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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】水素発生用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/081 20210101AFI20220921BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20220921BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220921BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220921BHJP
   C25B 11/089 20210101ALI20220921BHJP
   C25B 11/097 20210101ALI20220921BHJP
   C25F 3/02 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C25B11/081
C25B11/053
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/089
C25B11/097
C25F3/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018169001
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020041185
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 翔
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-089591(JP,A)
【文献】特開昭55-158288(JP,A)
【文献】特開平08-085894(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069360(WO,A1)
【文献】特開2002-030495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/04
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極であって、
前記触媒層は、実質的にIrまたはIr合金からなる湿式めっき被膜であり、
前記触媒層の表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上であることを特徴とする、水素発生用電極。
【請求項2】
前記導電性基材の前記触媒層が形成される面の算術平均粗さRaが1.6μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の水素発生用電極。
【請求項3】
前記触媒層の1cm当たりの水素吸着電荷量が100mC以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水素発生用電極。
【請求項4】
導電性基材と触媒層の間に、実質的にPtまたはPt合金からなる中間層が形成されたことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項5】
導電性基材と触媒層の間に、実質的にAuまたはAu合金からなる中間層が形成されたことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項6】
導電性基材と触媒層の間であり、かつ前記導電性基材の表面上に直接積層された、実質的にAuまたはAu合金からなる第1の中間層と、
前記第1の中間層と、前記触媒層の間であって、前記第1の中間層表面上に直接積層された、実質的に白金族元素またはその合金からなる第2の中間層と、が形成されたことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項7】
アルカリ水電解装置において用いられることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項8】
導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極の製造方法であって、
導電性基材の表面を粗化する工程と、
湿式めっき法により、IrまたはIr合金を含み、かつ表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上である触媒層を前記導電性基材上に形成する工程と、
を含むことを特徴とする、水素発生用電極の製造方法。
【請求項9】
前記導電性基材の表面の算術平均粗さRaが1.6μm以上となるよう、導電性基材の表面を粗化することを特徴とする、請求項8に記載の水素発生用電極の製造方法。
【請求項10】
電解エッチングにより導電性基材の表面を粗化することを特徴とする、請求項8または9に記載の水素発生用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生用電極に関し、特にアルカリ水電解に用いる水素発生用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は貯蔵及び輸送に適し、環境負荷が小さいエネルギー源として関心が集まっている。現在、水素は主に化石燃料の水蒸気改質などにより製造されているが、地球温暖化及び化石燃料枯渇問題の観点から、再生可能エネルギーを動力源に用いた水電解の重要性が増してきている。
