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  • 特許-Δ12脂肪酸デサチュラーゼ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】Δ12脂肪酸デサチュラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20220101AFI20220921BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220921BHJP
   C07C 57/12 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
C12P7/64
C12N15/31 ZNA
C12N9/04 Z
C12N15/53
C12N1/19
C07C57/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018156232
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020028260
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松沢 智彦
(72)【発明者】
【氏名】矢追 克郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 秀雄
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-500640(JP,A)
【文献】特表2007-510436(JP,A)
【文献】特開2010-158219(JP,A)
【文献】'Accession: XM_014803308.1 GI: 955498619, DEFINITION: Moesziomyces antarcticus delta-12 fatty acid desaturase partial mRNA [Moesziomyces antarcticus]', NCBI Sequence Revision History [online], uploaded on 12-JUL-2017,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/955498619?sat=4&satkey=198478319,[retrieved on 08-MAR-2-22] which retrieved from the internet: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/XM_014803308.1?report=girevhist >
【文献】Appl Microbiol Biotechnol, 2017 Mar 29, vol. 101, no. 11, pp. 4605-4616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂酵母の培養物から油脂を回収することを含前記油脂酵母が酵母Pseudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む油脂酵母である、油脂の製造方法。
【請求項2】
前記油脂酵母がリポマイセス属酵母である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記Δ12脂肪酸デサチュラーゼが下記(i)又は(ii)に記載のタンパク質:
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(ii)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下にまで低下させることができる活性を有するタンパク質、
である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ等に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活に油脂は密接に関わっており、その用途は主に食用用途と工業用用途とに分類される。食用用途では調理の際にサラダ油として、また油脂原料をマーガリンやドレッシング等に加工して使用される食品加工油脂がある。工業用用途では燃料や潤滑油としてそのまま使用される他、化学変換を経てシャンプーやリンス、化粧品等の油脂化成品として使用されている。
【0003】
主要油脂3品(大豆油、菜種油及びパーム油)の油脂の原料は主に菜種、大豆等の種子、パーム、オリーブ等の果肉を圧搾することで得られる植物油である。海外では、油脂の原料となる油糧植物を栽培することで油脂供給が可能である。一方、日本では食用油脂自給率を向上させる為に、日本に適した油脂生産システムの開発が必要である。
【0004】
現在、油脂生産方法は油糧植物からの油脂生産に替えて、微生物を用いた油脂の生産が注目されている。中でも、リポマイセス属酵母等の油脂酵母は高い油脂蓄積能力を有する(特許文献1)。しかし、蓄積される油脂の多くは飽和脂肪酸又は1価不飽和脂肪酸から構成されており、多価不飽和脂肪酸の含有率は極めて低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第2012-183012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DHAやEPA等に代表される多価不飽和脂肪酸は脂質代謝を改善する等の有用性が見出されており、付加価値が高い。本発明者は、多価不飽和脂肪酸を酵母等の細胞を利用して製造することに着目した。しかし、上記の通り、酵母において蓄積される油脂の多くは飽和脂肪酸又は1価不飽和脂肪酸である。
【0007】
そこで、本発明は、酵母等の細胞を利用してより効率的に多価不飽和脂肪酸を製造できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、オレイン酸(C18:1)をリノール酸(C18:2)に変換する酵素である。リノール酸は、酵母等の細胞において、DHAやEPA等を生産するための最も上流にある重要な多価不飽和脂肪酸である。本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進める中で、このΔ12脂肪酸デサチュラーゼに着目した。
【0009】
本発明者は、さらに研究を進めた結果、酵母Psudozyma antarcticaに注目するに至り、該酵母由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼを油脂酵母に導入すると、オレイン酸含有率が低下し、多価不飽和脂肪酸の含有率が向上することを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0010】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0011】
項1.
酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【0012】
項2.
ベクターの形態である、項1に記載のポリヌクレオチド。
【0013】
項3.
前記Δ12脂肪酸デサチュラーゼが下記(i)又は(ii)に記載のタンパク質:
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(ii)配列番号1に示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、
である、項1又は2のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0014】
項4.
