(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】レーザ加工装置および関係判定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20220921BHJP
【FI】
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2022516645
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008385
【審査請求日】2022-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
(72)【発明者】
【氏名】近田 修
(72)【発明者】
【氏名】藤原 奨
(72)【発明者】
【氏名】安田 将太郎
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-044801(JP,A)
【文献】特開2015-85336(JP,A)
【文献】特開2014-121727(JP,A)
【文献】特開昭64-88302(JP,A)
【文献】特開昭56-122689(JP,A)
【文献】特開平5-309590(JP,A)
【文献】特開2016-159318(JP,A)
【文献】特開2012-194085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23P 15/28
B23Q 17/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に光軸が延びるように照射されたレーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成された試料を、前記角部を前記レーザ側に向けて
前記光軸と交差する方向に相対的に接近させることで、前記レーザによって前記角部を加工するように構成されたレーザ加工装置であって、
前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側とな
り、かつ、回折光が充分な強度で到達可能な位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、
前記試料を前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータを、前記光軸に対して前記試料を相対的に接近させるよう制御する接近制御手段と、
前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係において、前記検知部が検知する値として規定されている光の強度を取得する値取得手段と、
前記光軸に対して前記試料が相対的に接近する過程で、前記検知部が検知する光の強度に基づき、前記レーザと前記試料との位置関係を判定する関係判定手段と、を備え、
前記関係判定手段は、前記検知部により、前記値取得手段に取得された値と同一または所定のしきい値範囲内の値となる光の強度が検出されたことをもって、その時点で前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にあるものと判定
して、
前記検知部は、前記光軸に沿って延びる空間を前記試料で2分した場合における前記レーザの光源と反対側の領域のうち、前記光軸と交差する平面視で少なくとも前記照射領域の外側の位置に設けられている、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記接近制御手段は、前記関係判定手段により、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にあると判定されるまで、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近するよう前記アクチュエータを制御する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記関係判定手段は、前記検知部により、前記値取得手段に取得された値と所定のしきい値範囲外の値となる光の強度が検出された場合に、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にないと判定して、
前記接近制御手段は、前記関係判定手段により、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にないと判定されて以降、この位置関係にあると判定されるまで、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近するよう前記アクチュエータを制御する、
請求項1または請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザによる前記角部の加工ごとに、前記接近制御手段による前記アクチュエータの制御、前記値取得手段による光の強度の取得、および、前記関係判定手段による位置関係の判定を実施する、
請求項2または請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
所定方向に光軸が延びるレーザの前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側とな
