IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特許7145243有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法
<>
  • 特許-有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法 図1
  • 特許-有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法 図2
  • 特許-有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法 図3
  • 特許-有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法 図4
  • 特許-有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法 図5
  • 特許-有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20220922BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220922BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20220922BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
H01L29/78 617T
H01L29/78 618B
H01L29/78 617V
H01L21/316 X
H01L21/316 Y
H01L21/368 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020569494
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001234
(87)【国際公開番号】W WO2020158408
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019016950
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 英二郎
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-196879(JP,A)
【文献】国際公開第2006/054686(WO,A1)
【文献】特開2004-327857(JP,A)
【文献】特開2016-111218(JP,A)
【文献】特開2015-088715(JP,A)
【文献】特開2015-177100(JP,A)
【文献】特開2013-036733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 21/316
H01L 51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極と、前記ゲート電極を覆って設けられるゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜の表面に設けられる自己組織化単分子膜と、前記自己組織化単分子膜の前記ゲート絶縁膜とは逆側に設けられる、有機半導体膜、ソース電極およびドレイン電極と、を有し、
前記自己組織化単分子膜の表面に前記有機半導体膜を有し、前記有機半導体膜の表面のみに前記ソース電極およびドレイン電極を有し、
前記ゲート絶縁膜が、アルミナからなり、表面が、ベーマイトであることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜の厚さが5~100nmである、請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜の表面粗さRaが3~70nmである、請求項1または2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記自己組織化単分子膜が、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シランである、請求項1~のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
基板の表面にゲート電極を形成する工程、
前記ゲート電極を覆って、アルミナ膜を形成する工程、
前記アルミナ膜の表面をベーマイト処理して、前記アルミナ膜の表面をベーマイトとして、ゲート絶縁膜を形成する工程、
前記ゲート絶縁膜の表面に自己組織化単分子膜を形成する工程、
前記自己組織化単分子膜の前記ゲート絶縁膜とは逆側に、前記自己組織化単分子膜の表面に有機半導体膜を形成する工程、
前記有機半導体膜の表面のみにソース電極およびドレイン電極を形成する工程、を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記自己組織化単分子膜の表面に前記有機半導体膜を形成し、前記有機半導体膜の表面に前記ソース電極およびドレイン電極を形成する、請求項に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ、および、この有機薄膜トランジスタを製造する有機薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体は、従来の無機半導体とは異なり、各種の溶媒に溶かすことができる有機分子からなるため、塗布および印刷技術等によって薄膜を形成できる。そのため、有機半導体材料は、ロール・トゥ・ロールなどの連続的な製造工程で製造する各種デバイスに用いることができる。
これに対応して、このような有機半導体を用いた有機薄膜トランジスタが各種提案されている。
【0003】
有機薄膜トランジスタのスイッチング速度等の点で、有機半導体膜は、移動度が高い方が好ましい。しかしながら、一般的に、有機半導体材料は、高い移動度を発現する材料ほど、溶媒への溶解度が低いという性質がある。
