(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】アスタキサンチン含有ソース
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20220921BHJP
【FI】
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2019017689
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 まり子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 知之
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/048120(WO,A1)
【文献】特開2017-085981(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105212184(CN,A)
【文献】特開2008-271879(JP,A)
【文献】特開2002-335878(JP,A)
【文献】特開2008-154551(JP,A)
【文献】特開平07-099926(JP,A)
【文献】BSJ-Review,2018年,Vol.9,9:46~9:49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘマトコッカス藻
から抽出されたアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを含
み、
前記アスタキサンチンの含有量が0.00005~0.01質量%であり、
前記トマト粉砕物の含有量が5~70質量%である、ソース。
【請求項2】
品温25℃における粘度が1~15Pa・sである、請求項
1に記載のソース。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のソースと、該ソースを収容する容器とを含む、容器詰ソース。
【請求項4】
ヘマトコッカス藻
から抽出されたアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを含むソースの風味改善方法であって、
前記ソースの全質量中、前記アスタキサンチンの含有量が0.00005~0.01質量%であり、
前記ソースの全質量中、前記トマト粉砕物の含有量が5~70質量%であり、
前記ソースを容器に収容して容器詰ソースとし、該容器詰ソースを密封して、その後加熱処理する、ソースの風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスタキサンチンを含有するソース及びアスタキサンチンを含有するソースの風味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは、赤燈色の天然色素であるカロテノイドの一種である。アスタキサンチンは、オキアミや一部の藻類等の水生生物に含まれており、食物連鎖の流れの中で、これらの水性生物を摂取するサケ、イクラ、エビ、カニ等の海産物に蓄えられる。
【0003】
アスタキサンチンは、β‐カロテンの10倍、ビタミンEの1000倍ともいわれる強力な抗酸化作用を有している。そのため、アスタキサンチンは、これを生体に適用することによって、体内の活性酸素や過酸化脂質の低減、美肌効果等といった種々の健康機能が期待されている。
【0004】
上述したアスタキサンチンの健康機能を期待して、海産物や水生生物等から抽出したアスタキサンチンを含有するサプリメントや化粧料が市販されている。また、より簡便にアスタキサンチンを摂取可能とするために、一般的な飲食品に含有しようとする試みも行われている。しかし、海産物や水生生物等から抽出したアスタキサンチンは、生臭さといった独特の不快臭が保持されているので、このアスタキサンチンを飲食品に微量含有させた場合であっても、飲食品の風味を乱してしまう原因となっていた。
【0005】
特許文献1には、藻類由来成分特有の不快臭の発生を抑制することを目的として、アスタキサンチン等の藻類由来成分と、果糖とを含む飲食物が記載されている。また同様の目的で、特許文献2には、pHを2.5以上4.4以下とし、アスタキサンチンとナトリウムの含有量比を、ナトリウム/アスタキサンチンが3以上50以下とした容器詰め飲料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-226533号公報
