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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20220921BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220921BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20220921BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20220921BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20220921BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/36 C
H01G11/46
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019133131
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021018894
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄治
(72)【発明者】
【氏名】プロクター ももこ
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】黄 嵩凱
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095505(JP,A)
【文献】特開2018-186065(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073238(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208894(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003477(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061298(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155121(WO,A1)
【文献】特開2015-076397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485
H01M 4/36
H01G 11/46
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、層状構造のリチウム複合酸化物を正極活物質として含有し、
前記リチウム複合酸化物は、多孔質粒子であり、
前記多孔質粒子は、その断面視において、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上となる空隙を、2つ以上有し、
前記多孔質粒子は、粒子内部から表面に連通する空隙であって開口部を有する空隙を有し、
前記開口部の開口径は、100nm以上であり、
前記多孔質粒子は、その表面にタングステン酸リチウムの被覆を備え、
前記タングステン酸リチウムの被覆が、粒状であり、前記粒状の被覆の平均粒径が、前記多孔質粒子の空隙の開口部の平均開口径よりも小さい、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記多孔質粒子の平均空隙率が10%以上50%以下であり、かつ前記多孔質粒子において、空隙率が10%以上50%以下の粒子の割合が80%以上である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池においては、一般的に、電荷担体となるイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質が用いられている。正極活物質の一例としては、層状構造のリチウム複合酸化物が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、層状構造のリチウム複合酸化物の表面をタングステン酸リチウムで被覆することにより、非水電解質二次電池の容量および出力を高めることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-225277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記従来技術においては、非水電解質二次電池の抵抗低減に関し、改善の余地があることを見出した。
【0006】
そこで本発明は、正極活物質に、タングステン酸リチウムで被覆された層状構造のリチウム複合酸化物を用いた非水電解質二次電池であって、抵抗の小さい非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備える。前記正極は、正極活物質層を備える。前記正極活物質層は、層状構造のリチウム複合酸化物を正極活物質として含有する。前記リチウム複合酸化物は、多孔質粒子である。前記多孔質粒子は、その断面視において、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上となる空隙を、2つ以上有する。前記多孔質粒子は、粒子内部から表面に連通する空隙であって開口部を有する空隙を有する。前記開口部の開口径は、100nm以上である。前記多孔質粒子は、その表面にタングステン酸リチウムの被覆を備える。
このような構成によれば、正極活物質に、タングステン酸リチウムで被覆された層状構造のリチウム複合酸化物を用いた非水電解質二次電池であって、抵抗の小さい非水電解質二次電池が提供される。
【0008】
ここに開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様においては、前記多孔質粒子の平均空隙率が10%以上50%以下であり、かつ前記多孔質粒子において、空隙率が10%以上50%以下の粒子の割合が80%以上である。
このような構成によれば、抵抗がより小さい非水電解質二次電池が提供される。
ここに開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様においては、前記タングステン酸リチウムの被覆が、粒状であり、前記粒状の被覆の平均粒径が、前記多孔質粒子の空隙の開口部の平均開口径よりも小さい。
このような構成によれば、抵抗がより小さい非水電解質二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池に用いられる多孔質粒子の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない非水電解質二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0011】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、いわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。