前記同一性が90%以上である、項3に記載のポリヌクレオチド。
【0015】
項5.
前記Δ12脂肪酸デサチュラーゼが、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下にまで低下させることができる活性を有する、項1~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0016】
項6.
下記(A)又は(B)に記載のΔ12脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるΔ12脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるΔ12脂肪酸デサチュラーゼであって、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下にまで低下させることができる活性を有するΔ12脂肪酸デサチュラーゼ、
のコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【0017】
項7.
前記同一性が90%以上である、項6に記載のポリヌクレオチド。
【0018】
項8.
項1~7のいずれかに記載のポリヌクレオチドが含む前記コード配列によってコードされる、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ。
【0019】
項9.
項1~7のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0020】
項10.
酵母である、項9に記載の細胞。
【0021】
項11.
油脂酵母である、項9又は10に記載の細胞。
【0022】
項12.
リポマイセス属酵母である、項9~11のいずれかに記載の細胞。
【0023】
項13.
項9~12のいずれかに記載の細胞の培養物から油脂を回収することを含む、油脂の製造方法。
【0024】
項14.
項9~12のいずれかに記載の細胞の油脂含有培養物。
【0025】
項15.
脂肪酸中オレイン酸含有率が12%以下である、項14に記載の油脂含有培養物。
【0026】
項16.
項9~12のいずれかに記載の細胞の油脂含有抽出物。
【0027】
項17.
脂肪酸中オレイン酸含有率が12%以下である、項16に記載の油脂含有抽出物。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、酵母等の細胞を利用してより効率的に多価不飽和脂肪酸を製造できる技術を提供することができる。例えば、酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼや特定のアミノ酸配列からなるΔ12脂肪酸デサチュラーゼを発現させることにより、細胞内のオレイン酸含有率を低下させ、多価不飽和脂肪酸の含有率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例4の脂肪酸組成解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0031】
1.Δ12脂肪酸デサチュラーゼ、及びそのコード配列を含むポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ、及びそのコード配列を含む単離されたポリヌクレオチドに関する。以下に、これらについて説明する。
【0032】
1-1.Δ12脂肪酸デサチュラーゼ
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、その一態様において、酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼ(以下、「Δ12脂肪酸デサチュラーゼ1」と示すこともある。)である。ここで、「酵母Psudozyma antarctica由来の」とは、酵母Psudozyma antarcticaが元来有する(すなわち、野生型のゲノムにコードされている)もの、或いはそれに基づいてアミノ酸配列が改変されたものである限り、特に制限されない。改変の程度は、活性を大きく損ねない(例えば、元の活性の70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上の活性を保つ/有する)程度である限り特に制限されない。
【0033】
本発明の好ましい一態様において、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ1は、下記(i)又は(ii)に記載のタンパク質:
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(ii)配列番号1に示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0034】
本明細書において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の「同一性」も上記に準じて定義される。 上記(ii)のタンパク質について、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対する同一性の程度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0035】
上記(ii)のタンパク質は、好ましくは下記(iia)に記載のタンパク質:
(iia)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)したアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0036】
