(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ハスモンヨトウの防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/06 20060101AFI20220926BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A01N37/06
A01P19/00
(21)【出願番号】P 2018200821
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2020-10-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-27
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】大野 江莉奈
(72)【発明者】
【氏名】轡田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 啓之
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-47564(JP,A)
【文献】特開2014-34541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
JSTPlus、JMEDPlus、JST7580、JSTChina
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハスモンヨトウのフェロモン物質と、前記フェロモン物質を透過可能に収納する容器とを少なくとも備えるフェロモン製剤を圃場における土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置して前記フェロモン物質を前記圃場に放出するステップを少なくとも含むハスモンヨトウの防除方法であって、
前記フェロモン物質が、
重量比で1:99から50:50である(Z,E)-9,12-テトラデカジエニル=アセテート及び(Z,E)-9,11-テトラデカジエニル=アセテート
の混合物であり、
前記容器が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、生分解性ポリマー及び崩壊性ポリマーからなる群から選ばれる高分子製であるハスモンヨトウの防除方法。
【請求項2】
前記ハスモンヨトウのフェロモン物質の放出量が、0.15~0.40g/ha/日である請求項1に記載のハスモンヨトウの防除方法。
【請求項3】
前記容器が、長さ0.5~5.0cmのチューブ状の容器である請求項1又は請求項2に記載のハスモンヨトウの防除方法。
【請求項4】
前記容器が、ポリブチレンアジペートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート及びポリ-3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシヘキサノエートからなる群から選択される生分解性ポリマー製である請求項1~3のいずれか一項に記載のハスモンヨトウの防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハスモンヨトウの防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハスモンヨトウは、農業害虫として知られており、極めて広食性で、野菜類、イモ類、豆類、果樹類、花卉類など多岐にわたる作物を加害することで知られている。
【0003】
ハスモンヨトウの防除においては、一般的な薬剤散布による防除だけでなく、ハスモンヨトウの性フェロモン物質である(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセタート及び(Z,E)-9,11-テトラデカジエニルアセタートを用いた交信撹乱による防除方法が知られている(非特許文献1)。
【0004】
交信撹乱に用いるフェロモン製剤は、土壌へのフェロモン物質の吸着や土壌微生物によるフェロモン物質の分解を防ぐため、極力土壌表面との接触を避けて植物体や支柱等に固定して、空中に取り付けることが一般的である。
そして、ハスモンヨトウにおいては、フェロモントラップを地上から1~2mの位置に設置した場合において、捕獲割合が高いことが知られているため、フェロモン製剤からのフェロモン物質の放出を、土壌表面よりも高いところで行うことは効率的であると考えられる。