り、かつ、回折光が充分な強度で到達可能な位置に設けられ
た検知部によって、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知手順と、
それぞれ隣接する複数の面により角部が形成された試料を、前記角部を前記レーザ側に向けた状態で、前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータにつき、前記アクチュエータを、前記光軸に対して前記試料を相対的に接近させるよう制御する接近制御手順と、
前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係において、前記検知部が検知する値として規定されている光の強度を取得する値取得手順と、
前記光軸
と交差する方向に前記試料が相対的に接近する過程で、前記検知手順により検知される光の強度に基づき、前記レーザと前記試料との位置関係を判定する関係判定手順と、を備え、
前記検知部が、前記光軸に沿って延びる空間を前記試料で2分した場合における前記レーザの光源と反対側の領域のうち、前記光軸と交差する平面視で少なくとも前記照射領域の外側の位置に設けられている場合において、
前記関係判定手順では、前記検知手順において、前記値取得手順にて取得された値と同一または所定のしきい値範囲内の値となる光の強度が検出されたことをもって、その時点で前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にあるものと判定する、
位置判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザによる加工を行うレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザの光軸方向に延びる円筒状の照射領域を、その光軸と交差する方向へ変位させることにより、この照射領域が通過する試料の表面側に加工面を形成するレーザ加工装置が提案されている(特許文献1) 。この装置による加工方法は、機械的な加工方法に比べて機械的損傷を減らし滑らかに加工面を形成できるという点で優れた加工方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の加工方法は、例えば、すくい面および逃げ面で形成された角部を有する切削工具のように、それぞれ隣接する複数の面で形成された角部を有する試料における角部の加工にも用いられる。具体的には、すくい面または逃げ面の拡がる方向に沿って光軸が延びるようにレーザを照射させ、このレーザを変位させることによって、加工面として角部に新たなすくい面または逃げ面を形成する、といったことである。
【0005】
また、この装置では、レーザの照射領域と角部とが重なっているときに加工が進行するため、加工に先立って角部の先端が照射領域(照射領域の外周または照射領域内の光軸など)にまで到達する位置関係となっていることが効率的な加工のためには望ましい。しかし、そのような位置関係となっていることを判定するには、そのためだけにレーザやセンサなど多くの追加的な構成要素が必要であり、そのために要するコストが大きいという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、レーザ加工装置において、従来よりも低コストでレーザと角部の端部との位置関係を判定できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため第1局面は、所定方向に光軸が延びるように照射されたレーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成された試料を、前記角部を前記レーザ側に向けて相対的に接近させることで、前記レーザによって前記角部を加工するように構成されたレーザ加工装置であって、前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、前記試料を前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータを、前記光軸に対して前記試料を相対的に接近させるよう制御する接近制御手段と、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係において、前記検知部が検知する値として規定されている光の強度を取得する値取得手段と、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近する過程で、前記検知部が検知する光の強度に基づき、前記レーザと前記試料との位置関係を判定する関係判定手段と、を備え、前記関係判定手段は、前記検知部により、前記値取得手段に取得された値と同一または所定のしきい値範囲内の値となる光の強度が検出されたことをもって、その時点で前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にあるものと判定する、レーザ加工装置である。
【0008】
この局面は、以下に示す第2局面のようにしてもよい。
【0009】
第2局面において、前記接近制御手段は、前記関係判定手段により、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にあると判定されるまで、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近するよう前記アクチュエータを制御する。
