欠陥を生じる場合があり、個々の性能差のバラつきが大きく、安定的な製品とする際には課題のあるものであった。また、得られた複合体の接合面の接合状態に関する情報を得るために、複合体の引張試験により接合強度を評価するといった破壊試験による検査が一般的であり、このような方法は製品の信頼性確認には採用することができない。その対処法として、抜き取りによる試験も採用されているが、歩留まりが低下し、量産性に乏しいといった課題が発生する。そこで、工業的な量産、品質管理を考慮した場合、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面の接合状態、例えば欠陥発生状況が非破壊試験によって定量的に数値化された金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法が望まれていた。
【0009】
特許文献4~7に提案された打音試験による検査については、金属部材-樹脂部材複合体を対象としたものでなく、金属部材-樹脂部材複合体について、何ら提案されていない。
【0010】
また、特許文献8、9に提案された主成分分析の活用手法については、金属部材-樹脂部材複合体を対象としたものでなく、金属部材-樹脂部材複合体について、何ら提案されていない。
【0011】
そこで、本発明は、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との接合強度に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を安定的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、接合面を打撃した際に得られる音圧の周波数分布波形を用いた主成分分析から得られる主成分得点を基準値として、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を判定することで、接合面に欠損のない金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体が効率よく製造でき、優れた接合強度を有するものとなること、接合の信頼性に優れること、さらに耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れる部材、部品、製品等となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、少なくとも下記(1)~(5)の工程を経ることを特徴とする金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法に関するものである。
(1)射出成形金型内の金属部材に対し、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出成形により直接一体化し、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とする工程。
(2)金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に対して、打音試験装置により打撃し、周波数-音圧の関係を測定する工程。
(3)得られた周波数-音圧の関係から特定範囲の周波数の音圧を単位周波数当たりの音圧として抽出する工程。
(4)得られた単位周波数当たりの音圧を移動平均処理することにより得られる周波数分布波形を主成分分析し、特定の累積寄与率となる主成分により主成分得点を算出する工程。
(5)主成分得点を基準値として、基準値との差異が特定範囲を超える金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を製造工程より排除する工程。
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法は、少なくとも上記(1)~(5)の工程を経てなるものである。
【0016】
本発明の製造方法を構成する(1)工程は、射出成形金型内の金属部材に対し、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出成形により直接一体化し、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とする工程である。
【0017】
この際に金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、一般にポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであればよく、該ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該ポリアリーレンスルフィド樹脂の具体的例示としては、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂となることから、ポリ(p-フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0018】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度において、機械的強度と薄肉流動性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂となることから50~2000ポイズのポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましい。
【0019】
該ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、p-ジヨードベンゼン、m-ジクロロベンゼン、m-ジブロモベンゼン、m-ジヨードベンゼン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジビフェニル等を挙げる事ができる。
【0020】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、直鎖状のもの、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したもの、ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性したもの、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものなどが挙げられ、さらにこれらポリアリーレンスルフィド樹脂の混合物であってもかまわない。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸洗浄、熱水洗浄あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってナトリウム原子、ポリアリーレンスルフィド樹脂のオリゴマー、食塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエートのナトリウム塩などの不純物を低減させたものであってもよい。
【0021】
該金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂は特に接合面の欠陥が少なく、耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、さらに、変性エチレン系共重合体を配合してなるものが好ましい。該変性エチレン系共重合体は、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系共重合体であることが好ましい。該変性エチレン系共重合体の配合量としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1~40重量部であることが好ましい。
【0022】