また、有機半導体膜は、膜の均一性が高いほど、高い移動度を得られる。ところが、有機半導体材料は、溶媒に対する溶解度が低い。そのため、溶媒に溶解して塗布液を調製して塗布した際に、乾燥の制御が難しく、均一性が高い有機半導体膜を成膜することが難しい。
【0004】
一方で、結晶の成長速度と塗布液の乾燥速度を一致させることにより、有機半導体膜の均一性が向上できることは、既存の発明で例示されている。
例えば、特許文献1には、有機半導体を3-クロロチオフェンに溶かして塗布液を調製する工程1、基板表面に対して起立する端面を有する接触部材が戴置された基板を準備する工程2、調製した塗布液を基板に供給して、接触部材の端面と基板表面に同時に接触する液滴を形成する工程3、および、接触部材の端面と基板表面とに同時に接触する液滴から、3-クロロチオフェンを蒸発させる工程4、を有する有機半導体膜の成膜方法が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載される有機半導体膜の成膜方法では、接触部材の端面と基板表面とに接触する液滴を、接触部材とは逆側のエッジ部から、接触部材に向かって乾燥させる。
この有機半導体膜の成膜方法では、エッジ部から接触部材に向かって、徐々に、液滴を乾燥することで、結晶の成長速度と塗布液の乾燥速度を一致させて、均一性の高い有機半導体膜の成膜を可能にしている。
【0006】
さらに、有機半導体膜は、有機半導体材料の分子が縦、かつ、並列に並んでいる状態が理想とされている。すなわち、有機半導体膜の成膜では、上述したような乾燥制御による面方向の結晶の成長制御に加え、形成面の性状も、重要な作用因子となっている。
そのため、いわゆるボトムゲート型の有機薄膜トランジスタにおいては、有機半導体膜の形成面となるゲート絶縁膜の表面に、有機半導体膜の均一性を向上するため自己組織化単分子膜(SAM膜(Self-Assembled Monolayer膜)を形成している。
なお、『有機半導体材料の分子が縦、かつ、並列に並んでいる状態』とは、有機半導体材料の分子が、膜厚方向に立ち、かつ、横方向に配列された状態を示す。
【0007】
例えば、特許文献2には、ゲート絶縁膜と有機半導体膜との間にSAM膜を有するボトムゲート型の有機薄膜トランジスタにおいて、ゲート絶縁膜がアルミナからなるもので、アルミナ中の塩素濃度が1×1020atoms/cm3以上である、有機薄膜トランジスタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-185620号公報
【文献】特開2015-177100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2においては、ゲート絶縁膜中の塩素濃度が1×1020atoms/cm3以上と、通常のゲート絶縁膜よりも高くする。
特許文献2では、このような構成を有することにより、ゲート絶縁膜中の塩素が、ゲート絶縁膜の表面に形成されるSAM膜との反応性を高め、その結果、SAM膜の高密度化を実現するとしている。また、このSAM膜の高密度化が、SAM膜の表面に形成される有機半導体膜の結晶性を向上させるとしている。
【0010】
特許文献2に記載される有機薄膜トランジスタによれば、SAM膜の緻密化ではなく、ゲート絶縁膜の組成を調節することで、種類によらずSAM膜を緻密化している。特許文献2においては、このSAM膜の緻密化によって有機半導体膜の結晶性を向上でき、これにより有機半導体膜の移動度を向上している。
しかしながら、有機薄膜トランジスタの性能に対する要求は、近年、更に厳しくなっており、より結晶の均一性が高く、移動度が高い有機半導体膜を有する有機薄膜トランジスタの実現が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、均一性が良好で移動度が高い有機半導体膜を有する有機薄膜トランジスタ、および、この有機薄膜トランジスタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] ゲート電極と、ゲート電極を覆って設けられるゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜の表面に設けられる自己組織化単分子膜と、自己組織化単分子膜のゲート絶縁膜とは逆側に設けられる、有機半導体膜、ソース電極およびドレイン電極と、を有し、
ゲート絶縁膜が、アルミナからなり、表面が、ベーマイトであることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
[2] ゲート絶縁膜の厚さが5~100nmである、[1]に記載の有機薄膜トランジスタ。
[3] ゲート絶縁膜の表面粗さRaが3~70nmである、[1]または[2]に記載の有機薄膜トランジスタ。
[4] 自己組織化単分子膜の表面に有機半導体膜を有し、有機半導体膜の表面にソース電極およびドレイン電極を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[5] 自己組織化単分子膜が、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シランである、[1]~[4]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[6] 基板の表面にゲート電極を形成する工程、
ゲート電極を覆って、アルミナ膜を形成する工程、
アルミナ膜の表面をベーマイト処理して、アルミナ膜の表面をベーマイトとして、ゲート絶縁膜を形成する工程、
ゲート絶縁膜の表面に自己組織化単分子膜を形成する工程、
自己組織化単分子膜のゲート絶縁膜とは逆側に、有機半導体膜、ソース電極およびドレイン電極を形成する工程、を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
