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特許7143819嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
C07F7/12 D CSP
C07F7/12 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019105041
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020196693
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069978(WO,A1)
【文献】特開2002-356490(JP,A)
【文献】特開2007-051071(JP,A)
【文献】特開2004-284967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/00- 7/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物。
【化1】
(式中、R1は、炭素数4~10の3級炭化水素基を表し、R2は、炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を表し、LGは、ハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を表す。)
【請求項2】
前記LGが、ハロゲン原子である請求項1記載の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物。
【請求項3】
前記LGが、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基である請求項1記載の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物。
【請求項4】
下記一般式(2)
【化2】
(式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物と、ハロゲン化剤とを反応させる請求項2記載の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(2)
【化3】
(式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸とを反応させる請求項3記載の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリル化剤は、アルコールやカルボン酸等の活性水素を有する置換基の保護を行う目的で使用され、シリル化された化合物は、低分子医薬、ペプチド医薬、農薬の中間体等の様々な分野における合成中間体として有用である。
【0003】
従来、シリル化剤として、ハロシラン化合物やシリルトリフラート化合物が知られている(特許文献1,2)。
これらハロシラン化合物およびシリルトリフラート化合物は、同様のシリル化剤であるヒドロシラン化合物に比べて反応性が高いため、触媒を用いることなく、アルコールやカルボン酸等の活性水素基を有する化合物を容易にシリル化できるという利点がある。
【0004】
これらのシリル化剤の具体例としては、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、tert-ブチルジメチルクロロシラン、トリメチルヨードシラン、トリメチルシリルトリフラート、トリエチルシリルトリフラート、tert-ブチルジメチルシリルトリフラート等が知られている。
また、tert-ブチルジフェニルクロロシランのように、アリール基やベンジル基等の芳香族置換基が導入されたシリル化剤も知られている。これらの芳香族置換基が導入されたシリル化剤は、アルコールやカルボン酸等の活性水素を有する置換基の保護を行うだけでなく、シリル化した生成物にUV吸収能を付与することができる。すなわち、芳香族置換基を有するシリル化剤を用いることで、UV検出器を備えた液体クロマトグラフィー装置によって、反応の様子を簡便にモニターすることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-356490号公報
【文献】特開2003-201294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シリル化剤でシリル化された生成物は、立体的嵩高さが十分でない場合、加水分解反応を受けやすく、満足のいく安定性が得られない。中でも、低分子医薬やペプチド医薬で頻出する化学構造であるカルボキシル基がシリル化された化合物は、加水分解に対する安定性が低いため、シリル化された生成物がより安定になる嵩高い置換基を有するシリル化剤が求められてきた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、既存のオルガノシラン化合物よりもさらに嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、非常に嵩高い3級炭化水素基2つと、直鎖状または分岐状のアルキル基1つがケイ素原子に結合した嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物をシリル化剤として用いることにより、シリル化された生成物が安定となることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で示される嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物、
【化1】
(式中、R1は、炭素数4~10の3級炭化水素基を表し、R2は、炭素数1~10の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、LGは、ハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を表す。)
2. 前記LGが、ハロゲン原子である1の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物、
3. 前記LGが、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基である1の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物、
4. 下記一般式(2)
【化2】
(式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物と、ハロゲン化剤とを反応させる2の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物の製造方法、
5. 下記一般式(2)
【化3】
(式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。)
で示されるハイドロジェンシラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸とを反応させる3の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオルガノシラン化合物は、ケイ素原子上に嵩高い置換基を有しているため、当該化合物によってシリル化された化合物は加水分解に対する安定性が高い。
