(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】唐揚げ用ミックス
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20220921BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20220921BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
(21)【出願番号】P 2019545660
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036171
(87)【国際公開番号】W WO2019065934
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2017192041
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 竜郎
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-265130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/157
A23L 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS//FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式法のレーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布累積曲線における10%径が
7~17μ
mの馬鈴薯澱粉を10質量%以上含有する
、具材にまぶして用いるブレダータイプの唐揚げ用ミックス
(ただし、打ち粉として用いるものを除く)。
【請求項2】
前記馬鈴薯澱粉の前記粒度分布累積曲線における50%径が5~35μm
、90%径が20~40μmである請求項1に記載の唐揚げ用ミックス。
【請求項3】
前記馬鈴薯澱粉が40質量%超である請求項1又は2に記載の唐揚げ用ミックス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の唐揚げ用ミックスを具材に
まぶすことで付着させ、該ミックスが付着した具材を油ちょうする工程を有する、唐揚げの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唐揚げ用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
唐揚げは、各種の食材からなる具材の表面に衣材を付着させて油ちょうすることで得られる揚げ物食品である。一般的に唐揚げの衣材は、粉末状の衣材を具材にまぶして用いるブレダータイプと、水溶きした液状の衣材を具材に絡めて用いるバッタータイプとに分類される。いずれのタイプの衣材を用いても、油ちょうによって、具材は、衣材により直接揚げ油に触れることなく加熱されてジューシーに仕上がり、衣材は、揚げ油に直接触れることで水分が蒸発してサクサクとした乾いた食感の衣となる。
【0003】
しかしながら、衣のサクサクとした好ましい食感が味わえるのは調理直後に限られ、調理後に時間が経過すると、具材の水分が衣に移行し、衣のサクサクとした食感が失われ、商品価値が低下するという問題がある。特に近年は、保温器の普及などにより、店頭などで調理済みの唐揚げが陳列して販売されることが多くなってきており、斯かる唐揚げの食感の経時劣化の問題はより深刻さを増している。このような問題点の改善のため、特許文献1には、唐揚げ用衣材に、レーザー回折型粒度分布測定における平均粒子径が20μm未満の穀粉類又は澱粉類の粉砕物を配合することが記載されている。しかしこの粉砕物は、篩を用いた分級のみでは製造が困難であり(特許文献1の〔0005〕)、その製造においては穀粉類や澱粉類に再度衝撃を与える必要があり、製造に非常に手間がかかるものであった。
【0004】
また、衣材における澱粉粒子の粒子径を特定範囲に規定した技術として、特許文献2には、フライ類の衣に十分な透明感を付与するために、実質的に粒子径が50μm以下の澱粉粒子からなる馬鈴薯澱粉を衣材に配合する技術が記載されている。しかし特許文献2記載の技術は、コロッケ、メンチカツなどの、パン粉やクラッカー粉を用いたフライ類に適用されるものであり(特許文献2の〔0026〕)、パン粉やクラッカー粉を用いない唐揚げなどに適用しても所定の効果が得られにくいとされている。また特許文献3には、馬鈴薯澱粉を主体とする唐揚げ粉において、馬鈴薯澱粉の95重量%以上を粒径20μm以上とすることで、サクミがあり、口溶けのよい唐揚げが得られることが記載されている。しかし、特許文献3記載の唐揚げ粉を用いた場合に衣の食感の改善効果が得られるのは、調理直後の唐揚げであり、調理後の時間経過による品質の低下という点では改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-265130号公報
【文献】特開2004-329093号公報