[7] 自己組織化単分子膜の表面に有機半導体膜を形成し、有機半導体膜の表面にソース電極およびドレイン電極を形成する、[6]に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、均一性が良好で移動度が高い有機半導体膜を有する有機薄膜トランジスタ、および、この有機薄膜トランジスタを好適に製造できる有機薄膜トランジスタの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の有機薄膜トランジスタの一例を概念的に示す図である。
図2】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図3】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図4】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図5】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図6】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
なお、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
図1に、本発明の有機薄膜トランジスタの一例を概念的に示す。
図1に示す有機薄膜トランジスタ10は、いわゆるボトムゲート-トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタであって、基板12と、ゲート電極14と、ゲート絶縁膜18と、SAM膜20と、有機半導体膜24と、ソース電極26およびドレイン電極28と、を有する。なお、上述したように、SAM膜20とは、自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer膜)である。
以下の説明では、便宜的に、図中の基板12側を下、ソース電極26およびドレイン電極28側を上、とも言う。
【0017】
本発明の有機薄膜トランジスタ10において、ゲート絶縁膜18はアルミナで形成され、かつ、表面、すなわちSAM膜20側は、ベーマイトである。従って、ゲート絶縁膜18の表面は、ベーマイトによる凹凸構造となっている。後述するが、本発明の有機薄膜トランジスタは、このような構成を有することにより、撥水性の高いSAM膜20の表面に有機半導体膜24を形成することで、均一性の高い有機半導体膜を形成している。
【0018】
なお、図1に示す有機薄膜トランジスタ10は、この効果を、より好適に得られる好ましい構成である、ボトムゲート-トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタである。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、ゲート絶縁膜の上に有機半導体膜を有するボトムゲート型の有機薄膜トランジスタであれば、各種の構成の有機薄膜トランジスタに利用可能である。従って、本発明の有機薄膜トランジスタは、例えば、ゲート絶縁膜の表面にソース電極26およびドレイン電極28を有し、ソース電極26およびドレイン電極28の上に有機半導体膜24を有する、いわゆるボトムゲート-ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであってもよい。
【0019】
本発明の有機薄膜トランジスタ10において、基板12には制限はなく、公知の有機薄膜トランジスタで用いられている各種の基板が利用可能である。
基板12としては、一例として、樹脂フィルム、ガラス板、および、シリコンウエハ等が例示される。
中でも、樹脂フィルムは、好適に例示される。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ならびに、ポリイミドフィルム等が例示される。また、これらの樹脂フィルムをガラス等に貼り合わせたものも、基板12として用いることもできる。
【0020】
基板12の厚さには、制限はない。
基板12の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。一方、基板12の厚さは、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。
基板12の厚さを5μm以上とすることにより、十分な強度を確保できる、ロール・トゥ・ロールでの搬送が可能になる、取り扱い性が良好になる等の点で好ましい。基板12の厚さを500μm以下とすることにより、可撓性を有する有機薄膜トランジスタ10が得られる、軽量な有機薄膜トランジスタ10が得られる等の点で好ましい。
【0021】
基板12の表面には、ゲート電極14が形成される。
ゲート電極14は、公知のボトムゲート型の有機薄膜トランジスタのゲート電極と同様のものである。
従って、ゲート電極14の形成材料には、制限はなく、公知の有機薄膜トランジスタにおいて、ゲート電極として用いられている公知の材料が、各種、利用可能である。
ゲート電極14の形成材料としては、一例として、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、モリブデン、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、パラジウム、鉄およびマンガン等の金属、InO2、SnO2、インジウム・錫酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)およびガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレンおよびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)等の導電性高分子、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウムおよびカリウム等の金属原子等のドーパントを添加した上述の導電性高分子、ならびに、カーボンブラック、グラファイト粉および金属微粒子等を分散した導電性の複合材料等が例示される。これらの材料は、1種のみを用いても、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