【0012】
以下、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、本発明について詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0013】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型のリチウムイオン二次電池100である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36が設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0014】
捲回電極体20は、図1および図2に示すように、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された正極シート50と、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成された負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。なお、捲回電極体20の捲回軸方向(即ち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成された正極活物質層非形成部分52a(即ち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)と負極活物質層非形成部分62a(即ち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)には、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0015】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。
正極活物質層54は、正極活物質として、層状構造のリチウム複合酸化物を含有する。
層状構造のリチウム複合酸化物の例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物等が挙げられる。なかでも、より抵抗特性に優れることから、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましい。
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。これらの添加的な元素の含有量は、好ましくは、リチウムに対して0.1モル以下である。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0016】
本実施形態において、層状構造のリチウム複合酸化物は、多孔質粒子である。多孔質粒子は、少なくとも2以上の空隙を有する粒子である。
この空隙に関し、多孔質粒子は、その断面視において、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上となる空隙を、2つ以上有する。
当該空隙は、開口していても、開口していなくてもよい。開口している場合、1つの空隙が2以上の開口部を有していてもよい。
なお、粒子が占有する面積は、断面視において把握される粒子全体の面積のうち、粒子の構成材料が存在している部分の面積であり、よって、断面視において把握される粒子全体の面積から空隙部分を除いた面積に等しい。
多孔質粒子の断面は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて断面電子顕微鏡画像を取得することにより、観察することできる。粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合は、当該断面電子顕微鏡画像から求めることができる。なお、空隙が開口部を有する場合は、空隙の輪郭が閉じていない。この場合には、開口部の両端を直線で結び、空隙の輪郭と当該直線で囲まれる範囲について、その面積を算出する。
【0017】
本実施形態に用いられる多孔質粒子は、典型的には、一次粒子が凝集した二次粒子である。ここで、一次粒子が単に凝集した二次粒子である通常の多孔質粒子においては、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上となる空隙は、1つ以下(特に0)である。したがって、本実施形態においては、典型的には、一次粒子が緩く凝集し、その結果、空隙が通常よりも大きい二次粒子が用いられる。
【0018】
また、空隙に関し、多孔質粒子は、粒子内部から表面に連通する空隙であって開口部を有する空隙を有する。当該開口部の開口径は100nm以上である。
空隙において開口径が100nm以上である開口部の有無は、上記断面電子顕微鏡画像を用いて確認することができる。
開口径が100nm以上である開口部を有する空隙に関し、断面視において、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上であっても1%未満であってもよいが、1%以上であることが好ましい。
【0019】
本実施形態においては、十分な内部空隙量の確保と、多孔質粒子の機械的強度の観点から、多孔質粒子の平均空隙率が10%以上50%以下であることが好ましい。これに加えて、多孔質粒子において、空隙率が10%以上50%以下の粒子の割合が80%以上であることが好ましい。このとき、非水電解質二次電池の抵抗がより小さくなり、出力がより高くなる。
なお、粒子の空隙率は、上記の断面電子顕微鏡画像を取得し、粒子全体の面積(粒子が占有する面積と空隙部分の合計面積の和)に対する空隙部分の合計面積の割合を百分率で算出することにより、求めることができる。なお、多孔質粒子の平均空隙率は、100個以上の粒子の空隙率の平均値を計算することにより求める。またなお、空隙率が10%以上50%以下の範囲内にある粒子の割合が80%以上であるか否かの判別は、100個以上の粒子を用いて行う。
【0020】
多孔質粒子の構造の具体例を図3に示す。図3は多孔質粒子の一例の模式断面図である。図3に示すように、多孔質粒子10は、一次粒子12が凝集してなる二次粒子である。二次粒子は、通常のものよりも一次粒子が緩く凝集し、そのため、比較的大きな空隙14を有する。なお、図3では、一部の一次粒子12が離れて存在しているが、これは、図が断面図であるためであり、実際は図面外の部分で他の一次粒子(図示せず)と接触している。
図示例では、多孔質粒子10が占有する面積(全粒子12が占める合計面積)に対して空隙の面積の割合が1%以上となる空隙14を2つ以上有している。
また、図示例では、空隙14として、開口部14aを有しないもの、開口部14aを1つ有するもの、開口部14aを2以上有するものが存在している。
また、空隙14として、開口径hが100nm以上の空隙14aを有するものが存在している。
【0021】
このような空隙を有する多孔質粒子は、公知方法に準じて作製することができる。特に、リチウム複合酸化物の前駆体となる金属水酸化物を晶析法により製造する際の条件を調整することにより、多孔質粒子の多孔質構造を制御することができる。
【0022】