また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は特に強度、耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、ガラス繊維を配合してなるものが好ましい。該ガラス繊維としては、一般にガラス繊維と称すものであれば如何なるものを用いてもよい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、繊維断面のアスペクト比が2~4の扁平ガラス繊維からなるチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられ、その中でもとりわけ接合面の欠陥が少なく、耐衝撃性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、ないしは、繊維断面のアスペクト比が2~4である扁平ガラス繊維からなるチョップドストランドであることが好ましい。これらのガラス繊維は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。該ガラス繊維の配合量としては、とりわけ接合面の欠陥が少なく耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、5~120重量部であることが好ましい。
【0023】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレークが添加されたものであっても構わない。
【0024】
また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。
【0025】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0026】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法を構成する金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物部材と金属部材とを射出成形により直接一体化したものであり、接合強度や耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、該金属部材としては、物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材であることが好ましい。
【0027】
そして、該金属部材としては、金属部材の範疇に属するものであればいかなる材質よりなる部材でもよく、その中でもポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とした際に各種用途への適応が可能となることから、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材、銅合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、鉄製部材、チタン製部材、チタン合金製部材、ステンレス製部材である金属部材が好ましく、とりわけ軽量化に優れる、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、チタン製部材、チタン合金製部材である金属部材が好ましく、より好ましくはアルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材である。また、該金属部材は、板に代表される展伸材であっても、ダイカストに代表される鋳造材であっても、鍛造材からなる金属部材であってもかまわない。
【0028】
該金属部材は、表面を物理的処理及び/又は化学処理した金属部材とすることが好ましく、該物理的処理及び/又は化学処理を施すことにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂部材と直接一体化した際に、より接合強度や耐衝撃性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体が得られるものとなる。そして、金属部材の表面を物理的処理及び/又は化学処理する方法としては如何なる方法を用いて物理的処理及び/又は化学処理を施すことも可能であり、物理的処理としては、例えば表面に微小固体粒子を接触又は衝突させる方法、また高エネルギー電磁線を照射する方法等を挙げることができ、より具体的にはサンドブラスト処理、液体ホーニング処理、レーザ加工処理等を挙げることができる。更に、サンドブラスト処理、液体ホーニング処理の際の研磨剤としては、例えばサンド、スチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、炭化ケイ素、金属スラグ、ガラスビーズ、プラスチックビーズ等を挙げることができる。また、レーザ加工処理としては、WO2007/072603号公報、特開平2015-142960号公報に提案の方法等をも挙げることができる。
【0029】
また、化学処理としては、例えば陽極酸化処理法、酸及び/又はアルカリの水溶液で化学処理する方法、等を挙げることができる。そして、陽極酸化処理としては、例えば金属部材を陽極として電解液中で電化反応を行いその表面に酸化被膜を形成する方法であってもよく、メッキ等の分野において陽極酸化法として一般的に知られている方法を用いることができる。より具体的には、例えばA)一定の直流電圧をかけて電解を行う直流電解法、B)直流成分に交流成分を重畳した電圧をかけることにより電解を行うバイポーラ電解法、等を挙げることができる。陽極酸化法の具体的例示としては、WO2004/055248号公報等に提案の方法等を挙げることができる。また、酸及び/アルカリの水溶液で化学処理する方法としては、例えば金属部材を酸及び/アルカリの水溶液に浸せきし金属部材表面を化学処理する方法であってもよく、その際の酸及び/アルカリの水溶液としては、例えばリン酸等のリン酸系化合物;クロム酸等のクロム酸系化合物;フッ化水素酸等のフッ化水素酸系化合物;硝酸等の硝酸系化合物;塩酸等の塩酸系化合物;硫酸等の硫酸系化合物;水酸化ナトリウム、アンモニア水溶液、N-エチルモルホリン溶液などのアルカリ水溶液;トリアジンチオール水溶液、トリアジンチオール誘導体水溶液により化学処理する方法等を挙げることができ、より具体的例示としては、特開平10-096088号公報、特開平10-056263号公報、特開平04-032585号公報、特開平04-032583号公報、特開平02-298284号公報、WO2009/151099号公報、WO2011/104944号公報、WO2016/158516号公報、特開2017-218616号公報等に提案の方法、等を挙げることができる。
【0030】
該物理的処理及び/又は化学処理は、単独で処理しても両者を併用して処理しても良く、例えば、表面に物理的処理を施した後に化学処理を施した金属部材を用いて金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体としたものであっても良い。
【0031】
該金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法としては、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とを射出成形により直接一体化することが可能であれば如何なる方法をも用いることができ、その中でも特に効率よく複合体を製造することが可能となることから射出インサート成形法により一体化することが好ましい。そして、該射出インサート成形法としては、例えば金型内に金属部材を装着し、該金属部材に溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を充填し、ポリアリーレンスルフィド樹脂部材とし、該金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とが直接一体化された複合体とする方法を挙げることができる。この際のポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融温度としては280~340℃を挙げることができ、インサート成形を行う際の成形機としては、とりわけ生産性に優れることから射出成形機を用いて射出インサート成形を行うことが好ましい。またとりわけ、接合強度や耐衝撃性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、インサート成形を行う際の金型温度としては130℃以上が好ましく、保圧は1MPa以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法における(2)工程は、(1)工程により得られた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に対して、打音試験装置により打撃し、周波数-音圧の関係を測定する工程である。