また、ゲート電極14は、上述した材料からなる1層構成でもよく、上述した材料からなる層を、複数層、積層した構成であってもよい。
【0022】
ゲート電極14の厚さには、制限はなく、形成材料に応じて、十分な導電性が得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
ゲート電極14の厚さは、1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。ゲート電極14の厚さは、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
ゲート電極14の厚さを1nm以上とすることにより、十分な導電性が確保できる、面内の均一性を保てる、ゲート電極が海島構造にならない等の点で好ましい。ゲート電極14の厚さを500nm以下とすることにより、ゲート電極14が不要に厚くなることを防止できる、膜の内部応力による剥離を抑制して密着性を維持できる、曲げやすくなる等の点で好ましい。
【0023】
有機薄膜トランジスタ10は、ゲート電極14を全面的に覆って、ゲート絶縁膜18を有する。
本発明の有機薄膜トランジスタ10において、ゲート絶縁膜18は、アルミナ(酸化アルミニウム)からなるものである。
また、本発明の有機薄膜トランジスタ10において、ゲート絶縁膜18の表面(表層)は、アルミナをベーマイト処理することで形成される、ベーマイトである。言い換えれば、ゲート絶縁膜18は、表面に、ベーマイト処理によってベーマイト化された、ベーマイト膜を有する。従って、ゲート絶縁膜18の表面は、ベーマイトによる微細な凹凸構造を有する。
なお、ゲート絶縁膜18の表面とは、図中上面であり、すなわち、ソース電極26およびドレイン電極28側の面である。
【0024】
本発明の有機薄膜トランジスタ10は、アルミナからなり、かつ、表面がベーマイトであるゲート絶縁膜18を有する。従って、ゲーと絶縁膜18は、表面に、ベーマイトによる微細な凹凸を有する。本発明の有機薄膜トランジスタ10は、このような微細な凹凸を有するゲート絶縁膜18の表面に、SAM膜20を有し、SAM膜20の表面に有機半導体膜24を有する。
本発明は、このような構成を有することにより、均一性が高く、移動度が高い有機半導体膜を有する、高性能な有機薄膜トランジスタを実現している。
【0025】
アルミナの表面にベーマイト処理を施すことにより、アルミナの表面は、アルミナの水和物を主成分とする、いわゆるモスアイ構造のような微細な凹凸を有するベーマイトとなる。
このような微細な凹凸構造に、撥水性の被膜を形成することで、表面を極めて高い撥水性にできる。すなわち、モスアイ構造のような微細な凹凸を有する表面に、撥水性の被膜を形成することで、ロータス効果(ハス効果)を発現する蓮の葉のように、非常に高い撥水性を有する表面を得られる。
【0026】
本発明は、これを利用したものである。すなわち、有機薄膜トランジスタ10は、ゲート絶縁膜18としてアルミナ膜を用い、かつ、ゲート絶縁膜18の表面を、アルマイト処理によって形成される、モスアイ構造のような微細な凹凸構造を有する、アルミナの水和物を主成分とするベーマイトとする。本発明の有機薄膜トランジスタ10は、このような表面を有するゲート絶縁膜18に、撥水性のSAM膜20を形成することで、SAM膜20を、非常に撥水性の高い撥水膜にできる。
後述するが、有機半導体膜24は、有機半導体材料を溶媒に溶解した塗布液を用いて、成膜する。非常に撥水性の高いSAM膜20の表面に、有機半導体膜24を成膜する塗布液を滴化すると、塗布液の液滴は濡れ広がろうとはせず、球体を維持しようとする。そのため、塗布液の液滴は、表面積に比して体積が大きくなるので、乾燥速度が遅くなる。これにより、有機半導体膜24の結晶膜の成長が緩やかになり、かつ、有機半導体材料の分子の向きが揃いやすくなる。その結果、有機半導体膜24を、均一性および/または結晶性が高い、移動度の高い有機半導体膜にできる。
【0027】
有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜は、塗布型と無機型とに大別される。
塗布型は、生産性に優れる。その反面、塗布型のゲート絶縁膜はフッ素系材料が多く、その後、有機半導体膜を形成するための有機半導体材料を溶解した塗布液の塗布が困難である。
無機型は、生産性は劣るものの、スパッタリングおよびALD(Atomic layer deposition、原子層堆積法)のような気相成膜法による成膜が可能で、緻密な膜が形成可能である。しかしながら、無機型のゲート絶縁膜は、多くの場合、酸化物であるので、親水性である。親水性の表面に有機半導体膜を形成するための塗布液を塗布すると、即座に薄く塗れ広がってしまうため、有機半導体材料の分子が様々な方向を向いてしまい、また、凝集してしまうため、性能が低くなってしまう。そのため、無機型のゲート絶縁膜では、表面にSAM膜を形成することが、必須になる。
一方、従来の有機半導体膜の性能向上では、有機半導体材料の検討が主流である。例えば、有機半導体材料の溶媒への溶解度を向上することで、乾燥の制御性を向上して、均一性の高い有機半導体膜を得ることが検討されている。しかしながら、有機半導体材料の溶解性と、有機半導体材料の性能とは、本質的にトレードオフであるので、溶解度の向上による性能の向上は、困難な面もある。
【0028】
これに対して、本発明では、上述したように、ゲート絶縁膜18をアルミナで形成し、その表面を微細な凹凸構造とすることにより、SAM膜20の撥水性を向上し、均一性の良好な高い移動度を有する有機半導体膜24を実現している。
すなわち、本発明は、従来から行われている、有機半導体材料などの材料の検討ではなく、材料以外の観点であるゲート絶縁膜18の表面の構造の検討という、従来とは異なる方向から有機薄膜トランジスタの性能向上を実現したものである。