【0003】
水電解は、用いられる電解質の種別などに応じて、アルカリ水電解、固体高分子型水電解及び水蒸気電解の3つに大きく分けられる。なかでも、電解質として高濃度アルカリ水溶液が用いられるアルカリ水電解は、アルカリ水を電気分解することで、安価に安定して水素を得られる方法として注目されている。
【0004】
アルカリ水電解の両極における電極反応は以下のとおりである。
(1)陽極反応:2OH→HO+1/2O+2e
(2)陰極反応:2HO+2e→H+2OH
【0005】
従来アルカリ水電解に用いられる陰極としては、白金族系の触媒層を基材上に形成した電極が用いられてきた。特許文献1には、導電性基材上に、白金族系の触媒層を焼成により形成し、さらにその上に水素吸着性層を設けた水素発生用電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-240001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の陰極における水素発生過電圧について、電解に要するエネルギーコストの観点から更なる低減が要望されている。
【0008】
本発明は、より低いカソード電位で、アルカリ水電解により水素を発生することができる水素発生用電極およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極において、触媒層を実質的にIrまたはIr合金からなる湿式めっき被膜とし、かつ触媒層の表面の算術平均粗さRaが特定範囲に調整されることにより、水電解における水素発生に要するカソード電位を低く抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、以下の通りである。
1.導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極であって、
前記触媒層は、実質的にIrまたはIr合金からなる湿式めっき被膜であり、
前記触媒層の表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上であることを特徴とする、水素発生用電極。
2.前記導電性基材の前記触媒層が形成される面の算術平均粗さRaが1.6μm以上であることを特徴とする、前記1に記載の水素発生用電極。
3.前記触媒層の1cm当たりの水素吸着電荷量が100mC以上であることを特徴とする、前記1または2に記載の水素発生用電極。
4.導電性基材と触媒層の間に、実質的にPtまたはPt合金からなる中間層が形成されたことを特徴とする、前記1~3のいずれか1に記載の水素発生用電極。
5.導電性基材と触媒層の間に、実質的にAuまたはAu合金からなる中間層が形成されたことを特徴とする、前記1~4のいずれか1に記載の水素発生用電極。
6.導電性基材と触媒層の間であり、かつ前記導電性基材の表面上に直接積層された、実質的にAuまたはAu合金からなる第1の中間層と、
前記第1の中間層と、前記触媒層の間であって、前記第1の中間層表面上に直接積層された、実質的に白金族元素またはその合金からなる第2の中間層と、が形成されたことを特徴とする、前記1~5のいずれか1に記載の水素発生用電極。
7.アルカリ水電解装置において用いられることを特徴とする、前記1~6のいずれか1に記載の水素発生用電極。
8.導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極の製造方法であって、
導電性基材の表面を粗化する工程と、
湿式めっき法により、IrまたはIr合金を含み、かつ表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上である触媒層を前記導電性基材上に形成する工程と、
を含むことを特徴とする、水素発生用電極の製造方法。
9.前記導電性基材の表面の算術平均粗さRaが1.6μm以上となるよう、導電性基材の表面を粗化することを特徴とする、前記8に記載の水素発生用電極の製造方法。
10.電解エッチングにより導電性基材の表面を粗化することを特徴とする、前記8または9に記載の水素発生用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、水電解における水素発生過電圧が低い水素発生用電極を提供することが出来る。この水素発生用電極を用いて水電解を行うことにより、従来の電極使用時より低いカソード電位での電解が可能となり、エネルギーコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の水素発生用電極の一実施形態を示す模式図である。
図2図2は、本発明の水素発生用電極の別の実施形態を示す模式図である。
図3図3は、実施例および比較例の電極に係るリニアスイープボルタンメトリー測定結果を示す図である。
図4図4は、実施例および比較例の電極に係るリニアスイープボルタンメトリー測定結果を示す図である。