実際に、非特許文献1においては、フェロモン製剤が設置圃場の植物体の高さよりも低くなることによるフェロモン物質の流れの悪化を懸念して、約120cmのプラスチックの棒の先端にフェロモン製剤を固定し、フェロモン製剤が常に植物体の高さよりも高くなるように、その処理がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】高井幹夫,広瀬拓也,武井久,四国植防, 1997年第32号第22頁右欄第19~26行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1のように植物体の高さ等を考慮し、支柱等を用いてフェロモン製剤を高所に設置する作業は、フェロモン製剤以外にも支柱等の設置道具が必要となり、圃場面積が大きくなるにつれて不便であり、コストの面からも不利であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、植物体の高さやハスモンヨトウの生態を考慮する必要のないハスモンヨトウの防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、上記の知見に反して、ハスモンヨトウのフェロモン物質を備えるフェロモン製剤を土壌表面又は土壌表面被覆材面上に設置したとしても、ハスモンヨトウを効率的に防除できることを見出し、本発明を為すに至った。
本発明の1つの態様によれば、ハスモンヨトウのフェロモン物質と、前記フェロモン物質を透過可能に収納する容器とを少なくとも備えるフェロモン製剤を圃場における土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置して前記フェロモン物質を前記圃場に放出するステップを少なくとも含むハスモンヨトウの防除方法であって、前記フェロモン物質が、重量比で1:99から50:50である(Z,E)-9,12-テトラデカジエニル=アセテート及び(Z,E)-9,11-テトラデカジエニル=アセテートの混合物であり、前記容器が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、生分解性ポリマー及び崩壊性ポリマーからなる群から選ばれる高分子製であるハスモンヨトウの防除方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フェロモン製剤を土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置するため、植物体の高さやハスモンヨトウの生態を考慮せずともハスモンヨトウの防除を効率的かつ経済的に行うことができ、ハスモンヨトウの次世代の発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、ハスモンヨトウのフェロモン物質と、容器とを少なくとも備えるフェロモン製剤を圃場における土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置するステップについて説明する。
ハスモンヨトウのフェロモン物質としては、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニル=アセテート、(Z,E)-9,11-テトラデカジエニル=アセテート、(Z)-9-テトラデセニル=アセテート、(E)-11-テトラデセニル=アセテート等の性フェロモン物質等が挙げられる。ハスモンヨトウのフェロモン物質は、実際に害虫から抽出された化合物に限らず、工業的に合成された同一の化合物を含むが、経済性の観点から、工業的に合成された化合物が好ましい。また、ハスモンヨトウのフェロモン物質には、製造上不可避な不純物が含まれていても構わない。
【0010】
また、ハスモンヨトウのフェロモン物質は、例えば、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を併用して用いても良い。例えば、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニル=アセテートと(Z,E)-9,11-テトラデカジエニル=アセテートを併用する場合において、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニル=アセテートと(Z,E)-9,11-テトラデカジエニル=アセテートの混合比(重量比)は、報告されている天然組成の観点から、好ましくは1:99~99:1、より好ましくは1:99~50:50、更に好ましくは5:95~25:75である。
【0011】
ハスモンヨトウのフェロモン物質には、希釈剤、重合防止剤、抗酸化剤及び紫外線吸収剤等の添加剤を添加しても良い。それぞれの添加剤は、2種類以上を併用して用いてもよい。また、それぞれの添加剤は、市販のものを用いることができる。
希釈剤としては、ドデシルアセテート、テトラデシルアセテート、ヘキサデシルアセテート、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘキサデカノール等が挙げられる。
重合防止剤としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
抗酸化剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ハイドロキノン、ビタミンE等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,5'-ジ-t-ブチルハイドロキノン等が挙げられる。
それぞれの添加剤の添加量は、使用環境等によっても異なるが、ハスモンヨトウのフェロモン物質100重量部に対して、好ましくは0.1~6.0重量部である。
【0012】