【0029】
本発明の有機薄膜トランジスタ10において、ゲート絶縁膜18は、アルミナからなり、表面がベーマイトである。従って、ゲート絶縁膜18は、表面にベーマイトによる微細な凹凸構造を有する。
ゲート絶縁膜18の表面粗さRaには、制限はない。ゲート絶縁膜18の表面粗さRaは、3~70nmが好ましく、5~50nmがより好ましく、10~25nmがさらに好ましい。
ゲート絶縁膜18の表面粗さRaを3nm以上とすることにより、SAM膜20が十分な撥水性を発現し、かつ、サム膜20の撥水性にムラが生じることを防止できる等の点で好ましい。ゲート絶縁膜18の表面粗さRaを70nm以下とすることにより、ベーマイトの損傷を防止して、表面の均一性を保てる等の点で好ましい。
なお、表面粗さRaは、算術平均粗さRaであり、原子間力顕微鏡等を用いて、JIS B 0601(2001)に準拠して測定すればよい。
【0030】
ゲート絶縁膜18の厚さにも、制限はなく、絶縁膜としての機能を発現できる厚さであればよい。ゲート絶縁膜18の厚さは、5~100nmが好ましく、10~70nmがより好ましく、20~50nmがさらに好ましい。
ゲート絶縁膜18の厚さを5nm以上とすることにより、ピンホールの無い均一な絶縁膜が形成でき、十分な絶縁性を安定して確保できる等の点で好ましい。
ゲート絶縁膜18の厚さを100nm以下とすることにより、可撓性の良好な有機薄膜トランジスタ10を得られる、ゲート絶縁膜18の可撓性および密着性を高くできる等の点で好ましい。
なお、ゲート絶縁膜18の厚さは、表面の凹凸を含めて、全域が上述した範囲内であるのが最も好ましいが、少なくともアルミナである領域が上述した範囲内であれば、上述した効果を好適に得られる。
【0031】
本発明のゲート絶縁膜18において、ベーマイト以外のアルミナである領域は、緻密であるのが好ましい。
具体的には、ゲート絶縁膜18のアルミナである領域は、密度が2g/cm3以上であるのが好ましく、2.2g/cm3以上であるのがより好ましく、2.5g/cm3以上であるのがさらに好ましい。
ゲート絶縁膜18のアルミナである領域の密度を2g/cm3以上とすることにより、ベーマイト処理によって、ゲート絶縁膜18の表面にベーマイトを好適に形成できる、高い絶縁性を確保できる、可撓性の良好なゲート絶縁膜すなわち有機薄膜トランジスタ10が得られる等の点で好ましい。
【0032】
ゲート絶縁膜18の表面には、SAM膜20が形成される。
SAM膜20は、有機薄膜トランジスタに形成される公知のSAM膜である。但し、本発明の有機薄膜トランジスタ10においては、SAM膜20は、表面に凹凸を有するゲート絶縁膜18の表面に形成されるため、非常に高い撥水性を発現する。
【0033】
SAM膜20の形成材料には、制限はなく、撥水性であれば、有機薄膜トランジスタに利用される公知の材料が、各種、利用可能である。なお、本発明において、撥水性とは、言い換えれば、後述する有機半導体膜を形成する塗布液に対する撥液性である。
SAM膜20の形成材料としては、一例として、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、及び、オクタデシルトリメトキシシラン、および、トリメトキシフェニルエチルシラン等のシラン化合物が好適に例示される。
中でも、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シランは、SAM膜20として好適に利用される。
【0034】
SAM膜20の厚さには、制限はない。
SAM膜20の厚さは、SAM膜を形成するために使用される化合物、1分子分の厚さの場合が多く、通常、1~3nm程度である。
【0035】
SAM膜20の表面には、有機半導体膜24が形成される。
有機半導体膜24の形成材料には、制限はなく、有機薄膜トランジスタに用いられる公知の有機半導体材料が、各種、利用可能である。
有機半導体材料としては、一例として、6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPSペンタセン)等のペンタセン誘導体、5,11‐ビス(トリエチルシリルエチニル)アントラジチオフェン(TES‐ADT)等のアントラジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン(BDT)誘導体、ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェン(C8-BTBT)等のベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)誘導体、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)誘導体、ジナフトベンゾジチオフェン(DNBDT)誘導体、6,12‐ジオキサアンタントレン(ペリキサンテノキサンテン)誘導体、N,N’-ビス(シクロヘキシル)ナフタレン-1,4,5,8-ビス(ジカルボキシイミド)等のナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(NTCDI)誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PTCDI)誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(2,5‐ビス(チオフェン‐2‐イル)チエノ[3,2‐b]チオフェン)(PBTTT)誘導体、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体、オリゴチオフェン類、フタロシアニン類、および、フラーレン類等が例示される。
【0036】
さらに、有機半導体材料としては、特開2015-170760号公報の段落[0063]~[0160]に記載される有機半導体材料、特開2015-195361号公報に記載される有機半導体材料、および、特開2018-006745号公報に記載される有機半導体材料も、好適に利用可能である。