リチウム複合酸化物の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に制限はないが、例えば、0.1μm以上20μm以下であり、好ましくは0.5μm以上15μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。
なお、平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法等により求めることができる。
【0023】
本実施形態においては、多孔質粒子は、その表面にタングステン酸リチウムの被覆を備える。
タングステン酸リチウムの被覆形態については、特に制限はない。タングステン酸リチウムの被覆は、多孔質粒子を、部分的に被覆していることが好ましい。タングステン酸リチウムの被覆が粒状であり、当該粒状の被覆が多孔質粒子の表面上に点在していることがより好ましい。
【0024】
被覆を構成するタングステン酸リチウムは、リチウム(Li)とタングステン(W)とを含む複合酸化物である。タングステン酸リチウムにおいて、リチウム(Li)とタングステン(W)の原子数比には特に制限はない。タングステン酸リチウムは、例えば、LiWO、LiWO、LiWO、Li13、Li、Li、Li、Li16、Li1955、Li1030、Li1815等の組成を有し得る。
タングステン酸リチウムは、LiWO(0.3≦p≦6.0、3.0≦q≦6.0)で表される組成を有することが好ましく、LiWOで表される組成を有することが特に好ましい。
【0025】
タングステン酸リチウムの被覆量については、特に制限はない。リチウム複合酸化物に対して、被覆に含まれるタングステンの量が、0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。なお、リチウム複合酸化物に対するタングステンの量は、例えば、ICP発光分光分析により、求めることができる。
【0026】
本実施形態においては、タングステン酸リチウムの被覆が、粒状であり、この粒状の被覆の平均粒径が、多孔質粒子の空隙の開口部の平均開口径よりも小さいことが好ましい。このとき、多孔質粒子の表面にタングステン酸リチウムの被覆を形成する際に、多孔質粒子の内部にタングステン酸リチウムの被覆を顕著に形成しやすくなる。その結果、非水電解質二次電池の抵抗がより小さくなり、出力がより高くなる。
粒状の被覆の平均粒径は、例えば、上記の断面電子顕微鏡画像において被覆の直径(被覆とリチウム複合酸化物の接触部の長さ)を計測し、100個以上の被覆の直径の平均値として求めることができる。多孔質粒子の空隙の開口部の平均開口径は、例えば、上記の断面電子顕微鏡画像において空隙の開口部の開口径を計測し、100個以上の開口部の開口径の平均値として求めることができる。
【0027】
なお、タングステン酸リチウムの被覆は、公知方法に従って形成することができる。例えば、多孔質粒子と、酸化タングステンまたはタングステン酸リチウムとを、エタノール等の炭素数1~4のアルコール溶媒の存在下で混合し、当該アルコール溶媒を乾燥により除去することにより、形成することができる。原料に酸化タングステンを使用した場合でも、多孔質粒子表面のLiが酸化タングステンと反応し、タングステン酸リチウムに変換される。
【0028】
このような、タングステン酸リチウムの被覆を備え、独特の多孔質構造を有する、層状構造のリチウム複合酸化物を正極活物質に用いることにより、リチウムイオン二次電池100の抵抗を低減することができ、出力を高めることができる。
これは、次の理由によるものと考えられる。
タングステン酸リチウムの被覆は、電荷担体となるイオンの伝導を促進する。上記のような比較的大きな空隙を有する多孔質粒子は、内部にタングステン酸リチウムの被覆が形成されやすくなっている。そのため、イオン伝導促進作用のあるタングステン酸リチウムの被覆を、多孔質粒子の内表面を含めた表面に多く存在させることができ、これにより、高い抵抗低減効果が発揮される。
また、独特の多孔質構造によって、タングステン酸リチウムが被覆可能な、リチウム複合酸化物の表面積が増大しているため、被覆量を増大させることで、抵抗低減効果をいっそう高めることも可能である。
【0029】
正極活物質層54中(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する)の正極活物質の含有量は、特に制限はないが、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0030】
正極活物質層54は、本発明の効果を損なわない範囲内で、層状構造のリチウム複合酸化物以外の正極活物質をさらに含有していてもよい。
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等をさらに含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。
正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。
正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0031】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0032】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0033】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0034】
非水電解質は、典型的には、非水溶媒と支持塩とを含有する。
非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0035】
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、抵抗が小さい。よって、リチウムイオン二次電池100は、出力特性に優れる。
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0037】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示される非水電解質二次電池は、積層型電極体を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解質二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池以外の非水電解質二次電池として構成することもできる。
【0038】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0039】
〔実施例1〕
<正極活物質の作製>
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを、1:1:1のモル比で含有する原料水溶液を調製した。一方、反応容器内に、硫酸およびアンモニア水を用いてpHを調整した反応液を準備した。また、炭酸ナトリウム水溶液および炭酸アンモニウム水溶液を混合したpH調整液を準備した。
pH調整液によりpHを制御しながら、撹拌下、原料水溶液を反応液に所定の速度で添加した。所定時間経過後、晶析を終了した。晶析物を水洗後、ろ過し乾燥して、多孔質の水酸化物粒子である、前駆体粒子を得た。
