(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】エアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及びエアーバッグ
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220921BHJP
C08K 5/5465 20060101ALI20220921BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220921BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220921BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220921BHJP
B60R 21/235 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K5/5465
C08K3/36
C08L83/05
C08L83/04
B60R21/235
(21)【出願番号】P 2019163601
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦田 諒
(72)【発明者】
【氏名】生方 茂
(72)【発明者】
【氏名】平林 佐太央
(72)【発明者】
【氏名】前川 珠里
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-19196(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168315(WO,A1)
【文献】特開2014-136722(JP,A)
【文献】特開平5-179203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L83/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する重量平均重合度が100~
1,000の25℃で液状のオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有する25℃で液状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中に含まれるSiH基が、(A)成分中に含まれるケイ素原子結合アルケニル基の合計1モル当たり、1~10モルとなる量、
(C)BET法比表面積が50m
2/g以上であるシリカ微粉末:1~50質量部、
(D)ヒドロシリル化反応用触媒:(A)~(C)成分の合計質量に対して、触媒金属元素の質量換算で1~500ppmとなる量、
(E)1分子中
にアルコキシシリル
基とイソシアネート基とを
それぞれ1個以上有する有機
ケイ素化合物:0.1~10質量部、
(F)有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の縮合触媒:0.1~5質量部
を必須成分とすることを特徴とするエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(E)成分が、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項1に記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(C)成分のシリカ微粉末が、シリカ中のNa
+イオン含有量がNa
2O換算で0.35質量%以下の湿式シリカである請求項1又は2に記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
更に、(G)成分として、三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジンを、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
エアーバッグ用基布上に、請求項1~4のいずれか1項に記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の硬化被膜を有することを特徴とするエアーバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーバッグを作製するのに好適なエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及びエアーバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維表面にゴム被膜を形成させることを目的としたエアーバッグ用シリコーンゴム組成物が提案されている。シリコーンゴム被膜を有するエアーバッグは気密性及び低燃焼速度性に優れるため、自動車等のエアーバッグとして好適に用いられている。
【0003】
このようなエアーバッグ用シリコーンコーティング組成物としては、分子鎖両末端にヒドロシリル基を持つ架橋剤と、側鎖にヒドロシリル基を持つ架橋剤とを組み合わせることで内圧保持性に優れる付加硬化型液状シリコーンゴム組成物(特表2013-531695号公報:特許文献1)や、特定構造のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを架橋剤とし、接着性付与成分として、1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物、並びにチタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方を含有することで、基布への接着性に優れる付加硬化型液状シリコーンゴム組成物(特開2011-080037号公報:特許文献2)や、Q単位を含有する分岐鎖オルガノポリシロキサンをベースポリマーとする付加硬化型シリコーンゴム組成物を基布にコーティングすることにより内圧保持性に優れたエアーバッグを製造する方法(特表2013-516521号公報:特許文献3)などが開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物をエアーバッグ用基布にコーティングし、硬化することで製造するエアーバッグ用コーティング基布は耐熱や耐湿熱等の耐久試験後の接着性の低下が著しく、エアーバッグ用基布として必要とされる接着耐久性を満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-531695号公報
【文献】特開2011-080037号公報