上記(iia)のタンパク質について、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0037】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0038】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼ1は、好ましくは、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下(好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは8%以下)にまで低下させることができる活性を有する。ここでいうリポマイセス属酵母としては、脂肪酸変換経路(特に、オレイン酸を生成する経路、及びオレイン酸を他の脂肪酸(例えばリノール酸)に変換する経路)に変異が加えられていない限り特に制限されるものではない。リポマイセス属酵母として、好ましくはリポマイセス・スタルキー(L. starkeyi)が挙げられる。酵母の脂肪酸中のオレイン酸含有率は、公知の方法に従って、例えばクロマトグラフィーを利用して測定することができる。「低下させることができる」とは、発現の程度、培養条件等を調節することによって一定レベルまで低下させることが可能であることを示す。
【0039】
また、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ1は、好ましくは、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中多価不飽和脂肪酸含有率を50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上)にまで増加させることができる活性を有する。
【0040】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、その一態様において、下記(A)又は(B)に記載のΔ12脂肪酸デサチュラーゼ(以下、「Δ12脂肪酸デサチュラーゼ2」と示すこともある。):
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるΔ12脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるΔ12脂肪酸デサチュラーゼであって、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下にまで低下させることができる活性を有するΔ12脂肪酸デサチュラーゼである。
【0041】
上記(B)のΔ12脂肪酸デサチュラーゼについて、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対する同一性の程度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0042】
上記(B)のΔ12脂肪酸デサチュラーゼは、好ましくは下記(Ba)に記載のタンパク質:
(Ba)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)したアミノ酸配列からなるΔ12脂肪酸デサチュラーゼであって、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下にまで低下させることができる活性を有するΔ12脂肪酸デサチュラーゼである。
【0043】
上記(Ba)のΔ12脂肪酸デサチュラーゼについて、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0044】
上記(B)のΔ12脂肪酸デサチュラーゼの定義における「活性」については、上記したΔ12脂肪酸デサチュラーゼ1についての「活性」と同様である。
【0045】
また、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ2は、好ましくは、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中多価不飽和脂肪酸含有率を50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上)にまで増加させることができる活性を有する。この「活性」についても、上記したΔ12脂肪酸デサチュラーゼ1についての「活性」と同様である。
【0046】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、上記「活性」を有する限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0047】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0048】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0049】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0050】
さらに、Δ12脂肪酸デサチュラーゼには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
【0051】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、上記「活性」を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0052】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0053】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0054】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術、生物からの酵素精製技術等を利用して作製することができる。
【0055】
1-2.ポリヌクレオチド