【0010】
また、これら局面は、以下に示す第3局面のようにしてもよい。
【0011】
第3局面において、前記関係判定手段は、前記検知部により、前記値取得手段に取得された値と所定のしきい値範囲外の値となる光の強度が検出された場合に、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にないと判定して、前記接近制御手段は、前記関係判定手段により、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にないと判定されて以降、この位置関係にあると判定されるまで、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近するよう前記アクチュエータを制御する。
【0012】
また、上記第2、第3局面は、以下に示す第4局面のようにしてもよい。
【0013】
第4局面は、前記レーザによる前記角部の加工ごとに、前記接近制御手段による前記アクチュエータの制御、前記値取得手段による光の強度の取得、および、前記関係判定手段による位置関係の判定を実施する。
【0014】
また、上記各局面は、以下に示す第5局面のようにしてもよい。
【0015】
第5局面において、前記検知部は、前記光軸に沿って延びる空間を前記試料で2分した場合における前記レーザの光源と反対側の領域のうち、前記光軸と交差する平面視で少なくとも前記照射領域の外側の位置に設けられている。
【0016】
また、上記課題を解決するため第6局面は、所定方向に光軸が延びるレーザの前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知手順と、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成された試料を、前記角部を前記レーザ側に向けた状態で、前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータにつき、前記アクチュエータを、前記光軸に対して前記試料を相対的に接近させるよう制御する接近制御手順と、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係において、前記検知部が検知する値として規定されている光の強度を取得する値取得手順と、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近する過程で、前記検知手順により検知される光の強度に基づき、前記レーザと前記試料との位置関係を判定する関係判定手順と、を備え、前記関係判定手順では、前記検知手順において、前記値取得手順にて取得された値と同一または所定のしきい値範囲内の値となる光の強度が検出されたことをもって、その時点で前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係にあるものと判定する、位置判定方法である。
【発明の効果】
【0017】
上記各局面であれば、レーザの照射領域の外側となる位置で光強度を検知できるようにするだけで、その検知結果に基づいてレーザと試料との位置関係を判定することができるため、その判定のために多くの追加的な装置構成を設ける必要がなくなり、位置関係を判定するためのコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】レーザの照射領域と検知部との位置関係を示す図
【
図6】関係判定処理の処理手順を示すフローチャート
【
図7】試料の変位量に応じた光強度の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
(1)装置構成
レーザ加工装置1は、
図1に示すように、所定方向(
図1における上下方向)に光軸が延びるようにレーザを照射させる照射部10と、試料100を保持するための保持部20と、試料100に対して照射部10を変位させるための照射部変位機構30と、レーザに対して保持部20を変位させるための保持部変位機構40と、所定の位置において光の強度を検知する検知部50と、レーザ加工装置1全体の動作を制御する制御部60と、を備えている。
【0021】
照射部10は、
図2に示すように、パルスレーザを出力する発振器11、レーザの振動数の次数を調整する振動調整器13、偏光状態を調整する偏光素子14、レーザの出力を調整するアッテネータ(ATT)15、レーザの径を調整するためのビームエキスパンダー(EXP)17などを備え、これらを経たレーザが光学レンズ19を介して出力されるように構成されており、所定の方向(本実施形態ではZ軸方向)に光軸を向けてレーザを照射させる。これらのうち、発振器11には、Nd:YAGパルスレーザが用いられている。
【0022】
なお、ここでは、単一の光学レンズ19からなる構成となっているが、所定間隔を空けて配置された一組の光学レンズと、この光学レンズの間隔を調整するための機構を備えた構成としてもよい。
【0023】
保持部20は、レーザの光軸と交差する方向(
図1における左右方向)に延びる棒状の部材であり、その先端に試料100を保持可能に構成されている。この試料100は、その端部が保持部20の先端から突出する位置関係で保持される。
