IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナミックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図1
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図2
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図3
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図4
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図5
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図6
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図7
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図8
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図9
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図10
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図11
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図12
  • 特許-シリンジ、吐出装置及び塗布方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】シリンジ、吐出装置及び塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20220921BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220921BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B05D1/26 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021045790
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洋介
(72)【発明者】
【氏名】上村 剛
(72)【発明者】
【氏名】大江 貴之
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-293413(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054583(WO,A1)
【文献】特開2015-6662(JP,A)
【文献】特開平5-200343(JP,A)
【文献】特開平8-238316(JP,A)
【文献】特開2000-317370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00-21/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性材料を充填するためのシリンジであって、
シリンジが、
円筒状空間を有し、前記円筒状空間の一端が粘性材料取出孔であり、前記円筒状空間の他端が開口部であるバレルと、
前記円筒状空間を前記粘性材料取出孔側の粘性材料充填部と、前記開口部側の非充填空間とに二分するように前記円筒状空間内に配置され、前記バレル内に摺動可能に挿着されたプランジャと
を備え、
前記バレル及び前記プランジャの少なくとも1つは、可撓性を有し、
前記プランジャの最大外径d1が、前記バレルの内径Dよりも大きく、前記プランジャの最大外径d1と前記バレルの内径Dの比d1/Dが1.0超1.1未満であり、
前記プランジャが、20HS~60HSのショアD硬度の材料のみからなり、ショアD硬度が、タイプDデュロメータを用いるデュロメータ硬さの測定方法により測定された硬度であり、
粘性材料の粘度が、20Pa・s~980Pa・sである、シリンジ。
【請求項2】
前記プランジャの最大外径d1が、前記バレルの内径Dよりも0.3mm~3.5mm大きい、請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記粘性材料充填部に充填される前記粘性材料の粘度が、50Pa・s~900Pa・sである、請求項1又は2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記粘性材料充填部に充填される前記粘性材料に含まれる無機充填材の平均粒径(D50)が、0.005μm~30μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記プランジャが、内径d2のプランジャ内部空間を有し、前記プランジャ内部空間に前記プランジャの機械的強度を補強するためのリブを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項6】
前記バレルの内径Dが一定である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のシリンジと、
前記プランジャを押し下げるためのロッドと、
前記ロッドを押し下げるためのロッド押し下げ手段と
を含む、粘性材料の吐出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の吐出装置を使用して、前記粘性材料を被塗布物に塗布することを含む、粘性材料の塗布方法。
【請求項9】
前記バレル内に摺動可能に挿着された前記プランジャに、前記ロッドを当接し、前記ロッド押し下げ手段により前記ロッドを押し下げて、前記プランジャを摺動させることにより、前記粘性材料を前記バレルから吐出して、被塗布物に塗布することを含む、請求項8に記載の塗布方法。
【請求項10】
前記粘性材料を前記バレルから吐出するときに、前記ロッド押し下げ手段により前記ロッドに印加される力をF(N)とし、前記プランジャの断面積をS(m)とした場合、前記粘性材料に印加される押し出し圧力P(P=F/S)が、0.04MPa~2.3MPaである、請求項8又は9に記載の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の組み立て工程などで使用される粘性材料を充填するためのシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジは、所定の材料、例えば粘性材料を、保管し、所定の位置に適用するための容器として用いられる。粘性材料としては、接着剤、電気・電子回路用ペースト、電子部品実装用はんだ、並びに、機械部品及び電子部品のシーラントなどが挙げられる。