【0033】
打音試験装置により金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面を打撃し、周波数-音圧の関係を測定する工程であり、その際の周波数-音圧の関係は音圧の周波数分布波形として得ることができる。また、該打音試験装置としては、打撃装置、集音装置、音圧の解析装置から構成される装置を用いることができ、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を打撃する事により得られた音圧をフーリエ変換することで周波数分布波形を得ることができる。
【0034】
該打音試験装置における複合体を打撃する打撃装置としては、例えばハンマー、インパクタなど市販の打撃装置を用いることができる。また、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を打撃することにより発生した音圧を集音する集音装置としては、例えば市販の騒音計、マイクロホン等を挙げることができ、該騒音計の具体的例示としては、(商品名)騒音計NL-42、NL-52(リオン(株)製)、(商品名)騒音計LA-3560、LA-3260((株)小野測器製)、該マイクロホンの具体的例示としては、マイクロホンMI-1211、MI-1235((株)小野測器製)などが挙げられる。
【0035】
本発明の製造方法における(3)工程は、(2)工程により得られた得られた周波数-音圧の関係から特定範囲の周波数の音圧を単位周波数当たりの音圧として抽出する工程である。この際の周波数-音圧の関係は例えば周波数分布波形として表すことができ、特定周波数範囲としては任意であり、例えば1KHz~14KHzを挙げることができる。また、単位周波数についても任意であり、例えば1Hzを挙げることができる。そして、より効率的な金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の測定を可能とすることから、1KHz~14KHzの音圧を1Hz単位で測定・抽出することが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法における(4)工程は、(3)工程により得られた単位周波数当たりの音圧を移動平均処理することに得られる周波数分布波形を主成分分析し、特定の累積寄与率となる主成分により主成分得点を算出する工程であり、単位周波数当たりの音圧を移動平均処理することによりノイズを効率的に除去することが可能となる。なお、移動平均処理とは、時系列データにおける一定区間ごとの平均値を区間をずらしながら求めるものであり、移動平均を用いることにより、長期的な傾向を表す滑らかな曲線グラフとして表すことができノイズの除去が可能となるものである。そして、移動平均処理の具体的提示としては、区間としての3Hzごとの移動平均処理を挙げることができる。また、主成分分析及び主成分得点の算出については、解析ソフトウェアを用い行うことが可能である。
【0037】
なお、本発明における主成分分析の概要について以下に示す。また、その詳細な解説については、「はじめてのパターン認識(森北出版、平井 有三著)」、「主成分分析の基本と活用(日科技連出版社、内田 治著)」、「主成分分析(朝倉書店、上田 尚一著)」などに紹介されている。
【0038】
<主成分分析とは>
測定された多種類のデータが共有する情報を少数の合成データ(主成分)として要約する手法であり、データの要約によりデータの持つ情報や傾向をより把握し易くなる手法である。
【0039】
<主成分(軸)決定>
主成分(軸)の決定は、
図1に示すデータが散りばめられた散布図において、データのばらつき、すなわち分散が最大となる直線を第一主成分軸とし、該第一主成分軸と直行する軸のなかで、データの分散が最大となる直線を第二主成分軸とする。第三主成分軸以降も同様に行い、主成分(軸)を決定することにより、散りばめられたデータの要約を行うものである。
【0040】
<累積寄与率>
寄与率は、各主成分が全データの散らばり具合をどの程度の割合となるのかを表す指標であり、各主成分の分散が分散の総和に占める割合として求められる。累積寄与率は第一主成分から第n主成分までが全データの散らばり具合をどの程度の割合で説明しているかを表す指標であり、第一主成分~第n主成分の分散が分散の総和に占める割合として求められる。なお、主成分数を決定する際の累積寄与率は任意であり、特に本発明の製造方法における金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造効率を優れたものとすることから累積寄与率70%以上が好ましく、更に75%以上が好ましい。
【0041】
<主成分得点>
主成分得点の決定は、
図2に示すように個々のデータの各主成分軸上の座標値として求めることができる。データの第一主成分軸上の座標値は第一主成分得点とし、第二主成分軸上の座標値は第二主成分得点とし、第n主成分得点として算出することができる。そして、異なる試料から得られるデータを主成分分析し、主成分得点を算出して比較することで、異なる試料間の特徴の違いを見分けることが可能になる。
【0042】
本発明の製造方法における(5)工程の(4)工程により得られた主成分得点を基準値として、基準値との差異が特定範囲を超える金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を製造工程より排除する工程である。ここで、基準値としては、例えば主成分得点の平均値を用いることができる。また、基準値との差異が特定の範囲とは任意であり、中でも、本発明の製造方法における金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造効率を優れたものとすることから10であることが好ましい。
【0043】
また、基準値との差異が特定範囲を超える金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を製造工程より排除する際には、通常選別を行う方法・装置等を用い行えばよい。
【0044】
そして、本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法としては、上記した(1)射出成形金型内の金属部材に対し、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出成形により直接一体化し、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とする工程、(2)金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に対して、打音試験装置により打撃し、周波数-音圧の関係を測定する工程、(3)得られた周波数-音圧の関係から特定範囲の周波数の音圧を単位周波数当たりの音圧として抽出する工程、(4)得られた単位周波数当たりの音圧を移動平均処理することにより得られた周波数分布波形を主成分分析し、特定の累積寄与率となる主成分により主成分得点を算出する工程、(5)主成分得点を基準値として、基準値との差異が特定範囲を超える金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を製造工程より排除する工程、を経ることにより、接合強度に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体のみを破壊による検査を経ることなく安定的に提供することが可能となる。
