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特許7143814シリコーンゴム組成物からなるマーキングインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】シリコーンゴム組成物からなるマーキングインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20220921BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220921BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220921BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220921BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C09D11/00
C08L83/05
C08L83/04
C08K3/36
C08L83/07
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019093300
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020186341
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 勇太
(72)【発明者】
【氏名】原 通久
(72)【発明者】
【氏名】北澤 将利
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-161468(JP,A)
【文献】特開昭61-159450(JP,A)
【文献】特開2014-139292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08L 83/05
C08L 83/04
C08K 3/36
C09D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子と結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.5~5.0個となる量、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、および
(D)ポリメチルシルセスキオキサン粉末:0.1~30質量部
を含有するシリコーンゴム組成物からなるマーキングインク
【請求項2】
前記ポリメチルシルセスキオキサンが、60~100℃の軟化点を有する請求項1記載のマーキングインク
【請求項3】
(E)シリカを、(A)成分100質量部に対して5~100質量部含有する請求項1または2記載のマーキングインク
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム成形物に関し、さらに詳述すると、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物、およびこれを加熱硬化してなる、装飾用意匠物(ワッペン・マーク・ロゴ等)等として利用されるシリコーンゴム成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣類、バッグやシューズ等の装飾用の意匠物(ワッペン・マーク・ロゴ等)としてシリコーンが使用されている。
このような成形物としては、熱硬化性のシリコーン組成物(特許文献1)が使用されるが、近年、生産性向上の目的で、より短時間での加熱硬化が求められている。
【0003】
熱硬化性シリコーン組成物を短時間の加熱で成形した場合、表面のタックが強いと、重ねた時の貼り付きによる取扱い性不良や、塵埃の付着によって意匠性が著しく損なわれるなどの課題がある。
これに対する一つの対策として、硬化触媒を増量することによる硬化速度の向上が挙げられるが、組成物の保存性低下やコストが高くなる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-214101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、短時間の加熱硬化においてもタック感がなく、良好に硬化する付加硬化型シリコーンゴム組成物およびその成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物において、所定のシリコーンレジンを添加することにより、短時間の加熱硬化においてもタック感のない良好なシリコーンゴム成形物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. (A)ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子と結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.5~5.0個となる量、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、および
(D)ポリメチルシルセスキオキサン粉末:0.1~50質量部
を含有することを特徴とするシリコーンゴム組成物、
2. 前記ポリメチルシルセスキオキサンが、60~100℃の軟化点を有する1のシリコーンゴム組成物、
3. (E)シリカを、(A)成分100質量部に対して5~100質量部含有する1または2のシリコーンゴム組成物、
4. 1~3のいずれかのシリコーンゴム組成物からなるマーキングインク、
5. 1~3のいずれかのシリコーンゴム組成物を硬化させてなる立体成形物
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシリコーンゴムを硬化させて得られるシリコーンゴム成形物は、短時間の加熱硬化においても硬化性が良好でタック感がなく、ワッペン・マーク・ロゴ等の装飾用の意匠物向け用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、下記(A)~(D)成分を含有するものである。
(A)ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
(B)ケイ素原子と結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C)ヒドロシリル化反応触媒
(D)ポリメチルシルセスキオキサン粉末
【0010】
[1](A)成分
(A)成分は、ケイ素原子と結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個有するオルガノポリシロキサンである。2個未満では組成物の硬化が不十分になる。また、上限は特に制限されないが、硬化物が脆くなることを防ぐという点から、10個以下が好ましい。