【0003】
シリンジの例として、特許文献1には、所定のプランジャを備えた液体ディスペンサーのシリンジが記載されている。特許文献1に記載のプランジャは、後端部がシリンジ内径より幾分小さい外径を有する先細り先端部分と、先細り先端部分の後方に連続する小径胴部と、この小径胴部の更に後方に連続し、シリンジ内径より大きい最大外径を有する筒状部分と、シリンジの軸線方向にのびて、その筒状部分を複数枚の羽根部材に分別するスリットを備える。
【0004】
特許文献2には、筒形カートリッジ本体、ノズル、及びプランジャの3部材からなる一液硬化型シーラント用カートリッジが記載されている。特許文献2には、3部材のそれぞれがプラスチツク射出成形品であること、カートリッジ本体の内周面に接触するプランジャの外側面を樽型に膨出するように形成すること、及びカートリッジ本体の内径を、プランジャがカートリッジ本体の内周面に機密接触する範囲内で、その末端開口部から先端開口部に向かって次第に広げることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、バレルと、液剤充填部と、プランジャと、バレルキャップとを含むシリンジ容器が記載されている。特許文献3に記載のバレルは、円筒状空間を有し、円筒状空間の一端が液剤取出孔であり、円筒状空間の他端が開口部である。特許文献3に記載のプランジャは、円筒状空間を液剤取出孔側の液剤充填部と、開口部側の非充填空間とに二分するように円筒状空間内に配置される。プランジャの最大外径は、円筒状空間の内径と略同一である。特許文献3に記載のバレルキャップは、バレルの開口部に装着され、圧力調整機構を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-200343号公報
【文献】実開昭57-177573号公報
【文献】特開2012-5509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接着剤、電気・電子回路用ペースト、電子部品実装用はんだ、並びに、機械部品及び電子部品のシーラントなどの粘性材料の適用のために、近年、ディスペンシングロボットが導入されている。ディスペンシングロボットにより、粘性材料を適用する際に、精密な吐出量の制御、及び正確な位置決めが可能となっている。また、精密な電子部品の実装などのため、粘性材料の適用には、高い信頼性及び生産性が求められている。そのため、粘性材料の吐出量を安定して得るための技術を開発することが必要である。
【0008】
特許文献1には、所定のプランジャを備えた液体ディスペンサーのシリンジの発明が記載されている。特許文献1に記載の発明は、プランジャの構造に着目した発明である。特許文献1には、バレルの内径よりもわずかにプランジャ外径を大きくすることで、エアーによる押し出し時にプランジャの傾倒を防止し、バレル壁面の粘性材料のかきとり不足を防ぎ、安定した塗布量でディスペンスを行うことが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、エアーによる吐出が前提となっており、比較的低粘度の材料のためのシリンジである。そのため、特許文献1に記載のシリンジに充填した高粘度の粘性材料を、機械的な手法(例えばロッドを用いた押し出し)で吐出しようとすると、押し出し圧力が大きくなり、プランジャの変形が発生する。その結果、プランジャとバレルとの間に生じた隙間から、粘性材料が這い上がる可能性がある。また、プランジャ内の高粘度の粘性材料を、エアーで安定的に吐出することは困難である。
【0010】
また、特許文献2には、カートリッジ本体(バレル)の先端(吐出口側)の内径を後端の内径より大きく設計し、そこにバレル後端の内径よりも外径が大きいプランジャを用いる一液硬化型シーラント用カートリッジ(シリンジ)が記載されている。特許文献2には、このような構造のプランジャを用いることで、吐出圧力を終始一定にし、塗布量を安定させてディスペンスを行うことが記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載の一液硬化型シーラント用カートリッジでは、カートリッジ本体の内径が先端側で大きくなるよう設計されている。そのため、カートリッジからの粘性材料の吐出が進むにつれて、粘性材料の這い上がりが発生する確率も高くなるという問題が生じる可能性がある。
【0012】
上述のように、粘性材料の充填のために従来のシリンジを用いた場合には、粘性材料を吐出する際に、プランジャとバレルとの間に生じた隙間から、粘性材料が這い上がるという問題が生じる可能性が高い。特に、バレルに充填した粘性材料を、機械的な手法(例えばロッドを用いた押し出し)により押し出そうとしたときに、粘性材料が這い上がるという問題が生じる可能性が、より高い。
【0013】
粘性材料が這い上がるという現象(単に「這い上がり」という場合がある。)が発生すると、プランジャ後方に位置するロッドが粘性材料で汚れ、ロッドの洗浄作業が必要になるという問題が生じる。また、這い上がりの発生により、粘性材料の吐出量にロスが発生するという問題が生じる。
【0014】
そこで、本発明は、シリンジのバレルに充填した粘性材料を、機械的な手法によりシリンジから吐出させる際に、プランジャとバレルとの間の隙間から、粘性材料が這い上がるという現象の発生を抑制することのできるシリンジを提供することを目的とする。また、本発明は、粘性材料が這い上がるという現象の発生を抑制することのできる、粘性材料の吐出装置及び塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0016】
(構成1)
本発明の構成1は、粘性材料を充填するためのシリンジであって、
シリンジが、
円筒状空間を有し、前記円筒状空間の一端が粘性材料取出孔であり、前記円筒状空間の他端が開口部であるバレルと、
前記円筒状空間を前記粘性材料取出孔側の粘性材料充填部と、前記開口部側の非充填空間とに二分するように前記円筒状空間内に配置され、前記バレル内に摺動可能に挿着されたプランジャと
を備え、
前記バレル及び前記プランジャの少なくとも1つは、可撓性を有し、
前記プランジャの最大外径d1が、前記バレルの内径Dよりも大きく、前記プランジャの最大外径d1と前記バレルの内径Dの比d1/Dが1.0超1.1未満である、シリンジである。
【0017】
(構成2)
本発明の構成2は、前記プランジャの最大外径d1が、前記バレルの内径Dよりも0.3mm~3.5mm大きい、構成1のシリンジである。
【0018】
(構成3)