フェロモン製剤が備える容器は、前記ハスモンヨトウのフェロモン物質を放出可能に収納できれば特に制限されないが、高分子製であることが好ましい。容器は、収納されたフェロモン物質を圃場に放出するため、少なくとも一部がフェロモン物質を透過可能な高分子製であればよく、好ましくは全部がフェロモン物質を透過できる高分子製である。
高分子としては、ハスモンヨトウのフェロモン物質を透過可能であれば特に限定されず、ポリオレフィン系プラスチック、生分解性ポリマー、崩壊性ポリマー等が挙げられるが、フェロモン製剤を土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置し、その回収の手間を省略する観点から、生分解性ポリマーが好ましい。高分子は、2種類以上を併用して用いてもよい。また、高分子は市販のものを用いてもよいし、合成したものを用いても良い。
【0013】
ポリオレフィン系プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル由来の繰り返しである酢酸ビニルユニットの含有量は、放出性能及び加工性の観点から、好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは0.5~6重量%、更に好ましくは0.5~3重量%である。エチレン-酢酸ビニル共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、放出性能及び加工性の観点から、50,000~500,000が好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定できる。
【0014】
生分解性ポリマーは、土壌中の微生物により完全に分解される酵素分解型のポリマーである。生分解性ポリマーとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸及びテレフタル酸の中から選ばれる少なくとも一種類のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、デカンジオールの中から選ばれる少なくとも一種類のポリオールとの縮合重合体のほか、乳酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸及びヒドロキシカプリン酸の中から選ばれる少なくとも一種類の縮合重合体、又はε-カプロラクトンを開環重合させたポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル系の熱可塑性ポリマー等が挙げられる。
【0015】
生分解性ポリマーの具体例としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシヘキサノエート等のポリエステル、及びこれらの1種以上、好ましくはこれらの2種を構成成分とする共重合体、例えばポリブチレンアジペートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシヘキサノエート等が挙げられる。
【0016】
また、脂肪族ポリエステル系の熱可塑性ポリマーを主成分とする共重合体又はブレンドポリマーは、共重合体の場合は脂肪族ポリエステル系の熱可塑性ポリマーを形成するモノマー単位が共重合体を形成する全モノマー単位中に50重量%以上含まれ、ブレンドポリマーの場合は混合される2種以上のポリマーのうち脂肪酸ポリエステル系の熱可塑性ポリマーが50重量%以上含まれることが好ましい。
【0017】
崩壊性ポリマーは、土壌の微生物や紫外線等により緩やかに崩壊する酸化分解型のポリマーである。崩壊性ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルもしくはこれらを構成成分とする共重合体に、生分解性成分や分解促進剤、又はその両方を添加したもの等が挙げられる。
生分解性成分としては、ジャガイモ、コメ、タピオカ、トウモロコシ、ライ麦、大麦、小麦等から抽出された澱粉等が挙げられる。
分解促進剤としては、ジチオカルバミン酸塩等の遷移金属化合物、酸化セリウム等の希土類化合物及びベンゾフェノン等の芳香族ケトン等が挙げられる。
【0018】
フェロモン製剤が備える容器としては、ハスモンヨトウのフェロモン物質を安定に保持可能で、ハスモンヨトウのフェロモン物質を大気中に放出できれば特に限定されないが、チューブ、ラミネート製の袋、カプセル、ボトル及びアンプル等が挙げられる。
ハスモンヨトウのフェロモン物質の放出の均一性の観点から、チューブ状の容器を備えるフェロモン製剤が好ましく、その内径は、好ましくは0.5~2.5mm、より好ましくは1.0~2.0mm、その表面積は、好ましくは20~500,000mm2、より好ましくは20~2000mm2、更に好ましくは20~600mm2、その膜厚は、好ましくは0.2~1.0mm、より好ましくは0.2~0.8mmである。チューブ状の容器の長さは、特に制限されないが、好ましくは0.5~10,000cm、より好ましくは0.5~50cmであり、フェロモン製剤を土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置することから、その携帯性を考慮すると、更に好ましくは0.5~5.0cmであり、特に好ましくは1.5~2.5cmである。