ポリヌクレオチドは、その一態様において、Δ12脂肪酸デサチュラーゼ1又はΔ12脂肪酸デサチュラーゼ2のコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチドである。
【0056】
本明細書において、DNA、RNAなどのポリヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。 コード配列としては、Δ12脂肪酸デサチュラーゼをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。コード配列としては、例えば下記(X)又は(Y)に記載の塩基配列:
(X)配列番号2に示される塩基配列、又は
(Y)配列番号2に示される塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列
が挙げられる。
【0057】
上記(Y)の塩基配列について、配列番号2に示される塩基配列に対する同一性の程度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0058】
上記(Y)の塩基配列は、好ましくは下記(Ya)に記載の塩基配列:
(Ya)配列番号1に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等)した塩基配列である。
【0059】
上記(Ya)のタンパク質について、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0060】
上記(Y)の塩基配列は、好ましくはリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を12%以下(好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは8%以下)にまで低下させることができる活性を有するΔ12脂肪酸デサチュラーゼをコードする。
【0061】
「単離された」とは、例えばゲノムDNAそのものではない、という意味を示す。この観点から、ポリヌクレオチドの塩基長は、例えば50kb以下、20kb以下、10kb以下、6kb以下、3kb以下である。該塩基長の下限は、Δ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列の塩基長である。
【0062】
ポリヌクレオチドは、その一態様に置いて、コード配列の上流に、Δ12脂肪酸デサチュラーゼを発現させるためのプロモーターを含む。プロモーターとしては、特に制限されず、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばTDH3プロモーター、GAL10プロモーター、CMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。
【0063】
ポリヌクレオチドは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点など)を含んでいてもよい。例えば、ポリヌクレオチドにおいて、5´側から、プロモーター、Δ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列の順に配置されている場合であれば、プロモーターとΔ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、Δ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
【0064】
ポリヌクレオチドは、ベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えばpUC系ベクター等が挙げられる。
【0065】
Δ12脂肪酸デサチュラーゼ及びその発現カセットは、必要に応じてホスホリパーゼDのアミノ酸配列又はコード配列等を利用し、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術、生物からの酵素精製技術等を利用して作製することができる。
【0066】
上記したポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
【0067】
2.細胞
本発明は、その一態様において、上記したポリヌクレオチドを含む細胞に関する。以下に、これについて説明する。
【0068】
細胞は、上記したポリヌクレオチドを、ゲノム外及び/又はゲノム内に含む限りにおいて、特に制限されない。
【0069】
細胞としては、好ましくは酵母、より好ましくは油脂酵母が挙げられる。油脂酵母は、油脂蓄積性が高い酵母である限り特に制限されない。例えば、油脂酵母は、高い油脂含有率、例えば20%(w/w)以上、好ましくは30%(w/w)以上、より好ましくは40%(w/w)以上、さらに好ましくは50%(w/w)以上、よりさらに好ましくは60%(w/w)以上の油脂含有率を達成できる酵母である。油脂酵母として、具体的には、例えばRhodosporodium toruloides等のRhodosporodium属酵母、Lipomyces starkeyi等のLipomyces属酵母、Cryptococcus albidus等のCryptococcus属酵母、Rhizopus arrhizua等のRhizopus属酵母、Yarrowia lipolytica等のYarrowia属酵母等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはRhodosporodium属酵母、Lipomyces属酵母、Cryptococcus属酵母等が挙げられ、より好ましくはLipomyces属酵母等が挙げられ、さらに好ましくはLipomyces starkeyi等が挙げられる。
【0070】