本発明の構成3は、前記粘性材料充填部に充填される前記粘性材料の粘度が、20Pa・s~980Pa・sである、構成1又は2のシリンジである。
【0019】
(構成4)
本発明の構成4は、前記粘性材料充填部に充填される前記粘性材料に含まれる無機充填材の平均粒径(D50)が、0.005μm~30μmである、構成1~3のいずれかのシリンジである。
【0020】
(構成5)
本発明の構成5は、前記プランジャが、内径d2のプランジャ内部空間を有し、前記プランジャ内部空間に前記プランジャの機械的強度を補強するためのリブを有する、構成1~4のいずれかのシリンジである。
【0021】
(構成6)
本発明の構成6は、前記バレルの内径Dが一定である、構成1~5のいずれかのシリンジである。
【0022】
(構成7)
本発明の構成7は、構成1~6のいずれかのシリンジと、前記プランジャを押し下げるためのロッドと、前記ロッドを押し下げるためのロッド押し下げ手段とを含む、粘性材料の吐出装置である。
【0023】
(構成8)
本発明の構成8は、構成7の吐出装置を使用して、前記粘性材料を被塗布物に塗布することを含む、粘性材料の塗布方法である。
【0024】
(構成9)
本発明の構成9は、前記バレル内に摺動可能に挿着された前記プランジャに、前記ロッドを当接し、前記ロッド押し下げ手段により前記ロッドを押し下げて、前記プランジャを摺動させることにより、前記粘性材料を前記バレルから吐出して、被塗布物に塗布することを含む、構成8の塗布方法である。
【0025】
(構成10)
本発明の構成10は、前記粘性材料を前記バレルから吐出するときに、前記ロッド押し下げ手段により前記ロッドに印加される力をF(N)とし、前記プランジャの断面積をS(m)とした場合、前記粘性材料に印加される押し出し圧力P(P=F/S)が、0.04MPa~2.3MPaである、構成8又は9の塗布方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、シリンジのバレルに充填した粘性材料を、機械的な手法によりシリンジから吐出させる際に、プランジャとバレルとの間の隙間から、粘性材料が這い上がるという現象の発生を抑制することのできるシリンジを提供することができる。また、本発明により、粘性材料が這い上がるという現象の発生を抑制することのできる、粘性材料の吐出装置及び塗布方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態のシリンジの一例を示す断面模式図である。
図2】本実施形態のシリンジのバレルの一例を示す断面模式図である。
図3】本実施形態のシリンジのプランジャの一例を示す断面模式図であって、図3(A)は、プランジャの外径が一定である例を示し、図3(B)は、プランジャの外径が一定ではない例を示す。
図4】粘性材料を入れた本実施形態のシリンジの一例を示す断面模式図である。
図5】本実施形態のシリンジから、粘性材料を吐出させる様子の一例を示す断面模式図である。
図6】本実施形態のシリンジの写真であって、粘性材料の吐出の際に粘性材料の這い上がりが発生せず、粘性材料が、非充填空間に存在していない状態のシリンジの外観を示す写真である。
図7】本実施形態のシリンジの写真であって、粘性材料の吐出の際に粘性材料の這い上がりが発生せず、粘性材料が、非充填空間に存在していない状態のシリンジ(バレル)の内部を示す写真である。
図8図6及び図7に示す例において、本実施形態のシリンジから粘性材料を吐出させるために用いたロッドを示す写真である。
図9】粘性材料の吐出の際に、プランジャとバレルとの間に生じた隙間から、粘性材料が這い上がるという現象が発生したシリンジの外観を示す写真である。
図10】粘性材料の吐出の際に、プランジャとバレルとの間に生じた隙間から、粘性材料が這い上がるという現象が発生した状態の、シリンジ(バレル)の内部を示す写真である。
図11図9及び図10に示す例において、シリンジから粘性材料を吐出させる際に、プランジャとバレルとの間に生じた隙間から、粘性材料が這い上がるという現象が発生したときに用いたロッドを示す写真である。
図12】本実施形態のバレルの一例であって、リブを有するバレルを示す断面模式図である。
図13】本実施形態のバレルの一例であって、リブを有するバレルを示す上面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0029】
本実施形態は、粘性材料70を充填するためのシリンジ10である。図1に、本実施形態のシリンジ10の一例の断面模式図を示す。本実施形態のシリンジ10は、バレル20と、プランジャ30とを含む。バレル20の内部の円筒状空間26の粘性材料充填部27に粘性材料70が充填される(図4参照)。また、円筒状空間26の粘性材料70は、プランジャ30によって蓋をされるように充填される。そのため、プランジャ30は、バレル20の内部の円筒状空間26の粘性材料充填部27と、粘性材料70が存在しない空間(本明細書において「非充填空間28」という)との境界に位置することになる。本明細書では、バレル20の内径(円筒状空間26の径)を、「D」とする。
【0030】
図3(A)及び(B)に、プランジャ30の断面模式図を示す。本明細書では、プランジャ30の最大外径を、「d1」とする。最大外径d1とは、プランジャ30がバレル20の円筒状空間26に接する部分の外径のうち、最大の外径である。プランジャ30は、プランジャ内部空間32を有することが好ましい。本明細書では、プランジャ内部空間32の径を、「d2」とする。プランジャ内部空間32の径d2は、プランジャ内部空間32の径のうち、最も小さい径とすることができる(図3(B)参照)。
【0031】
本実施形態のシリンジ10は、プランジャ30の最大外径d1が、前記バレル20の内径Dよりも大きく、前記プランジャ30の最大外径d1と前記バレル20の内径Dの比d1/Dが1.0超1.1未満であり、好ましくは1.005以上1.09以下である。
【0032】
本実施形態のシリンジ10によれば、シリンジ10のバレル20に充填した粘性材料70を、機械的な手法によりシリンジ10から吐出させる際に、プランジャ30とバレル20との間の隙間から、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができる。
【0033】
以下、本実施形態のシリンジ10の構成について、更に詳しく説明する。
【0034】
<バレル20>
本実施形態のシリンジ10は、バレル20を有する。バレル20は、円筒状空間26を有し、円筒状空間26の一端が粘性材料取出孔22であり、円筒状空間26の他端が開口部24である。
【0035】