【0037】
有機半導体膜24の膜厚には、制限はない。すなわち、有機半導体膜24の膜厚は、有機半導体膜24の形成材料に応じて、目的とする性能を発現できる膜厚を、適宜、設定すればよい。
有機半導体膜24の膜厚は、1~200nmが好ましく、2~100nmがより好ましく、10~50nmがさらに好ましい。
有機半導体膜24の膜厚を1nm以上とすることにより、有機半導体膜24を1分子以上縦方向に並ばせて、目的とする性能を安定して発現できる等の点で好ましい。
有機半導体膜24の膜厚を200nm以下とすることにより、良好な可撓性を有する有機薄膜トランジスタ10を得られる、有機半導体膜24が無駄に厚くなることを防止でき、コストも低減できる等の点で好ましい。
【0038】
有機半導体膜24の表面には、ソース電極26およびドレイン電極28が形成される。 ソース電極26およびドレイン電極28は、公知のボトムゲート型の有機薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極と同様のものである。
従って、ソース電極26およびドレイン電極28の形成材料には、制限はなく、公知の有機薄膜トランジスタにおいて、ソース電極およびドレイン電極として用いられている公知の材料が、各種、利用可能である。
ソース電極26およびドレイン電極28の形成材料としては、一例として、ゲート電極14で例示した各種の材料が例示される。
【0039】
ソース電極26およびドレイン電極28の厚さには、制限はなく、形成材料に応じて、十分な導電性が得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
ソース電極26およびドレイン電極28の厚さは、それぞれ、1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また、ソース電極26およびドレイン電極28の厚さは、それぞれ、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
ソース電極26およびドレイン電極28の厚さを1nm以上とすることにより、十分な導電性が確保できる等の点で好ましい。ソース電極26およびドレイン電極28の厚さを500nm以下とすることにより、ソース電極26およびドレイン電極28が不要に厚くなることを防止できる、ソース電極26およびドレイン電極28の密着性を確保できる、可撓性の良好な有機薄膜トランジスタが得られる等の点で好ましい。
【0040】
以下、図2図6を参照して、図1に示す本発明の有機薄膜トランジスタを製造する、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明する。
【0041】
まず、図2に概念的に示すように、上述のような基板12を用意して、基板12の表面に、ゲート電極14を形成する。
ゲート電極14の形成方法には、制限はなく、ゲート電極14の形成材料に応じて、有機薄膜トランジスタの製造におけるゲート電極の形成に利用されている方法が、各種、利用可能である。
【0042】
ゲート電極14の形成方法としては、一例として、真空蒸着およびスパッタリング等のPVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマCVD、塗布法、印刷法、転写法、ゾルゲル法、および、メッキ法等が例示される。
ゲート電極14の形成時には、必要に応じて、マスキング等の公知の方法で、ゲート電極14を所望の形状にパターニングして形成してもよい。または、必要に応じて、これらの方法で形成した導電性の膜を、所望の形状にパターニングして、ゲート電極14を形成してもよい。
【0043】
塗布法では、上述した材料の溶液、ペーストまたは分散液を調製、塗布し、乾燥、焼成、光硬化またはエージング等により、膜を形成し、または直接電極を形成できる。塗布方法としては、一例として、スピンコート法、ダイコート法、マイクログラビアコート法、および、ディップコート法等が例示される。
また、インクジェット印刷、スクリーン印刷、(反転)オフセット印刷、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、熱転写印刷、および、マイクロコンタクトプリンティング法等の印刷法は、所望のパターニングが可能であり、工程の簡素化、コスト低減、および、高速化等の点で好ましい。
【0044】
形成した膜のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法が例示される。
フォトリソグラフィー法としては、例えば、フォトレジストのパターニングと、エッチング液によるウェットエッチングおよび反応性のプラズマによるドライエッチング等のエッチングまたはリフトオフ法等とを組み合わせる方法等が挙げられる。
リフトオフ法は、下地の一部にレジストを塗布し、この上に導電性材料を成膜し、レジスト等を溶媒により溶出または剥離することにより、レジスト上の導電性材料ごと除去して、レジストが塗布されていなかった部分にのみに膜を形成する方法である。
他のパターニング方法として、形成した膜に、レーザーおよび電子線等のエネルギー線を照射して、研磨し、または材料の導電性を変化させる方法も挙げられる。
さらに、基板12以外の基材に印刷したゲート電極用の組成物を転写させる方法も挙げられる。
【0045】
次いで、図3に概念的に示すように、ゲート電極14を覆って、基板12の表面にアルミナ膜32を形成する。
アルミナ膜32の形成方法には、制限はなく、公知のアルミナ膜の形成方法が、各種、利用可能である。緻密なアルミナ膜32が形成できる等の点で、真空蒸着およびスパッタリング等のPVD、CVD、プラズマCVD、ならびに、ALD等の気相成膜法(気相堆積法)は、好適に利用される。中でも、スパッタリング、および、ALDは、非常に緻密なアルミナ膜32が形成可能で、より好ましく利用される。
【0046】
アルミナ膜32は、必要に応じて、パターニングしてもよい。