【0045】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法は、接合強度が高く、その接合の信頼性に優れ、さらに耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れる特性を併せ持つ金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を提供するものであり、特にこれら特性、信頼性を必要とする自動車や航空機などの輸送機器の部品の製造方法として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0046】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法は、接合面の接合強度、さらには、耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れ、特に自動車や航空機などの輸送機器の部品用途に有用な信頼性の高い金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を安定的に製造するものであり、その産業的価値は極めて高いものである。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0048】
実施例及び比較例において用いた、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を以下に示す。
【0049】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物(以下、PPS(A-1)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)SGX-120-12。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物(以下、PPS(A-2)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)SGX-140-52。
【0050】
金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の評価・測定方法を以下に示す。
【0051】
~金属接合強度の評価~
金属部材とPPS樹脂組成物部材との複合体の接合強度は、ISO19095に従い、接合面積が50mm2の引張せん断接合強度により評価した。
【0052】
~打音試験~
金属部材とPPS樹脂組成物部材との複合体は、ISO19095に従い作製した接合面積が50mm2の引張せん断試験片を用いて、打撃装置、騒音計および、音圧の解析装置から構成される打音試験装置を用いて打音試験を実施した。接合複合体は、接合複合体とハンマーとが10mmの距離となり、かつ、打撃方向が金属部材側の接合面に対して垂直となるようにスポンジ上に配置し、さらには、打撃位置と騒音計(リオン製(商品名)NL-52)とが100mmの距離となるように設置し、打撃した際に該騒音計のフルスケールを110デシベルとした際に得られた周波数1K~14KHzの音圧を、音圧解析装置(コスモ計器製(商品名)ムーブレットMV-6000)にてフーリエ変換し、1Hz単位で音圧が測定された周波数分布波形を得た。なお、打音試験は複合体1個につき3回行った。
【0053】
~主成分分析~
打音試験にて得られた周波数分布波形の音圧を区間3Hzごとの移動平均処理することによりノイズ除去した後、該周波数分布波形を解析ソフト(R version3.4.4(フリーソフト))を用いて主成分分析を行い、主成分得点を算出した。
【0054】
作製例1
アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をアセトンに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を、波長1.064μmのレーザを用いハッチング幅0.08mm、周波数5KHz、速度80mm/秒で直交方向に1000回走査するレーザ処理を行うことにより、アルミニウムダイカスト合金表面を物理的処理したアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を得た。
【0055】
得られた該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を60MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてPPS(A-1)を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Aを3個作製した。そして、得られた該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Aを3個用い、接合面の打音試験を行い、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得た。また、打音試験を行った試験片を用い、ISO19095に従い接合強度を評価した結果、接合強度の平均値は47MPaであった。
【0056】
作製例2
アルミニウム合金(A6063)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をエタノールに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を0.5mmのアルミナ粉、次いで0.1mmのアルミナ粉を用いたサンドブラスト処理にて粗化し、次いで該試験片を1重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、さらに1重量%硫酸水溶液に浸漬し、最後に該試験片を95℃のエタノールアミン1重量%を含有する蒸留水混合液に5分間浸漬し、表面にベーマイト処理を施すことにより、アルミニウム合金表面を物理的処理後に化学処理したアルミニウム合金(A6063)製試験片を得た。
【0057】
得られた該アルミニウム合金(A6063)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を65MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてPPS(A-1)を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Bを3個作製した。そして、得られた該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Bを3個用い、接合面の打音試験を行い、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得た。また、打音試験を行った試験片を用い、ISO19095に従い接合強度を評価した結果、接合強度の平均値は45MPaであった。
【0058】
作製例3
アルミニウム(A1100)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をアセトンに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を5重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、次いで20重量%硝酸水溶液に浸漬し、さらに30重量%燐酸水溶液中で電流密度1A/dm2で20分間陽極酸化処理することにより、アルミニウム表面を化学処理したアルミニウム(A1100)製試験片を得た。
【0059】
得られた該アルミニウム(A1100)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度155℃、保圧を70MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてPPS(A-2)を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体Cを3個作製した。そして、得られた該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Cを3個用い、接合面の打音試験を行い、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得た。また、打音試験を行った試験片を用い、ISO19095に従い接合強度を評価した結果、接合強度の平均値は42MPaであった。
