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特許7144522電池の負極に使用するための複合粉体及びかかる複合粉体を含む電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】電池の負極に使用するための複合粉体及びかかる複合粉体を含む電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220921BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220921BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/62 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020538993
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2018086498
(87)【国際公開番号】W WO2019137797
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】18151683.2
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/067571
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ステイン・ピュット
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブリデル
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0037681(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03133690(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極に使用するための複合粉体であって、前記複合粉体は、複合粒子を含み、前記複合粒子は、マトリックス材料及びケイ素を含み、前記複合粒子は、d10及びd90を有する体積粒径分布を有し、d10~d90のサイズ範囲の少なくとも一部にわたって、前記複合粒子は、サイズ依存性のケイ素含有量を有し、前記粒径と前記ケイ素含有量との間に正の相関を有することを特徴とし、前記複合粉体の微細フラクションは、平均粒径D1及びケイ素含有量S1を有し、前記複合粉体の粗フラクションは、平均粒径D2及びケイ素含有量S2を有し、D2>D1であり、両方のフラクションは前記複合粉体を篩い分けすることによって得られ、サイズ依存性係数Fが、F=(S2-S1)/(D2-D1)として定義され、前記サイズ依存性係数Fの値は、少なくとも0.04重量%ケイ素/μmであり、D1は、レーザー回折によって測定される前記微細フラクションの前記体積粒径分布のd50値として定義され、D2は、レーザー回折によって測定される前記粗フラクションの前記体積粒径分布のd50値として定義される、複合粉体。
【請求項2】
S1及びS2が、蛍光X線法によって測定されるものである、請求項1に記載の複合粉体。
【請求項3】
前記マトリックス材料が、炭素系マトリックス材料である、請求項1又は2に記載の複合粉体。
【請求項4】
前記複合粉体が、フラクション中にケイ素及び酸素以外少なくとも50重量%の炭素含有量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項5】
前記サイズ依存性係数Fの値が、少なくとも0.15重量%ケイ素/μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項6】
前記サイズ依存性係数Fの値が、少なくとも0.30重量%ケイ素/μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項7】
前記複合粉体が、平均ケイ素含有量Aを有し、5.0重量%<A<60重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項8】
7.5重量%<A<50重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項9】
前記複合粉体が重量%として表される酸素含有量及び平均ケイ素含有量Aを有し、重量%で表される前記酸素含有量がAの33%未満であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項10】
前記複合粉体が、10m/g未満のBET値を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項11】
前記複合粉体が、少なくとも90重量%の前記複合粒子を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項12】
前記複合粉体が、グラファイトも含有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項13】
前記ケイ素がケイ素系粒子として存在し、前記ケイ素系粒子が前記マトリックス材料中に埋め込まれている、請求項1~12のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項14】