図5図5は、実施例および比較例の電極に係るリニアスイープボルタンメトリー測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極であって、前記触媒層は、実質的にIrまたはIr合金からなる湿式めっき被膜であり、前記触媒層の表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上であることを特徴とする。
【0014】
(導電性基材)
導電性基材としては、通常電極に使用できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ニッケル、ニッケル合金及びステンレススチールなどを使用できる。ただし、ステンレススチールを高濃度のアルカリ水溶液中で用いた場合、鉄及びクロムが溶出すること、及びステンレススチールの電気伝導性がニッケルの1/10程度であることを考慮すると、導電性基材としてはニッケルまたはニッケル合金が好ましい。
【0015】
導電性基材の形状は特に限定されず、目的によって適切な形状を選択することができる。例えば、板材、多孔板、エキスパンド形状、及びニッケル線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等が挙げられる。導電性基材の形状は、電解槽における陽極と陰極との距離によって好ましい仕様があり、例えば陽極と陰極とが有限な距離を有する場合には、多孔板又はエキスパンド形状が用いられ、イオン交換膜と電極とが接するいわゆるゼロギャップ電解槽の場合には、細い線を編んだウーブンメッシュ等が用いられる。
【0016】
導電性基材において、後述する触媒層が形成される面(以下、基材面と称することもある)の算術平均粗さRaは1.6μm以上であることが好ましい。より好ましくは4.7μm以上であり、さらに好ましくは9.5μm以上である。後述する触媒層は湿式めっきにより形成されるが、この手法によれば、所望の厚さの触媒層を均一な厚さで得ることができる。それにより触媒層の表面(以下、触媒面と称することもある)の粗さは、導電性基材の表面の粗さが反映されることになる。そのため、基材面の粗さを上記範囲とすることにより触媒面について所望の表面粗さを容易に実現でき、結果として水素発生過電圧の低減が実現できる。また、基材面の算術平均粗さRaを上記範囲とすることにより、導電性基材と触媒層との密着性が向上し、触媒層が基材から剥離しにくくなるため、電極の耐久性の向上という効果も同時に得られる。ここで図1に示すように、本発明の水素発生用電極1において、触媒層12が形成される基材面13は、図1に示す導電性基材11と触媒層12の境界面をいい、触媒面14は触媒層12の表面のうち、基材側とは反対側の面をいう。なお、図1は、必ずしも一定の比率の縮尺で描かれてはいない。
【0017】
上記算術平均粗さRaは、JIS B0601に準じて、粗さ曲線を描き、下式により算出することができる。下式において、Lは測定長さ、xは平均線から測定曲線までの偏差である。
【0018】
【数1】
【0019】
実施例でも後述するが、算術平均粗さRaは次のようにして求めるものとする。すなわち、本発明の電極の断面曲線からその平均線の方向に測定長さL=100μmの部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線y=f(x)で表わしたとき、上の式で与えられた値を〔μm〕で表わす。算術平均粗さRaは、触媒層の表面から10本の粗さ曲線を求め、これらの粗さ曲線から求めた抜き取り部分の算術平均粗さの平均値で表わす。
【0020】
上記測定は、例えば、表面粗さ測定機、例えば、株式会社ミツトヨ製の製品名:SJ-210等を用いて行うことができる。なお、上記測定器を用いる場合、例えば、触針の先端半径は5μm、測定力は4mNとし、カットオフ値は0.08mmとする。詳細は実施例にて後述する。
また、触媒層が形成される基材面の算術平均粗さRaは、走査型電子顕微鏡を用いて導電性基材と触媒層の境界面の観察をして、粗さ曲線を取得することで測定することもできる。
【0021】
なお、触媒層12を均一な厚さで形成した場合、導電性基材の触媒層が形成される面の表面粗さは、触媒層の形成前後でほとんど変わることはない。このため、導電性基材の表面を予め粗化処理により所望の表面粗さとすることで、触媒層12を形成した際に、所望の表面粗さを容易に得ることが出来る。この観点から、触媒層形成前の基材面の算術平均粗さRaは、1.6μm以上であることが好ましく、4.7μm以上であることがより好ましく、9.5μm以上であることがさらに好ましい。
【0022】
導電性基材の平均厚さは、特に限定されるものではなく、適宜設定されるものであってよい。例えば、導電性基材の平均厚さが1.0mm以上であることで、基材の強度が強く反りや歪み等が発生しにくくなるという利点があり、好適である。
【0023】
(触媒層)
本発明における触媒層は、導電性基材上に形成される、水素発生過電圧を低減する機能を有する層である。ここで「導電性基材上に形成される」とは、導電性基材の表面に形成されることを意味するが、導電性基材の表面上に直接形成される態様に限られず、例えば、後述する中間層を介して、導電性基材の表面上に間接的に形成される場合も包含する意味である。すなわち、本発明の電極が中間層を有しない場合は、触媒層は導電性基材上に直接的に形成されることになり、中間層を有する場合は、触媒層は導電性基材上に間接的に形成されることになる。
【0024】