【文献】特表2013-516521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、シリコーンゴムコーティング層のエアーバッグ用基布への接着性及び接着耐久性に優れた付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及びエアーバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、後述する(A)~(F)成分を必須成分とする付加硬化型液状シリコーンゴム組成物をエアーバッグ用基布表面に塗布し、加熱硬化させて得られるエアーバッグ製造用シリコーンゴムコーティング基布が、基布への接着性及び接着耐久性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記エアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及びエアーバッグを提供する。
[1]
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する重量平均重合度が100~1,000の25℃で液状のオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有する25℃で液状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中に含まれるSiH基が、(A)成分中に含まれるケイ素原子結合アルケニル基の合計1モル当たり、1~10モルとなる量、
(C)BET法比表面積が50m2/g以上であるシリカ微粉末:1~50質量部、
(D)ヒドロシリル化反応用触媒:(A)~(C)成分の合計質量に対して、触媒金属元素の質量換算で1~500ppmとなる量、
(E)1分子中にアルコキシシリル基とイソシアネート基とをそれぞれ1個以上有する有機ケイ素化合物:0.1~10質量部、
(F)有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の縮合触媒:0.1~5質量部
を必須成分とすることを特徴とするエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
[2]
(E)成分が、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする[1]に記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
[3]
(C)成分のシリカ微粉末が、シリカ中のNa+イオン含有量がNa2O換算で0.35質量%以下の湿式シリカである[1]又は[2]に記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
[4]
更に、(G)成分として、三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジンを、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部含有することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
[5]
エアーバッグ用基布上に、[1]~[4]のいずれかに記載のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の硬化被膜を有することを特徴とするエアーバッグ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコーンゴムコーティング層のエアーバッグ用基布への接着性及び接着耐久性に優れたエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及びエアーバッグが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。なお、本明細書中において、粘度は、25℃において、JIS K 7117-1:1999に記載の方法で回転粘度計により測定した値である。また、重合度は、トルエンを展開溶媒としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の重量平均重合度(重量平均分子量)として求めた値である。
【0011】
<付加硬化型液状シリコーンゴム組成物>
本発明のエアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物は、以下の(A)~(F)成分を含有してなるものであって、室温(25℃)で液状のものである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分は、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有する重量平均重合度が100~2,000の25℃で液状のオルガノポリシロキサンであり、本発明にかかる組成物のベースポリマー(主剤)である。
【0013】
(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状等が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。また、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造が直鎖状又は分岐鎖状である場合、該オルガノポリシロキサンの分子中においてアルケニル基が結合するケイ素原子の位置は、分子鎖末端(即ち、トリオルガノシロキシ基)及び分子鎖途中(即ち、分子鎖非末端に位置する2官能性のジオルガノシロキサン単位又は3官能性のモノオルガノシルセスキオキサン単位)のどちらか一方でも両方でもよい。(A)成分として、特に好ましいものは、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【0014】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、例えば、通常炭素数2~8、好ましくは炭素数2~4のものが挙げられる。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、特にビニル基であることが好ましい。
【0015】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した1価の有機基(即ち、非置換若しくは置換の1価炭化水素基)全体に対して、0.001~10モル%であることが好ましく、特に0.01~5モル%程度であることが好ましい。
【0016】
(A)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する1価の有機基としては、例えば、互いに同一又は異種の非置換若しくは置換の、通常炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10の1価炭化水素基が挙げられる。1価の有機基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などが挙げられ、特に、メチル基であることが好ましい。なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、イソシアネート基を含有しない。