【0024】
照射部変位機構30は、照射部10が取り付けられた状態で所定方向に変位するアクチュエータである機構本体31と、外部からの指令に基づいて機構本体31を動作させる駆動部33と、を備えている。本実施形態において、機構本体31は、照射部10をレーザの光軸と交差する方向(
図1における紙面の手前から奥へ向かう方向)に変位させるように構成されている。
【0025】
保持部変位機構40は、保持部20が取り付けられた状態で所定方向に変位するアクチュエータである機構本体41と、外部からの指令に基づいて機構本体41を動作させる駆動部43と、を備えている。本実施形態において、機構本体41は、保持部20をその延びる方向に変位させるように構成されている。
【0026】
検知部50は、
図3に示すように、光軸210に沿って延びる空間を試料100の位置で2分した場合における照射部10と反対側の領域(
図3における保持部20よりも下方の領域)のうち、光軸210と交差する平面(
図3における破線の面)視で少なくとも照射領域200の外側となる位置に設けられた光センサであり、この位置にまで到達する光の強度(以降「光強度」ともいう)を検知する。本実施形態では、検知部50として、光軸210から離れる方向に向けて複数の受光素子が配置されたラインセンサが採用されている。なお、この検知部50は、後述する関係判定処理において回折光が十分な強度で到達可能な位置に配置されたものである。
【0027】
制御部60は、各部への制御指令により、照射部10によるレーザの照射、照射部変位機構30による照射部10の変位、保持部変位機構40による保持部20の変位などを制御するコンピュータである。
【0028】
試料100は、それぞれ隣接する複数の面により角部110が形成されている。本実施形態において、試料100は、2つの面のいずれか一方がすくい面、他方が逃げ面として形成された切削工具であり、超硬合金をその材料とするものである。
【0029】
そして、この試料100は、角部110をレーザの照射領域200側に向けて設置されることにより、角部110のなす面が光軸210に沿って配置された状態となる。
【0030】
このような構成のレーザ加工装置1では、角部110のなす面方向に沿って光軸210が延びるようにレーザを照射させ、このレーザを変位させることによって、角部110に加工面を形成することができる。
【0031】
(2)制御部60による処理手順
【0032】
(2-1)加工処理
以下に、制御部60が内蔵メモリ61に格納されたプログラムにより実行する「加工処理」の手順を
図4に基づいて説明する。この加工処理は、保持部20に試料100を保持させて位置決めした後に実行させるものであり、図示されないインタフェース(操作装置または通信装置)からの起動指令を受けた際に起動される。
【0033】
この加工処理は、試料100を保持させた保持部20を所定の基準位置に位置決めした後で実施させるものであり、図示されないインタフェース(操作装置または通信装置)からの起動指令を受けた際に起動される。ここで、保持部20を位置決めした状態では、試料100における角部110の先端が照射領域200にまで到達する位置関係となる。具体的な位置関係としては、角部110の先端が照射領域200の外周と重なる、角部110の先端が照射領域200と所定範囲だけ重なる、角部110の先端が光軸210にまで到達する、といったものが想定される。
【0034】
この加工処理が起動されると、まず、内蔵メモリ61にあらかじめ格納されている加工処理用の設定情報が読み出される(s110)。この設定情報は、事前にユーザが設定した情報であって、照射部10の照射するレーザの出力P0[w]と、保持部20に設置された試料100の材料特性に応じた加工しきい値Pth[w]と、試料100に形成すべき1以上の加工面それぞれを規定した座標情報と、を含んでいる。
【0035】
これらのうち、レーザの出力は、レーザにおいて光軸210に沿って筒状に延びる照射領域200の内側に、レーザによる試料100の加工に必要な加工しきい値Pth[w]以上のエネルギー分布となる加工可能領域が形成されるよう定められたものであって、試料100の材料特性に応じた出力レベルとなる。また、座標情報は、所定の原点を基準として、試料100における加工面の位置を3次元座標として定めたものである。
【0036】
なお、加工可能領域は、その光軸方向に沿った長さが、少なくとも試料100の加工面におけるものよりも長いことが求められるため、レーザの出力は、この長さが実現されるよう座標情報との関係を踏まえて設定されている。具体的にいえば、レーザの出力レベルP0は、加工しきい値Pthより大きくなるような値(P0>Pth)である。
【0037】
次に、上記s110にて読み出された設定情報に基づいて加工可能領域が設定される(s120)。ここでは、上記s110にて読み出された設定情報のうち、レーザの出力P0[w]および加工しきい値Pth[w]に基づき、レーザの光軸上における各位置でのエネルギー分布P(r)が算出された後、加工しきい値Pth以上のエネルギー分布となる所定半径rthの面状領域を光軸に沿ってつないでなる筒状の領域が特定される(
図5参照)。そして、この領域における半径rthが加工可能領域を規定するパラメータとして特定される。
【0038】