本発明における触媒層は、実質的にIrまたはIr合金からなる湿式めっき被膜である。「実質的にIrまたはIr合金からなる」とは、製造工程において不可避的に混入する不純物と言える量を超えるIrまたはIr合金以外の化合物を含まないことを意味する。一方、不可避的に混入する不純物と言える量とは、例えば、触媒層中の含有量が1.0質量%以下程度であれば含有されていてもよいという意味である。
【0025】
Ir合金とは、Irと合金化される金属の少なくとも1種とIrとの合金であり、当該合金の組織には、金属間化合物、固溶体、共融混合物あるいはこれらが共存するものが含有されていてもよい。また、Ir合金中のIrは、元素換算で5.0質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。
【0026】
Ir合金の種類は、特に制限されないが、例えば、白金、ルテニウム、ロジウム、ニッケルの少なくとも1種を含有するIr合金が挙げられる。水素発生過電圧をより低く抑えることができるという観点からは、Ir-Pt合金が好ましい。Ir-Pt合金は、Irの比率がわずかであっても水素発生過電圧を低減させる効果があるが、Ir-Pt合金中のIrは、元素換算で5.0質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。
【0027】
IrまたはIr合金のいずれを選択するかは、水素発生過電圧の低減効果に基づく。触媒層をIr合金とする場合、Ir以外の金属が触媒層の表面に存在することや、触媒層におけるIrの結晶性が低下することにより、Ir単体の触媒層と比較して触媒層の表面と吸着水素との結合力が変化することが考えられる。その結果、水素発生過電圧の低減効果が変化することが考えられる。
【0028】
本発明の水素発生用電極が有する触媒層は、湿式めっきにより形成される被膜である。湿式めっき被膜は、電解めっきで形成される被膜であっても、無電解めっきで形成される被膜であってもよい。また、触媒層は、上述した触媒層の表面の表面粗さRaを実現できるのであれば、プラズマ溶射法、化学蒸着法、スパッタリングなどの物理蒸着法など、公知の手法により形成される被膜であってもよい。
【0029】
触媒層の表面の算術平均粗さRaは1.7μm以上である。上記範囲であることで、触媒層の電気化学的表面積が増大し、水素発生過電圧をより低く抑えることができる。触媒層の表面の算術平均粗さRaは1.7μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましい。なお上記触媒層の表面粗さは、上述のとおり、導電性基材の基材面、つまり、基材の触媒層が形成される面の算術平均粗さRaを調整すること等により実現できる。また、他の手段として、平坦な基材面上に形成した触媒層の表面を公知のブラスト処理方法やエッチング処理方法などで粗面化することによっても調整できる。
【0030】
本発明の水素発生用電極は上記のような構成を有するため、水電解における水素発生過電圧を低く抑えることができる。
本発明における触媒層の1cmの水素吸着電荷量(以下、Qhと称することもある)はその値が大きいほど、触媒層のECSA(Electrochemical Surface area、電気化学活性比表面積)が大きくなる。つまり、触媒層のQhが大きいほど、活性点が多く、水素発生過電圧が低くなることを意味する。本発明における触媒層は実質的にIrまたはIr合金からなり、かつその表面粗さを特定範囲とするため、従来用いられていたPtからなる触媒層と比較して、水素吸着電荷量Qhを大きくすることが可能となった。本発明における触媒層の水素吸着電荷量Qhは、100mC以上であることが好ましく、200mC以上であることがより好ましく、280mC以上であることがさらに好ましい。
本発明における触媒層の水素吸着電荷量は、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定によって得られる水素吸着波のピーク部分、具体的には-600mV~-1100mV部分の電流値を積分することで求められる。なお、触媒層のECSA(電気化学活性比表面積)は、水素吸着電荷量Qhを用いて下式により算出される。
ECSA[cm/g]=Qh[C]/(Qc[C/cm]×W[g])
Qh:触媒層の1cm当たりの水素吸着電荷量
Qc:触媒元素の単位活性面積当たりの吸着電荷量
W:触媒元素の担持量
【0031】
本発明における触媒層の平均厚さは、0.05~0.50μmであることが好ましく、0.10~0.40μmであることがより好ましい。基材表面を適切に被覆するためにある程度の厚さがあることが好ましく、触媒層の平均厚さが0.05μm以上であることで、良好な被覆率が得られるためである。一方、触媒層の厚さが大きくなり過ぎると、基材表面の粗さを活かした触媒層の表面粗さの調整が難しくなり、また、応力によって触媒層が基材表面から剥離し易くなることが考えられるため、触媒層の平均厚さは、0.50μm以下であることが好ましい。
触媒層の膜厚は、従来公知の方法を用いて測定することができ、例えば蛍光X線膜厚分析装置を用いて測定できる。
【0032】
(中間層)