【0017】
(A)成分の重量平均重合度は、100~2,000であり、好ましくは150~1,000である。重量平均重合度が100より小さいと、得られるシリコーンゴムの機械的特性が悪くなることがあり、また重量平均重合度が2,000より大きいと、得られるシリコーンゴム組成物の粘度が高くなり、コーティング作業性が悪化することがある。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
[(B)成分]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、主に(A)成分中のアルケニル基とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤(硬化剤)として作用するものである。
(B)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状(樹脂状)構造等各種のものが挙げられるが、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有する必要があり、通常2~300個、好ましくは3~200個、より好ましくは4~100個のSiH基を有することが望ましく、25℃で液状のものが使用される。このようなSiH基は、分子鎖末端、分子鎖途中のいずれに位置していてもよく、またこの両方に位置するものであってもよい。
【0021】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(1)で示されるものを用いることができる。
【化1】
【0022】
式(1)中、R1は互いに同一又は異種の、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を除く、通常炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10の、ケイ素原子に結合した非置換若しくは置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等が挙げられる。R1としては、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基である。また、aは0.7~2.1、bは0.001~1.0で、かつa+bが0.8~3.0を満足する正数であり、好ましくはaは1.0~2.0、bは0.01~1.0で、かつa+bが1.5~2.5を満足する正数である。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、イソシアネート基を含有しない。
【0023】
このような(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサンや、これらの各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換されたもの、式:R2
3SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R2
2HSiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R2
2HSiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R2HSiOで示されるシロキサン単位と式:R2SiO1.5で示されるシロキサン単位若しくは式:HSiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。ここで、上記式中のR2は、アルケニル基以外の通常炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10の1価炭化水素基である。
【0024】
(B)成分の配合量は、(A)成分中に含まれるケイ素原子結合アルケニル基の合計1モル(又は個)に対して、(B)成分中に含まれるSiH基が1~10モル(又は個)、好ましくは1.2~9モル(又は個)、より好ましくは1.5~8モル(又は個)となる量である。
(A)成分中に含まれるケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対して、(B)成分中に含まれるSiH基が1モル未満であると、組成物は十分に硬化せず、またこれが10モルを超えると、得られるシリコーンゴム硬化物の耐熱性が極端に劣ることがある。
【0025】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
[(C)成分]
(C)成分のシリカ微粉末は、補強性充填剤として作用する。即ち、本発明にかかる組成物から得られるシリコーンゴム硬化物に強度を付与するもので、シリカ微粉末を使用することにより、本発明に必要な強度を満足するコーティング膜を形成することが可能となる。かかるシリカ微粉末は、比表面積(BET法)が50m2/g以上であり、好ましくは50~400m2/g、より好ましくは100~300m2/gであることが必要であり、比表面積が50m2/g未満では、満足するような強度特性を付与することができない。
【0027】
このようなシリカ微粉末としては、比表面積が上記範囲内であることを条件として、従来からシリコーンゴムの補強性充填剤として使用されている公知のものでよく、例えば、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)、沈降シリカ(湿式シリカ)などが挙げられるが、組成物の粘度が低くなり、作業性に優れることから湿式シリカが好ましい。
【0028】
(C)成分に湿式シリカを使用する場合は、シリカ中のNa+イオン含有量がNa2O換算で0.35質量%以下であることが好ましい。一般に、湿式シリカはケイ酸ソーダから製造されており、その不純物としてNa+イオンが残存することは周知のことである。シリコーンゴム組成物にこれらを配合充填した場合、難燃性が低下する。従って、湿式シリカを配合する場合には、シリカ中のNa+イオン含有量がNa2O換算で0.35質量%以下、好ましくは0.30質量%以下であることが必要とされる。
【0029】
上記補強性シリカ微粉末は、例えば、クロロシラン、アルコキシシラン、オルガノシラザン等の(通常、加水分解性の)有機ケイ素化合物などの表面処理剤で、表面が疎水化処理されたシリカ微粉末を用いることができる。その場合、これらのシリカ微粉末は、予め粉体の状態で、表面処理剤により、直接表面疎水化処理されたものを用いてもよいし、シリコーンオイル(例えば、上記(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン)との混練時に表面処理剤を添加して、表面疎水化処理したものを用いてもよい。