前記ケイ素系粒子が少なくとも70重量%のケイ素を有する化学組成を有する、請求項13に記載の複合粉体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の複合粉体を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の負極に使用するための複合粉体及びかかる複合粉体を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、現在、最も高性能の電池であり、既に携帯型電子デバイスの標準となっている。加えて、これらの電池は、既に自動車及び蓄電などの他の産業において浸透しかつ急激に普及している。かかる電池の実現可能な利点は、良好な電力性能と組み合された高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は、典型的には、いくつかのいわゆるLiイオンセルを含み、そのセルは、カソードとも称される正極と、アノードとも称される負極と、セパレータとを含み、それらは電解質に浸漬されている。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、カソードにリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物のような電気化学的に活性な材料を使用し、アノードに天然又は人工のグラファイトを使用して、開発されている。
【0004】
電池の性能、特に、電池のエネルギー密度に影響を与える重要な制限要因のうちの1つは、アノード中の活物質であることが知られている。したがって、エネルギー密度を改善するために、ケイ素を用いる電気化学的に活性な材料が、過去数年にわたって調査されてきた。
【0005】
アノードにケイ素系の電気化学的に活性な材料を使用する1つの欠点は、充電中のその大きな体積膨張であり、例えば、合金化又は挿入によって、リチウムイオンが、アノードの活物質中に完全に組み込まれるとき(しばしばリチウム化と称されるプロセス)、体積膨張は300%と高い。Li組み込み中のケイ素系材料の大きな体積膨張によって、ケイ素中に応力が誘発されることがあり、それによりケイ素材料の機械的な劣化が生じる場合がある。
【0006】
Liイオン電池の充電及び放電中に周期的に繰り返されることで、電気化学的に活性なケイ素材料の繰り返される機械的な劣化により、電池の寿命は、許容できないレベルにまで低下し得る。
【0007】
体積変化を適合させるために、複合粒子が通常使用される。これらの複合粒子において、ケイ素粒子は、マトリックス材料と、通常は炭素系材料と、混合される。
【0008】
更に、ケイ素と関連のある悪影響は、厚いSEI、すなわち固体電解質界面が、アノード上に形成され得ることである。SEIは、電解質とリチウムの複合反応生成物であり、したがって、電気化学反応のためのリチウムの利用可能性が失われるため、サイクル性能が悪化し、充電-放電サイクルあたりの容量が失われる。更に、厚いSEIは、電池の電気抵抗を大きくしてしまうことがあり、それによって、達成可能な充電及び放電の速度が制限されることがある。
【0009】
原則として、SEI形成は、「不動態化層」がケイ素表面上に形成されるとすぐに停止する自己終結プロセスである。しかしながら、ケイ素の体積膨張のため、充電(リチウム化)及び放電(脱リチウム化)の間にケイ素とSEIの両方が損傷を受ける場合があり、それによって、新しいケイ素表面があらわになり、新たなSEI形成が始まる場合がある。
【0010】
当該技術分野において、上記リチウム化/脱リチウム化機構は、一般的にいわゆるクーロン効率によって定量化され、またクーロン効率は、充電中に使用されたエネルギーに対する、放電中に電池から除去されたエネルギーの比率(充電-放電サイクルに対する%)として定義される。したがって、ケイ素系アノード材料に関する研究のほとんどは、当該クーロン効率の改善に重点が置かれている。
【0011】
多くのサイクルにわたる100%クーロン効率からの偏差の蓄積により、電池の有効寿命が決定される。したがって、簡単に言えば、99.9%のクーロン効率を有するアノードは、99.8%のクーロン効率を有するアノードの2倍良好である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電池の負極に使用するための複合粉体に関し、その複合粉体は、複合粒子を含み、その複合粒子は、マトリックス材料及びケイ素を含み、その複合粒子は、d10及びd90を有する粒径分布を有し、d10~d90のサイズ範囲の少なくとも一部にわたって、その複合粒子は、サイズ依存性のケイ素含有量を有する。
【0013】
これは、任意のタイプの粒径分布、例えば、体積ベース、個数ベース又は重量ベースの粒径分布であり得るが、好ましくは体積ベースの粒径分布であり、好ましくはレーザー回折によって測定される。更に説明しなくても、当業者は、かかる粒径分布も自然にd50を有することを理解するであろう。
【0014】
かかる複合粉体は、特にクーロン効率の点で、複合粒子が、それらのサイズにかかわらず、同じケイ素含有量を含有する従来の粉体と比較して、電池において優れた性能を付与することが見出された。
【0015】
理論に束縛されるものではないが、これは、より小さい複合粒子において、ケイ素の比較的により大きな部分が、複合粒子の表面に近いという事実によって説明され得る。これにより、露出したケイ素粒子の表面でより多くの電解質が分解するため、より多くのSEIが形成され、それにより、不可逆的にリチウムが消費され、クーロン効率が低下する。
【0016】
好ましくは、d10~d90のサイズ範囲の少なくとも一部にわたって、複合粒子は、粒径とケイ素含有量との間に正の相関を有するサイズ依存性のケイ素含有量を有する。疑義を避けるために、正の相関とは、平均して大きい粒子が、より小さい粒子よりも高いケイ素含有量を有することを意味している。
【0017】
好ましい実施形態では、サイズ範囲d10~d90内において、複合粉体のより微細なフラクションは、平均粒径D1及びケイ素含有量S1を有し、複合粉体のより粗いフラクションは、平均粒径D2及びケイ素含有量S2を有し、サイズ依存性係数Fは、以下のようにF=(S2-S1)/(D2-D1)として定義され、それによりサイズ依存性係数Fの値は正である。疑義を避けるために、D2>D1であることが理解されるべきである。
【0018】
S1及びS2は重量%で表され、D1及びD2はμmで表される。
【0019】
好ましくは、サイズ依存性係数Fの値は、少なくとも0.04重量%ケイ素/μmである。
【0020】
好ましくは、D1及びD2は互いに同じ手段で測定され、S1及びS2は互いに同じ手段で測定される。
【0021】