図2にバレル20の一例の模式図を示す。バレル20は、その内部に円筒状空間26を有するシリンダ状の形状である。本明細書では、円筒状空間26の径(バレル20の内径)を、「D」とする。なお、本明細書では、「円筒状空間26の径D」のことを、「バレル20の内径D」という場合がある。円筒状空間26の一端に、粘性材料取出孔22が配置される。粘性材料70を取り出すためのノズル62を接続することができるように、粘性材料取出孔22は、細い管状の突起形状である。すなわち、粘性材料取出孔22の部分の径は、円筒状空間26の径Dよりも小さい径にすることができる。円筒状空間26の、粘性材料取出孔22とは反対側の一端(他端)に開口部24が配置される。開口部24からプランジャ30を挿入するため、開口部24の径は、円筒状空間26の径Dと同一である。なお、プランジャ30を容易に挿入させるために、開口部24及びその近傍の径は、円筒状空間26の径Dよりも、若干、大きくすることができる。
【0036】
バレル20は、可撓性を有することが好ましい。可撓性を有するために、バレル20の材料としては、樹脂材料、特に透明又は半透明な樹脂材料から適宜選択して用いることが好ましい。具体的には、バレル20の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン及びポリアセタールなどを用いることができる。バレル20の材料は、ポリプロピレンであることが好ましい。
【0037】
本明細書において、「可撓性」とは、外部から圧力を加えることにより、所定の形状物体(例えばバレル20)の形状が、変形可能であること意味する。本実施形態のシリンジ10のバレル20及びプランジャ30の少なくとも1つは、可撓性を有する。
【0038】
本実施形態のシリンジ10は、バレル20の材料のショアD硬度が、15~65HSであることが好ましく、25~55HSであることがより好ましく、35~50HSであることが更に好ましい。本明細書において、ショアD硬度は、「JIS K6253-3:2012」に記載されているデュロメータ硬さの測定方法に沿った測定方法(例えば、タイプDデュロメータを用いるデュロメータ硬さの測定方法)を用いることができる。バレル20の材料ショアD硬度が、所定の値であることにより、バレル20は適切な可撓性を有することができる。そのため、バレル20の内壁と、プランジャ30との隙間を小さくすることができる。そのため、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができる。
【0039】
また、バレル20の厚さ(外径と内径の差の1/2)は、0.8mm~2.0mmであることが好ましく、0.9mm~1.8mmであることがより好ましく、1.0mm~1.7mmであることが更に好ましい。バレル20が所定の厚さであることにより、バレル20は適切な可撓性を有することができる。そのため、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができる。
【0040】
シリンジ10は、粘性材料70を充填する容積に応じて様々な寸法にすることができる。シリンジ10の粘性材料70を貯蔵するための容積として、一般的に10cm~1000cm程度、好ましくは100cm~500cm程度の容積のものを用いることができる。粘性材料70を充填する容積に対応して、バレル20の円筒状空間26の内径は、35mm~45mm程度のものが一般的であり、好ましくは38mm~42mm程度である。また、バレル20の円筒状空間26の長さは、70mm~350mm程度のものが一般的であり、好ましくは80mm~340mm程度である。本実施形態のシリンジ10は、バレル20及びプランジャ30等の寸法を適宜選択することにより、一般的に用いられているどのようなサイズのシリンジ10に対しても適用することができる。また、本実施形態のシリンジ10は、所定の寸法を有することにより、接着剤、電気・電子回路用ペースト、電子部品実装用はんだ、並びに、機械部品及び電子部品のシーランなどのための高粘度の粘性材料の適用のために、好ましく用いることができる。
【0041】
本実施形態のシリンジ10は、バレル20の円筒状空間26の内径Dが一定であることが好ましい。バレル20の内径Dが一定であることにより、粘性材料70をシリンジ10から吐出する際に、プランジャ30内部でのバレル20の変形を、同じ形状にすることができる。その結果、プランジャ30とバレル20との間の隙間の発生を抑制することができる。なお、バレル20の円筒状空間26のうち、少なくとも粘性材料70を充填する部分(粘性材料充填部27)に、プランジャ30の高さh1を加えた部分において、バレル20の円筒状空間26の内径Dが一定であることが好ましい。
【0042】
<プランジャ30>
本実施形態のシリンジ10は、プランジャ30を有する。プランジャ30は、円筒状空間26を粘性材料取出孔22側の粘性材料充填部27と、開口部24側の非充填空間28とに二分するように円筒状空間26内に配置され、バレル20内に摺動可能に挿着される。また、バレル20の粘性材料充填部27の粘性材料70が、非充填空間28に漏れるという這い上がり現象の発生を抑制するために、気密となるように挿着される。
【0043】
図3(A)に、プランジャ30の断面模式図を示す。図1及び図4に示すように、プランジャ30は、バレル20の開口部24から挿入され、バレル20の円筒状空間26を二分するように円筒状空間26内に配置される。プランジャ30により二分される円筒状空間26の粘性材料取出孔22側の部分は、粘性材料70を充填するための粘性材料充填部27である。また、プランジャ30により二分される円筒状空間26の開口部24側の部分は、粘性材料70が存在しない空間(非充填空間28)である。円筒状空間26の粘性材料70は、プランジャ30によって蓋をされるように充填される。そのため、プランジャ30は、バレル20内部の円筒状空間26の粘性材料充填部27と、非充填空間28との境界に位置することになる。なお、バレル20の粘性材料充填部27の容積と、非充填空間28の容積の比は、5:95~95:5、好ましくは8:92~92:8、より好ましくは10:90~90:10とすることができる。
【0044】
バレル20の円筒状空間26の断面形状は、一般的に円形なので、プランジャ30の形状は、円板状のものを用いることができる。なお、プランジャ30の形状は、バレル20の円筒状空間26の断面形状に応じて、適切に選択することができる。すなわち、プランジャ30は、バレル20の粘性材料充填部27の粘性材料70の這い上がり現象の発生を抑制するために、気密となるように挿着されるので、プランジャ30の形状は、バレル20の円筒状空間26の断面形状と、略同一の形状であることができる。また、図3(A)に示すように、バレル20は、一端が閉じた中空構造(コップのような構造)であることができる。
【0045】