【0030】
(C)成分の通常の処理法として、公知の技術により表面処理することができ、例えば、常圧で密閉された機械混練装置又は流動層に上記未処理のシリカ微粉末と表面処理剤とを入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において、室温(25℃)あるいは熱処理(加熱)下にて混合処理することができる。場合により、水又は触媒(加水分解促進剤等)を使用して表面処理を促進してもよい。混練後、乾燥することにより、表面処理シリカ微粉末を製造し得る。表面処理剤の配合量は、その表面処理剤の被覆面積から計算される量以上であればよい。
【0031】
表面処理剤として、具体的には、へキサメチルジシラザン等のシラザン類、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン及びクロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、ポリメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられ、これらで表面処理し、疎水性シリカ微粉末として用いることができる。表面処理剤としては、特にシランカップリング剤又はシラザン類が好ましい。
【0032】
(C)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、1~50質量部であり、好ましくは10~30質量部である。配合量が少なすぎると、本発明に必要な強度が得られず、配合量が多すぎると、組成物の粘度が高くなり、流動性が低下してコーティング作業が悪化することがある。
【0033】
(C)成分の微粉末シリカは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0034】
[(D)成分]
(D)成分のヒドロシリル化反応用触媒は、主に(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基と(B)成分中のSiH基との付加反応を促進するものである。このヒドロシリル化反応用触媒は、特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属;塩化白金酸;アルコール変性塩化白金酸;塩化白金酸と、オレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物等が挙げられ、好ましくは白金族金属化合物である。
【0035】
(D)成分の配合量は、触媒としての有効量であればよいが、(A)~(C)成分の合計質量に対して、触媒金属元素の質量換算で、好ましくは1~500ppm、より好ましくは10~100ppmとなる量である。この配合量が少なすぎると付加反応が著しく遅くなったり、組成物が硬化しなかったりすることがあり、この配合量が多すぎると硬化物の耐熱性が低下することがある。
【0036】
(D)成分のヒドロシリル化反応用触媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
[(E)成分]
(E)成分は、1分子中にアルケニル基、アルコキシシリル基、及びヒドロシリル基から選ばれる少なくとも1種の官能基と少なくとも1つのイソシアネート基とを含む有機化合物であり、シリコーンゴム組成物のエアーバッグ用基布に対する接着性を発現・向上させるために添加するものである。
上記の条件を満たせばいかなる有機化合物でも使用できるが、1分子中にイソシアネート基とアルコキシシリル基(ケイ素原子結合アルコキシ基)とをそれぞれ1個以上有する有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【0038】
(E)成分の有機化合物としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤(即ち、イソシアネート官能性基含有オルガノアルコキシシラン)や、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、1-ブテン-4-イソシアネート、1-ビニル-2-イソシアネートベンゼン、1-ビニル-3-イソシアネートベンゼン、1-ビニル-4-イソシアネートベンゼン、1-アリル-2-イソシアネートベンゼン、1-アリル-3-イソシアネートベンゼン、1-アリル-4-イソシアネートベンゼン等の1分子中にアルケニル基とイソシアネート基を含む有機化合物や、下記の化学式で示されるイソシアネート官能性基含有オルガノハイドロジェンシロキサン、これらの2種以上の混合物、あるいはこれらの1種若しくは2種以上の部分加水分解縮合物等が挙げられるが、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランであることが好ましい。
【0039】
【化2】
(式中、kは0~40の整数、好ましくは0~20の整数、pは1~40の整数、好ましくは1~20の整数、qは1~10の整数、好ましくは1~5の整数であり、k+p+qは
2~90の整数、好ましくは2~45の整数である。)
【0040】
(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~10質量部であり、好ましくは0.25~5質量部である。配合量が0.1質量部未満であると、得られる組成物が充分な接着力を発現しないことがある。配合量が10質量部を超えると、組成物のチキソ性が高くなり、流動性が低下し、コーティング作業性が悪化することがある。
【0041】
また、(E)成分が、アルケニル基又はSiH基、又はその両方を含む場合、組成物中の(A)成分及び(E)成分中に含まれるケイ素原子結合アルケニル基の合計1モル(又は個)に対する(B)成分及び(E)成分中に含まれるSiH基の合計量は、1~10モル(又は個)、好ましくは1.2~9モル(又は個)、より好ましくは1.5~8モル(又は個)となる量が配合される。組成物中のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対して、SiH基の合計量が1モル未満であると、組成物は十分に硬化せず、十分な接着力を発現しないことがある。一方、これが10モルを超えると、得られるシリコーンゴム硬化物の耐熱性が極端に劣ることがある。
【0042】
(E)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
[(F)成分]
(F)成分は、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の縮合触媒であり、接着促進のために、(E)成分中の接着性付与官能基の縮合助触媒として作用するものである。