アルミナ膜32のパターニングは、公知の方法で行えばよい。一例としてゲート電極14のパターニング方法として例示した各種の方法が利用可能である。
なお、パターニングは、後述するベーマイト処理を行った後の、表面が凹凸を有するベーマイトであるゲート絶縁膜18とした状態で行ってもよい。
【0047】
アルミナ膜32を形成したら、次いで、アルミナ膜32の表面をベーマイト処理する。これにより、アルミナ膜32を、表面が凹凸を有するベーマイト(ベーマイト膜)である、アルミナ膜からなるゲート絶縁膜18とする。
ベーマイト処理の方法には、制限はなく、アルミナ膜のベーマイト処理で行われている公知の方法が、各種、利用可能である。一例として水蒸気処理、温水処理(温水浸漬処理)、および、熱水処理(熱水浸漬処理)が例示される。
【0048】
一例として、図4に概念的に示すように、水槽34に水Wを入れる。なお、全てのベーマイト処理において、ベーマイト処理を行う水は、純水またはイオン交換水が好ましい。
次いで、アルミナ膜32を形成した基板12を、アルミナ膜32を水Wに対面して配置する。その後、水槽34の水Wを煮沸させ、水蒸気をアルミナ膜32に当てて、水蒸気処理によるベーマイト処理を行う。ベーマイト処理の時間は、適宜、設定すればよい。
これにより、図4の下段に示すように、表面が凹凸を有するベーマイトである、アルミナ膜からなるゲート絶縁膜18を形成する。
【0049】
ベーマイト処理によって形成されるゲート絶縁膜18の表面粗さRaは、ベーマイト処理の処理時間、水蒸気処理におけるアルミナに曝す水蒸気の量、ならびに、温水処理および熱水処理における水温等によって、調節可能である。
【0050】
ゲート絶縁膜18を形成したら、図5に概念的に示すように、ゲート絶縁膜18の表面にSAM膜20を形成する。
SAM膜20の形成方法にも、制限はなく、SAM膜20の形成材料に応じて、有機薄膜トランジスタの製造におけるSAM膜20の形成に利用されている方法が、各種、利用可能である。
一例として、SAM膜20の形成材料を気化して蒸気をゲート絶縁膜18の表面に曝す方法、真空蒸着、SAM膜20の形成材料を含む液体にゲート絶縁膜18の表面を浸漬する方法、および、Langmuir-Blodgett法等が例示される。
【0051】
SAM膜20を形成したら、図6に概念的に示すように、SAM膜20の表面に有機半導体膜24を形成する。
有機半導体膜24の形成方法にも、制限はなく、有機半導体膜24の形成材料に応じて、有機薄膜トランジスタの製造における有機半導体膜の形成に利用されている方法が、各種、利用可能である。
【0052】
有機半導体膜24の形成方法としては、一例として、塗布法が好適に例示される。すなわち、有機半導体材料を溶媒に溶解した塗布液を調製し、塗布液をSAM膜20の表面に塗布して、塗膜を乾燥することにより、有機半導体膜24を形成するのが好ましい。なお、塗布液における有機半導体材料の濃度は、高い方が好ましい。
【0053】
溶媒は、成膜する有機半導体材料に応じて、有機半導体材料を溶解可能な溶媒を、適宜、選択すればよい。
例えば、有機半導体材料がC8-BTBT、TIPSペンタセンおよびTES-ADT等である場合には、トルエン、キシレン、メシチレン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、および、アニソール等の芳香族化合物が好適に例示される。
【0054】
塗布方法にも、制限はなく、公知の塗布法が、各種、利用可能である。
一例として、インクジェット、グラビア印刷およびスクリーン印刷などの印刷法、スピンコート、ダイコートおよびディップコートなどの塗布法、ならびに、超音波スプレーおよび二流体スプレー等のスプレー塗布等が例示される。
なお、有機半導体膜24も、ゲート電極14の形成で例示した方法等、公知の方法でパターニングしてもよい。
【0055】
有機半導体膜24を形成したら、有機半導体膜24の表面にソース電極26およびドレイン電極28を形成して、図1に示すような、本発明の有機薄膜トランジスタとする。
ソース電極26およびドレイン電極28の形成方法にも、制限はなく、ソース電極26およびドレイン電極28の形成材料に応じて、有機薄膜トランジスタの製造におけるソース電極およびドレイン電極の形成に利用されている方法が、各種、利用可能である。
ソース電極26およびドレイン電極28の形成は、一例として、上述したゲート電極14の形成方法に準ずれば良い。
【0056】
本発明の製造方法は、1個ずつ、有機薄膜トランジスタを製造するバッチ式(枚葉式)であってもよい。または、本発明の製造方法は、基板12と処理手段とを相対的に移動しつつ、複数の有機薄膜トランジスタを連続的に製造するものであってもよい。または、本発明の製造方法は、バッチ式のような製造工程と、基板12と処理手段とを相対的に移動する連続的な製造工程とを、混合したものであってもよい。
また、本発明の製造方法では、基板12が長尺なシート状物である場合には、ロール・トゥ・ロール(RtoR)も利用可能である。周知のように、RtoRとは、基板Zを巻回したロールから基板を送りだし、基板Zを長手方向に搬送しつつ処理を行い、処理済みの基板Zをロール状に巻回する、製造方法である。
本発明の製造方法は、基本的に、特許文献1に記載される方法のように、基板12表面に接触部材を設ける等、有機薄膜トランジスタの構成要素以外の部材を基板12上等に設ける必要がない。従って、本発明の製造方法では、RtoRなど、基板12と処理手段とを相対的に移動する連続的な製造方法にも、好適に対応可能である。
【0057】
以上、本発明の有機薄膜トランジスタおよび有機薄膜トランジスタの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記の態様に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々、改良および変更を行ってもよい。
【実施例
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す具体例に限定されない。