ケイ素原子に結合したアルケニル基としては、特に限定されるものではなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル基等の炭素原子数2~8のものが好ましく、炭素原子数2~4のものがより好ましく、ビニル基がより一層好ましい。
このアルケニル基は、分子鎖末端および分子鎖非末端(即ち、分子鎖側鎖)のいずれかまたは両方に存在してもよいが、少なくとも分子鎖両末端に存在することが好ましい。
【0011】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基は、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しないものであれば特に限定はなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、炭素原子数1~20の1価炭化水素基が好ましく、炭素原子数1~10の1価炭化水素基がより好ましく、炭素原子数1~5の1価炭化水素基がより一層好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;2-シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でもメチル基が好ましい。
【0012】
(A)成分としては、例えば、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
2 c3 dSiO(4-c-d)/2 (1)
(式中、R2は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R3は、それぞれ独立してアルケニル基を表し、cは1.9~2.1、dは0.005~1.0、かつ、c+dは1.95~3.0を満たす数である。)
【0013】
2の1価炭化水素基としては、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基として上で例示した基と同様のものが挙げられるが、メチル基が好ましい。
3のアルケニル基としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基として上で例示した基と同様のものが挙げられるが、ビニル基が好ましい。
cは1.95~2.0の数が好ましく、dは0.01~0.5の数が好ましく、c+dは1.96~2.5を満たすことが好ましい。
【0014】
平均組成式(1)で表される(A)成分としては、例えば、下記式(3)~(9)で表されるオルガノポリシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ViR2 2SiO(R2 2SiO)eSiR2 2Vi (3)
ViR2 2SiO(R2ViSiO)f(R2 2SiO)gSiR2 2Vi (4)
Vi22SiO(R2 2SiO)eSiR2Vi2 (5)
Vi3SiO(R2 2SiO)eSiVi3 (6)
Vi22SiO(R2ViSiO)f(R2 2SiO)gSiR2Vi2 (7)
Vi3SiO(R2ViSiO)f(R2 2SiO)gSiVi3 (8)
2 3SiO(R2ViSiO)h(R2 2SiO)gSiR2 3 (9)
(式中、Viは、ビニル基を意味する(以下同様)。R2は、上記と同じ意味を表す。)
【0015】
上記各式において、e、f、gは0以上の整数である。
特に、eは、10≦e≦10,000を満たす整数が好ましく、50≦e≦2,000を満たす整数がより好ましい。
また、fおよびgは、10≦f+g≦10,000、かつ、0≦f/(f+g)≦0.2を満たす整数が好ましく、50≦f+g≦2,000を満たす整数がより好ましい。
hは、2以上の整数であるが、2≦h、10≦f+g≦10,000、かつ、0≦h/(g+h)≦0.2を満たす整数が好ましく、50≦g+h≦2,000を満たす整数がより好ましい。
【0016】
(A)成分の25℃における粘度は1~100,000mPa・sが好ましく、5~10,000mPa・sがより好ましい。粘度がこの範囲であれば、流動性が高く作業性に優れる。本発明における粘度は回転粘度計を用いた測定値である。
なお、(A)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
[2](B)成分
(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子当たり少なくとも2個、好ましくは2~200個、より好ましくは3~100個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分中のアルケニル基とヒドロシリル化反応することにより架橋剤として作用する。
【0018】
(B)成分としては、例えば、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。
1 abSiO(4-a-b)/2 (2)
(式中、R1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、aは0.7~2.1、bは0.001~1.0、かつ、a+bは0.8~3.0を満たす数である。)
【0019】
1の1価炭化水素基は、(A)成分のR2で例示した基と同様のものが挙げられるが、メチル基が好ましい。
aは、1.0~2.0の数が好ましく、bは、0.01~1.0の数が好ましく、a+bは1.1~2.6の数が好ましい。
【0020】
(B)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造(樹脂状)等が挙げられるが、直鎖状または環状が好ましい。
また、(B)成分中のSiH基は、分子鎖末端、分子鎖非末端(即ち、分子鎖側鎖)のいずれかまたは両方に存在してもよい。
(B)成分中のSiH基の含有量は、(B)成分1g当たり、0.001~0.02molの範囲が好ましく、0.002~0.017molの範囲がより好ましい。
【0021】
(B)成分の25℃での動粘度は、特に限定されるものではないが、組成物の作業性や硬化物の力学特性がより優れたものとなるため、1~1,000mm2/sが好ましく、5~200mm2/sがより好ましい。この粘度範囲を満たすことを考慮すると、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中のケイ素原子の数(または重合度)は、好ましくは2~400個、より好ましくは3~200個、より一層好ましくは4~100個である。なお、本発明における動粘度は、キャノン・フェンスケ型粘度計を用いた測定値である。