あるいは、本発明は、電池の負極に使用するための複合粉体として定義することができ、その複合粉体は、複合粒子を含み、その複合粒子は、マトリックス材料及びケイ素を含み、複合粒子は、d10、d50及びd90を有する粒径分布を有し、サイズ範囲d10~d90内において、複合粉体の微細フラクションは、平均粒径D1及びケイ素含有量S1を有し、複合粉体の粗フラクションは、平均粒径D2及びケイ素含有量S2を有し、複合粉体は平均ケイ素含有量Aを有し、サイズ依存性係数Gは、G=((S2-S1)/A)/((D2-D1)/d50)として定義され、Gは0とは異なる。
【0022】
疑義を避けるために、D2>D1であることが理解されるべきである。
【0023】
好ましい実施形態では、S1、S2及びAは、同じ方法を使用して測定され、D1、D2及びd50は、同じ方法を使用して測定される。
【0024】
好ましい実施形態では、サイズ依存性係数Gは、0より大きく、好ましくはサイズ依存性係数Gは、少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.10、更により好ましくは少なくとも0.15である。
【0025】
サイズ依存性係数Fの代わりにサイズ依存性係数Gを使用する利点は、系統的測定誤差が相殺される点にある。
【0026】
上述のF又はGの最小値は、ケイ素含有量のサイズ依存性が有意な効果を有するのに十分に大きいことを保証する。しかしながら、サイズ依存性係数F又はGの値がより低いほど、規模はより小さくなるが、正の効果を有すると予想されることにも留意すべきである。
【0027】
平均粒径は、粒子技術における任意の確立された方法に従って求めることができる。実際には、レーザー回折によって測定される場合、体積ベースの粒径分布の粉体のd50値は、平均粒径であると考えられることが多い。また、本明細書において、平均粒径はこのように定義され、後述する実験では、測定されたd50値は平均粒径であると考えられる。
【0028】
あるいは、本発明は、電池の負極に使用するための複合粉体として定義することができ、その複合粉体は、複合粒子を含み、その複合粒子は、マトリックス材料及びケイ素を含み、その複合粉体は、ある範囲のサイズの複合粒子を含み、第1のサイズD1の複合粒子は、第2のサイズD2の複合粒子とは異なる平均ケイ素含有量を有し、D2>D1であり、好ましい実施形態では、第1のサイズD1の複合粒子は、平均ケイ素含有量S1を有し、第2のサイズD2の複合粒子は、平均ケイ素含有量S2を有し、サイズ依存性係数Fは、次のようにF=(S2-S1)/(D2-D1)として定義され、サイズ依存性係数Fの絶対値は、少なくとも0.04重量%ケイ素/μmである。
【0029】
サイズ依存性係数F及びGの計算の実例として、7.5μmの平均粒径D1を有する5μm~10μmの微細粒群(fine size fraction)を有し、22.5μmの平均粒径D2を有する20μm~25μmの粗粒群(coarse size fraction)を有する、15重量%の平均ケイ素含有量A及び16μmの平均粒径の複合粉体を採用する。この実例では、微細粒群は、10重量%のケイ素含有量S1を有し、粗粒群は、18重量%のケイ素含有量S2を有する。
【0030】
この実例におけるサイズ依存性係数Fは、(18-10)/(22.5-7.5)=8重量%ケイ素/15μm=0.53重量%ケイ素/μmの数値を有する。
【0031】
この実例におけるサイズ依存性係数Gは、((18-10)/15)/((22.5-7.5)/16)=0.533/0.9372=0.569の数値を有し、無次元である。
【0032】
好ましくは、D1及びD2及びd50は、レーザー回折によって測定され、D1は、微細フラクションの体積粒径分布のd50値として定義され、D2は、粗フラクションの体積粒径分布のd50値として定義される。
【0033】
好ましくは、S1及びS2及びAは、蛍光X線法によって測定される。
【0034】
好ましい実施形態では、複合粒子は、平均粒径を有し、粗フラクションは、当該平均粒径よりも大きいサイズを有する複合粒子によって形成され、微細フラクションは、当該平均粒径よりも小さいサイズを有する複合粒子によって形成され、好ましくは、その複合粒子は、d50を有する体積粒径分布を有し、平均粒径は、当該d50であると定義される。
【0035】
好ましい実施形態では:
複合粒子は、d10及びd50を有する粒径分布を有し、d10~d50のサイズ範囲の少なくとも一部にわたって、複合粒子は、粒径とケイ素含有量との間に正の相関を有するサイズ依存性のケイ素含有量を有し、かつ/又は
複合粒子は、d50及びd90を有する粒径分布を有し、d50~d90のサイズ範囲の少なくとも一部にわたって、複合粒子は、粒径とケイ素含有量との間に正の相関を有するサイズ依存性のケイ素含有量を有し、かつ/又は
複合粒子は、d50、d25及びd75を有する粒径分布を有し、d25~d50のサイズ範囲にわたって、及び/又はd50~d75のサイズ範囲にわたって、複合粒子は、粒径とケイ素含有量との間に正の相関を有するサイズ依存性のケイ素含有量を有し、かつ/又は
複合粒子は、d10及びd90を有する粒径分布を有し、d10~d90のサイズ範囲にわたって、複合粒子は、粒径とケイ素含有量との間に正の相関を有するサイズ依存性のケイ素含有量を有し、かつ/又は
D2>D1、かつ/又は
D2/D1>1.1、好ましくはD2/D1>1.4、より好ましくはD2/D1>1.8であり、かつ/又は
複合粒子は、d50を有する粒径分布を有し、D2は、d50より大きく、D1は、d50より小さく、かつ/又は
複合粒子は、d25及びd75を有する粒径分布を有し、D1は、d25より小さく、D2は、d75より大きく、
サイズ依存性係数Fは、正の値を有し、かつ/又は
d10~d90のサイズ範囲の当該一部又は当該(D2-D1)は、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも3μm、より好ましくは少なくとも5μm、最も好ましくは少なくとも7μmであり、かつ/又は
d10~d90のサイズ範囲の当該一部又は当該(D2-D1)は、d10~d90のサイズ範囲の少なくとも5%、好ましくはd10~d90のサイズ範囲の少なくとも10%、より好ましくはd10~d90のサイズ範囲の少なくとも20%、最も好ましくはd10~d90のサイズ範囲の少なくとも少なくとも30%である。