得られた前駆体粒子と、炭酸リチウムとを、ニッケル、コバルトおよびマンガンの合計に対するリチウムのモル比が1:1となるように混合した。この混合物を950℃で10時間焼成することにより、多孔質粒子である、層状構造のリチウム複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を得た。
エタノールの存在下で、得られたリチウム複合酸化物に対して、粒径0.5μmのタングステン酸リチウム(LWO)を混合した。LWOの混合量は、リチウム複合酸化物に対して、LWO中のタングステンの量が0.5質量%となるようにした。この混合物から乾燥によりエタノールを除去して、正極活物質である、タングステン酸リチウムで被覆されたリチウム複合酸化物を得た。
【0040】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:AB:PVDF=94:3:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより正極シートを作製した。
また、負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを、厚さ10μmの銅箔の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより負極シートを作製した。
また、セパレータシートとして、PP/PE/PPの三層構造を有する2枚の厚さ20μmの多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
作製した正極シートと負極シートと用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートにそれぞれ電極端子を溶接により取り付け、これを、注液口を有する電池ケースに収容した。
続いて、電池ケースの注液口から非水電解液を注入し、当該注液口を気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
以上のようにして、容量5Ahの評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0041】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で作製したリチウム複合酸化物を正極活物質として用いて、実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。したがって、正極活物質は、タングステン酸リチウム(LWO)で被覆されていない。
【0042】
〔比較例2および実施例2~7〕
実施例1と同様の方法により、正極活物質を作製した。ただし、前駆体粒子の作製時に、原料水溶液の添加速度、pH、撹拌速度、および反応時間を変えることによって、前駆体粒子の多孔質構造を変化させ、多孔質構造の異なる正極活物質を得た。
この正極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0043】
〔比較例3および4〕
前駆体粒子の作製時に、アンモニウムイオンの濃度を低くし、前駆体の析出速度を大きくした以外は、実施例1と同様の方法により、大きな空隙を1つ有する中空構造の正極活物質を得た。
この正極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0044】
〔比較例5〕
前駆体粒子の作製時に、反応時間を長くした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
この正極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0045】
〔実施例8~14〕
実施例1と同様の方法により、正極活物質を作製した。ただし、前駆体粒子の作製時に、原料水溶液の添加速度、pH、撹拌速度、および反応時間を変えることによって、前駆体粒子の多孔質構造を変化させた。さらに、得られたリチウム複合酸化物に被覆を形成する際に、使用する酸化タングステンの粒子径を変更して、タングステン酸リチウムの被覆の粒径を変化させた。このようにして、正極活物質を得た。
この正極活物質を用いて、実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0046】
<正極活物質の構造評価>
上記作製した正極活物質の断面SEM画像を取得した。その断面SEM画像において、1粒子中に存在する、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上となる空隙の個数を数えた。
また、内部から表面まで連通して開口している空隙に対し、その開口径を測定し、100nm以上の開口径の開口部を有する空隙の有無を調べた。また、空隙の100個の開口部について開口径を測定し、その平均値を求めた。
また、100個の粒子について、粒子全体の面積に対する空隙部分の合計面積の割合を百分率で算出し、空隙率を求めた。その平均値を計算し、平均空隙率を求めた。
また、その100個の粒子について、空隙率が10%以上50%以下の粒子の個数を数え、その割合を求めた。
また、比較例1以外は、リチウム複合酸化物の外表面および内表面にタングステン酸リチウムの被覆が粒状に点在しているのを確認した。さらに、タングステン酸リチウムの被覆の粒径を測定した。100個の被覆について測定を行い、その平均値を求めた。
【0047】
<電池抵抗測定>
各評価用リチウムイオン二次電池に活性化処理を施した後、SOC50%の状態に調整した。次に、25℃の温度環境下で、この電池に対して100Ahのレートで10秒間の定電流放電を行い、電圧降下量を測定した。次に、かかる電圧降下量を放電電流値で除して、電池抵抗を算出した。比較例1の抵抗値を100とした場合の、その他の比較例および実施例の抵抗値の比を求めた。結果を表に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1~表3の結果より、層状構造のリチウム複合酸化物が、多孔質粒子であり、その断面視において、粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合が1%以上となる空隙を、2つ以上有し、開口径が100nm以上の空隙を有し、かつその表面にタングステン酸リチウムの被覆を備える場合に、電池抵抗が小さいことがわかる。
したがって、ここに開示される非水電解質二次電池によれば、抵抗が小さい非水電解質二次電池を提供できることがわかる。
【0052】
また、表2の結果より、多孔質粒子の平均空隙率が10%以上50%以下であり、かつ多孔質粒子において、空隙率が10%以上50%以下の粒子の割合が80%以上である場合には、電池抵抗が特に小さいことがわかる。
また、表3の結果より、タングステン酸リチウムの被覆が、粒状であり、粒状の被覆の平均粒径が、多孔質粒子の空隙の開口部の平均開口径よりも小さい場合には、電池抵抗が特に小さいことがわかる。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10 多孔質粒子
12 一次粒子
14 空隙
14a 開口部
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3