本発明の水素発生用電極は、導電性基材と触媒層の間に、実質的にPtもしくはPt合金、及び/又は、AuもしくはAu合金からなる中間層が形成されたものであることが好ましい。これらの中間層は、電解めっきにより形成されるいわゆるストライクめっき層であり、本発明の水素発生用電極は、上記中間層を有することによって、基材への触媒層の密着性をより向上させることができる。これにより、水素発生用電極をアルカリ水電解に用いた際の触媒層の損耗や剥離を抑制することができ、触媒層の耐久性および触媒性能がより向上するという利点がある。
ここで「実質的にPtもしくはPt合金からなる」とは、製造工程において不可避的に混入する不純物と言える量を超えるPtまたはPt合金以外の化合物を含まないことを意味する。一方、不可避的に混入する不純物と言える量とは、例えば、中間層中の含有量が1.0質量%以下程度であれば含有されていてもよいという意味である。「実質的にAuもしくはAu合金からなる」も同様の意味である。
【0033】
Pt合金とは、Ptと合金化される金属の少なくとも1種とPtとの合金であり、当該合金の組織には、金属間化合物、固溶体、共融混合物あるいはこれらが共存するものが含有されていてもよい。Pt合金は、Ptを主成分とすることが好ましい。ここで「主成分」とは、合金中に含まれる成分の中で、最も質量含有率の多い成分のことをいう。Pt合金の種類は、特に制限されないが、例えば、金、銀、およびPt以外の白金族元素の少なくとも1種を含有するPt合金が挙げられる。触媒層の密着性の向上の観点からは、Pt-Au合金、またはPt-Ir合金が好ましい。
【0034】
Au合金とは、Auと合金化される金属の少なくとも1種とAuとの合金であり、当該合金の組織には、金属間化合物、固溶体、共融混合物あるいはこれらが共存するものが含有されていてもよい。Au合金は、Auを主成分とすることが好ましい。Au合金の種類は、特に制限されないが、例えば、白金族元素、亜鉛、およびニッケルの少なくとも1種を含有するAu合金が挙げられる。
【0035】
本発明の電極が中間層を有する場合、その層数は特に制限されず、1層であっても、2層以上積層されたものであってもよい。特に、図2に示すように、本発明の水素発生用電極2は、導電性基材21と触媒層22の間であり、かつ前記導電性基材の表面上に直接積層された、実質的にAuまたはAu合金からなる第1の中間層23と、前記第1の中間層23と前記触媒層22の間であって、前記第1の中間層表面上に直接積層された、実質的に白金族元素またはその合金からなる第2の中間層24と、が形成されたものであることが好ましい。本発明の水素発生用電極が上記態様を有することで、耐久性および触媒性能がより向上する。なお、図2は、必ずしも一定の比率の縮尺で描かれてはいない。
【0036】
中間層は、例えば、湿式めっきなどの公知の方法により導電性基材の表面に形成されてよい。特に、湿式めっきにより形成することで、均一な厚さの中間層を得ることが出来るため、基材表面の表面粗さに基づき、所望の表面粗さを有する触媒層を得ることが出来る。中間層の平均の厚さは、基材表面を好適に被覆し、且つ基材表面の表面粗さに基づく触媒層の表面粗さに影響を与えない範囲で適宜設定されてよく、例えば、一層あたり0.01μm~0.50μm程度であることが好ましい。
中間層の膜厚は、従来公知の方法を用いて測定することができ、例えば蛍光X線膜厚分析装置を用いて測定できる。
【0037】
本発明の水素発生用電極は、アルカリ水電解装置において好適に用いられる。
【0038】
(水素発生用電極の製造方法)
本発明の水素発生用電極の製造方法について以下に説明する。
本発明の水素発生用電極の製造方法は、導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極の製造方法であって、
(1)導電性基材の表面を粗化する工程と、
(2)湿式めっき法により、IrまたはIr合金を含み、かつ表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上である触媒層を前記導電性基材上に形成する工程
と、を含むことを特徴とする。
【0039】
本発明の水素発生用電極の製造方法によれば、導電性基材の表面を、粗化処理により所定の表面粗さに仕上げ、その後、粗化した基材の表面にIrまたはIr合金を含む湿式めっきを施す工程を経ることにより、水素発生過電圧を低く抑え、かつ耐久性に優れる水素発生用電極を製造することが可能となる。
【0040】
(1)導電性基材の表面を粗化する工程
まず、導電性基材の表面を粗化する工程について説明する。粗化処理の手段は特に制限されるものではない。例えば、ブラスト処理、アルゴンガスプラズマ処理、及び電解エッチング等が挙げられ、これらを単独または2つ以上組み合わせることもできる。ブラスト処理としては、例えば、サンドブラスト処理及びウエットブラスト処理等が挙げられる。電解エッチングにより基材の表面粗化処理を行う場合は、電解浴として、例えば、硝酸、リン酸などの酸またはその塩を含む水溶液あるいは有機溶剤を含む水性溶液が用いられる。
【0041】
基材の表面の算術平均粗さRaが1.6μm以上となるように粗化処理することが好ましく、4.7μm以上であることがより好ましく、9.5μm以上であることがさらに好ましい。
【0042】
粗化処理後の基材の表面に対しては、表面の脱脂やスケールなど不純物を除去する目的で、脱脂や酸洗いを行う公知の工程を含んでいてもよい。この脱脂処理や酸洗処理は、上記粗化処理後に行われるものであるが、基材の表面の算術平均粗さRaに影響を与えない、もしくは、与えるとしても基材の表面の算術平均粗さRaが1.6μm以上の範囲内に抑えられるものとする。