【0022】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば、下記平均式(11)~(13)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、および下記平均式(14)で表される環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
1 3SiO(R1 2SiO)i[R1(H)SiO]jSiR1 3 (11)
1 2(H)SiO(R1 2SiO)i[R1(H)SiO]jSi(H)R1 2 (12)
1 3SiO[R1(H)SiO]kSiR1 3 (13)
[R1(H)SiO]m (14)
(式中、R1は、上記と同じ意味を表し、iは、5~40の整数であり、jは、5~20の整数であり、kは、2~30の整数であり、mは、4~8の整数である。)
【0023】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、(CH32HSiO1/2で表されるシロキサン単位と(CH33SiO1/2で表されるシロキサン単位とSiO4/2で表されるシロキサン単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2で表されるシロキサン単位とSiO4/2で表されるシロキサン単位とからなる共重合体、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。
より具体的には、下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。なお、式中、Meは、メチル基を意味する(以下同様)。
【0024】
【化1】
(式中、シロキサン単位の配列順は任意である。)
【0025】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数が0.5~5.0個となる量であり、好ましくは0.7~3.0個となる量である。0.5個未満の場合は架橋が不十分なものとなる結果、組成物を硬化して得られる成形物のタック感が強くなる。5.0個を超える場合、硬化の際に水素ガスの発生による発泡が起こりやすく、硬化物内部の空隙の発生によりゴム強度が低下する。
なお、(B)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
[3](C)成分
(C)成分は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化反応を促進するためのヒドロシリル化反応触媒である。
その具体例としては、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとの錯体(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体などの白金族金属系触媒が挙げられる。
なお、(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(C)成分の配合量は、組成物の硬化(ヒドロシリル化反応)を促進する量であれば限定されず、本組成物の各成分の質量の合計に対して、本成分中の金属原子が質量換算で0.1~1,000ppmの範囲となる量が好ましく、1~500ppmの範囲がより好ましく、3~100ppmの範囲がより一層好ましい。この範囲であれば、付加反応の反応速度が適切なものとなる。
【0028】
[4](D)成分
(D)成分は、(CH3SiO3/2)単位から構成されるポリメチルシルセスキオキサン粉末であり、本発明のシリコーンゴム組成物を加熱硬化してなるシリコーンゴム成形物のタック感を抑制する成分である。
この(D)成分のポリメチルシルセスキオキサンは、60~100℃の軟化点を有することが好ましい。
(D)成分の具体例としては、信越化学工業(株)製KR-220LP(軟化点67℃)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~50質量部、好ましくは2~30質量部である。0.1質量部より少ないと、硬化したシリコーンゴム成形物のタック感が残り、50質量部を超えると、製造時の混合性の低下および塗布時の作業性の低下が低下する。
【0030】
[5](E)成分
本発明のシリコーンゴム組成物には、硬度および引張り強さなどの物理的強度の向上のため、(E)成分としてシリカを添加してもよい。
シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ(石英粉)、沈降性シリカ、これらの表面を疎水化処理したシリカ等が挙げられ、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
このようなシリカとしては、親水性のシリカとして、Aerosil 130、200、300(日本アエロジル社製)、Cabosil MS-5,MS-7(Cabot社製),Rheorosil QS-102,103((株)トクヤマ製)等のヒュームドシリカ;トクシールUS-F((株)トクヤマ製)、Nipsil LP(日本シリカ工業(株)製)等の沈降性シリカ等が挙げられ、疎水性のシリカとして、Aerosil R-812,R-812S,R-972,R-974(日本アエロジル(株)製)、Rheorosil MT-10((株)トクヤマ製)等のヒュームドシリカ;Nipsil SSシリーズ(日本シリカ工業(株)製)等の沈降性シリカ;クリスタライト((株)龍森製)、MIN-U-SIL(U.S.Silica Company社製)、Imisil(Illinois Mineral社製)等の結晶性シリカ等が挙げられる。
【0032】
これらのシリカはそのまま用いても構わないが、表面処理剤で予め表面疎水化処理したものを使用したり、(A)成分の混練時に表面処理剤を添加してシリカ表面を疎水化処理して使用したりすることが好ましい。表面処理剤としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルヒドロキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、低分子ポリシロキサン、チタネート系処理剤、脂肪酸エステル等が挙げられ、好ましくはアルキルジシラザン、より好ましくはヘキサメチルジシラザンである。これらの表面処理剤は1種単独で用いても、2種以上を同時にまたは異なるタイミングで用いても構わない。
表面処理剤の使用量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5~50質量部、より好ましくは1~40質量部、より一層好ましくは2~30質量部である。表面処理剤の使用量が上記範囲内であると、組成物中に表面処理剤またはその分解物が残らず、流動性が得られ、経時で粘度が上昇することを抑制できる。
【0033】