【0036】
好ましくは、複合粉体は、ケイ素及び酸素以外の重量分率を有し、ケイ素及び酸素以外のこの重量分率中の炭素含有量は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%である。換言すれば、これは、ケイ素及び酸素を考慮しないとき、複合粉体が、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%の炭素含有量を有することを意味する。
【0037】
好ましい実施形態では、サイズ依存性係数Fの絶対値は、少なくとも0.08重量%ケイ素/μmである。より好ましくは、サイズ依存性係数Fの絶対値は、少なくとも0.15重量%ケイ素/μmであり、最も好ましくは、サイズ依存性係数Fの絶対値は、少なくとも0.30重量%ケイ素/μmである。
【0038】
サイズ依存性係数Fの値を増加させると、効果が増す。
【0039】
好ましくは、複合粒子は、d50を有する粒径分布を有し、2μm<d50<30μmである。
【0040】
好ましくは、複合粒子は、d10を有する粒径分布を有し、1μm<d10<10μmである。
【0041】
好ましくは、複合粒子は、d90を有する粒径分布を有し、5μm<d90<50μmである。
【0042】
好ましい実施形態では、複合粉体は、平均ケイ素含有量Aを有し、A>5.0重量%であり、好ましくはA>7.5重量%である。
【0043】
好ましい実施形態では、複合粉体は、平均ケイ素含有量Aを有し、A<60.0重量%であり、好ましくはA<50.0重量%である。
【0044】
この技術分野に精通している当業者には明らかなように、ケイ素系粒子は、マトリックス材料に埋め込まれ、そのマトリックス材料は、ケイ素系粒子又はケイ素系粒子の群を、他のケイ素系粒子又はケイ素系粒子の群から分離し、そのマトリックス材料は、好ましくは、ケイ素系粒子の大部分を完全に取り囲む。
【0045】
マトリックス材料は、連続相又は粒子状材料であってもよいが、好ましくは連続相である。
【0046】
複合粉体の好ましい実施形態では、当該マトリックス材料は、炭素系マトリックス材料であり、より好ましくはピッチ又は熱分解ピッチである。複合粉体の好ましい実施形態では、複合粉体は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%の当該複合粒子を含む。
【0047】
あるいは、マトリックス材料は、金属であってもケイ素と異なっていてもよく、又は金属酸化物若しくはケイ素酸化物であってもよい。
【0048】
好ましくは、ケイ素は、ケイ素系粒子として複合粉体中に存在し、そのケイ素系粒子は、マトリックス材料中に埋め込まれる。
【0049】
好ましくは、複合粉体は、グラファイトも含有する。この場合、複合粉体の粒子は、グラファイトの粒子及びそれらの中に埋め込まれたケイ素系粒子を有するマトリックス材料の粒子を含む。この場合、グラファイト粒子及びマトリックス材料の粒子は、一緒にランダムに結合して、複合粉体の粒子を形成する。
【0050】
本明細書では、グラファイトは、マトリックス材料とは異なり、マトリックス材料中に封入されない。これにより、複合粉体の導電性が最適化され得る。
【0051】
ケイ素系粒子は、任意の形状、例えば、実質的に球状であるが、不規則な形状、棒状、板状なども有し得る。
【0052】
明確にするために、ケイ素系粒子は、通常はナノサイズであり、150nm未満である個数基準の平均直径d50を有することに注目されたい。
【0053】
好ましい実施形態では、ケイ素系粒子は、少なくとも70重量%のケイ素を有する、好ましくは少なくとも80重量%のケイ素を有する化学組成を有し、好ましくは、ケイ素系粒子は、Si及びO以外の他の元素を含まない。
【0054】
好ましい実施形態では、ケイ素系粒子は、d50を有する個数基準の粒径分布を有し、そのケイ素系粒子の粒径は、当該粒子の最大直線寸法であると考えられ、8.0%未満のケイ素系粒子は、d50の2倍を超える粒径を有する。
【0055】
本発明の利点は、より高いクーロン効率を有するアノードの調製を可能にする点にある。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、これは、使用中の繰り返される膨張及び収縮中の機械的応力に起因して、より大きなケイ素粒子は、より破損しやすく、それによって、連続的なSEI形成に不均衡に寄与するという事実と関連があり得ると推測している。したがって、平均サイズの2倍よりも大きいとして定義される大きなケイ素粒子がほぼ存在しないことは、有益である。
【0056】
更に、より大きなケイ素粒子へのリチウムの組み込み、特にこれらの中心への組み込みは、これが拡散制限プロセスであるため、比較的遅い。結果として、より大きなケイ素粒子は、達成され得る充放電速度の制限に関連すると疑われるため、それらがほぼ存在しないことは、高い充放電速度での容量を改善するのにも有用である。
【0057】
上述の利点をより高い程度で得るために、好ましくは、6.0%未満のケイ素系粒子は、d50の2倍より大きい粒径を有し、より好ましくは、4.0%未満のケイ素系粒子は、d50の2倍より大きい粒径を有し、更により好ましくは、2.0%未満のケイ素系粒子は、d50の2倍より大きい粒径を有する。
【0058】
ケイ素系粒子は、顕微鏡技術、特にSEM及び場合によってはTEMによって観察することができ、それらの最大直線寸法、換言すれば、本明細書で使用されるそれらのサイズは、自動画像分析によって求めることができる。粒子の最大直線寸法は、粒子の周囲における2点間の最大の測定可能な直線距離である。
【0059】
明確にするために、言及した百分率は、これらの粒子が表す重量ではなく、d50値の2倍よりも大きいケイ素系粒子の個数に関係があることに注目されたい。
【0060】
好ましい実施形態では、ケイ素系粒子の粒径分布は、d10を有し、(d50-d10)/d50<0.60であり、好ましくは(d50-d10)/d50<0.50である。
【0061】