【0019】
フェロモン製剤におけるハスモンヨトウのフェロモン物質の担持量としては、単位面積当たりの投与量とフェロモン製剤の設置本数の観点から、フェロモン製剤1個につき、好ましくは0.5~50,000mg、より好ましくは2~250mg、更に好ましくは4~40mgである。
【0020】
また、フェロモン製剤は、ハスモンヨトウの発生期間を通じたフェロモン物質の放出期間を確保する観点から、徐放性であることが好ましい。
フェロモン製剤の設置は、圃場におけるフェロモン物質の濃度の均一性の観点から、圃場に均等に設置することが好ましい。フェロモン製剤の設置密度は、単位面積当たりの投与量とフェロモン製剤の放出量の観点から、土壌表面又は土壌表面被覆材面に、好ましくは3~50,000個/ha、より好ましくは500~30,000個/ha、更に好ましくは2,000~20,000個/ha、特に好ましくは2,000~7,000個/haである。
【0021】
フェロモン製剤の放出期間は、フェロモン製剤の容器の形状やフェロモン物質の担持量、後述するフェロモン物質の放出量や放出速度を適宜定めることにより調整することができる。実圃場における放出持続期間は、気象環境の影響を受け変動しうることから、フェロモントラップを使用しながら、フェロモン製剤が機能しているかについて確認し、必要に応じて、新たなフェロモン製剤を圃場に設置してもよい。
なお、フェロモン製剤を土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置した場合において、約2か月後においてもフェロモンの残存率は50%を超えていたことから、空中にフェロモン製剤を設置する場合と比較しても問題なく使用することができる。
【0022】
本明細書において、「フェロモン製剤を圃場における土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置する」とは、フェロモン製剤を、直接土壌表面に接するように、又は土壌表面を被覆する土壌表面被覆材を介して間接的に土壌表面に接するように設置することをいう。また、地面被覆材の例としては、マルチシート、反射シート、防草シート、防草マット、稲藁、茅、もみ殻、木材チップ、雑草、山草、野草等が挙げられる。
圃場における土壌表面と土壌表面被覆材面土壌表面の面積比は、特に制限されず、好ましくは100:0~0:100、より好ましくは90:10~50:50である。
また、フェロモン製剤が備える容器がチューブ状である場合は、例えば、土壌表面又は土壌表面被覆材面に対して縦に立てて設置する場合と、横に倒して設置する場合のどちらでも良い。
【0023】
次に、フェロモン製剤から、ハスモンヨトウのフェロモン物質を前記圃場に放出するステップについて説明する。
ハスモンヨトウのフェロモン物質の放出量は、圃場環境や気象条件等によって一概には言えないが、特に制限されず、単面積当りの投与量とフェロモン製剤の設置本数の観点から、好ましくは0.1~10g/ha/日、より好ましくは0.15~1.00g/ha/日である。特に、土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置することにより、更に好ましくは0.15~0.40g/ha/日というより少ない放出量であってもハスモンヨトウを防除できることを知見した。
フェロモン製剤一個あたりの25℃、風速0.3m/秒の環境下における放出速度は、フェロモン製剤の設置本数の観点から、好ましくは0.030~200mg/日/本、より好ましくは0.030~1.000mg/日/本、より好ましくは0.030~0.090mg/日/本、更に好ましくは0.045~0.070mg/日/本である。
ハスモンヨトウのフェロモン製剤からのフェロモン物質の放出速度は、例えば、フェロモン物質への希釈剤の添加や容器の材質、形状(チューブ状の容器の場合においては内径、表面積、膜厚及び長さ等)等により調整できる。
【0024】
圃場において栽培される作物としては、ハスモンヨトウが加害する、ナス、トマト、ピーマン、シシトウガラシ等のナス科、オクラ、モロヘイヤ等のアオイ科、キュウリ、カボチャ、ズッキーニ等のウリ科、キャベツ等のアブラナ科、大豆、小豆等のマメ科、ネギ等のネギ亜科、サトイモ等のサトイモ科、アスパラガス等のキジカクシ科、イチゴ、花卉等が挙げられる。
【0025】
以上のようにして、ハスモンヨトウのフェロモン物質を備えるフェロモン製剤を圃場における土壌表面又は土壌表面被覆材面に設置することによるハスモンヨトウの防除方法が提供される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例及び比較例を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
<フェロモン製剤Aの調製>