図3(A)に示すように、本明細書では、プランジャ30の最大外径を「d1」とする。図3(A)に示す形状では、プランジャ30をバレル20の円筒状空間26に挿入したときに、円筒状空間26に接する部分の外径が一定である例を示す。図3(B)に示すプランジャ30では、プランジャ30の円筒状空間26に接する部分の外径が、すべて最大外径d1である。図3に示すように、プランジャ30は、一端が閉じた中空構造であることが好ましい。この場合、プランジャ30は、プランジャ内部空間32を有することになる。本明細書では、プランジャ内部空間32の径を、「d2」とする。プランジャ内部空間32の径d2は、プランジャ内部空間32の径のうち、最も小さい径とすることができる。
【0046】
図3(B)に、本実施形態のプランジャ30の別の形状の断面模式図を示す。図3(A)に示す形状では、プランジャ30をバレル20の円筒状空間26に挿入したときに、円筒状空間26に接する部分の外径が一定ではない例を示す。図3(B)に示すプランジャ30では、プランジャ30の最上部(図1のようにプランジャを挿入したときに、図1において上部である部分)の外径が、最大外径d1である。プランジャ30の最大外径d1の部分は、必ずしも最上部である必要はない。最大外径d1が、プランジャ30の最下部であってもよく、最上部と最下部との間であることもできる。なお、粘性材料70の這い上がり現象の発生を、より確実に抑制するためには、図3(B)の断面形状のプランジャ30よりも、図3(A)の断面形状のプランジャ30の方が好ましい。すなわち、図3(A)に示すように、プランジャ30の円筒状空間26に接する部分の外径は一定であり、すべて最大外径d1であることが好ましい。また、図3(B)に示す例では、プランジャ内部空間32の径d2は、プランジャ内部空間32の径のうち、最も小さい径である。
【0047】
プランジャ30の形状は円板状のものを用いることができるが、これに限られず、バレル20内部の円筒状空間26の粘性材料充填部27と、非充填空間28との境界に位置したときに気密かつ摺動可能になるような形状であればよい。そのため、理想的には、粘性材料充填部27と、非充填空間28との間の物質の移動が基本的に起こらないように気密にする。また、プランジャ30は円筒状空間26の中で摺動可能である。そのため、粘性材料充填部27の粘性材料70を取り出す際には、図5に示すように、バレルキャップ40及び粘性材料取出孔蓋60をはずし、粘性材料取出孔22にノズル62を装着し、プランジャ30に対してロッド80を押し当てて、押圧して、粘性材料取出孔22から粘性材料70を取り出すことができる。また、ロッド80を用いる代わりに、プランジャ30に対してガス圧力等の印加により押圧して、粘性材料取出孔22から粘性材料70を取り出すことができる。シリンジ10に貯蔵した高粘度の粘性材料70を取り出すためには、ロッド80を用いることが好ましい。
【0048】
プランジャ30は、可撓性を有することが好ましい。可撓性を有するために、プランジャ30の材料としては、硬質材料、樹脂材料及び柔軟性を有する材料(例えば弾性体等)を適宜選択して用いることができる。具体的には、プランジャ30の材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリアセタールを挙げられることができる。プランジャ30の材料として、ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0049】
本実施形態のシリンジ10は、プランジャ30の材料のショアD硬度が、10HS~60HSであることが好ましく、20HS~55HSであることがより好ましく、25HS~50HSであることが更に好ましい。プランジャ30の材料のショアD硬度が、所定の値であることにより、プランジャ30は適切な可撓性を有することができる。そのため、バレル20の内壁と、プランジャ30との隙間を小さくすることができるので、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができる。
【0050】
本実施形態のシリンジ10では、バレル20及びプランジャ30の少なくとも1つは、可撓性を有する。また、本実施形態のシリンジ10は、プランジャ30の最大外径d1が、バレル20の内径Dよりも大きく、プランジャ30の最大外径d1とバレル20の内径Dの比d1/Dが1.0超1.1未満であり、好ましくは1.005以上1.09以下である。また、場合によっては、比d1/Dは1.005以上1.05以下であることができる。バレル20及びプランジャ30の少なくとも1つが、可撓性を有し、プランジャ30の最大外径d1と、バレル20の内径Dとが所定の関係であることにより、プランジャ30とバレル20との間の隙間の発生を抑制して、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することのできる
【0051】
本実施形態のシリンジ10では、プランジャ30の最大外径d1が、バレル20の内径Dよりも0.3mm~3.5mm大きいことが好ましく、0.4mm~3.3mm大きいことがより好ましく、0.5mm~3.0mm大きいことが更に好ましい。プランジャ30の最大外径d1は、バレル20の内径Dよりも0.5mm~2.0mm大きいことができる。プランジャ30の最大外径d1と、バレル20の内径Dとが所定の関係であることにより、プランジャ30とバレル20との間の隙間の発生を確実に防止することができる。また、バレル20の内径が一定である場合には、粘性材料70をシリンジ10から吐出する際に、プランジャ30内部でのバレル20の変形を、同じ形状にすることができる。その結果、プランジャ30とバレル20との間の隙間の発生を抑制することができる。
【0052】
プランジャ30の寸法は、シリンジ10の容積に応じて調節することができる。また、プランジャ30の厚さt(外径と内径の差の1/2)は、0.8mm~2.8mmであることが好ましく、0.9mm~2.7であることがより好ましく、1.0mm~2.6mmであることが更に好ましい。なお、プランジャ30の壁の厚さtが均一ではない場合には、上記の範囲は壁の厚さtの平均とすることができる。プランジャ30の壁の厚さtが均一ではない場合には、プランジャ30の壁のすべての部分において、壁の厚さtが上記の範囲であることが好ましい。また、図3に示すプランジャ30の高さh1は、20mm~35mmであることが好ましく、22mm~33mmであることがより好ましく、24mm~30mmであることが更に好ましい。また、図3に示すプランジャ30の、バレル20の内壁と接する部分の長さh2は、10mm~25mmであることが好ましく、12mm~23mmであることがより好ましく、14mm~21mmであることが更に好ましい。図3に示すように、プランジャ30は、高さh1及び長さh2(h1>h2)を有する凸形状であることが好ましい。このような寸法にすることにより、粘性材料70の貯蔵及び取り出しを、良好に行うことができる。