これにより、粉体の調製中及び/又は使用中に極めて容易に高度に酸化され、それによって粉体の酸素含有量が増加する、非常に微細なケイ素系粒子の量が制限される。酸素含有量は、2倍の負の効果を有する。第1に、粉体の重量は、酸化によって増加し、結果として電池の重量も増加し、第2に、酸化されたケイ素は、リチウムの不可逆的消費、したがって高い初期不可逆容量をもたらす。
【0062】
好ましくは、ケイ素系粒子の粒径分布は、d10を有し、d10>10nm、好ましくは、d10>20nmである。
【0063】
複合粒子が、これらの複合粒子で製造される電池の体積容量を最大化するために、可能な限り低い多孔率を有することは、当業者には明らかであろう。しかしながら、わずかな量の多孔性は許容可能である。したがって、好ましい実施形態では、複合粒子は、20体積%未満、好ましくは10%体積%未満の多孔率を有する。かかる多孔率は、当該技術分野において既知の任意の一般的な方法によって、例えば、SEMを使用する目視観察によって、又はヘリウム比重測定法によって、求めることができる。
【0064】
本発明は更に、上で定義した複合粉体の変異体のいずれかを含む電池に関し、好ましくは、その電池は、負極を有し、その複合粉体は、負極に存在する。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明をより良好に説明するために、以下の実験結果を提示する。
【0066】
使用した分析方法:
酸素含有量の決定
実施例及び比較例中の粉体の酸素含有量を、Leco TC600酸素-窒素分析装置を用い、以下の方法によって測定した。粉体の試料を閉じたスズ製カプセルの中に入れ、これをニッケル製バスケットの中に置いた。そのバスケットをグラファイト製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム下で、2000℃超まで加熱した。それにより試料は、溶融し、るつぼからのグラファイトと酸素が反応して、CO気体又はCO気体になる。これらの気体を赤外測定セルの中に導く。観察されたシグナルを再計算し酸素含有量を得る。
【0067】
酸素含有量の決定
複合粉体中のケイ素含有量を、エネルギー分散分光計を使用して蛍光X線法により測定した。この方法の実験におけるSiのランダム誤差は、+/-0.3重量%である。
【0068】
電気化学的性能の決定
評価する複合粉体を、45μmの篩を使用して篩い分し、水中でカーボンブラック、カーボン繊維及びカルボキシメチルセルロースナトリウムバインダー(2.5重量%)と混合した。使用した比率は、複合粉体89重量部/カーボンブラック1重量部/炭素繊維2重量部及びカルボキシメチルセルロース(CMC)8重量部であった。
【0069】
これらの成分を、250rpmで30分間、Pulverisette7遊星ボールミル中で混合した。
【0070】
エタノールで洗浄した銅箔を集電体として使用した。その混合成分の厚さ200μmの層を、銅箔上にコーティングした。そのコーティングを、70℃の真空下で45分間乾燥させた。コーティングされ、乾燥させた銅箔から1.27cmの円板を打ち抜き、対向電極としてリチウム金属を使用しているコインセルにおいて、電極として使用した。電解質は、EC/DEC 1/1+2%VC +10%FEC溶媒中に溶解させた1MのLiPF6であった。すべての試料を、高精度のコインセルテスター(Maccor 4000シリーズ)で試験した。
【0071】
繰り返し充放電サイクルのクーロン効率を0.5℃で求めた。5サイクル目と50サイクル目との間のサイクルの平均クーロン効率を報告する。
【0072】
当業者であれば、電池が持続すると期待される数百又は数千サイクルの充電-放電サイクルにわたって生じるサイクルあたりのクーロン効率の小さな差は、顕著に累積的な効果を有することに気づくであろう。
【0073】
ケイ素系粒子の粒径の決定
SEMに基づく手順に従ってケイ素系粒子の粒径を測定するために、500mgの活物質粉体を、4部のエポキシ樹脂(20-3430-128)と1部のエポキシ硬化剤(20-3432-032)との混合物からなる樹脂(Buehler EpoxiCure 2)7g中に埋め込む。得られた直径1インチの試料を、少なくとも8時間乾燥させる。次いで、それを、最大5mmの厚さに達するまでStruers Tegramin-30を使用して最初に機械的に研磨し、次いで、6kVで約6時間、イオンビーム研磨(Cross Section Polisher Jeol SM-09010)によって更に研磨して、研磨面を得る。最後に、この研磨面上に、12秒間、Cressington 208カーボンコーターを使用してカーボンスパッタリングすることによって、カーボンコーティングを適用して、SEMで分析されることになる試料を得る。
【0074】
TEMに基づく手順に従ってケイ素系粒子の粒径を測定するために、10mgの活物質粉体を、集束イオンビーム走査電極顕微鏡(FIB-SEM)装置に入れる。白金層を、活物質粉体の表面の上部に堆積させる。FIBを使用して活物質粉体のラメラを抽出し、得られたラメラの例を図2(左)に示す。このラメラを、TEM試料ホルダー上に更に配置し、以下に記載した手順に従って分析する。
1.断面のSEM又はTEM画像を取得する。
2.コントラスト及び輝度設定を、ケイ素粒子を容易に可視化するために調整する。
3.別のケイ素系粒子と重なり合わない、少なくとも1000個の単一ケイ素系粒子を、SEM又はTEM画像から、好適な画像解析ソフトウェアを使用して、選択する。これらのケイ素系粒子は、1つ以上のケイ素系活物質粒子から選択することができる。
4.ケイ素粒子の最大サイズdmaxは、ケイ素系粒子の断面の周囲の2つの最も離れている点間の直線距離を測定することによって、求める。
5.dmaxは、粒径分布を求めることができるように、それらの少なくとも1000個の粒子のそれぞれについて測定する。
【0075】
複合粉体の粒径の決定
複合粉体の粒径分布は、Malvern Mastersizer 2000でのレーザー回折によって求めた。下記の測定条件を選択した:
圧縮レンジ、活性ビーム長2.4mm、測定レンジ:300RF、0.01~900μm。
【0076】