細胞は、さらに、他の変異が加えられていてもよい。例えば、細胞は、脂肪酸変換経路において変異が加えられていてもよい。より具体的には、例えばC16/C18脂肪酸エロンゲース、Δ9デサチュラーゼ、Δ9エロンゲース、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ等について、外来性遺伝子の導入、内在性遺伝子又はそのプロモーターの改変等の変異により、脂肪酸変換経路において変異が加えられていてもよい。これにより、例えば多価不飽和脂肪酸含有率、好ましくはDHAやEPA等の高付加価値を有する多価不飽和脂肪酸の含有率をさらに高めることが可能である。
【0071】
細胞は、公知の方法に従って又は準じて、例えば上記したポリヌクレオチドを細胞に導入する操作、形質転換法等によって、作製することができる。
【0072】
3.油脂の製造方法
本発明は、その一態様において、上記した細胞の培養物から油脂を回収することを含む、油脂の製造方法に関する。以下に、これについて説明する。
【0073】
培養は、炭素源を含有する培養液を用いて従来公知の手法によって行うことができる。炭素源としては、糖類、糖アルコール及び酸性糖あるいはこれらを含むバイオマスを、特に限定されることなく用いることができる。ここで、本発明において「バイオマス」とは、上記炭素源を含む再生可能材料を意味するものとする。
【0074】
糖類としては単糖類、オリゴ糖類及び多糖類が挙げられる。オリゴ糖類は二~十糖類を指称するものとし、これらはホモオリゴ糖類であってもヘテロオリゴ糖類であってもよい。また、多糖類はオリゴ糖類よりも単糖単位数の大きな糖類を指称するものとし、これらはホモ多糖類であってもヘテロ多糖類であってもよい。具体的には、単糖類としてはL-アラビノース、D-キシロース、D-リボース等のペントース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-フラクトース、D-マンノース等のヘキソース、L-ラムノース等の6-デオキシヘキソース等が挙げられる。オリゴ糖類としてはスクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、メリビオース等の二糖類、ラフィノース等の三糖類等が挙げられる。多糖類としては澱粉、セルロース、グリコーゲン、デキストラン、マンナン、キシラン等が挙げられる。上記糖類は単独で用いても適宜組み合わせて用いてもよい。上記組み合わせ中には澱粉加水分解物等も含まれる。また糖類としては糖類を主成分として含有する原料、例えば廃糖蜜、おから等も用いることができる。
【0075】
糖アルコールとしては、D-ソルビトール、D-マンニトール、ガラクチトール、マルチトール等が挙げられる。酸性糖としては、グルクロン酸、ガラクチュロン酸等が挙げられる。
【0076】
培地中の炭素源の量は、特に限定されないが、通常3~15%(w/w)程度とされる。
【0077】
培地は、炭素源の他に、窒素源、無機物その他の栄養素を含んでいてもよい。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等の無機有機窒素化合物が使用できる。さらに窒素源としては、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スティープ・リカー、カゼイン加水分解物、フィッシュミールもしくはその消化物、脱脂大豆粕もしくはその消化物などの窒素含有天然物も使用できる。無機物としては、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸マンガン、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、ホウ酸・モリブデン酸アンモニウム、ヨウ化カリウム等が使用できる。
【0078】
培養条件の一態様は次の通りである。培養は振盪培養あるいは深部攪拌培養など好気的条件下で行う。培養温度は一般には20~35℃が好ましいが、菌が生育する温度であれば他の温度条件でもよい。培養中の培地のpHは、通常、4.0~7.2とされる。培養期間は、特に制限されず、例えば2~10日間である。
【0079】
得られた培養物、及び該培養物中の細胞は、油脂を含有する。これらに含まれる油脂の脂肪酸中オレイン酸含有率は、好ましくは12%以下、より好ましくは11%以下、さらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは8%以下である。また、これらに含まれる油脂の脂肪酸中不飽和多価脂肪酸含有率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、よりさらに好ましくは70%以上である。
【0080】
培養物からの油脂の回収は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。
【0081】
細胞内に蓄積された油脂は、例えば必要に応じて培養物から液体画分を除去し、得られた細胞から公知の方法に従って又は準じて油脂含有抽出物を得ることによって、回収することができる。液体画分の除去は、遠心分離及び静置沈降等の操作や、セパレータ、デカンター及びフィルタレーション等の装置などによって行うことができる。
【0082】
細胞外に分泌された油脂は、例えば培養物、或いは必要に応じて培養物から細胞を除去して得られた液体画分に溶媒を添加して、油脂を該溶媒中に溶解させることによって、回収することができる。溶媒としては、油脂を溶解し、水との混和性がないか乏しい常温で液状の有機溶媒、例えばハロゲン化低級アルカン(クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン)、n-ヘキサン、エチルエーテル、酢酸エチル、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)等が好適に用いられる。抽出溶媒の添加量は培養物中またはその液体分画中に生成蓄積した油脂を十分に回収できる量であればよく特に限定されない。
【0083】