【0053】
図12(断面模式図)及び図13(上面模式図)に示すように、本実施形態のシリンジ10のプランジャ30は、内径d2のプランジャ内部空間32を有し、プランジャ内部空間32にプランジャ30の機械的強度を補強するためのリブ34を有することが好ましい。図12及び図13に示す例では、中央の円筒状突起部36から放射状に8個のリブ34が配置されている様子を示す。プランジャ30の内部の空間(プランジャ内部空間32)に、プランジャ30の機械的強度を補強するためのリブ34を配置することにより、粘性材料70の押し出しの際に、リブ34によって押し出し時の力が分散される。そのため、プランジャ30の変形を防ぐことができる。プランジャ30の変形を防止することにより、プランジャ30とバレル20との間の隙間の発生を抑制することができ、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を、より確実に抑制することができる。リブ34の形状は、図12及び図13に示した形状に限定されない。
【0054】
プランジャ30のリブ34が、中央の円筒状突起部36から放射状に配置される場合、リブ34の個数は4~16個であることが好ましく、6~10個であることがより好ましい。また、プランジャ30がリブ34を有する場合、また、プランジャ30の外壁の厚さ(外径と内径の差の1/2)は、0.8mm~2.8mmであることが好ましく、0.9mm~2.7mmであることがより好ましく、1.0mm~2.6mmであることが更に好ましい。また、リブ34の厚さは、プランジャ30の厚さと同程度であることが好ましい。また、円筒状突起部36の径は、プランジャ30の最大外径d1の2%~90%の寸法であることが好ましく、5%~85%の寸法であることがより好ましく、10%~80%であることが更に好ましい。プランジャ30が、リブ34を有する構造であることにより、プランジャ30の可撓性の程度を調節することができる。そのため、プランジャ30とバレル20との間の隙間の発生を抑制することができるとともに、プランジャ30とバレル20との間の摺動性を適切なものにすることができる。
【0055】
<バレルキャップ40>
図4に示すように、本実施形態のシリンジ10は、バレルキャップ40を有することができる。バレルキャップ40は、粘性材料70を入れた円筒状空間26を密閉するため、バレル20の開口部24に装着される。バレルキャップ40により、シリンジ10の内部への外気の流入を防止することができるので、粘性材料70の劣化を防止することができる。
【0056】
バレルキャップ40は、円筒状空間26の開口部24を密閉することのできる構造及び寸法であることができる。また、バレルキャップ40の材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリアセテートなどの材料を挙げることができる。
【0057】
<粘性材料取出孔蓋60>
図4に示すように、本実施形態のシリンジ10は、粘性材料取出孔蓋60(「チップキャップ」ともいう。)を有することができる。粘性材料取出孔蓋60は、粘性材料70を入れた円筒状空間26を密閉するため、バレル20の粘性材料取出孔22に装着される。粘性材料取出孔蓋60により、粘性材料70の漏れ出しを防止することができ、シリンジ10の内部への外気の流入を防止することができるので、粘性材料70の劣化を防止することができる。
【0058】
粘性材料取出孔蓋60は、粘性材料取出孔22を密閉することのできる構造及び寸法であることができる。また、粘性材料取出孔蓋60の材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリアセテートなどの材料を挙げることができる。
【0059】
<ノズル62>
本実施形態のシリンジ10から粘性材料70を取り出す際に、粘性材料取出孔蓋60を取り外し、粘性材料取出孔22にノズル62を装着することができる。ノズル62を用いることにより、粘性材料取出孔22から粘性材料70を吐出する際に、粘性材料70の流量、圧力及び吐出方向を調整することができる。ノズル62の形状及び内径などの寸法は、用途により、適宜調節して決定することができる。
【0060】
<粘性材料70>
本実施形態のシリンジ10には、粘性材料70が充填される。粘性材料70として、接着剤、電気・電子回路用ペースト、電子部品実装用はんだ、並びに、機械部品及び電子部品のシーラントなどを挙げることができる。特に、精密な電子部品の実装などのための粘性材料70の適用には、高い信頼性及び生産性が求められている。本実施形態のシリンジ10を用いることにより、シリンジ10の内部を粘性材料70が這い上がるという問題を抑制することができるので、粘性材料70の適用に対して高い信頼性及び生産性を得ることができる。
【0061】
本明細書において、「粘性材料70」とは、高粘性の材料を意味する。具体的には、粘性材料充填部27に充填される粘性材料70の粘度は、20Pa・s~980Pa・sであることができ、20Pa・s~980Pa・sであることが好ましく、50Pa・s~900Pa・sであることがより好ましい。なお、本明細書で、粘度とは、ブルックフィールド社製粘度計(型番:HBDV型)を用いて、液温25℃、10rpmの条件で測定した粘度のことを意味する。本実施形態のシリンジ10は、粘性材料70の粘度が、比較的高い場合であっても、プランジャ30とバレル20との間の隙間から、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を、抑制することができる。
【0062】
粘性材料70は、液状樹脂成分及び無機充填材成分(フィラー)を含むことができる。無機充填材成分(フィラー)とは、粒状の無機材料のことを意味する。液状樹脂成分の粘度及び配合量、並びに、無機充填材成分の配合量及び粒径を調節することにより、粘性材料70の粘度を適切な値に調節することができる。
【0063】
本実施形態のシリンジ10は、粘性材料充填部27に充填される粘性材料70に含まれる無機充填材の平均粒径(D50)が、0.005μm~30μmであることが好ましい。粘性材料70の粘度をより適切な値に調節することができる。
【0064】
粘性材料70は、液状樹脂成分として、エポキシ樹脂を含むことができる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エーテル系エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂、及びシリコーンエポキシコポリマー樹脂から選択される少なくとも一つを挙げることができる。また、粘性材料70は、イミダゾール化合物などの硬化剤を更に含むことができる。粘性材料70は、硬化触媒を更に含んでも良い。