【文献】特開2018-27043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載のアスタキサンチン含有飲食物は、藻類由来成分特有の不快臭の抑制効果は不十分であった。また、これらの文献には、他の食品と組み合わせて用いた場合において、アスタキサンチン含有飲食物の風味の維持や、藻類由来の生臭さなどといった藻類由来の不快な風味や臭い(以下、これを「異味異臭」ともいう。)の低減に関しては何ら開示されていない。
【0008】
したがって、本発明の課題は、簡便に喫食してアスタキサンチンの健康機能が期待でき、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンによる異味異臭が低減され、ソース本来の風味を感じることができるソース及びその風味改善方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを含む、ソースを提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記ソースと、該ソースを収容する容器とを含む、容器詰ソースを提供するものである。
【0011】
更に本発明は、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを含むソースを容器に収容して容器詰ソースとし、
前記容器詰ソースを密封して、その後加熱処理する、ソースの風味改善方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便に喫食してアスタキサンチンが有する健康機能が期待できるとともに、藻類に由来する異味異臭が低減されたソースが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明のソースは、常温(25℃)で流動性を有し、水分が主体の液状物又は流動物を含む。本発明のソースは、典型的には、ソース以外の他の食材又は料理にかけたり、ソース以外の他の食材又は料理とからめたりすることによって、他の食材又は料理とともに喫食されるものであり、液状物や流動物自体の喫食が目的とされる飲料とは異なるものである。以下の説明では、「X~Y」(X及びYは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
本発明のソースは、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンを含有する。ヘマトコッカス藻は、ヘマトコッカス属の淡水性単細胞藻類であり、その細胞内にアスタキサンチンを多量に蓄積する性質を有するものである。このようなヘマトコッカス藻としては、例えばヘマトコッカス・プルビアリス、ヘマトコッカス・ラキュストリス、ヘマトコッカス・カペンシス、ヘマトコッカス・ドロエバゲンシス等が挙げられる。
【0015】
ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンは、上述したヘマトコッカス藻の少なくとも一種の藻体からの抽出物として得られるものである。したがって、本発明における「ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチン」は、ヘマトコッカス藻以外の動植物、藻類及び菌類から抽出されたアスタキサンチンと、人為的に合成されたアスタキサンチンとを除外する趣旨である。抽出に用いられる藻体は、粉砕されたものを用いてもよい。以下の説明では、ヘマトコッカス藻を単に「藻類」ともいう。
【0016】
藻類由来の抽出物は、アスタキサンチンに加えて、該アスタキサンチン以外のヘマトコッカス藻由来成分(以下、これを「残存成分」ともいう。)を含んでいてもよい。抽出物の形状は特に制限はなく、例えば粉末状、粒状、顆粒状、液状、油状、分散液状若しくは乳化液状、又はこれらの組み合わせであり得る。本発明のソースに含まれるアスタキサンチンは、前記抽出物をそのまま用いてもよく、必要に応じて、該抽出物を更に分散媒に分散させたり、乾燥などの処理が施されたものを用いてもよい。高純度のアスタキサンチンを簡便に得る観点から、本発明に用いられるアスタキサンチンは、ヘマトコッカス藻の少なくとも一種の藻体からの抽出物であり、且つ藻体の粉砕物でないことが好ましい。また、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンは、食用に適する限りにおいて、市販品を用いてもよい。
【0017】