【0043】
脱脂処理は、例えば、超音波脱脂、及び電解脱脂等が挙げられる。脱脂処理を行うことによって、基材の表面に付着した錆防止に使用する各種油類等、めっきするための障害物となる汚れを除去し、清浄な表面にすることができ、基材と触媒層との密着性をより良好にすることができる。
超音波脱脂は、例えば、イートレックス11(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)など、市販の脱脂液に浸漬し、超音波洗浄装置により超音波を付加することで行うことができる。
電解脱脂は、例えば、イートレックス12(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)など、市販の電解脱脂材を用いて行うことができる。
【0044】
酸洗処理としては、例えば硫酸や塩酸等を用いる例が挙げられる。酸洗処理を行うことによって、表面の洗浄と酸化層の除去ができる。
硫酸処理は例えば、基材に対し10%硫酸を30秒処理し、塩酸処理は例えば、15%塩酸を30秒処理する。
【0045】
(2)湿式めっき法により、IrまたはIr合金を含み、かつ表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上である触媒層を前記導電性基材上に形成する工程
つづいて、上記粗化処理等を施した基材の表面にIrまたはIr合金を含むめっきを施す工程について説明をする。
本発明において基材の表面にIrまたはIr合金を含むめっきを施す方法は特に制限されず、通常の湿式めっき方法を採用することができる。湿式めっき法は、均一な厚さの触媒層を比較的容易に得られる点とコストの観点とから好ましい。
【0046】
上述したとおり、導電性基材の表面に対し粗化処理を行っているため、粗化処理後の基材の表面上に湿式めっきを施し、均一な厚さの触媒層を形成すると、触媒層の表面の算術平均粗さRaは1.7μm以上の範囲とすることが可能となる。
【0047】
めっき時間、析出速度及びめっき浴中のIr濃度等は特に限定されず、例えば、目標とする触媒層の厚さに応じて制御することが可能である。めっき後の電極は純水又はイオン交換水を用いて洗浄すればよい。
【0048】
また、本発明の水素発生用電極の製造方法においては、導電性基材と触媒層の間に上述したような中間層を形成してもよい。すなわち、実質的にPtまたはPt合金からなる中間層を導電性基材上に形成する工程、及び/又は、実質的にAuまたはAu合金からなる中間層を導電性基材上に形成する工程を有してもよい。
【0049】
とくに、本発明の水素発生用電極の製造方法は、AuまたはAu合金を含む第1の中間層を導電性基材上に形成する工程、及び、白金族元素またはその合金からなる第2の中間層を第1の中間層表面上に形成する工程をさらに含むことが好ましい。すなわち、本発明の水素発生用電極の製造方法の好適な態様としては、導電性基材と、該導電性基材上に形成された触媒層とを備える水素発生用電極の製造方法であって、導電性基材の表面を粗化する工程と、AuまたはAu合金を含む第1の中間層を前記基材の表面上に形成する工程と、白金族元素またはその合金からなる第2の中間層を前記第1の中間層の表面上に形成する工程と、湿式めっき法により、IrまたはIr合金を含み、かつ表面の算術平均粗さRaが1.7μm以上である触媒層を前記導電性基材上であり、かつ、前記第2の中間層の表面上に形成する工程と、を含む。
【0050】
中間層は、上記触媒層と同様、湿式めっき法によって形成してもよいし、その他従来公知の任意の方法により形成してもよい。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0052】
[算術平均粗さRa]
算術平均粗さRaは、JIS B0601に準じて、表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、製品名:SJ-210)を用い、粗さ曲線を描き、下式により算出した。下式において、Lは測定長さ、xは平均線から測定曲線までの偏差である。
【0053】
【数2】
【0054】
具体的には次のようにして算術平均粗さRaを求めた。すなわち、作製した電極の断面曲線からその平均線の方向に測定長さL=100μmの部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔μm〕で表わす。算術平均粗さRaは、触媒層の表面から10本の粗さ曲線を求め、これらの粗さ曲線から求めた抜き取り部分の算術平均粗さの平均値で表わした。なお、触針の先端半径は5μm、測定力は4mNとし、カットオフ値は0.08mmとした。
【0055】
[水素吸着電荷量(Qh)]
各実施例及び比較例の電極1.0cmを作用極とし、対極及び参照極には、銀-塩化銀電極を用い、30質量%濃度の水酸化カリウム水溶液を電解液とした測定セルを作製した。この測定セルにおいて、CV測定を行い、得られた電流値のピーク、具体的には-600mV~-1100mV部分の電流値を積分すること計測した。
【0056】
[カソード電位E(V vs. Ag/AgCl)]
各実施例及び比較例の電極1.0cmを作用極とし、対極及び参照極には、銀-塩化銀電極を用い、30質量%濃度の水酸化カリウム水溶液を電解液とした測定セルを作製した。この測定セルにおいて、室温下で、0~-1.50Vの範囲で、スイープ速度0.01V/sの条件でリニアスイープボルタンメトリー測定を行い、得られた測定結果から水電解に用いられる電流密度-0.2A/cm及び-0.7A/cmに対応するカソード電位を求めた。