製造者の説明書に従って、試料の調製及び測定を行った。
【0077】
d10、d50及びd90値を規定する、複合粉体の体積ベースの粒径分布を、この手段で求めた。
【0078】
反例及び実施例の実験的調製
本発明によらない反例1
プラズマガスとしてアルゴンを使用して60kW無線周波数(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用することによって、ケイ素ナノ粉体を得て、それに対して、マイクロメートルサイズのケイ素粉体前駆体を約50g/時の速度で注入し、2000Kを超える優勢な(すなわち、反応ゾーンにおける)温度を得た。この第1のプロセス工程において、前駆体は、完全に気化した。第2のプロセス工程において、気体の温度を1600K未満まで下げるために、18Nm/時のアルゴン流を、反応ゾーンのすぐ下流でクエンチガスとして使用し、核生成させて金属性でサブミクロンのケイ素粉体とした。最後に、1モル%の酸素を含有するN2/O2混合物を100L/時で加えることによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行った。
【0079】
得られたケイ素ナノ粉体の酸素含有量を測定した。8.7重量%であった。
【0080】
ケイ素ナノ粉体の粒径分布は、d10=43nm、d50=86nm、d90=128nm、d95=139nm、d99=177nmであると求められた。d50の2倍より大きい粒子の割合は1.4%であった。
【0081】
複合粉体を製造するために、16gの上述のケイ素ナノ粉体と32gの石油系ピッチ粉体とのブレンドを作製した。
【0082】
それを、N2下で450℃まで加熱し、その結果、ピッチが溶融し、60分間の待ち時間の後、1000rpmで作動するCowles溶解器型ミキサーによって、高剪断下で30分間混合した。
【0083】
このようにして得られたピッチ中のケイ素ナノ粉体の混合物を、N下で室温まで冷却し、固化したら、粉砕し、400メッシュの篩で篩分けし、中間複合粉体を製造した。
【0084】
中間複合粉体16gを、グラファイト24.6gとローラーベンチで3時間混合した後、得られた混合物をミルに通して解凝集させた。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイトはピッチ中には埋め込まれない。
【0085】
シリコンと、ピッチと、グラファイトとの得られた混合物に、以下のように熱後処理を施した:すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃に加熱し、その温度で2時間保持し、次いで冷却した。このすべてを、アルゴン雰囲気中で行った。
【0086】
焼成した生成物を、アルミナボールを使用して200rpmで1時間ボールミルし、40マイクロメートルの篩で篩分けして、最終複合粉体を形成させ、更に、それを複合粉体CE1と称した。
【0087】
複合粉体CE1中の総Si含有量は、+/-0.3重量%の実験誤差を有するXRFによって14.7重量%と測定された。これは、加熱時のピッチの重量損失約40重量%及び他の成分の加熱時のわずかな重量損失に基づいて計算された値に対応している。複合粉体CE1の粒径分布を測定し、表1に報告する。複合粉体CE1の酸素含有量は、1.8重量%と測定された。
【0088】
複合粉体CE1の試料を、8μm、10μm、12μm、15μm、20μm、25μm、30μm、及び40μmの篩で篩分けした。様々な粒群の粒径分布並びにケイ素及び酸素含有量を求め、表1に報告する。
【0089】
篩分けされた粒群は、それ以上は使用されなかった。複合粉体CE1について、更なる実験を行った。
【0090】
【表1】
【0091】
記載のように、ケイ素含有量の測定の実験誤差は0.3%であった。したがって、実験誤差マージン内では、様々な粒群のケイ素含有量は同じであり、ケイ素含有量のサイズ依存性はなく、換言すれば、サイズ依存性係数F及びGは0であることを認めることができる。
【0092】
本発明による実施例1
本発明による複合粉体を製造するために、8つの別個の複合粉体を、反例1と同様に製造した。これらの8つの複合粉体は、ケイ素含有量が異なるという点で、複合粉体CE1と異なる。これは、前述の中間複合粉体とグラファイトとの比率を適合させることによって行った。
【0093】
8.2重量%、9.8重量%、11.4重量%、13.3重量%、14.9重量%、16.1重量%、18.2重量%及び20.1重量%のケイ素含有量を有する複合粉体を製造した。
【0094】
これらの複合粉体のそれぞれは、8つの複合粉体のそれぞれに対して8つのサイズ範囲が得られるように、CE1に関して言及したように篩で篩分けされ、その結果として、合計64の異なる粉体が得られた。
【0095】
次いで、表2に詳述のように、これらの64の異なる粉体のうちのいくつかから混合物を作製して、複合粉体CE1と同じケイ素含有量14.7重量%を有し、かつ1.9重量%の酸素を有する複合粉体E1を得た。
【0096】
【表2】
【0097】
複合粉体E1の粒径分布及び使用される粒群の粒径分布を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
一例として、E1の最も粗いフラクション及び最も微細なフラクションに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第1のサイズ依存性係数Fは、(20.1-8.2)/(28.7-5.9)=0.52重量%ケイ素/μmと求めることができる。
【0100】
更なる例として、E1の最も粗いフラクション及び最も微細なフラクションに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第2のサイズ依存性係数Gは、((20.1-8.2)/14.7)/((28.7-5.9)/14.4)=0.51と求めることができる。
【0101】
同様に、第1及び第2のサイズ依存性係数F及びGは、他の粒群のそれぞれの組み合わせについて計算することができ。
【0102】