【0065】
粘性材料70は、溶剤を含むことができる。溶剤として、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ベンジルアルコール、ジメチルプロパンアミド及びイソホロンを挙げることができる。溶剤の添加量を調節することにより、粘性材料70の粘度を調節することができる。本実施形態の粘性材料70には、本実施形態の目的を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えばカーボンブラック、チタンブラック、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、揺変剤、粘度調整剤、難燃剤、及び/又は着色剤等を添加することができる。各添加剤の種類の選択、及び添加量の調節方法は、当業者にとって公知である。
【0066】
<吐出装置>
本実施形態の一つの態様は、粘性材料70の吐出装置である。本実施形態の吐出装置は、上述のシリンジ10と、プランジャ30を押し下げるためのロッド80と、ロッド80を押し下げるためのロッド押し下げ手段とを含む。
【0067】
図5に、本実施形態の吐出装置により、本実施形態のシリンジ10から、粘性材料70を吐出させる様子の一例の断面模式図を示す。本実施形態のシリンジ10は、まず、所定の固定手段(図示せず。)により、所定の位置に固定される。次に、本実施形態の吐出装置のロッド80により、プランジャ30を押し下げることができる。ロッド80は、ロッド押し下げ手段(図示しない)により力Fを印加されることにより、押し下げられる。なお、図5に示すプランジャ30は、プランジャ内部空間32を有する構造であるが、リブ34を有しない構造である。上述のように、プランジャ30は、リブ34を有することができる。
【0068】
ロッド80は、軸部と先端部からなり、軸部の外径は、先端部の外径よりも小さいことができる。ロッド80の先端部の材料としては、金属(例えば、ステンレス及び鋼など)、並びに合成樹脂製(例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン))などを挙げることができる。なお、ロッド80は、ロッド押し下げ手段により、プランジャ30を押し下げる方向に移動可能である。また、プランジャ30のプランジャ内部空間32と接するロッド80の先端部の断面積は、プランジャ30の断面積に対して50%以上(ロッド80の先端部の断面積/プランジャ30の断面積)となることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。ロッド80の先端部がプランジャ30に対して広い面積で接触することにより、粘性材料70の押し出しの際に、プランジャ30へ力を均一に印加することができる。そのため、プランジャ30の変形及び/又は傾倒を抑えることが可能であり、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を防ぐことができる。なお、プランジャ30は壁を有することから、断面積の比(ロッド80の先端部の断面積/プランジャ30の断面積)の上限は、99%であることが好ましく、96%であることがより好ましく、94%であることが更に好ましい。
【0069】
本実施形態の粘性材料70の吐出装置によれば、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制しつつ、ロッド80を用いた機械的な手法により、高い粘度の粘性材料70をシリンジ10から吐出させることができる。また、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができるので、高い粘度の粘性材料70をシリンジ10から吐出させる際に、ロッド80が粘性材料70で汚れ、ロッド80の洗浄作業が必要となるという問題を防止することができる。
【0070】
<塗布方法>
次に、本実施形態の塗布方法について説明する。本実施形態は、上述の吐出装置を使用して、粘性材料70を被塗布物に塗布することを含む、粘性材料70の塗布方法である。本実施形態の塗布方法によれば、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができるので、粘性材料70の吐出量にロスが発生するという問題を防止することができる。
【0071】
本実施形態の塗布方法では、具体的には、まず、本実施形態のシリンジ10を、まず、所定の固定手段(図示せず。)により、所定の位置に固定する。次に、バレル20内に摺動可能に挿着されたプランジャ30に、ロッド80を当接する。次に、ロッド押し下げ手段によりロッド80を押し下げて、プランジャ30を摺動させることにより、粘性材料70をバレル20から吐出する。このようにして、被塗布物に粘性材料70を塗布することができる。プランジャ30が、適切な形状のプランジャ内部空間32を有することにより、プランジャ内部空間32に対して、ロッド80を略均一な圧力で当接することができる。また、プランジャ内部空間32にリブ34を配置することにより、押し出し時の力が分散され、プランジャ30の変形を防ぐことができる。本実施形態の塗布方法では、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができるので、ロッド80を用いて粘性材料70をバレル20から吐出する際に、ロッド80が粘性材料70で汚れるという問題を防止することができる。そのため、ロッド80の洗浄作業が必要になるという問題を防止することができる。
【0072】
本実施形態の塗布方法は、粘性材料70をバレル20から吐出するときに、ロッド押し下げ手段によりロッド80に印加される力をF(N)とし、プランジャ30の断面積をS(m)とした場合、粘性材料70に印加される押し出し圧力P(P=F/S)が、0.04MPa~2.3MPaであることが好ましい。粘性材料70に印加される押し出し圧力Pが所定の範囲であることにより、粘性材料70の吐出を確実にするとともに、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
<シリンジ10>
実施例及び比較例に用いたシリンジ10は、次の通りである。
【0075】
<<バレル20>>
実施例、比較例及び参考例に用いたバレル20は、バレル20の内径Dが異なる6OZ(オンス)バレル20(容量約170cc)を用いた。表1及び表2に、実施例、比較例及び参考例に用いたバレル20の内径Dを示す。なお、バレル20の壁の厚さ(外径と内径の差の1/2)は、すべて同じであり、1.5mmとした。バレル20の材料はポリプロピレンであり、材料のショアD硬度は44HSだった。バレル20内径Dは、ノギスを用いて測定した。