なお、この加工可能領域は、レーザの出力P0が大きくなるほど、直線的な筒状から、焦点位置に向けて直径が小さくなるくびれた筒状へと変化していくことが実験により確認されている。つまり、レーザの出力P0が大きくなるほど、加工可能領域の外周が直線的だったところから、曲線的な形状へと変化していくことになるため、レーザの出力P0は、加工面として求められる形状に応じた値が選択的に上述した設定情報に含められることとなる。
【0039】
次に、未形成の加工面が存在しているか否かがチェックされる(s130)。ここでは、上記s110にて読み出された設定情報のうちの座標情報の中に、本加工処理が起動された以降、参照していない座標情報が残されている場合に、未形成の加工面が存在していると判定される。
【0040】
このs130にて未加工の加工面が存在していると判定された場合(s130:YES)、以降の処理にて参照していないいずれかの座標情報が抽出され、この座標情報で規定される加工面が、以降の処理にて形成すべき対象の加工面として設定される(s140)。
【0041】
次に、後述する関係判定処理が実行される(s150)。ここでは、この時点で角部110の先端が照射領域200にまで到達する所定の位置関係となっているかの判定、および、そのような位置関係となるよう角部110の先端と照射領域200との位置関係の補正が実施される。
【0042】
次に、照射部10によるレーザの照射が開始される(s160)。ここでは、制御部60が、上記s120にて設定された加工可能領域を形成可能なレーザの照射を照射部10に指令し、この指令を受けた照射部10によるレーザの照射が開始される。こうして、所定方向(本実施形態では
図1の上下方向)に光軸210が延びるようにレーザが照射される。
【0043】
次に、保持部変位機構40により、試料100が照射部10の照射するレーザにおける照射領域200に接近させられる(s170)。ここでは、試料100が照射領域200側へと接近するよう保持部変位機構40への制御指令がなされ、これを受けた保持部変位機構40が、試料100と加工可能領域が重なるまで試料100の変位を行う。
【0044】
この試料100と加工可能領域との重なりは、上記s120で規定された半径rthと上記s140にて設定された加工面の座標情報に基づき、レーザの光軸と試料100における加工面との間隔(本実施形態では
図1の左右方向に沿った間隔)が、照射領域200の加工可能領域を規定する半径rthに相当する距離となるまで、照射領域200を試料100に接近させることにより実現される。
【0045】
次に、照射部変位機構30により、照射部10の照射するレーザにおける照射領域200が試料100の角部110に沿って走査させられる(s180)。ここでは、照射部10が角部110に沿って変位するよう照射部変位機構30への制御指令がなされ、これを受けた照射部変位機構30が、所定の基準位置から変位を開始し、加工面の全体を照射領域200が通過するまで、照射部10の変位を行った後、基準位置に戻る。なお、ここでの照射領域200による角部110の走査は複数回繰り返して実施される。
【0046】
こうして、上記s170~s180を経て、試料100の角部110が照射領域200の加工可能領域によって加工される。
【0047】
このs180の後、上記s160で開始された照射部10によるレーザの照射が終了する(s190)。ここでは、制御部60が照射部10に対して照射の終了を指令し、この指令を受けた照射部10がレーザの照射を終了させる。
【0048】
こうして、s190を終えた後、プロセスが上記s130へ戻り、以降、未加工の加工面が存在しなくなるまで、s130~s190が実施される。その後、上記s130で未加工の加工面が存在していないと判定された場合(s130:NO)、本加工処理が終了する。
【0049】
(2-2)関係判定処理
続いて、加工処理のs150により実行される「関係判定処理」の手順を
図6に基づいて説明する。
【0050】
この関係判定処理が起動されると、まず、照射領域200が設定される(s210)。ここでは、上記s110にて読み出された設定情報に基づき、レーザの出力レベルP0として、加工しきい値Pthより小さくなるような値(P0<Pth)が設定される。
【0051】
次に、照射部10によるレーザの照射が開始される(s220)。ここでは、制御部60が、上記s210にて設定された照射領域200を形成可能なレーザの照射を照射部10に指令し、この指令を受けた照射部10によるレーザの照射が開始される。こうして、所定方向(本実施形態では
図1の上下方向)に光軸210が延びるようにレーザが照射される。
【0052】
次に、以降の処理で用いられる比較値として、所定の光強度を示す情報が取得される(s230)。ここでは、上記s210にて設定されたレーザの照射領域200に対し、角部110の先端が照射領域200にまで到達する位置関係となっている場合に検知部50により検知されるものと規定される光強度を示す情報が取得される。
【0053】
本実施形態では、想定される複数パターンの照射領域200それぞれに対し、この照射領域200と角部110の先端との位置関係を変化させた場合において実際に検知部50が検知した光強度を情報としてあらかじめ内蔵メモリ61に記録しており、こうして記録されている情報から位置関係の一致するものを読み出すことで比較値となる光強度を示す情報を取得する。そして、ここで読み出される情報は、保持部20を位置決めした時点における初期の位置関係(例えば、角部110の先端が照射領域200の外周と重なる、角部110の先端が照射領域200と所定範囲だけ重なる、角部110の先端が光軸210にまで到達する、といった位置関係)、および、加工処理(特にs170)において試料100を変位させた変位量、から規定される現時点の位置関係と一致するものである。