得られた油脂は、脂肪酸変換処理を経ずとも、脂肪酸中の不飽和多価脂肪酸含有率が高く(好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、よりさらに好ましくは70%以上)、また脂肪酸中オレイン酸含有率が低い(好ましくは12%以下、より好ましくは11%以下、さらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは8%以下)。
【実施例
【0084】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
参考例1.Lipomyces starkeyiのΔ12脂肪酸デサチュラーゼの同定及び解析
既知の微生物由来Δ12 fatty acid desaturaseのアミノ酸配列とBLAST解析を利用し、L. starkeyiが元来有するΔ12脂肪酸デサチュラーゼ(LsFad1)をコードする遺伝子の同定に成功した。本遺伝子をL. starkeyi lslig4破壊株において過剰発現プロモーターを利用して18S rDNA上において過剰発現させ、GY培地(5% glucose, 0.5% yeast extract)で培養した。なお、これらの試験は、後述の実施例と同様にして行った。その結果、LsFad1の過剰発現により、脂肪酸組成におけるリノール酸含有率が向上したことが分かった(表1)。ただ、まだ多くのオレイン酸が残存していた。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1.高活性Δ12脂肪酸デサチュラーゼの探索及び同定
産業技術総合研究所敷地内において単離された、主に酵母によって構成されている微生物ライブラリーを、GY培地において培養した。微生物46クローンについて、脂肪酸組成の解析を行った。脂肪酸組成の解析では、まず酵母菌体の直接メチル化法(Kamisaka Y, Noda N, Tomita N, Kimura K, Kodaki T, Hosaka K (2006) Identification of genes affecting lipid content using transposon mutagenesis in Saccharomyces cerevisiae. Biosci Biotechnol Biochem 70, 646-653)により菌体内に含まれる脂肪酸をメチル化し、それをガスクロマトグラフィー-マススペクトロメーター(GC-MS、島津社 QP2010 SE)で解析した。本解析ではキャリアーガスとしてヘリウムガスを、また、アジレントテクノロジー社 DB-225MSキャピラリーカラム(30 m×0.25 mm i.d.)によって各脂肪酸を分離した。その結果、リノール酸(18:2)を高蓄積している酵母を発見した。以下に、このリノール酸高蓄積酵母の脂肪酸組成解析結果(脂肪酸中の各種脂肪酸の含有率)を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
このリノール酸高蓄積酵母のゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として、プライマーセット1(ITS1:5’-TCCGTAGGTGAACCTGCGG-3’(配列番号3)、及びITS4:5’-TCCTCCGCTTATTGATATGC-3’(配列番号4))又はプライマーセット2(D1-D2.LSU.NL1:5’-GCATATCAATAAGCGGAGGAAAA-3'(配列番号5)、及びD1-D2.LSU.NL4:5’-GGTCCGTGTTTCAAGACGG-3’(配列番号6))を用いてPCRを行った。
【0090】
PCRで増幅したDNA断片をシーケンス解析し、当該配列をBLAST解析することによって、リノール酸高蓄積酵母がPseudozyma antarctica(別名Moesziomyces antarcticus)であることが明らかになった。既報(Saika et al, Genome Announc. 2014, 2;doi: 10.1128/genomeA.00878-14)における当該酵母のゲノム情報をもとに、参考例1で同定したL. starkeyi由来Δ12脂肪酸デサチュラーゼ(LsFad1)とアミノ酸配列が類似したタンパク質をBLAST解析した。その結果、GenDB accession No. XP_014658794がヒットした。当該タンパク質(PaΔ12d)のアミノ酸配列は配列番号1で示され、これをコードする遺伝子の塩基配列は配列番号2で示される。
【0091】
実施例2.PaΔ12dの発現ベクターの作製
pKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-LsD12d1-Ttdh3-18Sプラスミド(ノースレオリシン耐性遺伝子をLsACT1遺伝子のプロモーター及びターミネーターの制御下で、またL. starkeyi由来LsD12d1遺伝子をLsTDH3遺伝子のプロモーター及びターネーターで発現させるためのコンストラクト。本コンストラクトはL. starkeyiのゲノムDNA中の18S rDNA領域に挿入される)を元に、PaΔ12d発現プラスミドを作製した。
【0092】
pKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-LsD12d1-Ttdh3-18SはpKS-18S-hph(Oguro Y, Yamazaki H, Shida Y, Ogasawara W, Takagi M, Takaku H (2015) Multicopy integration and expression of heterologous genes in the oleaginous yeast, Lipomyces starkeyi. Biosci Biotechnol Biochem 79, 512-515)を基礎とし、人工合成したPtdh3-LsD12d1-Ttdh3配列(配列番号13)をpKS-18S-hphに制限酵素(PmeI及びAvrII)及びDNAリガーゼを用いて挿入した。また、pKS-18S-hphの選抜マーカーをハイグロマイシン耐性遺伝子hphからノースレオリシン耐性遺伝子に置換した。