本発明のソースにおけるアスタキサンチンの含有量は、本発明のソースを1食あたり100g~200gとする場合、アスタキサンチンを一食あたり好ましくは0.5~20mg含むように配合することが好ましい。詳細には、アスタキサンチンの含有量は、ソースの全質量中、好ましくは0.00005質量%~0.01質量%、より好ましくは0.0005質量%~0.005質量%である。例えば、ソースの製造過程において、アスタキサンチンを50質量%含有する分散油を用いる場合、ソースの全質量中、該分散油を好ましくは0.0001質量%~0.02質量%配合すればよい。アスタキサンチンの含有量をこのような範囲にすることによって、アスタキサンチンが有する健康機能を効果的に得ることができるとともに、後述するトマト粉砕物の使用による異味異臭低減効果と相まって、残存成分に起因する異味異臭を低減することができ、その結果、ソースの風味を喫食者に良好に知覚させることができる。アスタキサンチンの含有量は、例えば高速液体クロマトグラフィー法で測定することができる。また、アスタキサンチンがヘマトコッカス藻由来であるか否かは、例えば、アスタキサンチンの光学異性体の種類や存在比のパターンを高速液体クロマトグラフィー法で調べることで、由来を判断することができる。
【0018】
本発明のソースは、トマト粉砕物を更に含有する。トマト粉砕物とは、トマト果実そのものではなく、トマト果実に対して切断、破砕、搾汁等の何らかの小片化処理されたものであって、トマト果実を完全に分断していない態様は除かれる。トマト粉砕物は、常温(25℃)において、固形物、流動物、液状物又はこれらの混合物である。
【0019】
トマト粉砕物としては、例えば、輪切りトマトやダイストマト、くし切りトマト、みじん切りトマト等のトマト果実を一方向又は複数方向に切断した固形物、トマトピューレやトマトペースト、トマトケチャップ等のトマト果実をミキサー処理又は裏ごし処理した流動物、及びトマトジュース等のトマト果実を搾汁処理した液状物、並びにこれらの組み合わせ等を挙げることができる。トマト粉砕物は、生のままであってもよく、該トマト粉砕物に乾燥、冷凍、加熱等の他の処理が更に施されたものであってもよい。トマト粉砕物の乾燥物としては、例えば、トマトピューレやトマトペーストを乾燥したトマトパウダー等が挙げられる。また、トマト粉砕物は、加熱、水煮等の調理が行われたトマト果実が上述の小片化処理されたものであってもよい。またトマト粉砕物は、果肉に加えて、種子及び果皮が含まれていてもよい。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上述したトマト粉砕物のうち、トマト果実が、その表面積が大きくなるように小片化処理されたものを用いることが好ましい。具体的には、トマト粉砕物として、トマトピューレ、トマトペースト及びトマトジュースの少なくとも一種を用いることが好ましい。このようなトマト粉砕物をソースに用いることによって、残存成分に起因する藻類由来の異味異臭を低減しつつ、トマト本来の風味を発現させやすくして、ソースの風味を喫食者に良好に知覚させることができる。
【0021】
ヘマトコッカス藻由来の異味異臭を効果的に低減させる観点から、本発明のソースにおけるトマト粉砕物の含有量は、ソースの全質量中、トマト粉砕物の湿重量換算で好ましくは5質量%~70質量%である。トマト粉砕物の含有量は、ソースの種類や、目的とする風味等によって適宜変更することができる。詳細には、トマト風味をあまり付与しないソースとする場合、トマト粉砕物の含有量は、ソースの全質量中、トマト粉砕物の湿重量換算で好ましくは5質量%以上10質量%未満である。同様に、トマト風味を付与させたソースとする場合、トマト粉砕物の含有量は、好ましくは10質量%以上20質量%未満であり、トマトソース等のトマトを主体とするソースとする場合、好ましくは20質量%~70質量%である。
【0022】
本発明のソースは、品温25℃における粘度が好ましくは1~15Pa・s、より好ましくは2~10Pa・sである。ソースがこのような粘度を有していることによって、藻類由来の異味異臭を低減しつつ、ソースの風味をより引き立てて、ソースの風味を喫食者に一層良好に知覚させることができる。これに加えて、ソースの食感が良好なものとなる。なおここでいう「粘度」は、JIS Z 8803「液体の粘度-測定方法」に準拠し、B型粘度計で測定された値である。ソースの粘度は、例えばソースの製造時に水を添加して粘度を低下させたり、加熱によって水分を蒸発させて粘度を増加させたり、片栗粉等の粘度調整剤を添加したて粘度を増加又は低下させたりすることによって調整することができる。本発明のソースに、トマト粉砕物に由来する固形分や、後述する原材料や具材等に由来する固形分を含む場合、ソースの粘度は、これらの固形分を除いた液状物又は流動物を対象として測定したものである。