(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテートと(Z,E)-9,11-テトラデカジエニルアセテートとの9:91(重量比)の混合物20.9mgに対し、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(HBMCBT)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、95:2:3(重量比)で混合し、内径1.56mm、膜厚0.35mm、長さ2.0cmの生分解性ポリマーであるポリブチレンアジペートサクシネート(ビオノ-レ#3001、昭和電工社製)製のチューブ状の容器に22.0mg封入することによりフェロモン製剤Aを製造した。
【0027】
<フェロモン製剤Bの調製>
また、(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテートと(Z,E)-9,11-テトラデカジエニルアセテートとの9:91(重量比)の混合物170.0mgに対し、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(HBMCBT)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、95:2:3(重量比)で混合し、内径1.17mm、膜厚0.65mm、長さ20.0cmのポリエチレン製のチューブ状の容器に179mg封入することによりフェロモン製剤Bを製造した。なお、フェロモン製剤Bは、25℃、風速0.3m/秒の環境下における放出量が、フェロモン製剤A11,000本/haとフェロモン製剤B1,000本/haとで同等となるように設計した。
【0028】
<フェロモン製剤Aの放出試験>
フェロモン製剤Aを土壌表面又はマルチシートで覆われた土壌表面(マルチシート表面)に30本ずつ横に倒して均等に設置し、各経過日数におけるフェロモン物質の残存量を確認した。フェロモン物質の残存率を表1に示す。表1中、「Z9E11-14:Ac」は(Z,E)-9,11-テトラデカジエニルアセテートを、「Z9E12-14:Ac」は(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテートを表す。
フェロモン物質の残存率は、28日後及び63日後において、任意に土壌表面又はマルチシートで覆われた土壌表面に設置されたフェロモン製剤を10本ずつ回収して、フェロモン製剤の内容物をアセトンを用いて抽出し、内部標準法/ガスクロマトグラム分析により測定した値の平均値を求めることにより算出した。
【0029】
【0030】
表1の結果に示すように、土壌表面又はマルチシートで覆われた土壌表面にフェロモン製剤を設置した場合であっても、およそ2か月の期間にわたって、フェロモン物質を放出できていたことから、使用上問題がないことが確認された。
【0031】
<ハスモンヨトウの交信撹乱試験>
実施例1及び2並びに比較例1
フェロモン製剤Aを土壌表面及びマルチシート表面に設置した圃場(実施例1)、フェロモン製剤Aを土壌表面及びマルチシート表面に設置した圃場(実施例2)、及びフェロモン製剤Bを支柱に縛り付けることにより土壌表面から約1mの位置に設置した圃場(比較例1)におけるハスモンヨトウの交信撹乱試験を行った。なお、実施例1及び2並びに比較例1においてフェロモン製剤を設置した土壌表面とマルチシート表面の面積比は75:25であった。また、フェロモン製剤は全て横に倒して均等に設置した。
いずれも圃場面積は約1.5aであり、試験期間は一晩(18:30頃~6:00頃)とした。また、圃場では、ナス、トマト、ピーマン、シシトウガラシ、オクラ、モロヘイヤ、キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、キャベツ、大豆、小豆、ネギ、アスパラガスが栽培されていた。そして、ナス、トマト、ピーマン、シシトウガラシ、オクラ、キュウリは、畝がマルチシートに覆われており、フェロモン製剤の一部はマルチシート表面にも設置された。
交信撹乱試験の効果は、交尾率を測定することにより評価した。交尾率は、圃場の中央部に翅を約30cmの細い糸で土壌表面から約70cmの位置に支柱につないで逃げないようにした16頭のハスモンヨトウの処女雌の交尾の有無を数えることにより測定した。
フェロモン製造A及びBの25℃、風速0.3m/秒の環境下における放出速度、圃場試験における設置本数、フェロモン物質の放出量並びに交尾率を表2に示す。
【0032】
【0033】
実施例1が比較例1と同じ交尾率を示したことから、土壌表面及びマルチシート表面にフェロモン製剤を設置した場合であってもハスモンヨトウの交信撹乱効果が確認された。
また、実施例2が比較例1と同等の交尾率を示したことから、土壌表面及びマルチシート表面にフェロモン製剤を設置し、かつ放出量を少なくした場合であっても十分な交信撹乱を行えることが確認された。
交信撹乱効果を確認する手段として、フェロモントラップを圃場に設置し誘引数を確認する方法(誘引阻害効果の確認)と、飼育未交尾雌を夜間に圃場に設置し翌朝回収し、交尾の有無を確認するつなぎ雌法(交尾阻害効果の確認)が挙げられる。特につなぎ雌法は、雌そのものを使用するため自然界で行われる交尾行動への影響が直接評価できる有効な手段であり、本試験では交信撹乱効果の確認にこの手法を採用した。