また、ケイ素原子上にフェニル基を含む置換基を有しているため、本発明のオルガノシラン化合物を用いたシリル化反応時や、脱シリル化反応時に、UV検出器を備えた液体クロマトグラフィー装置による簡便な反応のモニターが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた化合物の1H-NMRスペクトルである。
図2】実施例1で得られた化合物のIRスペクトルである。
図3】実施例2で得られた化合物の1H-NMRスペクトルである。
図4】実施例2で得られた化合物のIRスペクトルである。
図5】実施例3で得られた化合物の1H-NMRスペクトルである。
図6】実施例3で得られた化合物のIRスペクトルである。
図7】実施例4で得られた化合物の1H-NMRスペクトルである。
図8】実施例4で得られた化合物のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物は、下記一般式(1)で示される。
このような嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物は、トリメチルクロロシランやトリメチルシリルトリフラート等の嵩高い置換基を有しないオルガノシラン化合物と比べて、空気中の水分による影響を受けにくく、使用時に塩酸等のハロゲン化水素酸やトリフルオロメタンスルホン酸が発生しにくいため、取扱いが容易である。
【0013】
【化4】
【0014】
式(1)において、R1は、炭素数4~10、好ましくは4~9の3級炭化水素基を表し、R2は、炭素数1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、LGは、ハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を表す。
1の炭素数4~10の3級炭化水素基の具体例としては、tert-ブチル、tert-アミル、1,1-ジエチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、1-メチルシクロペンチル、1-メチルシクロヘキシル、1-メチル-1-フェニルエチル、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基等が挙げられる。
これらの置換基をケイ素原子上に導入する際には、対応するハロゲン化物を使用する必要がある。そのハロゲン化物の入手容易性の観点から、R1としては、tert-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基が好ましい。
【0015】
2の直鎖状または分岐状のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等の直鎖状アルキル基;イソブチル、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、イソヘプチル、イソオクチル、イソノニル、イソデシル基等の分岐状アルキル基等が挙げられる。
ケイ素原子上の置換基が嵩高くなる程、その反応性が低くなってしまうため、オルガノシラン化合物全体としての反応性を担保する観点から、R2としては、ケイ素原子上のその他の置換基よりも嵩高くない直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0016】
LGのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、オルガノシラン化合物を合成する際に使用する原料の調達性の観点から、塩素原子が好ましい。
【0017】
式(1)のオルガノシラン化合物において、LGがハロゲン原子の場合のオルガノシラン化合物は下記一般式(1A)で示され、LGがトリフルオロメタンスルホニルオキシ基の場合のオルガノシラン化合物は下記一般式(1B)で示される。
これらハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基は脱離能が高いため、LGとして好適である。
【0018】
【化5】
(式中、R1およびR2は、上記と同じ意味を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)
【0019】
一般式(1A)で示される嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物の具体例としては、tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、tert-アミルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、(1,1-ジエチルプロピル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)クロロシラン、メチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルクロロシラン、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、tert-ブチルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、tert-アミルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、(1,1-ジエチルプロピル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)クロロシラン、エチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)エチルクロロシラン、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシラン等のクロロシラン化合物;tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、tert-アミルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、(1,1-ジエチルプロピル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)ブロモシラン、メチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルブロモシラン、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、tert-ブチルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、tert-アミルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、(1,1-ジエチルプロピル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)ブロモシラン、エチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)エチルブロモシラン、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ブロモシラン等のブロモシラン化