【文献】特開2000-350561号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の課題は、衣がサクサクした良好な食感を有し、しかも油ちょうしてから時間が経過してもその良好な食感を維持し得る唐揚げを製造可能な唐揚げ用ミックスを提供することである。
【0007】
本発明は、乾式法のレーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布累積曲線における10%径が20μm以下の馬鈴薯澱粉を10質量%以上含有する唐揚げ用ミックスである。
また本発明は、前記の本発明の唐揚げ用ミックスを具材に付着させ、該ミックスが付着した具材を油ちょうする工程を有する、唐揚げの製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、後述するD10、D50、D90は、乾式法のレーザー回折・散乱法により測定される馬鈴薯澱粉の体積基準の粒度分布累積曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して10%、50%、90%である粒子径を意味する。このうち、D50(50%径)は、馬鈴薯澱粉のメディアン径である。これらの粒子径は、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、マイクロトラックMT3000II)を用いて常法に従って測定することができる。
【0009】
本発明の唐揚げ用ミックスは、D10が20μm以下、好ましくは2~20μmの馬鈴薯澱粉を含有する。換言すれば、本発明の唐揚げ用ミックスに含有される馬鈴薯澱粉は、粒子径20μm以下の澱粉粒子を10体積%以上含んでおり、粒径20μm以上の澱粉粒子が95重量%以上を占める、特許文献3記載の馬鈴薯澱粉とは粒度分布が異なる。D10が斯かる特定範囲にある馬鈴薯澱粉を唐揚げ用ミックスに配合することで、製造直後のみならず製造後に時間が経過しても食感に優れる唐揚げの製造が可能となる。D10が前記特定範囲にある馬鈴薯澱粉は、例えば、市販の馬鈴薯澱粉を複数の画分に篩分けし、必要に応じ粉砕し、それら複数の画分を適宜組み合わせることで得られる。
【0010】
本発明で用いる馬鈴薯澱粉の種類は、食用に用い得る馬鈴薯(ジャガイモ)から得られるものであればよく特に限定されないが、加工澱粉を使用しない唐揚げ用ミックスに対するニーズに応える観点から、油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の加工処理が施されていない未加工馬鈴薯澱粉が好ましい。
【0011】
本発明の唐揚げ用ミックスにおいて、D10が20μm以下の馬鈴薯澱粉の含有量は、該ミックスの全質量に対して、10質量%以上であり、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。D10が前記特定範囲にある馬鈴薯澱粉の含有量が10質量%未満では、唐揚げらしい良好なサクサクとした食感が得られないおそれがある。
【0012】
また、前述した作用効果をより一層確実に奏させるようにする観点から、本発明で用いる馬鈴薯澱粉は、D10が前記特定範囲にあることに加えてさらに、D50が5~35μmであることが好ましく、10~30μmであることがさらに好ましい。通常市販されている馬鈴薯澱粉は、D50が40μm付近であり、本発明で用いる馬鈴薯澱粉よりも粒が大きい。つまり、馬鈴薯澱粉の粒度分布が特定のものになるように意図的に調整しない限りは、馬鈴薯澱粉のD50は、それに含まれる澱粉粒子の大きさや性状などから、必然的に40μm付近になると考えられる。
【0013】
同様の観点から、本発明で用いる馬鈴薯澱粉は、D10が前記特定範囲にあることに加えてさらに、D90が20~40μmであることが好ましく、25~35μmであることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の唐揚げ用ミックスは、馬鈴薯澱粉に加えてさらに、膨張剤を含有してもよい。唐揚げ用ミックスに膨張剤が含有されていると、該ミックスを用いて得られる唐揚げにおいて、衣のボリュームやサクサク感が一層向上し得る。膨張剤としては、重曹、及びベーキングパウダーやイスパタ等の重曹を含む公知の膨張剤を使用することができる。本発明の唐揚げ用ミックスにおける膨張剤の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは0.3~3質量%、さらに好ましくは0.7~2質量%である。
【0015】
本発明の唐揚げ用ミックスは、馬鈴薯澱粉及び膨張剤以外の他の成分を含有してもよく、例えば、小麦粉、米粉等の穀粉;馬鈴薯澱粉以外の澱粉;全卵粉、卵白粉等の卵粉;増粘剤;食塩、粉末醤油、発酵調味料、粉末味噌、アミノ酸等の調味料;香辛料;香料;ビタミン等の栄養成分;着色料;粉末油脂等が挙げられ、所望する唐揚げの特性に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら他の成分の含有量は、唐揚げ用ミックスの全質量に対して、好ましくは15~60質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。