(F)成分の具体例としては、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等の有機チタン酸エステル、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンテトラアセチルアセトネート等の有機チタンキレート化合物、などのチタン系縮合助触媒(チタニウム化合物);
ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド等の有機ジルコニウムエステル、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機ジルコニウムキレート化合物、などのジルコニウム系縮合助触媒(ジルコニウム化合物);
アルミニウムセカンダリーブトキシド等の有機アルミニウム酸エステル、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等の有機アルミニウムキレート化合物、などのアルミニウム系縮合助触媒が挙げられる。
【0044】
(F)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.1~5質量部、好ましくは0.2~4質量部である。配合量が上記範囲内であると、得られる硬化物は高温高湿下での接着耐久性や耐熱性に優れたものとなる。
【0045】
(F)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明にかかる組成物には、前記(A)~(F)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の任意成分を配合することができる。その具体例としては、以下のものが挙げられる。これらの成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0047】
[(G)成分]
(G)成分は、三次元網状(樹脂状)構造のオルガノポリシロキサンレジンであり、好適には、3官能性のR3SiO3/2単位及び4官能性のSiO2単位から選ばれる少なくとも1種の分岐鎖状シロキサン単位から基本的に構成され、必要に応じて、単官能性のR3
3SiO1/2単位及び/又は2官能性のR3
2SiO2/2単位を任意に含有してもよい、三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジンであり、難燃性向上剤として作用する。但し、このオルガノポリシロキサンレジンはケイ素原子結合水素原子(SiH基)を含まない。
【0048】
ここで、上記式中のR3は、互いに同一又は異種の非置換若しくは置換の通常炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~8の1価炭化水素基であり、(A)成分の説明において例示したアルケニル基及び1価の有機基(非置換若しくは置換の1価炭化水素基)と同様のものが挙げられ、具体的には、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などが挙げられ、特に、メチル基、ビニル基であることが好ましい。
【0049】
(G)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した1価の有機基(即ち、非置換もしくは置換の1価炭化水素基)全体に対して0~10モル%であることが好ましく、特に2~8モル%程度であることが好ましい。
【0050】
ここで、(G)成分のオルガノポリシロキサンレジンには、上述したように、R3
3SiO1/2単位及び/又はR3
2SiO2/2単位を任意に含有してもよいが、その合計含有量は、(G)成分のオルガノポリシロキサンレジン中0~70モル%、特に0~50モル%とすることが好ましい。
【0051】
また、(G)成分のオルガノポリシロキサンレジンのトルエンを展開溶媒としたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量は、2,000~50,000、特に、4,000~20,000であることが好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であると、充分な難燃性改善効果が得られ、コーティング作業性が良好な液状シリコーンゴム組成物の粘度となる。
【0052】
(G)成分のオルガノポリシロキサンレジンの具体例としては、式:R4
3SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R4
2R5SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R4
2SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R4
3SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R4
2R5SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R4
2R5SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R4
2SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R4R5SiOで示されるシロキサン単位と式:R4SiO3/2で示されるシロキサン単位若しくは式:R5SiO3/2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンレジンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0053】
ここで、上記式中のR4は、アルケニル基以外の同一又は異種の非置換若しくは置換の通常炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10の1価炭化水素基であり、その例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられるが特にメチル基が好ましい。
また、上記式中のR5は、通常炭素数2~8、好ましくは炭素数2~4のアルケニル基であり、その例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基などが挙げられるが、ビニル基が特に好ましい。
【0054】
本発明に用いられる(G)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~100質量部であり、好ましくは1~90質量部であり、より好ましくは3~80質量部である。上記範囲の配合量であると十分な難燃性改善効果が得られ、費用対効果にも優れたものとなり得る。
【0055】
(G)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジンは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0056】