所望であれば、複合粉体E1の粒径に対するケイ素含有量の依存性は、それぞれ個々の構成成分粉体フラクション内において、ケイ素含有量が粒径に依存性でないという仮定の下で、複合粉体E1の構成成分粉体フラクションの粒径分布から計算することができる。この仮定の正確性は、CE1によって実証される。
【0103】
本発明によらない反例2及び3
複合粉体CE1と同様に、前述の中間複合粉体とグラファイトの比率を適合させることによって、異なるケイ素含有量を有する2つの更なる反例複合粉体を作製した。
【0104】
これは、表4に詳述の特性を有する複合粉体CE2、及び表5に詳述の特性を有する複合粉体CE3に関する。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
本発明による実施例2~3
複合粉体E1と同様に、複合粉体CE2及びCE3と一致するケイ素含有量を有する2つの更なる例の複合粉体を作製した。
【0108】
これは、24.9重量%のケイ素含有量、3.1重量%の酸素含有量、及び表6と表7に詳述の特性を更に有する複合粉体E2、並びに、35.2重量%のケイ素含有量、5.0重量%の酸素含有量、及び表8と表9に詳述の特性を更に有する複合粉体E3に関する。
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
【表8】
【0112】
【表9】
【0113】
E2に関して、一例として、E2のフラクション20μm~25μm及びフラクション10μm~12μmに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第1のサイズ依存性係数Fは、(26.9-22.1)/(17.5-8.9)=0.56重量%ケイ素/μmと求めることができる。
【0114】
更なる例として、E2の同じフラクションに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第2のサイズ依存性係数Gは、((26.9-22.1)/24.9)/((17.5-8.9)/14.5)=0.33と求めることができる。
【0115】
同様に、E3に関して、一例として、E3のフラクション25μm~30μm及びフラクション12μm~15μmに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第1のサイズ依存性係数Fは、(39.8-32.9)/(21.5-10.7)=0.64重量%ケイ素/μmと求めることができる。
【0116】
更なる例として、E3の同じフラクションに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第2のサイズ依存性係数Gは、((39.8-32.9)/35.2)/((21.5-10.7)/14.4)=0.26と求めることができる。
【0117】
同様に、第1及び第2のサイズ依存性係数F及びGは、他の粒群のそれぞれの組み合わせについて計算することができる。
【0118】
反例1、2及び3、並びに実施例1、2及び3の分析
反例1、2及び3、並びに実施例1、2及び3で製造されたすべての複合粉体についてBET表面積を求めた。その値を表10に報告する。
【0119】
【表10】
【0120】
すべての複合粉体CE1、CE2、CE3、E1、E2及びE3を樹脂に組み込み、SEMで観察した。これらの複合粉体のいずれにおいても多孔率は観察することができず、それは、この方法によって測定した場合に0%の多孔率を有する複合粉体に相当する。この方法によって5体積%未満の多孔率の観測は困難であるため、実際の多孔率は0~5体積%であると推定される。
【0121】
複合粉体CE1、CE2、CE3、E1、E2及びE3の電気化学的性能を測定した。その結果を表11に示す。
【0122】
【表11】
【0123】
すべてのケイ素含有量(約15重量%、約25重量%及び約35重量%)について、本発明による複合粉体は、本発明によらない複合粉体よりも著しく良好に機能することを認めることができる。
【0124】
本発明によらない反例4
反例1で使用したものと同じケイ素ナノ粉体を使用した。
【0125】
複合粉体を製造するために、15gの前述のケイ素ナノ粉体と75gの石油系ピッチ粉体とのブレンドを作製した。
【0126】
それを、N2下で450℃まで加熱し、その結果、ピッチが溶融し、60分間の待ち時間の後、1000rpmで作動するCowles溶解器型ミキサーによって、高剪断下で30分間混合した。
【0127】
このようにして得られたピッチ中のケイ素ナノ粉体の混合物を、N下で室温まで冷却し、固化したら、粉砕し、400メッシュの篩で篩分けし、未焼成複合粉体を製造した。
【0128】
未焼成複合粉体に以下のように熱後処理を施した:未焼成複合粉体を、管状炉内の石英るつぼ中の薄層に置き、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度に2時間保ち、次いで冷却した。このすべてを、アルゴン雰囲気中で行った。
【0129】
焼成した生成物を、アルミナボールを使用して400rpmで2時間ボールミルし、40マイクロメートルの篩で篩分けして、最終複合粉体を形成させ、更に、それを複合粉体CE4と称した。
【0130】
複合粉体CE4中の総Si含有量は、+/-0.3重量%の実験誤差を有するXRFによって24.8重量%と測定された。これは、約40重量%の加熱時のピッチの重量損失に基づく計算値に相当する。
【0131】
複合粉体CE4の粒径分布を測定し、表12に報告する。複合粉体CE4の酸素含有量は3.1重量%と測定された。
【0132】
複合粉体CE4の試料を、8μm、10μm、12μm、15μm、20μm、25μm、30μm及び40μmの篩で篩分けした。様々な粒群の粒径分布並びにケイ素及び酸素含有量を求め、表1に報告する。
【0133】
篩分けされた粒群は、それ以上は使用されなかった。複合粉体CE4について、更なる実験を行った。
【0134】
【表12】
【0135】
ケイ素含有量の測定の実験誤差は0.3%であった。したがって、実験誤差マージン内では、様々な粒群のケイ素含有量は同じであり、ケイ素含有量のサイズ依存性はないことを認めることができる。
【0136】