【0016】
本発明の唐揚げ用ミックスは、唐揚げの製造に使用される。唐揚げの製造方法は、典型的には、唐揚げ用ミックスを具材に付着させ、該ミックスが付着した具材を油ちょうする工程を有する。唐揚げ用ミックスを付着させた具材の油ちょうは、常法に従って行うことができ、加熱温度(油温)、加熱時間等は具材の種類や大きさ等に応じて適宜設定すればよい。
【0017】
また、唐揚げ用ミックスを具材に付着させる方法は特に限定されず、該ミックスを具材にまぶす方法でもよく、該ミックスから調製したバッターを具材に付着させる方法でもよい。前記の「まぶす」とは、具材の表面に粉体である唐揚げ用ミックスをそのまま付着させる操作であり、具体的には例えば、1)具材の上方からミックスを振り掛ける操作、2)ミックス及び具材を袋の中に投入し、該袋の開口部を閉じた状態で振盪する操作、3)皿等に比較的広い範囲でミックスを散布し、散布されたミックス上で具材を転がす操作、等が挙げられる。また、前記の「バッター」とは、唐揚げ用ミックスと水性液体とを混合して調製される液体状の衣材であり、これに具材を浸漬したり噴霧したりして、具材に付着させることができる。ミックス付着作業の簡便性を特に重視する場合は、まぶす方法が好ましく、唐揚げの食感及び製造後の保管性を特に重視する場合は、バッターを用いる方法が好ましい。
【0018】
唐揚げの具材としては、例えば、鶏、豚、牛、羊、ヤギなどの畜肉類;魚介類;野菜類などの種々のものを使用することができる。本発明は特に、具材として肉類や魚介類を使用する場合に好適である。具材には下味をつけてもよく、その場合は通常、唐揚げ用ミックスを付着させる前に具材に下味をつけておく。具材の下味付け方法は特に制限されず、従来公知の方法を利用することができる。具材の下味付けは例えば、食塩、醤油、発酵調味料、ショウガ、ニンニク、糖類、味噌、アミノ酸、増粘多糖類等を水等の液体に溶かして調味液を得、該調味液中に具材を漬け込む等して、具材に該調味液を付着させた後、具材の余分な水分を除去することにより実施できる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例1、6は参考例である。
【0020】
〔実施例1~6及び10~15並びに比較例1~3〕
市販の未加工馬鈴薯澱粉(北海道産馬鈴薯澱粉)を、JIS試験篩を用いて複数の画分に篩分けし、それら複数の画分を適宜組み合わせて、D10、D50、D90がそれぞれ特定範囲にある馬鈴薯澱粉を製造し、これをそのまま唐揚げ用ミックスとした。尚、比較例3では、市販の未加工馬鈴薯澱粉を篩分けせずにそのまま唐揚げ用ミックスとして用いた。
【0021】
〔実施例7~9及び比較例4~5〕
実施例3で用いた馬鈴薯澱粉と薄力粉とを適宜混合して実施例7~11の唐揚げ用ミックスとした。また、比較例3で用いた馬鈴薯澱粉と薄力粉とを適宜混合して比較例4~5の唐揚げ用ミックスとした。
【0022】
〔試験例〕
鶏もも肉を1個20gとなるよう切り分けて具材とし、この具材に試験対象のミックスを、肉100gあたり付着量が8gになるよう、振り掛けて付着させた。ミックスが付着した鶏もも肉を、170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうして、唐揚げを製造した。製造直後に粗熱を取った状態の唐揚げ、及び製造後に室温(約25℃)にて6時間放置後の唐揚げについて、衣の食感を10名の専門パネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。それらの評価結果を、10名の専門パネラーの平均点として下記表1~3に示す。
【0023】
(食感の評価基準)
5点:全体にサクサクとした軽い食感が強く、極めて良好。
4点:全体にサクサクとした軽い食感があり、良好。
3点:部分的にサクサクとした食感があり、やや良好。
2点:一部にサクサクがあるが、やや硬いか又はややベタついており、やや不良。
1点:サクサク感がなく、硬すぎるか又はベタつきが大きく、不良。
【0024】
【0025】
表1に示す通り、各実施例のミックスは、含有されている馬鈴薯澱粉のD10が20μm以下の範囲にあるため、D10が斯かる範囲に無い各比較例に比して、製造直後及び製造後6時間経過後のいずれにおいても唐揚げの食感に優れていた。
【0026】
【0027】
表2において、実施例7~9と比較例3~4との対比から明らかなように、D10が20μm以下の範囲にある馬鈴薯澱粉を使用していれば、ミックスが馬鈴薯澱粉のみから構成されていなくても、食感が良好な唐揚げが得られることがわかる。
【0028】
【0029】
表3において、実施例10と実施例11、12及び1との対比、並びに実施例4、13及び14と実施例15との対比から、馬鈴薯澱粉のD50は5~35μm程度が好ましいことがわかる。また、実施例10及び11と実施例12及び1との対比、並びに実施例4及び13と実施例14及び15との対比から、馬鈴薯澱粉のD90は20~40μm程度が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、衣がサクサクした良好な食感を有し、しかも油ちょうしてから時間が経過してもその良好な食感を維持し得る唐揚げをつくることができる。