[反応制御剤]
反応制御剤は、(D)成分のヒドロシリル化反応用触媒に対して、硬化抑制効果を有する化合物であれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。その具体例としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物;硫黄含有化合物;アセチレンアルコール類等のアセチレン系化合物;アルケニル基を2個以上含む化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体などが挙げられる。
【0057】
反応制御剤による硬化抑制効果の度合は、その反応制御剤の化学構造によって異なるため、反応制御剤の添加量は、使用する反応制御剤の各々について、最適な量に調整することが好ましい。最適な量の反応制御剤を添加することにより、組成物は室温での長期貯蔵安定性及び硬化性に優れたものとなる。
【0058】
[非補強性充填剤]
(C)成分のシリカ微粉末以外の充填剤として、例えば、結晶性シリカ(例えば、BET法比表面積が50m2/g未満の石英粉)、有機樹脂製中空フィラー、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、カーボンブラック、ケイ藻土、タルク、カオリナイト、ガラス繊維等の充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面疎水化処理した充填剤などが挙げられる。
【0059】
[接着性成分]
(E)成分の以外の接着性成分として、例えば、接着性付与官能基を含有する有機ケイ素化合物が挙げられ、接着性付与官能基としては、エポキシ基、アルコキシシリル基(ケイ素原子結合アルコキシ基)、ヒドロシリル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。なお、本成分は、イソシアネート基を含んでいない点において、(E)成分とは明確に区別されるものである。
このような有機ケイ素化合物としては、接着性付与官能基を有するものであれば、いかなる有機ケイ素化合物でも使用できるが、1分子中に、アルコキシシリル基、アルケニル基、ヒドロシリル基から選ばれる少なくとも1つの官能基と、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基から選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む有機ケイ素化合物であることが好ましく、接着発現性の観点からは、少なくとも1つのエポキシ基と、少なくとも1つのアルコキシシリル基とを含む有機ケイ素化合物がより好ましい。
【0060】
エポキシ基は、例えば、グリシドキシプロピル基等のグリシドキシアルキル基;2,3-エポキシシクロヘキシルエチル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基等のエポキシ含有シクロヘキシルアルキル基等の形で、ケイ素原子に結合していることが好ましい。
アルコキシシリル基は、ケイ素原子と結合して、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基;メチルジメトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基等のアルキルジアルコキシシリル基等を形成していることが好ましい。
【0061】
(E)成分以外の接着性成分(有機ケイ素化合物)は、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)トリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)トリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)メチルジメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)メチルジエトキシシラン、(2,3-エポキシシクロヘキシルエチル)トリエトキシシラン、(2,3-エポキシシクロヘキシルエチル)メチルジメトキシシラン、(2,3-エポキシシクロヘキシルエチル)メチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤(即ち、エポキシ官能性基含有オルガノアルコキシシラン)又は3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル基含有シランカップリング剤(即ち、アクリル官能性基含有オルガノアルコキシシラン)又は3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタアクリル基含有シランカップリング剤(即ち、メタアクリル官能性基含有オルガノアルコキシシラン)などが挙げられ、これらの2種以上の混合物、あるいはこれらの1種若しくは2種以上の部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0062】
(E)成分以外の接着性成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~10質量部であり、好ましくは0.25~5質量部である。配合量が0.1質量部未満であると、得られる組成物が充分な接着力を発現しないことがある。配合量が10質量部を超えると、組成物のチキソ性が高くなり、流動性が低下し、コーティング作業性が悪化することがある。
【0063】
[その他の成分]
その他にも、例えば、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサン、1分子中に1個のケイ素原子結合アルケニル基を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合水素原子もケイ素原子結合アルケニル基も他の官能性基も含有しない無官能性のオルガノポリシロキサン(いわゆるジメチルシリコーンオイル)、有機溶剤、クリープハードニング防止剤、可塑剤、チキソ性付与剤、顔料、染料、防かび剤などを配合することができる。
【0064】
このように、本発明に係る組成物には、必須成分である(A)~(F)成分の他、その他の任意成分を配合し得るが、これらの任意成分のうち、ヒドロシリル化付加反応に関わり、(G)成分はアルケニル基を含むことができ、(E)成分以外の接着性成分(有機ケイ素化合物)はアルケニル基及び/又はSiH基を含むことができ、そして、その他の成分中のオルガノポリシロキサンは1つのアルケニル基又は1つのSiH基を含むことができるので、これらの任意成分を含む場合は、上記必須成分とこれらの任意成分を含めた組成物全体を考慮し、その中の各成分のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モル(又は個)に対するSiH基の合計量(モル又は個)が決められる。