【0054】
なお、本実施形態では、検知部50として採用されたラインセンサの受光素子それぞれから出力される光強度(W)の合計値や平均値の他、ラインセンサにおける受光素子の配置方向に沿った分布(受光素子の位置それぞれの値)をもって、各位置関係における光強度として検知して記録している。
【0055】
次に、検知部50により検知される光強度が取得される(s240)。ここでは、検知部50として採用されたラインセンサの受光素子それぞれから出力される光強度(W)の合計値や平均値の他、ラインセンサにおける受光素子の配置方向に沿った分布(受光素子の位置それぞれの値)をもって、現時点の位置関係における実際の光強度として検知する。
【0056】
次に、上記s230およびs240にて取得された光強度に基づき、レーザと試料100との位置関係が判定される(s250)。ここでは、上記s240にて取得された実際の光強度が、上記s230にて取得された比較値である光強度と同一または所定のしきい値範囲内であることをもって、その時点で角部110の先端が照射領域200にまで到達する所定の位置関係となっているものと判定する。ここでいう「所定の位置関係」は、角部110の先端と照射領域200との位置関係が、保持部20を位置決めした時点における初期の位置関係と一致することを指す。
【0057】
なお、光強度がラインセンサにおける受光素子の位置それぞれの値である場合、同じ位置における光強度同士が比較され、全ての値について同一または所定のしきい値範囲内であるか否かがチェックされる。
【0058】
ここで、実際の光強度が比較値である光強度と同一または所定のしきい値範囲内になっている、つまり、実際に検知された光強度が、同じ位置関係において想定される光強度と同一または近似している状態は、ここまでに実行された加工処理で角部110の加工が十分に進んでいない状態(本実施形態では、加工が行われる前)であるか、後述するプロセスで位置関係が補正された状態であることを意味している。
【0059】
他方、実際の光強度が比較値である光強度の所定のしきい値範囲外になっている、つまり、実際に検知された光強度が、同じ位置関係において想定される光強度と近似していない状態は、ここまでに実行された加工処理で角部110の加工が十分に進んだ状態であることを意味している。この状態では、角部110の先端が照射領域200の外側へ向けて後退する結果、照射領域200と角部110の先端との位置関係が変化しているために、実際の光強度が比較値である光強度の所定のしきい値範囲外となる。
【0060】
次に、上記s250による判定の結果、実際の光強度が比較値である光強度と近似していないとされた場合(s260:NO)、保持部変位機構40により、試料100が照射部10の照射するレーザにおける照射領域200に接近させられる(s270)。ここでは、試料100が照射領域200側へと接近するよう保持部変位機構40への制御指令がなされ、これを受けた保持部変位機構40が、所定の単位距離だけ試料100の変位を行う。この変位における単位距離は、加工処理(特にs170)において試料100を変位させる変位量よりも十分に小さい距離である。
【0061】
このs270を終えた後、プロセスがs240へ戻り、以降、実際の光強度が比較値である光強度と同一または近似していると判定されるまでs240~s270が繰り返される。このように、本関係判定処理では、実際の光強度が比較値である光強度と同一または近似していないと最初に判定された以降、光軸210に対して試料100が接近していくことによって、レーザと試料100との位置関係が徐々に補正されることとなる。その結果、角部110の先端と照射領域200との位置関係は、保持部20を位置決めした時点における初期の位置関係と一致するようになる。
【0062】
なお、上記s250による判定の結果、実際の光強度が比較値である光強度と同一または近似していると判定された場合(s260:YES)、上記s220で開始された照射部10によるレーザの照射が終了する(s280)。ここでは、制御部60が照射部10に対して照射の終了を指令し、この指令を受けた照射部10がレーザの照射を終了させる。
【0063】
こうして、s280を終えた後、本関係判定処理が終了して加工処理に戻る。
【0064】
なお、上述したs230が本発明における値取得手段であり、s240が本発明における検知手順であり、s260,s270が本発明における接近制御手段および接近制御手順であり、s250が本発明における位置判定手段および位置判定手順である。
【0065】
(3)変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0066】
例えば、上記実施形態では、試料100側を光軸210と交差する方向に沿って変位させるように構成されたものを例示した。しかし、光軸210側(つまりレーザ)を試料100に対して変位させるように構成してもよい。