【0023】
本発明のソースの種類は、食用に供されるものであれば特に限定されず、トマトソース、カルボナーラソース、クリームソース、チーズソース等の乳化ソースや、オイルソース等の油性ソース、醤油ソース、和風ソース等の水性ソースあるいは油水分離ソース等を例示できる。これらのうち、トマトソース、カルボナーラソース、クリームソース、チーズソース等の乳化ソースを用いることが好ましい。このようなソースを用いることによって、水相に存在するトマト粉砕物と、油相に存在する脂溶性のアスタキサンチンとを均一に混合することができるので、健康機能の向上と異味異臭の低減とを両立させ、且つソース風味を一層向上させることができる。乳化ソースを用いる場合、ソース全体が乳化していてもよく、ソースが部分的に乳化していてもよい。いずれの場合であっても、本発明の効果は十分に奏される。
【0024】
上述したソースの原材料は、トマトを原料とするものを除いて、前記ソースの原材料として用いられるものを特に制限無く使用することができる。原材料としては、例えば、野菜エキス、肉エキス、出汁、フォン、ブイヨン、コンソメ等のエキス類、牛乳、チーズ、生クリーム等の乳製品類、小麦粉等の穀粉類、ワイン等の酒類、オリーブ油や菜種油等の植物性油脂、バター等の動物性油脂、コーンスターチ、片栗粉等のデンプン類、ハーブや胡椒、ニンニク等のスパイス類、塩、砂糖、醤油、酢等の調味料、水、卵、肉・野菜・豆類のペースト、ピューレ状物、酸味料、乳化剤、増粘剤、安定剤、着色料等が挙げられ、ソースの種類等に応じて、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明のソースは、本発明の効果が奏される限りにおいて、トマト以外の具材を加えてもよい。具材としては、牛、鶏、豚等の畜肉類、イカ、タコ、貝、鮭、鮟鱇等の魚介類、ホウレン草等の野菜類、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、サツマイモ等の根菜類、シイタケ、マイタケ、マッシュルーム、シメジ、ポルチーニ、エリンギ等のキノコ類等が挙げられる。これらの具材は単独で又は複数用いられてもよい。具材の配合量は、通常の具材入りソースに用いられる量に基づいて適宜設定すればよく、一般的には、ソース全質量中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは8~35質量%、更に好ましくは15~30質量%程度である。
【0026】
上述した原材料及び具材は、生のものであってもよく、例えば、塩漬処理、ブランチング、焼成、水煮、乾燥、冷凍等が施されたものであってもよく、これらが切断処理されていてもよい。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明のソースは、例えば、シチュー、ハンバーグ、パスタ料理、米飯類、パン等のベーカリー類に適用でき、特にパスタソースとして好適である。本発明のソースをパスタソースとして用いる場合、併用されるパスタ料理としては、例えば、スパゲティ、マカロニ、グラタン等を例示できる。
【0028】
本発明のソースは、これを容器に収容して、容器詰めの状態となっていることも好ましい。つまり、本発明の容器詰ソースは、上述したソースと、該ソースを収容する容器とを含んで構成されていることが好ましい。このような構成となっていることによって、藻類由来の不快な臭いが外部に漏れることを抑制しつつ、ソースの取り扱い性、運搬性及び保存性等を向上させて市場流通に適したものとなる。これに加えて、ソースの製造後から喫食者に供されるまでの間に、ソース成分の混合状態が均一となるように熟成させることができるので、良好な風味を発現するソース成分と、喫食時における藻類由来の異味異臭の原因となる残存成分とを違和感なく一体化させることができる。その結果、喫食時に知覚される藻類由来の異味異臭をより一層低減させることができ、ソースの風味が一層良好なものとなる。
【0029】