この場合、組成物全体で、ケイ素原子結合アルケニル基の合計1モル(又は個)に対するSiH基の合計量は、1~10モル(又は個)、好ましくは1.2~9モル(又は個)、より好ましくは1.5~8モル(又は個)である。組成物中のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対して、SiH基の合計量が1モル未満であると、組成物は十分に硬化せず、十分な接着力を発現しない場合がある。一方、これが10モルを超えると、得られるシリコーンゴム硬化物の耐熱性が極端に劣ることがある。
【0065】
<付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の調製>
上記(A)~(F)成分の他、(G)成分等、必要に応じて配合されるその他の任意成分を均一に混合することにより、付加硬化型液状シリコーンゴム組成物を調製することができる。
こうして得られる付加硬化型液状シリコーンゴム組成物は、25℃で液状の組成物であり、JIS K 7117-1:1999に記載の方法で測定した25℃における粘度は、1~1,000Pa・sであり、好ましくは10~500Pa・sである。この粘度範囲内であれば、エアーバッグ用基布に塗工する際に、塗工むらや硬化後の基布への接着力不足などが生じにくいため、好適に用いることができる。
【0066】
<エアーバッグ用基布>
本発明において、上記組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層が形成されるエアーバッグ用基布(繊維布からなる基材)としては、公知のものが用いられ、その具体例としては、6,6-ナイロン、6-ナイロン、アラミド繊維などの各種ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの各種ポリエステル繊維などの各種合成繊維の織生地が挙げられる。
【0067】
<エアーバッグの製造方法>
上記付加硬化型液状シリコーンゴム組成物を、エアーバッグ用基布(繊維布からなる基材)の少なくとも一方の表面、特には一方の表面に塗布した後、乾燥炉などで加熱硬化することにより、シリコーンゴム層(硬化被膜層)を形成させることができる。このようにして得たエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング基布を用いて、エアーバッグを製造することができる。
【0068】
ここで、付加硬化型液状シリコーンゴム組成物をエアーバッグ用基布にコーティングする方法としては、常法を採用することができるが、ナイフコーターによるコーティングが好ましい。コーティング層の厚さ(又は表面塗布量)は、通常10~100g/m2、好ましくは12~90g/m2、より好ましくは15~80g/m2とすることができる。
【0069】
付加硬化型液状シリコーンゴム組成物は、公知の硬化条件下で公知の硬化方法により硬化させることができる。具体的には、例えば、100~200℃において、1~30分加熱することにより、該組成物を硬化させることができる。
【0070】
このようにして製造された少なくとも一方の表面にシリコーンゴム層を有するエアーバッグ用基布(エアーバッグ用シリコーンゴムコーティング基布)をエアーバッグに加工する際は、少なくともエアーバッグの内面側がシリコーンゴムでコーティングされている2枚の平織布の外周部同士を接着剤で貼り合わせ、かつその接着剤層を縫い合わせて作製する方法が挙げられる。また、予め袋織りして作製されたエアーバッグ用基布の外側両面に、上記のように、付加硬化型液状シリコーンゴム組成物を所定のコーティング量でコーティングし、所定の硬化条件下で硬化させる方法を採ってもよい。なお、ここで用いる接着剤には、公知のものを用いることができるが、シームシーラントと呼ばれるシリコーン系接着剤が接着力や接着耐久性などの面から好適である。
こうして、エアーバッグ用基布上に、エアーバッグ用付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の硬化被膜を有するエアーバッグを得ることができるが、かかるエアーバッグは、シリコーンゴムコーティング層のエアーバッグ用基布への接着性及び接着耐久性に優れていることから、その産業上の利用価値は極めて高いものである。
【実施例】
【0071】
以下、調製例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、粘度はJIS K 7117-1:1999に記載の回転粘度計により測定した25℃における値である。
【0072】
[調製例1]
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が30,000mPa・s、重量平均重合度が750のジメチルポリシロキサン(A1)60質量部、ヘキサメチルジシラザン8質量部、水2質量部、比表面積がBET法で300m2/g、シリカ中のNa+イオン含有量がNa2O換算で0.16質量%であるシリカ微粉末(C1)(Aerosil 300、日本アエロジル社製)40質量部をニーダー中に投入し、室温にて1時間混合した。その後、温度を150℃に昇温し、引き続き2時間混合した。この後、室温まで降温して分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が30,000mPa・s、重量平均重合度が750のジメチルポリシロキサン(A1)30質量部を添加して均一になるまで混合し、ベースコンパウンド(1)を得た。
【0073】
[調製例2]
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が30,000mPa・s、重量平均重合度が750のジメチルポリシロキサン(A1)60質量部、ヘキサメチルジシラザン8質量部、水2質量部、比表面積がBET法で200m2/g、シリカ中のNa+イオン含有量がNa2O換算で0.16質量%である湿式シリカ(C2)(Nipsil LP 東ソー・シリカ社製)40質量部をニーダー中に投入し、室温にて1時間混合した。その後、温度を150℃に昇温し、引き続き2時間混合した。この後、室温まで降温して分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が30,000mPa・s、重量平均重合度が750のジメチルポリシロキサン(A1)30質量部を添加して均一になるまで混合し、ベースコンパウンド(2)を得た。
【0074】
[実施例1]