また、上記実施形態では、レーザ加工装置1の制御部60により関係判定処理が実行されるように構成されたものを例示した。しかし、この関係判定処理は、レーザ加工装置1とは別の装置で実行するように構成してもよい。このための装置としては、照射部10、保持部20、保持部変位機構40、検知部50および制御部60を備え、この制御部60で関係判定処理を実行するものとすることが考えられる。
【0067】
また、上記実施形態では、関係判定処理のs230において、あらかじめ記録された情報を読み出すことで比較値となる光強度を取得するように構成されたものを例示した。しかし、比較値となる光強度は、レーザの照射領域200におけるエネルギー分布、検知部50と角部110との位置関係、角部110の形状などのパラメータから算出した値を取得するように構成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、加工処理において試料100に加工面が形成されるごとに関係判定処理を実行し、レーザと試料100との位置関係を判定するように構成されたものを例示した。しかし、レーザと試料100との位置関係を判定するタイミングは、これに限られず、例えば、試料100に対する照射領域200の走査ごととすることが考えられる。この場合、s180における走査前または走査後に関係判定処理が実行されるように構成することが考えられる。
【0069】
また、レーザと試料100との位置関係を判定するタイミングは、加工処理において実際に加工が行われている最中としてもよく、この場合、s180における走査中に関係判定処理が並行して実行されるように構成することが考えられる。
【0070】
また、レーザと試料100との位置関係を判定するタイミングは、加工処理と無関係としてもよく、この場合、起動指令を受けて任意のタイミングで関係判定処理が実行されるように構成すればよい。
【0071】
また、上記実施形態では、関係判定処理において位置関係を判定するに際し、実際の光強度を比較値と比較するように構成されたものを例示した。しかし、位置関係を判定するに際しては、実際の光強度の時間軸に沿った推移を、比較値としての光強度の時間軸に沿った推移とを比較するように構成してもよい。
【0072】
具体的な例として、保持部20を位置決めした時点における初期の位置関係に「角部110の先端が光軸210にまで到達する位置関係」が採用されたケースを例示すると、関係判定処理のs240~s270は、角部110の先端が照射領域200の外側から光軸210に到達する過程における光強度を比較値として実施される。この過程では、角部110の先端が照射領域200に到達して重なった以降、
図7に示すように、光強度が一定以上の割合で増加する区間(
図7における一点鎖線の左側)と、その増加割合が一定の割合未満となる区間(
図7における一点鎖線の右側)とが順に到来し、この後者の区間が到来したタイミングで角部110の先端が光軸210に到達することが実験的に確認されている。そのため、このケースでは、実際の光強度が、比較値である光強度と同一または所定のしきい値範囲内の増加度合であることをもって、その時点で角部110の先端が照射領域200にまで到達する所定の位置関係となっているものと判定することとなる。
【0073】
(4)作用効果
上記実施形態であれば、レーザの照射領域200の外側となる位置で光強度を検知できるようにするだけで、その検知結果に基づいてレーザと試料100との位置関係を判定することができるため、その判定のために多くの追加的な装置構成を設ける必要がなくなり、位置関係を判定するためのコストを抑えることができる。
【0074】
また、上記実施形態のレーザ加工装置1では、試料100の加工と平行して、リアルタイムに照射領域200との位置関係を判定および補正することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、多くの追加的な装置構成を設けることなく、かつ、コストを抑えてレーザと試料との位置関係を判定する用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1…レーザ加工装置、10…照射部、11…発振器、13…振動調整器、14…偏光素子、15…アッテネータ(ATT)、17…ビームエキスパンダー(EXP)、19…光学レンズ、20…保持部、30…照射部変位機構、31…機構本体、33…駆動部、40…保持部変位機構、41…機構本体、43…駆動部、50…検知部、60…制御部、61…内蔵メモリ、100…試料、110…角部、200…照射領域、210…光軸。
【要約】
所定方向に光軸が延びるように照射されたレーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成された試料を相対的に接近させることで前記角部を加工するように構成されたレーザ加工装置であって、前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、前記試料を前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータを、前記光軸に対して前記試料を相対的に接近させるよう制御する接近制御手段と、前記角部の先端が前記照射領域にまで到達している所定の位置関係において、前記検知部が検知する値として規定されている光の強度を取得する値取得手段と、前記光軸に対して前記試料が相対的に接近する過程で、前記検知部が検知する光の強度に基づき、前記レーザと前記試料との位置関係を判定する関係判定手段と、を備える。