【0057】
[寿命]
一般に水素発生用電極は、使用を続けることで、触媒層の剥離や触媒の不活性化が生じ、水素発生に要するカソード電位が増大する。各実施例および比較例の水素発生用電極について、室温下で、30%KOH水溶液中でカソードとして-0.7A/cmの電流密度で水電解を開始し、水素発生に要するカソード電位が電解開始時より0.1V上昇するまでの時間(Hr)を寿命として定めた。
【0058】
(実施例1)
導電性基材として、2.0cm×2.0cm、平均厚さ1.0mmのニッケルプレートを用いた。
[粗化処理]
上記基材の表面に対して、粗化処理を行った。
粗化処理は、以下の条件でサンドブラスト処理することにより実施した。
・サンドブラスト処理
ブラスト装置(株式会社不二製作所製、製品名:ニューマ・ブラスター、SG-5BAR-306-R300)および研磨材:Al(アルミナ)96.0%以上、平均粒径150μm~180μm(株式会社不二製作所製、製品名:#80)を用いたサンドブラスト処理により基材の表面の粗化処理を行った。粗化処理した基材に対して、イートレックス11(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)に浸漬し、超音波洗浄装置により超音波を1分間付加することで超音波洗浄を行った。超音波洗浄後の基材に対して、イートレックス12(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)を用いて、30秒間電解脱脂した。
【0059】
[湿式めっき]
上記のとおり粗化処理および表面処理した基材の表面に対して、下記条件でIrめっきを施し、基材の表面上にIrからなる触媒層を作成し、本発明の水素発生用電極を作製した。
・めっき条件
めっき液:イリデックス300(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)
Ir濃度:15g/L
めっき電流密度:0.5A/dm
液温:60℃
めっき時間:10分
触媒層の平均厚さ:0.3μm
【0060】
作製した実施例1の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
【0061】
(実施例2、3)
粗化処理を、電解エッチングで行ったことを除いては、実施例1と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。作製した実施例2、3の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
・電解エッチング処理
電解エッチング処理は、30℃に調整した電解浴中で1.0A/cmの電流密度の条件で行われた。このとき、実施例2に対しては、30重量%のリン酸の電解浴中で20分間の電解エッチング処理により基材の表面の粗化処理を行った。実施例3に対しては、30重量%の硝酸の電解浴中で3分間の電解エッチング処理により基材の表面の粗化処理を行った。
【0062】
(実施例4)
基材上に、Ptからなる中間層を以下のめっき条件で作製し、さらにIrからなる触媒層を当該中間層の表面に形成したことを除いては、実施例2と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。作製した実施例4の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
・めっき条件(中間層)
めっき液:Ptめっき液(田中貴金属工業株式会社製)
Pt濃度:7g/L
中間層の平均厚さ:0.05μm
【0063】
(実施例5)
基材上に、Auからなる中間層を以下のめっき条件で作製し、さらにIrからなる触媒層を当該中間層の表面に形成したことを除いては、実施例4と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。作製した実施例5の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
・めっき条件(中間層)
めっき液:オーロボンド TCL(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)
Au濃度:2g/L
中間層の平均厚さ:0.05μm
【0064】
(実施例6)
基材上に、Auからなる第1の中間層を以下のめっき条件で作製し、第1の中間層上にPtからなる第2の中間層を以下のめっき条件で作製し、第2の中間層上にIrからなる触媒層を形成したことを除いては、実施例4と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。作製した実施例6の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
・めっき条件(第1の中間層)
めっき液:オーロボンド TCL(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)
Au濃度:2g/L
第1の中間層の平均厚さ:0.05μm
・めっき条件(第2の中間層)
めっき液:Ptめっき液(田中貴金属工業株式会社製)
Pt濃度:7g/L
第2の中間層の平均厚さ:0.05μm