【0060】
作製例4
アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を用いて、作製例1と同様の方法によりアルミニウムダイカスト合金表面を物理的処理したアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を得た。
【0061】
得られた該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度100℃、保圧を60MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてPPS(A-1)を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Dを3個作製した。そして、得られた該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Dを3個用い、接合面の打音試験を行い、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得た。また、打音試験を行った試験片を用い、ISO19095に従い接合強度を評価した結果、接合強度の平均値は18MPaであった。
【0062】
作製例5
アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を用いて、作製例1と同様の方法によりアルミニウムダイカスト合金表面を物理的処理したアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を得た。
【0063】
得られた該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を10MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてPPS(A-1)を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Eを3個作製した。そして、得られた該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Eを3個用い、接合面の打音試験を行い、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得た。また、打音試験を行った試験片を用い、ISO19095に従い接合強度を評価した結果、接合強度の平均値は22MPaであった。
【0064】
作製例6
アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を用いて、作製例1と同様の方法によりアルミニウムダイカスト合金表面を物理的処理したアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を得た。
【0065】
得られた該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度100℃、保圧を10MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてPPS(A-1)を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Fを3個作製した。そして、得られた該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Fを3個用い、接合面の打音試験を行い、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得た。また、打音試験を行った試験片を用い、ISO19095に従い接合強度を評価した結果、接合強度の平均値は7MPaであった。
【0066】
参考例
作製例1~6にて得られた周波数分布波形を主成分分析した結果、第一主成分~第三主成分の累積寄与率が82%であった。よって、該第一主成分~第三主成分を用いて主成分得点を算出した。主成分分析の結果を表1に示す。
【0067】
接合強度に劣るアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体DおよびEは第二主成分および第三主成分の主成分得点が接合強度に優れる金属部材-PPS樹脂組成物部材複合体A、BおよびCの平均値(基準値)に対し、10を超えて乖離した。また、接合強度に劣るアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体Fは第一主成分、第二主成分および第三主成分の主成分得点が接合強度に優れる金属部材-PPS樹脂組成物部材複合体A、BおよびCの平均値(基準値)に対し、10を超えて乖離した。
【0068】
【0069】
実施例1
作製例1と同様の方法により得たアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片、PPS(A-1)を用い、該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を60MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を1000個作製した。そして、射出成形工程で得た該試験片をサーボロボット(ユーシン精機製、(商品名)YC)により取出し、ベルトコンベアにて、次工程の打音試験装置による測定工程へ搬送した。
【0070】
該複合体を多軸ロボット(ファナック製)により、接合複合体とハンマーとが10mmの距離となり打撃方向がアルミニウムダイカスト合金部材側の接合面に対して垂直となるようにスポンジ上に設置し、かつ、打撃位置と騒音計(リオン製(商品名)NL-52)とが100mmの距離となるように設置した。次に、打撃した際に該騒音計のフルスケールを110デシベルとした際に該騒音計で得られた音圧を、音圧解析装置(コスモ計器製(商品名)ムーブレットMV-6000)にてフーリエ変換し周波数分布波形を得た。
【0071】
そして、1KHz~14KHzの音圧を周波数1Hzごとの音圧として抽出し、区間3Hzごとの移動平均処理を行い周波数分布波形を得、主成分分析した結果、第一主成分~第五主成分の累積寄与率は75%であった。そこで、該第一主成分~第五主成分を用いて主成分得点を算出した。そして、主成分得点が平均値(基準値)から10以内の複合体を良品として部品保管箱へ、主成分得点と平均値(基準値)の差異が10を超える複合体を不良品として排除箱へ多軸ロボット(ファナック製)により搬送した。主成分分析の結果を表2に示す。
【0072】
部品保管箱内の全てのアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をISO19095に従い接合強度を評価したところ、接合強度は全て40MPa以上を示した。一方、排除箱内の全てのアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をISO19095に従い接合強度を評価したところ、接合強度は全て30MPa以下を示した。
【0073】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の複合体は、接合面に空隙等の欠陥が無く、接合の信頼性に優れ、さらに耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法を提供するものであり、特に自動車や航空機などの輸送機器に用いられる複合体の製造に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】;主成分(軸)を決定する際のデータが散りばめられた散布図
【
図2】;主成分得点を決定する際のデータの主成分軸上の座標値を示す概略図