合物;tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、tert-アミルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、(1,1-ジエチルプロピル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)ヨードシラン、メチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルヨードシラン、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、tert-ブチルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、tert-アミルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、(1,1-ジエチルプロピル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)ヨードシラン、エチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)エチルヨードシラン、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)ヨードシラン等のヨードシラン化合物が挙げられる。
【0020】
一般式(1B)で示されるオルガノシラン化合物の具体例としては、tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、tert-アミルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、(1,1-ジエチルプロピル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)シリルトリフラート、メチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルシリルトリフラート、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)メチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、tert-ブチルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、tert-アミルエチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、(1,1-ジエチルプロピル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)(1,1,2-トリメチルプロピル)シリルトリフラート、エチル(1-メチルシクロペンチル)(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)エチルシリルトリフラート、(1,1-ジメチル-2-フェニルエチル)エチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラート等のシリルトリフラート化合物が挙げられる。
【0021】
次に、一般式(1A)および(1B)で示される嵩高い置換基を有するオルガノシラン化合物の製造方法について説明する。
一般式(1A)のオルガノシラン化合物は、下記一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物と、ハロゲン化剤とを反応させて製造できる。
また、一般式(1B)のオルガノシラン化合物は、下記一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸とを反応させて製造できる。
【0022】
【化6】
(式中、R1およびR2は、上記と同じ意味を表す。)
【0023】
一般式(1A)のオルガノシラン化合物の製造に用いられるハロゲン化剤としては、従来公知の塩素化剤、臭素化剤、ヨウ素化剤から適宜選択して用いることができる。
塩素化剤としては、塩素、塩化チオニル、塩酸、塩化アリル、塩化メタリル等の塩素源が挙げられ、これらの塩素源と共に、パラジウム触媒を使用しても良い。
臭素化剤としては、臭素、四臭化炭素、N-ブロモスクシンイミド、ボロントリブロミド等の臭素源が挙げられる。
ヨウ素化剤としては、ヨウ素、ヨウ化水素酸、四ヨウ化炭素、N-ヨードスクシンイミド等のヨウ素源が挙げられる。
【0024】
なお、ケイ素原子上に芳香族置換基としてベンジル基やアリール基を有する芳香族置換基を有するオルガノシラン化合物の場合、これらの置換基は、上記塩素化剤による塩素化条件下等のハロゲン化条件下で不安定であり、脱離してしまう場合があるが、ケイ素原子上に1-メチル-1-フェニルエチル基を有する上記一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物の場合は、1-メチル-1-フェニルエチル基が嵩高いために酸性条件下で安定であり、塩素化剤等を用いる反応条件に付した場合でも、脱離が起こりにくいと考えられる。
【0025】
一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物と塩素化剤等との反応で用いられるハロゲン源の使用量は特に限定されないが、環境負荷の観点から、一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物1モルに対して、0.5~10.0モルが好ましく、よ0.8~5.0モルがより好ましい。
【0026】
また、パラジウム触媒としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウム等のパラジウム塩、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム等のパラジウム錯体、パラジウム-炭素等が挙げられる。
これらのパラジウム触媒の使用量は特に限定されないが、環境負荷の観点から、一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物1モルに対して、0.0001~0.05モルが好ましく、0.001~0.02モルがより好ましい。
【0027】
上記反応における反応圧力は特に制限はないが、製造時における安全性の観点から、常圧が好ましい。
反応温度は特に限定されないが、反応速度の観点から、0~200℃が好ましく、50~100℃がより好ましい。
反応時間は特に限定されないが、生産効率の観点から、1~40時間が好ましく、1~20時間がより好ましい。
反応雰囲気は、製造時における安全性の観点から、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0028】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0029】
上記製造方法によって得られる一般式(1A)で示されるオルガノシラン化合物は、その目的品質に応じて、蒸留、濾過、洗浄、カラム分離、固体吸着剤等の各種精製法によってさらに精製して使用することもできる。高純度にするためには、蒸留による精製が特に好ましい。
【0030】