また、(E)成分は、BET法による比表面積が50~400m2/g、特に100~350m2/gのものが好ましい。このような範囲であれば十分なゴム強度が得られる。
【0034】
(E)成分を用いる場合、その添加量は、組成物の取り扱い性および硬化物の機械的強度の点から、(A)成分100質量部に対して5~300質量部が好ましく、20~200質量部がより好ましい。
【0035】
[6](F)成分
本発明のシリコーンゴム組成物には、組成物を調製する際や、型取りの際などの加熱硬化前に、増粘やゲル化を起こさないようにヒドロシリル化反応触媒の反応性を制御する目的で、必要に応じて(F)反応制御剤を添加してもよい。
反応制御剤の具体例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-1-ブチン-3-オールが好ましい。
【0036】
(F)成分を用いる場合、その添加量は、(A)成分および(B)成分の合計100質量部に対して0.01~2.0質量部が好ましく、0.01~0.1質量部がより好ましい。このような範囲であれば反応制御の効果が十分発揮される。
【0037】
[7]その他の成分
本発明のシリコーンゴム組成物には、上記(A)~(F)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を配合してもよい。
その他の成分としては、酸化鉄、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤;酸化チタン、酸化セリウム等の耐熱剤;ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤;接着性付与剤;チクソ性付与剤;着色剤等が挙げられる。
【0038】
着色剤の具体例としては、ウルトラマリン、酸化鉄、酸化チタン、チタンイエロー、カーボンブラック、ジンクホワイト、クロームグリーン等の無機顔料;アントラキノンバイオレット、アントラキノンブルー、インダスレンブルー、アリザニングリーン、ペリソンレッド等の有機顔料;アルミニウム粉、銅粉、ブロンズ粉、錫粉等の金属粉顔料;蓄光顔料;蛍光顔料、さらには硬化阻害を与えない染料などが挙げられ、色調や彩度等を考慮して適宜選択することができる。
【0039】
本発明のシリコーンゴム組成物は、上記の(A)~(D)成分、必要に応じて用いられる(E)および(F)成分、並びにその他の成分をニーダー、プラネタリーミキサー等を用いた公知の方法で混合して調製することができる。
本発明のシリコーンゴム組成物は、(A)成分、(C)成分、(D)成分および必要に応じてその他の成分からなる第一剤と、(A)成分、(B)成分、(D)成分および必要に応じてその他の成分からなる第二剤を別々に調製し、使用前に第一剤と第二剤を混合する二剤型の組成物としてもよい。なお、第一剤および第二剤で共通に使用される成分があってもよい。組成物をこのような二剤型とすることにより、さらに保存安定性が確保できる。
【0040】
また、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化条件としては、例えば常温(5~35℃)でも硬化が進行するが、加熱により硬化促進させることもでき、量産性を向上させたい場合には、この手法が有効である。
加熱硬化させる場合、70~200℃で30秒~60分間、特に90~120℃で1分~30分間の条件で硬化させることが好ましい。
【実施例
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1~4,比較例1~2]
下記成分を表1に示される配合比(質量部)で混合し、シリコーンゴム組成物を調製した。具体的には、まず(A)成分85質量部、(E)成分25質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水2質量部を25℃でニーダーを用いて30分混合後、150℃に昇温し、4時間撹拌を続け、25℃に冷却した後に(A)成分15質量部を混合して得られたシリコーンゴムベースに、(C)成分および(D)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合後、(B)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行い、さらに25℃で30分間減圧脱泡し、シリコーンゴム組成物を得た。
【0043】
(A)成分:
(A-1)両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン(ビニル基含有量0.006mol/100g)
【0044】
(B)成分:
(B-1)下記平均式で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(25℃における動粘度99.0mm2/s、ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.0037mol/g)
【化2】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0045】
(C)成分:
(C-1)白金1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のジメチルシロキサン溶液(白金含有量1.0質量%)
【0046】
(D)成分:
(D-1)ポリメチルシルセスキオキサン粉末(信越化学工業(株)製、KR-220LP、軟化点67℃)
【0047】
(E)成分:
(E-1)フュームドシリカ(日本アエロジル(株)製、アエロジル300、BET比表面積300m2/g)
【0048】
(F)成分:
(F-1)エチニルシクロヘキサノール
【0049】
(G)その他の成分:
(G-1)アルミナ(昭和電工(株)製、AS-40、BET比表面積1.2m2/g)
【0050】
【表1】
【0051】
得られた組成物を深さ約2mmのプレス用金属枠に流し込み、120℃で3分間加熱を行い、硬化シートを作製した。各シートについて下記の特性を評価した。結果を表2に示す。
[タック感]
得られたシート表面について、指触によるタック感がないものを○、タック感が有るものを×として評価した。
[動摩擦係数]
得られたシート上に2cm×2cmの上質紙を乗せ、200g荷重、300mm/minの試験速度で滑らせた際の動摩擦係数を測定した。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、実施例1~4で調製した本発明のシリコーン組成物は、短時間の加熱硬化においてタック感の極めて少ない成形物を提供できるため、意匠物用、特にシリコーンゴム製の衣類・シューズ用などの装飾用マークやロゴ、ワッペン材として有用である。
一方、(D)成分を添加していない比較例1および比較例2では、表面のタックが観察されていることがわかる。