ソースを収容可能な容器は特に制限はなく、プラスチック、ガラス、金属若しくはこれらの組み合わせからなる袋体又は成形体等を用いることができ、より具体的には、プラスチック容器、瓶、缶、パウチ容器等が挙げられる。これらの容器は、蓋や接合部等を更に設けて、収容されたソースを密閉、気密又は密封可能に構成されていてもよい。また、容器詰ソースは、常圧加熱処理、レトルト(加圧)加熱処理などの加熱処理や、不活性ガス置換充填等のガス置換処理等の微生物制御処理が施されてもよい。微生物制御処理として加熱処理を行う場合、ソースの保存性向上と藻類由来の異味異臭の低減とを両立させる観点から、容器詰ソースは、該ソースを密閉、気密又は密封した後に加熱処理が行われることが好ましい。この場合、加熱処理は公知の条件で行えばよく、例えば、100℃以上160℃以下、5分以上60分以下とすることができる。なお、密閉とは固体の混入を防止するが、液体及び気体の流通は可能である形態であり、気密とは、固体及び液体の混入を防止するが、気体の流通は可能である形態であり、密封とは、固体、液体及び気体のすべての混入及び流通を防ぐ形態である。
【0030】
以上は、本発明のソースに関する説明であったところ、以下にソースの製造方法を説明する。ソースの製造方法に関して特に説明しない点は、上述のソース及び容器詰ソースに関する説明が適宜適用される。
【0031】
ソースの製造方法は、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを混合する混合工程を有する。本工程において、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチン及びトマト粉砕物の混合の順序は特に制限はなく、これらのうち一方を他方に添加して混合してもよく、これらを同時に混合してもよい。本工程では、必要に応じて、ソースの原材料及び具材を更に混合してもよい。ソースの原材料及び具材を更に混合する場合でも、混合の順序は特に制限はなく、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチン、トマト粉砕物、並びにソースの原材料及び具材を任意の順序で混合してもよく、これらを同時に混合してもよい。また、混合工程は、この工程の全部又は一部が非加熱条件で行われていてもよく、加熱条件で行われていてもよい。
【0032】
ソースの製造方法として、トマトソースを例にとって説明する。まず、オリーブ油やバターなどの油脂を加熱して加熱油脂とし、該加熱油脂にみじん切りしたタマネギ及びニンニクを添加して炒めて第1中間混合物とする。次いで、第1中間混合物を加熱しながら、該第1中間混合物にトマト粉砕物であるトマトペーストと、ワインとを添加して混合し、必要に応じて、他の具材を更に添加して、全体が均一となるように加熱混合して、第2中間混合物とする。この第2中間混合物に、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンを含む抽出物を添加して混合し、必要に応じて、他の具材や調味料を添加して、本発明のソースを得ることができる。本製造方法における加熱は、この種のソースを加熱するのに利用可能な公知の方法を利用することができ、各工程における加熱は通常、混合される具材の内部(中心部)が加熱される条件で実施される。ソースの製造方法における他の実施形態として、例えば後述する実施例の方法に基づいて、カルボナーラソース等のソースを製造することができる。
【0033】
このように得られた本発明のソースは、これをこのままで用いてもよく、該ソースを容器に収容して容器詰ソースとしてもよいが、藻類由来の異味異臭を一層低減する観点から容器詰ソースとすることが好ましい。本発明のソースは、その製造直後において、ソースに含まれる原材料や具材のそれぞれの風味が生かされているが、ソースからの香りの立ち具合や、ソースの喫食時の口腔内での挙動によっては、ヘマトコッカス藻由来の異味異臭が強く感じられる場合がある。この点に関して、容器詰ソースとすることによって、ソースの製造後から喫食者に供されるまでに、ソース成分と、異味異臭の原因となる残存成分とを違和感なく一体化させることができ、その結果、喫食時に知覚されるヘマトコッカス藻類由来の異味異臭をより一層低減させて良好な風味を有するソースとすることができる。容器詰ソースは、殺菌処理や微生物制御処理等を更に行うことができる。
【0034】
本発明は、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを含むソースの風味改善方法も提供する。本発明のソースの風味改善方法は、風味の改善対象となるソースがヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンと、トマト粉砕物とを含む。本方法では、該ソースを容器に収容して容器詰ソースとし、次いで、該容器詰ソースを密封して、然る後に、加熱処理を行う。これによって、藻類由来の異味異臭を外部に飛散させずに、加熱処理に起因したソースの対流を容器内で発生させて、ソース成分と異味異臭の原因となる残存成分とを違和感なく短時間で一体化させることができるので、ソース本来の風味を損なうことなく、藻類に由来する異味異臭を低減させることができる。その結果、ソースの風味が改善される。本発明のソースの風味改善方法について特に説明しない点は、上述した本発明のソース及びその製造方法についての説明が適宜適用される。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例3、8及び19は参考例である。