【0065】
(実施例7)
基材上に、Niからなる中間層を以下のめっき条件で作製し、Irからなる触媒層を当該中間層の表面に形成したことを除いては、実施例4と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。作製した実施例7の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
・めっき条件
めっき液:Niめっき液(田中貴金属工業株式会社製)
Ni濃度:60g/L
中間層の平均厚さ:0.05μm
【0066】
(比較例1)
めっき条件を下記のとおりとし、Ptからなる触媒層としたことを除いては、実施例1と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。作製した比較例1の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
・めっき条件
めっき液:プラチナート 100(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)
Pt濃度:20g/L
触媒層の平均厚さ:0.3μm
【0067】
(比較例2)
下記に示す手順により、触媒層を焼成により形成したことを除いては、実施例1と同様にして本発明の水素発生用電極を作製した。導電性基材の表面に、100g/Lの塩化Ir酸水溶液を塗布し、大気雰囲気中で、500℃,30分間焼成を行う操作を繰り返し、0.3μmの平均厚さの触媒層を形成した。なお、使用前に30%KOH水溶液中にて、カソードとして0.7A/cmの条件で還元処理を行った。作製した比較例2の電極の、各物性値および評価値等は表1に示すとおりである。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に見られるように、触媒層をIrの湿式めっき被膜で形成した実施例1乃至3において、比較例1および2と比較して、QhひいてはECSAが増大しており、水素発生に要するカソード電位が低減していることが示された。
また、触媒層を、導電性基材の表面に形成した中間層上に、Irの湿式めっき被膜で形成した実施例4乃至7において、比較例1および2と比較して、QhひいてはECSAが増大しており、水素発生に要するカソード電位が低減していることが示された。
図3および図4は、実施例1乃至7および比較例1、2の水素発生用電極に関するリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す図である。図3および図4に示されるとおり、実施例1乃至7のいずれにおいても、比較例1および2と比較して、水素発生に要するカソード電位が低減される傾向であることが示された。
【0070】
(実施例8~24)
表2に示される合金比率のIr-Pt合金触媒層を備える実施例8~24の水素発生用電極を作製した。各実施例の水素発生用電極は、めっき条件を、Pt-Irめっき液(田中貴金属工業株式会社製)を、各実施例の比率のIr-Pt合金触媒層が得られるよう各金属の濃度を適宜変更したことを除いては、実施例1と同様にして作製した。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示されるとおり、触媒層をIr-Pt合金めっき被膜で形成した実施例8乃至24において、触媒層をPtめっき被膜で形成した比較例1と比較して水素発生に要するカソード電位が低減していることが示された。
図5は、実施例1、8、11、12、13、20、24および比較例1の水素発生用電極に関するリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す図である。図5に示されるとおり、いずれの実施例においても、比較例1と比較して、水素発生に要するカソード電位が低減される傾向であることが示された。また、実施例8、11、12、13の水素発生用電極では、実施例1と比較して、水素発生に要するカソード電位がさらに低減される傾向であることが示された。
【0073】
【表3】
表3は、実施例1乃至3の水素発生用電極について、-0.7A/cmの電流密度での水素発生に要するカソード電位E2を示したものである。実施例1乃至3は、-0.2A/cmの電流密度での水素発生に要するカソード電位は大きな違いが無いものの、電流密度の絶対値が高くなるにつれて、各実施例間のカソード電位の差が大きくなることが、図3にも示された。-0.7A/cmの電流密度での水素発生に要するカソード電位E2については、実施例1と比較して、触媒層のRa及びQhが大きい実施例2においてより低減することが示された。また、実施例2と比較して、触媒層のRa及びQhがさらに大きい実施例3において、さらに低減することが示された。
【0074】
【表4】
【0075】
表4は、実施例1乃至6および比較例1の水素発生用電極について、上述した定義に基づく寿命を示したものである。導電性基材と触媒層との間に中間層を設けた実施例4乃至6において、中間層を設けない他の実施例および比較例と比較して寿命が大きく向上していることが示された。
【符号の説明】
【0076】
1 水素発生用電極
11 導電性基材
12 触媒層
13 基材面
14 触媒面
2 水素発生用電極
21 導電性基材
22 触媒層
23 第1の中間層
24 第2の中間層
図1
図2
図3
図4
図5