本発明による実施例4
本発明による複合粉体を製造するために、8つの別個の複合粉体を、実例4と同様に製造した。これらの8つの複合粉体は、ケイ素含有量が異なるという点で、複合粉体CE4と異なる。これは、ピッチ及びナノケイ素粉体の比率を適合させることによって行った。
【0137】
18.4重量%、19.7重量%、20.9重量%、22.8重量%、24.7重量%、26.4重量%、28.7重量%、及び30.6重量%のケイ素含有量を有する複合粉体を製造した。
【0138】
これらの複合粉体のそれぞれは、8つの複合粉体のそれぞれに対して8つのサイズ範囲が得られるように、CE4に関して言及したように篩で篩分けされ、その結果として、合計64の異なる粉体が得られた。
【0139】
次いで、表13に詳述のように、これらの64の異なる粉体のうちのいくつかから混合物を作製して、複合粉体CE4と同じケイ素含有量24.8重量%を有し、かつ3.1重量%の酸素を有する複合粉体E4を得た。
【0140】
【表13】
【0141】
複合粉体E4の粒径分布及び使用される粒群の粒径分布を表14に示す。
【0142】
【表14】
【0143】
最も粗いフラクション及びフラクション8~10μmに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第1のサイズ依存性係数Fは、(30.6-19.7)/(29.5-7.2)=0.49重量%ケイ素/μmと求めることができる。
【0144】
最も粗いフラクション及びフラクション8~10μmに基づいて計算された、粒径に対するケイ素含有量の依存性を示す第2のサイズ依存性係数Gは、((30.6-19.7)/24.8)/((29.5-7.2)/16.1)=0.32と求めることができる。
【0145】
同様に、第1及び第2のサイズ依存性係数F及びGは、他のフラクションのそれぞれの組み合わせについて計算することができる。
【0146】
反例4及び実施例4の分析
試料E4及びCE4についてBET表面積を求めた。その値は、それぞれ7.4及び7.6m/gであった。
【0147】
複合粉体CE4及びE4を、樹脂に埋め込み、SEMで観察した。これらの複合粉体のいずれにおいても多孔性は観察できなかった。
【0148】
複合粉体CE4及びE4の電気化学的性能を測定した。その結果を表15に示す。
【0149】
【表15】
【0150】
複合体CE1、CE2、CE3、E1、E2及びE3に関して既に上で示したように、本発明による複合粉体E4は、本発明によらない複合粉体CE4よりも著しく良好に機能する。
【0151】
本発明のさらなる態様は、以下の項の主題によって提供される。
【0152】
[項1]
電池の負極に使用するための複合粉体であって、前記複合粉体は、複合粒子を含み、前記複合粒子は、マトリックス材料及びケイ素を含み、前記複合粒子は、d10及びd90を有する体積粒径分布を有し、d10~d90のサイズ範囲の少なくとも一部にわたって、前記複合粒子は、サイズ依存性のケイ素含有量を有し、前記粒径と前記ケイ素含有量との間に正の相関を有することを特徴とし、前記複合粉体の微細フラクションは、平均粒径D1及びケイ素含有量S1を有し、前記複合粉体の粗フラクションは、平均粒径D2及びケイ素含有量S2を有し、サイズ依存性係数Fが、F=(S2-S1)/(D2-D1)として定義され、前記サイズ依存性係数Fの値は、少なくとも0.04重量%ケイ素/μmであり、D1は、レーザー回折によって測定される前記微細フラクションの前記体積粒径分布のd50値として定義され、D2は、レーザー回折によって測定される前記粗フラクションの前記体積粒径分布のd50値として定義される、複合粉体。
【0153】
[項2]
S1及びS2が、X線蛍光法によって測定されるものである、任意の前項に記載の複合粉体。
【0154】
[項3]
前記マトリックス材料が、炭素系マトリックス材料である、任意の前項に記載の複合粉体。
【0155】
[項4]
前記複合粉体が、グラファイトも含有することを特徴とする、任意の前項に記載の複合粉体。
【0156】
[項5]
前記複合粉体が、フラクション中にケイ素及び酸素以外少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の炭素含有量を有する、任意の前項に記載の複合粉体。
【0157】
[項6]
前記サイズ依存性係数Fの値が、少なくとも0.15重量%ケイ素/μmである、任意の前項に記載の複合粉体。
【0158】
[項7]
前記サイズ依存性係数Fの値が、少なくとも0.30重量%ケイ素/μmである、任意の前項に記載の複合粉体。
【0159】
[項8]
前記複合粉体が、平均ケイ素含有量Aを有し、5.0重量%<A<60重量%である、任意の前項に記載の複合粉体。
【0160】
[項9]
7.5重量%<A<50重量%である、任意の前項に記載の複合粉体。
【0161】
[項10]
前記複合粉体が重量%として表される酸素含有量及び平均ケイ素含有量Aを有し、重量%で表される前記酸素含有量がAの33%未満であり、好ましくは重量%で表される前記酸素含有量がAの25%未満であることを特徴とする、任意の前項に記載の複合粉体。
【0162】
[項11]
前記複合粉体が、10m /g未満、好ましくは5m /g未満のBET値を有することを特徴とする、任意の前項に記載の複合粉体。
【0163】
[項12]
前記複合粉体が、少なくとも90重量%の前記複合粒子を含み、好ましくは、前記複合粉体が、少なくとも95重量%の前記複合粒子を含む、任意の前項に記載の複合粉体。
【0164】
[項13]
前記複合粉体が、グラファイトも含有することを特徴とする、任意の前項に記載の複合粉体。
【0165】
[項14]
前記ケイ素がケイ素系粒子として存在し、前記ケイ素系粒子が前記マトリックス材料中に埋め込まれる、任意の前項に記載の複合粉体。
【0166】
[項15]
前記ケイ素系粒子が少なくとも70重量%のケイ素を有する、好ましくは少なくとも80重量%のケイ素を有する化学組成を有し、好ましくは、前記ケイ素系粒子がSi及びO以外の他の元素を含まない、任意の前項に記載の複合粉体。
【0167】
[項16]
任意の前項に記載の複合粉体を含む電池。