【0076】
バレル20の材料のショアD硬度の測定方法は、次の通りである。すなわち、まず、バレルを、15mm×15mmの試験片として切り出した。次に、寸法150mm×200mm、重量700gの2つの鉄板で試験片を挟み込み、80℃30分で加熱し、自然冷却させることにより、試験片を平坦にした。このようにして得られた試験片を用いて、JIS K6253-3:2012に沿ってショアD硬度(デュロメータ硬さ)を測定した。なお、デュロメータはタイプDを使用し、測定開始から15秒後の値を採用した。また、測定点数は5点とし、その中央値をショアD硬度として採用した。更に今回の試験片1枚では、厚み6.0mmの条件を満たすことができないため、複数の試験片を重ねることで試験片の厚みを6.0mm以上とした。
【0077】
<<プランジャ30>>
実施例、比較例及び参考例に用いたプランジャ30として、プランジャ内部空間32を有するプランジャ30であって、最大外径(d1)が異なるものを用いた。プランジャ30の最大外径d1は、ノギスを用いて測定した。なお、表1及び表2に、実施例、比較例及び参考例に用いたプランジャ30の最大外径(d1)を示す。なお、最大外径(d1)以外の寸法は基本的に同じとした。すなわち、図3に示す寸法h1(高さ)は28.7mm、バレル20の内壁と接する部分の長さh2は19.8mmとした。図3に示すプランジャ30の壁の厚さtは、1つのプランジャ30の中で均一ではなく、0.9mm~2.0mmの範囲だった。実施例、比較例及び参考例では、同様の厚さtの分布を有するプランジャ30を用いた。壁の厚さtは一定ではなかったものの、プランジャ30の最大外径(d1)は、表1及び2に示すように、一定の値だった。なお、実施例7及び比較3のプランジャ30は、プランジャ内部空間32にリブ34を配置したものとした。リブ34は、プランジャ30の中心の円筒状突起部36から放射状に8個配置し、厚さは0.8mm、高さ6.6mmとした。円筒状突起部36の径は、6.5mmとした。プランジャ30の材料はポリエチレンであり、材料のショアD硬度は42HSだった。ショアD硬度の測定方法は、上述のバレルの場合と同様である。
【0078】
<粘性材料70>
実施例、比較例及び参考例に用いた粘性材料70は、下記の成分を含む。平均粒径は、全粒子の積算値50%の粒子寸法(D50)である。平均粒径は、マイクロトラック法(レーザー回折散乱法)にて粒度分布測定を行い、粒度分布測定の結果から求めることができる。
液状樹脂成分:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵住金化学株式会社製のYDF-8170)
無機材料:シリカフィラー(株式会社アドマテックス製SE-2300、平均粒径:0.6μm)
【0079】
無機材料の配合量を調節することにより、粘性材料70の粘度を調節した。表1及び表2に、実施例、比較例及び参考例に用いた粘性材料70の粘度を示す。なお、粘度は、ブルックフィールド社製粘度計(型番:HBDV型)を用いて、液温25℃、10rpmの条件で測定した。
【0080】
<押し出し圧力の評価方法>
図5に示すように、ロッド80をプランジャ30に押し当てた状態で、ロッド80に下向きの力を印加することにより、粘性材料70を吐出させた。粘性材料70を吐出する際に、ロッド80に印加した力(N)をオートグラフ(島津精密万能試験機)で測定し、プランジャ30の断面積から押し出し圧力(MPa)を算出した。表1に、粘性材料70を吐出する際に必要とした押し出し圧力(MPa)を示す。
【0081】
<這い上がり有無の評価方法>
粘性材料70の吐出時、プランジャ30外壁とバレル20内壁の間から粘性材料70が漏れ出る様子を目視にて確認した。
【0082】
表1及び表2に、評価結果を示す。表1に示すように、実施例1~7では、粘性材料70を吐出する際に、粘性材料70の這い上がりが無かった。図6図8に、粘性材料70の這い上がりが無い場合の、粘性材料70の吐出後のシリンジ10の外観及び内部、並びにロッド80の写真を示す。バレル20は、半透明な材料で形成されている。図7及び8に示すように、粘性材料70の這い上がりが無かった。そのため、図8では、ロッド80には粘性材料70が付着していないことが見て取れる。
【0083】
表2に示すように、比較例1及び2では、粘性材料70を吐出する際に、粘性材料70の這い上がりが観察された。図9図11に、粘性材料70の這い上がりがあった場合の、粘性材料70の吐出後のシリンジ10の外観及び内部、並びにロッド80の写真を示す。シリンジ10は、半透明な材料で形成されている。図9及び図10に示すように、粘性材料70の這い上がりがあったので、図11では、ロッド80には粘性材料70が付着していることが見て取れる。
【0084】
表2に示すように、参考例1では、粘性材料70の粘度が1100Pa・sという非常に高い粘度だったため、粘性材料70を吐出する際に、粘性材料70の這い上がりが観察された。
【0085】
以上のことから、本実施形態のシリンジ10を用いることにより、バレル20に充填した粘性材料70を、機械的な手法によりシリンジ10から吐出させる際に、プランジャ30とバレル20との間の隙間から、粘性材料70が這い上がるという現象の発生を抑制することのできることが明らかになった。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【符号の説明】
【0088】
10 シリンジ
20 バレル
22 粘性材料取出孔
24 開口部
26 円筒状空間
27 粘性材料充填部
28 非充填空間
30 プランジャ
32 プランジャ内部空間
34 リブ
36 円筒状突起部
40 バレルキャップ
60 粘性材料取出孔蓋
62 ノズル
70 粘性材料
80 ロッド
【要約】
【課題】 シリンジのバレルに充填した粘性材料をシリンジから吐出させる際に、プランジャとバレルとの間の隙間から、粘性材料が這い上がるという現象の発生を抑制することのできるシリンジを提供する。
【解決手段】 粘性材料を充填するためのシリンジであって、シリンジが、円筒状空間を有し、前記円筒状空間の一端が粘性材料取出孔であり、前記円筒状空間の他端が開口部であるバレルと、前記円筒状空間を前記粘性材料取出孔側の粘性材料充填部と、前記開口部側の非充填空間とに二分するように前記円筒状空間内に配置され、前記バレル内に摺動可能に挿着されたプランジャとを備え、前記バレル及び前記プランジャの少なくとも1つは、可撓性を有し、前記プランジャの最大外径d1が、前記バレルの内径Dよりも大きく、前記プランジャの最大外径d1と前記バレルの内径Dの比d1/Dが1.0超1.1未満である、シリンジである。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13