【0036】
(実施例1)
以下の手順で、カルボナーラソースを製造した。すなわち、鍋にオリーブオイルと5mm角のベーコンとを入れて加熱し、さらにみじん切りニンニクを添加して加熱して、中間混合物とした。別途、質量基準で、生クリーム:牛乳:卵黄を1:1:1の割合で混合して原料液とし、該原料液にトマト粉砕物としてトマト搾汁を加えて、混合液を調製した。この混合液を鍋に入れて攪拌し、最後に、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチンを含むヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチンオイル、富士フイルム株式会社製、商品名:ASTOTS-5OS、アスタキサンチン含有量:5質量%)を以下の表1に示す含有割合となるように加えてよく攪拌した。原料液及びトマト粉砕物は、以下の表1に示す含有割合となるように加えた。
【0037】
鍋に収容された前記中間混合物を再度加熱して、該中間混合物を加熱した状態で、前記アスタキサンチン含有混合液を以下の表1に示す含有割合となるように徐々に加えながら、前記中間混合物と前記混合液とが均一となるように混合し、第2中間混合物とした。前記第2中間混合物に粉末チーズ及び調味料を添加して、これらを均一となるように混合し、本実施例のカルボナーラソースを得た。本実施例のソースは、ソース全量中、アスタキサンチンを0.0007質量%(1食140g中にアスタキサンチンを1mg)含み、トマト粉砕物を湿重量換算で8質量%含むものであった。
【0038】
(実施例2)
実施例1において、トマト搾汁に代えて、1cm角のダイストマトを以下の表1に示す含有割合となるように加えた以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。本実施例のソースにおける各成分の含有割合を以下の表1に示す。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、トマト粉砕物を用いない混合液を用いた以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。本比較例のソースにおける各成分の含有割合を以下の表1に示す。
【0040】
(比較例2)
実施例1において、トマト粉砕物に代えて、すりおろしたリンゴを以下の表1に示す含有割合となるように加えた以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。本比較例のソースにおける各成分の含有割合を以下の表1に示す。
【0041】
(比較例3)
実施例1において、トマト粉砕物に代えて、ショウガ搾汁を以下の表1に示す含有割合となるように加えた以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。本比較例のソースにおける各成分の含有割合を以下の表1に示す。
【0042】
(比較例4)
実施例1において、トマト粉砕物に代えて、オレンジ搾汁を以下の表1に示す含有割合となるように加えた以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。本比較例のソースにおける各成分の含有割合を以下の表1に示す。
【0043】
(評価1:ソース風味の評価)
(1)各実施例及び比較例のカルボナーラソースについて、製造直後のソースをそれぞれ10名の専門パネラーに喫食してもらい、以下の評価基準でソース風味を評価してもらった。その結果を各専門パネラーの評価点の算術平均値として以下の表1に示す(この評価を、表1中、「製造直後の風味評価」ともいう。)。
(2)更に、室温(25℃)の各ソースをアルミ製パウチ袋に充填して密封して容器詰ソースとし、この容器詰ソースに対して、120℃で15分間レトルト殺菌処理を行った。これを室温(25℃)で24時間保管した後、容器詰ソースを開封して、ソースを電子レンジで再度加熱し、製造直後のソース同様に、専門パネラー10名にソース風味を評価してもらった。その結果を各専門パネラーの評価点の算術平均値として以下の表1に示す(この評価を、表1中、「容器詰後の風味評価」ともいう。)。