一方、一般式(1B)で示されるハイドロジェンシラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸との反応において、トリフルオロメタンスルホン酸の使用量は特に限定されないが、環境負荷への観点から、一般式(1B)で示されるハイドロジェンシラン化合物1モルに対して、0.5~2.0モルが好ましく、0.8~1.2モルがより好ましい。
なお、上述のとおり、上記一般式(2)で示されるハイドロジェンシラン化合物は、嵩高い1-メチル-1-フェニルエチル基を有するため酸性条件下で安定であり、トリフルオロメタンスルホン酸を用いる反応条件に付した場合でも、脱離が起こりにくいと考えられる。
【0031】
上記反応において、反応圧力は特に制限はないが、製造時における安全性の観点から、常圧が好ましい。
反応温度は特に限定されないが、反応速度の観点から、-80~150℃が好ましく、-20~40℃がより好ましい。
反応時間は特に限定されないが、生産効率の観点から、1~40時間が好ましく、1~10時間がより好ましい。
反応雰囲気は、製造時における安全性の観点から、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0032】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。溶媒としては、一般式(1A)で示されるオルガノシラン化合物を製造する場合の溶媒と同様のものが挙げられる。
【0033】
上記製造方法によって得られる式(1B)で示されるオルガノシラン化合物は、その目的品質に応じた蒸留、濾過、洗浄、カラム分離、固体吸着剤等の各種精製法により、さらに精製して使用することもできる。高純度にするためには、蒸留による精製が特に好ましい。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0035】
[実施例1]ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルクロロシランの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えた四つ口フラスコの内部を窒素で置換し、還流冷却器上部の開放端に窒素ガスを通気させて外気が混入しないようにしながら、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルシラン1.4g(5.00mmol)、塩化メタリル2.3g(25.00mmol)、酢酸パラジウム11.2mg(0.05mmol)を仕込み、150℃にて20時間撹拌した。
次に、反応液を0.5μmメンブレンフィルターで濾過し、その濾液を50℃/5.0kPaで濃縮することにより、淡黄色の液体を1.4g得た。
【0036】
得られた液体の質量スペクトル、1H-NMRスペクトル(重クロロホルム)、IRスペクトルを測定した。質量スペクトルの結果を下記に示す。また、1H-NMRスペクトルのチャートを図1に、IRスペクトルのチャートを図2に示す。
質量スペクトル
m/z 316,197,155,119,93
以上の結果より、得られた化合物は、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルクロロシランであることが確認された。
【0037】
[実施例2]ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルシリルトリフラートの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えた四つ口フラスコの内部を窒素で置換し、還流冷却器上部の開放端に窒素ガスを通気させて外気が混入しないようにしながら、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルシラン14.1g(50.00mmol)を仕込み、0℃にて撹拌した。そして、トリフルオロメタンスルホン酸7.4g(49.00mmol)を滴下した後、室温まで昇温して2時間撹拌した。反応液を蒸留し、沸点178℃/0.4kPaの留分を11.3g得た。
【0038】
得られた留分の質量スペクトル、1H-NMRスペクトル(重クロロホルム)、IRスペクトルを測定した。質量スペクトルの結果を下記に示す。また、1H-NMRスペクトルのチャートを図3に、IRスペクトルのチャートを図4に示す。
質量スペクトル
m/z 311,227,181,139,119,91
以上の結果より、得られた化合物は、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)メチルシリルトリフラートであることが確認された。
【0039】
[実施例3]tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシランの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えた四つ口フラスコの内部を窒素で置換し、還流冷却器上部の開放端に窒素ガスを通気させて外気が混入しないようにしながら、tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シラン1.1g(5.00mmol)、塩化メタリル2.3g(25.00mmol)、酢酸パラジウム11.2mg(0.05mmol)を仕込み、150℃にて11時間撹拌した。
次に、反応液を0.5μmメンブレンフィルターで濾過し、その濾液を50℃/5.0kPaで濃縮することにより、淡黄色の液体を1.2g得た。
【0040】
得られた液体の質量スペクトル、1H-NMRスペクトル(重クロロホルム)、IRスペクトルを測定した。質量スペクトルの結果を下記に示す。また、1H-NMRスペクトルのチャートを図5に、IRスペクトルのチャートを図6に示す。
質量スペクトル
m/z 254,155,135,118,93,41
以上の結果より、得られた化合物は、tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)クロロシランであることが確認された。
【0041】
[実施例4]tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラートの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えた四つ口フラスコの内部を窒素で置換し、還流冷却器上部の開放端に窒素ガスを通気させて外気が混入しないようにしながら、tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シラン2.2g(10.00mmol)を仕込み、0℃にて撹拌した。そして、トリフルオロメタンスルホン酸1.5g(9.80mmol)を滴下した後、室温まで昇温して2時間撹拌した。無色透明の液体を3.4g得た。
【0042】
得られた留分の質量スペクトル、1H-NMRスペクトル(重クロロホルム)、IRスペクトルを測定した。質量スペクトルの結果を下記に示す。また、1H-NMRスペクトルのチャートを図7に、IRスペクトルのチャートを図8に示す。
質量スペクトル
m/z 368,249,119,77,41
以上の結果より、得られた化合物は、tert-ブチルメチル(1-メチル-1-フェニルエチル)シリルトリフラートであることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8