【0059】
[実施例1]
基板として、厚さ100μmの下塗り層を有さないPENフィルム(帝人社製、テオネックスQ65)を用意した。
基板の表面に、マスクを載置し、金をターゲットとするスパッタリングによって、厚さ50nmの金薄膜をゲート電極として形成した。
【0060】
ゲート電極を覆うように、基板の全面に、アルミニウムをターゲットとし、酸素とアルゴンガスを用いるスパッタリングによって、厚さ20nmのアルミナ膜を形成した。
【0061】
ホットプレートにガラス製のシャーレを載せ、シャーレに純水を入れた。アルミナ膜が純水に対面するように、基板を配置した。
その後、ホットプレートの温度を150℃に設定して、純水を煮沸させて、15分、アルミナ膜の表面を水蒸気(湯気)に曝して、アルミナ膜のベーマイト処理を行った。
これにより、表面が凹凸を有するベーマイトである、アルミナからなるゲート絶縁膜を形成した。
原子間力顕微鏡によって表面を観察することで、ゲート絶縁膜の表面粗さRaを測定した。その結果、ゲート絶縁膜の表面粗さRaは10nmであった。
【0062】
ガラス瓶に、1mL(リットル)のトリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(東京化成社製)を入れた。このガラス瓶と、ゲート絶縁膜を形成した基板とをオーブンに入れた。
ガラス瓶と基板とを入れたオーブンを130℃で3時間加熱した。これにより、気化したトリメトキシ(2-フェニルエチル)シランでゲート絶縁膜の表面を被覆し、ゲート絶縁膜(ベーマイト)の表面に、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シランからなるSAM膜を形成した。
【0063】
有機半導体材料(シグマアルドリッチ社製、C8-BTBT)をベンゼンに溶解して、有機半導体材料の濃度が1質量%の塗布液を調製した。
調製した塗布液を、超音波スプレー塗布装置(Sono-Tek社製)によって、SAM膜の表面に塗布した。
塗布後、130℃のオーブンで1時間乾燥して、厚さ20nmの有機半導体膜を形成した。
【0064】
有機半導体膜の表面に、マスクを載置し、金をターゲットとするスパッタリングによって、金薄膜をソース電極およびドレイン電極として形成して、有機薄膜トランジスタを作製した。
ソース電極およびドレイン電極は、それぞれ、チャネル長30μm、厚さ50nmとし、チャネル幅は10mmとした。
【0065】
[実施例2]
ゲート絶縁膜を形成するためのアルミナ膜の膜厚を5nmとし、ベーマイト処理の時間を3分に変更した以外は、実施例1と同様に、有機薄膜トランジスタを作製した。
実施例1と同様に測定したところ、ゲート絶縁膜の表面粗さRaは3nmであった。
【0066】
[実施例3]
ゲート絶縁膜を形成するためのアルミナ膜の膜厚を40nmとし、ベーマイト処理の時間を30分に変更した以外は、実施例1と同様に、有機薄膜トランジスタを作製した。
実施例1と同様に測定したところ、ゲート絶縁膜の表面粗さRaは20nmであった。
【0067】
[実施例4]
ゲート絶縁膜を形成するためのアルミナ膜の膜厚を20nmとし、ベーマイト処理の時間を3分に変更した以外は、実施例1と同様に、有機薄膜トランジスタを作製した。
実施例1と同様に測定したところ、ゲート絶縁膜の表面粗さRaは3nmであった。
【0068】
[実施例5]
ゲート絶縁膜を形成するためのアルミナ膜の膜厚を20nmとし、ベーマイト処理の時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に、有機薄膜トランジスタを作製した。
実施例1と同様に測定したところ、ゲート絶縁膜の表面粗さRaは25nmであった。
【0069】
[比較例1]
アルミナ膜のベーマイト処理を行わない以外は、実施例1と同様に、有機薄膜トランジスタを作製した。すなわち、本例では、表面がベーマイトではない、通常のアルミナ膜がゲート絶縁膜となる。
実施例1と同様に測定したところ、ゲート絶縁膜(アルミナ膜)の表面粗さRaは0.1nmであった。
【0070】
<移動度の評価>
作製した有機薄膜トランジスタについて、キャリア移動度を下記方法により測定した。
ソース電極-ドレイン電極間に-40Vの電圧を印加し、ゲート電圧を40V~-40Vの範囲で変化させ、ドレイン電流Idを表わす下記式を用いて、キャリア移動度μを算出した。
Id=(w/2L)μCi(Vg-Vth)2
(式中、Lはゲート長、wはゲート幅、Ciは絶縁膜の単位面積当たりの容量、Vgはゲート電圧、Vthは閾値電圧)
【0071】
以下の評価基準で、キャリア移動度を評価した。
A: キャリア移動度が0.05cm2/Vs以上
B:キャリア移動度が0.025以上0.05cm2/Vs未満
C:キャリア移動度が0.01以上0.025cm2/Vs未満
D:キャリア移動度が0.005以上0.01cm2/Vs未満
E:キャリア移動度が0.005cm2/Vs未満
結果を、下記の表に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
上記の表に示されるように、ゲート絶縁膜の表面が凹凸構造を有するベーマイトである本発明の有機薄膜トランジスタは、ゲート絶縁膜が通常のアルミナである比較例に比して、良好な移動度を有する有機半導体膜を有する。
ゲート絶縁膜の膜厚は、概ね、形成したアルミナの膜厚と、表面粗さRaとの合計に等しくなると考えられる。実施例1、3および5に示されるように、ゲート絶縁膜の表面粗さRaを10~25nmとすることにより、有機半導体膜の移動度をより高くできる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0074】
10 有機薄膜トランジスタ
12 基板
14 ゲート電極
18 ゲート絶縁膜
20 SAM膜(自己組織化単分子膜)
24 有機半導体膜
26 ソース電極
28 ドレイン電極
32 アルミナ膜
34 水槽
W 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6