【0044】
<ソース風味の評価基準>
5点:藻類の生臭い風味が全く感じられないが、ソースの風味が良く感じられ、極めて良好。
4点:藻類の生臭い風味があまり感じられないが、ソースの風味が感じられ、良好。
3点:たまに藻類の生臭い風味が感じられるものの、ソースの風味が感じられ、許容できる。
2点:しばしば藻類の生臭い風味が感じられ、ソースの風味が弱く、不良。
1点:常に藻類の生臭い風味が感じられ、ソースの風味がほとんど感じられず、極めて不良。
【0045】
(評価2:ソース粘度の評価)
各実施例及び比較例のカルボナーラソースについて、製造直後の各ソースを25℃に冷却し、B型粘度計(TOKIMEC社製、型番:4163)及びNo.3ローターを用いて、回転数3~13rpm、品温25℃の条件で各ソースの粘度を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示すように、実施例のカルボナーラソースは、トマト粉砕物を含まない比較例のソースと比較して、藻類由来の異味異臭が低減され、ソースの良好な風味を知覚できるソースであることが判る。また実施例1に示すように、ソースの風味は、トマト搾汁等といったトマト果実が微細に小片化処理されたものを用いることによって一層良好になることも判る。更に、実施例のソースは、これを容器詰めとすることによって、ソースの風味が一層良好に感じられるように改善できていることも判る。
【0048】
(実施例3~8)
実施例1において、ソース中のアスタキサンチン量が以下の表2に示す量となるように、前記アスタキサンチンオイルの添加量を変更した以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。これらのソースについて、ソースの風味及び粘度を上述の方法と同様に評価した。結果を、実施例1とともに以下の表2に示す。
【0049】
【0050】
表2に示すように、各実施例のカルボナーラソースはいずれも、藻類由来の残存成分に起因する異味異臭を低減することができ、ソースの良好な風味を喫食者に知覚させることができることが判る。特に、アスタキサンチン含有量が一層好適な範囲である実施例1、5及び6によれば、アスタキサンチンが有する健康機能を得ることができる含有量がソース1食分に十分に含まれているので簡便に喫食できるとともに、藻類由来の残存成分に起因する異味異臭が低減されていることも判る。
【0051】
(実施例9~15)
実施例1において、ソースの製造工程の最後に水溶き片栗粉を添加して、ソースの粘度が以下の表3となるように調整した以外は、実施例1と同様にカルボナーラソースを製造した。これらのソースについて、ソースの風味及び粘度を上述の方法と同様に評価した。結果を以下の表3に示す。
【0052】
【0053】
表3に示すように、各実施例のカルボナーラソースはいずれも、藻類由来の残存成分に起因する異味異臭を低減することができ、ソースの良好な風味を喫食者に知覚させることができることが判る。特に、ソースの粘度が好適な範囲である実施例10~14によれば、藻類由来の残存成分に起因する異味異臭が低減され、ソースの風味が一層良好に感じられることも判る。
【0054】
(実施例16~19)
以下の手順で、トマトソースを製造した。すなわち、フライパンにオリーブ油を入れて加熱して加熱油脂とし、該加熱油脂に破砕したニンニクとを入れ、加熱した。次いで、ニンニク含有加熱油にみじん切りにしたタマネギを添加して更に加熱し、次いで、水を添加して加熱して、第1中間混合物とした。第1中間混合物を加熱しながら、該混合物中の水が沸騰した時に、トマト粉砕物として細かく刻んだ水煮トマトを添加して混合し、第2中間混合物とした。この第2中間混合物に、前記アスタキサンチンオイルを添加して、加熱混合し、コンソメ及び調味料を更に添加してさらに30分加熱して、各実施例のトマトソースを製造した。トマトソース中のアスタキサンチン含有量はいずれも、0.001質量%とし、トマト粉砕物の含有量は以下の表4に示す量とした。これらのソースについて、ソースの風味及び粘度を上述の方法と同様に評価した。結果を以下の表4に示す。
【0055】
【0056】
表4に示すように、各実施例のトマトソースはいずれも、藻類由来の残存成分に起因する異味異臭を低減することができ、ソースの良好な風味を喫食者に知覚させることができることが判る。特に、ソース中のトマト粉砕物の含有量が50~70質量%である実施例17及び18によれば、藻類由来の残存成分に起因する異味異臭が低減され、ソースの風味が一層良好に感じられることも判る。