【0093】
まず鋳型DNAにpKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-LsD12d1-Ttdh3-18Sを用い、プライマーセット3(THD3_terF:5’-GTGTGCGGTTGATGGTCTTCTATCTTCC-3’(配列番号7)、及びTDH_proR:5’-TGCGAATGTGGATTAGAGTAAGATAGATAACTTTTATCTG-3’(配列番号8))によるPCRを行った。得られたPCR溶液にDpnIを添加し、37℃, 3時間処理することにより鋳型DNAを消化した後、ゲル抽出によってDNAを精製した。
【0094】
次にPsudozyma antarctica をYPD(1% yeast extract, 2% polypeptone, 2% glucose)で30℃、 2 日間培養後、total RNAを回収し、cDNAを合成した。total RNAの抽出及びcDNAの合成はタカラバイオ株式会社のNucleoSpin RNAとPrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kitを使用して行った。本cDNAを鋳型に、プライマーセット4(Tdh3p_PaD12d_F:5’-TAATCCACATTCGCAATGTCGTCTGCAGTGGCTGCCAACG-3’(配列番号9)、及びPaD12d_ Tdh3t_R:5’-CCATCAACCGCACACTCACTCGGACATGGCGATGCCAG-3’(配列番号10))プライマーを用いてPCR増幅を行い、ゲル抽出によって目的の遺伝子を取得した。
【0095】
これら精製したDNA断片を、Clontech社のIn-Fusionクローニングシステムを用いて融合し、Eschrichia coli DH5αへ導入した。LB + ampicilin 100μg/ml培地上に得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素処理及びシーケンス解析によって、目的のプラスミドpKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-PaD12d-Ttdh3-18Sが作製されたことを確認した。
【0096】
実施例3.PaΔ12dを発現するリポマイセス属酵母の作製
作製した発現プラスミドを鋳型にプライマーセット5(Li18S_F:5’-GCTTCTTCGGAAGCTCTTTGGTGATTCATG-3’(配列番号11)、及びLi18S_R:5’-CGACTATATCTTAAGCCGCACAACGGCCC-3’(配列番号12))を用いてPCRを行った。エタノール沈殿により濃縮後、得られたDNA溶液をL. starkeyiΔlig4の形質転換に使用した。
【0097】
形質転換方法はelectroporation法を用いた。酵母L. starkeyiΔlig4 strainをYPD (1% yeast extract, 2% hypolypepton, 2% glucose)+ zeocin 50μg/ml液体培地で3日間、30℃, 150 rpmで前培養し、50 ml の YPDへOD660=1.0になる様に植菌した。約15時間、30℃, 150 rpmで培養後、氷上で15 分静置した後、4,000× g, 4℃, 5 min遠心して菌体を回収した。回収した菌体に8 ml の滅菌水、1 mlのTEバッファー及び1 mlの2M 酢酸リチウム溶液を加え、懸濁し、50 rpm, 30℃で45分間振盪した。その後100μl の1M DTTを添加し、さらに50 rpm, 30℃で15分間振盪した後、滅菌水を40 ml加え、4,000×g, 4℃で5分間遠心して菌体を回収した。氷冷した滅菌水を添加し、4,000×g, 4℃で5分間遠心して上清を捨て、菌体を洗浄し、最後に氷冷した3 ml の0.5M スクロースにて再度菌体を洗浄し、形質転換へ使用した。
【0098】
2μlの上記DNA溶液と40μlの上記菌体を混合し、氷冷した0.2 cmのキュベットに入れ、エレクトロポレーション(C=10μF, 600Ω, V=1.0 kV)を行った。素早く1ml の氷冷0.5Mスクロースをキュベットへ添加しよく混ぜた後、10 mlのYPD+0.5 Mスクロース培地へ加え、30℃, 50 rpmで一晩培養した。培養液は2,000×g, 4℃で5分間遠心して上清を除去し、菌懸濁液をYPD+zeocin 50μg/ml +nouseothricin 50μg/ml培地へプレーティングし、30℃で静置培養した。
【0099】
実施例4.油脂製造特性の解析
実施例3で得られた形質転換体を、GY液体培地(5% glucose, 0.5% yeast extract、水)で培養した。培養条件は、次の通りである:温度20℃、培養時間4日間。得られた培養物から酵母菌体を回収し、脂肪酸のメチル化及びGC-MS解析(実施例1と同様)によって脂肪酸組成の解析を行った。結果を図1及び表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
図1及び表3に示されるように、Pseudozyma antarctica由来Δ12脂肪酸デサチュラーゼをリポマイセス属酵母に発現させることによって、該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率が大きく低下し、それによりリノール酸のような多価不飽和脂肪酸の含有率を大きく向上することが分かった。
図1
【配列表】
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