調製例1で得られたベースコンパウンド(1)110質量部に、25℃での粘度が30,000mPa・s、重量平均重合度が750のジメチルポリシロキサン(A1)58質量部、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され、分子鎖側鎖にケイ素原子に結合した水素原子を平均4個有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B1)(重量平均重合度:18、SiH基量:0.0035mol/g)9.5質量部、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(E)0.64質量部、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(F1)0.27質量部、反応制御剤として1-エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(D)0.2質量部を1時間混合して、組成物A(全SiH基/全ビニル基=5.1mol/mol、粘度:180Pa・s)を調製した。
【0075】
<接着性試験方法>
組成物Aをエアーバッグ用66ナイロン基布(210デニール)及びPET基布(495デニール)に表面塗布量が25~30g/m2になるようにコーティングした後に、180℃の乾燥機で1分間の加熱硬化を行い、シリコーンゴム硬化物でコーティングされたエアーバッグ基布を作製した。上記のシリコーンゴム被覆ナイロン基布及びPET基布についてISO 5981に記載の方法で、スクラブ試験機(SERVONETIC Control Instruments社製)を用いて接着性を評価した。1,500回のスクラブ試験を行った後、コーティング部分の破壊状況を目視で確認し、シリコーンゴム層がコーティング面から剥離していない場合を合格と評価し、剥離している場合を不合格と評価した。
【0076】
<耐久試験後の接着性試験方法>
組成物Aをエアーバッグ用66ナイロン基布(210デニール)及びPET基布(495デニール)に表面塗布量が25~30g/m2になるようにコーティングした後に、180℃の乾燥機で1分間の加熱硬化を行い、シリコーンゴム硬化物でコーティングされたエアーバッグ基布を作製した。上記のシリコーンゴム被覆ナイロン基布及びPET基布を120℃の乾燥機で400時間の耐熱試験、及び温度70℃、湿度95%の恒温恒湿器で400時間の耐湿熱試験を行った。次に上記の耐久試験後のシリコーンゴム被覆ナイロン基布及びPET基布についてISO 5981に記載の方法で、スクラブ試験機(SERVONETIC Control Instruments社製)を用いて接着性を評価した。1,500回のスクラブ試験を行った後、コーティング部分の破壊状況を目視で確認し、シリコーンゴム層がコーティング面から剥離していない場合を合格と評価し、剥離している場合を不合格と評価した。
【0077】
[実施例2]
調製例1で得られたベースコンパウンド(1)75質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が1,000mPa・s、重量平均重合度が200のジメチルポリシロキサン(A2)45.5質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が5,000mPa・s、重量平均重合度が450のジメチルポリシロキサン(A3)5質量部、(CH3)3SiO1/2単位39.5モル%と(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなる三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン(G)(重量平均分子量:6,000)5質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、分子鎖側鎖にケイ素原子に結合した水素原子を平均45個有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B2)(重量平均重合度:62、SiH基量:0.011mol/g)6.4質量部、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(E)を0.25質量部、テトラオクチルチタネート(F2)0.40質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.05質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(D)0.22質量部を1時間混合して、組成物B(全SiH基/全ビニル基=5.2mol/mol、粘度:50Pa・s)を調製し、実施例1と同様に接着性試験及び耐久試験後の接着性試験をした結果を表1に示す。
【0078】
[実施例3]
実施例2のベースコンパウンド(1)をベースコンパウンド(2)に同質量部で置き換えたこと以外は同様にして組成物C(全SiH基/全ビニル基=5.2mol/mol、粘度:30Pa・s)を調製し、実施例1と同様に接着性試験及び耐久試験後の接着性試験をした結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
実施例1の3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(E)0.64質量部をγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン0.72質量部に置き換えたこと以外は同様にして組成物D(全SiH基/全ビニル基=5.1mol/mol、粘度:170Pa・s)を調製し、実施例1と同様に接着性試験及び耐久試験後の接着性試験をした結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
実施例1のジルコニウムテトラアセチルアセトネート(F1)を配合しなかったこと以外は同様にして組成物E(全SiH基/全ビニル基=5.1mol/mol、粘度:170Pa・s)を調製し、実施例1と同様に接着性試験及び耐久試験後の接着性試験をした結果を表1に示す。
【0081】
[比較例3]
実施例2の3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(E)0.25質量部を、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン0.28質量部に置き換えたこと以外は同様にして組成物F(全SiH基/全ビニル基=5.2mol/mol、粘度:45Pa・s)を調製し、実施例1と同様に接着性試験及び耐久試験後の接着性試験をした結果を表1に示す。
【0082】
[比較例4]
実施例3の3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(E)0.25質量部をγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン0.28質量部に置き換えたこと以外は同様にして組成物G(全SiH基/全ビニル基=5.2mol/mol、粘度:25Pa・s)を調製し、実施例1と同様に接着性試験及び耐久試験後の接着性試験をした結果を表1に示す。
【0083】